(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】車両の制御方法及び車両システム
(51)【国際特許分類】
B60W 10/04 20060101AFI20220922BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20220922BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20220922BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20220922BHJP
B60W 10/184 20120101ALI20220922BHJP
【FI】
B60W10/00 120
B60W10/06
B60W10/08
B60W10/184
(21)【出願番号】P 2018119090
(22)【出願日】2018-06-22
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】小川 大策
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 史律
【審査官】増子 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-065466(JP,A)
【文献】特開2016-039751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 10/30
B60W 30/00 - 60/00
G08G 1/00 - 99/00
F02D 29/00 - 29/06
F02D 13/00 - 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機により後輪が駆動される車両を制御する方法であって、
前記車両の運転状態に基づいて、前記原動機が発生すべき基本トルクを設定する基本トルク設定工程と、
前記車両に搭載された操舵装置の操舵角
が増加
しているときに、前記基本トルクが増加されるように、
操舵速度が増大するほど増加トルクが増大するように前記増加トルクを設定する増加トルク設定工程と、
前記増加トルクに基づき前記基本トルクを増加したトルクが発生するように、前記原動機を制御するトルク発生工程と、
を有することを特徴とする車両の制御方法。
【請求項2】
前記原動機は、インジェクタを有する内燃エンジンであり、
前記トルク発生工程において、前記増加トルクに基づき前記基本トルクを増加したトルクが発生するように、前記インジェクタの燃料噴射量を制御する、請求項1に記載の車両の制御方法。
【請求項3】
前記原動機は、さらに、スロットルバルブを有し、
前記トルク発生工程において、前記増加トルクに基づき前記基本トルクを増加したトルクが発生するように、前記スロットルバルブの開度を制御する、請求項2に記載の車両の制御方法。
【請求項4】
前記原動機は、さらに、可変動弁機構を有し、
前記トルク発生工程において、前記増加トルクに基づき前記基本トルクを増加したトルクが発生するように、前記可変動弁機構により前記原動機の吸気弁の閉時期を制御する、請求項2又は3に記載の車両の制御方法。
【請求項5】
前記原動機は、点火プラグを有する内燃エンジンであり、
前記トルク発生工程において、前記増加トルクに基づき前記基本トルクを増加したトルクが発生するように、前記点火プラグの点火時期を制御する、請求項1から4の何れか1項に記載の車両の制御方法。
【請求項6】
前記原動機は、モータであり、
前記トルク発生工程において、前記増加トルクに基づき前記基本トルクを増加したトルクが発生するように、前記モータを制御する、請求項1に記載の車両の制御方法。
【請求項7】
さらに、前記操舵装置の操舵角
が減少
しているときに、前記基本トルクが低減されるように、
操舵速度が増大するほど低減トルクが増大するように前記低減トルクを設定する低減トルク設定工程と、
前記低減トルクに基づき前記基本トルクを低減したトルクが発生するように、前記原動機を制御する第2のトルク発生工程と、
を有する請求項1から6の何れか1項に記載の車両の制御方法。
【請求項8】
さらに、前記増加トルク設定工程において設定された前記増加トルクに基づいて、前記低減トルク設定工程において設定された前記低減トルクを変更する低減トルク変更工程を有する、請求項7に記載の車両の制御方法。
【請求項9】
前記低減トルク変更工程は、前記増加トルクが減少して0となってから所定時間内に前記操舵装置の操舵角が減少した場合に実行される、請求項8に記載の車両の制御方法。
【請求項10】
前記低減トルク変更工程において、前記増加トルクが減少して0となってからの経過時間に応じて、前記低減トルクの変更度合を設定する、請求項8に記載の車両の制御方法。
【請求項11】
前記車両は、さらに、車輪に制動力を付加する制動装置を有し、
さらに、前記操舵装置の操舵角
が減少
しているときに、前記車両に発生しているヨーレートとは逆回りのヨーモーメント指令値を、
操舵速度が増大するほど前記ヨーモーメント指令値が増大するように設定するヨーモーメント指令値設定工程と、
前記ヨーモーメント指令値に基づき前記制動装置を制御するヨー制御工程と、
を有する請求項1から6の何れか1項に記載の車両の制御方法。
【請求項12】
さらに、前記増加トルク設定工程において設定された前記増加トルクに基づいて、前記ヨーモーメント指令値設定工程において設定された前記ヨーモーメント指令値を変更するヨーモーメント指令値変更工程を有する、請求項11に記載の車両の制御方法。
【請求項13】
前記ヨーモーメント指令値変更工程は、前記増加トルクが減少して0となってから所定時間内に前記操舵装置の操舵角が減少した場合に実行される、請求項12に記載の車両の制御方法。
【請求項14】
前記ヨーモーメント指令値変更工程において、前記増加トルクが減少して0となってからの経過時間に応じて、前記ヨーモーメント指令値の変更度合を設定する、請求項12に記載の車両の制御方法。
【請求項15】
車両に設けられた前輪及び後輪と、前記後輪を駆動する原動機と、操舵装置と、前記操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、前記車両の運転状態を検出する運転状態センサと、制御器とを備えた車両システムであって、
前記制御器は、
前記運転状態センサにより検出された前記運転状態に基づいて、前記原動機が発生すべき基本トルクを設定し、
前記操舵角センサにより検出された操舵角
が増加
しているときに、前記基本トルクが増加されるように、
操舵速度が増大するほど増加トルクが増大するように前記増加トルクを設定し、
前記増加トルクに基づき前記基本トルクを増加したトルクが発生するように、前記原動機を制御するように構成されている、
ことを特徴とする車両システム。
【請求項16】
前記原動機は、インジェクタを有する内燃エンジンであり、
前記制御器は、前記増加トルクに基づき前記基本トルクを増加したトルクが発生するように、前記インジェクタの燃料噴射量を制御するように構成されている、請求項15に記載の車両システム。
【請求項17】
前記原動機は、さらに、スロットルバルブを有し、
前記制御器は、前記増加トルクに基づき前記基本トルクを増加したトルクが発生するように、前記スロットルバルブの開度を制御するように構成されている、請求項16に記載の車両システム。
【請求項18】
前記原動機は、さらに、可変動弁機構を有し、
前記制御器は、前記増加トルクに基づき前記基本トルクを増加したトルクが発生するように、前記可変動弁機構により前記原動機の吸気弁の閉時期を制御するように構成されている、請求項16又は17に記載の車両システム。
【請求項19】
前記原動機は、点火プラグを有する内燃エンジンであり、
前記制御器は、前記増加トルクに基づき前記基本トルクを増加したトルクが発生するように、前記点火プラグの点火時期を制御するように構成されている、請求項15から18の何れか1項に記載の車両システム。
【請求項20】
前記原動機は、モータであり、
前記制御器は、前記増加トルクに基づき前記基本トルクを増加したトルクが発生するように、前記モータを制御するように構成されている、請求項15に記載の車両システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御方法及び車両システムに係わり、特に、車輪と、車輪を駆動するためのトルクを生成するエンジンと、車輪に制動力を付加する制動装置とを備える車両の制御方法及び車両システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スリップ等により車両の挙動が不安定になった場合に、車両の挙動を安全方向に制御する技術(例えば横滑り防止装置)が知られている。具体的には、車両のコーナリング時等に、車両にアンダーステアやオーバーステアの挙動が生じたことを検出し、それらを抑制するように車輪に適切な減速度を付与するようにしたものが知られている。
【0003】
また、上述したような車両の挙動が不安定になるような走行状態における安全性向上のための制御とは異なり、日常運転領域から稼動するハンドル操作に連係した加減速を自動的に行い、限界運転領域で横滑りを低減させるようにした車両の運動制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された制御は、典型的には、操舵角が増大しているときに(すなわちステアリングホイールの切り込み操作が行われるとき)、車両に減速度を付与することにより、車両前輪の垂直荷重を増大させ、切り込み操作時の旋回性を向上させるものである。
【0006】
しかしながら、本件発明者が、特許文献1に記載されているような、車両の操舵に伴って車両に減速度を与える制御の、後輪駆動車への適用を試みたところ、特許文献1記載の発明において得られている操縦安定性の向上や、車両挙動の応答性、リニア感の向上という効果を得ることはできなかった。
具体的には、後輪駆動車において車両の操舵に伴って車両に減速度を与えるために原動機の発生トルクを低減させると、低減されたトルクは駆動輪である後輪に伝達され、後輪を車両後方へ引っ張る力となる。この力が後輪からサスペンションを介して車両の車体に伝達されるときに、車体後部を下向きに沈み込ませる力が瞬間的に作用し、車体を後傾させる方向のモーメントが働くことにより、車体前部を上向きに持ち上げる力が作用し、車体前部が浮き上がって前輪荷重が減少する。即ち、車両前輪の垂直荷重を増大させ、切り込み操作時の旋回性を向上させるという意図とは逆の車両姿勢変化が生じてしまうことが判明した。
【0007】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、原動機により後輪が駆動される車両を制御する場合であっても、ステアリング操作に対する車両の応答性又はリニア感を向上させることができる車両の制御方法及び車両システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の車両の制御方法は、原動機により後輪が駆動される車両を制御する方法であって、車両の運転状態に基づいて、原動機が発生すべき基本トルクを設定する基本トルク設定工程と、車両に搭載された操舵装置の操舵角が増加しているときに、基本トルクが増加されるように、操舵速度が増大するほど増加トルクが増大するように前記増加トルクを設定する増加トルク設定工程と、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクが発生するように、原動機を制御するトルク発生工程と、を有することを特徴とする。
このように構成された本発明においては、操舵装置の操舵角が増加しているときに、基本トルクが増加されるように、操舵速度が増大するほど増加トルクが増大するように増加トルクを設定し、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクが発生するように原動機を制御する。これにより、操舵装置の操舵角が増加したときに、後輪の駆動トルクを増加させて、後輪を車両前方へ推進させる力を発生させる。この力が後輪からサスペンションを介して車両の車体に伝達されるときに、車体後部を上向きに持ち上げる力が瞬間的に作用し、車体を前傾させる方向のモーメントが働くことにより、車体を前傾させる力を発生させることができ、ステアリングの切り込み操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。したがって、原動機により後輪が駆動される車両を制御する場合であっても、ステアリング操作に対する車両の応答性又はリニア感を向上させることができる。
【0009】
また、本発明において、好ましくは、原動機は、インジェクタを有する内燃エンジンであり、トルク発生工程において、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクが発生するように、インジェクタの燃料噴射量を制御する。
このように構成された本発明においては、インジェクタの燃料噴射量を制御することにより、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクを原動機により発生させて、ステアリングの切り込み操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。
【0010】
また、本発明において、好ましくは、原動機は、さらに、スロットルバルブを有し、トルク発生工程において、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクが発生するように、スロットルバルブの開度を制御する。
このように構成された本発明においては、スロットルバルブの開度を制御することにより、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクを原動機により発生させて、ステアリングの切り込み操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。
【0011】
また、本発明において、好ましくは、原動機は、さらに、可変動弁機構を有し、トルク発生工程において、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクが発生するように、可変動弁機構により原動機の吸気弁の閉時期を制御する。
このように構成された本発明においては、可変動弁機構により原動機の吸気弁の閉時期を制御することにより、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクを原動機により発生させて、ステアリングの切り込み操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。
【0012】
また、本発明において、好ましくは、原動機は、点火プラグを有する内燃エンジンであり、トルク発生工程において、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクが発生するように、点火プラグの点火時期を制御する。
このように構成された本発明においては、点火プラグの点火時期を制御することにより、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクを原動機により発生させて、ステアリングの切り込み操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。
【0013】
また、本発明において、好ましくは、原動機は、モータであり、トルク発生工程において、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクが発生するように、モータを制御する。
このように構成された本発明においては、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクをモータにより発生させて、ステアリングの切り込み操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。
【0014】
また、本発明において、好ましくは、さらに、操舵装置の操舵角が減少しているときに、基本トルクが低減されるように、操舵速度が増大するほど低減トルクが増大するように低減トルクを設定する低減トルク設定工程と、低減トルクに基づき基本トルクを低減したトルクが発生するように、原動機を制御する第2のトルク発生工程と、を有する。
このように構成された本発明においては、操舵装置の操舵角が減少しているときに、操舵速度が増大するほど低減トルクが増大するように低減トルクを設定し、低減トルクに基づき基本トルクを低減したトルクが発生するように原動機を制御する。これにより、操舵装置の切り戻し操作が行われたときに、後輪の駆動トルクを減少させて、後輪を車両後方へ引っ張る力を発生させる。この力が後輪からサスペンションを介して車両の車体に伝達されるときに、車体後部を下向きに沈み込ませる力が瞬間的に作用し、車体を後傾させる方向のモーメントが働くことにより、車体を後傾させる力を発生させることができ、ステアリングの切り戻し操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。したがって、原動機により後輪が駆動される車両を制御する場合であっても、ステアリング操作に対する車両の応答性又はリニア感を向上させることができる。
【0015】
また、本発明において、好ましくは、さらに、増加トルク設定工程において設定された増加トルクに基づいて、低減トルク設定工程において設定された低減トルクを変更する低減トルク変更工程を有する。
このように構成された本発明においては、操舵角の増加に基づいて基本トルクを増加したときの増加トルクに基づき、その後の操舵角の減少に基づき設定した低減トルクを変更するので、ステアリングの切り込み操作における増加トルクによる車両応答性やリニア感の向上と、切り戻し操作における低減トルクによる車両応答性やリニア感の向上とのバランスを調整することができ、ドライバに違和感を与えることを防止できる。
【0016】
また、本発明において、好ましくは、低減トルク変更工程は、増加トルクが減少して0となってから所定時間内に操舵装置の操舵角が減少した場合に実行される。
このように構成された本発明においては、増加トルクが減少して0となってから所定時間内に操舵装置の操舵角が減少した場合に、増加トルクに基づき低減トルクの変更を実行するので、ステアリングの切り込み操作における増加トルクによる車両応答性やリニア感の向上が、切り戻し操作における車両応答性やリニア感に影響を与えうる状況の下で、増加トルクに基づく低減トルクの変更を実行することができ、ドライバに違和感を与えることを防止できる。
【0017】
また、本発明において、好ましくは、低減トルク変更工程において、増加トルクが減少して0となってからの経過時間に応じて、低減トルクの変更度合を設定する。
このように構成された本発明においては、増加トルクが減少して0となってからの経過時間に応じて、低減トルクの変更度合を設定するので、ステアリングの切り込み操作における増加トルクによる車両応答性やリニア感の向上が、切り戻し操作における車両応答性やリニア感に影響を与えうる状況の下で、増加トルクに基づく低減トルクの変更を実行することができ、ドライバに違和感を与えることを防止できる。
【0018】
また、本発明において、好ましくは、車両は、さらに、車輪に制動力を付加する制動装置を有し、さらに、操舵装置の操舵角が減少しているときに、車両に発生しているヨーレートとは逆回りのヨーモーメント指令値を、操舵速度が増大するほどヨーモーメント指令値が増大するように設定するヨーモーメント指令値設定工程と、ヨーモーメント指令値に基づき制動装置を制御するヨー制御工程と、を有する。
このように構成された本発明においては、操舵装置の操舵角が減少しているときに、車両に発生しているヨーレートとは逆回りのヨーモーメント指令値を、操舵速度が増大するほどヨーモーメント指令値が増大するように設定し、そのヨーモーメント指令値に基づき制動装置を制御する。これにより、操舵装置の切り戻し操作が行われたときに、車両の旋回を抑制する方向のヨーモーメントを発生させることができ、ステアリングの切り戻し操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。
【0019】
また、本発明において、好ましくは、さらに、増加トルク設定工程において設定された増加トルクに基づいて、ヨーモーメント指令値設定工程において設定されたヨーモーメント指令値を変更するヨーモーメント指令値変更工程を有する。
このように構成された本発明においては、操舵角の増加に基づいて基本トルクを増加したときの増加トルクに基づいて、その後の操舵角の減少に基づき設定されたヨーモーメント指令値を変更するので、ステアリングの切り込み操作における増加トルクによる車両応答性やリニア感の向上と、切り戻し操作におけるヨーモーメント指令値による車両応答性やリニア感の向上とのバランスを調整することができ、ドライバに違和感を与えることを防止できる。
【0020】
また、本発明において、好ましくは、ヨーモーメント指令値変更工程は、増加トルクが減少して0となってから所定時間内に操舵装置の操舵角が減少した場合に実行される。
このように構成された本発明においては、増加トルクが減少して0となってから所定時間内に操舵装置の操舵角が減少した場合に、増加トルクに基づきヨーモーメント指令値の変更を実行するので、ステアリングの切り込み操作における増加トルクによる車両応答性やリニア感の向上が、切り戻し操作における車両応答性やリニア感に影響を与えうる状況の下で、増加トルクに基づくヨーモーメント指令値の変更を実行することができ、ドライバに違和感を与えることを防止できる。
【0021】
また、本発明において、好ましくは、ヨーモーメント指令値変更工程において、増加トルクが減少して0となってからの経過時間に応じて、ヨーモーメント指令値の変更度合を設定する。
このように構成された本発明においては、増加トルクが減少して0となってからの経過時間に応じて、ヨーモーメント指令値の変更度合を設定するので、ステアリングの切り込み操作における増加トルクによる車両応答性やリニア感の向上が、切り戻し操作における車両応答性やリニア感に影響を与えうる状況の下で、増加トルクに基づくヨーモーメント指令値の変更を実行することができ、ドライバに違和感を与えることを防止できる。
【0022】
他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明の車両システムは、車両に設けられた前輪及び後輪と、後輪を駆動する原動機と、操舵装置と、操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、車両の運転状態を検出する運転状態センサと、制御器とを備えた車両システムであって、制御器は、運転状態センサにより検出された運転状態に基づいて、原動機が発生すべき基本トルクを設定し、操舵角センサにより検出された操舵角が増加しているときに、基本トルクが増加されるように、操舵速度が増大するほど増加トルクが増大するように増加トルクを設定し、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクが発生するように、原動機を制御するように構成されている、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によっても、操舵装置の操舵角が増加したときに、後輪の駆動トルクを増加させて、後輪を車両前方へ推進させる力を発生させる。この力が後輪からサスペンションを介して車両の車体に伝達されるときに、車体後部を上向きに持ち上げる力が瞬間的に作用し、車体を前傾させる方向のモーメントが働くことにより、車体を前傾させる力を発生させることができ、ステアリングの切り込み操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。したがって、原動機により後輪が駆動される車両を制御する場合であっても、ステアリング操作に対する車両の応答性又はリニア感を向上させることができる。
【0023】
また、本発明において、好ましくは、原動機は、インジェクタを有する内燃エンジンであり、制御器は、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクが発生するように、インジェクタの燃料噴射量を制御するように構成されているのがよい。
【0024】
また、本発明において、好ましくは、原動機は、さらに、スロットルバルブを有し、制御器は、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクが発生するように、スロットルバルブの開度を制御するように構成されているのがよい。
【0025】
また、本発明において、好ましくは、原動機は、さらに、可変動弁機構を有し、制御器は、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクが発生するように、可変動弁機構により原動機の吸気弁の閉時期を制御するように構成されているのがよい。
【0026】
また、本発明において、好ましくは、原動機は、点火プラグを有する内燃エンジンであり、制御器は、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクが発生するように、点火プラグの点火時期を制御するように構成されているのがよい。
【0027】
また、本発明において、好ましくは、原動機は、モータであり、制御器は、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクが発生するように、モータを制御するように構成されているのがよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明による車両の制御方法及び車両システムによれば、原動機により後輪が駆動される車両を制御する場合であっても、ステアリング操作に対する車両の応答性又はリニア感を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態による車両システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態による車両システムの電気的構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
【
図4】本発明の実施形態による増加トルク設定処理のフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態による付加加速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【
図6】本発明の実施形態による低減トルク設定処理のフローチャートである。
【
図7】本発明の実施形態による付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【
図8】本発明の実施形態において低減トルクを補正するために用いられるゲインを規定したマップである。
【
図9】本発明の実施形態による車両が旋回を行う場合の、車両姿勢制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【
図10】本発明の実施形態による車両が旋回を行う場合の、車両姿勢制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【
図11】本発明の実施形態による車両が旋回を行う場合の、車両姿勢制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【
図12】本発明の実施形態による車両が旋回を行う場合の、車両姿勢制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【
図13】本発明の実施形態による車両姿勢制御を実行したときの車両の姿勢変化を示した側面図である。
【
図14】本発明の実施形態の変形例による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
【
図15】本発明の実施形態の変形例によるヨーモーメント指令値設定処理のフローチャートである。
【
図16】本発明の実施形態の変形例による車両が旋回を行う場合の、車両姿勢制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両の制御方法及び車両システムを説明する。
【0031】
<システム構成>
まず、
図1により、本発明の実施形態による車両システムの構成を説明する。
図1は、本発明の実施形態による車両システムの全体構成を示すブロック図である。
【0032】
図1において、符号1は、本実施形態による車両システムにおける車両を示す。車両1の車体前部には、左右の後輪2を駆動する原動機として、エンジン4が搭載されている。エンジン4は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃エンジンであり、本実施形態では点火プラグ14を有するガソリンエンジンである。エンジン4は、変速機6を介して後輪2との間で力が伝達され、また、コントローラ8により制御される。エンジン4は、吸入空気量を調整するスロットルバルブ10と、燃料を噴射するインジェクタ12と、点火プラグ14と、吸排気弁の開閉時期を変化させる可変動弁機構16と、エンジン4の回転数を検出するエンジン回転数センサ18とを有する。エンジン回転数センサ18は、その検出値をコントローラ8に出力する。
【0033】
また、車両1には、後輪2を駆動する機能(つまり原動機としての機能)と、後輪2により駆動されて回生発電を行う機能(つまり発電機としての機能)と、を有するモータジェネレータ20が搭載されている。モータジェネレータ20は、変速機6を介して後輪2との間で力が伝達され、また、インバータ22を介してコントローラ8により制御される。さらに、モータジェネレータ20は、バッテリ24に接続されており、駆動力を発生するときにはバッテリ24から電力が供給され、回生したときにはバッテリ24に電力を供給してバッテリ24を充電する。
【0034】
車両1は、当該車両1を操舵するための操舵装置26(ステアリングホイール28など)と、この操舵装置26においてステアリングホイール28に連結されたステアリングコラム30の回転角度やステアリングラック32の位置から操舵装置26における操舵角を検出する操舵角センサ34と、アクセルペダルの開度に相当するアクセルペダル踏込量を検出するアクセル開度センサ36と、ブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキ踏込量センサ38と、車速を検出する車速センサ40と、ヨーレートを検出するヨーレートセンサ42と、加速度を検出する加速度センサ44とを有する。これらの各センサは、それぞれの検出値をコントローラ8に出力する。このコントローラ8は、例えばPCM(Power-train Control Module)などを含んで構成される。
【0035】
また、車両1は、各車輪に設けられたブレーキ装置(制動装置)46のホイールシリンダやブレーキキャリパにブレーキ液圧を供給するブレーキ制御システム48を備えている。ブレーキ制御システム48は、各車輪に設けられたブレーキ装置46において制動力を発生させるために必要なブレーキ液圧を生成する液圧ポンプ50を備えている。液圧ポンプ50は、例えばバッテリ24から供給される電力で駆動され、ブレーキペダルが踏み込まれていないときであっても、各ブレーキ装置46において制動力を発生させるために必要なブレーキ液圧を生成することが可能となっている。また、ブレーキ制御システム48は、各車輪のブレーキ装置46への液圧供給ラインに設けられた、液圧ポンプ50から各車輪のブレーキ装置46へ供給される液圧を制御するためのバルブユニット52(具体的にはソレノイド弁)を備えている。例えば、バッテリ24からバルブユニット52への電力供給量を調整することによりバルブユニット52の開度が変更される。また、ブレーキ制御システム48は、液圧ポンプ50から各車輪のブレーキ装置46へ供給される液圧を検出する液圧センサ54を備えている。液圧センサ54は、例えば各バルブユニット52とその下流側の液圧供給ラインとの接続部に配置され、各バルブユニット52の下流側の液圧を検出し、検出値をコントローラ8に出力する。
ブレーキ制御システム48は、コントローラ8から入力された制動力指令値や液圧センサ54の検出値に基づき、各車輪のホイールシリンダやブレーキキャリパのそれぞれに独立して供給する液圧を算出し、それらの液圧に応じて液圧ポンプ50の回転数やバルブユニット52の開度を制御する。
【0036】
次に、
図2により、本発明の実施形態による車両システムの電気的構成を説明する。
図2は、本発明の実施形態による車両システムの電気的構成を示すブロック図である。
【0037】
本実施形態によるコントローラ8は、上述したセンサ18、34、36、38、40、42、44、54の検出信号の他、車両1の運転状態を検出する各種の運転状態センサが出力した検出信号に基づいて、生成トルク制御機構として機能するエンジン4の各部(例えば、スロットルバルブ10、インジェクタ12、点火プラグ14、可変動弁機構16のほか、ターボ過給機やEGR装置等)、モータジェネレータ20及びブレーキ制御システム48の液圧ポンプ50及びバルブユニット52に対する制御を行うべく、制御信号を出力する。
【0038】
コントローラ8及びブレーキ制御システム48は、それぞれ、1つ以上のプロセッサ、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
詳細は後述するが、コントローラ8は、本発明における制御器に相当する。また、前輪、後輪2、エンジン4、モータジェネレータ20、ブレーキ装置46、操舵角センサ34、アクセル開度センサ36、コントローラ8を含むシステムは、本発明における車両システムに相当する。
【0039】
<車両姿勢制御>
次に、車両システムが実行する具体的な制御内容を説明する。まず、
図3により、本発明の実施形態において車両システムが行う車両姿勢制御処理の全体的な流れを説明する。
図3は、本発明の実施形態による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
【0040】
図3の車両姿勢制御処理は、車両1のイグニッションがオンにされ、車両システムに電源が投入された場合に起動され、所定周期(例えば50ms)で繰り返し実行される。
車両姿勢制御処理が開始されると、
図3に示すように、ステップS1において、コントローラ8は車両1の運転状態に関する各種センサ情報を取得する。具体的には、コントローラ8は、操舵角センサ34が検出した操舵角、アクセル開度センサ36が検出したアクセル開度、ブレーキ踏込量センサ38が検出したブレーキペダル踏込量、車速センサ40が検出した車速、ヨーレートセンサ42が検出したヨーレート、加速度センサ44が検出した加速度、エンジン回転数センサ18が検出したエンジン回転数、液圧センサ54が検出した液圧、車両1の変速機6に現在設定されているギヤ段等を含む、上述した各種センサが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。
【0041】
次に、ステップS2において、コントローラ8は、ステップS1において取得された車両1の運転状態に基づき、目標加速度を設定する。具体的には、コントローラ8は、種々の車速及び種々のギヤ段について規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速及びギヤ段に対応する加速度特性マップを選択し、選択した加速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する目標加速度を設定する。
【0042】
次に、ステップS3において、コントローラ8は、ステップS2において設定した目標加速度を実現するために原動機(即ちエンジン4及びモータジェネレータ20)が発生すべき基本トルクを決定する。この場合、コントローラ8は、現在の車速、ギヤ段、路面勾配、路面μなどに基づき、エンジン4及びモータジェネレータ20が出力可能なトルクの範囲内で、基本トルクを決定する。
【0043】
また、ステップS2及びS3の処理と並行して、ステップS4において、コントローラ8は、ステアリング操作に基づき車両1に加速度を付加するためのトルクを設定する増加トルク設定処理を実行する。即ち、ステップS4においては、操舵装置26の操舵角の増加に基づいて、基本トルクが増加されるように増加トルクを設定する増加トルク設定工程が実行される。この増加トルク設定処理については、
図4及び5を参照して後述する。
【0044】
次に、ステップS5において、コントローラ8は、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するための低減トルクを設定する低減トルク設定処理を実行する。即ち、ステップS5においては、操舵装置26の操舵角の減少に基づいて、基本トルクが低減されるように低減トルクを設定する低減トルク設定工程が実行される。この低減トルク設定処理については、
図6~8を参照して後述する。
【0045】
ステップS2及びS3の処理並びにステップS4の増加トルク設定処理及びS5の低減トルク設定処理を実行した後、ステップS6において、コントローラ8は、ステップS3において設定した基本トルクと、ステップS4において設定した増加トルク及びステップS5において設定した低減トルクとに基づき、最終目標トルクを設定する。具体的には、コントローラ8は、基本トルクに増加トルクを加算し、低減トルクを減算することにより、最終目標トルクが算出される。
【0046】
次に、ステップS7において、コントローラ8は、ステップS6において設定した最終目標トルクを実現するためのアクチュエータ制御量を設定する。具体的には、コントローラ8は、ステップS6において設定した最終目標トルクに基づき、最終目標トルクを実現するために必要となる各種状態量を決定し、それらの状態量に基づき、エンジン4やモータジェネレータ20の各構成要素を駆動する各アクチュエータの制御量を設定する。この場合、コントローラ8は、状態量に応じた制限値や制限範囲を設定し、状態値が制限値や制限範囲による制限を遵守するような各アクチュエータの制御量を設定する。
続いて、ステップS8において、コントローラ8は、ステップS7において設定した制御量に基づき各アクチュエータへ制御指令を出力する。
【0047】
例えば、エンジン4がガソリンエンジンである場合、コントローラ8は、ステップS6において基本トルクに増加トルクを加算することにより最終目標トルクが設定された場合、点火プラグ14の点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも進角させる。また、点火時期の進角に代えて、あるいはそれと共に、コントローラ8は、スロットル開度を大きくしたり、下死点後に設定されている吸気弁の閉時期を進角させたりすることによって、吸入空気量を増加させる。この場合、コントローラ8は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、インジェクタ12による燃料噴射量を増加させる。
【0048】
他方で、ステップS6において基本トルクから低減トルクを減算することにより最終目標トルクが設定された場合、コントローラ8は、点火プラグ14の点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも遅角させる(リタードする)。また、点火時期の遅角に代えて、あるいはそれと共に、コントローラ8は、スロットル開度を小さくしたり、下死点後に設定されている吸気弁の閉時期を遅角させたりすることによって、吸入空気量を減少させる。この場合、コントローラ8は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、インジェクタ12による燃料噴射量を減少させる。
【0049】
また、エンジン4がディーゼルエンジンである場合、コントローラ8は、ステップS6において基本トルクに増加トルクを加算することにより最終目標トルクが設定された場合、インジェクタ12による燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも増加させる。他方で、ステップS6において基本トルクから低減トルクを減算することにより最終目標トルクが設定された場合、コントローラ8は、インジェクタ12による燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも減少させる。
【0050】
また、コントローラ8は、エンジン4の制御に代えて、あるいはそれと共に、ステップS6において設定した最終目標トルクを実現するためにモータジェネレータ20を制御する。具体的には、コントローラ8は、ステップS6において基本トルクに増加トルクを加算することにより最終目標トルクが設定された場合、モータジェネレータ20が発生するトルクを増加させるように、インバータ指令値(制御信号)を設定し、インバータ22に出力する。他方で、ステップS6において基本トルクから低減トルクを減算することにより設定された最終目標トルクが負値である場合、コントローラ8は、モータジェネレータ20により回生発電を行わせることで回生トルクが発生するように、インバータ指令値(制御信号)を設定し、インバータ22に出力する。
【0051】
ステップS8の後、コントローラ8は、車両姿勢制御処理を終了する。
【0052】
次に、
図4及び
図5を参照して、本発明の実施形態における増加トルク設定処理について説明する。
図4は、本発明の実施形態による増加トルク設定処理のフローチャートであり、
図5は、本発明の実施形態による付加加速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【0053】
増加トルク設定処理が開始されると、ステップS11において、コントローラ8は、操舵装置26の操舵角(絶対値)が増加している(即ちステアリングホイール28の切り込み操作中)か否かを判定する。
その結果、操舵角が増加している場合、ステップS12に進み、コントローラ8は、操舵速度が所定の閾値S
1以上か否かを判定する。即ち、コントローラ8は、
図3の車両姿勢制御処理のステップS1において操舵角センサ34から取得した操舵角に基づき操舵速度を算出し、その値が閾値S
1以上か否かを判定する。
【0054】
その結果、操舵速度が閾値S1以上である場合、ステップS13に進み、コントローラ8は、操舵速度に基づき付加加速度を設定する。この付加加速度は、ドライバの意図に沿って車両姿勢を制御するために、ステアリング操作に応じて車両1に付加すべき加速度である。
【0055】
具体的には、コントローラ8は、
図5のマップに示す付加加速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS12において算出した操舵速度に対応する付加加速度を設定する。
図5における横軸は操舵速度を示し、縦軸は付加加速度を示す。
図5に示すように、操舵速度が閾値S
1以下である場合、対応する付加加速度は0である。即ち、操舵速度が閾値S
1以下である場合、コントローラ8は、ステアリング操作に基づき車両1に加速度を付加するための制御を実行しない。
【0056】
一方、操舵速度が閾値S1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する付加加速度は、所定の上限値Dmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど付加加速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Dmaxは、ステアリング操作に応じて車両1に加速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の加速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。
さらに、操舵速度が閾値S1よりも大きい閾値S2以上の場合には、付加加速度は上限値Dmaxに維持される。
【0057】
次に、ステップS14において、コントローラ8は、ステップS13で設定した付加加速度に基づき、増加トルクを設定する。具体的には、コントローラ8は、基本トルクの増加により付加加速度を実現するために必要となる増加トルクを、
図3のステップS1において取得された現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき決定する。
ステップS14の後、コントローラ8は増加トルク設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0058】
また、ステップS11において、操舵角が増加していない場合、又は、ステップS12において、操舵速度が閾値S
1未満である場合、コントローラ8は、増加トルクの設定を行うことなく増加トルク設定処理を終了し、
図3のメインルーチンに戻る。この場合、増加トルクは0となる。
【0059】
次に、
図6乃至
図8を参照して、本発明の実施形態における低減トルク設定処理について説明する。
図6は、本発明の実施形態による低減トルク設定処理のフローチャートであり、
図7は、本発明の実施形態による付加減速度と操舵速度との関係を示したマップであり、
図8は本発明の実施形態において低減トルクを補正するために用いられるゲインを規定したマップである。
【0060】
低減トルク設定処理が開始されると、ステップS21において、コントローラ8は、操舵装置26の操舵角(絶対値)が減少している(即ちステアリングホイール28の切り戻し操作中)か否かを判定する。
その結果、操舵角が減少中である場合、ステップS22に進み、コントローラ8は、操舵速度が所定の閾値S
1以上か否かを判定する。即ち、コントローラ8は、
図3の車両姿勢制御処理のステップS1において操舵角センサ34から取得した操舵角に基づき操舵速度を算出し、その値が閾値S
1以上か否かを判定する。
【0061】
その結果、操舵速度が閾値S1以上である場合、ステップS23に進み、コントローラ8は、操舵速度に基づき付加減速度を設定する。この付加減速度は、ドライバの意図に沿って車両姿勢を制御するために、ステアリング操作に応じて車両1に付加すべき減速度である。
【0062】
具体的には、コントローラ8は、
図7のマップに示す付加減速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS12において算出した操舵速度に対応する付加減速度を設定する。
図7における横軸は操舵速度を示し、縦軸は付加減速度を示す。
図7に示すように、操舵速度が閾値S
1以下である場合、対応する付加減速度は0である。即ち、操舵速度が閾値S
1以下である場合、コントローラ8は、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するための制御を実行しない。
【0063】
一方、操舵速度が閾値S1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する付加減速度は、所定の上限値Dmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Dmaxは、ステアリング操作に応じて車両1に減速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の減速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。
さらに、操舵速度が閾値S1よりも大きい閾値S2以上の場合には、付加減速度は上限値Dmaxに維持される。
【0064】
次に、ステップS24において、コントローラ8は、ステップS23で設定した付加減速度に基づき、低減トルクを設定する。具体的には、コントローラ8は、基本トルクの低減により付加減速度を実現するために必要となる低減トルクを、ステップS1において取得された現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき決定する。
【0065】
次に、ステップS25において、コントローラ8は、操舵角の増加に基づいて基本トルクを増加したときの増加トルクに基づき、その後の操舵角の減少に基づきステップS24で設定した低減トルクを補正する。具体的には、コントローラ8は、車両姿勢制御処理において操舵角の増加に基づき増加トルクを設定したときに、その増加トルク(例えば操舵角の増加の開始から終了までに設定された全ての増加トルクや、増加トルクの平均値あるいは最大値等)をメモリに記憶する。その後、操舵角の減少が開始され、低減トルク設定処理のステップS24において低減トルクが設定されると、ステップS25においてコントローラ8はメモリに記憶された増加トルクを参照し、その増加トルクに基づきステップS24において設定した低減トルクを補正する。なお、メモリに記憶された増加トルクは、次に操舵角の増加が開始されたときにリセットされる。
【0066】
増加トルクと低減トルクの補正量との関係について、
図8のマップを参照して説明する。このマップは予め作成されメモリ等に記憶されている。
図8において、横軸は増加トルクを示し、縦軸はゲインKを示している。このゲインは、増加トルクが大きいときに、そうでないときよりも大きくなるように設定されており、ステップS24において設定された低減トルクに対して乗算するよう用いられる。すなわち、ステップS24において設定された低減トルクにゲインKを乗算して得られた値が、ステップS25における補正後の低減トルクとして用いられる。
【0067】
また、コントローラ8は、車両姿勢制御処理において操舵角の増加の終了に伴い増加トルクが0となってから操舵角の減少が開始するまでの経過時間に基づき、低減トルクの補正を行うようにしてもよい。具体的には、コントローラ8は、操舵角の増加の終了に伴い増加トルクが0となってから操舵角の減少が開始するまでの経過時間が所定時間(例えば2秒)以下である場合には
図8のマップに基づく補正ゲインKにより低減トルクを補正し、経過時間が所定時間を超えたときには低減トルクの補正を行わず、ステップS24において設定された低減トルクをそのまま用いるようにしてもよい。あるいは、操舵角の増加の終了に伴い増加トルクが0となってから操舵角の減少が開始するまでの経過時間が大きいときには、そうでないときよりも補正ゲインKが1に近づく(つまり低減トルクの変更度合を小さくする)ように、
図8のマップを設定してもよい。
【0068】
ステップS25の後、コントローラ8は低減トルク設定処理を終了し、
図3のメインルーチンに戻る。
【0069】
また、ステップS21において、操舵角が減少していない場合、又は、ステップS22において、操舵速度が閾値S
1未満である場合、コントローラ8は、低減トルクの設定を行うことなく低減トルク設定処理を終了し、
図3のメインルーチンに戻る。この場合、低減トルクは0となる。
【0070】
次に、
図9乃至
図13を参照して、本発明の実施形態による車両の制御方法及び車両システムの作用を説明する。
図9乃至
図12は、本発明の実施形態による車両1が旋回を行う場合の、車両姿勢制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートであり、
図13は、本発明の実施形態による車両姿勢制御を実行したときの車両1の姿勢変化を示した側面図である。
【0071】
図9のタイムチャートは、上段から順に、操舵装置26の操舵角[deg]、操舵速度[deg/sec]、付加加減速度[m/sec
2]、最終目標トルク[N・m]、点火時期を示している。
図10のタイムチャートは、上段から順に、操舵装置26の操舵角[deg]、操舵速度[deg/sec]、付加加減速度[m/sec
2]、最終目標トルク[N・m]、スロットル開度、燃料噴射量を示している。
図11のタイムチャートは、上段から順に、操舵装置26の操舵角[deg]、操舵速度[deg/sec]、付加加減速度[m/sec
2]、最終目標トルク[N・m]、吸気弁閉時期、燃料噴射量を示している。
図12のタイムチャートは、上段から順に、操舵装置26の操舵角[deg]、操舵速度[deg/sec]、付加加減速度[m/sec
2]、最終目標トルク[N・m]、燃料噴射量を示している。また、
図9乃至
図12において最終目標トルクを示すタイムチャートでは、基本トルク[N・m]を一点鎖線により示している。なお、これらの
図9乃至
図12では、時刻t
0~t
4において基本トルクが一定である場合を例示している。
【0072】
まず、
図9乃至
図12の時刻t
0~t
1においては、車両1のドライバは操舵を行っておらず、操舵角は0[deg](中立位置)、操舵速度も0[deg/sec]となっている。この状態では、
図4の増加トルク設定処理及び
図6の低減トルク設定処理において増加トルク及び低減トルクの設定は行われない(付加加速度=0、増加トルク=0、付加減速度=0、低減トルク=0)。このため、時刻t
0~t
1においては、基本トルクが最終目標トルクとして決定され、基本トルクを出力するための各アクチュエータの制御量(点火時期、スロットル開度、吸気弁閉時期、燃料噴射量等)が設定される。
【0073】
次に、
図9乃至
図12の時刻t
1において、ドライバがステアリングホイール28の切り込み操作を開始すると、操舵角及び操舵速度(の絶対値)が増加する。操舵速度がS
1以上になると、
図4の増加トルク設定処理においては、ステップS11からS14の処理が繰り返され、付加加速度及び増加トルクの設定が行われる。即ち、
図4のステップS13において
図5に示すマップを使用して操舵速度に基づき付加加速度が設定され、ステップS14において、設定された付加加速度を実現するために必要な増加トルクが設定され、
図3のステップS6において基本トルクに増加トルクを加算した値が最終目標トルクとして設定される。
【0074】
エンジン4がガソリンエンジンである場合には、
図9乃至
図11の時刻t
1~t
2間において増加トルクにより基本トルクを増加したトルクが発生するように、
図3のステップS7において、
図9に示すように、点火プラグ14の点火時期が、基本トルクを発生させるための点火時期よりも進角される。また、点火時期の進角に代えて、あるいはそれと共に、
図10に示すように、吸入空気量を増加させるために、基本トルクを発生させる場合よりもスロットル開度が大きくされ、あるいは
図11に示すように、下死点後に設定されている吸気弁の閉時期が進角される。これらの場合、
図10や
図11に示すように、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、インジェクタ12による燃料噴射量も増加される。
【0075】
また、エンジン4がディーゼルエンジンである場合には、
図12の時刻t
1~t
2間において増加トルクにより基本トルクを増加したトルクが発生するように、
図3のステップS7において、インジェクタ12による燃料噴射量が、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも増加される。
【0076】
また、エンジン4の制御に代えて、あるいはそれと共に、
図9乃至
図12の時刻t
1~t
2間において増加トルクにより基本トルクを増加したトルクを発生させるために、
図3のステップS7において、モータジェネレータ20が発生するトルクを増加させるようにインバータ指令値(制御信号)が設定される。
【0077】
図9乃至
図12の時刻t
1~t
2間において増加トルクにより基本トルクを増加したトルクが発生すると、増加されたトルクは駆動輪である後輪2に伝達され、
図13に示すように、後輪2を車両前方へ推進させる力Frxとなる。この力Frxが後輪からサスペンションを介して車両1の車体に伝達されるときに、
図13に示すように、車体後部を上向きに持ち上げる力Fryが瞬間的に(例えばトルクの増加開始から300msec以内に)作用し、車体を前傾させる方向のモーメントYが働くことにより、車体前部を下向きに沈み込ませる力Ffyが作用し、車体前部が沈み込んで前輪荷重が増大する。これにより、ステアリングの切り込み操作に対する車両1の応答性又はリニア感を向上させることができる。即ち、後輪駆動車において、後輪2の駆動トルクを増加させて加速度を付与すると、車体を後傾させる慣性力と、車体を前傾させる瞬間的な力が発生するが、ステアリングの切り込み操作に対する車両応答性やリニア感に対しては増加トルクによる瞬間的な車体を前傾させる力が支配的に寄与しているものと考えられる。
【0078】
次いで、
図9乃至
図12の時刻t
2において保舵に移行すると、操舵角が一定値となる。この状態では、
図4の増加トルク設定処理及び
図6の低減トルク設定処理において増加トルク及び低減トルクの設定は行われない(付加加速度=0、増加トルク=0、付加減速度=0、低減トルク=0)。このため、時刻t
2~t
3においては、基本トルクが最終目標トルクとして決定され、基本トルクを出力するための各アクチュエータの制御量(点火時期、スロットル開度、吸気弁閉時期、燃料噴射量等)が設定される。
【0079】
さらに、
図9乃至
図12の時刻t
3においてドライバがステアリングホイール28の切り戻し操作を開始すると、操舵角が減少し、操舵速度(の絶対値)が増加する。操舵速度(の絶対値)がS
1以上になると、
図6の低減トルク設定処理においては、ステップS21からS25の処理が繰り返され、付加減速度及び低減トルクの設定が行われる。即ち、
図6のステップS23において
図7に示すマップを使用して操舵速度に基づき付加減速度が設定され、ステップS24において、設定された付加減速度を実現するために必要な低減トルクが設定され、ステップS25において、時刻t
1~t
2間において設定された増加トルクに基づき低減トルクが補正される。そして、
図3のステップS6において基本トルクから補正後の低減トルクを減算した値が最終目標トルクとして設定される。
【0080】
エンジン4がガソリンエンジンである場合には、
図9乃至
図11の時刻t
3~t
4間において低減トルクにより基本トルクを低減したトルクが発生するように、
図3のステップS7において、
図9に示すように、点火プラグ14の点火時期が、基本トルクを発生させるための点火時期よりも遅角される。また、点火時期の遅角に代えて、あるいはそれと共に、吸入空気量を減少させるために、
図10に示すように、基本トルクを発生させる場合よりもスロットル開度が小さくされ、あるいは
図11に示すように、吸気弁の閉時期が遅角される。これらの場合、
図10や
図11に示すように、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の減少に対応して、インジェクタ12による燃料噴射量も減少される。
【0081】
また、エンジン4がディーゼルエンジンである場合には、
図12の時刻t
3~t
4間において低減トルクにより基本トルクを低減したトルクが発生するように、
図3のステップS7において、インジェクタ12による燃料噴射量が、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも減少される。
【0082】
また、エンジン4の制御に代えて、あるいはそれと共に、
図9乃至
図12の時刻t
3~t
4間において低減トルクにより基本トルクを低減したトルクを発生させるために、
図3のステップS7において、モータジェネレータ20が発生するトルクを減少させるようにインバータ指令値(制御信号)が設定される。また、基本トルクから低減トルクを減算することにより設定された最終目標トルクが負値である場合、モータジェネレータ20により回生発電を行わせることで回生トルクが発生するように、インバータ指令値(制御信号)が設定される。
【0083】
図9乃至
図12の時刻t
3~t
4間において低減トルクにより基本トルクを低減したトルクが発生すると、低減されたトルクは駆動輪である後輪2に伝達され、
図13に示すように、後輪2を車両後方へ引っ張る力Frxとなる。この力Frxが後輪2からサスペンションを介して車両1の車体に伝達されるときに、
図13に示すように、車体後部を下向きに沈み込ませる力Fryが瞬間的に作用し、車体を後傾させる方向のモーメントYが働くことにより、車体前部を上向きに持ち上げる力Ffyが作用し、車体前部が浮き上がって前輪荷重が減少する。これにより、ステアリングの切り戻し操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。即ち、後輪駆動車において、後輪2の駆動トルクを減少させて減速度を付与すると、車体を前傾させる慣性力と、車体を後傾させる瞬間的な力が発生するが、ステアリングの切り戻し操作に対する車両応答性やリニア感に対しては低減トルクによる瞬間的な車体を後傾させる力が支配的に寄与しているものと考えられる。
【0084】
次いで、
図9乃至
図12の時刻t
4において操舵角が0に戻り保舵される(操舵速度=0)と、操舵速度が0となることにより、付加加速度及び付加減速度の値も0となり、基本トルクの値が最終目標トルクとして決定される。
【0085】
なお、
図9乃至
図12に示す例において、基本トルクの値は一定値とされているが、ドライバのアクセルペダル等の操作により基本トルクが変化した場合には、その基本トルクに対して増加トルクが加算され、又は低減トルクが減算される。しかしながら、ドライバによるステアリングホイール28の切り込みから、保舵、切り戻しに至るまでの時間は、一般に比較的短時間(通常は1~2sec未満)であるため、この間の基本トルクは一定であるとみなすこともできる。
【0086】
<作用効果>
次に、本実施形態による作用効果について説明する。
【0087】
本実施形態によれば、コントローラ8は、操舵装置26の操舵角の増加に基づいて、増加トルクを設定し、増加トルクに基づき基本トルクを増加したトルクが発生するように原動機を制御する。これにより、操舵装置26の切り込み操作が行われたときに、後輪2の駆動トルクを増加させて車体を前傾させる力を発生させることができ、ステアリングの切り込み操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。
【0088】
また、本実施形態によれば、コントローラ8は、操舵装置26の操舵角の減少に基づいて、低減トルクを設定し、低減トルクに基づき基本トルクを低減したトルクが発生するように原動機を制御する。これにより、操舵装置26の切り戻し操作が行われたときに、後輪2の駆動トルクを減少させて車体を後傾させる力を発生させることができ、ステアリングの切り戻し操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。
【0089】
さらに、本実施形態によれば、コントローラ8は、操舵角の増加に基づいて基本トルクを増加したときの増加トルクに基づき、その後の操舵角の減少に基づき設定した低減トルクを変更するので、ステアリングの切り込み操作における増加トルクによる車両応答性やリニア感の向上と、切り戻し操作における低減トルクによる車両応答性やリニア感の向上とのバランスを調整することができ、ドライバに違和感を与えることを防止できる。
【0090】
さらに、本実施形態によれば、コントローラ8は、増加トルクが減少して0となってから所定時間内に操舵装置26の操舵角が減少した場合に、増加トルクに基づき低減トルクの変更を実行するので、ステアリングの切り込み操作における増加トルクによる車両応答性やリニア感の向上が、切り戻し操作における車両応答性やリニア感に影響を与えうる状況の下で、増加トルクに基づく低減トルクの変更を実行することができ、ドライバに違和感を与えることを防止できる。
【0091】
さらに、本実施形態によれば、コントローラ8は、増加トルクが減少して0となってからの経過時間に応じて、低減トルクの変更度合を設定するので、ステアリングの切り込み操作における増加トルクによる車両応答性やリニア感の向上が、切り戻し操作における車両応答性やリニア感に影響を与えうる状況の下で、増加トルクに基づく低減トルクの変更を実行することができ、ドライバに違和感を与えることを防止できる。
【0092】
<変形例>
次に、本発明の実施形態の変形例について説明する。なお、以下では、上述した実施形態と同一の構成や処理については、その説明を適宜省略する。つまり、ここで特に説明しない構成や処理は、上記した実施形態と同様である。
【0093】
まず、
図14を参照して、本発明の実施形態の変形例による車両姿勢制御処理を説明する。
図14は、本発明の実施形態の変形例による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
【0094】
この変形例では、ステップS34において増加トルク設定処理を実行した後、ステップS35において、
図3のステップS5における低減トルク設定処理に代えて、ヨーモーメント指令値設定処理を実行する。即ち、ステップS35においては、操舵装置26の操舵角の減少に基づいて、車両1に発生しているヨーレートとは逆回りのヨーモーメント指令値を設定するヨーモーメント指令値設定工程が実行される。このヨーモーメント指令値設定処理については、
図15を参照して後述する。
【0095】
ステップS32及びS33の処理並びにステップS34の増加トルク設定処理及びS35のヨーモーメント指令値設定処理を実行した後、ステップS36において、コントローラ8は、ステップS33において設定した基本トルクと、ステップS34において設定した増加トルクとに基づき、最終目標トルクを設定する。具体的には、コントローラ8は、基本トルクに増加トルクを加算することにより、最終目標トルクが算出される。
【0096】
次に、ステップS37において、コントローラ8は、ステップS36において設定した最終目標トルクを実現するためのアクチュエータ制御量を設定する。続いて、ステップS38において、コントローラ8は、ステップS37において設定した制御量に基づき各アクチュエータへ制御指令を出力する。これらのステップS37及びS38におけるエンジン4やモータジェネレータ20の制御の具体的な内容は、
図3のステップS7及びS8と同様である。
【0097】
次に、ステップS39において、ブレーキ制御システム48は、ステップS35において設定されたヨーモーメント指令値に基づきブレーキ装置46を制御する。ブレーキ制御システム48は、ヨーモーメント指令値と液圧ポンプ50の回転数との関係を規定したマップを予め記憶しており、このマップを参照することにより、ステップS35において設定されたヨーモーメント指令値に対応する回転数で液圧ポンプ50を作動させる(例えば、液圧ポンプ50への供給電力を上昇させることにより、指令値に対応する回転数まで液圧ポンプ50の回転数を上昇させる)。
また、ブレーキ制御システム48は、例えば、ヨーモーメント指令値とバルブユニット52の開度との関係を規定したマップを予め記憶しており、このマップを参照することにより、ヨーモーメント指令値に対応する開度となるようにバルブユニット52を個々に制御し(例えば、ソレノイド弁への供給電力を上昇させることにより、指令値に対応する開度までソレノイド弁の開度を増大させる)、各車輪の制動力を調整する。
ステップS39の後、コントローラ8は、車両姿勢制御処理を終了する。
【0098】
次に、
図15により、ヨーモーメント指令値設定処理について説明する。
図15に示すように、ヨーモーメント指令値設定処理が開始されると、ステップS41において、コントローラ8は、
図3の車両姿勢制御処理のステップS1において取得した操舵角及び車速に基づき目標ヨーレート及び目標横ジャークを算出する。
具体的には、コントローラ8は、車速に応じた係数を操舵角に乗ずることにより目標ヨーレートを算出する。また、コントローラ8は、操舵速度及び車速に基づき目標横ジャークを算出する。
【0099】
次に、ステップS42において、コントローラ8は、
図3の車両姿勢制御処理のステップS1において取得したヨーレートセンサ42が検出したヨーレート(実ヨーレート)とステップS31で算出した目標ヨーレートとの差(ヨーレート差)Δγを算出する。
【0100】
次に、ステップS43において、コントローラ8は、ステアリングホイール28の切り戻し操作中(即ち操舵角が減少中)であり、且つ、ヨーレート差Δγを時間微分することで得られるヨーレート差の変化速度Δγ′が所定の閾値Y1以上であるか否かを判定する。その結果、切り戻し操作中且つヨーレート差の変化速度Δγ′が閾値Y1以上である場合、ステップS44に進み、コントローラ8は、ヨーレート差の変化速度Δγ′に基づき、車両1の実ヨーレートとは逆回りのヨーモーメントを第1の目標ヨーモーメントとして設定する。具体的には、コントローラ8は、所定の係数Cm1をヨーレート差の変化速度Δγ′に乗ずることにより、第1の目標ヨーモーメントの大きさを算出する。
【0101】
一方、ステップS43において、ステアリングホイール28の切り戻し操作中ではない(即ち操舵角が一定又は増大中である)場合、ステップS45に進み、コントローラ8は、ヨーレート差の変化速度Δγ′が実ヨーレートが目標ヨーレートより大きくなる方向(即ち車両1の挙動がオーバーステアとなる方向)であり且つヨーレート差の変化速度Δγ′が閾値Y1以上であるか否かを判定する。具体的には、コントローラ8は、目標ヨーレートが実ヨーレート以上の状況の下でヨーレート差が減少している場合や、目標ヨーレートが実ヨーレート未満の状況の下でヨーレート差が増大している場合に、ヨーレート差の変化速度Δγ′は実ヨーレートが目標ヨーレートより大きくなる方向であると判定する。
【0102】
その結果、ヨーレート差の変化速度Δγ′が実ヨーレートが目標ヨーレートより大きくなる方向であり且つヨーレート差の変化速度Δγ′が閾値Y1以上である場合、ステップS44に進み、コントローラ8は、ヨーレート差の変化速度Δγ′に基づき、車両1の実ヨーレートとは逆回りのヨーモーメントを第1の目標ヨーモーメントとして設定する。
一方、ステップS45においてヨーレート差の変化速度Δγ′が実ヨーレートが目標ヨーレートより大きくなる方向ではないかヨーレート差の変化速度Δγ′が閾値Y1未満である場合には、コントローラ8は第1の目標ヨーモーメントを設定しない。この場合、第1の目標ヨーモーメントは0となる。
【0103】
ステップS44の後、又は、ステップS45においてヨーレート差の変化速度Δγ′が実ヨーレートが目標ヨーレートより大きくなる方向ではないかヨーレート差の変化速度Δγ′が閾値Y1未満である場合、ステップS46に進み、コントローラ8は、ステアリングホイール28の切り戻し操作中(即ち操舵角が減少中)であり、且つ、操舵速度が所定の閾値S3以上であるか否かを判定する。
【0104】
その結果、切り戻し中且つ操舵速度が閾値S3以上である場合、ステップS47に進み、コントローラ8は、ステップS41で算出した目標横ジャークに基づき、車両1の実ヨーレートとは逆回りのヨーモーメントを第2の目標ヨーモーメントとして設定する。具体的には、コントローラ8は、所定の正の係数Cm2を目標横ジャークに乗ずることにより、第2の目標ヨーモーメントの大きさを算出する。このとき、ステアリングホイール28の切り戻し操作中であるので、目標横ジャークは車両1の旋回方向とは逆方向の値になる。したがって、この目標横ジャークに正の係数Cm2を乗じた第2の目標ヨーモーメントも、車両1の実ヨーレートとは逆回りのヨーモーメントになる。
【0105】
一方、ステップS46においてステアリングホイール28の切り戻し操作中ではない(即ち操舵角が一定又は増大中である)か操舵速度が閾値S3未満である場合には、コントローラ8は第2の目標ヨーモーメントを設定しない。この場合、第2の目標ヨーモーメントは0となる。
【0106】
ステップS47の後、又は、ステップS46においてステアリングホイール28の切り戻し操作中ではない(即ち操舵角が一定又は増大中である)か操舵速度が閾値S3未満である場合、ステップS48に進み、コントローラ8は、ステップS44で設定した第1の目標ヨーモーメントとステップS47で設定した第2の目標ヨーモーメントとの内、大きい方をヨーモーメント指令値に設定する。
【0107】
次に、ステップS49において、コントローラ8は、操舵角の増加に基づいて基本トルクを増加したときの増加トルクに基づき、その後の操舵角の減少に基づきステップS48で設定したヨーモーメント指令値を補正する。具体的には、コントローラ8は、車両姿勢制御処理において操舵角の増加に基づき増加トルクを設定したときに、その増加トルク(例えば操舵角の増加の開始から終了までに設定された全ての増加トルクや、増加トルクの平均値あるいは最大値等)をメモリに記憶する。その後、操舵角の減少が開始され、ヨーモーメント指令値設定処理のステップS48においてヨーモーメント指令値が設定されると、ステップS49においてコントローラ8はメモリに記憶された増加トルクを参照し、その増加トルクに基づきステップS48において設定したヨーモーメント指令値を補正する。なお、メモリに記憶された増加トルクは、次に操舵角の増加が開始されたときにリセットされる。
【0108】
具体的には、コントローラ8は、操舵角の増加に基づいて基本トルクを増加したときの増加トルクが大きいときに、そうでないときよりもヨーモーメント指令値が大きくなるようにヨーモーメント指令値を補正する。
また、コントローラ8は、車両姿勢制御処理において操舵角の増加の終了に伴い増加トルクが0となってから操舵角の減少が開始するまでの経過時間に基づき、ヨーモーメント指令値の補正を行うようにしてもよい。具体的には、コントローラ8は、操舵角の増加の終了に伴い増加トルクが0となってから操舵角の減少が開始するまでの経過時間が所定時間(例えば2秒)以下である場合には増加トルクに基づきヨーモーメント指令値を補正し、経過時間が所定時間を超えたときにはヨーモーメント指令値の補正を行わず、ステップS48において設定されたヨーモーメント指令値をそのまま用いるようにしてもよい。あるいは、操舵角の増加の終了に伴い増加トルクが0となってから操舵角の減少が開始するまでの経過時間が大きいときには、そうでないときよりもヨーモーメント指令値の変更度合を小さくするようにしてもよい。
【0109】
ステップS49の後、コントローラ8はヨーモーメント指令値設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0110】
次に、
図16を参照して、本発明の実施形態の変形例による車両の制御方法及び車両システムの作用を説明する。
図16は、本発明の実施形態の変形例による車両1が旋回を行う場合の、車両姿勢制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【0111】
図16のタイムチャートは、上段から順に、操舵装置26の操舵角[deg]、操舵速度[deg/sec]、付加加速度[m/sec
2]、最終目標トルク[N・m]、点火時期、ヨーモーメント指令値、液圧ポンプ・バルブユニット制御量を示している。また、最終目標トルクを示すタイムチャートでは、基本トルク[N・m]を一点鎖線により示している。なお、この
図16では、時刻t
0~t
4において基本トルクが一定である場合を例示している。また、この
図16では、エンジン4に発生させるトルクを制御するための制御量として点火時期のみを例示しているが、上述した実施形態の
図9乃至
図12と同様に、スロットル開度、吸気弁閉時期、燃料噴射量を変化させることによりエンジン4に発生させるトルクを制御することも可能である。
【0112】
まず、
図16の時刻t
0~t
1においては、車両1のドライバは操舵を行っておらず、操舵角は0[deg](中立位置)、操舵速度も0[deg/sec]となっている。この状態では、
図4の増加トルク設定処理及び
図15のヨーモーメント指令値設定処理において増加トルク及びヨーモーメント指令値の設定は行われない(付加加速度=0、増加トルク=0、ヨーモーメント指令値=0)。このため、時刻t
0~t
1においては、基本トルクが最終目標トルクとして決定され、基本トルクを出力するための各アクチュエータの制御量(点火時期、スロットル開度、吸気弁閉時期、燃料噴射量等)が設定される。
【0113】
次に、
図16の時刻t
1において、ドライバがステアリングホイール28の切り込み操作を開始すると、操舵角及び操舵速度(の絶対値)が増加する。操舵速度がS
1以上になると、
図4の増加トルク設定処理においては、ステップS11からS14の処理が繰り返され、付加加速度及び増加トルクの設定が行われる。即ち、
図4のステップS13において
図5に示すマップを使用して操舵速度に基づき付加加速度が設定され、ステップS14において、設定された付加加速度を実現するために必要な増加トルクが設定され、
図14のステップS16において基本トルクに増加トルクを加算した値が最終目標トルクとして設定され、
図14のステップS37において、この最終目標トルクを実現するためのアクチュエータ制御量が設定される。そして、
図14のステップS38において、設定された制御量に基づき各アクチュエータの制御が実行される。
【0114】
次いで、
図16の時刻t
2において保舵に移行すると、操舵角が一定値となる。この状態では、
図4の増加トルク設定処理及び
図14のヨーモーメント指令値設定処理において増加トルク及びヨーモーメント指令値の設定は行われない(付加加速度=0、増加トルク=0、ヨーモーメント指令値=0)。このため、時刻t
2~t
3においては、基本トルクが最終目標トルクとして決定され、基本トルクを出力するための各アクチュエータの制御量(点火時期、スロットル開度、吸気弁閉時期、燃料噴射量等)が設定される。
【0115】
さらに、
図16の時刻t
3においてドライバがステアリングホイール28の切り戻し操作を開始すると、操舵角が減少し、操舵速度(の絶対値)が増加する。この場合、
図15のヨーモーメント指令値設定処理においては、ステップS41からS49の処理が繰り返され、ヨーモーメント指令値の設定が行われる。即ち、
図15のステップS48においてヨーモーメント指令値が設定され、ステップS49において、時刻t
1~t
2間において設定された増加トルクに基づきヨーモーメント指令値が補正される。そして、
図14のステップS39において、ヨーモーメント指令値に基づき車両1にヨーモーメントを付与する制御が実行される。
【0116】
典型的な例では、ステアリング操作が切り戻し操作であり、且つ、操舵速度が閾値S
3以上であるという条件が成立して(
図15のステップS46:Yes)、コントローラ8が操舵速度に比例する目標横ジャークに基づき第2の目標ヨーモーメントを設定し(
図15のステップS47)、この第2の目標ヨーモーメントをヨーモーメント指令値に設定する(
図15のステップS48)。そして、切り込み操作時の増加トルクに基づきヨーモーメント指令値を補正した後(
図15のステップS49)、ブレーキ制御システム48が、ヨーモーメント指令値に基づき液圧ポンプ50及びバルブユニット52を制御する(
図14のステップS39)。このとき、
図16に示すように、ブレーキ制御システム48は、時刻t
3においてヨーモーメント指令値が0から増加し始めた後、所定の立ち上がり時間が経過するまでの間は、ヨーモーメント指令値に所定のオフセット値を加算した値に基づき液圧ポンプ50及びバルブユニット52を制御する。これにより、ステアリングの切り戻し操作が開始されたときに制動力を迅速に立ち上げることができ、所望のヨーモーメントを迅速に車両1に付与して操安性を向上することができる。
【0117】
次いで、
図16の時刻t
4において操舵角が0に戻り保舵される(操舵速度=0)と、操舵速度が0となることにより、付加加速度及びヨーモーメント指令値の値も0となり、基本トルクの値が最終目標トルクとして決定される。
【0118】
<作用効果>
次に、本実施形態の変形例による作用効果について説明する。
【0119】
本実施形態の変形例によれば、コントローラ8は、操舵装置26の操舵角の減少に基づいて、車両1に発生しているヨーレートとは逆回りのヨーモーメント指令値を設定し、そのヨーモーメント指令値に基づきブレーキ装置46を制御する。これにより、操舵装置26の切り戻し操作が行われたときに、車両1の旋回を抑制する方向のヨーモーメントを発生させることができ、ステアリングの切り戻し操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。
【0120】
また、本実施形態の変形例によれば、操舵角の増加に基づいて基本トルクを増加したときの増加トルクに基づいて、その後の操舵角の減少に基づき設定されたヨーモーメント指令値を変更するので、ステアリングの切り込み操作における増加トルクによる車両応答性やリニア感の向上と、切り戻し操作におけるヨーモーメント指令値による車両応答性やリニア感の向上とのバランスを調整することができ、ドライバに違和感を与えることを防止できる。
【0121】
また、本実施形態の変形例によれば、コントローラ8は、増加トルクが減少して0となってから所定時間内に操舵装置26の操舵角が減少した場合に、増加トルクに基づきヨーモーメント指令値の変更を実行するので、ステアリングの切り込み操作における増加トルクによる車両応答性やリニア感の向上が、切り戻し操作における車両応答性やリニア感に影響を与えうる状況の下で、増加トルクに基づくヨーモーメント指令値の変更を実行することができ、ドライバに違和感を与えることを防止できる。
【0122】
また、本実施形態の変形例によれば、コントローラ8は、増加トルクが減少して0となってからの経過時間に応じて、ヨーモーメント指令値の変更度合を設定するので、ステアリングの切り込み操作における増加トルクによる車両応答性やリニア感の向上が、切り戻し操作における車両応答性やリニア感に影響を与えうる状況の下で、増加トルクに基づくヨーモーメント指令値の変更を実行することができ、ドライバに違和感を与えることを防止できる。
【0123】
<他の変形例>
なお、上述した実施形態及び変形例では、車両1の操舵角を用いて車両1の姿勢制御を実行する例を示したが、操舵角に代えて、ヨーレートや横加速度に基づき姿勢制御を実行するようにしてもよい。上述した実施形態では、車両1の操舵速度を用いて車両1の姿勢制御を実行する例を示したが、操舵速度に代えて、ヨー加速度や横ジャークに基づき姿勢制御を実行するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0124】
1 車両
2 後輪
4 エンジン
8 コントローラ
10 スロットルバルブ
12 インジェクタ
14 点火プラグ
16 可変動弁機構
18 エンジン回転数センサ
20 モータジェネレータ
26 操舵装置
34 操舵角センサ
36 アクセル開度センサ
38 ブレーキ踏込量センサ
40 車速センサ
42 ヨーレートセンサ
44 加速度センサ
46 ブレーキ装置