IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東亞合成株式会社の特許一覧

<図1>
  • 特許-塗料組成物、塗膜及び塗装物品 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】塗料組成物、塗膜及び塗装物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 143/04 20060101AFI20220922BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20220922BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220922BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
C09D143/04
C09D133/14
B05D7/24 302Y
B05D7/24 302P
B32B27/30 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017211848
(22)【出願日】2017-11-01
(65)【公開番号】P2019085437
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 遼
(72)【発明者】
【氏名】清家 学
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 哲也
(72)【発明者】
【氏名】阿知波 政史
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-292674(JP,A)
【文献】特開2004-155940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 143/04
C09D 133/14
B05D 7/24
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜のガラス転移温度が30~100℃である、アルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂(A)を含む可塑剤移行防止用塗料組成物であって、
前記(A)成分の構成単量体単位としてポリオキシアルキレン基含有エチレン性不飽和単量体を1~50質量%含む、
可塑剤移行防止用塗料組成物。
【請求項2】
前記(A)成分の溶解度パラメータ値が9.6以上である、請求項1に記載の可塑剤移行防止用塗料組成物。
【請求項3】
塗膜のガラス転移温度が30~100℃である、アルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂(A)を含む可塑剤移行防止用塗料組成物であって、
前記(A)成分が、溶液重合物であ
前記(A)成分の溶解度パラメータ値が9.6以上である、
可塑剤移行防止用塗料組成物。
【請求項4】
前記(A)成分の構成単量体単位として水酸基含有エチレン性不飽和単量体を1~25質量%含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の可塑剤移行防止用塗料組成物。
【請求項5】
前記(A)成分の数平均分子量がポリメチルメタクリレート換算した値として4,000~30,000である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の可塑剤移行防止用塗料組成物。
【請求項6】
シーリング材、塩化ビニル系防水材又は塩化ビニル系内装材のいずれかに適用される、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の可塑剤移行防止用塗料組成物。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の可塑剤移行防止用塗料組成物から形成される塗膜。
【請求項8】
可塑剤含有樹脂の上に、請求項7に記載の塗膜が形成された塗装物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑剤移行防止用塗料組成物、塗膜及び塗装物品に関し、建築及び土木、電気部品、並びに自動車等の幅広い産業分野の様々な工業用製品分野において使用することができ、特に、建築及び土木分野に好ましく使用可能であり、これら技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
樹脂を主成分とする材料は、建築及び土木、電気部品、並びに自動車等の幅広い産業分野で使用されている。前記材料は、柔軟性や加工性を付与する目的で、可塑剤が配合された樹脂(以下、「可塑剤含有樹脂」という。)を主成分とすることがある。このため、例えば、可塑剤含有樹脂を主成分とする材料の上に、汎用の塗料等を直接塗装すると、当該塗料により形成された塗膜中に可塑剤成分が移行する。これにより、塗膜表面がべたついたり、汚染物質が付着したり、塗膜がシワのように変形したりするといった問題が生じることがある。
【0003】
建築及び土木分野では、可塑剤含有樹脂として、シーリング材が使用される。シーリング材は、建築物の外壁等において、主に線防水を目的としてコンクリートの伸縮目地及び誘発目地、並びに成型材の板間目地等に充填される。更に、シーリング材の表面に塗料、仕上塗材、防水材等を塗布することで、目地部分の保護を図ることができ、全体的な意匠性が統一され美観性を高めることができる。しかしながら、シーリング材に含まれる可塑剤が、シーリング材上に形成された塗膜に移行することによって、空気中の汚染物質が塗膜に付着したり、塗膜がシワのように変形したりすることで、外観を損なうという問題があった。
【0004】
また、建築物の屋根は、可塑剤含有樹脂である塩化ビニル樹脂を主成分とする防水シート(以下、「塩化ビニル系防水材)という。)を使用して防水される。塩化ビニル系防水材が経年で劣化した場合には、塗膜防水により改修することがある。しかし、前記シーリング材の場合と同様に、塩化ビニル系防水材に含まれる可塑剤が、塩化ビニル系防水材上に形成された塗膜に移行することによって、空気中の汚染物質が塗膜に付着したり、塗膜防水の付着性が低下してフクレが発生することで、外観を損なうという問題があった。
【0005】
さらに、建築物の内装においても、可塑剤含有樹脂である塩化ビニル樹脂を主成分とする壁紙及び床材等(以下、「塩化ビニル系内装材)という。)がよく用いられている。塩化ビニル樹脂が経年で劣化した場合には、古い塩化ビニル系内装材を新品に取り替える方法が一般的であるが、廃棄物処理に伴うダイオキシン発生を回避する観点から、これに替わる方法として、近年塗装による改装が注目されつつある。しかしながら、このような塩化ビニル系内装材の表面に、直接塗料などを施した場合には、前記シーリング材及び塩化ビニル系防水材の場合と同様に、塩化ビニル系内装材に含まれる可塑剤が、塩化ビニル系内装材上に形成された塗膜に移行することによって、空気中の汚染物質が塗膜に付着したり、塗膜がシワのように変形したりすることで、外観を損なうという問題があった。
【0006】
このため、可塑剤含有樹脂であるシーリング材、塩化ビニル系防水材及び塩化ビニル系内装材の上に、塗料、仕上塗材、防水材等を塗布する場合は、可塑剤の移行を防止したり、塗料、仕上塗材、防水材等との付着性を向上させる目的で、逆プライマーと呼ばれるプライマーを可塑剤含有樹脂の上に塗布した後に、塗料、仕上塗材、防水材等を塗布することがある。前記逆プライマーはシーリング材、塩化ビニル系防水材及び塩化ビニル系内装材の種類によって専用のものを使い分ける必要がある。しかしながら、シーリング材、塩化ビニル系防水材及び塩化ビニル系内装材を施工して長期間経過後に、塗料、仕上塗材、防水材等を用いて改修を行う場合、シーリング材、塩化ビニル系防水材及び塩化ビニル系内装材の種類を見分けることは非常に困難である。このため、専用の逆プライマーを使用することができず、塗料、仕上塗材、防水材等に可塑剤が移行するなどして汚染したり、塗膜がシワ状に変形したりするという問題がある。また、逆プライマーの主成分はウレタン樹脂及び/又はエポキシ樹脂であるため、紫外線や熱による劣化に伴う変色が著しく、逆プライマーの上に透明塗料を塗布した場合には、前記変色が目立ち外観を損なうという問題がある。さらに、逆プライマーは高硬度の塗膜を形成するため、温冷繰返しによるシーリング材の動きに追従することが難しく、塗膜にひび割れが発生するなどの問題がある。
【0007】
このような背景の下、シーリング材、塩化ビニル系防水材及び塩化ビニル系内装材等に含まれる可塑剤による、塗料、仕上塗材、防水材等の汚染を防止することを目的とした塗料組成物(以下、「可塑剤移行防止用塗料組成物」という。)を、あらかじめ塗布してから塗料、仕上塗材、防水材等を塗布する方法が提案されている。
【0008】
特許文献1及び2には、シーリング材の汚染防止方法として、アルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂を含む塗料組成物によってシーリング材を被覆する方法が開示されている。
【0009】
特許文献3には、シーリング材及び塩化ビニル系内装材の汚染防止方法として、親水性基を含有し特定の吸湿率を有する吸湿性粉体と合成樹脂を含む塗料組成物によってシーリング材又は塩化ビニル系内装材を被覆する方法が開示されている。
【0010】
特許文献4には、シーリング材の汚染防止方法として、エポキシ樹脂を含む塗料組成物によってシーリング材を被覆する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平9-262539号公報
【文献】特開2006-341224号公報
【文献】特開2004-143431号公報
【文献】特開平11-92711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1~4に記載された可塑剤移行防止用塗料組成物は、シーリング材、塩化ビニル系防水材及び塩化ビニル系内装材と塗料、仕上塗材、防水材等との初期付着性は良好であり、フタル酸ジオクチル(以下、「DOP」という、溶解度パラメータ値(以下、「SP値」という。)8.9)等のSP値が比較的低い可塑剤による汚染は防止できているものの、フタル酸ブチルベンジル(以下、「BBP」という、SP値9.9)等のSP値が比較的高い可塑剤による汚染を防止できていなかった。そのため、SP値が比較的高い可塑剤を含有する可塑剤含有樹脂においては、汚染防止を目的とした塗料組成物を使用したにも関わらず、塗料、仕上塗材、防水材等に可塑剤が移行するなどして汚染が見られるという問題がある。また、可塑剤の移行により塗料、仕上塗材、防水材等にシワ状の変形などが発生するという問題もある。
【0013】
また、特許文献4に記載された可塑剤移行防止用塗料組成物は、エポキシ樹脂を主成分としているため、紫外線による変色やひび割れが著しく、その上にクリア塗料を塗布した場合には変色が目立つため、その上に塗布される塗料としては着色塗料に限られるという問題がある。
【0014】
前記した通り、可塑剤含有樹脂に塗布した塗料、仕上塗材、防水材等に経年で空気中の汚染物質の付着がないこと(以下、「耐汚染性」という。)以外にも、シワ及びフクレ等の変形がないこと(以下、「変形防止性」という。)、剥がれがないこと(以下、「付着性」という。)、及び変色がないこと(以下、「変色防止性」という。)も求められ、既存の塗料組成物ではこれら全てを満足することは困難であった。
ここで、前記の耐汚染性、変形防止性、付着性及び変色防止性をまとめて、「可塑剤移行防止性」と呼ぶ。
【0015】
さらに、特許文献1~4に記載された塗料組成物では、前記可塑剤移行防止性と、紫外線の影響による、可塑剤移行防止用塗料組成物の塗膜の変色及びひび割れがないこと(以下、「耐候性」という。)、及び、温冷繰返しによっても、可塑剤含有樹脂の動きに追従することで、可塑剤移行防止用塗料組成物の塗膜のひび割れがないこと(以下、「耐温冷繰返し性」という。)を同時に満足する事は困難であった。
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、専用の逆プライマーを使用しなくても、可塑剤含有樹脂からなるシーリング材、塩化ビニル系防水材及び塩化ビニル系内装材に含まれる可塑剤のSP値にかかわらず、可塑剤移行防止性に優れ、さらに、耐候性及び耐温冷繰返し性を同時に満足する可塑剤移行防止用塗料組成物、塗膜及び塗装物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、塗膜のガラス転移温度が特定の値である、アルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂(A)を含む可塑剤移行防止用塗料組成物を見出し、本発明を完成した。
【0018】
本発明は以下の通りである。
[1]塗膜のガラス転移温度が30~100℃である、アルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂(A)を含む可塑剤移行防止用塗料組成物。
[2]前記(A)成分の溶解度パラメータ値が9.6以上である、[1]に記載の可塑剤移行防止用塗料組成物。
[3]前記(A)成分の構成単量体単位としてポリオキシアルキレン基含有エチレン性不飽和単量体を1~50質量%含む、[1]又は[2]に記載の可塑剤移行防止用塗料組成物。
[4]前記(A)成分の構成単量体単位として水酸基含有エチレン性不飽和単量体を1~25質量%含む、[1]~[3] のいずれか一に記載の可塑剤移行防止用塗料組成物。
[5]前記(A)成分の数平均分子量がポリメチルメタクリレート換算した値として4,000~30,000である、[1]~[4] のいずれか一に記載の可塑剤移行防止用塗料組成物。
[6]シーリング材、塩化ビニル系防水材又は塩化ビニル系内装材のいずれかに適用される、[1]~[5]のいずれか一に記載の可塑剤移行防止用塗料組成物。
[7][1]~[6]のいずれか一に記載の可塑剤移行防止用塗料組成物から形成される塗膜。
[8]可塑剤含有樹脂の上に、[7]に記載の塗膜が形成された塗装物品。
【発明の効果】
【0019】
本発明の可塑剤移行防止用塗料組成物、塗膜及び塗装物品によれば、可塑剤含有樹脂に含まれる可塑剤のSP値に関わらず、可塑剤移行防止性、耐候性及び耐温冷繰返し性を同時に満足することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例における試験体用基材である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本明細書に開示される技術の各種実施形態を詳しく説明する。尚、本明細書においては、アクリル樹脂及び/又はメタクリル樹脂を(メタ)アクリル樹脂と表し、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を(メタ)アクリロイル基と表し、アクリロキシ及び/又はメタクリロキシを(メタ)アクリロキシと表し、アクリレート及び/又はメタクリレートを(メタ)アクリレートと表し、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と表す。
【0022】
本発明は、塗膜のガラス転移温度(以下、「Tg」という。)が30~100℃である、アルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂(A)を含む可塑剤移行防止用塗料組成物に関する。
【0023】
本発明の可塑剤移行防止用塗料組成物が適用される可塑剤含有樹脂は、特に限定はなく、シーリング材、塩化ビニル系防水材及び塩化ビニル系内装材等を挙げることができ、シーリング材が特に好ましい。
【0024】
前記シーリング材としては、一成分形または二成分形のシリコーン系、ポリイソブチレン系、変成シリコーン系、ポリサルファイド系、変成ポリサルファイド系、アクリル系、ポリウレタン系、アクリルウレタン系及びブチルゴム系等を挙げることができる。
【0025】
前記可塑剤の具体例としては、DOP,BBP、ジブチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート及びジブトキシエチルフタレート等のフタル酸エステル類、ジエチレングリコールジベンゾエート等の安息香酸エステル類、ジブチルアジペート、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート、ジブチルセバケート及びビス(2-エチルヘキシル)セバケート等の脂肪族二塩基酸エステル類、オレイン酸ブチル及びアセチルリシリノール酸メチル等の脂肪族エステル類、トリクレジルホスフェート、トリ(2-エチルヘキシル)ホスフェート及びトリブトキシエチルホスフェート等のリン酸エステル類、塩素化パラフィン類、エポキシ化大豆油等のエポキシ系可塑剤類等を挙げることができる。
【0026】
前記塗料、仕上塗材、防水材等としては、特に限定はなく、可塑剤含有樹脂の保護、防水及び美観付与等を目的に塗布される、従来公知のアクリルゴム、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、ゴムアスファルト、、ポリエステル樹脂、
ビニルエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フェノール系樹脂及びアルキッド系樹脂を含む塗料等を挙げることができる。
【0027】
以下、(A)成分、その他成分、可塑剤移行防止用塗料組成物の製造方法、使用方法及び用途について説明する。
【0028】
1.(A)成分
(A)成分は、アルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂である。
【0029】
本発明の(A)成分を含む可塑剤移行防止用塗料組成物は、当該塗膜の動的粘弾性測定によるTgが30~100℃であると(A)成分中のアルコキシシリル基が湿気硬化し、架橋することで、可塑剤移行防止性、耐候性及び耐温冷繰返し性に優れた塗膜を得ることができる。
【0030】
(A)成分を含む可塑剤移行防止用塗料組成物の塗膜のTgとしては、可塑剤移行防止性及び耐候性を向上できる点で、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。また、可塑剤移行防止性、耐候性及び耐温冷繰返し性を同時に満足できる点で、95℃以下が好ましく、85℃以下がより好ましい。
【0031】
(A)成分のSP値としては、可塑剤含有樹脂に含まれる可塑剤のSP値に関わらず、可塑剤移行防止性を向上できる点で、9.6以上が好ましく、9.8以上がより好ましく、10.0以上であることが特に好ましい。また、幅広い種類の溶剤や添加剤との溶解性の観点から、11.0以下であることが好ましい。
【0032】
本発明において、(A)成分のSP値は、簡便な実測法である濁点滴定法により測定することができる。
【0033】
濁点滴定法によるSP値は、高分子溶液に貧溶媒を滴下し、濁りを生じるまでに要した貧溶媒の滴定量を求め、下記のK.W.SUH、J.M.CORBETTの式(Journal of Applied Polymer Science,12,2359,1968の記載参照)に従い算出される値である。
この際、貧溶媒として、SP値の低い貧溶媒(例えば、イソオクタンなど)とSP値の高い貧溶媒(例えば、水など)を用いる。
【0034】
式(1) SP値=(Vml 1/2・δml+Vmh 1/2・δmh)/(Vml 1/2+Vmh 1/2
ここで、上記計算式中の各記号は、以下を意味する。
ml=v×v/((1-V)×v+V×v
mh=v×v/((1-V)×v+V×v
T:高分子を溶解させるのに要した溶媒の量(ml)
L:SP値の低い貧溶媒の滴定量(ml)
H:SP値の高い貧溶媒の滴定量(ml)
=L/(T+L)
=H/(T+H)
:高分子を溶解させるのに用いた溶媒のモル分子容(cm/mol)
:SP値の低い貧溶媒のモル分子容(cm/mol)
:SP値の高い貧溶媒のモル分子容(cm/mol)
【0035】
δml=δ×T/(T+L)+δ×L/(T+L)
δmh=δ×T/(T+H)+δ×H/(T+H)
δ:高分子を溶解させるのに用いた溶媒のSP値
δ:SP値の低い貧溶媒のSP値
δ:SP値の高い貧溶媒のSP値
【0036】
本発明の濁点滴定では、(A)成分0.03gをテトラヒドロフラン(以下、「THF」という。)10mlに溶解した中に、イソオクタンを加えていき、濁点での滴定量L(ml)を読み、同様にTHF溶液中に脱イオン水を加えたときの濁点における滴定量H(ml)を読み、以下の計算式により得られたVml、Vmh、δml及びδmhを用いて、上記式(1)により、(A)成分のSP値を算出した。
尚、各溶剤のモル分子容(cm/mol)は、THF:81.1、イソオクタン:165.6、脱イオン水:18であり、各溶剤のSP値は、THF:9.1、イソオクタン:6.9、脱イオン水:23.4である。
【0037】
ml=81.1×165.6/((1-V)×165.6+V×81.1)
mh=81.1×18/((1-V)×18+V×81.1)
=L/(10+L)
=H/(10+H)
δml=9.1×10/(10+L)+6.9×L/(10+L)
δmh=9.1×10/(10+H)+23.4×H/(10+H)
【0038】
(A)成分としては、1個以上のアルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和単量体(以下「アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体」という。)を重合して得られる重合体が好ましく、アルコキシシリル基含有単量体と共重合可能なエチレン性不飽和単量体(以下「共重合性不飽和単量体」という。)との共重合体がさらに好ましい。
【0039】
アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体は、1個以上のアルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和単量体である。
【0040】
アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体のエチレン性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基及び(メタ)アリル基等が挙げられ、これらの中でも、原料の入手の容易さや反応性の観点から、(メタ)アクリロイル基及びビニル基が好ましい。
【0041】
アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体の具体例としては、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジブトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジブトキシシランγ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルプロポキシシラン及びγ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルブトキシシラン等の(メタ)アクリロイル基を有する単量体、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン及びビニルジメチルエトキシシラン等のビニル基を有する単量体等が挙げられる。
上記アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体は、1種のみを使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0042】
共重合性不飽和単量体のエチレン性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、(メタ)アクリルアミド基及び(メタ)アリル基等が挙げられ、これらの中でも、原料の入手の容易さや反応性の観点から、(メタ)アクリロイル基及びビニル基が好ましい。
【0043】
共重合性不飽和単量体としては、炭化水素基含有エチレン性不飽和単量体、ポリオキシアルキレン基含有エチレン性不飽和単量体、水酸基含有エチレン性不飽和単量体、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体及び芳香族ビニル単量体、不飽和イミド化合物及び末端にモノ(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマー類、並びにその他エチレン性不飽和単量体等が挙げられる。
【0044】
炭化水素基含有エチレン性不飽和単量体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート及びt-ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート及びトリシクロ[5.2.1.02、6]デカン-8-イル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0045】
水酸基含有エチレン性不飽和単量体の具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及びヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート及びポリエチレングリコールーポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基末端ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート;グリセロールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0046】
(A)成分の構成単量体単位として水酸基含有エチレン性不飽和単量体を1~25質量%含む事が好ましい。可塑剤移行防止性を向上できる点で、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。また、貯蔵安定性を損なわない点で、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0047】
ポリオキシアルキレン基含有エチレン性不飽和単量体の具体例としては、前記水酸基末端ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの他、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリロキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のアルキル基末端ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0048】
ポリオキシアルキレン基含有エチレン性不飽和単量体のオキシアルキレン基の繰り返し単位のアルキレン部分の炭素数は、可塑剤移行防止性及び耐候性を発現できる点で2~4が好ましく、2~3がより好ましい。オキシアルキレン基の平均繰り返し数は、可塑剤移行防止性、耐候性及び耐温冷繰返し性を同時に満足できる点で、2~20が好ましく、2~15がより好ましい。
【0049】
(A)成分の構成単量体単位としてポリオキシアルキレン鎖含有エチレン性不飽和単量体を1~50質量%含む事が好ましい。可塑剤移行防止性を向上できる点で、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、塗膜の物性を損なわない点で、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましい。
【0050】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、α-クロルアクリル酸及びけい皮酸等の不飽和モノカルボン酸類又はその無水物類;マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸及びメサコン酸等の不飽和ジカルボン酸又はその無水物類;3価以上の不飽和多価カルボン酸又はその無水物類;コハク酸モノ(2-(メタ)アクリロイロキシエチル)及びフタル酸モノ(2-(メタ)アクリロイロキシエチル)等の2価以上の多価カルボン酸のモノ〔(メタ)アクリロイロキシアルキル〕エステル類;並びにω-カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等の両末端にカルボキシ基と水酸基とを有するポリマーのモノ(メタ)アクリレート類等を挙げることができる。これらのカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体のうち、コハク酸モノ(2-アクリロイロキシエチル)及びフタル酸モノ(2-アクリロイロキシエチル)は、それぞれアロニックスM-5300及びM-5400〔東亞合成(株)製〕の商品名で市販されている。
【0051】
芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-ビニルトルエン、m-ビニルトルエン、p-ビニルトルエン、p-クロルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、2-ビニルベンジルメチルエーテル、3-ビニルベンジルメチルエーテル、4-ビニルベンジルメチルエーテル、2-ビニルベンジルグリシジルエーテル、3-ビニルベンジルグリシジルエーテル及び4-ビニルベンジルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0052】
不飽和イミド化合物の具体例としては、N-フェニルマレイミド及びN-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
【0053】
末端にモノ(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマー類の具体例としては、ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリ-n-ブチル(メタ)アクリレート及びポリシロキサン等の高分子鎖を有するもの等を挙げることができる。
【0054】
その他エチレン性不飽和単量体の具体例としては、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;2-(3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミド)エチル(メタ)アクリレート、2-(2,3-ジメチルマレイミド)エチル(メタ)アクリレート等のイミド(メタ)アクリレート;2-アミノエチル(メタ)アクリレート、2-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-アミノプロピル(メタ)アクリレート、2-ジメチルアミノプロピルアクリレート、3-アミノプロピル(メタ)アクリレート及び3-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド及びN-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド及びその誘導体;グリシジル(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記共重合性不飽和単量体は、1種のみを使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0055】
(A)成分の数平均分子量(以下、「Mn」という。)としては、ポリメチルメタクリレート換算した値として4,000~30,000である事が好ましい。可塑剤移行防止性、耐候性及び温冷繰返し性のいずれにも優れる点で、4,000以上が好ましく、6,000以上がより好ましい。また、貯蔵安定性及び作業性を損なわない点で、30,000以下が好ましく、25,000以下がより好ましい。
【0056】
本発明の(A)成分において、Mnとは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」)という。)により測定した分子量をポリメチルメタクリレート換算した値である。
【0057】
尚、本発明におけるGPCにより測定した分子量は、以下の条件で測定した値を意味する。
・装置:東ソー(株)製GPC HLC-8020
・検出器:RI検出器
・カラム:東ソー製TSKgel SuperMultiporeHZ-M 4本
・カラムの温度:40℃
・溶離液組成:THF(内部標準として硫黄を0.03%含むもの)、流量0.60mL/分
・分子量標準物質:ポリメチルメタクリレ―ト
【0058】
(A)成分の共重合形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体のいずれでも良い。
【0059】
本発明の可塑剤移行防止用塗料組成物としては、(A)成分は、1種のみを使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0060】
(A)成分の含有量としては、可塑剤移行防止性、耐候性及び温冷繰返し性のいずれにも優れるという点で、塗料組成物の固形分100質量%に、50~100質量%であることが好ましく、より好ましくは60~100質量%であり、特に好ましくは70~100質量%である。
【0061】
(A)成分の製造方法としては、特に制限は無く、前記したエチレン性不飽和単量体を使用して、溶液重合、塊状重合、懸濁重合及び乳化重合等の公知の方法を用いることができる。
これらの中でも、重合体の製造が容易、かつ乳化剤等の余計な不純物を含まない点で溶液重合法が好ましい。
【0062】
溶液重合法で製造する場合は、使用するエチレン性不飽和単量体を有機溶剤に溶解し、熱重合開始剤を添加し、加熱攪拌することにより得られる。溶液重合法でラジカル重合により合成する場合は、使用するエチレン性不飽和単量体を有機溶剤に溶解し、熱ラジカル重合開始剤を添加し、加熱攪拌することにより得られる。又、必要に応じて、重合体の分子量を調節するために連鎖移動剤を使用することができる。
【0063】
溶液重合法に用いられる有機溶剤の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;並びにヘキサン、ヘプタン及びミネラルスピリット等の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。
【0064】
熱重合開始剤の具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル及びアゾビスシアノバレリックアシッド等のアゾ系開始剤;t-ブチルパーオキシピバレート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、ジラウロイルパーオキシド、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジt-ブチルパーオキシド及びジクミルパーオキシド等の有機過酸化物;並びに過酸化水素-鉄(II)塩、ペルオキソ二硫酸塩-亜硫酸水素ナトリウム、クメンヒドロペルオキシド-鉄(II)塩等が挙げられる。
熱重合開始剤の使用割合は、目標とする分子量に応じて適宜設定すれば良い。熱重合開始剤の使用割合は、使用する全エチレン性不飽和単量体の合計100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましい。
【0065】
2.その他成分
本発明の可塑剤移行防止用塗料組成物は、(A)成分を含有するものであるが、目的に応じて種々の成分を配合することができる。
【0066】
その他成分としては、具体的には、(A)成分以外の樹脂、硬化触媒、脱水剤、顔料、造膜助剤、増粘剤、消泡剤、分散剤、ポリイソシアネート硬化剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、密着性付与剤、レベリング剤、染料、防腐剤、防藻剤、沈降防止剤、つや消し剤、可塑剤、無機粉体及び有機溶剤等が挙げられる。
【0067】
以下、これらの成分について説明する。
尚、後記するその他成分は、例示した化合物の1種のみを使用しても良く、2種以上を併用しても良い。尚、後記するその他成分の内、液体のものは、可塑剤移行防止用塗料組成物と相溶するものであればいずれのものも使用できるが、その他成分によりSP値が大きく変化する可能性がある場合は、SP値が8.5~11.0であることが好ましい。
【0068】
2-1.硬化触媒
硬化触媒は、可塑剤移行防止用塗料組成物の湿気硬化性を向上する目的で配合することができる。
【0069】
硬化触媒の具体例としては、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジマレート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジマレート及びオクチル酸スズ等の有機スズ化合物;ジイソプロポキシチタンビス(アセチルアセトナート)、チタンテトラ(アセチルアセトナート)、ジオクタノキシチタンジオクタネート及びジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)等の有機チタン化合物が挙げられ、触媒効果が高い点で有機スズ化合物が好ましい。
【0070】
硬化触媒の含有割合は、(A)成分を含む全固形分100質量部に対して0.01~20質量部が好ましい。硬化触媒の割合を0.01質量部以上にすることで触媒効果が充分に得られやすく、硬化触媒の割合を20質量部以下とすることで可塑剤移行防止用塗料組成物の貯蔵安定性を確保できる。
【0071】
2-2.脱水剤
脱水剤は、可塑剤移行防止用塗料組成物の貯蔵安定性を向上する目的で配合することができる。
【0072】
脱水剤の具体例としては、五酸化リン、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム(無水芒硝)及びモレキュラーシーブス等の無機固体、オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル、メチルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン及びビニルトリメトキシシラン等の加水分解性エステル化合物等が挙げられる。
【0073】
脱水剤の含有割合は、(A)成分を含む全固形分100質量部に対して0.1~20質量部が好ましい。脱水剤の割合を0.1質量部以上にすることで可塑剤移行防止用塗料組成物の貯蔵安定性を向上でき、脱水剤の割合を20質量部以下とすることで塗膜の物性を維持できる。
【0074】
3.可塑剤移行防止用塗料組成物の製造方法
本発明は、前記(A)成分を含む可塑剤移行防止用塗料組成物に関する。
本発明の可塑剤移行防止用塗料組成物の製造方法としては、常法に従えば良く、前記(A)成分と、必要に応じてさらにその他成分を、常法に従い攪拌・混合することにより製造することができる。この場合、必要に応じて加熱することができる。
【0075】
4.使用方法
本発明の可塑剤移行防止用塗料組成物の使用方法としては、常法に従えば良い。可塑剤含有樹脂の上に、直接、本発明の可塑剤移行防止用塗料組成物を塗工しても良いし、可塑剤含有樹脂の上に形成されたプライマー層等の塗膜上に、本発明の可塑剤移行防止用塗料組成物を塗工しても良く、塗工後、自然乾燥又は加熱乾燥して、本発明の塗膜及び塗装物品を得る方法等が挙げられる。
【0076】
可塑剤含有樹脂に対する塗工は、従来知られている方法に従えば良く、例えば、刷毛、ローラー、こて若しくはヘラ等により塗布したり、又は、スプレーガンで吹き付けたりするなどの一般的な方法により施工することができる。
【0077】
又、本発明の可塑剤移行防止用塗料組成物の塗布厚さは、20~500μmであり、可塑剤含有樹脂及び用途に応じて選択すれば良いが、好ましくは20~200μmであり、より好ましくは40~150μmである。
【0078】
本発明の可塑剤移行防止用塗料組成物は、着色顔料を含まない場合には無色透明であり、その塗膜は耐候性に優れ、経年での黄変等の変色がないため、塗料、仕上塗材、防水材等としては、着色塗料のみならずクリア塗料も使用することができる。
【0079】
5.用途
本発明の可塑剤移行防止用塗料組成物、塗膜及び塗装物品は、建築及び土木、電気部品、並びに自動車等の幅広い産業分野の様々な工業用製品分野において使用することができる。
【0080】
建築及び土木分野における用途の具体例としては、シーリング材、塩化ビニル系防水材及び塩化ビニル系内装材等がある。
【0081】
電気部品分野における用途の具体例としては、電線コード及びケーブル等がある。
【0082】
自動車分野における用途の具体例としては、ハンドル及びシート等の内装部品等がある。
【0083】
これらの中でも、本発明の可塑剤移行防止用塗料組成物、塗膜及び塗装物品の用途としては、建築及び土木分野に好ましく使用可能であり、可塑剤含有樹脂としては、シーリング材、塩化ビニル系防水材及び塩化ビニル系内装材がより好ましく、シーリング材が特に好ましい。尚、本発明の可塑剤移行防止用塗料組成物は、シーリング材等の可塑剤含有樹脂に接するコンクリート、タイル、金属等にも塗装することができる。
【実施例
【0084】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0085】
1.製造例
1)製造例1〔(A)成分の製造〕
まず、メチルメタクリレート(三菱ガス化学(株)製MMA(メタクリル酸メチル)、以下、「MMA」という。)43質量部、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(n≒4)(日油(株)製ブレンマーPME-200、以下、「PME200」という。)42質量部、3-(メチルジメトキシシリル)プロピルメタクリレート(信越化学工業(株)製KBM-502、以下、「SiPMA」という。)10質量部、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート(共栄社化学(株)製ライトエステルHOP(N)、以下、「2HPA」という。)5.0質量部と、溶剤としてキシレン93質量部からなる単量体混合物193質量部を調製した。
次に、内容積2リットルの4つ口フラスコに、前記単量体混合物の30質量%に当たる57.9質量部を仕込み、この混合液を窒素ガスのバブリングにより十分に脱気し、混合液の内温を85℃まで昇温した。次いで、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製V-65、以下、「V65」という。)0.2質量部と、溶剤としてキシレン6.0質量部からなる初期添加用重合開始剤溶液を加え、重合を開始した。前記単量体混合物の70質量%に当たる135.1質量部を滴下ロートからフラスコ内に1.5時間かけて滴下すると共に、V65 0.8質量部とキシレン24部からなる連続滴下用重合開始剤溶液を別の滴下ロートからフラスコ内に4時間かけて滴下することで重合を行った。滴下終了後、2時間加熱熟成することで、アルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂(以下、「A1成分」という。)を含むキシレン溶液(固形分45%)を得た。
【0086】
2)製造例2~7〔(A)成分の製造〕、比較製造例1及び同2
構成単量体及び重合開始剤を表1に記載の部数とした以外は、製造例1と同様の方法に従い、重合を行って、製造例2~7において「A2~A7成分」を、比較製造例1~2において「A’1~A’2成分」を含むキシレン溶液(固形分45%)を得た。
【0087】
尚、表1における数字は部数を意味する。
又、表1における略号は下記を意味する。
・IBMA:イソブチルメタクリレート(共栄社化学(株)製ライトエステルIB)
【0088】
3)アルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂の評価方法
製造例1~7、並びに比較製造例1及び同2で得られたA1~A7成分、A’1成分及びA’2成分について、後記する方法に従い、塗膜のTg、SP値及びMnを測定した。それらの結果を表1に示す。
【0089】
◆塗膜のTg
アルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂を含むキシレン溶液を、離形紙で作製した型枠に流し込み、23℃1日養生し、さらに80℃3日養生した後の厚さ約300μmの塗膜を用いて、動的粘弾性測定を測定温度0~150℃、周波数1Hzで行い、損失弾性率の極大値となる温度をTgとした。
【0090】
◆SP値
前記した濁度滴定法にて、低極性貧溶媒としてイソオクタン、高極性貧溶媒として脱イオン水を用いて測定した。
試料は、200mlのポリカップにアルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂を含むキシレン溶液を1g入れ、60℃、1.0Torrにて3時間真空乾燥させて得た。
110mlのガラス製サンプル瓶中において、前記試料0.03gをTHF10mlに溶解させ、次いでイソオクタンを加えていき、目視で溶液が濁った点を濁点として、そのときの滴定量L(ml)を読んだ。
同様に、試料のTHF溶液中に脱イオン水を加えたときの濁点における脱イオン水の滴定量H(ml)を読み、以下の計算式により、Vml、Vmh、δml及びδmhを算出した。
【0091】
ml=81.1×165.6/((1-V)×165.6+V×81.1)
mh=81.1×18/((1-V)×18+V×81.1)
=L/(10+L)
=H/(10+H)
δml=9.1×10/(10+L)+6.9×L/(10+L)
δmh=9.1×10/(10+H)+23.4×H/(10+H)
【0092】
次いで、上記で得られたVml、Vmh、δml及びδmhを用いて、次式により、アルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂のSP値を算出した。
SP値=(Vml 1/2・δml+Vmh 1/2・δmh)/(Vml 1/2+Vmh 1/2
【0093】
◆Mn(GPC測定条件)
・装置:東ソー(株)製GPC HLC-8020
・検出器:RI検出器
・カラム:東ソー(株)製TSKgel SuperMultiporeHZ-M 4本
・カラムの温度:40℃
・溶離液組成:THF(内部標準として硫黄を0.03%含むもの)、流量0.60mL/分
・分子量標準物質:ポリメチルメタクリレ―ト
【0094】
【表1】
【0095】
2.実施例1~7、比較例1及び同2
塗料組成物の調製
下記表2に示す化合物を表2に示す割合で撹拌・混合し、塗料組成物を製造した。
得られた表2の塗料組成物を使用し、後記する評価を行った。それらの結果を表2に示す。
ここで、前記と同様の方法で、表2記載の塗料組成物の塗膜のTgを測定した結果、表1記載の対応するアルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂の塗膜のTgと同じであった。
尚、表2における数字は質量部を意味する。
又、表2における略号は下記を意味する。
・DBTDL:ジブチルスズジラウレート((株)ADEKA製アデカスタブBT-11)
【0096】
塗料組成物の評価
1)試験体の作製
本評価では、シーリング材として、「ペンギンシールMS2500typeNB ホワイト」(サンスター技研(株)製シーリング材、可塑剤非含有)に対し、可塑剤としてDOP又はBBPを13質量%配合したものを用いた。
まず、試験体用基材(目地幅20mmのアルミ製型枠、図1参照)の目地部分にシーリング材用プライマーとして「UM-2」(サンスター技研(株)製)を刷毛塗りし、気温23℃、湿度50%で2時間養生した。その後、シーリング材を目地部分に充填し、気温23℃、湿度50%で3日養生することにより、シーリング材層を形成した。
次に、前記シーリング材の表面に、表2記載の塗料組成物の塗布量が、塗膜として80g/mとなるように刷毛塗りし、気温23℃、湿度50%で1日乾燥させた。
続いて、弱溶剤系アクリルウレタン樹脂下塗材である「クリアウオールCP-100」(東亞合成(株)製)を0.12kg/mとなるように刷毛塗りした。その後、気温23℃、湿度50%で1日養生した。
さらに、弱溶剤系アクリルウレタン樹脂中塗材である「クリアウオールCS-200」(東亞合成(株)製)を0.24kg/mとなるように刷毛塗りし、気温23℃、湿度50%で1日乾燥させた。最後に、弱溶剤系アクリルシリコン樹脂上塗材である「クリアウオールCT-300」(東亞合成(株)製)を0.12kg/mとなるように刷毛塗りした。その後、気温23℃、湿度50%で1日養生することにより、試験体を得た。塗膜の外観は無色透明であった。
【0097】
2)可塑剤移行防止性試験
(1)変形防止性の評価
3.1)で得られた試験体を、乾燥機(80℃)に静置し、14日間加熱した。加熱後の塗膜の外観を目視観察し、以下の4水準で評価を行った。それらの結果を表2に示す。
◎:全くシワ又はフクレ等の変形が発生しなかった。
○:極僅かにシワ又はフクレ等の変形が発生した。
△:僅かにシワ又はフクレ等の変形が発生した。
×:著しくシワ又はフクレ等の変形が発生した。
【0098】
(2)耐汚染性の評価
3.1)で得られた試験体を、乾燥機(80℃)に静置し、14日間加熱した。加熱後の試験体を水平に置いて8号黒色珪砂を散布した後、試験体を垂直に立てて珪砂を自然落下させた。このとき、付着した8号黒色珪砂の程度(ふりかけた面積に対する付着面積の割合)について、目視確認し、以下の4水準で評価を行った。それらの結果を表2に示す。
◎:付着面積が10%未満
○:付着面積が10%以上20%未満
△:付着面積が20%以上50%未満
×:付着面積が50%以上
【0099】
(3)付着性の評価
3.1)で得られた試験体を、乾燥機(80℃)に静置し、14日間加熱した。加熱後の塗膜の付着性を、JIS K5600-5-6(付着性(クロスカット法))に準じて評価し、以下の4水準で評価を行った。それらの結果を表2に示す。
◎:全く剥がれがない
○:剥がれが全面積の5%未満
△:剥がれが全面積の5%以上35%未満
×:剥がれが全面積の35%以上
尚、作製直後の試験体は実施例1~7及び比較例1~2のいずれの評価結果も、◎であった。
【0100】
(4)変色防止性の評価
3.1)で得られた試験体を、乾燥機(80℃)に静置し、14日間加熱した。加熱後の塗膜の外観を目視観察し、以下の4水準で評価を行った。それらの結果を表2に示す。
◎:全く変色が見られなかった。
○:極僅かに変色が見られた。
△:僅かに変色が見られた。
×:著しい変色が見られた。
【0101】
3)促進耐候性試験
(1)耐候性の評価
3.1)で得られた試験体を、サンシャインスーパーロングライフウェザーメーター(スガ試験機社製)に設置し、JIS A1415 4に規定するWS-A法に準拠して3000時間の促進耐候性試験を行った。
促進耐候性試験後の塗膜の外観を目視観察し、以下の4水準で評価を行った。それらの結果を表2に示す。
尚、同試験条件では、下塗材「クリアウオールCP-100」、中塗材「クリアウオールCS-200」及び上塗材「クリアウオールCT-300」の変色及びひび割れが全く見られないことが分かっているため、本評価は、アルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂の塗膜の変色及びひび割れの有無を観察する評価である。
◎:全く変色が見られず、ひび割れも見られなかった。
○:極僅かに変色が見られるが、ひび割れは見られなかった。
△:僅かに変色が見られるが、ひび割れは見られなかった。
×:著しい変色が見られ、ひび割れも見られた。
【0102】
4)温冷繰返し試験
(1)耐温冷繰返し性の評価
3.1)で得られた試験体を、水浸漬(23℃)、18時間→低温インキュベーター(-20℃)、3時間→乾燥機(60℃)、3時間を1サイクルとする冷熱サイクル試験を合計10サイクル実施した。
温冷繰返し試験後の塗膜の外観を目視観察し、以下の2水準で評価を行った。それらの結果を表2に示す。
尚、同試験条件では、下塗材「クリアウオールCP-100」、中塗材「クリアウオールCS-200」及び上塗材「クリアウオールCT-300」のひび割れが全く見られないことが分かっているため、本評価は、アルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂の塗膜のひび割れの有無を観察する評価である。
◎:ひび割れが見られなかった。
×:ひび割れが見られた。
【0103】
【表2】
【0104】
5)評価結果
実施例1~7の結果から明らかなように、本発明の可塑剤移行防止用塗料組成物は、可塑剤のSP値によらず、可塑剤移行防止性、耐候性及び耐温冷繰返し性のいずれにも優れるものであった。
これに対して、比較例1の塗料組成物は、可塑剤のSP値が比較的高い場合には、可塑剤移行防止性に劣り、比較例2の塗料組成物は、耐温冷繰返し性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、可塑剤移行防止用塗料組成物、塗膜及び塗装物品に関し、建築及び土木、電気部品、並びに自動車等の幅広い産業分野の様々な工業用製品分野において使用することができる。建築及び土木分野に好ましく使用可能であり、当該分野の中でも、シーリング材、塩化ビニル系防水材又は塩化ビニル系内装材のいずれかに適用されることがより好ましく、シーリング材が特に好ましい。
図1