(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】積層体、包装体、フレキシブルコンテナ内袋及びフレキシブルコンテナ
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20220921BHJP
B65D 88/22 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
B32B27/32 101
B65D88/22 A
(21)【出願番号】P 2021508943
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009709
(87)【国際公開番号】W WO2020195713
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2019059495
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・ダウポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴山 知大
(72)【発明者】
【氏名】五戸 久夫
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 孝一
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-513056(JP,A)
【文献】特開2003-080649(JP,A)
【文献】国際公開第2008/099445(WO,A1)
【文献】特開2003-291283(JP,A)
【文献】特開2000-246842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 88/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層Aと、樹脂層Bと、樹脂層Cとを少なくとも備え、
樹脂層Bはエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーを樹脂層B全体の50質量%以上の量で含み、
樹脂層Cはエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーを樹脂層C全体の10質量%を超えて50質量%未満の量で含
み、
樹脂層A、樹脂層B及び樹脂層Cがこの順に配置される、積層体。
【請求項2】
積層体全体の厚さが120μm以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
23℃、相対湿度50%の環境下において、前記積層体に対して100Vの電圧を30秒間印加したときの、前記積層体の樹脂層Aと反対側の表面の表面抵抗率が1×10
9Ω/sq以上、1×10
12Ω/sq以下である、請求項1
又は請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
両面について23℃、相対湿度50%の環境下で測定した印加電圧+5000Vにおける1%減衰時間が1秒以下である、請求項1~請求項
3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
樹脂層Bは最高酸含量と最低酸含量の差が2質量%~20質量%となる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーを含み、前記カリウムアイオノマーのカリウムイオンによる中和度は60%以上である、請求項1~請求項
4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
樹脂層Aはオレフィン系重合体を含む、請求項1~請求項
5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
樹脂層Aは直鎖状低密度ポリエチレンを含む、請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
樹脂層Aの厚さは20μm以下である、請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
樹脂層Aはカリウムアイオノマーを含まないか、カリウムアイオノマーを含む場合はその量が樹脂層A全体の10質量%以下である、請求項1~請求項
8のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項10】
IEC 61340-4-4(2005)及びJIS C 61340-4-4(2009)に準拠して、23℃、相対湿度50%の環境下において、絶縁破壊試験機を用いて、積層体を電極で挟み込み、毎秒0.3kVの速度で印加する電圧を昇圧し、絶縁破壊が生じたときの電圧が4kV未満である、請求項1~請求項
9のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
請求項1~請求項
10のいずれか1項に記載の積層体を含み、樹脂層Aが内側に配置される、包装体。
【請求項12】
前記積層体の外側に配置される外袋をさらに備える、請求項
11に記載の包装体。
【請求項13】
請求項1~請求項
10のいずれか1項に記載の積層体を含み、樹脂層Aが内側に配置される、フレキシブルコンテナ内袋。
【請求項14】
請求項
13に記載のフレキシブルコンテナ内袋と、前記フレキシブルコンテナ内袋の外側に配置される外袋とを備える、フレキシブルコンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層体、包装体、フレキシブルコンテナ内袋及びフレキシブルコンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
袋、容器等の包装体の材料としては、軽量化、高強度、加工の容易さ等の理由から高分子材料が広く使用されている。一般に高分子材料を用いた包装体は帯電し易く、保管、輸送、使用の各段階において空気中の塵埃が付着し、外表面が汚染される場合がある。また、内容物が内表面に付着して外観を損ねたり、内容物の品質が低下したりするおそれがある。さらに、電気絶縁性が大きいために内部に静電気が蓄積しやすく、この静電気によって内容物が着火するなど災害の原因となることが懸念されている。
【0003】
高分子材料からなる包装体の帯電を抑制する方法として、例えば、特開2003-226320号公報には、高分子材料に界面活性剤を配合して表面抵抗率を特定の範囲に制御した容器が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2003-226320号公報では、単層の高分子材料からなる容器の帯電抑制が検討されている。しかしながら容器が複数の層から構成される場合は、外層と内層との導電性が良好ではない等の理由により、内容物に帯電している静電気を容器の外部に充分に放散できず、内部に静電気が蓄積するおそれがある。その結果、放電エネルギーの大きい着火性の放電現象を十分に抑制できないおそれがある。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものである。本開示の一態様によれば、内部に静電気が蓄積しにくい包装体を作製可能な積層体、並びに内部に静電気が蓄積しにくい包装体、フレキシブルコンテナ内袋及びフレキシブルコンテナが提供される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 樹脂層Aと、樹脂層Bと、樹脂層Cとを少なくとも備え、
樹脂層Bはエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーを樹脂層B全体の50質量%以上の量で含み、
樹脂層Cはエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーを樹脂層C全体の10質量%を超えて50質量%未満の量で含む、積層体。
<2> 積層体全体の厚さが120μm以下である、<1>に記載の積層体。
<3> 樹脂層A、樹脂層B及び樹脂層Cがこの順に配置される、<1>又は<2>に記載の積層体。
<4> 23℃、相対湿度50%の環境下において、前記積層体に対して100Vの電圧を30秒間印加したときの、前記積層体の樹脂層Aと反対側の表面の表面抵抗率が1×109Ω/sq以上、1×1012Ω/sq以下である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の積層体。
<5> 両面について23℃、相対湿度50%の環境下で測定した印加電圧+5000Vにおける1%減衰時間が1秒以下である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の積層体。
<6> 樹脂層Bは最高酸含量と最低酸含量の差が2質量%~20質量%となる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーを含み、前記カリウムアイオノマーのカリウムイオンによる中和度は60%以上である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の積層体。
<7> 樹脂層Aはオレフィン系重合体を含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の積層体。
<8> 樹脂層Aは直鎖状低密度ポリエチレンを含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の積層体。
<9> 樹脂層Aの厚さは20μm以下である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の積層体。
<10> 樹脂層Aはカリウムアイオノマーを含まないか、カリウムアイオノマーを含む場合はその量が樹脂層A全体の10質量%以下である、<1>~<9>のいずれか1つに記載の積層体。
<11> IEC 61340-4-4(2005)及びJIS C 61340-4-4(2009)に準拠して、23℃、相対湿度50%の環境下において、絶縁破壊試験機を用いて、積層体を電極で挟み込み、毎秒0.3kVの速度で印加する電圧を昇圧し、絶縁破壊が生じたときの電圧が4kV未満である、<1>~<10>のいずれか1つに記載の積層体。
<12> <1>~<11>のいずれか1つに記載の積層体を含み、樹脂層Aが内側に配置される、包装体。
<13> 前記積層体の外側に配置される外袋をさらに備える、<12>に記載の包装体。
<14> <1>~<11>のいずれか1つに記載の積層体を含み、樹脂層Aが内側に配置される、フレキシブルコンテナ内袋。
<15> <14>に記載のフレキシブルコンテナ内袋と、前記フレキシブルコンテナ内袋の外側に配置される外袋とを備える、フレキシブルコンテナ。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、本開示の一態様の目的は、内部に静電気が蓄積しにくい包装体を作製可能な積層体、並びに内部に静電気が蓄積しにくい包装体、フレキシブルコンテナ内袋及びフレキシブルコンテナが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0009】
<積層体>
本開示の積層体は、樹脂層Aと、樹脂層Bと、樹脂層Cとを少なくとも備え、樹脂層Bはエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーを樹脂層B全体の50質量%以上の量で含み、樹脂層Cはエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーを樹脂層C全体の10質量%を超えて50質量%未満の量で含む、積層体である。
【0010】
本発明者らが検討したところ、上記構成を有する積層体は、絶縁破壊電圧が充分に小さく、この積層体を用いて作製した包装体は、絶縁状態が容易に破壊されて内部に蓄積した静電気を外部に逃がすことができることがわかった。すなわち、本開示の積層体を用いて作製した包装体は、内部に静電気が蓄積しにくく、安全性に優れている。
【0011】
さらに本開示の積層体は、界面活性剤等の帯電防止剤やカーボンブラック等の導電性材料を含んでいなくても充分な効果を発揮する。このため、例えば、帯電防止剤が積層体表面にブリードアウトしたり、導電性材料の配合により柔軟性や透明性が低下したりするのを回避することができる。
【0012】
本開示におけるアイオノマーは、ベースポリマーに含まれるカルボン酸基の一部又は全部が、金属イオンにより架橋された構造となっている。より具体的に例えば、「エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー」とは、ベースポリマーであるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体に含まれるカルボン酸基の一部又は全部が、カリウムイオンにより架橋された構造となっている。
【0013】
(層の配置)
積層体は、樹脂層A、樹脂層B及び樹脂層Cがこの順に配置されることが好ましい。
【0014】
樹脂層Cは、包装体としたときに樹脂層Bよりも外側(つまり、樹脂層Bよりも内容物から遠い位置)に位置することが好ましい。
【0015】
樹脂層Bは、包装体の内部での静電気の蓄積をより抑制する観点からは、樹脂層Aよりも外側(つまり、樹脂層Aよりも内容物から遠い位置)にあることが好ましい。
【0016】
(積層体の厚さ)
積層体全体の厚さは、特に制限されないが、120μm以下であることが好ましい。
積層体全体の厚さは、静電気を効率よく外部に逃がす観点からは、110μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。
積層体全体の厚さは、耐久性の観点からは、50μm以上であることが好ましく、60μm以上であることがより好ましい。
【0017】
(積層体の性質)
積層体は、包装体の内部での静電気の蓄積をより抑制する観点からは、23℃、相対湿度50%の環境下において、前記積層体に対して100Vの電圧を30秒間印加したときの、前記積層体の樹脂層Aと反対側の表面の表面抵抗率が、1×108Ω/sq以上1×1012Ω/sq以下であることが好ましく、1×109Ω/sq以上1×1012Ω/sq以下であることがより好ましく、1×109Ω/sq以上9×1011Ω/sq以下であることがさらに好ましい。
【0018】
表面抵抗率(Ω/sq)は、高抵抗率計(例えば、株式会社三菱ケミカルアナリテック社製のHIRESTA UP(MCP-HT450))を用いて、23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置させた積層体試験片をガード電極に置き、リング型の電極を表面に接触させ、電圧100Vを30秒印加することで求める。
【0019】
表面抵抗率は、例えば、各樹脂層におけるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーの割合、各樹脂層におけるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーの中和度、各樹脂層におけるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体中における、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量を調整すること等により調整することができる。
【0020】
積層体は、包装体の内部での静電気の蓄積をより抑制する観点からは、両面について23℃、相対湿度50%の環境下で測定した印加電圧+5000Vにおける1%帯電減衰時間が1秒以下であることが好ましく、0.6秒以下であることがより好ましく、0.4秒以下であることがさらに好ましい。
【0021】
1%帯電減衰時間は、23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置させた積層体を、帯電減衰測定装置(例えば、米国Electro-Tech Systems社製のModel 406D Static Decay Meter)を用いて、電圧+5000Vを印加し、試験片にかかるチャージ電圧が+50Vへ減衰する時間を1%帯電減衰時間(sec)として測定する(連邦基準規格101CMETHOD4046準拠)。
【0022】
1%減衰時間は、例えば、各樹脂層におけるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーの割合、各樹脂層におけるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーの中和度、各樹脂層におけるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体中における、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量を調整すること等により制御することができる。
【0023】
積層体は、包装体の内部での静電気の蓄積をより抑制する観点からは、IEC 61340-4-4(2005)及びJIS C 61340-4-4(2009)に準拠して、23℃、相対湿度50%の環境下において、絶縁破壊試験機を用いて、積層体を電極で挟み込み、毎秒0.3kVの速度で印加する電圧を昇圧し、絶縁破壊が生じたときの電圧(つまり、絶縁破壊電圧)が、4.0kV未満であることが好ましく、3.5kV以下であることがより好ましく、3.0kV以下であることがさらに好ましい。絶縁破壊電圧の下限値は、特に制限されないが、例えば、0.5kV以上であることが好ましい。
【0024】
絶縁破壊電圧は、23℃、相対湿度50%の環境下において、絶縁破壊試験機(例えば、山崎産業株式会社製のHAT-300-100RH0型)を用いて、積層体を電極で挟み込み、毎秒0.3kVの速度で印加する電圧を昇圧していき、絶縁破壊が生じたときの電圧(kV)を測定することで求める(IEC61340-4-4(2005)及びJIS C 61340-4-4(2009)準拠)。
【0025】
絶縁破壊電圧は、例えば、各樹脂層におけるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーの割合を調整すること;各樹脂層におけるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーの中和度を調整すること;各樹脂層におけるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体中における、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量を調整すること;積層体全体の厚みを調整すること;各樹脂層の厚みを調整すること等により調整することができる。
【0026】
(樹脂層A)
積層体を構成する樹脂層Aは、樹脂を含む。
樹脂層Aに含まれる樹脂は特に制限されず、積層体に求められる性質等に応じて選択できる。樹脂層Aに含まれる樹脂は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0027】
樹脂層Aに含まれる樹脂としては、例えば、オレフィン類の単独重合体又は共重合体、ポリオレフィンエラストマー等の少なくともオレフィンに由来する構成単位を含む重合体(以下「オレフィン系重合体」とも称す);ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂等の少なくともスチレンに由来する構成単位を含む重合体(以下、「スチレン系重合体」とも称す);ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマー等のポリエステル;ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂;ポリアミド、ポリアミドエラストマー等の少なくともアミド結合を含む重合体(以下、「アミド系重合体」とも称す)などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0028】
樹脂層Aに含まれる樹脂は、ヒートシール性の観点からは、オレフィン系重合体を含むことが好ましく、エチレン系重合体(エチレンの単独重合体又はエチレンと他の成分との共重合体)を含むことがより好ましく、エチレンの単独重合体、エチレンと炭素数3以上のα-オレフィンとの共重合体(好ましくはエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体)、及びエチレンと極性モノマーとの共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含むことがさらに好ましく、直鎖状低密度ポリエチレンを含むことが特に好ましい。
【0029】
オレフィン類の単独重合体として具体的には、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)等のエチレンの単独重合体;ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン等のエチレン以外のオレフィンの単独重合体などが挙げられる。
【0030】
エチレンと炭素数3以上のα-オレフィンとの共重合体として具体的には、エチレンとプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。
【0031】
エチレンと極性モノマーとの共重合体として具体的には、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体;エチレンと不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸等)との共重合体;エチレンと不飽和カルボン酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸ジメチル等)との共重合体;エチレンと一酸化炭素と任意に用いられる不飽和カルボン酸エステル若しくは酢酸ビニルとの共重合体;エチレンとポリオレフィン系エラストマーとの共重合体;これらの共重合体とNa、Li、Zn、Mg、Ca等とのアイオノマーなどが挙げられる。
【0032】
オレフィン系重合体は、防汚性の観点からは、メタロセン触媒の存在下で製造されるエチレン系重合体を含むことが好ましい。
一例として、エチレン系重合体は、メタロセン触媒の存在下で、エチレン及び必要に応じて用いる共重合成分を重合することによって製造できる。メタロセン触媒は、例えば、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を少なくとも1個以上有する周期律表IVB族の遷移金属(好ましくは、ジルコニウム)の化合物からなる触媒成分と、有機アルミニウムオキシ化合物触媒成分と、必要に応じて用いられる各種添加成分とから形成される。
【0033】
メタロセン触媒の存在下で製造されるエチレン系重合体の密度は、特に制限されず、共重合成分(好ましくは、炭素数3以上のα-オレフィン)の含有量に応じて選択できる。一般には、上記エチレン系重合体の密度は、870kg/m3~970kg/m3程度であってよく、好ましくは890kg/m3~950kg/m3であり、より好ましくは900kg/m3~940kg/m3である。
【0034】
樹脂層Aに含まれる樹脂は、加工性及び実用物性の観点からは、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが、0.1g/10分~100g/10分であることが好ましく、0.2g/10分~50g/10分であることがより好ましい。本開示においてメルトフローレートは、JIS K7210-1(2014)に準拠して測定される。
【0035】
樹脂層Aは、樹脂のみからなっても樹脂以外の成分を含んでいてもよい。樹脂以外の成分としては、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、滑剤、ブロッキング防止剤、無機充填剤、発泡剤、発泡助剤等を例示することができる。樹脂層Aが樹脂以外の成分を含む場合、その含有率は樹脂層A全体の10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0036】
樹脂層Aは、カリウムアイオノマーを含まないか、カリウムアイオノマーを含む場合はその量(つまり、カリウムアイオノマーの量)が樹脂層A全体の10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0037】
樹脂層Aの厚さは、特に制限されない。樹脂層Aの厚さは、静電気を効率よく外部に逃がす観点からは、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。樹脂層Aの厚さは、充分な絶縁性を確保する観点からは、2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。
【0038】
(樹脂層B)
積層体を構成する樹脂層Bは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーを樹脂層B全体の50質量%以上の量で含む。
【0039】
樹脂層Bに含まれるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーは、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0040】
カリウムアイオノマーのベースポリマーとなるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン及び不飽和カルボン酸、並びに必要に応じて用いる他の極性モノマーを共重合して得られるものである。
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン・不飽和カルボン酸2元共重合体及びエチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・不飽和カルボン酸3元共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0041】
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル等が挙げられ、中でもアクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。
【0042】
必要に応じて用いる他の極性モノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、不飽和カルボン酸エステル、一酸化炭素等が挙げられ、中でも不飽和カルボン酸エステルが好ましい。
【0043】
不飽和カルボン酸エステルとしては、不飽和カルボン酸のアルキルエステル等が挙げられる。不飽和カルボン酸のアルキルエステルとしては、不飽和カルボン酸の炭素数2~5のアルキルエステルが好ましく、不飽和カルボン酸のイソブチル、n-ブチル等の炭素数4のアルキルエステルがより好ましい。
【0044】
不飽和カルボン酸のアルキルエステルの中でも、アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルが好ましい。
具体的には、アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソオクチル、マレイン酸ジメチル等が挙げられる。
中でも、アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソオクチル等の、アクリル酸又はメタクリル酸の低級アルキルエステル(例えば、炭素数2~5のアルキルエステル)が好ましい。
さらには、アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルとしては、アクリル酸又はメタクリル酸のn-ブチルエステル、イソブチルエステル等の炭素数4のアルキルエステルが好ましく、アクリル酸の炭素数4のアルキルエステル(特に好ましくは、イソブチルエステル)がより好ましい。
【0045】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(例えば、前記2元共重合体又は前記3元共重合体)中における、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量(以下、「エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の酸含量」ともいう)は、静電気の蓄積をより抑制する観点からは、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の全量に対し、10質量%~30質量%であることが好ましく、10質量%~25質量%であることがより好ましい。
【0046】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体を、エチレン、不飽和カルボン酸及び他の極性モノマーを用いて合成する場合、他の極性モノマーの割合は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の全量に対し、30質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムイオンによる中和度は、静電気の蓄積をより抑制する観点からは、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。ここで、中和度とは、ベースポリマーであるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体中に存在するカルボキシル基のうち、金属イオンとの反応によって失われる度合(カルボキシル基のモル数を基準とする%で表す)を示す。
【0048】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーの190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートは、加工性、耐傷性等の観点からは、0.1g/10分~100g/10分であることが好ましく、0.2g/10分~50g/10分であることがより好ましい。
【0049】
樹脂層Bは、静電気の蓄積をより抑制する観点からは、酸含量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーを含むことが好ましい。例えば、樹脂層Bは、最高酸含量と最低酸含量との差が1質量%以上、好ましくは2質量%~20質量%となる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーを含むことが好ましい。なお、最高酸含量とは、2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーのうち、酸含有量が最大であるカリウムアイオノマーの酸含有量のことをいう。他方、最低酸含量とは、2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーのうち、酸含有量が最低であるカリウムアイオノマーの酸含有量のことをいう。
この場合、2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体全体の酸含量(平均酸含量)は、10質量%~30質量%であることが好ましく、10質量%~25質量%であることがより好ましい。
この場合、2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー全体のカリウムイオンによる中和度の下限値は60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー全体のカリウムイオンによる中和度の上限値は、特に制限されないが、例えば、90%以下であることが好ましい。
【0050】
ベースポリマーである酸含量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の組み合わせとしては、例えば、酸含量が1質量%~11質量%、好ましくは2質量%~10質量%であり、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが1g/10分~600g/10分、好ましくは10g/10分~500g/10分であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A-1)と、酸含量が11質量%~25質量%、好ましくは13質量%~23質量%であり、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが1g/10分~600g/10分、好ましくは10g/10分~500g/10分であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A-2)との組み合わせであって、平均酸含量が10質量%~20質量%、好ましくは11質量%~15質量%であり、190℃、2160g荷重における平均メルトフローレートが1g/10分~300g/10分、好ましくは10g/10分~200g/10分、より好ましくは20g/10分~150g/10分であるものが好適である。
【0051】
上記の組み合わせにおいて、共重合体(A-1)と共重合体(A-2)の混合割合は、例えば、前者100質量部に対し、後者を1質量部~200質量部、好ましくは50質量部~150質量部としてもよい。
【0052】
樹脂層Bは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーのみで構成されていてもよく、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー以外の成分を含んでいてもよい(ただし、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーの量は樹脂層B全体の50質量%以上である)。樹脂層Bは、例えば、積層体の帯電防止性能、滑り性及び耐傷性を大きく損なわない範囲において、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー以外の樹脂を含んでいてもよい。
【0053】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー以外の樹脂の種類は、特に制限されず、樹脂層Aに含まれる樹脂として例示したものから選択してもよい。エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー以外の樹脂としては、ヒートシール性の観点からは、オレフィン系重合体が好ましく、エチレン系重合体がより好ましく、エチレンの単独重合体、エチレンと炭素数3以上(好ましくは炭素数3~12)のα-オレフィンとの共重合体及びエチレンと極性モノマーとの共重合体からなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましく、直鎖状低密度ポリエチレンが特に好ましい。
【0054】
樹脂層Bがエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー以外の樹脂を含む場合、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー以外の樹脂の割合は、樹脂層B全体の45質量%以下であってもよく、35質量%以下であってもよく、25質量%以下であってもよい。すなわち、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーの割合は、樹脂層B全体の55質量%以上であってもよく、65質量%以上であってもよく、75質量%以上であってもよい。
【0055】
樹脂層Bは、帯電防止性能を向上させるために、アルコール性水酸基を2個以上有するポリヒドロキシ化合物を含んでもよい。ポリヒドロキシ化合物として具体的には、各種分子量のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;グリセリン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール;及びこれらのエチレンオキシド付加物;多価アミンとアルキレンオキシドの付加物などを例示することができる。
【0056】
樹脂層Bがポリヒドロキシ化合物を含む場合、ポリヒドロキシ化合物の量は、樹脂層Bの機械的特性を損なわない範囲で設定されることが好ましい。例えば、ポリヒドロキシ化合物の量は、樹脂層B全体の15質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよい。
【0057】
樹脂層Bは、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、滑剤、ブロッキング防止剤、無機充填剤、発泡剤、発泡助剤等を含んでもよい。樹脂層Bがこれらの成分を含む場合、その量は、樹脂層B全体の10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0058】
樹脂層Bの厚さは、特に制限されない。樹脂層Bの厚さは、静電気を効率よく外部に逃がす観点からは、20μm~90μmの範囲から選択してもよい。
【0059】
(樹脂層C)
積層体を構成する樹脂層Cは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーを樹脂層C全体の10質量%を超えて50質量%未満の量で含む。
樹脂層Cに含まれる樹脂は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0060】
樹脂層Cに含まれる成分(樹脂、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー及びその他の成分)の詳細及び好ましい態様は、樹脂層A及び樹脂層Bに含まれる成分の詳細及び好ましい態様と同じである。
【0061】
樹脂層Cに含まれるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーの量は、樹脂層C全体の10質量%を超えて50質量%未満の量であればよい。例えば、樹脂層Cに含まれるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーの量は、樹脂層C全体の10質量%を超えて40質量%以下であってもよく、10質量%を超えて30質量%以下であってもよく、10質量%を超えて25質量%以下であってもよい。
【0062】
樹脂層Cに含まれるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーの量は、静電気を効率よく外部に逃がす観点からは、樹脂層C全体の15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。
【0063】
樹脂層Cの厚さは、特に制限されない。樹脂層Cの厚さは、静電気を効率よく外部に逃がす観点からは、1μm~20μmの範囲から選択してもよい。
【0064】
(その他の部材)
本開示の積層体は、上述した樹脂層A、B及びCのみから構成されても、樹脂層A、B及びC以外の部材を備えていてもよい。ただし、絶縁破壊電圧を低くする観点からは、樹脂層A、B及びC以外の部材を備えていないことが好ましい。
本開示の積層体は、例えば、樹脂層間を密着させるためにゴム系粘着材、アクリル系粘着材、シリコン系粘着材等を含む粘着層をさらに設けてもよい。あるいは、本開示の積層体は、積層体のガスバリア性や水蒸気バリア性を高めるためのバリア層をさらに設けてもよい。バリア層としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリオレフィン等の延伸フィルム、これらの延伸フィルム上にアルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素等の無機化合物の薄膜を物理蒸着又は化学蒸着により20nm~100nm程度の厚さに設けた無機化合物蒸着プラスチックフィルム、アルミニウム箔、エチレンビニルアルコール共重合樹脂フィルム、塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム等が好ましく使用できる。粘着層及びバリア層は、必要に応じて、これらを積層して用いてもよい。
【0065】
積層体が樹脂層A、B及びC以外の部材を備える場合、積層体の厚さはこれらの部材の厚さを含めた厚さである。
【0066】
本開示の積層体の製造方法に特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。例えば、本開示の積層体は、各層を押出コーティング成形、共押出し成形、多層インフレーション成形、サンドイッチラミネート成形等の成形方法により積層して製造することができる。
【0067】
<包装体>
本開示の包装体は、本開示の積層体を含み、樹脂層Aが内側(内容物に近い側)に配置される。包装体の形状及び大きさは特に制限されず、あらゆる形状の及び大きさの袋、容器等であってよい。
【0068】
包装体は、積層体のみからなっていても積層体以外の部材を備えていてもよい。例えば、包装体は、積層体の外側に配置される外袋を備えていてもよい。外袋の材質は、特に制限されないが、内部の静電気を効率的に外部に逃がす観点からは、導電性を有する材質であることが好ましい。
【0069】
包装体の用途は特に制限されないが、フレキシブルコンテナの内袋として特に好適に使用される。フレキシブルコンテナは一般に大容量であり、内部に蓄積した静電気により事故が発生する危険性が高い傾向にある。従って、内部に静電気が蓄積されにくい本開示の積層体から作製される包装体を備えるフレキシブルコンテナは安全性に優れている。
【0070】
<フレキシブルコンテナ内袋及びフレキシブルコンテナ>
本開示のフレキシブルコンテナ内袋は、本開示の積層体を含み、樹脂層Aが内側(内容物に近い側)に配置される。
本開示のフレキシブルコンテナは、上記フレキシブルコンテナ内袋と、前記フレキシブルコンテナ内袋の外側に配置される外袋とを備える。
フレキシブルコンテナ内袋又はフレキシブルコンテナの容量は特に制限されず、例えば、100リットル~1000リットルであってもよい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本開示をさらに具体的に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、使用した原料及び得られた積層体に関する性能の評価方法及び結果を以下に示す。また、メルトフローレート(MFR)は、JIS K7210-1(2014)に準拠して190℃、2160g荷重にて測定した。
【0072】
<積層体の作製>
表1に示すベースポリマーを原料とし、表2に示すカリウムアイオノマー(IO-1及びIO-2)をそれぞれ合成した。表2に示すグリセリン添加量は、カリウムアイオノマー全体に対する含有率である。
【0073】
【0074】
【0075】
樹脂層に含まれるカリウムアイオノマー以外の樹脂として、表3に示す熱可塑性樹脂を使用した。
【0076】
【0077】
[実施例1~実施例4及び比較例1~比較例5]
上述した材料を用いて、表4に示す構成の積層体を作製した。具体的には、多層インフレーションフィルム成形機を用いて、MPE-1を樹脂層A(内層)、IO-1を樹脂層B(中間層)、MPE-1(80質量部)とIO-1(20質量部)の配合比でドライブレンドした混合樹脂を樹脂層C(外層)となるように構成し、成形温度(ダイス温度)を170℃に設定して実施例1の積層体を作製した。また、樹脂層の組成及び厚さ、並びに成形温度を表4に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例2~4及び比較例1~5の積層体(比較例4は単層インフレーションフィルム成形機を用いた)を作製した。
【0078】
<積層体の電気特性評価>
作製した積層体の電気特性を、下記の試験により評価した。表4に示す「内表面の電気特性評価」は、樹脂層Aの表面についての評価であり、「外表面の電気特性評価」は、積層体が樹脂層Cを備えている場合は樹脂層Cの表面について、積層体が樹脂層Bを備えており且つ樹脂層Cを備えていない場合は樹脂層Bの表面について、樹脂層A単体の場合は樹脂層Aのもう一方の表面についての評価である。
【0079】
(1)絶縁破壊電圧
23℃、相対湿度50%の環境下において、山崎産業株式会社製の絶縁破壊試験機「HAT-300-100RH0型」を用いて、積層体を電極で挟み込み、毎秒0.3kVの速度で印加する電圧を昇圧していき、絶縁破壊が生じたときの電圧(kV)を測定した(IEC61340-4-4(2005)及びJIS C 61340-4-4(2009)準拠)。
【0080】
(2)1%帯電減衰時間
23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置させた積層体を、米国Electro-Tech Systems社製の「Model 406D Static Decay Meter」を用いて、電圧+5000Vを印加し、試験片にかかるチャージ電圧が+50Vへ減衰する時間を1%帯電減衰時間(sec)として測定した(連邦基準規格101CMETHOD4046準拠)。
【0081】
(3)表面抵抗率
株式会社三菱ケミカルアナリテック社製の高抵抗率計「HIRESTA UP(MCP-HT450)」を用いて、23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置させた積層体試験片をガード電極に置き、リング型の電極を表面に接触させ、電圧100Vを30秒印加し、表面抵抗率(Ω/sq)を測定した。
【0082】
【0083】
表4に示すように、樹脂層Aと、樹脂層Bと、樹脂層Cとを少なくとも備え、樹脂層Bがカリウムアイオノマーを樹脂層B全体の50質量%以上の量で含み、樹脂層Cがカリウムアイオノマーを樹脂層C全体の10質量%超え50質量%未満の量で含む、実施例の積層体は、比較例の積層体よりも低い絶縁破壊電圧が達成されていた。
さらに実施例の積層体は、(1)外面の表面抵抗率が1×109Ω/sq以上、1×1012Ω/sq以下であり、(2)内面の表面抵抗率が1×1012Ω/sq超であり、かつ(3)絶縁破壊電圧が4kV未満であるという、FIBC内袋規格(IEC 61340-4-4(2018)の規格(L2)に合致する電気特性を示した。
【0084】
樹脂層Aと樹脂層Cとを備えるが樹脂層Bを備えていない比較例1、並びに、樹脂層Aと樹脂層Bとを備えるが樹脂層Cを備えていない比較例2及び3では、絶縁破壊電圧が5kVを超えていた。
厚さが50μm又は110μmの樹脂層A単体について評価した比較例4及び5では、試料に5000Vの電圧を印加した際に4500V以上チャージされず、1%帯電減衰時間を測定できなかった。また、比較例4及び5は、絶縁破壊電圧も大きかった。
【0085】
本開示の実施形態は、以下の態様も含む。
[1] 樹脂層Aと樹脂層Bとを少なくとも備え、厚さが100μm以下であり、
樹脂層Bはエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーを樹脂層B全体の50質量%以上の量で含む、積層体。
[2] さらに樹脂層Cを備え、樹脂層Cはエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーを樹脂層C全体の50質量%未満の量で含む、[1]に記載の積層体。
[3] 樹脂層A、樹脂層B及び樹脂層Cがこの順に配置される、[2]に記載の積層体。
[4] 23℃、相対湿度50%の環境下において、前記積層体に対して100Vの電圧を30秒間印加したときの、前記積層体の樹脂層Aと反対側の表面の表面抵抗率が1×109Ω/sq以上、1×1012Ω/sq以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の積層体。
[5] 両面について23℃、相対湿度50%の環境下で測定した印加電圧+5000Vにおける1%減衰時間が1秒以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の積層体。
[6] 樹脂層Bは最高酸含量と最低酸含量の差が2質量%~20質量%となる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーを含み、前記カリウムアイオノマーのカリウムイオンによる中和度は60%以上である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の積層体。
[7] 樹脂層Aはオレフィン系重合体を含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の積層体。
[8] 樹脂層Aは直鎖状低密度ポリエチレンを含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載の積層体。
[9] 樹脂層Aの厚さは20μm以下である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の積層体。
[10] 樹脂層Aはカリウムアイオノマーを含まないか、カリウムアイオノマーを含む場合はその量が樹脂層A全体の10質量%以下である、[1]~[9]のいずれか1つに記載の積層体。
[11] IEC 61340-4-4(2005)及びJIS C 61340-4-4(2009)に準拠して、23℃、相対湿度50%の環境下において、絶縁破壊試験機を用いて、積層体を電極で挟み込み、毎秒0.3kVの速度で印加する電圧を昇圧し、絶縁破壊が生じたときの電圧が4kV未満である、[1]~[10]のいずれか1つに記載の積層体。
[12] [1]~[11]のいずれか1つに記載の積層体を含み、樹脂層Aが内側に配置される、包装体。
[13] 前記積層体の外側に配置される外袋をさらに備える、[12]に記載の包装体。
[14] [1]~[11]のいずれか1つに記載の積層体を含み、樹脂層Aが内側に配置される、フレキシブルコンテナ内袋。
[15] [14]に記載のフレキシブルコンテナ内袋と、前記フレキシブルコンテナ内袋の外側に配置される外袋とを備える、フレキシブルコンテナ。