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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】自律型無人潜水機用の支援システム
(51)【国際特許分類】
   B63C 11/00 20060101AFI20220921BHJP
   B63C 11/48 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
B63C11/00 C
B63C11/48 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020514411
(86)(22)【出願日】2019-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2019016459
(87)【国際公開番号】W WO2019203267
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2018079376
(32)【優先日】2018-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪上 裕志
(72)【発明者】
【氏名】向田 峰彦
(72)【発明者】
【氏名】益田 興佑
(72)【発明者】
【氏名】宮田 慎一
(72)【発明者】
【氏名】松居 学
(72)【発明者】
【氏名】岡田 崇志
(72)【発明者】
【氏名】▲葛▼谷 健
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-071265(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0274260(US,A1)
【文献】特開2006-206006(JP,A)
【文献】特開2009-173100(JP,A)
【文献】特開2011-031635(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0297502(US,A1)
【文献】特開平01-218671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 11/00
B63C 11/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上船と、
水中を自律航走する自律型無人潜水機と、
前記自律型無人潜水機とドッキング可能に構成された、前記自律型無人潜水機を支援するための水中ステーションと、
前記水上船と前記水中ステーションとを繋ぐケーブルと、を備えた自律型無人潜水機用の支援システムであって、
前記ケーブルは、水上に停止した状態の前記水上船から前記ケーブルにより前記水中ステーションを水中に吊下げたときに、前記水上船から水面を通過して下方に延びる第1ケーブル部と、前記第1ケーブル部の下端部から上方へと延びる第2ケーブル部と、前記第2ケーブル部の上端部から下方に延びて前記水中ステーションにつながる第3ケーブル部とを含み、
前記支援システムは、前記第1ケーブル部と前記第2ケーブル部との間に位置する錘と、前記第2ケーブル部と前記第3ケーブル部との間に位置する浮体物とを更に備え、
前記水中ステーション、前記錘、および前記浮体物、ならびに、前記自律型無人潜水機のそれぞれの重量および容積は、下記の式(1)~(5)を満たすように調整される、自律型無人潜水機用の支援システム。
F≧W1 ・・・(1)
W2≧F-W1 ・・・(2)
ΔF<W1 ・・・(3)
F+ΔF≧W1 ・・・(4)
W2≧F+ΔF-W1 ・・・(5)
ただし、Fは、水中において前記浮体物の容積に基づき前記浮体物に作用する浮力から、前記浮体物の重量に基づき前記浮体物に作用する重力を差し引いた値であり、W1は、前記水中ステーションの重量に基づき前記水中ステーションに作用する重力から、水中において前記水中ステーションの容積に基づき前記水中ステーションに作用する浮力を差し引いた値であり、W2は、前記錘の重量に基づき前記錘に作用する重力から、水中において前記錘の容積に基づき前記錘に作用する浮力を差し引いた値であり、ΔFは、水中において前記自律型無人潜水機の容積に基づき前記自律型無人潜水機に作用する浮力から、前記自律型無人潜水機の重量に基づき前記自律型無人潜水機に作用する重力を差し引いた値である。
【請求項2】
前記ケーブルにおける前記錘の位置は、前記水上船が水上において停まっているときの前記錘の水面からの深さが、前記ケーブルにおける前記浮体物と前記錘の間の部分の長さ以上となるように調整されている、請求項1に記載の自律型無人潜水機用の支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律型無人潜水機用の支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水中を自律航走する自律型無人潜水機(AUV:Autonomous Underwater Vehicle。以下、AUVともいう。)を支援するAUV用の水中ステーションが知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、水上船と、当該水上船からケーブルにより水中に吊下げられた水中ステーションを備えるAUV用の支援システムが開示されている。このシステムでは、水上船からケーブルにより水中に吊下げられた水中ステーションにAUVがドッキングした後に、水中ステーションの給電部からAUVの受電部への電力の供給が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-71265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したシステムにおいて、水上船と水中ステーションとを繋ぐケーブルは、水上船が水上に停まっている場合であっても、水中ステーションの自重によりぴんと張った状態となる。この状態で、海象などの影響を受けて水上船が動くと、ケーブルを介して水中ステーションも変位する。このように水上船の動きがケーブルを介して水中ステーションに伝わると、AUVと水中ステーションのドッキングを困難にする可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、水上船にケーブルで繋がれた水中ステーションに、ケーブルを介して水上船の動きが伝わるのを抑制することを可能にする、AUV用の支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るAUV用の支援システムは、水上船と、水中を自律航走するAUVを支援するための水中ステーションと、前記水上船と前記水中ステーションとを繋ぐケーブルと、を備え、前記ケーブルは、水上に停止した状態の前記水上船から前記ケーブルにより前記水中ステーションを水中に吊下げたときに、前記水上船から水面を通過して下方に延びる第1ケーブル部と、前記第1ケーブル部の下端部から上方へと延びる第2ケーブル部と、前記第2ケーブル部の上端部から下方に延びて前記水中ステーションにつながる第3ケーブル部とを含む。
【0008】
上記の構成によれば、水上船が動いた場合でも、第1ケーブル部および第2ケーブル部の各々の下端部が変位することで、第3ケーブル部の変位量を抑えることができる。これにより、水中ステーションに、ケーブルを介して水上船の動きが伝わるのを抑制することができる。
【0009】
上記のAUV用の支援システムにおいて、前記第1ケーブル部と前記第2ケーブル部との間に位置する錘を更に備えてもよい。
【0010】
上記のAUV用の支援システムにおいて、前記第2ケーブル部と前記第3ケーブル部との間に位置する浮体物を更に備えてもよい。
【0011】
上記のAUV用の支援システムにおいて、前記第1ケーブル部と前記第2ケーブル部との間に位置する錘と、前記第2ケーブル部と前記第3ケーブル部との間に位置する浮体物とを更に備え、前記水中ステーション、前記錘、および前記浮体物のそれぞれの重量および容積は、下記の式(1)および式(2)を満たすように調整されてもよい。
F≧W1 ・・・(1)
W2≧F-W1 ・・・(2)
ただし、Fは、水中において前記浮体物の容積に基づき前記浮体物に作用する浮力から、前記浮体物の重量に基づき前記浮体物に作用する重力を差し引いた値であり、W1は、前記水中ステーションの重量に基づき前記水中ステーションに作用する重力から、水中において前記前記水中ステーションの容積に基づき前記水中ステーションに作用する浮力を差し引いた値であり、W2は、前記錘の重量に基づき前記錘に作用する重力から、水中において前記錘の容積に基づき前記錘に作用する浮力を差し引いた値である。
【0012】
上記のAUV用の支援システムにおいて、前記水中ステーションは、前記AUVとドッキング可能に構成されており、
前記水中ステーション、前記錘、および前記浮体物、ならびに、前記AUVのそれぞれの重量および容積は、下記の式(3)~(5)を満たすように調整されてもよい。
ΔF<W1 ・・・(3)
F+ΔF≧W1 ・・・(4)
W2≧F+ΔF-W1 ・・・(5)
ただし、Fは、水中において前記浮体物の容積に基づき前記浮体物に作用する浮力から、前記浮体物の重量に基づき前記浮体物に作用する重力を差し引いた値であり、W1は、前記水中ステーションの重量に基づき前記水中ステーションに作用する重力から、水中において前記前記水中ステーションの容積に基づき前記水中ステーションに作用する浮力を差し引いた値であり、W2は、前記錘の重量に基づき前記錘に作用する重力から、水中において前記錘の容積に基づき前記錘に作用する浮力を差し引いた値であり、ΔFは、水中において前記AUVの容積に基づき前記AUVに作用する浮力から、前記AUVの重量に基づき前記AUVに作用する重力を差し引いた値である。
【0013】
上記のAUV用の支援システムにおいて、前記第1ケーブル部と前記第2ケーブル部との間に位置する錘と、前記第2ケーブル部と前記第3ケーブル部との間に位置する浮体物とを更に備え、前記ケーブルにおける前記錘の位置は、前記水上船が水上において停まっているときの前記錘の水面からの深さが、前記ケーブルにおける前記浮体物と前記錘の間の部分の長さ以上となるように調整されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水上船にケーブルで繋がれた水中ステーションに、ケーブルを介して水上船の動きが伝わるのを抑制することを可能にするAUVの支援システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係るAUV用の支援システムを概略的に示した模式図であり、水上船が水上にて航行する状態を示す図である。
図2図1に示す支援システムにおいて、水上船が水上にて停まっている状態を示す図である。
図3図1に示す支援システムにおいて、水中ステーションにAUVがドッキングした状態を示す図である。
図4】第2実施形態に係るAUV用の支援システムを概略的に示した模式図である。
図5】第3実施形態に係るAUV用の支援システムを概略的に示した模式図である。
図6】第4実施形態に係るAUV用の支援システムを概略的に示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
<第1実施形態>
図1および図2は、いずれも第1実施形態に係るAUV用の支援システム1を概略的に示した模式図である。支援システム1は、水上船2と、水中を自律航走するAUV7(図3参照)を支援するための水中ステーション3とを備える。図1には、支援システム1における水上船2が水上にて航行する状態が示されており、図2には、支援システム1における水上船2が水上にて停まっている状態が示されている。なお、本願の明細書および特許請求の範囲において、「水」とは、例えば海や湖などAUVが航走可能な液体を意味しており、例えば「水中」は、海中や湖中などを含む。
【0018】
水上船2と水中ステーション3とは、ケーブル4で繋がれている。図1に示すように、水上船2が水上を航行すると、水中ステーション3は、ケーブル4に引っ張られて曳航される。この場合、ケーブル4は、水上船2から水中ステーション3まで概ね一直線状に延びている。ケーブル4は、例えば、水上船2から水中ステーション3に電気を送るための送電線および/または水上船2と通信するための通信線を含む。すなわち、本実施形態の水中ステーション3にAUVがドッキングすることにより、水中にてAUVの内蔵バッテリを充電することが可能となる、および/または水中にてAUVが取得したデータを水上船2にケーブル4を介して送ることが可能となる。
【0019】
ケーブル4には、錘5と浮体物6とが取り付けられている。錘5と浮体物6とは、ケーブル4に沿って水上船2に近い方からこの順にケーブル4に設けられている。すなわち、錘5は、ケーブル4における浮体物6と水上船2の間に位置する。本実施形態において、ケーブル4に対する錘5と浮体物6の位置は固定されている。ただし、錘5と浮体物6の一方または双方は、ケーブル4に沿った所定の範囲内で移動できるようにケーブル4に取り付けられていてもよい。
【0020】
次に、支援システム1における水上船2が水上にて停まっているときの、水中における水中ステーション3、錘5、および浮体物6の位置関係について、図2を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、ケーブル4における水上船2と錘5の間の部分を、「第1ケーブル部4a」と呼び、ケーブル4における錘5と浮体物6の間の部分を、「第2ケーブル部4b」と呼び、ケーブル4における浮体物6と水中ステーション3の間の部分を、「第3ケーブル部4c」と呼ぶ。すなわち、錘5は、第1ケーブル部4aと第2ケーブル部4bとの間に位置し、浮体物6は、第2ケーブル部4bと第3ケーブル部4cとの間に位置する。
【0021】
水中において、水中ステーション3に作用する重力は、水中ステーション3に作用する浮力より大きい。このため、図2に示すように、水中の水中ステーション3には、水中ステーション3の重力と浮力の合力である力W1が鉛直下方に作用する。すなわち、力W1は、水中ステーション3に作用する重力から水中ステーション3に作用する浮力を差し引いた値である。
【0022】
また、水中において、錘5に作用する重力は、錘5に作用する浮力より大きい。このため、図2に示すように、水中の錘5には、錘5の重力と浮力の合力である力W2が鉛直下方に作用する。すなわち、力W2は、錘5に作用する重力から錘5に作用する浮力を差し引いた値である。
【0023】
また、水中において、浮体物6に作用する重力は、浮体物6に作用する浮力より小さい。このため、図2に示すように、水中の浮体物6には、浮体物6の重力と浮力の合力である力Fが鉛直上方に作用する。すなわち、力Fは、浮体物6に作用する浮力から浮体物6に作用する重力を差し引いた値である。
【0024】
なお、水中の水中ステーション3、錘5、および浮体物6にそれぞれ作用する浮力は、水中ステーション3、錘5、および浮体物6の容積に基づく値である。また、水中ステーション3、錘5、および浮体物6にそれぞれ作用する重力は、水中ステーション3、錘5、および浮体物6の重量に基づく値である。
【0025】
このように、水中の水中ステーション3、錘5、および浮体物6にそれぞれ作用する力により、水上船2が水上にて停まっているときのケーブル4は、水上船2から下方へ延びる途中で一旦上方に延びた後、再度下方へと延びた形状となる。
【0026】
具体的には、水上に停止した状態の水上船2からケーブル4により水中ステーション3を水中に吊下げたとき、第1ケーブル部4aは、水上船2から水面Sを通過して水中に位置する錘5に向かって下方に延びる。なお、第1ケーブル部4aの長さは、水中に位置する錘5が水面Sから下方に十分に離間した位置に配置されるのに十分な長さである。第2ケーブル部4bは、錘5から(言い換えれば第1ケーブル部4aの下端部から)浮体物6に向かって上方に延びる。第3ケーブル部4cは、浮体物6から(言い換えれば第2ケーブル部4bの上端部から)水中ステーション3に向かって下方に延びる。
【0027】
水上船2が水上にて停まっているとき、浮体物6は、第3ケーブル部4cにより水中ステーション3を吊下げている。より詳しくは、浮体物6に作用する力Fと水中ステーション3に作用する力W1とは、下記の式(1)の関係を満たす。
F≧W1 ・・・(1)
なお、本実施形態では、ケーブル4の重力及び浮力は、水中ステーション3、錘5、および浮体物6のそれぞれの重力および浮力に比べ無視できるほど小さいものとする。
【0028】
また、本実施形態において、浮体物6は、水中に位置するように構成されている。より詳しくは、第2ケーブル部4bおよび第3ケーブル部4cが浮体物6を下方へと引っ張る張力は、浮体物6に作用する力F以上に設定されている。この支援システム1において、水上船2が水上にて停まっているときの水中ステーション3の深度は一定の深度に維持されるように調整されるため、第3ケーブル部4cの張力は、力W1である。例えば第1ケーブル部4aが弛んで、浮体物6が第2ケーブル部4bにより錘5を吊下げた状態となったときの第2ケーブル部4bの張力は、力W2である。
【0029】
このため、浮体物6が力Fで水上まで浮き上がらないための条件は、「F≦W1+W2」という式で表される。この式を、浮体物6が力Fで水上まで浮き上がらないための力W2の条件として書き換えると、下記の式(2)となる。
W2≧F-W1 ・・・(2)
【0030】
このように、水中ステーション3、錘5、および浮体物6のそれぞれの重量および容積は、上記の式(1)および式(2)を満たすように調整されている。これにより、水中ステーション3がぴんと張った状態の第3ケーブル部4cにより吊下げられた状態で、且つ、浮体物6が水中に位置する状態が実現される。
【0031】
ただし、水上船2が水上において停まっているときの錘5の水面Sからの深さhが、第2ケーブル部4bの長さL以下である場合には、浮体物6は水上に達してしまう可能性がある。このため、本実施形態では、浮体物6が確実に水中に位置するように、水上船2が水上において停まっているときの錘5の水面Sからの深さhは、第2ケーブル部4bの長さL以上となるように調整されている。
【0032】
以上に説明したように、本実施形態に係るAUV用の支援システム1によれば、ケーブル4が、水上船2から錘5に向かって下方に延びた後、当該錘5から浮体物6に向かって上方に延び、浮体物6から水中ステーション3に向かって下方に延びる。このため、水上船2が動いた場合でも、ケーブル4における水上船2と浮体物6の間の錘5が変位することで、浮体物6の変位量を抑えることができる。これにより、水中ステーション3に、ケーブル4を介して水上船2の動きが伝わるのを抑制することができる。
【0033】
(AUVドッキング時)
図3は、支援システム1において、水中ステーション3にAUV7がドッキングした状態を示す図である。本実施形態では、水中ステーション3にAUV7がドッキングした状態でも、ケーブル4が、水上船2から錘5に向かって下方に延びた後、当該錘5から浮体物6に向かって上方に延び、浮体物6から水中ステーション3に向かって下方に延びる。
【0034】
水中において、AUV7に作用する重力は、AUV7に作用する浮力より小さい。このため、図3に示すように、水中のAUV7には、AUV7の重力と浮力の合力である力ΔFが鉛直上方に作用する。すなわち、力ΔFは、AUV7に作用する浮力からAUV7に作用する重力を差し引いた値である。
【0035】
AUV7がドッキングした状態の水中ステーション3が水上に浮き上がらないために、AUV7に作用する力ΔFと水中ステーション3に作用する力W1とは、下記の式(3)の関係を満たす。
ΔF<W1 ・・・(3)
【0036】
また、浮体物6が、AUV7がドッキングした状態の水中ステーション3を第3ケーブル部4cにより吊下げている。より詳しくは、浮体物6に作用する力Fと水中ステーション3に作用する力W1とAUV7に作用する力ΔFとは、下記の式(4)の関係を満たす。
F+ΔF≧W1 ・・・(4)
【0037】
また、浮体物6は、水中に位置するように構成されている。より詳しくは、第2ケーブル部4bおよび第3ケーブル部4cが浮体物6を下方へと引っ張る張力は、浮体物6に作用する力F以上に設定されている。この支援システム1において、第3ケーブル部4cの張力は、水中ステーション3に鉛直下方に作用する力W1からAUV7に鉛直上方に作用する力ΔFを差し引いた値である。また、例えば第1ケーブル部4aが弛んで、浮体物6が第2ケーブル部4bにより錘5を吊下げた状態となったときの第2ケーブル部4bの張力は、力W2である。
【0038】
このため、浮体物6が力Fで水上まで浮き上がらないための条件は、「F≦(W1-ΔF)+W2」という式で表される。この式を、浮体物6が力Fで水上まで浮き上がらないための力W2の条件として書き換えると、下記の式(5)となる。
W2≧F+ΔF-W1 ・・・(5)
【0039】
このように、水中ステーション3、錘5、および浮体物6ならびにAUV7のそれぞれの重量および容積は、上記の式(3)~(5)を満たすように調整されている。これにより、水中ステーション3にAUV7がドッキングした状態においても、水中ステーション3がぴんと張った状態の第3ケーブル部4cにより吊下げられた状態で、且つ、浮体物6が水中に位置する状態が実現される。
【0040】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について、図4を参照して説明する。図4は、第2実施形態に係るAUV用の支援システムを概略的に示した模式図である。また、図4では、図2と同様、水上船2が水上に停止した状態が示されている。
【0041】
なお、第2実施形態および後述する第3および第4実施形態において、重複した説明は適宜省略する。また、第2~第4実施形態において、「第1ケーブル部4a」を、水上に停止した状態の水上船2からケーブル4により水中ステーション3を水中に吊下げたときに、ケーブル4における水上船2から水面Sを通過して下方に延びる部分とし、「第2ケーブル部4b」を、水上に停止した状態の水上船2からケーブル4により水中ステーション3を水中に吊下げたときに、ケーブル4における第1ケーブル部4aの下端部から上方へと延びる部分とし、「第3ケーブル部4c」を、水上に停止した状態の水上船2からケーブル4により水中ステーション3を水中に吊下げたときに、ケーブル4における第2ケーブル部4bの上端部から下方に延びて水中ステーション3につながる部分とする。
【0042】
本実施形態では、ケーブル4に、浮体物6が設けられているが、錘5が設けられていない。すなわち、第1ケーブル部4aと第2ケーブル部4bとの間に錘5はない。代わりに、ケーブル4における浮体物6と水上船2との間の部分(すなわち、第1ケーブル部4aと第2ケーブル部4b)の重量が、水中ステーション3、錘5、および浮体物6のそれぞれの重力および浮力に比べ無視できない大きさとなっている。以下、ケーブル4における浮体物6と水上船2との間の部分を、「負浮力ケーブル部8」と称することとする。例えば、負浮力ケーブル部8は、比重がケーブル4の周りの水(例えば水、海水、湖水)の比重(例えば1)よりも比較的大きい物質で形成したり、伝送線やその周りの絶縁層などで構成されるケーブル本体の周りにケーブル4の周りの水の比重より重い物質が充填される充填層を設けて形成したり、ケーブル本体と比重の重い物質が充填される管とを一体化して形成したり、ケーブル本体の外部に等間隔に錘材を取り付けるなどして実現される。
【0043】
水上に停止した状態の水上船2からケーブル4により水中ステーション3を水中に吊下げたとき、負浮力ケーブル部8に作用する重力は、負浮力ケーブル部8に作用する浮力より大きい。このため、図4に示すように、負浮力ケーブル部8には、負浮力ケーブル部8の重力と浮力の合力である力W3が鉛直下方に作用する。すなわち、力W3は、負浮力ケーブル部8に作用する重力から負浮力ケーブル部8に作用する浮力を差し引いた値である。負浮力ケーブル部8に作用する力W3は、下記の式(6)で表される。
【0044】
W3=wa×la-fa×lb ・・・(6)
ただし、waは、負浮力ケーブル部8の単位長さあたりの重力、laは、負浮力ケーブル部8の全長、faは、負浮力ケーブル部8の単位長さあたりの浮力、lbは、負浮力ケーブル部8のうち没水部分(言い換えれば水面Sより下方部分)の長さである。
【0045】
また、本実施形態では、力W3が下記の式(7)を満たすように、負浮力ケーブル部8の単位長さあたりの重力waおよび浮力fa(つまり、重力waおよび浮力faに影響する単位長さあたりの重量や容積)が調整されている。
W3≧F-W1 ・・・(7)
【0046】
こうして、図4に示すように、負浮力ケーブル部8は、水上に停止した状態の水上船2からケーブル4により水中ステーション3を水中に吊下げたときに、水上船2から水面Sを通過して下方に延びる第1ケーブル部4aと、第1ケーブル部4aの下端部から上方へと延びる第2ケーブル部4bとを含むこととなる。ただし、第2ケーブル部4bの長さを十分に確保されるように(例えば数m)、負浮力ケーブル部8の単位長さあたりの重力waは調整される。
【0047】
本実施形態でも、水上船2が動いた場合でも、第1ケーブル部4aおよび第2ケーブル部4bの各々の下端部が変位することで、第3ケーブル部4cの変位量を抑えることができる。これにより、水中ステーション3に、ケーブル4を介して水上船2の動きが伝わるのを抑制することができる。
【0048】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について、図5を参照して説明する。図5は、第3実施形態に係るAUV用の支援システムを概略的に示した模式図である。また、図5では、図2および図4と同様、水上船2が水上に停止した状態が示されている。
【0049】
本実施形態では、ケーブル4に、錘5が設けられているが、浮体物6が設けられていない。すなわち、第2ケーブル部4bと第3ケーブル部4cとの間に浮体物6はない。代わりに、ケーブル4における錘5と水中ステーション3との間の部分に作用する浮力が、水中ステーション3、錘5、および浮体物6のそれぞれの重力および浮力に比べ無視できない大きさとなっている。以下、ケーブル4における浮体物6と水中ステーション3との間の部分を、「正浮力ケーブル部9」と称することとする。例えば、正浮力ケーブル部9は、比重がケーブル4の周りの水(例えば水、海水、湖水)の比重(例えば1)よりも比較的小さい物質で形成したり、伝送線やその周りの絶縁層などで構成されるケーブル本体の周りに空気などの気体が充填される気層を設けて形成したり、ケーブル本体と空気などの気体が充填される気管とを一体化して形成したり、ケーブル本体の外部に等間隔に浮力材を取り付けるなどして実現される。
【0050】
水上に停止した状態の水上船2からケーブル4により水中ステーション3を水中に吊下げたとき、正浮力ケーブル部9に作用する重力は、正浮力ケーブル部9に作用する浮力より小さい。このため、図5に示すように、正浮力ケーブル部9には、正浮力ケーブル部9の重力と浮力の合力である力F2が鉛直上方に作用する。すなわち、力F2は、正浮力ケーブル部9に作用する浮力から正浮力ケーブル部9に作用する重力を差し引いた値である。正浮力ケーブル部9に作用する力F2は、下記の式(8)で表される。
【0051】
F2=fb×lc-wb×lc=(fb-wb)×lc ・・・(8)
ただし、fbは、正浮力ケーブル部9の単位長さあたりの浮力、wbは、正浮力ケーブル部9の単位長さあたりの重力、lcは、正浮力ケーブル部9の全長である。
【0052】
また、本実施形態では、力F2が下記の式(9)および(10)を満たすように、正浮力ケーブル部9の単位長さあたりの重力wbおよび浮力fb(つまり、重力wbおよび浮力fbに影響する単位長さあたりの重量や容積)が調整されている。
F2≧W1 ・・・(9)
W2≧F2-W1 ・・・(10)
【0053】
こうして、図5に示すように、正浮力ケーブル部9は、水上に停止した状態の水上船2からケーブル4により水中ステーション3を水中に吊下げたときに、第1ケーブル部4aの下端部に位置する錘5から上方へと延びる第2ケーブル部4bと、第2ケーブル部4bの上端部から下方に延びて水中ステーション3につながる第3ケーブル部4cとを含むこととなる。
【0054】
本実施形態でも、水上船2が動いた場合でも、第1ケーブル部4aおよび第2ケーブル部4bの各々の下端部に位置する錘5が変位することで、第3ケーブル部4cの変位量を抑えることができる。これにより、水中ステーション3に、ケーブル4を介して水上船2の動きが伝わるのを抑制することができる。
【0055】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態について、図6を参照して説明する。図6は、第4実施形態に係るAUV用の支援システムを概略的に示した模式図である。また、図6では、図2、4および5と同様、水上船2が水上に停止した状態が示されている。
【0056】
本実施形態では、ケーブル4に、錘5も浮体物6も設けられていない。代わりに、ケーブル4は、第2実施形態で説明された負浮力ケーブル部8と同じ構成の負浮力ケーブル部10と、第3実施形態で説明された正浮力ケーブル部9と同じ構成の正浮力ケーブル部11とを含む。負浮力ケーブル部10は、ケーブル4における、作用する重力が、水中ステーション3、錘5、および浮体物6のそれぞれの重力および浮力に比べ無視できない大きさとなっている部分である。正浮力ケーブル部11は、ケーブル4における、作用する浮力が、水中ステーション3、錘5、および浮体物6のそれぞれの重力および浮力に比べ無視できない大きさとなっている部分である。
【0057】
負浮力ケーブル部10は、水上船2から延び、負浮力ケーブル部10の一端が正浮力ケーブル部11の一端とつながっている。また、正浮力ケーブル部11の他端が水中ステーション3につながっている。
【0058】
負浮力ケーブル部10には、負浮力ケーブル部10の重力と浮力の合力である力W3が鉛直下方に作用し、力W3は、上記の式(6)で表される。また、正浮力ケーブル部11には、正浮力ケーブル部11の重力と浮力の合力である力F2が鉛直上方に作用し、力F2は、上記の式(8)で表される。
【0059】
また、本実施形態では、力W3および力F2が下記の式(11)を満たすように、負浮力ケーブル部10の単位長さあたりの重力waおよび浮力fa、ならびに、正浮力ケーブル部11の単位長さあたりの重力wbおよび浮力fbが調整されている。
W3≧F2-W1 ・・・(11)
【0060】
こうして、図6に示すように、水上に停止した状態の水上船2からケーブル4により水中ステーション3を水中に吊下げたときに、負浮力ケーブル部10は、水上船2から水面Sを通過して下方に延びる第1ケーブル部4aと、第1ケーブル部4aの下端部から上方へと延びる第2ケーブル部4bの一部とを含み、正浮力ケーブル部11は、第1ケーブル部4aの下端部から上方へと延びる第2ケーブル部4bの一部と、第2ケーブル部4bの上端部から下方に延びて水中ステーション3につながる第3ケーブル部4cとを含むこととなる。言い換えれば、第2ケーブル部4bに、負浮力ケーブル部10と正浮力ケーブル部11との接続部分が位置する。
【0061】
本実施形態でも、水上船2が動いた場合でも、第1ケーブル部4aおよび第2ケーブル部4bの各々の下端部が変位することで、第3ケーブル部4cの変位量を抑えることができる。これにより、水中ステーション3に、ケーブル4を介して水上船2の動きが伝わるのを抑制することができる。
【0062】
<その他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0063】
例えば、図2,3に示した支援システム1の模式図は、支援システム1の各要素の関係を分かり易く説明するために示されたにすぎず、図2,3は、本発明を制限するものではない。例えば、図2,3では、第1ケーブル部4aが鉛直方向に延びるように示されたが、水上船2が水上にて停まっているときの第1ケーブル部4aが、鉛直方向に対して若干傾斜していてもよい。また、図2,3では、第2ケーブル部4bが鉛直方向に対して傾斜するように示されたが、水上船2が水上にて停まっているときの第2ケーブル部4bが、鉛直方向に延びていてもよい。
【0064】
また、図1では、AUV7は示されていないが、水中ステーション3は、AUV7がドッキングされた状態で、ケーブル4に引っ張られて曳航されてもよい。
【0065】
また、第2~第4実施形態でも、第1実施形態と同様に、水中ステーション3にAUV7がドッキングした状態でも、ケーブル4が、水上船2から錘5に向かって下方に延びた後、当該錘5から浮体物6に向かって上方に延び、浮体物6から水中ステーション3に向かって下方に延びてもよい。各式の「F」,「F2」はそれぞれ「F+ΔF」,「F2+ΔF」に置き換わる。また、第2~第4実施形態でも、水上船2が水上において停まっているときの第2ケーブル部4bの下端部(言い換えれば第1ケーブル部4aの下端部)の水面Sからの深さhが、第2ケーブル部4bの長さL以上となるように調整されてもよい。
【0066】
第2実施形態において、ケーブル4において重量が大きい部分である負浮力ケーブル部8は、ケーブル4における浮体物6と水上船2との間の全体でなくてもよく、その中で水中に浸る一部分であってもよい。第3実施形態において、ケーブル4において浮力が大きい部分である正浮力ケーブル部9は、ケーブル4における浮体物6と水中ステーション3との間の全体でなくてもよく、その中の一部分であってもよい。第4実施形態において、ケーブル4は、負浮力ケーブル部10の一端が正浮力ケーブル部11の一端との間や、負浮力ケーブル部10の他端と水上船2との間、負浮力ケーブル部10の他端と水中ステーション3との間などに、重力及び浮力が水中ステーション3、錘5、および浮体物6のそれぞれの重力および浮力に比べ無視できるほど小さいケーブル部分を含んでもよい。
【0067】
また、水上船2が水上にて停まっているとき、第1ケーブル部4aおよび第2ケーブル部4bの一方が弛んでいてもよい。例えば、浮体物6に鉛直上方に作用する力Fと、水中の水中ステーション3に鉛直下方に作用する力W1が同程度である場合、第2ケーブル部4bは弛むことが考えられる。なお、この場合、水上船2が水上において停まっているときの錘5の水面Sからの深さhが、ケーブル4における浮体物6と錘5の間の部分の長さ以上でなくてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、水中ステーション3が、AUVとドッキングすることにより、水中にてAUVの内蔵バッテリを充電することが可能となる、および/または水中にてAUVが取得したデータを水上船2にケーブル4を介して送ることが可能となるように構成されたが、本発明の水中ステーションはこれに限定されない。例えば、水中ステーションは、AUVとドッキング可能に構成されていればよい(すなわち、水中ステーションは、ドッキングしたAUVを水上船により曳航させ、当該AUVを目的地に移動させる役割だけを果たすものであってもよい)。
【0069】
なお、水中の水中ステーション3、錘5、および浮体物6にそれぞれ作用する浮力に、水中ステーション3、錘5、および浮体物6が位置する水の比重(例えば支援システム1を海で使用する場合にはその海水の比重)が考慮されることは言うまでもない。水中ステーション3を使用する水の比重が多少変動しても(例えば真水の比重と塩分濃度の高い海水の比重の間で変動しても)、上記の式(1)~(11)を満たすように、水中ステーション3、錘5、および浮体物6のそれぞれの重量および容積が調整されてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 :支援システム
2 :水上船
3 :水中ステーション
4 :ケーブル
4a :第1ケーブル部
4b :第2ケーブル部
4c :第3ケーブル部
5 :錘
6 :浮体物
7 :AUV(自律型無人潜水機)

図1
図2
図3
図4
図5
図6