(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】表層雪崩予測装置及び表層雪崩予測プログラム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/10 20060101AFI20220922BHJP
G08B 31/00 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
G01W1/10 P
G08B31/00 B
(21)【出願番号】P 2019000713
(22)【出願日】2019-01-07
【審査請求日】2021-06-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 株式会社産業経済新聞社,産経新聞,平成30年3月22日付栃木県版第24面,平成30年3月22日,https://www.sankei.com/region/news/180322/rgn1803220041-n1.html 株式会社日本経済新聞社,日本経済新聞,平成30年3月27日付夕刊,第12面,平成30年3月27日,https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28618720X20C18A3CR0000/ 国立研究開発法人防災科学技術研究所 雪氷防災研究センター,2017年3月27日に栃木県那須町で発生した雪崩災害に関する調査研究,第96~121頁,第157~168頁,平成30年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】501138231
【氏名又は名称】国立研究開発法人防災科学技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100088041
【氏名又は名称】阿部 龍吉
(72)【発明者】
【氏名】中村 一樹
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-038509(JP,A)
【文献】特開2015-198287(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0281933(US,A1)
【文献】特開2018-028436(JP,A)
【文献】中村 一樹,低気圧による降雪が原因の那須岳表層雪崩,防災科研ニュース [online],NO. 199,2017年12月20日,<URL:http://bousai.go.jp/information/news/pdf/k_news199.pdf>,主に24~25頁を参照。,[2022月6月12日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/10
G08B 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の時間間隔で区切られた各時間及び所定の大きさで区切られた各領域に対する複数の気象要素を含む気象予報データを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記各時間及び前記各領域において降雪が発生しているか否かを判定する降雪発生判定部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していると判定された前記各時間及び前記各領域における当該降雪の原因が、低気圧であるか否かを判定する第1の降雪原因判定部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記第1の降雪原因判定部により前記降雪の原因が前記低気圧であると判定された前記各時間及び前記各領域における降雪量を、前記領域毎に複数の前記時間に亘って積算することにより、前記各時間及び前記各領域における第1の積算降雪量をそれぞれ算定する第1の積算降雪量算定部と、
前記第1の積算降雪量算定部により算定された前記第1の積算降雪量に基づいて、前記各時間及び前記各領域における第1の表層雪崩の危険度をそれぞれ判定する第1の雪崩危険度判定部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していると判定された前記各時間及び前記各領域における当該降雪の原因が、前記低気圧が通過した後の冬型の気圧配置であるか否かを判定する第2の降雪原因判定部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記第2の降雪原因判定部により前記降雪の原因が前記冬型の気圧配置であると判定された前記各時間及び前記各領域における降雪量を、前記領域毎に複数の前記時間に亘って積算することにより、前記各時間及び前記各領域における第2の積算降雪量をそれぞれ算定する第2の積算降雪量算定部と、
前記第1の積算降雪量算定部により算定された前記第1の積算降雪量と、前記第2の積算降雪量算定部により算定された前記第2の積算降雪量とに基づいて、前記各時間及び前記各領域における第2の表層雪崩の危険度をそれぞれ判定する第2の雪崩危険度判定部と、を備える、
ことを特徴とする表層雪崩予測装置。
【請求項2】
前記第1の雪崩危険度判定部により判定された前記各時間及び前記各領域における前記第1の表層雪崩の危険度と、前記第2の雪崩危険度判定部により判定された前記各時間及び前記各領域における前記第2の表層雪崩の危険度とを表示画面に表示させる表示情報を生成する表示情報生成部をさらに備える、
ことを特徴とする請求項
1に記載の表層雪崩予測装置。
【請求項3】
前記第1の雪崩危険度判定部は、前記第1の積算降雪量を、所定の数値範囲毎に区分された複数の危険度レベルに対応させることにより前記第1の表層雪崩の危険度を判定し、
前記第2の雪崩危険度判定部は、前記第1の積算降雪量と、前記第2の積算降雪量とを加算した値を、前記複数の危険度レベルに対応させることにより前記第2の表層雪崩の危険度を判定し、
前記表示情報生成部は、前記複数の危険度レベルにそれぞれ対応する複数の表示態様に基づいて、前記第1の表層雪崩の危険度と、前記第2の表層雪崩の危険度とを前記表示画面に表示させる前記表示情報を生成する、
ことを特徴とする請求項
2に記載の表層雪崩予測装置。
【請求項4】
前記第1の雪崩危険度判定部は、前記第1の積算降雪量が、所定の数値以上である場合、前記第1の表層雪崩の危険度が高いと判定し、
前記第2の雪崩危険度判定部は、前記第1の積算降雪量と、前記第2の積算降雪量とを加算した値が、所定の数値以上である場合、前記第2の表層雪崩の危険度が高いと判定する、
ことを特徴とする請求項
1乃至3のいずれか1項に記載の表層雪崩予測装置。
【請求項5】
前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していないと判定された前記時間及び前記領域において、又は、前記第1の降雪原因判定部により前記降雪の原因が前記低気圧でないと判定された前記時間及び前記領域において、当該時間よりも前の所定の期間内に、前記第1の降雪原因判定部により前記降雪の原因が前記低気圧であると判定された前記降雪が発生していない場合、当該時間及び当該領域における前記第1の積算降雪量及び前記第2の積算降雪量をリセットする積算降雪量リセット部をさらに備える、
ことを特徴とす
る請求項
1乃至請求項
4のいずれか1項に記載の表層雪崩予測装置。
【請求項6】
前記第2の降雪原因判定部は、前記第1の降雪原因判定部により前記降雪の原因が前記低気圧でないと判定された前記時間及び前記領域において、当該時間よりも前の所定の期間内に、前記第1の降雪原因判定部により前記降雪の原因が低気圧であると判定された前記降雪が発生している場合、当該時間及び当該領域における前記降雪の原因が、前記冬型の気圧配置であると判定する、
ことを特徴とす
る請求項
1乃至請求項
4のいずれか1項に記載の表層雪崩予測装置。
【請求項7】
所定の時間間隔で区切られた各時間及び所定の大きさで区切られた各領域に対する複数の気象要素を含む気象予報データを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記各時間及び前記各領域において降雪が発生しているか否かを判定する降雪発生判定部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していると判定された前記各時間及び前記各領域における当該降雪の原因が、低気圧であるか否かを判定する第1の降雪原因判定部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記第1の降雪原因判定部により前記降雪の原因が前記低気圧であると判定された前記各時間及び前記各領域における降雪量を、前記領域毎に複数の前記時間に亘って積算することにより、前記各時間及び前記各領域における第1の積算降雪量をそれぞれ算定する第1の積算降雪量算定部と、
前記第1の積算降雪量算定部により算定された前記第1の積算降雪量に基づいて、前記各時間及び前記各領域における第1の表層雪崩の危険度をそれぞれ判定する第1の雪崩危険度判定部と、
前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していないと判定された前記時間及び前記領域において、又は、前記第1の降雪原因判定部により前記降雪の原因が前記低気圧でないと判定された前記時間及び前記領域において、当該時間よりも前の所定の期間内に、前記第1の降雪原因判定部により前記降雪の原因が前記低気圧であると判定された前記降雪が発生していない場合、当該時間及び当該領域における前記第1の積算降雪量をリセットする積算降雪量リセット部と、を備える、
ことを特徴とする表層雪崩予測装置。
【請求項8】
所定の時間間隔で区切られた各時間及び所定の大きさで区切られた各領域に対する複数の気象要素を含む気象予報データを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記各時間及び前記各領域において降雪が発生しているか否かを判定する降雪発生判定部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していると判定された前記各時間及び前記各領域における当該降雪の原因が、低気圧であるか否かを判定する第1の降雪原因判定部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記第1の降雪原因判定部により前記降雪の原因が前記低気圧であると判定された前記各時間及び前記各領域における降雪量を、前記領域毎に複数の前記時間に亘って積算することにより、前記各時間及び前記各領域における第1の積算降雪量をそれぞれ算定する第1の積算降雪量算定部と、
前記第1の積算降雪量算定部により算定された前記第1の積算降雪量に基づいて、前記各時間及び前記各領域における第1の表層雪崩の危険度をそれぞれ判定する第1の雪崩危険度判定部と、
を備え、
前記データ取得部は、前記複数の気象要素として、少なくとも風向を含む前記気象予報データを取得し、
前記第1の降雪原因判定部は、前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していると判定された前記各時間及び前記各領域に対する前記風向が東風成分を含むか否かを第1の条件として判定し、前記第1の条件を満たすと判定した場合、当該降雪の原因が前記低気圧であると判定する、
ことを特徴とする表層雪崩予測装置。
【請求項9】
所定の時間間隔で区切られた各時間及び所定の大きさで区切られた各領域に対する複数の気象要素を含む気象予報データを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記各時間及び前記各領域において降雪が発生しているか否かを判定する降雪発生判定部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していると判定された前記各時間及び前記各領域における当該降雪の原因が、低気圧であるか否かを判定する第1の降雪原因判定部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記第1の降雪原因判定部により前記降雪の原因が前記低気圧であると判定された前記各時間及び前記各領域における降雪量を、前記領域毎に複数の前記時間に亘って積算することにより、前記各時間及び前記各領域における第1の積算降雪量をそれぞれ算定する第1の積算降雪量算定部と、
前記第1の積算降雪量算定部により算定された前記第1の積算降雪量に基づいて、前記各時間及び前記各領域における第1の表層雪崩の危険度をそれぞれ判定する第1の雪崩危険度判定部と、
を備え、
前記データ取得部は、前記複数の気象要素として、少なくとも風向及び所定の気圧面の相対湿度を含む前記気象予報データを取得し、
前記第1の降雪原因判定部は、前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していると判定された前記各時間及び前記各領域に対する前記風向が東風成分を含むか否かを第1の条件として判定するとともに、前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していると判定された前記各時間及び前記各領域に対する前記所定の気圧面の相対湿度が所定の湿度以上であるか否かを第2の条件として判定し、前記第1の条件及び前記第2の条件のうちいずれか一方の条件を満たすと判定した場合、当該降雪の原因が前記低気圧であると判定する、
ことを特徴とする表層雪崩予測装置。
【請求項10】
前記データ取得部は、前記複数の気象要素として、少なくとも複数の気圧面にそれぞれ対応する複数の風向を含む前記気象予報データを取得し、
前記第1の降雪原因判定部は、前記第1の条件として、前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していると判定された前記各時間及び前記各領域に対する前記複数の風向のうち地表面の直上に位置する前記気圧面に対応する前記風向が東風成分を含むか否かを判定する、
ことを特徴とする請求項
8又は請求項
9に記載の表層雪崩予測装置。
【請求項11】
前記第1の雪崩危険度判定部により判定された前記各時間及び前記各領域における前記第1の表層雪崩の危険度を表示画面に表示させる表示情報を生成する表示情報生成部をさらに備える、
ことを特徴とする請求項
7乃至請求項10のいずれか1項に記載の表層雪崩予測装置。
【請求項12】
前記第1の雪崩危険度判定部は、前記第1の積算降雪量を、所定の数値範囲毎に区分された複数の危険度レベルに対応させることにより前記第1の表層雪崩の危険度を判定し、
前記表示情報生成部は、前記複数の危険度レベルにそれぞれ対応する複数の表示態様に基づいて、前記第1の表層雪崩の危険度を前記表示画面に表示させる前記表示情報を生成する、
ことを特徴とする請求項
11に記載の表層雪崩予測装置。
【請求項13】
前記第1の雪崩危険度判定部は、前記第1の積算降雪量が、所定の数値以上である場合、前記第1の表層雪崩の危険度が高いと判定する、
ことを特徴とする請求項
7乃至請求項
12のいずれか1項に記載の表層雪崩予測装置。
【請求項14】
前記データ取得部は、前記複数の気象要素として、少なくとも気温及び降水量を含む前記気象予報データを取得し、
前記降雪発生判定部は、少なくとも前記各時間及び前記各領域に対する前記気温が所定の範囲の温度であり、かつ、前記各時間及び前記各領域に対する前記降水量が所定の降水量以上である場合、前記降雪が発生していると判定する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項
13のいずれか1項に記載の表層雪崩予測装置。
【請求項15】
コンピュータを、請求項1乃至請求項
14のいずれか1項に記載の表層雪崩予測装置として機能させるための表層雪崩予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表層雪崩予測装置及び表層雪崩予測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
雪崩の発生が予測される場所は傾斜地であり、雪崩の発生を検出するセンサーを設置することが困難な場所も多いことから、センサーを設置することなく、雪崩の発生を予測する手法の研究開発が現在進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、レーダ雨量観測システムにより求められたメッシュ毎の積雪量に基づいて、スラッシュ雪崩の発生を予測するスラッシュ雪崩予測システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スラッシュ雪崩は、多量の水分を含む全層の雪が斜面を流下する雪崩であることから、特許文献1に開示されたスラッシュ雪崩予測システムでは、レーダ雨量観測システムにより得られた雨量を積算してメッシュ毎の積雪量を求めることにより、スラッシュ雪崩の発生を予測するものである。
【0006】
しかし、雪崩の種類には、スラッシュ雪崩の他にも、表層の雪だけが斜面を流下する表層雪崩があるが、表層雪崩は、雪粒同士の結合力が弱い弱層が形成され、その弱層の上に積もった表層の雪が滑り落ちるものであるため、スラッシュ雪崩と表層雪崩とは、雪崩が発生する際のメカニズムが異なるものである。そのため、特許文献1に開示されたようなスラッシュ雪崩の発生を予測する手法では、表層雪崩の発生を予測することができなかった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、表層雪崩の発生を的確に予測することができる、表層雪崩予測装置及び表層雪崩予測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであって、本発明の一実施形態に係る表層雪崩予測装置は、
所定の時間間隔で区切られた各時間及び所定の大きさで区切られた各領域に対する複数の気象要素を含む気象予報データを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記各時間及び前記各領域において降雪が発生しているか否かを判定する降雪発生判定部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していると判定された前記各時間及び前記各領域における当該降雪の原因が、低気圧であるか否かを判定する第1の降雪原因判定部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記第1の降雪原因判定部により前記降雪の原因が前記低気圧であると判定された前記各時間及び前記各領域における降雪量を、前記領域毎に複数の前記時間に亘って積算することにより、前記各時間及び前記各領域における第1の積算降雪量をそれぞれ算定する第1の積算降雪量算定部と、
前記第1の積算降雪量算定部により算定された前記第1の積算降雪量に基づいて、前記各時間及び前記各領域における第1の表層雪崩の危険度をそれぞれ判定する第1の雪崩危険度判定部と、を備える。
【0009】
また、上記表層雪崩予測装置は、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していると判定された前記各時間及び前記各領域における当該降雪の原因が、前記低気圧が通過した後の冬型の気圧配置であるか否かを判定する第2の降雪原因判定部と、
前記データ取得部により取得された前記気象予報データに基づいて、前記第2の降雪原因判定部により前記降雪の原因が前記冬型の気圧配置であると判定された前記各時間及び前記各領域における降雪量を、前記領域毎に複数の前記時間に亘って積算することにより、前記各時間及び前記各領域における第2の積算降雪量をそれぞれ算定する第2の積算降雪量算定部と、
前記第1の積算降雪量算定部により算定された前記第1の積算降雪量と、前記第2の積算降雪量算定部により算定された前記第2の積算降雪量とに基づいて、前記各時間及び前記各領域における第2の表層雪崩の危険度をそれぞれ判定する第2の雪崩危険度判定部と、をさらに備える。
【0010】
また、上記表層雪崩予測装置は、
前記第1の雪崩危険度判定部により判定された前記各時間及び前記各領域における前記第1の表層雪崩の危険度を表示画面に表示させる表示情報を生成する表示情報生成部をさらに備える。
【0011】
また、上記表層雪崩予測装置において
前記第1の雪崩危険度判定部は、前記第1の積算降雪量を、所定の数値範囲毎に区分された複数の危険度レベルに対応させることにより前記第1の表層雪崩の危険度を判定し、
前記表示情報生成部は、前記複数の危険度レベルにそれぞれ対応する複数の表示態様に基づいて、前記第1の表層雪崩の危険度を前記表示画面に表示させる前記表示情報を生成する。
【0012】
また、上記表層雪崩予測装置において
前記第1の雪崩危険度判定部は、前記第1の積算降雪量が、所定の数値以上である場合、前記第1の表層雪崩の危険度が高いと判定する。
【0013】
また、上記表層雪崩予測装置は、
前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していないと判定された前記時間及び前記領域において、又は、前記第1の降雪原因判定部により前記降雪の原因が前記低気圧でないと判定された前記時間及び前記領域において、当該時間よりも前の所定の期間内に、前記第1の降雪原因判定部により前記降雪の原因が前記低気圧であると判定された前記降雪が発生していない場合、当該時間及び当該領域における前記第1の積算降雪量をリセットする積算降雪量リセット部をさらに備える。
【0014】
また、上記表層雪崩予測装置は、
前記第1の雪崩危険度判定部により判定された前記各時間及び前記各領域における前記第1の表層雪崩の危険度と、前記第2の雪崩危険度判定部により判定された前記各時間及び前記各領域における前記第2の表層雪崩の危険度とを表示画面に表示させる表示情報を生成する表示情報生成部をさらに備える。
【0015】
また、上記表層雪崩予測装置において、
前記第1の雪崩危険度判定部は、前記第1の積算降雪量を、所定の数値範囲毎に区分された複数の危険度レベルに対応させることにより前記第1の表層雪崩の危険度を判定し、
前記第2の雪崩危険度判定部は、前記第1の積算降雪量と、前記第2の積算降雪量とを加算した値を、前記複数の危険度レベルに対応させることにより前記第2の表層雪崩の危険度を判定し、
前記表示情報生成部は、前記複数の危険度レベルにそれぞれ対応する複数の表示態様に基づいて、前記第1の表層雪崩の危険度と、前記第2の表層雪崩の危険度とを前記表示画面に表示させる前記表示情報を生成する。
【0016】
また、上記表層雪崩予測装置において、
前記第2の雪崩危険度判定部は、前記第1の積算降雪量と、前記第2の積算降雪量とを加算した値が、所定の数値以上である場合、前記第2の表層雪崩の危険度が高いと判定する。
【0017】
また、上記表層雪崩予測装置は、
前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していないと判定された前記時間及び前記領域において、又は、前記第1の降雪原因判定部により前記降雪の原因が前記低気圧でないと判定された前記時間及び前記領域において、当該時間よりも前の所定の期間内に、前記第1の降雪原因判定部により前記降雪の原因が前記低気圧であると判定された前記降雪が発生していない場合、当該時間及び当該領域における前記第1の積算降雪量及び前記第2の積算降雪量をリセットする積算降雪量リセット部をさらに備える。
【0018】
また、上記表層雪崩予測装置において、
前記第2の降雪原因判定部は、前記第1の降雪原因判定部により前記降雪の原因が前記低気圧でないと判定された前記時間及び前記領域において、当該時間よりも前の所定の期間内に、前記第1の降雪原因判定部により前記降雪の原因が低気圧であると判定された前記降雪が発生している場合、当該時間及び当該領域における前記降雪の原因が、前記冬型の気圧配置であると判定する。
【0019】
また、上記表層雪崩予測装置において、
前記データ取得部は、前記複数の気象要素として、少なくとも風向を含む前記気象予報データを取得し、
前記第1の降雪原因判定部は、前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していると判定された前記各時間及び前記各領域に対する前記風向が東風成分を含むか否かを第1の条件として判定し、前記第1の条件を満たすと判定した場合、当該降雪の原因が前記低気圧であると判定する。
【0020】
また、上記表層雪崩予測装置において、
前記データ取得部は、前記複数の気象要素として、少なくとも風向及び所定の気圧面の相対湿度を含む前記気象予報データを取得し、
前記第1の降雪原因判定部は、前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していると判定された前記各時間及び前記各領域に対する前記風向が東風成分を含むか否かを第1の条件として判定するとともに、前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していると判定された前記各時間及び前記各領域に対する前記所定の気圧面の相対湿度が所定の湿度以上であるか否かを第2の条件として判定し、前記第1の条件及び前記第2の条件のうちいずれか一方の条件を満たすと判定した場合、当該降雪の原因が前記低気圧であると判定する。
【0021】
また、上記表層雪崩予測装置において、
前記データ取得部は、前記複数の気象要素として、少なくとも複数の気圧面にそれぞれ対応する複数の風向を含む前記気象予報データを取得し、
前記第1の降雪原因判定部は、前記第1の条件として、前記降雪発生判定部により前記降雪が発生していると判定された前記各時間及び前記各領域に対する前記複数の風向のうち地表面の直上に位置する前記気圧面に対応する前記風向が東風成分を含むか否かを判定する。
【0022】
また、上記表層雪崩予測装置において、
前記データ取得部は、前記複数の気象要素として、少なくとも気温及び降水量を含む前記気象予報データを取得し、
前記降雪発生判定部は、少なくとも前記各時間及び前記各領域に対する前記気温が所定の範囲の温度であり、かつ、前記各時間及び前記各領域に対する前記降水量が所定の降水量以上である場合、前記降雪が発生していると判定する。
【0023】
また、表層雪崩予測プログラムは、コンピュータを、上記表層雪崩予測装置として機能させる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一実施形態に係る表層雪崩予測装置及び表層雪崩予測プログラムによれば、第1の積算降雪量算定部が、降雪の原因が「低気圧」であると判定された各時間及び各領域における降雪量を、領域毎に複数の時間に亘って積算することにより、各時間及び各領域における第1の積算降雪量をそれぞれ算定し、第1の雪崩危険度判定部が、第1の積算降雪量に基づいて、各時間及び各領域における第1の表層雪崩の危険度をそれぞれ判定するので、低気圧を原因とする降雪により弱層が形成されて、その同じ低気圧を原因とする降雪により弱層の上に上載積雪が形成されることで発生する表層雪崩の危険度を的確に予測することができる。
【0025】
また、第2の積算降雪量算定部が、降雪の原因が「低気圧が通過した後の冬型の気圧配置」であると判定された各時間及び各領域における降雪量を、領域毎に複数の時間に亘って積算することにより、各時間及び各領域における第2の積算降雪量をそれぞれ算定し、第2の雪崩危険度判定部が、各時間及び各領域における第1の積算降雪量と、第2の積算降雪量とに基づいて、各時間及び各領域における第2の表層雪崩の危険度をそれぞれ判定するので、低気圧を原因とする降雪により弱層が形成されて、その低気圧を原因とする降雪と、その低気圧が通過した後の冬型の気圧配置を原因とする降雪とにより弱層の上に上載積雪が形成されることで発生する表層雪崩の危険度を的確に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係る表層雪崩予測システム1の一例を示す全体構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2が表層雪崩の危険度を予測する際の表層雪崩が発生する天気図を示し、(a)は、A地点において表層雪崩が発生する第1の表層雪崩発生パターン13Aを示し、(b)は、B地点において表層雪崩が発生する第2の表層雪崩発生パターン13Bを示す天気図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2が特定地点における表層雪崩の危険度を予測する際の各気圧面に対する相対湿度及び風ベクトルが、時間経過に伴って変化する様子を示す分布図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2を示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る表層雪崩予測部221を示すブロック図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2の動作(表層雪崩予測処理)を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2の動作(ステップS200の降雪発生判定処理の詳細)を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2の動作(ステップS400の降雪原因判定処理の詳細)を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2の動作(ステップS500の積算降雪量算定処理の詳細)を示すフローチャートである。
【
図10】本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2の動作(ステップS600の第1の雪崩危険度判定処理の詳細)を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2の動作(ステップS700の第2の雪崩危険度判定処理の詳細)を示すフローチャートである。
【
図12】本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2の動作(表示情報生成処理)及びユーザ端末11の動作を示すフローチャートである。
【
図13】本発明の実施形態に係る表層雪崩予測システム1における気象情報表示画面3を示す図である。
【
図14】本発明の実施形態に係る表層雪崩予測システム1における時系列グラフ表示画面4を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。
【0028】
図1は、本発明の実施形態に係る表層雪崩予測システム1の一例を示す全体構成図である。
【0029】
表層雪崩予測システム1は、気象予報データ100を提供する気象予報システム10と、気象予報システム10により提供された気象予報データ100を取得し、気象予報データ100に基づいて表層雪崩予測情報200を予測する表層雪崩予測装置2と、各ユーザが使用し、表層雪崩予測装置2により予測された表層雪崩予測情報200を各ユーザに出力するユーザ端末11と、各装置間を相互に通信可能に接続するネットワーク12と、を備える。なお、ネットワーク12は、有線でも無線でもよく、また、インターネット回線でも専用回線でもよい。
【0030】
気象予報システム10は、気象庁、外国の気象機関、国内外の気象会社等により運営されるシステムである。気象予報システム10は、複数の観測地点で収集された現在又は過去の観測データに基づいて気象状況の推移を予測することにより、気象予報データ100を生成し、その気象予報データ100を所定の提供時刻(例えば、1日に8回、3時間毎の時刻)に外部に提供する。
【0031】
気象予報データ100は、GPV(Grid Point Value:格子点値)データと呼ばれるものであり、各種の数値予報モデルを用いて、所定の時間間隔(例えば、30分、1時間、3時間、6時間)で区切られた各時間T(t)及び所定の大きさ(例えば、2kmメッシュ、5kmメッシュ、20kmメッシュ)で区切られた各領域R(r)に対する複数の気象要素110を予測したデータである。数値予報モデルとしては、例えば、全球数値用法モデル(GSM:Global Spectral Model)、メソ数値予報モデル(MSM:Meso Scale Model)、局地数値予報モデル(LFM:Local Forecast Model)等が用いられる。
【0032】
複数の気象要素110は、気象状況を定量的に表現するための各種の要素であり、例えば、気温[℃]、相対湿度[%]、降水量[mm/h]、風ベクトル(東西成分及び南北成分の2要素)[m/s]、日射量[W/m2]、気圧[hPa]及び雲量[%]等である。
【0033】
なお、本実施形態では、気象予報データ100は、メソ数値予報モデル(MSM)を用いて予測したGPVデータであるものとし、現時点から1時間間隔で区切られた39時間先までの各時間T(t)、及び、5kmメッシュで区切られた各領域R(r)に対する複数の気象要素110として、地上(地表面)における気温Temp、相対湿度Rh、降水量Pr、風ベクトルWg(東西成分wu及び南北成分wv)及び気圧Spと、950~500[hPa]を所定の気圧間隔で区切られた各気圧面(例えば、950hPa、925hPa、900hPa、850hPa、800hPa、700hPa、600hPa、500hPa)にそれぞれ対応する複数の風ベクトルW950、W925、W900、W850、W800、W700、W600、W500と、所定の気圧面(例えば、500hPa)の相対湿度Rh500とを含むデータであるものとして説明する。そのため、変数tは、1~39(=Tmax)の間の整数値であり、変数rは、1~各領域に通し番号を割り振った場合の最大値(=Rmax)の間の整数値である。
【0034】
ユーザ端末11は、汎用のデスクトップ型コンピュータ等の情報処理装置や、ユーザが携帯可能なノートブック型コンピュータ、タブレット、スマートフォン、携帯電話、ウェアラブル端末等の携帯端末機器により構成されている。
【0035】
ユーザ端末11は、表示画面に対するユーザの入力操作を受け付けて、表示情報生成要求を表層雪崩予測装置2に送信するとともに、その表示情報生成要求に対する応答として、表層雪崩予測装置2から表示情報を受信し、その表示情報に基づいて、表示画面に気象予報データ100や表層雪崩予測情報200を表示する。
【0036】
表層雪崩予測装置2は、気象予報データ100に基づいて表層雪崩予測処理(詳細は後述する)を行うことにより、各時間T(t)及び各領域R(r)において表層雪崩が発生する危険度を予測する装置である。
【0037】
図2は、本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2が表層雪崩の危険度を予測する際の表層雪崩が発生する天気図を示し、(a)は、A地点において表層雪崩が発生する第1の表層雪崩発生パターン13Aを示し、(b)は、B地点において表層雪崩が発生する第2の表層雪崩発生パターン13Bを示す天気図である。
【0038】
図2(a)、(b)は、温暖前線131及び寒冷前線132を伴った低気圧130が、東北東に進行する様子を示している。低気圧130の進行方向前面の第1の領域140(低気圧130の北側~東側~南東側)では、温暖前線131により発生した層状雲から雲粒付着が少ない降雪結晶(例えば、雲粒無し板状結晶、雲粒無し角柱状結晶等)が降りやすく、低気圧130が通過した後の冬型の気圧配置となる第2の領域141では、雲粒付着が多い降雪結晶が降りやすいという傾向がある。また、低気圧130の中心付近の第3の領域142では、雲粒付着が多い降雪結晶が降りやすいという傾向がある。なお、第1の領域140、第2の領域141及び第3の領域142のうち、降雪が発生している降雪範囲140a、141a、142aは、
図2(a)、(b)の灰色で示す領域である。
【0039】
図2(a)に示す第1の表層雪崩発生パターン13Aでは、まず、低気圧130が東北東に進行することで、A地点が第1の領域140に入ると、A地点では、低気圧130の進行方向前面の層状雲からの雪が降り始める。その層状雲からの雲粒付着が少ない降雪結晶が降り積もることで、10時間後のA地点では、弱層が形成される。その後、同じ低気圧130を降雪の原因とする雪(サラサラとしてグラニュー糖のように崩れやすいことが多い)が、弱層の上に継続的に降り積もり上載積雪となることで、A地点は不安定な積雪状態となる。そして、弱層が壊れることにより、20時間後のA地点では、表層雪崩が発生する。
【0040】
したがって、低気圧130を原因とする降雪(第1の領域140における降雪)により弱層が形成される可能性のある時点から、当該降雪が継続的に発生している場合の降雪量を積算することにより、第1の表層雪崩発生パターン13Aによる表層雪崩が発生する可能性を予測することが可能となる。
【0041】
図2(b)に示す第2の表層雪崩発生パターン13Bでは、まず、低気圧130が東北東に進行することで、B地点が第1の領域140に入ると、B地点では、低気圧130の進行方向前面の層状雲からの雪が降り始める。その層状雲からの雲粒付着が少ない降雪結晶が降り積もることで、12時間後のB地点では、弱層が形成される。その後、同じ低気圧130を降雪の原因とする雪が、弱層の上に継続的に降り積もり上載積雪となる。
【0042】
さらに、低気圧130が東北東に進行することで、B地点が第2の領域141に入ると、24時間後のB地点では、低気圧130が通過した後の冬型の気圧配置による対流雲からの雪が降り始める。その対流雲からの雲粒付着が多い降雪結晶や、冬型の気圧配置による節風が強まることによる吹きだまりが、弱層の上にさらに積もることで上載積雪が形成されて、比較的丈夫な雪が載る状態(スラブ)となることで、B地点は不安定な積雪状態となる。そして、弱層が壊れることにより、36時間後のB地点では、表層雪崩が発生する。
【0043】
また、低気圧130を原因とする降雪により形成された弱層が、表層雪崩を発生させる原因となり得る状態を持続する弱層持続期間(「所定の期間」)は、一般的な目安として、降雪中や降雪直後の2~3日程度といわれている。そのため、低気圧130を原因とする降雪が止んでから弱層持続期間が経過した場合には、当該弱層を原因とする表層雪崩が発生する可能性は大きく低下するものと考えられる。
【0044】
したがって、低気圧130を原因とする降雪(第1の領域140における降雪)から、低気圧130が通過した後の冬型の気圧配置を原因とする降雪(第2の領域141における降雪)に移行した場合には、その移行した時点から弱層持続期間内における降雪量をさらに積算することにより、第2の表層雪崩発生パターン13Bによる表層雪崩の発生を予測することが可能となる。
【0045】
なお、A地点及びB地点は、低気圧130の進行に伴って第3の領域142に入ることはないが、A地点及びB地点が、第3の領域142に入るような場合には、第3の領域142における降雪は、弱層の上に降り積ることで上載積雪となり得る。
【0046】
図3は、本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2が特定地点における表層雪崩の危険度を予測する際の各気圧面に対する相対湿度及び風ベクトルが、時間経過に伴って変化する様子を示す分布図である。低気圧130を原因とする降雪は、2月9日0時頃から発生し、2月10日0時頃まで継続的に発生している。この間、850hPaよりも地表側(下層側)の気圧面に対する風向は、東風となっている。また、相対湿度が80%以上の高湿度となっている範囲が、500hPaよりも上空側(上層側)に広がっていることから、低気圧130を原因とする降雪は、背の高い雲からもたらされているものと考えられる。
【0047】
その後、低気圧130が通過した後の冬型の気圧配置を原因とする降雪は、2月10日3時頃から発生するが、850hPaよりも地表側の気圧面に対する風向は、東風から北西風に変化している。また、相対湿度が80%以上の高湿度となっている範囲は、700hPa程度まで狭まっていることから、低気圧130が通過した後の冬型の気圧配置を原因とする降雪は、低気圧130を原因とする降雪をもたらす雲に比べて背の低い雲からもたらされているものと考えられる。
【0048】
図1に戻り、表層雪崩予測装置2は、第1の表層雪崩発生パターン13Aによる表層雪崩を予測するために、気象予報データ100に基づいて各時間T(t)及び各領域R(r)における第1の積算降雪量ΣA(t、r)を算定する。そして、表層雪崩予測装置2は、第1の積算降雪量ΣA(t、r)に基づいて各時間T(t)及び各領域R(r)における第1の表層雪崩の危険度を示す第1の雪崩危険度DA(t、r)を予測する。
【0049】
また、表層雪崩予測装置2は、第2の表層雪崩発生パターン13Bによる表層雪崩を予測するために、気象予報データ100に基づいて各時間T(t)及び各領域R(r)における第2の積算降雪量ΣB(t、r)を算定する。そして、表層雪崩予測装置2は、第1の積算降雪量ΣA(t、r)と第2の積算降雪量ΣB(t、r)とに基づいて合計積算降雪量ΣC(t、r)を算定し、合計積算降雪量ΣC(t、r)に基づいて各時間T(t)及び各領域R(r)における第2の表層雪崩の危険度を示す第2の雪崩危険度DB(t、r)を予測する。
【0050】
表層雪崩予測装置2により予測される情報である表層雪崩予測情報200には、各時間T(t)及び各領域R(r)における第1の積算降雪量ΣA(t、r)、第2の積算降雪量ΣB(t、r)、合計積算降雪量ΣC(t、r)、第1の雪崩危険度DA(t、r)、及び、第2の雪崩危険度DB(t、r)が含まれる。
【0051】
第1の積算降雪量ΣA(t、r)は、
図2(a)に示すように、第1の表層雪崩発生パターン13Aによる表層雪崩を発生させる原因となる積雪状態を示す値であり、低気圧130による降雪量Sf(t、r)[mm]を、領域R(r)毎に複数の時間T(t)に亘って積算することにより算定される。
【0052】
第2の積算降雪量ΣB(t、r)は、
図2(b)に示すように、低気圧130が通過した後の冬型の気圧配置による降雪量Sf(t、r)[mm]を、領域R(r)毎に複数の時間T(t)に亘って積算することにより算定される。合計積算降雪量ΣC(t、r)は、第2の表層雪崩発生パターン13Bによる表層雪崩を発生させる原因となる積雪状態を示す値であり、第1の積算降雪量ΣA(t、r)と、第2の積算降雪量ΣB(t、r)とを加算することにより算定される。
【0053】
第1の雪崩危険度DA(t、r)及び第2の雪崩危険度DB(t、r)は、段階的な危険度判定指標で表され、表層雪崩が発生する危険度が高い順に、例えば、「危険」、「厳重警戒」、「警戒」、「注意」、「安全」という5段階の危険度判定指標で表される。なお、第1の雪崩危険度DA(t、r)は、5段階に限られず、また、各段階を表す危険度判定指標として、上記5段階の危険度判定指標に限られない。
【0054】
なお、本実施形態では、降雪量Sf(t、r)は、気象予報データ100に含まれる降水量Prを、降雪量としてみなしたものであり、第1の積算降雪量ΣA(t、r)、第2の積算降雪量ΣB(t、r)及び合計積算降雪量ΣC(t、r)は、降水量換算[mm]で算定されるものとして説明する。
【0055】
図4は、本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2を示すブロック図である。表層雪崩予測装置2は、例えば、汎用のデスクトップ型コンピュータやサーバ等の情報処理装置により構成されている。
【0056】
表層雪崩予測装置2は、キーボード、タッチパネル等により構成される入力部20と、HDD、メモリ等により構成される記憶部21と、CPU等のプロセッサにより構成される制御部22と、ネットワーク12との通信インターフェースである通信部23と、ディスプレイ、スピーカ等により構成される出力部24と、を備える。なお、入力部20や出力部24は省略してもよく、その場合には、別の情報処理装置が、表層雪崩予測装置2の入力部20や出力部24として機能するように構成すればよい。
【0057】
記憶部21には、気象予報データ100を蓄積する気象予報データベース210と、表層雪崩予測部221(詳細は後述する)により予測された表層雪崩予測情報200を蓄積する雪崩危険度データベース211と、地理情報212と、表層雪崩予測プログラム213と、が記憶されている。
【0058】
地理情報212は、GIS(Geographic Information System:地理情報システム)データと呼ばれるものであり、所定の大きさ(例えば、250mメッシュ、500mメッシュ、1kmメッシュ)で区切られた各メッシュに対する複数の地形要素として、例えば、標高(平均、最高、最低)、最大傾斜角度、最小傾斜角度等を記憶したデータである。
【0059】
本実施形態では、地理情報212は、国土数値情報標高・傾斜度3次メッシュ(1kmメッシュ)データ212aと、国土数値情報標高・傾斜度5次メッシュ(250mメッシュ)データ212bとを備える。
【0060】
制御部22は、記憶部21に記憶された表層雪崩予測プログラム213を実行することにより、データ取得部220、表層雪崩予測部221、及び、表示情報生成部222として機能し、表層雪崩予測処理(詳細は
図6~11にて後述する)、及び、表示情報生成処理(詳細は
図12~14にて後述する)を行う。
【0061】
データ取得部220は、気象予報システム10から通信部23を介して気象予報データ100を取得する。また、データ取得部220は、取得した気象予報データ100を気象予報データベース210に登録する。なお、データ取得部220は、気象予報データ100が記憶された、例えば、USBメモリ等の外部記憶装置に接続されて、外部記憶装置から気象予報データ100を取得してもよいし、表層雪崩予測装置2の管理者により入力部20を介して入力された気象予報データ100を取得してもよい。
【0062】
表層雪崩予測部221は、データ取得部220により取得された気象予報データ100と、記憶部21に記憶された地理情報212とに基づいて、表層雪崩予測情報200を予測する。また、表層雪崩予測部221は、予測した表層雪崩予測情報200を雪崩危険度データベース211に登録する。
【0063】
図5は、本発明の実施形態に係る表層雪崩予測部221を示すブロック図である。
【0064】
表層雪崩予測部221は、傾斜判定部221a、降雪発生判定部221b、第1の降雪原因判定部221c、第1の積算降雪量算定部221d、第2の降雪原因判定部221e、第2の積算降雪量算定部221f、積算降雪量リセット部221g、第1の雪崩危険度判定部221h、及び、第2の雪崩危険度判定部221iを備える。
【0065】
傾斜判定部221aは、記憶部21に地理情報212として記憶された国土数値情報標高・傾斜度5次メッシュデータ212bを参照し、各領域R(r)内の最大傾斜角度が所定の傾斜角度(例えば、30度)以上であるか否かを判定する。傾斜角度が、例えば、30度よりも小さな地形では、表層雪崩が発生しにくいことから、「所定の傾斜角度」は、各領域R(r)において表層雪崩が発生する可能性がある地形が存在するか否かを判定するための閾値である。なお、本実施形態では、「所定の傾斜角度」は、30度として説明するが、気象条件や地域等に応じて適宜変更してもよいし、表層雪崩予測装置2の管理者により変更可能であってもよい。
【0066】
降雪発生判定部221bは、気温判定部221b1、及び、降水量判定部221b2を備え、データ取得部220により取得された気象予報データ100に基づいて、各時間T(t)及び各領域R(r)において降雪が発生しているか否かを判定する。
【0067】
気温判定部221b1は、気象予報データ100に含まれる各時間T(t)及び各領域R(r)に対する地上における気温Tempが、所定の範囲の温度(例えば、2℃以下)であるか否かを判定することにより、降雨ではなく、降雪が発生する可能性があるか否かを判定する。なお、本実施形態では、「所定の範囲の温度」は、2℃以下の温度であるものとして説明するが、降雪が発生する可能性があるか否かを判定可能な値であれば任意の範囲の温度でよく、例えば、気象条件や地域等に応じて適宜変更してもよいし、表層雪崩予測装置2の管理者により変更可能であってもよい。また、「所定の範囲の温度」は、上限を定めるだけでなく、下限を定めてもよい。さらに、気温判定部221b1は、気温Tempに基づいて、降雨か降雪かを判定するものであるが、相対湿度Rhをさらに考慮することにより、気温Tempと、相対湿度Rhとに基づいて、降雨か降雪かを判定するようにしてもよい。
【0068】
その際、気象予報データ100における地上の標高は、領域R(r)における実際の標高と異なるため、気温判定部221b1は、記憶部21に地理情報212として記憶された国土数値情報標高・傾斜度3次メッシュデータ212aを参照し、領域R(r)の最高標高を取得し、領域R(r)の最高標高と、気象予報データ100における地上の標高との間の高度差に対して、気温減率(例えば、6.5[℃/km]や6.0[℃/km]等)を用いることにより、地上における気温Tempを、領域R(r)の最高標高における気温Temp*に高度補正し、高度補正後の気温Temp*が所定の範囲の温度(2℃以下)であるか否かを判定する。
【0069】
降水量判定部221b2は、気象予報データ100に含まれる各時間T(t)及び各領域R(r)に対する地上における降水量Prが、所定の降水量(例えば、0.1mm/h)以上であるか否かを判定することにより、降水(降雨か降雪かは不明)が発生しているか否かを判定する。
【0070】
「所定の降水量」により降水が発生しているか否かを判定する理由としては、降水量Prが、例えば、0.1mm/h未満のような僅かな値でも降水が発生していると判定すると、積算降雪量リセット部221g(詳細は後述する)により第1の積算降雪量ΣA(t、r)及び第2の積算降雪量ΣB(t、r)が長期間に亘ってリセットされない状況が想定されることから、このような状況を回避するために、「所定の降水量」という値を閾値として用いることにしたものである。なお、本実施形態では、「所定の降水量」は、0.1mm/hとして説明するが、降水が発生しているか否かを判定可能な値であれば任意の降水量でよく、例えば、気象条件や地域等に応じて適宜変更してもよいし、表層雪崩予測装置2の管理者により変更可能であってもよい。
【0071】
降雪発生判定部221bは、気温判定部221b1により高度補正後の気温Temp*が所定の範囲の温度(2℃以下)であると判定された場合であって、かつ、降水量判定部221b2により降水量Prが所定の降水量(0.1mm/h)以上であると判定された場合、降雪が発生している、すなわち、「降雪発生」と判定する。
【0072】
第1の降雪原因判定部221cは、データ取得部220により取得された気象予報データ100に基づいて、降雪発生判定部221bにより降雪が発生していると判定された各時間T(t)及び各領域R(r)における当該降雪の原因が、「低気圧」であるか否かを判定する。
【0073】
第1の表層雪崩発生パターン13Aによる表層雪崩を発生させる原因は、
図2(a)に示すように、低気圧130の進行方向前面からの降雪により弱層が形成されて、その同じ低気圧からの降雪により弱層の上に上載積雪が形成されるからである。また、低気圧130の周囲における風の向き133は、その低気圧130の中心に向かって反時計回り(北半球の場合)に回転しながれ吹き込むものであるため、低気圧130を原因とする降雪が発生している時間帯では、
図3に示すように、850hPaよりも地表側(下層側)の気圧面、すなわち、地表面付近で東風が吹いている。
【0074】
そこで、第1の降雪原因判定部221cは、降雪発生判定部221bにより降雪が発生していると判定された時間T(t)及び領域R(r)に対する風向が東風成分を含むか否かを第1の条件として判定し、当該風向が東風成分を含む場合、当該時間T(t)及び当該領域R(r)における降雪の原因が、「低気圧」であると判定する。
【0075】
また、地上における風ベクトルWgは、地形の影響を受けやすいため、地形の影響を受けることを回避するため、第1の降雪原因判定部221cは、降雪発生判定部221bにより降雪が発生していると判定された時間T(t)及び領域R(r)に対する複数の風ベクトルW950、W925、W900、W850、W800、W700、W600、W500のうち、地表面の直上に位置する気圧面に対応する風ベクトルWselectを選択し、その風ベクトルWselecの風向が東風成分を含むか否かを第1の条件として判定し、風ベクトルWselecの風向が東風成分を含む場合、当該時間T(t)及び当該領域R(r)における降雪の原因が、「低気圧」であると判定する。
【0076】
例えば、第1の降雪原因判定部221cは、地上(地表面)における気圧Spが、975[hPa]である場合には、地表面の直上に位置する気圧面(950[hPa])における風ベクトルW950を、風ベクトルWselectとして選択し、その風ベクトルWselecの風向が東風成分を含む場合、降雪の原因が、「低気圧」であると判定する。
【0077】
なお、第1の降雪原因判定部221cは、風ベクトルWselectに対して空間内挿処理や時間内挿処理を行い、それらの処理結果として得られた風ベクトルWselect*の風向が東風成分を含むか否かを判定するようにしてもよい。
【0078】
空間内挿処理は、例えば、気象予報データ100における各領域R(r)は、所定の大きさとして5kmメッシュで区切られたものであるが、所定の気圧面における風ベクトルWselectが、例えば、10kmメッシュのデータであるような場合に、風ベクトルWselectを5kmメッシュのデータとして扱うために行われる内挿処理である。空間内挿処理は、例えば、10kmメッシュのデータである風ベクトルWselectが5kmメッシュのデータになるように、空間的に線形内挿するとともに、四方に位置するメッシュの平均値を求めることで中央に位置するメッシュの風ベクトルを求める処理である。
【0079】
時間内挿処理は、例えば、気象予報データ100における各時間T(t)は、所定の時間間隔として1時間で区切られたものであるが、所定の気圧面における風ベクトルWselectが、例えば、3時間毎のデータであるような場合に、風ベクトルWselectを1時間毎のデータとして扱うために行われる内挿処理である。時間内挿処理は、例えば、3時間毎のデータである風ベクトルWselectが1時間毎のデータになるように、時間方向に線形内挿する処理である。
【0080】
また、第1の降雪原因判定部221cは、地形の影響を受けないように、地表面の直上に位置する気圧面に対応する風ベクトルWselectを選択し、その風ベクトルWselectの風向が東風成分を含む場合、降雪の原因が、「低気圧」であると判定したが、山脈、湾、半島などの比較的大きな地形の存在によっては、低気圧130が接近しても風ベクトルWselectの風向が東風成分を含むものにならない場合もある。
【0081】
このような場合であっても、低気圧130を原因とする降雪が発生している時間帯では、
図3に示すように、比較的大きな地形の影響を受けることなく、500hPaよりも上空側の気圧面の高さにまで伸びているような背の高い雲が存在しているため、所定の気圧面(例えば、500hPa)の相対湿度が、所定の湿度(例えば、80%)以上となっている。
【0082】
そこで、第1の降雪原因判定部221cは、降雪発生判定部221bにより降雪が発生していると判定された時間T(t)及び領域R(r)に対する所定の気圧面(例えば、500hPa)の相対湿度Rh500が、所定の湿度(例えば、80%)以上であるか否かを第2の条件として判定し、当該相対湿度Rh500が所定の湿度以上である場合、当該時間T(t)及び当該領域R(r)における降雪の原因が、「低気圧」であると判定する。なお、本実施形態では、「所定の気圧面」は、500hPa、「所定の湿度」は、80%として説明するが、降雪の原因が「低気圧」であるか否かを判定可能な値であれば、任意の気圧面、又は、任意の湿度でよく、例えば、気象条件や地域等に応じて適宜変更してもよいし、表層雪崩予測装置2の管理者により変更可能であってもよい。
【0083】
したがって、第1の降雪原因判定部221cは、降雪発生判定部221bにより降雪が発生していると判定された時間T(t)及び領域R(r)に対する風向が東風成分を含むか否か(第1の条件)を判定するとともに、降雪発生判定部221bにより降雪が発生していると判定された時間T(t)及び領域R(r)に対する所定の気圧面の相対湿度Rh500が、所定の湿度(80%)以上であるか否か(第2の条件)を判定し、第1の条件及び第2の条件のうちいずれか一方の条件を満たすと判定した場合、当該時間T(t)及び当該領域R(r)における降雪の原因が、「低気圧」であると判定する。
【0084】
なお、第1の降雪原因判定部221cは、
図2(a)に示すような低気圧発達期の場合だけでなく、例えば、地上天気図に低気圧のみが描かれ、前線が描かれていないような低気圧発生期の場合、地上天気図に低気圧が描かれていないが、低気圧の構造を有する気圧の谷が存在するような場合、又は、寒冷前線が温暖前線に追いつき、閉塞前線になるような低気圧閉塞期の場合等であっても、上記のように、風向と、所定の気圧面の相対湿度Rh
500とに基づいて、降雪の原因が「低気圧」であるか否かを判定することが可能である。
【0085】
また、第1の降雪原因判定部221cが、降雪の原因が「低気圧」であるか否かを判定するために用いる情報は、
図2(a)に示すように、弱層を形成する低気圧130の進行方向前面からの降雪であることを判定可能な情報であればよく、例えば、風向及び所定の気圧面の相対湿度に代えて又はこれらと併用して、気圧の傾きを示す気圧傾度を用いてもよいし、低気圧の中心位置や進路等の情報を用いてもよい。さらに、第1の降雪原因判定部221cは、第1の条件だけを判定し、第1の条件を満たすと判定した場合、降雪の原因が「低気圧」であると判定してもよいし、第2の条件だけを判定し、第2の条件を満たすと判定した場合、降雪の原因が「低気圧」であると判定してもよい。
【0086】
第1の積算降雪量算定部221dは、データ取得部220により取得された気象予報データ100に基づいて、第1の降雪原因判定部221cにより降雪の原因が「低気圧」であると判定された各時間T(t)及び各領域R(r)における降雪量Sf(t、r)を、領域R(r)毎に複数の時間T(t)に亘って積算することにより、各時間T(t)及び各領域R(r)における第1の積算降雪量ΣA(t、r)をそれぞれ算定する。
【0087】
第2の降雪原因判定部221eは、データ取得部220により取得された気象予報データ100に基づいて、降雪発生判定部221bにより降雪が発生していると判定された各時間T(t)及び各領域R(r)における当該降雪の原因が、低気圧が通過した後の冬型の気圧配置、すなわち、「低気圧通過後の冬型気圧配置」であるか否かを判定する。
【0088】
第2の表層雪崩発生パターン13Bによる表層雪崩を発生させる原因は、
図2(b)に示すように、低気圧130の進行方向前面からの降雪により弱層が形成されて、その低気圧130が通過した後に冬型の気圧配置となることで、その冬型の気圧配置からの降雪が弱増持続期間内に継続的に発生することにより弱層の上に上載積雪が形成されるからである。
【0089】
したがって、第2の降雪原因判定部221eは、第1の降雪原因判定部221cにより降雪の原因が「低気圧」でないと判定された時間T(t)及び領域R(r)において、当該時間T(t)よりも前の弱層持続期間内に、第1の降雪原因判定部221cにより降雪の原因が「低気圧」であると判定された降雪が発生している場合、当該時間T(t)及び当該領域R(r)における降雪の原因が、「低気圧通過後の冬型気圧配置」であると判定する。
【0090】
なお、本実施形態では、弱層持続期間(「所定の期間」)は、48時間として説明するが、弱層の寿命に相当する期間であれば任意の期間でよく、例えば、気象条件や地域等に応じて適宜変更してもよいし、表層雪崩予測装置2の管理者により変更可能であってもよい。
【0091】
第2の積算降雪量算定部221fは、データ取得部220により取得された気象予報データ100に基づいて、第2の降雪原因判定部221eにより降雪の原因が「低気圧通過後の冬型気圧配置」であると判定された各時間T(t)及び各領域R(r)における降雪量Sf(t、r)を、領域R(r)毎に複数の時間T(t)に亘って積算することにより、各時間T(t)及び各領域R(r)における第2の積算降雪量ΣB(t、r)をそれぞれ算定する。
【0092】
積算降雪量リセット部221gは、降雪発生判定部221bにより降雪が発生していないと判定された時間T(t)及び領域R(r)において、又は、第1の降雪原因判定部221cにより降雪の原因が「低気圧」でないと判定された時間T(t)及び領域R(r)において、当該時間T(t)よりも前の弱層持続期間内(48時間以内)に、第1の降雪原因判定部221cにより降雪の原因が「低気圧」であると判定された降雪が発生していない場合、当該時間T(t)及び当該領域R(r)における第1の積算降雪量ΣA(t、r)及び第2の積算降雪量ΣB(t、r)を「0」にリセットする。
【0093】
例えば、積算降雪量リセット部221gは、降雪発生判定部221bにより、例えば、特定の領域において10月3日午前9時に降雪が発生していないと判定された場合、10月3日午前9時よりも前の弱層持続期間内(48時間以内)に、すなわち、10月1日午前9時から10月3日午前9時までの間に、降雪の原因が「低気圧」であると判定された降雪が発生していない場合、10月3日午前9時における第1の積算降雪量ΣA(t、r)及び第2の積算降雪量ΣB(t、r)を「0」にリセットする。
【0094】
また、積算降雪量リセット部221gは、降雪発生判定部221bにより、例えば、特定の領域において10月3日午前9時に降雪が発生していると判定されたが、第1の降雪原因判定部221cにより当該降雪の原因が「低気圧」でないと判定された場合、10月3日午前9時よりも前の弱層持続期間内(48時間以内)に、すなわち、10月1日午前9時から10月3日午前9時までの間に、降雪の原因が「低気圧」であると判定された降雪が発生していない場合、10月3日午前9時における第1の積算降雪量ΣA(t、r)及び第2の積算降雪量ΣB(t、r)を「0」にリセットする。
【0095】
これは、低気圧130を原因とする降雪が、弱層持続期間内(48時間以内)に発生していない場合には、表層雪崩の危険度が低くなることに対応させて、積算降雪量リセット部221gが、第1の積算降雪量ΣA(t、r)及び第2の積算降雪量ΣB(t、r)をリセットするようにしたものである。
【0096】
第1の雪崩危険度判定部221hは、第1の積算降雪量算定部221dにより算定された第1の積算降雪量ΣA(t、r)に基づいて、各時間T(t)及び各領域R(r)における第1の雪崩危険度DA(t、r)を判定する。
【0097】
具体的には、第1の雪崩危険度判定部221hは、第1の積算降雪量ΣA(t、r)を、所定の数値範囲毎(例えば、5mm毎)に区分された複数の危険度レベル(「危険」、「厳重警戒」、「警戒」、「注意」及び「安全」の5段階)に対応させることにより、第1の雪崩危険度DA(t、r)を判定する。特に、第1の雪崩危険度判定部221hは、第1の積算降雪量ΣA(t、r)が、所定の数値(例えば、20mm)以上である場合、第1の雪崩危険度DA(t、r)が高いものとして「危険」と判定する。
【0098】
第2の雪崩危険度判定部221iは、第1の積算降雪量算定部221dにより算定された第1の積算降雪量ΣA(t、r)と、第2の積算降雪量算定部221fにより算定された第2の積算降雪量ΣB(t、r)とに基づいて、各時間T(t)及び各領域R(r)における第2の雪崩危険度DB(t、r)を判定する。
【0099】
具体的には、第2の雪崩危険度判定部221iは、第1の積算降雪量ΣA(t、r)と、第2の積算降雪量ΣB(t、r)とを加算した合計積算降雪量ΣC(t、r)を、所定の数値範囲毎(例えば、5mm毎)に区分された複数の危険度レベル(例えば、「危険」、「厳重警戒」、「警戒」、「注意」及び「安全」の5段階)に対応させることにより、第2の雪崩危険度DB(t、r)を判定する。特に、第1の雪崩危険度判定部221hは、合計積算降雪量ΣC(t、r)が、所定の数値(例えば、20mm)以上である場合、第2の雪崩危険度DB(t、r)が高いものとして「危険」と判定する。
【0100】
なお、本実施形態では、「所定の数値範囲毎」は、5mm毎として説明するが、表層雪崩が発生する危険度が段階的に高くなる数値範囲毎であれば任意の数値範囲毎でよく、例えば、気象条件や地域等に応じて適宜変更してもよいし、表層雪崩予測装置2の管理者により変更可能であってもよい。また、本実施形態では、「所定の数値」は、20mmとして説明するが、表層雪崩が発生する危険度が高くなる数値であれば任意の数値でよく、例えば、気象条件や地域等に応じて適宜変更してもよいし、表層雪崩予測装置2の管理者により変更可能であってもよい。
【0101】
表示情報生成部222は、ユーザ端末11により送信された表示情報生成要求に応じて、気象予報データベース210及び雪崩危険度データベース211を参照することにより、各種の気象情報として、気象予報データ100に含まれる複数の気象要素110、及び、表層雪崩予測部221により予測された表層雪崩予測情報200等を、ユーザ端末11の表示画面に表示させる表示情報を生成し、その表示情報をユーザ端末11に通信部23を介して送信する。
【0102】
特に、表示情報生成部222は、複数の危険度レベルにそれぞれ対応する複数の表示態様(例えば、赤、橙、黄、黄緑、緑の5色)に基づいて、第1の雪崩危険度判定部221hにより判定された第1の雪崩危険度DA(t、r)と、第2の雪崩危険度判定部221iにより判定された第2の雪崩危険度DB(t、r)とを、ユーザ端末11の表示画面に表示させる表示情報を生成する。なお、括弧書きで記載した5色は、複数の危険度レベルにそれぞれ対応する「複数の表示態様」の一例を示すものであり、複数の表示態様は、例えば、色、模様、マーク等により複数の危険度レベルを識別可能であれば、適宜変更してもよい。
【0103】
表示情報生成部222は、ユーザ端末11に表示させる表示画面として、例えば、地図上に気象情報を重畳して表示する気象情報表示画面3(詳細は
図13にて後述する)、及び、特定地点における気象情報の時間的な推移を表示する時系列グラフ表示画面4(詳細は
図14にて後述する)等を表示させる表示情報を生成する。
【0104】
(表層雪崩予測処理について)
以下に、表層雪崩予測装置2が表層雪崩予測情報200を予測する際の動作(表層雪崩予測処理)について、
図6~11を参照しつつ説明する。
【0105】
図6は、本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2の動作(表層雪崩予測処理)を示すフローチャートである。表層雪崩予測装置2は、気象予報システム10により気象予報データ100が外部に提供される所定の提供時刻になると、
図6に示すフローチャートに従って、表層雪崩予測処理を開始する。なお、表層雪崩予測装置2は、所定の提供時刻とは異なる任意のタイミングで表層雪崩予測処理を開始してもよいし、表層雪崩予測装置2の管理者から指示を受け付けた場合に表層雪崩予測処理を開始してもよい。
【0106】
まず、データ取得部220が、気象予報システム10から通信部23を介して気象予報データ100を取得する(ステップS1)。気象予報データ100は、上述したように、メソ数値予報モデル(MSM)を用いて予測したGPVデータであるものとし、1時間間隔で区切られた39時間先までの各時間T(t)、及び、5kmメッシュで区切られた各領域R(r)に対する複数の気象要素110として、地上における気温Temp、降水量Pr、風ベクトルW(東西成分wu及び南北成分wv)及び気圧Spと、各気圧面にそれぞれ対応する複数の風ベクトルW950~W500(東西成分wu及び南北成分wv)と、所定の気圧面(500hPa)の相対湿度Rh500とを含むデータであるものとして説明する。
【0107】
次に、データ取得部220は、ステップS1にて取得した気象予報データ100を気象予報データベース210に登録する(ステップS2)。
【0108】
次に、表層雪崩予測部221は、気象予報データ100の各時間T(t)に対して、「t」を変数とする繰り返しループMを実行する(ステップS10、S11)。ステップS10における「t=1,Tmax,1」は、変数tの初期値、終値、インクリメント値をそれぞれ示すものであり、表層雪崩予測部221は、ステップS10とステップS11との間に挟まれたステップS20~S21の処理を、変数tの初期値1に対して1ずつインクリメントしながら変数tが終値Tmaxになるまで繰り返し行うことで、当該処理を各時間T(t)に対して行う。
【0109】
次に、表層雪崩予測部221は、気象予報データ100の各領域R(r)に対して、「r」を変数とする繰り返しループNを実行する(ステップS20、S21)。ステップS20における「r=1,Rmax,1」は、変数rの初期値、終値、インクリメント値をそれぞれ示すものであり、表層雪崩予測部221は、ステップS20とステップS21との間に挟まれたステップS100~S900の処理を、変数rの初期値1に対して1ずつインクリメントしながら変数rが終値Rmaxになるまで繰り返し行うことで、当該処理を各領域R(r)に対して行う。
【0110】
次に、傾斜判定部221aは、記憶部21に地理情報212として記憶された国土数値情報標高・傾斜度5次メッシュデータ212bを参照し、領域R(r)内の最大傾斜角度が所定の傾斜角度(30度)以上であるか否かを判定する(ステップS100)。
【0111】
傾斜判定部221aが、領域R(r)内の最大傾斜角度が所定の傾斜角度(30度)以上でないと判定した場合には(ステップS100でNo)、第1の雪崩危険度判定部221hは、第1の表層雪崩発生パターン13Aによる表層雪崩発が発生する可能性はないものとして、時間T(t)及び領域R(r)における第1の雪崩危険度DA(t、r)を「安全」と判定する(ステップS800)。
【0112】
ぞして、第2の雪崩危険度判定部221iは、第2の表層雪崩発生パターン13Bによる表層雪崩発が発生する可能性はないものとして、時間T(t)及び領域R(r)における第2の雪崩危険度DB(t、r)を「安全」と判定する(ステップS810)。
【0113】
一方、傾斜判定部221aが、領域R(r)内の最大傾斜角度が所定の傾斜角度(30度)以上であると判定した場合には(ステップS100でYes)、降雪発生判定部221bが、
図7に示す降雪発生判定処理を行う(ステップS200)。
【0114】
図7は、本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2の動作(ステップS200の降雪発生判定処理の詳細)を示すフローチャートである。
【0115】
まず、気温判定部221b1は、記憶部21に地理情報212として記憶された国土数値情報標高・傾斜度3次メッシュデータ212aを参照することにより、気象予報データ100に含まれる時間T(t)及び領域R(r)に対する地上における気温Tempを高度補正する(ステップS210)。
【0116】
次に、気温判定部221b1は、ステップS210で高度補正した高度補正後の気温Temp*が、所定の範囲の温度(2℃以下)であるか否かを判定する(ステップS220)。
【0117】
そして、気温判定部221b1が、高度補正後の気温Temp*が、所定の範囲の温度(2℃以下)であると判定した場合には(ステップS220でYes)、降水量判定部221b2は、気象予報データ100に含まれる時間T(t)及び領域R(r)に対する地上における降水量Prが、所定の降水量(0.1mm/h)以上であるか否かを判定する(ステップS230)。
【0118】
そして、降水量判定部221b2が、地上における降水量Prが、所定の降水量(0.1mm/h)以上であると判定した場合には(ステップS230でYes)、降雪発生判定部221bは、時間T(t)及び領域R(r)において降雪が発生している、すなわち、「降雪発生」と判定する(ステップS240)。
【0119】
一方、降雪発生判定部221bは、上記ステップS220、S230のいずれかで「No」と判定した場合には、時間T(t)及び領域R(r)において降雪が発生していない、すなわち、「降雪無し」と判定する(ステップS250)。
【0120】
以上のようにして、降雪発生判定部221bは、時間T(t)及び領域R(r)において降雪が発生しているか否かを判定し、
図7に示す降雪発生判定処理を終了する。
【0121】
次に、
図6に戻り、降雪発生判定部221bが、ステップS200の降雪発生判定処理の結果、時間T(t)及び領域R(r)において降雪が発生していると判定した場合には(S300でYes)、第1の降雪原因判定部221c及び第2の降雪原因判定部221eが、
図8に示す降雪原因判定処理を行う(ステップS400)。
【0122】
図8は、本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2の動作(ステップS400の降雪原因判定処理の詳細)を示すフローチャートである。
【0123】
まず、第1の降雪原因判定部221cは、気象予報データ100に含まれる時間T(t)及び領域R(r)に対する複数の風ベクトルW950、W925、W900、W850、W800、W700、W600、W500のうち、地表面の直上に位置する気圧面の風ベクトルWselectを選択する(ステップS410)。
【0124】
次に、第1の降雪原因判定部221cは、ステップS230で選択した風ベクトルWselectの風向が、東風成分を含むか否かを第1の条件として判定する(ステップS420)。
【0125】
そして、第1の降雪原因判定部221cが、風ベクトルWselectの風向が、東風成分を含むと判定した場合には(ステップS420でYes)、時間T(t)及び領域R(r)における降雪の原因は、「低気圧」であると判定する(ステップS430)。
【0126】
一方、第1の降雪原因判定部221cが、風ベクトルWselectの風向が、東風成分を含まないと判定した(ステップS420でNo)、気象予報データ100に含まれる時間T(t)及び領域R(r)に対する所定の気圧面(500hPa)の相対湿度Rh500が、所定の湿度(80%)以上であるか否かを第2の条件として判定する(ステップS421)。
【0127】
そして、第1の降雪原因判定部221cが、相対湿度Rh500が、所定の湿度(80%)以上であると判定した場合には(ステップS421でYes)、時間T(t)及び領域R(r)における降雪の原因は、「低気圧」であると判定する(ステップS430)。なお、ステップS420と、ステップS421とは、順番を逆にしてもよい。
【0128】
一方、第1の降雪原因判定部221cが、相対湿度Rh500が、所定の湿度(80%)以上でないと判定した(ステップS421でNo)、第2の降雪原因判定部221eは、時間T(t)及び領域R(r)において、当該時間T(t)よりも前の弱層持続期間内(48時間以内)に、第1の降雪原因判定部221cにより降雪の原因が「低気圧」であると判定された降雪が発生しているか否かを判定する(ステップS440)。
【0129】
そして、第2の降雪原因判定部221eが、弱層持続期間内(48時間以内)に降雪の原因が「低気圧」である降雪が発生していると判定した場合には(ステップS440でYes)、時間T(t)及び領域R(r)における降雪の原因は、「低気圧通過後の冬型気圧配置」であると判定する(ステップS450)。
【0130】
以上のようにして、第1の降雪原因判定部221c及び第2の降雪原因判定部221eは、時間T(t)及び領域R(r)における降雪の原因を判定し、
図8に示す降雪原因判定処理を終了する。
【0131】
次に、
図6に戻り、第1の積算降雪量算定部221d、第2の積算降雪量算定部221f及び積算降雪量リセット部221gは、
図9に示す積算降雪量算定処理を行う(ステップS500)。
【0132】
図9は、本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2の動作(ステップS500の積算降雪量算定処理の詳細)を示すフローチャートである。
【0133】
まず、降雪発生判定部221bが、ステップS200の降雪発生判定処理の結果、時間T(t)及び領域R(r)において降雪が発生していると判定した場合であって(S510でYes)、第1の降雪原因判定部221cが、ステップS400の降雪原因判定処理の結果、当該降雪の原因が「低気圧」であると判定した場合には(S520でYes)、第1の積算降雪量算定部221dは、気象予報データ100に基づいて、第1の積算降雪量ΣA(t、r)を算定する(ステップS530)。
【0134】
具体的には、第1の積算降雪量算定部221dは、気象予報データ100に含まれる時間T(t)及び領域R(r)に対する降水量Pr(t、r)を降雪量Sf(t、r)とみなし、下記の式(1)により、時間T(t-1)及び領域R(r)における第1の積算降雪量ΣA(t-1、r)に降雪量Sf(t、r)を加算することにより、時間T(t)及び領域R(r)における第1の積算降雪量ΣA(t、r)を計算する。
【数1】
【0135】
ただし、上記の式(1)において、t=1の場合の第1の積算降雪量ΣA(t-1、r)は、現在時刻における積算降雪量に相当するため、実際の観測値を用いてもよいし、過去に行われた表層雪崩予測処理の結果として、雪崩危険度データベース211に登録されている積算降雪量を用いてもよいし、それらのデータがない場合には「0」としてもよい。
【0136】
次に、積算降雪量リセット部221gは、降雪原因が「低気圧」である降雪が継続して発生していない時間を領域R(r)毎にカウントする無降雪継続時間Tcount(r)を「0」にリセットする(ステップS531)。
【0137】
また、ステップS520にて、第1の降雪原因判定部221cが、時間T(t)及び領域R(r)における降雪の原因が、「低気圧」ではないと判定した場合であって(S520でNo)、第2の降雪原因判定部221eが、当該降雪の原因が、「低気圧通過後の冬型気圧配置」であると判定した場合には(S540でYes)、第2の積算降雪量算定部221fは、気象予報データ100に基づいて、第2の積算降雪量ΣB(t、r)を算定する(ステップS550)。
【0138】
具体的には、第2の積算降雪量算定部221fは、気象予報データ100に含まれる時間T(t)及び領域R(r)に対する降水量Pr(t、r)を降雪量Sf(t、r)とみなし、下記の式(2)により、時間T(t-1)及び領域R(r)における第2の積算降雪量ΣB(t-1、r)に降雪量Sf(t、r)を加算することにより、時間T(t)及び領域R(r)における第2の積算降雪量ΣB(t、r)を計算する。
【数2】
【0139】
ただし、上記の式(2)において、t=1の場合の第2の積算降雪量ΣB(t-1、r)は、現在時刻における積算降雪量に相当するため、実際の観測値を用いてもよいし、過去に行われた表層雪崩予測処理の結果として、雪崩危険度データベース211に登録されている積算降雪量を用いてもよいし、それらのデータがない場合には「0」としてもよい。
【0140】
また、ステップS520にて、降雪発生判定部221bが、時間T(t)及び領域R(r)において降雪が発生していないと判定した場合(ステップS510でNo)、又は、ステップS540にて、第2の降雪原因判定部221eが、時間T(t)及び領域R(r)における降雪の原因が、「低気圧通過後の冬型気圧配置」でないと判定した場合には(ステップS540でNo)、第1の積算降雪量算定部221dは、第1の積算降雪量ΣA(t、r)に第1の積算降雪量ΣA(t-1、r)を代入することにより第1の積算降雪量を引き継ぎ(ステップS560)、第2の積算降雪量算定部221fは、第2の積算降雪量ΣB(t、r)に第2の積算降雪量ΣB(t-1、r)を代入することにより第2の積算降雪量を引き継ぐ(ステップS561)。
【0141】
なお、ステップS520にて、降雪発生判定部221bが、時間T(t)及び領域R(r)において降雪が発生していないと判定した場合であっても(ステップS510でNo)、当該時間T(t)及び当該領域R(r)に対する降水量Prが、所定の降水量(0.1mm/h)以上である場合、すなわち、降雪ではなく降雨が発生している場合であって、当該時間T(t)よりも前の弱層持続期間内(48時間以内)に、第1の降雪原因判定部221cにより降雪の原因が「低気圧」であると判定された降雪が発生している場合には、当該時間T(t)における降水量Prを、第1の積算降雪量ΣA(t-1、r)又は第2の積算降雪量ΣB(t-1、r)に加算することにより、第1の積算降雪量ΣA(t、r)又は第2の積算降雪量ΣB(t、r)を計算するようにしてもよい。これは、弱層が形成されてから弱層持続期間内において、雨が一時的に降ったような場合、その雨が弱層の上の積雪層に保持されて荷重が増加することを考慮して、その雨による降水量を、上載積雪とみなして積算するためである。
【0142】
次に、ステップS550、S561に続く処理として、積算降雪量リセット部221gは、無降雪継続時間Tcount(r)に、所定の単位時間(ここでは、気象予報データ100の所定の時間間隔である「1時間」)を加算する(ステップS570)。
【0143】
次に、積算降雪量リセット部221gは、無降雪継続時間Tcount(r)が、弱層持続期間(48時間)以上であるか否かを判定し(ステップS580)、無降雪継続時間Tcount(r)が、弱層持続期間(48時間)以上であると判定した場合には(ステップS580でYes)、時間T(t)及び領域R(r)における第1の積算降雪量ΣA(t、r)を「0」にリセットし(ステップS590)、時間T(t)及び領域R(r)における第2の積算降雪量ΣB(t、r)を「0」にリセットする(ステップS591)。
【0144】
以上のようにして、第1の積算降雪量算定部221d及び第2の積算降雪量算定部221fは、時間T(t)及び領域R(r)における第1の積算降雪量ΣA(t、r)及び第2の積算降雪量ΣB(t、r)を算定し、
図9に示す積算降雪量算定処理を終了する。
【0145】
次に、
図6に戻り、第1の雪崩危険度判定部221hは、
図10に示す第1の雪崩危険度判定処理を行う(ステップS600)。
【0146】
図10は、本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2の動作(ステップS600の第1の雪崩危険度判定処理の詳細)を示すフローチャートである。
【0147】
まず、第1の雪崩危険度判定部221hは、ステップS500の積算降雪量算定処理で第1の積算降雪量算定部221dにより算定された時間T(t)及び領域R(r)における第1の積算降雪量ΣA(t、r)の値に応じて場合分けを行う(ステップS610)。
【0148】
第1の雪崩危険度判定部221hは、第1の積算降雪量ΣA(t、r)が5mm未満である場合には(ステップS610で「0≦ΣA<5」)、第1の雪崩危険度DA(t、r)を「安全」(緑)と判定し(ステップS620)、第1の積算降雪量ΣA(t、r)が5mm以上であって10mm未満である場合には(ステップS610で「5≦ΣA<10」)、第1の雪崩危険度DA(t、r)を「注意」(黄緑)と判定し(ステップS630)、第1の積算降雪量ΣA(t、r)が10mm以上であって15mm未満である場合には(ステップS610で「10≦ΣA<15」)、第1の雪崩危険度DA(t、r)を「警戒」(黄)と判定し(ステップS640)、第1の積算降雪量ΣA(t、r)が15mm以上であって20mm未満である場合には(ステップS610で「15≦ΣA<20」)、第1の雪崩危険度DA(t、r)を「厳重警戒」(橙)と判定し(ステップS650)、第1の積算降雪量ΣA(t、r)が20mm以上である場合には(ステップS610で「20≦ΣA」)、第1の雪崩危険度DA(t、r)を「危険」(赤)と判定する(ステップS660)。
【0149】
以上のようにして、第1の雪崩危険度判定部221hは、第1の積算降雪量ΣA(t、r)の値に基づいて第1の雪崩危険度DA(t、r)を判定し、
図10に示す第1の雪崩危険度判定処理を終了する。
【0150】
次に、
図6に戻り、第2の雪崩危険度判定部221iは、
図11に示す第2の雪崩危険度判定処理を行う(ステップS700)。
【0151】
図11は、本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2の動作(ステップS700の第2の雪崩危険度判定処理の詳細)を示すフローチャートである。
【0152】
まず、第2の雪崩危険度判定部221iは、ステップS500の積算降雪量算定処理で第1の積算降雪量算定部221dにより算定された時間T(t)及び領域R(r)における第1の積算降雪量ΣA(t、r)と、第2の積算降雪量算定部221fにより算定された時間T(t)及び領域R(r)における第2の積算降雪量ΣB(t、r)とを加算することにより、合計積算降雪量ΣC(t、r)を算定する(ステップS701)。
【0153】
次に、第2の雪崩危険度判定部221iは、合計積算降雪量ΣC(t、r)の値に応じて場合分けを行う(ステップS710)。
【0154】
第2の雪崩危険度判定部221iは、合計積算降雪量ΣC(t、r)が5mm未満である場合には(ステップS710で「0≦ΣC<5」)、第2の雪崩危険度DB(t、r)を「安全」(緑)と判定し(ステップS720)、合計積算降雪量ΣC(t、r)が5mm以上であって10mm未満である場合には(ステップS710で「5≦ΣC<10」)、第2の雪崩危険度DB(t、r)を「注意」(黄緑)と判定し(ステップS730)、合計積算降雪量ΣC(t、r)が10mm以上であって15mm未満である場合には(ステップS710で「10≦ΣC<15」)、第2の雪崩危険度DB(t、r)を「警戒」(黄)と判定し(ステップS740)、合計積算降雪量ΣC(t、r)が15mm以上であって20mm未満である場合には(ステップS710で「15≦ΣC<20」)、第2の雪崩危険度DB(t、r)を「厳重警戒」(橙)と判定し(ステップS750)、合計積算降雪量ΣC(t、r)が20mm以上である場合には(ステップS710で「20≦ΣC」)、第2の雪崩危険度DB(t、r)を「危険」(赤)と判定する(ステップS760)。
【0155】
以上のようにして、第2の雪崩危険度判定部221iは、合計積算降雪量ΣC(t、r)の値に基づいて第2の雪崩危険度DB(t、r)を判定し、
図11に示す第2の雪崩危険度判定処理を終了する。
【0156】
次に、
図6に戻り、表層雪崩予測部221は、ステップS500の積算降雪量算定処理で算定された第1の積算降雪量ΣA(t、r)及び第2の積算降雪量ΣB(t、r)と、ステップS600の第1の雪崩危険度判定処理で判定された第1の雪崩危険度DA(t、r)と、ステップS700の第2の雪崩危険度判定処理で算定された合計積算降雪量ΣC(t、r)と、ステップS700の第2の雪崩危険度判定処理で判定された第2の雪崩危険度DB(t、r)とを、表層雪崩予測情報200として、雪崩危険度データベース211に登録する(ステップS900)。
【0157】
そして、表層雪崩予測部221は、繰り返しループNでステップS100~S900をRmax回繰り返すとともに、繰り返しループMでステップS20~S21をTmax回繰り返すことにより、各時間T(t)及び各領域R(r)における第1の積算降雪量ΣA(t、r)、第2の積算降雪量ΣB(t、r)、合計積算降雪量ΣC(t、r)、第1の雪崩危険度DA(t、r)、及び第2の雪崩危険度DB(t、r)を含む表層雪崩予測情報200を予測し、その予測した表層雪崩予測情報200を雪崩危険度データベース211に登録し、
図6~11に示す表層雪崩予測処理を終了する。
【0158】
(表示情報生成処理と、表示画面について)
以下に、表層雪崩予測装置2が表示情報を生成する際の動作(表示情報生成処理)と、表層雪崩予測装置2により生成された表示情報に基づく表示画面について、
図12~14を参照しつつ説明する。
【0159】
図12は、本発明の実施形態に係る表層雪崩予測装置2の動作(表示情報生成処理)及びユーザ端末11の動作を示すフローチャートである。表層雪崩予測装置2は、表層雪崩予測処理により気象予報データベース210及び雪崩危険度データベース211に表示の対象となるデータが登録されている場合に、表示情報生成処理を開始可能であり、表層雪崩予測処理とは異なるタイミングで表示情報生成処理を開始してもよいし、表層雪崩予測処理と並行して表示情報生成処理を開始してもよい。
【0160】
まず、ユーザ端末11は、例えば、表層雪崩予測装置2にアクセスするためのURLを指定するユーザのアクセス操作を受け付けると(ステップS1000)、その指定されたURLにアクセスするとともに、表示日時及び表示要素を含む表示情報生成要求を表層雪崩予測装置2に送信する(ステップS1001)。
【0161】
そして、表層雪崩予測装置2の表示情報生成部222は、ユーザ端末11により送信された表示情報生成要求に応じて、気象予報データベース210及び雪崩危険度データベース211を参照することにより、ユーザ端末11に気象情報表示画面3を表示させる表示情報を生成し、その生成した表示情報をユーザ端末11に送信する(ステップS1100)。
【0162】
次に、ユーザ端末11は、表示情報生成要求に対する応答として、表層雪崩予測装置2から表示情報を受信し、その表示情報に基づいて、
図13に示す気象情報表示画面3を表示する(ステップS1010)。
【0163】
図13は、本発明の実施形態に係る表層雪崩予測システム1における気象情報表示画面3を示す図である。気象情報表示画面3は、画面左上側に配置された日時選択領域30と、画面左下側に配置された要素選択領域31と、画面右側に配置されて、各種の気象情報として、気象要素110及び表層雪崩予測情報200等を地図上に重畳して表示する気象情報表示領域32と、を備える。なお、日時選択領域30、要素選択領域31及び気象情報表示領域32を表示する際の配置やサイズは適宜変更してもよい。
【0164】
日時選択領域30は、気象情報表示領域32に気象情報を表示する際に、表示の対象とする表示日を、例えば、カレンダー形式で選択する日付選択部300と、表示の対象とする表示時間を、スライダーバーや、停止ボタン、再生ボタン及び一時停止ボタンで選択する時間選択部301と、を備える。
【0165】
要素選択領域31は、気象情報表示領域32に気象情報を表示する際に、表示の対象とする表示要素を、例えば、コンボボックスで選択する要素選択部310と、要素選択部310で選択された表示要素とともに、地上における風ベクトルWgの風向を表示するか否かを、例えば、チェックボックスで指定する風向指定部311と、を備える。
【0166】
要素選択部310は、コンボボックスによる表示要素の選択肢として、気象予報データ100に含まれる気象要素110である地上における気温Temp、相対湿度Rh、降水量Pr、及び、風ベクトルWgの風向と、表層雪崩予測部221により予測された表層雪崩予測情報200に含まれる第1の積算降雪量ΣA(t、r)、第2の積算降雪量ΣB(t、r)、合計積算降雪量ΣC(t、r)、第1の雪崩危険度DA(t、r)、及び第2の雪崩危険度DB(t、r)とが選択可能に構成されている。
【0167】
気象情報表示領域32は、その気象情報表示領域32の全体に地図を表示する地図表示部320と、地図表示部320に表示する地図の表示範囲や拡大率を指定する地図指定部321と、を備える。
【0168】
地図表示部320は、地図指定部321により指定された表示範囲や拡大率に基づいて地図を表示するとともに、その地図上に、要素選択部310で選択された表示要素を重畳して表示するように構成されている。
図13に示す気象情報表示画面3は、表示情報生成要求に含まれる表示要素として、現在時刻から1時間後が選択され、表示情報生成要求に含まれる表示要素として、要素選択部310で「第1の雪崩危険度」が選択されている場合に表示される表示画面であり、地図表示部320は、表示日時に対応する時間T(t)における各領域R(r)の第1の雪崩危険度DA(t、r)を、段階的な表示態様にそれぞれ対応させたコンター図を地図上に重畳して表示する。なお、コンター図は、カラースケールのコンター図でもよいし、グレースケールのコンター図でもよい。
【0169】
また、地図表示部320は、地図上の任意の特定地点をマウスでダブルクリックするユーザの地点特定操作を受け付けることで、その特定地点に対する気象情報を時系列グラフで表示するように構成されている。
【0170】
なお、地図表示部320に表示する地図には、例えば、都道府県名、市町村名、山、川、湖等の地名、行政区画の境界線、道路や鉄道の路線図等の補助情報が表示されていてもよく、地図に表示する補助情報をユーザにより選択可能に構成されていてもよい。また、地図指定部321は、地図をマウスでドラッグする操作を受け付けることで、地図の表示範囲を指定してもよいし、地図上でマウスホイールを回転する操作力を受け付けることで、地図の拡大率を指定してもよい。
【0171】
ここで、
図13に示す気象情報表示画面3において、ユーザ端末11は、日時選択領域30及び要素選択領域31に対するユーザの選択操作を受け付けると、その選択操作により選択された表示日時及び表示要素を含む表示情報生成要求を表層雪崩予測装置2に送信し、その表示情報生成要求に対する応答として、表層雪崩予測装置2により生成された表示情報を受信することにより、その選択操作により選択された表示日時及び表示要素に応じた気象情報表示画面3に切り換える。
【0172】
また、
図13に示す気象情報表示画面3において、ユーザ端末11は、気象情報表示領域32に表示された地図上の任意の特定地点をマウスでダブルクリックするユーザの地点特定操作を受け付けると(ステップS1020)、その地点特定操作で受け付けた特定地点及び表示要素を含む表示情報生成要求を表層雪崩予測装置2に送信する(ステップS1021)。そして、表層雪崩予測装置2の表示情報生成部222は、その表示情報生成要求に応じて気象予報データベース210及び雪崩危険度データベース211を参照することにより、ユーザ端末11に時系列グラフ表示画面4を表示させる表示情報を生成し、その生成した表示情報をユーザ端末11に送信すると(ステップS1110)、ユーザ端末11は、その表示情報に基づいて、
図14に示す時系列グラフ表示画面4を表示する(ステップS1030)。
【0173】
図14は、本発明の実施形態に係る表層雪崩予測システム1における時系列グラフ表示画面4を示す図である。時系列グラフ表示画面4は、気象情報表示画面3の要素選択部310で「第1の積算降雪量」が選択され状態にて、地図上の任意の特定地点がマウスでダブルクリックされた場合に表示される表示画面である。また、時系列グラフ表示画面4は、積算降雪量リセット部221gにより、時刻「3:00」の時点で「低気圧」を原因とする降雪が弱層持続期間内(時刻「3:00」よりも前の48時間以内)に発生していないことにより、第1の積算降雪量ΣA(t、r)が、時刻「3:00」に「0」にリセットされた場合に表示される表示画面である。
【0174】
時系列グラフ表示画面4は、画面右側に配置されて、時間を横軸とし、積算積雪量を縦軸としたグラフに対して、特定地点を含む領域R(r)における第1の積算降雪量ΣA(t、r)の時間的な推移を、例えば、折れ線400で表示する時系列グラフ領域40と、画面左側に配置された要素選択領域41と、を備える。なお、
図14に示す時系列グラフ領域40は、横軸として、例えば、2018年2月21日0:00~16:00の範囲(期間)を表示するものであるが、全ての期間を表示するようにしてもよいし、表示の対象とする期間をスクロールバーにより変更可能にしてもよいし、表示の対象とする期間の開始時刻及び終了時刻の少なくとも一方を変更可能にしてもよい。
【0175】
要素選択領域41は、時系列グラフ領域40に折れ線400を表示する際に、折れ線400による表示の対象とする表示要素を、例えば、コンボボックスで選択する要素選択部410を備える。要素選択部410は、コンボボックスによる表示要素の選択肢として、
図13に示す要素選択部310と同様の表示要素が選択可能に構成されている。
【0176】
なお、
図13に示す気象情報表示画面3において、要素選択部310にて第1の雪崩危険度又は第2の雪崩危険度が表示要素として選択された場合、気象情報表示領域32に、第1の雪崩危険度DA(t、r)又は第2の雪崩危険度DB(t、r)を表示するものとして説明したが、表示要素の選択肢として、例えば、第3の雪崩危険度を追加し、要素選択部310にて第3の雪崩危険度が選択された場合、気象情報表示領域32に、第1の雪崩危険度DA(t、r)及び第2の雪崩危険度DB(t、r)のうち危険度レベルがより高いものを選択して表示するようにしてもよいし、第1の雪崩危険度DA(t、r)及び第2の雪崩危険度DB(t、r)の平均値に相当する危険度レベルを表示するようにしてもよい。
【0177】
また、
図14に示す時系列グラフ表示画面4において、要素選択部410にて第1の積算降雪量が表示要素として選択された場合、時系列グラフ領域40に、第1の積算降雪量ΣA(t、r)の時間的な推移を折れ線400で表示するものとして説明したが、要素選択部410にて複数の表示要素を同時に選択可能とし、要素選択部410にて複数の表示要素が同時選択された場合、時系列グラフ領域40に、同時に選択された複数の表示要素にそれぞれ対応する複数の折れ線を表示するようにしてもよい。
【0178】
以上のように、上記実施形態に係る表層雪崩予測装置2において、第1の積算降雪量算定部221dが、降雪の原因が「低気圧」であると判定された各時間T(t)及び各領域R(r)における降雪量Sfを、領域R(t)毎に複数の時間T(t)に亘って積算することにより、各時間T(t)及び各領域R(r)における第1の積算降雪量ΣA(t、r)をそれぞれ算定し、第1の雪崩危険度判定部221hが、第1の積算降雪量ΣA(t、r)に基づいて、各時間T(t)及び各領域R(r)における第1の雪崩危険度DA(t、r)をそれぞれ判定するので、低気圧を原因とする降雪により弱層が形成されて、その同じ低気圧を原因とする降雪により弱層の上に上載積雪が形成されることで発生する表層雪崩(第1の表層雪崩発生パターン130Aによる表層雪崩)の危険度を的確に予測することができる。
【0179】
また、第2の積算降雪量算定部221fが、降雪の原因が「低気圧通過後の冬型気圧配置」であると判定された各時間T(t)及び各領域R(r)における降雪量Sfを、領域R(t)毎に複数の時間T(t)に亘って積算することにより、各時間T(t)及び各領域R(r)における第2の積算降雪量ΣB(t、r)をそれぞれ算定し、第2の雪崩危険度判定部221iが、各時間T(t)及び各領域R(r)における第1の積算降雪量ΣA(t、r)と、第2の積算降雪量ΣB(t、r)とに基づいて、各時間T(t)及び各領域R(r)における第2の雪崩危険度DB(t、r)をそれぞれ判定するので、低気圧を原因とする降雪により弱層が形成されて、その低気圧を原因とする降雪と、その低気圧が通過した後の冬型の気圧配置を原因とする降雪とにより弱層の上に上載積雪が形成されることで発生する表層雪崩(第2の表層雪崩発生パターン130Bによる表層雪崩)の危険度を的確に予測することができる。
【0180】
また、表示情報生成部222が、各時間T(t)及び各領域R(r)における第1の雪崩危険度DA(t、r)及び第2の雪崩危険度DB(t、r)を表示画面に表示させる表示情報を生成するので、第1の雪崩危険度DA(t、r)及び第2の雪崩危険度DB(t、r)を視覚的に把握することができる。
【0181】
また、表示情報生成部222が、複数の危険度レベルにそれぞれ対応する複数の表示態様に基づいて、第1の雪崩危険度DA(t、r)及び第2の雪崩危険度DB(t、r)を表示画面に表示させる前記表示情報を生成するので、第1の表層雪崩発生パターン130A及び第2の表層雪崩発生パターン130Bによる表層雪崩が発生する危険度が高い時間及び領域を容易に把握することができる。
【0182】
また、積算降雪量リセット部221gが、降雪が発生していないと判定された時間T(t)及び領域R(r)において、又は、降雪の原因が「低気圧」でないと判定された時間T(t)及び領域R(r)において、当該時間よりも前の弱層持続期間内に、降雪の原因が「低気圧」であると判定された降雪が発生していない場合、当該時間T(t)及び当該領域R(r)における第1の積算降雪量ΣA(t、r)及び第2の積算降雪量ΣB(t、r)をリセットするので、弱層持続期間が経過することで当該弱層による表層雪崩の危険度が低下する状況に応じて表層雪崩の発生を的確に予測することができる。
【0183】
また、第1の降雪原因判定部221cが、降雪が発生していると判定された各時間T(t)及び各領域R(r)に対する風向が東風成分を含むか否かを第1の条件として判定し、第1の条件を満たすと判定した場合、当該降雪の原因が「低気圧」であると判定するので、第1の表層雪崩発生パターン130Aによる表層雪崩を発生させる降雪の原因を的確に判定することができる。
【0184】
また、第1の降雪原因判定部221cが、降雪が発生していると判定された各時間T(t)及び各領域R(r)に対する風向が東風成分を含むか否かを第1の条件として判定するとともに、降雪が発生していると判定された各時間T(t)及び各領域R(r)に対する所定の気圧面の相対湿度が所定の湿度以上であるか否かを第2の条件として判定し、第1の条件及び第2の条件のうちいずれか一方の条件を満たすと判定した場合、当該降雪の原因が「低気圧」であると判定するので、地形の影響を受けることなく、降雪の原因を的確に判定することができる。
【0185】
また、第1の降雪原因判定部221cは、降雪が発生していると判定された各時間T(t)及び各領域R(r)に対する複数の風向のうち地表面の直上に位置する気圧面に対応する風向が東風成分を含むか否かを第1の条件として判定し、第1の条件を満たすと判定した場合、当該降雪の原因が「低気圧」であると判定するので、地形の影響を受けることなく、降雪の原因を的確に判定することができる。
【0186】
また、第2の降雪原因判定部221eが、降雪の原因が「低気圧」でないと判定された時間T(t)及び領域R(r)において、当該時間T(t)よりも前の弱層持続期間内に、降雪の原因が「低気圧」であると判定された降雪が発生している場合、当該時間T(t)及び当該領域R(r)における降雪の原因が「低気圧通過後の冬型気圧配置」であると判定するので、第2の表層雪崩発生パターン130Bによる表層雪崩を発生させる降雪の原因を的確に判定することができる。
【0187】
また、降雪発生判定部221bが、各時間T(t)及び各領域R(r)に対する気温Tempが所定の範囲の温度であり、かつ、各時間T(t)及び各領域R(r)に対する降水量Prが所定の降水量以上である場合、降雪が発生していると判定するので、降雪の発生を的確に判定することができる。
【0188】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0189】
例えば、上記実施形態では、気象予報データ100は、風速及び風向を示す気象要素110として、風ベクトルW(東西成分wu及び南北成分wv)を含むものとして説明したが、気象予報データ100が、風ベクトルWに代えて、気象要素110として、風速及び風向をそれぞれ含むようにしてしてもよい。
【0190】
また、上記実施形態では、表層雪崩予測装置2は、単一の情報処理装置で構成されているものとして説明したが、複数の情報処理装置で構成されていてもよく、例えば、データ取得部220及び表層雪崩予測部221を備えた計算用サーバと、気象予報データベース210及び雪崩危険度データベース211を備えたデータサーバと、表示情報生成部222を備えた表示用サーバとで構成されていてもよい。
【0191】
また、上記実施形態では、表層雪崩予測装置2は、表層雪崩予測情報200に基づいて表示情報を生成し、その表示情報をユーザ端末11に送信するものとして説明したが、表層雪崩予測情報200又は表示情報を、他のシステム、サーバ、クラウドサービスプラットフォーム等に提供するようにしてもよい。例えば、表層雪崩予測装置2が、表層雪崩予測情報200又は表示情報を、GISシステム(地理情報システム)に提供し、GISシステムが、表層雪崩予測情報200又は表示情報を、GISシステムが有するGISデータ(例えば、家屋、土地利用、道路)に重ね合わせて表示するようにしてもよい。
【0192】
また、上記実施形態では、表層雪崩予測プログラム213は、記憶部21に記憶されたものとして説明したが、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、DVD等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されてもよいし、ネットワーク12に接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供されてもよい。
【符号の説明】
【0193】
1…表層雪崩予測システム、2…表層雪崩予測装置、
3…気象情報表示画面、4…時系列グラフ表示画面、
10…気象予報システム、11…ユーザ端末、12…ネットワーク、
13A…第1の表層雪崩発生パターン、13B…第2の表層雪崩発生パターン、
20…入力部、21…記憶部、22…制御部、23…通信部、24…出力部、
30…日時選択領域、31…要素選択領域、32…気象情報表示領域、
40…時系列グラフ領域、41…要素選択領域、
100…気象予報データ、110…気象要素、
130…低気圧、131…温暖前線、132…寒冷前線、133…風向き、
140…第1の領域、141…第2の領域、142…第3の領域、
140a~142a…降雪範囲、
200…表層雪崩予測情報、210…気象予報データベース、
211…雪崩危険度データベース、212…地理情報、
212a…傾斜度3次メッシュデータ、212b…傾斜度5次メッシュデータ、
213…表層雪崩予測プログラム、
220…データ取得部、221…表層雪崩予測部、221a…傾斜判定部、
221b…降雪発生判定部、221b1…気温判定部、221b2…降水量判定部、
221c…第1の降雪原因判定部、221d…第1の積算降雪量算定部、
221e…第2の降雪原因判定部、221f…第2の積算降雪量算定部、
221g…積算降雪量リセット部、221h…第1の雪崩危険度判定部、
221i…第2の雪崩危険度判定部、222…表示情報生成部、
300…日付選択部、301…時間選択部、310…要素選択部、
311…風向指定部、320…地図表示部、321…地図指定部、
400…折れ線、410…要素選択部