(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】車両用ホイールのロゴ部形成方法
(51)【国際特許分類】
B60B 1/06 20060101AFI20220922BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20220922BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20220922BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20220922BHJP
B60B 3/10 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
B60B1/06
B05D7/14 P
B05D3/12 D
B05D3/00 D
B60B3/10
(21)【出願番号】P 2019201548
(22)【出願日】2019-11-06
【審査請求日】2020-07-30
(73)【特許権者】
【識別番号】591100301
【氏名又は名称】株式会社レイズエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100111257
【氏名又は名称】宮崎 栄二
(74)【代理人】
【識別番号】100110504
【氏名又は名称】原田 智裕
(72)【発明者】
【氏名】稲谷 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和則
(72)【発明者】
【氏名】廣政 努
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 靖之
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-000584(JP,A)
【文献】特開平11-090775(JP,A)
【文献】特開2015-067113(JP,A)
【文献】特開平05-068935(JP,A)
【文献】特開昭62-136276(JP,A)
【文献】特開2007-069405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 1/06
B05D 7/14
B05D 3/12
B05D 3/00
B60B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体ないし分割構造におけるリム及び複数のスポークを有するディスクで構成するホイール本体を備える軽合金製の車両用ホイールにロゴ部を形成する方法であって、
前記ホイール本体にベース色の塗装が行われたスポークを含むディスク又はリムの一部に機械加工にて塗膜及びホイール本体の母材金属を切削することにより金属面を露出させながら文字、図形又は記号等からなるロゴ部の彫刻加工面を形成する彫刻加工工程と、
前記彫刻加工面上に有色又は無色のクリア塗料を塗装してクリア塗膜を形成する塗装工程とを有し、
前記彫刻加工工程は、
予め、ロゴ部のロゴデザイン形状の線形をなぞるように切削工具としてボールエンドミルを移動させ
る線形の加工軌跡では、コーナ部の折れ曲がり内側部分における彫刻加工面にボールエンドミルの加工軌跡上に削り残しとして形成される一定高さ以上の高い凸部位が形成されてしまうロゴデザイン形状のコーナ部を特定し、
前記線形の加工軌跡における前記特定のコーナ部においては前記ボールエンドミルが所定のピックフィード量でずれながら当該コーナ部に沿うかあるいは当該コーナ部に向かうように往復移動す
る凸除去動作を行い、低所となる凸除去加工軌跡構造が形成
されて前記高い凸部位の形成を阻害する加工軌跡へと変更し、
次いで、前記変更した線形の加工軌跡に基づいて前記ボールエンドミルにより前記ロゴ部の彫刻加工を行う車両用ホイールのロゴ部形成方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の車両用ホイールのロゴ部形成方法において、
前記特定のコーナ部は、ロゴデザイン形状の略鋭角なコーナ部を含む車両用ホイールのロゴ部形成方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両用ホイールのロゴ部形成方法において、
前記ロゴ部のロゴデザイン形状は、前記彫刻加工工程において前記ボールエンドミルの加工線を一本線の加工軌跡形状により形成する車両用ホイールのロゴ部形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロゴ部が形成された車両用ホイール及び車両用ホイールのロゴ部形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ホイールの意匠面に文字、図形、記号等からなるロゴ部を設けたものが知られており、このロゴ部は、メーカー名やブランド名などを象徴するとともに、ホイールデザインのアクセント要素にもなる重要部分である。本出願人は、車両用ホイールにロゴ部を形成する技術を開発し、この技術が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示する技術は、車両用ホイールにおいて、ディスク又はリムの塗装部の一部に機械加工にて塗膜及び母材金属を切削することにより金属面を露出させながらロゴ部が形成され、ロゴ部には、機械工具の刃物目を残して凹凸筋が連続する表面となった彫刻加工部が形成され、彫刻加工部には、凹凸筋表面の凹凸を均すようにクリア塗料を塗布して透明層が形成されて彫刻加工部が立体感を強調して呈する構成を備えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記ロゴ部を切削工具で彫刻加工する際、比較的小径の切削工具を用いて加工線を複数列に並べた軌跡で加工することにより、金属面に凹凸筋が形成される。その後、凹凸筋にクリア塗膜を形成するには、凹凸筋の凸部位の頂点をカバーする膜厚のクリア塗膜を形成する必要がある。凸部位の頂点まで確実に覆うクリア塗膜を形成する方法としては、例えば、以下の二つの方法が考えられる。
【0005】
第1の方法は、凹凸筋の凸部位の頂点にクリア塗膜が形成されるまでクリア塗料の塗布量を多くして厚膜に塗装する方法である。しかし、この第1方法では、クリア塗料を1コートで厚膜塗装すると、三次元曲面を有する車両用ホイールにおいては、塗装タレや乾燥後の沸きが発生して塗装不良となるおそれがある。
【0006】
第2の方法は、塗装タレや乾燥後の沸きが発生しないクリア塗布量で1コートの塗装を行い、焼付乾燥後に再度クリア塗料を塗り重ねる方法である。しかし、この第2の方法では、塗装工数、焼付乾燥工数等が増し且つ塗装工程の作業時間も長くなるため、塗装工程や生産管理等に負荷が掛かり、また、コスト高にもなる。
【0007】
従って、クリア塗膜を効率的且つ経済的に形成するには、塗装タレや乾燥後の沸きの発生がなく且つ1コートで推奨膜厚に形成可能な塗布量でクリア塗料の塗装を1コートで行うのが好ましい。
【0008】
ところで、ロゴ部のロゴデザイン形状を彫刻加工する際、切削工具(例えば、ボールエンドミル)をロゴデザイン形状の線形をなぞる加工軌跡をたどらせる場合、ロゴデザイン形状によっては、彫刻加工面には、削り残しの高い凸部位(カスプ)が形成されることがある。例えば、「A」の文字を彫刻加工する場合を例に挙げて、以下に説明する。
【0009】
図7において矢印付き一点鎖線で示すように、切削工具により、例えば、「A」の文字の左下から切削を開始し、右斜め上方向へと直線移動させ、次いで下方向に直線移動させ、そして少し上方向へ戻し、最後に左横方向へ直線移動させて左の斜線部分に至るように、「A」の文字の線形に沿ってなぞった加工軌跡8をたどらせる。文字の線幅を太く描くには、切削工具を所定のピックフィード量を持って加工線を複数列並べた加工軌跡をたどらせる。この場合、加工線を複数列並べた部位では、隣り合った加工線の間における切削工具の削り残しの凸部位による凹凸筋が形成される。この複数列の加工線間に形成される凸部位の高さは、切削工具のピックフィード量を小さくすることにより低く形成することが可能である。
【0010】
一方、「A」の文字の特定のコーナ部7においては、切削工具の加工方向の方向転換や加工線との接続・交差に伴い切削工具の削り残しの高い凸部位62が形成される。そして、前述のとおり、塗装タレや乾燥後の沸きの発生がなく且つ1コートで推奨膜厚に形成可能な塗布量でクリア塗料の塗装を1コートで行うと、コーナ部7の高い凸部位62の頂点には、クリア塗膜43が形成されないか、あるいは凸部位62の頂点でのクリア塗膜43が所定膜厚未満となってしまう(
図5(a)を参照)。そうなると、時間経過によって、この高い凸部位62を起点にクリア塗膜43の剥がれが発生したり、高い凸部位62に沿って糸錆が発生したりする等の問題が生じるおそれがある。
【0011】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、ロゴ部の彫刻加工面のコーナ部には高い凸部位がなく、十分な膜厚のクリア塗膜を形成することが可能な車両用ホイールのロゴ部形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る車両用ホイールのロゴ部形成方法は、
一体ないし分割構造におけるリム及び複数のスポークを有するディスクで構成するホイール本体を備える軽合金製の車両用ホイールにロゴ部を形成する方法であって、
前記ホイール本体にベース色の塗装が行われたスポークを含むディスク又はリムの一部に機械加工にて塗膜及びホイール本体の母材金属を切削することにより金属面を露出させながら文字、図形又は記号等からなるロゴ部の彫刻加工面を形成する彫刻加工工程と、
前記彫刻加工面上に有色又は無色のクリア塗料を塗装してクリア塗膜を形成する塗装工程とを有し、
前記彫刻加工工程は、
予め、ロゴ部のロゴデザイン形状の線形をなぞるように切削工具としてボールエンドミルを移動させる線形の加工軌跡では、コーナ部の折れ曲がり内側部分における彫刻加工面にボールエンドミルの加工軌跡上に削り残しとして形成される一定高さ以上の高い凸部位が形成されてしまうロゴデザイン形状のコーナ部を特定し、
前記線形の加工軌跡における前記特定のコーナ部においては前記ボールエンドミルが所定のピックフィード量でずれながら当該コーナ部に沿うかあるいは当該コーナ部に向かうように往復移動する凸除去動作を行い、低所となる凸除去加工軌跡構造が形成されて前記高い凸部位の形成を阻害する加工軌跡へと変更し、
次いで、前記変更した線形の加工軌跡に基づいて前記ボールエンドミルにより前記ロゴ部の彫刻加工を行う、方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ロゴ部の彫刻加工面において凸除去加工軌跡構造を備えることにより、ロゴデザイン形状のコーナ部には高い凸部位が形成されることがない。例えば、彫刻加工面上のクリア塗膜の形成において塗装タレや乾燥後の沸きが発生することがなく且つ1コートで推奨膜厚のクリア塗膜が形成可能な塗布量でクリア塗料の塗装を1コートで行う場合であっても、ロゴデザイン形状のコーナ部にも十分な膜厚のクリア塗膜が形成される。従って、彫刻加工面全体に十分な膜厚のクリア塗膜を形成することが可能となる。よって、ロゴ部におけるクリア塗膜の剥がれや糸錆等の発生を長期にわたり防止することができ、ロゴ部の彫刻加工により得られる高い意匠性を長期的に且つ安定して発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態による車両用ホイールを示す正面図である。
【
図2】実施形態による車両用ホイールを示す断面図である。
【
図3】スポークに形成したロゴ部の部分を拡大して示す拡大図である。
【
図4】塗装部及びロゴ部における断面構造を示す断面図である。
【
図5】ロゴ部のロゴデザイン形状のコーナ部における断面構造を示す断面図であり、同図(a)は高い凸部位が形成された彫刻加工面を示す断面図であり、同図(b)は高い凸部位が除去される低所となった凸除去加工軌跡構造が形成された彫刻加工面を示す断面図である。
【
図6】ロゴ部の形成方法の例として、彫刻加工面を形成する際に高い凸部位が除去される凸除去動作を行う加工軌跡を説明するための説明図である。
【
図7】ロゴ部の形成方法の例として、彫刻加工面を形成する際に線形に沿ってなぞる加工軌跡により高い凸部位が形成されることを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1、
図2に示すように、実施形態の車両用ホイール1は、リム2とディスク3とによりホイール本体10を構成するものである。車両用ホイール1は、軽合金製であり、例えば、アルミニウム合金又はマグネシウム合金等により形成されている。車両用ホイール1は、リム2とディスク3とが一体構造又は分割構造であってもよく、また、リム2とディスク3とは、鍛造又は鋳造により製作することができる。リム2は、全体が円筒形状を有し、円筒形状の両端部に径方向外方へ延びるリムフランジ21が形成されている。ディスク3は、車両ハブと嵌合するハブ穴31と、ハブ穴31から外周方向に放射状に設けられた複数のスポーク32とを備えている。リムフランジ21及びディスク3の表面側が三次元曲面で形成する車両用ホイール1の意匠面を構成する。
【0017】
図3に示すように、車両用ホイール1は、所定のベース色に塗装された塗装部5と、スポーク32天面の塗装部5の一部に形成された金属光輝性を呈するロゴ部6とを有する。ロゴ部6は、文字、図形又は記号等のような所定のロゴデザイン形状に構成されている。なお、ロゴ部6は、スポーク32天面以外に、スポーク32側面、スポーク32以外のディスク面、リムフランジ面等、スポーク32を含むディスク3又はリム2の一部に形成することができる。
【0018】
図4に示すように、塗装部5は、ホイール本体10の金属素地上に、プライマー層41とベース色の塗膜42とクリア塗膜43とで形成される層構造を有する。ロゴ部6は、ホイール本体10にベース色の塗膜42が形成された後に機械加工にて塗膜42、プライマー層41及びホイール本体10の母材金属を切削してホイール本体10の金属面を露出させた彫刻加工面61と、彫刻加工面61上に形成されたクリア塗膜43とを有している。ロゴ部6のクリア塗膜43は、塗装部5のクリア塗膜43と同時に形成される。このクリア塗膜43は、無色のクリア塗膜であるが、有色のカラークリア塗膜であってもよい。なお、ロゴ部6の彫刻加工面61は、ホイール本体10の金属素地上に、プライマー層41とベース色の塗膜42とクリア塗膜43とが形成された後に、これらクリア塗膜43、塗膜42、プライマー層41及びホイール本体10の母材金属を切削して金属面を露出させて形成してもよい。また、ロゴ部6の一部又は全部には、クリア塗膜43の上に所定色のカラークリア塗膜を形成してもよい。
【0019】
彫刻加工面61は、ロゴ部6のロゴデザイン形状を形成するように切削工具(例えば、ボールエンドミル等の様々な切削工具)により彫刻加工された金属面である。彫刻加工面61は、基本的には、ロゴ部6の構成要素(例えば、1つの文字)におけるロゴデザイン形状の線形に沿ってなぞった切削工具の加工軌跡形状により形成されている。ロゴ部6の文字等は、例えば、切削工具を一筆書きするように移動させて形成することができる。ロゴ部6のロゴデザイン形状の全部又は一部の線は、切削工具の加工線を一本線又は複数本の加工線を並べた加工軌跡形状により形成することができる。
【0020】
ところで、切削工具をロゴ部6のロゴデザイン形状の線形に沿ってなぞって彫刻加工面61を形成する場合に、ロゴデザイン形状によっては、彫刻加工面61におけるロゴデザイン形状の特定のコーナ部7においては切削工具の加工軌跡8上に削り残しとして一定高さ以上の高い凸部位62が形成されてしまう(
図5(a)、
図7を参照)。この高い凸部位62には、クリア塗膜43が形成されないか、あるいは、
図5(a)に示すように、凸部位62の頂点でのクリア塗膜43は所定膜厚未満の薄膜となってしまう。本実施形態では、彫刻加工面61は、ロゴデザイン形状の特定のコーナ部7においては当該ロゴデザイン形状の線形に沿ってなぞった切削工具の加工軌跡8上に削り残しとして形成されてしまう一定高さ以上の高い凸部位62が除去される低所となる凸除去加工軌跡構造63(
図5(b)、
図6を参照)を備えている。例えば、ロゴデザイン形状における略鋭角なコーナ部7には、凸除去加工軌跡構造63が形成される(
図6を参照)。ここで「略鋭角なコーナ部7」には、直角より小さい鋭角だけでなく、直角や直角に近い鈍角であっても、前記削り残しの高い凸部位62が形成されるコーナ部7を含む。従って、ロゴデザイン形状の特定のコーナ部7においては、
図5(b)に示すように、高い凸部位62が除去される低所となる凸除去加工軌跡構造63が形成されるから、クリア塗膜43が十分な膜厚となって形成される。
【0021】
凸除去加工軌跡構造63は、切削工具が所定のピックフィード量でずれながら当該コーナ部7に沿うかあるいは当該コーナ部7に向かうように往復移動して形成された低所となる加工軌跡構造である。従って、彫刻加工面61には、一定高さ以上の高い凸部位62が形成されることがない。例えば、
図6に示すように、「A」の文字では、4箇所の略鋭角なコーナ部71~74には、凸除去加工軌跡構造63が形成されて高い凸部位62が形成されない構成を有する。この「A」の文字の4箇所の略鋭角なコーナ部7以外の線形部分は、「A」の文字の線形に沿ってなぞった切削工具の加工軌跡形状を有する。なお、「C」の文字のように、円弧状もしくはR状等の線形により構成され、略鋭角なコーナ部7を有しない彫刻加工面61は、高い凸部位62が形成されることがないため、そのロゴデザイン形状の線形に沿ってなぞった切削工具の加工軌跡形状だけで構成される。
【0022】
前記一定高さ以上の高い凸部位62とは、三次元曲面を有する車両用ホイール1にあって、彫刻加工面61上に形成されるクリア塗膜43において、塗装タレや乾燥後の沸きが発生しない所定塗布量で1コートのクリア塗料の塗装によっては、凸部位62の頂点にクリア塗膜43が形成されないか、あるいは凸部位62の頂点には所定膜厚未満にしかクリア塗膜43が形成されない高い凸部位62である。ここで、前記所定塗布量は、1コートで、例えば、25~35μm程度の推奨膜厚にクリア塗膜43を形成可能なクリア塗料の塗布量である。前記所定膜厚未満でいう所定膜厚は、例えば、7μm程度である。すなわち、本実施形態では、上述の凸除去加工軌跡構造63により、彫刻加工面61には一定高さ以上の高い凸部位62が形成されないから、彫刻加工面61上のクリア塗膜43は、ロゴデザイン形状のコーナ部7にも25μm以上(少なくとも7μm以上)の膜厚のクリア塗膜43を形成することができる(
図5(b)を参照)。従って、彫刻加工面61上に形成されるクリア塗膜43は、塗装タレや乾燥後の沸きの発生がなく且つ1コートで推奨膜厚のクリア塗膜43が形成可能な塗布量でクリア塗料の塗装を1コートで行う場合であっても、ロゴデザイン形状のコーナ部7にも十分な膜厚のクリア塗膜43が形成されている。
【0023】
次に、前記ロゴ部6の形成方法の一例を説明する。
まず、塗膜形成前の前処理が施されたホイール本体10の全面に、プライマー塗料を塗布してプライマー層41を形成し、このプライマー層41の上に車両用ホイール1のベース色の溶剤塗料を塗装して塗膜42を形成する。そして、この塗膜42を形成した所定部位を切削工具で彫刻加工してロゴ部6の彫刻加工面61を形成する彫刻加工工程と、彫刻加工面61上にクリア塗料を塗装してクリア塗膜43を形成する塗装工程とを行うことにより、ロゴ部6が形成される。
【0024】
彫刻加工工程は、マシニングセンタ等の工作機械をCNC制御して切削工具(ボールエンドミル)を用いて彫刻加工することにより、塗膜42を形成した所定部位において塗膜42、プライマー層41及びホイール本体10の母材金属を切削してホイール本体10の金属面を露出させながら、文字、図形又は記号等で構成するロゴ部6のロゴデザイン形状の彫刻加工面61を形成する。
【0025】
この彫刻加工の際、切削工具をロゴデザイン形状の線形に沿ってなぞる加工軌跡8で移動させると、ロゴ部6のロゴデザイン形状によっては、彫刻加工面61には、切削工具の加工軌跡8上に削り残しとして高い凸部位62が形成されることがある。例えば、
図7に示すように、「A」の文字であれば、「A」の文字の略鋭角なコーナ部7において、切削工具の加工方向の方向転換や加工線との接続・交差に伴い切削工具の削り残しの高い凸部位62が形成されてしまう(
図5(a)、
図7を参照)。次の塗装工程では、彫刻加工面61上に形成するクリア塗膜43を効率的且つ経済的に形成するには、塗装タレや乾燥後の沸きの発生がなく且つ1コートで推奨膜厚に形成可能な塗布量でクリア塗料の塗装を1コートで形成するのが好ましい。そのため、ロゴデザイン形状の略鋭角なコーナ部7に形成される高い凸部位62には、前記塗布量でクリア塗料の塗装を1コートで行うと、クリア塗膜43が形成されないか、あるいはクリア塗膜43の膜厚が所定膜厚未満(
図5(a)を参照)となってしまう。
【0026】
そこで、本実施形態では、彫刻加工工程は、基本的にはロゴ部6のロゴデザイン形状の線形に沿ってなぞる加工軌跡プログラムに基づいて切削工具を移動させるが、この加工軌跡プログラムでは切削工具の加工軌跡8上に削り残しとして形成される一定高さ以上の高い凸部位62が形成されてしまうロゴデザイン形状のコーナ部7を特定し、この特定のコーナ部7においては前記加工軌跡プログラムを変更して彫刻加工を行う。特定のコーナ部7では、切削工具が所定のピックフィード量でずれながら当該コーナ部7に沿うかあるいは当該コーナ部7に向かうように往復移動する加工軌跡8となる凸除去動作を行わせる。これにより、特定のコーナ部7においては、前記一定高さ以上の高い凸部位62が除去される低所となった凸除去加工軌跡構造63が形成される。
【0027】
例えば、
図6に示すロゴデザイン形状の「A」の文字であれば、特定のコーナ部7として略鋭利なコーナ部7が特定され、具体的には、「A」の文字の頂点部及び「A」の文字の横線の左右端部3箇所の合計4箇所が特定される。以下では、説明の便宜上、略鋭利なコーナ部7として、「A」の文字の頂点部下側部を第1コーナ部71、「A」の文字の横線の右端部下側部を第2コーナ部72、「A」の文字の横線の右端部上側部を第3コーナ部73、「A」の文字の横線の左端部上側部を第4コーナ部74として説明する。そして、これら略鋭利なコーナ部71~74においては、「A」の文字の線形に沿ってなぞる動作を行う加工軌跡プログラムの部分を、以下の凸除去動作を行う加工軌跡プログラムへと変更する。
【0028】
図6に切削工具の加工軌跡8として矢印付き一点鎖線で示すように、まず、切削工具を、「A」の文字の左下から切削を開始させ、右斜め上方向へと直線移動させる。第1コーナ部71に差し掛かると、この第1コーナ部71においては、所定のピックフィード量(例えば、切削工具の刃物直径の1/2)でずれながら、第1コーナ部71のコーナ形状に沿って略弧状に往復移動させる凸除去動作を行う。この第1コーナ部71における凸除去動作では、例えば、切削工具を2往復移動させる。これにより、この第1コーナ部71には、低所となった凸除去加工軌跡構造63が形成されることにより、線形をなぞる加工軌跡8において折れ曲がり内側部分に削り残しとして形成されてしまう高い凸部位62の形成が阻害される。
【0029】
続いて、切削工具を、第1コーナ部71から下方向へと直線移動させ、下端部から少し上方向へ直線移動させて第2コーナ部72に向かわせる。この第2コーナ部72は、上側の第3コーナ部73と対向位置に存在する。そこで、この第2、第3コーナ部72,73においては、切削工具が第2コーナ部72に差し掛かると、例えば、第2コーナ部72に対して、切削工具を所定のピックフィード量(例えば、切削工具の刃物直径の1/2)でずれながら、第2コーナ部72のコーナ形状に沿って略弧状に往復移動させる凸除去動作を行う。この第2コーナ部72における凸除去動作では、例えば、切削工具を2往復移動させる。この第2コーナ部72に対する凸除去動作は、同時に、上側の第3コーナ部73に対しては、切削工具が第3コーナ部73のコーナ形状に向かうように往復移動する凸除去動作となる。これにより、第2、第3コーナ部72,73には、同時に、低所となる凸除去加工軌跡構造63が形成されることにより、線形をなぞる加工軌跡8において折れ曲がり内側部分に削り残しとして形成されてしまう高い凸部位62の形成が阻害される。
【0030】
続いて、切削工具を、第2、第3コーナ部72,73から左横方向へ直線移動させ、第4コーナ部74に差し掛かると、この第4コーナ部74においては、所定のピックフィード量(例えば、切削工具の刃物直径の1/2)でずれながら、第4コーナ部74のコーナ形状に沿って略弧状に往復移動させる凸除去動作を行う。この第4コーナ部74における凸除去動作では、例えば、切削工具を4往復半移動させる。これにより、この第4コーナ部74には、低所となる凸除去加工軌跡構造63が形成されることにより、線形をなぞる加工軌跡8において折れ曲がり内側部分に削り残しとして形成されてしまう高い凸部位62の形成が阻害される。
【0031】
このようにして、「A」の文字の彫刻加工面61は、4箇所の略鋭利なコーナ部71~74において「A」の文字の線形に沿ってなぞる加工軌跡8上に削り残しとして形成されてしまう一定高さ以上の高い凸部位62が除去される低所となった凸除去加工軌跡構造63が形成される。
なお、前記の彫刻加工動作は、例示であり、Aの文字に沿って切削工具を周回させて適宜の順番で各コーナ部における凸除去動作を行うようにする等、様々な方法で動作させてもよい。
【0032】
以上より、本実施形態によれば、彫刻加工面61には、一定高さ以上の高い凸部位62が除去される低所となる凸除去加工軌跡構造63を備えるから、ロゴ部6の彫刻加工面61には高い凸部位62が形成されることがない。従って、次の塗装工程において、例えば、塗装タレや乾燥後の沸きの発生がなく且つ1コートで推奨膜厚に形成可能な塗布量でクリア塗料の塗装を1コートで行う場合であっても、彫刻加工面61におけるロゴデザイン形状のコーナ部7にも十分な膜厚のクリア塗膜43が形成され、彫刻加工面61の全体に十分な膜厚のクリア塗膜43を形成することが可能となる。よって、ロゴ部6におけるクリア塗膜43の剥がれや糸錆等の発生を長期にわたり防止することができ、ロゴ部6の彫刻加工により得られる高い意匠性を長期的に且つ安定して発揮させることができる。
【0033】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内で様々な変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 車両用ホイール
2 リム
3 ディスク
5 塗装部
6 ロゴ部
7 コーナ部
8 加工軌跡
10 ホイール本体
21 リムフランジ
31 ハブ穴
32 スポーク
41 プライマー層
42 ベース色塗膜
43 クリア塗膜
61 彫刻加工面
62 高い凸部位
63 凸除去加工軌跡構造