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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】スガマデクスナトリウム塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/16 20060101AFI20220922BHJP
   A61P 39/02 20060101ALN20220922BHJP
   A61P 21/00 20060101ALN20220922BHJP
   A61K 31/724 20060101ALN20220922BHJP
【FI】
C08B37/16
A61P39/02
A61P21/00
A61K31/724
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020566774
(86)(22)【出願日】2019-05-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 KR2019006143
(87)【国際公開番号】W WO2019231166
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2020-11-27
(31)【優先権主張番号】10-2018-0060624
(32)【優先日】2018-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518254931
【氏名又は名称】ヨンスン ファイン ケミカル カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ムン,ヒョン ウック
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ス ファン
(72)【発明者】
【氏名】イ,キ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】シン,ヒョン イク
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104628891(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0009827(US,A1)
【文献】特表2003-515623(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0016359(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104844732(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0221641(US,A1)
【文献】国際公開第2016/194001(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/16
A61K 31/724
A61P 39/02
A61P 21/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)水分2重量%以下に乾燥させた下記化学式2で表される化合物を下記化学式3で表される化合物とトリフェニルホスフィンの存在下で反応させて、下記化学式4で表される化合物を収得し、収得した化学式4で表される化合物をジメチルホルムアミド(DMF)及びアセトニトリル(ACN)で再結晶してトリフェニルホスフィンオキシドを除去する段階;及び
(ii)下記化学式4で表される化合物を3-メルカプトプロピオン酸と水酸化ナトリウム又はナトリウムメトキシドの存在下で反応させて、下記化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩を収得し、収得した化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩をアミノプロピル官能化されたシリカで精製して重金属を除去する段階を含む、下記化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩の製造方法。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
前記式中、
Xはハロゲンである。
【請求項2】
XはBrである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ジメチルホルムアミド(DMF)とアセトニトリル(ACN)との体積比は1:1~1:5である、請求項に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アミノプロピル官能化されたシリカは、化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩100重量%に対し、2~5重量%の量で用いられる、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スガマデクスナトリウム塩の製造方法に係り、より詳しくは、スガマデクスナトリウム塩を効率よく且つ高純度で製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
6-メルカプトシクロデキストリン誘導体は薬物誘導神経筋遮断の逆転に有用であり、特に、下記化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩(6-ペルデオキシ-6-ペル(2-カルボキシエチル)チオ-ガンマ-シクロデキストリンナトリウム塩)は、ロクロニウム又はベクロニウムによって誘導された神経筋遮断の逆転に有用であるということがアメリカ特許第6,670,340号に開示されている。
【0003】
【化1】
【0004】
前記化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩は、筋弛緩拮抗剤であるブリディオン(Bridion)の活性医薬成分(API)である。
【0005】
アメリカ特許第6,670,340号には、下記反応式1で表されたように、6-ペルデオキシ-6-ペルヨード-ガンマ-シクロデキストリンと3-メルカプトプロピオン酸とをアルカリ金属水素化物を用い無水DMF条件で反応させて、スガマデクスナトリウム塩を製造する方法が開示されている。
【0006】
【化2】
【0007】
しかし、前記スガマデクスナトリウム塩の製造方法では、一番目の反応段階で6-ペルデオキシ-6-ペルヨード-ガンマ-シクロデキストリンを合成するときにトリフェニルホスフィンオキシドが生成され、これは除去し難い。また、二番目の反応段階でスガマデクスナトリウム塩を合成するときに用いるアルカリ金属水素化物は水分に敏感であるため取り扱い難く、前記製造方法によって製造されたスガマデクスナトリウム塩は純度が低いという不具合があった。
【0008】
また、アメリカ特許第9,120,876号には、下記反応式2で表されたように、ハロゲン化リンを用いて6-ペルデオキシ-6-ペルハロ-ガンマ-シクロデキストリンを合成した後、アルカリ金属水素化物を塩基として用いて6-ペルデオキシ-6-ペルハロ-ガンマ-シクロデキストリンと3-メルカプトプロピオン酸とを反応させて、スガマデクスナトリウム塩を製造する方法が開示されている。
【0009】
【化3】
【0010】
しかし、前記スガマデクスナトリウム塩の製造方法では、中間体である6-ペルデオキシ-6-ペルハロ-ガンマ-シクロデキストリンを合成するときに極めて取り扱い難いハロゲン化リンが用いられ、このときにトリフェニルホスフィンオキシドが生成され、これは除去が極めて困難であるという短所がある。また、スガマデクスナトリウム塩の製造の際に水分に敏感なアルカリ金属水素化物を用いるという工程上の問題点と、精製過程でカラムクロマトグラフィー膜透析(column chromatographic membrane dialysis)技術を用いることでコスト的に生産に適用し難いという問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一目的は、高純度のスガマデクスナトリウム塩をより経済的且つ効率よく製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態は、下記化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩の製造方法に関するものであって、本発明の一実施形態に係る製造方法は、
(i)下記化学式2で表される化合物を下記化学式3で表される化合物とトリフェニルホスフィンの存在下で反応させて、下記化学式4で表される化合物を収得する段階;及び
(ii)下記化学式4で表される化合物を3-メルカプトプロピオン酸とナトリウム塩の存在下で反応させる段階を含む。
【0013】
【化4】
【0014】
【化5】
【0015】
【化6】
【0016】
【化7】
【0017】
前記式中、
Xはハロゲンである。
【0018】
本発明の一実施形態において、Xは、F、Cl、Br又はIである。特に、XはBrである。
【0019】
本発明の一実施形態に係る製造方法は、前記段階(i)の前に化学式2で表される化合物を水分2重量%以下に乾燥させる段階をさらに含んでよい。
【0020】
本発明の一実施形態に係る製造方法は、前記段階(i)で収得した化学式4で表される化合物をジメチルホルムアミド(DMF)及びアセトニトリル(ACN)で再結晶してトリフェニルホスフィンオキシドを除去する段階をさらに含んでよい。
【0021】
本発明の一実施形態に係る製造方法は、前記段階(ii)で収得した化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩をアミノプロピル官能化されたシリカで精製して重金属を除去する段階をさらに含んでよい。
【0022】
以下、本発明に係る製造方法を、下記反応式3と反応式4を参照してより詳しく説明する。なお、下記反応式3と反応式4に記載された方法は代表的に用いられる方法を例示したものであるに過ぎず、反応試薬や反応条件などは場合に応じて適宜変更されてよい。
【0023】
【化8】
【0024】
【化9】
【0025】
第1段階:化学式4で表される化合物の合成
化学式4で表される化合物は、化学式2で表される化合物を化学式3で表される化合物とトリフェニルホスフィンの存在下で反応させて製造することができる。
【0026】
このとき、化学式2で表される化合物は、化学式4で表される化合物の合成に用いられる前に水分2重量%以下、例えば、約1重量%~2重量%、特に2重量%に乾燥されてよい。
【0027】
前記化学式2で表される化合物と化学式3で表される化合物との当量比は、1:0.4~0.6、特に1:0.5であってよい。
【0028】
反応溶媒としては、アセトン、ACN、DMF、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが用いられてよく、特にDMFが好ましい。
【0029】
反応温度は約50~90℃が適合し、反応時間は約5~15時間が好ましい。
【0030】
前記段階(i)で収得した化学式4で表される化合物は、化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩の製造に用いられる前に精製されてよい。
【0031】
具体的に、前記化学式4で表される化合物は、ジメチルホルムアミド(DMF)及びアセトニトリル(ACN)で再結晶してトリフェニルホスフィンオキシドを除去することで精製されてよい。
【0032】
前記ジメチルホルムアミド(DMF)とアセトニトリル(ACN)との体積比は、1:1~1:5であってよく、特に1:2が好ましい。
【0033】
第2段階:化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩の製造
化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩は、化学式4で表される化合物を3-メルカプトプロピオン酸とナトリウム塩の存在下で反応させて製造することができる。
【0034】
前記ナトリウム塩としては、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシドなどが用いられてよい。
【0035】
反応溶媒としては、アセトン、ACN、DMF、DMSOなどが用いられてよく、特にDMFが好ましい。
【0036】
反応温度は約50~90℃が適合し、反応時間は約10~20時間が好ましい。
【0037】
前記段階(ii)で収得した化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩は、アミノプロピル官能化されたシリカで精製して重金属が除去されてよい。
【0038】
前記化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩は、分子中の硫黄(S)原子が重金属と配位結合することがあり、重金属による汚染の可能性がある。本発明では、アミノプロピル官能化されたシリカを用いて、化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩から重金属、例えば、Fe、Cuなどを除去してよい。
【0039】
前記アミノプロピル官能化されたシリカとしては、市販の製品を用いてよく、例えば、ジョンソン・マッセイ(Johnson Matthey)社製のQuadraSil APを用いてよい。
【0040】
前記アミノプロピル官能化されたシリカは、化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩100重量%に対し、2~5重量%、特に3重量%の量で用いられてよい。
【0041】
本発明の一実施形態は前記化学式4で表される化合物の製造方法に関し、本発明の一実施形態に係る製造方法は、
(i)下記化学式2で表される化合物を下記化学式3で表される化合物とトリフェニルホスフィンの存在下で反応させる段階を含む。
【0042】
【化10】
【0043】
【化11】
【0044】
【化12】
【0045】
前記式中、
Xはハロゲンである。
【0046】
前記化学式4で表される化合物の製造方法に関する詳細な説明は、スガマデクスナトリウム塩の製造方法に関して上述した第1段階と同一であるので、重複する説明を避けるために具体的な説明を省略する。
【発明の効果】
【0047】
本発明の製造方法によれば、高純度のスガマデクスナトリウム塩を効率よく製造することができる。特に、本発明の製造方法によれば、製造中間体である6-ペルデオキシ-6-ペルハロ-ガンマ-シクロデキストリンを合成する際、取り扱い難く且つ高価の試薬であるハロゲン化リンを用いることなく副生物として生成されるトリフェニルホスフィンオキシドを効率よく除去して、スガマデクスナトリウム塩を高純度で簡易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明することにする。なお、これらの実施例は単に本発明を説明するためのものであるに過ぎず、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されないことは当業者にとって自明である。
【0049】
実施例1:化学式4で表される化合物の合成
XがBrである化学式3で表される化合物(10.7g)をDMF(35.6mL)に入れて撹拌した。トリフェニルホスフィン(19.5g)を、10℃以下を保ちながら5回に分けて入れて徐々に室温に昇温し、水分含量が2重量%に調節された化学式2で表される化合物(5.6g)をDMF(35.6mL)に希釈した溶液を入れてから後2時間撹拌した。反応液を85℃に昇温して12時間撹拌し、反応の進行をHPLCで確認した。反応液を室温に下げ、メタノール(14.7mL)を入れてから30分撹拌し、-10℃に反応液の温度を下げてから、25%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(10.47mL)を加えて30分撹拌した。反応液に蒸留水(58.5mL)を1時間にかけて滴下し、1時間撹拌してからろ過した。ろ過物を蒸留水(15mL)で洗浄し30分間ろ過した。ろ過物をメタノール(93mL)に入れて1時間撹拌し、メタノール(24mL)で洗浄しながらろ過した。60℃で12時間真空乾燥して、化学式4で表される化合物(6.7g)を収得した。
【0050】
実施例2:化学式4で表される化合物の精製
化学式4で表される化合物(6.7g)をDMF(22.4mL)に入れて15分撹拌しろ過して異物を除去した。ろ液を45℃に昇温し、ACN(45.2mL)を1時間にかけて滴下してから徐々に室温に冷却し、1時間撹拌して固体を析出させた。30分間ACN(12.3mL)で洗浄しながらろ過し、ろ過物を60℃で12時間真空乾燥して、化学式4で表される化合物(6g、77%)を収得した。収得された化学式4で表される化合物の純度は99.82%であって、トリフェニルホスフィンオキシドが完全に除去されたことを確認した。
【0051】
1H NMR (300 MHz, DMSO):δ 6.01-5.97 (2H, m), 5.02 (1H, d, J = 3.6 Hz), 3.98 (1H, d, J = 9.6 Hz), 3.82 (1H, t, J = 9.0 Hz), 3.71-3.59 (2H, m), 3.44-3.36 (2H, m).
実施例3:化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩の製造
DMF(24mL)に25%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(11.43mL)を入れて撹拌した。反応液を0℃に冷却し、3-メルカプトプロピオン酸(2.18mL)を反応液が10℃を超えて昇温しないように滴下し徐々に常温に昇温して1時間撹拌した。反応液に化学式4で表される化合物(3g)をDMF(9mL)に溶解させた溶液を加え、85℃に昇温して18時間撹拌した。反応の確認はHPLCで行った。反応液を室温に下げてから蒸留水(36mL)を入れて50~60℃に昇温した後、メタノール(50mL)を等温度で滴下した。反応液を室温に下げて2時間撹拌した。ろ過の後、ろ過物を60℃で12時間真空乾燥して、化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩(3.02g、83.5%)を収得した。
【0052】
実施例4:化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩の精製
乾燥した化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩(2.53g)を蒸留水(5.06mL)、メタノール(5.06mL)に完全に溶解させ、アミノプロピル官能化されたシリカ(ジョンソン・マッセイ社製のQuadraSil AP)(0.0759g)を入れて1時間撹拌してからろ過した後、ろ液を50~60℃に昇温してからメタノール(22.5mL)を等温度で滴下した。反応液を室温に下げて2時間撹拌してからろ過し、ろ過物を60℃で12時間真空乾燥して、化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩(3.0g、83%)を収得した。化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩の純度は97.69%であった。
【0053】
1H NMR (300 MHz, D2O):δ 5.13 (1H, d, J = 3.9 Hz), 4.03-3.86 (1H, m), 3.90 (1H, t, J = 9.6 Hz), 3.63-3.56 (2H, m), 3.10-3.06 (1H, m), 2.94 (1H, dd, J = 13.8, 6.3 Hz), 2.81 (2H, t, J = 7.2 Hz), 2.46-2.41 (2H, m).
実験例1:化学式2で表される化合物の水分含量
下記の表1のように化学式2で表される化合物の水分含量を異にして、化学式4で表される化合物を合成してから化学式4で表される化合物に対してHPLC分析を行い、その結果を下記の表1に表した。
【0054】
【表1】
【0055】
前記表1から、化学式2で表される化合物の水分含量が増加するほど化学式4で表される化合物の面積値が減少し、類縁物質の面積値が増加することが確認できる。化学式2で表される化合物の水分含量を2重量%までと調節した場合、化学式4で表される化合物の面積値が99%以上であったのに対し、類縁物質の面積値は0.2%以下であった。したがって、化学式2で表される化合物の水分含量を2重量%以下に下げることによって、化学式4で表される化合物の収率を大きく増加させ得ることが分かる。
【0056】
実験例2:化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩の重金属成分除去分析
化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩をアミノプロピル官能化されたシリカで精製する前後の重金属の含量を誘導結合プラズマ質量分析法(ICP Mass)で測定した。その結果を下記の表2に表した。
【0057】
【表2】
【0058】
前記表2から、化学式1で表されるスガマデクスナトリウム塩をアミノプロピル官能化されたシリカで精製した後に重金属が効率よく除去されたことが確認できる。したがって、アミノプロピル官能化されたシリカを用いた精製過程が反応工程に有効であることが分かる。