(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】農業用フィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 23/08 20060101AFI20220921BHJP
A01G 9/14 20060101ALI20220921BHJP
A01G 13/02 20060101ALI20220921BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C08L23/08
A01G9/14 S
A01G13/02 E
C08L23/06
(21)【出願番号】P 2020507860
(86)(22)【出願日】2019-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2019011598
(87)【国際公開番号】W WO2019181986
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2018051725
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・ダウポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】向井 健太
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】五戸 久夫
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼岡 博樹
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-143509(JP,A)
【文献】国際公開第2015/025899(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/057624(WO,A1)
【文献】特開昭61-106624(JP,A)
【文献】特開2013-175722(JP,A)
【文献】特開2011-109991(JP,A)
【文献】特開2003-311890(JP,A)
【文献】特開2008-273031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
A01G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニルに由来する構成単位の含有量が12質量%以上35質量%以下であり、メルトフローレート(MFR、JIS K7210-1999、190℃、2160g荷重)が4g/10分以上100g/10分以下のエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)と、
高密度ポリエチレ
ンを含むポリオレフィン(B)と、
を含有し、前記エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)及び前記ポリオレフィン(B)の含有割合[(A):(B)]が、質量比で35:65~85:15である、
混合物層を有
し、
JIS-K7136(2000年)に準じて測定されるヘイズが70%以上95%未満である農業用フィルム。
【請求項2】
前記ポリオレフィン(B)として、更に低密度ポリエチレンを含む請求項1に記載の農業用フィルム。
【請求項3】
前記混合物層中の樹脂成分を100質量%としたとき前記酢酸ビニルに由来する構成単位の平均含有量が9質量%以上30質量%未満である請求項1又は請求項2に記載の農業用フィルム。
【請求項4】
前記混合物層が最外層である請求項1~請求項3
のいずれか1項に記載の農業用フィルム。
【請求項5】
前記エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)のMFR
Aと、前記ポリオレフィン(B)のMFR
Bと、の比(MFR
A/MFR
B)が、10以上100以下である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の農業用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、農業用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、農業用フィルムとしては、光線透過率の大きいものが望まれるが、作物の種類によっては直達光の割合をできるだけ少なくし、散乱光の割合を増加させることが望まれている。例えば、葉たばこやレタスのような軟弱野菜の育苗ハウスにおいては、葉の日焼け防止のために、直達光の少ない農業用フィルムの使用が不可欠である。また、葉たばこの乾燥ハウスにおいては、急乾燥の防止、あるいはむれ葉、くされ葉の生出防止のために、直達光の少ない農業用フィルムの使用が不可欠である。そのため、農業用フィルムとして、梨地タイプ(satin like)のフィルムが用いられてきた。
【0003】
梨地タイプの農業用フィルムとしては、例えば特許第3219319号公報には、最外層及び最内層の少なくとも一層が、酢酸ビニル含有量が24~34重量%、メルトフローレート(MFR)が4~50g/10分のエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)及びMFRが0.04~2.0g/10分の低密度ポリエチレン(B)の混合物からなり、且つ(A)と(B)の混合割合が(A)/(B)=35~90/65~10(重量比)、該混合物の平均酢酸ビニル含有量が12~22重量%、及びそのMFR比((A)のMFR/(B)のMFR)=10~100である混合物層であり、該混合物層と他のオレフィン系樹脂層とからなる多層構造をなし、全光線透過率が80%以上、トランスが10%以下である農業用フィルムが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許第3219319号公報に示されるように、従来から、種々の機能性を持つ、表面が梨地状の農業用フィルム(プラスチックフィルム)を得るため、様々な試みがなされている。
【0005】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、従来の農業用フィルムと比較し、全光線透過率とヘイズの値を許容範囲内に維持しながら、機械的物性が更に優れた農業用フィルムを提供することにある。
【0006】
なお、梨地状とは、梨の実の表皮のように不定形で微細な斑点状の凹凸を複数有し、ザラザラとした質感を有する表面状態を表す。
また、全光線透過率の値は、85%以上95%未満が許容範囲であり、ヘイズの値は、70%以上95%未満が許容範囲である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1>
酢酸ビニルに由来する構成単位の含有量が12質量%以上35質量%以下であり、メルトフローレート(MFR、JIS K7210-1999、190℃、2160g荷重)が4g/10分以上100g/10分以下のエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)と、
高密度ポリエチレン及びメタロセン触媒重合ポリエチレンからなる群から選択される少なくとも一つを含むポリオレフィン(B)と、を含有し、
前記エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)及び前記ポリオレフィン(B)の含有割合[(A):(B)]が、質量比で35:65~85:15である、混合物層を有する農業用フィルム。
<2>
前記ポリオレフィン(B)として、更に低密度ポリエチレンを含む<1>に記載の農業用フィルム。
<3>
前記混合物層中の樹脂成分を100質量%としたとき前記酢酸ビニルに由来する構成単位の平均含有量が9質量%以上30質量%未満である<1>又は<2>に記載の農業用フィルム。
<4>
前記混合物層が最外層である<1>~<3>のいずれか1つに記載の農業用フィルム。
<5>
前記エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)のMFRAと、前記ポリオレフィン(B)のMFRBと、の比(MFRA/MFRB)が、10以上100以下である<1>~<4>のいずれか1つに記載の農業用フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、全光線透過率とヘイズの値を許容範囲内に維持しながら、機械的物性に優れた農業用フィルムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の農業用フィルムの一例である実施形態について説明する。本開示は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0010】
なお、本開示において、数値範囲における「~」は、「~」の前後の数値を含むことを意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する該複数の物質の構成単位を意味する。
【0011】
[農業用フィルム]
本開示の農業用フィルムは、酢酸ビニルに由来する構成単位の含有量が12質量%以上35質量%以下であり、メルトフローレート(MFR、JIS K7210-1999、190℃、2160g荷重)が4g/10分以上100g/10分以下のエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)と、高密度ポリエチレン及びメタロセン触媒重合ポリエチレンからなる群から選択される少なくとも一つを含むポリオレフィン(B)と、を含有し、前記エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)及び前記ポリオレフィン(B)の含有割合[(A):(B)]が、質量比で35:65~85:15である、混合物層を有する。
【0012】
本開示の農業用フィルムは、上記範囲のMFRを有するエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)を上記範囲の含有割合で配合することにより、農業用フィルムとして全光線透過率とヘイズの値が優れたものが得られると考えられる。
加えて、ポリオレフィン(B)について、高密度ポリエチレン及びメタロセン触媒重合ポリエチレンからなる群から選択される少なくとも一つを使用し、さらに上記範囲の含有割合で配合することにより、全光線透過率とヘイズの値が許容範囲内に留められつつ、機械的物性に優れたものが得られると考えられる。
【0013】
以下、本開示の農業用フィルムに含まれる各成分について、詳細に説明する。
なお、特に記載しない限り、本開示におけるメルトフローレート(MFR)は、日本工業規格JIS K7210-1999に準拠して、190℃、2160g荷重で測定される値〔g/10分〕である。
【0014】
〔混合物層〕
本開示の農業用フィルムは、エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)と、ポリオレフィン(B)と、を含有する混合物層を有する。
混合物層は、必要に応じて、その他の重合体や添加剤を含んでもよい。
【0015】
<エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)>
本開示に用いられるエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)は、エチレンに由来する構成単位と、酢酸ビニルに由来する構成単位とを少なくとも含み、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であっても、交互共重合体であってもよい。
また、エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)は、酢酸ビニル及びエチレン以外の他のモノマー単位を更に含んでもよい。本開示においては、酢酸ビニル及びエチレン以外の他のモノマー単位を含まず、酢酸ビニルに由来する構成単位と、エチレン由来の構成単位と、によってエチレン・酢酸ビニル共重合体が構成されていることが好ましい。
【0016】
本開示におけるエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)は、エチレンから誘導される構成単位と、酢酸ビニルから誘導される構成単位とを特定の量で含有しており、場合により他のモノマーが更に共重合されてもよい。
【0017】
本開示におけるエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)は、酢酸ビニルに由来する構成単位の含有量が12質量%以上35質量%以下である。酢酸ビニルに由来する構成単位の含有量が、12質量%以上35質量%以下であると、得られるフィルムのヘイズが農業用フィルムとして好ましいものが得られる。
酢酸ビニルに由来する構成単位の含有量は、ヘイズ値の観点から、16質量%以上30質量%以下の範囲であることが好ましく、18質量%以上25質量%以下であることがより好ましい。
【0018】
また、エチレンに由来する構成単位の含有量は65質量%以上88質量%以下であることが好ましく、70質量%以上84質量%以下であることがより好ましい。
また、その他のモノマーに由来する構成単位の含有量は、10質量%以下の割合で含んでいてもよく、0質量%であることが好ましい。
【0019】
本開示におけるエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)のMFRは、4g/10分以上100g/10分以下であり、8g/10分以上60g/10分以下であることが好ましく、10g/10分以上50g/10分以下であることがより好ましく、12g/10分以上30g/10分以下であることが更に好ましい。
エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)のMFRが、4g/10分以上100g/10分以下であると、得られるフィルムのヘイズ値が農業用フィルムとして好ましい値になる。
【0020】
エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)は、1種単独で又は共重合比等の異なる2種以上を組み合わせて用いることができる。
本開示の農業用フィルムの混合物層に含まれるエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)の含有量は、優れた機械的強度のものを得る観点から、混合物層全体に対して35質量%以上85質量%以下であることが好ましい。
【0021】
<ポリオレフィン(B)>
ポリオレフィン(B)は、高密度ポリエチレン及びメタロセン触媒重合ポリエチレンからなる群から選択される少なくとも一つを含む。
ポリオレフィン(B)が、上記の種類のものを含むことによって、本開示の農業用フィルムは機械的物性に優れたものとなる。
ポリオレフィン(B)は、機械的物性、特にグレーブ引裂き強度、及び破断伸びに優れたものを得る観点から、高密度ポリエチレンを含むことが好ましい。
【0022】
ここで、高密度ポリエチレンとは、旧JIS K6748:1995において、密度が935kg/m3以上のポリエチレンであり、通常は低圧法あるいは中圧法で製造されるものである。低圧法としてはチーグラー法が挙げられ、中圧法としてはフィリプス法が挙げられる。
また、メタロセン触媒重合ポリエチレンとは、メタロセン触媒のような均一系触媒を使用して製造されたもので、例えばメタロセン触媒で製造された直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が挙げられる。
また、ポリエチレンとは、エチレンとα-オレフィンとの共重合によるエチレン・α-オレフィン共重合体であってもよい。
【0023】
また、ポリオレフィン(B)は、上記以外の他のポリオレフィンを含んでいてもよい。
他のポリオレフィンとしては、高圧法低密度ポリエチレン等の低密度ポリエチレン、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレンと共重合するエチレン以外のα-オレフィン(プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、4-メチル-1-ペンテン等)の量を多くして結晶性を低下させるか実質結晶性を示さないエチレン・α-オレフィン共重合体エラストマー、ポリプロピレン、プロピレン系共重合体(プロピレンとプロピレン以外のα―オレフィンとの共重合体)、ポリブテン、及びその他オレフィン系(共)重合体、並びにこれらのポリマーブレンド等を挙げることができる。
【0024】
本開示の農業用フィルムの混合物層に含まれるポリオレフィン(B)の含有量は、優れた機械的強度のものを得る観点から、混合物層全体に対して、15質量%以上65質量%以下であることが好ましい。
ここで、混合物層に含まれるポリオレフィン(B)の中には、他のポリオレフィンとして、低密度ポリエチレンを更に含んでいてもよい。低密度ポリエチレンとは、旧JIS K6748:1995において、密度が930kg/m3未満のポリエチレンであり、高圧法(塊状重合法)で製造されるものである。また、本開示における低密度ポリエチレンとは、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を含まないものとする。
このとき、低密度ポリエチレンの含有量は、機械的物性に優れたものを得る観点から、混合物層全体に対して30質量%未満であることが好ましく、20質量%未満であることがより好ましく、15質量%未満であることが更に好ましく、0質量%であることが特に好ましい。
【0025】
本開示におけるポリオレフィン(B)のMFRは、梨地状のフィルムを得る観点から、MFRが5g/10分以下であることが好ましく、3g/10分以下であることがより好ましく、1.5g/10分以下であることが更に好ましい。下限は0.04g/10分以上が好ましい。
エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)のMFRAとポリオレフィン(B)のMFRBとの比(MFRA/MFRB)は10以上100以下であることが好ましく、10以上80以下がより好ましく、10以上60以下が更に好ましい。
【0026】
本開示の農業用フィルムの混合物層において、エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)及びポリオレフィン(B)の含有割合[(A):(B)]は、質量比で35:65~85:15である。
エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)の前記質量比が上記の範囲内であることにより、得られるフィルムのヘイズの値及びグレーブ引裂き強度の好ましいものが得られる。
したがって、エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)及びポリオレフィン(B)の質量比が上記の範囲にあることで、ヘイズの値を許容範囲に維持しながら、優れた機械的強度を有する農業用フィルムを得ることができる。
エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)及びポリオレフィン(B)の含有割合[(A):(B)]は、上記範囲の中でも、ヘイズの値を許容範囲に維持しながら、優れた機械的強度のフィルムを得る観点から、40:60~80:20であることが好ましく、45:55~75:25であることがより好ましく、45:55~70:30であることが更に好ましい。
【0027】
<その他の重合体>
混合物層にはその他の重合体を含んでいてもよい。その他の重合体としては、例えば、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、アイオノマー等が挙げられる。その他の重合体の含有量は、農業用フィルム全体に対して、30質量%以下が好ましい。
【0028】
<その他の添加剤>
混合物層には、その他の添加剤を含んでいてもよい。
その他の添加剤としては、従来公知の化学架橋剤、架橋助剤、軟化剤、充填剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、酢酸補足剤、保温剤、紫外線吸収剤、防曇剤、防霧剤等が適宜配合される。保温剤としては、混合物層の屈折率と近似した屈折率を有する公知のものが使用できる。保温剤は、特に保温性が良く、光線透過性に悪影響を及ぼさないハイドロタルサイトの使用が最も好ましい。
その他の添加剤の含有量は、農業用フィルム全体に対して、30質量%以下が好ましい。
【0029】
<混合物層>
本開示の農業用フィルムが有する混合物層は、混合物層中の樹脂成分を100質量%としたときに酢酸ビニルに由来する構成単位の平均含有量が9質量%以上30質量%未満であることが好ましく、9質量%以上25質量%以下がより好ましく、10質量%以上23質量%以下であることが最も好ましい。
混合物層の樹脂成分中、酢酸ビニルに由来する構成単位の平均含有量が上記範囲内であることにより、粘着性を抑制して梨地性を維持することができる。
【0030】
なお、「酢酸ビニルに由来する構成単位の平均含有量」は、JIS-K7192:1999に準拠して求めることができる。この方法はポリマーを電気炉で500℃以上に加熱して分解し、得られた酢酸ビニルに由来する酢酸を中和滴定によって求める方法であり、エチレン・酢酸ビニル共重合体単体であっても、各種ポリエチレンとの混合物であっても酢酸ビニルに由来する構成単位の平均含有量として求めることができる。
【0031】
混合物層のMFRは、フィルム加工性の観点から、2g/10分以上7g/10分以下が好ましく、2g/10分以上5g/10分以下がより好ましい。混合物層のMFRは、上記範囲内であることにより、フィルム加工性に優れる。
混合物層中のエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)とポリオレフィン(B)の合計の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が最も好ましい。
【0032】
混合物層の厚みは、3μm以上500μm以下が好ましく、10μm以上200μm以下がより好ましい。
【0033】
〔混合物層以外の層〕
本開示の農業用フィルムは、農業用フィルムにあった機械的強度、耐久性、保温性等の必要特性を得る観点から、上記混合物層以外の層を有していてもよい。
混合物層以外の層として、具体的には、例えば、オレフィン樹脂層、EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂)等のバリア性樹脂を用いたバリア性樹脂層、等が挙げられる。
【0034】
本開示における混合物層は、植物への過剰な直達光を抑制する観点から、最外層であることが好ましい。
【0035】
〔農業用フィルムの製造方法〕
本開示における農業用フィルムの製造方法としては、例えば、上述した成分を含む混合物を調製後、公知の方法でフィルム状に成形する方法が挙げられる。
以下、混合物層を単独で有する農業用フィルムの製造方法について、説明する。但し、本開示における農業用フィルムの製造方法は、以下の方法に限定されない。
【0036】
例えば、上記各成分をドライブレンド又はメルトブレンドすることによって、上記混合物を調製する。ドライブレンドの場合、成形機中で各成分が溶融可塑化される段階で混合される。また、メルトブレンドの場合、単軸又は二軸押出機などの各種押出機、バンバリーミキサーなどの各種ミキサー、ロール、ニーダーなどの配合機や混合機を用いて溶融混合すればよい。メルトブレンドの場合の混合順序には、特に制限はない。
その後、例えば、インフレーション法、キャスト法などの公知の方法によって、フィルム状に成形する。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本実施形態をより具体的に詳細に説明するが、本実施形態はこれにより何ら限定されるものでない。また、「部」及び「%」は特に断りがない限り質量基準である。
【0038】
農業用フィルムの作製に用いる成分の詳細は以下の通りである。
<1.エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)>
(EVA-1):
酢酸ビニルの構成単位の含有量(VA含量):28質量%
MFR(JIS K7210-1999、190℃、荷重2160g)15g/10分
(EVA-2):
酢酸ビニルの構成単位の含有量(VA含量):19質量%
MFR(JIS K7210-1999、190℃、荷重2160g)15g/10分
(EVA-3):
酢酸ビニルの構成単位の含有量(VA含量):19質量%
MFR(JIS K7210-1999、190℃、荷重2160g)2.5g/10分
(EVA-4):
酢酸ビニルの構成単位の含有量(VA含量):41質量%
MFR(JIS K7210-1999、190℃、荷重2160g)65g/10分
(EVA-5):
酢酸ビニルの構成単位の含有量(VA含量):10質量%
MFR(JIS K7210-1999、190℃、荷重2160g)9g/10分
【0039】
<2.ポリオレフィン(PO)>
(PO-1):
種類:低密度ポリエチレン(LDPE)
密度:(JIS K7112-1999)920kg/m3
MFR:(JIS K7210-1999、190℃、荷重2160g)0.15g/10分
(PO-2):
種類:高密度ポリエチレン(HDPE)
密度:(JIS K7112-1999)950kg/m3
MFR:(JIS K7210-1999、190℃、荷重2160g)1.1g/10分
(PO-3):
種類:高密度ポリエチレン(HDPE)
密度:(JIS K7112-1999)940kg/m3
MFR:(JIS K7210-1999、190℃、荷重2160g)0.45g/10分
(PO-4):
種類:直鎖状低密度ポリエチレン(mPE:メタロセン触媒重合ポリエチレン
密度:(JIS K7112-1999)923kg/m3
MFR(JIS K7210-1999、190℃、荷重2160g)1.3g/10分
【0040】
[実施例1]
(農業用フィルムの作製)
下記の成分を用意した。
<成分>
・EVA-1:80質量部
・PO-3:20質量部
【0041】
-混合物の調製-
上記成分を、単軸押出機(押出機スクリュー径:65mm)を用い、ダイス温度180℃、溶融ゾーン温度180℃の条件下で、メルトブレンドしたところ、安定して造粒することができた。
そして、メルトブレンド後の混合物について、酢酸ビニルの構成単位の含有量(酢酸ビニルに由来する構成単位の平均含有量(単位:質量%);表1ではVA含量と表記する)及びMFRを、既述の方法で測定した。結果は表1に示す。
なお、表1中の「-」との表記は、該当成分を含んでいないことを示している。
【0042】
-成形-
メルトブレンドした上記混合物を、単層インフレーション成形機(口径150mm、押出機スクリュー径50mm)を用い、ダイス温度180℃、溶融ゾーン温度180℃、LS(ライン速度)5.0m/min、BUR(ブローアップ比)2.1の条件下でチューブ状に成形することで混合物層を形成し、折径520mm、厚さ50μmの農業用フィルムを得た。
【0043】
[評価]
以下の項目について、得られた農業用フィルムの評価を行った。結果は表2に示す。
【0044】
-全光線透過率-
得られた農業用フィルムについて、ヘイズメーター(スガ試験機(株)製)にてJIS-K7136(2000年)に準じて全光線透過率を測定し、農業用フィルムの光線透過率を評価する指標とした。全光線透過率は、85%以上95%未満であれば実用上の問題がない。
【0045】
-ヘイズ-
得られた農業用フィルムについて、ヘイズメーター(スガ試験機(株)製)にてJIS-K7136(2000年)に準じてヘイズを測定し、農業用フィルムの梨地状の程度を評価する指標とした。ヘイズは、70%以上95%未満であれば実用上の問題がない。
【0046】
-破断点応力-
得られた農業用フィルムをJIS-K6760:1995に準拠し、機械軸方向をMD方向、機械軸方向に直交する方向をTD方向とし測定した。破断点応力は18MPa以上(MD方向)であれば破断点応力に優れると判断した。
【0047】
-破断点伸び-
得られた農業用フィルムをJIS-K6760:1995に準拠し、機械軸方向をMD方向、機械軸方向に直交する方向をTD方向とし測定した。破断点伸びは400%以上であれば破断点伸びに優れると判断した。
【0048】
-グレーブ引裂き強度-
得られた農業用フィルムをJIS-K7128-3:1998に準拠し、機械軸方向をMD方向、機械軸方向に直交する方向をTD方向とし測定した。
グレーブ引裂き強度は、70N/mm以上(MD方向)であれば、グレーブ引裂き強度に優れると判断した。
【0049】
[実施例2~8、比較例1~7]
実施例1において、農業用フィルムの組成を表1に従って変更したこと以外は、実施例1と同様にして、農業用フィルムを作製した。
実施例1と同様に実施例2~8は、混合物を調製する際に安定して造粒することができたが、比較例3は造粒性が不安定であった。
そして、得られた農業用フィルムについて、実施例1と同様の評価を行った。結果は表2に示す。
【0050】
【0051】
【0052】
表1~表2からわかるように、本実施例の農業用フィルムは、全光線透過率及びヘイズの値が許容範囲内に維持され、かつ、破断点応力、破断点伸び、グレーブ引裂き強度のいずれの点でも優れていた。すなわち、本実施例の農業用フィルムは、全光線透過率及びヘイズの値が許容範囲内に維持され、かつ機械的強度に優れるものであった。一方、比較例の農業用フィルムは、実施例のものに比べ、ヘイズの値又は機械的強度の少なくとも一方が劣っていた。例えば、比較例7は、ヘイズの値は許容範囲であるが、破断点応力、破断点伸び、及びグレーブ引裂き強度の機械的強度は実施例のものに比べて劣っていた。
【0053】
2018年3月19日に出願された日本出願特願2018-051725の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。