(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】樹脂成型品とその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16B 5/02 20060101AFI20220922BHJP
B29C 69/00 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
F16B5/02 F
B29C69/00
(21)【出願番号】P 2018146153
(22)【出願日】2018-08-02
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】枝廣 和憲
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3103899(JP,U)
【文献】特開2000-043062(JP,A)
【文献】特開2019-181725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 5/02
B29C 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付用の挿通孔を備えた樹脂製の本体部と、前記挿通孔に一体に備えられる筒状のカラー部材とを有し、前記カラー部材の内筒部に締結部材の軸部が挿通され、前記カラー部材が前記軸部より大径の頭部と他部材とに挟まれることにより当該他部材に固定される樹脂成型品であって、
前記カラー部材は、インサート成型により前記挿通孔に一体とされており、
前記カラー部材における前記頭部側の第1端面は、前記本体部における前記挿通孔の周辺領域と面一な第1基礎面と、前記第1基礎面より内径側で、前記第1基礎面より前記頭部側に位置して前記第1基礎面に対して段差をなす第1当接面と、を有
し、
前記第1当接面は、その径方向幅が前記第1基礎面の径方向幅よりも大きいことを特徴とする樹脂成型品。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂成型品において、
前記第1端面は、前記第1基礎面と前記第1当接面との間を接続する傾斜した第1側壁面を有していることを特徴とする樹脂成型品。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の樹脂成型品において、
前記カラー部材における前記他部材側の第2端面は、前記本体部における前記挿通孔の周辺領域と面一な第2基礎面と、前記第2基礎面より内径側で、前記第2基礎面より前記他部材側に位置して前記第2基礎面に対して段差をなす第2当接面と、を有することを特徴と樹脂成型品。
【請求項4】
挿通孔を備えた樹脂製の本体部と、前記挿通孔に一体に備えられる中空の筒状部材と、を有する樹脂成型品の製造方法であって、
前記筒状部材は、内径側部分が外径側部分より軸方向長さが大きい形状とされ、前記内径側部分の軸方向側端面が前記外径側部分の軸方向側端面に対して段差をなし、前記内径側部分の径方向幅が前記外径側部分の径方向幅よりも大きい形状とされ、
前記本体部を成型する成型型内に前記筒状部材を配置し、前記筒状部材における前記外径側部分の軸方向側端面を前記成型型により押圧した状態で前記筒状部材と前記本体部とを一体にインサート成型することを特徴とする樹脂成型品の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂成型品の製造方法において、
前記筒状部材における前記内径側部分の軸方向側端面と前記筒状部材の前記外径側部分の軸方向側端面との間は傾斜した側壁面とされ、前記インサート成型は、前記外径側部分の軸方向側端面の他に、当該側壁面も押圧した状態でなされることを特徴とする樹脂成型品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取付用の挿通孔を備えた樹脂製の本体部と、前記挿通孔に一体に備えられる筒状のカラー部材とを有する樹脂成型品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ウォーターインレット、ウォーターアウトレット、エアインテークマニホールド、サーモスタットカバー等の内燃機関用パーツには射出成型によって形成される樹脂成型品が用いられる。これら樹脂成型品の他部材(シリンダブロック等)に対する取付部はフランジ状に形成され、この取付部に形成されたボルト孔(挿通孔)にボルトを挿通して樹脂成型品と他部材との締結一体化がなされる。特許文献1~3では、ボルト孔には、金属製の円筒状カラー部材が一体とされ、ボルトの頭部は、樹脂の本体部ではなく、金属製のカラー部材に軸力を作用させて、樹脂成型品と他部材との締結一体化が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-83430号公報
【文献】特開2015-31300号公報
【文献】特開2015-31316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1~3には、カラー部材をインサート成型によって一体とした樹脂成型品の記載はないが、近時、前記のような樹脂成型品において、金属製のカラー部材をインサート成型によって一体とすることも試行されている。
図5を参照して、インサート成型によってカラー部材を一体に備えた前記樹脂成型品を製造する要領の前記試行されている一例について略述する。
図5は、成型用金型を型締めした状態を示している。当該成型用金型(成型型)100は、上型110と下型120とからなり、上型110及び下型120は、本体部(不図示、
図1参照)に整合する形状のキャビティ111,121をそれぞれ備えている。キャビティ111,121の内面には、カラー部材200を配置するための位置決め用突起112,122が形成されている。上型110及び下型120を型締めする際、各キャビティ111,121の所定位置(突起112,122が形成されている部位)に予め準備した筒状のカラー部材200を配置する。このカラー部材200は、カラー部材200の内筒部に前記突起112,122が嵌め合うように配置される。上型110及び下型120が型締めされた状態では、カラー部材200の軸方向両端面201,202にキャビティ111,121の内面113,123が当接する。そして、キャビティ111,121に不図示の注入口より溶融状態の樹脂を注入して射出成型される。樹脂の硬化後、脱型され、カラー部材が一体とされた樹脂成型品が取出される。
【0005】
ところが、前記のような樹脂成型品の製造方法において、樹脂の注入の際に、樹脂の一部が、キャビティ111,121の内面113,123とカラー部材200の軸方向両端面201,202との界面aに流れ込むことがある。界面aに流れ込んだ樹脂は、脱型後カラー部材200における軸方向両端面201,202に硬化したバリとして残る。このようにバリが残った状態で、前述のようにカラー部材200の内筒部にボルト等の締結部材の軸部を挿入し他部材に締結する際、バリがカラー部材の軸方向側端面とボルトの頭部との間に挟圧される。この挟圧によって、バリ部分がクリープを起こし、これがボルトの軸力低下を来す要因となることがある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、インサート成型により一体とされたカラー部材を備え、成型時のバリ発生に起因した締結部材の軸力低下を抑えることができる新規な樹脂成型品とその有効な製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る樹脂成型品は、取付用の挿通孔を備えた樹脂製の本体部と、前記挿通孔に一体に備えられる筒状のカラー部材とを有し、前記カラー部材の内筒部に締結部材の軸部が挿通され、前記カラー部材が前記軸部より大径の頭部と他部材とに挟まれることにより当該他部材に固定される樹脂成型品であって、前記カラー部材は、インサート成型により前記挿通孔に一体とされており、前記カラー部材における前記頭部側の第1端面は、前記本体部における前記挿通孔の周辺領域と面一な第1基礎面と、前記第1基礎面より内径側で、前記第1基礎面より前記頭部側に位置して前記第1基礎面に対して段差をなす第1当接面と、を有し、前記第1当接面は、その径方向幅が前記第1基礎面の径方向幅よりも大きいことを特徴とする。
【0008】
本発明の樹脂成型品によれば、当該樹脂成型品を締結部材を用いて他部材に締結することにより固定する際、カラー部材は締結部材の頭部と他部材との間に介在する。このとき、カラー部材の第1端面における第1当接面は、第1基礎面より締結部材の頭部側に位置しているから、締結部材の頭部は第1当接面に当接する。また、第1基礎面は、本体部における挿通孔の周辺領域と面一であるから、締結部材の頭部と第1基礎面との間に間隙が確保される。そして、インサート成型の際に、第1基礎面が成型型による押圧面となって、当該第1基礎面に樹脂のバリが残存しても、第1当接面にバリが及んでいることは少ないから、締結の際におけるバリの影響は受け難い。その結果、締結部材による軸力の低下が抑えられる。
また、第1当接面は、その径方向幅が第1基礎面の径方向幅よりも大きいので、第1当接面の面積を大きく確保することができるため、締結部材の頭部とカラー部材との当接領域を増大させることができ、締結部材による軸力の低下が抑えられる。
【0009】
本発明の樹脂成型品において、前記第1端面は、前記第1基礎面と前記第1当接面との間を接続する傾斜した第1側壁面を有しているものとしてもよい。
本発明によれば、成型時の成型型の押圧領域を第1側壁面にまで拡大することが可能で、これにより、第1当接面にバリが及ぶことをより抑制できる。したがって、締結部材による締結の際の軸力の低下がより抑えられる。
【0010】
本発明の樹脂成型品において、前記カラー部材における前記他部材側の第2端面は、前記本体部における前記挿通孔の周辺領域と面一な第2基礎面と、前記第2基礎面より内径側で、前記第2基礎面より前記他部材側に位置して前記第2基礎面に対して段差をなす第2当接面と、を有するものとしてもよい。
本発明によれば、当該樹脂成型品を締結部材を用いて他部材に締結することにより固定する際、カラー部材の第2端面における第2当接面が他部材に当接する。また、第2基礎面は、本体部における挿通孔の周辺領域と面一であるから、他部材と第2基礎面との間に間隙が確保される。そして、インサート成型の際に、第2基礎面が成型型による押圧面となって、当該第2基礎面に樹脂のバリが残存しても、第2当接面にバリが及んでいることは少ないから、締結の際におけるバリの影響は受け難い。その結果、カラー部材と他部材との間における締結部材による軸力の低下が抑えられる。
【0012】
本発明に係る樹脂成型品の製造方法は、挿通孔を備えた樹脂製の本体部と、前記挿通孔に一体に備えられる中空の筒状部材と、を有する樹脂成型品の製造方法であって、前記筒状部材は、内径側部分が外径側部分より軸方向長さが大きい形状とされ、前記内径側部分の軸方向側端面が前記外径側部分の軸方向側端面に対して段差をなし、前記内径側部分の径方向幅が前記外径側部分の径方向幅よりも大きい形状とされ、前記本体部を成型する成型型内に前記筒状部材を配置し、前記筒状部材における前記外径側部分の軸方向側端面を前記成型型により押圧した状態で前記筒状部材と前記本体部とを一体にインサート成型することを特徴とする。
本発明によれば、中空の筒状部材における外径側部分の軸方向側端面を成型型により押圧した状態でインサート成型がなされるから、内径側部分の軸方向側端面にまで樹脂が流れ込むことを抑制できる。また、このようにインサート成型によって作製された樹脂成型品を、軸部及び頭部を有する締結部材を用いて他部材に締結する際、頭部が筒状部材における内径側部分の軸方向側端面に当接することになる。したがって、当該内径側部分の頭部側軸方向側端面には樹脂の流れ込みによるバリの存在が抑制されているから、締結部材の軸力の低下が抑えられる。
【0013】
本発明に係る樹脂成型品の製造方法において、前記筒状部材における前記内径側部分の軸方向側端面と前記筒状部材の前記外径側部分の軸方向側端面との間は傾斜した側壁面とされ、前記インサート成型は、前記外径側部分の軸方向側端面の他に、当該側壁面も押圧した状態でなされるものとしてもよい。
本発明によれば、成型時の成型型の押圧領域を筒状部材の側壁面にまで拡大することが可能で、これにより、筒状部材における内径側部分の軸方向側端面へ樹脂が流れ込むことをより効果的に抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂成型品によれば、締結部材による軸力の低下を抑えることができる。また、本発明の樹脂成型品の製造方法によれば、締結部材の頭部が当接する筒状部材の内径側部分の軸方向側端面にまで樹脂の流れ込みが生じ難く、この部分でのバリの発生が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る樹脂成型品の一例を示す概略的斜視図である。
【
図2】同樹脂製部品を他部材に締結部材により締結した状態を示す図であって、
図1におけるX-X線矢示部に対応する拡大断面図である。
【
図3】同樹脂成型品及びその製造方法の一例であって、成型用金型を型締めした状態を
図1におけるX-X線矢示部に対応する部分で示す拡大断面図である。
【
図4】同樹脂成型品及びその製造方法の別例を示す
図3と同様図である。
【
図5】従来の樹脂成型品の製造方法を示す
図3と同様図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1は、自動車用エンジン(不図示)のシリンダヘッド4(他部材、
図2参照)に取付けられる冷却水循環用のウォーターアウトレット(樹脂成型品)1を示している。ウォーターアウトレット1は、取付用の挿通孔22aを備えた樹脂製の本体部2と、挿通孔22aに一体に備えられる筒状のカラー部材3とを有する。本体部2は、配管接続用の短管21とその一端に一体に形成されたフランジ部22とからなる。図例のフランジ部22は平面形状が略菱形状で、対角方向の2箇所に挿通孔22a,22aが形成されている。短管21は、菱形状のフランジ部22の中心位置に形成されている。挿通孔22a,22aには金属製のカラー部材3,3が後記するインサート成型によって一体とされている。そして、当該ウォーターアウトレット1は、
図2に示すようにシリンダヘッド(他部材)4の冷却水排出口(不図示)にボルト(締結部材)5を用いて締結される。ボルト5は、雄ネジ部51aが形成された軸部51と、軸部51の締結方向後端部に形成された軸部51より大径の頭部52とを有する。図例のボルト5は、頭部52がスパナ等の工具を作用させるための平面形状が正六角形の被作用部52aと、被作用部52aと軸部51との間に一体とされたフランジ52bとを有する座付六角ボルトであることを示している。フランジ52bは、被作用部52aの周辺より径方向に突出するように形成されている。
なお、締結部材として、例示のものに限らず、通常の六角ボルトとワッシャとを組み合わせたものやその他の締結部材を用いることも可能である。
【0017】
カラー部材3は、ボルト5による前記締結の際に、シリンダヘッド4とボルト5の頭部52との間に介在するよう構成される。そして、カラー部材3における頭部52側の第1端面31は、フランジ部22における挿通孔22aの周辺領域と面一な第1基礎面31aと、第1基礎面31aより内径側(ボルト5の軸部51側)で、第1基礎面31aより頭部52側に位置して第1基礎面31aに対して段差をなす第1当接面31bと、を有する。本実施形態では、第1端面31は、第1基礎面31aと第1当接面31bとの間を接続する傾斜した第1側壁面31cをさらに有している。第1側壁面31cは、第1基礎面31aから第1当接面31bに向かい、鈍角に傾斜するテーパ形状とされている。第1当接面31bの径方向幅d1は、第1基礎面31aの径方向幅d2よりも大きく設定されている。第1当接面31bの径方向幅d1は、第1側壁面31cの径方向幅d3よりも大きく設定されている。また、第1当接面31bの外径Dは、ボルト5における頭部52の被作用部52aの外径D1よりも大きくなるように設定されている。
【0018】
また、カラー部材3におけるシリンダヘッド4側の第2端面32は、フランジ部22における挿通孔22aの周辺領域と面一な第2基礎面32aと、第2基礎面32aより内径側(ボルト5の軸部51側)で第2基礎面32aに対してシリンダヘッド4側に位置して段差をなす第2当接面32bと、を有する。本実施形態では、第2端面32は、第1端面31と同様に、第2基礎面32aと第2当接面32bとの間を接続する傾斜した第2側壁面32cをさらに有している。図例では、第2端面32の形状と第1端面31の形状とは同じである。第2当接面32bの径方向幅d1´及び第2基礎面32aの径方向幅d2´は、それぞれ、第1当接面31bの径方向幅d1及び第1基礎面31aの径方向幅d2と同じに設定されている。
なお、第2端面32の形状と第1端面31の形状は、必ずしも同じでなくてもよい。
【0019】
前記のように構成されるウォーターアウトレット1は、前記冷却水排出口に位置付けられ、ボルト5によってシリンダヘッド4に締結される。具体的には、ウォーターアウトレット1は、ボルト5の軸部51をカラー部材3の内筒部3aに挿通して、雄ネジ部51aをシリンダヘッド4に形成された雌ネジ部4aに螺合することによって、シリンダヘッド4に締結される。この締結の際、ボルト5の頭部52を構成するフランジ52bの下面が座面として、カラー部材3における第1端面31の第1当接面31bに当接する。また、カラー部材3における第2端面32の第2当接面32bが、シリンダヘッド4の上面40に当接する。即ち、カラー部材3が、ボルト5の頭部52と、シリンダヘッド4の上面40との間に挟圧された状態で介在し、これによって、ボルト5の過度の締結が防止され、樹脂成型品であるウォーターアウトレット1の本体部2の毀損が生じ難くなる。そして、カラー部材3の第1当接面31bは、ウォーターアウトレット1における挿通孔22aの周辺領域と面一な第1基礎面31aに対して段差をなしているから、ボルト5の頭部52と第1基礎面31aとの間に隙間c1が確保される。したがって、カラー部材3と本体部2とのインサート成型におけるバリが第1基礎面31aに残存しても、第1当接面31bにまでバリが及ぶことは少ないので、締結の際におけるバリの影響を受け難くなる。その結果、ボルト5による軸力の低下が抑えられる。
【0020】
また、カラー部材3の第2当接面32bは、ウォーターアウトレット1における挿通孔22aの周辺領域と面一な第2基礎面32aに対して段差をなすから、シリンダヘッド4の上面40と第2基礎面32aとの間に隙間c2が確保される。したがって、カラー部材3と本体部2とのインサート成型におけるバリが第2基礎面32aに残存しても、第2当接面32bにまでバリが及ぶことは少ないので、この部分でも締結の際におけるバリの影響を受け難くなる。その結果、ボルト5による軸力の低下が一層抑えられる。さらに、本実施形態では、第1当接面31bの径方向幅d1は、第1基礎面31aの径方向幅d2よりも大きく設定されているので、第1当接面31bの面積を大きく確保することができる。そのため、ボルト5の頭部52とカラー部材3との当接領域を増大させることができる。また、第2当接面32bの径方向幅d1´は、第2基礎面32aの径方向幅d2´よりも大きく設定されているので、第2当接面32bの面積を大きく確保することができる。そのため、シリンダヘッド4とカラー部材3との当接領域を増大させることができる。その結果、ボルト5による軸力の低下がより一層抑えられる。
【0021】
前記のように構成されるウォーターアウトレット1の製造方法の一例について
図3を参照して説明する。
図3は、当該製造方法における成型工程で、前記本体部2を成型する成型型6内に、中空の筒状部材30を配置して型締めした状態を示している。本ウォーターアウトレット1の製造に用いられる筒状部材30は、内径側部分30Aの軸L方向長さが外径側部分30Bの軸L方向長さより大きく、軸Lを対称軸線とする円筒形状とされる。そして、内径側部分30Aの両軸方向側端面30Aa,30Aaは同形状とされている。また、外径側部分30Bの両軸方向側端面30Ba,30Baも同形状とされている。さらに、内径側部分30Aの両軸方向側端面30Aa,30Aaは、外径側部分30Bの両軸方向側端面30Ba,30Baに対し、それぞれ段差をなすように形成されている。内径側部分30Aと外径側部分30Bとの間の繋ぎ部分30Cの軸L方向の両端面は、外径側部分30Bの両軸方向側端面30Baから内径側部分30Aの軸両方向側端面30Aaに向かい、鈍角に傾斜するテーパ形状の側壁面30Ca,30Caとされている。また、内径側部分30Aの両軸方向側端面30Aaの径方向幅と外径側部分30Bの両軸方向側端面30Baの径方向幅との大小関係は、
図2に示す例における径方向幅d1,d2の大小関係と同じに設定されている。
【0022】
図3において、成型型6は、上型61と下型62とからなり、上型61及び下型62は、型締めした状態で前記ウォーターアウトレット1の本体部2に整合する形状のキャビティ61a,62aをそれぞれ備えている。キャビティ61a,62aの内面には、筒状部材30を配置するための位置決め用突起61b,62bがそれぞれ形成されている。また、これら突起61b,62bの周辺部には、所定幅の環状深溝面部61c,62cがそれぞれ形成され、環状深溝面部61c,62cの外周側は、前記筒状部材30の側壁面30Ca,30Caに対応する鈍角形状のテーパ面部61d,62dとされている。さらに、テーパ面部61d,62dの外周側は、筒状部材30における外径側部分30Bの両軸方向側端面30Ba,30Baに対応する環状の平坦面部61e,62eとされている。この平坦面部61e,62eはキャビティ61a,62aの内底面61f,62fに面一に連なるよう形成されている。
【0023】
上型61及び下型62を型締めする際、各キャビティ61a,62aの所定位置(突起61b,62bが形成されている部位)に予め準備した前記筒状のカラー部材3を配置する。筒状部材30は、筒状部材30の内筒部30aに前記突起61b,62bが嵌め合うようにして位置決め配置される。そして、このように位置決め配置された状態では、筒状部材30における内径側部分30Aの両軸方向側端面30Aa,30Aaと、キャビティ61a,62aの環状深溝面部61c,62cとの間にそれぞれ隙間が確保される。また、この配置状態で筒状部材30の両側壁面30Ca,30Caにキャビティ61a,62aのテーパ面部61d,62dがそれぞれ当接する。さらに、この配置状態で、カラー部材における外径側部分30Bの両軸方向側端面30Ba,30Baにキャビティ61a,62aの平坦面部61e,62eがそれぞれ当接する。上型61及び下型62が型締めされると、筒状部材30における外径側部分30Bの両軸方向側端面30Ba,30Baにキャビティ61a,62aの平坦面部61e,62eがそれぞれ押圧された状態となる。また、この型締め状態では、筒状部材30の両側壁面30Ca,30Caにキャビティ61a,62aのテーパ面部61d,62dがそれぞれ押圧された状態となる。
【0024】
前記のように上型61及び下型62が型締めされた成型型6内に、不図示の溶融樹脂を注入して成型すると、キャビティ61a,62aによって、樹脂が前記ウォーターアウトレット1の本体部2に整合する形状に成型され、同時に筒状部材30がその所定位置に一体にインサート成型される。この樹脂の注入の際には、前記の通り、筒状部材30の両軸方向側端面30Ba,30Ba及び両側壁面30Ca,30Caが、キャビティ61a,62aの平坦面部61e,62e及びテーパ面部61d,62dに押圧された状態とされている。したがって、樹脂がこれら押圧された部分の界面に浸入することが阻止される。仮に一部の樹脂が当該界面に浸入したとしても、この部分に留まり、筒状部材30における内径側部分30Aの両軸方向側端面30Aa,30Aaと、キャビティ61a,62aの環状深溝面部61c,62cとの隙間C1,C2に及ぶことが抑制される。その結果、内径側部分30Aの両軸方向側端面30Aa,30Aaには樹脂のバリが残ることが生じ難い。樹脂の硬化後、脱型すると
図1に示すような樹脂成型品としてのウォーターアウトレット1が得られる。本実施形態では、成型時の成型型6による押圧領域を筒状部材30の両側壁面30Ca,30Caにまで拡大することが可能で、これにより、筒状部材30における内径側部分30Aの両軸方向側端面30Aa,30Aaへ樹脂が流れ込むことをより効果的に抑制できる。
【0025】
このようにインサート成型によって作製されたウォーターアウトレット1は、
図2に示すようにボルト5を用いて他部材であるシリンダヘッド4に締結される。このとき、筒状部材30は、
図1及び
図2に示すカラー部材3に相当する。筒状部材30における内径側部分30Aの両軸方向側端面30Aa,30Aaは、カラー部材3における第1当接面31b及び第2当接面32bに相当する。したがって、内径側部分30Aの両軸方向側端面30Aa,30Aaは、ボルト5における頭部52のフランジ52bとシリンダヘッド4の上面40とにそれぞれ挟圧された状態で当接する。一方、筒状部材30における外径側部分30Bの両軸方向側端面30Aa,30Aaは、カラー部材3の第1基礎面31a及び第2基礎面32aに相当する。したがって、外径側部分30Bの両軸方向側端面30Aa,30Aaは、ボルト5における頭部52のフランジ52bとシリンダヘッド4の上面40との間にそれぞれ隙間c1,c2が確保される。さらに、筒状部材30における両側壁面30Ca,30Caは、それぞれ第1側壁面31c及び第2側壁面に相当する。したがって、
図2の例で説明した作用・効果が得られる。
【0026】
図4は、本発明に係る樹脂成型品の別例とその製造方法の例を示している。本実施形態の製造方法で用いられる中空の筒状部材30では、内径側部分30Aの両軸方向側端面30Aa,30Aaと外径側部分30Bの両軸方向側端面30Ba,30Baとは、これらの面に垂直(軸Lに平行)な側壁面30Cb,30Cbを介して段差状に繋がっている。したがって、実質上
図3に示すような繋ぎ部分30Cが存在しない点で
図3に示す例と異なるものの、その他の構造は
図3に示す例と同様であるので、以下では共通する部分に同一の符号を付してその説明を割愛する。
【0027】
成型型6における上型61及び下型62のキャビティ61a,62aでは、筒状部材30に対応する部分の内面形状が
図3の例と異なる。即ち、環状深溝面部61c,62cと平坦面部61e,62eとの間に、テーパ面部61d,62dに代わり、環状深溝面部61c,62c及び平坦面部61e,62eに直交する垂直面部61g,62gが形成されている。その他の構造は、
図3に示す例と同様である。
【0028】
前記成型型6によって、本体部2とともに筒状部材30をインサート成型する際、前記と同様に各キャビティ61a,62aの所定位置に予め準備した前記筒状部材30を配置する。そして、このように位置決め配置された状態では、筒状部材30における内径側部分30Aの両軸方向側端面30Aa,30Aaとキャビティ61a,62aの環状深溝面部61c,62cとの間にそれぞれ隙間C1,C2が確保される。また、側壁面30Cb,30Cbと、垂直面部61g,62gとの間にもそれぞれ隙間C1´,C2´が確保される。前者の隙間C1,C2と後者の隙間C1´,C2´とは断面L形に連続する。さらに、この配置状態で、カラー部材における外径側部分30Bの両軸方向側端面30Ba,30Baにキャビティ61a,62aの平坦面部61e,62eがそれぞれ当接する。上型61及び下型62が型締めされると、キャビティ61a,62aの平坦面部61e,62eが筒状部材30における外径側部分30Bの両軸方向側端面30Ba,30Baをそれぞれ押圧した状態となる。但し、本実施形態では、筒状部材30の側壁面30Cb,30Cbがキャビティ61a,62aの内面によって押圧されることはない。
【0029】
前記のように上型61及び下型62が型締めされた成型型6内に、不図示の溶融樹脂を注入して成型すると、キャビティ61a,62aによって、前記ウォーターアウトレット1の本体部2に整合する形状に樹脂が成型され、同時に筒状部材30がその所定位置に一体にインサート成型される。この樹脂の注入の際には、前記の通り、筒状部材30の両軸方向側端面30Ba,30Baが、キャビティ61a,62aの平坦面部61e,62eに押圧された状態とされている。したがって、これら押圧された部分の界面に樹脂が浸入することが阻止される。仮に一部の樹脂が当該界面に浸入したとしても、この部分に留まり、筒状部材30における内径側部分30Aの両軸方向側端面30Aa,30Aaと、キャビティ61a,62aの環状深溝面部61c,62cとの隙間C1,C2に及ぶことが抑制される。その結果、内径側部分30Aの両軸方向側端面30Aa,30Aaには樹脂のバリが残ることが生じ難い。樹脂の硬化後、脱型すると樹脂成型品としてのウォーターアウトレット1が得られる。
【0030】
このようにインサート成型によって作製されたウォーターアウトレット1も、
図2に示すようにボルト5を用いて他部材であるシリンダヘッド4に締結される。このとき、筒状部材30における内径側部分30Aの両軸方向側端面30Aa,30Aaは、第1当接面31b及び第2当接面32bとなって、ボルト5における頭部52のフランジ52bとシリンダヘッド4の上面40とに挟圧された状態で当接する。一方、筒状部材30における外径側部分30Bの両軸方向側端面30Aa,30Aaは、第1基礎面31a及び第2基礎面32aとなって、ボルト5における頭部52のフランジ52bとシリンダヘッド4の上面40との間にそれぞれ隙間c1,c2が確保される。したがって、
図2の例で説明した作用・効果が同様に得られる。
【0031】
なお、樹脂成型品としてのウォーターアウトレット1の構成・形状は、前記実施形態に限定されるものではない。例えば、
図2に示すウォーターアウトレット1では、第1当接面31bの径方向幅d1は、第1基礎面31aの径方向幅d2よりも大きくなるように設定されているが、これに限らない。例えば、第1当接面31bの径方向幅d1は、第1基礎面31aの径方向幅d2より小さくてもよいし、第1基礎面31aの径方向幅d2と同じでもよい。前記実施形態では、樹脂成型品として、ウォーターアウトレットを例に採ったが、カラー部材をインサート成型により一体として他部材に締結される全ての樹脂成型品が対象とされる。例えば、樹脂成型品として、自動車用エンジンのウォーターインレット、サーモスタットカバー、ウォータパイプ、エアインテークマニホールド等が挙げられる。また、図例のウォーターアウトレット1は概略的に示したもので、実際の形状とは異なり、特に短管11及びフランジ部12の形状は、接続配管や締結相手(他部材)の形状等に応じた形状とされることは言うまでもない。さらに、挿通孔22aの数や位置等も図例には限定されない。加えて、ウォーターアウトレット1が締結される他部材がシリンダヘッド4である例について述べたが、シリンダブロックであってもよい。また、成型型6の構成も図例のものに限定されない。
【符号の説明】
【0032】
1 ウォーターアウトレット(樹脂成型品)
2 本体部
22a 挿通孔
3 カラー部材
3a 内筒部
31 第1端面
31a 第1基礎面
31b 第1当接面
31c 第1側壁面
32 第2端面
32a 第2基礎面
32b 第2当接面
d1 第1当接面の径方向幅
d2 第1基礎面の径方向幅
4 シリンダヘッド(他部材)
5 ボルト(締結部材)
51 軸部
52 頭部
30 筒状部材
30A 内径側部分
30Aa 軸方向側端面
30B 外径側部分
30Ba 軸方向側端面
30Ca 側壁面
6 成型型