(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】フロントピラー上部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/04 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
B62D25/04 A
(21)【出願番号】P 2021047444
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2021-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2020102535
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】杉山 典彦
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-199738(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第04016730(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0049575(US,A1)
【文献】特開2009-184568(JP,A)
【文献】特開平05-162657(JP,A)
【文献】特開2012-121368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントピラーにおける車両の前後方向に延びる部分であり、前記車両のフロントドアの上方に位置し、前記車両の後方向に向かってフロントガラスの上部と交差する位置までの領域におけるフロントピラー上部構造であって、
当該フロントピラー上部構造の前記車両の車幅方向外側の壁を構成するアウタ部材と、
当該フロントピラー上部構造の前記車幅方向内側の壁を構成し、前記アウタ部材と接合して閉断面構造を形成するインナ部材と、
を備え、
前記インナ部材は、
前記インナ部材の下方側に位置し、前記アウタ部材と接合するフランジ部と、
前記フランジ部よりも上方側に位置する第1の壁部と、
前記フランジ部と前記第1の壁部との間に配置される第2の壁部と、を有し、
前記第2の壁部は、当該フロントピラー上部構造の長手方向に略垂直な断面において前記車幅方向に延びる慣性主軸に対して、41°~68°の範囲内の傾斜角を有する、フロントピラー上部構造。
【請求項2】
請求項1に記載のフロントピラー上部構造であって、
前記第1の壁部及び前記第2の壁部は、前記フランジ部よりも前記車幅方向内側において連なる、フロントピラー上部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フロントピラー上部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突安全性のために、車両の外部より荷重が作用した場合における、車両の車体の骨格を形成するフレーム等の車室内側への変形を抑制する技術が知られている。
特許文献1には、車両の横転時にルーフサイド骨格フレームへかかる車両の上方からの荷重に対して、フロントピラーの断面の重心位置を車両の外側に置くことで、車室内側へのルーフサイド骨格フレームの変形を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車の衝突安全性に対する要求性能の高まりから、例えばオフセット衝突や微小ラップ衝突のように車両の前方より作用する荷重に対しても、車両の車体の骨格を形成するフレーム等の車室内側への変形が抑制されることが求められている。特に、車両の前方より作用する荷重に対して、入力される荷重が大きくなりやすいフロントピラーの変形の抑制が望まれている。
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の方法では、車両の前方より作用する荷重に対するフロントピラーの変形を抑制する対策になるとは考えにくい。
本開示の一局面は、車両の前方より作用する荷重に対して、フロントピラーの変形を抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、フロントピラーにおける車両の前後方向に延びる部分であり、車両のフロントドアの上方に位置し、車両の後方向に向かってフロントガラスの上部と交差する位置までの領域におけるフロントピラー上部構造であって、アウタ部材と、インナ部材と、を備える。アウタ部材は、フロントピラー上部構造の車両の車幅方向外側の壁を構成する。インナ部材は、フロントピラー上部構造の車幅方向内側の壁を構成し、アウタ部材と接合して閉断面構造を形成する。また、インナ部材は、フランジ部と、第1の壁部と、第2の壁部と、を有する。フランジ部は、インナ部材の下方側に位置し、アウタ部材と接合する。第1の壁部は、フランジ部よりも上方側に位置する。第2の壁部は、フランジ部と第1の壁部との間に配置される。また、第2の壁部は、フロントピラー上部構造の長手方向に略垂直な断面において車幅方向に延びる慣性主軸に対して、41°~68°の範囲内の傾斜角を有する。
【0007】
このような構成では、フロントピラー上部構造の車幅方向に延びる慣性主軸回りに発生するモーメントにより、フロントピラーを車両の上下方向に付勢する入力荷重が生じる。このようにして生じる当該入力荷重の入力方向に対して、第2の壁部がより平行に近づくような傾斜角となる。このため、当該モーメントにより生じる上下方向の入力荷重の入力方向に対して第2の壁部が直角に近い傾斜角となる構成と比較して、第2の壁部の当該入力荷重に対する強度が高くなり、フロントピラーの上部構造の断面形状が変形しにくくなる。これにより、フロントピラーの断面耐力を向上させることができる。したがって、車両の前方より作用する荷重に対して、フロントピラーの変形を抑制することができる。
【0008】
本開示の一態様では、第1の壁部及び第2の壁部は、フランジ部よりも車幅方向内側において連なってもよい。このような構成によれば、フロントピラー上部構造の断面積を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】フロントピラーの周辺構造を示す模式的な側面図である。
【
図2】
図1のII-II線での切断部を模式的に示す端面図である。
【
図3】車両の前方より作用する荷重に対する従来形状のフロントピラーの変形を模式的に示す端面図である。
【
図4】第2の壁部の慣性主軸に対する傾斜角が異なるフロントピラーを模式的に示す端面図である。
【
図5】車両の前方より作用する荷重に対する第2の壁部の傾斜角別のフロントピラーの指数変換された曲げ応力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.構成]
[1-1.フロントピラーの周辺構造]
図1に示すフロントピラーの周辺構造1は、フロントピラー2と、ロッカー3と、を備える。
【0011】
フロントピラー2及びロッカー3は、車両の側面の骨格の一部を構成し、車両の図示しないフロントドアによって開閉される開口部101を形成する。開口部101がフロントドアによって閉じられることにより、車室内側と車外側とが隔成される。フロントピラーの周辺構造1の前方には、車両の前輪102が配置される。
【0012】
フロントピラーの周辺構造1は、車両の車幅方向両側(つまり左右両側)に1つずつ設けられている。
図1には、車両の左側面におけるフロントピラーの周辺構造1を示しており、車両の右側面についても車両の左側面と同様な構成を有するため、以下では、車両の左側面の構成を例に説明する。なお、以下の説明では、車両を基準に上下方向、前後方向及び左右方向(以下では、車幅方向とも言う)を表現する。
【0013】
フロントピラー2は、上下方向に延伸すると共に、開口部101の前側及び上側のフレームを構成している。フロントピラー2は、フロントピラーアッパ2Aと、フロントピラーロア2Bと、を有する。
【0014】
フロントピラーアッパ2Aは、開口部101の上方に前後方向に延びるように配置される。なお、本実施形態では、フロントピラーアッパ2Aの前端部から車両の後方向に向かってフロントガラス4の上部と交差する位置2Cまでの領域は、フロントピラー上部構造に相当する。フロントピラーアッパ2Aの前端部は、車両の前後方向において前方側に配置されるフロントピラーアッパ2Aの端部であって、後述するフロントピラーロア2Bと連結する側の端部である。フロントピラーアッパ2Aの前端部からフロントガラス4の上部と交差する位置2Cまでの領域とは、フロントピラーアッパ2Aの前端部から車幅方向に延在するフロントヘッダ5と交差する部分までの領域であり、より好ましくはフロントピラーアッパ2Aの前端部からフロントヘッダ5と交差する部分の前までの領域である。なお、フロントピラーアッパ2Aとフロントヘッダ5とで囲われた領域にフロントガラス4が取り付けられている。
【0015】
フロントピラーロア2Bは、前輪102と開口部101との間、すなわち、開口部101の前方に上下方向に延びるように配置される。フロントピラーロア2Bの上端部は、フロントピラーアッパ2Aの前端部に連結されている。
【0016】
ロッカー3は、前後方向に延伸すると共に、開口部101の下側のフレームを構成している。ロッカー3の前端部は、フロントピラー2の下端部、具体的には、フロントピラーロア2Bの下端部に接合されている。
【0017】
[1-2.フロントピラーアッパ]
次に、フロントピラーアッパ2Aについて、フロントピラーアッパ2Aの長手方向に略垂直な方向におけるフロントピラーアッパ2Aの端面を示す
図2を用いて説明する。
【0018】
図2に示すように、フロントピラーアッパ2Aは、アウタ部材21と、インナ部材22と、を備える。アウタ部材21とインナ部材22とがそれぞれの上下方向における両側の端部において接合することにより、フロントピラーアッパ2Aの閉断面構造が形成される。
【0019】
フロントピラーアッパ2Aは、当該フロントピラーアッパ2Aの長手方向に略垂直な断面内に車幅方向に延びる慣性主軸N1を有する。ここで、慣性主軸とは、物体の断面形状によって定まる軸であって、主断面2次モーメントの軸である。主断面2次モーメントとは、物体の曲げにくさの値が最大となるときの断面2次モーメント、又は、物体の曲げにくさの値が最小となるときの断面2次モーメントである。物体の曲げにくさの値が最大となるときの断面2次モーメントの軸と、物体の曲げにくさの値が最小となるときの断面2次モーメントの軸とは、互いに直交する。なお、物体の断面形状において、物体の曲げにくさの値が最大となるときの断面2次モーメントの軸である慣性主軸N1と、フロントピラーアッパ2Aが曲げ変形したときに応力度が生じない中立面と断面との交わる線である中立軸と、は、同じ位置にある場合がある。
【0020】
<アウタ部材>
アウタ部材21は、車外側に配置され、フロントピラーアッパ2Aの車幅方向外側の壁を構成する。アウタ部材21は、上下方向及び前後方向に延びる板状の部材である。
【0021】
アウタ部材21は、上端フランジ部211と、外壁部212と、下端フランジ部213と、を有する。
上端フランジ部211及び下端フランジ部213は、インナ部材22と例えば溶接によって接合する部分である。
【0022】
上端フランジ部211は、アウタ部材21の上方側の端部に位置する部分であり、車幅方向内側に延びる。
下端フランジ部213は、アウタ部材21の下方側の端部に位置する部分であり、下方に延びる。
【0023】
外壁部212は、上端フランジ部211と下端フランジ部213との間に配置され、上端フランジ部211の下端部と下端フランジ部213の上端部とを結ぶ部分である。外壁部212は、階段形状に車幅方向外側に突出するように形成されている。
【0024】
<インナ部材>
インナ部材22は、車室内側に配置され、フロントピラーアッパ2Aの車幅方向内側の壁を構成する。インナ部材22も、上下方向及び前後方向に延びる板状の部材である。
【0025】
インナ部材22は、上端フランジ部221と、窪み部222と、第1の壁部223と、第2の壁部224と、下端フランジ部225と、を有する。なお、インナ部材22の第1の壁部223よりも車室内側には、ハーネス及び車両の衝突時に膨張展開するエアバックが取り付けられている。
【0026】
上端フランジ部221及び下端フランジ部225は、アウタ部材21と例えば溶接によって接合する部分である。具体的には、上端フランジ部221がアウタ部材21の上端フランジ部211と接合し、下端フランジ部225がアウタ部材21の下端フランジ部213と接合する。
【0027】
上端フランジ部221は、インナ部材22の上方側の端部に位置する部分であり、車幅方向内側に延びる。
下端フランジ部225は、インナ部材22の下方側の端部に位置する部分であり、下方に延びる。
【0028】
なお、上端フランジ部211,221には、フロントガラス4の車幅方向の端部が取り付けられている。また、下端フランジ部213,225には、図示しないドアオープニングトリムが弾性的に嵌合する。
【0029】
窪み部222は、上端フランジ部221と上端フランジ部221よりも下方側に位置する第1の壁部223との間に配置され、フロントピラーアッパ2Aの断面内側に凹む部分、すなわち、車幅方向外側に突出する部分である。
【0030】
第1の壁部223は、窪み部222の下端部から下方に真っ直ぐ延びる。
第2の壁部224は、第1の壁部223と下端フランジ部225との間に配置され、第1の壁部223の下端部から下端フランジ部225の上端部まで真っ直ぐ延びて、第1の壁部223と下端フランジ部225とを結ぶ。インナ部材22は、第2の壁部224と下端フランジ部225との間に稜線を有する。
【0031】
第1の壁部223及び第2の壁部224により、インナ部材22が車幅方向内側に突出するように、第1の壁部223及び第2の壁部224は、下端フランジ部225よりも車幅方向内側において稜線を有するように連なる。
【0032】
第2の壁部224は、フロントピラーアッパ2Aの長手方向に略垂直な断面において車幅方向に延びる慣性主軸N1に対して、41°~68°の範囲内の傾斜角θを有する。
図2に示す例では、第2の壁部224は、慣性主軸N1に対する傾斜角θとして43°の傾斜角θ1を有する。
【0033】
[2.作用]
例えば微小ラップ衝突時のように、車両の前方に
図1に示す衝突荷重Fが作用した場合、図示しないエプロンメンバを経由してフロントピラー2に衝突荷重Fの入力が伝わる。そして、フロントピラー2への衝突荷重Fの入力により、
図2に示すフロントピラーアッパ2Aの慣性主軸N1回りには、荷重モーメントM1が発生する。この荷重モーメントM1により、フロントピラーアッパ2Aには、フロントピラーアッパ2Aを上下方向に付勢する入力荷重が生じる。
【0034】
なお、車両の前方に衝突荷重Fが作用した場合、フロントピラーアッパ2Aの慣性主軸N1に垂直な慣性主軸回りにも荷重モーメントが発生する。しかし、慣性主軸N1に垂直な慣性主軸回りに発生する荷重モーメントは、荷重モーメントM1と比較すると十分に小さいため、本実施形態では、荷重モーメントM1による作用についてのみ説明する。
【0035】
図3には、従来のフロントピラーアッパ20Aの構成を破線で示す。従来のフロントピラーアッパ20Aにも、当該フロントピラーアッパ20Aの慣性主軸N10回りに発生する荷重モーメントM10により、フロントピラーアッパ20Aを上下方向に付勢する入力荷重が生じる。フロントピラーアッパ20Aのインナ部材22aの第2の壁部224aは、このようにして生じる当該入力荷重の入力方向に対して、直角に近い傾斜角で形成される。
図3に示す例では、第2の壁部224aは、慣性主軸N10に対する傾斜角θとして26°の傾斜角θ0を有する。
【0036】
このような構成では、荷重モーメントM10により生じるフロントピラーアッパ20Aを上下方向に付勢する入力荷重に対する第2の壁部224aの強度は高くない。そのため、車両の前方に衝突荷重Fが作用した場合、
図3に示す実線のように第2の壁部224aが変形しやすく、フロントピラーアッパ20Aの断面崩れが生じやすい。
【0037】
一方、本実施形態の第2の壁部224は、荷重モーメントM1によりフロントピラーアッパ2Aに生じる上下方向の入力荷重の入力方向に対して、第2の壁部224aよりも平行に近い傾斜角となる。このため、第2の壁部224は、第2の壁部224aと比較して上下方向の入力荷重に対する強度が高い。そのため、車両の前方に衝突荷重Fが作用した場合、フロントピラーアッパ2Aの断面形状が変形しにくく、フロントピラーアッパ2Aの断面崩れが抑制される。
【0038】
[3.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(3a)本実施形態では、フロントピラーアッパ2Aの慣性主軸N1回りに発生する荷重モーメントM1により、フロントピラーアッパ2Aを車両の上下方向に付勢する入力荷重が生じる。このようにして生じる当該入力荷重の入力方向に対して、第2の壁部224がより平行に近づくような傾斜角となる。このため、荷重モーメントM1により生じる上下方向の入力荷重の入力方向に対して第2の壁部が直角に近い傾斜角となる構成と比較して、第2の壁部224の当該入力荷重に対する強度が高くなる。すなわち、第2の壁部224が当該入力荷重に対してより対抗しやすい形状となるため、フロントピラーアッパ2Aの断面形状が変形しにくくなる。
【0039】
ここで、フロントピラーアッパ2Aのインナ部材22における第2の壁部224の慣性主軸N1に対する傾斜角θが41°~68°の範囲内における効果を
図4及び
図5を用いて説明する。
【0040】
図4には、第2の壁部224の慣性主軸N1に対する傾斜角θが傾斜角θ0~θ4である場合におけるフロントピラーアッパ2Aの断面形状を示す。傾斜角θ0は、
図3に示す従来の構成のフロントピラーアッパ20Aの第2の壁部224aと同様の26°である。また、傾斜角θ1は、
図2に示す本実施形態のフロントピラーアッパ2Aの第2の壁部224と同様の43°である。また、傾斜角θ2は56°、傾斜角θ3は67°、傾斜角θ4は81°である。
【0041】
図5に示すように、第2の壁部224の慣性主軸N1に対する傾斜角θが傾斜角θ0~θ4である場合におけるフロントピラーアッパ2Aのそれぞれの曲げ耐力を、傾斜角θが41°における値が100となるように指数変換した曲げ耐力は、次に説明するような結果となることが確認されている。傾斜角θが41°の場合の指数変換後の曲げ耐力を100とした場合、傾斜角θ0の場合の指数変換後の曲げ耐力は98、傾斜角θ1の場合の指数変換後の曲げ耐力は100、傾斜角θ2の場合の指数変換後の曲げ耐力は104、傾斜角θ3の場合の指数変換後の曲げ耐力は101、傾斜角θ4の場合の指数変換後の曲げ耐力は94である。
【0042】
図5に示すように、フロントピラーアッパ2Aの曲げ耐力は、
図3に示す従来の構成と同様な傾斜角θ0である26°を基準として、第2の壁部224の慣性主軸N1に対する傾斜角θが26°よりも大きい場合に大きくなる傾向がある。ただし、第2の壁部224の慣性主軸N1に対する傾斜角θが68°以上となると、傾斜角θが41°の場合よりもフロントピラーアッパ2Aの曲げ耐力が低下する傾向がある。このため、傾斜角θが41°よりも大きく68°よりも小さい場合は、傾斜角θ0が26°の場合よりもフロントピラーアッパ2Aの曲げ耐力が向上する。具体的には、傾斜角θが42°以上56°以下の範囲では、傾斜角が大きくなるほどフロントピラーアッパ2Aの曲げ耐力は上昇傾向を示す。また、傾斜角θが57°以上67°以下の範囲では、傾斜角が大きくなるほどフロントピラーアッパ2Aの曲げ耐力は下降傾向を示すが、当該範囲においては傾斜角θ0が26°の場合よりもフロントピラーアッパ2Aの曲げ耐力は大きい値となる。なお、傾斜角θが57°以上67°以下の範囲においてフロントピラーアッパ2Aの曲げ耐力が下降傾向を示す要因としては、第2の壁部224と下端フランジ部225との稜線を中心とした角度差が減少することによるものと考えられる。
【0043】
本実施形態の第2の壁部224は、フロントピラーアッパ2Aの慣性主軸N1に対して43°の傾斜角θ1を有する。
図5に示すように、第2の壁部224の慣性主軸N1に対する傾斜角θが41°~68°の範囲内である場合、第2の壁部224の慣性主軸N1に対する傾斜角θ0が26°の場合よりもフロントピラーアッパ2Aの曲げ耐力が大きくなる。このため、フロントピラーアッパ2Aの断面耐力を向上させることができる。したがって、車両の前方より作用する衝突荷重Fに対して、フロントピラー2の変形を抑制することができる。その結果、車両の前方より作用する衝突荷重Fに対して、同等な衝突性能を担保したまま、フロントピラー2の板厚を薄くするなどの車両の軽量化を実現することも可能である。
【0044】
(3b)本実施形態では、フロントピラーアッパ2Aを構成する第2の壁部224の慣性主軸N1に対する傾きを変えるだけで、すなわち、フロントピラーアッパ2Aの断面形状を大きく変えることなく、フロントピラーアッパ2Aの断面耐力を向上させることができる。このため、フロントピラーアッパの断面形状を大きく変えるような構成と比較して、フロントピラーアッパ2Aの周辺備品への影響を小さくすることができる。
【0045】
(3c)本実施形態では、第1の壁部223及び第2の壁部224は、下端フランジ部225よりも車幅方向内側において連なる。このため、フロントピラーアッパ2Aの断面積を大きくすることができる。
【0046】
[4.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0047】
(4a)第2の壁部224の慣性主軸N1に対する傾斜角θは41°~68°の範囲に限定されるものではなく、例えば、傾斜角θは41°~68°の範囲内における異なる範囲であってもよい。すなわち、例えば、上記数値範囲内のごく限定された範囲であってもよい。例えば、傾斜角θは43°以上であることが好ましく、傾斜角θは50°以上であるとより好ましい。また、例えば、傾斜角θは65°以下であることが好ましく、傾斜角θは60°以下であるとより好ましい。
【0048】
(4b)上記実施形態では、アウタ部材21の外壁部212は、階段形状に車幅方向外側に突出する構成を例示したが、外壁部212の形状はこれに限定されるものではなく、様々な形状であってもよい。
【0049】
(4c)上記実施形態では、第2の壁部224は、第1の壁部223と下端フランジ部225とを結ぶ構成を例示したが、第2の壁部224が第1の壁部223と直接連なる構成でなくてもよい。すなわち、第2の壁部224と第1の壁部223との間に他の構成を有してもよい。
【0050】
(4d)フロントピラー上部構造は、フロントピラーアッパ2Aの前端部からフロントガラス4の上部と交差する位置2Cまでの領域の全域に限定されるものではなく、例えば、フロントピラーアッパ2Aの前端部からフロントガラス4の上部と交差する位置2Cまでの領域におけるごく限定された領域であってもよい。
【0051】
(4e)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0052】
1…周辺構造、2…フロントピラー、2A,20A…フロントピラーアッパ、2B…フロントピラーロア、3…ロッカー、4…フロントガラス、5…フロントヘッダ、21…アウタ部材、22,22a…インナ部材、101…開口部、102…前輪、211,221…上端フランジ部、212…外壁部、213,225…下端フランジ部、222…窪み部、223…第1の壁部、224,224a…第2の壁部、M1,M10…荷重モーメント、N1,N10…慣性主軸。