(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/13 20060101AFI20220922BHJP
【FI】
A61B8/13 ZDM
(21)【出願番号】P 2018155033
(22)【出願日】2018-08-21
【審査請求日】2021-08-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「ワイドフィールド可視化システムのプロトタイプ開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155871
【氏名又は名称】森廣 亮太
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【氏名又は名称】川口 嘉之
(73)【特許権者】
【識別番号】520147108
【氏名又は名称】株式会社Luxonus
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翔也
(72)【発明者】
【氏名】長永 兼一
(72)【発明者】
【氏名】梶田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】今西 宣晶
(72)【発明者】
【氏名】相磯 貞和
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/002337(WO,A1)
【文献】特開2017-202319(JP,A)
【文献】特開2018-057697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造影剤が導入された被検体に互いに異なる複数の波長の光を照射することにより発生した光音響波に基づいた、前記複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成され
た分光画像を取得する分光画像取得手段、
前記造影剤に関する情報を取得する造影剤情報取得手段、
前記造影剤に関する情報に基づいて、前記分光画像中の前記造影剤に対応する領域を決定する領域決定手段、および
前記造影剤に対応する領域と当該領域以外の領域とを識別できるように、前記分光画像を表示させる表示制御手段を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記領域決定手段は、
前記造影剤に関する情報に基づいて、前記分光画像の画像値に対する数値範囲を決定し、
前記数値範囲に含まれる画像値を有する前記分光画像の領域を、前記造影剤に対応する領域として決定することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記領域決定手段は、前記造影剤に関する情報に基づいて、色を割り当てる前記分光画像の画像値の数値範囲を決定し、
前記表示制御手段は、前記数値範囲に含まれる前記分光画像の画像値に色を割り当てて前記分光画像を表示させることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記造影剤に対応する領域の画像値と、前記造影剤に対応する領域以外の領域の画像値とは、符号が逆であることを特徴とする請求項2または3に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記領域決定手段は、前記造影剤に関する情報と前記複数の波長の情報とに基づいて、前記分光画像中の前記造影剤に対応する領域を決定することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
造影剤が導入された被検体に互いに異なる複数の波長の光を照射することにより発生し
た光音響波に基づいた
、前記複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成された分光画像を取得する分光画像取得手段、
前記造影剤に関する情報を取得する造影剤情報取得手段、および
前記造影剤に関する情報に基づいて、前記分光画像の画像値に色を割り当てて前記分光画像を表示させる表示制御手段を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項7】
前記表示制御手段は、前記分光画像の負値の画像値にも色を割り当てて前記分光画像を表示させることを特徴とする請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記表示制御手段は、前記造影剤に関する情報と前記複数の波長の情報とに基づいて、前記分光画像の画像値に色を割り当てて前記分光画像を表示させることを特徴とする請求項6または7に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記表示制御手段は、
前記分光画像の画像値と表示色との関係を示すカラースケールを表示させ、
前記造影剤に対応する表示色を識別できるように前記カラースケールを表示させることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項10】
造影剤が導入された前記被検体に前記複数の波長の光を照射することにより発生した光音響波に基づいて生成された、前記複数の波長にそれぞれ対応する複数の光音響画像を取得する光音響画像取得手段を更に有し、
前記表示制御手段は、
前記複数の光音響画像の一つの光音響画像の画像値に基づいて前記分光画像の明度を決定し、
前記分光画像の画像値に基づいて、前記光音響画像の画像値から明度への変換テーブルを決定することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記造影剤に関する情報は、前記造影剤の種類または濃度の情報であることを特徴とする請求項1から1
0のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項12】
第1波長の光照射により発生した光音響波に基づいた第1光音響画像、および、第2波長の光照射により発生した光音響波に基づいた第2光音響画像を取得する光音響画像取得手段を更に有し、
前記分光画像取得手段は、前記第1光音響画像と前記第2光音響画像との比に基づいた画像を前記分光画像として生成することを特徴とする請求項1から1
1のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項13】
第1波長λ
1の光照射により発生した光音響波に基づいた計測値をI
λ
1(r)とし、第2波長λ
2の光照射により発生した光音響波に基づいた計測値をI
λ
2(r)とし、第1波長λ
1に対応するデオキシヘモグロビンのモラー吸収係数をε
Hb
λ
1とし、第2波長λ
2に対応するデオキシヘモグロビンのモラー吸収係数をε
Hb
λ
2とし、第1波長λ
1に対応するオキシヘモグロビンのモラー吸収係数をε
HbO
λ
1とし、第2波長λ
2に対応するオキシヘモグロビンのモラー吸収係数をε
HbO
λ
2とし、rを位置とした場合に、
前記分光画像取得手段は、下記式にしたがって、分光画像の計算値Is(r)を生成する
【数1】
ことを特徴とする請求項1から1
1のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項14】
前記計測値は吸収係数または初期音圧であることを特徴とする請求項1
3に記載の画像処理装置。
【請求項15】
前記造影剤は、2.5mg/mL以上、10.0mg/mL以下の濃度のICGであることを特徴とする請求項1から1
4のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項16】
前記造影剤情報取得手段は、
ユーザーからの指示に基づいて、前記造影剤に関する情報として前記造影剤の濃度を示す情報を取得し、
前記造影剤に関する情報として前記造影剤の種類がICGであることを示す情報を取得した場合に、2.5mg/mLより小さい、または、10.0mg/mLより大きいICGの濃度を示すユーザーからの指示を受け付けないように構成されていることを特徴とする請求項1から1
5のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項17】
前記複数の波長が、第1波長として797nm、第2波長として835nmを含むことを特徴とする請求項1
5または1
6に記載の画像処理装置。
【請求項18】
前記表示制御手段は、時系列に生成された複数の分光画像を動画像として表示させることを特徴とする請求項1から1
7のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項19】
前記表示制御手段は、前記動画像を早送り表示可能であることを特徴とする請求項1
8に記載の画像処理装置。
【請求項20】
前記表示制御手段は、前記動画像を繰り返し表示可能であることを特徴とする請求項1
8または
19に記載の画像処理装置。
【請求項21】
造影剤が導入された被検体に互いに異なる複数の波長の光を照射することにより発生した光音響波に基づいた、前記複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成され
た分光画像を取得し、
前記造影剤に関する情報を取得し、
前記造影剤に関する情報に基づいて、前記分光画像中の前記造影剤に対応する領域を決定し、
前記造影剤に対応する領域と当該領域以外の領域とを識別できるように、前記分光画像を
表示部に表示させることを特徴とする画像処理方法。
【請求項22】
造影剤が導入された被検体に互いに異なる複数の波長の光を照射することにより発生した光音響波に基づいた、前記複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成され
た分光画像を取得し、
前記造影剤に関する情報を取得し、
前記造影剤に関する情報に基づいて、前記分光画像の画像値に色を割り当てて前記分光画像を
表示部に表示させることを特徴とする画像処理方法。
【請求項23】
前記造影剤がICGであり、前記複数の波長が、第1波長として797nm、第2波長として835nmを含むことを特徴とする請求項2
1または2
2に記載の画像処理方法。
【請求項24】
造影剤が導入された被検体に互いに異なる複数の波長の光を照射することにより発生した光音響波に基づいた、前記複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成された分光画像を取得する分光画像取得手段、
前記造影剤に関する情報に基づいて、前記分光画像中の前記造影剤に対応する領域を決定する領域決定手段、および
前記造影剤に対応する領域と当該領域以外の領域とを識別できるように、前記分光画像を表示させる表示制御手段を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項25】
造影剤が導入された被検体に互いに異なる複数の波長の光を照射することにより発生した光音響波に基づいた、前記複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成され
た分光画像を取得する分光画像取得手段、
前記造影剤に対応する画像値の数値範囲に該当する前記分光画像の領域を、前記分光画像中の前記造影剤に対応する領域として決定する領域決定手段、および
前記造影剤に対応する領域と当該領域以外の領域とを識別できるように、前記数値範囲に含まれる前記分光画像の画像値に基づく態様で前記分光画像を表示させる表示制御手段を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項26】
前記表示制御手段は、前記造影剤に対応する領域と当該領域以外の領域とを識別できるように、前記数値範囲に含まれる前記分光画像の画像値に色を割り当てて前記分光画像を表示させることを特徴とする請求項
25に記載の画像処理装置。
【請求項27】
造影剤が導入された被検体に互いに異なる複数の波長の光を照射することにより発生した光音響波に基づいた、前記複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成された分光画像を取得し、
前記造影剤に対応する画像値の数値範囲に該当する前記分光画像の領域を、前記分光画像中の前記造影剤に対応する領域として決定し、
前記造影剤に対応する領域と当該領域以外の領域とを識別できるように、前記数値範囲に含まれる前記分光画像の画像値に基づく態様で前記分光画像を表示部に表示させることを特徴とする画像処理方法。
【請求項28】
前記造影剤に対応する領域と当該領域以外の領域とを識別できるように、前記数値範囲に含まれる前記分光画像の画像値に色を割り当てて前記分光画像を表示部に表示させることを特徴とする請求項27に記載の画像処理方法。
【請求項29】
請求項
21~23、27、28のいずれか1項に記載の画像処理方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響イメージングにより生成された画像に対する画像処理に関する。
【背景技術】
【0002】
血管やリンパ管等の検査において、造影剤を利用した光音響イメージング(「光超音波イメージング」ともよぶ。)が知られている。特許文献1には、リンパ節やリンパ管などの造影のために用いられる造影剤を評価対象とし、その造影剤が吸収して光音響波を発生する波長の光を出射する光音響画像生成装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の光音響イメージングでは、被検体内部の造影対象の構造(例えば、血管やリンパ管等の走行)を把握しにくい場合がある。
【0005】
そこで本発明は、光音響イメージングによって造影対象の構造を把握しやすい表示画像を生成する画像処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、造影剤が導入された被検体に互いに異なる複数の波長の光を照
射することにより発生した光音響波に基づいた、複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成された分光画像を取得する分光画像取得手段、造影剤に関する情報を取得する造影剤情報取得手段、造影剤に関する情報に基づいて、分光画像中の造影剤に対応する領域を決定する領域決定手段、および造影剤に対応する領域と当該領域以外の領域とを識別できるように、分光画像を表示させる表示制御手段を有することを特徴とする画像処理装置である。
本発明の第2の態様は、造影剤が導入された被検体に互いに異なる複数の波長の光を照射することにより発生した光音響波に基づいた、複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成された分光画像を取得する分光画像取得手段、造影剤に関する情報を取得する造影剤情報取得手段、および造影剤に関する情報に基づいて、分光画像の画像値に色を割り当てて分光画像を表示させる表示制御手段を有することを特徴とする画像処理装置である。
本発明の第3の態様は、造影剤が導入された被検体に互いに異なる複数の波長の光を照射することにより発生した光音響波に基づいた、複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成された分光画像を取得し、造影剤に関する情報を取得し、造影剤に関する情報に基づいて、分光画像中の造影剤に対応する領域を決定し、造影剤に対応する領域と当該領域以外の領域とを識別できるように、分光画像を表示部に表示させることを特徴とする画像処理方法である。
本発明の第4の態様は、造影剤が導入された被検体に互いに異なる複数の波長の光を照射することにより発生した光音響波に基づいた、複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成された分光画像を取得し、造影剤に関する情報を取得し、造影剤に関する情報に基づいて、分光画像の画像値に色を割り当てて分光画像を表示部に表示させることを特徴とする画像処理方法である。
本発明の第5の態様は、造影剤が導入された被検体に互いに異なる複数の波長の光を照射することにより発生した光音響波に基づいた、複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成された分光画像を取得する分光画像取得手段、造影剤に関する情報に基づいて、分光画像中の造影剤に対応する領域を決定する領域決定手段、および造影剤に対応する領域と当該領域以外の領域とを識別できるように、分光画像を表示させる表示制御手段を有することを特徴とする画像処理装置である。
本発明の第6の態様は、造影剤が導入された被検体に互いに異なる複数の波長の光を照射することにより発生した光音響波に基づいた、複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成された分光画像を取得する分光画像取得手段、造影剤に対応する画像値の数値範囲に該当する分光画像の領域を、分光画像中の造影剤に対応する領域として決定する領域決定手段、および造影剤に対応する領域と当該領域以外の領域とを識別できるように、数値範囲に含まれる分光画像の画像値に基づく態様で分光画像を表示させる表示制御手段を有することを特徴とする画像処理装置である。
本発明の第7の態様は、造影剤が導入された被検体に互いに異なる複数の波長の光を照射することにより発生した光音響波に基づいた、前記複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成された分光画像を取得し、前記造影剤に対応する画像値の数値範囲に該当する前記分光画像の領域を、前記分光画像中の前記造影剤に対応する領域として決定し、前記造影剤に対応する領域と当該領域以外の領域とを識別できるように、前記数値範囲に含まれる前記分光画像の画像値に基づく態様で前記分光画像を表示部に表示させることを特徴とする画像処理方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光音響イメージングによって造影対象の構造を把握しやすい表示画像を生成する画像処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシステムのブロック図
【
図2】本発明の一実施形態に係る画像処理装置とその周辺構成の具体例を示すブロック図
【
図3】本発明の一実施形態に係る光音響装置の詳細なブロック図
【
図5】本発明の一実施形態に係る画像処理方法のフロー図
【
図6】ICGの濃度を変化させたときの吸収係数スペクトルを示すグラフ
【
図7】波長の組み合わせを変化させたときの、造影剤に対応する式(1)の計算値の等高線グラフ
【
図8】ICGの濃度を変化させたときの、造影剤に対応する式(1)の計算値を示す折れ線グラフ
【
図9】オキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンのモラー吸収係数スペクトルを示すグラフ
【
図11】ICGの濃度を変化させたときの右前腕伸側の分光画像
【
図12】ICGの濃度を変化させたときの左前腕伸側の分光画像
【
図13】ICGの濃度を変化させたときの右下腿内側および左下腿内側の分光画像
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態について説明する。ただし、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状およびそれらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。よって、この発明の範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
【0010】
本発明に係るシステムにより得られる光音響画像は、光エネルギーの吸収量や吸収率を反映している。光音響画像は、光音響波の発生音圧(初期音圧)、光吸収エネルギー密度、及び光吸収係数などの少なくとも1つの被検体情報の空間分布を表す画像である。光音響画像は、2次元の空間分布を表す画像であってもよいし、3次元の空間分布を表す画像(ボリュームデータ)であってもよい。本実施形態に係るシステムは、造影剤が導入された被検体を撮影することにより光音響画像を生成する。なお、造影対象の立体構造を把握するために、光音響画像は、被検体表面から深さ方向の2次元の空間分布を表す画像または3次元の空間分布を表す画像であってもよい。
【0011】
また、本発明に係るシステムは、複数の波長に対応する複数の光音響画像を用いて被検体の分光画像を生成することができる。本発明の分光画像は、被検体に互いに異なる複数の波長の光を照射することにより発生した光音響波に基づいた、複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成された画像である。
なお、分光画像は、複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成された、被検体中の特定物質の濃度を示す画像であってもよい。使用する造影剤の光吸収係数スペクトルと、特定物質の光吸収係数スペクトルとが異なる場合、分光画像中の造影剤の画像値と分光画像中の特定物質の画像値とは異なる。よって、分光画像の画像値に応じて造影剤の領域と特定物質の領域とを区別することができる。なお、特定物質としては、ヘモグロビン、グルコース、コラーゲン、メラニン、脂肪や水など、被検体を構成する物質が挙げられる。この場合にも、特定物質の光吸収係数スペクトルとは異なる光吸収スペクトルを有する造影剤を選択する必要がある。また、特定物質の種類に応じて、異なる算出方法で分光画像を算出してもよい。
【0012】
以下に述べる実施形態では、酸素飽和度の計算式(1)を用いて算出された画像を分光画像として説明する。本発明者らは、複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号に基づいて血中ヘモグロビンの酸素飽和度(酸素飽和度に相関をもつ指標でもよい)を計算する式(1)に対し、光吸収係数の波長依存性がオキシヘモグロビンおよびデオキシヘモグロビンとは異なる傾向を示す造影剤で得られた光音響信号の計測値I(r)を代入した場合に、ヘモグロビンの酸素飽和度が取り得る数値範囲から大きくずれた計算値Is(r)が得られる、ということを見出した。それゆえ、この計算値Is(r)を画像値としてもつ分光画像を生成すれば、被検体内部におけるヘモグロビンの領域(血管領域)と造影剤の存在領域(例えばリンパ管に造影剤が導入された場合であればリンパ管の領域)とを画像上で分離(区別)することが容易となる。
【数1】
ここで、I
λ
1(r)は第1波長λ
1の光照射により発生した光音響波に基づいた計測値であり、I
λ
2(r)は第2波長λ
2の光照射により発生した光音響波に基づいた計測値である。ε
Hb
λ
1は第1波長λ
1に対応するデオキシヘモグロビンのモラー吸収係数[mm
-1mol
-1]であり、ε
Hb
λ
2は第2波長λ
2に対応するデオキシヘモグロビンのモラー吸収係数[mm
-1mol
-1]である。ε
HbO
λ
1は第1波長λ
1に対応するオキシヘモグロビンのモラー吸収係数[mm
-1mol
-1]であり、ε
HbO
λ
2は第2波長λ
2に対応するオキシヘモグロビンのモラー吸収係数[mm
-1mol
-1]である。rは位置である。なお、計測値I
λ
1(r)、I
λ
2(r)としては、吸収係数μ
a
λ
1(r)、μ
a
λ
2(r)を用いてもよいし、初期音圧P
0
λ
1(r)、P
0
λ
2(r)を用いてもよい。
【0013】
ヘモグロビンの存在領域(血管領域)から発生した光音響波に基づいた計測値を式(1)に代入すると、計算値Is(r)として、ヘモグロビンの酸素飽和度(または酸素飽和度に相関をもつ指標)が得られる。一方、造影剤を導入した被検体において、造影剤の存在領域(例えばリンパ管領域)から発生した音響波に基づいた計測値を式(1)に代入すると、計算値Is(r)として、擬似的な造影剤の濃度分布が得られる。なお、造影剤の濃度分布を計算する場合でも、式(1)ではヘモグロビンのモラー吸収係数の数値をそのまま用いればよい。このようにして得られた分光画像Is(r)は、被検体内部のヘモグロビンの存在領域(血管)と造影剤の存在領域(例えばリンパ管)の両方が互いに分離可能(区別可能)な状態で描出された画像となる。
【0014】
なお、本実施形態では、酸素飽和度を計算する式(1)を用いて分光画像の画像値を計算するが、酸素飽和度以外の指標を分光画像の画像値として計算する場合には、式(1)以外の算出方法を用いればよい。指標およびその算出方法としては、公知のものを利用可能であるため、ここでは詳しい説明を割愛する。
【0015】
また、本発明に係るシステムは、第1波長λ1の光照射により発生した光音響波に基づいた第1光音響画像および第2波長λ2の光照射により発生した光音響波に基づいた第2光音響画像の比を示す画像を分光画像としてもよい。すなわち、第1波長λ1の光照射により発生した光音響波に基づいた第1光音響画像および第2波長λ2の光照射により発生した光音響波に基づいた第2光音響画像の比に基づいた画像を分光画像としてよい。なお、式(1)の変形式にしたがって生成される画像も、第1光音響画像および第2光音響画像の比によって表現できるため、第1光音響画像および第2光音響画像の比に基づいた画像(分光画像)といえる。
【0016】
なお、造影対象の立体構造を把握するために、分光画像は、被検体表面から深さ方向の2次元の空間分布を表す画像または3次元の空間分布を表す画像であってもよい。
【0017】
以下、本実施形態のシステムの構成及び画像処理方法について説明する。
図1を用いて本実施形態に係るシステムを説明する。
図1は、本実施形態に係るシステムの構成を示すブロック図である。本実施形態に係るシステムは、光音響装置1100、記憶装置1200、画像処理装置1300、表示装置1400、及び入力装置1500を
備える。装置間のデータの送受信は有線で行われてもよいし、無線で行われてもよい。
【0018】
光音響装置1100は、造影剤が導入された被検体を撮影することにより光音響画像を生成し、記憶装置1200に出力する。光音響装置1100は、光照射により発生した光音響波を受信することにより得られる受信信号を用いて、被検体内の複数位置のそれぞれに対応する特性値の情報を生成する装置である。すなわち、光音響装置1100は、光音響波に由来した特性値情報の空間分布を医用画像データ(光音響画像)として生成する装置である。
【0019】
記憶装置1200は、ROM(Read only memory)、磁気ディスクやフラッシュメモリなどの記憶媒体であってもよい。また、記憶装置1200は、PACS(Picture Archiving and Communication System)等のネットワークを介した記憶サーバであってもよい。
【0020】
画像処理装置1300は、記憶装置1200に記憶された光音響画像や光音響画像の付帯情報等の情報を処理する装置である。
画像処理装置1300の演算機能を担うユニットは、CPUやGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサ、FPGA(Field Programmable Gate Array)チップ等の演算回路で構成されることができる。これらのユニットは、単一のプロセッサや演算回路から構成されるだけでなく、複数のプロセッサや演算回路から構成されていてもよい。
画像処理装置1300の記憶機能を担うユニットは、ROM(Read only memory)、磁気ディスクやフラッシュメモリなどの非一時記憶媒体で構成することができる。また、記憶機能を担うユニットは、RAM(Random Access Memory)などの揮発性の媒体であってもよい。なお、プログラムが格納される記憶媒体は、非一時記憶媒体である。なお、記憶機能を担うユニットは、1つの記憶媒体から構成されるだけでなく、複数の記憶媒体から構成されていてもよい。
画像処理装置1300の制御機能を担うユニットは、CPUなどの演算素子で構成される。制御機能を担うユニットは、システムの各構成の動作を制御する。制御機能を担うユニットは、入力部からの測定開始などの各種操作による指示信号を受けて、システムの各構成を制御してもよい。また、制御機能を担うユニットは、コンピュータ150に格納されたプログラムコードを読み出し、システムの各構成の作動を制御してもよい。
【0021】
表示装置1400は、液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)などのディスプレイである。また、表示装置1400は、画像や装置を操作するためのGUIを表示してもよい。
【0022】
入力装置1500としては、ユーザーが操作可能な、マウスやキーボードなどで構成される操作コンソールを採用することができる。また、表示装置1400をタッチパネルで構成し、表示装置1400を入力装置1500として利用してもよい。
【0023】
図2は、本実施形態に係る画像処理装置1300の具体的な構成例を示す。本実施形態に係る画像処理装置1300は、CPU1310、GPU1320、RAM1330、ROM1340、外部記憶装置1350から構成される。また、画像処理装置1300には、表示装置1400としての液晶ディスプレイ1410、入力装置1500としてのマウス1510、キーボード1520が接続されている。さらに、画像処理装置1300は、PACS(Picture Archiving and Communication
System)などの記憶装置1200としての画像サーバ1210と接続されている。これにより、画像データを画像サーバ1210上に保存したり、画像サーバ1210上の画像データを液晶ディスプレイ1410に表示したりすることができる。
【0024】
次に、本実施形態に係るシステムに含まれる装置の構成例を説明する。
図3は、本実施形態に係るシステムに含まれる装置の概略ブロック図である。
【0025】
本実施形態に係る光音響装置1100は、駆動部130、信号収集部140、コンピュータ150、プローブ180、及び導入部190を有する。プローブ180は、光照射部110、及び受信部120を有する。
図4は、本実施形態に係るプローブ180の模式図を示す。測定対象は、導入部190により造影剤が導入された被検体100である。駆動部130は、光照射部110と受信部120を駆動し、機械的な走査を行う。光照射部110が光を被検体100に照射し、被検体100内で音響波が発生する。光に起因して光音響効果により発生する音響波を光音響波とも呼ぶ。受信部120は、光音響波を受信することによりアナログ信号としての電気信号(光音響信号)を出力する。
【0026】
信号収集部140は、受信部120から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換し、コンピュータ150に出力する。コンピュータ150は、信号収集部140から出力されたデジタル信号を、光音響波に由来する信号データとして記憶する。
【0027】
コンピュータ150は、記憶されたデジタル信号に対して信号処理を行うことにより、光音響画像を生成する。また、コンピュータ150は、得られた光音響画像に対して画像処理を施した後に、光音響画像を表示部160に出力する。表示部160は、光音響画像に基づいた画像を表示する。表示画像は、ユーザーやコンピュータ150からの保存指示に基づいて、コンピュータ150内のメモリや、モダリティとネットワークで接続されたデータ管理システムなどの記憶装置1200に保存される。
【0028】
また、コンピュータ150は、光音響装置に含まれる構成の駆動制御も行う。また、表示部160は、コンピュータ150で生成された画像の他にGUIなどを表示してもよい。入力部170は、ユーザーが情報を入力できるように構成されている。ユーザーは、入力部170を用いて測定開始や終了、作成画像の保存指示などの操作を行うことができる。
以下、本実施形態に係る光音響装置1100の各構成の詳細を説明する。
【0029】
(光照射部110)
光照射部110は、光を発する光源111と、光源111から射出された光を被検体100へ導く光学系112とを含む。なお、光は、いわゆる矩形波、三角波などのパルス光を含む。
【0030】
光源111が発する光のパルス幅としては、熱閉じ込め条件および応力閉じ込め条件を考慮すると、100ns以下のパルス幅であることが好ましい。また、光の波長として400nmから1600nm程度の範囲の波長であってもよい。血管を高解像度でイメージングする場合は、血管での吸収が大きい波長(400nm以上、700nm以下)を用いてもよい。生体の深部をイメージングする場合には、生体の背景組織(水や脂肪など)において典型的に吸収が少ない波長(700nm以上、1100nm以下)の光を用いてもよい。
【0031】
光源111としては、レーザーや発光ダイオードを用いることができる。また、複数波長の光を用いて測定する際には、波長の変更が可能な光源であってもよい。なお、複数波長を被検体に照射する場合、互いに異なる波長の光を発生する複数台の光源を用意し、それぞれの光源から交互に照射することも可能である。複数台の光源を用いた場合もそれらをまとめて光源として表現する。レーザーとしては、固体レーザー、ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなど様々なレーザーを使用することができる。例えば、Nd:
YAGレーザーやアレキサンドライトレーザーなどのパルスレーザーを光源として用いてもよい。また、Nd:YAGレーザー光を励起光とするTi:saレーザーやOPO(Optical Parametric Oscillators)レーザーを光源として用いてもよい。また、光源111としてフラッシュランプや発光ダイオードを用いてもよい。また、光源111としてマイクロウェーブ源を用いてもよい。
【0032】
光学系112には、レンズ、ミラー、光ファイバ等の光学素子を用いることができる。乳房等を被検体100とする場合、パルス光のビーム径を広げて照射するために、光学系の光出射部は光を拡散させる拡散板等で構成されていてもよい。一方、光音響顕微鏡においては、解像度を上げるために、光学系112の光出射部はレンズ等で構成し、ビームをフォーカスして照射してもよい。
なお、光照射部110が光学系112を備えずに、光源111から直接被検体100に光を照射してもよい。
【0033】
(受信部120)
受信部120は、音響波を受信することにより電気信号を出力するトランスデューサ121と、トランスデューサ121を支持する支持体122とを含む。また、トランスデューサ121は、音響波を送信する送信手段としてもよい。受信手段としてのトランスデューサと送信手段としてのトランスデューサとは、単一(共通)のトランスデューサでもよいし、別々の構成であってもよい。
【0034】
トランスデューサ121を構成する部材としては、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミック材料や、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電膜材料などを用いることができる。また、圧電素子以外の素子を用いてもよい。例えば、静電容量型トランスデューサ(CMUT:Capacitive Micro-machined Ultrasonic Transducers)を用いたトランスデューサなどを用いることができる。なお、音響波を受信することにより電気信号を出力できる限り、いかなるトランスデューサを採用してもよい。また、トランスデューサにより得られる信号は時間分解信号である。つまり、トランスデューサにより得られる信号の振幅は、各時刻にトランスデューサで受信される音圧に基づく値(例えば、音圧に比例した値)を表したものである。
光音響波を構成する周波数成分は、典型的には100KHzから100MHzであり、トランスデューサ121として、これらの周波数を検出することのできるものを採用してもよい。
【0035】
支持体122は、機械的強度が高い金属材料などから構成されていてもよい。照射光を被検体に多く入射させるために、支持体122の被検体100側の表面に、鏡面加工もしくは光散乱させる加工が行われていてもよい。本実施形態において支持体122は半球殻形状であり、半球殻上に複数のトランスデューサ121を支持できるように構成されている。この場合、支持体122に配置されたトランスデューサ121の指向軸は半球の曲率中心付近に集まる。そして、複数のトランスデューサ121から出力された信号を用いて画像化したときに曲率中心付近の画質が高くなる。なお、支持体122はトランスデューサ121を支持できる限り、いかなる構成であってもよい。支持体122は、1Dアレイ、1.5Dアレイ、1.75Dアレイ、2Dアレイと呼ばれるような平面又は曲面内に、複数のトランスデューサを並べて配置してもよい。複数のトランスデューサ121が複数の受信手段に相当する。
【0036】
また、支持体122は音響マッチング材を貯留する容器として機能してもよい。すなわち、支持体122をトランスデューサ121と被検体100との間に音響マッチング材を配置するための容器としてもよい。
【0037】
また、受信部120が、トランスデューサ121から出力される時系列のアナログ信号を増幅する増幅器を備えてもよい。また、受信部120が、トランスデューサ121から出力される時系列のアナログ信号を時系列のデジタル信号に変換するA/D変換器を備えてもよい。すなわち、受信部120が後述する信号収集部140を備えてもよい。
【0038】
受信部120と被検体100との間の空間は、光音響波が伝播することができる媒質で満たす。この媒質には、音響波が伝搬でき、被検体100やトランスデューサ121との界面において音響特性が整合し、できるだけ光音響波の透過率が高い材料を採用する。例えば、この媒質には、水、超音波ジェルなどを採用することができる。
【0039】
図4は、プローブ180の側面図を示す。本実施形態に係るプローブ180は、開口を有する半球状の支持体122に複数のトランスデューサ121が3次元に配置された受信部120を有する。また、支持体122の底部には、光学系112の光射出部が配置されている。
【0040】
本実施形態においては、
図4に示すように被検体100は、保持部200に接触することにより、その形状が保持される。
【0041】
受信部120と保持部200の間の空間は、光音響波が伝播することができる媒質で満たされる。この媒質には、光音響波が伝搬でき、被検体100やトランスデューサ121との界面において音響特性が整合し、できるだけ光音響波の透過率が高い材料を採用する。例えば、この媒質には、水、超音波ジェルなどを採用することができる。
【0042】
保持手段としての保持部200は被検体100の形状を測定中に保持するために使用される。保持部200により被検体100を保持することによって、被検体100の動きの抑制および被検体100の位置を保持部200内に留めることができる。保持部200の材料には、ポリカーボネートやポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等、樹脂材料を用いることができる。
保持部200は、取り付け部201に取り付けられている。取り付け部201は、被検体の大きさに合わせて複数種類の保持部200を交換可能に構成されていてもよい。例えば、取り付け部201は、曲率半径や曲率中心などの異なる保持部に交換できるように構成されていてもよい。
【0043】
(駆動部130)
駆動部130は、被検体100と受信部120との相対位置を変更する部分である。駆動部130は、駆動力を発生させるステッピングモータなどのモータと、駆動力を伝達させる駆動機構と、受信部120の位置情報を検出する位置センサとを含む。駆動機構としては、リードスクリュー機構、リンク機構、ギア機構、油圧機構、などを用いることができる。また、位置センサとしては、エンコーダー、可変抵抗器、リニアスケール、磁気センサ、赤外線センサ、超音波センサなどを用いたポテンショメータなどを用いることができる。
【0044】
なお、駆動部130は被検体100と受信部120との相対位置をXY方向(二次元)に変更させるものに限らず、一次元または三次元に変更させてもよい。
なお、駆動部130は、被検体100と受信部120との相対的な位置を変更できれば、受信部120を固定し、被検体100を移動させてもよい。被検体100を移動させる場合は、被検体100を保持する保持部を動かすことで被検体100を移動させる構成などが考えられる。また、被検体100と受信部120の両方を移動させてもよい。
駆動部130は、相対位置を連続的に移動させてもよいし、ステップアンドリピートに
よって移動させてもよい。駆動部130は、プログラムされた軌跡で移動させる電動ステージであってもよいし、手動ステージであってもよい。
【0045】
また、本実施形態では、駆動部130は光照射部110と受信部120を同時に駆動して走査を行っているが、光照射部110だけを駆動したり、受信部120だけを駆動したりしてもよい。
なお、プローブ180が、把持部が設けられたハンドヘルドタイプである場合、光音響装置1100は駆動部130を有していなくてもよい。
【0046】
(信号収集部140)
信号収集部140は、トランスデューサ121から出力されたアナログ信号である電気信号を増幅するアンプと、アンプから出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器とを含む。信号収集部140から出力されるデジタル信号は、コンピュータ150に記憶される。信号収集部140は、Data Acquisition System(DAS)とも呼ばれる。本明細書において電気信号は、アナログ信号もデジタル信号も含む概念である。なお、フォトダイオードなどの光検出センサが、光照射部110から光射出を検出し、信号収集部140がこの検出結果をトリガーに同期して上記処理を開始してもよい。
【0047】
(コンピュータ150)
情報処理装置としてのコンピュータ150は、画像処理装置1300と同様のハードウェアで構成されている。すなわち、コンピュータ150の演算機能を担うユニットは、CPUやGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサ、FPGA(Field Programmable Gate Array)チップ等の演算回路で構成されることができる。これらのユニットは、単一のプロセッサや演算回路から構成されるだけでなく、複数のプロセッサや演算回路から構成されていてもよい。
【0048】
コンピュータ150の記憶機能を担うユニットは、RAM(Random Access Memory)などの揮発性の媒体であってもよい。なお、プログラムが格納される記憶媒体は、非一時記憶媒体である。なお、コンピュータ150の記憶機能を担うユニットは、1つの記憶媒体から構成されるだけでなく、複数の記憶媒体から構成されていてもよい。
【0049】
コンピュータ150の制御機能を担うユニットは、CPUなどの演算素子で構成される。コンピュータ150の制御機能を担うユニットは、光音響装置の各構成の動作を制御する。コンピュータ150の制御機能を担うユニットは、入力部170からの測定開始などの各種操作による指示信号を受けて、光音響装置の各構成を制御してもよい。また、コンピュータ150の制御機能を担うユニットは、記憶機能を担うユニットに格納されたプログラムコードを読み出し、光音響装置の各構成の作動を制御する。すなわち、コンピュータ150は、本実施形態に係るシステムの制御装置として機能することができる。
【0050】
なお、コンピュータ150と画像処理装置1300は同じハードウェアで構成されていてもよい。1つのハードウェアがコンピュータ150と画像処理装置1300の両方の機能を担っていてもよい。すなわち、コンピュータ150が、画像処理装置1300の機能を担ってもよい。また、画像処理装置1300が、情報処理装置としてのコンピュータ150の機能を担ってもよい。
【0051】
(表示部160)
表示部160は、液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)などのディスプレイである。また、表示部160は、画像や装置を操作するため
のGUIを表示してもよい。
なお、表示部160と表示装置1400は同じディスプレイであってもよい。すなわち、1つのディスプレイが表示部160と表示装置1400の両方の機能を担っていてもよい。
【0052】
(入力部170)
入力部170としては、ユーザーが操作可能な、マウスやキーボードなどで構成される操作コンソールを採用することができる。また、表示部160をタッチパネルで構成し、表示部160を入力部170として利用してもよい。
なお、入力部170と入力装置1500は同じ装置であってもよい。すなわち、1つの装置が入力部170と入力装置1500の両方の機能を担っていてもよい。
【0053】
(導入部190)
導入部190は、被検体100の外部から被検体100の内部へ造影剤を導入可能に構成されている。例えば、導入部190は造影剤の容器と被検体に刺す注射針とを含むことができる。しかしこれに限られず、導入部190は、造影剤を被検体100に導入することができる限り種々のものを適用可能である。導入部190は、この場合、例えば、公知のインジェクションシステムやインジェクタなどであってもよい。なお、制御装置としてのコンピュータ150が、導入部190の動作を制御することにより、被検体100に造影剤を導入してもよい。また、ユーザーが導入部190を操作することにより、被検体100に造影剤を導入してもよい。
【0054】
(被検体100)
被検体100はシステムを構成するものではないが、以下に説明する。本実施形態に係るシステムは、人や動物の悪性腫瘍や血管疾患などの診断や化学治療の経過観察などを目的として使用できる。よって、被検体100としては、生体、具体的には人体や動物の乳房や各臓器、血管網、頭部、頸部、腹部、手指または足指を含む四肢などの診断の対象部位が想定される。例えば、人体が測定対象であれば、オキシヘモグロビンあるいはデオキシヘモグロビンやそれらを含む多く含む血管あるいは腫瘍の近傍に形成される新生血管などを光吸収体の対象としてもよい。また、頸動脈壁のプラークなどを光吸収体の対象としてもよい。また、皮膚等に含まれるメラニン、コラーゲン、脂質などを光吸収体の対象としてもよい。さらに、被検体100に導入する造影剤を光吸収体とすることができる。光音響イメージングに用いる造影剤としては、インドシアニングリーン(ICG)、メチレンブルー(MB)などの色素、金微粒子、及びそれらの混合物、またはそれらを集積あるいは化学的に修飾した外部から導入した物質を採用してもよい。また、生体を模したファントムを被検体100としてもよい。
【0055】
なお、光音響装置の各構成はそれぞれ別の装置として構成されてもよいし、一体となった1つの装置として構成されてもよい。また、光音響装置の少なくとも一部の構成が一体となった1つの装置として構成されてもよい。
なお、本実施形態に係るシステムを構成する各装置は、それぞれが別々のハードウェアで構成されていてもよいし、全ての装置が1つのハードウェアで構成されていてもよい。本実施形態に係るシステムの機能は、いかなるハードウェアで構成されていてもよい。
【0056】
次に、
図5に示すフローチャートを用いて、本実施形態に係る画像生成方法を説明する。なお、
図5に示すフローチャートには、本実施形態に係るシステムの動作を示す工程も、医師等のユーザーの動作を示す工程も含まれている。
【0057】
(S100:検査オーダー情報を取得する工程)
光音響装置1100のコンピュータ150は、HIS(Hospitai Infor
mation System)やRIS(Radiology Information
System)などの院内情報システムから送信された検査オーダー情報を取得する。検査オーダー情報には、検査に用いるモダリティの種類や検査に使用する造影剤などの情報が含まれている。
【0058】
(S200:ユーザーの指示または検査オーダー情報に基づいて造影剤に関する情報を取得する工程)
造影剤情報取得手段としてのコンピュータ150は、造影剤に関する情報を取得する。ユーザーは、入力部170を用いて、検査に使用する造影剤の種類や造影剤の濃度を指示してもよい。この場合、コンピュータ150は、入力部170を介して、造影剤に関する情報を取得することができる。また、コンピュータ150は、S100で取得した検査オーダー情報に造影剤に関する情報が含まれている場合、検査オーダー情報から造影剤に関する情報を読み出すことにより、取得してもよい。コンピュータ150は、ユーザーの指示と検査オーダー情報との少なくとも一つに基づいて、造影剤に関する情報を取得してもよい。例えば、造影剤の条件を示す造影剤に関する情報としては、造影剤の種類や造影剤の濃度などが挙げられる。
【0059】
図10は、表示部160に表示されるGUIの例を示す。GUIのアイテム2500には、患者ID、検査ID、撮影日時などの検査オーダー情報が表示されている。アイテム2500は、HISやRISなどの外部装置から取得した検査オーダー情報を表示する表示機能や、ユーザーが入力部170を用いて検査オーダー情報を入力することのできる入力機能を備えていてもよい。GUIのアイテム2600には、造影剤の種類、造影剤の濃度などの造影剤に関する情報が表示されている。アイテム2600は、HISやRISなどの外部装置から取得した造影剤に関する情報を表示する表示機能や、ユーザーが入力部170を用いて造影剤に関する情報を入力することのできる入力機能を備えていてもよい。アイテム2600においては、造影剤の種類や濃度などの造影剤に関する情報を複数の選択肢の中からプルダウンなどの方法で入力できてもよい。なお、表示装置1400に
図10に示すGUIを表示してもよい。
【0060】
なお、画像処理装置1300が、ユーザーから造影剤に関する情報の入力指示を受信しなかった場合に、複数の造影剤に関する情報の中からデフォルトで設定された造影剤に関する情報を取得してもよい。本実施形態の場合、造影剤の種類としてICG、造影剤の濃度として1.0mg/mLがデフォルトで設定されている場合を説明する。本実施形態では、GUIのアイテム2600にはデフォルトで設定されている造影剤の種類と濃度が表示されているが、造影剤に関する情報がデフォルトで設定されていなくてもよい。この場合、初期画面ではGUIのアイテム2600に造影剤に関する情報が表示されていなくてもよい。
【0061】
(S300:造影剤を導入する工程)
導入部190は、被検体に対して造影剤を導入する。ユーザーが、導入部190を用いて被検体に造影剤を導入したときに、ユーザーが入力部170を操作することにより、造影剤が導入されたことを表す信号を入力部170から制御装置としてのコンピュータ150に送信してもよい。また、導入部190が被検体100に造影剤が導入されたことを表す信号をコンピュータ150に送信してもよい。なお、導入部190を用いずに造影剤を被検体に投与してもよい。例えば、被検体としての生体が噴霧された造影剤を吸引することにより、造影剤が投与されてもよい。
造影剤の導入後に被検体100内の造影対象に造影剤が行き渡るまで時間をおいてから後述するS400を実行してもよい。
【0062】
(S400:照射光の波長を決定する工程)
波長決定手段としてのコンピュータ150は、S200で取得された造影剤に関する情報に基づいて、照射光の波長を決定する。本実施形態では、分光画像を生成するために、コンピュータ150が造影剤に関する情報に基づいて複数の波長を決定する。以下、分光画像中の造影剤に対応する領域を識別しやすくするための波長の組み合わせについて説明する。
【0063】
本実施形態では、後述するS800において、式(1)にしたがった画像を分光画像として生成する場合を考える。式(1)によれば、分光画像中の血管の領域については、実際の酸素飽和度に応じた画像値が算出される。しかし、分光画像中の造影剤の領域については、使用する波長によって大きく画像値が変化してしまう。さらに、分光画像中の造影剤の領域については、造影剤の吸収係数スペクトルによっても大きく画像値が変動してしまう。その結果、分光画像中の造影剤の領域の画像値が、血管の領域の画像値と識別できないような値となってしまう場合がある。一方、造影剤の三次元分布を把握するためには、分光画像中の造影剤の領域の画像値が、血管の領域の画像値と識別できるような値であることが好ましい。
【0064】
そこで、本発明者は、検査に使用する造影剤の条件に応じて、照射光の波長を適応的に変更することにより、分光画像中の造影剤の領域の画像値を制御することを着想した。すなわち、情報処理装置が、造影剤に関する情報に基づいて、分光画像中の造影剤の領域と血管の領域を識別できるような照射光の波長を決定することを本発明者は考案した。
【0065】
具体的には、分光画像として式(1)を用いた画像を生成する場合、動静脈の酸素飽和度が概ねパーセント表示で60%~100%に収まることを利用して照射光の波長を決定してもよい。すなわち、情報処理装置としてのコンピュータ150が、造影剤に関する情報に基づいて、分光画像中の造影剤に対応する式(1)の値が60%より小さくなる、または、100%より大きくなるような2波長を決定してもよい。また、コンピュータ150が、造影剤に関する情報に基づいて、分光画像中の造影剤に対応する領域の画像値とそれ以外の領域の画像値との符号が逆となるような2波長を決定してもよい。
【0066】
次に、造影剤に関する情報として造影剤の濃度を変化させたときの造影剤に対応する画像値の変化について説明する。
図6は、造影剤としてのICGの濃度を変えたときの吸収係数スペクトルの変化を示したスペクトル図である。
図6において下から順に、ICGの濃度が5.04μg/mL、50.4μg/mL、0.5mg/mL、1.0mg/mLの場合のスペクトル図を示している。
図6に示すように、造影剤の濃度が高くなるにつれて光の吸収度合いが高くなることが理解される。また、造影剤の濃度に応じて2波長に対応する吸収係数の比が変化するため、造影剤の濃度に応じて、分光画像中の造影剤に対応する画像値が変化してしまうことが理解される。造影剤の濃度が変化したときと同様に、造影剤の種類が変化したときにも、2波長に対応する吸収係数の比が変化する。そのため、造影剤の種類に応じても、分光画像中の造影剤に対応する画像値が変化してしまうことが理解される。
【0067】
ここで、ICGを導入した生体に対して光音響装置を用いて撮影することにより得られた分光画像について説明する。
図11~
図13は、濃度を変えてICGを導入した場合に撮影して得られた分光画像を示す。いずれの撮影においても、手もしくは足の皮下もしくは皮内にICGを1か所につき0.1mL導入した。皮下もしくは皮内に導入されたICGは、リンパ管に選択的に取り込まれるため、リンパ管の内腔が造影される。また、いずれの撮影においても、ICGの導入から5分~60分以内に撮影した。また、いずれの分光画像も、797nmの波長の光と835nmの波長の光とを生体に照射することにより得られた光音響画像から生成された分光画像である。
【0068】
図11(A)は、ICGを導入しなかった場合の右前腕伸側の分光画像を示す。一方、
図11(B)は、2.5mg/mLの濃度のICGを導入したときの右前腕伸側の分光画像を示す。
図11(B)中の破線および矢印で示した領域にリンパ管が描出されている。
図12(A)は、1.0mg/mLの濃度のICGを導入したときの左前腕伸側の分光画像を示す。
図12(B)は、5.0mg/mLの濃度のICGを導入したときの左前腕伸側の分光画像を示す。
図12(B)中の破線および矢印で示した領域にリンパ管が描出されている。
図13(A)は、0.5mg/mLの濃度のICGを導入したときの右下腿内側の分光画像を示す。
図13(B)は、5.0mg/mLの濃度のICGを導入したときの左下腿内側の分光画像を示す。
図13(B)中の破線および矢印で示した領域にリンパ管が描出されている。
【0069】
図11~
図13に示す分光画像によれば、ICGの濃度を高くすると、分光画像の中のリンパ管の視認性が向上することが理解される。また、
図11~
図13によれば、ICGの濃度が2.5mg/mL以上の場合にリンパ管が良好に描出できることが理解される。すなわち、ICGの濃度が2.5mg/mL以上である場合に線上のリンパ管を明確に視認することができる。そのため、造影剤としてICGを採用する場合、その濃度は2.5mg/mL以上であってもよい。なお、生体内でのICGの希釈を考慮すると、ICGの濃度は5.0mg/mLより大きくてもよい。ただし、ジアグノグリーンの可溶性を鑑みると、10.0mg/mL以上の濃度で水溶液に溶かすことは困難である。
以上より、生体に導入するICGの濃度としては、2.5mg/mL以上、10.0mg/mL以下がよく、好適には、5.0mg/mL以上、10.0mg/mL以下がよい。
【0070】
そこで、コンピュータ150は、
図10に示すGUIのアイテム2600において造影剤の種類としてICGが入力された場合に、上記数値範囲のICGの濃度を示すユーザーからの指示を選択的に受け付けるように構成されていてもよい。すなわち、この場合、コンピュータ150は、上記数値範囲以外のICGの濃度を示すユーザーからの指示を受け付けないように構成されていてもよい。よって、コンピュータ150は、造影剤の種類がICGであることを示す情報を取得した場合に、2.5mg/mLより小さい、または、10.0mg/mLより大きいICGの濃度を示すユーザーからの指示を受け付けないように構成されていてもよい。また、コンピュータ150は、造影剤の種類がICGであることを示す情報を取得した場合に5.0mg/mLより小さい、または、10.0mg/mLより大きいICGの濃度を示すユーザーからの指示を受け付けないように構成されていてもよい。
【0071】
コンピュータ150は、ユーザーがGUI上で上記数値範囲以外のICGの濃度を指示できないようにGUIを構成してもよい。すなわち、コンピュータ150は、ユーザーがGUI上で上記数値範囲以外のICGの濃度を指示できないようにGUIを表示させてもよい。例えば、コンピュータ150は、GUI上で上記数値範囲のICGの濃度を選択的に指示できるプルダウンを表示させてもよい。コンピュータ150は、プルダウンの中の上記数値範囲以外のICGの濃度をグレーアウトさせて表示し、グレーアウトされた濃度を選択できないようにGUIを構成してもよい。
【0072】
また、コンピュータ150は、GUI上で上記数値範囲以外のICGの濃度がユーザーから指示された場合にアラートを通知してもよい。通知方法としては、表示部160へのアラートの表示や、音やランプの点灯などのあらゆる方法を採用することができる。
また、コンピュータ150は、GUI上で造影剤の種類としてICGが選択された場合に、被検体に導入するICGの濃度として上記数値範囲を表示部160に表示させてもよい。
【0073】
なお、被検体に導入する造影剤の濃度は、ここで示した数値範囲に限らず、目的に応じた好適な濃度を採用することができる。また、ここでは造影剤の種類がICGである場合の例について説明したが、その他の造影剤においても同様に上記構成を適用することができる。
このようにGUIを構成することにより、被検体に導入する予定の造影剤の種類に応じて、適当な造影剤の濃度をユーザーが被検体に導入するための支援を行うことができる。
【0074】
次に、波長の組み合わせを変更したときの分光画像中の造影剤に対応する画像値の変化について説明する。
図7は、2波長の組み合わせのそれぞれにおける、分光画像中の造影剤に対応する画像値(酸素飽和度値)のシミュレーション結果を示す。
図7の縦軸と横軸はそれぞれ第1波長と第2波長を表す。
図7には、分光画像中の造影剤に対応する画像値の等値線が示されている。
図7(a)~
図7(d)はそれぞれ、ICGの濃度が5.04μg/mL、50.4μg/mL、0.5mg/mL、1.0mg/mLのときの分光画像中の造影剤に対応する画像値を示す。
図7に示すように、選択する波長の組み合わせによっては、分光画像中の造影剤に対応する画像値が60%~100%となってしまう場合がある。前述したように、このような波長の組み合わせを選択してしまうと、分光画像中の血管の領域と造影剤の領域とを識別することが困難となってしまう。そのため、
図7に示す波長の組み合わせにおいて、分光画像中の造影剤に対応する画像値が60%より小さくなる、または、100%より大きくなるような波長の組み合わせを選択することが好ましい。さらには、
図7に示す波長の組み合わせにおいて、分光画像中の造影剤に対応する画像値が負値となるような波長の組み合わせを選択することが好ましい。
【0075】
例えば、ここで第1波長として797nmを選択し、第2波長として835nmを選択した場合を考える。
図8は、第1波長として797nmを選択し、第2波長として835nmを選択した場合に、ICGの濃度と分光画像中の造影剤に対応する画像値(式(1)の値)との関係を示すグラフである。
図8によれば、第1波長として797nmを選択し、第2波長として835nmを選択した場合、5.04μg/mL~1.0mg/mLのいずれの濃度であっても、分光画像中の造影剤に対応する画像値は負値となる。そのため、このような波長の組み合わせにより生成された分光画像によれば、血管の酸素飽和度値は原理上負値をとることはないため、血管の領域と造影剤の領域とを明確に識別することができる。
【0076】
なお、これまで造影剤に関する情報に基づいて波長を決定することを説明したが、波長の決定においてヘモグロビンの吸収係数を考慮してもよい。
図9は、オキシヘモグロビンのモラー吸収係数(破線)とデオキシヘモグロビンのモラー吸収係数(実線)のスペクトルを示す。
図9に示す波長レンジにおいては、797nmを境にオキシヘモグロビンのモラー吸収係数とデオキシヘモグロビンのモラー吸収係数の大小関係が逆転している。すなわち、797nmよりも短い波長においては静脈を把握しやすく、797nmよりも長い波長においては動脈を把握しやすいといえる。ところで、リンパ浮腫の治療においては、リンパ管と静脈との間にバイパスを作製するリンパ管細静脈吻合術が利用されている。この術前検査のために、光音響イメージングによって静脈と造影剤が蓄積したリンパ管との両方を画像化することが考えられる。この場合に、複数の波長の少なくとも1つを797nmよりも小さい波長とすることにより、静脈をより明確に画像化することができる。また、複数の波長の少なくとも1つを、オキシヘモグロビンのモラー吸収係数よりもデオキシヘモグロビンのモラー吸収係数が大きくなる波長とすることが静脈を画像化するうえで有利である。また、2波長に対応する光音響画像から分光画像を生成する場合、2波長のいずれもオキシヘモグロビンのモラー吸収係数よりもデオキシヘモグロビンのモラー吸収係数が大きい波長とすることが、静脈を画像化するうえで有利である。これらの波長を選択することにより、リンパ管細静脈吻合術の術前検査において、造影剤が導入されたリン
パ管と静脈との両方を精度良く画像化することができる。
【0077】
ところで、複数の波長のいずれも血液よりも造影剤の吸収係数が大きい波長であると、造影剤由来のアーチファクトにより血液の酸素飽和度精度が低下してしまう。そこで、造影剤由来のアーチファクトを低減するために、複数の波長の少なくとも1つの波長が、血液の吸収係数に対して造影剤の吸収係数が小さくなる波長であってもよい。
【0078】
ここでは、式(1)にしたがって分光画像を生成する場合の説明を行ったが、造影剤の条件や照射光の波長によって分光画像中の造影剤に対応する画像値が変化するような分光画像を生成する場合にも適用することができる。
【0079】
(S500:光を照射する工程)
光照射部110は、S400で決定された波長を光源111に設定する。光源111は、S400で決定された波長の光を発する。光源111から発生した光は、光学系112を介してパルス光として被検体100に照射される。そして、被検体100の内部でパルス光が吸収され、光音響効果により光音響波が生じる。このとき、導入された造影剤もパルス光を吸収し、光音響波を発生する。光照射部110はパルス光の伝送と併せて信号収集部140へ同期信号を送信してもよい。また、光照射部110は、複数の波長のそれぞれについて、同様に光照射を行う。
【0080】
ユーザーが、光照射部110の照射条件(照射光の繰り返し周波数や波長など)やプローブ180の位置などの制御パラメータを、入力部170を用いて指定してもよい。コンピュータ150は、ユーザーの指示に基づいて決定された制御パラメータを設定してもよい。また、コンピュータ150が、指定された制御パラメータに基づいて、駆動部130を制御することによりプローブ180を指定の位置へ移動させてもよい。複数位置での撮影が指定された場合には、駆動部130は、まずプローブ180を最初の指定位置へ移動させる。なお、駆動部130は、測定の開始指示がなされたときに、あらかじめプログラムされた位置にプローブ180を移動させてもよい。
【0081】
(S600:光音響波を受信する工程)
信号収集部140は、光照射部110から送信された同期信号を受信すると、信号収集の動作を開始する。すなわち、信号収集部140は、受信部120から出力された、光音響波に由来するアナログ電気信号を、増幅・AD変換することにより、増幅されたデジタル電気信号を生成し、コンピュータ150へ出力する。コンピュータ150は、信号収集部140から送信された信号を保存する。複数の走査位置での撮影を指定された場合には、指定された走査位置において、S500およびS600の工程を繰り返し実行し、パルス光の照射と音響波に由来するデジタル信号の生成を繰り返す。なお、コンピュータ150は、発光をトリガーとして、発光時の受信部120の位置情報を駆動部130の位置センサからの出力に基づいて取得し、記憶してもよい。
【0082】
なお、本実施形態では、複数の波長の光のそれぞれを時分割に照射する例を説明したが、複数の波長のそれぞれに対応する信号データを取得できる限り、光の照射方法はこれに限らない。例えば、光照射によって符号化を行う場合に、複数の波長の光がほぼ同時に照射されるタイミングが存在してもよい。
【0083】
(S700:光音響画像を生成する工程)
光音響画像取得手段としてのコンピュータ150は、記憶された信号データに基づいて、光音響画像を生成する。コンピュータ150は、生成された光音響画像を記憶装置1200に出力し、記憶させる。
信号データを2次元または3次元の空間分布に変換する再構成アルゴリズムとしては、
タイムドメインでの逆投影法やフーリエドメインでの逆投影法などの解析的な再構成法やモデルベース法(繰り返し演算法)を採用することができる。例えば、タイムドメインでの逆投影法として、Universal back-projection(UBP)、Filtered back-projection(FBP)、または整相加算(Delay-and-Sum)などが挙げられる。
【0084】
コンピュータ150は、信号データに対して再構成処理することにより、初期音圧分布情報(複数の位置における発生音圧)を光音響画像として生成する。また、コンピュータ150は、被検体100に照射された光の被検体100の内部での光フルエンス分布を計算し、初期音圧分布を光フルエンス分布で除算することにより、吸収係数分布情報を光音響画像として取得してもよい。光フルエンス分布の計算手法については、公知の手法を適用することができる。また、コンピュータ150は、複数の波長の光のそれぞれに対応する光音響画像を生成することができる。具体的には、コンピュータ150は、第1波長の光照射により得られた信号データに対して再構成処理を行うことにより、第1波長に対応する第1光音響画像を生成することができる。また、コンピュータ150は、第2波長の光照射により得られた信号データに対して再構成処理を行うことにより、第2波長に対応する第2光音響画像を生成することができる。このように、コンピュータ150は、複数の波長の光に対応する複数の光音響画像を生成することができる。
【0085】
本実施形態では、コンピュータ150は、複数の波長の光のそれぞれに対応する吸収係数分布情報を光音響画像として取得する。第1波長に対応する吸収係数分布情報を第1光音響画像とし、第2波長に対応する吸収係数分布情報を第2光音響画像とする。
【0086】
なお、本実施形態では、システムが光音響画像を生成する光音響装置1100を含む例を説明したが、光音響装置1100を含まないシステムにも本発明は適用可能である。光音響画像取得手段としての画像処理装置1300が、光音響画像を取得できる限り、いかなるシステムであっても本発明を適用することができる。例えば、光音響装置1100を含まず、記憶装置1200と画像処理装置1300とを含むシステムであっても本発明を適用することができる。この場合、光音響画像取得手段としての画像処理装置1300は、記憶装置1200に予め記憶された光音響画像群の中から指定された光音響画像を読み出すことにより、光音響画像を取得することができる。
【0087】
(S800:分光画像を生成する工程)
分光画像取得手段としてのコンピュータ150は、複数の波長に対応する複数の光音響画像に基づいて、分光画像を生成する。コンピュータ150は、分光画像を記憶装置1200に出力し、記憶装置1200に記憶させる。前述したように、コンピュータ150は、グルコース濃度、コラーゲン濃度、メラニン濃度、脂肪や水の体積分率など、被検体を構成する物質の濃度に相当する情報を示す画像を分光画像として生成してもよい。また、コンピュータ150は、第1波長に対応する第1光音響画像と第2波長に対応する第2光音響画像との比を表す画像を分光画像として生成してもよい。本実施形態では、コンピュータ150が、第1光音響画像と第2光音響画像とを用いて、式(1)にしたがって酸素飽和度画像を分光画像として生成する例を説明する。
【0088】
なお、分光画像取得手段としての画像処理装置1300は、記憶装置1200に予め記憶された分光画像群の中から指定された分光画像を読み出すことにより、分光画像を取得してもよい。また、光音響画像取得手段としての画像処理装置1300は、記憶装置1200に予め記憶された光音響画像群の中から、読み出した分光画像の生成に用いられた複数の光音響画像の少なくとも一つを読み出すことにより、光音響画像を取得してもよい。
【0089】
(S900:光音響画像または分光画像に基づいて造影剤に関する情報を取得する工程
)
造影剤情報取得手段としての画像処理装置1300は、記憶装置1200から光音響画像または分光画像を読み出し、光音響画像または分光画像に基づいて造影剤に関する情報を取得する。
【0090】
S200で取得した造影剤に関する情報と、実際に被検体100に導入され、被検体100内に拡がった造影剤の条件とが対応していない可能性がある。そこで、画像処理装置1300は、光音響画像または分光画像に対する画像処理を実行し、光音響画像または分光画像から造影剤に関する情報を算出してもよい。これにより、被検体100に造影剤が導入された状態の被検体100を撮影した画像から、被検体100内に拡がった造影剤に関する情報を取得することができる。
【0091】
吸収係数分布画像を光音響画像とし、式(1)の値の画像を分光画像とした場合に、光音響画像に対する画像処理により造影剤の濃度を推定する例を説明する。まずユーザーが光音響画像または分光画像中の求めたい造影剤濃度の位置を指示する。画像処理装置1300は、指定された位置の光音響画像の画像値を取得する。また、画像処理装置1300は、
図6に示す吸収係数スペクトルを参照し、照射光の波長に対応する造影剤の各濃度の吸収係数を取得する。このとき、画像処理装置1300は、S200で取得した造影剤の種類の情報に基づいて、いずれの種類の造影剤の吸収係数を取得するのかを決定することができる。そして、画像処理装置1300は、各濃度の造影剤の吸収係数と光音響画像の画像値とを比較し、その違いが小さくなる場合の造影剤の濃度を、造影剤に関する情報として取得する。なお、画像処理装置1300は、最小二乗法により、造影剤の吸収係数と光音響画像の画像値との違いを示すノルムが所定値よりも小さくなる場合の濃度を、造影剤に関する情報として算出してもよい。
【0092】
また、分光画像に対する画像処理により造影剤の濃度を推定する例を説明する。画像処理装置1300は、指定された位置の分光画像の画像値を取得する。また、画像処理装置1300は、
図6に示す吸収係数スペクトルを参照し、照射光の2波長に対応する造影剤の各濃度の吸収係数を取得する。また、画像処理装置1300は、各濃度に対応する吸収係数に基づいて、式(1)にしたがって各濃度に対応する値を算出する。そして、画像処理装置1300は、各濃度に対応する式(1)の値と分光画像の画像値とを比較し、その違いが小さくなる場合の造影剤の濃度を、造影剤に関する情報として取得する。なお、画像処理装置1300は、最小二乗法により、算出した式(1)の値と分光画像の画像値との違いを示すノルムが所定値よりも小さくなる場合の濃度を、造影剤に関する情報として算出してもよい。
【0093】
また、コンピュータ150は、光音響画像または分光画像に紐づけられた付帯情報として保存された造影剤に関する情報を読み出し、造影剤に関する情報を取得してもよい。例えば、コンピュータ150は、DICOM画像としての光音響画像または分光画像のタグに保存された造影剤に関する情報を読み出すことにより、造影剤に関する情報を読み出すことができる。この形態によれば、光音響波の測定を伴わない場合であっても、画像処理装置1300がPACS等の記憶装置1200から画像を読み出し、画像に紐づけられた造影剤の条件に応じた画像表示の設定や波長の設定を行うことができる。
【0094】
なお、画像処理装置1300は、造影剤の種類については画像に紐づけられた付帯情報から読み出し、造影剤の濃度については画像に対する画像処理によって算出してもよい。このように画像処理装置1300は、異なる方法の組み合わせで造影剤に関する複数の情報を取得してもよい。
【0095】
(S1000:波長を再設定するかどうかを判定する工程)
画像処理装置1300は、波長を再設定するかどうかを判定する。画像処理装置1300が波長を再設定すると判定した場合、S400に戻り、波長を再設定しないと判定した場合、S1100に進む。
【0096】
例えば、画像処理装置1300は、ユーザーからの波長の再設定の指示を受け付けた場合に、波長を再設定すると判断する。このとき、画像処理装置1300は、S900で取得した造影剤に関する情報を表示装置1400に表示させてもよい。そして、ユーザーが表示装置1400に表示された情報を確認し、波長の再設定の必要があると判定した場合に、入力装置1500を用いて波長の再設定の指示を行ってもよい。画像処理装置1300は、入力装置1500を介して波長の再設定の指示を受け付けた場合に、波長の再設定を行うと判定し、コンピュータ150に波長の再設定を実行させてもよい。なお、ユーザーが波長の再設定の指示として照射光の波長自体を指示してもよい。
また、画像処理装置1300は、S200で取得した造影剤に関する情報とS900で取得した造影剤に関する情報とを比較し、情報に差異がある場合に波長を再設定すると判定してもよい。
【0097】
また、画像処理装置1300は、S200で取得した造影剤に関する情報とS900で取得した造影剤に関する情報とを比較し、情報に差異がある場合に表示装置1400にその旨を表示させてもよい。また、画像処理装置1300は、造影剤に関するどの情報にどのような差異があるのかを表示させてもよい。ユーザーは表示装置1400に表示された情報を確認し、波長の再設定の必要があると判定した場合に、入力装置1500を用いて波長の再設定の指示を行ってもよい。すなわち、画像処理装置1300は、S900で取得した造影剤に関する情報に基づいた情報を表示装置1400に表示させてもよい。
【0098】
一方、画像処理装置1300が波長の再設定を行うと判定しない場合、S1100へと進む。例えば、画像処理装置1300は、ユーザーからの波長の再設定の指示を一定時間受け付けない場合に、波長の再設定が行われていないと判定してもよい。また、画像処理装置1300は、ユーザーから波長の再設定を行わないことを示す指示を受け付けた場合に、波長の再設定が行われていないと判定してもよい。また、画像処理装置1300は、S200で取得した造影剤に関する情報とS900で取得した造影剤に関する情報との間に差異が存在しない場合に、波長の再設定が行われていないと判定してもよい。画像処理装置1300は、これらの条件の少なくとも一つを受け付けた場合に、波長の再設定が行われていないと判定してもよい。
【0099】
(S1100:分光画像を表示する工程)
表示制御手段としての画像処理装置1300は、S200またはS900で取得した造影剤に関する情報に基づいて、造影剤に対応する領域とそれ以外の領域とを識別できるように分光画像を表示装置1400に表示させる。なお、レンダリング手法としては、最大値投影法(MIP:Maximum Intensity Projection)、ボリュームレンダリング、及びサーフェイスレンダリングなどのあらゆる方法を採用することができる。ここで、三次元画像を二次元にレンダリングする際の表示領域や視線方向などの設定条件は、観察対象に合わせて任意に指定することができる。
【0100】
ここでは、S400で797nmと835nmを設定し、S800で式(1)にしたがって分光画像を生成する場合について説明する。
図8で示したとおり、これらの2波長を選択した場合、ICGがいかなる濃度であっても、式(1)にしたがって生成される分光画像中の造影剤に対応する画像値は負値となる。
【0101】
図10に示すように、画像処理装置1300は、分光画像の画像値と表示色との関係を示すカラースケールとしてのカラーバー2400をGUIに表示させる。画像処理装置1
300は、造影剤に関する情報(例えば、造影剤の種類がICGであることを示す情報)と、照射光の波長を示す情報とに基づいて、カラースケールに割り当てる画像値の数値範囲を決定してもよい。例えば、画像処理装置1300は、式(1)による動脈の酸素飽和度、静脈の酸素飽和度、および造影剤に対応する負値の画像値を含む数値範囲を決定してもよい。画像処理装置1300は、-100%~100%の数値範囲を決定し、青から赤に変化するカラーグラデーションに-100%~100%を割り当てたカラーバー2400を設定してもよい。このような表示方法により、動静脈の識別に加え、負値の造影剤に対応する領域も識別することができる。また、画像処理装置1300は、造影剤に関する情報と、照射光の波長を示す情報とに基づいて、造影剤に対応する画像値の数値範囲を示すインジケータ2410を表示させてもよい。ここでは、カラーバー2400において、ICGに対応する画像値の数値範囲として負値の領域をインジケータ2410で示している。このように造影剤に対応する表示色を識別できるようにカラースケールを表示することにより、分光画像中の造影剤に対応する領域を容易に識別することができる。
【0102】
領域決定手段としての画像処理装置1300は、造影剤に関する情報と、照射光の波長を示す情報とに基づいて、分光画像中の造影剤に対応する領域を決定してもよい。例えば、画像処理装置1300は、分光画像のうち、負値の画像値を有する領域を造影剤に対応する領域として決定してもよい。そして、画像処理装置1300は、造影剤に対応する領域とそれ以外の領域とを識別できるように分光画像を表示装置1400に表示させてもよい。画像処理装置1300は、造影剤に対応する領域とそれ以外の領域との表示色を異ならせる、造影剤に対応する領域を点滅させる、造影剤に対応する領域を示すインジケータ(例えば、枠)を表示させるなどの識別表示を採用することができる。
【0103】
なお、
図10に示すGUIに表示されたICGの表示に対応するアイテム2730を指示することにより、ICGに対応する画像値を選択的に表示させる表示モードに切り替え可能であってもよい。例えば、ユーザーがICGの表示に対応するアイテム2730を選択した場合に、画像処理装置1300が分光画像から画像値が負値のボクセルを選択し、選択されたボクセルを選択的にレンダリングすることにより、ICGの領域を選択的に表示してもよい。同様に、ユーザーが動脈の表示に対応するアイテム2710や静脈の表示に対応するアイテム2720を選択してもよい。ユーザーの指示に基づいて、画像処理装置1300が、動脈に対応する画像値(例えば、90%以上100%以下)や静脈に対応する画像値(例えば、60%以上90%未満)を選択的に表示させる表示モードに切り替えてもよい。動脈に対応する画像値や静脈に対応する画像値の数値範囲については、ユーザーの指示に基づいて変更可能であってもよい。
【0104】
なお、分光画像の画像値に色相、明度、および彩度の少なくとも一つを割り当て、光音響画像の画像値に色相、明度、および彩度の残りのパラメータを割り当てた画像を分光画像として表示させてもよい。例えば、分光画像の画像値に色相および彩度を割り当て、光音響画像の画像値に明度を割り当てた画像を分光画像として表示させてもよい。このとき、造影剤に対応する光音響画像の画像値が、血管に対応する光音響画像の画像値よりも大きい場合や小さい場合、光音響画像の画像値に明度を割り当てると、血管と造影剤の両方を視認することが困難な場合がある。そこで、分光画像の画像値によって、光音響画像の画像値から明度への変換テーブルを変更してもよい。例えば、分光画像の画像値が造影剤に対応する画像値の数値範囲に含まれる場合、光音響画像の画像値に対応する明度を、血管に対応するそれよりも小さくしてもよい。すなわち、造影剤の領域と血管の領域を比べたときに、光音響画像の画像値が同じであれば、血管の領域よりも造影剤の領域の明度を小さくしてもよい。ここで変換テーブルとは、複数の画像値のそれぞれに対応する明度を示すテーブルである。また、分光画像の画像値が造影剤に対応する画像値の数値範囲に含まれる場合、光音響画像の画像値に対応する明度を、血管に対応するそれよりも大きくしてもよい。すなわち、造影剤の領域と血管の領域を比べたときに、光音響画像の画像値が
同じであれば、血管の領域よりも造影剤の領域の明度を大きくしてもよい。また、分光画像の画像値によって、光音響画像の画像値を明度に変換しない光音響画像の画像値の数値範囲が異なっていてもよい。
【0105】
変換テーブルは、造影剤の種類や濃度、また照射光の波長によって適したものに変更してもよい。そこで、画像処理装置1300は、造影剤に関する情報と、照射光の波長を示す情報とに基づいて、光音響画像の画像値から明度への変換テーブルを決定してもよい。画像処理装置1300は、造影剤に対応する光音響画像の画像値が血管に対応するそれよりも大きくなると推定される場合、造影剤に対応する光音響画像の画像値に対応する明度を血管に対応するそれよりも小さくしてもよい。反対に、画像処理装置1300は、造影剤に対応する光音響画像の画像値が血管に対応するそれよりも小さくなると推定される場合、造影剤に対応する光音響画像の画像値に対応する明度を血管に対応するそれよりも大きくしてもよい。
【0106】
図10に示すGUIは、波長797nmに対応する吸収係数画像(第1光音響画像)2100、波長835nmに対応する吸収係数画像(第2光音響画像)2200、酸素飽和度画像(分光画像)2300を表示する。それぞれの画像がいずれの波長の光によって生成された画像であるかをGUIに表示してもよい。本実施形態では、光音響画像と分光画像の両方を表示しているが、分光画像だけを表示してもよい。また、画像処理装置1300は、ユーザーの指示に基づいて、光音響画像の表示と分光画像の表示とを切り替えてもよい。
【0107】
なお、表示部160は動画像を表示可能であってもよい。例えば、画像処理装置1300が、第1光音響画像2100、第2光音響画像2200および分光画像2300の少なくともいずれかを時系列に生成し、生成された時系列の画像に基づいて動画像データを生成して表示部160に出力する構成としてもよい。なお、リンパの流れる回数が比較的少ないことに鑑みて、ユーザーの判断時間を短縮するために、静止画または時間圧縮された動画像として表示することも好ましい。また、動画像表示において、リンパが流れる様子を繰り返し表示することもできる。動画像の速度は、予め規定された所定の速度やユーザーに指定された所定の速度であってもよい。
【0108】
また、動画像を表示可能な表示部160において、動画像のフレームレートを可変にすることも好ましい。フレームレートを可変にするために、
図10のGUIに、ユーザーがフレームレートを手動で入力するためのウィンドウや、フレームレートを変更するためのスライドバーなどを追加してもよい。ここで、リンパ液はリンパ管内を間欠的に流れるため、取得された時系列のボリュームデータの中でも、リンパの流れの確認に利用できるのは一部だけである。そのため、リンパの流れの確認する際に実時間表示を行うと効率が低下する場合がある。そこで、表示部160に表示される動画像のフレームレートを可変にすることで、表示される動画像の早送り表示が可能になり、ユーザーがリンパ管内の流体の様子を短時間で確認できるようになる。
【0109】
また、表示部160は、所定の時間範囲内の動画像を繰り返し表示可能であってもよい。その際、繰り返し表示を行う範囲をユーザーが指定可能とするためのウィンドウやスライドバーなどのGUIを、
図10に追加することも好ましい。これにより、例えばリンパ管内を流体が流れる様子をユーザーが把握しやすくなる。
【0110】
以上説明したように、画像処理装置1300および情報処理装置としてのコンピュータ150の少なくとも1つは、分光画像取得手段、造影剤情報取得手段、領域決定手段、光音響画像取得手段、および表示制御手段の少なくとも一つを有する装置として機能する。なお、それぞれの手段は、互いに異なるハードウェアで構成されていてもよいし、1つの
ハードウェアで構成されていてもよい。また、複数の手段が1つのハードウェアで構成されていてもよい。
【0111】
本実施形態では、造影剤に対応する式(1)による値が負値となる波長を選択することにより、血管と造影剤とを識別できるようにしたが、造影剤に対応する画像値が血管と造影剤とを識別できる限り、造影剤に対応する画像値がいかなる値であってもよい。例えば、造影剤に対応する分光画像(酸素飽和度画像)の画像値が、60%より小さくなるまたは100%より大きくとなる場合などにも、本工程で説明した画像処理を適用することができる。
【0112】
本実施形態では、造影剤としてICGを用いる場合の例を説明したが、ICG以外のいかなる造影剤に本実施形態に係る画像処理を適用してもよい。また、画像処理装置1300は、複数種類の造影剤のうち、被検体100に導入した造影剤の種類の情報に基づいて、造影剤の種類に応じた画像処理を実行してもよい。
【0113】
本実施形態では、複数の造影剤に関する情報のうち、取得された造影剤に関する情報に基づいて画像処理方法を決定する場合について説明した。ただし、撮影に使用される造影剤の条件が一意に決定されている場合は、その造影剤の条件に対応した画像処理が予め設定されていてもよい。この場合も、上述した本実施形態に係る画像処理を適用することができる。
【0114】
本実施形態では、複数の波長に対応する光音響画像に基づいた分光画像に画像処理を適用する例を説明したが、1つの波長に対応する光音響画像に本実施形態に係る画像処理を適用してもよい。すなわち、画像処理装置1300は、造影剤に関する情報に基づいて、光音響画像中の造影剤に対応する領域を決定し、造影剤に対応する領域とその領域以外の領域とを識別できるように、光音響画像を表示させてもよい。また、画像処理装置1300は、予め設定された造影剤に対応する画像値の数値範囲を有する領域と、それ以外の領域とを識別できるように、分光画像または光音響画像を表示させてもよい。
【0115】
本実施形態では、情報処理装置としてのコンピュータ150が複数の波長の光を照射して分光画像を生成する例を説明したが、1つの波長の光だけを照射して光音響画像を生成する場合に本実施形態に係る波長の決定方法で波長を決定してもよい。すなわち、コンピュータ150は、造影剤に関する情報に基づいて、照射光の波長を決定してもよい。この場合、コンピュータ150は、光音響画像中の造影剤の領域の画像値が、血管の領域の画像値と識別できるような波長を決定することが好ましい。
【0116】
なお、光照射部110は、光音響画像中の造影剤の領域の画像値と、血管の領域の画像値とを識別できるように予め設定された波長の光を被検体100に照射してもよい。また、光照射部110は、分光画像中の造影剤の領域の画像値と、血管の領域の画像値とを識別できるように予め設定された複数波長の光を被検体100に照射してもよい。
【0117】
(その他の実施例)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。
【符号の説明】
【0118】
1100 光音響装置
1200 記憶装置
1300 画像処理装置
1400 表示装置
1500 入力装置