(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】集磁リング、及びトルク検出装置
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20220922BHJP
【FI】
G01L3/10 305
(21)【出願番号】P 2018226270
(22)【出願日】2018-12-03
【審査請求日】2021-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】徳本 欣智
(72)【発明者】
【氏名】中村 成嘉
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-149062(JP,A)
【文献】特開2006-201033(JP,A)
【文献】特開2013-160537(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0221957(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク検出装置における磁気ヨークからの磁束を誘導する集磁リングであって、
円環部と、
前記円環部の軸方向端面の一方から突出する集磁部と、
前記円環部の軸方向端面の一方又は他方の、前記集磁部が突出する位置から周方向へ離間した位置に設けた凸部と、
を備え、
前記凸部の前記軸方向端面の一方又は他方からの軸方向突出長さ(L)を、前記集磁部の前記軸方向端面の一方からの軸方向突出長さ(L0)に対する比で0.9から1.1(L/L0=0.9~1.1)に設定してな
り、
前記円環部を成形する前の帯板の長手方向中央部に、前記集磁部を形成する、軸方向に突出する分岐片を設けるとともに、前記帯板の両端部の一方又は両方に前記凸部を設けてなることを特徴とする、
集磁リング。
【請求項2】
トーションバーを介して同軸に連結された第1軸及び第2軸と、
前記第1軸に固定され、前記第1軸と一体回転する円筒状永久磁石と、
前記第2軸に固定され、前記第2軸と一体回転する2個一組の磁気ヨークと、
前記磁気ヨークからの磁束をそれぞれ誘導する、前記磁気ヨークの径方向外側を各別に囲み、前記集磁部を対向させて配置した2個一組の、請求項1
に記載の集磁リングと、
前記集磁部の対向面間に配された磁気センサと、
を備えた、
トルク検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の電動パワーステアリング装置等に用いるトルク検出装置の部品である集磁リングに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、運転者の負担を軽減するために電動パワーステアリング装置が広く用いられている。電動パワーステアリング装置は、操舵補助用のモータの駆動制御に用いるトルク検出装置を備える(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
このようなトルク検出装置は、例えば特許文献1の
図1及び
図3を参照して説明すると、トーションバー3を介して同軸に連結された第1軸1及び第2軸2に対し、第1軸1と一体回転する円筒状永久磁石5、永久磁石5が形成する磁界内にて第2軸2と一体回転する2個一組の磁気ヨーク4a,4b、並びに、磁気ヨーク4a,4bからの磁束をそれぞれ誘導する、磁気ヨーク4a,4bの径方向外側を各別に囲む2個一組の集磁リング8,8を備える。
また、トルク検出装置は、集磁リング8に設けられた、集磁部である平板状の部分8a,8aの対向面間に配された磁気センサであるホールIC6を備え、ホールIC6が検出する前記集磁部間の漏洩磁束の密度に基づいて、第1軸1及び第2軸2に加わるトルクを検出する。
【0004】
2個一組の磁気ヨーク4a,4bは、それぞれの爪10が周方向に適当な間隔でずれるように対向する状態で、合成樹脂体17により円筒形状にモールドされている(特許文献1の[0010])。
2個一組の集磁リング8,8及びホールIC6は、互いに他部分より近接する部分8a,8aを対向させて、その近接する部分8a,8aの隙間にホールIC6を挿入した状態で、合成樹脂体18a,18bによりモールドされている。(特許文献1の[0011]及び[0012])。
【0005】
このようなトルク検出装置において、2個一組の集磁リングの形状は、特許文献2の
図6(c)の形状が一般的である。同図を参照して集磁リング9について説明すると、集磁リング9は、磁性材料製の円環であり、周方向の2か所に軸方向に延設した分岐片90,90を備えており、これらの分岐片90,90の先端を径方向外向きに折り曲げ成形して集磁部91,91を形成している(特許文献2の[0008]及び[0009])。
【0006】
すなわち、集磁リング9は、円環部、及び円環部から軸方向に延設した分岐片90,90を折り曲げた集磁部からなり、集磁部は円環部の軸方向端面から突出している。
また、特許文献2の
図6(c)のような集磁リングは、特許文献2の
図6(b)のような帯板から成形するので、集磁部91,91から周方向へ離間した円環部の端部には、
図6(c)のように間隙がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-071326号公報
【文献】特開2006-201033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
トルク検出装置における2個一組の集磁リングを含む樹脂モールド部品(例えば、特許文献1の
図1及び[0012]参照)を製造する場合、前記樹脂モールド部品のインサート成形において、射出成形機の金型に対してインサートワークである集磁リングを供給する工程がある。
【0009】
前記のとおり、集磁リングの集磁部は、円環部の軸方向端面から突出しているので、集磁リングを積み上げると、集磁リングは鉛直軸に対して傾く。
その上、集磁部から周方向へ離間した円環部の端部には間隙があるので、当該端部は、軸方向、径方向及び周方向へ変形しやすい。
【0010】
それにより、例えば、円筒状の治具に遊嵌するように集磁リングを積み重ねた際に、集磁リングは傾いた状態で積み重なるとともに、間隙がある円環部の端部が変形しやすいので、上下に積み重ねて静止した集磁リングの姿勢が安定しない。
【0011】
したがって、集磁リングを前記治具から取り出す際に変形や引っ掛かりが生じやすく、産業用ロボットにより集磁リングの取出しを行うのは困難である。
このような理由により、インサートワークである集磁リングの射出成形機の金型への供給は人手で行っているのが現状である。
【0012】
そこで本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとする課題は、インサートワークである集磁リングを金型に供給する工程を自動化できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の要旨は以下の通りである。
〔1〕トルク検出装置における磁気ヨークからの磁束を誘導する集磁リングであって、
円環部と、
前記円環部の軸方向端面の一方から突出する集磁部と、
前記円環部の軸方向端面の一方又は他方の、前記集磁部が突出する位置から周方向へ離間した位置に設けた凸部と、
を備え、
前記凸部の前記軸方向端面の一方又は他方からの軸方向突出長さ(L)を、前記集磁部の前記軸方向端面の一方からの軸方向突出長さ(L0)に対する比で0.9から1.1(L/L0=0.9~1.1)に設定してなり、
前記円環部を成形する前の帯板の長手方向中央部に、前記集磁部を形成する、軸方向に突出する分岐片を設けるとともに、前記帯板の両端部の一方又は両方に前記凸部を設けてなることを特徴とする、集磁リング。
【0015】
〔2〕トーションバーを介して同軸に連結された第1軸及び第2軸と、
前記第1軸に固定され、前記第1軸と一体回転する円筒状永久磁石と、
前記第2軸に固定され、前記第2軸と一体回転する2個一組の磁気ヨークと、
前記磁気ヨークからの磁束をそれぞれ誘導する、前記磁気ヨークの径方向外側を各別に囲み、前記集磁部を対向させて配置した2個一組の、前記〔1〕に記載の集磁リングと、
前記集磁部の対向面間に配された磁気センサと、
を備えた、トルク検出装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る集磁リングによれば、集磁部が突出する位置から周方向へ離間した位置に凸部を設けるとともに、凸部の軸方向突出長さ(L)を、集磁部の軸方向突出長さ(L0)に対する比で0.9から1.1(L/L0=0.9~1.1)に設定しているので、円筒状の治具に遊嵌するように集磁リングを積み重ねた際に、集磁リングは、それらの円環部が略水平を保った状態で静止する。
【0017】
それにより、集磁リングを円筒状の治具から取り出す際に引っ掛かりにくく、自動供給器や産業用ロボットであっても集磁リングの取出しを容易に行うことができる。
したがって、円筒状の治具から集磁リングを取り出し、インサートワークである集磁リングを射出成形機の金型へセットする一連の作業を、自動供給器や産業用ロボットにより安定かつ確実に行うことができる。
よって、本発明の集磁リングを備えたトルク検出装置を製造する工程の自動化率を高めることができるので、トルク検出装置の製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係る集磁リングを備えたトルク検出装置において、2個一組の集磁リング及び磁気センサを取り出して示す斜視図である。
【
図2】
図1において集磁リングに設けた凸部を内径側から見た要部拡大図である。
【
図3】集磁リングを成形する前の帯板の正面図である。
【
図4A】本発明の実施の形態に係る集磁リングの斜視図である。
【
図5】円筒状の治具に遊嵌するように集磁リングを積み重ねた状態を示す縦断面正面図である。
【
図6A】同状態を示す集磁部側から見た横断面斜視図である。
【
図6B】同状態を示す凸部側から見た横断面斜視図である。
【
図10A】
図9の変形例の集磁リングを円筒状の治具に遊嵌するように積み重ねた状態を示す集磁部側から見た横断面斜視図である。
【
図10B】
図9の変形例の集磁リングを円筒状の治具に遊嵌するように積み重ねた状態を示す凸部側から見た横断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。
本明細書において、トルク検出装置が検出する回転トルクの回転軸の方向を「軸方向」という。
【0020】
<トルク検出装置>
本発明のトルク検出装置の構成は、特許文献1及び2のような従来のトルク検出装置と同様である。
【0021】
すなわち、本発明のトルク検出装置は、トーションバーを介して同軸に連結された第1軸及び第2軸と、前記第1軸に固定され、前記第1軸と一体回転する円筒状永久磁石と、前記第2軸に固定され、前記第2軸と一体回転する2個一組の磁気ヨークと、前記磁気ヨークからの磁束をそれぞれ誘導する、前記磁気ヨークの径方向外側を各別に囲み、前記集磁部を対向させて配置した2個一組の集磁リングと、前記集磁部の対向面間に配された磁気センサとを備える。
【0022】
このようなトルク検出装置(
図1の符号A)において、2個一組の集磁リング1,1及び磁気センサS,Sを取り出して示す
図1の斜視図のように、2個一組の集磁リング1,1は、集磁部3,3を対向させ、集磁部3,3の対向面間に磁気センサSを備える。
2個一組の集磁リング1,1は、それぞれ、集磁部3,3が突出する位置から周方向へ離間した位置に凸部4,4を備える。
【0023】
図2の集磁リング1,1に設けた凸部4,4,…を内径側から見た要部拡大図に示す凸部4,4間の距離Eは、
図1の斜視図に示す集磁部3,3の軸方向距離Fよりも大きい(E>F)。E≦Fであると、集磁部3,3側に集磁しない場合が起こり得ることから、集磁部3,3側に確実に集磁させるためである。
【0024】
<集磁リング>
集磁リング1は、磁性材料製、例えばパーマロイ(商品名、ニッケル-鉄合金)製であり、その製造にあたり、先ず、
図3の正面図の帯板Bを素材板から打ち抜く。
帯板Bの中央部Cには、帯板Bの長手方向に直交する方向へ突出する分岐片5,5を設けるとともに、帯板Bの端部D,Dには、分岐片5,5と同じ方向に突出する凸部4,4を設ける。
【0025】
次に、
図3の帯板Bを、リング形に成形するとともに、分岐片5,5を径方向外方へ折り曲げ成形し、
図4Aの斜視図、及び
図4Bの正面図に示す集磁リング1を得る。
このように成形した集磁リング1は、円環部2と、円環部2の軸方向端面2A,2Bの一方2Aから突出する集磁部3,3と、軸方向端面2Aの、集磁部3,3が突出する位置から周方向へ離間した円環部2の端部に位置する凸部4,4とを有し、凸部4,4が形成された円環部2の端部間には間隙Gがある。
そして、
図4Bの正面図に示す、凸部4の軸方向端面2Aからの軸方向突出長さLを、集磁部3の軸方向端面2Aからの軸方向突出長さL0に対する比で0.9から1.1に設定している。すなわち、L/L0=0.9~1.1である。
【0026】
<集磁リングの積み重ね>
上記のとおり、
図4Bの正面図に示す集磁リング1において、L≒L0であるので、
図5の縦断面正面図、並びに
図6A及び
図6Bの横断面斜視図に示すように、円筒状の治具Jに遊嵌するように集磁リング1,1,…を積み重ねた際に、集磁リング1,1,…は、それらの円環部2,2,…が略水平を保った状態で静止する。
その上、
図4Aの斜視図に示すように、集磁リング1の円環部2の端部には間隙Gがあることから、当該端部は、軸方向、径方向及び周方向へ変形しやすいものであるが、
図6Bの斜視図に示すように、間隙Gの周方向両側の凸部4,4が上下に積み重なった状態になるので、円環部2の間隙Gまわりの端部の変形を抑制できる。
【0027】
<作用効果>
このように、集磁リング1,1,…は、略水平の姿勢で安定した状態で変形せずに静止しているので、集磁リング1を治具Jから取り出す際に引っ掛かりにくく、自動供給器や産業用ロボットであっても集磁リング1の取出しを容易に行うことができる。
したがって、治具Jから集磁リング1を取り出し、インサートワークである集磁リング1を射出成形機の金型へセットする一連の作業を、自動供給器や産業用ロボットにより安定かつ確実に行うことができる。
よって、本発明の集磁リング1,1を備えたトルク検出装置Aを製造する工程の自動化率を高めることができるので、トルク検出装置Aの製造コストを低減できる。
【0028】
<変形例>
集磁リング1の凸部4の形状は、
図4Aの斜視図のような矩形状に限定されるものではなく、
図7の斜視図のような円弧状等の曲線状であってもよい。
【0029】
集磁リング1の凸部4を設ける箇所は、
図4A及び
図7の斜視図のような2箇所に限定されるものではなく、
図8の斜視図のように1箇所であってもよく、3箇所以上であってもよい。
【0030】
ただし、
図4A及び
図7の斜視図のように、間隙Gの周方向両側の2箇所に凸部4,4を設けることにより、
図6Bの斜視図に示すように集磁リング1,1,…を積み重ねた際における、間隙Gまわりの円環部2の変形しやすい箇所の変形を抑制する効果が大きくなる。
【0031】
集磁リング1に設ける凸部4を、
図4A、
図7及び
図8の斜視図のように集磁部3が突出する円環部2の軸方向端面2Aから突出させるのではなく、
図9の斜視図に示すように、集磁部3が突出する円環部2の軸方向端面2Aと反対側の軸方向端面2Bから突出させてもよい。その場合は、
図3に示す帯板Bにおいて、凸部4,4は、分岐片5,5と反対方向に突出させる。
図9の変形例においても、凸部4の軸方向端面2Bからの軸方向突出長さ(L)は、集磁部3の軸方向端面2Aからの軸方向突出長さ(L0)に対する比で0.9から1.1に設定する。すなわち、L/L0=0.9~1.1とする。
【0032】
図9の形状の集磁リング1,1,…を、
図10A及び
図10Bの横断面斜視図に示すように、円筒状の治具Jに遊嵌するように積み重ねた場合、L≒L0であるので、
図6A及び
図6Bの横断面斜視図における集磁リング1,1,…と同様に、集磁リング1,1,…は、それらの円環部2,2,…が略水平を保った状態で静止する。
【0033】
集磁リング1の集磁部3の個数は、
図4A、
図7、
図8及び
図9の斜視図に示すような2つに限定されるものではなく、
図11の斜視図に示すように1つであってもよい。
【0034】
以上の説明においては、集磁リング1の凸部4を、円環部2の端部(間隙Gの隣)に設けた例を示したが、凸部4を設ける位置は、円環部2の端部に限定されるものではなく、円環部2の端部と集磁部3との中間の位置であってもよい。すなわち、凸部4は、集磁部3が突出する位置から周方向へ離間した位置に設ければよい。
以上の説明においては、集磁リング1が円環部2の端部に間隙Gを有する例を示したが、本発明は、円環部2の端部同士を当接又は連結させた間隙Gが無い集磁リング1に対しても適用できる。
【0035】
以上の実施の形態の記載はすべて例示であり、これに制限されるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく種々の改良及び変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0036】
1 集磁リング
2 円環部
2A,2B 軸方向端面
3 集磁部
4 凸部
5 分岐片
A トルク検出装置
B 帯板
C 中央部
D 端部
E 凸部間の距離
F 集磁部の軸方向距離
G 間隙
J 治具
L 凸部の軸方向突出長さ
L0 集磁部の軸方向突出長さ
S 磁気センサ