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  • 特許-耐熱絶縁紙の劣化推定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】耐熱絶縁紙の劣化推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/34 20060101AFI20220922BHJP
   G01N 33/28 20060101ALI20220922BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20220922BHJP
   H01F 27/12 20060101ALN20220922BHJP
   G01N 27/62 20210101ALN20220922BHJP
【FI】
G01N33/34
G01N33/28
H01F27/00 H
H01F27/12
G01N27/62 C
G01N27/62 X
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018224563
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020085817
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000141015
【氏名又は名称】株式会社かんでんエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】西川 精一
(72)【発明者】
【氏名】山中 功
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-072892(JP,A)
【文献】特開平04-241407(JP,A)
【文献】特開2002-005840(JP,A)
【文献】米国特許第05646047(US,A)
【文献】特開昭62-108510(JP,A)
【文献】特開2013-175645(JP,A)
【文献】特開2014-062858(JP,A)
【文献】二国順二,電気絶縁紙,紙パ技協誌,1968年,Vol.22 No.3,Page.117-120
【文献】張替武司,フルフラールによる油入変圧器の経年劣化度診断の研究,電学論A,1992年,Vol.112 No.6,Page.589-595
【文献】三好昭,加工紙の変圧器への適用状況について,紙パ技協誌,1979年,Vol.33 Vol.7,Page.441-446
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/34
G01N 33/28
H01F 27/00
H01F 27/12
G01N 27/62
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁油中の耐熱絶縁紙の劣化の程度を推定する劣化推定方法であって、
劣化の指標物質としてメチルピラジンを用いる、劣化推定方法。
【請求項2】
指標物質であるメチルピラジンの絶縁油中の濃度を測定し、当該濃度から耐熱絶縁紙の単位質量当たりの生成量を算出し、耐熱絶縁紙に含まれるセルロースの劣化指標と前記生成量との既知の検量線から、測定に基づく前記生成量の算出値に相当する劣化指標を求める、請求項1記載の劣化推定方法。
【請求項3】
劣化指標が、セルロースの重合度残率である請求項記載の劣化推定方法。
【請求項4】
耐熱絶縁紙が、アミン類を含有する請求項1~の何れか1項に記載の劣化推定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱絶縁紙の劣化推定方法に関し、特に、例えば変圧器等の油入電気機器に用いられる耐熱絶縁紙の劣化推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変圧器、油入リアクトル等の油入電気機器では、一般に、鉄心と巻線との間に絶縁紙等の絶縁体を介在させ、これらを電気絶縁油中に浸漬することによって、鉄心と巻線との間の絶縁が図られている。油入電気機器に用いられる絶縁体としては、絶縁紙が広く使用されている。この絶縁紙は一般的にセルロース繊維製のものが採用されている。
【0003】
このような油入電気機器は、長年の使用により劣化することが知られている。その原因の一つとして、絶縁紙の劣化が知られている。絶縁紙の劣化は、その構成材料であるセルロースの分解によるものであることも知られている。そこで、セルロースの分解の結果生成する、二酸化炭素及び一酸化炭素、フルフラール等のフラン類、アルデヒド類等を指標として、絶縁紙の劣化を診断する方法や、絶縁紙の劣化の程度を測定し、それにより油入電気機器の劣化の程度を診断する方法が提案されている(例えば特許文献1、2、非特許文献1参照。)。
【0004】
また、絶縁紙としては、セルロース製のものが広く使用されているが、耐熱性を向上させた耐熱絶縁紙として、シアノエチル化セルロース等の変性セルロースを用いた絶縁紙や、セルロース製の絶縁紙に、ジシアンジアミド、メラミン、トリエチルメラミン、ポリアクリルアミド、P-トルエンスルホンアミドなどのアミン類を添加したアミン添加紙などが知られている(非特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-241407号公報
【文献】特開2014-62858号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】電学論A、第112巻、第6号、589-595pp、1992年
【文献】紙パ技協誌、第22巻、第3号、117-120pp、1968年
【文献】紙パ技協誌、第33巻、第7号、441-446pp、1979年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば特許文献1、2に記載のように、セルロースの分解の結果生成するフルフラール等を指標として絶縁紙の劣化を診断する方法は、絶縁油中の成分を分析することで行うことが可能なため、変圧器等の油入電気機器の稼働中にその劣化診断を簡便に精度よく行うことができる。しかし、発明者の検討の結果、耐熱絶縁紙、特に、アミン類を添加した絶縁紙において、フルフラールを検出できない場合があることが判明した。また、耐熱絶縁紙の劣化の初期段階においてその傾向が顕著であることが判明した。
【0008】
非特許文献1には、「変圧器の経年劣化を知るうえで特に重要な材料の特性は、絶縁紙の引張強さであり、絶縁紙の寿命の目安は、その引張強さが初期値の60%に低下したときとされている。引張強さが初期値の60%に達すると、コイルに外部短絡時の電磁力などで発生した機械的な力が加えられたとき、コイルに巻かれている絶縁紙はその力に耐えられなくなって破断し、コイル部に絶縁破壊が起きる可能性が出てくる。また、引張強さが初期値の60%に低下したとき、絶縁紙の劣化度の指標となる平均重合度は初期値の40~50%に低下する」と記載されている。発明者の検討によると、耐熱絶縁紙の場合、そのセルロースの平均重合度が初期値の50%程度になってようやくフルフラールによる測定が可能になることが判明した。即ち、フルフラールを指標として用いて、例えば変圧器の耐熱絶縁紙の劣化を推定した場合、測定前に絶縁破壊が起きてしまう可能性があることが判明した。
【0009】
そこで、本発明の目的とするところは、耐熱絶縁紙であっても、その劣化の初期段階から劣化の程度を推定可能な耐熱絶縁紙の劣化推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前述の課題解決のために、鋭意検討を行った。その結果、耐熱絶縁紙の劣化の初期段階においても、その劣化に伴い、絶縁油中の窒素化合物が増加する、即ち、耐熱絶縁紙のセルロースの重合度等の劣化指標と、絶縁油中の窒素化合物の生成量との間に相関関係があり、検量線を作成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の第一は、絶縁油中の耐熱絶縁紙の劣化の程度を推定する劣化推定方法であって、劣化の指標物質として窒素化合物を用いる、劣化推定方法に関する。本発明の実施形態では、窒素化合物は、環状窒素化合物であってもよい。また、環状窒素化合物は複素環式芳香族化合物でもよい。また、複素環式芳香族化合物は、ピリジン、ピラジン、ピロール、及び、これらの誘導体から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0012】
また、本発明の実施形態では、指標物質である窒素化合物の絶縁油中の濃度を測定し、当該濃度から耐熱絶縁紙の単位質量当たりの生成量を算出し、耐熱絶縁紙に含まれるセルロースの劣化指標と前記生成量との既知の検量線から、測定に基づく前記生成量の算出値に相当する劣化指標を求めてもよい。劣化指標は、セルロースの重合度残率であってもよい。
【0013】
また、本発明の実施形態では、耐熱絶縁紙がアミン類を含有していてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐熱絶縁紙であっても、その劣化の初期段階から劣化の程度を推定可能な耐熱絶縁紙の劣化推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】試験例1a、1bにおける測定結果から、絶縁紙の種類毎に、劣化指標(重合度残率)と指標物質(メチルピラジン/フルフラール)との相関関係を示した図である。(a)は絶縁紙のセルロースの重合度残率とメチルピラジンの濃度の相関関係を示したものであり、(b)は絶縁紙のセルロースの重合度残率とフルフラールの濃度の相関関係を示したものである。
図2】試験例2a、2bにおける測定結果から、絶縁紙の種類毎に、劣化指標(重合度残率)と指標物質(メチルピラジン/フルフラール)との相関関係を示した図である。(a)は絶縁紙のセルロースの重合度残率とメチルピラジンの濃度の相関関係を示したものであり、(b)は絶縁紙のセルロースの重合度残率とフルフラールの濃度の相関関係を示したものである。
図3】試験例3a、3bにおける測定結果から、絶縁紙の種類毎に、劣化指標(重合度残率)と指標物質(メチルピラジン/フルフラール)との相関関係を示した図である。(a)は絶縁紙のセルロースの重合度残率とメチルピラジンの濃度の相関関係を示したものであり、(b)は絶縁紙のセルロースの重合度残率とフルフラールの濃度の相関関係を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0017】
本発明に係る劣化推定方法は、絶縁油中の耐熱絶縁紙の劣化の程度を示す指標物質として窒素化合物を用いる。
【0018】
この窒素化合物は、耐熱絶縁紙の劣化に伴って、その程度に応じて生成する化合物であって、絶縁油中に存在する。この絶縁油中の窒素化合物の生成量を測定することで、耐熱絶縁紙の劣化の程度を推定することができる。特に、劣化の初期段階から劣化の程度を推定可能なため、例えば変圧器等の油入電気機器の絶縁破壊が起こる前に劣化の程度を推測し得る。
【0019】
窒素化合物が、耐熱絶縁紙の劣化に伴って生成する一方、セルロースの分解により生成するはずのフルフラールが、特に劣化の初期段階で検出されない理由は必ずしも明らかではないが、例えばアミン類が添加された耐熱絶縁紙に含まれるアミン類からアンモニアと前記窒素化合物が生成し、アンモニアとフルフラールが反応することでフルフラールが消費されること等が考えられる。
【0020】
指標となり得る窒素化合物は、例えば耐熱絶縁紙に含まれるアミン類から生成するものが挙げられる。このような窒素化合物としては、例えば、環状窒素化合物、鎖状窒素化合物等が挙げられる。環状窒素化合物としては、環状構造内に窒素原子が存在する化合物、環状構造内には窒素原子は存在せず、環状構造に連結する置換基が鎖状の窒素含有化合物に由来する基である化合物等が挙げられる。
【0021】
環状構造内に窒素原子が存在する環状窒素化合物は、3員環以上であればよく、また、単環であっても、多環であってもよい。また、環状構造内の窒素原子の数は、1つでもよいし2つ以上でもよい。窒素原子以外の原子が環状構造内に存在してもよく、このような原子としては、酸素原子、硫黄原子等が挙げられる。環状構造内に窒素原子が存在する化合物としては、複素環式芳香族化合物、複素脂環式化合物等が挙げられる。
【0022】
複素環式芳香族化合物としては、例えば、ピリジン、ピラジン、ピロール、ピリミジン、ピリダジン、1,2,3-トリアジン、1,2,4-トリアジン、1,3,5-トリアジン、イミダゾール、ピラゾール、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、インダゾール、プリン、オキサゾール、イソオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、アクリジン、キナゾリン、シンノリン、フタラジン等、及び、これらの誘導体等が挙げられる。誘導体としては、芳香環に直結する水素原子の少なくとも1つが炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、ケトン基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基から選択される少なくとも1種の官能基で置換されたもの等が挙げられる。これらは、耐熱絶縁紙に添加されているアミン類により適宜選択して指標とすることができるが、ピリジン、ピラジン、ピロール、及び、これらの誘導体から選択される少なくとも1種から選択される少なくとも1が絶縁紙の劣化との相関が良好な結果が得られる傾向にある。これらは、例えば、絶縁紙に添加されるアミン類がジシアンジアミドである場合により良好な傾向にある。
【0023】
複素脂環式化合物としては、例えば、エチレンイミン、アザシクロブタン、ピロリジン、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン等、及び、これらの誘導体等が挙げられる。
【0024】
環状構造内には窒素原子は存在せず、環状構造に連結する置換基が鎖状の窒素含有化合物に由来する基である化合物としては、例えば、芳香族アミン、炭素脂環式アミン等が挙げられる。
【0025】
鎖状窒素化合物としては、例えば、脂肪族アミン等が挙げられる。
【0026】
本発明の劣化推定方法に係る実施形態では、耐熱絶縁紙に由来する窒素化合物を指標とする。そのため、油入電気機器に使用される耐熱絶縁紙が、アミン類を含有するセルロース製絶縁紙である場合に良好な推定結果が得られ易い傾向にある。このようなアミン類としては、例えば、非特許文献2、3に示された、ジシアンジアミド、メラミン、トリエチルメラミン、ポリアクリルアミド、P-トルエンスルホンアミド等が挙げられる。
【0027】
本発明の劣化推定方法に係る実施形態は、耐熱絶縁紙が浸漬される絶縁油の種類に関わらず、適用が可能である。つまり、例えば変圧器等の油入電気機器において一般に使用される各種の絶縁油に対して適用が可能である。このような絶縁油としては、例えば、JIS C 2320に規定される各種の電気絶縁油(例えば、鉱油、シリコーン油、アルキルベンゼン、ポリブテン、アルキルナフタレン、アルキルジフェニルアルカン)、植物油、植物由来エステル油が挙げられる。
【0028】
以下、絶縁油中の窒素化合物を劣化の指標物質として用いて、耐熱絶縁紙の劣化の程度を推定する方法の実施形態の一例を説明する。
【0029】
本実施形態では、指標物質である窒素化合物の絶縁油中の濃度を測定し、当該濃度から耐熱絶縁紙の単位質量当たりの生成量を算出する。この生成量と耐熱絶縁紙に含まれるセルロースの劣化指標との既知の検量線から、測定に基づく前記生成量の算出値に相当する劣化指標を求める。この劣化指標から、耐熱絶縁紙の劣化の程度を推定することができる。
【0030】
本実施形態では、予め、耐熱絶縁紙(未使用)の単位質量当たりの窒素化合物の生成量と、耐熱絶縁紙に含まれるセルロースの劣化指標との検量線を作成する。この検量線は、劣化指標として、例えば、セルロースの平均重合度又は重合度残率を用いて求めることができる。重合度残率は、未使用の耐熱絶縁紙のセルロースの平均重合度に対する、使用後所定時期の耐熱絶縁紙のセルロースの平均重合度の割合(百分率で示すことが一般的である。)を意味する。劣化指標は、平均重合度や重合度残率以外にも、例えば、耐熱絶縁紙の引張強度、絶縁油中の一酸化炭素及び二酸化炭素の濃度等を採用することができる。精度よくかつ簡便に測定を行う観点からは、平均重合度や重合度残率が好適である。劣化指標として、劣化推定対象が変圧器の場合には、セルロースの平均重合度又は重合度残率を用いる場合の検量線の作成は、例えば次のようして行うことができる。
【0031】
ステンレス製の容器に、絶縁油、耐熱絶縁紙、純度99.9%以上の軟銅線を所定の割合で入れた後、窒素などの不活性ガスで置換して密閉する。これを所定の温度で加熱し、所定時間経過する毎に、耐熱絶縁紙中のセルロースの平均重合度と、その時の指標物質である窒素化合物の絶縁油中の濃度を測定する。その際の加熱条件は、実際に想定される温度でもよいし、それより高い加速試験となる温度でもよい。測定結果から、平均重合度に替えて重合度残率を用いる場合は、前述の定義に従って算出する。また、耐熱絶縁紙の単位質量当たりの指標物質の濃度を算出する。指標物質である窒素化合物の濃度は、指標物質の特性に応じて、例えばガスクロマトグラフ質量分析計や液体クロマトグラフ質量分析計等により測定することができる。絶縁紙中のセルロースの平均重合度は、例えば日本電機工業会規格JEM1455:変圧器用絶縁紙の平均重合度測定方法に準拠して測定することができる。
【0032】
このようにして、平均重合度又は重合度残率が耐熱絶縁紙の劣化破壊に至る程度になるまで、測定を繰り返し測定、算出を行い、平均重合度又は重合度残率と耐熱絶縁紙の単位質量当たりの指標物質の濃度との関係から検量線を求める。
【0033】
検量線作成のための試験に用いる容器として、ステンレス製の容器を例示したが、劣化推定対象とする油入電気機器において実際に使用される材質のものを選択すればよい。また、変圧器で使用されるコイルと同等の材質として純度99.9%以上の軟銅線を例示したが、同様に実際に使用される材質のものを選択すればよい。絶縁油、絶縁紙、銅線の割合も、実際の機器に合わせて設定すればよい。もっとも、加速的条件で行うため、実際の機器とは異なる条件を採用してもよい。
【0034】
このように検量線は、モデルサンプルを用いた試験結果に基づいて作成することができる。また、その試験結果に、実機の検査結果を反映させてもよい。実機の検査結果のみに基づいて作成してもよい。
【0035】
そして、実機の耐熱絶縁紙の劣化の推定を行う際に、実機の油入電気機器の絶縁油から測定サンプルを採取し、前述と同様にして、指標物質である窒素化合物の絶縁油中の濃度をガスクロマトグラフ質量分析計で測定する。測定サンプルは必要に応じて適宜前処理を行ってもよい。また、指標物質である窒素化合物は、必要に応じて例えば誘導体化試薬と反応させて誘導体としてもよい。そして、耐熱絶縁紙の単位質量当たりの指標物質の生成量を算出する。この生成量に相当する耐熱絶縁紙のセルロースの平均重合度又は重合度残率を、前述のようにして予め作成した検量線から求める。そして、その平均重合度又は重合度残率から、一般の絶縁紙での経験則に基づいて、耐熱絶縁紙の劣化の程度を推定する。
【実施例
【0036】
(試験例1a)
それぞれ開閉弁を有する2つの通気孔を有し、密閉可能なステンレス製容器を準備した。この容器に、鉱油(株式会社かんでんエンジニアリング製、JIS C 2320 絶縁油A1種2号油)300mL、耐熱絶縁紙(巴川製紙所製)3.4g、純度99.9%以上の軟銅62.8cmを入れた。一方の通気孔から排気しつつ他方の通気孔から窒素を1.0L/minで20分間吹き込んだ後、密閉した。このような変圧器のモデルを10個準備した。各モデルを加熱装置内に静置し、110℃で120日、240日、360日、130℃で30日、60日、120日、150℃で7日、14日、28日、56日、それぞれ経過した後に、各モデルを開封し、後述するように、耐熱絶縁紙のセルロースの平均重合度、絶縁油中の窒素化合物の濃度、絶縁油中のフルフラール濃度を測定した。
【0037】
(試験例1b)
耐熱絶縁紙を、耐熱性ではない一般の絶縁紙(巴川製紙所製)に変更した以外は、試験例1aと同様にして一般絶縁紙のセルロースの平均重合度、絶縁油中の窒素化合物の濃度、絶縁油中のフルフラール濃度を測定した。
【0038】
(試験例2a)
絶縁油を菜種油(株式会社かんでんエンジニアリング製、サンオームECO)に変更した以外は、試験例1aと同様にして耐熱絶縁紙のセルロースの平均重合度、絶縁油中の窒素化合物の濃度、絶縁油中のフルフラール濃度を測定した。
【0039】
(試験例2b)
耐熱絶縁紙を、耐熱性ではない一般の絶縁紙(巴川製紙所製)に変更した以外は、試験例2aと同様にして一般絶縁紙のセルロースの平均重合度、絶縁油中の窒素化合物の濃度、絶縁油中のフルフラール濃度を測定した。
【0040】
(試験例3a)
絶縁油をパームヤシ脂肪酸エステル(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、パステルNEO)に変更した以外は、試験例1aと同様にして耐熱絶縁紙のセルロースの平均重合度、絶縁油中の窒素化合物の濃度、絶縁油中のフルフラール濃度を測定した。
【0041】
(試験例3b)
耐熱絶縁紙を、耐熱性ではない一般の絶縁紙(巴川製紙所製)に変更した以外は、試験例3aと同様にして一般絶縁紙のセルロースの平均重合度、絶縁油中の窒素化合物の濃度、絶縁油中のフルフラール濃度を測定した。
【0042】
(窒素化合物の測定)
ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて、絶縁油中の窒素化合物の濃度を測定した。装置及びその条件を表1に示す。本試験例では、窒素化合物として、メチルピラジンを指標物質とした。得られた濃度、絶縁油残量及び耐熱絶縁紙の当初重量(3.4g)から、耐熱絶縁紙の単位質量当たりの生成量を算出した。
【0043】
【表1】
【0044】
(フルフラールの測定)
石油学会規格JPI-5S-58-99:電気絶縁油-フルフラールの定量試験方法に準拠して、絶縁油中のフルフラールを測定した。
【0045】
(絶縁紙中のセルロースの平均重合度の測定)
日本電機工業会規格JEM1455:変圧器用絶縁紙の平均重合度測定方法に準拠して測定した。各サンプルの平均重合度と、試験開始前の絶縁紙の平均重合度から、重合度残率を算出した。
【0046】
試験例1a、b、試験例2a、b、試験例3a、bの測定、算出結果を、メチルピラジン濃度と重合度残率の関係、フルフラール濃度と重合度残率の関係としてまとめたものをそれぞれ図1~3に示す。これらの試験例に示されるように、耐熱絶縁紙(耐熱紙)を用いた場合は、重合度残率が低下しているにもかかわらず、フルフラール濃度の増加がごくわずかであるか、殆ど変化がないのに対して、メチルピラジン濃度は、重合度残率の低下に応じて増加していることが分かる。特に、図1、3において重合度残率が100%から40~50%程度に至る範囲でその傾向が認められる。また、図2においても60%程度に至る範囲でその傾向が認められる。尚、試験例2a、bの条件では耐熱絶縁紙が絶縁破壊になる程度の劣化には至らなかったことを示しているが、より厳しい加速条件にすることで、試験例1a、b、3a、bの場合と同様の結果になると推測し得る。このように、耐熱絶縁紙の劣化の指標としてメチルピラジン等の窒素化合物が有効であることが分かる。したがって、図1図3の各(a)に示す相関関係から導出される検量線に基づいて、例えば変圧器等の油入電気機器の絶縁油中の窒素化合物の濃度の測定結果から、耐熱絶縁紙の重合度残率が導出される。そして、この重合度残率から、油入電気機器で使用されている耐熱絶縁紙の劣化の程度を、劣化の初期段階から、推定可能であることが分かる。

図1
図2
図3