(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】害虫忌避剤
(51)【国際特許分類】
A01N 25/00 20060101AFI20220922BHJP
A01N 65/22 20090101ALI20220922BHJP
A01N 65/08 20090101ALI20220922BHJP
A01N 65/28 20090101ALI20220922BHJP
A01N 65/12 20090101ALI20220922BHJP
A01N 65/44 20090101ALI20220922BHJP
A01N 65/32 20090101ALI20220922BHJP
A01N 31/06 20060101ALI20220922BHJP
A01N 37/18 20060101ALI20220922BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20220922BHJP
A01M 29/00 20110101ALI20220922BHJP
【FI】
A01N25/00 101
A01N65/22
A01N65/08
A01N65/28
A01N65/12
A01N65/44
A01N65/32
A01N31/06
A01N37/18 Z
A01P17/00
A01M29/00
(21)【出願番号】P 2017231419
(22)【出願日】2017-12-01
【審査請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】川口 麻由
(72)【発明者】
【氏名】阿部 練
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-122173(JP,A)
【文献】特開平09-012411(JP,A)
【文献】特開2015-074631(JP,A)
【文献】特開平10-053755(JP,A)
【文献】特開2003-171619(JP,A)
【文献】特開2007-039342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)害虫忌避成分
(ただし、イソチオシアン酸アリルを除く。)、(B)セラッ
クを含有することを特徴とする
、布帛、人又はペット用害虫忌避剤。
【請求項2】
セラック及びアクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体から選択される1種以上を含有することを特徴とする、
布帛、人又はペット用害虫忌避効果持続性向上剤
(ただし、イソチオシアン酸アリル組成物を除く。)。
【請求項3】
(B)セラック及びアクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体から選択される1種以上を、(A)害虫忌避成分
(ただし、イソチオシアン酸アリルを除く。)と共に使用することにより、
布帛、人又はペットへの害虫忌避効果の持続性を向上させる方法
(ただし、ニトロセルロースを含有するフィルム形成型殺虫忌避製剤及び、発泡性組成物を使用する方法は除く。)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫忌避剤に関する。詳しくは、害虫忌避成分の害虫忌避効果の持続性を向上させる害虫忌避剤に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの吸血性害虫は、人や動物に病原体を媒介して感染症を引き起こすほか、皮膚の炎症などを引き起こす。特に、蚊は、デング熱、ジカ熱、黄熱病、脳炎、マラリアなど人に深刻な疾病を媒介しているため、衛生学的に非常に有害な害虫である。
これらの吸血性害虫からの被害を防ぐために、人体用の害虫忌避成分に関して多数の提案がなされている。中でも、ディート(N,N-ジエチル-m-トルアミド)は汎用される害虫忌避成分の1つであるが、ディートは不快なにおいがあり、また皮膚浸透力が高いことから持続時間が短く、十分でないという問題がある。また、近年消費者の安全性に対する意識が高まっていることから、天然成分を有効成分とする薬剤が種々検討されており、例えば、シトロネラ油、オレンジ油、カシア油などから選ばれた天然精油を有効成分とする害虫忌避剤や、ユーカリの葉に僅かに含まれ、蚊などに対する忌避効果が認められている1-(2-ヒドロキシ-4-メチルシクロヘキシル)-1-メチルエタノールなどが提案されているものの、これらは揮散性が高いため持続時間が短いという問題がある。
【0003】
一方、これら害虫忌避成分の持続性を高めるための検討もなされており、例えば、下記特許文献1には、害虫忌避成分による忌避効果を持続させるため、特定の無水ケイ酸粒子を配合した害虫忌避組成物が提案されている。また、下記特許文献2には、衣類の劣化を生じさせないためにディート、アルコール及び水を含有する人体衣類両用の衛生害虫忌避剤が提案されている。
しかしながら、特許文献1の害虫忌避組成物においては、保管中に配合した無水ケイ酸粒子が容器底部に沈降し、使用時に都度撹拌する必要があるほか、この害虫忌避組成物を撹拌せずに使用すると、墳口や塗布具の目詰まりや、噴射面または処理面に無水ケイ酸粒子が固まる等の問題が生じる。さらに、布帛に噴霧した場合には、無水ケイ酸が布帛上に残存するため、濃色の布帛には使用しにくいという問題もあった。
また、特許文献2の衛生害虫忌避剤においては、衣類の繊維への影響がないことのみを検証しており、害虫忌避効果の持続性は十分なものとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平09-208406号公報
【文献】特開2013-237636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであり、衣類やカーテン、ソファー等の布帛はもとより、人やペットなどの忌避剤を使用する対象の皮膚に用いて、害虫忌避効果の持続性が向上した害虫忌避剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、(A)害虫忌避成分と、(B)セラック及びアクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体から選択される1種以上を併用することにより、害虫忌避効果の持続性を向上させ得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明は、この組み合わせにより害虫忌避効果の持続性が向上するという新たな効果が得られることを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0007】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.(A)害虫忌避成分、(B)セラック及びアクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体から選択される1種以上を含有することを特徴とする害虫忌避剤。
2.セラック及びアクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体から選択される1種以上を含有することを特徴とする、害虫忌避効果持続性向上剤。
3.(B)セラック及びアクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体から選択される1種以上を、(A)害虫忌避成分と共に使用することにより、害虫忌避効果の持続性を向上させる方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の害虫忌避剤は、衣類やカーテン、ソファー等の布帛はもとより、人やペットなどの忌避対象の皮膚に使用することにより、害虫忌避効果の持続性が向上するため、長時間安定した害虫忌避効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例における試験例1、3の忌避効果確認試験1、2の試験方法概略図である。
【
図2】実施例における試験例2の経皮吸収試験に用いた水平型拡散セルの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の害虫忌避剤、害虫忌避効果持続性向上剤及び害虫忌避効果の持続性を向上させる方法について詳細に説明する。
ここで、本発明における害虫は特に限定されず、例えば、アカイエカ、ネッタイイエカ、チカイエカ、コガタアカイエカ等のイエカ類、トラフカクイカ等のカクイカ類、ヒトスジシマカ、ネッタイシマカ、トウゴウヤブカ、キンイロヤブカ、セスジヤブカ、オオクロヤブカ等のヤブカ類、アシマダラヌマカ等のヌマカ類、キンパラナガハシカ等のナガハシカ類、シナハマダラカ、コガタハマダラカ等のハマダラカ類、アシマダラブユ、キアシオオブユ等のブユ類、ウシアブ、イヨシロオビアブ等のアブ類、イエダニ、ヒョウヒダニ、コナダニ、ツメダニ等のダニ類、サシチョウバエ類、ヌカカ類、ツェツェバエ類、ノミ類、シラミ類、トコジラミ類、サシガメ類、マダニ類、ツツガムシ類、ヤマビル類等の吸血性や刺咬性害虫、セスジユスリカ、オオユスリカ、アカムシユスリカ、シマユスリカ、オオヤマチビユスリカ等のユスリカ類、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、ヤマトゴキブリ、トビイロゴキブリなどのゴキブリ類、ハエ類、オオズアリ、クロヤマアリ、トビイロシワアリ、アミメアリ等のアリ類、シロアリ類、ハチ類、ゲジ類、ムカデ類、コクゾウムシ、コクヌストモドキ、タバコシバンムシ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシなどの貯穀害虫類等が挙げられる。特に吸血性や刺咬性害虫が好適である。
【0011】
本発明の害虫忌避剤は、(A)害虫忌避成分を含有するものである。
<成分(A)について>
本発明における(A)害虫忌避成分は、吸血性や刺咬性の害虫に対して忌避作用、吸血や刺咬阻害作用を有する公知の害虫忌避成分であれば、何れのものでも制限無く使用できる。具体的には、例えば、ディート(N,N-ジエチル-m-トルアミド)、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル(以下、「IR3535」と称する。)、2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボン酸1-メチルプロピルエステル(以下、「イカリジン」と称する。)、p-メンタン-3,8-ジオール、フェノトリン、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、3,4-ジヒドロ-2,2-ジメチル-4-オキソ-2H-ピラン-6-カルボン酸ブチル、n-ヘキシルトリエチレングリコールモノエーテル、6-n-ペンチル-シクロヘキセン-1-カルボン酸メチル、ジメチルフタレート、ユーカリプトール、メントール、酢酸メンチル、α-ピネン、ゲラニオール、シトロネラール、シトロネロール、シトラール、ターピネオール、カンファー、リナロール、テルペノール、カルボン、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、ナフタレンなどが挙げられる。
この他にも、例えば、シトロネラ、ミント、ペパーミント、シダーウッド、ラベンダー、ティートゥリー、カモミール、桂皮、レモングラス、クローバ、タチジャコウソウ、ゼラニウム、ベルガモット、月桂樹、松、アカモモ、ペニーロイヤル、ユーカリ、インドセダン、イランイランノキ、ブラッククミンシード、オレンジ、ローズマリーなどから抽出される精油やエキスなどを用いることができる。
これらの化合物には、光学異性体、立体異性体等が存在する場合があるが、本発明は、これら異性体の単独または2以上の異性体を任意の割合で含む混合物をも含むものである。
これらの害虫忌避成分は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明の害虫忌避剤における、(A)害虫忌避成分の含有量は特に制限がなく適宜決定すればよいが、害虫忌避剤全量に対して、0.01~70w/v%含有することが好ましく、0.01~50w/v%含有することがより好ましい。0.01w/v%以上とすることにより、優れた害虫忌避効果が得られるために好ましく、50w/v%以下とすることにより、ベタツキが少なくなるためにより好ましい。
【0012】
本発明の害虫忌避剤は、(B)セラック及びアクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体から選択される1種以上を含有するものである。
<成分(B)について>
セラックとは、ビルマネム、カッチなどのマメ科植物や、アコウ、インドボダイジュなどのクワ科植物などに寄生するラックカイガラムシ及びその近縁の数種のカイガラムシが分泌する虫体被覆物を、漂白、精製して得られる樹脂状物質である。その化学構造は、オキシカルボン酸が化学的にラクトンとして互いに結合して生じた天然縮合生成物と考えられているが、完全な構造は明らかにされていない。セラックは、アルコール以外の有機溶媒では溶解せず、耐油性に優れており、無毒、無味、無臭で安全性が認められ、FDA(米国食品医薬局)においてGRAS物質(一般に安全と認められる物質)として認められている。
セラックの市販品の具体例を挙げると、セラックNSC、セラックCS、セラックB.D.S.(以上、日本シェラック工業(株)製)、セラックGBN-D、セラックPEARL-N811、セラックGBN-DF(以上、(株)岐阜セラツク製造所製)等が挙げられる。
アクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体は、ヘアセット剤等の化粧品原料として汎用されるアニオン性高分子である。
アクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体の市販品の具体例を挙げると、プラスサイズL-9480B、プラスサイズL-9540B、プラスサイズL-9600、プラスサイズL-53P、プラスサイズL-9909B等(以上、互応化学工業(株)製)等が挙げられる。
本発明の害虫忌避剤における、(B)セラック及びアクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体から選択される1種以上の含有量は特に制限がなく適宜決定すればよいが、害虫忌避剤全量に対して、0.0001~50w/v%含有することが好ましく、0.001~30w/v%含有することがより好ましい。0.001w/v%以上とすることにより、害虫忌避の持続性が向上するためにより好ましく、30w/v%以下とすることにより、ベタツキが少なくなるためにより好ましい。
本発明における(A)害虫忌避成分と(B)セラック及びアクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体から選択される1種以上は、(A)害虫忌避成分100重量部に対して、成分(B)を0.01~1000重量部含有することが好ましく、0.1~100重量部含有することがより好ましい。上記比率で配合することにより、害虫忌避効果の持続がより向上する。
【0013】
本発明のセラック及びアクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体から選択される1種以上の成分(B)は、害虫忌避効果持続性向上剤として、さらには皮膚内部への浸透・吸収抑制剤として機能する。本発明の上記成分(B)は、害虫忌避成分の皮膚内部への浸透・吸収を抑え、長時間にわたり害虫忌避成分を処理表面上に滞留させることができる。これにより、本発明の上記成分(B)は、成分(A)の害虫忌避成分と併用することにより、害虫忌避成分の皮膚内部への浸透・吸収抑制機能を発揮し、成分(A)の害虫忌避成分を皮膚表面上に滞留させて、長時間にわたり安定した害虫忌避の持続性が向上するものである。
また、例えば皮膚浸透力が高いディートを害虫忌避成分として採用した場合には、本発明の上記(B)成分は、ディートの皮膚内部への浸透・吸収を抑えることができ、皮膚刺激性を極めて良好に低減することができる。したがって、本発明の上記(B)成分は、ディートの皮膚刺激低減作用も発揮する。
さらに、同様に本発明の上記(B)成分は、衣類やカーテン、ソファー等の布帛内部への浸透・吸収抑制剤としても機能すると推測される。これにより、本発明の上記成分(B)は、成分(A)の害虫忌避成分と併用することにより、害虫忌避成分の布帛内部への浸透・吸収抑制機能を発揮し、成分(A)の害虫忌避成分を布帛表面上に滞留させて、本発明の害虫忌避剤を布帛に処理した場合においても、長時間にわたり安定した害虫忌避の持続性が向上すると推測されるものである。
すなわち、本発明は、(A)害虫忌避成分と(B)セラック及びアクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体から選択される1種以上とを併用することにより、哺乳動物の皮膚または衣類やカーテン、ソファー等の布帛それぞれの内部への浸透・吸収を抑制する方法を提供するものであり、これにより、害虫忌避効果の持続性を向上する方法も併せ提供するものである。
本発明の害虫忌避剤が奏するこれらの効果、特に本発明の成分(B)が発揮する機能や作用は、本発明者が多くの実験を行い初めて見出した格別顕著な効果を奏するものである。
【0014】
本発明の害虫忌避剤は、上記成分(A)と成分(B)を含有するものであり、混合物をそのまま用いてもよいが、通常は製剤として使用する。その製剤形態は使用態様に応じて適宜設定すればよいが、例えば液体、クリーム、ローション、乳液、ゲル、軟膏剤、ウェットティッシュ剤、貼付剤(パッチ剤等)、粉末剤、顆粒剤、スプレー剤若しくはエアゾール剤等のいずれであってもよい。また、本発明の害虫忌避剤を樹脂に混練または含浸させて、リング状等に成型したものを装着し効果を得ることもできる。これら製剤形態の中でも、本発明の害虫忌避剤は、液剤として調製しスプレー剤やエアゾール剤等の噴霧用製剤とするか、またウェットティッシュ剤として使用することが、害虫忌避剤の性能を最大限に活用することができ好適である。
【0015】
本発明の害虫忌避剤の液剤を調製するにあたっては、必要に応じてノニオン系、アニオン系、カチオン系等の界面活性剤を配合することができる。具体的には、例えばアルキルアリールエーテル類、アルキルアリールエーテル類のポリオキシエチレン化物、ポリエチレングリコールエーテル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、多価アルコールエステル類及び糖アルコール誘導体等のノニオン系界面活性剤、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩等のアニオン系界面活性剤、アルキルアンモニウムハライド等のカチオン系界面活性剤が挙げられる。その中でも、本発明の害虫忌避剤の原液を水性溶液とする場合は、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、グリセリン脂肪酸エステル類、アルキルグリセリルエーテル類、ポリオキシエチレングリセリルエーテル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等のノニオン系界面活性剤を配合することが好ましい。
【0016】
本発明の害虫忌避剤は、その他公知の液体担体、ガス状担体、固体担体、その他製剤助剤を配合してもよい。
液体担体としては、例えば、芳香族または脂肪族炭化水素類(キシレン、トルエン、アルキルナフタレン、フェニルキシリルエタン、ケロシン、軽油、ヘキサン、シクロヘキサン、流動パラフィン等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、乳酸エチル、安息香酸エチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、ヘテロ環系溶剤(スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-オクチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)、酸アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-ピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等)、炭酸アルキリデン類(炭酸プロピレン等)、植物油(大豆油、綿実油等)、及び水が挙げられる。特に、本発明の害虫忌避剤は、成分(B)としてセラックを使用する場合には、セラックの溶解性を考慮して液体担体としてアルコールを含有することが好ましい。本発明の成分(A)と成分(B)をアルコール溶液とし、これに分離しない程度の水を添加して水性液剤として使用してもよい。
また、ガス状担体としては、例えば、ブタンガス、フロンガス、(HFO、HFC等の)代替フロン、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル、窒素ガス及び炭酸ガスが挙げられ、固体担体としては、例えば、粘土類(カオリン、珪藻土、ベントナイト、クレー、酸性白土等)、合成含水酸化珪素、タルク、セラミック、その他の無機鉱物(セリサイト、石英、硫黄、活性炭、炭酸カルシウム、水和シリカ等)、多孔質体等が挙げられる。
【0017】
その他の製剤用補助剤としては、固着剤、分散剤、溶解助剤及び安定剤等、具体的には例えばカゼイン、ゼラチン、多糖類(でんぷん、アラビアガム、セルロース誘導体、アルギン酸等)、リグニン誘導体、糖類、合成水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸等)、安息香酸エステルや塩類、BHT(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、及びBHA(2-tert-ブチル-4-メトキシフェノールと3-tert-ブチル-4-メトキシフェノールとの混合物)が挙げられる。
本発明では、さらに必要に応じて防錆剤、防腐剤、pH調整剤、香料等の成分を適宜添加し得る。これらの成分としては、この分野で慣用されているものを使用することができ、具体的には、防錆剤としてはカーレン(商標)No.955、No.906、No.954、No.958、No.970(三洋化成工業株式会社)等を、防腐剤としてはパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、イソチアゾリノン、サリチル酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム等を、pH調整剤としては酢酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、サリチル酸、安息香酸等の有機酸類やリン酸等の無機酸類、その塩類をそれぞれ例示できる。
【0018】
本発明の害虫忌避剤を、エアゾール式スプレー容器に充填する場合に使用する噴射剤としては、公知のものを広く使用することができ、例えばブタンガス、フロンガス、(HFO、HFC等の)代替フロン、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル、窒素ガス及び炭酸ガス等を挙げることができる。この害虫忌避剤においては、噴射剤量が害虫忌避剤全体の10~95容量%、特に30~90容量%とすることができる。本発明の害虫忌避剤を製造するに際しては、この分野で慣用されている方法を広く使用し得る。そのうち代表的な方法としては、配合成分を必要に応じて加熱(30~50℃)混合して均一な溶液を作製した後、防錆剤、防腐剤等を加え、得られる原液をエアゾール式スプレー容器に入れ、噴射剤を充填して製品とする方法等を挙げることができる。このようにして得られる本発明の害虫忌避剤は、長期間過酷な条件下においても安定で、均一な状態を維持することができ、所望する時にワンタッチで微粒子として空気中に噴射し得る。
【0019】
本発明の害虫忌避剤を、上述のウェットティッシュ剤として使用する場合には、支持体の目付量が20~80g/m2であることが好ましい。また、厚さが0.1~5mm程度の支持体に、害虫忌避成分を70~300ml/m2保持させることが好ましい。支持体としては、ネル、綿、絹、ポリエステル、ナイロン、これらを素材としたもの等の織布;ポリエステル、ポリオレフィン、ナイロン、綿、レーヨン、ビニロン、セルロース、これらを素材としたもの等の不織布;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル等を発泡させたシート状の樹脂発泡体等を用いることができる。
【0020】
本発明の害虫忌避剤は、人の皮膚に間接的または直接的に触れることがあるため、皮膚に潤いを与えるなどの薬効成分を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合してもよい。これら薬効成分としては、アボカドエキス、アマチャエキス、アルテアエキス、アルニカエキス、アンズエキス、アンズ核エキス、イチョウエキス、ウイキョウエキス、ウコンエキス、ウーロン茶エキス、エチナシ葉エキス、オウバクエキス、オオムギエキス、オランダカラシエキス、加水分解コムギ末、加水分解シルク、カロットエキス、カワラヨモギエキス、キウイエキス、キナエキス、キューカンバーエキス、グアノシン、クマザサエキス、クルミエキス、グレープフルーツエキス、クレマティスエキス、酵母エキス、コンフリーエキス、コケモモエキス、サイコエキス、サイタイ抽出液、サルビアエキス、サボンソウエキス、ササエキス、サンザシエキス、シイタケエキス、ジオウエキス、シコンエキス、シナノキエキス、シモツケソウエキス、ショウブ根エキス、シラカバエキス、スギナエキス、スイカズラエキス、セイヨウキズタエキス、セイヨウサンザシエキス、セイヨウニワトコエキス、セイヨウノコギリソウエキス、ゼニアオイエキス、センブリエキス、タイソウエキス、チガヤエキス、トマトエキス、納豆エキス、ノバラエキス、ハイビスカスエキス、バクモンドウエキス、パセリエキス、パリエタリアエキス、ヒキオコシエキス、ビサボロール、フキタンポポエキス、トウエキス、ブクリョウエキス、ブッチャーブルームエキス、ブドウエキス、プロポリス、ヘチマエキス、ボダイジュエキス、ホップエキス、マツエキス、マロニエエキス、ミズバショウエキス、ムクロジエキス、モモ葉エキス、ヤグルマギクエキス、リンゴエキス、レタスエキス、レンゲソウエキス、ローズエキス等が挙げられる。
【0021】
本発明の害虫忌避剤は、衣類に直接噴霧して使用するか、吸血性や刺咬性の害虫を防除したい空間にあるカーテンやソファー等の布帛製品に噴霧して使用してもよい。本発明の害虫忌避剤を使用できる布帛製品としては、衣類、靴等の履物のほかに、主に屋内空間にあるカーテン、ソファー、クッション、カーペット、壁紙等、また車内にあるシート等を挙げることができる。屋外空間においても、テントやベビーカー等に使用できる。
上述のとおり、本発明の上記(B)成分は、衣類やカーテン、ソファー等の布帛内部への浸透・吸収抑制剤としても機能するので、本発明の害虫忌避剤を布帛に処理することにより、成分(A)の害虫忌避成分を布帛表面上に滞留させて、長時間にわたり安定した害虫忌避効果が持続する。
【実施例】
【0022】
以下、製剤例及び試験例等により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
なお、実施例において、特に明記しない限り、部は重量部を意味する。
【0023】
<試験例1:忌避効果確認試験1(布帛処理)>
表1、2に示す試験検体(実施例1~16、比較例1~4)を、綿製の黒い布帛(5cm×5cm)に約10cmの距離から0.3mL噴霧処理し、それをゴム手袋の甲の中央部分に貼り付けた。
図1に示すように、ヒトスジシマカ(♀、50頭)を放った金属ケージ(25cm×25cm×25cm)内に、上記ゴム手袋を装着した手を入れ、上記黒い布帛の部分へのランディング数を経時的に3分間カウントし、「処理区ランディング数」とした。試験検体を噴霧処理しない無処理の布帛についても、同様にランディング数をカウントし、「無処理区ランディング数」とした。
下記計算式により忌避率(%)を算出し、各試験検体の蚊の忌避効果の指標とし、下記評価基準に従い5段階で評価した。
[計算式]
忌避率(%)=(無処理区ランディング数-処理区ランディング数)/無処理区ランディング数×100
[評価基準]
「◎」 :3時間経過後の忌避率が80%以上
「〇」 :3時間経過後の忌避率が70%以上80%未満
「△」 :3時間経過後の忌避率が50%以上70%未満
「×」 :3時間経過後の忌避率が10%以上50%未満
「××」:3時間経過後の忌避率が0%以上10%未満
3時間経過後の忌避率(%)が70%以上、すなわち評価基準が「◎」~「〇」を、実用的な害虫忌避効果を有するものと判断した。
上記試験検体の組成、忌避効果(%)及び忌避効果の評価結果を、まとめ表1~2に示した。
本発明の成分(B)として、以下のものを使用した。
B-1:セラック樹脂:乾燥透明白ラック(日本シェラック工業株式会社製)
B-2:アクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体:プラスサイズL-9600(互応化学工業(株)製)
【0024】
【0025】
【0026】
表1、2の結果より、本発明の成分(A)害虫忌避成分は、成分(B)と組み合わせること(実施例1~16)により、害虫忌避成分単独(比較例1~3)または成分(B)と異なる成分との組み合わせ(比較例4)に比べて、害虫忌避効果の持続性が大きく向上した害虫忌避剤とし得ることが明らかとなった。さらに、表2の実施例8~16と比較例3、4の結果より、汎用される害虫忌避成分何れにおいても、本発明の成分(B)と組み合わせることにより、害虫忌避効果の持続性が大きく向上することに変化がないことも明らかとなった。
【0027】
<試験例2:経皮吸収試験>
(試験検体)
成分(A)害虫忌避成分としてディート及び成分(B)として下記に示すアクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体を含有する、表3に示す試験検体(実施例17、18、比較例5)を調製した。
本発明の成分(B)として、以下のものを使用した。
B-2:アクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体:プラスサイズL-9600(互応化学工業(株)製)
B-3:アクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体:プラスサイズL-9480B(互応化学工業(株)製)
【0028】
(試験方法)
試験装置として、
図2に示す水平型拡散セル(ビードレックス社製、平板膜用水平型パームセル)を使用した。
(1)マウスの皮膚1(ラボスキン、(株)星野実験動物飼育所製)を水平型拡散セル10に、皮膚1の真皮側がレセプターセル2側に位置するように取り付けた。
(2)皮膚1の角層側(4.9cm
2)に、上記試験検体(実施例17、18、比較例5)を約45μL処理し、アルミ箔8で覆い、締め付けノブ6で皮膚1を固定した。
(3)レセプターセル2には、害虫忌避成分であるディートを含まない生理食塩水9を50mL満たした。
(4)試験の間、レセプターセル2はスターラー3でセル内の生理食塩水を撹拌させ、レセプターセル2を覆っているウォータージャケット4は、ヒーター/サーキュレーター5により37℃の温水を循環させ、レセプターセル2内の温度を37℃に維持した。
(5)レセプターセル2内の温度が37℃になった直後及び1、2、3時間後に、レセプターセル2のサンプリング・ポート7より生理食塩水9を3mLサンプリングし、その後同量のディートを含まない生理食塩水を戻し、液量を一定にした。
(6)サンプリング液中のディートの量をHPLCによって測定した。
【0029】
ディート量の測定結果より、下記式により、皮膚上残存量、皮膚上残存率を算出した。
[皮膚上残存量の計算式]
皮膚上残存量(mg/cm2)={処理ディート量-(サンプリング液中のディート量/3×50+累積採取ディート量)}/4.9
なお、式中の「累積採取ディート量」は、各サンプリング時に採取したサンプリング液中のディート量の累計を意味する。
[皮膚上残存率の計算式]
皮膚上残存率(%)=各時間の皮膚上残存量/0時間の皮膚上残存量×100
皮膚上残存量(mg/cm2)は小数第三位を四捨五入した数値とし、皮膚上残存率(%)は小数第一位を四捨五入した数値とした。
皮膚上残存量(mg/cm2)及び皮膚上残存率(%)の結果を表3に示す。
【0030】
【0031】
表3の結果より、ディート単独で使用した比較例5に比べて、ディートと本発明の成分(B)とを組み合わせること(実施例17、18)により、一定時間経過後の皮膚上に残存するディートの量が多く、皮膚上の残存率が高いことが明らかとなった。
この結果より、ディート等の害虫忌避成分を単独で忌避対象の皮膚に適用するよりも、本発明の成分(B)と組み合わせて害虫忌避剤として適用することにより、害虫忌避剤がより長い時間皮膚上に残存し、害虫忌避効果を発揮するものと考えられる。さらに、ディートの皮膚内部への浸透・吸収を抑えることもでき、皮膚刺激性を極めて良好に低減することができる。
【0032】
<試験例3:忌避効果確認試験2(皮膚処理)>
表4に示す試験検体(実施例19、比較例6)を、手の甲に約1.34μL/cm
2処理した後、手の甲の部分に5cm×5cmの穴を開けたゴム手袋を装着した。
図1に示すように、ヒトスジシマカ(♀、50頭)を放った金属ケージ(25cm×25cm×25cm)内に、上記ゴム手袋を装着した手を入れ、手の甲が露出した部分へのランディング数を経時的に3分間カウントし、「処理区ランディング数」とした。試験検体を噴霧処理しない無処理の布帛についても、同様にランディング数をカウントし、「無処理区ランディング数」とした。
「試験例1」に記載した計算式により忌避率(%)を算出し、各試験検体の蚊の忌避効果の指標とし、上記「試験例1」と同じ評価基準に従い5段階で評価した。
3時間経過後の忌避率(%)が70%以上、すなわち評価基準が「◎」~「〇」を、実用的な害虫忌避効果を有するものと判断した。
上記試験検体の組成、忌避効果(%)及び忌避効果の評価結果を、まとめ表4に示した。
表4中の「B-2」は、以下のものを使用した。
B-2:アクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド共重合体:プラスサイズL-9600(互応化学工業(株)製)
【0033】
【0034】
表4の結果より、本発明の成分(A)害虫忌避成分は、布帛処理した試験例1と同じように皮膚に直接処理する場合においても、成分(B)と組み合わせること(実施例19)により、害虫忌避成分単独(比較例6)に比べて、害虫忌避効果の持続性が大きく向上した害虫忌避剤とし得ることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の害虫忌避剤は、害虫忌避成分の皮膚内部への浸透・吸収を抑え、長時間にわたり害虫忌避成分を皮膚表面に滞留させることができる。これにより、例えばディートを害虫忌避成分として採用した場合でも、ディートの皮膚内部への浸透・吸収を抑えることができ、皮膚刺激性を極めて良好に低減することができる。しかも、本発明の害虫忌避剤は、長時間にわたり害虫忌避成分が皮膚表面に滞留していることにより、長時間にわたり安定した害虫忌避効果を発揮するものである。
【符号の説明】
【0036】
1.皮膚
2.レセプターセル
3.スターラー
4.ウォータージャケット
5.ヒーター/サーキュレーター
6.締め付けノブ
7.サンプリング・ポート
8.アルミ箔
9.生理食塩水
10.水平型拡散セル