IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ハンワ ケミカル コーポレイションの特許一覧

<>
  • 特許-脂肪族イソシアネートの製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】脂肪族イソシアネートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 263/10 20060101AFI20220921BHJP
   C07C 265/14 20060101ALI20220921BHJP
   C07C 263/20 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C07C263/10
C07C265/14
C07C263/20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020567965
(86)(22)【出願日】2019-06-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-30
(86)【国際出願番号】 KR2019006667
(87)【国際公開番号】W WO2019245192
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】10-2018-0069825
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】501014658
【氏名又は名称】ハンワ ソリューションズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】HANWHA SOLUTIONS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン・チョル・リュウ
(72)【発明者】
【氏名】キ・ド・ハン
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-532160(JP,A)
【文献】特表2017-512798(JP,A)
【文献】国際公開第2007/010996(WO,A1)
【文献】特開2007-302672(JP,A)
【文献】特開昭47-003120(JP,A)
【文献】国際公開第2017/050776(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 263/00
C07C 265/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族アミンとホスゲンとを溶媒下で反応させるホスゲン化反応段階;
前記ホスゲン化反応段階の反応混合物中の生成物である脂肪族イソシアネートを分離し、塩化水素、未反応ホスゲン、および溶媒を含む混合物を凝縮器に送って凝縮させる段階;
前記凝縮された混合物をスクラッバに送って上段に塩化水素を排出し、下段に未反応ホスゲンおよび溶媒を分離する段階;
前記分離された未反応ホスゲンおよび溶媒を蒸留塔に送って上段に未反応ホスゲンを回収し、下段に溶媒を分離する段階;および
前記回収された未反応ホスゲンを前記ホスゲン化反応段階に投入し、前記下段に分離された溶媒を前記スクラッバに送る段階;
を含
前記脂肪族アミンは、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミンまたはo-キシリレンジアミンであり、
前記ホスゲン化反応段階は、
脂肪族アミンと塩化水素とを反応させて脂肪族アミン塩を形成する第1反応段階;および
前記脂肪族アミン塩とホスゲンとを100℃~200℃の沸点を有する有機溶媒の中で反応させる第2反応段階
を含む、脂肪族イソシアネートの製造方法。
【請求項2】
前記塩化水素、未反応ホスゲン、および溶媒を含む混合物を、-20~40℃の温度で凝縮させる、請求項1に記載の脂肪族イソシアネートの製造方法。
【請求項3】
前記塩化水素、未反応ホスゲン、および溶媒を含む混合物を、-15~0℃の温度で凝縮させる、請求項2に記載の脂肪族イソシアネートの製造方法。
【請求項4】
前記回収された未反応ホスゲンを、前記ホスゲン化反応段階に投入する前に、蒸留塔凝縮器によって冷却する段階をさらに含む、請求項1に記載の脂肪族イソシアネートの製造方法。
【請求項5】
前記蒸留塔の下段に分離された溶媒の一部を、溶媒冷却器によって冷却し、前記スクラッバの上段に送って塩化水素のスクラビングに利用し、一部は脂肪族アミン塩を生成させる反応器に循環させる、請求項1に記載の脂肪族イソシアネートの製造方法。
【請求項6】
前記蒸留塔で分離された未反応ホスゲンの一部を、ホスゲン冷却器を経てスクラッバに再循環させる、請求項1に記載の脂肪族イソシアネートの製造方法。
【請求項7】
前記脂肪族アミン塩の濃度は、20体積%以下である、請求項に記載の脂肪族イソシアネートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願との相互引用]
本出願は2018年6月18日付け韓国特許出願第10-2018-0069825号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
本発明は脂肪族イソシアネートの製造方法に関する。より具体的には、ホスゲン化反応時に発生する未反応物を効率的に回収し、反応段階にリサイクルして、反応物分離時に消費されるエネルギーを節減できる、脂肪族イソシアネートの高純度製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キシリレンジイソシアネート(xylylene diisocyanate、以下XDI)は、芳香族環を含んでいるが、脂肪族イソシアネートに分類され、化学工業、樹脂工業およびペンキ工業分野においてポリウレタン系材料、ポリウレア系材料またはポリイソシアヌレート系材料などの原料として非常に有用な化合物である。
【0003】
通常脂肪族イソシアネートは、合成時に反応が多く発生する、無水塩酸または炭酸と反応させて塩を形成し、これをホスゲンと反応させる方法で製造される。一例として、XDIの場合、キシリレンジアミン(xylylene diamine、以下XDA)を無水塩酸と反応させてアミン-塩酸塩を形成し、これをホスゲンと反応させることによって製造される。より具体的には、既存の技術では、液状の原料アミン、例えば、XDA含有溶液を無水塩酸と反応させてXDA-HCl塩酸塩を形成し、これを少なくとも100℃以上の高温に加熱した後、気相のホスゲンを注入して気-液反応を行う方法を行って、XDIなど脂肪族イソシアネートを製造する方法を適用してきた。
【0004】
このように、高温加熱下で反応が行われてきたのは、特に前記脂肪族イソシアネートの形成反応が代表的な吸熱反応であり、その収率を高めるために反応中の持続的な加熱および高温維持が必要なためである。
【0005】
しかし、XDIなどの脂肪族イソシアネートは概してアミノ基の反応性が大きいため、ホスゲン化反応中に副反応が多く発生し、副反応により形成される不純物が、ポリウレタン樹脂が形成される反応に影響を及ぼし、樹脂の品質低下を招く問題がある。
【0006】
上述したように、脂肪族イソシアネートの製造過程では、高温維持の必要性と、XDIなどの生成した脂肪族イソシアネートの大きな反応性とにより、生成物の熱変性などによる副生成物の生成および副反応の発生の恐れがより高まる短所があり、これによって精製工程においても大きな負荷が発生する場合が多かった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ホスゲンを利用した脂肪族イソシアネートの製造時に、反応後段で未反応物を効率的に分離および回収し、反応段階にリサイクルすることによって、反応物分離時に消費されるエネルギーを節減することができる、高純度の脂肪族イソシアネートの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明の一側面は、
脂肪族アミンとホスゲンとを溶媒下で反応させるホスゲン化反応段階;
前記ホスゲン化反応段階の反応混合物中の生成物である脂肪族イソシアネートを分離し、塩化水素、未反応ホスゲン、および溶媒を含む混合物を凝縮器に送って凝縮させる段階;
前記凝縮された混合物をスクラッバに送って上段に塩化水素を排出し、下段に未反応ホスゲンおよび溶媒を分離する段階;
前記分離された未反応ホスゲンおよび溶媒を蒸留塔に送って上段に未反応ホスゲンを回収し、下段に溶媒を分離する段階;および
前記回収された未反応ホスゲンを前記ホスゲン化反応段階に投入し、前記下段に分離された溶媒は前記スクラッバに送る段階;
を含む、脂肪族イソシアネートの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、ホスゲン化反応後に混合物形態で排出される未反応物、溶媒、および反応生成物から、未反応物を効率的に回収し、反応段階にリサイクルすることによって、反応物分離時に消費されるエネルギーを大幅に節減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態による脂肪族イソシアネートの製造方法に用いられる装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書で使用される用語は単に例示的な実施例を説明するために使用されるものであり、本発明を限定する意図ではない。単数の表現は文脈上明白に異なる意味を示さない限り、複数の表現を含む。本明細書で、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は実施された特徴、数字、段階、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするためであり、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものなどの存在または付加の可能性をあらかじめ排除するものではないと理解しなければならない。
【0012】
本発明は多様な変更を加えることができ、様々な形態を有することができるため、特定の実施例を例示して下記で詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれるすべての変更、均等物ないし代替物を含むものとして理解しなければならない。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、脂肪族アミンとホスゲンとを溶媒下で反応させるホスゲン化反応段階;前記ホスゲン化反応段階の反応混合物中の生成物である脂肪族イソシアネートを分離し、塩化水素、未反応ホスゲン、および溶媒を含む混合物を凝縮器に送って凝縮させる段階;前記凝縮された混合物をスクラッバに送って上段に塩化水素を排出し、下段に未反応ホスゲンおよび溶媒を分離する段階;前記分離された未反応ホスゲンおよび溶媒を蒸留塔に送って上段に未反応ホスゲンを回収し、下段に溶媒を分離する段階;ならびに前記回収された未反応ホスゲンを前記ホスゲン化反応段階に投入し、前記下段に分離された溶媒を前記スクラッバに送る段階を含む、脂肪族イソシアネートの製造方法を提供する。
【0014】
以下、一実施形態の製造方法を各段階別に説明する。
【0015】
先に、脂肪族アミンとホスゲンとを反応させるホスゲン化反応段階を行う。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、脂肪族イソシアネートの製造は、脂肪族アミンとホスゲンとの反応で発生する副反応および/または副生成物の発生を抑制するために、脂肪族アミンと塩化水素とを先に反応させて脂肪族アミンの塩を先に形成する第1反応段階、および前記脂肪族アミン塩とホスゲンとを反応させる第2階段反応の2段階よりホスゲン化反応を遂行することができる。
【0017】
より詳細には、前記第1反応段階は、ホスゲンとの急激な反応を抑制するために、脂肪族アミンと塩化水素を反応させる中和反応によって脂肪族アミン塩を形成する段階である。前記塩形成のための中和反応は、例えば20~80℃の温度で行われ得る。
【0018】
この時、使用可能な脂肪族アミンとしては脂肪族基を有するアミンであれば特に制限されない。具体的には、前記脂肪族アミンは鎖状または環状の脂肪族アミンであり得、より具体的には分子内に2個以上のアミノ基を含む、2官能以上の鎖状または環状脂肪族アミンであり得る。具体的な例としてはヘキサメチレンジアミン、2,2-ジメチルペンタンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサンジアミン、ブテンジアミン、1,3-ブタジエン-1,4-ジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,6,11-ウンデカトリアミン、1,3,6-ヘキサメチレントリアミン、1,8-ジイソシアナト-4-イソシアナトメチルオクタン、ビス(アミノエチル)カーボネート、ビス(アミノエチル)エーテル、キシリレンジアミン、α、α、α’,α’-テトラメチルキシリレンジアミン、ビス(アミノエチル)フタレート、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジアミン、シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、ジシクロヘキシルジメチルメタンジアミン、2,2-ジメチルジシクロヘキシルメタンジアミン、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ-[2,2,1]-ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ-[2,2,1]-ヘプタン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、3,9-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、4,8-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、4,9-ビス(アミノメチル)トリシクロデカンまたはビス(アミノメチル)ノルボルネンなどが挙げられ、これらのうちのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用することができる。一方、発明の一実施形態において、キシリレンジアミンは脂肪族ジアミンに分類される。
【0019】
また、前記脂肪族アミンとしてビス(アミノメチル)スルフィド、ビス(アミノエチル)スルフィド、ビス(アミノプロピル)スルフィド、ビス(アミノヘキシル)スルフィド、ビス(アミノメチル)スルホン、ビス(アミノメチル)ジスルフィド、ビス(アミノエチル)ジスルフィド、ビス(アミノプロピル)ジスルフィド、ビス(アミノメチルチオ)メタン、ビス(アミノエチルチオ)メタン、ビス(アミノエチルチオ)エタン、ビス(アミノメチルチオ)エタン、1,5-ジアミノ-2-アミノメチル-3-チアペンタンなどの硫黄含有脂肪族アミンを使用することもできる。
【0020】
上述した脂肪族アミンの中でも、キシリレンジアミンが、本発明の一実施形態による脂肪族イソシアネート製造方法に適用すると、より優れた効果を奏し得る。具体的には、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミンまたはo-キシリレンジアミンなどのキシリレンジアミン(XDA)のうちの1種以上の化合物を使用することができる。
【0021】
次に、前記脂肪族アミン塩とホスゲンとを反応させる第2反応段階を行う。
【0022】
前述した脂肪族アミン塩とホスゲンとの反応時には、副反応が発生し、副反応物として、例えば、クロロメチルベンジルイソシアナート(CMBI)などのモノイソシアネートが生成する。このような副反応の発生および副生成物の生成は、脂肪族イソシアネートの製造過程における、高温維持の必要性と、XDIなどの生成した脂肪族イソシアネートの大きな反応性とによりもたらされることが知られている。特に、最終生成物である脂肪族イソシアネートは、高温に一定時間曝露すると、副反応を起こしたり、高分子形態の副生成物を形成したりし得る。
【0023】
したがって、本発明の一実施例によれば、前記第2反応段階を行う際に、ホスゲンを一度に投入せず分割して投入しながら脂肪族イソシアネートを形成することができる。
【0024】
本発明はこれに限定されるものではないが、例えば、前記第2反応段階を行う際に、相対的に低い温度でホスゲンを相対的に少ない量で1次投入して中間体を生成させ、高温下に残量のホスゲンを2次投入しながら、この2次投入したホスゲンと、前記中間体とを反応させて、脂肪族イソシアネートを形成することができる。
【0025】
一例として、脂肪族イソシアネートに属するキシリレンジイソシアネート(XDI)の場合、キシリレンジアミンとホスゲンとの反応によって形成されるが、先に前記小さい量のホスゲンを1次投入してキシリレンジアミンの塩と反応させ、これによりカルバモイル系塩形態の中間体を生成させる。
【0026】
その後、残量のホスゲンを2次投入しながら、この2次投入したホスゲンと、前記カルバモイル系塩形態の中間体とを反応させて、キシリレンジイソシアネートなどの脂肪族イソシアネートを形成させることができる。
【0027】
このような一実施形態の方法によれば、最終生成物である脂肪族イソシアネートが高温の熱に暴露される時間を最小化することができ、さらに、相対的に低い温度での反応段階で中間体を形成させることにより、反応工程全体の高温維持の必要時間を減らすことができる。その結果、脂肪族イソシアネートの製造過程中の副反応の発生および副生成物の生成を大きく低減することができる。
【0028】
加えて、工程全体に投入される熱量が低減されることにより、工程コストも全体的に低下させることができる。したがって、一実施形態の製造方法によれば、簡単な製造工程によって高純度の脂肪族イソシアネートを高収率で製造することができ、さらに、ホスゲンの高温反応時間を相対的に短縮させてホスゲンの爆発的気化による危険性も減らすことができる。
【0029】
一方、前記第2反応段階は、100℃以上、より具体的には100~200℃の沸点を有する有機溶媒の中で行われ得る。このように高い沸点を有する溶媒の中で行うことによって、高純度の脂肪族イソシアネートを高収率で製造することができる。
【0030】
また、前記有機溶媒は、芳香族炭化水素系有機溶媒およびエステル系有機溶媒のうち少なくとも一つを含むものであり得る。
【0031】
前記芳香族炭化水素系有機溶媒は、具体的には、モノクロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、または1,2,4-トリクロロベンゼンなどのようなハロゲン化芳香族炭化水素系有機溶媒であり得る。
【0032】
また、前記エステル系有機溶媒は、具体的には、アミルホルメート、n-ブチルアセテート、イソブチルアセテート、n-アミルアセテート、イソアミルアセテート、メチルイソアミルアセテート、メトキシブチルアセテート、sec-ヘキシルアセテート、2-エチルブチルアセテート、2-エチルヘキシルアセテート、シクロヘキシルアセテート、メチルシクロヘキシルアセテート、ベンジルアセテート、エチルプロピオネート、n-ブチルプロピオネート、イソアミルプロピオネート、エチルアセテート、ブチルステアレート、ブチルラクテートまたはアミルラクテートなどの脂肪酸エステル;およびメチルサリシレート、ジメチルフタレートまたはメチルベンゾエートなどの芳香族カルボン酸エステルであり得る。
【0033】
より具体的には、前記有機溶媒は、上述した芳香族炭化水素系有機溶媒およびエステル系有機溶媒の中でも、100℃以上、あるいは100~200℃の沸点を有する芳香族炭化水素系有機溶媒およびエステル系有機溶媒のうち少なくとも一つを含むものであり得る。
【0034】
このように有機溶媒の中でホスゲン化反応を行う場合、前記脂肪族アミン塩は、20体積%以下の濃度、例えば1~20体積%、または5~20体積%の濃度で使用することができる。脂肪族アミンまたはその塩の濃度が20体積%を超える場合、多量のアミン塩酸塩が析出する恐れがある。
【0035】
さらに、上述したホスゲン化反応段階は、回転軸を有する反応器;前記反応器の内部に連結された反応物供給部;前記反応器に熱量を供給する熱源;および前記反応器で生成された反応物を収集する生成物収集部を含む反応装置内で断続的または連続的に行われ得る。
【0036】
上述した一実施形態の製造方法は、通常の脂肪族イソシアネートまたは脂肪族ポリイソシアネートを含むイソシアネートの製造に適する。具体的には、n-ペンチルイソシアネート、6-メチル-2-ヘプタンイソシアネート、シクロペンチルイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(H6TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジイソシアナトシクロヘキサン(t-CHDI)またはジ(イソシアナトシクロヘキシル)メタン(H12MDI)などの製造に有用であり、特にその中でもキシリレンジイソシアネート(XDI)の製造により有用である。
【0037】
次に、前記ホスゲン化反応段階の反応混合物におけるホスゲン化反応の反応生成物である脂肪族イソシアネートを、反応器の下部に別に分離し、それを除いた残りの塩化水素、未反応ホスゲン、および溶媒を含む混合物を反応器の上部に連結された凝縮器に送って凝縮させる。
【0038】
前記ホスゲン化反応段階の反応混合物には、収得しようとする脂肪族イソシアネートの他に、塩化水素、未反応ホスゲン、溶媒、およびその他中間体副生成物が、気相と液相とが混合された状態で含まれている。従来技術では、反応器の上部に凝縮器を用いず、このような反応混合物に不活性ガスなどをパージして反応器内のガス形態の未反応ホスゲンおよび塩化水素、そして一部の溶媒を除去して反応液を濾過して脱溶媒して生成物を収得し、残った溶媒は再回収する方式で処理されていた。しかし、前記処理方法による場合、溶媒とホスゲンとを継続的に補充することが必要であり、これは生産コストの上昇につながる。ホスゲン化反応で生成物の収得率を高めるために当量より過量のホスゲンを使用するため、未反応ホスゲンが相当量発生するが、これをそのまま捨てるため、または回収するための設備の規模が大きくなる。このため、エネルギー使用が増加し、これは生産コストを増加させる大きな原因になる。
【0039】
したがって、本発明の実施形態によれば、前記反応混合物から生成物を除いた残りの混合物を凝縮し、凝縮された混合物から塩化水素、未反応ホスゲン、および溶媒をそれぞれ分離し、分離された未反応ホスゲンを前段のホスゲン化反応段階に還流して再投入することによって、新たなホスゲン化反応の際に必要とされるフレッシュなホスゲンの量を顕著に減らすことができる。
【0040】
また、前記混合物を凝縮する段階において、前記未反応ホスゲンの還流に消費される総エネルギーと、再投入するホスゲンの量とが均衡をなすことができる、最適化された凝縮温度範囲を見つけることによって、全体的なエネルギー消費を節減することができる。
【0041】
図1は本発明の一実施形態による脂肪族イソシアネートの製造方法に使用される装置を簡略に示す図である。
【0042】
図1を参照すると、先にホスゲン化反応器10でホスゲン化反応段階を行う。図1では詳細に示していないが、前記ホスゲン化反応段階は先立って説明したように脂肪族アミンと塩化水素を反応させて脂肪族アミンの塩を先に形成する第1反応段階、および前記脂肪族アミン塩とホスゲンを反応させる第2階段反応の2段階で行われ得る。
【0043】
次に、前記ホスゲン化反応段階の反応混合物からホスゲン化反応の生成物である脂肪族イソシアネートを、溶媒と共に、ホスゲン化反応器10の下部に別に分離し、それを除いた残りの塩化水素、未反応ホスゲン、および一部の溶媒を含む混合物を、反応器の上部に連結された凝縮器20に送って凝縮させる。
【0044】
凝縮器20は、上述した混合物の温度が、-20℃以上、または-15℃以上、または-10℃以上であり、かつ40℃以下、または36℃以下、または0℃以下の温度になるように運転し得る。凝縮器20の温度が-20℃未満で過度に低いと、凝縮器内で結氷が発生し得、運転温度が40℃を超えて過度に高いと、凝縮されず排出される溶媒およびホスゲンガスが増加し得る。このような観点から凝縮器20内を、-20~30℃範囲内の温度で運転する必要があり、好ましくは-20~0℃の範囲にし得る。
【0045】
凝縮器20を経た混合物は、スクラッバ30に送られる。スクラッバ30の上部には塩化水素が気体状態で排出され、下段には未反応ホスゲン、および溶媒が分離される。
【0046】
前記分離された未反応ホスゲンおよび溶媒は、蒸留塔40に送られる。蒸留塔40の上段に未反応ホスゲンが回収され、下段には溶媒が分離される。分離された溶媒の一部は溶媒回収容器70を経て溶媒冷却器90により冷却され、スクラッバ30上段に送られて塩化水素のスクラビングに利用され得る。また、残りの一部の溶媒は、溶媒回収容器70に貯蔵してから脂肪族アミン塩を生成する反応に使用することができる。
【0047】
蒸留塔40で分離された未反応ホスゲンは、蒸留塔凝縮器60により冷却され、還流容器13を経てホスゲン回収容器50に貯蔵してからホスゲン化反応段階に再投入する。前記未反応ホスゲンの回収量は、凝縮器20の運転温度によって変動する。凝縮器20の運転温度が低いほど回収される未反応ホスゲンは多くなるが、凝縮器20でのエネルギー消費は増加する。反面、凝縮器20の運転温度が高いと、エネルギー消費は低くなるが、回収可能な未反応ホスゲンが減る。そのバランスを合わせてエネルギー消費を少なくしながらも未反応ホスゲンを増やして還流されるホスゲンの量を確保することによって、次のバッチで新たに投入しなければならないフレッシュ(fresh)なホスゲンの量を減らして、最終的には総生産コストを節減することが本発明の主な効果の一つである。
【0048】
前記再循環される未反応ホスゲンは、ホスゲン供給部11に連結されたホスゲン貯蔵容器12を経てホスゲン化反応器10に投入することができ、ホスゲン供給部11を介して供給されるフレッシュなホスゲンの量Aと、ホスゲン回収容器50から再循環される未反応ホスゲン量Bの合計とが一定になるように、フレッシュなホスゲンの量Aを調節することができる。
【0049】
一方、スクラッバ30により塩化水素が完全に除去されにくく、スクラッバ30の下段に分離された未反応ホスゲンおよび溶媒には依然として塩化水素が一部混合されていることもある。したがって、このような残留塩化水素を分離するために、蒸留塔40で分離された未反応ホスゲンの一部を、蒸留塔凝縮器60を経てスクラッバ30に再循環するようにすることができる。
【0050】
上述したように、本発明の脂肪族イソシアネートの製造方法によれば、フレッシュなホスゲンの投入量を従来の工程よりも60%以上減らすことができ、生産コスト節減に大いに役立つ。
【0051】
以下、発明の具体的な実施例により、発明の作用および効果をより詳細に説明する。ただし、このような実施例は発明の例示として提示するものに過ぎず、これによって発明の権利範囲が定まるものではない。
【実施例
【0052】
実施例1
図1に示す装置および工程によって脂肪族イソシアネートを製造した。
【0053】
常温、常圧の条件下、1,2-ジクロロベンゼンの溶媒6500kg中で、塩酸500kgおよびキシリレンジアミン(XDA)560kgを4時間の間反応させて、キシリレンジアミンの塩酸塩870kgを形成させた。
【0054】
前記キシリレンジアミンの塩酸塩870kgが含まれた反応器の温度を、125℃に昇温して温度を維持した状態で、反応が進行する時間にわたってホスゲン1359kgを反応器に添加して攪拌した。ホスゲン投入時点から反応終了時点まで、反応器上部の凝縮器20の温度を-20℃に維持し、図1に示す工程により凝縮させたホスゲンおよび溶媒を再循環させ、反応器に流入するホスゲンの量を一定に維持した。反応溶液が透明になるまで攪拌した。反応溶液が透明になると加熱を中断し、80℃まで冷却した後、窒素バブリングを実施した。
【0055】
実施例2
前記脂肪族イソシアネートを製造する工程で反応器上部の凝縮器20の温度を-15℃に維持し、反応時間の間にホスゲンを1517kg使用したことを除いては実施例1と同様の方法で実験を行った。
【0056】
実施例3
前記脂肪族イソシアネートを製造する工程で反応器上部の凝縮器20の温度を-10℃に維持し、反応時間の間にホスゲンを1673kg使用したことを除いては実施例1と同様の方法で実験を行った。
【0057】
実施例4
前記脂肪族イソシアネートを製造する工程で反応器上部の凝縮器20の温度を36℃に維持し、反応時間の間にホスゲンを2993kg使用したことを除いては実施例1と同様の方法で実験を行った。
【0058】
比較例1
前記脂肪族イソシアネートを製造する工程で反応器上部の凝縮器を用いず、反応時間の間にホスゲンを3470kg使用したことを除いては実施例1と同様の方法で実験を行った。
【0059】
前記実施例および比較例での主な工程条件によるホスゲンの投入量および消耗エネルギー量を下記表1に記載した。
【0060】
【表1】
【0061】
前記表1で使用した用語の意味は次のとおりである:
Cond.Temp:反応器上部の凝縮器20の温度
CDC.fresh:新規ホスゲン投入量
CDC.vent:未反応ホスゲン量
CDC.solu:溶媒内に溶けているホスゲンの量
CDC.reacted:反応したホスゲン量
Recovered Duty:ホスゲン回収に必要な熱量。
【0062】
前記表1を参照すると、本発明の製造方法により反応器の上部に凝縮器を設置した実施例1~4の場合、凝縮器がない比較例よりホスゲン回収に必要な熱量および新規に投入しなければならないホスゲン量が顕著に減ったことを確認することができる。
【符号の説明】
【0063】
10 ホスゲン化反応器
11 ホスゲン供給部
12 ホスゲン貯蔵容器
13 還流容器
20 凝縮器
30 スクラッバ
40 蒸留塔
50 ホスゲン回収容器
60 蒸留塔凝縮器
70 溶媒回収容器
80 蒸留塔再沸器
90 溶媒冷却器
図1