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特許7144630レバミピドまたはその塩および高分子を含有する水性懸濁液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】レバミピドまたはその塩および高分子を含有する水性懸濁液
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4704 20060101AFI20220921BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20220921BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220921BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220921BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220921BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
A61K31/4704
A61K9/10
A61K47/32
A61K47/36
A61P27/02
A61P27/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022001605
(22)【出願日】2022-01-07
(62)【分割の表示】P 2021552929の分割
【原出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022050562
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2020062251
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100158414
【弁理士】
【氏名又は名称】秦野 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100191710
【弁理士】
【氏名又は名称】馬渡 洋介
(72)【発明者】
【氏名】川島 嘉子
(72)【発明者】
【氏名】河畑 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】松本 直樹
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103976946(CN,A)
【文献】特表2016-507469(JP,A)
【文献】特開2016-179960(JP,A)
【文献】特開2016-204359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 27/00-27/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レバミピドまたはその塩および高分子を含有する水性懸濁液であって、該高分子がデキストランであって、ポリビニルアルコールを含有しない、水性懸濁液。
【請求項2】
カルボキシルビニルポリマーをさらに含有する、請求項1に記載の水性懸濁液。
【請求項3】
カルボキシルビニルポリマーの濃度が、0.05~0.2%(w/v)である、請求項2に記載の水性懸濁液。
【請求項4】
デキストランの濃度が、0.5~1%(w/v)である、請求項1に記載の水性懸濁液。
【請求項5】
点眼投与されることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の水性懸濁液。
【請求項6】
レバミピドまたはその塩がレバミピド(フリー体)である、請求項1~のいずれか1項に記載の水性懸濁液。
【請求項7】
レバミピドまたはその塩の濃度が2%(w/v)である、請求項1~のいずれか1項に記載の水性懸濁液。
【請求項8】
レバミピドの平均粒子径が0.1~3μmである、請求項1~のいずれか1項に記載の水性懸濁液。
【請求項9】
動粘度が1.8~3.0mm/sである、請求項1~のいずれか1項に記載の水性懸濁液。
【請求項10】
硝酸銀をさらに含有する、請求項1~のいずれか1項に記載の水性懸濁液。
【請求項11】
2%(w/v)のレバミピド(フリー体)、1%(w/v)以下のデキストランを含有し、ポリビニルアルコールを含有しない水性懸濁液であって、
レバミピドの平均粒子径が0.1~3μmであり、
動粘度が1.8~3.0mm/sであり、
点眼投与されることを特徴とする、水性懸濁液。
【請求項12】
ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼投与されることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の水性懸濁液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レバミピドまたはその塩およびカルメロースナトリウム、デキストランおよびポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1つの高分子を含有する水性懸濁液に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライアイは目が乾く、ゴロゴロするという不快感程度の症状から始まり、悪化すると日常生活に多大な支障をきたす疾患である。ドライアイ患者数は、高齢化社会の到来やパソコンなどのVDT(video display terminal)作業の増大に伴い年々増加している。
【0003】
レバミピドの一般名は「2-(4-クロルベンゾイルアミノ)-3-(2-キノロン-4-イル)プロピオン酸」であり、眼のゴブレット細胞を増加させることによってムチンの産生量を増加させ、ドライアイにみられるムチンの減少を防ぐことなどが知られている。さらに、Ophthalmology, 119(12), 2471-2478 (2012)(非特許文献1)には、レバミピドを含有する点眼液を点眼投与することにより、ドライアイ患者の他覚所見(角膜上皮障害など)、自覚症状が改善したことが記載されている。我が国においては、2%(w/v)の濃度のレバミピド(フリー体)を含有する点眼液がドライアイ治療薬として使用されている(製品名:ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%)。
【0004】
ムコスタ(登録商標)点眼液UD2% 添付文書(非特許文献2)には、ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%は添加物としてポリビニルアルコール部分けん化物を含有することが記載されている。また、特表2010-507566号公報(特許文献1)には、レバミピドと共にポリビニルアルコール(PVA)を水溶液に配合することによって、特別な分散・懸濁装置を使用しなくても、微細粒子の状態のレバミピドを均質に分散させることができ、しかもレバミピドの微細粒子の再凝集を引き起こすことがなく、懸濁状態を安定に保持できることが記載されている。
【0005】
一方、非特許文献2には、ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%の重大な副作用として、涙道閉塞、涙嚢炎が現れることがあること、涙道閉塞、涙嚢炎が認められた症例では涙道内に白色物質が認められることがあることが記載されている。さらに、あたらしい眼科, 32(12), 1741-1747 (2015)(非特許文献3)には、PVAは、ホウ酸イオンと反応してゲル化する性質があることが示唆されている。なお、我が国においては上市されている点眼液には、添加物としてホウ酸を含有するものも少なくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2010-507566号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Ophthalmology, 119(12), 2471-2478 (2012)
【文献】ムコスタ(登録商標)点眼液UD2% 添付文書
【文献】あたらしい眼科, 32(12), 1741-1747 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、PVAを添加剤として使用することなしに、ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%と同様の性質を有するレバミピド含有水性懸濁液を調製することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、PVAに代えて、カルメロースナトリウム、デキストランおよびポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1つの高分子を使用することで、ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%と同様の性質を有するレバミピド含有水性懸濁液を調製することに成功した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に関する。
【0011】
(1)レバミピドまたはその塩および高分子を含有する水性懸濁液であって、該高分子がカルメロースナトリウム、デキストランおよびポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1つの化合物である、水性懸濁液(以下、「本水性懸濁液」ともいう)。
【0012】
(2)ポリビニルアルコールを含有しない、(1)に記載の水性懸濁液。
【0013】
(3)高分子がポリビニルピロリドンである、(1)または(2)に記載の水性懸濁液。
【0014】
(4)ポリビニルピロリドンの濃度が2%(w/v)以下である、(3)に記載の水性懸濁液。
【0015】
(5)カルボキシルビニルポリマーをさらに含有する、(4)に記載の水性懸濁液。
【0016】
(6)カルボキシルビニルポリマーの濃度が、0.05~0.2%(w/v)である、(5)に記載の水性懸濁液。
【0017】
(7)ポリビニルピロリドンのK値が17~60である、(1)~(6)のいずれか1に記載の水性懸濁液。
【0018】
(8)ポリビニルピロリドンのK値が30である、(1)~(7)のいずれか1に記載の水性懸濁液。
【0019】
(9)点眼投与されることを特徴とする、(1)~(8)のいずれか1に記載の水性懸濁液。
【0020】
(10)レバミピドまたはその塩がレバミピド(フリー体)である、(1)~(9)のいずれか1に記載の水性懸濁液。
【0021】
(11)レバミピドまたはその塩の濃度が2%(w/v)である、(1)~(10)のいずれか1に記載の水性懸濁液。
【0022】
(12)レバミピドの平均粒子径が0.1~3μmである、(1)~(11)のいずれか1に記載の水性懸濁液。
【0023】
(13)動粘度が1.8~3.0mm/sである、(1)~(12)のいずれか1に記載の水性懸濁液。
【0024】
(14)硝酸銀をさらに含有する、(1)~(13)のいずれか1に記載の水性懸濁液。
【0025】
(15)2%(w/v)のレバミピド(フリー体)、2%(w/v)以下のポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマーおよび硝酸銀を含有し、ポリビニルアルコールを含有しない水性懸濁液であって、レバミピドの平均粒子径が0.1~3μmであり、ポリビニルピロリドンのK値が30であり、動粘度が1.8~3.0mm/sであり、点眼投与されることを特徴とする、水性懸濁液。
【0026】
(16)ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼投与されることを特徴とする、(1)~(15)のいずれか1に記載の水性懸濁液。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、PVAを用いることなくムコスタ(登録商標)点眼液UD2%と同様の性質を有するレバミピド含有水性懸濁液を提供することができる。
【0028】
また、本発明によれば、市販の「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」で認められる涙道閉塞、涙嚢炎などの副作用を起こし難いと期待されるレバミピド含有水性懸濁液を提供することができる他、複数回使用できるマルチドーズ型のレバミピド含有水性懸濁液を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に用いられる、レバミピドは下記式で示される化合物である。
【0030】
【化1】
【0031】
本発明に用いられる、レバミピドの化学名は、(2RS)-2-(4-Chlorobenzoylamino)-3-(2-oxo-1,2-dihydroquinolin-4-yl)propanoic acidである。
【0032】
本発明に用いられる、レバミピドは有機合成化学の分野における通常の方法に従って製造できる。また、レバミピド水和物として、SIGMA社より市販されている。
【0033】
本発明に用いられる、レバミピドの塩としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩、酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2-エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸などの有機酸との塩;臭化メチル、ヨウ化メチルなどとの四級アンモニウム塩;臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオンとの塩;リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩;鉄、亜鉛などとの金属塩;アンモニアとの塩;トリエチレンジアミン、2-アミノエタノール、2,2-イミノビス(エタノール)、1-デオキシ-1-(メチルアミノ)-2-D-ソルビトール、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、プロカイン、N,N-ビス(フェニルメチル)-1,2-エタンジアミンなどの有機アミンとの塩などが挙げられる。
【0034】
本発明において、レバミピド水和物などのレバミピドの溶媒和物は「レバミピドまたはその塩」に含まれる。
【0035】
本発明において、「レバミピドまたはその塩」として好ましいのは、レバミピド(フリー体)である。
【0036】
本発明において、レバミピドまたはその塩に幾何異性体または光学異性体が存在する場合は、当該異性体またはそれらの塩も本発明の範囲に含まれる。また、レバミピドまたはそれらの塩にプロトン互変異性が存在する場合には、当該互変異性体またはそれらの塩も本発明の範囲に含まれる。
【0037】
本発明において、レバミピドまたはそれらの塩(水和物もしくは溶媒和物を含む)に結晶多形および結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合には、それらの結晶多形体および結晶多形群(結晶多形システム)も本発明の範囲に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それら結晶の製造、晶出、保存などの条件および状態(なお、本状態には製剤化した状態も含む)により、結晶形が変化する場合の各段階における個々の結晶形およびその過程全体を意味する。
【0038】
本水性懸濁液に含有されるレバミピドまたはその塩の濃度は、好ましくは0.5~5%(w/v)であり、1~3%(w/v)であることがより好ましく、2%(w/v)であることがさらに好ましい。
【0039】
本水性懸濁液は、カルメロースナトリウム、デキストランおよびポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1つの高分子を含有する。
【0040】
本発明において、カルメロースナトリウムとは、別名カルボキシメチルセルロースナトリウムとも呼ばれるセルロース誘導体を意味する。
【0041】
本発明において、デキストランとは、種々の分子量を有するデキストランを意味する。本水性懸濁液に含有されるデキストランとしては、デキストラン40、デキストラン70が挙げられるが、デキストラン70が特に好ましい。
【0042】
本発明において、ポリビニルピロリドンとは、N-ビニル-2-ピロリドンが重合した高分子化合物を意味する。ポリビニルピロリドンは、ポビドンとも呼ばれ、一般に粘稠化剤として用いられる。
【0043】
本水性懸濁液に含有されるポリビニルピロリドンのK値は17以上であることが好ましいが、17~90であることがより好ましく、17~60であることがさらに好ましく、30であることが最も好ましい。なお、後述するとおり、K値が30であるということは、K値が27~32.4の範囲にあるということと同義である。
【0044】
本水性懸濁液剤に含有されるポリビニルピロリドンとして、例えば、ポリビニルピロリドンK15(PVP K15)、ポリビニルピロリドンK17(PVP K17)、ポリビニルピロリドンK25(PVP K25)、ポリビニルピロリドンK30(PVP K30)、ポリビニルピロリドンK40(PVP K40)、ポリビニルピロリドンK50(PVP K50)、ポリビニルピロリドンK60(PVP K60)、ポリビニルピロリドンK70(PVP K70)、ポリビニルピロリドンK80(PVP K80)、ポリビニルピロリドンK85(PVP K85)、ポリビニルピロリドンK90(PVP K90)、ポリビニルピロリドンK120(PVP K120)などが挙げられるが、ポリビニルピロリドンK30(PVP K30)、ポリビニルピロリドンK40(PVP K40)、ポリビニルピロリドンK50(PVP K50)、ポリビニルピロリドンK60(PVP K60)が好ましく、ポリビニルピロリドンK30(PVP K30)が特に好ましい。
【0045】
なお、ポリビニルピロリドンのK値は、分子量と相関する粘性特性値で、毛細管粘度計により測定される相対粘度値(25℃)を下記のFikentscherの式(1)に適用して計算される数値である。
【0046】
【数1】
【0047】
式(1)中、ηrelは、ポリビニルピロリドン水溶液の水に対する相対粘度、cは、ポリビニルピロリドン水溶液中のポリビニルピロリドン濃度(%)である。
【0048】
ここで、K値は、第十七改正日本薬局方「ポビドン」のK値に関する記載に準じて、表示K値の90~108%であることから、例えば、「K30」とは、上記の式(1)に適用して算出される粘性特性値(K値)が27~32.4の範囲にあるものをいう。
【0049】
本水性懸濁液剤に含有されるポリビニルピロリドンは1種単独でもよく、またK値の異なる2種以上のポリビニルピロリドンを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0050】
本水性懸濁液に含有される高分子の濃度は、好ましくは0.1~10%(w/v)、さらに好ましくは1~10%(w/v)であり、1~3%(w/v)であることが最も好ましい。
【0051】
なお、ポリビニルピロリドンについては、2%(w/v)超の濃度を点眼液に配合した場合の安全性が臨床上確認されていない。このことは、本水性懸濁液に含有されるポリビニルピロリドンの濃度を2%(w/v)超にすることを妨げるものではないが、本水性懸濁液に含有されるポリビニルピロリドンの濃度は2%(w/v)以下とする理由となり得る。したがって、本水性懸濁液に含有される高分子が特にポリビニルピロリドンである場合においては、その配合濃度を、0.1~2%(w/v)とすることがより好ましく、0.5~2%(w/v)とすることがさらに好ましく、1~2%(w/v)とすることが特に好ましく、2%(w/v)とすることが最も好ましい。
【0052】
本水性懸濁液に含有されるポリビニルピロリドンの濃度を2%(w/v)以下とする場合、本水性懸濁液の動粘度を向上させる目的でカルボキシビニルポリマーを添加することができる。
【0053】
本発明においては、カルボキシルビニルポリマーとは、別名カルボマーとも呼ばれるアクリル酸の重合体を意味する。カルボキシルビニルポリマーは市販されており、例えば、Lubrizol社より、CARBOPOL(登録商標)981NF、CARBOPOL(登録商標)974PNF、CARBOPOL(登録商標)971PNFなどが市販されている。
【0054】
本水性懸濁液に含有されるカルボキシビニルポリマーの濃度は、好ましくは0.01~1%(w/v)であり、0.03~0.5%(w/v)であることがより好ましく、0.05~0.3%(w/v)であることがさらに好ましく、0.05~0.2%(w/v)であることが最も好ましい。
【0055】
本発明において、水性懸濁液とは、水を基剤とする懸濁液を意味する。
【0056】
本発明の水性懸濁液に含有されるレバミピドまたはその塩の平均粒子径(D50)は、好ましくは0.01~10μmであり、0.05~5μmであることがより好ましく、0.1~3μmであることがさらに好ましく、0.5~1μmであることが最も好ましい。なお、本水性懸濁液に含有されるレバミピドの平均粒子径はレーザー回折法で算出される。レバミピドの平均粒子径測定法については、背景技術の項で説明した特表2010-507566号公報にも開示されている。
【0057】
本発明の水性懸濁液は、好ましくは、ポリビニルアルコール(PVA)を含有しない。ここで、「ポリビニルアルコールを含有しない」とは、文字どおりポリビニルアルコール(PVA)を全く含有しないか、または、ポリビニルアルコールを実質的に含有しないことを意味する。なお、「ポリビニルアルコール」には、ポリビニルアルコール部分けん化物が含まれるものとする。
【0058】
本水性懸濁液は、ドライアイまたはこれに付随する症状の治療または緩和のために1日数回に分けて眼局所に投与されるが、好ましくは1回1滴、1日4回、点眼投与される。
【0059】
本水性懸濁液は、眼局所に投与される剤形とすることができるが、点眼容器に充填した点眼剤とすることが好ましい。
【0060】
本水性懸濁液の動粘度は、好ましくは1.0~10.0mm/sであり、1.5~5.0mm/sであることがより好ましく、1.8~3.0mm/sであることがさらに好ましく、2.0~2.5mm/sであることが最も好ましい。なお、動粘度は、ウベローデ粘度計(測定温度:25.0℃)で測定される。
【0061】
本水性懸濁液は、一回使い切り型のユニットドーズ型の点眼剤とすることもできるし、防腐剤を添加して、複数回使用されるマルチドーズ型の点眼剤とすることもできる。
【0062】
本水性懸濁液に添加できる防腐剤としては、銀または銀塩、ベンザルコニウム塩化物、クロロブタノールなどが例示されるが、銀塩が特に好ましい。
【0063】
本発明において、銀塩とは、例えば、硝酸銀、硫酸銀、塩化銀、臭化銀、酸化銀、酢酸銀、炭酸銀、クエン酸銀、乳酸銀、リン酸銀、シュウ酸銀、チオ硫酸銀、プロテイン銀などが挙げられるが、好ましくは硝酸銀を意味する。
【0064】
本水性懸濁液に含有される銀または銀塩の濃度は、好ましくは0.000005%(w/v)超であり、0.000006~0.0002%(w/v)であることがより好ましく、0.000007~0.00015%(w/v)であることがさらに好ましく、0.000008~0.00012%(w/v)であることが特に好ましく、0.000009~0.0001%(w/v)であることが最も好ましい。
【0065】
本水性懸濁液に添加される銀塩が硝酸銀の場合、本水性懸濁液に含有される硝酸銀の濃度は、好ましくは0.00001%(w/v)超であり、0.000011~0.0001%(w/v)であることがより好ましく、0.000015~0.00005%(w/v)であることがさらに好ましく、0.00002~0.00005%(w/v)であることが特に好ましく、0.00002~0.00004%(w/v)であることが最も好ましい。
【0066】
本水性懸濁液には、カルメロースナトリウム、デキストランおよびポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1つの高分子、防腐剤以外の添加物を添加することができる。前記添加物としては、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、イプシロン-アミノカプロン酸などの緩衝化剤;塩化ナトリウム、塩化カリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;塩酸、水酸化ナトリウムなどのpH調節剤などが例示される。
【0067】
本水性懸濁液のpHは、好ましくは4.0~7.0であり、さらに好ましくは5.0~7.0であり、5.5~6.5であることが最も好ましい。
【0068】
本水性懸濁液の浸透圧比は、好ましくは0.5~1.5であり、さらに好ましくは0.7~1.3であり、0.9~1.1であることが最も好ましい。
【0069】
本水性懸濁液は、ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズ装用眼にも点眼することができる。
【0070】
ソフトコンタクトレンズ(SCL)は、平成11年3月31日医薬審第645号「ソフトコンタクトレンズおよびソフトコンタクトレンズ用消毒剤の製造(輸入)承認申請に際し添付すべき資料の取扱い等について」に従い、4つに分類される。すなわち、グループI(含水率が50%未満で非イオン性であるもの)、グループII(含水率が50%以上で非イオン性であるもの)、グループIII(含水率が50%未満でイオン性であるもの)、グループIV(含水率が50%以上でイオン性であるもの)に分類され、原材料ポリマーの構成モノマーのうち陰イオンを有するモノマーのモル%が1%以上であるものをイオン性、1%未満であるものを非イオン性とされる。また、ソフトコンタクトレンズとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、(ポリエチレングリコール)モノメタクリレート(PEGMA)、グリセロールメタクリレート(GMA)、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMA)、ビニルアルコール(VA)、N-ビニルピロリドン(NVPまたはVP)、メタクリル酸(MAA)、フッ素系含有メタクリレート系化合物、ケイ素含有メタクリレート系化合物、シリコーンハイドロゲル、シクロアルキルメタクリレートなどを主成分とするソフトコンタクトレンズなどが挙げられる。
【0071】
本発明において、「ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼投与される」とは、ソフトコンタクトレンズを装用した状態で本水性懸濁液を点眼投与できることを意味する。なお、ベンザルコニウム塩化物はソフトコンタクトレンズに吸着すること、ソフトコンタクトレンズを変形させることなどが知られていることから、「ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼投与される本水性懸濁液」はベンザルコニウム塩化物を防腐剤として含有しないことが好ましい。
【0072】
以下に、本水性懸濁液を使用した試験の結果および製剤例を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0073】
[試験1]
本水性懸濁液がホウ酸存在下でゲル化するか否かを検討した。
【0074】
(試料調製方法)
処方1-1:クエン酸ナトリウム水和物0.146g、塩化ナトリウム0.62g、塩化カリウム0.18g、カルボキシビニルポリマー0.11g、ポリビニルピロリドン2.0g、硝酸銀0.00004gを水に溶かし、レバミピド2.0gを加えて攪拌懸濁し、pH6.9とし、水を加えて100mLとした。
【0075】
比較処方1-1:市販の「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」を使用した。
【0076】
比較処方1-2(人工涙液):塩化ナトリウム0.85g、塩化カリウム0.4g、塩化カルシウム水和物0.022gを水に溶かし、100mLとした。
【0077】
ホウ酸含有液:ホウ酸0.5g、塩化ナトリウム0.4g、塩化カリウム0.1gを水に溶かし、pH7.0とし、水を加えて100mLとした。
【0078】
(試験方法)
処方1-1をビーカーに0.35mL取り、ホウ酸含有液を1mL加えて混合した。その溶液をスパーテルですくい取り、糸状のゲルが認められたものを「ゲル化有り」とした。上記操作を比較処方1-1、人工涙液についても同様に行った。
【0079】
(結果)
試験結果を表1に示す。処方1-1、比較処方1-2(人工涙液)ではゲル化が認められなかったが、比較処方1-1は糸状のゲル化を認めた。
【0080】
【表1】
【0081】
(考察)
背景技術の項で記載したとおり、ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%では涙道閉塞、涙嚢炎などの副作用が認められるが、この原因として、ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%に含まれるPVAが他の点眼液などに含まれるホウ酸イオンと反応してゲル化することが指摘されている。本試験においても、ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%がホウ酸イオンと反応してゲル化することが確認された一方、本水性懸濁液には当該作用が認めれなかったことから、本水性懸濁液は涙道閉塞、涙嚢炎などの副作用を起こし難いことが期待される。
【0082】
[試験2]
ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%で使用されているポリビニルアルコール部分けん化物、およびPVA以外の各高分子にレバミピドを懸濁した水性懸濁液に含有されるレバミピドの粒子径(D50)を測定し、これらを比較した。
【0083】
(試料調製方法)
表2に示す成分を0.5%(w/v)~1%(w/v)の間の溶解可能な濃度範囲で水に溶解して各溶液を調製し、これに最終濃度が2%(w/v)となる量のレバミピドを添加し、水性懸濁液を調製した。
【0084】
(試験方法)
レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、レバミピドの粒子径(D50)を比較した。
【0085】
(結果)
測定結果を表2に示す。ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%で使用されているポリビニルアルコール部分けん化物を用いてレバミピド水性懸濁剤を調製した場合のレバミピドのD50は約1μmであった。一方、PVA以外の多くの高分子を用いてレバミピド水性懸濁剤を調製した場合、レバミピドのD50は数十~数百μmのオーダーとなったが、カルメロースナトリウム、デキストラン、ポリビニルピロリドンを用いた場合には、レバミピドのD50を3μm未満とすることに成功した。
【0086】
【表2】
【0087】
(考察)
PVAに換えてカルメロースナトリウム、デキストラン70またはポリビニルピロリドンを用いて調製されたレバミピド水性懸濁液の粒子径は、ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%のそれと同程度であることが示された。特に、PVAに換えてポリビニルピロリドンK30(ポビドンK30)を用いた場合には、ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%とほぼ同一のレバミピドの粒子径が得られることが示唆された。
【0088】
[試験3]
水性懸濁液の粘度を「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」と同等にできる高分子および濃度を比較した。また、その際の粒度分布を測定した。
【0089】
(試料調製方法)
処方3-1:クエン酸ナトリウム水和物0.15g、塩化ナトリウム0.62g、塩化カリウム0.18g、カルボキシビニルポリマー(CARBOPOL(登録商標)971PNF)0.11g、ポリビニルピロリドンK30 2g、硝酸銀0.00003gを水に溶かし、レバミピド2gを加えて攪拌懸濁し、pH5.9とし、水を加えて100mLとした。
【0090】
処方3-2~3-6:表3の処方表に従って、処方3-1と同様にして調製した。
【0091】
比較処方:市販の「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」を使用した。
【0092】
(試験方法)
ウベローデ粘度計を用い、「日局 一般試験法 粘度測定法 第一法」に従って動粘度を測定した。また、前述のレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、レバミピドの粒度分布を測定した。
【0093】
(結果)
測定結果を表3に示す。ポリビニルピロリドンの濃度を6%(w/v)とすることで、市販の「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」と同等の粘度を有するレバミピド水性懸濁液が調整可能であった。また、ポリビニルピロリドンの濃度を2%(w/v)以下とした場合においては、カルボキシルビニルポリマーを添加することで、市販の「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」と同等またはこれを凌ぐ粘度を有するレバミピド水性懸濁液が得られる一方、レバミピドの粒子径は全く影響を受けないことが確認された。
【0094】
【表3】
【0095】
(考察)
本試験結果から、ポリビニルピロリドンの添加濃度を6%(w/v)以上とすることで、市販の「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」と同等の粘度および粒子径を有するレバミピド水性懸濁液が調製できることが示唆された。一方、ポリビニルピロリドンの添加濃度を臨床上安全性が確認されている2%以下に設定した場合には、カルボキシルビニルポリマーを追加的に添加することで、市販の「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」と同等の粘度および粒子径を有するレバミピド水性懸濁液が調製できることが示唆された。なお、試験2で示されたように、カルボキシルビニルポリマーのみを用いてレバミピド水性懸濁剤を調製した場合、レバミピドのD50は数十~数百μmのオーダーとなることを考慮すれば、カルボキシルビニルポリマーの添加がレバミピドの粒子径に全く影響を与えなかったことは驚くべき結果である。
【0096】
[試験4]
本水性懸濁液に含有されるレバミピドの平均粒子径を「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」のそれと比較した。
【0097】
(試料調製方法)
処方4-1:クエン酸ナトリウム水和物0.146g、塩化ナトリウム0.62g、塩化カリウム0.18g、カルボキシビニルポリマー(CARBOPOL(登録商標)971PNF)0.11g、ポリビニルピロリドンK30 2g、硝酸銀0.00004gを水に溶かし、レバミピド2gを加えて攪拌懸濁し、pH5.9とし、水を加えて100mLとした。
【0098】
比較処方:市販の「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」を使用した。
【0099】
(試験方法)
レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定した。
【0100】
(結果)
測定結果を表4に示す。粒度分布は市販の「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」の範囲内であった。
【0101】
【表4】
【0102】
(考察)
本水性懸濁液の粒度分布は市販の「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」の範囲内にあり、また、前述したとおり、本水性懸濁液は「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」と同程度の動粘度を有すると考えられる。従って、本水性懸濁液は「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」と同等の治療効果を奏することが期待される。
【0103】
なお、ドライアイに対する治療効果はドライアイモデル動物を用いた試験等により評価することが可能である。汎用されるドライアイモデル動物において本水性懸濁液が「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」と同等の治療効果を有することは確認済みである。
【0104】
[試験5]
本水性懸濁液に含有されるレバミピドの60℃2週間および40℃3ヵ月保存時の物理化学的安定性を「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」のそれと比較した。
【0105】
(試料調製方法)
処方5-1:クエン酸ナトリウム水和物0.146g、塩化ナトリウム0.62g、塩化カリウム0.18g、カルボキシビニルポリマー(CARBOPOL(登録商標)971PNF)0.11g、ポリビニルピロリドンK30 2g、硝酸銀0.00004gを水に溶かし、レバミピド2gを加えて攪拌懸濁し、pH5.9とし、水を加えて100mLとした。
【0106】
比較処方:市販の「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」を使用した。
【0107】
(試験方法)
処方5-1および比較処方を点眼容器に5mL入れ、60℃で2週間保存した。また、40℃で2ヶ月および3ヵ月保存した。保存前後の物理化学的性質を評価するため、以下の試験項目および測定方法で評価した。
【0108】
pH、粘度、粒子径、再分散性(処方5-1のみ)について測定した。
・pH:日局 一般試験法 pH測定法に従って実施した。
・粘度:比較処方については、コーンプレート型粘度計を用い、「日局 一般試験法 粘度測定法 第二法」に従って粘度を測定した。処方5-1については、ウベローデ粘度計を用い、「日局 一般試験法 粘度測定法 第一法」に従って動粘度を測定した。
・粒子径:レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定した。
・再分散性:ボトルを横向きに親指と人差し指で挟んで持ち、左右に15秒振り混ぜた後、目視によりボトルへの付着がない場合は再分散性良好とした。
【0109】
(結果)
測定結果を表5に示す。全ての試験項目において保存前後で変化は認めず安定であった。保存中に市販の「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」についてはpHの低下が認められたが、処方5-1についてはpHの低下は認められなかった。
【0110】
【表5】
【0111】
(考察)
処方5-1の物理化学的安定性は、比較処方である市販の「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」と同等であった。
【0112】
[試験6]
市販の「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」は一回使い切りのユニットドーズ型の点眼液であるが、一般に、防腐剤を含有し、複数回点眼可能なマルチドーズ型の点眼液の方が利便性に優れるため、2% レバミピド含有水性懸濁液に配合可能な防腐剤の探索を行なった。
【0113】
(試料調製方法)
比較処方6-1:市販の「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」を使用した。
比較処方6-2:表6に示す処方に従って、比較処方6-2を調製した。具体的には、クエン酸ナトリウム水和物0.15g、塩化ナトリウム0.72g、塩化カリウム0.18g、ポリビニルアルコール部分けん化物1g、クロルヘキシジングルコン酸塩0.01gを水に溶かし、レバミピド2gを加えて攪拌懸濁し、pH6.0とし、水を加えて100mLとした。
【0114】
比較処方6-3~6-12:表6および表7に示す処方に従って、比較処方6-2と同様にして調製した。
【0115】
(試験方法)
保存効力試験は、第十七改正日本薬局方の保存効力試験法に準拠して行なった。本試験では、試験菌として、Esherichia Coli(E.coli)、Pseudomonas aeruginosa(P.aeruginosa)、Staphylococcus aureus(S.aureus)、Candida albicans(C.albicans)およびAspergillus braziliensis(A.braziliensis)の全てまたは一部を用いた。なお、クロルヘキシジングルコン酸塩の含量は、「日局 高速液体クロマトグラフィー法」により測定した。
【0116】
(結果)
測定結果を表6および表7に示す。保存効力試験に適合したのはクロロブタノールまたは硝酸銀を含有するレバミピド含有水性懸濁液のみであった。
【0117】
【表6】
【0118】
【表7】
【0119】
(考察)
クロルヘキシジングルコン酸塩はソフトコンタクトレンズ装用眼にも使用できる点で優れた防腐剤であるが、レバミピド含有水性懸濁液に用いる防腐剤には適さないことが明らかとなった。これは、懸濁性点眼液中のクロルヘキシジングルコン酸塩の溶解量は配合量に対してわずか約3%であったことから、レバミピドと複合体を形成して沈殿し、保存効力を十分発揮する量が存在しなかったためと考えられた。
【0120】
種々の防腐剤を検討したところ、硝酸銀およびクロロブタノールについては、本水性懸濁液に配合可能な防腐剤であることが示唆された。
【0121】
[試験7]
各濃度の硝酸銀が本水性懸濁液の保存効力に及ぼす影響および本水性懸濁液中の硝酸銀の安定性を評価した。
【0122】
(試料調製方法)
処方7-1:表8に示す処方に従って、処方7-1を調製した。具体的には、クエン酸ナトリウム水和物0.146g、塩化ナトリウム0.65g、塩化カリウム0.18g、ポリビニルピロリドンK30 2g、カルボキシビニルポリマー(CARBOPOL(登録商標)971PNF)0.11g、硝酸銀0.00004gを水に溶かし、レバミピド2gを加えて攪拌懸濁し、pH5.9とし、水を加えて100mLとした。
【0123】
処方7-2-7~4:表8に示す処方に従って、処方7-1と同様にして調製した。
【0124】
(試験方法)
<保存効力試験>
保存効力試験は、第十七改正日本薬局方の保存効力試験法に準拠して行なった。本試験では、試験菌として、Esherichia Coli(E.coli)、Pseudomonas aeruginosa(P.aeruginosa)、Staphylococcus aureus(S.aureus)、Candida albicans(C.albicans)およびAspergillus braziliensis(A.braziliensis)を用いた。
【0125】
<安定性試験>
処方7-1および処方7-3を点眼容器に5mL入れ、40℃で3ヵ月または、光120万lx・hrで保存した。保存前後の薬液中の硝酸銀の含量を「日局 誘導結合プラズマ質量分析法」により測定した。
【0126】
(試験結果)
試験結果を表8および表9に示す。0.00002%(w/v)以上の硝酸銀を含有する本水性懸濁液は保存効力試験に適合することが確認された。また、保存期間中に本水性懸濁液中の硝酸銀濃度の変動は認められなかった。
【0127】
【表8】
【0128】
【表9】
【0129】
(考察)
硝酸銀を防腐剤として添加することで、本水性点眼液を複数回点眼可能なマルチドーズ型の点眼液として製品化できることが示された。
【0130】
[試験8]
本水性懸濁液がソフトコンタクトレンズの物性に与える影響を評価した。
【0131】
(試料調製方法)
比較処方:市販の「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」を使用した。
処方8-1:表10に示す処方に従って、処方8-1を調製した。具体的には、クエン酸ナトリウム水和物0.146g、塩化ナトリウム0.65g、塩化カリウム0.18g、ポリビニルピロリドンK30 1g、メチルセルロース0.5g、硝酸銀0.0000473gを水に溶かし、レバミピド2gを加えて攪拌懸濁し、pH5.9とし、水を加えて100mLとした。
【0132】
【表10】
【0133】
(試験方法)
ソフトコンタクトレンズ(2ウィークアキュビュー)を生理食塩水に浸漬し、物性(直径、ベースカーブ)を測定した。比較処方または処方8-1に4時間浸漬した場合の物性(直径、ベースカーブ)を測定した。測定後、生理食塩水に15分間浸漬し再度物性(直径、ベースカーブ)を測定した。以下の式で変化量を算出した。
変化量=薬液浸漬又は再浸漬後の測定値-生理食塩水浸漬時の測定値
<変化量の単位>
mm:直径、ベースカーブ
【0134】
(試験結果)
処方8-1に浸漬後のソフトコンタクトレンズでは、直径の低下、ベースカーブの低下が認められたが、どちらも比較処方と同等以下の変化量であった。また、その後の生理食塩水への浸漬により、厚生労働省告示第349号 視力補正用コンタクトレンズ基準(表13)内に戻った。
【0135】
【表11】
【0136】
【表12】
【0137】
【表13】
【0138】
(考察)
ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%はソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼投与可能とされている。本水性懸濁液はムコスタ(登録商標)点眼液UD2%の変化の範囲内であったことから、本水性懸濁液がソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼投与可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明によれば、ポリビニルアルコールを用いることなくムコスタ(登録商標)点眼液UD2%と同様の性質を有するレバミピド含有水性懸濁液を提供することができる。