(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】インダクタ
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20220922BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20220922BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
H01F17/04 A
H01F37/00 C
H01F27/28 171
H01F27/28 147
(21)【出願番号】P 2018140358
(22)【出願日】2018-07-26
【審査請求日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2018032735
(32)【優先日】2018-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、平成30年度 国立研究開発法人科学技術振興機構「イノベーションハブ構築支援事業『太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・活動領域拡大に向けたオープンイノベーションハブ』」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(72)【発明者】
【氏名】水野 勉
(72)【発明者】
【氏名】卜 穎剛
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-035486(JP,A)
【文献】特開2004-022814(JP,A)
【文献】特開2004-327523(JP,A)
【文献】特開2016-025163(JP,A)
【文献】特開2009-245666(JP,A)
【文献】特開平03-126204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/04
H01F 37/00
H01F 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形断面のコイル導体部を備える導体線が
渦巻状に巻回された
平面型のスパイラルコイルと前記
スパイラルコイルを覆う磁性体とを有するインダクタであって、
前記コイル導体部と前記磁性体との間の、前記コイル導体部の上面及び下面の中央部に、それぞれ第1非磁性絶縁体と第2非磁性絶縁体が配置され、かつ、
前記コイル導体部の両端において、前記磁性体が前記コイル導体部に接して前記コイル導体部を被る構造である
ことを特徴とするインダクタ。
【請求項2】
前記
スパイラルコイルがフレキシブル基板上に形成されたことを特徴とする請求項1
に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記第1非磁性絶縁体と前記第2非磁性絶縁体のコイルの半径方向の幅が、前記コイル導体部のコイルの半径方向の幅の0.9倍以上1倍未満であることを特徴とする請求項1
又は2に記載のインダクタ。
【請求項4】
前記コイル導体部が、導体と絶縁体の積層構造からなることを特徴とする請求項1~
3のいずれか一項
に記載のインダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路に用いられるインダクタに関し、特にDC/DCコンバータ等の電源部品に使用されるインダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノート型パソコンや携帯電話に代表される電子機器の小型化が進められ、DC/DCコンバータ等の小型電源の需要が増大している。これに伴い、搭載されるインダクタについても小型化・軽量化が進められ、半導体製造技術やマイクロマシーニング技術を利用した平面型・薄膜型のインダクタや積層チップ型の小型インダクタが検討されている。
【0003】
従来のインダクタでは、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載されているように、磁性体がコイルの導体部を覆う構造となっている。これは、磁性体の磁気シールド効果によってコイル導体部に鎖交する磁束を磁性体に回避させるためであり、コイル導体部内部の表皮効果や近接効果による渦電流の発生を抑制し銅損を低減するためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-267155号公報
【文献】特開2003-347122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高い周波数でDC/DCコンバータを動作させると、磁性体の比透磁率が低下し、従来のインダクタでは磁性体からコイルへ磁束が漏れやすくなっていた。このため、銅損によって交流抵抗が大きく、高いQ値が得られないという問題が生じていた。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、高周波用DC/DCコンバータ等の電源部品においてインダクタの小型化・薄型化を可能とし、コイルの表皮効果や近接効果による高周波損失を低減して、低抵抗でQ値の高い高性能のインダクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明のインダクタは、矩形断面のコイル導体部を備える導体線が渦巻状に巻回された平面型のスパイラルコイルと前記スパイラルコイルを覆う磁性体とを有するインダクタであって、前記コイル導体部と前記磁性体との間の、前記コイル導体部の上面及び下面の中央部に、それぞれ第1非磁性絶縁体と第2非磁性絶縁体が配置され、かつ、前記コイル導体部の両端において、前記磁性体が前記コイル導体部に接して前記コイル導体部を被る構造であることを特徴とする。
【0011】
第2の発明のインダクタは、第1の発明に係るインダクタにおいて、前記スパイラルコイルがフレキシブル基板上に形成されたことを特徴とする。
【0012】
第3の発明のインダクタは、第1又は第2の発明に係るインダクタにおいて、前記第1非磁性絶縁体と前記第2非磁性絶縁体のコイルの半径方向の幅が、前記コイル導体部のコイルの半径方向の幅の0.9倍以上1倍未満であることを特徴とする。
【0013】
第3の発明のインダクタは、第1から第3のいずれか1つの発明に係るインダクタにおいて、前記コイル導体部が、導体と絶縁体の積層構造からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、コイル導体部の中央部において、コイル導体部、第1非磁性絶縁体及び第2非磁性絶縁体を介して向かい合う磁性体の距離が増加して磁性体からコイル導体部に漏れる磁束を低減できると共に、コイル導体部の両端部において、コイル導体部の上面及び下面に位置する磁性体に該磁束が吸い寄せられ誘導され、磁束集中を回避できる。このためコイル導体部内部での渦電流の発生を抑制し、表皮効果や近接効果による銅損を低減できる。これにより、交流抵抗を低くし高いQ値を得ることができる。
【0015】
第2の発明によれば、フレキシブル基板上にコイルを形成することによって、インダクタの小型化・薄型化を容易に実現でき、さらにその可撓性から耐衝撃性を向上させることができる。
【0016】
第3の発明のインダクタによれば、第1非磁性絶縁体及び第2非磁性絶縁体の幅を所定の範囲(コイル導体部の幅の0.9倍以上1倍未満)にすることによって、非磁性絶縁体の厚さに寄らず非磁性絶縁体が無い従来のインダクタに比べ高いQ値を得ると共に、さらに、非磁性絶縁体がコイル導体の上面及び下面の全面に設けられている場合に比べ高いQ値を得ることができる。
【0017】
第3の発明のインダクタによれば、コイル導体部を導体と絶縁体の積層構造とし、コイル導体部を複数の導体部分で形成することによって、表皮効果や近接効果による渦電流の影響をさらに抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1、第2及び第3の実施の形態に係るインダクタのコイルの平面概略図(磁性体及び非磁性絶縁体の部分は省略)である。
【
図2】第1の実施の形態に係るインダクタの断面概略図である。
【
図3】第2の実施の形態に係るインダクタの断面概略図である。
【
図4】第3の実施の形態に係るインダクタの断面概略図である。
【
図5】コイルの解析モデルを説明する図(平面図)である。
【
図6】第3の実施の形態に係るインダクタの特性(交流抵抗Rのdw依存性)の計算結果である。
【
図7】第3の実施の形態に係るインダクタの特性(インダクタンスLのdw依存性)の計算結果である。
【
図8】第3の実施の形態に係るインダクタの特性(Q値のdw依存性)の計算結果である。
【
図9】第3の実施の形態に係るインダクタの特性(交流抵抗Rのdt依存性)の計算結果である。
【
図10】第3の実施の形態に係るインダクタの特性(インダクタンスLのdt依存性)の計算結果である。
【
図11】第3の実施の形態に係るインダクタの特性(Q値のdt依存性)の計算結果である。
【
図12】第4の実施の形態に係るインダクタのコイルの上面概略図(磁性体及び非磁性絶縁体の部分は省略)
【
図13】第4の実施の形態に係るインダクタの断面概略図
【
図14】第5の実施の形態に係るインダクタのコイルの上面概略図(磁性体及び非磁性絶縁体の部分は省略)
【
図15】第5の実施の形態に係るインダクタの断面概略図
【
図16】第5の実施の形態に係るインダクタの特性(交流抵抗Rのdw依存性)の計算結果
【
図17】第5の実施の形態に係るインダクタの特性(インダクタンスLのdw依存性)の計算結果
【
図18】第5の実施の形態に係るインダクタの特性(Q値のdw依存性)の計算結果
【
図19】実施例のインダクタの作製プロセスを説明する図である。
【
図20】実施例の導体、コンポジットコア及びインダクタの写真である。
【
図21】実施例のインダクタの断面の右側部の概略図である。
【
図23】比較例のインダクタの断面の右側部の概略図である。
【
図24】実施例と比較例の交流抵抗Rの周波数特性である。
【
図25】実施例と比較例のインダクタンスLの周波数特性である。
【
図26】実施例と比較例のQ値の周波数特性である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係るインダクタについて、図面に基づいて説明するが、本発明はここで述べられる実施の形態に限定されるものではない。
<第1の実施の形態>
【0020】
図1は、第1、第2及び第3の実施の形態に係るインダクタのコイル部分のみの平面概略図である。磁性体及び非磁性絶縁体の部分は省略し図示していない。コイルは、矩形断面のコイル導体部1を備える導体線が渦巻状に巻回された平面型のスパイラルコイルである。コイル巻数は4巻であるがこの巻数に限定されない。導体線は平角線だけでなく、複数本の線を撚り合わせたリッツ線を略矩形断面の形状としたものであってもよい。コイルは、アルミニウム、銅又はマンガニン(登録商標)(銅、マンガン及びニッケルの合金)の金属からなる。
【0021】
図2は、第1の実施の形態に係るインダクタの断面概略図である。
図1のA-A′断面に磁性体2及び非磁性絶縁体3を追加して図示したものである。コイル導体部1を磁性体2が覆っているが、コイル導体部1の上側の長辺の面に接して、すなわちコイルの上面のコイル導体部1と磁性体2の間に、非磁性絶縁体3が配置されている。この実施の形態では、非磁性絶縁体3がコイルの上面の全てのコイル導体部1と磁性体2の間に配置されているが、非磁性絶縁体3は一部のコイル導体部1と磁性体2の間に配置されていてもよい。なお、スパイラルコイルであるため、コイル導体部1の矩形断面の長辺方向はz軸方向に垂直方向、すなわち半径方向(r方向)に一致する。よって、コイル導体部の矩形断面の長辺方向の非磁性体絶縁層の幅はコイルの半径方向の幅に相当し、コイル導体部の矩形断面の長辺の長さはコイルの半径方向の幅に相当する。そして、コイル導体部の矩形断面の長辺方向の非磁性体絶縁層の幅は、コイル導体部の矩形断面の長辺の長さ以下であり、非磁性絶縁体3のコイルの半径方向(r方向)の幅は、コイル導体部1のコイルの半径方向(r方向)の幅以下となっている。磁性体2は、FeSiCrB等の鉄系アモルファス磁性粉を含有する磁性コンポジット材やフェライト、電磁鋼板、センダスト、パーマロイ、Ni系、Fe系の強磁性材料等で構成することができる。また非磁性絶縁体3は、SiO2やアルミナ、高分子樹脂材料等又は空気、アルゴン等の気体で構成することができる。ここで、非磁性絶縁体とは、強磁性でなく常磁性又は反磁性であって抵抗率が10
8Ωm以上の絶縁性の物質をいう。
【0022】
第1の実施の形態では、コイル導体部1とコイル導体部1の間には磁性体2が充填され配置されている。これにより、コイル導体部1の両端部で磁束は比透磁率の高い磁性体2に吸い寄せられ誘導され、コイル導体部1の両端部での磁束集中を回避できる。さらに、コイル導体部1上では非磁性絶縁体3を介して磁性体2が配置されている。これにより、コイル導体部1を介して向かい合う磁性体2の距離が増加して磁気抵抗が増大し、特にコイル導体部1の中央部で磁性体2からコイル導体部1に漏れる磁束を低減できる。したがって、第1の実施の形態では、上記作用により、コイル内の渦電流の発生を抑制し交流抵抗の増大を抑え高いQ値を得ることができる。
【0023】
このとき、非磁性絶縁体3のコイルの半径方向(r方向)の幅は、コイル導体部1のコイルの半径方向(r方向)の幅の0.4~1倍であることが好ましい。高いQ値が得られるからである。
【0024】
また、コイルは、非磁性の基板上に形成されたものであってもよい。このとき基板は、耐衝撃性を得るためフレキシブル基板とすることができる。
【0025】
さらに、コイル導体部1は、導体と絶縁体の積層構造からなってもよい。表皮効果や近接効果による渦電流の影響を抑制できるからである。
<第2の実施の形態>
【0026】
図3は、第2の実施の形態に係るインダクタの断面概略図である。
図1のA-A′断面に磁性体2、第1非磁性絶縁体31及び第2非磁性絶縁体32を追加して図示したものである。第1の実施の形態との比較では、コイル導体部1の断面の長辺(z軸に垂直な辺)の両面に第1非磁性絶縁体31と第2非磁性絶縁体32が配置されている。すなわち、コイルの上面の第1非磁性絶縁体31だけでなく下面にも、コイル導体部1と磁性体2の間に第2非磁性絶縁体32が配置されている。コイルの上面及び下面に配置された第1非磁性絶縁体31及び第2非磁性絶縁体32のコイルの半径方向(r方向)の幅は、共にコイル導体部1のコイルの半径方向(r方向)の幅以下となっている。磁性体2は、FeSiCrB等の鉄系アモルファス磁性粉を含有する磁性コンポジット材やフェライト、電磁鋼板、センダスト、パーマロイ、Ni系、Fe系の強磁性材料等で構成することができる。
【0027】
第2の実施の形態では、コイル導体部1の上面及び下面の両面にそれぞれ第1非磁性絶縁体31と第2非磁性絶縁体32が配置されているので、コイル導体部1、第1非磁性絶縁体31及び第2非磁性絶縁体32を介して向かい合う磁性体2の距離が、第1の実施の形態に比べさらに増加して磁気抵抗が増大する。これにより、コイル導体部1の中央部での磁性体2から漏れ磁束を低減でき、交流抵抗の増大を抑えより高いQ値を得ることができる。
【0028】
このとき、コイルの上面及び下面に配置された第1非磁性絶縁体31及び第2非磁性絶縁体32のコイルの半径方向(r方向)の幅は、共にコイル導体部1のコイルの半径方向(r方向)の幅の0.4~1倍であることが好ましい。高いQ値が得られるからである。
【0029】
また、コイルは、非磁性の基板上に形成されたものであってもよく、さらに、コイル導体部1は、導体と絶縁体の積層構造からなってもよい。
<第3の実施の形態>
【0030】
図4は、第3の実施の形態に係るインダクタの断面概略図である。
図1のA-A′断面に磁性体21、磁性体22、第1非磁性絶縁体31、第2非磁性絶縁体32及び基板4を追加して図示したものである。第3の実施の形態に係るインダクタは、第2の実施の形態に対して磁性体21と磁性体22の間に基板4を挿入し追加したもので、コイルを基板4上に形成し、磁性体を2つの部分の磁性体21と磁性体22に分け、磁性体21と磁性体22が基板4を介して対向する構造となっている。
【0031】
図4において、磁性体21及び磁性体22は、FeSiCrB等の鉄系アモルファス磁性粉を含有する磁性コンポジット材やフェライト、電磁鋼板、センダスト、パーマロイ、Ni系、Fe系の強磁性材料等で構成することができる。また非磁性絶縁体31及び非磁性絶縁体32は、SiO2やアルミナ、高分子樹脂材料等で構成することができる。さらに、基板4は、非磁性(強磁性でなく常磁性又は反磁性)であって、耐衝撃性を確保し取扱いを容易とするためポリイミドやポリエチレンテレフタラート(PET)等のプラスチック材料からなるフレキシブル基板とすることができる。
【0032】
第1非磁性絶縁体31及び第2非磁性絶縁体32のコイルの半径方向(r方向)の幅は、第2の実施の形態と同様に共にコイル導体部1のコイルの半径方向(r方向)の幅以下となっている。そして、好ましくは、第1非磁性絶縁体31及び第2非磁性絶縁体32のコイルの半径方向(r方向)の幅は、それぞれコイル導体部1のコイルの半径方向(r方向)の幅の0.4~1倍である。
【0033】
さらに、コイル導体部1は、導体と絶縁体の積層構造からなってもよい。
(電磁界解析)
【0034】
第3の実施の形態の効果を説明するために、有限要素法による電磁界解析の計算結果について説明する。電磁界解析用のソフトには、電磁場解析ソフトウェアのANSYS Maxwell(ANSYS社製)を用い、インダクタの特性(交流抵抗R、インダクタンスL、Q値)を計算した。表1に解析の諸条件をまとめる。
【0035】
【0036】
図5は、コイルの解析モデルを説明する図(平面図)である。ただし、磁性体、非磁性絶縁体及び基板については省略し図示していない。コイル導体部は、抵抗率1.72×10
-8 Ωmの銅材を想定している。巻数が4巻の渦巻状の平面コイルである。コイルの外径(直径)ODは22.4mm、内径(直径)IDは3.4mm、ピッチは0.5mm、コイルの半径方向のコイル導体部の幅は2mm、コイル導体部1の厚さは70μmである。
【0037】
図4は、
図5のA-A′断面図に相当する。
図5では磁性体、非磁性絶縁体及び基板を省略したが、
図4ではコイルの他に磁性体、非磁性絶縁体及び基板も追加して図示している。
図4において、基板4の膜厚は37μm(=基板自身の膜厚25μm+接着層12μm)、第1磁性体21と第2磁性体22の膜厚は等しく、コイル導体部1、第1磁性体21、第2磁性体22、非磁性絶縁体31、非磁性絶縁体32及び基板4合わせた総膜厚は0.8mmである。さらに、
図4において、第1非磁性絶縁体31及び第2非磁性絶縁体32のコイルの半径方向(r方向)の幅を共に「dw」とし、また、第1非磁性絶縁体31及び第2非磁性絶縁体32の厚さも等しく「dt」とした。
【0038】
図6~
図8は、それぞれ第3の実施の形態に係るインダクタの交流抵抗R、インダクタンスL及びQ値のdw依存性の計算結果である。また、
図9~
図11は、それぞれ第3の実施の形態に係るインダクタの交流抵抗R、インダクタンスL及びQ値のdt依存性の計算結果である。
【0039】
図6~
図8から、dwの増加に伴い、インダクタンスLは減少するが交流抵抗Rも減少してQ値が増大し、dtが0.25mm以下のときdwが0.4mm以上で、Q値はdw=0mmのときより大きくなっている。また、
図8から、コイル導体部1の幅に対してdwが0.4~1倍のとき(dwが0.8mm以上2mm以下のとき)、いずれのdtに対してもQ値はdw=0mmのときより大きくなっている。
【0040】
また、dtが0.1mm以上では、dwが1.8mm付近でQ値は各dtに対して最大となっている。これは、第1磁性体21と第2磁性体22がコイル導体部1の両端でおよそ0.1mm被っているときに対応する。
<第4の実施の形態>
【0041】
図12は、第4の実施の形態に係るインダクタのコイル部分のみの上面概略図である。磁性体及び非磁性絶縁体の部分は省略し図示していない。コイルは、矩形断面のコイル導体部1を備える導体線が渦巻状に巻回されたコイルであるが、第1~第3の実施の形態に係るインダクタの平面型のスパイラルコイルと異なり、コイルは、コイル導体部1の矩形断面の長辺がz軸に平行なフラット巻コイルである。フラット巻コイルでは、矩形断面の導体線(コイル導体部1)を半径方向に積層するように巻いて構成されるが、導体線(コイル導体部)は平角線だけに限定されない。導体線はリッツ線を略矩形断面の形状としたものであってもよい。コイルは、アルミニウム、銅又はマンガニン(登録商標)(銅、マンガン及びニッケルの合金)の金属からなる。
【0042】
図13は、第4の実施の形態に係るインダクタの断面概略図である。
図12のA-A′断面に磁性体2及び非磁性絶縁体3を追加して図示したものである。コイル巻数は4巻であるがこの巻数に限定されない。コイル導体部1を磁性体2が覆っているが、コイルの最内周面および最外周面と磁性体2の間に、非磁性絶縁体3が配置されている。
【0043】
この実施の形態では、非磁性絶縁体3が最内周のコイル導体部1の内周面と最外周のコイル導体部1の外周面に接して磁性体2との間に挿入され配置されている。コイル導体部1の矩形断面の長辺方向(z軸方向)の非磁性絶縁体3の幅は、コイル導体部の矩形断面の長辺の長さ以下となっている。このとき、非磁性絶縁体3の幅は、コイル導体部の長辺の長さの0.4~1倍であることが好ましい。これにより、コイルの最内周部と最外周部において磁性体からコイル導体部への磁束の漏れを抑えられ、コイル導体部内部での渦電流の発生を抑制し、表皮効果や近接効果による銅損を低減してQ値を高めることができる。なお、コイル導体部1は導体と絶縁体の積層構造からなってもよい。
【0044】
非磁性絶縁体3の配置はこの実施の形態の配置に限定されない。例えば、非磁性絶縁体3は、コイルの最内周と最外周だけでなく、他の一部のコイル導体部1の長辺に接してコイル導体部1との磁性体2の間に配置されていてもよい。またすべてのコイル導体部間にも配置されてもよい。なお、磁性体2は、FeSiCrB等の鉄系アモルファス磁性粉を含有する磁性コンポジット材やフェライト、電磁鋼板、センダスト、パーマロイ、Ni系、Fe系の強磁性材料等で構成することができる。非磁性絶縁体3は、SiO2やアルミナ、高分子樹脂材料等又は空気、アルゴン等の気体で構成することができる。
<第5の実施の形態>
【0045】
図14は、第5の実施の形態に係るインダクタのコイル部分のみの上面概略図である。磁性体及び非磁性絶縁体の部分は省略し図示していない。コイルは、矩形断面のコイル導体部1を備える導体線が螺旋状に巻回されたヘリカルコイルである。導体線が平角線の場合、ヘリカルコイルはエッジワイズコイルとも呼ばれるが、導体線(コイル導体部)は平角線だけに限定されない。導体線はリッツ線を略矩形断面の形状としたものであってもよい。コイルは、アルミニウム、銅又はマンガニン(登録商標)(銅、マンガン及びニッケルの合金)の金属からなる。
【0046】
図15は、第5の実施の形態に係るインダクタの断面概略図である。
図14のA-A′断面に磁性体2及び非磁性絶縁体3を追加して図示したものである。コイル巻数は4巻であるがこの巻数に限定されない。コイル導体部1を磁性体2が覆っているが、コイルの最上面および最下面の磁性体2の間に、第3非磁性絶縁体33が挿入され配置されている。また、コイル導体部間にも第4非磁性絶縁体34が配置されている。
【0047】
図15のヘリカルコイルでは、コイル導体部1の矩形断面の長辺方向はz軸に垂直な方向、すなわち半径方向(r方向)に一致する。コイルの最上面および最下面において、コイル導体部の矩形断面の長辺方向(z軸に垂直な半径方向)の第3非磁性体絶縁層33の幅はコイル導体部1の矩形断面の長辺の長さ以下である。そして、第3非磁性体絶縁層33の半径方向の幅は、コイル導体部1の矩形断面の長辺の長さ(半径方向の長さ)の0.4~1倍であることが好ましい。また、この実施の形態では、第4非磁性体絶縁層34の半径方向の幅は、コイル導体部の矩形断面の長辺の長さ(半径方向の長さ)に等しくなっているが、第4非磁性絶縁体34の半径方向の幅は、コイル導体部1の矩形断面の長辺の長さ未満であってもよい。第4非磁性絶縁体34の半径方向の幅は、コイル導体部1の矩形断面の長辺の長さの0.4~1倍であることが好ましい。これにより、磁性体からコイル導体部への磁束の漏れを抑えられ、コイル導体部内部での渦電流の発生を抑制し、表皮効果や近接効果による銅損を低減してQ値を高めることができる。なお、磁性体2は、FeSiCrB等の鉄系アモルファス磁性粉を含有する磁性コンポジット材やフェライト、電磁鋼板、センダスト、パーマロイ、Ni系、Fe系の強磁性材料等で構成することができ、また非磁性絶縁体33および34は、SiO2やアルミナ、高分子樹脂材料等又は空気、アルゴン等の気体で構成することができる。
【0048】
第5の実施の形態では、非磁性絶縁体はコイル導体部1の矩形断面の全ての長辺側に配置されているが、この実施の形態に限定されてない。例えば、コイル導体部間は、第4非磁性体絶縁層34がなく磁性体2で埋められていてもよい。また、コイル導体部1は導体と絶縁体の積層構造からなってもよい。
【0049】
さらに、第5の実施の形態では、コイル導体部の矩形断面の長辺方向がコイルの半径方向となっているが、この実施の形態に限定されない。コイル導体部間を磁性体で埋められ、コイル導体部の矩形断面の長辺方向がコイルのz軸方向である構造のヘリカルコイルであってもよい。この場合も、コイル導体部に接して磁性体との間に挿入して配置される非磁性体絶縁層の、コイル導体部の矩形断面の長辺方向の幅は、コイル導体部の矩形断面の長辺の長さ以下であり、好ましくは、コイル導体部の矩形断面の長辺の長さの0.4~1倍である。これにより、磁性体からコイル導体部への磁束の漏れを抑えられ、コイル導体部内部での渦電流の発生を抑制してQ値を高めることができる。
(電磁界解析)
【0050】
第5の実施の形態の効果を説明するために、有限要素法による電磁界解析の計算結果について説明する。解析の諸条件は、基本的には表1に示すとおりであるが、電流は表1の値(0.6A)と異なり4.9Aである。
【0051】
図15(前述したように、
図14のコイルのA-A′断面に磁性体2及び非磁性絶縁体33および34を追加して図示したもの)において、コイル導体部は、抵抗率1.72×10
-8 Ωmの銅材からなり、巻数が4巻のヘリカルコイルである。コイルの外径(直径)ODは18mm、内径(直径)IDは8mm、コイル導体部の半径方向の幅は5mm、コイルの膜厚(z軸方向)は0.1mm、コイル導体部間の距離(第4非磁性体絶縁層34のz軸方向の膜厚)は0.105mmである。磁性体2のコイルの半径方向(r方向)の幅は10mm、z軸方向の高さは10mmである。第3非磁性絶縁体33のz軸方向膜厚を「dt」、第3非磁性絶縁体33のコイルの半径方向(r方向)の幅を「dw」とした。
【0052】
図16~
図18は、それぞれ第5の実施の形態に係るインダクタの交流抵抗R、インダクタンスL及びQ値について、dtが変化したときのdw依存性の計算結果である。
図16~
図18から、dtが0mmでないとき、dwの増加に伴いインダクタンスLは減少するが交流抵抗Rも減少してQ値が増大する。dtが2mm以下のとき、dwが4.8mm以下の範囲で、Q値はdtが0mmのときの値より大きくなっている。
【0053】
また、dtが1mmでは、dwが4.4mm付近でQ値は最大となっている。これは、磁性体2がコイルの最上面および最下面の両端において0.3mm被っている場合に相当する。
【実施例】
【0054】
以下、本発明に係るインダクタの実施例について述べるが、本発明はここで述べられる実施例に限定されるものではない。
<実施例>
【0055】
図19は、実施例のインダクタの作製プロセスを説明する図である。
【0056】
まず、ポリイミド付銅板をエッチングプリンタでエッチングし不要なポリイミドを除去して、内径8mm、外径18mm、幅5mm、厚さ0.105mmのコイル形状の導体を2つ作製する。
【0057】
また、FeSiCrBアモルファス合金(メーカー:エプソンアトミックス株式会社、型番:AW2-08(絶縁処理なし)、平均粒径:2.6μm(球状))の磁性粉とエポキシ(メーカー:太陽金鋼株式会社、Duralco4460)のバインダを体積充填率57vol%で混合した磁性コンポジット材を作製する。これを所定の型に入れて120℃、4時間で焼結させ、20mm(幅)×20mm(奥)×5mm(高さ)の直方体型のコンポジットコアを2つ作製する。次に、2つのコンポジットコアの表面をフライスで加工しコイル形状の導体に対応した溝を設ける。溝は、導体の外周と内周に対応する部分でそれぞれに2段で落ち込む形状となっており、1段目の溝がストッパーとなって導体をはめ込むことができる。1段目の溝の深さは0.5mm、2段目の溝の深さは0.5mmである。
【0058】
導体を1段目の溝にはめ込んだ2つのコンポジットコアを導体側の面で合わせて接合しインダクタを組み立てる。このとき、対向する2つの導体の間には、導体と同じ形状の1mm厚のPETシートを挟んで、導体/PETシート(絶縁体)/導体の積層構造(サンドイッチ構造)のコイル導体部を形成する。PETシートを介して対向する2つの導体には同じ方向に電流を流し、コイルの巻数は1巻である。また、2段目の溝は非磁性絶縁体としての空隙となっている。
【0059】
図20は、作製した(a)コイル形状の導体、(b)2段の溝を有するコンポジットコア、(c)2つのコンポジットコアを接合して組み立てたインダクタの写真である。
【0060】
また、
図21は、コイルの中心を通りコンポジットコアの側面に平行な実施例のインダクタの断面の右側部の概略図である。2段目の溝の深さ(0.5mm)が非磁性絶縁体の空隙の厚さに対応する。非磁性絶縁体の空隙のコイルの半径方向の幅は4.8mmであって、コイル導体部の幅(5mm)より0.2mm狭くなっている。
<比較例>
【0061】
次に比較例について説明する。比較例では、非磁性絶縁体の空隙及びコイル導体部の導体間の絶縁体が無いインダクタを作製する。コイル形状の導体は、実施例と同様にポリイミド付銅板をエッチングして作製したものを使用する。導体は、内径8mm、外径18mm、幅5mm、厚さ0.105mmである。また、コンポジットコアは、実施例と同様に作製した20mm(幅)×20mm(奥)×5mm(高さ)の直方体型の2つのコンポジットコアについて、表面をフライスで加工しコイル形状の導体に対応した溝を設ける。溝は、実施例と異なり、深さ0.5mmの1段の溝のみ形成する。さらに、2つのコンポジットコアにそれぞれ0.105mm厚の導体を溝にはめ込み、実施例で作製したのと同様の磁性コンポジット材(FeSiCrBアモルファス合金とエポキシの混合材、体積充填率57vol%)をコンポジットコアの表面と導体の段差にスキージで塗布する。そして、この2つのコンポジットコアを導体側の面で合わせて接合しインダクタを組み立てる。このとき、磁性コンポジット材を介して対向する2つの導体には同じ方向に電流を流し、コイルの巻数は1巻である。
【0062】
図22は、導体をはめ込んだ後、磁性コンポジット材を塗布したコンポジットコアの写真である。また、
図23は、コイルの中心を通りコンポジットコアの側面に平行な比較例のインダクタの断面の右側部の概略図である。
(インダクタ特性)
【0063】
図24~
図26は、それぞれ実施例及び比較例のインダクタについて測定した交流抵抗R、インダクタンスL及びQ値の周波数特性である。測定には、インピーダンスアナライザー(Agilent製、型番4294A)を用いた。
図24~
図26から、100kHz~10MHzの周波数の範囲で、交流抵抗Rについては実施例の方が比較例より低く、Q値についても実施例の方が比較例より高くなっているのが分かる。5MHzのときで比較すると、表2のようになっている。
【0064】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係るインダクタは、DC/DCコンバータ等の電源におけるインダクタに利用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 コイル導体部
2 磁性体
21 第1磁性体
22 第2磁性体
3 非磁性絶縁体
31 第1非磁性絶縁体
32 第2非磁性絶縁体
33 第3非磁性絶縁体
34 第4非磁性絶縁体
4 基板