(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】サーマルギャップフィラー及びバッテリーマネジメントシステムへのその用途
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20220921BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220921BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/22
H01L23/36 D
(21)【出願番号】P 2020568540
(86)(22)【出願日】2018-06-27
(86)【国際出願番号】 CN2018092983
(87)【国際公開番号】W WO2020000228
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ シリコーンズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ツォン、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】カオ、ツォンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ホアン、チアン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ルイ
(72)【発明者】
【氏名】テイシェイラ、サンドリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】シエ、ルーチン
【審査官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-520375(JP,A)
【文献】国際公開第2018/088416(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/088417(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0248163(US,A1)
【文献】特開2011-153252(JP,A)
【文献】特開2017-066194(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021826(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/04
C08K 3/22
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性シリコーン組成物であって、
(A)25℃で10~100000mPa・sの粘度を有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン100質量部と、
(B)分子中に平均2~4個のケイ素結合水素原子を有する25℃で1~1000mPa・sの粘度を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであって、成分(B)中の前記ケイ素結合水素原子の量が成分(A)中の前記アルケニル基1モル当たり0.2~5モルである量で含まれ、前記ケイ素結合水素原子のうちの少なくとも2つが、
分子の末端以外の位置にあるケイ素原子上に位置する、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
(C)触媒量のヒドロシリル化反応触媒と、
(D)熱伝導性フィラー400~3500質量部と、
(E)成分(D)に対して0.1~2.0質量%の量で含まれる、分子中に6個以上の炭素原子を含有するアルキル基を有するアルコキシシランと、
(F)成分(A)100質量部に対して0.1~10質量部の量で含まれる、鉄を
含まないか又は鉄を0.1質量%未満
の量で含有する、100μm~500μmの範囲内の粒径を有するガラスビーズと、
を含む熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
成分(E)が、一般式:
Y
nSi(OR)
4-n
(式中、Yは、6~18個の炭素原子を含有するアルキル基であり、Rは、1~5個の炭素原子を含有するアルキル基であり、nは、1又は2の数である)
で表されるアルコキシシランである、請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
成分(E)が、6~18個の炭素原子を含有するアルキル基を有するトリアルコキシシランである、請求項1又は2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
成分(D)が、成分(E)で表面処理されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項5】
(G)ヒドロシリル化反応抑制剤を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項6】
(H)熱安定剤を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項7】
成分(D)が、
(D1)平均粒径が0.1~30μmである板状の窒化ホウ素粉末、又は(D2)平均粒径が0.1~50μmである顆粒状の窒化ホウ素粉末、又は(D3)平均粒径が0.01~50μmである球状及び/若しくは破砕状のアルミナ粉末、又は(D4)平均粒径が0.01~50μmであるグラファイト、又は(D1)~(D4)のうちの少なくとも2つの混合物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項8】
成分(B)が、(B1)分子中に平均2~3個のケイ素結合水素原子を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有し、前記ケイ素結合水素原子のうちの少なくとも2個が、
分子の末端以外の位置にあるケイ素原子上に位置する、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項9】
成分(B)中の前記ケイ素結合水素原子の含有量が、[H
B]として表され、成分(B)以外のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中の前記ケイ素結合水素原子の含有量が、[H
non-B]として表され、[H
non-B]/([H
B]+[H
non-B])の比が、0.0~0.70の範囲内である、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の熱伝導性シリコーン組成物を硬化させることにより製造される熱伝導性部材。
【請求項11】
請求項10に記載の熱伝導性部材を有する電子機器。
【請求項12】
前記電子機器が、バッテリーマネジメントシステムである、請求項11に記載の電子機器。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか一項に記載の熱伝導性シリコーン組成物を用いて前記電子機器内の少なくとも1つのギャップを充填することを含む、請求項11又は12に記載の電子機器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱伝導性シリコーン組成物、それから製造される熱伝導性部材に関する。加えて、本開示は更に、熱伝導性部材を有する電子機器及び熱伝導性シリコーン組成物を用いた電子機器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、その動力の全て又は一部に電力を使用する自動車(例えば、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等、総称して「電気自動車」)が、省エネルギー及び環境保護の利点のために益々普及している。昨今、より多くの電気バスが充電式リチウムイオンバッテリーで電力供給されている。しかしながら、リチウムイオンバッテリーは、同等のNiMHバッテリーよりもバッテリー温度のばらつきの影響を受けやすい可能性があり、したがって、典型的には、バッテリーマネジメントシステム(BMS)が設置され、例えば、安全かつ効率的に動作するために、安全な温度及び電圧範囲内で動作するようにバッテリーを保護する等、バッテリーが管理される。BMSは、高電圧/高パワーのエレクトロニクスシステムであり、特定の領域に熱が蓄積され、バッテリーの充電及び放電中に温度が100℃を超え得る。このような熱は、機器の耐用期間全体にわたってコールドプレートで放熱されなければならない。BMSパッケージでは、プリント回路基板(PCB)等の発熱部品は、ヒートシンク(例えば、アルミニウムカバー)に結合される。しかしながら、PCBとヒートシンクとの間の空隙により、界面を通じた熱伝達の有効性が低減し得る。したがって、BMSパッケージ内の界面を通じた熱伝達の有効性を改善するために、多くの材料及び機器が提案されてきた。
【0003】
ヒドロシリル化反応により硬化する硬化性シリコーン組成物は、優れた熱伝達性、耐熱性、耐寒性、及び電気絶縁性等を示し、したがって、電気・電子用途に広く使用されている。電子機器内での熱伝達のための熱伝導性シリコーン組成物は、当該技術分野において周知である。
【0004】
例として、米国特許第9203064(B2)号は、電気自動車用バッテリーパックについて開示しており、放熱部材/シートをバッテリーセルと共に使用し、それにより放熱部材を通じた熱伝導によって、発生した熱を除去することについて言及している。
【0005】
米国特許第9424977(B2)号は、バッテリーセットアップコンバータ(EV/HEV用)用のリアクトルに使用するためのシリコーン熱伝導性接着剤について記載している。この特許に開示されるシリコーン組成物は、システムD(付加硬化)型(エポキシ基含有)である。
【0006】
米国特許第9070958(B2)号は、熱管理システムを備えたEVバッテリーシステムについて記載し、この場合、使用される熱界面材料のうちの1つが、アルミナ又はBN充填シリコーンポリマーシステムである。
【0007】
米国特許出願公開第20100275440(A1)号は、チップに使用するためのポンプアウト問題がないシリコーン熱伝導性ゲル化グリースについて記載している。
【0008】
しかしながら、熱除去を促進するために、材料を使用して、BMS内のPCBとアルミニウムカバーとの間に残されたギャップを充填する場合、ボンドライン厚(BLT)制御が重要である。使用される材料は、放熱のための低い熱接触抵抗、及び機械的応力からのPCB上の抵抗器の封入保護を示すべきであり、並びに流出問題を生じるべきではなく、垂直位置であっても分注されるとその場所に留まることができる。換言すれば、材料は、BMS熱管理のために厚いギャップを充填することができるように、スランプ耐性を有するべきである。残念ながら、既存の材料のいずれも、上述の要件を望ましく満たすものではなかった。したがって、BMSパッケージ内の界面(複数可)を通じた熱伝達の有効性を十分に改善するために使用することができる熱伝導性シリコーン組成物が、当該技術分野において求められている。
【0009】
先行技術文献
特許文献
特許文献1:米国特許第9203064(B2)号
特許文献2:米国特許第9424977(B2)号
特許文献3:米国特許第9070958(B2)号
特許文献4:米国特許出願公開第20100275440(A1)号
【発明の概要】
【0010】
発明が解決しようとする課題
本開示の目的は、熱伝導性シリコーン組成物を提供することであって、この熱伝導性シリコーン組成物は、熱除去を促進するために、BMS内のPCBとヒートシンクとの間に残されたギャップを充填する熱界面材料として使用することができる。熱伝導性シリコーン組成物は、優れた熱伝達特性、高い誘電特性、内部応力散逸/減衰のための低弾性率、耐クラック特性、及び流出問題を生じない安定した熱物理的性能を有するべきである。加えて、本開示の他の目的は、熱伝導性シリコーン組成物を硬化することにより製造された熱伝導性部材を提供することと、熱伝導性部材を有する電子機器を提供することと、熱伝導性シリコーン組成物を用いた電子機器の製造方法を提供することと、を含む。
【0011】
技術的解決策
本開示の熱伝導性組成物は、
(A)25℃で10~100000mPa・sの粘度を有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン100質量部と、
(B)分子中に平均2~4個のケイ素結合水素原子を有する25℃で1~1000mPa・sの粘度を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであって、成分(B)中のケイ素結合水素原子の量が成分(A)中のアルケニル基1モル当たり0.2~5モルである量で含まれ、該ケイ素結合水素原子のうちの少なくとも2つが、該分子の側鎖上に位置する、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
(C)触媒量のヒドロシリル化反応触媒と、
(D)熱伝導性フィラー400~3500質量部と、
(E)成分(D)に対して0.1~2.0質量%の量で含まれる、分子中に6個以上の炭素原子を含有するアルキル基を有するアルコキシシランと、
(F)成分(A)100質量部に対して0.1~10質量部の量で含まれる、鉄を0.1質量%未満含有する、100μm~500μmの範囲内の粒径を有するガラスビーズと、
を含む。
【0012】
1つ以上の実施形態において、成分(E)は、一般式:
YnSi(OR)4-n
(式中、Yは、6~18個の炭素原子を含有するアルキル基であり、Rは、1~5個の炭素原子を含有するアルキル基であり、nは、1又は2の数である)
で表されるアルコキシシランである。
【0013】
1つ以上の実施形態において、成分(E)は、6~18個の炭素原子を含有するアルキル基を有するトリアルコキシシランである。
【0014】
1つ以上の実施形態において、成分(D)は、成分(E)で表面処理されている。
【0015】
本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、(G)ヒドロシリル化反応抑制剤を更に含んでもよい。
【0016】
加えて、本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、(H)熱安定剤を更に含んでもよい。
【0017】
1つ以上の実施形態において、成分(D)は、
(D1)平均粒径が0.1~30μmである板状の窒化ホウ素粉末、又は(D2)平均粒径が0.1~50μmである顆粒状の窒化ホウ素粉末、又は(D3)平均粒径が0.01~50μmである球状及び/若しくは破砕状のアルミナ粉末、又は(D4)平均粒径が0.01~50μmであるグラファイト、又は(D1)~(D4)のうちの少なくとも2つの混合物である。
【0018】
1つ以上の実施形態において、成分(B)は、(B1)分子中に平均2~3個のケイ素結合水素原子を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有し、ケイ素結合水素原子のうちの少なくとも2個は、分子の側鎖上に位置する。
【0019】
1つ以上の実施形態において、成分(B)中のケイ素結合水素原子の含有量は、[HB]として表され、成分(B)以外のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素結合水素原子の含有量は、[Hnon-B]として表され、[Hnon-B]/([HB]+[Hnon-B])の比は、0.0~0.70の範囲内である。
【0020】
本開示の熱伝導性部材は、本開示の熱伝導性シリコーン組成物を硬化させることにより製造される。
【0021】
本開示の電子機器は、本開示の熱伝導性部材を有する。
【0022】
本開示の電子機器は、バッテリーマネジメントシステムであってもよい。
【0023】
更に、本開示の電子機器の製造方法は、本開示の熱伝導性シリコーン組成物を用いて電子機器内の少なくとも1つのギャップを充填することを含む。
【0024】
発明の効果
本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、優れた熱伝達特性、高い誘電特性、内部応力散逸/減衰のための低弾性率、耐クラック特性、及び安定した熱物理的性能を示す。したがって、本開示の熱伝導性シリコーン組成物を熱界面材料として使用して、BMS内のPCBとヒートシンクとの間に残されたギャップを充填し、熱除去を促進することができ、放熱、及び機械的応力からのPCB上の抵抗器の封入保護のための低い熱接触抵抗を与える。ガラスビーズにより、良好なBLT制御を有する熱伝導性シリコーン組成物がもたらされ、PCBとヒートシンクとの間の180μm~250μmの一定のギャップ(複数可)を充填することを可能にする。加えて、本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、流出問題を生じず、垂直位置であっても分注されると定位置に留まることができ、スランプ抵抗の性質により、BMS熱管理のための厚いギャップ(複数可)を充填することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[熱伝導性シリコーン組成物]
最初に、本開示の熱伝導性シリコーン組成物について詳細に説明する。
【0026】
本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、
(A)25℃で10~100000mPa・sの粘度を有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン100質量部と、
(B)分子中に平均2~4個のケイ素結合水素原子を有する25℃で1~1000mPa・sの粘度を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであって、成分(B)中のケイ素結合水素原子の量が成分(A)中のアルケニル基1モル当たり0.2~5モルである量で含まれ、該ケイ素結合水素原子のうちの少なくとも2つが、該分子の側鎖上に位置する、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
(C)触媒量のヒドロシリル化反応触媒と、
(D)熱伝導性フィラー400~3500質量部と、
(E)成分(D)に対して0.1~2.0質量%の量で含まれる、分子中に6個以上の炭素原子を含有するアルキル基を有するアルコキシシランと、
(F)成分(A)100質量部に対して0.1~10質量部の量で含まれる、鉄を0.1質量%未満含有する100μm超の粒径を有するガラスビーズと、
任意選択的に、(G)ヒドロシリル化反応抑制剤と、
任意選択的に、(H)熱安定剤と、
を含み得る。
【0027】
それぞれの成分を以下に詳細に説明する。
【0028】
[(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン]
成分(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、25℃で10~100000mPa・sの粘度を有する本開示の熱伝導性シリコーン組成物のポリマーマトリックスである。成分(A)の25℃における粘度は、好ましくは10~10000mPa・sの範囲内、より好ましくは100~10000mPa・sの範囲内である。成分(A)の25℃における粘度が10mPa・s未満であると、得られる組成物の垂直保持安定性及び低弾性率が損なわれる。一方、成分(A)の25℃における粘度が100000mPa・sより高いと、分注・組立性(assemblability)等の作業性が損なわれる。
【0029】
成分(A)は、1つ以上のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンからなり得る。アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの分子構造は特に限定されない。非限定的な例として、分子構造は、直鎖構造、分岐構造、環状構造、3Dネットワーク構造、又はこれらの組み合わせであってもよい。成分(A)は、直鎖状アルケニル基含有オルガノポリシロキサンのみからなっていてもよく、又は分岐状アルケニル基含有オルガノポリシロキサンのみからなっていてもよく、又は直鎖状アルケニル基含有オルガノポリシロキサンと分岐状アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとの混合物からなっていてもよい。成分(A)中のアルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、及びヘキセニル基等が挙げられる。更に、成分(A)中のアルケニル基以外の有機基の例としては、メチル基、エチル基、及びプロピル基等のアルキル基、フェニル基及びトリル基等のアリール基、並びに3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基が挙げられる。
【0030】
成分(A)は、少なくとも分子鎖両末端にアルケニル基を有する直鎖状アルケニル基含有オルガノポリシロキサンであることが特に好ましい。成分(A)は、分子鎖両末端のみにアルケニル基を含有してもよい。上記構造を有する成分(A)としては、特に限定されるものではないが、その例には、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン-メチルフェニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン-メチルビニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン-メチルビニルシロキサン-メチルフェニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン-メチルビニルシロキサンコポリマー、メチル基の一部が、エチル基及びプロピル基等のメチル基以外のアルキル基で、又は3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基で置換されたポリマー、上記ポリマー中のビニル基をアリル基、ブテニル基、及びヘキセニル基等のビニル基以外のアルケニル基で置換して得られるポリマー、並びに2種以上の上記ポリマーの混合物が挙げられる。
【0031】
更に、成分(A)は、一般式:
【化1】
(式中、R
1は、脂肪族不飽和結合を含まない同一又は異なる一価炭化水素基であり、R
2は、アルキル基であり、R
3は、同一又は異なるアルキレン基であり、aは、0~2の整数であり、pは、1~50の整数である)
で表されるアルコキシシリル含有基を有し得る。これらの官能基を含有するオルガノポリシロキサンは、未硬化状態での組成物の増粘を抑制することができ、分子中にアルコキシシリル基が存在するため、成分(D)の表面処理剤としても機能することができる。したがって、得られる組成物の増粘及びオイルブリードを抑制することができ、作業性を損なわないという利点を得ることができる。
【0032】
[(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
成分(B)は、分子中に平均2~4個のケイ素結合水素原子を有する25℃で1~1000mPa・sの粘度を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンであってよく、ケイ素結合水素原子のうちの少なくとも2個は、分子の側鎖上に位置する。上記構造を有することは、本組成物において、成分(B)が側鎖のケイ素結合水素原子のヒドロシリル化反応のための鎖延長剤として機能することを意味する。
【0033】
本開示の熱伝導性シリコーン組成物では、成分(B)は、成分(A)の鎖延長剤として機能し、組成物全体を穏やかに架橋してゲル状硬化物を形成する。成分(B)は、分子の側鎖上に平均して少なくとも2個のケイ素結合水素原子を有し、分子中に平均2~4個のケイ素結合水素原子のみを有するため、架橋延長反応は主に側鎖上の2~4個のケイ素結合水素原子によって進行し、これにより、部材からの剥離性に優れ、補修/再使用等の補修性に優れた熱伝導性シリコーンゲル硬化物を形成することができる。
【0034】
剥離性及び補修性向上の観点から、成分(B)は、(B1)分子中に平均2~3個のケイ素結合水素原子を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンであることが好ましく、該ケイ素結合水素原子のうちの少なくとも2個が分子側鎖上に位置する。成分(B)は、(B1-1)分子の側鎖上のみに平均2~3個のケイ素結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることが特に好ましい。また、成分(B)は、分子の側鎖上のみにケイ素結合水素原子を2個のみ有することが最も好ましい。
【0035】
本開示の組成物において、成分(B)は、成分(A)中のアルケニル基1モルに対して成分(B)中のケイ素結合水素原子の量が0.2~5モルとなる量で含まれるべきである。形成及び硬化物からの剥離性、並びに得られる熱伝導性シリコーン硬化物の補修性の観点から、成分(B)は、成分(A)中のアルケニル基1モルに対して成分(B)中のケイ素結合水素原子の量が0.3~2.0モル又は0.4~1.0モル又は0.4~0.8モルである量で含まれることが特に好ましい。具体的には、成分(B)以外のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが組成物中に存在しない場合、成分(B)中のケイ素結合水素原子の含有量が下限未満であると、熱伝導性シリコーン組成物の硬化が乏しくなる場合がある。一方、含有量が上限よりも多いと、ケイ素結合水素原子の量が過剰になり、硬化物からの剥離性及び補修性が損なわれる。
【0036】
成分(B)の例としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーが挙げられ、メチル基の一部が、フェニル基、ヒドロキシル基、及びアルコキシ基等で置換されていてもよい。
【0037】
成分(B)の25℃における粘度は、好ましくは1~1000mPa・sの範囲内、より好ましくは1~500mPa・sの範囲内である。
【0038】
[他の架橋剤との組み合わせ]
本開示の組成物は、成分(B)以外のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含んでもよい。成分(B)以外の架橋剤として用いることができるオルガノハイドロジェンポリシロキサンの例としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖の分子中に平均4個を超えるケイ素結合水素原子を有するメチルハイドロジェンシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖の分子中に平均4個を超えるケイ素結合水素原子を有するメチルハイドロジェンシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、及びメチルハイドロジェンシロキシ基含有シロキサン樹脂等が挙げられる。しかしながら、成分(B)は、架橋剤として上記の量で組成物中に含まれるべきである。別のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを成分(B)と組み合わせて使用する場合であっても、組成物中の成分(B)の割合は、本開示の組成物の硬化性、及び硬化物からの剥離性、並びに補修性の観点から特定の値よりも大きいことが好ましい。更に、オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子当たり平均して最大で8個のケイ素結合水素原子を有することが好ましい。
【0039】
より具体的には、成分(B)中のケイ素結合水素原子の含有量が[HB]として表され、成分(B)以外のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素結合水素原子の含有量が[Hnon-B]として表される場合、[Hnon-B]/([HB]+[Hnon-B])の比が0.0~0.70の範囲内であることが好ましい。[Hnon-B]/([HB]+[Hnon-B])の比はまた、0.0~0.50又は0.0~0.25の範囲内であってもよく、又は0.0になる。[Hnon-B]/([HB]+[Hnon-B])の比が上限よりも大きいと、組成物全体への成分(B)の寄与が弱くなり、硬化物からの剥離性及び補修性が損なわれるおそれがあり、硬化性が悪化するおそれがある。
【0040】
本開示の技術的効果の観点から、本組成物中の架橋剤として以下の組み合わせにおいてオルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用することが好適である。
【0041】
(B’1)成分(B)は単独で使用され、これは、他のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが意図的にブレンドされないことを意味し、成分(B)は、本質的に単独で使用される。
【0042】
(B’2)オルガノハイドロジェンポリシロキサンの混合物が使用され、これは、成分(B)に加えて、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖の分子中に平均5~8個のケイ素結合水素原子を有するメチルハイドロジェンシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、及び分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖の分子中に平均5~8個のケイ素結合水素原子を有するメチルハイドロジェンシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーのうちの1つ又は3つ以上が組み込まれることを意味する。
【0043】
しかしながら、(B’2)を用いた場合であっても、[Hnon-B]/([HB]+[Hnon-B])の比の値が上記の範囲内であることが好ましい。
【0044】
[組成物中のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(架橋剤)の含有量]
成分(B)を含む組成物において、成分(B)は、成分(A)中のアルケニル基1モルに対して、オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素結合水素原子の量が0.2~5モルとなる量で含まれる。更に、形成及び硬化物からの剥離性、並びに得られる熱伝導性シリコーン硬化物の補修性の観点から、成分(B)は、オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素結合水素原子の量が、成分(A)中のアルケニル基1モルに対して、0.3~2.0モル又は0.4~1.0モル又は0.4~0.8モルである量で含まれることが特に好ましい。
【0045】
典型的には、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが上記の混合物のうちの1つである場合、特に、成分(B)と分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンとの混合物である場合、組成物の硬化性を向上させる観点から、オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素結合水素原子の量は、成分(A)中のアルケニル基1モルに対して、好ましくは0.5~1.5モルであり、より好ましくは、0.7~1.0モルである。一方、成分(B)が、本質的に組成物中の唯一のオルガノハイドロジェンポリシロキサンである場合、オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素結合水素原子の量は、成分(A)中のアルケニル基1モルに対して、好ましくは0.3~1.5モルであり、より好ましくは、0.4~1.0モルである。更に、組成物中のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの種類及び含有量が上記範囲内であると、熱伝導性シリコーン組成物の最適な流動性及びギャップ充填特性、並びに得られる熱伝導性シリコーン硬化物の最適な物理的特性(特に剥離性及び補修性)を含む、本開示の技術的効果を得ることができる。
【0046】
[(C)ヒドロシリル化反応触媒]
ヒドロシリル化反応触媒の例としては、白金系触媒、ロジウム系触媒、及びパラジウム系触媒が挙げられる。成分(C)は、本組成物の硬化を飛躍的に促進できるように白金系触媒であることが好ましい。白金系触媒の例としては、白金微粉末、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金-アルケニルシロキサン錯体、白金-オレフィン錯体、白金-カルボニル錯体、並びにシリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びアクリル樹脂等の熱可塑性樹脂中に上記白金系触媒を分散又は封入することによって得られる触媒が挙げられる。成分(C)は、白金-アルケニルシロキサン錯体であることが特に好ましい。アルケニルシロキサンの例としては、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、メチル基の一部がエチル基、フェニル基等で置換されたアルケニルシロキサンが挙げられる。加えて、成分(C)は白金-アルケニルシロキサン錯体の安定性が良好であるため、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンであることが好ましい。更に、組成物の加工性及び作業可使時間を向上させる観点から、熱可塑性樹脂中に分散又は封入された微粉状白金を有するヒドロシリル化反応触媒を用いることもできる。更に、ヒドロシリル化反応を促進することができる触媒としては、鉄、ルテニウム、及び鉄/コバルト等の非白金系触媒を用いることもできる。
【0047】
ヒドロシリル化反応触媒は、触媒量で添加することができる。ヒドロシリル化反応触媒の含有量は、本組成物の硬化を促進するのに十分な量であれば特に制限されない。しかしながら、成分(A)に対して、ヒドロシリル化反応触媒は、金属原子の量が0.01~500ppm、0.01~100ppm、又は0.01~50ppmの範囲内の質量である量で含まれることが好ましい。
【0048】
[(D)熱伝導性フィラー]
成分(D)は、本発明の組成物及び熱伝導性を有する組成物から硬化した熱伝導性部材を提供することができる熱伝導性フィラーである。成分(D)の例は、純金属、合金、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属シリサイド、炭素、軟磁性合金、及びフェライトからなる群から選択することができる。成分(D)は、好ましくは少なくとも1つの粉末及び/又は繊維であり、金属粉末、金属酸化物粉末、金属窒化物粉末、又は炭素粉末が好適である。
【0049】
加えて、熱伝導性フィラーの全部又は一部は、アルコキシシランであり以下により詳細に記載する成分(E)で表面処理されていることが好ましい。更に、成分(E)に加えて、又は成分(E)と共に、カップリング剤として知られる様々な表面処理剤で表面処理された粉末及び/又は繊維を使用することができる。成分(E)に加えて、成分(D)の粉末及び/又は繊維を処理するために使用される表面処理剤の例としては、界面活性剤、他のシラン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、及びシリコーン系表面処理剤が挙げられる。
【0050】
純金属の例としては、ビスマス、鉛、スズ、アンチモン、インジウム、カドミウム、亜鉛、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄、及び金属ケイ素が挙げられる。合金の例としては、ビスマス、鉛、スズ、アンチモン、インジウム、カドミウム、亜鉛、銀、アルミニウム、鉄、及び金属ケイ素からなる群から選択される2種以上の金属からなる合金が挙げられる。金属酸化物の例としては、アルミナ、酸化亜鉛、シリカ、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化クロム、及び酸化チタンが挙げられる。金属水酸化物の例としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化バリウム、及び水酸化カルシウムが挙げられる。金属窒化物の例としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素が挙げられる。金属炭化物の例としては、炭化ケイ素、炭化ホウ素、及び炭化チタンが挙げられる。金属シリサイドの例としては、マグネシウムシリサイド、チタンシリサイド、ジルコニウムシリサイド、タンタルシリサイド、ニオブシリサイド、クロムシリサイド、タングステンシリサイド、及びモリブデンシリサイドが挙げられる。炭素の例としては、ダイヤモンド、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、活性炭、及びアモルファスカーボンブラックが挙げられる。軟磁性合金の例としては、Fe-Si合金、Fe-Al合金、Fe-Si-Al合金、Fe-Si-Cr合金、Fe-Ni合金、Fe-Ni-Co合金、Fe-Ni-Mo合金、Fe-Co合金、Fe-Si-Al-Cr合金、Fe-Si-B合金、及びFe-Si-Co-B合金が挙げられる。フェライトの例としては、Mn-Znフェライト、Mn-Mg-Znフェライト、Mg-Cu-Znフェライト、Ni-Znフェライト、Ni-Cu-Znフェライト、及びCu-Znフェライトが挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
加えて、成分(D)は、好ましくは銀粉末、アルミニウム粉末、酸化アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、窒化アルミニウム粉末、又はグラファイトである。更に、本組成物に電気絶縁材が必要とされる場合、成分(D)は、好ましくは金属酸化物粉末又は金属窒化物粉末、特に酸化アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、及び窒化アルミニウム粉末である。
【0052】
成分(D)の形状は、特に限定されるものではなく、成分(D)の形状の例としては、球状、針状、円板状、棒状、及び不定形状が挙げられ、球状及び不定形状であることが好ましい。更に、成分(D)の平均粒径は特に限定されないが、0.01~100μmの範囲が好ましく、0.01~50μmの範囲がより好ましく、0.1~40μmの範囲が最も好ましい。
【0053】
成分(D)は、(D1)平均粒径が0.1~30μmの板状の窒化ホウ素粉末、又は(D2)平均粒径が0.1~50μmである顆粒状の窒化ホウ素粉末、又は(D3)平均粒径が0.01~50μmである球状及び/若しくは破砕状のアルミナ粉末、又は(D4)平均粒径が0.01~50μmであるグラファイト、又は(D1)~(D4)のうちの少なくとも2つの混合物、であることが特に好ましい。成分(D)は、最も好ましくは、平均粒径が0.01~50μmである2種以上の球状及び破砕状のアルミナ粉末の混合物である。具体的には、粒径の大きい酸化アルミニウム粉末と粒径の小さい酸化アルミニウム粉末を最密充填理論分布に従う比率で組み合わせることにより、充填効率を向上することができ、低粘度化及び高熱伝導化が可能になる。
【0054】
成分(A)100質量部に対して、成分(D)の含有量は400~3500質量部の範囲内であり、好ましくは400~3000質量部の範囲内である。成分(D)の含有量が下限未満であると、得られる組成物の熱伝導率が不十分である。一方、成分(D)の含有量が上限よりも大きいと、成分(E)をブレンドした場合であっても、成分(D)を表面処理したとしても、得られる組成物の粘度が高くなり、組成物の加工性及びギャップ充填性が悪化するおそれがある。
【0055】
更に、本組成物、及び本組成物から硬化された熱伝導性部材に十分な熱伝導性を提供するために、成分(D)の熱伝導率は、好ましくは少なくとも10W/m・K、より好ましくは少なくとも20W/m・K、及び最も好ましくは少なくとも50W/m・Kである。
【0056】
[(E)アルコキシシラン]
成分(E)は、分子中に6個以上の炭素原子を含有するアルキル基を有するアルコキシシランであり得る。6個以上の炭素原子を含有するアルキル基の例としては、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、及びオクタデシル基等のアルキル基、ベンジル基及びフェニルエチル基等のアラルキル基が挙げられる。6~20個の炭素原子を含有するアルキル基が特に好ましい。6個未満の炭素原子を含有するアルキル基を有するアルコキシシランを用いると、組成物の粘度を低下させる効果が不十分となる場合があり、それにより組成物の粘度が高くなり、所望の流動性及びギャップ充填性を達成することができない。加えて、20個を超える炭素原子を含有するアルキル基を有するアルコキシシランが使用されると、工業的利用可能性が問題となり得、特定の種類の成分(A)との相互混和性が乏しくなり得る。
【0057】
好ましくは、成分(E)は、一般式:
YnSi(OR)4-n
(式中、Yは、6~18個の炭素原子を含有するアルキル基であり、Rは、1~5個の炭素原子を含有するアルキル基であり、nは、1又は2の数である)
で表すことができるアルコキシシランである。OR基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、及びブトキシ基が挙げられ、メトキシ基及びエトキシ基が特に好ましい。加えて、nは1、2、又は3であり、1が好ましい。
【0058】
特に、成分(E)の例としては、C6H13Si(OCH3)3、C8H17Si(OCH3)3、C8H17Si(OC2H5)3、C10H21Si(OCH3)3、C11H23Si(OCH3)3、C12H25Si(OCH3)3、及びC14H29Si(OC2H5)3が挙げられ、式中、n-デシルトリメトキシシラン及びn-オクチルトリメトキシシランが最も好適である。
【0059】
成分(E)の含有量は、成分(D)に対して0.1~2.0質量%、好ましくは0.2~1質量%である。成分(E)の含有量が下限未満であると、組成物の粘度を低下させる効果が不十分となる場合がある。一方、成分(E)の含有量が上限よりも大きいと粘度を更に低下させることができず、アルコキシシランが分解する場合があり、保存安定性が低下するおそれがある。
【0060】
本開示において、成分(D)は、成分(E)により表面処理されていることが好ましい。加えて、本組成物の流動性及びギャップ充填性を向上させる観点から、成分(D)の少なくとも一部が成分(E)で表面処理されていることが特に好ましい。成分(E)が成分(D)に対して表面処理剤として使用される場合、成分(E)の含有量は、0.15~1.2質量%の範囲内であることが好ましく、0.2~1.0質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0061】
成分(E)を用いた表面処理方法は、特に限定されず、その例としては、成分(D)の熱伝導性無機フィラーへの直接処理、インテグラルブレンド法、及び乾式濃縮法が挙げられる。直接処理法としては、これらに限定されるものではないが、乾式法、スラリー法、及びスプレー法等が挙げられ、インテグラルブレンド法としては、これらに限定されるものではないが、直接法及びマスターバッチ法が挙げられ、このうち乾式法、スラリー法、及び直接法がよく用いられる。好ましくは、成分(D)及び(E)の全ては、混合物が表面を処理するために使用される前に、既知の混合装置で混合されている。加えて、成分(E)の一部は、成分(D)の表面上で加水分解又はポリマーを形成することができる。
【0062】
混合装置としては、特に限定されないが、その例としては、一軸又は二軸連続混合機、二本ロール、ロスミキサー、ホバートミキサー、デンタルミキサー、プラネタリミキサー、ニーダーミキサー、及びヘンシェルミキサー等が挙げられる。
【0063】
[(F)ガラスビーズ]
成分(F)のガラスビーズを、ボンドライン厚(BLT)制御のために添加する。ガラスビーズの粒径(通常、試料の累積サイズ分布率が50%に達した時の粒径を指すD50として表される)は、100μm~500μmの範囲内であり、より好ましくは150μm~450μmの範囲内であり、最も好ましくは170μm~300μmの範囲内である。ガラスビーズの粒径が下限未満であると、BLT制御の効果が不十分となるおそれがある。一方、ガラスビーズの粒径が上限より大きいと、組成物の作業性及びギャップ充填性が悪化するおそれがある。加えて、ガラスビーズの鉄含有量は0.1質量%未満であり、成分(F)のガラスビーズは、電子絶縁性のために鉄を実質的に含まないことが好ましい。
【0064】
本開示の熱伝導性シリコーン組成物において成分(F)の含有量は、成分(A)100質量部に対して0.1~10質量部、好ましくは0.3~8質量部である。成分(F)の含有量が下限未満であると、BLT制御の効果が不十分とあるおそれがある。一方、成分(F)の含有量が上限より大きいと、組成物の作業性及びギャップ充填性が悪化するおそれがある。
【0065】
[(G)ヒドロシリル化反応抑制剤]
作業性の観点から、本開示の組成物は、(G)ヒドロシリル化反応抑制剤を更に含んでもよい。ヒドロシリル化反応抑制剤は、本開示の組成物のヒドロシリル化反応を抑制できる成分である。反応抑制剤の例としては、エチニルシクロヘキサノール等のアセチレン系抑制剤、アミン系抑制剤、カルボン酸エステル系抑制剤、及びリン酸系抑制剤が挙げられる。ヒドロシリル化反応抑制剤の含有量は、本開示の効果が損なわれない限り、特に限定されない。典型的には、ヒドロシリル化反応抑制剤の含有量は、シリコーン組成物の総質量の0.001~5質量%である。具体的には、シリコーン組成物の加工性を向上させるために、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、及び3-フェニル-1-ブチン-3-オール等のアセチレン化合物、3-メチル-3-ペンテン-1-イン、及び3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン等のエンイン化合物、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テラヘキセニルシクロテトラシロキサン等のシクロアルケニルシロキサン、及びベンゾトリアゾール等のトリアゾール化合物を特に限定することなく使用することができる。
【0066】
[(H)熱安定剤]
成分(A)~(F)、並びに他の任意のカップリング剤及びヒドロシリル化反応抑制剤に加えて、熱伝導性組成物及びその硬化物の耐熱性を向上させる観点から、組成物は(H)熱安定剤を更に含むことが好ましい。熱安定剤は、組成物及びその硬化物を耐熱性を備えて提供できるものであれば特に限定されない。熱安定剤の例としては、酸化鉄、酸化チタン、酸化セリウム、酸化マグネシウム、アルミナ、及び酸化亜鉛等の金属酸化物、水酸化セリウム等の金属水酸化物、フタロシアニン化合物、カーボンブラック、セリウムシラノレート、セリウム脂肪酸塩、及びオルガノポリシロキサンとセリウムのカルボキシレートとの反応生成物が挙げられる。例示の化合物の中でも、フタロシアニン化合物が最も好ましい。例えば、日本国特許出願公開第2014-503680号に開示されている非フタロシアニン化合物及び金属含有フタロシアニン化合物からなる群から選択される添加剤を使用することが好ましい。開示される金属含有フタロシアニン化合物の中でも、フタロシアニン銅化合物が特に好ましい。最も好適な非限定的熱安定剤の一例は、29H,31H-フタロシアニナト(2-)-N29,N30,N31,N32銅である。このような熱安定剤は、例えば、PolyOne Corporation(Avon Lake,Ohio,U.S.A.)から40SP03の商標で入手可能である。
【0067】
成分(H)の含有量は、特に限定されないが、全組成物の0.01~5.0質量%又は0.05~0.2質量%又は0.07~0.1質量%の範囲内であってもよい。
【0068】
[他の添加剤]
上記成分に加えて、本組成物は、本開示の効果を損なわない限り、任意の追加成分を更に含むことができる。追加の成分の例としては、ヒュームドシリカ、湿式シリカ、粉砕石英、酸化チタン、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、珪藻土、及びカーボンブラック等の無機フィラー、上記の無機フィラーの表面を有機ケイ素化合物で疎水性処理することにより得られる無機フィラー、ケイ素結合水素原子及びケイ素結合アルケニル基を含まないオルガノポリシロキサン、耐寒性付与剤、難燃剤、チクソ性付与剤、顔料、及び染料等が挙げられる。加えて、所望により、本開示の熱伝導性組成物は、既知の接着促進剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤からなる群から選択される1つ以上の帯電防止剤、誘電性フィラー、導電性フィラー、離型成分、チクソ性付与剤、防錆剤を含み得る。更に、所望であれば、有機溶媒を用いてもよい。
【0069】
[組成物の製造方法]
本開示の熱伝導性組成物は、上記の成分を混合することによって製造することができる。例えば、本組成物は、成分(D)を成分(E)と混合して、成分(D)の表面を成分(E)で処理し、続いて成分(A)、(B)、(C)、(F)、(G)、(H)、及び他の任意成分を混合のために添加することによって調製することができる。加えて、本組成物は、成分(D)を成分(A)中で成分(E)と最初に混合し、続いてフィラー表面処理のために完全真空で100℃~150℃で加熱し、40℃未満まで冷却し、成分(B)、(C)、(F)、(G)、(H)、及び他の任意の成分を添加し、均一に混合することによって調製することもできる。各成分の混合方法は、従来の公知の方法であってよく、特に限定されない。典型的には、均質な混合物は、単に撹拌するだけで得ることができるため、混合装置を用いることによって混合を行うことが好ましい。このような混合装置としては、特に限定されず、その例としては、一軸又は二軸連続混合機、二本ロール、ロスミキサー、ホバートミキサー、デンタルミキサー、プラネタリミキサー、ニーダーミキサー、及びヘンシェルミキサー等が挙げられる。
【0070】
任意に、本組成物はまた、成分(I)少なくとも1つのアルコキシ基を有するシロキサン、及び成分(J)接着促進成分(エポキシ基を有するシラン化合物を含むが、これらに限定されない)を含むことができる。このような熱伝導性組成物は、上記の成分を混合することによって得ることができる。上記組成物の全体的なプロセスは、冷却及び加熱プロセスを伴わずにコールドブレンドすることができる。成分(C)を除く全ての成分は、一般的には、混合中に不要な反応を防止するために、成分(C)を添加する前に混合することができる。いくつかの実施形態では、成分(A)、(E)及び/又は(I)、(B)、(D)、(J)、(F)、(H)及び(G)は、一度に混合することができる、又は他の成分を混合した後にいくつかの成分を添加することができる。例えば、成分(A)、(E)及び/又は(I)、(D)を最初に混合することができ、次いで、成分(B)、(J)、(F)、(H)、及び(G)を添加して混合することができる。成分(A)、(E)及び/又は(I)、(D)の後に、成分(B)、(J)、(F)、(H)及び(G)を添加することによって、フィラー表面は成分(A)及び(E)及び/又は(I)を吸着し、成分(B)、(J)、(F)、(H)、(G)はフィラー表面に吸着されない。最後に、成分(C)を混合物に添加し、前述のプロセスと同様に混合する。別の例では、まず、成分(A)、(E)及び/又は(I)、(B)、(D)が、均質に混合される。次に、成分(J)、(F)、(H)、(G)を混合物に添加し、次いで、20分間混合する。最後に、成分(C)を混合物に添加し、前述のプロセスと同様に混合する。混合時間は、好ましくは、均質な混合のために5分超であり、好ましくは、熱酸化等の予期せぬ反応を防止するために、24時間未満である。効率的に製造するために、混合時間は、より好ましくは5分~12時間である。アルミナフィラーを含有する組成物では、均質な混合のために、ロスミキサー等の標準的なプラネタリミキサーが必要とされ得る。いかなる製造プロセスにおいても、成分(F)を添加するタイミングは任意である。更に、上記の製造プロセスのいずれかを、任意選択的に成分(F)を含む任意の熱伝導性組成物に適用して、その安定性及び性能を向上させることができる。
【0071】
[組成物の形態及びパッケージ]
本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、1成分型(1パック型を含む)組成物として使用してもよい。必要に応じて、組成物は、分液した複数の成分が使用される混合多成分型(マルチパック型、特に2パック型を含む)組成物として使用してもよい。1成分型組成物を使用する場合、組成物の各成分を容器に添加して、使用することができる。多成分型組成物が使用される場合、それぞれの容器内に保持された複数の成分が、使用前に所定の比率で混合される。加えて、これらのパッケージは、以下に記載される硬化方法又はコーティング手段、適用対象に応じて所望により選択することができ、特に限定されない。
【0072】
[熱伝導性シリコーン組成物]
本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、流動性、ギャップ充填性、及びBLT制御に優れ、精密にコーティングすることができる。具体的には、硬化前の組成物の25℃における粘度は、10~500Pa・sの範囲内であり、50~400Pa・sの範囲内であることが好ましい。
【0073】
本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、ヒドロシリル化反応によって硬化されて、熱伝導率及びボンドライン厚制御に優れた硬化シリコーン製品(例えば、熱伝導性部材)を形成することができる。このようなヒドロシリル化反応硬化性シリコーン組成物を硬化させる温度条件は特に限定されず、典型的には20~150℃の範囲内、好ましくは20~80℃の範囲内である。
【0074】
本開示のシリコーン組成物の硬度は、ショアOO法によって測定される、2~70の範囲内であることが好ましく、より好ましくは35~65の範囲内である。70の硬度を有するシリコーン組成物は、エラストマー用途に通常使用されるタイプAデュロメータによって測定される場合、50以下の硬度を有する。上記範囲内の硬度を有するシリコーン組成物は、低弾性率及び低応力等のシリコーンの特性を有する。一方、硬度が70より大きい場合、良好な密着性を有し得るが、発熱部材の追従性が低下する可能性があり、硬度が2未満の場合には、良好な追従性を有し得るが、発熱部材の固定性が低下する可能性がある。
【0075】
[熱伝導率]
本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導性フィラーを安定的に充填することができ、これを使用して、熱伝導率が1.5W/mK以上、好ましくは3.0W/mK以上、より好ましくは3.0~7.0W/mKの範囲内である硬化シリコーン製品を設計することができる。
【0076】
[用途及び放熱構造体]
本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導により発熱部材を冷却することができるため、BMSパッケージ内の発熱部材の熱界面とヒートシンク又は回路基板の放熱部材の界面との間に配置される熱伝導性材料(例えば、熱伝導性部材)として使用することができ、上記の熱伝導性材料を備えた放熱構造体を形成することができる。発熱部材の種類、大きさ、及び詳細な構成は特に限定されないが、本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導率が高く、部材のギャップ充填性に優れ、小さな凹凸テクスチャ又は狭いギャップを有する発熱部材に対して良好な密着性及び追従性を有し、並びにゲル特有の柔軟性を有するため、この組成物は、電気・電子機器、又はバッテリーマネジメントシステム等のセル方式の二次電池を有する電気・電子機器における使用に適している。
【0077】
上記熱伝導性シリコーン組成物からなる部材を備えた電気・電子機器は、特に限定されない。電気・電子機器の例としては、バッテリーを管理するために設置されたバッテリーマネジメントシステム、セル方式のリチウムイオン電極二次電池等の二次電池、及びセルスタック式の燃料電池、プリント回路基板等の電子回路基板、発光ダイオード(LED)、有機電界素子(有機EL)、レーザーダイオード、及びLEDアレイ等の光半導体素子がパッケージされたIC(集積回路)チップ、パーソナルコンピュータ、デジタルビデオディスク、携帯電話、及びスマートフォンで使用されるCPU、ドライバIC又はメモリ等のLSI(大規模集積回路)チップが挙げられる。特に、高集積密度で形成された高性能デジタルスイッチング回路においては、集積回路の性能及び信頼性は、主に放熱(熱放出)の能力によって決定されるため、本開示の熱伝導性シリコーン組成物で形成された熱伝導性部材は、輸送機器におけるエンジン制御又はパワートレイン制御、及びエアコン制御等のパワー半導体用途に使用されている場合であっても、その部材は、発熱性及び作業性に優れる。加えて、本開示の熱伝導性シリコーン組成物から形成される熱伝導性部材が、BMS、電子制御ユニット(ECU)等の車載用電子機器に組み込まれ、過酷な環境下で使用されても、BMSにおける優れた耐熱性、熱伝導率、及びBLT制御を実現することもできる。更に、レオロジーを制御することにより、本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、水平面のみならず垂直面上に配置することができ、電気・電子部材及び二次電池等の発熱部材の微細構造に浸透してギャップを含まない放熱構造体を提供することができる。したがって、かかる放熱構造体を備えた電気・電子機器の発熱性を向上させることができ、潜熱及び熱暴走に関する問題を緩和することができる。更に、可撓性硬化物によって電気・電子機器の一部を保護することができ、信頼性及び動作安定性を向上させることができる。
【0078】
上記電気・電子機器の製造に使用される材料の例としては、樹脂、セラミックス、ガラス、及びアルミニウム等の金属が挙げられる。本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、硬化前に熱伝導性シリコーン組成物(流体)として、又は熱伝導性シリコーン硬化物として、これらの基材に適用することができる。
【0079】
発熱部材に関しては、本開示の熱伝導性シリコーン組成物を用いて放熱構造体を形成する方法は特に限定されない。例えば、本開示の熱伝導性シリコーン組成物を電気・電子部材の放熱部に注入してギャップを十分に充填した後、その部材を加熱し、室温下で放置して組成物を硬化させることができる。この方法は、本体全体を比較的迅速に硬化させることができるので、迅速な硬化が望まれる場合に好ましい。この場合、加熱温度が上昇すると、電気・電子部材の封止又は充填封止剤内の気泡又は亀裂が促進されるため、加熱温度は50~250℃の範囲内、特に70~130℃の範囲内であることが好ましい。加えて、熱硬化の場合、本組成物は、1パック型のパッケージの形態とすることができ、組成物の加工性及び作業可使時間を向上させる観点から、熱可塑性樹脂によって白金が分散又は封入された微粒子状の白金含有ヒドロシリル化反応触媒を用いることがより好ましい。一方、熱伝導性シリコーン組成物は、室温又は50℃未満の温度で加熱することにより硬化させることができる。この場合、組成物は、1パック型又はマルチパック型の形態のパッケージであってもよく、混合後、室温又は50℃未満の温度で硬化させることができる。
【0080】
加えて、上記の方法によって得られた熱伝導性シリコーン製品の形状、厚さ、及び構成等は、所望に応じて設計することができる。組成物は、所望に応じて電気・電子機器内のギャップを充填した後に硬化させてもよく、又はセパレータを設けたフィルム上に塗布若しくは硬化させ、フィルム上の熱伝導性シリコーン製品として別個に取り扱ってもよい。更に、この場合、熱伝導性シリコーン製品は、公知の補強材によって補強された熱伝導性シートの形態とすることができる。
【0081】
[電気・電子機器の例]
本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、ギャップ充填性、可撓性、熱伝導率、及びBLT制御に優れた熱伝導性部材を製造するため、その電極間のギャップが狭い、その電子部品間のギャップが狭い、及びその電子部品とパッケージ間のギャップが狭い電気・電子部材に、又はシリコーン製品の膨張及び伸縮にほとんど追随しない構造を有する部材に使用することができる。例えば、本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、二次電池、IC、ハイブリッドIC、及びLSI等の半導体、これらの半導体、コンデンサ、及び電気抵抗等の電気素子を実装した電気回路又はモジュール、圧力センサ等の様々なセンサ、車両、発電システム、又は宇宙輸送システムのためのイグナイター又はレギュレータ等のパワーデバイス等において使用することができる。更に、本開示の熱伝導性シリコーン組成物は、熱界面材料として使用して、BMS内のPCBとヒートシンクとの間に残されたギャップを充填して、優れたBLT制御による熱除去を促進することができる。
【0082】
[電子機器の製造方法]
本開示の電子機器は、本開示の熱伝導性シリコーン組成物を用いて電子機器内の少なくとも1つのギャップを充填することによって製造することができ、この少なくとも1つのギャップは、発熱部材と放熱部材との間に残されたギャップであってもよい。例えば、電子機器がバッテリーマネジメントシステムである場合には、熱伝導性シリコーン組成物をアルミニウムカバー(すなわち、ヒートシンク)上に分注し、続いてPCB上の抵抗器のギャップを充填するように組み立てることによって製造することができる。この場合、BLTは0.1~2mmとなり得、放熱のための低い熱接触抵抗、及び機械的応力からのPCB上の抵抗器の封入保護が達成される。
【実施例】
【0083】
本開示は、以下の実施例によって更に明確化されるが、これは例示的なものにすぎず、本開示の範囲を限定しない。
【0084】
以下の表1及び2に記載の成分を以下の方法で混合することにより、実施例1~2及び比較例1~2の熱伝導性シリコーン組成物を得た。具体的には、成分(A)、(D)、及び(E)を、表1及び2(実施例1及び2、並びに比較例1及び2)に示す比率で、Turelloミキサーを用いて、120℃で1時間、完全真空で混合した。この混合物を、室温まで冷却した。次いで、表に示す他の成分を混合物に添加し、均一にブレンドした。
【0085】
[熱伝導性シリコーン硬化物の調製]
熱伝導性シリコーン硬化物を、以下のように調製した:ポリプロピレンシート上に、ポリエチレンバッカーを用いて、高さ12mm、長さ50mm、及び幅30mmを有する枠を用意し、得られた組成物をその枠に充填し、得られた組成物にTeflon(商標)製シートを押し付けて平滑な表面を形成し、続いて25℃で1日硬化させた。硬化後、Teflon(商標)製シート及びポリエチレンバッカーを除去した。
【0086】
実施例1及び2、並びに比較例1及び2に示す含有量に従って調製した熱伝導性シリコーン組成物を成分(D)とブレンドして、それぞれ2.0W/mKの熱伝導率を得た。熱伝導率は、ホットディスク法によって測定した。
【0087】
本開示の効果を示す試験を以下のように実施し、結果を表1及び表2に示した。
【0088】
[硬度]
試験片の硬度をデュロメータ(ショアOO法)を用いて測定した。
【0089】
[圧縮変形]
試験片の圧縮変形率は、テクスチャーアナライザー(TAXT.plus、Stable Micro System製)を使用して、以下のように測定した。試験片を0.5mm/秒の速度で10Nの応力に供し、10秒間保持し、応力が10Nに達した時の試験片の厚さ12mmに対する変形率を記録した。直径1.27cmを有するプローブを用い、試験の開始位置は20mmとした。高さ12mm、長さ50mm、及び幅30mmを有する硬化シリコーン製品をベースに装着して使用した。
【0090】
[引張変形]
試験片の引張変形率は、上述のテクスチャーアナライザーを使用して、以下のように測定した。試験片を、0.5mm/秒の速度で10Nの応力に供し、10秒間保持した。次いで、試験片を開始位置から0.5mm/秒の速度で20mmの高さまで引っ張り、12mmの試験片厚に対する引張変形率を、応力が示されなくなった時に記録した。応力が開始位置から20mmの高さまで示された場合、硬化シリコーン製品はプローブに接着し、変形し、剥がすことができなかった。
【0091】
[ボンドライン制御]
試験片のボンドライン制御能は、0.5mm/秒の速度で試験片を50Nの応力に供し、10秒間保持した後の試験片の厚さを、上記テクスチャーアナライザーを用いて測定することによって評価した。厚さの測定は、当該技術分野において既知の従来の厚さゲージを使用して行うことができる。
【0092】
以下の化合物又は組成物を、以下に示す実施例の原材料として用いた。粘度は、25℃で回転粘度計を用いて測定し、Vi含有量は、アルケニル基中のビニル基部分(CH2=CH-)の含有量を意味するものとした。
【0093】
成分(A)
A-1:分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン(粘度:約2000mPa・s、Vi含有量:0.21質量%)
【0094】
成分(B)
B-1:分子中に平均2個のケイ素結合水素原子を有し、分子中の平均2個のケイ素結合水素原子が側鎖上に配置された、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー(25℃における粘度:約20mPa・s、Vi含有量:0.10質量%)。
【0095】
B-2:分子中に平均2個のケイ素結合水素原子を有し、分子中の平均0個のケイ素結合水素原子が側鎖上に配置された、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー(25℃における粘度:約10mPa・s、Vi含有量:0.15質量%)。
【0096】
成分(C)
C-1:白金と1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンとの錯体(Pt含有量:約0.5重量%)。
【0097】
成分(D)
D-1:破砕状アルミナフィラー(D50:約9μm)
D-2:破砕状アルミナフィラー(D50:約0.4μm)
【0098】
成分(E)
E-1:n-オクチルトリメトキシシラン
【0099】
成分(F)
F-1:ガラスビーズ、GLASS BEADS UB-910L,D50:約180μm
F-2:ガラスビーズ、HUGHES CLASS IV BEADS,D50:約250μm
【0100】
成分(G)
G-1:フェニルブチノール
【0101】
成分(H)
H-1:29H,31H-フタロシアニナト(2-)-N29,N30,N31,N32銅/ジメチルシロキサン,トリメチルシロキシ末端(PIGMENT BLUE HARWICK STAN-TONE(商標)40SP03-POLYONE)
【0102】
【0103】
【0104】
表1及び表2に示すように、ガラスビーズを含まない比較例と比較すると、ガラスビーズを含有する実施例(熱伝導率の設計値は2.0W/mKであった)は、引張変形が低いため、より良好な剥離性(したがって、より良好な補修性)を示し、50N下で10秒間引っ張った後のBLT値がより大きいため、より良好なBLT制御を示した。
【0105】
特許請求される主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される実施形態に様々な修正及び変更を加えることができることが、当業者には明らかであろう。したがって、本明細書は、本明細書に記載される様々な実施形態の修正及び変形を網羅することが意図されており、そのような修正及び変形は、添付の特許請求の範囲及びそれらの均等物の範囲内にあることが意図される。