(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】熱変色性筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 29/02 20060101AFI20220921BHJP
B43K 24/16 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
B43K29/02 F
B43K24/16 100
(21)【出願番号】P 2020207395
(22)【出願日】2020-12-15
(62)【分割の表示】P 2017005312の分割
【原出願日】2017-01-16
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡部 哲
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-168848(JP,A)
【文献】特開2010-082804(JP,A)
【文献】特開2016-221691(JP,A)
【文献】特開2011-093164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 29/02
B43K 24/08
B43K 24/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆跡を摩擦熱により変色可能な熱変色性筆記具であって、軸筒と、該軸筒内に移動可能に配置され、複数の熱変色性インクを収容した筆記体と、前記軸筒の側面に設けられた操作部である押圧部材と、
前記押圧部材に前記熱変色性インクの筆跡を変色可能な摩擦部と、を備え、
前記熱変色性インクは各々の変色温度が異なる
と共に、筆記体の筆記部がボールペンチップであり、各々のボールペンチップのボール径が異なり、摩擦部の外面を異なる形状としたことを特徴とする熱変色性筆記具。
【請求項2】
各々の筆記体は
、ボール径に応じて
筆記体に収容されるインク量を異ならせ
て筆記可能距離が略同一としたことを特徴とする請求項
1記載の熱変色性筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆跡を摩擦熱により変色可能な熱変色性筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筆記した筆跡を変色することのできる熱変色性インクを用いる筆記具が種々提案されている。特に電子供与性呈色性有機化合物と顕色剤である電子受容性化合物と前記両者の呈色反応の生起温度を決める変色温度調整剤となる反応媒体からなる可逆熱変色性組成物を内包させた可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、水を少なくとも含有してなる熱変色性インクと前記熱変色性インクを収容した筆記具は、摩擦熱によって筆跡を変色できる摩擦部を備えた技術が開示されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1による熱変色性筆記具では、熱変色性インクである熱変色性インクを収容した筆記体を軸筒内に内蔵し、軸筒の後部側に備えた操作部によって、筆記体の筆記部を軸筒前端から前方に突出又は軸筒内に引き込みを行う。また、操作部とは異なる位置に熱変色性インクを摩擦によって変色できる摩擦部を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1による筆記具では、操作部と摩擦部を異なる位置に配設していることから筆記体の繰り出し動作と変色動作が異なるため、摩擦部の場所がわかりにくい。また、操作部が軸筒後部に位置していることから筆記状態と非筆記状態との切替操作で軸筒の把持位置の持ち替え時の動作が大きく、迅速な切替操作に難点がある。
【0006】
そこで本発明は、摩擦部の位置を容易に把握でき、また筆記状態と非筆記状態とを簡単且つ確実に切り替えることができる筆記具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、筆跡を変色可能な熱変色性筆記具であって、軸筒と、該軸筒内に移動可能に配置され、少なくとも1本は熱変色性インクを収容した筆記体と、前記軸筒の側面に設けられた操作部である押圧部材と、前記熱変色性インクの筆跡を変色可能な摩擦部と、を備え、前記摩擦部を前記押圧部材の外面に形成し、前記押圧部材は前記軸筒の軸方向全長の中間部の部位に設けたことを特徴とする熱変色性筆記具が提供される。ここで挙げる中間部とは、筆記具の軸方向全長に対して35%~65%の範囲であり、筆記具の重心位置近傍に該当する。
【0008】
また、別の態様によれば、軸筒と、該軸筒内に移動可能に配置された複数の筆記体と、前記軸筒の側面に設けられた複数の押圧部材と、前記筆記体の各々と軸線方向に係合して対応する該筆記体の移動を規制する複数の係合部と、前記押圧部材に対応する前記軸筒の中心軸線近傍に配置された第1弾性部材と、を具備する熱変色性筆記具であって、前記押圧部材を径方向に押圧すると、前記係合部の係合が解除されて対応する前記筆記体が重力によって移動可能となると共に前記第1弾性部材が径方向に圧縮され、前記押圧を解放すると、前記第1弾性部材の復元力によって前記係合部が前記筆記体と係合し、筒状に形成された複数の係合部材をさらに具備し、前記係合部が前記係合部材の内面に設けられ、前記第1弾性部材が、球形であり、前記押圧の解放による、前記押圧部材の復帰を助力する第2弾性部材をさらに具備するすると共に、薄板平板からなるドーム状のスプリングであることを特徴とする熱変色性筆記具が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様によれば、摩擦部を操作部の外面に形成することによって、操作部と摩擦部が同一箇所かつ軸筒の軸方向の中間部、所謂重心位置近傍に設けているため、摩擦部の場所を認識しやすく、かつ複数の筆記体の中から選択した1つの筆記体について、筆記状態と非筆記状態とを簡単且つ確実に切り替えることができるという共通の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態による熱変色性筆記具の筆記状態の側面図である。
【
図2】
図1の熱変色性筆記具において後軸を省略した斜視図である。
【
図3】
図1の熱変色性筆記具の筆記状態の縦断面図である。
【
図4】
図1の熱変色性筆記具の非筆記状態の縦断面図である。
【
図5】
図1の熱変色性筆記具の拡大縦断面図である。
【
図18】
図1の熱変色性筆記具の非筆記状態と筆記状態との切り替えを説明する拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0012】
図1は、本発明の実施形態による熱変色性筆記具の筆記状態の側面図であり、
図2は、
図1の熱変色性筆記具において後軸を省略した斜視図であり、
図3は、
図1の熱変色性筆記具の筆記状態の縦断面図であり、
図4は、
図1の熱変色性筆記具の非筆記状態の縦断面図である。
【0013】
熱変色性筆記具1は、軸筒2と、クリップ部材3とを有している。軸筒2は、円筒状の前軸4と、前軸4の後端部にその前端部が圧入される円筒状の後軸5とを有している。軸筒2内には、筆記体として複数の筆記体6が、前後に移動可能、すなわち往復動可能に収容されている。なお、本実施形態では、3本の筆記体6が収容されている。前軸4の先端には孔が形成され、選択された筆記体6先端の筆記部6aが出没可能である。すなわち、熱変色性筆記具1は、いずれかの筆記部6aが軸筒2の先端から突出した筆記状態(
図3)と、すべての筆記部6aが軸筒2内に没入した非筆記状態(
図4)とを切り替え可能である。なお、本明細書中では、熱変色性筆記具1の軸線方向において、筆記部6a側を「前」側と規定し、筆記部6aとは反対側を「後」側と規定する。
【0014】
筆記体6は、内部に熱変色性インクを充填し、筆記部6aには筆記ボールが保持されたボールペンチップや多孔体材料で形成されたマーキングペン芯が装着されている。本実施形態では、3本の筆記体6が収容されているが、ボールペンチップであれば、各筆記部6aは異なるボール径、マーキングペンであれば異なる太さで形成することが好ましい。熱変色性インクとは、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、所定温度(例えば65℃)まで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、所定温度(例えば-10℃)まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質を有するインクを言う。一般的には第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を昇温させて無色とする構成でもよい。従って、描線が筆記された紙面等に対して摩擦体9によって擦過して摩擦熱を生じさせ、それによって描線を無色に変化させる。なお、当然のことながら第2色は、無色以外の有色でもよい。詳細に述べると、熱変色インクの色材となる熱変色性マイクロカプセル顔料としては、少なくともロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を含む熱変色性組成物を、マイクロカプセル化したものが挙げられる。可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、粒子径の平均値が0.1~5.0μm、好ましくは0.5~2μmの範囲にあることが好ましい。可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、インキ組成物全量に対し、好ましくは4~30重量%配合することが好ましい。なお、平均粒子径の測定は、粒子径測定器N4Plus(COULTER社製)を用いて測定した。測定時には試料がN4Plusの推奨濃度に到達するまで水で希釈して、25℃の温度条件で測定した。
【0015】
用いることができるロイコ色素としては、電子供与性染料で、発色剤としての機能するものであれば、特に限定されものではない。具体的には、発色特性に優れるインクを得る点から、トリフェニルメタン系、スピロピラン系、フルオラン系、ジフェニルメタン系、ローダミンラクタム系、インドリルフタリド系、ロイコオーラミン系等従来公知のものが、単独(1種)で又は2種以上を混合して(以下、単に「少なくとも1種」という)用いることができる。
【0016】
具体的には、6-(ジメチルアミノ)-3,3-ビス[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1(3H)-イソベンゾフラノン、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、3-(4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、1,3-ジメチル-6-ジエチルアミノフルオラン、2-クロロ-3-メチル-6-ジメチルアミノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-キシリジノフルオラン、2-(2-クロロアニリノ)-6-ジブチルアミノフルオラン、3,6-ジメトキシフルオラン、3,6-ジ-n-ブトキシフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジエチルアミノフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジブチルアミノフルオラン、1,2-ベンツ-6-エチルイソアミルアミノフルオラン、2-メチル-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、2-(N-フェニル-N--メチルアミノ)-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、2-(3’-トリフルオロメチルアニリノ)-6-ジエチルアミノフルオラン、3-クロロ-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、2-メチル-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、3-ジ(n-ブチル)アミノ-6-メトキシ-7-アニリノフルオラン、3,6-ビス(ジフェニルアミノ)フルオラン、メチル-3’,6’-ビスジフェニルアミノフルオラン、クロロ-3’,6’-ビスジフェニルアミノフルオラン、3-メトキシ-4-ドデコキシスチリノキノリン、などが挙げられ、これらは、少なくとも1種用いることができる。
【0017】
これらのロイコ色素は、ラクトン骨格、ピリジン骨格、キナゾリン骨格、ビスキナゾリン骨格等を有するものであり、これらの骨格(環)が開環することで発色を発現するものである。好ましくは、熱により有色から無色となるロイコ色素の使用が望ましい。
【0018】
用いることができる顕色剤は、上記ロイコ色素を発色させる能力を有する成分となるものであり、例えば、フェノール樹脂系化合物、サリチル酸系金属塩化物、サリチル酸樹脂系金属塩化合物、固体酸系化合物等が挙げられる。具体的には、o-クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n-オクチルフェノール、n-ドデシルフェノール、n-ステアリルフェノール、p-クロロフェノール、p-ブロモフェノール、o-フェニルフェノール、ヘキサフルオロビスフェノール、p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチル、p-ヒドロキシ安息香酸n-オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、2,2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4-ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,1-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4'-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、1-フェニル-1,1-ビス( 4'-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、1,1-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン、1,1-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)n-ヘキサン、1,1-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、1,1-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)n-オクタン、1,1-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)n-ノナン、1,1-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)n-デカン、1,1-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)n-ドデカン、2,2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、2,2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)n-ノナンなどの少なくとも1種が挙げられる。
【0019】
用いる顕色剤の使用量は、所望される色彩濃度に応じて任意に選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、前記したロイコ色素1質量部に対して、0.1~100質量部程度の範囲内で選択するのが好適である。
【0020】
変色温度調整剤は、前記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールする物質であり、従来公知のものが使用可能である。例えば、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、酸アミド類、アゾメチン類、脂肪酸類、炭化水素類などが挙げられる。具体的には、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジカプリレート(C7H15)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジラウレート(C11H23)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジミリステート(C13H27)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルエタンジミリステート(C13H27)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジパルミテート(C15H30)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジベヘネート(C21H43)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルエチルヘキシリデンジミリステート(C13H27)等の少なくとも1種が挙げられる。
【0021】
図5は、
図1の熱変色性筆記具1の拡大縦断面図であり、
図6は、
図5の線X-Xにおける断面図である。熱変色性筆記具1は、熱変色性筆記具1の軸方向の中間部にある押圧部材であるスイッチ10と、位置決め部材20と、係合部材30と、スプリング保持部材40と、錘部材50と、係合杆60と、第1弾性部材70と、第2弾性部材80、スイッチ10の外周面に熱変色性インクを変色可能な摩擦部90とを有している。以下、
図5及び
図6並びに対応する図面を参照しながら、各構成について詳述する。
【0022】
図7は、後軸5の縦断面図である。
図7において、左が熱変色性筆記具1の前側で、右が熱変色性筆記具1の後側である。後軸5の側面には、筆記体6の数に対応して、3つのスイッチ10をそれぞれ受容する略楕円形の3つの取付穴5aが形成されている。取付穴5aの後方の後軸5の内面には、隔壁5bが周方向に沿って環状に設けられている。隔壁5bによって、貫通孔5cが画成されている。隔壁5bの前端面には、2つの突起状の回転止め5dが対向して形成されている。隔壁5bより後方の後軸5の内部には、3つの錘部材50が配置される。隔壁5bより後方の後軸5の内面には、錘部材50の各々を周方向に離間させ且つ軸線方向に沿って案内するために、軸線方向に延在する3つのガイド壁5eが形成されている。
【0023】
図8は、スイッチ10の斜視図であり、
図9は、スイッチ10の縦断面図である。熱変色性筆記具1は、筆記体6の数と同数のスイッチ10を有している。本実施形態ではスイッチ10は3つが径方向に均等配置されている。スイッチ10は、略楕円柱状に形成されたスイッチ本体11と、スイッチ本体11の上面に位置して使用者が押圧する押圧面12と、スイッチ本体11の下面に位置して円柱状に形成された第1突起部13及び第2突起部14とを有する。組み立て時において、第1突起部13は、熱変色性筆記具1の前側に配置され、第2突起部14は、熱変色性筆記具1の後側に配置される。第1突起部13及び第2突起部14間のスイッチ本体11の下面には、凹部15が形成されている。スイッチ本体11は、例えばポリカーボネート樹脂等といった比較的硬質の樹脂材料から一体的に形成される。スイッチ本体11の押圧面12の外面には、熱変色性インクを摩擦動作による摩擦熱で変色可能な摩擦部90を備えている。摩擦部90は、シリコーンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴムやスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー等の熱可塑性エラストマーといったゴム弾性材料、2種以上のゴム弾性材料の混合物、及び、ゴム弾性材料と合成樹脂との混合物で構成されたゴム弾性材料が挙げられる。特に、塩基性炭酸マグネシウム多孔体を含有することで熱変色性筆記具の筆跡の変色だけでなく、シャープペンシル等を備えた熱変色性インク以外の消去性筆記具に対しても摩擦動作によって筆跡を消去することが可能となり好適である。ここで挙げる低摩耗性とは、JIS K7204試験法H22でのテーパー摩耗量が15mg未満であることで、摩擦動作によっても摩耗が少なく、摩擦動作に伴う摩擦部90の変形を防ぐことができる。スイッチ本体11と摩擦部90は、接着、溶着、嵌合、二色成形等により一体に固着されるが、同一の材料で一部品として形成してもよい。摩擦部90は、押圧面12と接触する接触面91と、スイッチ10の押圧操作する際に指等が触れる接触部92とからなる。接触部92は、筆記体6のインク色、インク変色温度、筆記体6の種別等により形状を異ならしめて、視認しなくても接触部92への接触の感触にて容易に筆記体6を容易に識別可能とすることが好ましい。
【0024】
図10は、位置決め部材20の斜視図であり、
図11は、位置決め部材20の背面図である。位置決め部材20は、互いに平行な両端面を有する円筒状の部材である。位置決め部材20の外径は、後軸5の外径よりも僅かばかり小さく設定される。位置決め部材20には、筆記体6の数に対応して、後端面から前方に向かって矩形に切り欠かれた3つの切り欠き部21が形成されている。切り欠かれずに残った部分は、後方に向かって突出する3つの角部(ツノ部)22を形成する。言い換えると、3つの角部22によって、切り欠き部21が画成されている。周方向において対向する切り欠き部21の端面21aは、互いに平行である。
【0025】
図12は、係合部材30の斜視図であり、
図13は、係合部材30の縦断面図である。熱変色性筆記具1は、筆記体6の数に対応して、3つの係合部材30を有している。係合部材30は、
図13において、左が熱変色性筆記具1の前側で右が熱変色性筆記具1の後側となるように軸筒2内に配置される。詳細には、3つの係合部材30は、位置決め部材20の3つの切り欠き部21内にそれぞれ配置される。したがって、係合部材30の全長は、位置決め部材20の切り欠き部21の深さ、すなわち軸線方向の長さよりも僅かばかり短く設定される。なお、係合部材30は、対称的な形状のため、前後の配置を逆にしてもよい。
【0026】
係合部材30は、互いに平行な両端面を有し且つ円筒の内面形状を有する筒状に形成されている。組み立て時において、軸筒2の内面に対向する係合部材30の外周面の部分は、比較的曲率の大きな円筒面状の外面31を形成する。外面31は、位置決め部材20の外周面と、略同一の曲率を有する。外面31に隣接する両側の外周面の部分は、平坦且つ互いに平行に形成された側面32を形成する。2つの側面32間の距離は、位置決め部材20の1つの切り欠き部21を画成する2つの端面21a間の距離よりも僅かばかり小さく設定される。したがって、位置決め部材20の端面21aと係合部材30の側面32とが僅かばかりの隙間を有しつつ対向するように、係合部材30を切り欠き部21内に配置することが可能となる。このとき、係合部材30の外面31は、位置決め部材20の外周面と面一となる。
【0027】
外面31の中央部分には、円形の貫通孔33が形成されている。貫通孔33には、スイッチ10の第1突起部13が挿入される。外面31の貫通孔33と軸対称の外面の部分には、球面状の凹部34が形成されている。凹部34の球面部分の曲率は、後述する球形の第1弾性部材70が嵌合ように設定される。凹部34が形成された部分の内面には、上面が平坦な突起状の係合部35が形成されている。係合部材30は、例えばポリカーボネート樹脂等といった比較的硬質の樹脂材料から一体的に形成される。
【0028】
図14は、スプリング保持部材40の斜視図であり、
図15は、スプリング保持部材40の縦断面図である。スプリング保持部材40は、
図15において、左が熱変色性筆記具1の前側で右が熱変色性筆記具1の後側となるように軸筒2内に配置される。スプリング保持部材40は、互いに平行な両端面を有する円筒状の部材である。スプリング保持部材40の外径は、後軸5の外径よりも僅かばかり小さく設定され、位置決め部材20の外径と同一である。
【0029】
スプリング保持部材40には、後端面から前方に向かって微小な矩形に切り欠かれた2つの受容部41が対向して形成されている。スプリング保持部材40は、軸筒2内において、その前端面が位置決め部材20の後端面に当接するように配置され、且つ、受容部41の各々が後軸5の回転止め5dと嵌合するように配置される。スプリング保持部材40の受容部41が後軸5の回転止め5dと嵌合することによって、スプリング保持部材40が軸筒2内で中心軸線回りに回転することを防止している。
【0030】
スプリング保持部材40の外周面には、筆記体6の数に対応して、3つの円形で浅い凹部42が形成されている。凹部42が形成された部分の内面には、平坦な平面43が形成されている。スプリング保持部材40は、例えばポリカーボネート樹脂等といった比較的硬質の樹脂材料から一体的に形成される。
【0031】
図16は、錘部材50の縦断面図である。錘部材50は、
図16において、左が熱変色性筆記具1の前側で右が熱変色性筆記具1の後側となるように軸筒2内に配置される。熱変色性筆記具1は、筆記体6の数に対応して、3つの錘部材50を有している。錘部材50は、筆記体6の数に対応して分割された扇形の横断面形状を有する(
図2)、柱状の中実部材である。錘部材50の各々は、後軸5の隔壁5bによって隔てられた後方の空間において、3つのガイド壁5e間に配置される。錘部材50は、熱変色性筆記具1の姿勢に応じて、すなわち重力の作用する方向に向かって前後に移動する錘の役割を果たす。錘部材50の前端面には、円形の挿入穴51が形成されている。錘部材50は、アルミニウムや真鍮等の金属材料から形成される。
【0032】
図17は、係合杆60の側面図である。係合杆60は、
図17において、左が熱変色性筆記具1の前側で右が熱変色性筆記具1の後側となるように軸筒2内に配置される。熱変色性筆記具1は、筆記体6の数に対応して、3つの係合杆60を有している。係合杆60は、全体として棒状の部材であり、係合杆本体61を有する。係合杆60の前端部及び後端部は、係合杆本体61において小径に形成されている。すなわち、係合杆60の前端部には、管状の筆記体6の後端部に挿入されて嵌合する筆記体嵌合部62が形成されている。係合杆60の後端部には、錘部材50の挿入穴51内に挿入されて嵌合する挿入部63が形成されている。係合杆60によって、筆記体6及び錘部材50が一体的に接続される。
【0033】
係合杆本体61には、軸線方向に沿って並列する2つの環状の凹部が形成されている。後述するように、前側に配置された凹部は、非筆記状態を維持するように係合部材30の係合部35と係合する非筆記維持凹部64であり、後側に配置された凹部は、筆記状態を維持するように係合部材30の係合部35と係合する筆記維持凹部65である。係合杆60は、例えばポリカーボネート樹脂等といった比較的硬質の樹脂材料から一体的に形成されるが、アルミニウムや真鍮等の金属材料から形成してもよい。
【0034】
第1弾性部材70は、シリコーンゴム等のゴム材質又はポリエステル系エラストマー等の熱可塑性エラストマーといった弾性材料からなる球形の部材である。第1弾性部材70は球形に形成されていることから、第1弾性部材70をいずれの方向から圧縮して弾性変形させても、同一の復元力が得られる。熱変色性筆記具1は、筆記体6の数に依存することなく、第1弾性部材70を1つだけ有する。
【0035】
熱変色性筆記具1は、筆記体6の数に対応して、3つの第2弾性部材80を有している。第2弾性部材80の各々は、
図5に示されるように、スプリング保持部材40の凹部42内に配置される。本実施形態では、第2弾性部材80は、ドームスプリングである。ドームスプリングは、一枚の金属等の薄板平板からなる材料をドーム状に加工した弾性部材であり、ドームの頂点を押圧して弾性変形させると、それに応じた復元力が得られる。このドームスプリングは、例えば、金属製で薄肉に形成されたドームスプリングである。第2弾性部材80は、その他の弾性部材、例えばコイルスプリングや、シリコーンゴム等のゴム弾性材質又はポリエステル系エラストマー等の熱可塑性エラストマーといった弾性材料を配置するものでもよい。
【0036】
図3乃至
図6、特に
図5及び
図6を参照しながら、熱変色性筆記具1の各部材の関係について説明する。
図5に示されるように、位置決め部材20及びスプリング保持部材40は、軸筒2内において、前軸4の後端面と、後軸5の隔壁5bの前端面との間で挟持されることによって固定される。上述したように、位置決め部材20の3つの切り欠き部21内には、それぞれ係合部材30が配置される。それによって、3つの係合部材30は、周方向に沿って等間隔に配置される。係合部材30の全長が、位置決め部材20の切り欠き部21の軸線方向の長さよりも僅かばかり短いことから、係合部材30の軸線方向の移動は、切り欠き部21及びスプリング保持部材40の後端面で規制されつつ、係合部材30は径方向に移動可能である。
【0037】
図6を参照すると、3つの係合部材30は熱変色性筆記具1の中心軸線の周囲に配置され、3つの係合部材30の中心位置には、第1弾性部材70が配置される。すなわち、第1弾性部材70は、スイッチ10の部分に対応する軸筒2の中心軸線近傍に配置される。より詳細には、第1弾性部材70は、3つの係合部材30の各凹部34内に嵌り、3方向から支持されるように配置される。
【0038】
図5に示されるように、3つのスイッチ10は、後軸5の3つ取付穴5aにそれぞれ配置される。このとき、スイッチ10の第1突起部13は、係合部材30の貫通孔33に挿入され、且つ、スイッチ10の第2突起部14は、スプリング保持部材40の凹部42内に配置された第2弾性部材80に当接するように配置される。すなわち、スイッチ10の第2突起部14は、ドームスプリングのドーム状の頂点に配置される。一体的に接続された、筆記体6、係合杆60及び錘部材50は、後軸5の貫通孔5c、スプリング保持部材40、及び、位置決め部材20、すなわち対応する係合部材30を通って、軸筒2内に配置される。
【0039】
スイッチ10を押圧すると、第1突起部13を介して係合部材30が径方向内方に移動して第1弾性部材70が弾性変形し、且つ、第2突起部14によって第2弾性部材80が弾性変形する。スイッチ10の押圧を解放すると、第1弾性部材70及び第2弾性部材80の復元力によって、係合部材30及びスイッチ10は、それぞれ元の位置に復帰する。スイッチ10が凹部15を有することによって、スプリング保持部材40と干渉することなく、スイッチ10の押圧が可能となる。
【0040】
スイッチ10が押圧されていない場合には、第1弾性部材70は弾性変形をしていないか又は僅かに弾性変形をしてスイッチ10を付勢している。すなわち、係合部材30は、熱変色性筆記具1の軸筒2内において径方向外方側に寄って位置している。このとき、係合部材30の係合部35は、係合杆60に形成された2つの凹部内、すなわち、非筆記維持凹部64内又は筆記維持凹部65内のいずれか一方に配置される。したがって、係合部材30の係合部35と係合杆60の被係合部である凹部とが軸線方向に係合し、筆記体6の前後移動を規制し、非筆記状態又は筆記状態が維持される。
【0041】
他方、スイッチ10を押圧すると、上述したように、係合部材30が径方向内方に移動することによって第1突起部13が第1弾性部材70を押圧し、第1弾性部材70が径方向に弾性変形する。その結果、係合部材30の係合部35が径方向内方に移動することによって、係合部35によって阻害されていた経路が開放され、筆記体6を前後に移動させることができるようになる。
【0042】
図18は、
図1の熱変色性筆記具1の非筆記状態と筆記状態との切り替えを説明する拡大縦断面図である。
図18(A)は、熱変色性筆記具1の非筆記状態を示しており、
図5に示された熱変色性筆記具1と同じ状態を示している。すなわち、
図18(A)では、係合部材30の係合部35が、非筆記維持凹部64内に配置されている。
【0043】
図18(B)は、スイッチ10を押圧している状態を示している。すなわち、係合部材30の径方向の移動によって、係合部35は、係合杆60の非筆記維持凹部64との係合が解除されるまで、径方向内方に移動する。その結果、係合杆60は、軸筒2内を前後方向に自由に移動可能となる。すなわち、スイッチ10を押圧しながら熱変色性筆記具1の姿勢を変えると、一体的に接続された、筆記体6、係合杆60及び錘部材50に作用する重力、すなわち自重によって、係合杆60が軸筒2内を前方又は後方へ移動する。
【0044】
使用者が、スイッチ10を押圧しながら前端が下方を向くように熱変色性筆記具1を把持すると、係合杆60は重力によって前方へ移動する。係合杆60の前方への移動は、錘部材50と後軸5の隔壁5bとの当接によって規制される。このときにスイッチ10の押圧を解放すると、第1弾性部材70の復元力によって係合部材30が径方向に移動し、
図18(C)に示されるように、係合部35が係合杆60の筆記維持凹部65内に配置される。その結果、係合部材30と係合杆60とが係合し、筆記状態が維持される。
【0045】
他方、使用者が、スイッチ10を押圧することによって係合部35と係合杆60の筆記維持凹部65との係合を解除させながら、前端が上方を向くように熱変色性筆記具1を把持すると、係合杆60は重力によって後方へ移動する。係合杆60の後方への移動は、錘部材50と後軸5の後端部に挿入されたクリップ部材3の部分との当接によって規制される。このときにスイッチ10の押圧を解放すると、第1弾性部材70の復元力によって係合部材30が径方向に移動し、
図18(A)に示されるように、係合部35が係合杆60の非筆記維持凹部64内に配置される。その結果、係合部材30と係合杆60とが係合し、非筆記状態が維持される。
【0046】
本発明によれば、係合部材30の係合部35と係合杆60の非筆記維持凹部64又は筆記維持凹部65との係合が、スイッチ10の押圧による係合部材30の径方向内方への移動によって解除されることから、筆記状態と非筆記状態とを簡単且つ確実に切り替えることができる。さらに、係合部材30の係合部35は、係合杆60の非筆記維持凹部64内又は筆記維持凹部65内に配置された状態で、前後方向に適度なクリアランスがあることから、スイッチ10の押圧操作を阻害することはない。また、筆記体6、係合杆60及び錘部材50が一体的に接続されており、錘部材50が錘の役割を果たしていることから、スムーズで安定的に動作し、筆記状態と非筆記状態とを確実に切り替えることができる。
【0047】
筆記しようと選択した筆記体6に対応するスイッチ10を押圧すると、係合部材30を介して第1弾性部材70が押圧される。第1弾性部材70の移動は、選択されなかった他の2つの筆記体6に対応する係合部材30によって規制される。すなわち、他の2つの係合部材30及びスイッチ10はこれ以上径方向外方に移動できないことから、結果として、上述したように、第1弾性部材70は弾性変形する。言い換えると、選択したいずれか1つのスイッチ10を押圧する間は、他のスイッチ10は逆方向の力を受けることから、他のスイッチ10を径方向内方へ移動させることができない。したがって、熱変色性筆記具1において、選択したスイッチ10のみを確実に押圧することができ、複数の筆記体6の中から選択した1つの筆記体6について、筆記状態と非筆記状態とを簡単且つ確実に切り替えることができる。
【0048】
本発明によれば、係合部材30と係合杆60との係合及びその解除に必要な距離に相当するスイッチ10の径方向のストロークを確保すればいいことから、従来品より細い外径の熱変色性筆記具を実現することが可能となる。
【0049】
本実施形態では、熱変色性筆記具1は3本の筆記体6を有していたが、2本又は4本以上であってもよい。第1弾性部材70は、周囲に配置された係合部材30に対して等しい復元力を発生させる限りにおいて、球形以外のその他の形状、例えば軸線方向に沿って配置された円柱や多角柱であってもよい。
【0050】
上述したように、スイッチ10の押圧によって、第2弾性部材80を、すなわち本実施形態ではドームスプリングを弾性変形させていることから、使用者は、短い押圧ストロークで確実なクリック感を感じることができ、心地よい操作感を得ることができる。第2弾性部材80は、こうした心地よい操作感を得るため及びスイッチ10の確実な復帰を支援するために用いられているが、省略してもよい。
【0051】
本実施形態に基づく実施例としては、以下の形態が挙げられる。実施例1として、筆記体6の筆記部6aがボールペンチップであり、各々のボールペンチップのボール径が0.38mm,0.5mm,0.7mm又は、0.5mm、0.7mm、1.0mmと異なる太さの筆跡が得られる複合式の熱変色性ボールペンを提供することができる。また、摩擦部90の接触面92も異なる形状とすることが好ましい。また、各々の筆記距離を略同一にするため、ボール径に応じて筆記体6のインク量を異ならせつつ、筆記体6の内径を異ならせて略同じインク長さとすることが好ましい。
【0052】
実施例2として、筆記体6に収容された熱変色性インクを60~70℃にまで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、-15~-5℃まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する筆記体、他の筆記体6は75~85℃にまで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、0~10℃まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する筆記体、また、40~50℃にまで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、-35~-25℃まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質とした筆記体、と各々の変色温度を異ならせることで世界中の様々な温度環境でも使用に耐えうる熱変色性筆記具を提供できる。
【符号の説明】
【0053】
1 熱変色性筆記具
2 軸筒
4 前軸
5 後軸
6 筆記体
10 スイッチ
20 位置決め部材
30 係合部材
35 係合部
40 スプリング保持部材
50 錘部材
60 係合杆
70 第1弾性部材
80 第2弾性部材
90 摩擦部