(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】油圧ブレーカ
(51)【国際特許分類】
B25D 17/08 20060101AFI20220922BHJP
B25D 9/04 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
B25D17/08
B25D9/04
(21)【出願番号】P 2018238273
(22)【出願日】2018-12-20
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】594149398
【氏名又は名称】古河ロックドリル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小柴 英俊
(72)【発明者】
【氏名】井上 節
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-136302(JP,A)
【文献】特開2009-280845(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115106(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D 17/00-17/32
B25D 9/00- 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方から順にフロントヘッド部およびシリンダ部を有するシリンダと、該シリンダの後部に装着されるバックヘッドと、を有する2ピース構造の本体部を備え、前記シリンダは、前記フロントヘッド部にチゼルが摺動可能に設けられるとともに、前記シリンダ部にピストンが摺動可能に設けられる油圧ブレーカ
であって、
前記フロントヘッド部内の奥部に装着されて、前記チゼルのラジアル荷重およびスラスト荷重の両方を支持するフロントホルダ
を有し、
前記フロントヘッド部の内径と当該フロントホルダの外径との嵌合い公差が中間嵌めとされており、
前記フロントホルダの表面に、リン酸マンガン皮膜が形成されていることを特徴とする油圧ブレーカ
。
【請求項2】
前記リン酸マンガン皮膜は、その皮膜の厚さが3~7μmであり、かつ、該皮膜を形成する粒子サイズが微細粒子である請求項1に記載の油圧ブレーカ
。
【請求項3】
前記フロントホルダは、その母材金属がクロムモリブデン鋼であり、浸炭焼入れ済みの前記母材金属に、前記リン酸マンガン皮膜が形成されているものである請求項1または2に記載の油圧ブレーカ
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ブレーカに関する。
【背景技術】
【0002】
周知の油圧ブレーカの構成は、例えば特許文献1の
図3に開示されるように、シリンダ、フロントヘッド、バックヘッドの3ピース構造の本体部を有し、この本体部のフロントヘッド内にチゼルを摺嵌するとともに、本体部のシリンダ内にピストンを摺嵌している。シリンダには、コントロールバルブおよびアキュムレータを備えている。
本体部は、シリンダ、フロントヘッドおよびバックヘッドが、長尺のスルーボルトで締結されている。スルーボルトで締結する構造の油圧ブレーカにおいては、長尺なスルーボルトの折損が問題となる。
【0003】
そこで、本出願人は、油圧ブレーカの本体部をシリンダとバックヘッドの2ピース構造とし、締結ボルトの長さを大幅に短縮することで折損を防止し得る油圧ブレーカを提案している(特許文献1参照)。
ここで、特許文献1に開示される、2ピース構造の本体部を有する油圧ブレーカについて説明する。
図4に示すように、この種の油圧ブレーカ100は、シリンダ10およびバックヘッド11をボルト22で締結した本体部に、ピストン12およびチゼル13が摺嵌され、シリンダ10には、コントロールバルブ14およびアキュムレータ15が設けられている。
【0004】
シリンダ10の内部は、前方から後方へ向けてフロントヘッド部内径(前)23、フロントヘッド部内径(後)24、シリンダ部内径25が形成され、フロントヘッド部内径(後)24とシリンダ部内径25との間には、ラビリンスシール26が設けられている。
フロントヘッド部内径(前)23には、フロントキャップ16が設けられ、フロントヘッド部内径(後)24には、フロントホルダ170が設けられている。シリンダ部内径25には、前方から後方に向けてワッシャ18、シリンダライナ(前)19、シリンダライナ(後)20、およびシールリテーナ21が設けられている。
【0005】
フロントキャップ16とフロントホルダ170はチゼル13を摺動案内し、フロントホルダ170に関しては、チゼル13のテーパ部13aをテーパ部170aが当接して保持することで、チゼル13の後退ストロークエンドのストッパとしても作用する。シリンダライナ(前)19とシリンダライナ(後)20はピストン12を摺動案内する。
油圧ブレーカ100は、公知の打撃機構によりピストン12を前進後退駆動し、ピストン12でチゼル13を打撃する。この打撃によって生じる衝撃エネルギーをチゼル13によって破砕対象に伝達して破砕対象を破砕する。
【0006】
油圧ブレーカ100で破砕作業を行う際には、チゼル13が反発によって破砕対象と離反することを防止するために、油圧ブレーカ100を破砕対象に対して大きな荷重で押し付ける。また、破砕作業中は、チゼル13で破砕作業を抉る動作を伴うことが多い。
したがって、チゼル13の軸受部材であるフロントキャップ16とフロントホルダ170には大きな荷重負荷が作用する。特に、チゼル13のテーパ部13aをテーパ部170aで支持するフロントホルダ170には、通常のラジアル荷重に加えて、押し付けによって生じる強大なスラスト荷重が作用するため、より過酷な使用環境下にあるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フロントキャップ16は、フロントヘッド部内径(前)23に冷し嵌めで固定され、フロントホルダ170は、その外径170bがフロントヘッド部内径(後)24に冷し嵌めで固定されている。
ここで、フロントキャップ16とフロントホルダ170はともに消耗部材であり、定期的な交換が必要となる。フロントキャップ16の交換作業は、フロントキャップ16を加熱によって膨張させ、シリンダ10との熱膨張係数の違いを利用しながらプレス装置で加圧分離する。
【0009】
しかし、フロントホルダ170は、2ピース構造のシリンダ10内の奥部に装着されている。そのため、このような加熱を利用する分離が容易でなく、フロントホルダ170の交換作業は極めて困難である。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、フロントホルダの交換作業が容易な油圧ブレーカを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る油圧ブレーカは、前方から順にフロントヘッド部およびシリンダ部を有するシリンダと、該シリンダの後部に装着されるバックヘッドと、を有する2ピース構造の本体部を備え、前記シリンダは、前記フロントヘッド部にチゼルが摺動可能に設けられるとともに、前記シリンダ部にピストンが摺動可能に設けられる油圧ブレーカであって、前記フロントヘッド部内の奥部に装着されて、前記チゼルのラジアル荷重およびスラスト荷重の両方を支持するフロントホルダを有し、前記フロントヘッド部の内径と当該フロントホルダの外径との嵌合い公差が中間嵌めとされており、前記フロントホルダの表面に、リン酸マンガン皮膜が形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る油圧ブレーカによれば、フロントヘッド部の内径とフロントホルダの外径の嵌合い公差が中間嵌めなので、チゼルによってフロントホルダに作用するラジアル荷重とスラスト荷重を保持することが可能である。
その一方で、フロントホルダの表面には、リン酸マンガン皮膜が形成されているので、フロントホルダの交換作業の際には、プレス装置の静的荷重が作用すると、リン酸マンガン皮膜による摺動性が惹起されるため分解可能である。
【発明の効果】
【0012】
上述のように、本発明によれば、フロントホルダの交換作業が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る油圧ブレーカの一実施形態を示す軸線を含む模式的縦断面図である。
【
図2】本発明に係る油圧ブレーカが備えるフロントホルダのリン酸マンガン皮膜の顕微鏡写真(×1000)である。
【
図3】本発明に係る油圧ブレーカが備えるフロントホルダのリン酸マンガン皮膜の顕微鏡写真(×10000)である。
【
図4】従来の油圧ブレーカの一例を示す軸線を含む模式的縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
なお、本発明に係る油圧ブレーカの一実施形態の説明においては、上述した特許文献1に開示される、2ピース構造の本体部を有する油圧ブレーカと機械的構造において共通する部分は、上述した構造説明での符号と同一の符号を付して説明する。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の油圧ブレーカ1は、シリンダ10およびバックヘッド11をボルト22で締結した2ピース構造の本体部を有する。本体部のシリンダ10には、ピストン12およびチゼル13が摺嵌されている。
シリンダ10の内部は、前方から後方へ向けてフロントヘッド部内径(前)23、フロントヘッド部内径(後)24、シリンダ部内径25が形成されている。フロントヘッド部内径(後)24とシリンダ部内径25との間には、多段のラビリンスシール26が設けられている。
【0016】
フロントヘッド部内径(前)23にはフロントキャップ16が設けられ、フロントヘッド部内径(後)24にはフロントホルダ17が設けられている。シリンダ部内径25には、前方から後方に向けてワッシャ18、シリンダライナ(前)19、シリンダライナ(後)20、およびシールリテーナ21が設けられている。
フロントキャップ16とフロントホルダ17はチゼル13を摺動案内し、フロントホルダ17に関しては、チゼル13のテーパ部13aを、フロントホルダ17のテーパ部17aに当接させて保持することで、チゼル13の後退ストロークエンドのストッパとしても機能する。シリンダライナ(前)19とシリンダライナ(後)20はピストン12を摺動案内する。
【0017】
そして、本実施形態の油圧ブレーカ1は、シリンダ10に、コントロールバルブ14およびアキュムレータ15が設けられて公知の打撃機構を構成しており、ピストン12を前進後退駆動し、ピストン12でチゼル13を打撃可能に構成されている。これにより、本実施形態の油圧ブレーカ1は、この打撃によって生じる衝撃エネルギーをチゼル13によって破砕対象に伝達して破砕対象を破砕可能になっている。
【0018】
ここで、油圧ブレーカ1で破砕作業を行う際には、チゼル13が反発によって破砕対象と離反することを防止するために、油圧ブレーカ1を破砕対象に対して大きな荷重で押し付ける。また、破砕作業中はチゼル13で破砕作業を抉る動作を伴うことが多い。
したがって、チゼル13の軸受部材であるフロントキャップ16とフロントホルダ17には大きな荷重負荷が作用する。特に、チゼル13のテーパ部13aをテーパ部17aで支持するフロントホルダ17には、通常のラジアル荷重に加えて、押し付けによって生じる強大なスラスト荷重が作用する。そのため、より過酷な使用環境下にあるといえる。
【0019】
フロントキャップ16は、フロントヘッド部内径(前)23に冷し嵌めで固定され、フロントホルダ17はそのフロントホルダ外径17bがフロントヘッド部内径(後)24冷し嵌めで固定されている。
ここで、フロントキャップ16とフロントホルダ17はともに消耗部材であり定期的な交換が必要となる。そこで、本実施形態においては、フロントホルダ17の母材金属にはクロムモリブデン鋼を採用し、これを浸炭焼入れ処理した後に、フロントホルダ17の表面に、浸漬法によるリン酸マンガン皮膜処理を施している。
【0020】
これにより、フロントホルダ17は、リン酸マンガンを含むリン酸塩溶液に浸漬されて、母材金属とその表面に形成された浸炭層および浸炭層の最表面に、リン酸マンガン皮膜が形成される。
本実施形態において、フロントホルダ17は、浸炭層の厚さが0.5~0.7mmであり、リン酸マンガン皮膜の厚さが3~7μmである。また、フロントホルダ17の硬度は、母材金属が45HRC、浸炭層が55~60HRC、リン酸マンガン皮膜が41HRC(モース硬度5)である。
【0021】
次に、本実施形態のフロントホルダ17およびこれを備える油圧ブレーカ1の作用効果について説明する。
ここで、本実施形態のリン酸マンガン皮膜は、
図2および
図3に示すように、単斜晶系の結晶構造を呈している。より具体的には、本実施形態のリン酸マンガン皮膜は、微細な矩形状が傾斜して配列されており、その頂点の集合が皮膜の表面を形成している。これにより、フロントホルダ17とフロントヘッド部内径(後)24とは、相互に無数の点接触と、その一部が加圧されたことによる自己犠牲で一部が変形した面接触と、によって保持される。
【0022】
一般的に、リン酸マンガン皮膜処理は、結晶の粒子サイズによって標準~微細~超微細の3タイプに分類できる。本実施形態のフロントホルダ17は、結晶の粒子サイズに、微細タイプを採用して処理を施している。
なお、粒子サイズは膜厚とほぼ同じであるため、本明細書において、粒子サイズが7μmを超えるものを「標準タイプ」、粒子サイズが3μm以上7μm以下のものを「微細タイプ」、粒子サイズが3μm未満のものを「超微細タイプ」と定義する。
【0023】
フロントホルダ17は、中間嵌めによって冷し嵌めを行うところ、交換作業も安定的に行うためには高精度の寸法管理を必要とする。そのため、結晶の粒子サイズが標準タイプであると、リン酸マンガン皮膜処理での皮膜厚さのバラつきが大きくなるため好ましくない。
一方で、フロントホルダ17は、過酷な荷重条件に晒されるので、リン酸マンガン皮膜処理での被膜の厚さは3μm以上を確保することが必要となる。そのため、結晶の粒子サイズが超微細粒子タイプであると、リン酸マンガン皮膜処理での被膜厚さが3μm未満になるため好ましくない。
【0024】
このように、本実施形態では、フロントヘッド部内径(後)24とフロントホルダ外径17bとの嵌合い公差が中間嵌めなので、チゼル13によってフロントホルダ17に作用するラジアル荷重とスラスト荷重を保持可能である。
その一方で、本実施形態では、フロントホルダ17の表面には、リン酸マンガン皮膜が形成されているので、フロントホルダ17の交換作業の際に、プレス装置の静的荷重が作用すると、リン酸マンガン皮膜による摺動性が惹起されて分解可能である。
ここで、リン酸マンガン皮膜処理は「パルフォス処理」とも称されるが、摺動性を改善するための表面処理であり、摺動部材(嵌合い公差では隙間嵌め)に処理を施すものであるところ、本発明のように、冷し嵌めによって固定して使用する部材にリン酸マンガン皮膜処理を施すことは、従来ではあり得なかった。
【0025】
なお、本発明に係る油圧ブレーカは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0026】
1 油圧ブレーカ
10 シリンダ
11 バックヘッド
12 ピストン
13 チゼル
13a チゼルテーパ部
14 コントロールバルブ
15 アキュムレータ
16 フロントキャップ
17 フロントホルダ
17a フロントホルダ外径
17b フロントホルダテーパ部
18 ワッシャ
19 シリンダライナ(前)
20 シリンダライナ(後)
21 シールリテーナ
22 ボルト
23 フロントヘッド部内径(前)
24 フロントヘッド部内径(後)
25 シリンダ部内径
26 ラビリンスシール
CL 中心軸線