(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】オイルポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 15/00 20060101AFI20220922BHJP
F04C 2/10 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
F04C15/00 E
F04C2/10 341Z
F04C15/00 D
F04C15/00 A
(21)【出願番号】P 2019059504
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 信弥
(72)【発明者】
【氏名】松本 航
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-066976(JP,A)
【文献】特開2008-267168(JP,A)
【文献】特開2014-196733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 15/00
F04C 2/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータを回転可能に収容するロータ収容部と、前記ロータの回転により前記ロータ収容部内のオイルを前記ロータ収容部の外部へ導く導出孔と、を有する金属製の収容ケースと、
前記ロータ収容部を保持するケース保持部と、前記ケース保持部の底部に設けられた排出溝部と、を有する樹脂製のハウジングと、
を備えるオイルポンプであって、
前記収容ケースは、前記ロータ収容部の底部に設けられた、前記排出溝部に前記排出溝部を覆うように嵌る嵌合溝部を有し、
前記嵌合溝部は、前記排出溝部に合致する形状に形成されており、前記排出溝部の底部に対向して接する底部と、前記排出溝部の側部に対向して接する側部と、を有し、
前記導出孔は、前記嵌合溝部
の前記底部に形成されて
おり、
前記ハウジングは、前記排出溝部の底部に形成された、前記導出孔に連通する連通口を有し、
前記嵌合溝部は、前記導出孔の径が前記連通口の径以下であるように形成され、前記導出孔が前記連通口の領域範囲内に収まるように配置されている、請求項1に記載されたオイルポンプ。
【請求項2】
前記収容ケースにおける前記ロータ収容部と前記嵌合溝部との接続部位と、前記ハウジングとの間に配置された、前記収容ケースと前記ハウジングとをシールするシール部材を備える、請求項
1に記載されたオイルポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トロコイド式のオイルポンプが知られている(例えば、特許文献1及び2)。このオイルポンプは、ロータと、ハウジングと、を備えている。ロータは、駆動シャフトに固定され、外歯を有するインナロータと、インナロータの外歯に噛合する内歯を有するアウタロータと、を有している。ロータは、インナロータがアウタロータに対して偏心した状態で回転することにより、オイルを吸入側から吸入して排出側へ排出する。ハウジングは、ハウジング本体部材と、カバー部材と、を有している。ハウジング本体部材は、インナロータ及びアウタロータを収容する凹部を有している。カバー部材は、ハウジング本体部材に対して軸方向に配置されており、ハウジング本体部材の凹部を閉塞している。
【0003】
特許文献1記載のオイルポンプにおいて、インナロータ、アウタロータ、及びカバーは、金属により形成されている。また、ハウジングの少なくとも一部は、射出成形された樹脂により形成されている。このオイルポンプの構造によれば、ハウジング全体が金属により形成されている構造に比べて、軽量化を図ることができる。
【0004】
また、特許文献2記載のオイルポンプは、インナロータ及びアウタロータを収容するロータ収容部を有する金属製の収容ケースを備えている。この収容ケースは、樹脂製のハウジング本体部材にインサート成形され、そのハウジング本体部材の凹部に配置されている。収容ケースの収容部及びハウジング本体部材の凹部は、金属製のカバー部材により閉塞されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-51964号公報
【文献】特開2017-66976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、オイルポンプにおいては、排出側のオイル圧が高圧である。このため、特許文献2記載のオイルポンプの如く、金属製の収容ケースと樹脂製のハウジングとが用いられる構造では、樹脂製のハウジング(特に、排出孔周辺の溝部)に高圧のオイル圧に晒される部分が残っていると、その部分に高圧のオイル圧が作用して、樹脂製のハウジングが変形し易くなってしまう。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、樹脂製のハウジングに高圧が作用するのを回避して、そのハウジングの変形を抑えることが可能なオイルポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、ロータを回転可能に収容するロータ収容部と、前記ロータの回転により前記ロータ収容部内のオイルを前記ロータ収容部の外部へ導く導出孔と、を有する金属製の収容ケースと、前記ロータ収容部を保持するケース保持部と、前記ケース保持部の底部に設けられた排出溝部と、を有する樹脂製のハウジングと、を備えるオイルポンプであって、前記収容ケースは、前記ロータ収容部の底部に設けられた、前記排出溝部に前記排出溝部を覆うように嵌る嵌合溝部を有し、前記導出孔は、前記嵌合溝部に形成されている、オイルポンプである。
【0009】
この構成によれば、金属製の収容ケースが樹脂製のハウジングの排出溝部にその排出溝部を覆うように嵌る嵌合溝部を有し、その嵌合溝部にオイル排出用の導出孔が形成されている。このため、収容ケース内から嵌合溝部に流入したオイルのオイル圧がハウジングの排出溝部に作用するのを回避することができ、オイル圧送時、樹脂製のハウジングが変形するのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係るオイルポンプを正面側から見た斜視図である。
【
図2】本実施形態のオイルポンプを背面側から見た斜視図である。
【
図5】本実施形態のオイルポンプを
図4に示すV-Vで切断した際の断面図である。
【
図6】本実施形態のオイルポンプが備える収容ケースの第一ケース部材を収容空間側から見た斜視図である。
【
図7】本実施形態のオイルポンプが備える収容ケースの第一ケース部材を反収容空間側から見た斜視図である。
【
図8】本実施形態のオイルポンプが備える収容ケースの第一ケース部材の収容空間側からの正面図である。
【
図9】本実施形態のオイルポンプが備える収容ケースの第一ケース部材の側面図である。
【
図10】本実施形態のオイルポンプが備えるハウジング本体部材に第一ケース部材を組み付けた組付体の収容空間側からの正面図である。
【
図11】本実施形態のハウジング本体部材に第一ケース部材を組み付けた組付体を
図10に示すXI-XIで切断した際の断面図である。
【
図12】本実施形態のオイルポンプが備える収容ケースの第二ケース部材を収容空間側から見た斜視図である。
【
図13】本実施形態のオイルポンプが備えるハウジングのカバー部材に第二ケース部材を組み付けた組付体の収容空間側からの正面図である。
【
図14】本実施形態のハウジングのカバー部材に第二ケース部材を組み付けた組付体を
図13に示すXIV-XIVで切断した際の断面図である。
【
図15】一変形形態に係るオイルポンプが備える収容ケースの第一ケース部材を収容空間側から見た斜視図である。
【
図16】本変形形態のオイルポンプが備える収容ケースの第一ケース部材を反収容空間側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1-
図16を用いて、本発明に係るオイルポンプの具体的な実施形態について説明する。
【0012】
一実施形態に係るオイルポンプ1は、吸入口から吸入したオイルを排出口へ圧送するトロコイド式の内接歯車ポンプである。オイルポンプ1は、例えば車両などに搭載される。オイルポンプ1は、
図1及び
図2に示す如く、ブロック状に形成されている。
【0013】
オイルポンプ1は、
図3に示す如く、インナロータ10と、アウタロータ20と、を備えている。インナロータ10とアウタロータ20とは、トロコイドを構成している。インナロータ10及びアウタロータ20はそれぞれ、焼結金属(例えば、鉄系や銅鉄系,銅系,ステンレス系など)により形成されている。
【0014】
インナロータ10は、円板状(円盤状)又は円柱状の部材である。インナロータ10は、駆動シャフト2に固定されている。駆動シャフト2は、後述の第二ケース部材40に軸受3を介して回転可能に支持されている。インナロータ10は、駆動シャフト2の回転と一体となって回転する。インナロータ10は、外歯11を有している。外歯11は、インナロータ10の外周面に等角度間隔で設けられている。インナロータ10における外歯11の数は、所定数(例えば4個)である。
【0015】
アウタロータ20は、円環状又は円筒状の部材である。アウタロータ20は、内歯21を有している。内歯21は、インナロータ10の外歯11に噛合する。内歯21は、アウタロータ20の内周面に等角度間隔で設けられている。アウタロータ20における内歯21の数は、インナロータ10における外歯11の数よりも予め定められた数(例えば一つ)多い所定数(例えば5個)である。インナロータ10は、外歯11がアウタロータ20の内歯21に噛み合いつつアウタロータ20に対して偏心した状態で回転可能にそのアウタロータ20の内側に収容されている。
【0016】
オイルポンプ1は、
図3、
図4、及び
図5に示す如く、第一ケース部材30と、第二ケース部材40と、を備えている。第一ケース部材30と第二ケース部材40とは、インナロータ10をアウタロータ20に対して回転可能に収容する収容ケースを構成している。第一ケース部材30及び第二ケース部材40はそれぞれ、鉄やアルミニウムなどの金属により形成されている。第一ケース部材30及び第二ケース部材40はそれぞれ、プレス加工、圧造、又はダイカストにより成形された成形体或いは更に切削加工や研磨加工が施された加工品である。
【0017】
第一ケース部材30は、インナロータ10及びアウタロータ20を収容する収容本体部である。第一ケース部材30は、
図5、
図6、
図7、
図8、及び
図9に示す如く、ロータ収容部31を有している。ロータ収容部31は、内部に収容空間32を形成している。ロータ収容部31は、全体として筒状(具体的には、円筒状)に形成されている。ロータ収容部31は、円板状の底部31aと、その底部31aの外縁から軸方向に延出する筒状の側部31bと、を有している。インナロータ10及びアウタロータ20は、ロータ収容部31の収容空間32に収容される。ロータ収容部31における底部31a側とは軸方向反対側は、開口している。インナロータ10及びアウタロータ20は、ロータ収容部31への組付け時においてロータ収容部31の開口側から収容空間32へ挿入される。アウタロータ20は、ロータ収容部31に例えば圧入されて固定される。インナロータ10は、収容空間32においてアウタロータ20に対して回転可能である。
【0018】
第一ケース部材30は、導入孔33と、導出孔34と、を有している。導入孔33は、アウタロータ20に対するインナロータ10の回転により外部のオイルをロータ収容部31の収容空間32へ導く孔である。導入孔33は、ロータ収容部31の底部31aに形成されている。導入孔33は、底部31aにおいて周方向に弧状に延びるように形成された、軸方向に向いた貫通孔である。また、導出孔34は、アウタロータ20に対するインナロータ10の回転により収容空間32内のオイルを収容空間32の外部へ導く孔である。
【0019】
第一ケース部材30は、嵌合溝部35を有している。嵌合溝部35は、ロータ収容部31の底部31aに設けられている。嵌合溝部35は、その底部31aにおいて周方向に弧状に延びている。嵌合溝部35は、その底部31aの面から側部31bが延出する軸方向とは反対側の軸方向に深さを有している。嵌合溝部35は、底部35aと、底部35aの外縁から軸方向に延出する筒状の側部35bと、を有している。嵌合溝部35は、ロータ収容部31の底部31aにおける導入孔33とは異なる部位に設けられている。すなわち、導入孔33と嵌合溝部35とは、第一ケース部材30の底部31aにおいて直接的には互いに接続していない。嵌合溝部35は、後述の如く、ハウジング本体部材50の排出溝部57に嵌合する溝である。上記の導出孔34は、嵌合溝部35の底部35aに形成されている。導出孔34は、底部35aにおいて円形に形成された、軸方向に向いた貫通孔である。
【0020】
第二ケース部材40は、軸方向に所定厚さを有するように円板状又は円柱状に形成されている。第二ケース部材40は、第一ケース部材30のロータ収容部31の収容空間32を閉塞する部材である。尚、第二ケース部材40は、第一ケース部材30とは異なり、金属により形成されることに代えて、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂により形成されていてもよく、更に切削加工が施された加工品であってよい。
【0021】
第二ケース部材40は、第一ケース部材30に対して軸方向に隣接して配置されている。第二ケース部材40は、第一ケース部材30に対して軸方向に当接して径方向及び周方向に位置決めされる。第二ケース部材40には、
図5及び
図12に示す如く、軸方向に貫通する貫通孔41が設けられている。貫通孔41には、駆動シャフト2の先端部が挿通される。駆動シャフト2は、第二ケース部材40に、貫通孔41に配置された軸受3を介して回転可能に支持されている。
【0022】
第二ケース部材40は、それぞれ第一ケース部材30の収容空間32に連通する2つの連通溝42,43を有している。連通溝42,43は、第二ケース部材40における第一ケース部材30の底部31aに対向する軸方向端面44に設けられている。連通溝42は、第一ケース部材30の導入孔33に対して軸方向に対向する位置に配置されている。また、連通溝43は、第一ケース部材30の嵌合溝部35に対して軸方向に対向する位置に配置されている。連通溝42と連通溝43とは、第二ケース部材40の軸方向端面44において直接的には互いに接続していない。
【0023】
オイルポンプ1は、
図1、
図2、及び
図3に示す如く、ハウジング本体部材50と、カバー部材60と、を備えている。ハウジング本体部材50とカバー部材60とは、インナロータ10及びアウタロータ20からなるロータ、ひいては、そのロータを収容する第一ケース部材30及び第二ケース部材40からなる収容ケースを保持するハウジングを構成している。ハウジング本体部材50及びカバー部材60はそれぞれ、樹脂(特に、熱可塑性樹脂)により形成されている。尚、ハウジング本体部材50及びカバー部材60を形成する樹脂は、耐クリープ性や耐荷重性,耐摩耗性などに優れていることが好ましく、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂や熱可塑性ポリイミド樹脂などである。また、ハウジング本体部材50の素材とカバー部材60の素材とは、互いに同一であってよい。ハウジング本体部材50及びカバー部材60は、射出成形などにより成形される。
【0024】
ハウジング本体部材50は、ブロック状に形成されている。ハウジング本体部材50は、
図10及び
図11に示す如く、ケース保持部51を有している。ケース保持部51は、第一ケース部材30を収容して保持する凹溝部である。ケース保持部51は、第一ケース部材30の外形に合わせた形状に形成されている。ケース保持部51は、円板状の底部51aと、その底部51aの外縁から軸方向に延出する筒状の側部51bと、を有している。第一ケース部材30は、側部31bの外面がケース保持部51の側部51bの内面に当接しかつ底部31aの外面がケース保持部51の底部51aの底面に当接するようにケース保持部51内に収容されて保持される。
【0025】
ハウジング本体部材50は、吸入口52と、排出口53と、を有している。吸入口52は、外部からオイルポンプ1へオイルを吸入する入口である。吸入口52は、ハウジング本体部材50の底面(
図1及び
図2における下面)に形成されている。排出口53は、オイルポンプ1から外部へオイルを排出する出口である。排出口53は、ハウジング本体部材50の背面(
図2における手前側の面)に形成されている。
【0026】
ハウジング本体部材50は、吸入通路54と、排出通路55と、を有している。吸入通路54は、一端で吸入口52に接続していると共に、他端で第一ケース部材30の導入孔33に接続している。吸入通路54は、吸入口52から吸入したオイルを第一ケース部材30の収容空間32へ導く通路である。排出通路55は、一端で第一ケース部材30の導出孔34に接続していると共に、他端で排出口53に接続している。排出通路55は、収容空間32内のオイルを排出口53へ導く通路である。
【0027】
ハウジング本体部材50は、吸入溝部56と、排出溝部57と、を有している。吸入溝部56及び排出溝部57は、ケース保持部51の底部51aに設けられている。吸入溝部56及び排出溝部57はそれぞれ、収容空間32に隣接するオイル溜まりである。吸入溝部56及び排出溝部57はそれぞれ、底部51aにおいて周方向に弧状に延びている。吸入溝部56と排出溝部57とは、ケース保持部51の底部51aにおいて互いに異なる部位に設けられている。すなわち、吸入溝部56と排出溝部57とは、ケース保持部51の底部51aにおいて直接的には互いに接続していない。
【0028】
吸入溝部56は、吸入口52と収容空間32との間に配置されている。吸入溝部56の底部又は側部には、連通口(図示せず)が設けられている。この連通口は、吸入口52から吸入したオイルを吸入溝部56へ導く口である。吸入溝部56は、吸入口52と収容空間32とを繋ぐ吸入通路54の一部をなす。排出溝部57は、収容空間32と排出口53との間に配置されている。排出溝部57の底部57aには、円形の連通口59が設けられている。連通口59は、収容空間32内のオイルを排出口53へ導く口である。連通口59は、第一ケース部材30の嵌合溝部35の導出孔34に連通している。導出孔34の径は、連通口59の径以下である。排出溝部57は、収容空間32と排出口53とを繋ぐ排出通路55の一部をなす。
【0029】
排出溝部57には、第一ケース部材30の嵌合溝部35が嵌合する。嵌合溝部35は、排出溝部57に合致する形状に形成されており、その排出溝部57にその排出溝部57の表面を覆うように嵌っている。排出溝部57の表面は、収容空間32側(すなわち、その排出溝部57の開口)から底部57aの連通口59まで流通するオイルに晒されておらず、排出溝部57は、排出通路55を流通するオイルのオイル圧を直接に受けない。
【0030】
カバー部材60は、
図5に示す如く、ハウジング本体部材50に対してケース保持部51が形成された開口側の軸方向に隣接して配置されている。カバー部材60は、ハウジング本体部材50に固定されることにより、第二ケース部材40を第一ケース部材30に密接させてトロコイドを収容する収容ケースを形成する。カバー部材60は、円板状又は円環状に形成された部材である。
【0031】
カバー部材60は、保持孔61と、保持溝62と、を有している。保持孔61は、軸方向に貫通する貫通孔である。保持孔61は、第二ケース部材40の外形に合わせた大きさに形成されており、第二ケース部材40の外径に合致する内径を有している。保持孔61には、
図13及び
図14に示す如く、第二ケース部材40が挿入される。保持溝62は、保持孔61の周縁に設けられており、環状に形成されている。保持溝62は、径方向外側へ凹む溝部である。第二ケース部材40の外周側面には、径方向外側へ突出する突部45が環状に形成されている。第二ケース部材40は、突部45がカバー部材60の保持溝62に嵌められることで、カバー部材60の保持孔61に挿入された状態に保持される。
【0032】
カバー部材60は、貫通孔63を有している。貫通孔63は、保持孔61の径方向外側に位置する部位において軸方向に貫通している。貫通孔63は、周方向に亘って複数箇所(例えば4箇所)に設けられている。また、ハウジング本体部材50は、ボルト孔50aを有している。ボルト孔50aは、ケース保持部51の径方向外側に位置する部位において軸方向に延びている。ボルト孔50aは、ケース保持部51の周囲の複数箇所(例えば4箇所)に設けられている。貫通孔63とボルト孔50aとは、互いに対応した位置に同じ数だけ設けられている。カバー部材60は、ボルト70が、カバー部材60の貫通孔63内に配置されたカラー71及びハウジング本体部材50のボルト孔50a内に配置されたカラー72を通してナット(図示せず)に締結されることにより、ハウジング本体部材50に対して固定される。尚、
図5等においては、カラー71,72の図示が省略されている。
【0033】
カバー部材60がハウジング本体部材50にボルト70を用いて固定されると、ハウジング本体部材50のケース保持部51に保持された第一ケース部材30の軸方向端面とカバー部材60の保持孔61に保持された第二ケース部材40の軸方向端面とが軸方向で互いに当接すると共に、ハウジング本体部材50の軸方向端面とカバー部材60の軸方向端面とが軸方向で互いに対向する。
【0034】
ハウジング本体部材50及びカバー部材60は、シール構造を有している。このシール構造は、ハウジング本体部材50及びカバー部材60の軸方向端面同士に形成された凹凸が嵌合する構造である。これらの凹凸は、ハウジング本体部材50とカバー部材60との組み付け時、互いに当接しながら弾性変形することにより、駆動シャフト2を中心にして周方向全周に亘って互いに隙間無く密着して嵌合する。この嵌合により、ハウジング本体部材50とカバー部材60とのシール性が確保される。
【0035】
また、第一ケース部材30とハウジング本体部材50との間には、シール部材80が配置されている。シール部材80は、第一ケース部材30の嵌合溝部35の開口を囲うように環状に形成されている。具体的には、シール部材80は、第一ケース部材30におけるロータ収容部31の底部31aの嵌合溝部35寄りの部位と、ハウジング本体部材50におけるケース保持部51の底部51aとの間に配置されている。シール部材80は、合成ゴムや樹脂により形成されている。シール部材80は、ハウジング本体部材50とカバー部材60との組み付けにより第一ケース部材30及びハウジング本体部材50に隙間無く密着する。これにより、第一ケース部材30の嵌合溝部35の周囲におけるハウジング本体部材50とのシール性が確保される。すなわち、シール部材80により、内圧が高圧となる排出溝部57と内圧が低圧である吸入溝部56とが、互いに隔離された状態に維持される。
【0036】
尚、シール部材80は、第一ケース部材30におけるロータ収容部31の底部31aと嵌合溝部35の側部との接続部位又はその接続部位近傍と、ハウジング本体部材50との間に配置されていればよく、例えば、第一ケース部材30における嵌合溝部35の側部のロータ収容部31寄りの部位と、ハウジング本体部材50における排出溝部57の側部との間に配置されていてもよい。
【0037】
上記のオイルポンプ1においては、駆動シャフト2が回転すると、トロコイドのインナロータ10が、第一ケース部材30及び第二ケース部材40からなる収容ケースの収容空間32内でアウタロータ20に対して回転する。このトロコイドの回転中、収容空間32の容積が増大すると、その収容空間32の内圧が負圧になる。収容空間32の内圧が負圧になると、ハウジング本体部材50の吸入口52から吸入通路54を介して第一ケース部材30の収容空間32にオイルが吸入される。その後、トロコイドの回転により収容空間32の容積が減少すると、その収容空間32内のオイル圧が上昇する。オイル圧が上昇すると、その収容空間32内のオイルがハウジング本体部材50の排出通路55を介して排出口53へ導かれて外部へ排出される。このポンプ作用がトロコイドの回転によって連続的に行われると、オイルポンプ1からオイルが圧送される。
【0038】
上記のオイルポンプ1において、ハウジング本体部材50は、第一ケース部材30を収容保持するケース保持部51を有しつつ、樹脂により形成されている。ハウジング本体部材50には、排出通路55の一部をなすオイル溜まりとしての排出溝部57が設けられている。また、第一ケース部材30は、トロコイドを収容するロータ収容部31を有しつつ、金属により形成されている。第一ケース部材30には、上記の排出溝部57に嵌合する嵌合溝部35が設けられている。嵌合溝部35は、排出溝部57に合致する形状に形成されており、排出溝部57の表面を覆いその排出溝部57に嵌っている。
【0039】
この構造においては、排出溝部57の表面がその排出溝部57の開口から底部57aの連通口59まで流通するオイルに晒されておらず、排出溝部57がそのオイルのオイル圧を直接に受けない。すなわち、オイル圧送時、収容空間32内のオイルは、第一ケース部材30の収容空間32から嵌合溝部35を経由してその底部35aの導出孔34に至り、その後、ハウジング本体部材50の排出溝部57の底部57aの連通口59から排出通路55を通って排出口53に至り外部へ排出される。この際、第一ケース部材30の収容空間32から嵌合溝部35に流入したオイルの圧力は高圧であるが、そのオイル圧は、ハウジング本体部材50の排出溝部57には直接に作用せず、嵌合溝部35の表面に作用する。
【0040】
上述の如く、第一ケース部材30は金属により形成されると共に、ハウジング本体部材50は樹脂により形成される。従って、オイル圧送時、高圧のオイル圧が金属製の第一ケース部材30には作用するが、金属部材は樹脂部材に比べて外部からの圧力によって変形し難いので、上記した嵌合溝部35内の高圧のオイル圧が樹脂製のハウジング本体部材50に作用することは回避される。このため、オイル圧送時、樹脂製のハウジング本体部材50が変形し易くなるのを防止してその変形を抑えることができる。
【0041】
特に、第一ケース部材30の嵌合溝部35の導出孔34とハウジング本体部材50の排出溝部57の連通口59とは、互いに連通しており、その導出孔34の径は、連通口59の径以下である。このため、排出溝部57の表面にオイルに晒されている部分が存在せず、排出溝部57に高圧のオイル圧が直接に作用する部分が存在しないので、オイル圧送時、樹脂製のハウジング本体部材50が変形し易くなるのを確実に防止してその変形を確実に抑えることができる。
【0042】
上記のオイルポンプ1の構造においては、ハウジング本体部材50及びカバー部材60からなるハウジングの素材として樹脂が用いられる。また、オイルポンプ1の安定した圧送量や組付精度を確保するためには、インナロータ10及びアウタロータ20を収容する第一ケース部材30及び第二ケース部材40に高い形状精度が要求されるが、その第一ケース部材30及び第二ケース部材40は金属により形成される。更に、高圧のオイルが作用する部位には高い強度が要求されるが、その部位は金属製の第一ケース部材30及び第二ケース部材40に限られる。従って、オイルポンプ1の軽量化を図りつつその製造の容易化及び小型化を図ると共に、第一ケース部材30及び第二ケース部材40の必要精度を容易に確保することができる。
【0043】
更に、オイルポンプ1においては、第一ケース部材30とハウジング本体部材50との間にシール部材80が配置されている。このシール部材80は、第一ケース部材30におけるロータ収容部31の底部31aと嵌合溝部35の側部との接続部位又はその接続部位近傍(
図5及び
図11において底部31a)と、ハウジング本体部材50(
図5及び
図11においてケース保持部51の底部51a)との間に配置されている。この構造によれば、第一ケース部材30の嵌合溝部35の周囲におけるハウジング本体部材50とのシール性を確保することができる。このため、インナロータ10及びアウタロータ20からなるトロコイドを収容する第一ケース部材30とその第一ケース部材30を保持するハウジング本体部材50との隙間を介して、嵌合溝部35内のオイルが吸入通路54側に漏れること及び吸入通路54内のオイルが排出通路55側に漏れるのを抑えることができ、これにより、圧送するオイルについて所望のオイル圧を確保することができる。
【0044】
尚、上記の実施形態においては、インナロータ10が特許請求の範囲に記載した「ロータ」に、第一ケース部材30が特許請求の範囲に記載した「収容ケース」に、ハウジング本体部材50が特許請求の範囲に記載した「ハウジング」に、それぞれ相当している。
【0045】
ところで、上記の実施形態においては、第一ケース部材30の導出孔34が嵌合溝部35の底部35aに形成されている。しかし、本発明は、これに限定されるものではなく、第一ケース部材30の導出孔34が嵌合溝部35の側部35bに形成されたオイルポンプ1に適用することとしてもよい。
【0046】
また、上記の実施形態においては、第一ケース部材30が、ハウジング本体部材50に設けられた排出溝部57に嵌る嵌合溝部35を有しているが、ハウジング本体部材50に設けられた吸入溝部56に嵌る溝部を有していない。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、
図15及び
図16に示す如く、第一ケース部材130が、嵌合溝部35を有すると共に、ハウジング本体部材50に設けられた吸入溝部56に嵌る嵌合溝部131を有することとしてもよい。
【0047】
この変形形態において、嵌合溝部131は、ロータ収容部31の底部31aに設けられている。嵌合溝部131は、その底部31aにおいて周方向に弧状に延びている。嵌合溝部131は、底部31aの面から側部31bが延出する軸方向とは反対側の軸方向に深さを有している。嵌合溝部131は、底部131aと、底部131aの外縁から軸方向に延出する筒状の側部131bと、を有している。嵌合溝部131は、排出側の嵌合溝部35とは異なる部位に設けられている。すなわち、嵌合溝部35と嵌合溝部131とは、第一ケース部材30の底部31aにおいて直接的には互いに接続していない。嵌合溝部131は、ハウジング本体部材50の吸入溝部56に嵌合する溝である。第一ケース部材30の導入孔33は、嵌合溝部131の底部131a又は側部131bに形成されている。
【0048】
尚、本発明は、上述した実施形態や変形形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1:オイルポンプ、2:駆動シャフト、10:インナロータ、20:アウタロータ、30,130:第一ケース部材、31:ロータ収容部、31a:底部、32:収容空間、33:導入孔、34:導出孔、35,131:嵌合溝部、35a,131a:底部、35b,131b:側部、40:第二ケース部材、50:ハウジング本体部材、51:ケース保持部、51a:底部、52:吸入口、53:排出口、54:吸入通路、55:排出通路、56:吸入溝部、57:排出溝部、59:連通口、60:カバー部材、80:シール部材。