(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池製造用バインダー及びこれを用いたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20220922BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20220922BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20220922BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20220922BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220922BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220922BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20220922BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20220922BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20220922BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20220922BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08G73/10
H01M4/131
H01M4/134
H01M4/139
H01M10/052
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M50/414
H01M50/446
(21)【出願番号】P 2017222432
(22)【出願日】2017-11-20
【審査請求日】2020-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】397025417
【氏名又は名称】株式会社ピーアイ技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】517030859
【氏名又は名称】ウィンゴーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 英和
(72)【発明者】
【氏名】脇 周三
(72)【発明者】
【氏名】寺岬 仁志
(72)【発明者】
【氏名】許 英花
(72)【発明者】
【氏名】菊地 靖雄
(72)【発明者】
【氏名】ウィン モーソー
(72)【発明者】
【氏名】五島 敏之
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-067593(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022734(WO,A1)
【文献】特開2010-146839(JP,A)
【文献】国際公開第2016/125718(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-62
H01M 10/052-0587
C08G 73/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒可溶性ポリイミドを含むリチウムイオン二次電池製造用バインダーであって、
前記溶媒可溶性ポリイミドは、イミド基濃度が20~32%
のブロック共重合体であり、且つ、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒に可溶であり、
前記ポリイミドを構成する全てのテトラカルボン酸二無水物成分の分子量が360以下であり、且つ、前記ポリイミドを構成する全てのジアミン成分のうち、分子量220以下のジアミン成分の割合が少なくとも30モル%であり、
前記ポリイミドから作製したフィルムをリチウムイオン二次電池用電解液に浸漬し、80℃で72時間処理した場合の膨潤度が50重量%以下であり、
前記リチウムイオン二次電池用電解液は、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート(体積比3:3:4)からなる混合溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)を1モル/L溶解してなる電解液である、リチウムイオン二次電池製造用バインダー。
【請求項2】
前記ポリイミドの重量平均分子量が10万以上である、請求項
1記載のリチウムイオン二次電池製造用バインダー。
【請求項3】
前記ポリイミドの8%NMP溶液のB型粘度が2000cps以上である、請求項1
又は2記載のリチウムイオン二次電池製造用バインダー。
【請求項4】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンから合成された溶媒可溶性ポリイミドを含むリチウムイオン二次電池製造用バインダーであって、前記ポリイミドがブロック共重合体であり、前記ポリイミドのイミド基濃度が20~32%であり、前記ポリイミドを構成する全てのテトラカルボン酸二無水物成分の分子量が360以下であり、且つ、前記ポリイミドを構成する全てのジアミン成分のうち、分子量220以下のジアミン成分の割合が少なくとも30モル%である、リチウムイオン二次電池製造用バインダー。
【請求項5】
活物質と請求項1~
4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池製造用バインダーとを含むリチウムイオン二次電池用樹脂組成物。
【請求項6】
活物質と請求項1~
4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池製造用バインダーとを含む樹脂組成物が集電体上に被着されて成るリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項7】
前記活物質がニッケル、コバルト、マンガン三元系の正極用活物質であり、前記電極が正極である請求項
6記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項8】
前記活物質がSi材料を含有する負極活物質であり、前記電極が負極である請求項
6記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項9】
請求項
6~8のいずれか1項に記載の電極を備えたリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池製造用バインダーをセラミックコーティング用バインダーとして用いたリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項11】
請求項
10記載のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて、リチウムイオン二次電池製造用バインダーに使用するための溶媒可溶性ポリイミドを製造する方法であって、反応に使用する全てのテトラカルボン酸二無水物の分子量が360以下であり、且つ、反応に使用する全てのジアミンのうち、分子量220以下のジアミンの割合が少なくとも30モル%であり、前記ポリイミドのイミド基濃度が20~32%である、リチウムイオン二次電池製造用バインダーの製造方法。
【請求項13】
活物質と請求項
12に記載の方法により製造したリチウムイオン二次電池製造用バインダーとを含む樹脂組成物を、集電体上に塗布し乾燥させることを含むリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項14】
請求項
13に記載の方法により製造した電極を用いてリチウムイオン二次電池を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の製造に用いるバインダー、これを用いた電極、セパレータ、及びこれを用いたリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は二次電池の中でも、ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池に比べて軽量で高容量であるため、スマートホンなどの移動用電子機器の電源として広く使用されている。また、近年ハイブリッド自動車や電気自動車用の電源としても普及しつつある。これらの電源として、リチウムイオン二次電池は更なる高容量化、高寿命化が期待されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の負極に関しては、高容量化可能な負極活物質として、放電容量の大きいシリコンや酸化シリコン等の合金系の負極活物質が数多く検討されている。しかし、シリコン系の負極活物質は充放電時の膨張収縮が大きいため、充放電の繰り返しにより負極合材層内において負極活物質粒子間の導電パスの切断や、負極合材層と集電体間の剥離等が発生し、寿命特性が悪化することが懸念されている。これに対し、高弾性で接着力の強いポリイミドを負極用のバインダーとして用いる電極が報告されている(特許文献1)。
【0004】
また、正極に関しては、容量発現量に優れるニッケル量の多いニッケル・コバルト・マンガンからなる三元系複合酸化物(以下、「NCM正極材料」とも称する)を正極活物質として用いる例が増えている。しかし、NCM正極活物質は、高容量化のためニッケル含有量を多くすると、PVDFをバインダーに用いた場合に脱フッ酸反応が進行し、安定な正極電極用のスラリーを作製できないという問題があった。また、PVDFは、電池が高温になった場合に電解液によって膨潤し、正極活物質間の導電パスの切断や、正極合材層と集電体の剥離等が生じ、寿命特性が悪化するという問題がある。このようなPVDFの問題点を解決するためポリイミドを正極用のバインダーとして用いる電極が報告されている(特許文献2)。
【0005】
また、ポリアミド酸を含むリチウムイオン二次電池用バインダーも報告されている(特許文献1,3)。しかし、ポリアミド酸は水による加水分解を起こし易く、室温で変化し易いため、特性のばらつきを生じ易いという問題点があった。更に、ポリアミド酸を含むバインダーを用いる場合には、イミド化を完全に進行させるため350℃のような高温処理を必要とする。そのため、電極を製造する際に銅箔の酸化が起こり、抵抗が大きくなるため、不活性ガス雰囲気のような特殊な雰囲気でなければ実用化が難しいという問題があった。
【0006】
さらに、電極用バインダーとして、イミド化を完結させた溶媒可溶性のブロック共重合ポリイミドを用いたリチウムイオン二次電池も報告されており(特許文献4,5,6)、電極用バインダーとして、ポリイミド水分散体を用いたリチウムイオン二次電池も報告されている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-067592
【文献】特開2002-124264
【文献】特開2012-209219
【文献】特開平11-097028
【文献】特開2009-283284
【文献】国際公開第2013/115219
【文献】特開2017-190409
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本来、ポリイミドは耐溶剤性に優れるが、ポリイミド中のイミド基濃度や、屈折、屈曲結合を制御することにより、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の溶剤に可溶なポリイミドを合成することができる。
【0009】
このような溶媒可溶性ポリイミドをリチウムイオン電池の電極製造用バインダーとして用いるためには、上記溶剤に対するポリイミドの溶解性を維持するとともに、ポリイミドがリチウムイオン二次電池の電解液に対して溶解しないだけではなく、電解液に対するポリイミドの膨潤度が小さいことが必要である。
【0010】
しかしながら、本発明者らは、上記溶剤に対するポリイミドの溶解性を上げようとすると、リチウムイオン二次電池に用いられる電解液に対するポリイミドの耐溶剤性が不十分となり、電解液に対する膨潤度が大きくなることを見出した。また、電解液に対するポリイミドの膨潤度を小さくしようとすると、ポリイミドの溶剤に対する溶解性が低下することを見出した。すなわち、従来のテトラカルボン酸二無水物とジアミンの組み合わせから合成された溶剤可溶性ポリイミドでは、溶剤に対する高い溶媒可溶性と電解液に対する低い膨潤度を両立させることは困難であった。
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ポリイミドの合成に使用するテトラカルボン酸二無水物とジアミンの分子量を制御することにより、溶剤に対する高い溶媒可溶性と電解液に対する低い膨潤度を両立させることができ、リチウムイオン二次電池用バインダーとして好適な溶媒可溶性ポリイミドを初めて合成可能となることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、溶媒可溶性ポリイミドを含むリチウムイオン二次電池製造用バインダーであって、前記溶媒可溶性ポリイミドは、イミド基濃度が20~32%のブロック共重合体であり、且つ、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒に可溶であり、前記ポリイミドを構成する全てのテトラカルボン酸二無水物成分の分子量が360以下であり、且つ、前記ポリイミドを構成する全てのジアミン成分のうち、分子量220以下のジアミン成分の割合が少なくとも30モル%であり、前記ポリイミドから作製したフィルムをリチウムイオン二次電池用電解液に浸漬し、80℃で72時間処理した場合の膨潤度が50重量%以下であり、前記リチウムイオン二次電池用電解液は、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート(体積比3:3:4)からなる混合溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1モル/L溶解してなる電解液である、リチウムイオン二次電池製造用バインダー、を提供する。
【0013】
また、本発明は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンから合成された溶媒可溶性ポリイミドを含むリチウムイオン二次電池製造用バインダーであって、前記ポリイミドがブロック共重合体であり、前記ポリイミドのイミド基濃度が20~32%であり、前記ポリイミドを構成する全てのテトラカルボン酸二無水物成分の分子量が360以下であり、且つ、前記ポリイミドを構成する全てのジアミン成分のうち、分子量220以下のジアミン成分の割合が少なくとも30モル%である、リチウムイオン二次電池製造用バインダー、を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて、リチウムイオン二次電池製造用バインダーに使用するための溶媒可溶性ポリイミドを製造する方法であって、反応に使用する全てのテトラカルボン酸二無水物の分子量が360以下であり、且つ、反応に使用する全てのジアミンのうち、分子量220以下のジアミンの割合が少なくとも30モル%であり、前記ポリイミドのイミド基濃度が20~32%である、リチウムイオン二次電池製造用バインダーの製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0015】
ポリイミドを構成するテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分の分子量を制御した本発明における特定の溶媒可溶性ポリイミドを合成することにより、電解液膨潤度が50重量%以下の溶媒可溶性ポリイミドを初めて合成することが可能となった。また、このような溶剤に対する高い溶媒可溶性と電解液に対する低い膨潤度を両立することが可能なポリイミドを含む本発明のリチウムイオン二次電池製造用のバインダーを用いることにより、電極活物質間の接着性や、電極合材層と集電体間の密着性が良好な電極を作製することが可能となる。また、このような電極を用いることにより、寿命特性(サイクル特性)に優れたリチウムイオン二次電池を作製することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池用バインダーは、溶媒可溶性ポリイミドを含むものである。以下に本発明における溶媒可溶性ポリイミドの特徴とその合成方法を具体的に説明する。
【0017】
<溶媒可溶性ポリイミド>
本発明における溶媒可溶性ポリイミドは、ポリイミドから作製したフィルムをリチウムイオン二次電池用電解液に浸漬し、80℃で72時間処理した場合の膨潤度が50重量%以下となるポリイミドである。
【0018】
本発明における膨潤度の具体的な測定方法は以下の通りである。すなわち、溶媒可溶性ポリイミドを皿状の容器に流し、120℃で15時間乾燥して得た厚み約50μmのフィルムから3cm×3cmの試験片を作製する。ついで、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート=3:3:4からなる電解液溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1モル/L溶解してなる電解液に試験片を浸漬し、電解液を80℃に加熱した後、80℃で72時間試験片を浸漬処理する。電解液中での浸漬処理前後のポリイミドフィルムの重量を測定して求めたフィルムの重量増加率(%)を、本発明における膨潤度(「電解液膨潤度」ともいう)とする。ここで、フィルムの作製方法は電解液膨潤度の数値に影響を与えることはなく、また、浸漬処理後のフィルムの重量は、試験片を電解液から取り出し、乾燥しないように速やかにティッシュで表面に付着している電解液を拭き取った後に測定した。
【0019】
本発明においては、上記の方法で測定したポリイミドフィルムの膨潤度が50重量%以下、更には40重量%以下、特には30重量%以下であるのが好ましい。電解液に対する膨潤度が大きい場合、活物質間の接着が不十分になったり、電極合材層と集電体間の接着が不十分になる傾向があり、電池のバインダーとして用いた場合、電池の寿命特性が悪化する傾向がある。前記ポリイミドフィルムの膨潤度は低いほど好ましいが、膨潤度の下限値は、15重量%以上、更には17重量%以上、特には19重量%以上であっても、十分良好な電池の寿命特性を達成することができる
【0020】
本発明における「溶媒可溶性」なる用語は、ポリイミドの合成において使用する有機極性溶媒と、後述する合材に使用する溶媒に対して使用する用語であり、100gの溶媒中に5g以上溶解するポリイミドであることを意味する。溶媒としては、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒が好ましい。合成されたポリイミドは、上記溶媒に、例えば、固形分が10~30重量%となるよう溶解させた溶液の状態でリチウムイオン二次電池のバインダーとして用いることができる。
【0021】
(溶媒可溶性ポリイミドの合成方法)
本発明における溶媒可溶性ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを溶媒中で触媒による脱水・閉環反応させることにより合成することができる。
触媒としては、硫酸、リン酸、トルエンスルホン酸等の酸触媒が挙げられ、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを160~200℃に加熱し酸触媒を用いてイミド化を促進させることができる。
【0022】
生成したポリイミド溶液に酸触媒が残存すると、ポリマー製品の変色や劣化の要因となるため、生成したポリイミド溶液にメタノールやブタノン等の非溶解性の溶媒を加えてポリイミドを沈殿させ、分離、回收し、再溶解させることにより、ポリイミドと触媒の分離が行なわれる(W.H.Miller,USP4,927,736)。
【0023】
本発明における溶媒可溶性ポリイミドの更に好ましい合成方法としては、ラクトンの平衡反応を利用した二成分系の酸-塩基触媒を用いて、脱水イミド化反応を促進する方法がある(USP5502143)。この方法では、γ-バレロラクトンとピリジン又はN-メチルモルホリンの二成分系触媒を用いる。イミド化が進むにつれて水が生成し、生成した水がラクトンの平衡に関与して酸・塩基触媒となり、触媒作用を示す。
【0024】
イミド化反応によって生成する水は、極性溶媒中に共存するトルエン又はキシレンとの共沸によって系外に除かれる。イミド化反応が完結すると溶液中の水が除去され、酸・塩基触媒はγ-バレロラクトンとピリジン又はN-メチルモルホリンとなり系外に除去される。かくして、高純度のポリイミド溶液を得ることができる。
【0025】
その他の二成分系触媒としては、シュウ酸又はマロン酸とピリジン又はN-メチルモルホリンが用いられる。160~200℃の反応溶液中、シュウ酸塩又はマロン酸塩は酸触媒としてイミド化反応を促進する。生成したポリイミド溶液中には、触媒量のシュウ酸又はマロン酸が残留する。このポリイミド溶液を塗布して200℃以上に加熱し、脱溶媒して製膜する際には、ポリイミド中に残存するシュウ酸又はマロン酸は熱分解し、ガスとして系外に除かれる。かくして、高純度のポリイミド製品を得ることができる。シュウ酸-ピリジン系触媒は、バレロラクトン-ピリジン系触媒に比べて活性が強く、短時間で高分子量のポリイミドを生成することができる。
【0026】
(テトラカルボン酸二無水物)
本発明で用いるテトラカルボン酸二無水物としては、テトラカルボン酸エステル化合物を誘導形成するためのテトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2-ビス[3,4-(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホキシド二無水物、チオジフタル酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、9,9-ビス[4-(3,4’-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,4-ジカルボキシ-1-シクロヘキシルコハク酸二無水物、3,4-ジカルボキシ-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフタレンコハク酸二無水物などを例示できるが、これらに限定されない。これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0027】
本発明において、テトラカルボン酸二無水物としては、分子量が360以下、更には350以下、特には330以下のものを使用するのが好ましい。分子量が360以下のテトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA;分子量218.1)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA;分子量310.2)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA;294.2)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA;分子量322.2)等が挙げられる。
【0028】
テトラカルボン酸二無水物の分子量が360よりも大きくなると、得られるポリイミドのN-メチルピロリドンやジメチルアセトアミドに対する溶解性は向上するが、リチウムイオン二次電池の電解液に対する膨潤度が50%よりも大きくなり、リチウムイオン二次電池の電極用バインダーとして用いた場合、サイクル特性が悪化する傾向がある。
【0029】
本発明においては、このように分子量が360以下のテトラカルボン酸二無水物をジアミンと反応させることにより、ポリイミドを構成する全てのテトラカルボン酸二無水物成分の分子量が360以下となる構造のポリイミドを合成することができ、高い溶媒可溶性と低い電解液膨潤度を両立することが可能なポリイミドを提供することができる。
【0030】
(ジアミン)
本発明で用いるジアミンとしては、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン(MPDA)、2,5-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、4,4‘-ジアミノビフェニル、2,5-ジメチル1,4-フェニレンジアミン(DMPDA)、4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MDA)、2,2-ビス-(4-アミノフェニル)プロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(33DDS)、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4-ジアミノジフェニルエーテル(m-DADE)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(p-DADE)、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPSM)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、3,3-ジアミノ―4,4-ジヒドロキシジフェニルスルホン(ABPS)、ヒドロキシベンジジン(HAB)、2-ビス(3-アミノフェニル)1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンなどが例示できるが、これらに限定されない。これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0031】
本発明において、ジアミンとしては、分子量220以下のジアミン成分の割合が、ポリイミドの合成に使用される全てのジアミン成分の少なくとも30モル%以上、更には
40モル%以上、特には50モル%以上となるのが好ましい。
【0032】
分子量220以下のジアミンとしては、4,4’-ジアミノビフェニル、2,5-ジメチル1,4-フェニレンジアミン(DMPDA;分子量136.19)、ジアミノ安息香酸(分子量152.15)、イソホロンジアミン(分子量170.3)、4,4-ジアミノジフェニルメタン(MDA;分子量198.26)、3,4-ジアミノジフェニルエーテル(3,4-DADE;分子量200.24)、4,4‘-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-DADE;分子量200.24)、3,3‘-ジヒドロキシベンジジン(HAB;分子量216.24)、ビス(4-アミノフェニル)スルフィド(ASD;分子量216.3)等が挙げられる。
【0033】
分子量220以下のジアミン成分の割合が30モル%よりも少ない場合には、得られるポリイミドのN-メチルピロリドンやジメチルアセトアミドに対する溶解性は向上するが、リチウムイオン二次電池の電解液に対する膨潤度が50%よりも大きくなり易く、リチウムイオン二次電池の電極用バインダーとして用いた場合にサイクル特性が悪化する傾向がある。
【0034】
(溶媒可溶性ポリイミドの好ましい態様)
本発明においては、前述したような分子量が360以下のテトラカルボン酸二無水物と、分子量が220以下のジアミンの割合が全ジアミンの少なくとも30モル%以上となるジアミンとを反応させることが好ましい。これにより、ポリイミドを構成する全てのテトラカルボン酸二無水物成分の分子量が360以下であり、且つ、分子量220以下のジアミン成分の割合が全ジアミン成分の少なくとも30モル%以上となる構造のポリイミドを合成することができ、溶剤に対する溶解性がさらに良好で、且つ、リチウムイオン二次電池の電解液に対する膨潤度がさらに小さいポリイミドを提供することができる。
【0035】
(イミド基濃度)
本発明において、ポリイミドの合成に用いるカルボン酸二無水物やジアミンの分子量を特定範囲にすることは、合成するポリイミドのイミド基濃度を制御することを意味する。
本発明において、ポリイミド樹脂におけるイミド基濃度とは、下記式(1)により計算される値である。
イミド基濃度=[(イミド基部分の分子量140)/(ポリイミドの分子量)]×100 (1)
【0036】
カルボン酸二無水物とジアミンの反応でイミド環が生成する際、1モルの水が取れるので、一組のカルボン酸二無水物とジアミンの反応で2つのイミド環が生成することから、上記式(1)は下記式(2)で示すことができる。
[(イミド基部分の分子量140)/(テトラカルボン酸二無水物の分子量+ジアミンの分子量-2モルの水の分子量)]×100 ・・・(2)
【0037】
複数のテトラカルボン酸二無水物やジアミンを用いる場合には、上記式(2)におけるテトラカルボン酸二無水物およびジアミンの分子量としては、各々の成分の使用量から算出される平均分子量を用いる。ここで、テトラカルボン酸二無水物の平均分子量は、テトラカルボン酸二無水物の使用量の総量を1とした場合に、各々の成分の使用比率にその成分の分子量を掛けたものの総和として求めることができる。また、ジアミンの平均分子量も、同様に、ジアミンの使用量の総量を1とした場合に、各々の成分の使用比率にその成分の分子量を掛けたものの総和として求めることができる。
【0038】
上記式(2)から分かるように、低分子量のテトラカルボン酸二無水物や低分子量のジアミンを用いれば、得られるポリイミドのイミド基濃度は高くなる。前述の通り、特定分子量以下のテトラカルボン酸二無水物と特定分子量以下のジアミンを特定量含有させてポリイミドワニスを合成することにより、前記溶剤には溶解し、且つ、電解液膨潤度の低いポリイミドを得ることができる。したがって、溶剤に対する溶解性が良好で、且つ、電解液膨潤度の低いポリイミドを得ることができるという点で、ポリイミドのイミド基濃度の下限値は、20%以上、更には25%以上、特には28%以上が好ましい。
【0039】
イミド基濃度の高いポリイミドは、リチウムイオン二次電池に用いた場合に不可逆容量が大きくなる。したがって、不可逆容量を考慮すれば、リチウムイオン二次電池の電極用バインダーとして用いるポリイミドのイミド基濃度は、33%以下、さらには32.5%以下、特には32%以下が好ましい。ポリイミドのイミド基濃度が33%よりも大きくなると、リチウムイオン二次電池の不可逆容量が大きくなる傾向がある。
以上の通り、溶媒可溶性ポリイミドのイミド基濃度は、電解液膨潤度と不可逆容量を考慮して最適な範囲を設定することができる。
【0040】
なお、イミド基濃度が最適な範囲となる溶媒可溶性ワニスを得るためには、分子量の小さいテトラカルボン酸二無水物と分子量の小さいジアミンを異なるブロック構造に導入することができるという点で、ブロック共重合法を用いることが好ましい。ブロック共重合法を用いることにより、容易に溶剤には溶解し、且つ、電解液膨潤度の低いポリイミドを得ることができる。
【0041】
一方、分子量の小さいテトラカルボン酸二無水物と分子量の小さいジアミンを異なるブロック構造に導入しないで、ランダム重合で合成を行うと、合成途中で反応液が濁ったり、ゲル化し、溶媒可溶性ポリイミドを得ることは難しい。
【0042】
(ブロック共重合体)
更に、本発明の溶媒可溶性ポリイミドはブロック共重合体であることが好ましい。ブロック共重合体の場合には、前記溶剤に対する高い溶媒可溶性と50重量%以下の電解液膨潤度を両立するポリイミドの範囲を拡大することが可能である。
【0043】
本来、ポリイミドは、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドのような溶剤に溶解しにくく、ランダム重合では、上記溶剤に対する溶解性を確保することが難しい。しかし、ブロック共重合体であれば、溶解性の確保が難しい組合せのテトラカルボン酸二無水物とジアミンを、別々のブロック構造に導入することが可能なため、溶剤に対する溶解性を確保できるものと考えられる。
【0044】
また、本発明の溶媒可溶性ポリイミドがブロック共重合体である場合には、ポリイミドを乾燥して得られる被膜において、別々のブロック構造に導入されたテトラカルボン酸二無水物とジアミンの分子間相互作用の影響が大きくなるため、小さい電解液膨潤度を達成できると考えられる。
ブロック共重合ポリイミドの合成方法は、WO2006/057036に記載の方法を参考にすることができる。
【0045】
本発明において、可溶性ポリイミドの重量平均分子量は10万以上、さらには13万以上であることが好ましい。重量平均分子量が10万よりも小さい場合には、ポリイミドを用いて作製される電極スラリー組成物の安定性が悪くなる傾向がある。一方、重量平均分子量の上限は製造可能な限り特に制限はないが、分子量が大き過ぎるとリチウムイオン電池の抵抗が大きくなる傾向があるため、バインダーとして使用する量を少なくする必要がある。
【0046】
本発明における溶媒可溶性ポリイミドは、8%NMP溶液のB型粘度が2000cps以上であることが好ましい。B型粘度が2000cpsよりも低い場合には、電極スラリーの安定性が悪化する傾向がある。8%NMP溶液のB型粘度は、さらに好ましくは3000cps以上、特に好ましくは5000cps以上である。
【0047】
<リチウムイオン二次電池用バインダー>
本発明における溶媒可溶性ポリイミドは、リチウムイオン電池の正極用バインダーとしても負極用バインダーとしても使用することができる。また、セラミックコーティング用バインダーにおいても、電解液に対する膨潤度は重要であるため、本発明の溶媒可溶性ポリイミドは、セラミックコーティング用バインダーとしても好適に使用することができる。
【0048】
(バインダーの使用量)
本発明の溶媒可溶性ポリイミドをリチウムイオン二次電池の正極用バインダーとして使用する場合には、溶媒可溶性ポリイミドは、電極活物質100質量部当たり、0.5質量部~10質量部、好ましくは1質量部~5質量部、更に好ましくは1.5質量部~3質量部を使用することができる。本発明の溶媒可溶性ポリイミドの使用量が0.5質量部より少ない場合には、活物質同士の接着性や電極層と集電体の接着性が低下し、ピール強度が低下する傾向がある。
【0049】
本発明の溶媒可溶性ポリイミドをリチウムイオン二次電池の負極用バインダーとして使用し、炭素材料を電極活物質として使用する場合には、溶媒可溶性ポリイミドは、電極活物質100質量部当たり、0.5質量部~10質量部、好ましくは、1質量部~5質量部、更に好ましくは1.5質量部~3質量部を使用することができる。本発明の溶媒可溶性ポリイミドの使用量が0.5質量部より少ない場合には、活物質同士の接着性や電極層と集電体の接着性が低下し、ピール強度が低下する傾向がある。
【0050】
またシリコン材料を単独で、または炭素材料と併用して負極活物質として使用する場合には、溶媒可溶性ポリイミドは、電極活物質100質量部当たり、2質量部~20質量部、好ましくは1質量部~10質量部を使用することができる。なお、バインダーとしての溶媒可溶性ポリイミドの使用量は、シリコン材料の使用比率により異なり、適宜決定される。
【0051】
<リチウムイオン二次電池用電極及びその製造方法>
リチウムイオン二次電池用電極に使用する材料について説明する。
(正極活物質)
リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定されないが、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物(Li(CoMnNi)O2)、Ni-Mn-Alのリチウム含有複合酸化物、Ni-Co-Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、Li2MnO3-LiNiO2系固溶体、Li1+xMn2-xO4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O2、LiNi0.5Mn1.5O4等の公知の正極活物質が挙げられる。正極活物質の配合量や粒径は、特に限定されず、公知の範囲のものを使用できる。
【0052】
(負極活物質)
リチウムイオン二次電池用の極活物質としては、特に限定されないが、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボン、天然黒鉛、人造黒鉛などの炭素系負極活物質;ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiOx、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などの非炭素系負極活物質などが挙げられる。負極活物質の配合量や粒径は、特に限定されず、公知の範囲のものを使用できる。
【0053】
(導電材)
電極活物質をバインダーを用いて分散させて得られる電極用のスラリー組成物は、導電材を含有していてもよい。導電材は、電極活物質同士の電気的接触を確保するためのものである。導電材としては、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラックなど)、グラファイト、炭素繊維、カーボンフレーク、炭素超短繊維(例えば、カーボンナノチューブや気相成長炭素繊維など)等の導電性炭素材料;各種金属のファイバー、箔などを用いることができる。中でも、導電材としては、カーボンブラックが好ましく、アセチレンブラックがより好ましい。これらは一種類を単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
スラリー組成物中の導電材の配合量は、特に限定されないが、電極活物質100質量部当たり1質量部以上であることが好ましく、また、10質量部以下であることが好ましい。スラリー組成物が導電材を上記範囲内の量で含有することにより、スラリー組成物を用いて作製される電極の合材層中で良好な導電パスが形成され、特にスラリー組成物を正極用として用いた際に、リチウムイオン二次電池のレート特性などの電池特性を向上させることができる。
【0055】
スラリーセラミックコーティング用のスラリー組成物の場合には、導電材は、アルミナのような無機フィラー100質量部に対して2質量部~10質量部使用される。導電材の使用量が2質量部より少ない場合には、セパレータの耐熱性が低下する傾向がある。また導電材の使用量が10質量部より多い場合には、セラミックスラリーを塗布した耐熱層を有する耐熱セパレータの透気度が小さくなり、電池に用いた場合、電池の抵抗が大きくなる傾向がある。
【0056】
(電極用スラリー組成物)
電極用スラリー組成物(電極用樹脂組成物)は、上記各成分を本発明の溶媒可溶性ポリイミドバインダーとともに、N-メチルピロリドン(NMP)などの分散媒中に分散させることにより調製することができる。具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて上記各成分と溶媒可溶性ポリイミドバインダーと分散媒とを混合することにより、スラリー組成物を調製することができる。
【0057】
得られた電極用スラリー組成物の固形分濃度は、40質量%以上80質量%以下であるのが好ましい。電極用スラリー組成物の固形分濃度が上記範囲内であれば、電極用スラリー組成物から分散媒を除去して電極合材層を作製する際の乾燥効率を高めることができる。また、電極用スラリー組成物は溶媒可溶性ポリイミドを含んでいるため、固形分濃度が比較的高い場合であっても、優れた塗工性を発揮する。
【0058】
電極用スラリー組成物の粘度は、3000mPa・s以上8000mPa・s以下であることが好ましい。電極用スラリー組成物の粘度が上記範囲内であれば、塗工性が良好となり、スラリー組成物調製時のエアー巻き込みにより形成されるホールや塗りムラを十分に抑制し、また均一な厚みを有する電極合材層を形成することができる。なお、リチウムイオン二次電池の電極用スラリー組成物の「粘度」は、単一円筒形回転粘度計(B型粘度計)を用いて測定される粘度であり、具体的には下記実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0059】
(リチウムイオン二次電池用電極)
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、集電体と、集電体上に形成された電極合材層とを備える。電極合材層は上記リチウムイオン二次電池の電極用スラリー組成物を用いて形成され、具体的には、上記電極用スラリー組成物を集電体上に塗布し乾燥することにより形成することができる。即ち、電極合材層は、上記電極用スラリー組成物の乾燥物よりなり、通常、本発明の溶媒可溶性ポリイミドと上記電極活物質とを含有し、任意に、上記導電材を含有する。電極合材層は、その他の成分として、本発明の溶剤可溶性ポリイミド以外のバインダーとしてPVDF、エポキシ樹脂、合成ゴムなどのポリマーや、消泡剤、レベリング剤、難燃剤等を必要に応じて含有していてもよい。
【0060】
電極合材層中に含まれる各成分の好適な存在比は、スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、本発明のスラリー組成物を使用して製造されるため、ピール強度に優れる。そして本発明の電極を使用することにより、サイクル特性等の電池特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0061】
(リチウムイオン二次電池用電極の製造方法)
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、例えば、上述したスラリー組成物を集電体上に塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布されたスラリー組成物を乾燥して集電体上に電極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを経て製造される。
【0062】
[塗布工程]
電極用スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法などを用いることができる。この際、スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。スラリー組成物の塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる電極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0063】
ここで、スラリー組成物を塗布する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などから選択される集電体を用い得る。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0064】
[乾燥工程]
集電体上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上のスラリー組成物を乾燥することにより、集電体上に電極合材層を形成し、集電体と電極合材層とを備えるリチウムイオン二次電池用電極を得ることができる。
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、電極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、電極合材層と集電体との密着性を向上させることができるとともに、電極合材層の密度を高めることができる。
【0065】
<リチウムイオン二次電池及びその製造方法>
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備え、正極および負極の少なくとも一方に本発明のリチウムイオン二次電池用電極を用いたものである。そして、本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用電極を備えているため、サイクル特性等の電池特性に優れる。
【0066】
(電極)
本発明のリチウムイオン二次電池には、上述した本発明のリチウムイオン二次電池用電極以外の電極を使用することもできる。本発明の電極以外の電極としては、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池の製造に用いられている公知の電極を用いることができる。具体的には、公知の製造方法を用いて集電体上に電極合材層を形成してなる電極を用いることができる。
【0067】
(電解液)
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。リチウムイオン二次電池の支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すという観点から、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましく、LiPF6が特に好ましい。電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0068】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いという観点から、カーボネート類を用いることが好ましい。
【0069】
電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができ、例えば0.5~15質量%とすることが好ましく、2~13質量%とすることがより好ましく、5~10質量%とすることが更に好ましい。また、電解液には、公知の添加剤、例えばフルオロエチレンカーボネートやエチルメチルスルホンなどを添加することができる。
【0070】
(セパレータ)
セパレータとしては、特に限定されないが、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリアミド、ポリイミド等の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。また、微多孔膜の片面または両面に、セパレータの耐熱性を高めるためにセラミックコーティング層を設けた耐熱セパレータを用いることもできる。本発明の溶媒可溶性ポリイミドは、このセラミックコーティング層に使用されるバインダーとしても好適に使用することができる。
【0071】
(リチウムイオン二次電池の製造方法)
本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせたものを、必要に応じて電池形状に応じて巻くか、あるいは、正極と、負極とを、セパレータを挟んで複数枚積層するなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。リチウムイオン二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。リチウムイオン二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0072】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り質量基準である。
【0073】
下記の合成例及び合成比較例において使用した原料化合物の略語とその化合物名を以下に記載する。
s-BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(分子量:294.2)
ODPA:4,4’-オキシジフタル酸二無水物(分子量:310.2)
PMDA:ピロメリット酸無水物(分子量:218.1)
BTDA:ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(分子量:322.2)
DMPDA:2,5-ジメチル-1,4-フェニレンジアミン(分子量:136.19)
DETDA:ジエチルメチルベンゼンジアミン(分子量:178.28)
m-DADE:3,4-ジアミノジフェニルエーテル(分子量:200.24)
TPE-R:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(分子量:292.33)
ABPS:3,3-ジアミノ-4,4-ジヒドロキシジフェニルスルホン(分子量:280.33)
p-DADE:ジアミノジフェニルエーテル(分子量:200.24)
APB:1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(分子量:292.33)
BAPS: ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(分子量:432.49)
【0074】
<ポリイミドの合成>
合成実施例1
ステンレススチール製の碇型攪拌器を取り付けたガラス製のセパラブル三つ口フラスコに、水分分離トラップを備えた玉付冷却管を取り付けた。4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA,分子量:310.2)10.86g(35mmol)、2,5-ジメチル-1,4-フェニレンジアミン(DMPDA,分子量:136.19)9.53g(70mmol)、γ-バレロラクトン1.40g、ピリジン2.22g、N-メチルピロリドン(NMP)109g、トルエン45gを三つ口フラスコに加えた。窒素雰囲気下、シリコン浴180℃、180rpmで1.5時間加熱、攪拌した。さらに、室温に空冷し15分間攪拌した。ついで、3,4-ジアミノジフェニルエーテル(m-DADE,分子量:200.24)7.01g(35mmol)と1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R,分子量:292.33)10.23g(35mmol)をよく混合したものを少しずつ三つ口フラスコに加えた。さらに、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA,分子量:294.2)30.99g(105mmol)、NMP146g、トルエン10gを加え、窒素雰囲気下、180℃、180rpmで加熱、攪拌した。6時間後に反応を停止し、20重量%のポリイミド溶液を得た。さらに、NMP106gを加え、30分間攪拌して15重量%のポリイミド溶液を得た。
【0075】
ポリイミドの合成に用いた各成分のモル比は、ODPA:s-BPDA=1:3、DMPDA:m-DADE:TPE-R=2:1:1であった。また、ポリイミドの合成に用いた全てのテトラカルボン酸二無水物成分の分子量は360以下であり、分子量220以下のジアミン成分の割合は全ジアミン成分の75モル%であった。
【0076】
ポリイミドのイミド基濃度は下記の計算式により30.9であった。
(イミド基濃度の計算式)
・テトラカルボン酸ニ無水物の平均分子量:
0.25×310.2+0.75×294.2=298.2
・ジアミンの平均分子量:
0.5×136.19+0.25×200.24+0.25×292.33
=191.18
・イミド基濃度:
[140/(298.2+191.18-2×18)]×100=30.9
【0077】
得られたポリイミドの分子量とガラス転移温度(Tg)の測定結果は以下の通りである。
分子量Mw:144,478
Tg:296℃
【0078】
合成実施例2
合成実施例1と同様の装置を用いた。ODPA(分子量:310.2)10.86g(35mmol)、DMPDA(分子量:136.19)9.53g(70mmol)、γ-バレロラクトン1.40g、ピリジン2.22g、NMP109g、トルエン45gを三つ口フラスコに加えた。窒素雰囲気下、シリコン浴180℃、180rpmで1.5時間、加熱、攪拌した。さらに、室温に空冷し15分間攪拌した。ついで、TPE-R(分子量:292.33)10.23g(35mmol)と3,3-ジアミノ-4,4-ジヒドロキシジフェニルスルホン(ABPS,分子量:280.33)9.81g(35mmol)をよく混合したものを少しずつ三つ口フラスコに加えた。さらに、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA,分子量:294.2)30.99g(105mmol)、NMP146g、トルエン10gを加え、窒素雰囲気下、180℃、180rpmで加熱、攪拌した。6時間30分後に反応を停止し、20重量%のポリイミド溶液を得た。さらに、NMP106gを加え、30分間攪拌して15重量%のポリイミド溶液を得た。
【0079】
ポリイミドの合成に用いた各成分のモル比は、ODPA:DMPDA=1:2、s-BPDA:TPE-R:ABPS=3:1:1であった。また、ポリイミドの合成に用いた全てのテトラカルボン酸二無水物成分の分子量は360以下であり、分子量220以下のジアミン成分の割合は全ジアミン成分の50モル%であり、ポリイミドのイミド基濃度は29.6%であった。
得られたポリイミドの分子量とガラス転移温度(Tg)の測定結果は以下の通りである。
分子量Mw:172,691
Tg:328.4℃
【0080】
合成実施例3
合成実施例1と同様の装置を用いた。PMDA(分子量:218.1)15.27g(70ミリモル)、DETDA(分子量:178.28)18.72g(105ミリモル)、無水シュウ酸0.9g、ピリジン1.9g、NMP130g、トルエン30gを三つ口フラスコ加えた。窒素雰囲気下、180℃、175rpmで1時間反応した。さらに、180℃、165rpmで4時間20分反応した。ついで、BTDA(分子量:322.2)22.55g(70ミリモル)、p-DADE(分子量:200.24)7.01g(35ミリモル)、NMP102gを加えて、180℃、165rpmで6時間20分反応し、20重量%のポリイミド溶液を得た。
【0081】
ポリイミドの合成に用いた各成分のモル比は、PMDA:DETDA=2:3、BTDA:p-DADE=2:1であった。また、ポリイミドの合成に用いた全てのテトラカルボン酸二無水物成分の分子量は360以下であり、分子量220以下のジアミン成分の割合は全ジアミン成分の100モル%であり、ポリイミドのイミド基濃度は33.5%であった。
得られたポリイミドの分子量の測定結果は以下の通りである。
分子量Mw:199,610
Tg:319.5℃
【0082】
合成比較例1(ランダム重合例)
合成例1と同様の装置を用い、合成例3をランダム重合で行った。DMPDA(分子量:136.19)21.79g(160mmol)、TPE-R(分子量:292.33)23.39g(80mmol)、ABPS(分子量:280.33)22.42g(80mmol)を三つ口フラスコに加えた。窒素雰囲気下、180rpmで10分間攪拌してNMPに溶解させた。ついで、ODPA(分子量:310.2)24.82g(80mmol)、s-BPDA(分子量:294.2)70.61g(240mmol)、γ-VL3.20g、ピリジン5.06g、NMP、トルエン45gを加え、窒素雰囲気下、シリコン浴180℃、180rpmで攪拌、加熱した。この段階で投入したNMPの総量は858gであった。4時間後に溶液が濁ったため反応を終了した。
【0083】
合成比較例2
合成例1と同様の装置を用い、BAPS(分子量:432.49)34.60g(80mmol)を三つ口フラスコに加えた。窒素雰囲気下、180rpmで10分間攪拌してNMPに溶解させた。ついで、s-BPDA(分子量:294.2)47.1g(160mmol)、ODPA(分子量:310.2)24.82g(80mmol)、γ-VL3.20g、ピリジン5.06g、NMP、トルエン45gを加え、窒素雰囲気下、シリコン浴180℃、180rpmで攪拌、加熱した。この段階で投入したNMPの総量は390gであった。5時間30分反応し、20重量%のポリイミド溶液を得た。
【0084】
ポリイミドの合成に用いた各成分のモル比は、ODPA:BPDA=1:2、ジアミンはBAPS100%であった。また、ポリイミドの合成に用いた全てのテトラカルボン酸二無水物成分の分子量は360以下であり、分子量220以下のジアミン成分の割合は全ジアミン成分の0モル%であり、ポリイミドのイミド基濃度は20.1%であった。
得られたポリイミドの分子量とガラス転移温度(Tg)の測定結果は以下の通りである。
分子量Mw:123680
Tg:272℃
【0085】
合成比較例3
合成例1と同様の装置を用いた。s-BPDA(分子量:294.2)58.84g(200mmmol)、1,3-ジアミノ安息香酸(分子量:151.15)15.21g(100mmmol)、γ-バレロラクトン1.50g、ピリジン2.4g、NMP200g、トルエン30gを三つ口フラスコに加えた。窒素雰囲気下、シリコン浴180℃、180rpmで1.0時間加熱、攪拌した。さらに、室温に空冷して15分間攪拌した。ついで、ODPA(分子量:310.2)46.53g(150mmol)、TPE-R(分子量:292.33)73.08g(250mmol)、NMP360g、トルエン90gを加え、窒素雰囲気下、180℃、180rpmで加熱、攪拌した。2時間30分後に反応を停止し、NMPを加え30分間攪拌して20重量%のポリイミド溶液を得た。
【0086】
ポリイミドの合成に用いた各成分のモル比はs-BPDA:ODPA=57.1:42.9,ジアミノ安息香酸:TPE-R=28.6:71.4であった。
また、ポリイミドの合成に用いたテトラカルボン酸二無水物成分の分子量は360以下であり、分子量220以下のジアミン成分の割合は全ジアミン成分の28.6モル%であり、ポリイミドのイミド基濃度は27.1%であった。
得られたポリイミドの分子量とガラス転移温度(Tg)の測定結果は以下の通りである。
分子量Mw:80,000
Tg:230℃
【0087】
実施例1~3、比較例1~3
上記合成実施例1~3及び合成比較例1~3で合成したポリイミドを用い、以下の方法により、正極電極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用の正極、セパレータ及びリチウムイオン二次電池を作製した。
【0088】
<正極電極用スラリー組成物の作製>
中国製NCM(ニッケル・コバルト・マンガン系複合酸化物,N:C:M=5:3:2)1000質量部、導電剤デンカブラック20質量部、本発明の溶媒可溶性ポリイミド(8質量%N-メチルピロリドン溶液)250質量部をプラネタリーミキサーで混合し、目標粘度になるまでNーメチルピロリドン(NMP)を数回に分けて添加し、攪拌を繰り返してスラリー組成物を作製した。
【0089】
<リチウムイオン二次電池用正極の作製>
集電体として厚さ18μmのアルミ箔を準備した。上記で作製したスラリー組成物を、コンマコーターでアルミ箔の片面に塗布し、乾燥させて正極電極を得た。この乾燥は、塗膜を備えるアルミ箔を0.5m/分の速度で120℃のオーブン内を2分間かけて搬送し、その後更に120℃のオーブン内にて2分間加熱処理することにより行った。得られた正極原反をロールプレスで圧延し、正極合材層の厚さが60μmのリチウムイオン二次電池用電極を得た。
【0090】
<リチウムイオン二次電池用セパレータの準備>
単層のポリプロピレン製セパレータ(セルガード社製「CELGARD(登録商標)2500」)を打ち抜いたものをセパレータとして用いた。
【0091】
<リチウムイオン二次電池の製造>
正極としては、上記で製造した正極電極を150℃の真空オーブン中で5時間加熱処理したものを用い、通常の方法で2032型コインセルを作製した。負極にはLi箔を使用し、セパレータには20μm厚の多孔性ポリオレフィン膜を使用した。電解液としては、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート=3:3:4からなる電解液溶媒にLiPF6を1モル/L溶解した電解液を用いた。
【0092】
上記の合成実施例1~3及び合成比較例1~3で製造した溶媒可溶性ポリイミドの分子量、ガラス転移温度(Tg)、8%溶液の粘度、乾燥して得られるフィルムの電解液膨潤度、また、スラリー組成物の粘度、電極のピール強度、リチウムイオン二次電池のサイクル特性、不可逆容量は、下記の方法で測定および評価した。
【0093】
<溶媒可溶性ポリイミドの分子量>
溶媒可溶性ポリイミドをNMPで希釈し、高速液体クロマトグラフ(東ソー製)を用いて重量平均分子量を測定した。
【0094】
<溶媒可溶性ポリイミドのガラス転移温度(Tg)>
島津製作所製DSG-50を用い、昇温速度10℃/分で400℃まで昇温測定後、試料を空冷し、再び昇温速度10℃/分で420℃まで昇温して測定した値からガラス転移温度(Tg)を求めた。
【0095】
<溶媒可溶性ポリイミドの電解液膨潤度>
溶媒可溶性ポリイミドをPTX樹脂製のシャーレに流して、120℃で15時間乾燥して、厚み約50μmのフィルムを得た。フィルムから3cm×3cmの試験片を作製し、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート=3:3:4からなる電解液溶媒にLiPF6を1モル/L溶解してなる電解液に試験片を浸漬した。電解液を80℃に加熱した後、80℃で72時間試験片を浸漬処理した。浸漬処理前後の試験片の重量変化を測定し、重量増加率(%)を求め、電解液膨潤度とした。ここで、フィルムの作製方法は電解液膨潤度の数値に影響を与えることはなく、また、浸漬処理後のフィルムの重量は、試験片を電解液から取り出し、乾燥しないように速やかにティッシュで表面に付着している電解液を拭き取った後に測定した。
【0096】
<溶媒可溶性ポリイミド8%溶液の粘度)
JISZ8803:1991に準じて、B型粘度計(25℃、回転数=60rpm、スピンドル形状:4)により測定し、測定開始60秒後の値を8%ポリイミド溶液のB型粘度とした。
【0097】
<スラリー組成物の粘度>
JISZ8803:1991に準じて、B型粘度計(25℃、回転数=60rpm、スピンドル形状:4)により測定し、測定開始60秒後の値をスラリー組成物のB型粘度とした。
【0098】
<電極のピール強度>
作製したリチウムイオン二次電池用電極を長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して試験片とし、電極合材層を有する面を下にして電極合材層表面にセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの)を貼り付け、集電体の一端を鉛直上方に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した(セロハンテープは試験台に固定)。測定を5回行い、その平均値を求めてこれをピール強度とした。ピール強度の値が大きいほど、電極合材層と集電体の密着性に優れることを示す。
【0099】
<リチウムイオン二次電池のサイクル特性>
作製したリチウムイオン二次電池ハーフセルを25℃の環境下で24時間静置させた。その後、25℃の環境下で、0.5Cの低電流法にて4.2Vまで充電し、3.0Vまで放電する充放電の操作を行い、初期容量Csを測定した。さらに、このリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で、前記と同様の充放電を200回繰り返し(200サイクル)、200サイクル後の容量Cfを測定した。
サイクル特性は、ΔC=(Cf/Cs)×100(%)で算出し、容量維持率とした。この容量維持率の値が高いほど、サイクル特性に優れることを示す。
【0100】
<不可逆容量の有無>
作製したリチウムイオン二次電池を25℃の環境下で24時間静置させた。その後、25℃の環境下で、0.1Cの低電流法にて4.2Vまで充電し、3.0Vまで放電する充放電の操作を行い、バインダーとしてPVDF(アルケマ社HSV900)をポリイミドと同量用いた電極で作製したリチウムイオン二次電池の容量と対比し、少ない容量を示した場合を不可逆容量有りとした。不可逆容量を示さない場合を〇、不可逆容量を示す場合を×で表示した。
【0101】
上記合成実施例1~3及び合成比較例1~3で製造した溶媒可溶性ポリイミドの物性、スラリー組成物、電極、リチウムイオン二次電池の特性の評価結果を下記表1に示す。
【0102】
【0103】
上記表1の結果から、溶媒可溶性ポリイミドを構成する全てのテトラカルボン酸二無水物成分の分子量が360以下であり、且つ、分子量220以下のジアミン成分の割合が30モル%以上となるブロック共重合体のポリイミドを用いた場合(実施例1~3)には、50重量%以下という低い電解液膨潤度を達成できることが分かる。また、この実施例1~3の場合には、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を作製できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明における溶媒可溶性ポリイミドは、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の溶剤に対する高い溶媒可溶性と、リチウムイオン二次電池に用いられる電解液に対する低い膨潤度を両立可能なポリイミドである。このような溶媒可溶性ポリイミドをリチウムイオン二次電池用のバインダーとして用いることにより、電極活物質間の接着性や、電極合材層と集電体間の密着性が良好な電極を作製することが可能となる。また、このような電極を用いることにより、寿命特性(サイクル特性)に優れたリチウムイオン二次電池を作製することが可能となる。