(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】大気圧プラズマ生成装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/24 20060101AFI20220922BHJP
【FI】
H05H1/24
(21)【出願番号】P 2018148177
(22)【出願日】2018-08-07
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2017177654
(32)【優先日】2017-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124257
【氏名又は名称】生井 和平
(72)【発明者】
【氏名】浅井 朋彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 郁行
(72)【発明者】
【氏名】小林 大地
(72)【発明者】
【氏名】小口 治久
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-126898(JP,A)
【文献】特開2002-008894(JP,A)
【文献】特開2017-103393(JP,A)
【文献】特開平11-260597(JP,A)
【文献】特開2002-313599(JP,A)
【文献】特開2003-303814(JP,A)
【文献】国際公開第02/103770(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧下でプラズマを生成させる大気圧プラズマ生成装置であって、該大気圧プラズマ生成装置は、
動作ガスを予備電離する予備電離部であって、予備電離部は、
動作ガスが供給される入力細管と、
前記入力細管に接続され、
入力細管の径と同一の高さ又は入力細管の径よりも高さが小さい扁平形状の空間を構成するような平行な対向平面を少なくとも有する電離室と、
前記電離室の対向平面を挟むように対向平面に平行に配置され、予備放電用電源から電圧が印加される平行平板からなり、
扁平形状の空間に広がる動作ガスを電離又は励起するための予備放電用電極と、
前記電離室に接続され
、扁平形状の空間と同一の高さ又は扁平形状の空間よりも高さが小さい径を有する出力細管と、
を有する予備電離部と、
前記予備電離部により電離又は励起される気体を種としてプラズマを生成させるプラズマ生成部であって、プラズマ生成部は、
前記予備電離部の出力細管に接続される円筒管と、
前記円筒管に対して交流高電圧を印加するためにプラズマ生成用電源から電圧が印加されるプラズマ生成用電極と、
を有するプラズマ生成部と、
を具備することを特徴とする大気圧プラズマ生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の大気圧プラズマ生成装置において、前記予備電離部の電離室は、対向平面が入力細管の径よりも大きい幅であることを特徴とする大気圧プラズマ生成装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の大気圧プラズマ生成装置において、前記予備電離部の出力細管は、電離室の対向平面の幅よりも小さい径であることを特徴とする大気圧プラズマ生成装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の大気圧プラズマ生成装置において、前記プラズマ生成部のプラズマ生成用電極に印加されるプラズマ生成用電源からの電圧は、低周波高電圧であることを特徴とする大気圧プラズマ生成装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の大気圧プラズマ生成装置において、前記予備電離部の電離室は、入力細管側から裾広がり形状を有することを特徴とする大気圧プラズマ生成装置。
【請求項6】
請求項5に記載の大気圧プラズマ生成装置において、前記予備電離部の電離室は、裾広がり形状の側面に、空気吸入孔を有することを特徴とする大気圧プラズマ生成装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の大気圧プラズマ生成装置において、前記予備電離部の予備放電用電極は、誘電体バリア放電電極であることを特徴とする大気圧プラズマ生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大気圧プラズマ生成装置に関し、特に、大気圧低周波プラズマジェットを生成可能な大気圧プラズマ生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気圧低周波プラズマジェットは、大気圧下で非熱平衡プラズマ(低温プラズマ)を比較的容易に生成できることから、医療分野や材料分野等に置いて利用されている。例えば特許文献1には、ヘリウム(He)等の希ガスを用いずに大気圧下において容易にプラズマを生成可能とするために、予備放電と主放電を行うプラズマ生成装置が開示されている。具体的には、ガス流路が形成してあるセルの一端に予備放電用ガスを供給する第1ガス供給ヘッドが設けてあり、予備放電用ガスを低周波電極により電離又は活性化させ、第2ガス供給ヘッドから供給された主放電用ガスと共にプラズマ生成領域に供給され、高周波電極によりグロー放電を発生させプラズマを生成するものである。
【0003】
また、特許文献2には、プラズマの点火が確実に行えて始動が良好となるように、予備放電と主放電を行うプラズマ生成装置が開示されている。具体的には、筒状の反応容器の上流側に予備放電部を備え、下流側にプラズマを点火するための点火手段を備えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-16696号公報
【文献】特開2002-8894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の一般的な大気圧プラズマ生成装置では、プラズマ生成に使用できるガス種が制限される問題があった。例えばアルゴン(Ar)やアルゴン(Ar)+酸素(O2)ガスをプラズマ生成に用いた場合、放電電極への入力電力が低いと、プラズマが生成されない場合があった。そして、入力電力を高くすると、グロー放電せずにアーク放電に遷移してしまい、プラズマを生成することが出来ない場合もあった。特許文献1や特許文献2等に開示の従来のプラズマ生成装置では、予備放電によりある程度ガス種の制限は緩和されてはいるが、これらはすべて予備放電から主放電までのガス流路が一定の幅で変化のないものであり、予備放電における不均一な放電状態が生ずる場合があった。したがって、安定的なプラズマ放電を得ることは未だ難しかった。
【0006】
本発明は、斯かる実情に鑑み、ガス種に依存せず確実に且つ安定的にプラズマを生成可能な大気圧プラズマ生成装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による大気圧プラズマ生成装置は、予備電離部と、プラズマ生成部とからなる。動作ガスを予備電離する予備電離部は、動作ガスが供給される入力細管と、入力細管に接続され、平行な対向平面を少なくとも有する電離室と、電離室の対向平面を挟むように対向平面に平行に配置され、予備放電用電源から電圧が印加される平行平板からなり、動作ガスを電離又は励起するための予備放電用電極と、電離室に接続される出力細管と、を有するものであれば良い。予備電離部により電離又は励起される気体を種としてプラズマを生成させるプラズマ生成部は、予備電離部の出力細管に接続される円筒管と、円筒管に対して交流高電圧を印加するためにプラズマ生成用電源から電圧が印加されるプラズマ生成用電極と、を有するものであれば良い。
【0008】
ここで、予備電離部の電離室は、対向平面が入力細管の径よりも大きい幅であるものであっても良い。
【0009】
また、予備電離部の出力細管は、電離室の対向平面の幅よりも小さい径であるものであっても良い。
【0010】
また、プラズマ生成部のプラズマ生成用電極に印加されるプラズマ生成用電源からの電圧は、低周波高電圧であれば良い。
【0011】
また、予備電離部の電離室は、入力細管側から裾広がり形状を有するものであれば良い。
【0012】
ここで、予備電離部の電離室は、裾広がり形状の側面に、空気吸入孔を有するものであっても良い。
【0013】
また、予備電離部の予備放電用電極は、誘電体バリア放電電極であれば良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明の大気圧プラズマ生成装置には、ガス種に依存せず確実に且つ安定的にプラズマを生成可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の大気圧プラズマ生成装置を説明するための概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の大気圧プラズマ生成装置の予備電離部に空気吸入孔を設けた例を説明するための概略拡大断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の大気圧プラズマ生成装置における予備放電の有無による放電開始時間の変化を説明するためのグラフである。
【
図4】
図4は、本発明の大気圧プラズマ生成装置により生成されるプラズマジェットの酸素系ラジカルの生成量を説明するためのグラフである。
【
図5】
図5は、本発明の大気圧プラズマ生成装置により生成されるプラズマジェットの分光分析結果である。
【
図6】
図6は、本発明の大気圧プラズマ生成装置において動作ガスのガス種にAr+O
2を用いて生成されるプラズマジェットの分光分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。本発明の大気圧プラズマ生成装置は、大気圧下でプラズマを生成させるものである。プラズマは、例えば大気圧低周波プラズマジェット(LFプラズマジェット)である。
図1は、本発明の大気圧プラズマ生成装置を説明するための概略断面図であり、
図1(a)はその正面図であり、
図1(b)はその側面図である。図示の通り、本発明の大気圧プラズマ生成装置は、予備電離部10と、プラズマ生成部20とから主に構成されている。予備電離部10は、動作ガスを予備電離するものである。予備電離部10により、所謂予備放電を行う。また、プラズマ生成部20は、予備電離部10により電離又は励起される気体を種としてプラズマを生成させるものである。プラズマ生成部20により、所謂主放電を行う。
【0017】
予備電離部10は、入力細管11と、電離室12と、予備放電用電極13と、出力細管15とから主に構成されている。また、予備放電用電極13には、予備放電用電源14が接続されている。
【0018】
入力細管11には、動作ガスが供給される。入力細管11は、例えば誘電体の円筒状の細い管であれば良い。具体的には、例えば石英ガラス等のガラス管であれば良い。ここで、動作ガスとしては、ヘリウム(He)に限らず、アルゴン(Ar)やアルゴン(Ar)+酸素(O2)ガスであれば良い。
【0019】
電離室12は、入力細管11に接続されるものである。電離室12は、平行な対向平面を少なくとも有するものである。例えば、誘電体からなる概ね直方体形状であれば良い。図示例では、電離室12の対向平面が入力細管11の径よりも大きい幅のものを示した。しかしながら、本発明はこれに限定されず、電離室12は、入力細管11と同一の径を有するものであっても良く、平行な対向平面を有する形状であれば良い。また、電離室12は、入力細管11側から裾広がり形状を有するものであっても良い。そして、出力細管15に向けてテーパ形状を有するものであれば良い。電離室12は、
図1(a)に示されるように、正面から見て入力細管11よりも幅が大きく、
図1(b)に示されるように、側面から見て入力細管11と同一の高さであれば良い。また、図示例では側面から見て入力細管11と電離室12は同一の高さとなるように構成されているが、本発明はこれに限定されず、入力細管11よりも電離室12の高さが小さくなるように構成しても良い。
【0020】
予備放電用電極13は、動作ガスを電離又は励起するためのものであり、電離室12の対向平面を挟むように対向平面に平行に配置される。予備放電用電極13は、電離室12の対向平面に合わせて、平行平板からなっている、予備放電用電極13の平行平板は、電離室12を上下から平行に挟むように構成されている。この平行平板は、一方を接地電極とし、他方を印加電極として対向電極となるように、予備放電用電源14から電圧が印加されるように構成されている。予備放電用電源14は、例えば高周波高電圧電源であれば良い。具体的には、3kVから12kV程度の高周波高電圧を印加可能なものであれば良い。予備放電用電極13は、具体的には誘電体バリア放電を行える電極であれば良い。
【0021】
出力細管15は、電離室12に接続されるものである。具体的には、電離室12の入力細管11が接続される位置の反対側に、出力細管15が接続されれば良い。例えば、誘電体の円筒状の細い管であれば良い。出力細管15は、図示例のように、電離室12の対向平面の幅よりも小さい径を有するものである。なお、本発明はこれに限定されず、出力細管15は、電離室12の対向平面の幅と同一の径を有するものであっても良い。出力細管15は、
図1(a)に示されるように、正面から見て電離室12の幅よりも径が小さく、
図1(b)に示されるように、側面から見て電離室12の幅(高さ)と同一の径であれば良い。また、図示例では側面から見て出力細管15と電離室12は同一の高さとなるように構成されているが、本発明はこれに限定されず、電離室12の高さよりも出力細管15の径をさらに小さくなるように構成しても良い。
【0022】
なお、予備電離部10は、図示例のように一体的に構成されても良いし、別体で構成したものを接続具等で接続することで構成されても良い。
【0023】
予備電離部10をこのように構成することで、入力細管11から供給された動作ガスは、電離室12内の空間に広がる。この空間に、予備放電用電極13を用いて高周波高電圧電源から所定の電圧を印加すると、予備放電用電極13の平行平板で挟まれた電離室12の空間内で、動作ガスが電離又は励起される。この電離又は励起された気体が、出力細管15側に流れていく。この際、対向平面を有する電離室12に対して面積の広い予備放電用電極13を用いて電圧を印加可能なため、安定的に電離又は励起可能となる。また、径の小さい出力細管15を通ることで流速が上がると共に、電離室12で不均一に電離していたとしても、密度が上がり均一性が高まることにもなる。
【0024】
本発明の大気圧プラズマ生成装置では、このように上流側に予備電離部10を設け、動作ガスをプラズマ生成部20に到達する以前に電離又は励起させる。そして、電離又は励起された気体を種として、プラズマ生成部20に供給している。
【0025】
具体的には、予備電離部10には、プラズマ生成部20が接続されている。プラズマ生成部20は、予備電離部10により電離又は励起される気体を種としてプラズマを生成させるものである。プラズマ生成部20は、円筒管21と、プラズマ生成用電極22とから主に構成されている。また、プラズマ生成用電極22には、プラズマ生成用電源23が接続されている。
【0026】
円筒管21は、予備電離部10の出力細管15に接続されるものである。円筒管21は、誘電体、具体的には石英ガラス等のガラス管からなるものであれば良い。なお、図示例では円筒管21の径は入力細管11と同一の径としたが、本発明はこれに限定されず、異なる径であっても良い。
【0027】
プラズマ生成用電極22は、円筒管21に対して交流高電圧を印加するために用いられるものである。プラズマ生成用電極22には、プラズマ生成用電源23が接続されており、プラズマ生成用電源23から電圧が印加される。プラズマ生成用電源23は、低周波数、例えば数kHz程度の高電圧、例えば9kVから12kV程度の交流高電圧をプラズマ生成用電極22に印加可能なものである。プラズマ生成用電源23は、例えば矩形波等のパルス出力であっても良い。プラズマ生成用電極22は、一対の印加電極と接地電極からなるものであり、円筒管21の外周を囲むようにそれぞれ配置されている導体である。プラズマ生成用電極22の印加電極と接地電極は、所定の間隔を開けて配置されており、円筒管21が両電極の短絡を防ぐ誘電体バリアとして作用する。プラズマ生成用電極22は、プラズマが放出される側に接地電極が、予備電離部10側に印加電極が配置されている。
【0028】
なお、本発明の大気圧プラズマ生成装置のプラズマ生成用電極22は、図示例には限定されない。例えば、印加電極を円筒管21内に設け、接地電極を円筒管21の外周を囲むように配置しても良い。さらに、印加電極のみを円筒管21の外周を囲むように配置しても良い。
【0029】
予備電離部10により電離又は励起された気体は、出力細管15側に流れてプラズマ生成部20の円筒管21に流れ込む。そして、プラズマ生成用電極22から電圧を印加することで、グロー放電を発生させ、大気圧低周波プラズマジェットが生成される。本発明の大気圧プラズマ生成装置では、予備放電を行った上で主放電を行うため、アーク放電に遷移せず、確実にグロー放電となる。また、点火(放電開始)遅延時間の揺らぎが抑制される。
【0030】
本発明の大気圧プラズマ生成装置は、予備放電用電源14とプラズマ生成用電源23を異なるものとしているため、例えば予備放電用電源14を高周波高電圧にしつつ、プラズマ生成用電源23を低周波高電圧とすることが可能となる。また、出力細管15及び/又は円筒管21の長さを長くすることで、予備電離部10とプラズマ生成部20とを離すことが可能となる。このため、大気圧プラズマ照射対象に対して、高周波高電圧が印加される予備電離部10の影響を最小限とすることも可能となる。
【0031】
次に、本発明の大気圧プラズマ生成装置の予備電離部の電離室に空気吸入孔を設けた例を説明する。
図2は、本発明の大気圧プラズマ生成装置の予備電離部に空気吸入孔を設けた例を説明するための概略拡大断面図である。図中、
図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。上述の通り、予備電離部10の電離室12は、入力細管11側から裾広がり形状を有するものである。そして、
図2に示される通り、この裾広がり形状の側面16に、空気吸入孔17を設けている。これにより、大気中の空気を積極的に取り込み、酸素ラジカルの量を増やすことで、例えばより酸化反応を促進させることも可能である。また、大気中の空気以外に、他の反応ガスを空気吸入孔17から加えても良い。
【0032】
以下、本発明の大気圧プラズマ生成装置における予備電離部10の有無によるプラズマ生成可否の違いについて、具体例を挙げて説明する。まず、予備電離部10として誘電体バリア放電を用いた。予備電離部10の予備放電用電源14の電極印加電圧を11kVとし、プラズマ生成部20のプラズマ生成用電源22の電極印加電圧を11kVとする。また、予備電離部10の入力細管11に供給される動作ガスのガス流量を3.0L/minとする。この条件で、動作ガスのガス種として、He,Ar,Ar+O
2(1%)の3種類を用いてそれぞれ大気圧低周波プラズマジェットが生成されるか、実験を行った。その結果を以下に示す。
【表1】
表1から分かる通り、ArやAr+O
2(1%)では、予備電離部無しでは大気圧低周波プラズマジェットの生成が困難なことが分かる。そして、予備電離部を用いて予備電離を行うことで、容易に大気圧低周波プラズマジェットが生成可能となることが分かる。大気圧低周波プラズマジェットを生成可能なプラズマ生成部と比べて、予備電離部の誘電体バリア放電は、ガス種に依存せずに放電が持続できるという特徴があり、予備電離部による予備電離が有用であることが分かる。本発明の大気圧プラズマ生成装置は、Heのような高価な動作ガスだけでなく、ArやAr+O
2(1%)のような安価な動作ガスでも、確実に且つ安定的にプラズマを生成可能である。
【0033】
次に、予備電離部による予備放電の効果を検証するために、プラズマ生成用電極の電極印加電圧を変化させて大気圧低周波プラズマジェットの放電開始電圧を測定した結果を説明する。
図3は、本発明の大気圧プラズマ生成装置における予備放電の有無による放電開始電圧の変化を説明するためのグラフである。図中、横軸はガス流量であり、縦軸は主放電の放電開始電圧である。測定条件としては、予備電離部10の予備放電用電源14の電極印加電圧を11kVとし、プラズマ生成部20のプラズマ生成用電極22の電極印加電圧を電源の下限の3.8kVから11kVまで変化させた。また、予備電離部10の入力細管11に供給される動作ガスのガス種はHeとし、ガス流量をそれぞれ0.5L/min、1.0L/min、2.0L/min、3.0L/minとしたときの放電開始電圧を測定した。
図3は、これらの測定を5回繰り返した結果である。図示の通り、予備放電がある本発明の大気圧プラズマ生成装置の場合には、放電開始電圧がガス流量に依存せず3.8kV程度で安定しており、ばらつきもない。そして、極端にガス流量が少ない場合についても安定的にグロー放電を生成・維持できることが分かる。一方、予備放電の無い比較例では、放電開始電圧がガス流量によって6kV前後で安定せず、また、同じガス流量であっても放電開始電圧にばらつきが多いことが分かる。このように、本発明の大気圧プラズマ生成装置では、予備電離部により予備放電を行うことで、安定的に主放電の生成可能な条件領域を拡大できることが分かる。
【0034】
次に、本発明の大気圧プラズマ生成装置により生成される大気圧低周波プラズマジェットの照射効果について説明する。
図4は、本発明の大気圧プラズマ生成装置により生成されるプラズマジェットの酸素系ラジカルの生成量を説明するためのグラフである。図中、横軸は時間であり、縦軸はオゾン量である。大気圧低周波プラズマジェットの応用において、その照射効果は生成される酸素系ラジカルに起因すると考えられている。そこで、本発明の大気圧プラズマ生成装置により生成されるプラズマジェットの酸素系ラジカルの生成量の評価を行った。酸素系ラジカルの生成量の評価として、検出が容易なオゾンの生成量の評価を行った。具体的には、20リットル程度の大気圧で空気が封入された真空槽内にプラズマ生成部20を配置し、その空間内のオゾン量の時間変化をオゾンモニタ(APPLICS CO.,LTD., OZG-EM-010K)を用いて計測した。測定条件としては、予備電離部10の予備放電用電源14の電極印加電圧を11kVとし、プラズマ生成部20のプラズマ生成用電極22の電極印加電圧を11kVとした。また、動作ガスのガス種はHeとArをそれぞれ用いて測定した。そのときのガス流量は、3.0L/minとした。これらの測定を、1.予備放電無し、2.計測中常に予備放電あり、3.主放電開始時までの間のみ予備放電あり、の3パターンでそれぞれ行った。その結果を
図4に示す。なお、計測開始は、動作ガスが流れ始める時間を基準としており、また、主放電は15秒で開始した。図示の通り、予備放電を行った2と3のパターン共に、予備放電無しの場合と比べてオゾンの生成量が単位時間あたりで増加していることが分かる。具体的には、動作ガスのガス種がHeの場合、1のパターンでオゾンの増加量が0.010ppm/sであったのに対して、2のパターンでは0.019ppm/s、3のパターンでは0.012ppm/sであった。また、動作ガスのガス種がArの場合、1のパターンでオゾンの増加量が0.028ppm/sであったのに対して、2のパターンでは0.034ppm/s、3のパターンでは0.030ppm/sであった。この結果から、予備放電によりオゾンだけでなくその他のラジカルの生成量も増加していることが予想され、大気圧低周波プラズマジェットの応用においてその照射効果の向上が期待できる。
【0035】
さらに、本発明の大気圧プラズマ生成装置により生成されるプラズマジェットを分光分析することで、酸素系ラジカルの生成量の評価も行った。
図5は、本発明の大気圧プラズマ生成装置により生成されるプラズマジェットの分光分析結果である。測定条件としては、
図4の場合と同様であり、動作ガスのガス種は、Heを用いて測定した。そして、
図5(a)、
図5(b)がプラズマ生成用電極22の間の領域、
図5(c)、
図5(d)が円筒管21終端部からプラズマが伸長している領域を、CCD分光器を用いてそれぞれ計測した結果である。また、
図5(a)、
図5(c)が予備放電無し、
図5(b)、
図5(d)が予備放電ありの結果である。図示の通り、予備放電ありの場合、OHの発光強度が低下し、OIやHIの発光強度が増加していることが分かる。これは、予備放電により主放電の放電ガスや雰囲気ガスの解離や電離状態が進行したことを示していると考えられる。
【0036】
また、
図6は、本発明の大気圧プラズマ生成装置において動作ガスのガス種にAr+O
2を用いて生成されるプラズマジェットの分光分析結果である。
図6(a)が比較例としてガス種にArを用いた場合、
図6(b)がガス種にAr+O
2を用いた場合である。なお、
図6(c)、
図6(d)はそれぞれ
図6(a)、
図6(b)の拡大図である。図示の通り、予備放電により安定的な放電が可能となったAr+O
2をガス種として用いた場合、通常のArをガス種に用いた場合に比べて、OIの発光強度が増加していることが分かる。これは、予備放電によりラジカルの生成量が増加したこと、また、放電ガスに酸素を混ぜさらに酸素系ラジカルの生成量を増加させることが可能となることを示していると考えられる。
【0037】
なお、本発明の大気圧プラズマ生成装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0038】
10 予備電離部
11 入力細管
12 電離室
13 予備放電用電極
14 予備放電用電源
15 出力細管
16 裾広がり形状の側面
17 空気吸入孔
20 プラズマ生成部
21 円筒管
22 プラズマ生成用電極
23 プラズマ生成用電源