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特許7144880活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、インク及びインクセット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、インク及びインクセット
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/40 20170101AFI20220922BHJP
   B29C 64/112 20170101ALI20220922BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220922BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
B29C64/40
B29C64/112
B33Y70/00
C08F2/44 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021152205
(22)【出願日】2021-09-17
(62)【分割の表示】P 2020071989の分割
【原出願日】2019-07-18
(65)【公開番号】P2022008440
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2021-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2018134659
(32)【優先日】2018-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314001841
【氏名又は名称】KJケミカルズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平田 明理
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康平
(72)【発明者】
【氏名】清貞 俊次
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-148962(JP,A)
【文献】特開2017-222154(JP,A)
【文献】国際公開第2017/146423(WO,A1)
【文献】特開2017-078123(JP,A)
【文献】特開2017-222049(JP,A)
【文献】特開2019-059035(JP,A)
【文献】特開2017-031490(JP,A)
【文献】特表2018-523589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00- 64/40
B33Y 10/00- 99/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機性値/有機性値(I/O値)が0.4~1.8である非重合性化合物(A)を0.1~90質量%、無機性値/有機性値(I/O値)が0.8~3.0である重合性化合物(B)を10~99.9質量%含有し、(A)は、融点又は軟化点が-80℃~40℃である下記の脂肪酸エステルと脂肪族エーテルから選ばれる1種以上のアルコール(a4)を含有し、脂肪酸エステルと脂肪族エーテルは、炭素原子が飽和結合又は不飽和結合で形成した直鎖、分枝鎖、又は脂環式の置換基を有し、該置換基の炭素原子の数が8以上である、三次元造形サポート材用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
脂肪酸エステル:ソルビタン脂肪酸エステル、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル
脂肪族エーテル:ソルビタン脂肪族エーテル、ポリアルキレングリコール脂肪族エーテル、グリセリン脂肪族エーテル
【請求項2】
(A)は、更に、融点又は軟化点が0℃以上であって、且つ、分子量が2,000未満の低分子化合物(a2)((a4)を除く)、及び/又は、ガラス転移温度(Tg)が20℃以上、且つ、分子量が2,000以上のオリゴマー及び/又はポリマー(a3)を含有する、請求項1に記載の三次元造形サポート材用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
(B)は、(メタ)アクリレート基、(メタ)アクリルアミド基、ビニル基、アリル基、マレイミド基から選ばれる1種以上の重合性官能基を有するモノマーである請求項1又は2に記載の三次元造形サポート材用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
(B)は、(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビスヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドから選ばれる1種以上のモノマーであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の三次元造形サポート材用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の三次元造形サポート材用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物又は、請求項1~4のいずれか一項に記載の三次元造形サポート材用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物及び光重合開始剤(C)を含有する三次元造形用活性エネルギー線硬化性サポート材インク。
【請求項6】
I/O値が0.8~2.0である請求項5に記載の三次元造形用活性エネルギー線硬化性サポート材インク。
【請求項7】
インクジェット方式の三次元造形に用いられる請求項5又は6に記載の三次元造形用活性エネルギー線硬化性サポート材インク。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか一項に記載の三次元造形用活性エネルギー線硬化性サポート材インクと、I/O値が0.4~0.8である三次元造形用活性エネルギー線硬化性モデル材インクからなる三次元造形インクセット。
【請求項9】
三次元造形用活性エネルギー線硬化性サポート材インクと三次元造形用活性エネルギー線硬化性モデル材インクのI/O値の差が0~1.6であることを特徴とする請求項8に記載の三次元造形インクセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形における形状支持用サポート材を形成するために用いられる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、該組成物を含有する光硬化性のサポート材インクと、モデル材インクとサポート材インクのインクセット、及び該インクセットを用いて造形される三次元造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元造形は一般的に3Dプリンターと呼ばれる造形装置を用いて行う。具体的には、アクリル系光硬化性樹脂を用いたUVインクジェット方式(3DUVIJ)、熱可塑性樹脂を用いた熱溶解積層方式(FDM)、他にも粉末造形方式や液槽式光造形方式(SLA)等が知られている。また、三次元造形は造形物の自重により変形を防ぐため、形状支持用の支持体が必要になる。特にUVIJ方式では、モデル材からなる造形物とサポート材からなる支持体を同時に形成する必要があって、造形後粗造形物からサポート材を除去する工程を設けなければならない。
【0003】
粗造形物からサポート材を除去する方法として、ヘラやブラシ等を用いて手作業で剥離する方法、ウォータージェットで吹き飛ばす方法、熱可塑性樹脂や熱溶融性ワックスからなるサポート材を加熱溶融させて除去する方法、アルカリ性水溶液、水や有機溶剤を用いてサポート材を溶解、分散或いは膨潤・崩壊させて除去する方法などが提案されている。中には、サポート材が水に溶解、分散させる方法は、モデル材とサポート材からなる粗造形物を水に浸けておくだけで、サポート材が容易に除去でき、特別な洗浄液を用意しなくても、造形物の細部に詰まったサポート材を効率的に除去することができ、造形物の破損や変形も起こり難いため、注目されている。例えば、特許文献1は、水溶性単官能エチレン性不飽和単量体とポリオキシプロピレングリコール(PPG)及び/又は水を主成分としたサポート材用光硬化性樹脂組成物を提案した。特許文献2は、水溶性単官能エチレン性不飽和単量体、PPG、ポリオキシエチレングリコール(PEG)及び水溶性有機溶剤を主成分としたサポート材用光硬化性樹脂組成物を提案した。特許文献3は、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基又はポリオキシブチレン基を有する単官能エチレン性不飽和単量体、(メタ)アクリル系単量体を主成分としたサポート材用光硬化性樹脂組成物を提案した。また、特許文献4は、ポリオキシブチレングリコール(PTMG)と水溶性単官能エチレン性不飽和単量体を主成分としたサポート材用光硬化性樹脂組成物を提案した。
【0004】
しかし、特許文献1~4の組成物には、必須且つ主要成分としてPPG、PTMG等を含有しており、このようなポリオキシアルキルグリコールは、分子量が低い場合、得られるサポート材インクは極性が強いため、吸湿性が高く、インクを充填するインクタンク、インクを吐出するヘッドやノズル等が侵食され易くなり、特に、圧電部材のせん断モード変形を利用したせん断モード型インクジェットヘッドを使用される場合、ヘードの構造上ではインクと電極が接触するため、極性の強いインクによる電極腐食が起こりやすい問題があった。一方、分子量が高い場合、得られるサポート材インクは粘度が高く、3DUVIJに用いることが困難であった。例え水や有機溶剤で希釈する場合でも、極性の強い溶剤にしか溶けないため、高吸湿性、高極性が依然として問題である。
【0005】
また、中分子量や高分子量のポリオキシアルキルグリコールを使用したサポート材が、水に浸けた際に、サポート材全体がモデル材から剥離し、ポリオキシアルキルグリコールが油状の残渣として水中に拡散したら、モデル材の表面や細部等水と接触するあらゆる部分に付着してしまう問題があった。このような油状残渣を再度アルコール等で洗浄するか、ふき取る等の仕上げ作業により取り除かなければならず、大変が手間や費用がかかり、又洗浄後の水溶液は濁ったものや油膜張ったものであって、排水処理は困難という問題もあった。
【0006】
また、特許文献5は水溶性単官能エチレン性不飽和単量体と炭素数3~6のジオールを主成分としたサポート材用光硬化性樹脂組成物、特許文献6はアミン含有単量体とアミン含有重合体からなるサポート材用光硬化性樹脂組成物、特許文献7はイオン性単量体を含有するサポート材用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、それぞれが提案されている。しかしながら、これらのサポート材インクにおいても極性が強く、サポート材の除去時間を短縮できるものであるが、3Dプリンターのヘッド腐食等の問題を解決できるものではない。
【0007】
さらに、極性の強いサポート材インクを用いた場合、大きいサイズの品物には所要な造形時間が長くなり、その間吸湿によりサポート材が変形し、造形精度の低下を招く恐れがある。また、三次元造形の高精度について、最も高難度であるシャープ角や側面について、これらの特許文献には一切言及されてない。
【0008】
一方でインクジェット方式の3Dプリンターによる造形はより大規模、高速度、高精度と高性能化が求められ、サポート材としては十分な強度と耐湿性を有し、様々な構造を有する3Dプリンターに使用可能、且つ造形物の表面汚染が起こらなく、仕上げ工程が不要で、洗浄後の水等を容易に処理できるものの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO2012/060204号公報
【文献】WO2017/018453号公報
【文献】特開2018-058974号公報
【文献】WO2018/101343号公報
【文献】特表2017-222049号公報
【文献】WO2017/146423号公報
【文献】WO2016/121587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、モデル材とサポート材からなる一体の粗造形物を水等の洗浄液に浸漬するだけで、サポート材を効率よく除去でき、かつ仕上げ工程が必要とせず、高精度に大型の三次元造形物を取得できるサポート材用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物及び該樹脂組成物を含有する各種構造の3Dプリンターに適用する光硬化性サポート材インクを提供することを課題とする。また、本発明は、光硬化性モデル材インク及び光硬化性モデル材インクとサポート材インクから光硬化性インクセット、該光硬化性インクセットを用いて造形される三次元造形物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、無機性基/有機性基(I/O値)が0.4~1.8である非重合性化合物(A)を0.1~90質量%、無機性基/有機性基(I/O値)が0.8~3.0である重合性化合物(B)を10~99.9質量%含有する三次元造形サポート材用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用いることにより前記の課題を解決し、目標を達成しえることを見出し、本発明に至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は
(1)無機性/有機性(I/O値)が0.4~1.8である非重合性化合物(A)を0.1~90質量%、無機性/有機性(I/O値)が0.8~3.0である重合性化合物(B)を10~99.9質量%含有し、(A)は、下記の脂肪酸エステルと脂肪族エーテルから選ばれる1種以上のアルコール(a4)を含有し、脂肪酸エステルと脂肪族エーテルは、炭素原子が飽和結合又は不飽和結合で形成した直鎖、分枝鎖、又は脂環式の置換基を有し、該置換基の炭素原子の数が8以上である、三次元造形サポート材用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、
脂肪酸エステル:ソルビタン脂肪酸エステル、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル
脂肪族エーテル:ソルビタン脂肪族エーテル、ポリアルキレングリコール脂肪族エーテル、グリセリン脂肪族エーテル
(2)(A)は、更に、融点又は軟化点が0℃以上であって、且つ、分子量が2,000未満の低分子化合物(a2)((a4)を除く)、及び/又は、ガラス転移温度(Tg)が20℃以上、且つ、分子量が2,000以上のオリゴマー及び/又はポリマー(a3)を含有する、(1)に記載の三次元造形サポート材用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、
(3)(B)は、(メタ)アクリレート基、(メタ)アクリルアミド基、ビニル基、アリル基、マレイミド基から選ばれる1種以上の重合性官能基を有するモノマーである(1)又は(2)に記載の三次元造形サポート材用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、
(4)(B)は、(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビスヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドから選ばれる1種以上のモノマーであることを特徴とする(1)~(3)のいずれか一項に記載の三次元造形サポート材用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、
(5)(1)~(4)のいずれか一項に記載の三次元造形サポート材用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物又は、(1)~(4)のいずれか一項に記載の三次元造形サポート材用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物及び光重合開始剤(C)を含有する三次元造形用活性エネルギー線硬化性サポート材インク、
(6)I/O値が0.8~2.0である(5)に記載の三次元造形用活性エネルギー線硬化性サポート材インク、
(7)インクジェット方式の三次元造形に用いられる(5)又は(6)に記載の三次元造形用活性エネルギー線硬化性サポート材インク、
(8)(5)~(7)のいずれか一項に記載の三次元造形用活性エネルギー線硬化性サポート材インクと、I/O値が0.4~0.8である三次元造形用活性エネルギー線硬化性モデル材インクからなる三次元造形インクセット、
(9)三次元造形用活性エネルギー線硬化性サポート材インクと三次元造形用活性エネルギー線硬化性モデル材インクのI/O値の差が~1.6であることを特徴とする(8)に記載の三次元造形インクセット
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特有なI/O値を有する非重合性化合物(A)と重合性化合物(B)を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が三次元造形と同時に或いはその直後に活性エネルギー線照射により硬化され、サポート材を形成し、サポート材及びそれに支持されたモデル材と一体になった粗造形物を得る。得られる粗造形物を水等の洗浄液に浸漬することで、サポート材水等の洗浄液に溶解や分散しモデル材から容易に且つ短時間で剥離、除去することできる。また、サポート材インクとモデル材インクのI/O値の差(サポート材インクのI/O値-モデル材インクのI/O=0.4~1.6)が特定な範囲内であって、サポート材インクとモデル材インクの有機性と無機性がバランスよく、シャープな側面と角を形成できる高精度の造形物が得られる。本発明のサポート材のI/O値が特定範囲内であり、3Dプリンターのヘード、ノズルと電極に対する腐食性を有せず、得られるサポートの耐湿性と水等の洗浄剤に対する溶解性や分散性とのバランスがよく、サポート材の洗浄性も良好であり、洗浄後造形物の表面が汚染せず、仕上げ工程も省略することができる。
【0014】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は非重合性化合物(A)と重合性化合物(B)を含有し、且つ、(A)のI/O値が0.4~1.8、(B)のI/O値が0.8~3.0である。I/O値とは、Inorganic/Organic Balance(無機性/有機性比)の略であって、IOB値とも称され、無機性値の有機性値に対する比率を表す値であり、有機化合物の極性の度合いを示す指標となるものである。I/O値は、「有機概念図」により定義されるものであり、「藤田穆,有機化合物の予測と有機概念図,化学の領域,vol.11, 10, pp.719-725(1957)又はA. Fujita, Prediction of Organic Compounds by Conceptional Diagram, Pharmaceutical Bulletin, Vol. 2, No. 2, 1954, pp. 163-173.」を参照して求めることができる。
【0015】
(A)のI/O値が0.4未満であれば、非重合性化合物の極性が低く、均一なサポート材インクを調製しにくく、得られたサポート材の洗浄性も悪い。一方、(A)のI/O値が1.8を超えると、重合性化合物(B)と組み合わせても得られるサポート材インクの極性が非常に高くなり、得られるサポート材の吸湿性が高く、長時間造形や大型造形には適用しない。また、これらの観点から、(A)のI/O値が0.5~1.6であることが好ましく、0.6~1.5であることが特に好ましい。
【0016】
(B)のI/O値が0.8未満であれば、硬化して得られるサポート材の所要洗浄時間が長く、洗浄性が満足できない。一方、(B)のI/O値が3.0を超えると、硬化されたサポート材は局部的に吸湿性が高く、長時間造形の大型造形物には適用しない。また、これらの観点から、(B)のI/O値が0.9~2.8であることが好ましく、1.0~2.5であることが特に好ましい。
【0017】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は非重合性化合物(A)を0.1~90質量%、重合性化合物(B)を10~99.9質量%含有する。(A)と(B)の含有量はこの範囲内であれば、異なるI/O値の(A)と(B)を用いることにより、I/O値が0.8~2.0であるサポート材インクを調製することができ、シャープな角を有する高精度の造形品を取得することができる。また、この観点から、(A)を5~80質量%、(B)を20~95質量%含有することが好ましく、(A)を20~70質量%、(B)を30~80質量%含有することが特に好ましい。
【0018】
本発明に用いられる非重合性化合物(A)は分子内にアミド基を一つ以上有するアミド化合物(a1)であることが好ましい。(a1)は、適宜なI/O値を有し、用いることにより目的のサポート材インク、サポート材及び造形物を得ることができる。更に、(a1)はアミド基を有するため、水等プロトン性洗浄剤との間に水素結合を形成できるため、得られるサポート材の洗浄水に対して十分な溶解性、分散性を提供できる。また、この洗浄性の観点から、(a1)は水溶性または水分散性であることが特に好ましい。なお、本発明における水溶性とは、水に対する溶解度(25℃)が1(g/100gの水)以上であることを意味するものとすし、水分散性とは水に対して乳化、分散し微粒子状態で安定化できることを意味するものとする。
【0019】
(a1)として、具体的には、(a1-1)としてN-置換アミド、N,N-二置換アミド、脂肪酸アミド、N-置換脂肪酸アミドとN,N-二置換脂肪酸アミド、(a1-2)としてN-置換ピロリドン、N-置換ピペリドン、N-置換-ε-カプロラクタム、(a1-3)としてβ-アルコキシ-N-置換プロピオンアミドとβ-アルコキシ-N,N-二置換プロピオンアミド、(a1-4)としてβ-アミノ-N-置換プロピオンアミドとβ-アミノ-N,N-二置換プロピオンアミドから選ばれる少なくとも1種の化合物である。これらのアミド化合物は、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、炭素数1~18のアルコキシ基および炭素数1~6のアルキル基を導入したβ-アルコキシ-N,N-ジアルキルプロピオンアミド(a1-5)を用いる場合、重合性化合物(B)や他の成分に対する優れる溶解性も有し、硬化後サポート材の洗浄液への溶解性や分散性が向上され、サポート材の除去性に優れ、短時間でモデル材から完全に剥離することができるためより好ましい。
【0020】
(a1-1)ののアミド化合物としては、炭素数1~18の直鎖状、分岐鎖状または環状の脂肪族炭化水素、水酸基含有の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素を導入した、N-置換ホルムアミド類、N,N-ジ置換ホルムアミド類、N-置換アセトアミド類、N,N-ジ置換アセトアミド類、脂肪酸アミド類、N-置換脂肪酸アミド類、N,N-ジ置換脂肪酸アミド類、芳香族カルボン酸アミド類、N-置換芳香族カルボン酸アミド類、N,N-ジ置換香族カルボン酸アミド類が挙げられる。これらのアミド化合物は、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
(a1-2)のアミド化合物としては、炭素数1~18の直鎖状、分岐鎖状または環状の脂肪族炭化水素、水酸基含有の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素を導入した、N-置換ピロリドン類、N-置換ピペリドン類、N-置換-ε-カプロラクタム類が挙げられる。これらのアミド化合物は、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
(a1-3)のアミド化合物としては、β-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、β-メトキシ-N,N-ジメチル-2-メチルプロピオンアミド、β-メトキシ-N,N-エチルヘキシルプロピオンアミド、β-ブトキシ-N,N-ジチルプロピオンアミド、β-(2-エチルヘキトキシ)-N,N-ジチルプロピオンアミド、β-ドデシロキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、β-オクタデカトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、シクロヘキシルオキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等の炭素数1~18の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基および炭素数1~18の直鎖状、分岐鎖状または環状の脂肪族炭化水素、水酸基含有の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素を導入したβ-アルコキシ-N-置換プロピオンアミド、β-アルコキシ-N-置換-2-メチルプロピオンアミド、β-アルコキシ-N,N-二置換プロピオンアミド、β-アルコキシ-N,N-二置換-2-メチルプロピオンアミドが挙げられる。これらのアミド化合物は、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
(a1-4)のアミド化合物としては、炭素数1~18の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基および炭素数1~18の直鎖状、分岐鎖状または環状の脂肪族炭化水素、水酸基含有の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素等を導入したβ-アミノ-N-置換プロピオンアミド、β-アミノ-N-置換-2-メチルプロピオンアミド、β-アミノ-N,N-二置換プロピオンアミド、β-アミノ-N,N-二置換-2-メチルプロピオンアミドが挙げられる。これらのアミド化合物は、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
(a1)の含有量は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物全体に対して0.5~80質量%であることが好ましい。0.5質量%以上であれば、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物及びそれを含有するサポート材インクの粘度を低く、インクジェット適性に優れ、また、(a1)の含有量は80質量%以下であれば、硬化して得られるサポート材の洗浄性と耐湿性や硬度のバランスが良好で、精度良く造形が行える。更に2~60質量%であることがより好ましい。
【0025】
本発明に用いられる非重合性化合物(A)は、融点又は軟化点が0℃以上であることが好ましい。即ち、0℃における状態は固体又はワックス状であることが好ましい。0℃で固体やワックス状であれば、硬化して得られるサポート材の硬度も耐湿性も良く、精度良く造形が行える。更に、分子量が2,000以下の低分子化合物(a2)であることが特に好ましい。分子量が2,000以下である場合、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物及びそれを含有するサポート材インクの粘度を低く、インクジェット適性に優れ、硬化して得られるサポート材が水等の洗浄液に対して十分な溶解速度、分散速度を有するため好ましい。低分子化合物(a2)は、例えば、1,2-ヘプタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、炭素数8~22のアルキル基またはアルケニル基を導入したグリセリンモノアルキルエーテル、グリセリンモノアルケニルエーテル、炭素数8~22の飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸を導入したグリセリンモノ脂肪族エステル、炭素数8~22のアルキル基を導入したポリオキシエチレンモノアルキルエーテル(分子量250~2,000)、炭素数10~22のアルケニル基を導入したポリオキシエチレンモノアルキルエーテル(分子量250~2,000)、炭素数10~22の飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸を導入したソルビタンモノ脂肪族エステル、ソルビタントリ脂肪族エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、炭素数10~22の飽和脂肪酸およびポリエチレングリコールを導入したポリエチレングリコールソルビタンモノ脂肪族エステル(分子量350~2,000)等が挙げられる。また、優れる両親媒性を有し、(B)や他の成分との相溶性が更に向上させ、より高精度な造形物を得る観点から、(a2)のI/O値は0.8~1.8であることがより好ましい。これらの低分子化合物(a2)は1種類単独で使用してもよいし、また2種類以上併用してもよい。
【0026】
(a2)の含有量は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物全体に対して70質量%以下であることが好ましい。(a2)が0.1質量%以上を含有すると、得られるサポート材が水等の洗浄液に対して十分な溶解速度、分散速度を有し、又70質量%以下であれば、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物及びそれを含有するサポート材インクの粘度が低めに維持することができ、インクジェット適性に優れ、サポート材インクが吐出され又は噴射され、完全硬化するまでの間での硬度(初期硬度)が十分であって、精度良く造形が行える。更に、(a2)の含有量は0.5~50質量%であることが特に好ましい。
【0027】
本発明に用いられる非重合性化合物(A)は、ガラス転移温度(Tg)が20℃以上のオリゴマー及び/又はポリマー(a3)であることが好ましい。Tgは20℃以上である場合、十分な初期硬度を有し、サポート機能を提供でき、精度良く造形が行える。また、(a3)の分子量は数平均で2,000以上であることがより好ましい。分子量が2,000以上であれば、得られるサポート材の耐湿性が良く、長時間の大型造形においても、局部の吸湿による変形が生じす、高精度な造形物が得られるため、好ましい。又、数平均分子量が100,000以下であれば、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物やそれを含有するサポート材インクの粘度を低く、インクジェット適性に優れ、好ましい。更に数平均分子量が2,000~50,000ある場合、硬化後サポート材が水等の洗浄剤に対して十分な溶解速度や分散速度も有し、特に好ましい。また(B)や他の成分との相溶性が更に向上させ、より高精度な造形物を得る観点から、(a3)のI/O値は0.8~1.8であることがより好ましい。
【0028】
(a3)として、例えば、重合性化合物(B)のホモオリゴマーやホモポリマー、コオリゴマーやコポリマー、(B)とその他の単量体と共重合して得られるコオリゴマーやコポリマーが挙げられる。特に、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-アリル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビスヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルアセトアミド、アクリロニトリル、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリフルオロ酢酸ビニル、ビニルオキシテトラヒドロピラン、ヒドロキシエチルビニルエーテルの単独重合体又は共重合体が、これらの単量体の工業品を容易に入手できるため、好ましい。また、I/O値が0.4~1.8、Tg20℃以上の他のオリゴマー及び/又はポリマーとして、ポリビニルアルコール、ポリウレタン等が挙げられる。なお、コオリゴマー又はコポリマーのI/O値は以下のように求めることができる:
モノマー1とモノマー2のコポリマーのI/O値=モノマー1のI/O値×モノマー1の質量分率+モノマー2のI/O値×モノマー2の質量分率
これらのオリゴマー及び/又はポリマーは1種類単独で使用してもよいし、また2種類以上併用してもよい。
【0029】
又、(B)や他の成分との相溶性が良い観点から、(a3)は(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビスヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドを50~100質量%有するオリゴマー及び/又はポリマーであることがより好ましい。
【0030】
(a3)の含有量は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物全体に対して30質量%以下であることが好ましい。(a3)が0.1質量%以上を含有すると、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物やそれを含有するサポート材インクの粘度を調整しやすく、硬化して得られるサポート材の硬度と耐湿性は良好で、精度良く造形が行えるため好ましい。又、30質量%未満であれば、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物とサポート材インクの粘度が低く維持することができ、インクジェット適性が良好である。更に、(a3)の含有量は0.5~25質量%であることが特に好ましい。
【0031】
本発明に用いられる非重合性化合物(A)は、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪族エーテル、ポリアルキレングリコール脂肪族エーテル、グリセリン脂肪族エーテルから選ばれる1種以上のアルコール(a4)であることが好ましい。本発明における脂肪酸エステル(脂肪族酸エステル)と脂肪族エーテルの脂肪族とは、炭素原子が飽和結合又は不飽和結合で形成した直鎖、分枝、または脂環式の置換基であり、且つ、炭素原子の数は8以上である。これらの化合物が(a2)の一部と重複するが、(a4)について、融点や軟化点について、特に限定するものではなく、0℃においても、室温(25℃)においても、固体の状態も液体の状態も用いることができる。
これらの化合物のI/O値は0.8~1.6であり、得られるサポート材の初期硬度、洗浄性と耐湿性がすべで良好であって、高精度の造形に好適に用いることができる。これらのアルコール(a4)は1種類単独で使用してもよいし、また2種類以上併用してもよい。
【0032】
(a4)の含有量は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物全体に対して70質量%以下であることが好ましい。(a4)が0.1質量%以上を含有すると、得られるサポート材が水等の洗浄液に対して十分な溶解速度、分散速度を有し、又70質量%以下であれば、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物及びそれを含有するサポート材インクの粘度が低めに維持することができ、インクジェット適性に優れ、サポート材の初期硬度が十分であって、精度良く造形せることができる。更に、(a4)の含有量は0.5~50質量%であることが特に好ましい。
【0033】
また、非重合性化合物(A)として、(a1)~(a4)からなる群により選択される任意の1種以上のものを用いることができる。即ち、(a1)、(a2)、(a3)と(a4)はそれぞれ単独に使用しても、任意に組み合わせて使用することができる。特に異なるI/O値の化合物の組み合わせにより最適I/O値を有する混合物(A)を容易に調製することができるため、好ましい。なお、混合物のI/O値は以下のように求めることができる。
混合物のI/O値=成分1のI/O値×成分1の質量分率+成分2のI/O値×成分2の質量分率
【0034】
本発明に用いられる重合性化合物(B)は、I/O値が0.8~3.0である重合性化合物であり、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N-置換(メタ)アクリルアミド、ビニル基を有するモノマー、アリル基を有するモノマー、マレイミド基を有するモノマーから選ばれる1種以上のモノマーであることが好ましい。これらのモノマーは1種類単独で使用してもよいし、また2種類以上併用してもよい。
【0035】
(メタ)アクリレートとしては、N,N-ジアルキルオキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等から選ばれる少なくとも1種のモノマーが好ましい。これらの(メタ)アクリレートは1種類単独で使用してもよいし、また2種類以上併用してもよい。
【0036】
N-置換(メタ)アクリルアミドはN-置換(メタ)アクリルアミドとN,N-二置換(メタ)アクリルアミドであり、具体的には炭素数1~5の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、アルケニル基、炭素数1~6の直鎖状、分岐鎖状または環状のヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、ジアルキルアミノアルキル基、アルコキシアルキル基、ジアルキルアミノアルキル基を有する、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシアルキル-N-アルキル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらの水溶性N-置換(メタ)アクリルアミドは1種類単独で使用してもよいし、また2種類以上併用してもよい。
【0037】
ビニル基を有するモノマーとしては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルアセトアミド、アクリロニトリル、ビニルオキサゾリン、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテルから選ばれる1種以上のモノマーが好ましい。これらのビニル基を有するモノマーは1種類単独で使用してもよいし、又2種類以上併用してもよい。
【0038】
アリル基を有するモノマーとしては、N-アリルピロリドン、N-アリルカプロラクタム、N-アリルアセトアミド、アリルニトリル、アリルオキサゾリン、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、ヒドロキシエチルアリルエーテルから選ばれる1種以上のモノマーが好ましい。これらのアリル基を有するモノマーは1種類単独で使用してもよいし、また2種類以上併用してもよい。
【0039】
マレイミド基を有するモノマーとしては、直鎖又は分岐の炭素数1~6の直鎖状、分岐鎖状または環状のヒドロキシアルキル基を有するN-ヒドロキシアルキルマレイミド、N-エチルマレイミド等のN-アルキルマレイミド化合物から選ばれる1種以上のモノマーが好ましい。これらのマレイミド基を有するモノマーは1種類単独で使用してもよいし、2種類以上併用してもよい。
【0040】
本発明に用いられる重合性化合物(B)の含有量は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物全体に対して10~99.9質量%であることが好ましい。10質量%以上であれば、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物及びそれを含有するサポート材インクの粘度を低く、インクジェット適性に優れ、また硬化速度と硬化後サポート材の硬度が高く、精度良く造形が行える。又、(B)の含有量は99.9質量%以下であれば、サポート材が洗浄性と初期硬度のバランスが良く、長時間の大型造形にも好適に用いることができる。更に20~95質量%であることがより好ましく、30~80質量%であることが特に好ましい。
【0041】
(B)はアミド基を有するモノマーであることがより好ましい。アミド基を有する場合、(A)への溶解性が良好であり、均一な且つ安定性の高い活性エネルギー線硬化性樹脂組成物及びそれを含有するサポート材インクが調製しやすく、又得られる硬化物の硬度が高く、サポート材として優れるサポート性を有するため好ましい。更に(メタ)アクリルアミド基を有するモノマーである場合、ラジカル重合性に優れるためより好ましい。(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビスヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドが水への溶解度が大きく、活性エネルギー線照射による硬化性が高く、得られる硬化物の硬度も高く、長時間造形や大型造形においても高精度に造形することができるため、特に好ましい。
【0042】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(以下Dと略称する)は重合により硬化し固形となる組成物であるが、この際の重合方法としては、特に限定することがなく、不飽和基の重合方法として公知の方法により得ることができる。例えば活性エネルギー線または熱によるラジカル重合やアニオン重合、カチオン重合等が挙げられ、又活性エネルギー線による重合は、光開始剤の添加や照射線量の調整により容易に重合を制御できるため好ましい。
【0043】
(D)の硬化に用いる活性エネルギー線とは、電磁波または荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するもの、すなわち、可視光、電子線、紫外線、赤外線、X線、α線、β線、γ線等の活性エネルギー線などを指す。例えば、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ、電子線加速装置、放射性元素などの線源が挙げられる。活性エネルギー線源として電子線を用いた場合は、通常、光開始剤を含有する必要はないが、その他の活性エネルギー線源を用いた場合は、光重合開始剤を添加することが好ましい。照射する活性エネルギー線としては、(D)の保存安定性と硬化速度及び有害性の低さから紫外線が好ましい。
【0044】
本発明で用いる光重合開始剤(C)としては、光ラジカル開始剤、光カチオン重合開始剤、光アニオン重合開始剤が挙げられる。光ラジカル重合開始剤としては、アセトフェノン系、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、αアミノケトン系、キサントン系、アントラキノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、高分子光開始剤系等の通常のものから適宜選択すればよい。例えば、アセトフェノン類としては、ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1、ベンゾイン類としては、ベンゾイン、α-メチルベンゾイン、α-フェニルベンゾイン、α-アリルベンゾイン、α-ベンゾイルベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン類としては、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、αアミノケトン類としては、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-(4-モルホリニル)-1-プロパノン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-(4-(4-モルホリニル)フェニル)-1-ブタノン、2-(ジメチルアミノ)-2-(4-メチルフェニル)メチル-1-(4-(4-モルホリニル)フェニル)-1-ブタノン、キサントン類としては、キサントン、チオキサントン、アントラキノン類としては、アントラキノン、2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、アシルフォスフィンオキサイド類としては、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、高分子光開始剤としては、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-(1-メチルビニル)フェニル)プロパン-1-オンのポリマー等が挙げられ、光カチオン重合開始剤としては、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアルセナート等のアンチモン系開始剤やトリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート、ビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート等の非アンチモン系開始剤が挙げられる。光アニオン重合開始剤としては、アセトフェノン O-ベンゾイルオキシム、2-(9-オキソキサンテン-2-イル)プロピオン酸1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン等の開始剤が挙げられる。これらの光重合開始剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
(C)含有量は、(D)全体に対して0.1~5.0質量%が好ましい。0.1質量%以上である場合には、(D)を活性エネルギー線照射により十分に重合反応を起こし、硬化して得られるサポート材中の残存(B)の量が少なく、硬化物の引張強度、硬度、弾性等が良く、また、(A)のブリードアウトが抑制できるため好ましい。5質量%以下である場合には、(D)のポットライフが長く、保管中のゲル化等のトラブルが発生しないため好ましく、0.5~3質量%がより好ましい。
【0046】
(D)の硬化に必要な活性エネルギー線照射量(積算光量)は、特に制限するものではない。(D)に用いられる(A)、(B)及び光開始剤の種類と添加量によって変動し、積算光量が50~5000mJ/cmであることが好ましい。積算光量が50mJ/cm以上であると、十分な硬化が進行し、硬化物の引張強度、硬度、弾性と造形精度が良好であり、又積算光量が5000mJ/cm以下であると、活性エネルギー線の照射時間が短く、三次元製造における生産性向上につながるため、好ましい。
【0047】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(D)は、必要に応じて各種添加剤(J)を使用できる。添加剤としては、熱重合禁止剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線増感剤、防腐剤、リン酸エステル系およびその他の難燃剤、界面活性剤、湿潤分散材、帯電防止剤、着色剤、可塑剤、表面潤滑剤、レベリング剤、軟化剤、顔料、有機フィラー、無機フィラー等が挙げられる。これら各種樹脂や添加剤の添加量は、(D)が発現する特性に悪影響を与えない程度であれば特に限定されず、(D)全体に対して5質量%以下の範囲が好ましい。
【0048】
熱重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、p-メトキシフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、フェノチアジン、ピロガロール、β-ナフトール等が挙げられる。
【0049】
老化防止剤としては、例えば、ブチル化ヒドロキシトルエン及びブチルヒドロキシアニソール等のヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、及びヒンダードアミン系の化合物が挙げられる。
【0050】
界面活性剤としては、例えばノニルフェノールのポリエチレンオキサイド付加物、アセチレン系グリコール化合物型非イオン界面活性剤、アセチレン系ポリアルキレングリコール化合物型非イオン界面活性剤、パーフルオロアルキルポリエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルベタイン等のフッ素含有界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンオイル、(メタ)アクリレート変性シリコーンオイル等の変性シリコーンオイル、両性の高分子界面活性剤が挙げられる。
【0051】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(D)の好ましい使用方法としては、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を所定の形状パターンに形成すると同時に、または形成した直後、活性エネルギー線を照射して硬化させことであり、インクジェット方式により吐出し、活性エネルギー線照射により硬化させる光造形法に用いる光硬化性サポート材インク(E)として用いることがより好ましい。
【0052】
(E)の粘度は造形操作性の観点から25℃において1~2,000mPa・sであることが好ましい。特にインクジェット方式により(E)を吐出する場合、安定吐出の観点から、(E)の粘度は25℃において1~200mPa・sであることがより好ましい。また、吐出温度は20~100℃の範囲が好ましい。吐出温度を高すぎろと、(E)の粘度が急激に低下し、造形精度が低下すると共に熱による変性や重合が起こりやすくなる。(E)の熱的な安定性の観点から80℃より低温での吐出が好ましいため、(E)の粘度が100mPa・s以下であることが特に好ましい。
【0053】
また、(E)としてインクジェット方式により微小液滴をインク吐出ノズルから所定の形状パターンを描画するよう吐出してから活性エネルギー線を照射して硬化薄膜を形成する方式が好ましい。具体的には、例えばサポート材インク(E)とモデル材インク(F)とを用いて、目的立体造形物の三次元CADデータに基づき、所望のパターンでインクジェットノズルから(E)または(F)を吐出し、樹脂の薄膜層を形成し、その同時又はその後、光源から活性エネルギー線を照射して樹脂の薄膜層を硬化させる。次いで、該硬化させた樹脂の薄膜層の上に、(E)及び/または(F)を供給し、次の薄膜層を形成、硬化する。(E)と(F)を継続的に積層し、モデル材とサポート材から粗造形物が得られる。また、(E)と(F)は同一のインクジェットノズルから吐出してもよいし、別々のノズルから吐出してもよい。
【0054】
本発明のサポート材は、得られた粗造形物と一体として洗浄液に浸漬し、サポート材を洗浄液に溶解または分散させて除去することによって立体造形物を簡便に取得することができる。粗造形物の洗浄は、洗浄液中静置してもよく、洗浄液を攪拌してもよく、又超音波洗浄も可能であるが、攪拌や超音波等の外力を加えることで立体造形物が破損する可能性もあるため、静置状態でのサポート材除去が好ましい。
【0055】
本発明のサポート材に用いられる洗浄液は通常水であり、具体的には、水道水、純水、イオン交換水等が挙げられる。また、立体造形物に悪影響がない限り、洗浄液としてアルカリ水溶液や電解質溶液、有機溶剤等も用いることができる。アルカリ水溶液としては水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物の水溶液が挙げられ、電解質溶液としては炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の電解質の水溶液が挙げられる。有機溶剤としてアルコール類、ケトン類、アルキレングリコール類、ポリアルキレングリコール類、グリコールエーテル類、グリコールエステル類等が挙げられる。これらの水、アルカリ水溶液、電解質溶液、有機溶剤は、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。又、安全性の面から洗浄液としては水が特に好ましい。
【0056】
サポート材の洗浄時間としては、24時間以下が好ましく10時間以下がより好ましい。生産効率の点から洗浄時間が24時間以下であれば、一日毎に洗浄サイクルを繰り返す事ができて効率が良いため好ましく、10時間以下であれば昼間に製造した造形物を夜間に洗浄し、翌日には洗浄が完了できるためより効率よく生産可能なためより好ましい。また洗浄時間は短い方は生産効率が上がるため好ましく、3時間以下であれば更に好ましい。
【0057】
サポート材の洗浄温度としては、0℃~100℃の任意の温度において可能であるが、高温での洗浄では立体造形物を形成する樹脂が熱による変形を起こす可能性があり、一方でサポート材の溶解、分散もしくは膨潤は温度が高いほうが速やかに進むため10℃以上40℃以下での洗浄がより好ましい。
【0058】
本発明のサポート材インク(E)のI/O値は0.8~2.0であることが好ましい。この範囲内であれば、インクが適切な極性を有し、3Dプリンターなどの三次元造形装置に対する腐食性を示さず、同時に水等の洗浄剤に対して良好な洗浄性を示す。また、モデル材インクとのバランスの調整により、シャープな側面やシャープな角が得られる高精度造形の観点から、(E)のI/O値が0.8~1.6であることが好ましく、0.8~1.4であることが特に好ましい。
【0059】
本発明のモデル材インク(F)のI/O値が0.4~0.8であることが好ましい。この範囲内であれば、インクの極性が低く、得られる造形物の耐湿性、耐久性が良好であり、日用品や機械の部品など実用性が確保でき、又インク起因の三次元造形装置の腐食が起こりにくい。これらの観点から、モデル材インク(F)のI/O値が0.5~0.7であることがより好ましい。
【0060】
本発明のインクセットは(E)と(F)から構成され、(E)と(F)のI/O値の差が0~1.6であることが好ましい。I/O値の差がこの範囲内であれば、(E)との極性の差が適宜な範囲内であり、(E)と(F)のはじきによる造形精度の低下や造形物の変形等のトラブルを回避でき、(E)のサポート効果が良好で、且つ造形精度が高い。また、(E)と(F)のI/O値の差が0.2~1.2であることがより好ましく、0.4~1.0であることが特に好ましい。
【0061】
本発明のサポート材インク、モデル材インク及びインクセットを用いることにより、大型且つ高精度の造形物を得ることができる。また、汎用なインクとして各種構造の3Dプリンターに好適に用いることができる。更に、サポート材の洗浄性が良く、洗浄後廃液の安全性が高いので、工業的から家庭的まで容易に取り扱うことができる。
【実施例
【0062】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下において「部」及び「%」は特記しない限りすべて質量基準である。
【0063】
実施例と比較例に用いた(A)、(B)、(C)等の略称とI/O値は下記通りである。
(A)非重合性化合物
(a1)アミド化合物
a1-3-1:β-ドデシロキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド(I/O値0.6)
a1-1-1:ジメチルアセトアミド(I/O値1.7)
a1-3-2:β-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド(I/O値1.8)
a1-1-2:9-オクタデセンアミド(I/O値0.6)
a1-2-1:N-メチルピロリドン(I/O値1.5)
a1-3-3:β-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド(I/O値1.2)
a1-1-3:N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ドデカンアミド(アミノーン L-02、花王(株)製)(I/O値1.1)
a1-2-2:N-メチルカプロラクタム(I/O値1.0)
a1-3-4:β-オクタデカトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド(I/O値0.5)
(a2)低分子化合物
a2-1:2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(ブチルエチルプロパンジオール、KHネオケム(株)製)(融点44℃、I/O値1.1)
a2-2:1,8-オクタンジオール(融点59℃、I/O値1.3)
a2-3:1,6-ヘキサンジオール(融点41℃、I/O値1.7)
(a3)オリゴマー、ポリマー
a3-1:N,N-ジメチルアクリルアミドのホモポリマー、Tg119℃、数平均分子量は2,100である。(I/O値1.4)
a3-2:N-ビニルピロリドン(B-4)のホモポリマー、Tg164℃、数平均分子量15,000である。(I/O値1.2)
a3-3:N,N-ジメチルアクリルアミドのホモポリマー、Tg119℃、数平均分子量は45,000である。(I/O値1.4)
a3-4:N,N-ジメチルアクリルアミドとヒドロキシエチルメタクリレートのコポリマー(4:1モル比)、Tg101℃、数平均分子量は5,000である。(I/O値1.4)
a3-5:N,N-ジメチルアクリルアミドとテトラヒドロフルフリルアクリレートのコポリマー(19:1モル比)、Tg119℃、数平均分子量は18,000である。(I/O値1.4)
a3-6:N,N-イソプロピルアクリルアミドのホモポリマー、Tg134℃、数平均分子量は12,000である。(I/O値1.8)
a3-7:ヒドロキシエチルメタクリレートとヒドロキシエチルアクリレートのコポリマー(3:2モル比)、Tg21℃、数平均分子量は12,000である。(I/O値1.4)
a3-8:N-アクリロイルモルホリンのホモポリマー、Tg145℃、数平均分子量は14,000である。(I/O値1.2)
a3-9:N,N-ジエチルアクリルアミドのホモポリマー、Tg81℃、数平均分子量は8,000である。(I/O値1.0)
(a4)アルコール
a4-1:ポリエチレングリコールオレイルエーテル(PEG平均分子量220、ノニオンE-205、日油(株)製)(融点4℃、I/O値0.9)
a4-2:ポリエチレングリコールステアリルエーテル(PEG平均分子量650、ノニオンS-215、日油(株)製)(融点40℃、I/O値1.3)
a4-3:ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル(キョーワノールOX20、KHネオケム(株)製)(融点-80℃、I/O値1.0)
a4-4:ソルビタンモノラウレート(ノニオンLP-20R、日油(株)製)(融点13℃、I/O値1.1)
a4-5:ポリエチレングリコールラウリルエーテル(PEG平均分子量880、ノニオンK-220、日油(株)製)(融点40℃、I/O値1.5)
a4-6:モノラウリン酸グリセリルエステル(融点40℃、I/O値0.9)
a4-7:ソルビタンモノオレート(ノニオンOP-80R、日油(株)製)(融点5℃、I/O値0.8)
a4-8:ポリエチレングリコールオレイルエーテル(PEG平均分子量1320、ノニオンE-230、日油(株)製)(融点40℃、I/O値1.5)
(B)重合性化合物
B-1:N-アクリロイルモルホリン(登録商標ACMO、登録商標Kohshylmer、KJケミカルズ(株)製)(I/O値1.2)
B-2:ユニオックスPKA-5009(PEG平均分子量550、メトキシポリエチレングリコールモノアリルエーテル、日油(株)製)(I/O値1.2)
B-3:N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド(登録商標HEAA、登録商標Kohshylmer、KJケミカルズ社(株)製)(I/O値3.0)
B-4:N-ビニルピロリドン(I/O値1.2)
B-5:N-(2-ヒドロキシエチル)マレイミド(I/O値2.6)
B-6:メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート(PEG平均分子量400、NKエステルAM90G、新中村化学(株)製)(I/O値1.7)
B-7:N,N-ジメチルアクリルアミド(登録商標DMAA、登録商標Kohshylmer、KJケミカルズ(株)製)(I/O値1.4)
(C)光重合開始剤
C-1:Omnirad 184(1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、IGM Resins B.V.製)
C-2:Omnirad TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、IGM Resins B.V.製)
C-3:Omnirad 819(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、IGM Resins B.V.製)
C-4:Omnirad 2959(1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、IGM Resins B.V.製)
(J)その他添加剤
J-1:(4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ)ラジカル
J-2:アクリロイルアミノメチルトリメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
J-3:サーフィノール440(エアープロダクツジャパン社製)
J-4:BYK307(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ビックケミージャパン(株)製)
J-5:エマノーン1112(ラウリン酸ポリエチレンオキサイド(12E.O.)付加物、花王(株)製)
J-6:TEGO-Rad2100(ポリジメチルシロキサン構造を有するシリコンアクリレート、エボニックデグサ製)
J-7:フェノチアジン
その他:
OD:2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(オクタンジオール、KHネオケム(株)製)(融点-40℃、I/O値1.3)
DMF:ジメチルホルムアミド(I/O値2.2)
PEG200:数平均分子量200のポリエチレングリコール(I/O値2.7)
TGM :トリエチレングリコールモノメチルエーテル(I/O値2.3)
PEG1000:数平均分子量1,000のポリエチレングリコール(I/O値2.0)
PG:1,2-プロピレングリコール(I/O値3.3)
EDG:ジエチレングリコールエチルエーテル(I/O値2.1)
THFA:テトラヒドロフルフリルアクリレート(I/O値0.6)
TBCHA:t-ブチルシクロヘキシルアクリレート(登録商標Kohshylmer TBCHA、KJケミカルズ(株)製)(I/O値0.3)
IBXA:イソボルニルアクリレート(I/O値0.3)
PEA:フェノキシエチルアクリレート(I/O値0.4)
Ebe150:変性ビスフェノールAジアクリレート(EBECRYL 150、ダイセル・オルネクス(株)製)(I/O値0.8)
ADCP:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(NKエステル A-DCP、新中村化学(株)社製)(I/O値0.4)
CN991:ポリエステルウレタンアクリレート(アルケマ(株)製、数平均分子量3000)(I/O値0.9)
CN996:ポリエーテルウレタンアクリレート、アルケマ(株)製、数平均分子量4500)(I/O値0.7)
A-600:ポリエチレングリコールジアクリレート(PEG平均分子量400)(NKエステル A-600、新中村化学(株)製)(I/O値1.6)
【0064】
オリゴマーとポリマー(a3)の数平均分子量は、高速液体クロマトグラフィー((株)島津製作所製のLC-10Aを用いて、カラムはShodex GPC KF-806L(排除限界分子量:2×107、分離範囲:100~2×10、理論段数:10,000段/本、充填剤材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、充填剤粒径:10μm)、溶離液としてテトラヒドロフランを使用した。により測定し、標準ポリスチレン分子量換算により算出した。
【0065】
実施例1 活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(D-1)の調製
(a2-1)0.1質量部、(B-1)50.0質量部、(B-2)49.0質量部と(C-1)0.9質量部をそれぞれ容器に仕込み、25℃で1時間攪拌することにより、均一透明な活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(D-1)を得た。
【0066】
実施例2~24 活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(D-2)~(D-24)と比較例1~5 活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(G-1)~(G-5)の調製
表1に示す組成で、実施例1と同様の操作を行うことにより、実施例2~24として活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(D-2)~(D-24)及び比較例1~5として活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(G-1)~(G-5)を得た。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例1~24及び比較例1~5で得られた各活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用い、サポート材インクとして三次元造形の実施例25~48及び比較例6~10を行い、以下の方法によりインクの物性と硬化後得られたサポート材の評価を行い、結果を表2に示す。又、評価方法は下記とおりである。
【0069】
粘度測定
コーンプレート型粘度計(装置名:RE550型粘度計 東機産業株式会社製)を使用し、JIS K5600-2-3に準じて、25℃にて、各実施例と比較例に用いたサポート材インクの粘度を測定した。
【0070】
腐食性
バーコーターを用いて、各実施例と比較例のサポート材インクを50mlビーカーに40g採取し、サポート材インク中に10×20×2mmのアルミ基板(Al、A5052)を浸漬した。その後、温度60℃、相対湿度95%に設定した恒温恒湿機に500時間静置した。その後、アルミ基板をサポート材インクから取り出し、目視でアルミ基板の表面を観察し腐食性を評価した。結果を表2に示す。
◎:腐食なし
○:極僅かに腐食
△:僅かに腐食
×:腐食が観察される
【0071】
サポート性
水平に設置した厚さ1mmのポリメチルメタクリレート板(PMMA板)に厚さ10mm、内径20mmの円筒形のスペーサーを設置し、スペーサーの内側に各実施例と比較例のサポート材インクを各0.3g充填した後、紫外線を照射(装置:アイグラフィックス製、インバーター式コンベア装置ECS-4011GX、メタルハライドランプ:アイグラフィックス製M04-L41、紫外線照度300mW/cm、積算光量1,000mJ/cm)し、硬化した薄膜を得た。該薄膜の上にサポート材インクを0.3g追加し、同様に紫外線照射による硬化を行い、薄膜の積層を行った。以後同様の作業を繰り返し、10mmの厚さまで薄膜が積層されたサポート材を得た。その後、室温(25℃)において、得られたサポート材のショアA硬度を測定し、サポート性を下記とおり評価した。
◎:サポート性が良好(ショアA硬度≧80)
○:サポート性が十分認められる(80>ショアA硬度≧60)
△:サポート性が若干認められるが不十分(60>ショアA硬度≧40)
×:サポート性がない(40>ショアA硬度)
【0072】
耐湿性
水平に設置したガラス板上に厚さ75μmの重剥離PETフィルム(東洋紡株式会社製、ポリエステルフィルムE7001)を密着させ、厚さ1mm、内部が50mm×20mmのスペーサーを設置し、スペーサーの内側に各実施例と比較例のサポート材インクを充填した後、更にその上に厚さ50μmの軽剥離PETフィルム(東洋紡株式会社製、ポリエステルフィルムE7002)を重ね、同様に紫外線を照射し、サポート材インクを硬化させた。その後、両側の剥離PETフィルムを取り除いて作成した硬化物を試験片として用い、25℃、50%RHに設定した恒温恒湿槽中に24時間静置し、静置前後の試験片表面を目視により評価を行った。
◎:静置後に硬化物が吸湿による変形が認められない
○:静置後に硬化物が吸湿によるブリードアウトがわずかに認められるが、変形はほぼ認められない
△:静置後に硬化物が吸湿によるブリードアウトが若干認められ、変形がわずかに見られる
×:静置後に硬化物が吸湿により溶解し、変形が認められる
【0073】
洗浄性
水平に設置した厚さ1mmのPMMA板に厚さ1mm、内部が50mm×40mmのスペーサーを設置し、スペーサーの内側にモデル材を形成する光硬化前の硬化性樹脂組成物としてミマキエンジニアリング社製「LH100white」と、各実施例と比較例のサポート材インクを各1gずつ相互に接触するように充填した後、同様に紫外線を照射し、粗造形物を得た。その後、室温(25℃)において、得られた粗造形物とPMMA板を一緒に洗浄液としてイオン交換水に浸漬し、サポート材が水に溶解もしくは分散し、モデル材及びPMMA板上からサポート材が除去された後、モデル材およびPMMA板の状態を確認し、洗浄性を下記の方法により評価した。
◎:サポート材が3時間未満の間にすべて除去され、洗浄液中やPMMA板表面に油状残渣がない状態
○:サポート材が3時間以上10時間未満の間にすべて除去され、洗浄液中やPMMA板表面に油状残渣がない状態
△:サポート材が3時間以上24時間未満の間に除去されるが、洗浄液中やPMMA板表面に油状残渣が若干確認される状態
×:サポート材が24時間の時点で一部残留する状態
【0074】
【表2】
【0075】
表2の結果から明らかなように、実施例25~48のサポート材インクは、25℃における粘度が1,000mPa・s以下であり、インク吐出操作性に優れている。特に、実施例35以外はインクの粘度は100mPa・s以下であり、インクジェットインクとして噴射性も良好である。また、実施例のインクは腐食性を示さなかったが、比較例のインクを用いた場合、腐食が確認された。硬化後のサポート材について、実施例で得られたものは十分な硬度と耐湿性を有し、サポート性が良好と同時に、水中における洗浄性もよかった。一方、比較例のサポート材は、(A)及び/又は(B)のI/O値が本発明の範囲外であるため、インクの物性から硬化後の性能まで、全て満足できるものがなかった。特に、サポート材インク全体のI/Oが2.0を超えた比較例6~9において、インクの極性が高すぎのため、腐食が確認された。
【0076】
表3には、本発明のモデル材インクの実施例49~51と比較例11の組成及びI/O値を示している。
【0077】
【表3】
【0078】
本発明のサポート材インク(E)とモデル材インク(F)を組み合わせることにより、本発明の三次元造形インクセットを得た。表4に示す実施例52~75及び比較例12~19のインクセットを用いて、3次元造形を行い、造形性の評価を実施した。これらの結果を表に示す。
【0079】
造形性
水平に設置した厚さ1mmのPMMA板に厚さ2mm、内部が直径20mmの円筒状スペーサーを設置し、スペーサーの内側にサポート材インクを高さ1mmまで充填し、同様に紫外線を照射し、支持体となるサポート材を得た。その後、スペーサーの内側にサポート材インクとモデル材インクを左右から同時に高さ2mmまでサポート材の上に充填し、同様に紫外線を照射し、支持体上に半円筒状のサポート材とモデル材が形成された粗造形物を得た。その後、スペーサーを除き、室温(25℃)において、得られた粗造形物とPMMA板を一緒に洗浄液としてイオン交換水に浸漬し、サポート材が水に溶解もしくは分散し、モデル材及びPMMA板上からサポート材が除去された後、モデル材により形成された三次元造形物の状態を確認し、造形性を下記の方法により評価した。
◎:半円筒状の三次元造形物が得られ、三次元造形物のサポート材接触面が平滑であり、シャープな角が形成された。
○:半円筒状の三次元造形物が得られ、三次元造形物のサポート材接触面は平滑だが、角は少々丸みをおびた。
△:半円筒状の三次元造形物が得られたが、三次元造形物のサポート材接触面が少々丸みをおび、角も丸みをおびた。
×:サポート材インクとモデル材インクが接触面にて混合し、目的とする半円筒状の三次元造形物が得られなかった。
【0080】
表4の結果から明らかなように、実施例52~75のインクセットを用いた場合、設計とおりの造形物を取得することができ、且つ、シャープな側面とシャープな角が形成され、高精度の造形ができた。また、これらの結果から、(E)と(F)のI/O値の差が0.4~1.0である際の造形性(造形精度)が最も高く、その差が大きくなるに連れ、造形性の低下が認められた。更に、(E)と(F)のI/O値の差が1.6以上になると、比較例12~15に示しているとおり、設計とおりの造形物が殆ど得られなかった。
【0081】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上説明してきたように、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は特定なI/O値を有し、三次元造形用のサポート材の形成に好適に用いることができる。また本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物とサポート材インクは粘度が低く、操作性に優れ、造形装置に対する腐食性を有せず、光硬化型インクジェット方式の3Dプリンターによる三次元造形に使用する光硬化性サポート材インクとしても用いることが出来る。更に三次元造形物が本発明のサポート材により支持された状態の粗造形物を洗浄液に浸漬した場合、サポート材を効率よく除去でき、かつ仕上げ工程が必要とせず、高精度に大型の三次元造形物を取得できる。
また、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物とそれを含有するサポート材インクを用いて形成されたサポート材は、良好なサポート性と優れた洗浄性を有すると共に、耐湿性が高く、長時間造形や大型造形にも好適に対応可能となっている。更に本発明のサポート材インクとモデル材インクを組み合わせて得られるインクセットを用いることにより造形性の高い三次元造形が実現することができ、シャープな側面とシャープな角を有する高精度の造形品が取得できる。本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、サポート材インク、モデル材インク及びインクセットは各種構造の3Dプリンター特に光硬化型インクジェット方式の3Dプリンターによる、大規模、高速度、高精細と高性能の造形に好適に用いることができる。