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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】歯科インプラントおよび歯科補綴物
(51)【国際特許分類】
   A61C 8/00 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
A61C8/00 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020566609
(86)(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 EP2019053101
(87)【国際公開番号】W WO2019233634
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-01-13
(31)【優先権主張番号】102018113237.9
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】520459584
【氏名又は名称】ティーアールアイ デンタル インプランツ インターナショナル アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベナンゾーニ,サンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ペレス,ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】ユング,ロナルド
(72)【発明者】
【氏名】リヒター,トビアス
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05342199(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0092720(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02444026(EP,A1)
【文献】特表平8-505559(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102016215427(DE,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0025770(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科インプラント(10)であって、
前記歯科インプラント(10)を顎骨に締結するために前記歯科インプラント(10)の外側に配置されている雄ネジ(12)と、
前記歯科インプラント(10)の長手軸(14)に沿って延びており、上部構造(20)を前記歯科インプラント(10)に締結するために内部に雌ネジ(18)が配置されている開口(16)と、
前記上部構造(20)を前記歯科インプラント(10)に締結するために、前記歯科インプラント(10)の前端に配置されている接合部(24)と、を具備し、
前記接合部(24)は、前記長手軸(14)の周りに少なくとも90°の角度範囲にわたって延びている丸みのある凸状の湾曲(30)と、前記凸状の湾曲(30)に対して半径方向外側に配置されている支持面(32)とを具備し、前記支持面(32)は、前記長手軸(14)を横断する向きにされている少なくとも1つの環状部(38)を有しており、
前記歯科インプラント(10)の前記長手軸に沿う縦断面において、前記支持面(32)の前記環状部(38)に面する前記凸状の湾曲(30)の半径方向外側縁(34)の接線(50)は、前記支持面(32)の前記環状部(38)に対して平行な向きにされている、歯科インプラント(10)。
【請求項2】
前記接合部は、回転防止機構を形成するために、前記長手軸(14)に対して回転対称ではない、請求項1に記載の歯科インプラント。
【請求項3】
前記環状部(38)は、前記長手軸(14)の周り全体で前記長手軸(14)に対して60°よりも大きい一定の角度を有する、請求項1または2に記載の歯科インプラント。
【請求項4】
前記環状部(38)は、前記長手軸(14)に直交する向きにされている、請求項1~のいずれか1項に記載の歯科インプラント。
【請求項5】
前記歯科インプラント(10)の縦断面において前記湾曲(30)は扇形である、請求項1~のいずれか1項に記載の歯科インプラント。
【請求項6】
前記扇形の中心角(α)は90°である、請求項に記載の歯科インプラント。
【請求項7】
前記湾曲(30)が前記長手軸(14)の周りに延びる角度範囲、少なくとも270°である、請求項1~のいずれか1項に記載の歯科インプラント。
【請求項8】
前記凸状の湾曲(30)の少なくとも一部は、前記開口(16)内において前記雌ネジ(18)よりも上方の開口上端部に配置されている、請求項1~のいずれか1項に記載の歯科インプラント。
【請求項9】
前記凸状の湾曲(30)の半径方向外側縁(34)に対する接線(50)は、前記支持面(32)の前記環状部(38)と共通の平面に存する、請求項1~のいずれか1項に記載の歯科インプラント。
【請求項10】
前記湾曲(30)が前記長手軸(14)の周りに延びる角度範囲、360°である、請求項に記載の歯科インプラント。
【請求項11】
歯科補綴物(100)であって、
請求項1~10のいずれか1項に記載の歯科インプラント(10)と、
上部構造(20)と、
前記上部構造(20)を前記歯科インプラント(10)に締結するための締結要素(62)と、
を具備する、歯科補綴物(100)。
【請求項12】
上部構造(20)であって、
前記上部構造(20)の長手軸に沿って延びている貫通穴(68)と、
前記上部構造(20)を歯科インプラント(10)に締結するために、前記上部構造(20)の前端に配置されている接合部(42)と、を具備し、
前記接合部(42)は、前記長手軸の周りに少なくとも90°の角度範囲にわたって延びている凹状の湾曲(46)と、前記凹状の湾曲(46)に対して半径方向外側に配置されている支持面(44)とを具備し、前記支持面(44)は、前記長手軸を横断する向きにされている少なくとも1つの環状部を有しており、
前記上部構造(20)の前記長手軸に沿う縦断面において、前記支持面(44)の前記環状部に面する前記凹状の湾曲(46)の半径方向外側縁の接線は、前記支持面(44)の前記環状部に対して平行な向きにされている、上部構造(20)。
【請求項13】
前記接合部(42)は、回転防止機構を形成するために、前記上部構造(20)の前記長手軸に対して回転対称ではない、請求項12に記載の上部構造。
【請求項14】
前記支持面(44)の前記環状部は、前記上部構造(20)の前記長手軸の周り全体で前記上部構造(20)の前記長手軸に対して60°よりも大きい一定の角度を有する、請求項12または13に記載の上部構造。
【請求項15】
前記支持面(44)の前記環状部は、前記上部構造(20)の前記長手軸に直交する向きにされている、請求項12~14のいずれか1項に記載の上部構造。
【請求項16】
前記上部構造(20)の縦断面において前記凹状の湾曲(46)は扇形である、請求項12~15のいずれか1項に記載の上部構造。
【請求項17】
前記凹状の湾曲(46)の半径方向外側縁に対する接線は、前記支持面(44)の前記環状部と共通の平面に存する、請求項12~16のいずれか1項に記載の上部構造。
【請求項18】
前記凹状の湾曲(46)が前記長手軸の周りに延びる角度範囲は、360°である、請求項12~17のいずれか1項に記載の上部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科補綴物で使用するための歯科インプラントに関する。さらに、本発明は、本発明による歯科インプラントと、上部構造と、上部構造を歯科インプラントに締結するための締結要素とを具備する歯科補綴物に関する。さらに、本発明は、歯科補綴物を製造する方法に関する。本発明は、歯科インプラントの相手物としての上部構造にも関係する。
【背景技術】
【0002】
「歯科インプラント」という用語は、しばしば口語で一貫性なく使われ、歯科補綴物の構造全体に対して誤って使われることもしばしばである。そのため、この時点で、ここで検討する医療的な意味における「歯科インプラント」が、インプラント体、すなわち患者の顎に埋め込まれる人工歯根だけを意味することは明確にしておくべきである。そのため、「インプラント体」という用語が、用語「歯科インプラント」の代わりにしばしば使用される。ただし、以下においては、歯科補綴物の前述の部分に対して「歯科インプラント」という用語を統一的に使用する。
【0003】
このタイプの従来の歯科補綴物は、歯科インプラントに加えていわゆるアバットメントを具備し、このアバットメントが歯科インプラントとインプラントクラウン(上部構造)との間の連結部として機能する。アバットメントは、インプラント周囲軟組織から口腔および上部構造までの繊細な移行部を形成する。該アバットメントは、「支柱」または「インプラントポスト」と呼ばれることもある。一般に、アバットメントは、チタン、セラミック、またはセラミック合成物(酸化アルミニウムまたは二酸化ジルコニウムセラミックなど)から作られる。
【0004】
上部構造、すなわち、人工歯冠は、通例、セラミックまたは同様な材料から作られる。従来、上部構造は、歯科技工士が次のように作っている。まず、人工歯冠用のワックス模型を作成する。次に、ワックス模型を用いて人工歯冠を鋳造する。アバットメントは、正確な大きさおよび形状になるまで手作業で研ぎ、最終工程で、鋳造した人工歯冠をアバットメントに取り付ける。ほとんどの場合、組立は、上部構造をアバットメントに接着して行う。ほとんどを手作業で行うこのプロセスは、非常に精密な結果を得ることができる。しかし、言うまでもなく、これには時間がかかり、したがってコストもかかる。くわえて、上部構造とアバットメントとの間に接着隙間があり、この隙間は、漏れを生じやすく、歯科補綴物の耐久性を制限する可能性もある。
【0005】
現在、上記のプロセスをできるだけデジタル化または自動化するために多大な努力がなされている。上部構造は、今ではしばしば3Dモデルに基づいてミリングマシンでミリング加工される。このタイプの製作においては、アバットメントに対する連結部の連結構造が、上部構造の裏側に直接挿入される。そのため、人工歯冠を製作するときには、それに応じてミリングマシンをプログラミングするために、アバットメントの形状および大きさがすでに分かっていなければならない。これは通常、アバットメントのCADモデル(これをミリングマシンの制御システムに読み込ませる)によって行われる。
【0006】
上部構造を製作する前にアバットメントの形状および大きさが分かっていなければならないため、多くの製造業者は、どのような人体構造にも合う短小のアバットメントを選ぶ。しかし、長めの、すなわち比較的長い上部構造の場合、短小のアバットメントは、上部構造に対して生体力学的に不適切で、結果的に緩みまたは破損につながることがある。
【0007】
他の製造業者は、多くの異なるアバットメントを使用することによってこれを解決する。上部構造の形状および大きさに応じて、異なる大きさまたは形状のアバットメントを使用する。例えば、人工切歯の場合、人工大臼歯とは異なるアバットメントを使用しなければならない。例えば、人工切歯に使用するときにアバットメントの後側面を斜めに切らない場合、アバットメントが上部構造の裏側で見え、純粋に審美的観点から望ましくない。しかし、この問題は、人工大臼歯で使用する場合には生じないだろう。
【0008】
デジタルCADモデルを用いた自動化された製作では、上部構造の製造業者には、通常、アバットメントの異なる形状を表すCADデータセットがいくつか提供される。同時に、上部構造の製造業者は、形状および大きさの異なる大量のアバットメントを在庫に維持しておかなければならない。これは、面倒なことが多く、高い保管コストも発生する。
【0009】
以前のアプローチの欠点は、こうして次のように要約することができる。一方で、アバットメントの使用は、経歯肉(transgingival)部を含む上部構造の形状および設計の自由度を制限する。上部構造の、柔軟性のない経歯肉部は、特に軟組織の管理について問題を生じる可能性がある。しかし、理想的な軟組織の管理は、審美的な結果および長期的に安定した骨レベルにとって極めて重要である。他方で、先行技術によるこのような歯科補綴物の材料および製造コストは比較的高い。くわえて、上部構造とアバットメントとの間の接着隙間があり、この隙間は、多くの点で不利である。
【0010】
こうした背景から、前述のタイプの歯科補綴物がアバットメントなしでも済む、すなわち、上部構造を(例えばネジ止めによって)歯科インプラントに直接連結する、まったく新しいアプローチを採用するのが望ましい。しかし、このようなアプローチは、歯科インプラントおよびその設計に特別な技術的要求を課す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そのため、本発明の目的は、アバットメントを使用することなく上部構造との直接連結を可能にする歯科インプラントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によると、この目的は、歯科インプラントを顎骨に締結するために歯科インプラントの外側に配置されている雄ネジと、歯科インプラントの長手軸に沿って延びており、上部構造を歯科インプラントに締結するために内部に雌ネジが配置されている開口と、上部構造を歯科インプラントに締結するために、歯科インプラントの前端に配置されている接合部とを具備する歯科インプラントによって解決される。接合部は、長手軸の周りに少なくとも90°の角度範囲にわたって延びている、丸みのある凸状の湾曲と、湾曲に対して半径方向外側に配置されている支持面とを具備し、該支持面は、長手軸を横断する向きにされている少なくとも1つの環状部を有する。前記歯科プラントの前記長手軸に沿う縦断面において、支持面の環状部に面する湾曲の半径方向外側縁の接線は、支持面の環状部に対して平行な向きにされている。
【0013】
本発明による歯科インプラントの接合部は、アバットメントを使用することなく、上部構造を歯科インプラントに直接かつすぐ隣に装着させることができる。接合部の特別な設計により、上部構造を、接合部に明確に規定された形で配置することができる。これにより、上部構造と歯科インプラントとの明確に規定された相対位置が可能になる。
【0014】
接合部の特徴は、その上に配置されている凸状の丸みのある湾曲であり、該湾曲は、長手軸の周りに少なくとも90°の角度範囲にわたって延びている。この湾曲は、上部構造を歯科インプラントに装着するのに役立つ。これは、半径方向の、すなわち長手軸に直交する力を吸収する。湾曲は、センタリングデバイスとしても役立つ。
【0015】
本明細書において、「凸状の」湾曲とは、外方に曲がっている任意の湾曲であると理解される。凸状の湾曲は、凹状の内方に曲がったくぼみとは正反対のものである。単に明確にする目的で、本明細書では追加的に、凸状の湾曲を丸みのあると定義することがある(「凸状」という用語はすでにこのような丸みを含意するが)。本明細書において凸状で丸みのあると定義される湾曲は、好ましくは、(「キンク(kink)」のない)連続した接線勾配を具備する。
【0016】
さらに、本発明による歯科インプラントの接合部は、支持面を具備し、この支持面の少なくとも一部または一区間が環状で、歯科インプラントの長手軸を横断する向きにされている。支持面のこの環状部は、湾曲を取り囲んでいる、すなわち、凸状の湾曲よりも半径方向にさらに外に配置されている。本明細書において、「横断」とは、平行ではない任意のアライメントのタイプを意味する。「横断」は直交となることができるが、必ずしも直交である必要はない。好ましくは、環状支持面は、歯科インプラントの長手軸の周り全体で長手軸に対して一定の角度を有する。好ましくは、この角度は、60°よりも大きいが、直角(90°)が特に好ましい。
【0017】
支持面の環状部は、長手軸に平行な軸方向の力を吸収するのに役立つ。これにより、上部構造の破損につながりかねない引張応力を防止する。くわえて、支持面の環状部は、隙間を通して不純物が侵入するおそれのある円周に沿って、上部構造と歯科インプラントとの間の隙間をなくす境界またはシーリング面として機能する。そのため、支持面の環状部は、接合部の半径方向最外側のエリアを形成し、該エリアは、湾曲を含む接合部の他のエリアのすべてを取り囲む。
【0018】
半径方向に対して、凸状の湾曲の外側縁の接線は、環状部に対して平行である。環状部は、長手軸に対して直交する向きにされることが好ましいため、この特別なケースでは、接線は、歯科インプラントの長手軸に対して直交な向きにされている。
【0019】
すでに述べたように、接合部を構成する前述の方法は、歯科インプラントに対する上部構造の明確な位置付けを可能にする。さらに、上部構造と歯科インプラントとの安定した緊密な直接連結を可能にする。さらに、接合部は、大きな問題なくミリングマシンで自動的に製造することができるため、非常に簡単で、高い費用対効果で製作することができる。説明される接合部の形状は、チタン(歯科インプラントを作る代表的な材料)とセラミック(上部構造を作る代表的な材料)とを直接連結するためのすべての機械的要件を満たす。説明される接合部の形状は、上部構造および歯科インプラントの両方をチタンで作る場合に、チタン同士の直接連結の要件も満たす。くわえて、接合部は、上部構造をCADモデルによって自動的に製造する、冒頭に述べた製造プロセスに適している(例えば、機械加工または付加製造プロセスによる)。
【0020】
本発明による歯科インプラントを用いると、歯科インプラントと上部構造とのまったく新しい直接連結(アバットメントなし)が可能である。そのため、前述の目的が完全に解決される。
【0021】
本発明の参考形態による歯科補綴物を製造する方法は、
・歯科インプラントの長手軸に沿って延びている開口と、開口に配置されている雌ネジと、歯科インプラントの前端に配設されている第1接合部とを有する歯科インプラントを製作するステップと、
・貫通穴と、上部構造の前端に配置されて第1接合部に一致するように構成されている第2接合部とを有する上部構造を製作するステップと、
・雌ネジに一致する雄ネジを有する締結要素を設けるステップと、
・第1接合部が第2接合部に接触するように、上部構造を歯科インプラントに締結要素によって装着するステップと、を含む。
【0022】
上部構造は、間にアバットメントを配置することなく歯科インプラントに装着されている。好ましくは、第1および第2の接合部を、CADデータセットを使用して、好ましくは、ボールミリングカッタの助けを借りてミリング加工で自動的に製作する。このことは、コストの増加なく各歯科補綴物を個々に各患者に適応させることができるため、歯科補綴物の製作が非常に簡素化されると同時に設計の自由度が増す。特別なアバットメントが不要である。それにも関わらず、上部構造と歯科インプラントとの間の連結は、着脱可能な連結として構成されている。
【0023】
以下に、本発明による歯科インプラントを同様に参照することのできるさまざまな任意の改良形態を説明する。
【0024】
一改良形態によると、接合部は、回転防止機構を形成するために長手軸に対して回転対称ではない。
【0025】
回転対称体とは、ある平面を360°よりも小さい角度で回転させた後、自己と重なるように一致して再現される任意のボディである。したがって、立方体(正方形の底面をもつ)は、その主軸に対して90°の回転対称性を有し、方形の断面をもつ平行六面体は、その主軸に対して180°の回転対称性を有し、また、正三角形の形状の断面をもつ角柱は、60°の回転対称性を有する。このような回転対称性は、本発明の歯科インプラントの接合部には存在しないため、接合部は、その長手軸に対して360°回転させて初めて自己が再現されるが、その長手軸に対して360°未満の任意の他の角度で回転させてもそうはならない。
【0027】
接合部の非回転対称構成を作り出すにはいくつかの可能性がある。第1改良形態によると、凸状の湾曲は、長手軸に対して非回転対称である。別の改良形態によると、凸状の湾曲は、長手軸に対して回転対称であるが、接合部の別の部分を長手軸に対して非回転対称にして、接合部が全体として長手軸に対して非回転対称になるようにする。さらなる改良形態においては、接合部の凸状の湾曲および別の部分の両方が長手軸に対して非回転対称である。
【0029】
本発明による歯科インプラントの別の好適な改良形態によると、歯科インプラントの縦断面で見たときに、湾曲は扇形である。言い換えると、湾曲の断面は、扇形または円の一部分の形状を有し、断面は、歯科インプラントの長手軸とそれに直交する向きにされる半径方向とがなす平面にある。
【0030】
扇形の中心角が90°であると特に好ましい。したがって、前述の断面の湾曲は、四分円の形状を有する。
【0031】
好ましくは、湾曲を生み出すために、チタン加工の場合は、通例直径1mmのボールミリングカッタを使用するため、扇形は、中心角が90°であるか、それより小さいまたは大きいかに関係なく、好ましくは0.5mmの半径を有する。このような0.5mmの半径は、通例使用されるボールミリングカッタで非常に簡単に製作することができる。
【0033】
曲の「半径方向外側」縁とは、湾曲の他の部分と比べて長手軸からもっとも半径方向の距離が大きい湾曲の部分である。したがって、湾曲の「半径方向内側」縁とは、湾曲の他の部分と比べて長手軸からもっとも半径方向の距離が小さい湾曲の部分である。
【0034】
本発明による歯科インプラントのさらなる改良形態によると、湾曲が長手軸の周りに延びる角度範囲は、少なくとも270°である。これにより半径方向の力が湾曲の非常に大きな角度範囲にわたって吸収されるので、歯科インプラントと上部構造との間の機械的連結が安定する。
【0038】
本発明による歯科インプラントのさらなる改良形態によると、凸状湾曲の少なくとも一部は、開内において雌ねじよりも上方の開口上端部に配置されている。この改良形態では、凸状湾曲がさらに開口内に完全に配置されていると好ましい。
【0039】
さらに、後者の改良形態において、支持面の環状部に面する湾曲の半径方向外側縁の接線は、支持面の環状部に平行な向きにされている。特に好ましいのは、平行だけではなく、整列したアライメントでもあることである。したがって、この改良形態の凸状の湾曲の半径方向外側縁に対する接線は、支持面の環状部と共通の平面に存することが好ましい。
【0040】
湾曲が開口に配置されている改良形態では、湾曲が長手軸の周りに延びる角度範囲が、360°であると好ましい。したがってこの改良形態では、湾曲は好ましくは回転対称である。
【0041】
所要の回転防止機構を形成するために、接合部は、長手軸に対して回転対称ではなくネジと湾曲との間の開口に配置されている回転防止部を具備してもよい。好ましくは、この回転防止部は、長手軸に沿って互いにずれて配置されている2つの表面を具備する。この2つの表面は、好ましくは、長手軸に対して直交して配置されている。例示的な改良形態では、この2つの表面は、それぞれ、環状の一部の形状を有する。
【0042】
本発明は、さらに、上部構造であって、前記上部構造の長手軸に沿って延びている貫通穴と、前記上部構造を歯科インプラントに締結するために、前記上部構造の前端に配置されている接合部とを具備する上部構造に関わり、前記接合部は、前記長手軸の周りに少なくとも90°の角度範囲にわたって延びている凹状の湾曲と、前記凹状の湾曲に対して半径方向外側に配置されている支持面とを具備し、前記支持面は、前記長手軸を横断する向きにされている少なくとも1つの環状部を有する。前記上部構造の前記長手軸に沿う縦断面において、前記支持面の前記環状部に面する前記凹状の湾曲の半径方向外側縁の接線は、前記支持面の前記環状部に対して平行な向きにされている。
【0043】
上部構造は歯科インプラントの相手物を形成するため、その接合部(第2接合部)は、歯科インプラントの接合部(第1接合部)に対応する相手物として成形されている。したがって、従属請求項2~10に記述される特徴は、上部構造の接合部にも同様に適用される。
【0044】
言うまでもなく、上述した特徴およびこれから以下で説明する特徴は、記載される各組み合わせだけでなく、本発明の範囲を逸脱することなく他の組み合わせまたは単独でも使用することができる。
【0045】
本発明の実施形態を図面に表し、以下の説明でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明による歯科インプラントの参考形態の斜視図
図2図1に図示する歯科インプラントの参考形態の、上から見た上面図
図3図1に図示する本発明による歯科インプラントの参考形態の縦断面図
図4】本発明による歯科インプラントの実施形態の斜視図
図5図4に図示する歯科インプラントの実施形態の、上から見た上面図
図6図4に図示する本発明による歯科インプラントの実施形態の縦断面図
図7図1図3に図示する歯科インプラントに一致する、上部構造の下側の斜視詳細
図8図4図6に図示する歯科インプラントに一致する、上部構造の下側の斜視詳細
図9】本発明による歯科インプラントを具備する歯科補綴物の断面図
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1図3は、本発明による歯科インプラントの参考形態をさまざまな図で示す。図面において歯科インプラントは、その全体を参照符号10で表している。
【0048】
歯科インプラント10は通例、チタンまたは酸化ジルコニウムから作られる。歯科インプラント10は、その外側に雄ネジ12を具備し、このネジで歯科インプラント10を患者の顎骨にネジ止めすることが可能になる。歯科インプラント10は、実質的に長手軸14に沿って延びており、長手軸は、中央軸といわれることもある。歯科インプラント10は、その内部に開口16を具備し、この開口が長手軸14に沿って延びている。好ましくは、この開口16の少なくとも一部が穴、特に好ましくは止り穴として構成される。開口16には、雌ネジ18が配置されている。この雌ネジは、上部構造20(人工歯冠)を歯科インプラント10に装着するのに役立つ。雌ネジ18に係合するネジ62は、好ましくは、上部構造を歯科インプラント10に装着するために使用される(図9を参照)。
【0049】
歯科インプラント10は、上側前端に、接合部24(第1接合部24)を具備し、これは、図2に平面図で上から拡大して図示されている。この接合部24は、上部構造20を歯科インプラント10に装着するのに役立つ。接合部24は、いわば、組み立てられた状態で歯科インプラント10が上部構造20に接触する接触面を形成する。
【0050】
接合部24の特有の特徴は、その形状および設計が、上部構造20を歯科インプラント10に(間に配置されるアバットメントを使用することなく)直接装着するのを可能にすることである。図1図3に図示する参考形態では、接合部24は、歯科インプラント10の長手軸14に対して非回転対称に設計されて、回転防止機構を形成している。他方で、接合部24は、図2に点線26で示す縦断面に対して鏡面対称である。この縦断面26は、長手軸14とそれに直交して延びる半径方向28とによって規定される。これが、歯科インプラント10を同じ大きさの2つの半体に分割する。
【0051】
接合部24は、湾曲30と、湾曲30を取り囲む支持面32とを具備する。湾曲30は、主に半径方向28の力を吸収するために使用される。支持面32は、軸方向の支持として機能し、これは、主に長手方向、すなわち長手軸14に沿った力を吸収する。組み立てられた状態では、上部構造20は、湾曲30および支持面32の両方で支持される。
【0052】
湾曲30は凸状である、すなわち外方に曲がっている。湾曲30は丸みがある、すなわち角張っていない。湾曲30は、長手軸14の周りに少なくとも90°の角度範囲にわたって延びている。図1図3に図示する参考形態では、この角度範囲はさらに200°よりも大きい。
【0053】
この参考形態において、湾曲30は回転対称ではない。断面で見ると(図3を参照)、湾曲30は、好ましくはα=90°の中心角をもつ扇形として構成される。しかし、言うまでもなく、他の中心角αも可能である。同様に、湾曲30は、必ずしも断面が円形でなければならないことはない。楕円形にする、または自由形態の表面として構成することもできる。
【0054】
湾曲30の外側縁34および内側縁36は、好ましくは、円形ライン上にある。図2に図示する平面図では、したがって湾曲30は、少なくとも部分的に環状である。このように、湾曲30は、円環の表面の一部を形成している。
【0055】
好ましくは、湾曲30は、開口16に直接隣接する。図1図3に図示する実施形態では、湾曲の内側縁36が開口16の上側縁を形成している。湾曲30の外側縁34は、好ましくは、支持面32の環状部38に直接隣接している。この環状部38は、歯科インプラント10の長手軸14に対して横断して、好ましくは60°よりも大きい角度で、特に好ましくは直交して延びている。湾曲30は、この環状部38に対して上方に突出している。
【0056】
図1および図2でもわかるように、湾曲30は、円周の一部に切欠き40を具備する。この切欠き40で、湾曲30が中断する。切欠き40は、上部構造20が歯科インプラント10に対して回転することを防ぐ回転防止機構として機能する。
【0057】
図7は、上部構造20の下側に相手物として形成されている接合部42を示しており、この接合部を本明細書では、第2接合部と呼ぶ。接合部42は、少なくとも1つの環状部を有する支持面44も具備する。凸状の湾曲30の相手物として、接合部42は、凹状のくぼみ46を具備する。この凹状のくぼみ46はバー48で中断されているため、歯科インプラント10および上部構造20は、互いに対して1つの規定された位置にしか配置することはできない。支持面32,44は互いにぴったりと対接し、凸状の湾曲30は凹状のくぼみ46に係合する。
【0058】
歯科インプラント10と上部構造20との間のできるだけ安定した連結を形成するために、湾曲の外側縁34の接線50は、支持面32または環状部38に直交する向きにするのが好ましい。歯科インプラント10のこの参考形態における支持面32の環状部38に対するこの接線50の角度は少なくとも60°であることが好ましい。これは、安定性のためだけでなく、より製作しやすいことからも有利である。
【0059】
図2図7とを比較すると、接合部24,42の別の利点が指摘されるはずである。接合部42の簡単な修正によって、回転防止機構を取り除くことが可能である。例えば、バー48をなくして、凹状のくぼみ46を全周に設計することによって、上部構造20と歯科インプラント10との明確な位置付けのために必要な回転防止機構が取り除かれる。これは、例えば、このような明確な位置付けが必要ない場合には有利になることがある。これは、例えば、歯科インプラント10に上部構造20としてブリッジが取り付けられる場合には有利であるかもしれない。
【0060】
図4図6は、歯科インプラント10の実施形態を示す。簡潔にするために以下では、図1図3に図示される参考形態との違いのみを述べる。
【0061】
図4図6に図示する実施形態において、支持面32は連続環状形を有する。このように、環状部38は支持面32全体を形成するのに対し、凸状の湾曲30は開口16に少なくとも部分的に配置されている。これが開口16の上端を形成する。
【0062】
参考形態との別の重要な違いは、接線50が支持面32の環状部38に平行に延びていることである。より正確には、支持面32の環状部38は、凸状の湾曲30に接線状に移行している(図6を参照)。この実施形態では、凸状の湾曲30が長手軸14を完全に取り囲んでいる。このように、凸状の湾曲30は長手軸14の周りに360°の角度範囲にわたって延びている。したがって、この実施形態によると、凸状の湾曲30は回転対称である。それにも関わらず、接合部24は、その全体としては回転対称ではなく、支持面32および凸状30に加えて、回転防止部52を具備する。空間的に考えると、この回転防止部52は、凸状の湾曲30と雌ネジ18との間の開口16に配置されている。
【0063】
図4図6に図示する実施形態において、回転防止部52は、長手軸14に沿って互いにずれて配置されている2つの半円形の表面54,56を具備する。しかし、これらの2つの表面54,56は、必ずしも半円形でなければならないことはないことは理解される。好ましくは、2つの表面54,56は、長手軸に対して直交する向きにされている。
【0064】
図8は、前記実施形態による接合部24の相手物として機能し、上部構造20の下側に配置される接合部42を示している。支持面44は、ここでも形状が環状形である。凸状の湾曲30に対応して、凹状の湾曲46が上部構造20の下側に設けられており、この凹状の湾曲46は、この場合、支持面44から下方に突出している。表面54,56の相手物として、凹状の湾曲46に隣接して配置されている平坦な表面58,60が前端に設けられている。この平らな表面58,60は、ここでも半円形の表面として設計されて、長手軸14に対して互いにずれて配置されている。
【0065】
組み立てられた状態では、歯科インプラント10の支持面32は、上部構造20の支持面44に対接し、凸状の湾曲30は、凹状の湾曲46に対接し、表面54,56は、表面58,60に対接している。ここでもやはり、接合部24,42によって、歯科インプラント10および上部構造20の互いに対する1つだけの規定されたアライメントしか許されない。
【0066】
図9は、本発明による歯科インプラント10を使用する歯科補綴物100の一実施形態を示す。歯科インプラント10の第1接合部24および上部構造20の第2接合部42は、好ましくは、CADデータセットに基づきミリング加工で、好ましくはボールミリングカッタで自動的に製造される。特別なアバットメントは必要ない。それでも、上部構造20と歯科インプラント10との間の連結は、着脱可能な連結として構成される。上部構造20は、歯科インプラント10に締結ネジ62で装着されている。締結ネジ62は、上部構造20の貫通穴68を通して歯科インプラント10に挿入される。この貫通穴68は、上部構造20を歯科インプラント10に連結した後に再び閉じる。締結ネジ62は、その下側縁に雄ネジ64を具備し、この雄ネジ64は、歯科インプラント10に配置されている雌ネジ18に係合する。
【0067】
最後に、ここで示した歯科インプラント10の実施形態は、数多くある可能な実施形態を代表するにすぎない。言うまでもなく、この実施形態のさまざまな特徴は、添付の特許請求の範囲で定義される本発明の範囲を逸脱することなく容易に修正することができる。この実施形態のさまざまな特徴は、添付の特許請求の範囲で定義される本発明の範囲を逸脱することなく組み合わせるおよび/または取り替えることができることも理解される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9