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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂組成物及び電子機器
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20220921BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220921BHJP
   C08L 51/08 20060101ALI20220921BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20220921BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20220921BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20220921BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/013
C08L51/08
C08L83/05
C08L83/07
H01L23/36 M
H01L23/36 D
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022517263
(86)(22)【出願日】2021-10-05
(86)【国際出願番号】 JP2021036778
(87)【国際公開番号】W WO2022075307
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2022-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2020168732
(32)【優先日】2020-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100127247
【弁理士】
【氏名又は名称】赤堀 龍吾
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 和幸
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 正雄
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/131486(WO,A1)
【文献】特開2017-031231(JP,A)
【文献】特開2015-140395(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107325782(CN,A)
【文献】特開昭60-179417(JP,A)
【文献】特開平03-030825(JP,A)
【文献】特開2004-109179(JP,A)
【文献】特開2016-121350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位Aと、カチオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位Bと、シリコーン(メタ)アクリル系単量体単位Cと、を有する共重合体(a)5~95重量部と、
シリコーン樹脂(b)95~5重量部と、
10W/mK以上の熱伝導性充填材(c)500~3000重量部と、を含み、
前記共重合体(a)と前記シリコーン樹脂(b)の合計含有量が100重量部であり、
前記シリコーン樹脂(b)が、架橋型シリコーン樹脂(b-1)を含み、
該架橋型シリコーン樹脂(b-1)の含有量が、前記シリコーン樹脂(b)の総量に対して、5~100質量%であり、
前記(メタ)アクリル系単量体単位Aが、前記アニオン性基として、カルボキシ基、リン酸基、フェノール性ヒドロキシ基、又はスルホン酸基を有し、
前記(メタ)アクリル系単量体単位Bが、前記カチオン性基として、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、及び第四級アンモニウム塩からなる群より選ばれる一種以上を有し、
前記シリコーン(メタ)アクリル系単量体単位Cが、ジメチルシロキサン骨格、メチルフェニルシロキサン骨格、又はジフェニルシロキサン骨格を有する、
熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
前記シリコーン樹脂(b)が、非架橋型シリコーン樹脂(b-2)をさらに含み、
前記架橋型シリコーン樹脂(b-1)の含有量が、前記シリコーン樹脂(b)の総量に対して、5~99質量%である、
前記非架橋型シリコーン樹脂(b-2)の含有量が、前記シリコーン樹脂(b)の総量に対して、95~1質量%である、
請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記非架橋型シリコーン樹脂(b-2)が、直鎖状ポリオルガノシロキサンである、
請求項2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
前記非架橋型シリコーン樹脂(b-2)の粘度が、25℃においてせん断速度10sec-1で測定した値として、1~10,000mPa・sである、
請求項2又は3に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
前記架橋型シリコーン樹脂(b-1)が、分子中に2個以上のアルケニル基を有するポリオルガノシロキサン(b-1-1)と、分子中に2個以上のSiH基を含有するポリオルガノシロキサン(b-1-2)と、が反応してなるものである、
請求項1~4のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
前記アニオン性基が、カルボキシ基、リン酸基、及びフェノール性ヒドロキシ基からなる群より選ばれる一種以上を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル系単量体単位Aが、前記アニオン性基に結合した電子吸引性基をさらに有する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル系単量体単位Bが、前記カチオン性基に結合した電子供与性基をさらに有する、
請求項1~7のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項9】
前記共重合体(a)の重量平均分子量が、5,000~500,000である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項10】
前記(メタ)アクリル系単量体単位A及び前記(メタ)アクリル系単量体単位Bの総含有量が、前記(メタ)アクリル系単量体単位A、前記(メタ)アクリル系単量体単位B、及び前記シリコーン(メタ)アクリル系単量体単位Cの合計100モル%に対して、0.05~90モル%である、
請求項1~9のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項11】
前記(メタ)アクリル系単量体単位Aの含有量が、前記(メタ)アクリル系単量体単位A、前記(メタ)アクリル系単量体単位B、及び前記シリコーン(メタ)アクリル系単量体単位Cの合計100モル%に対して、0.03~85モル%である、
請求項1~10のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項12】
前記(メタ)アクリル系単量体単位Bの含有量が、前記(メタ)アクリル系単量体単位A、前記(メタ)アクリル系単量体単位B、及び前記シリコーン(メタ)アクリル系単量体単位Cの合計100モル%に対して、0.1~10モル%である、
請求項1~11のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項13】
前記シリコーン(メタ)アクリル系単量体単位Cの含有量が、前記(メタ)アクリル系単量体単位A、前記(メタ)アクリル系単量体単位B、及び前記シリコーン(メタ)アクリル系単量体単位Cの合計100モル%に対して、10~99.5モル%である、
請求項1~12のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項14】
前記(メタ)アクリル系単量体単位Bに対する前記(メタ)アクリル系単量体単位Aのモル比が、0.01~50である、
請求項1~13のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項15】
表面処理剤(d)を、前記熱伝導性充填材(c)100重量部に対して、0.01~5重量部含む、
請求項1~14いずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項16】
前記熱伝導性充填材(c)が、アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ダイヤモンドの中から選択される1種以上である、
請求項1~15のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項17】
発熱体と、ヒートシンクと、請求項1~16のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物又はその硬化物と、を有し、
前記発熱体と前記ヒートシンクとの間に、前記熱伝導性樹脂組成物又は前記硬化物が配された、
電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性樹脂組成物及びそれを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンのCPU(中央処理装置)等の発熱性電子部品の小型化、高出力化に伴い、それらの電子部品から発生する単位面積当たりの熱量は非常に大きくなってきている。それらの熱量はアイロンの約20倍の熱量にも達する。この発熱性の電子部品を長期にわたり故障しないようにするためには、発熱する電子部品の冷却が必要とされる。
【0003】
冷却には金属製のヒートシンクや筐体が使用され、さらに発熱性電子部品からヒートシンクや筐体などの冷却部へ効率よく熱を伝えるために熱伝導性材料が使用される。発熱性電子部品とヒートシンク等を熱伝導性材料がない状態で接触させた場合、その界面には微視的にみると、空気が存在し熱伝導の障害となる。そのため、界面に存在する空気の代わりに熱伝導性材料を発熱性電子部品とヒートシンク等の間に存在させることによって、効率よく熱を伝えることが行われている。
【0004】
熱伝導性材料としては、熱硬化性樹脂に熱伝導性充填材を充填し、シート状に成形した熱伝導性パッドや熱伝導性シート、流動性のある樹脂に熱伝導性充填材を充填し塗布や薄膜化が可能な熱伝導性グリース、発熱性電子部品の作動温度で軟化又は流動化する相変化型熱伝導性材料などがある。
【0005】
シート状の放熱材料は取り扱いが容易であり、かつ長期の形状維持性に優れているが、接触熱抵抗が大きく、また自動実装の点でグリース状のものに劣ってしまう。そこで近年、シートが主に使用されていた0.3mm以上の厚みで放熱グリースを使用することが増えてきている。それに伴い垂直置きで使用されることも多く、塗布性と耐ずれ性を両立した熱伝導性グリースが求められている。
【0006】
このような放熱グリースは、一般に樹脂中に、シランカップリング剤などにより表面処理を施した無機充填材を含む。シランカップリング剤以外の表面処理剤としては、例えば、ポリブタジエン構成単位と、加水分解性シリル基を有する構成単位と、ポリシロキサン骨格を有する構成単位と、を含む共重合体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかし、シランカップリング剤といった低分子化合物を配合した場合、電子部品の発熱に伴い揮発してボイドが発生することにより、放熱性能が低下する。また、鎖中に加水分解性基を有するオリゴマー等を配合した場合、経時で成分がブリードするため密着性が低下し、やはり放熱性能が低下する。これらを解決するために、特許文献1では高分子量の表面処理剤を用いることが提案されている。
【0008】
また、放熱グリースを垂直置きで使用する場合、冷熱衝撃等によりズレ(たれ落ち、ポンプアウト現象)が生じ、放熱性がさらに低下しやすくなる。これを解決するために、特許文献2では熱伝導性充填材を含むオルガノポリシロキサンを有機過酸化物で架橋し、耐ずれ性を向上させている。また、特許文献3では酸化鉄充填材を、特許文献4では水酸化アルミニウム充填材を、特定の割合混合することで耐ずれ性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-062552号公報
【文献】特開2017-226724号公報
【文献】特開2015-140395号公報
【文献】特許第5300408号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、引用文献1に開示されるような高分子量の表面処理剤を用いた場合には、グリース粘度が増大し塗布性能(流動性)が低下するという問題が生じる。さらに、従来の表面処理剤や分散剤を用いた放熱グリースは、高温で長時間保持した場合に、分散破壊が生じ充填材の再凝集により割れが発生して熱を効率良く逃がすことができなくなり、放熱特性が低下することがわかってきた。このような放熱性能の低下は電子機器の信頼性の低下にもつながる。
【0011】
また、特許文献2では所定の温度下で有機過酸化物の半減期が10時間となるように構成されており、長時間の耐ずれ性には未だ課題が残っている。さらに、特許文献3や4は、使用可能な熱伝導性充填材が制限されているため、放熱グリースの設計自由度が失われ、十分な放熱特性を発揮することが難しい。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、熱伝導性充填材の種類による制限を受けることなく、良好な流動性を有し、高温の状態で長時間保持した場合であっても、熱伝導性充填材の分散性を維持することができ、ボイドや割れの発生を抑制することができ、また、ブリードアウトが抑制され、耐ズレ性にも優れる熱伝導性樹脂組成物、及びそれを用いた電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、所定の単量体単位を含む共重合体と、架橋型シリコーン樹脂とを用いることにより、上記問題を解決しうることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
アニオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位Aと、カチオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位Bと、シリコーン(メタ)アクリル系単量体単位Cと、を有する共重合体(a)5~95重量部と、
シリコーン樹脂(b)95~5重量部と、
10W/mK以上の熱伝導性充填材(c)500~3000重量部と、を含み、
前記共重合体(a)と前記シリコーン樹脂(b)の合計含有量が100重量部であり、
前記シリコーン樹脂(b)が、架橋型シリコーン樹脂(b-1)を含み、
該架橋型シリコーン樹脂(b-1)の含有量が、前記シリコーン樹脂(b)の総量に対して、5~100質量%である、
熱伝導性樹脂組成物。
〔2〕
前記シリコーン樹脂(b)が、非架橋型シリコーン樹脂(b-2)をさらに含み、
前記架橋型シリコーン樹脂(b-1)の含有量が、前記シリコーン樹脂(b)の総量に対して、5~99質量%である、
前記非架橋型シリコーン樹脂(b-2)の含有量が、前記シリコーン樹脂(b)の総量に対して、95~1質量%である、
〔1〕に記載の熱伝導性樹脂組成物。
〔3〕
前記非架橋型シリコーン樹脂(b-2)が、直鎖状ポリオルガノシロキサンである、
〔2〕に記載の熱伝導性樹脂組成物。
〔4〕
前記非架橋型シリコーン樹脂(b-2)の粘度が、25℃においてせん断速度10sec-1で測定した値として、1~10,000mPa・sである、
〔2〕又は〔3〕に記載の熱伝導性樹脂組成物。
〔5〕
前記架橋型シリコーン樹脂(b-1)が、分子中に2個以上のアルケニル基を有するポリオルガノシロキサン(b-1-1)と、分子中に2個以上のSiH基を含有するポリオルガノシロキサン(b-1-2)と、が反応してなるものである、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
〔6〕
前記アニオン性基が、カルボキシ基、リン酸基、及びフェノール性ヒドロキシ基からなる群より選ばれる一種以上を含む、
〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
〔7〕
前記(メタ)アクリル系単量体単位Aが、前記アニオン性基に結合した電子吸引性基をさらに有する、
〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
〔8〕
前記カチオン性基が、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、及び第四級アンモニウム塩からなる群より選ばれる一種以上を含む、
〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
〔9〕
前記(メタ)アクリル系単量体単位Bが、前記カチオン性基に結合した電子供与性基をさらに有する、
〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
〔10〕
前記共重合体(a)の重量平均分子量が、5,000~500,000である、
〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
〔11〕
前記(メタ)アクリル系単量体単位A及び前記(メタ)アクリル系単量体単位Bの総含有量が、前記(メタ)アクリル系単量体単位A、前記(メタ)アクリル系単量体単位B、及び前記シリコーン(メタ)アクリル系単量体単位Cの合計100モル%に対して、0.05~90モル%である、
〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
〔12〕
前記(メタ)アクリル系単量体単位Aの含有量が、前記(メタ)アクリル系単量体単位A、前記(メタ)アクリル系単量体単位B、及び前記シリコーン(メタ)アクリル系単量体単位Cの合計100モル%に対して、0.03~85モル%である、
〔1〕~〔11〕のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
〔13〕
前記(メタ)アクリル系単量体単位Bの含有量が、前記(メタ)アクリル系単量体単位A、前記(メタ)アクリル系単量体単位B、及び前記シリコーン(メタ)アクリル系単量体単位Cの合計100モル%に対して、0.1~10モル%である、
〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
〔14〕
前記シリコーン(メタ)アクリル系単量体単位Cの含有量が、前記(メタ)アクリル系単量体単位A、前記(メタ)アクリル系単量体単位B、及び前記シリコーン(メタ)アクリル系単量体単位Cの合計100モル%に対して、10~99.5モル%である、
〔1〕~〔13〕のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
〔15〕
前記(メタ)アクリル系単量体単位Bに対する前記(メタ)アクリル系単量体単位Aのモル比が、0.01~50である、
〔1〕~〔14〕のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
〔16〕
表面処理剤(d)を、前記熱伝導性充填材(c)100重量部に対して、0.01~5重量部含む、
〔1〕~〔15〕いずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
〔17〕
前記熱伝導性充填材(c)が、アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ダイヤモンドの中から選択される1種以上である、
〔1〕~〔16〕のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
〔18〕
発熱体と、ヒートシンクと、〔1〕~〔17〕のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物又はその硬化物と、を有し、
前記発熱体と前記ヒートシンクとの間に、前記熱伝導性樹脂組成物又は前記硬化物が配された、
電子機器。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱伝導性充填材の種類による制限を受けることなく、良好な流動性を有し、高温の状態で長時間保持した場合であっても、熱伝導性充填材の分散性を維持することができ、ボイドや割れの発生を抑制することができ、また、ブリードアウトが抑制され、耐ズレ性にも優れる熱伝導性樹脂組成物、及びそれを用いた電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例におけるたれ落ち性の試験方法を説明する模式図である。
図2】実施例におけるたれ落ち性の試験方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0018】
〔熱伝導性樹脂組成物〕
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、アニオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位Aと、カチオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位Bと、シリコーン(メタ)アクリル系単量体単位Cと、を有する共重合体(a)5~95重量部と、シリコーン樹脂(b)95~5重量部と、10W/mK以上の熱伝導性充填材(c)500~3000重量部と、を含み、共重合体(a)とシリコーン樹脂(b)の合計含有量が100重量部であり、シリコーン樹脂(b)が、架橋型シリコーン樹脂(b-1)を含み、該架橋型シリコーン樹脂(b-1)の含有量が、前記シリコーン樹脂(b)の総量に対して、5~100質量%である。
【0019】
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物においては、上記共重合体(a)を用いることにより、シリコーン樹脂(b)中に熱伝導性充填材(c)を高充填した場合でも、熱伝導性充填材(c)の分散性を維持することができる。特に、共重合体(a)を用いることにより、多様な熱伝導性充填材を使用することが可能となり、また、高温で長時間保持した場合でも、ボイドや割れが発生を抑制することが可能となる。
【0020】
さらに、本実施形態の熱伝導性樹脂組成物においては、架橋型シリコーン樹脂(b-1)を用いることにより、シリコーン樹脂(b)のブリードアウトを抑制することができ、耐ズレ性を向上することが可能となる。
【0021】
〔共重合体(a)〕
共重合体(a)は、アニオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位Aと、カチオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位Bと、シリコーン(メタ)アクリル系単量体単位Cを有する。本実施形態の共重合体(a)は、上記構成を有することにより、高温の状態で長時間保持した場合であっても、熱伝導性充填材(c)の分散性を維持することができる。その理由は、以下のように考えられるが、以下に限定されるものではない。
【0022】
分散媒に分散した分散質の表面のように2つの異なる物質が接する界面には所定の電位差が生じ、対イオンを引き寄せ、固定相と拡散二重層からなる電気二重層が形成される。分散質の表面における対イオンの広がりを電気二重層の厚さともいう。分散質同士が接近すると対イオンが重なり、反発力が増加する。本実施形態の共重合体(a)は、分子中にアニオン性基とカチオン性基の両性を有することにより、この電気二重層の厚さを増加させる作用を有するものと考えられる。より具体的には、共重合体(a)のアニオン性基とカチオン性基の一方が対イオンとして分散質の表面近傍に配置される。そして、対イオンとして機能しない他方の基(副イオン)は分散質の表面よりもより遠方に配置され、そこで副イオン層をさらに形成し得る。このようにして熱伝導性充填材(c)表面の電気二重層の厚みが増加することにより、van der Waals力が作用する分散質の表面よりもより遠方で、静電反発力を作用させることができ、高温の状態で長時間保持したような場合であっても、分散質の分散性を良好に維持できると考えられる。
【0023】
本実施形態において、「単量体」とは、重合前の重合性不飽和結合を有するモノマーをいい、「単量体単位」とは、重合後に共重合体(a)の一部を構成する繰り返し単位であって、所定の単量体に由来する単位をいう。また、(メタ)アクリルには、アクリル及びメタクリルが含まれ、(メタ)アクリル系単量体には、(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリルアミドが含まれる。さらに、以下において、「(メタ)アクリル系単量体単位A」等を、単に「単位A」等ともいう。
【0024】
(アニオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位A)
(メタ)アクリル系単量体単位Aは、アニオン性基を有する繰り返し単位である。アニオン性基としては、特に制限されないが、例えば、カルボキシ基、リン酸基、フェノール性ヒドロキシ基、スルホン酸基が挙げられる。このなかでも、カルボキシ基、リン酸基、及びフェノール性ヒドロキシ基からなる群より選ばれる一種以上であることが好ましい。このような基を有することにより、分散質の分散性がより向上する傾向にある。
【0025】
また、単位Aは、アニオン性基に結合した電子吸引性基をさらに有することが好ましい。このような電子吸引性基としては、アニオン性基のアニオンを安定化させる作用を有するものであれば特に限定されない。例えば、カルボキシ基のα位の炭素原子にハロゲン元素等の電子吸引性の置換基を含むアクリル系単量体を用いてもよい。このような基を有することにより、分散質の分散性がより向上する傾向にある。
【0026】
単位Aは、アニオン性基に結合した電子供与性基を有しないあるいは、電子供与性の低い基を有することが好ましい。このような電子供与性基としては、アニオン性基のアニオンを不安定化させる作用を有するものであれば特に限定されない。例えば、カルボキシ基のα位の炭素原子にメチル基等の電子供与性基の置換基を含まないアクリル系単量体を用いてもよい。このような構造とすることにより、分散質の分散性がより向上する傾向にある。
【0027】
このような(メタ)アクリル系単量体としては、特に制限されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アシッドフォスフォキシプロピルメタクリレート、アシッドフォスフォキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート、アシッドフォスフォキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート、リン酸変性エポキシアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、4-ヒドロキシフェニルアクリレート、4-ヒドロキシフェニルメクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。このなかでも、アクリル酸、2-メタクリロイルオキシエチルホスフェート、4-ヒドロキシフェニルメクリレート、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸が好ましく、アクリル酸がより好ましい。このような単量体に由来する単位を含むことにより、分散質に対する親和性がより向上し、分散質の分散性がより向上する傾向にある。単位Aは、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0028】
(カチオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位B)
(メタ)アクリル系単量体単位Bは、カチオン性基を有する繰り返し単位である。カチオン性基としては、特に制限されないが、例えば、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、及び第四級アンモニウム塩からなる群より選ばれる一種以上であることが好ましい。このなかでも、第三級アミノ基がより好ましい。このような基を有することにより、分散質の分散性がより向上する傾向にある。
【0029】
また、単位Bは、カチオン性基に結合した電子供与性基をさらに有することが好ましい。このような電子供与性基としては、カチオン性基のカチオンを安定化させる作用を有するものであれば特に限定されない。例えば、アミノ基のα位の炭素原子にメチル基等の電子供与性の置換基を含むアクリル系単量体を用いてもよい。このような基を有することにより、分散質の分散性がより向上する傾向にある。
【0030】
単位Bは、カチオン性基に結合した電子吸引性基を有しないあるいは、電子吸引性の低い基を有することが好ましい。このような電子吸引性基としては、カチオン性基のカチオンを不安定化させる作用を有するものであれば特に限定されない。例えば、アミノ基のα位の炭素原子にカルボキシ基等の電子吸引性基の置換基を含まないアクリル系単量体を用いてもよい。このような構造とすることにより、分散質の分散性がより向上する傾向にある。
【0031】
このような(メタ)アクリル系単量体としては、特に制限されないが、例えば、1-アミノエチルアクリレート、1-アミノプロピルアクリレート、1-アミノエチルメタクリレート、1-アミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート四級塩、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレートベンジルクロライド4級塩等が挙げられる。これらのなかでも、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート及び2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレートが好ましく、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレートがより好ましい。このような単量体に由来する単位を含むことにより、分散質に対する親和性がより向上し、分散質の分散性がより向上する傾向にある。単位Bは、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0032】
((メタ)アクリル系単量体単位C)
(メタ)アクリル系単量体単位Cは、シリコーン(メタ)アクリル系単量体単位であり、分子中にカチオン性基およびアニオン性基を含まず、シリコーン基を有する(メタ)アクリル系単量体である。
【0033】
共重合体(a)を熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物に混合することを想定した場合、(メタ)アクリル系単量体Cは、その樹脂組成物に用いられる樹脂と親和性又は相溶性の高い骨格を有することが好ましい。(メタ)アクリル系単量体Cはこのような骨格として、ジメチルシロキサン、メチルフェニルシロキサン、ジフェニルシロキサンなどのシリコーン骨格を有する。このような骨格を有することにより、分散媒となる樹脂との相溶性がより向上し、樹脂組成物中における分散質の分散性がより向上する傾向にある。
【0034】
このような(メタ)アクリル系単量体としては、特に制限されないが、例えば、α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン等のシロキサン骨格を有する(メタ)アクリル系単量体等が挙げられる。単位Cは、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0035】
(メタ)アクリル系単量体Cの数平均分子量は、好ましくは300~20000であり、より好ましくは1000~15000であり、さらに好ましくは3000~12500である。(メタ)アクリル系単量体Cの数平均分子量が300以上であることにより、分散媒に対する親和性がより向上し、分散質の分散性がより向上する傾向にある。また、(メタ)アクリル系単量体Cの数平均分子量が20000以下であることにより、共重合体(a)を他の樹脂や他の成分と混合した場合に得られる組成物の粘性がより低下し、ハンドリング性がより向上する傾向にある。
【0036】
単位A及び単位Bの総含有量は、単位A、単位B、及び単位Cの合計100モル%に対して、好ましくは0.05~90モル%であり、より好ましくは0.2~80モル%であり、さらに好ましくは0.5~75モル%である。単位A及び単位Bの総含有量が0.05モル%以上であることにより、分散媒に対する親和性がより向上し、分散質の分散性がより向上する傾向にある。また、単位A及び単位Bの総含有量が90モル%以下であることにより、共重合体(a)を他の樹脂や他の成分と混合した場合に得られる組成物の粘性がより低下し、ハンドリング性がより向上する傾向にある。
【0037】
単位Aの含有量は、単位A、単位B、及び単位Cの合計100モル%に対して、好ましくは0.03~85モル%であり、より好ましくは0.05~80モル%であり、さらに好ましくは0.10~75モル%である。単位Aの含有量が0.03モル%以上であることにより、分散媒に対する親和性がより向上し、分散質の分散性がより向上する傾向にある。また、単位Aの含有量が85モル%以下であることにより、共重合体(a)を他の樹脂や他の成分と混合した場合に得られる組成物の粘性がより低下し、ハンドリング性がより向上する傾向にある。
【0038】
単位Bに対する単位Aのモル比は、好ましくは0.01~50であり、より好ましくは1.0~45であり、さらに好ましくは5.0~40である。単位Bに対する単位Aのモル比が上記範囲内であることにより、分散媒に対する親和性がより向上し、分散質の分散性がより向上する傾向にある。
【0039】
単位Bの含有量は、単位A、単位B、及び単位Cの合計100モル%に対して、好ましくは0.1~10モル%であり、より好ましくは1.0~7.5モル%であり、さらに好ましくは1.0~5.0モル%である。単位Bの含有量が0.1モル%以上であることにより、充填材に対する親和性がより向上する傾向にある。また、単位Bの含有量が10モル%以下であることにより、共重合体(a)の粘性に由来するハンドリング性がより向上する傾向にある。
【0040】
単位Cの含有量は、単位A、単位B、及び単位Cの合計100モル%に対して、好ましくは10~99.5モル%であり、より好ましくは20~95モル%であり、さらに好ましくは25~90モル%である。単位Cの含有量が10モル%以上であることにより、共重合体(a)の粘性に由来するハンドリング性がより向上する傾向にある。また、単位Cの含有量が99.5モル%以下であることにより、充填材に対する親和性がより向上する傾向にある。
【0041】
共重合体(a)の重量平均分子量は、好ましくは5,000~500,000であり、より好ましくは7,000~150,000であり、さらに好ましくは10,000~100,000である。共重合体(a)の重量平均分子量が5,000以上であることにより、高温の状態で長時間保持した場合であっても分散性を維持することができ、組成物の硬度上昇を抑制することができる。また、共重合体(a)の重量平均分子量が5,000以上であることにより、熱伝導性充填材(c)や樹脂と配合した際の組成物の形状保持性が向上し、斜面や垂直な面に塗布した際に、組成物のずれやたれ落ちへの耐性がより良好となる。また、共重合体(a)の重量平均分子量が500,000以下であることにより、共重合体(a)を他の樹脂や他の成分と混合した場合に得られる組成物の粘性がより低下し、ハンドリング性がより向上する傾向にある。重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィー)により求めることができる。
【0042】
共重合体(a)の含有量は、共重合体(a)とシリコーン樹脂(b)の合計100重量部に対して、5~95重量部であり、好ましくは5~70重量部であり、より好ましくは5~50重量部である。共重合体(a)の含有量が上記範囲内であることにより、流動性及び熱伝導性充填材の分散性がより向上し、ボイドや割れの発生がより抑制される。
【0043】
〔共重合体(a)の製造方法〕
本実施形態の共重合体(a)の製造方法は、特に制限されず、(メタ)アクリル系単量体の公知の重合方法を用いることができる。重合方法としては、ラジカル重合、アニオン重合などが挙げられる。この中でも、ラジカル重合が好ましい。
【0044】
ラジカル重合に用いる熱重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物;過酸化ベンゾイル、tert-ブチルヒドロペルオキシドやジ-tert-ブチルペルオキシドなどの有機過酸化物などが挙げられる。また、ラジカル重合に用いる光重合開始剤としては、特に制限されないが、ベンゾイン誘導体が挙げられる。また、そのほかATRPやRAFTなどのリビングラジカル重合に用いる公知の重合開始剤を用いることもできる。
【0045】
重合条件は、特に制限されず、用いる開始剤や溶剤の沸点、そのほか単量体の種類により適宜調整することができる。
【0046】
単量体の添加順序は、特に制限されないが、例えば、ランダム共重合体を合成する観点から単量体を混合して重合を開始してもよいし、ブロック共重合体を合成する観点から単量体を重合系に順次添加してもよい。
【0047】
〔シリコーン樹脂(b)〕
シリコーン樹脂(b)は、架橋型シリコーン樹脂(b-1)を含み、必要に応じて、非架橋型シリコーン樹脂(b-2)をさらに含んでもよい。ここで、「架橋型」とは、三次元架橋したシリコーン樹脂をいい、「非架橋型」とは、三次元架橋を有しない直鎖状又は環状のシリコーン樹脂をいう。シリコーン樹脂(b)は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0048】
(架橋型シリコーン樹脂(b-1))
架橋型シリコーン樹脂(b-1)としては、三次元架橋したものであれば特に制限されないが、例えば、非硬化型シリコーン樹脂及び硬化型シリコーン樹脂が挙げられる。このなかでも、架橋型シリコーン樹脂(b-1)としては、非硬化型シリコーン樹脂が好ましい。このような架橋型シリコーン樹脂(b-1)を用いることにより、ブリードアウトが抑制され、耐ズレ性がより向上する傾向にある。
【0049】
架橋型シリコーン樹脂(b-1)は、分子中に2個以上のアルケニル基を有するポリオルガノシロキサン(b-1-1)と、分子中に2個以上のSiH基を含有するポリオルガノシロキサン(b-1-2)と、が反応してなるものであることが好ましい。このようなポリオルガノシロキサン(b-1-1)とポリオルガノシロキサン(b-1-2)としては、後述する付加硬化型シリコーン樹脂が挙げられる。
【0050】
また、別の観点から、架橋型シリコーン樹脂(b-1)は、架橋点として3官能単位(RSiO3/2)又は4官能単位(SiO4/2)を有することが好ましい。
【0051】
一般に、シリコーン樹脂は、1官能単位(RSiO1/2)、2官能単位(RSiO2/2)、3官能単位(RSiO3/2)、及び4官能単位(SiO4/2)で表すことができる。例えば、直鎖状シリコーン樹脂は、末端を構成する1官能単位(RSiO1/2)と、主鎖を構成する2官能単位(RSiO2/2)を有するものとして表現ができ(下記式においてn3,n4=0)、環状シリコーン樹脂は、環を構成する2官能単位(RSiO2/2)を有するものとして表現ができる(下記式においてn1,n3,n4=0)。また、三次元架橋したシリコーン樹脂は、分岐点を構成する3官能単位(RSiO3/2)及び/又は4官能単位(SiO4/2)を有し、さらに、分岐鎖の末端を構成する1官能単位(RSiO1/2)、分岐鎖を構成する2官能単位(RSiO2/2)を有するものとして表現をすることができる。
【0052】
このような単位を用いた組成式は、以下のように表現できる。下記式において、n1~n4は、それぞれの単位の組成比を示すものであり、n1~n4の合計が1となるような比率で示すことができる。なお、これら単位を含むか否かは、Si-NMR等の公知の方法により測定することができる。
(RSiO1/2n1(RSiO2/2n2(RSiO3/2n3(SiO4/2n4
【0053】
また、R~Rは、各々独立して、任意の基を表すことができる。例えば、付加硬化型のシリコーンであれば、水素原子やアルケニル基を表すことができる。Rが水素原子やアルケニル基であれば、付加硬化に寄与する官能基が鎖末端に存在し、Rが水素原子やアルケニル基であれば、付加硬化に寄与する官能基が鎖末端に存在することを示す。また、このほか、R~Rは、反応に寄与しない炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数1~10のアルキル基、及び炭素原子数6~10のアリール基を示してもよい。なお、これら官能基は式を説明するための例示であり、官能基としては特に制限されず従来公知のものを用いることができる。
【0054】
上記においては、架橋型シリコーン樹脂(b-1)が架橋点として3官能単位(RSiO3/2)又は4官能単位(SiO4/2)を有する場合、Rは、各々独立して、水素原子、炭素原子数2~6のアルケニル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、水酸基、炭素原子数1~10のアルキル基、及び炭素原子数6~10のアリール基を示す。また、架橋型シリコーン樹脂(b-1)は、分岐鎖の末端を構成する1官能単位(RSiO1/2)、分岐鎖を構成する2官能単位(RSiO2/2)を有するものでもあり、これら1官能単位及び/又は2官能単位が、水素原子、アルケニル基、アルコキシ基、水酸基などの、反応性官能基を有していてもよい。
【0055】
架橋型シリコーン樹脂(b-1)の含有量は、シリコーン樹脂(b)100質量%に対して、5~99質量%であり、好ましくは5~90質量%であり、より好ましくは10~60質量%であり、さらに好ましくは10~40質量%である。架橋型シリコーン樹脂(b-1)の含有量が上記範囲内であることにより、流動性及び熱伝導性充填材の分散性がより向上し、ボイドや割れの発生がより抑制されることに加えて、ブリードアウトが抑制され、耐ズレ性がより向上する傾向にある。
【0056】
(非架橋型シリコーン樹脂(b-2))
非架橋型シリコーン樹脂(b-2)としては、直鎖状ポリオルガノシロキサン又は環状型ポリオルガノシロキサンが挙げられる。このなかでも、直鎖状ポリオルガノシロキサンが好ましく、直鎖状ポリオルガノシロキサンであるシリコーンオイルがより好ましい。このような非架橋型シリコーン樹脂を用いることにより、流動性及び熱伝導性充填材の分散性がより向上し、ボイドや割れの発生がより抑制される傾向にある。
【0057】
また、非架橋型シリコーン樹脂(b-2)としては、例えば、非硬化型シリコーン樹脂及び硬化型シリコーン樹脂が挙げられる。このなかでも、非硬化型シリコーン樹脂が好ましい。このような非架橋型シリコーン樹脂(b-2)を用いることにより、ブリードアウトが抑制され、耐ズレ性がより向上する傾向にある。
【0058】
非架橋型シリコーン樹脂(b-2)の含有量は、シリコーン樹脂(b)100重量部に対して、好ましくは1~95質量%であり、より好ましくは10~95質量%であり、さらに好ましくは40~90質量%である。非架橋型シリコーン樹脂(b-2)の含有量が上記範囲内であることにより、流動性及び熱伝導性充填材の分散性がより向上し、ボイドや割れの発生がより抑制される傾向にある。
【0059】
シリコーン樹脂(b)の粘度は、25℃においてせん断速度10sec-1で測定した値として、好ましくは1~10000mPa・sであり、より好ましくは10~5000mPa・sであり、さらに好ましくは50~2000mPa・sである。シリコーン樹脂(b)の粘度が上記範囲内であることにより、流動性及び熱伝導性充填材の分散性がより向上し、ボイドや割れの発生がより抑制される傾向にある。なお、シリコーン樹脂(b)を複数種混合して用いる場合には、上記粘度は、混合後のシリコーン樹脂(b)全体の粘度である。
【0060】
シリコーン樹脂(b)の含有量は、共重合体(a)とシリコーン樹脂(b)の合計100重量部に対して、好ましくは95~5重量部であり、より好ましくは95~30重量部であり、さらに好ましくは95~50重量部である。シリコーン樹脂(b)の含有量が上記範囲内であることにより、流動性及び熱伝導性充填材の分散性がより向上し、ボイドや割れの発生がより抑制される。
【0061】
特に、非架橋型シリコーン樹脂(b-2)の粘度は、25℃においてせん断速度10sec-1で測定した値として、好ましくは1~10000mPa・sであり、より好ましくは50~5000mPa・sであり、さらに好ましくは100~2000mPa・sである。非架橋型シリコーン樹脂(b-2)の粘度が上記範囲内であることにより、流動性及び熱伝導性充填材の分散性がより向上し、ボイドや割れの発生がより抑制されることに加えて、ブリードアウトが抑制され、耐ズレ性がより向上する傾向にある。
【0062】
(非硬化型シリコーン樹脂及び硬化型シリコーン樹脂)
非硬化型シリコーン樹脂としては、後述する硬化型シリコーン樹脂が有する硬化に寄与する官能基を有しないもの又は触媒と併用しないものであれば特に制限されない。
【0063】
また、硬化型シリコーン樹脂としては、特に制限されず従来公知のものを用いることができるが、その硬化形態としては、付加硬化型シリコーン樹脂、縮合硬化型シリコーン樹脂、及び過酸化物硬化型シリコーン樹脂が挙げられる。また、硬化型シリコーン樹脂は、硬化成分がすべて含まれる一液型と、2種の剤を混合することで硬化させる二液型に分類することもできる。
【0064】
また、シリコーン樹脂(b)は、非硬化型シリコーン樹脂と硬化型シリコーン樹脂を併用したものであってもよい。このような組み合わせとしては、非硬化型シリコーン樹脂と付加硬化型シリコーン樹脂の組み合わせ、非硬化型シリコーン樹脂と縮合硬化型シリコーン樹脂の組み合わせ、非硬化型シリコーン樹脂と付加硬化型シリコーン樹脂と縮合硬化型シリコーン樹脂の組み合わせが挙げられる。このなかでも、非硬化型シリコーン樹脂と付加硬化型シリコーン樹脂の組み合わせが好ましい。
【0065】
以下、非硬化型シリコーン樹脂と硬化型シリコーン樹脂の具体的態様について、例示する。
【0066】
非硬化型シリコーン樹脂としては、付加反応性官能基及び縮合反応性官能基を有しない、ポリオルガノシロキサンが挙げられる。このようなポリオルガノシロキサンとしては、特に制限されないが、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、あるいはこれらの共重合体、または変性体が挙げられる。なお、変性体としては、メチル基、フェニル基の一部が、アルキル変性、アラルキル変性、フルオロアルキル変性、ポリエーテル変性、アミノ変性、アクリル変性、エポキシ変性などされたものが挙げられる。
【0067】
このような非硬化型ポリオルガノシロキサンを用いることにより、熱伝導性樹脂組成物は硬化反応をする必要がないため、硬化反応による影響を排することができる。硬化反応による影響としては、例えば、硬化反応用の触媒成分の添加による組成物への影響、硬化反応の副産物の組成物への影響、硬化阻害の影響、硬化反応による収縮などの影響、組成物が硬化反応をしないよう又はするように制御するための取扱による影響が挙げられる。そのため、非硬化型ポリオルガノシロキサンを用いることにより、より取扱性に優れた、熱伝導性樹脂組成物とすることができる。
【0068】
また、付加硬化型シリコーン樹脂としては、分子中に2個以上のアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンと、分子中に2個以上のSiH基を含有するポリオルガノシロキサンを反応させたポリオルガノシロキサンと、を含むものが挙げられる。このシリコーン樹脂(b)では、ポリオルガノシロキサンのアルケニル基とSiH基が、白金系触媒等の存在下で、付加反応し、硬化が進行する。このような付加反応型のシリコーン樹脂(b)は、硬化の際に副生成物が生じないため、副生成物が硬化物に与える影響を排することができる。なお、ポリオルガノシロキサンが有する2個以上のアルケニル基としては、特に制限されないが、例えば、ケイ素原子に結合したビニル基が挙げられる。
【0069】
付加硬化型のポリオルガノシロキサンとしては、特に制限されないが、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、あるいはこれらの共重合体もしくは変性体等のポリオルガノシロキサンのメチル基やフェニル基の2個以上が、ビニル基等のアルケニル基又はSiH基に置換された構造を有するものが挙げられる。
【0070】
また、付加硬化型のポリオルガノシロキサンの分子中におけるアルケニル基及びSiH基の結合位置は、特に制限されず、ポリオルガノシロキサンが直鎖状である場合には、アルケニル基はその側鎖に結合していても、末端に結合していても、側鎖と末端に結合していてもよい。
【0071】
さらに、縮合硬化型シリコーン樹脂としては、分子中に2個以上の水酸基及び/又はアルコキシ基を有するポリオルガノシロキサンが挙げられる。これらポリオルガノシロキサンの水酸基及び/又はアルコキシ基は縮合反応し、硬化が進行する。このような付加反応型のシリコーン樹脂(b)は、付加硬化型に比べて硬化阻害を受けにくい傾向にある。
【0072】
〔熱伝導性充填材(c)〕
熱伝導性充填材(c)の熱伝導率は、10W/mK以上であり、好ましくは15~3000W/mKであり、より好ましくは30~2000W/mKである。熱伝導性充填材(c)の熱伝導率が10W/mK以上であることにより、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率がより向上する傾向にある。
【0073】
熱伝導性充填材(c)としては、特に制限されないが、例えば、アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、シリカ、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ダイヤモンド、カーボン、インジウム、ガリウム、銅、銀、鉄、ニッケル、金、錫、金属ケイ素が挙げられる。このなかでも、アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、シリカ、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ダイヤモンドの中から選択される1種以上が好ましい。このような熱伝導性充填材(c)を用いることにより、熱伝導性がより向上する傾向にある。
【0074】
熱伝導性充填材(c)の体積基準の平均粒子径は、好ましくは0.1~150μmであり、より好ましくは0.1~120μmである。熱伝導性充填材(c)の平均粒子径が上記範囲内であることにより、流動性及び熱伝導性充填材の分散性がより向上し、ボイドや割れの発生がより抑制される傾向にある。なお、熱伝導性充填材(c)を複数種用いる場合には、それぞれの熱伝導性充填材(c)の平均粒子径が、上記範囲を満たすことが好ましい。また、熱伝導性充填材(c)を複数種用いる場合には、それぞれの熱伝導性充填材(c)の平均粒子径を勘案し、充填が密になるように大きい粒子径~小さい粒子径を適切な比率で配合することで、充填量が高くても流動性及び熱伝導性充填材の分散性を高めることができる。
【0075】
熱伝導性充填材(c)の含有量が、共重合体(a)とシリコーン樹脂(b)の合計100重量部に対して、500~3000重量部であり、好ましくは750~2800重量部であり、より好ましくは1000~2600重量部であり、さらに好ましくは1500~2600重量部である。熱伝導性充填材(c)の含有量が上記範囲内であることにより、流動性及び熱伝導性充填材の分散性がより向上し、ボイドや割れの発生がより抑制される。
【0076】
〔表面処理剤(d)〕
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、熱伝導性充填材(c)を表面処理する表面処理剤(d)をさらに含んでいてもよい。このような表面処理剤(d)を含むことにより、流動性及び熱伝導性充填材の分散性がより向上し、ボイドや割れの発生がより抑制される傾向にある。
【0077】
表面処理剤(d)としては、特に制限されないが、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン;アミノプロピルトリエトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン;フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン等の疎水性シラン化合物などのシランカップリング剤が挙げられる。表面処理剤(d)により熱伝導性充填材(c)を表面処理する方法としては、特に制限されないが、例えば、公知の湿式処理法又は乾式処理法を使用することができる。
【0078】
表面処理剤(d)の含有量は、熱伝導性充填材(c)100重量部に対して、0.01~5重量部であり、より好ましくは0.02~2重量部であり、さらに好ましくは0.05~1重量部である。表面処理剤(d)の含有量が上記範囲内であることにより、熱伝導性充填材(c)の分散性がより向上する傾向にある。
【0079】
〔電子機器〕
本実施形態の電子機器は、発熱体と、ヒートシンクと、上記熱伝導性樹脂組成物又はその硬化物と、を有し、発熱体とヒートシンクとの間に、熱伝導性樹脂組成物又は硬化物が配されたものである。この電子機器においては、発熱体とヒートシンクとが、熱伝導性樹脂組成物を介して、熱的に結合される。
【0080】
ここで、発熱体としては、特に制限されないが、例えば、モーター、電池パック、車載電源システムに用いられる回路基板、パワートランジスタ、マイクロプロセッサ等の発熱する電子部品等が挙げられる。このなかでも、車載用の車載電源システムに用いられる電子部品が好ましい。また、ヒートシンクとしては、放熱や吸熱を目的として構成された部品であれば特に制限されない。
【0081】
熱伝導性樹脂組成物を介して発熱体とヒートシンクとを結合する方法としては、特に制限されない。例えば、予め加熱して硬化又は半硬化した熱伝導性樹脂組成物を用いて、発熱体とヒートシンクとを結合することにより電子機器を得てもよいし、熱伝導性樹脂組成物を用いて発熱体とヒートシンクを接合後、加熱して発熱体とヒートシンクとを結合することにより電子機器としてもよい。なお、加熱条件は、特に制限されないが、例えば、25℃~200℃で0.5時間~24時間の条件が挙げられる。
【実施例
【0082】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0083】
<共重合(a)体調製用単量体>
実施例の共重合体の重合には以下の原料を用いた。
(アニオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体A)
(A-1)アクリル酸、東亞合成社製
(A-2)4-ヒドロキシフェニルメクリレート、精工化学社製
(A-3)2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、共栄社化学社製「ライトエステルP-1M」
(A-4)2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、東京化成社製
(カチオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体B)
(B)メタクリル酸-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル、ADEKA株式会社製「アデカスタブLA-82」
((メタ)アクリル系単量体C)
(C)α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン)、JNC社製「サイラプレーンFM-0721」数平均分子量5000
【0084】
<共重合体(a)の調製>
(共重合体1)
共重合体の調製は次の方法で行った。まず、撹拌機付のオートクレーブ内にアクリル酸:15モル%、メタクリル酸-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル:2.0モル%、α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン:83モル%からなる(メタ)アクリル系単量体100重量部を添加した。次いで、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(東京化成社製)を、(メタ)アクリル系単量体の総和100重量部に対して0.05重量部、溶媒としてトルエン(試薬特級)、および2-プロパノール(試薬特級)の体積比=7:3の混合溶液を1000重量部加え、オートクレーブ内を窒素により置換した。その後、オートクレーブをオイルバス中で65℃にて20時間加熱し、ラジカル重合を行った。重合終了後、減圧下に120℃で1時間脱気し、共重合体1を得た。
【0085】
単量体の仕込み量100%に対する重合率は、ガスクロマトグラフィ分析により分析したところ、98%以上であった。このことから、共重合体が有する各単量体単位の比率は、単量体の仕込み比と同程度と推定された。
【0086】
また、得られた共重合体1の重量平均分子量を、GPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィー)法を用いて、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量として求めた。なお、測定条件は以下のとおりである。
高速GPC装置:東ソー社製「HLC-8020」
カラム :東ソー社製「TSK guardcolumn MP(×L)」6.0mmID×4.0cm1本、及び東ソー社製「TSK-GELMULTIPOREHXL-M」7.8mmID×30.0cm(理論段数16,000段)2本、計3本(全体として理論段数32,000段)
展開溶媒 :テトラヒドロフラン
ディテクター :RI(示差屈折率計)
【0087】
(共重合体2~13)
表1~4に記載の組成の単量体を用いたこと以外は、共重合体1と同様の方法により、ラジカル重合を行い、共重合体2~13を得た。得られた共重合体2~13における重合率はいずれも98%以上であり、共重合体が有する各単量体単位の比率は、単量体の仕込み比と同程度と推定された。また、重量平均分子量についても上記と同様に求めた。
【0088】
なお、表1~4に記した単量体の組成はモル比(%)で記した。モル比は各単量体の添加量と分子量より算出した。また、α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサンのモル比は、その重量平均分子量を基に算出した。
【0089】
上記のように合成した共重合体1~13の組成及び重量平均分子量を下記表1~4に示す。
【0090】
<樹脂組成物調製用原料>
(シリコーン樹脂(b))
(架橋型シリコーン樹脂(b-1))
・ビニル変性シリコーンオイル:エルケムジャパン株式会社製、「621V100」
・SiH変性シリコーンオイル :エルケムジャパン株式会社製、「620V20」
(非架橋型シリコーン樹脂(b-2))
・シリコーンオイル:信越シリコーン社製「KF-96-300CS」、ジメチルシリコーンオイル、粘度300mPa・s
・シリコーンオイル:信越シリコーン社製「KF-96-100万CS」、ジメチルシリコーンオイル、粘度1000000mPa・s
(熱伝導性充填材(c))
・酸化アルミニウム:デンカ株式会社製、「DAW45」、平均粒子径:45μm、熱伝導率35W/mK
・酸化アルミニウム:デンカ株式会社製、「DAW20」、平均粒子径:20μm、熱伝導率35W/mK
・酸化アルミニウム:デンカ株式会社製、「DAW05」、平均粒子径:5μm、熱伝導率35W/mK
・酸化アルミニウム:デンカ株式会社製、「ASFP40」、平均粒子径:0.4μm、熱伝導率35W/mK
・窒化ホウ素 :デンカ株式会社製、「SGP」、平均粒子径:18μm、熱伝導率80W/mK
・窒化アルミニウム:株式会社MARUWA社製、「S―50」、平均粒子径:50μm、熱伝導率170W/mK
・窒化アルミニウム:株式会社MARUWA社製、「A―05-F」、平均粒子径:5μm、熱伝導率170W/mK
・窒化アルミニウム:株式会社MARUWA社製、「A―01-F」、平均粒子径:1μm、熱伝導率170W/mK
・酸化マグネシウム:デンカ株式会社製、「DMG120」、平均粒子径:120μm、熱伝導率60W/mK
(シランカップリング剤)
・n-デシルトリメトキシシラン:ダウ・東レ株式会社製、「DOWSIL Z-6210 Silane」
【0091】
熱伝導性充填材(c)の平均粒子径は、島津製作所製「レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-20」を用いて測定を行った。評価サンプルは、ガラスビーカーに50mlの純水と測定する熱伝導性充填材を5g添加して、スパチュラを用いて撹拌し、その後超音波洗浄機で10分間、分散処理を行った。分散処理を行った熱伝導性充填材の分散液を、スポイトを用いて、装置のサンプラ部に一滴ずつ添加して、吸光度が安定したところで測定を行った。平均粒子径は、D50(メジアン径)を採用した。
【0092】
<樹脂組成物の調製>
(実施例1~24及び比較例1~8)
表1~4に示す組成で、共重合体(a)と、シリコーン樹脂(b)と、熱伝導性充填材(c)と、シランカップリング剤を、混合し、樹脂組成物を調製した。得られた各樹脂組成物を用いて以下の評価を行った。その結果を表1~4に示す。
【0093】
[粘度]
Thermo Scientific社製回転式レオメータMARS IIIにて、上部治具として35mmΦのパラレルプレートを用い、ペルチェ素子にて温度制御が可能な35mmΦ下部プレートの上に、樹脂組成物を載せ、上部治具で厚み1mmまで圧縮し、はみ出した部分はかきとり、25℃にて測定を行った。せん断速度1~10sー1の粘度を測定した。
【0094】
[耐割れ性]
76mm角の無アルカリガラス板を2枚用意し、一方のガラス板の中心部に直径20mm、厚さ1mmとなるよう樹脂組成物を塗布し、もう一方のガラス板ではさみ込んだ試料を150℃の環境下に保持し、耐熱性試験を実施した。24時間保持後、目視にて割れの有無を確認した。
【0095】
具体的には、性評価試験後の試験片の写真を撮影し、その画像データを、画像処理ソフトを用いて2値化処理を行った。なお、2値化画像において、黒色部は樹脂組成物が割れて空隙となった部分であり、白色部は樹脂組成物が存在している部分である。このように2値化処理を行った画像を各実施例及び比較例において作成し、それら画像に基づいて耐割れ率を算出した。より具体的には、全体の面積から黒色部の面積割合を算出し、それを割れ率とした。耐割れ性の評価基準を以下に示す。
A:割れ率が0%以上1%未満
B:割れ率1%以上5%未満
C:割れ率5%以上15%未満
D:割れ率15%以上
【0096】
[垂れ落ち]
図1及び図2で示される試験方法により、熱伝導性硬化物のたれ落ち性を評価した。まず、図1に示すように、80mm×80mmのガラス板10の四隅に厚さ2mmのシム11を設置し、第一剤及び第二剤を1:1の体積比で混合して得られた混合物12をガラス板10の略中央部に円形に塗布し、80mm×80mmのガラス板13で挟み込んだ。なお、混合物12の塗布量は、ガラス板10及び13で挟み込んだときに形成される混合物の円形形状の大きさが25mmφとなる量とした。続いて、図2に示すように、クリップ14によりガラス板10及び13を固定して縦置きに静置し、25℃で24時間静置した後に、熱伝導性硬化物の初期位置からのずれを観察することで、たれ落ち性を評価した。
【0097】
[耐ブリードアウト性]
76mm角のすりガラス上に樹脂組成物0.65gを略円形状に塗布し、150℃のオーブン中にて24時間静置してオーブンより取り出した。ブリードアウトが認められる場合には、略円形状の樹脂組成物の周囲には、液状成分がしみだし灰色の円が形成される。この円の大きさをブリードアウト量の指標とし、白色の樹脂組成物端部の端から灰色の円の端までの距離の最大長をブリードアウト量として評価した。
【0098】
[熱伝導率]
ヒーターの埋め込まれた直方体の銅製治具で先端が100mm(10mm×10mm)と、冷却フィンを取り付けた直方体の銅製治具で先端が100mm(10mm×10mm)との間に、樹脂組成物を挟んで、隙間の厚みを0.05mm~0.30mmの範囲で熱抵抗を測定し、熱抵抗と厚みの勾配から熱伝導率を算出して評価した。熱抵抗は、ヒーターに電力10Wをかけて30分間保持し、銅製治具同士の温度差(℃)を測定し、下記式にて算出した。
熱抵抗(℃/W)={温度差(℃)/ 電力(W)}
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、電子機器における発熱体とヒートシンクを熱的に接続するための放熱グリース等として産業上の利用可能性を有する。
図1
図2