(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】血液試料中の循環腫瘍細胞のデジタル分析
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20220922BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20220922BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12N15/10 114Z
G01N33/574 D
(21)【出願番号】P 2017549623
(86)(22)【出願日】2016-03-25
(86)【国際出願番号】 US2016024367
(87)【国際公開番号】W WO2016154600
(87)【国際公開日】2016-09-29
【審査請求日】2019-03-25
【審判番号】
【審判請求日】2021-01-28
(32)【優先日】2015-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハーバー,ダニエル・エィ
(72)【発明者】
【氏名】カプール,ラビ
(72)【発明者】
【氏名】トナー,メフメット
(72)【発明者】
【氏名】マヘスワラン,シャマラ
(72)【発明者】
【氏名】ホン,シン
(72)【発明者】
【氏名】ミヤモト,デイビッド・トモアキ
(72)【発明者】
【氏名】トドロバ,ターニャ
(72)【発明者】
【氏名】ジャベイド,サラ
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】吉森 晃
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-532409(JP,A)
【文献】Sci. Transl. Med., 2013, Vol. 5, No. 179, 179ra47
【文献】Trends Mol. Med., 2012, Vol. 18, No. 7, pp. 405-416
【文献】Cancer Res., 2005, Vol. 65, No. 12, pp. 4993-4997
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
G01N
CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIX(STN),JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体において極めて高い感度および特異性を有する、癌の検出方法であって、
前記被験体の血液試料から循環腫瘍細胞(CTC)を単離することと、
CTC由来のRNAをcDNAに変換することと、
前記cDNAを個々の液滴中にカプセル化することと、
CTCの供給源である特定のタイプの癌からの腫瘍系統に特異的なRNAに対応するcDNAには特異的に結合するが血中の正常な細胞に由来するcDNAには結合しないように構成されたレポーター基の存在下、各液滴内で前記cDNA分子を増幅させることと、 レポーター基に陽性である液滴の総数を決定して、被験体における癌の存在を指し示すCTCの存在を判定することと
を含み、
ここで、各液滴内でcDNA分子を増幅させることが、各液滴の中でPCRを行うことを含み、
各タイプの癌について少なくとも
5つのプライマーの組
を液滴内で前記cDNA分子を増幅させるために用い、および
前記少なくとも5つのプライマーの組の各プライマーの組は、選択された癌遺伝子に対応し、
前記選択された癌遺伝子は、前立腺癌、乳癌、肺癌、膵臓癌、肝臓癌およびメラノーマのうちの1以上に対して選択的な遺伝子を含み、
前記前立腺癌選択的遺伝子は、FAT1、TMPRSS2、AGR2、FOLH1、HOXDB13、KLK2、KLK3、SCHLAP1/SET4、SCHLAP1/SET5、AMACR、AR変異形、UGT2B15/SET1、UGT2B15/SET5およびSTEAP2のうちの
5つ以上を含み、前立腺癌選択的遺伝子に対応する前記少なくとも
5つのプライマーの組
の各プライマーの組は、
FAT1 (プライマー1 SEQ ID NO:23, プライマー2 SEQ ID NO:22)、
TMPRSS2 (プライマー1 SEQ ID NO:134, プライマー2 SEQ ID NO:133)、
AGR2 (プライマー1 SEQ ID NO:2, プライマー2 SEQ ID NO:1)、
FOLH1 (プライマー1 SEQ ID NO:29, プライマー2 SEQ ID NO:28)、
HOXDB13 (プライマー1 SEQ ID NO:32, プライマー2 SEQ ID NO:31)、
KLK2 (プライマー1 SEQ ID NO:35, プライマー2 SEQ ID NO:34)、
KLK3 (プライマー1 SEQ ID NO:38, プライマー2 SEQ ID NO:37)、
SCHLAP1/SET4 (プライマー1 SEQ ID NO:92, プライマー2 SEQ ID NO:91)、
SCHLAP1/SET5 (プライマー1 SEQ ID NO:95, プライマー2 SEQ ID NO:94)、
AMACR (プライマー1 SEQ ID NO:98, プライマー2 SEQ ID NO:97)、
AR バリアント 7/SET1 (プライマー1 SEQ ID NO:101, プライマー2 SEQ ID NO:100)、
AR バリアント 7/SET3 (プライマー1 SEQ ID NO:104, プライマー2 SEQ ID NO:103)、
AR バリアント 12/SET1 (プライマー1 SEQ ID NO:107, プライマー2 SEQ ID NO:106)、
AR バリアント 12/SET4 (プライマー1 SEQ ID NO:110, プライマー2 SEQ ID NO:109)、
UGT2B15/SET1 (プライマー1 SEQ ID NO:113, プライマー2 SEQ ID NO:112)、
UGT2B15/SET5 (プライマー1 SEQ ID NO:116, プライマー2 SEQ ID NO:115)、および
STEAP2 (プライマー1 SEQ ID NO:125, プライマー2 SEQ ID NO:124)
からなる群から選択され、
前記乳癌選択的遺伝子は、PGR、PIP、FAT2、TMPRSS4、AGR2、FAT1、RND3、PKP3、PRAME、およびSCGB2A1のうちの
5つ以上を含み、乳癌選択的遺伝子に対応する前記少なくとも
5つのプライマーの組は、
PGR (プライマー1 SEQ ID NO:62, プライマー2 SEQ ID NO:61)、
PIP (プライマー1 SEQ ID NO:164, プライマー2 SEQ ID NO:163)、
FAT2 (プライマー1 SEQ ID NO:26, プライマー2 SEQ ID NO:25)、
TMPRSS4 (プライマー1 SEQ ID NO:203, プライマー2 SEQ ID NO:202)、
AGR2 (プライマー1 SEQ ID NO:2, プライマー2 SEQ ID NO:1)、
FAT1 (プライマー1 SEQ ID NO:23, プライマー2 SEQ ID NO:22)、
RND3 (プライマー1 SEQ ID NO:77, プライマー2 SEQ ID NO:76)、
PKP3 (プライマー1 SEQ ID NO:65, プライマー2 SEQ ID NO:64)、
PRAME (プライマー1 SEQ ID NO:149, プライマー2 SEQ ID NO:148)、
AR バリアント7/SET1 (プライマー1 SEQ ID NO:101, プライマー2 SEQ ID NO:100)、
AR バリアント7/SET3 (プライマー1 SEQ ID NO:104, プライマー2 SEQ ID NO:103)、および
SCGB2A1 (プライマー1 SEQ ID NO:83, プライマー2 SEQ ID NO:82)
からなる群から選択され、
前記肺癌選択的遺伝子は、SFRP2、FAT1、TMPRSS4、FOXF1、ARG2、およびFAT2のうちの
5つ以上を含み、肺癌選択的遺伝子に対応する前記少なくとも
5つのプライマーの組は、
SFRP2 (プライマー1 SEQ ID NO:194, プライマー2 SEQ ID NO:193)、
FAT1 (プライマー1 SEQ ID NO:23, プライマー2 SEQ ID NO:22)、
TMPRSS4 (プライマー1 SEQ ID NO:203, プライマー2 SEQ ID NO:202)、
FOXF1 (プライマー1 SEQ ID NO:209, プライマー2 SEQ ID NO:208)、
AGR2 (プライマー1 SEQ ID NO:2, プライマー2 SEQ ID NO:1)、および
FAT2 (プライマー1 SEQ ID NO:26, プライマー2 SEQ ID NO:25)
からなる群から選択され、
前記膵臓癌選択的遺伝子は、ALDH1A3、CDH11、EGFR、FAT1、MET、PKP3、RND3、S100A2、およびSTEAP2のうちの
5つ以上を含み、膵臓癌選択的遺伝子に対応する前記少なくとも
5つのプライマーの組は、
ALDH1A3 (プライマー1 SEQ ID NO:5, プライマー2 SEQ ID NO:4)、
CDH11 (プライマー1 SEQ ID NO:11, プライマー2 SEQ ID NO:11)、
EGFR (プライマー1 SEQ ID NO:20, プライマー2 SEQ ID NO:19)、
FAT1 (プライマー1 SEQ ID NO:23, プライマー2 SEQ ID NO:22)、
MET (プライマー1 SEQ ID NO:47, プライマー2 SEQ ID NO:46)、
PKP3 (プライマー1 SEQ ID NO:65, プライマー2 SEQ ID NO:64)、
RND3 (プライマー1 SEQ ID NO:77, プライマー2 SEQ ID NO:76)、
S100A2 (プライマー1 SEQ ID NO:80, プライマー2 SEQ ID NO:79)、および
STEAP2 (プライマー1 SEQ ID NO:125, プライマー2 SEQ ID NO:124)
からなる群から選択され、
前記肝臓癌選択的遺伝子は、AHSG、ALB、APOH、FGB、およびFGGのうちの
5つ以上を含み、肝臓癌選択的遺伝子に対応する前記少なくとも
5つのプライマーの組は、
AHSG (プライマー1 SEQ ID NO:152, プライマー2 SEQ ID NO:151)、
ALB (プライマー1 SEQ ID NO:140, プライマー2 SEQ ID NO:139)、
APOH (プライマー1 SEQ ID NO:233, プライマー2 SEQ ID NO:232)、
FGB (プライマー1 SEQ ID NO:239, プライマー2 SEQ ID NO:238)、および
FGG (プライマー1 SEQ ID NO:242, プライマー2 SEQ ID NO:241)
からなる群から選択され、および
前記メラノーマ選択的遺伝子は、PMEL、MLANA、MAGEA6、PRAME、TFAP2C、およびSOX10のうちの
5つ以上を含み、メラノーマ選択的遺伝子に対応する前記少なくとも
5つのプライマーの組は、
PMEL (プライマー1 SEQ ID NO:68, プライマー2 SEQ ID NO:67)、
MLANA (プライマー1 SEQ ID NO:50, プライマー2 SEQ ID NO:49)、
MAGEA6 (プライマー1 SEQ ID NO:44, プライマー2 SEQ ID NO:43)、
PRAME (プライマー1 SEQ ID NO:149, プライマー2 SEQ ID NO:148)、
TFAP2C (プライマー1 SEQ ID NO:131, プライマー2 SEQ ID NO:130)、および
SOX10 (プライマー1 SEQ ID NO:89, プライマー2 SEQ ID NO:88)
からなる群から選択される、方法。
【請求項2】
血液試料中の循環腫瘍細胞(CTC)を分析する方法であって、
前記血液試料から、血中に存在するCT
Cを単離することと、
前記
CTCからリボ核酸(RNA)分子を単離することと、
溶液中で単離RNAからcDNA分子を生成させることと、
cDNA分子を個々の液滴中にカプセル化することと、
CTCの供給源である特定のタイプの組織からの腫瘍系統に特異的なRNAに対応するcDNAには特異的に結合するが血中の正常な細胞に由来するcDNAには結合しないように構成された1つ以上のレポーター基の存在下、各液滴内でcDNA分子を増幅させることと、
前記レポーター基を含有する液滴を液滴中のCTC由来の増幅cDNA分子の存在の指標として検出することと、および
検出された液滴中のCTC由来のcDNA分子を分析することと
を含み、
ここで、各液滴内でcDNA分子を増幅させることが、各液滴の中でPCRを行うことを含み、
各タイプの癌について少なくとも
5つのプライマーの組を各液滴内で前記cDNA分子を増幅させるために用い、および
前記少なくとも5つのプライマーの組の各プライマーの組は、選択された癌遺伝子に対応し、
前記選択された癌遺伝子は、前立腺癌、乳癌、肺癌、膵臓癌、肝臓癌およびメラノーマのうちの1以上に対して選択的な遺伝子を含み、
前記前立腺癌選択的遺伝子は、FAT1、TMPRSS2、AGR2、FOLH1、HOXDB13、KLK2、KLK3、SCHLAP1/SET4、SCHLAP1/SET5、AMACR、AR変異形、UGT2B15/SET1、UGT2B15/SET5およびSTEAP2のうちの
5つ以上を含み、前立腺癌選択的遺伝子に対応する前記少なくとも1つのプライマーの組は、
FAT1 (プライマー1 SEQ ID NO:23, プライマー2 SEQ ID NO:22)、
TMPRSS2 (プライマー1 SEQ ID NO:134, プライマー2 SEQ ID NO:133)、
AGR2 (プライマー1 SEQ ID NO:2, プライマー2 SEQ ID NO:1)、
FOLH1 (プライマー1 SEQ ID NO:29, プライマー2 SEQ ID NO:28)、
HOXDB13 (プライマー1 SEQ ID NO:32, プライマー2 SEQ ID NO:31)、
KLK2 (プライマー1 SEQ ID NO:35, プライマー2 SEQ ID NO:34)、
KLK3 (プライマー1 SEQ ID NO:38, プライマー2 SEQ ID NO:37)、
SCHLAP1/SET4 (プライマー1 SEQ ID NO:92, プライマー2 SEQ ID NO:91)、
SCHLAP1/SET5 (プライマー1 SEQ ID NO:95, プライマー2 SEQ ID NO:94)、
AMACR (プライマー1 SEQ ID NO:98, プライマー2 SEQ ID NO:97)、
AR バリアント 7/SET1 (プライマー1 SEQ ID NO:101, プライマー2 SEQ ID NO:100)、
AR バリアント 7/SET3 (プライマー1 SEQ ID NO:104, プライマー2 SEQ ID NO:103)、
AR バリアント 12/SET1 (プライマー1 SEQ ID NO:107, プライマー2 SEQ ID NO:106)、
AR バリアント 12/SET4 (プライマー1 SEQ ID NO:110, プライマー2 SEQ ID NO:109)、
UGT2B15/SET1 (プライマー1 SEQ ID NO:113, プライマー2 SEQ ID NO:112)、
UGT2B15/SET5 (プライマー1 SEQ ID NO:116, プライマー2 SEQ ID NO:115)、および
STEAP2 (プライマー1 SEQ ID NO:125, プライマー2 SEQ ID NO:124)
からなる群から選択され、
前記乳癌選択的遺伝子は、PGR、PIP、FAT2、TMPRSS4、AGR2、FAT1、RND3、PKP3、PRAME、およびSCGB2A1のうちの
5つ以上を含み、乳癌選択的遺伝子に対応する前記少なくとも
5つのプライマーの組は、
PGR (プライマー1 SEQ ID NO:62, プライマー2 SEQ ID NO:61)、
PIP (プライマー1 SEQ ID NO:164, プライマー2 SEQ ID NO:163)、
FAT2 (プライマー1 SEQ ID NO:26, プライマー2 SEQ ID NO:25)、
TMPRSS4 (プライマー1 SEQ ID NO:203, プライマー2 SEQ ID NO:202)、
AGR2 (プライマー1 SEQ ID NO:2, プライマー2 SEQ ID NO:1)、
FAT1 (プライマー1 SEQ ID NO:23, プライマー2 SEQ ID NO:22)、
RND3 (プライマー1 SEQ ID NO:77, プライマー2 SEQ ID NO:76)、
PKP3 (プライマー1 SEQ ID NO:65, プライマー2 SEQ ID NO:64)、
PRAME (プライマー1 SEQ ID NO:149, プライマー2 SEQ ID NO:148)、
AR バリアント7/SET1 (プライマー1 SEQ ID NO:101, プライマー2 SEQ ID NO:100)、
AR バリアント7/SET3 (プライマー1 SEQ ID NO:104, プライマー2 SEQ ID NO:103)、および
SCGB2A1 (プライマー1 SEQ ID NO:83, プライマー2 SEQ ID NO:82)
からなる群から選択され、
前記肺癌選択的遺伝子は、SFRP2、FAT1、TMPRSS4、FOXF1、ARG2、およびFAT2のうちの
5つ以上を含み、肺癌選択的遺伝子に対応する前記少なくとも
5つのプライマーの組は、
SFRP2 (プライマー1 SEQ ID NO:194, プライマー2 SEQ ID NO:193)、
FAT1 (プライマー1 SEQ ID NO:23, プライマー2 SEQ ID NO:22)、
TMPRSS4 (プライマー1 SEQ ID NO:203, プライマー2 SEQ ID NO:202)、
FOXF1 (プライマー1 SEQ ID NO:209, プライマー2 SEQ ID NO:208)、
AGR2 (プライマー1 SEQ ID NO:2, プライマー2 SEQ ID NO:1)、および
FAT2 (プライマー1 SEQ ID NO:26, プライマー2 SEQ ID NO:25)
からなる群から選択され、
前記膵臓癌選択的遺伝子は、ALDH1A3、CDH11、EGFR、FAT1、MET、PKP3、RND3、S100A2、およびSTEAP2のうちの
5つ以上を含み、膵臓癌選択的遺伝子に対応する前記少なくとも
5つのプライマーの組は、
ALDH1A3 (プライマー1 SEQ ID NO:5, プライマー2 SEQ ID NO:4)、
CDH11 (プライマー1 SEQ ID NO:11, プライマー2 SEQ ID NO:11)、
EGFR (プライマー1 SEQ ID NO:20, プライマー2 SEQ ID NO:19)、
FAT1 (プライマー1 SEQ ID NO:23, プライマー2 SEQ ID NO:22)、
MET (プライマー1 SEQ ID NO:47, プライマー2 SEQ ID NO:46)、
PKP3 (プライマー1 SEQ ID NO:65, プライマー2 SEQ ID NO:64)、
RND3 (プライマー1 SEQ ID NO:77, プライマー2 SEQ ID NO:76)、
S100A2 (プライマー1 SEQ ID NO:80, プライマー2 SEQ ID NO:79)、および
STEAP2 (プライマー1 SEQ ID NO:125, プライマー2 SEQ ID NO:124)
からなる群から選択され、
前記肝臓癌選択的遺伝子は、AHSG、ALB、APOH、FGB、およびFGGのうちの
5つ以上を含み、肝臓癌選択的遺伝子に対応する前記少なくとも
5つのプライマーの組は、
AHSG (プライマー1 SEQ ID NO:152, プライマー2 SEQ ID NO:151)、
ALB (プライマー1 SEQ ID NO:140, プライマー2 SEQ ID NO:139)、
APOH (プライマー1 SEQ ID NO:233, プライマー2 SEQ ID NO:232)、
FGB (プライマー1 SEQ ID NO:239, プライマー2 SEQ ID NO:238)、および
FGG (プライマー1 SEQ ID NO:242, プライマー2 SEQ ID NO:241)
からなる群から選択され、および
前記メラノーマ選択的遺伝子は、PMEL、MLANA、MAGEA6、PRAME、TFAP2C、およびSOX10のうちの
5つ以上を含み、メラノーマ選択的遺伝子に対応する前記少なくとも
5つのプライマーの組は、
PMEL (プライマー1 SEQ ID NO:68, プライマー2 SEQ ID NO:67)、
MLANA (プライマー1 SEQ ID NO:50, プライマー2 SEQ ID NO:49)、
MAGEA6 (プライマー1 SEQ ID NO:44, プライマー2 SEQ ID NO:43)、
PRAME (プライマー1 SEQ ID NO:149, プライマー2 SEQ ID NO:148)、
TFAP2C (プライマー1 SEQ ID NO:131, プライマー2 SEQ ID NO:130)、および
SOX10 (プライマー1 SEQ ID NO:89, プライマー2 SEQ ID NO:88)
からなる群から選択される、方法。
【請求項3】
RNAを単離する前に前記
血液試料の体積を減らすことをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記cDNA分子をカプセル化する前にcDNA含有溶液から混入物を除去することをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記単離RNAからcDNA分子を生成させることが、前記単離RNA分子の逆転写(RT)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行うことを含む、請求項2~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
個々のcDNA分子をカプセル化することがさらに、cDNA分子と共にPCR試薬を個々の液滴中にカプセル化することと、非水性液体の少なくとも1000個の液滴を形成することとを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記レポーター基が蛍光標識を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記cDNA含有溶液から混入物を除去することが、固相可逆固定法(SPRI)の使用を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記SPRIが、
前記溶液中のcDNAを、前記cDNAに特異的に結合するように構成された磁気ビーズで固定することと、
前記溶液から混入物を除去することと、
精製cDNAを溶出させることと
を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記非水性液体が、1つ以上のフッ化炭素、フッ化炭化水素、鉱油、シリコーンオイルおよび炭化水素油を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記選択された癌遺伝子が、異なる2つ以上、3つ以上、または4つ以上のタイプの癌に対して選択的
な遺伝子を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項12】
前記遺伝子が、乳癌および肺癌;乳癌、肺癌および肝臓癌;乳癌、肺癌および膵臓癌;乳癌、肺癌および前立腺癌;乳癌、肝臓癌およびメラノーマ;乳癌、肺癌およびメラノーマ;乳癌、肺癌、肝臓癌および前立腺癌;乳癌、肺癌、肝臓癌およびメラノーマ;乳癌、肺癌、肝臓癌および膵臓癌;乳癌、肺癌、前立腺癌および膵臓癌;乳癌、肺癌、肝臓癌、メラノーマおよび膵臓癌;または、乳癌、肺癌、肝臓癌、メラノーマ、膵臓癌および前立腺癌に対して選択的である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
検出された液滴中の前記CTC由来のcDNA分子を分析することが、既知の癌を有する患者から経時的に採取された血液試料からのCTC由来のcDNA分子をモニタリングすることと、前記CTC由来のcDNA分子に対する試験、画像化、または試験と画像化との両方を行って前記患者の予後予測を提供することとを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
検出された液滴中の前記CTC由来のcDNA分子を分析することが、患者の血液試料からの前記CTC由来のcDNA分子の試験、画像化、または試験と画像化とを行って治療介入に対する前記CTCの応答の指標を提供することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
検出された液滴中の前記CTC由来のcDNA分子のを分析することが、患者の血液試料の単位体積当たりのCTCの数または濃度を決定して、前記患者における腫瘍負荷の度合いを提供することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
前記患者における腫瘍負荷の前記度合いを用いて療法を選択することをさらに含み、第2時点において前記患者における腫瘍負荷の前記度合いを決定して経時的な前記腫瘍負荷をモニタリングすることをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
血液試料中の循環腫瘍細胞(CTC)から得られたcDNA分子を増幅および検出するための、癌選択的遺伝子に特異的
なプローブおよびプライマーの使用であって、ここで、少なくとも
5つのプローブおよびプライマーの組を前記cDNA分子を増幅させるために用い、および
前記少なくとも5つのプライマーの組の各プライマーの組は、選択された癌遺伝子に対応し、
前記選択された癌遺伝子は、前立腺癌、乳癌、肺癌、膵臓癌、肝臓癌およびメラノーマのうちの1以上に対して選択的な遺伝子を含み、
前記前立腺癌選択的遺伝子は、FAT1、TMPRSS2、AGR2、FOLH1、HOXDB13、KLK2、KLK3、SCHLAP1/SET4、SCHLAP1/SET5、AMACR、AR変異形、UGT2B15/SET1、UGT2B15/SET5およびSTEAP2のうちの
5つ以上を含み、前立腺癌選択的遺伝子に対応する前記少なくとも
5つのプライマーの組は、
FAT1 (プライマー1 SEQ ID NO:23, プライマー2 SEQ ID NO:22)、
TMPRSS2 (プライマー1 SEQ ID NO:134, プライマー2 SEQ ID NO:133)、
AGR2 (プライマー1 SEQ ID NO:2, プライマー2 SEQ ID NO:1)、
FOLH1 (プライマー1 SEQ ID NO:29, プライマー2 SEQ ID NO:28)、
HOXDB13 (プライマー1 SEQ ID NO:32, プライマー2 SEQ ID NO:31)、
KLK2 (プライマー1 SEQ ID NO:35, プライマー2 SEQ ID NO:34)、
KLK3 (プライマー1 SEQ ID NO:38, プライマー2 SEQ ID NO:37)、
SCHLAP1/SET4 (プライマー1 SEQ ID NO:92, プライマー2 SEQ ID NO:91)、
SCHLAP1/SET5 (プライマー1 SEQ ID NO:95, プライマー2 SEQ ID NO:94)、
AMACR (プライマー1 SEQ ID NO:98, プライマー2 SEQ ID NO:97)、
AR バリアント 7/SET1 (プライマー1 SEQ ID NO:101, プライマー2 SEQ ID NO:100)、
AR バリアント 7/SET3 (プライマー1 SEQ ID NO:104, プライマー2 SEQ ID NO:103)、
AR バリアント 12/SET1 (プライマー1 SEQ ID NO:107, プライマー2 SEQ ID NO:106)、
AR バリアント 12/SET4 (プライマー1 SEQ ID NO:110, プライマー2 SEQ ID NO:109)、
UGT2B15/SET1 (プライマー1 SEQ ID NO:113, プライマー2 SEQ ID NO:112)、
UGT2B15/SET5 (プライマー1 SEQ ID NO:116, プライマー2 SEQ ID NO:115)、および
STEAP2 (プライマー1 SEQ ID NO:125, プライマー2 SEQ ID NO:124)
からなる群から選択され、
前記乳癌選択的遺伝子は、PGR、PIP、FAT2、TMPRSS4、AGR2、FAT1、RND3、PKP3、PRAME、およびSCGB2A1のうちの
5つ以上を含み、乳癌選択的遺伝子に対応する前記少なくとも
5つのプライマーの組は、
PGR (プライマー1 SEQ ID NO:62, プライマー2 SEQ ID NO:61)、
PIP (プライマー1 SEQ ID NO:164, プライマー2 SEQ ID NO:163)、
FAT2 (プライマー1 SEQ ID NO:26, プライマー2 SEQ ID NO:25)、
TMPRSS4 (プライマー1 SEQ ID NO:203, プライマー2 SEQ ID NO:202)、
AGR2 (プライマー1 SEQ ID NO:2, プライマー2 SEQ ID NO:1)、
FAT1 (プライマー1 SEQ ID NO:23, プライマー2 SEQ ID NO:22)、
RND3 (プライマー1 SEQ ID NO:77, プライマー2 SEQ ID NO:76)、
PKP3 (プライマー1 SEQ ID NO:65, プライマー2 SEQ ID NO:64)、
PRAME (プライマー1 SEQ ID NO:149, プライマー2 SEQ ID NO:148)、
AR バリアント7/SET1 (プライマー1 SEQ ID NO:101, プライマー2 SEQ ID NO:100)、
AR バリアント7/SET3 (プライマー1 SEQ ID NO:104, プライマー2 SEQ ID NO:103)、および
SCGB2A1 (プライマー1 SEQ ID NO:83, プライマー2 SEQ ID NO:82)
からなる群から選択され、
前記肺癌選択的遺伝子は、SFRP2、FAT1、TMPRSS4、FOXF1、ARG2、およびFAT2のうちの
5つ以上を含み、肺癌選択的遺伝子に対応する前記少なくとも
5つのプライマーの組は、
SFRP2 (プライマー1 SEQ ID NO:194, プライマー2 SEQ ID NO:193)、
FAT1 (プライマー1 SEQ ID NO:23, プライマー2 SEQ ID NO:22)、
TMPRSS4 (プライマー1 SEQ ID NO:203, プライマー2 SEQ ID NO:202)、
FOXF1 (プライマー1 SEQ ID NO:209, プライマー2 SEQ ID NO:208)、
AGR2 (プライマー1 SEQ ID NO:2, プライマー2 SEQ ID NO:1)、および
FAT2 (プライマー1 SEQ ID NO:26, プライマー2 SEQ ID NO:25)
からなる群から選択され、
前記膵臓癌選択的遺伝子は、ALDH1A3、CDH11、EGFR、FAT1、MET、PKP3、RND3、S100A2、およびSTEAP2のうちの
5つ以上を含み、膵臓癌選択的遺伝子に対応する前記少なくとも
5つのプライマーの組は、
ALDH1A3 (プライマー1 SEQ ID NO:5, プライマー2 SEQ ID NO:4)、
CDH11 (プライマー1 SEQ ID NO:11, プライマー2 SEQ ID NO:11)、
EGFR (プライマー1 SEQ ID NO:20, プライマー2 SEQ ID NO:19)、
FAT1 (プライマー1 SEQ ID NO:23, プライマー2 SEQ ID NO:22)、
MET (プライマー1 SEQ ID NO:47, プライマー2 SEQ ID NO:46)、
PKP3 (プライマー1 SEQ ID NO:65, プライマー2 SEQ ID NO:64)、
RND3 (プライマー1 SEQ ID NO:77, プライマー2 SEQ ID NO:76)、
S100A2 (プライマー1 SEQ ID NO:80, プライマー2 SEQ ID NO:79)、および
STEAP2 (プライマー1 SEQ ID NO:125, プライマー2 SEQ ID NO:124)
からなる群から選択され、
前記肝臓癌選択的遺伝子は、AHSG、ALB、APOH、FGB、およびFGGのうちの
5つ以上を含み、肝臓癌選択的遺伝子に対応する前記少なくとも
5つのプライマーの組は、
AHSG (プライマー1 SEQ ID NO:152, プライマー2 SEQ ID NO:151)、
ALB (プライマー1 SEQ ID NO:140, プライマー2 SEQ ID NO:139)、
APOH (プライマー1 SEQ ID NO:233, プライマー2 SEQ ID NO:232)、
FGB (プライマー1 SEQ ID NO:239, プライマー2 SEQ ID NO:238)、および
FGG (プライマー1 SEQ ID NO:242, プライマー2 SEQ ID NO:241)
からなる群から選択され、および
前記メラノーマ選択的遺伝子は、PMEL、MLANA、MAGEA6、PRAME、TFAP2C、およびSOX10のうちの
5つ以上を含み、メラノーマ選択的遺伝子に対応する前記少なくとも
5つのプライマーの組は、
PMEL (プライマー1 SEQ ID NO:68, プライマー2 SEQ ID NO:67)、
MLANA (プライマー1 SEQ ID NO:50, プライマー2 SEQ ID NO:49)、
MAGEA6 (プライマー1 SEQ ID NO:44, プライマー2 SEQ ID NO:43)、
PRAME (プライマー1 SEQ ID NO:149, プライマー2 SEQ ID NO:148)、
TFAP2C (プライマー1 SEQ ID NO:131, プライマー2 SEQ ID NO:130)、および
SOX10 (プライマー1 SEQ ID NO:89, プライマー2 SEQ ID NO:88)
からなる群から選択される、使用。
【請求項18】
既知の癌を有する患者から経時的に得られた多数の血液試料において、増幅させたCTCを分析し、前記CTCの試験、画像化、または試験と画像化との両方を行って前記患者に予後予測を提供する、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
増幅させたCTCを分析して、治療介入に対する前記CTCの応答の指標を提供する、請求項17に記載の使用。
【請求項20】
増幅させたCTCを分析して、前記血液試料の取得がなされた患者における腫瘍負荷の度合いを提供する、請求項17に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液サンプリング技法に関し、より詳しくは、血液試料中の細胞の検出および分析のための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
単純な血液試験または「液体生検」を用いて希少な循環腫瘍細胞(CTC)の存在を検出する能力は、上皮癌のモニタリングを大いに向上させる潜在性を有し、侵襲的な腫瘍生検を必要とせずに腫瘍細胞数、遺伝子組成および薬物応答パラメータの瞬時サンプリングを提供する。したがって、早期癌検出のためのCTCの検出は、癌の処置に革命を起こす潜在性を有し、治療処置を期待できる場合にはそれが転移する前の段階で浸潤癌を診断することを可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、CTCは非常に希少であり、正常な血液成分と混ざり合ったこれらの腫瘍細胞を同定、可視化および採点することは、既知のマイクロ流体装置または同様の技術を用いて部分的に精製した後でさえ、著しい難題であり続けている。例えば、全血1ミリリットル当たり、50億個超の赤血球(RBC)および500万個超の白血球(WBC)の中にCTCは1~10個しか存在しない(Plaksら、「Cancer Circulating Tumor Cells」、Science、341:1186;2013)。その上、癌細胞の中での異種性が患者個人においてさえ高いことおよび、血流中を循環する多くの腫瘍細胞が物理的に弱い状態にあり、それらの多くがプログラム細胞死またはアノイキスを始めていることゆえに、腫瘍細胞の抗体染色は変動性が高い。さらに、抗体染色された腫瘍細胞の正確な採点は、抗体試薬に非特異的に結合するものがいくつかあり大量に混入している白血球と区別することを必要とする。そういったことから、抗体染色では候補となる腫瘍細胞のサブセットしか堅牢に同定することができず、試験された患者の半数もが、広く転移した癌を有するにも拘らず検出可能な細胞を有さない。
【0004】
それゆえ、CTCを画像化する現在のプロトコルは、CTCを特に他の有核血球、例えば白血球(WBC)などから単離するときによりいっそう高いレベルの純度を必要としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、CTCの極めて高いレベルの純度の必要性を回避しながら標準的な血液試料中の希少なCTCに関する可能な最高感度のデータを得るための方法、用途およびシステムに関する。特に、当該新規方法は、混入しているWBCからCTCを完全に隔離する必要がなく、その代わりに、例えば多くて10,000個以上のWBCを含有する産物中のたった1個のCTCを確実に検出することができる。新規検査方法およびシステムは、血液から、(1)CTCを(質の高いリボ核酸(RNA)を有する)無傷な全細胞として堅実に得ることのできる単離システムと、(2)健常な患者の血液中には存在しない各腫瘍タイプに特異的な癌系統のリボ核酸RNAマーカーに的を絞った、液滴に基づくデジタルポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査とを組み合わせる。
【0006】
本明細書において記載されるとおりに組み合わせた場合、これらの2つの概念は、CTCデジタル液滴PCR検査法(「CTC ddPCR」)、または簡単に書けば「デジタルCTC」検査(「d-CTC」)を提供する。いくつかの実施形態において、単離システムは、マイクロ流体システム、例えば、負枯渇マイクロ流体システム(例えば、赤血球(RBC)、WBCおよび血小板などの造血細胞の負枯渇を用いて血液試料中のCTCなどの無標識の非造血細胞を露顕させるいわゆる「CTCチップ」)である。
【0007】
総じて本発明は、極めて高い感度および特異性で癌を早期検出する方法であって、循環腫瘍細胞(CTC)のマイクロ流体単離およびCTC由来RNAのデジタル検出を用いることを含む、方法に関する。いくつかの実施形態では、CTC由来RNAをcDNAに変換して、CTC由来のcDNAには特異的に結合するが他の細胞cDNAには結合しない構成のレポーター基の存在下で増幅させるための個々の液滴中にカプセル化することができる。レポーター基について陽性である液滴の数を数えて、疾患、例えば、様々なタイプの癌の存在を評価することができる。
【0008】
別の態様において、本発明は、血液試料中の循環腫瘍細胞(CTC)を分析する方法に関する。方法は、血液試料から、血中に存在するCTCおよび他の細胞を含む産物を単離すること;産物からリボ核酸(RNA)分子を単離すること;溶液中で単離RNAからcDNA分子を生成させること;cDNA分子を個々の液滴中にカプセル化すること;CTC由来cDNAには特異的に結合するが他の細胞由来cDNAには結合しない構成のレポーター基の存在下、各液滴内でcDNA分子を増幅させること;液滴中のCTC由来cDNA分子の存在の指標としてレポーター基を含有する液滴を検出すること;および検出された液滴中のCTCを分析することを含むかまたはそれらから構成される。
【0009】
本明細書に記載の方法はさらに、RNAを単離する前に産物の体積を減らすこと、および/またはcDNA分子をカプセル化する前にcDNA含有溶液から混入物を除去することを含むことができる。
【0010】
新規方法の様々な具現化において、単離RNAからcDNA分子を生成させることは、単離RNA分子の逆転写(RT)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行うことを含むことができ、および/または各液滴内でcDNA分子を増幅させることは、各液滴の中でPCRを行うことを含むことができる。新規方法において、個々のcDNA分子およびPCR試薬を個々の液滴中にカプセル化することは、非水性液体、例えば1以上のフッ化炭素、フッ化炭化水素、鉱油、シリコーンオイルおよび炭化水素油、ならびに/または1以上の界面活性剤の少なくとも1000個の液滴を形成することを含むことができる。各液滴は、CTCから得られた標的cDNA分子を概して1つ含有することができる。いくつかの実施形態において、レポーター基は蛍光標識であるかまたはそれを含むことができる。
【0011】
新規方法は、固相可逆固定(SPRI)を用いることによってcDNA含有溶液から混入物を除去すること、例えば、溶液中のcDNAを例えばcDNAに特異的に結合するように構成された磁気ビーズで固定すること;溶液から混入物を除去すること;および精製cDNAを溶離させることを含むことができる。
【0012】
様々な具現化において、本明細書に記載の方法は、本明細書中の表1中の癌選択的遺伝子の一覧から選択される1以上の遺伝子に対応するプローブおよびプライマーを、各液滴内でcDNA分子を増幅させる際に使用することを含む。例えば、選択された遺伝子は、前立腺癌選択的遺伝子、例えば、(表1から容易に決定できるように)AGR2、FOLH1、HOXDB13、KLK2、KLK3、SCHLAP1/SET4、SCHLAP1/SET5、AMACR、AR変異形、UGT2B15/SET1、UGT2B15/SET5およびSTEAP2のうちの任意の1つ以上を含むことができる。別の例では、ALDH1A3、CDH11、EGFR、FAT1、MET、PKP3、RND3、S100A2およびSTEAP2は膵臓癌に対して選択的である。表1に列挙するその他のタイプの癌について同様の一覧を生成することができる。
【0013】
他の例では、選択された遺伝子は、表1に列挙する乳癌選択的遺伝子のうちの任意の1つ以上を含む。他の例では、選択された遺伝子は、肺癌、肝臓癌、前立腺癌、膵臓癌およびメラノーマ癌のうちの1以上に対して選択的な遺伝子を含む。例えば、多重検査は、特定のタイプの癌、例えば、乳癌、肺癌前立腺癌、膵臓癌、肝臓癌およびメラノーマに対して選択的であるとして表1中に列挙された選択された遺伝子のうちの2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、または全てを含むことができる。典型的には、表1からの5~12個の癌選択的遺伝子に対するプライマーおよびプローブの群を特定のタイプの癌に対して使用する。選択された遺伝子のその他の固有の組み合わせ(それらの遺伝子に対するマーカー)を以下の実施例において記載する。
【0014】
方法はまた、異なる2以上、3以上、4以上または5以上のタイプの癌に対して選択的な1以上の遺伝子を使用することを含むことができる。例えば、遺伝子は、乳癌および肺癌;乳癌、肺癌および肝臓癌;乳癌、肺癌および膵臓癌;乳癌、肺癌および前立腺癌;乳癌、肝臓癌およびメラノーマ;乳癌、肺癌およびメラノーマ;乳癌、肺癌、肝臓癌および前立腺癌;乳癌、肺癌、肝臓癌およびメラノーマ;乳癌、肺癌、肝臓癌および膵臓癌;乳癌、肺癌、前立腺癌および膵臓癌;乳癌、肺癌、肝臓癌、メラノーマおよび膵臓癌;または、乳癌、肺癌、肝臓癌、メラノーマ、膵臓癌および前立腺癌に対して選択的であることができる。
【0015】
本明細書に記載の方法において、CTCは、転移癌または原発性/限局性の癌から生じるものであることができる。新規方法において、検出された液滴中のCTCを分析するステップは、例えば既知の癌を有する患者の血液試料からのCTCを例えば経時的にモニタリングすることと、CTCを(例えば標準的技法を用いて)試験および/または画像化して患者の予後予測を提供することとを含むことができる。他の実施形態では、検出された液滴中のCTCを分析するステップは、患者の血液試料からのCTCを(例えば標準的技法を用いて)試験および/または画像化して治療介入へのCTCの応答の指標を提供することを含むことができる。
【0016】
他の実施形態において、検出液滴中のCTCを分析するステップは、患者の血液試料の単位体積当たりのCTCの数または濃度を決定して、患者における腫瘍負荷の度合いを提供することを含む。方法はその後にさらに、患者における腫瘍負荷の度合いを用いて療法を選択することを含むことができ、または第2時点において患者における腫瘍負荷の度合いを決定して、腫瘍負荷を経時的に、例えば治療介入に応じて、例えば腫瘍負荷の動的モニタリングのためにモニタリングすることをさらに含むことができる。
【0017】
本明細書に記載の方法および検査は、多様な診断方法、予後予測方法およびセラノスティクス方法においてCTCを増幅させかつ検出するために用いることができる。
【0018】
本明細書中で使用する場合、語句「循環腫瘍細胞」(CTC)は、患者の血流内に非常に希少な数(例えば、全血中で約10,000,000個のWBCの中に約1個のCTC)で存在する固形腫瘍(非血行性の癌)に由来する癌細胞を指す。CTCは、転移癌および原発性/限局性の癌のどちらから生じるものでもあることができる。
【0019】
本明細書中で使用する場合、「産物」は、例えば本明細書に記載のシステムを使用して本明細書に記載の方法で処理することから生じる、例えば何らかの液体、例えば緩衝液、例えばプルロニック緩衝液の中の単離された希少細胞およびその他の混入している血球、例えば赤血球、白血球〔例えば白血球(leukocyte)〕の群を意味する。典型的な産物は、500~2,500個以上のWBCと混ざり合ったほんの約1~10個のCTC、例えば、1000~2000個のWBCと混ざり合った1~10個のCTCを含有し得る。しかしながら、本発明の方法の検出限界は、10,000個のWBC中で約1個のCTCであることができる。このように、本発明の方法は500個のWBC中で約1個のCTCの純度のレベルを達成することができる一方で、本発明の方法は、いくつかの既知のCTC分析方法で必要とされるような高度に精製されたCTCを必要としない。
【0020】
本明細書において用いる場合、固相可逆固定(SPRI)による浄化は、産物の逆転写(RT)-PCRから作り出されたcDNAに対して、被覆磁気ビーズを使用して大きさの選択を実施する技法である。本明細書に記載の新規検査方法において、これは、(a)正しい大きさのcDNAのみを選択することと、(b)液滴の安定性に適合しない強すぎる溶解洗剤を除去することとの二重の目的を達成する。
【0021】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、小さいオリゴヌクレオチドプライマーの連続アニーリングおよび再アニーリングによって既知のDNA断片を増幅させて結果として検出可能な分子信号を得るプロセスである。
【0022】
逆転写(RT)-PCRは、逆転写を用いて相補的c-DNA分子をRNA鋳型から精製し、それによってDNAポリメラーゼ連鎖反応がRNAに対して作用するのを可能にすることを指す。本明細書中に開示される新規方法の重要な態様は、RNAを破壊または分解しかねないような方法で溶解または処理されていない全細胞CTCからの質の高いRNAの入手可能性である。
【0023】
本明細書中で使用する場合、「陽性液滴」は、タグ付きプライマーを使用して行われるPCR反応によってPCR増幅産物の可視化が可能になる脂質カプセル化分子である。したがって、特定の標識遺伝子の一本鎖鋳型cDNA分子を含有していた液滴は、蛍光顕微鏡法を用いて可視化可能になることができ、他方、「空」または「陰性」の液滴は、非標識cDNAを含有する液滴である。
【0024】
新規方法およびシステムは、数多くの利点および利益を提供する。例えば、現在の方法およびシステムは、単独で用いられるいずれかの従来の既知のシステムに比べてはるかにより正確かつ堅牢な結果を提供する。単一のCTCからの信号を明るい蛍光を放つ数百個または数千個の液滴(各々は単一のcDNA分子に由来する)に作り替えることにより、新規デジタルCTC検査は劇的な信号増幅を可能にする。本明細書に記載のバイオマーカー遺伝子を選択および最適化する厳密な判断基準を考慮すれば、正常な血球からのバックグラウンド信号はd-CTCでは無視できる。したがって、d-CTCは、進行癌を有する患者(前立腺癌、肺癌、乳癌および肝臓癌を有する患者のうちのほぼ100%)からの信号を著しく増幅させることを可能にする。陽性点数を有する患者の割合が著しく増すだけでなく、高レベルの信号は、癌治療に続いて腫瘍負荷が低下するときの動的測定を可能にする。さらに、信号増幅は、非常に低い腫瘍負荷を有する患者においてさえ、CTC由来の識別特徴の検出(CTC細胞画像化では容易に達成されないもの)を可能にし、それゆえ著しく早い時期での癌の検出を可能にする。
【0025】
要約すれば、この新規マイクロ流体学方策は、患者の血液試料中のCTCを濃縮、検出および分析する、能率的で処理能が極めて高く、高速で(例えば1試行当たり3時間)、感度の極めて高い方法を提供する。当該方策は、豊富で臨床上実用的な情報を提供し、さらなる最適化によって癌の早期検出を可能にし得る。
【0026】
別段の定義がなされない限り、本明細書において使用するあらゆる科学技術用語は、本発明が属する技術分野において当業者にとって普通に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中で記載されているのと同様または等価な方法および材料を本発明の実施または試験で用いることはできるが、適する方法および材料を以下に記載する。全ての刊行物、特許出願、特許、および本明細書において言及されるその他の参考文献は、参照によってそれらの全体が組み込まれる。係争の場合には、定義を含めた本明細書によって立証されることになる。さらに、材料、方法および実施例は、例示的なものに過ぎず、限定を意図したものではない。
【0027】
本発明のその他の特徴および利点は、以下の詳細な記載および特許請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1A】
図1Aは、LNCaP前立腺癌細胞の全RNAから調製され、白血球と混合され、2つの異なる前立腺プライマー組を使用して液滴PCRによって分析された、cDNAの希釈液を示すグラフである。結果はいくつかの純度を表し、この範囲に亘って陽性液滴数の良好な応答を示す。
【
図1B】
図1Bは、健常提供者(HD)の血液試料の中へスパイクされ、CTC-iチップの中に流され、液滴RT-PCR(KLK3プライマー組)に供された、手作業で単離されたLNCaP細胞のグラフである。結果は、少数の標的細胞にまで至る優れた感度を示す。
【
図1C】
図1Cは、CTC-iチップの中を通って処理され、3つの前立腺特異的なバイオマーカーおよび1つの上皮特異的なバイオマーカー(KLK3、AMACR、FOLH1、EpCAM)を使用するRT-PCRおよび液滴分析に供された、健常対照、限局性の(切除可能な)前立腺癌および転移性の前立腺癌を有する患者からの血液試料の分析を示すグラフである。4つマーカー全てを合わせたときの液滴の総数/mlの結果を示す。
【
図2】
図2は、血液中にスパイクされ、CTC-iチップを使用して回収された、LNCAP前立腺癌細胞に由来するKLK3陽性液滴を示す信号強度プロットである。
【
図3】
図3は、反復実験間での最小限の変動、およびCTC-iチップによる試料処理の後の信号保持力を示すとともに本明細書に記載の新規検査を用いて増加した検出感度を示す、棒グラフである。
【
図4】
図4は、本明細書に記載の新規CTCデジタル液滴PCR検査法(「CTC ddPCR」検査または単に「d-CTC」検査)を用いて、健常提供者では4つの異なる癌特異的マーカーに陽性な液滴が存在していないことを示す、信号強度プロットである。
【
図5】
図5は、血液中へスパイクした前立腺癌細胞株を検出するために4つの異なる系統特異的転写物について多重化したd-CTC検査を示す信号強度プロットである。
【
図6A】
図6Aは、1反応当たり4つの異なる前立腺癌特異的転写物について多重化したd-CTC検査を示す信号強度プロットである。
【
図6B】
図6Bは、1反応当たり4つの異なる前立腺癌特異的転写物について多重化したd-CTC検査を示す信号強度プロットである。
【
図7A】
図7Aは、1反応当たり4つの異なる前立腺癌特異的転写物について多重化したd-CTC検査を示す信号強度プロットである。
【
図7B】
図7Bは、1反応当たり4つの異なる前立腺癌特異的転写物について多重化したd-CTC検査を示す信号強度プロットである。2つのそのような反応つまり反応1および2について示される理論モデル(
図6Aおよび7A)および癌細胞株データ(
図6Bおよび7B)は両方とも、理論モデルから実験データが正確に予測されることを実証している。
【
図8A】
図8Aは、1反応当たり4つの異なる乳癌特異的および肺癌特異的な転写物について多重化したd-CTC検査を示す信号強度プロットである。
【
図8B】
図8Bは、1反応当たり4つの異なる乳癌特異的および肺癌特異的な転写物について多重化したd-CTC検査を示す信号強度プロットである。
【
図9A】
図9Aは、1反応当たり4つの異なる乳癌特異的および肺癌特異的な転写物について多重化したd-CTC検査を示す信号強度プロットである。
【
図9B】
図9Bは、1反応当たり4つの異なる乳癌特異的および肺癌特異的な転写物について多重化したd-CTC検査を示す信号強度プロットである。
【
図10A】
図10Aは、1反応当たり4つの異なる乳癌特異的および肺癌特異的な転写物について多重化したd-CTC検査を示す信号強度プロットである。
【
図10B】
図10Bは、1反応当たり4つの異なる乳癌特異的および肺癌特異的な転写物について多重化したd-CTC検査を示す信号強度プロットである。
【
図11A】
図11Aは、1反応当たり4つの異なる乳癌特異的および肺癌特異的な転写物について多重化したd-CTC検査を示す信号強度プロットである。
【
図11B】
図11Bは、1反応当たり4つの異なる乳癌特異的および肺癌特異的な転写物について多重化したd-CTC検査を示す信号強度プロットである。
【
図12A】
図12Aは、1反応当たり4つの異なる乳癌特異的および肺癌特異的な転写物について多重化したd-CTC検査を示す信号強度プロットである。
【
図12B】
図12Bは、1反応当たり4つの異なる乳癌特異的および肺癌特異的な転写物について多重化したd-CTC検査を示す信号強度プロットである。
【
図13A】
図13Aは、1反応当たり4つの異なる乳癌特異的および肺癌特異的な転写物について多重化したd-CTC検査を示す信号強度プロットである。
【
図13B】
図13Bは、1反応当たり4つの異なる乳癌特異的および肺癌特異的な転写物について多重化したd-CTC検査を示す信号強度プロットである。6つのそのような反応、反応1~6について示される理論モデル(
図8A、9A、10A、11A、12Aおよび13A)および癌細胞株データ(
図8B、9B、10B、11B、12Bおよび13B)は、マーカーの種々の組み合わせの各々に関して、理論モデルから実験データが正確に予測されることを実証している。
【
図14】
図14は、1ngの非増幅細胞株cDNA、ならびに10、14および18サイクルの特異的標的増幅(STA)前増幅の後での1μlの前増幅産物から得られた、7つの異なるバイオマーカー(PIP、PRAME、RND3、PKP3、FAT1、S100A2およびAGR2)についての液滴PCR信号を示す棒グラフであり、STA前増幅により液滴PCR信号が著しく増強されることを実証している。
【
図15A】
図15Aは、肺癌を有する異なる3組の患者について新規d-CTC検査法を用いる患者のCTC検出を行った結果を示すグラフである。健常な患者はCTCを有していなかった。
【
図15B】
図15Bは、乳癌を有する異なる3組の患者について新規d-CTC検査法を用いる患者のCTC検出を行った結果を示すグラフである。健常な患者はCTCを有していなかった。
【
図15C】
図15Cは、前立腺癌を有する異なる3組の患者について新規d-CTC検査法を用いる患者のCTC検出を行った結果を示すグラフである。健常な患者はCTCを有していなかった。
【
図16】
図16は、図中に列挙する9つのバイオマーカー(AGR2、Dual、FAT1、FOLH1、HOXB13、KLK2、KLK3、STEAP2およびTMPRSS2)について本明細書に記載の多重化d-CTC検査法を用いて試験した患者の前立腺癌のデータの結果を示す横棒グラフである。91パーセントの癌患者(11人中10人の患者)が、検出可能なCTCを有しており、28個のうち24個(86%)の試料が、検出可能なCTCを含有しており、12個のうち0個(0%)の健常提供者(HD)の血液試料がCTCを含有していた。
【
図17】
図17は、転移性前立腺癌患者(上行)、限局性前立腺癌患者(中央行)および健常提供者の対照試料(下列)から得た血液試料について2つの異なる反応(反応1(TMPRSS2、FAT1、KLK2およびSTEAP2)、左列)および反応2(KLK3、HOXB13、AGR2およびFOLH1)、右列)を多重化したd-CTC検査を示す一連の信号強度プロットである。各場合において、健常提供者(HD)の試料中にはCTCは存在しなかったが、癌の試料中にはCTCの明確な証拠が存在していた。
【
図18】
図18は、アビラテロン(登録商標)で処置した前立腺癌患者における薬物応答の読み出しを提供する経時的に測定されたCTCでの、アンドロゲン受容体シグナル伝達遺伝子の相対的割合を示す多重棒グラフである。
【
図19A】
図19Aは、非増幅対18サイクルのSMARTer前増幅を示すグラフである。
図19Aは、3回の反復(WTA1、WTA2、WTA3)において一致した、種々の標的領域のアンプリコン増幅効率のレベルを示す棒グラフである。
【
図19B】
図19Bは、非増幅対18サイクルのSMARTer前増幅を示すグラフである。
図19Bは、18サイクルのSMARTer前増幅を用いることによって信号が非前増幅試料に比べておおよそ4桁(10
8対10
4)増大することを示す。
【
図20A】
図20Aは、11個のマーカーを多重肝臓癌検査において試験した結果を示す。
図20Aは、21人の肝細胞癌腫(HCC)患者における液滴総数を示す。
【
図20B】
図20Bは、11個のマーカーを多重肝臓癌検査において試験した結果を示す。
図20Bは、13人の慢性肝臓疾患(CLD)患者における液滴総数を示す(顕著な検出可能な液滴は全くない)。
【
図20C】
図20Cは、11個のマーカーを多重肝臓癌検査において試験した結果を示す。
図20Cは、15人の健常提供者(HD)における液滴総数を示す(顕著な検出可能な液滴は全くない)。
【
図21A】
図21Aは、14個のマーカーを多重化した肺癌検査の結果を示すグラフである。
図21Aは、8人の転移性肺癌患者および8人の健常提供者(全員陰性)についての検査結果を示す。
【
図21B】
図21Bは、14個のマーカーを多重化した肺癌検査の結果を示すグラフである。
図21Bは、癌患者の血液1ml当たりの液滴計数が全て(8人中8人)、全ての健常提供者よりも高くなり、この検査での検出率が100%となったことを示す。
【
図22】
図22は、9人の転移性乳癌患者、5人の限局性乳癌患者、および15人の健常提供者の範囲で用いた11個のマーカーの多重検査のための乳癌検査の結果を示すグラフである。結果は、検査が9人中7人の転移性乳癌患者、5人中2人の限局性乳癌患者、および0人の健常提供者試料において癌を検出することを示す。
【
図23A】
図23Aは、転移性乳癌患者におけるARv7検出の結果を示すグラフである。
図23Aは、10人の転移性乳癌患者および7人の健常提供者から得た試料を本明細書に記載のCTCチップによって処理した結果を示す棒グラフである。
【
図23B】
図23Bは、転移性乳癌患者におけるARv7検出の結果を示すグラフである。
図23Bは、10個のうち5個の癌患者試料が健常提供者のバックグラウンドレベルを超え、10中5、すなわち50%の検出率が得られたことを示す。
【
図24A】
図24Aは、34人のメラノーマ患者における個々のマーカー(PMEL、MLANA、MAGEA6、PRAME、TFAP2CおよびSOX10)および組合わせたマーカー混合物(SUM)の検出率を示す棒グラフである。
【
図24B】
図24Bは、15人の健常提供者と比較した場合の34人のメラノーマ患者において検出された液滴信号の182個の描点についてのドットプロット分布図であり、健常提供者のバックグラウンド信号を超える総検出感度が(描点に基づいて)81%であり特異性が(描点により)100%であることを実証している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示は、血液試料中の希少な癌細胞から情報を得る方法およびシステムに関する。これらの方法およびシステムは、血液試料中の非標識CTCを単離するための単離技法、例えば、超高処理能マイクロ流体技法、例えば、負枯渇技法、例えば、造血細胞の負枯渇を用いるものの力と、固有癌系統のリボ核酸(RNA)マーカーに的を絞った分析技法、例えば、液滴に基づくデジタルポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査とを組み合わせる。この方略は、細胞の精製(例えば、濾過、陽性腫瘍細胞選択)を部分的に提供するその他のCTC単離技術に適用することもできるが、RNAの質、したがって検査の感度はマイクロ流体技術には劣るであろう。同様に、RNAに適用されるその他のデジタルPCR技術は、系統に固有のプライマーを検出することができるが、液滴に基づく検査の感度が最も高い可能性がある。
【0030】
本明細書に記載の新規方法は、血中のCTCの存在に基づく癌の早期検出のためだけでなく腫瘍負荷定量のためにも用いることができ、また、特定の腫瘍からのCTCを経時的にモニタリングして例えば臨床試行または特定の療法との関連において例えばCTCの中に存在する固有の腫瘍マーカー遺伝子のあらゆる潜在的変化および特異的療法の結果としての腫瘍における変化を測定するために用いることができる。
【0031】
検査方法の一般概念
単離技法は、例えば国際PCT出願第2015/058206号パンフレットおよびOzkumurら、「Inertial Focusing for Tumor Antigen-Dependent and -Independent Sorting of Rare Circulating Tumor Cells」、Sci.Transl.Med.、5:179ra47(2013)の中で記載されているいわゆる「CTC-iチップ」などの超高処理能マイクロ流体学を用いて血液試料からCTCを濃縮するために用いられる。CTC-iチップは、血液試料中のWBCを磁気ビーズで標識してその後に試料を2つの濃縮段階を通じて処理するというCTC抗原非依存的な手法を用いる。第1段階では、決定論的横置換法を用いて小さく柔軟な細胞(粒子)(RBC、血小板、未結合磁気ビーズおよび血漿)を除去し、その一方でより大きい細胞(CTCおよびWBC)が保持される。第2段階では、慣性集束を用いて全ての細胞を狭い流体流の中で移動させ、その後、磁場を用いてビーズ標識されたWBCを集束流から引き出し、高度に濃縮されたCTCが残る。10mlの全血からのCTC-iチップ産物は、通常は<500,000個のRBC、<5,000個のWBCおよび変動する数のCTCを含有する。
【0032】
いくつかの分析技法は、例えば液滴マイクロ流体学を用いて、例えばCTC-iチップから得られた単離CTCをさらに濃縮および分析する。液滴マイクロ流体学についてのいくつかの基礎的な情報は、Jeremyら、「Ultrahigh-Throughput Screening in Drop-Based Microfluidics for Directed Evolution」、Proc.Natl.Acad.Sci.米国、107:4004(2010)に全体的に記載されている。
【0033】
本明細書において用いる場合、液滴マイクロ流体技法は、特定の具現化において、典型的には非水溶性液体(例えば、フッ化炭素、フッ化炭化水素、鉱油、シリコーンオイルおよび炭化水素油;また、非水性液体中に界面活性剤、例えば、Span80、モノオレイン/オレイン酸、Tween20/80、SDS、n-ブタノール、ABIL EM90およびリン脂質を含むこともできる)であり体積での大きさが例えば約0.5pL~15nL、直径が例えば10~300μm、例えば20~100μm、例えば30~50μm、例えば35μmである液滴の中に単一の細胞、RT-PCR試薬、および溶解用緩衝剤をカプセル化することを含むことができる。本開示において記載の新規方法において使用する場合、これらの技法はさらに、癌特異的転写物を液滴内で増幅させて蛍光信号を生成すること、および増幅陽性液滴を選別することを含む。この手法によって、診断および個人別薬物療法を目的とした配列決定および分析を行うことのできる純粋なCTCが単離される。CTCの異種性が高いため、多重化した増幅を用いて可能な限り多くのCTCを検出することが有用である。したがって、1対のプライマーをPCR混合物中で使用する代わりに、腫瘍特異的なプライマーの組み合わせを用いてCTCの検出および選別の可能性を高めることができる。癌細胞を選別するためにPCRを使用する際のさらなる情報については、例えば、Eastburnら、「Identification and genetic analysis of cancer cells with PCR-activated cell sorting」、Nucleic Acids Research、2014、第42巻、No.16e128を参照されたい。
【0034】
新規検査方法では、CTCを溶解して、癌細胞で発現される遺伝子を代表するものであるRNA分子を放出する。大半のものが、癌特異的というよりはむしろ「系統」特異的であり、例えばいかなる前立腺細胞も(癌性であろうとなかろうと)これらのマーカーを発現する。しかし正常な血液細胞はその発現がなく、信号が、血流中を循環する細胞に由来する、という事実はそれを異常な信号として決定する。RNAをcDNAに変換することによって、今やこの系統信号をPCR増幅させることができる。本発明者らは、極めて高感度である液滴デジタルPCRを用いて、単一の癌細胞からの信号(例えば、画像化検査での1つの信号)を何千もの陽性免疫蛍光液滴に変換することを可能にする。多重に高度に集団化した転写物のこれらの組み合わせは、癌に対する高い感度および特異性を保証し、(前立腺癌および乳癌におけるホルモン応答性経路の状態などでの)機能的洞察をも可能にする。
【0035】
記している通り、新規検査方法は、DNAではなく質の高いRNAの検出および分析に的を絞る。これらは、血漿およびCTCでのDNA突然変異に対してかなりの作業となってきたが、本発明の方法は、以下の理由からRNAマーカーに依拠している:
1.DNA突然変異は腫瘍特異的ではなく、また、健常個体がいくつかの未確認の癌細胞を血中に有するという発見は、臨床上非常に困難な状況である。これとは対照的に、腫瘍特異的なRNA(例えば、肺に対して前立腺)を選択することによって、新規方法は血中の癌細胞の根源を特定することができる。
【0036】
2.DNA突然変異は、非常に異種性が高く、そのうえ、多くの癌が共有する再発性突然変異は少なく、大半の血液に基づく突然変異の検出には、一次腫瘍の中に存在する突然変異についての既存の知識が必要である(すなわち、未知の癌のスクリーニングには適さない)。これとは対照的に、特異的な器官に由来する全ての腫瘍細胞は、共通する系統のマーカーをRNAレベルで発現する。それゆえ、新規方法では、個々の癌タイプのそれぞれに対して単一のマーカー混合物を使用する。
【0037】
3.転移が確立される前に浸潤癌は低レベルのCTCを流す(つまりそれは、血液に基づく検出には遅すぎではない)が、血中での腫瘍細胞の存在は血管浸潤を暗に意味する(つまり、緩慢性ではなく侵襲性の癌)。それは、一次腫瘍の中の死滅しかけている細胞から漏れるものである血漿DNAまたは血漿タンパク質マーカーの場合には当てはまらず、必ずしも血管浸潤を指し示している必要はない。例えば、血中の血清PSAタンパク質は、良性の前立腺細胞からも一次前立腺癌からも流れる。他方、PSAを発現しているCTCは、浸潤性の前立腺癌のみから流れる。
【0038】
4.本明細書に記載の新規デジタル採点技術を用いるRNAの分析は、極めて高感度である。しかしながら、遊離RNAは血流中で分解されるものであり、本明細書に記載の単離システム、例えばマイクロ流体負枯渇システム(例えばCTCチップシステム)の使用は、非標識の腫瘍細胞が抽出可能な質の高いRNAを有するという点で独特である。
【0039】
DNAよりもcDNAを標的分子として選択することは、各腫瘍細胞を起源とする信号を増大させるためだけでなく、白血球(WBC)転写物の排除に向けて腫瘍細胞転写物のみを特異的に標的化するためにも行われた。信号の増大は重要な利点である、というのも、それによって、CTCを非常に高いレベルの純度で単離する必要がなくなるからである。つまりそれは、同じ産物中で混入している何百または何千ものWBC、例えば白血球によって未だに取り囲まれた1つ以上の「単離」CTCを含有する産物に関して、堅牢で反復可能な結果を可能にする。それにも拘らず、新規方法において使用されるようなRNAから作られたcDNAを標的とする方略は、従来の手法に比べて最低レベルのCTC純度で最大限の特異性を精巧にあつらえることを可能にする。
【0040】
CTC-iチップ技術は、抗体でタグ付けされた白血球のマイクロ流体枯渇によって、非造血性細胞を単離する効率が高い。CTC-iチップのこの特徴は、無傷な腫瘍由来RNAを(その他の技術を用いて得られるレベルよりもはるかに高いレベルで)提供し、またそれは、(個人の癌の中で癌同士および上皮細胞対間葉系細胞サブタイプ同士で異形成が高い)腫瘍細胞表面エピトープとは無関係である。さらに、画像化分析のための抗体染色および選択が最適未満であるアポトーシス前の癌細胞さえも、本明細書に記載の方法を用いて採点されることのできる腫瘍特異的RNAの供給源を提供することができる。これら全ての理由から、希少なCTCと共に試料中に見受けられるWBCを少なくともいくらか低減しつつ、質の高いRNAを無傷のCTCから提供する単離技術またはシステム、例えばマイクロ流体負枯渇システム、例えばCTC-iチップは、腫瘍特異的なデジタル読み出しを産物に適用する前の重要な第1ステップの単離である。
【0041】
異種混交の混合物中での極めて希少な分子の液滴に基づくデジタル検出は元々、異種混交の混合物中に存在する場合には検出レベル未満であるがPCRに供される前に液滴中に隔離されている場合には容易に識別される、個々のDNA分子をPCR増幅させるために開発された。液滴に基づくデジタルPCR(「液滴デジタルPCR(ddPCR)」)の基本的技術は、RainDanceおよびBio―Radにより市販されており、それによって、標的分子の脂質カプセル化およびそれに続くPCR分析のための装備が提供される。これを可能にした重要な科学的進歩には、ハーバードのDavid Weitzおよびジョンズ・ホプキンズのBert Vogelsteinの研究所での研究が含まれる。例えば、米国特許第6,767,512号;第7,074,367号;第8,535,889号;第8,841,071号;第9,074,242号;および米国特許第2014/0303005号公報を参照されたい。また、米国特許第9,068,181号も参照されたい。
【0042】
しかしながら、液滴デジタルPCR自体は、本明細書に記載の新規方法の肝要部分である生物起源の材料と結合されない限り、生物学的に重要ではない。例えば、系統特異的なRNAの検出(本発明の検出方略の中心的焦点)は、正常な前立腺上皮細胞と癌性の前立腺細胞とを区別しない。そういったことから、前立腺由来の転写物の血中での検出は意味深いものではない:それらは、正常な前立腺細胞またはエキソソームからの破片の中に存在する。完全CTC(すなわち、血中の無傷のCTC)の単離と結合させたときに初めて、ddPCR検査は極めて高い感度と特異性との両方を達成する。それゆえ、これらの2つの技術は理想的には互いに適合したものである、というのも、新規方法において、単離システムは質の高いRNAを提供し、液滴に基づくデジタルPCR検査はRNAマーカーに的を絞っているからである。
【0043】
1つの付加的な態様は、新規検査方法の全体的な成功にとって重要である。記されているように、本明細書に記載の新規検査方法は、完全RNAから作られたcDNAを使用するが、この使用にとって肝要なのは、各癌タイプについて主要系統に特異的であり、しかも正常な血球の中には(ddPCR感度によってさえ)全く存在しない程に非常に独特である、適切なバイオマーカーを特定することである。本明細書において記載される、各癌タイプについての多数の標的RNAバイオマーカーの選択、試験および検証は、新規検査方法の成功を可能にする。
【0044】
検査方法のステップ
新規検査方法は、液滴デジタルPCR機器からのデータの解析に至るまで、またはそれを含めて、単離システム、例えばマイクロ流体負枯渇システムを用いて部分的に純粋なCTCを単離することから始まる。主に8つの検査ステップがあり、そのいくつかは、任意で選択されるが概してより良好な結果を与えるものである。
【0045】
1.血液試料から;例えば患者または被験体から、血中に存在するCTCおよびその他の細胞を含む産物を単離すること;
2.希少細胞含有産物の体積を減らすこと(任意);
3.例えば細胞溶解によって、産物からリボ核酸(RNA)分子を単離し、単離RNAから;例えば産物中に含まれている細胞から放出したRNAのRT-PCRによって、cDNAを生成させること;
4.RT-PCRステップ中に合成されたcDNAの浄化(任意);
5.遺伝子特異的な標的化前増幅プローブを使用して、例えばFluidigm BioMark(商標)入れ子式PCR手法、または非特異的完全トランスクリプトーム増幅を用いて、例えばClontech SMARTer(商標)を使用して、cDNAを前増幅すること(任意);
6.cDNA分子を個々の液滴中に、例えばPCR試薬と共に、カプセル化すること;
7.CTC由来cDNAには特異的に結合するが他の細胞由来cDNAには結合しない構成のレポーター基の存在下、各液滴内で、例えばPCRを用いて、cDNA分子を増幅させること;
8.レポーター基を含有する液滴(例えば「陽性」液滴)を液滴中のCTC由来cDNA分子の存在の指標として検出すること;ならびに
9.検出された液滴中のCTCを分析して、例えば、患者または被験体における特定疾患の存在を判定すること。
【0046】
以下にさらに詳しく記載しているように、新規d-CTC検査法の重要な特徴の1つは、優れた感度を送達する数々の標的バイオマーカー(および対応するプライマー)が慎重に選択される一方で同時にほぼ完璧な特異性が維持されることである。本明細書に記載の独特の標的遺伝子バイオマーカーの一覧(表1、下記)は、公的に入手可能なデータベースと専売のRNAseq CTCデータとのバイオインフォマティクス解析を用いて決定した。白血球のいかなる亜集団でも発現されないがCTCでは十分に高い頻度および強度で発現されるマーカーを十分に慎重に選択して、種々様々な患者の合理的な広さのアレイにおいて信頼性のある信号を提供した。各癌タイプ(例えば特に、前立腺癌、乳癌、メラノーマ、肺癌、膵臓癌)について特異的な組のマーカーを選択した。
【0047】
これより、検査方法の個別のステップについてより詳しく記載することにする。
1.CTCの単離
患者の血液をCTC-iチップ、例えば、バージョン1.3Mまたは1.4.5Tの中に流し、試料を氷上の15mL円錐形チューブ内に回収した。CTC-iチップは、以前に記載されているとおりに設計および作製された(Ozkumurら、「Inertial Focusing for Tumor Antigen-Dependent and -Independent Sorting of Rare Circulating Tumor Cells」、Science Translational Medicine、5(179):179ra47(DOI:10.1126/scitranslmed.3005616)(2013))。
【0048】
血液試料(癌患者1人当たり約20ml)を、認可済のプロトコルを用いてEDTAチューブ内に採取する。その後にこれらの試料をCD45(R&D Systems)およびCD66b(AbD Serotec、自社でビオチン化した)に対するビオチン化抗体と共に保温し、続いてDynabeads(登録商標)MyOne(登録商標)ストレプトアビジンT1(インビトロジェン)と共に保温して、白血球の磁気標識化を達成する(Ozkumurら、2013)。
【0049】
その後に試料をCTC-iチップの中に通して処理し、それによって血液成分(赤血球および白血球および血小板)および未結合ビーズをCTCから分離する。CTCを溶液中に回収する一方で、赤血球、血小板、未結合ビーズおよびタグ付き白血球を廃液チャンバ内に回収する。プロセスは自動化されており、10mlの血液が1時間で処理される。
【0050】
2.希少細胞含有産物の体積低減および貯蔵
産物中に単離された全ての細胞を完全に溶解させるためには、典型的な出発点である数ミリリットから最終体積の約100μlに産物体積を低減することが好ましい。これは、例えば、産物を遠心分離し、細胞溶解およびcDNAの生成に備えてプルロニック緩衝液中に再懸濁させることによって、成し遂げることができる。この時点で、RNAlater(商標)(ThermoFisher)の添加およびそれに続く液体窒素中での瞬間凍結および-80℃での保存により、試料を長期保存のために処理することができる。
【0051】
3.産物中の細胞からのRNAの単離およびcDNAの生成
RNA単離ステップは、RT-PCRに備えて細胞から全てのRNA分子を完全に放出させるためにプロセスにとって重要である。ワンステップでのチューブ内反応を用いて、標準的な移送ステップの間に招く可能性のある細胞およびRNAの損失の危険性を最小限に抑えることができる。例えば、ペレット状産物にRT-PCRマスターミックスを直接添加し、ピペット操作で完全に溶解させ、1:1のRNA:cDNA比を目標とするキットプロトコルに従って反応を実施することにより、qRT-PCRキット用のインビトロジェンSuperScript III(登録商標)第一鎖合成Supermix(登録商標)を使用することができる。一旦cDNAが合成されたならばRNアーゼHを反応に適用して、残存しているあらゆるRNAを除去する。あるいは、後のステップにおいて試料の完全トランスクリプトーム前増幅を実施したいのであれば、専売オリゴヌクレオチドおよび逆転写酵素を使用するものであるSMARTer(商標)Ultra Low Input RNAキットプロトコルを使用して、cDNAを合成することができる。
【0052】
4.RT-PCR中に合成されたcDNAの浄化
プロセスの別の有用なステップは、任意ステップではあるが、溶解試薬をcDNA含有溶液から除去することを含む。強すぎる洗剤の存在は、cDNA含有溶液がddPCR機器へ移されるとすぐに、ddPCR法で使用する液滴の不安定化を招く可能性がある。洗剤の除去は、例えば、固相可逆固定(SPRI)を用いることによって成し遂げることができる。この技法では、被覆磁気ビーズを使用して最初に特定の大きさ範囲のcDNAを結合させ、その後に洗剤含有上清を除去し、最後に純粋なcDNAをddPCR機器への投入のために溶離させる。RT-PCRの浄化に加えて、SPRIプロセスもまた、cDNAの大きさの選択を達成し、それは、プロセスのddPCR段階に入る非標的cDNA分子の数を低減し、次いでそれはバックグラウンドおよびノイズを低減する。
【0053】
5.前増幅
cDNAの前増幅は、液滴PCRステップで検出できる鋳型分子の数を増加させる、したがってシグナル対ノイズ比を向上させ陽性読み値の信頼性を高める、任意ステップである。それは、CTCにおいて低レベルで発現されるマーカーの検出のためおよび、例えば転移前の疾患の早期検出との関連において、アポトーシス性である可能性のある非常に少ない数のCTCを含有する試料を分析するための、非常に強力な手法である。これらの2つの手法は、d-CTC検査の作業流れにおいて適用されるために改変されている。特異的標的増幅(STA)は、Fluidigm BioMark(商標)入れ子式PCRプロトコルに基づいて、液滴PCRステップで使用されるプローブによって標的化される領域を増幅するように特異的に設計されたプライマーを使用することに依拠している(表2参照)。これらのプライマーは、健常対照におけるノイズの増加なしに効率的で特異的な増幅を確保するために、それらの各々の蛍光プローブと組み合わせて慎重に設計および試験された。その代わりに、完全トランスクリプトーム増幅は、SMARTer(商標)Ultra Low Input RNAキットプロトコルに基づき、WBCにおいて見受けられる転写物とCTCにおいて見受けられる転写物との両方を含めた産物中の全ての転写物の増幅に依拠している。
【0054】
6.液滴中でのcDNAおよびPCR試薬のカプセル化
一旦cDNAが合成され、混入している洗剤を除去して精製されたならば、溶液中のcDNA分子の全ての凝集物とqPCR試薬とを、例えば液滴製造機器、例えば液滴生成器、例えば1試料あたり20,000個の液滴を精製するBiorad自動液滴生成器によって、多くの小区画化された反応に分割する。各反応は、非水性液体、例えば油(PCR適合性、例えば販売者からの専売製剤)の極めて小さい液滴から構成され、それは、Taqman型PCR試薬を遺伝子特異的プライマーおよびオリゴヌクレオチドプローブ、ならびに少量の試料を含有している。液滴生成が完了した時点で、試料は、多大な数の個々のPCR対応型反応を含有しているエマルジョンから構成される。
【0055】
このステップでは、1つ、または多数の反応において腫瘍負荷の総合的な判定のため、例えば、主要の進展または療法への応答を判定するために、以下の表1に挙げる1つ以上の異なる標的遺伝子に対するPCRプローブおよび関連するプライマーを使用することができる。このように、いくつかの事例では表1の特定の遺伝子に対する単一の組のPCRプライマーおよびプローブを各液滴中に含むことができるが、CTCにおける遺伝子発現の異種性を考慮すれば、腫瘍細胞の検出を最大限に高めるために、それぞれのプライマー/プローブの組について種々の蛍光プローブを使用して各液滴中に2つ以上の異なる遺伝子に対してPCRプライマーおよびプローブを多重化することも可能である。また、各液滴中で様々な癌タイプを標的とする多数の遺伝子のためにPCRプライマーおよびプローブを多重化して、それゆえに単回の検査において多数の腫瘍タイプの広範でしかも特異的な検出を可能にすることも、可能である。
【0056】
7.液滴にカプセル化されたcDNA分子のPCR
qPCRサイクル条件を用いて、エマルジョン試料全体に対して標準的なPCRサイクルを実施する。反応は、個々の液滴PCR体積の大部分が終点へともたらされることを確かにするために、45サイクルまで行う。このことは重要であるが、反応はTaqman型qPCR試薬を使用して実施され、qPCR条件下で繰り返されるが、試料の蛍光強度はPCRサイクル中には測定されずに次のステップで測定されることになるからである。
【0057】
8.陽性液滴の検出
個々に区画されたPCRの各々は、いかなる蛍光測定も実施する前に完全に終点へともたらされるため、個々の液滴はそれぞれ、十分に蛍光を発する液滴となるか、または蛍光を実質的に全く含まないことになる。これにより、陽性(蛍光を発する)および陰性(蛍光を発しない)の液滴を簡単に数え上げることが可能になる。
【0058】
9.分析
上流でのRT-PCRは1:1のRNA:cDNA比を目標としたため、各陽性液滴は、生じる単一のRNA転写物を表すはずである。この解釈は、標的cDNA分子の数をはるかに上回る個々の液滴の数に依拠している。新規プロセスでは、一極において本発明者らは、単一のCTCを単離および溶解させて、数個のRNA転写物を遊離させ、次いでそれを1:1でcDNAへと逆転写し、分画し、PCR増幅させ、数え上げる、ということの可能性を検討する。
【0059】
本発明者らは、適度に発現された遺伝子、例えば前立腺癌細胞中のKLK3遺伝子の場合、各細胞がおおよそ80~120個のKLK3 mRNAの複製物を含有している、と推定する。Biorad QX200 ddPCRシステムは、20,000個の液滴を生成し、それは、少数の単離CTCおよび適度に発現された標的遺伝子について液滴1個当たり2つ以上の標的cDNA分子が決して存在しないことを確かなものにする。他方、CTCの数が数ダースまたは数百に達する場合、適度に発現する遺伝子について液滴1個当たり多数の標的cDNA複製物が存在する可能性がある。そのような場合、生じる転写物のおおよその数はポアソン統計学を用いて推定することができる。
【0060】
CTCの系統特異的同定を可能にする新規遺伝子パネル
上に述べたように、周囲を取り巻く正常な血球との関連において癌細胞に対して高度に特異的である遺伝子転写物の同定は、新規方法の中心部分である。癌細胞においてより高度に発現される遺伝子は多く知られているが、これらの遺伝子の大多数もまた、血液を含めた正常な組織において通常は少なくとも限られた発現を有する。この検査に必要とされる並外れた感度を考慮すれば、正常な血球における信号の欠如は、血流中の腫瘍細胞の信頼性の高い同定にとって必須である。
【0061】
血中のCTCを検出するために使用される候補の腫瘍特異的転写物は、最初に、乳癌、前立腺癌、肺癌、膵臓癌および肝臓癌ならびにメラノーマに由来する、公的に入手可能な遺伝子発現データセットならびに、本発明者らの研究所で生成させた、乳癌、前立腺癌および膵臓癌の患者およびこれらの癌のマウスモデルから単離されたCTCからの単一細胞RNASeqデータを解析することによって選択される。発現が腫瘍に制限されており血液成分中には存在しないかまたは検出不可能である転写物は、さらに下流での分析のために選択される。正常な血球における発現の完全な欠如を(最も高いレベルの感度で、つまりデジタルPCR検査によって)実証および検証することは重要である。全体として本発明者らは、コンピュータモデルまたはRNA Seqデータに基づいて予言された候補遺伝子のうちのたった約10%のみがヒト血液試料において真に陰性であることを見出した。
【0062】
特に、CTCを検出するための候補の腫瘍特異的mRNA転写物は最初に、ヒトの乳癌、前立腺癌、肺癌、膵臓癌、肝細胞癌およびメラノーマ癌について以前に導き出された遺伝子発現データセット(マイクロアレイおよびRNA-Seq)の解析によって特定した。この解析に用いる公的に入手可能なデータセットの具体的な例としては、癌ゲノムアトラス(TCGA)(癌ゲノムアトラス、tcga-data.nci.nih.gob/tcga/tcgaHome2.jspにてオンライン利用可能)および癌細胞株百科辞典(CCLE)(broadinstitute.org/ccle/homeにてオンライン利用可能;また、Barretinaら、The Cancer Cell Line Encyclopedia enables predictive modelling of anticancer drug sensitivity、Nature 483:603-607(2012)も参照されたい)が挙げられる。加えて、乳癌、前立腺癌および膵臓癌を有するヒト患者から単離されたCTCからの単一細胞RNA-seq遺伝子発現データを解析した(GEO受託番号GSE51827、GSE60407およびGSE67980)(Acetoら、Circulating tumor cell clusters are oligoclonal precursors of breast cancer metastasis、Cell、158:1110-1122(2014);Tingら、Single-Cell RNA Sequencing Identifies Extracellular Matrix Gene Expression by Pancreatic Circulating Tumor Cells、Cell Rep、8:1905-1918(2014);およびMiyamotoら、RNA-Seq of single prostate CTCs implicates noncanonical Wnt signaling in antiandrogen resistance、Science 349:1351-1356(2015)。次に、これらのデータベースによって特定された腫瘍特異的転写物をヒト白血球RNA-Seq遺伝子発現データ(GEO受託番号GSE30811、GSE24759、GSE51808、GSE48060、GSE54514およびGSE67980)と比較した。次に、さらに下流での分析のために、腫瘍における発現が高く白血球における発現が低いかまたは検出不可能である、差異の著しい発現を呈した転写物を選択した。さらに、文献検索を実施して追加候補の腫瘍特異的転写物を選択した。ヒトの各タイプの癌について50~100個の候補遺伝子が選択された。
【0063】
各特異的癌タイプにおける各候補遺伝子について、標的転写物の領域にまたがる2~4組のPCRプライマーを設計した。プライマーはIDT(Integrated DNA Technologies)によって合成し、プローブをFAMまたはHEX、ZENおよびIABkFQで標識して、アンプリコンの中間部を標的とするプローブを作出する。ヒトCTCにおいてデジタル式のPCRに基づくmRNA転写検出を好結果に適用するために必要とされる本発明者らのPCRプライマー設計方式の独特の特徴としては、例えば下記が挙げられる:1)細胞mRNA転写物は、固定されていない脆弱な細胞、例えばCTCにおいて特に、5’末端から分解する傾向にある、ということを考慮した、各mRNA転写物の3’末端の特異的標的化;2)例えば富化CTC混合物中に過剰に混入している白血球に由来する、混入しているゲノムDNAの意図しない増幅を排除するための、イントロンにまたがるアンプリコンを生成させるプライマーの設計;および3)特異的スプライス変異形の臨床的妥当性に関するいくつかの事例における不確定性を考慮した、所与の遺伝子の多数のスプライス変異形を包括的に増幅させるプライマーの設計。
【0064】
癌細胞株(乳癌、前立腺癌、肺癌、膵臓癌および肝臓癌ならびにメラノーマを代表する)に由来するcDNAを使用してプライマーの特異性を最初にqRT-PCRによって試験した。ヒトの各タイプの癌について、2~5個の立証された癌細胞株を培養し、初期試験に使用してPCRプライマー性能を見積もり、指定された癌における標的転写物の発現を評価した。特異性の初期試験を提供するために同じプライマーを使用して、癌の診断を有さない健常個体の白血球における標的転写物の発現を見積もった。最低5人の異なる健常個体の白血球をこの段階の試験において試験した(男性個体および女性個体の混合-これは、癌のタイプに依存する;つまり、候補の前立腺癌遺伝子および乳癌遺伝子はそれぞれ、男性提供者のみ、または女性提供者のみを用いる必要があった)。
【0065】
ヘパリンナトリウムを含む細胞調製チューブ(CPT)(ベクトンディッキンソン・アンド・カンパニー、ニュージャージー州)を製品に折り込まれた説明書に従って使用して全血から健常個体の白血球を単離した。RNA抽出および第一鎖cDNA合成を癌細胞株に対して実施し、標準的方法を用いて白血球を単離した。(各遺伝子に対して別個の2~4組のプライマーを使用して)各遺伝子の発現の特異性を、qRT-PCRを用いて(細胞株cDNAを陽性対照とし、健常提供者からの白血球cDNAを陰性対照とし、水を追加の陰性対照として)試験した。その後、qRT-PCR試験に基づいて癌細胞株の中には存在するが白血球の中には存在しない転写物を、液滴デジタルPCRによるさらなる検証のために選択した。この段階の試験を通過する選択基準は非常に厳密であり、qRT-PCR信号が少なくとも1つの癌細胞株の中に存在し、かつ試験された健常提供者のいずれの白血球試料の中にも存在しない、ということを要求した。
【0066】
qRT-PCR段階の試験を通過した標的転写物および特異的プライマー対を、液滴デジタルPCRを用いてさらに検証した。この段階の試験では、CTC-iチップ(例えば、Ozkumurら、「Inertial focusing for tumor antigen-dependent and -independent sorting of rare circulating tumor cells」、Sci.Transl.Med.、5、179ra147(2013)を参照されたい)を使用して、健常個体から提供された全血試料を処理した。CTC-iチップは全血からの赤血球、血小板および白血球の負枯渇を実施するものであり、(健常個体に存在するはずのない)CTCを含めた、白血球マーカーを発現しない血中の細胞が富化された試料産物を生成する。各血液試料について、CTC-iチップからの産物にRNA安定化溶液(RNAlater(登録商標)、Life Technologies)を補給し、標準的方法を用いるRNA抽出およびcDNA合成のための処理を行った。その後、液滴デジタルPCR(Biorad、カリフォルニア州)を用いて、試験されている特異的プライマー対に基づいて各試料中に存在する転写物の数を定量した。この段階中に液滴デジタルPCRによって評価した試料は、癌細胞株からのcDNA、CTC-iチップを通じて処理された健常提供者からの白血球cDNA(試験されているプライマー対1つ当たり少なくとも4人の健常個体)、および陰性対照としての水を含んでいた。
【0067】
液滴デジタルPCR試験を通過するための基準は厳密であり、下記:1)癌細胞株における転写信号の存在(>10個の陽性液滴を有する少なくとも1つの細胞株);2)陽性液滴と陰性(空の)液滴との間での信号の隔たりによって表される優れたシグナル対ノイズ比;3)健常提供者(健常提供者1人当たり<3個の液滴)において液滴信号が最小限であるかまたは欠如していること;ならびに4)水における液滴信号の欠如(0個の陽性液体)を含んでいた。
【0068】
上記の液滴デジタルPCR試験において、転写物を細胞株では特異的に増幅させたが白血球では増幅させなかったプライマーをその後にシグナルの感度についての詳細な試験に供した。単一細胞の顕微操作を用いて正確な数(1個、5個、10個、25個および50個の細胞)の癌細胞を、健常個体から提供された全血の中にスパイクし、その後、CTC-iチップに通して処理した。その後、各試料を、液滴デジタルPCRを用いる試験のために上記のとおりに処理し、信号が所望の臨床用途のために十分となることを確かにする感度を見積もった。
【0069】
qRT-PCRおよび液滴デジタルPCRを用いて候補の遺伝子およびプライマーを見積もる上記の厳密な手順によって、各タイプの癌について50~100個の候補遺伝子の初期一覧(合計でおおよそ400個の初期候補遺伝子)のうちのおおよそ10%から構成される最終プライマー一覧が得られた。次いで、MGH癌センターで癌処置を受けている癌患者から提供された、IRB承認済の臨床プロトコルの下で採集した血液試料を使用して、患者のCTCにおける信号についてこれらのプライマーをさらに見積もった。この部分の見積もりにおいて肝要となるのは、癌の診断を有さない健常個体から採取した血液との比較である。以下の表1は、液滴デジタルPCRを用いる前立腺癌、乳癌、肝細胞癌、膵臓癌、肺癌およびメラノーマ癌を有する患者からのCTCの特異的検出のためのこれらの方法を用いてこれまで開発されたプライマーおよびプローブを一覧で示す。
【0070】
各癌タイプに対して単一遺伝子を使用することはできるが、各パネルにおける多数の遺伝子の存在は、感度(CTCは、発現様式において患者個人の中でさえ異種性を有する)と特異性(多数の遺伝子信号を検出は、これが真の癌細胞識別特徴を表すということのさらなる信頼性を付与する)との両方のために有用である。
【0071】
以下の表1中に提供される遺伝子一覧は、特定タイプの癌に独特である転写物(例えば、前立腺癌または乳癌または肝臓癌の特異性の高いマーカー)および、いくつかの癌タイプ、例えば全ての上皮癌タイプによって共有される(したがって全癌マーカーとして役立ち得る)遺伝子、および特定条件(例えば、前立腺癌における活発なアンドロゲンシグナル伝達または乳癌における活発なエストロゲンシグナル伝達)の下で誘導される遺伝子を含む。このように、各タイプの癌に対して、最適な感度、特異性、および所与の癌タイプについての臨床上実用的な情報のために設計された遺伝子の特異的パネルが割当てられる。
【0072】
さらに、表2に記載されているプライマーは、それらの特異性を維持しながら表1に列挙する遺伝子のうちのいくつかを前増幅するように設計される。STAを方法に選択する場合、これらの入れ子型プライマーは各癌パネルの追加成分となる。
【0073】
様々なタイプの癌についての遺伝子一覧
以下の表1は、((Genbank ID)および配列識別番号(SEQ ID NO)による)遺伝子の名前の一覧を、それらの選択対象である癌タイプ(Br:乳房、Lu:肺、Li:肝、Pr:前立腺、Panc:膵臓、Mel:メラノーマ)と共に提供する。加えて、各遺伝子について最適化されたプライマーの組(プライマー1および2)を、デジタルPCR産物を最適に可視化するための蛍光プライマープローブの構成(例えば、タグ付きプローブ用の6-FAM(商標)(青色蛍光標識)またはHEX(商標)(緑色蛍光標識)、およびZEN-31ABkFQ消光剤)と共に列挙する。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
PRAMEはMAPE(腫瘍に好発現するメラノーマ抗原)、OIP4(Opa相互作用タンパク質OIP4)、およびCT130(癌/精巣抗原130)とも呼ばれることに留意されたい。
【0081】
以下の表2は、表1に列挙するプライマーによって標的化される領域を特異的に前増幅させるように設計された入れ子型プライマーを一覧にしたものである。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
CTCチップ産物からの遺伝子転写物の多重デジタル分析
CTCに由来する最小量のRNAからの腫瘍特異的mRNAの検出を向上させるために、本発明者らは、微少量のCTCチップ産物からの多様な遺伝子転写産物を試験することのできる多重検査を確立した。これは、独立した多数の遺伝子を使用することのより高い感度/特異性を、投入される鋳型の量が限られている(したがって多数の反応へと希釈されるべきでない)という事実と組み合わせるものである。本発明者らの検査は、1反応当たり4つの遺伝子を含み、各遺伝子は、様々な比率で蛍光結合プライマーを選択することによって独特に二次元空間に分解される。それゆえ、鋳型を希釈する必要なく、1回の反応で4つの遺伝子転写物を独立に測定することができる。種々の癌について本発明者らは最大で4つもの異なる反応(つまり、最大20個の異なる遺伝子転写物)を行っており、入れ子式RT-PCRデジタル検査を適用すれば、実施できる反応の数に制限はない。
【0086】
この多重式の方略は、多数の転写物の分析同士での理想的な均衡を達成する(したがって、癌細胞発現様式の異種変動から守る)ものであるが、独立した多数のPCR反応の実施によって投入材料が希釈されない。腫瘍タイプおよび、最適な信号に必要な遺伝子の数に応じて、本発明者らは、2~4重反応に及ぶ検査(4つの遺伝子に対して各々の多重反応)を開発した。それゆえ、投入される鋳型の不適切な希釈を行うことなく単一のCTCの産物を、8~16個のうちの任意個数の異なる遺伝子の発現について調べることができる。これらの遺伝子全てからの信号(すなわち累加信号)を加えることができる一方で、個々の遺伝子の結果を有する(そして、個々の遺伝子レベルでシグナル/ノイズを最適化し、また各遺伝子によって引き出される特異的なシグナル伝達経路からの情報(例えば、前立腺CTCでのアンドロゲンシグナル伝達)を集める)ことができることは、検査にとって重要なことである。
【0087】
多重反応の結果を単一の図で提示する(それゆえ各遺伝子の増幅を分離して区別する)ために、本発明者らは、2つの蛍光プローブ(FAM(青色)およびHEX(緑色))の濃度を変化させた。こうすることによって、個々の遺伝子増幅反応のそれぞれが、遺伝子特異的プライマーの組成を反映する、したがって遺伝し特異的PCR産物を識別する、FAM/HEX識別特徴の独特の組み合わせを有する。二次元空間に、単一の多重反応から生じた4つの異なる遺伝子増幅産物の信号位置を示すことができる。各PCR反応をカプセル化する液滴を使用するデジタルPCRに適用されるように、この方法は、定量的に示されるものである陽性液滴の二元信号振幅を改変することによって、標的を個々の集合体に分離する。予測されるとおり、この方法は、多数の遺伝子(例えば、合計4つの反応において16個のマーカー)についての全信号の累加的採点だけでなく、個々の遺伝子標的のそれぞれからの信号を定量する能力の維持も可能にする。
【0088】
試験の具体的な結果は以下の実施例で詳述する。
d-CTC検査法の応用
外科的に切除または根絶することのできる時点での上皮癌の早期検出は、治癒の絶好の機会を提供し、最小限の癌播種の開始時における補助化学療法の投与は、確立された転移性疾患の処置に比べて治癒を得るのにはるかにより効果的である。しかしながら、早期癌検出の現在の取り組みは、特異性の欠如に悩まされている。例えば、血清PSA測定を使用した男性の前立腺癌についての広範なスクリーニングは初期癌を発見するのに有効ではあるが、それは、はるかに数多くの非悪性前立腺症状(例えば、腺の良性の肥大)、さらには浸潤性になることが決してない緩慢性の癌さえも識別する。こういった事情から、広範なPSAスクリーニングは公的医療機関によって推奨されていない、というのも、過剰診断による(死を含めた)合併症は早期癌検出の計算上の利点と競合的であるかまたはそれを上回るからである。
【0089】
その他の癌、例えば乳癌の場合、マンモグラフィーが有効であると考えられているが、その場合でさえ、各々の真の悪性度を診断するために乳房生検が多数実施される。肺癌の場合、近年推奨されている、重度の喫煙履歴を有する個体の低線量CTスキャンもまた、各々の真の悪性度について数百もの無害の放射線画像異常を検出する可能性がある。
【0090】
この文脈上、癌細胞由来の識別特徴の存在に関して血液に基づく極めて高感度な読み出しを追加することは、所要の特異性を提供することになるであろう。本明細書に記載のd-CTC検査は、初期スクリーニングのためだけでなく、早期スクリーニングの事後確認としても用いることができる。例えば、ある場合には、高感度であるが非特異的なスクリーニング試験(例えば前立腺癌におけるPSA)を検証する第二次試験として検査を用いることができる。癌が非常に致命的であるがスクリーニング手法が現在存在していないその他の状況(例えば膵臓癌)では、本明細書に記載の検査を用いる慣例的な周期的血液スクリーニングは、患者の経時的な状態または容態をモニタリングする規範となり得る。
【0091】
新規d-CTC読み出しはまた、患者、例えば、特定タイプの癌の家族履歴および/または遺伝子マーカーを有する健常であると思われる患者の連続モニタリングにとって大いに妥当である。CTCの画像化は、必要な全てのマーカーについて適切に染色する無傷の細胞が単一の信号を生成するという点で、高い費用が掛かり、比較的感度が低い。(どれほど無傷であるかまたはアポトーシス前であるかに拘らず)各CTCが何百もの分子信号を生じることができる、本明細書に記載の新規d-CTC検査を用いることにより、既知の癌を有する患者のCTCを検出およびモニタリングする能力および、治療介入に対するそれらの応答を定量的にモニタリングおよび分析する能力を劇的に向上させる。分子マーカーによる細胞数の採点の他に、かなりの感度で突然変異または癌関連の再編成(例えば、肺癌でのEML4-ALK)の特異的調査を達成することができる。
【0092】
血液試料中に存在するCTCのデジタル式(定量的)手段を提供することに加えて、新規d-CTC検査は、血中の腫瘍細胞に独特である特異的シグナル伝達経路の分析も可能にする。例えば、前立腺系統特異的遺伝子のサブセットはアンドロゲンシグナル伝達(例えばPSA)が動因となるが、別のサブセットはアンドロゲンシグナル伝達(例えばPSMA)によって抑制される。これらの遺伝子を一緒に分析することにより、CTC内でのアンドロゲンシグナル伝達の状態を確認することができる。同様に、乳癌では、エストロゲン応答性遺伝子(例えばプロゲステロン受容体)の発現は、CTC内でのエストロゲン応答経路の状態についての度合いを提供する。これらの測定は、前立腺癌および乳癌での治療介入がいずれもそれぞれアンドロゲン受容体およびエストロゲン受容体を標的とするために引き出されるものであるという点において、特に重要である。このように、臨床的経路の標的化および遮断における治療剤の有効性についての情報を同時に用いて血中のCTC信号の総数を定義することは治療モニタリングのために重要である。
【0093】
以下の実施例で述べるように、癌の進行を抑制するために抗アンドロゲン剤であるアビラトロン(例えば、ザイティガ(登録商標))が有効である前立腺癌、特に、アンドロゲン経路に未だ依存性である腫瘍において、本明細書に記載の新規方法を示す。
【実施例】
【0094】
以下の実施例において本発明をさらに説明するが、それは請求項の範囲に記載の本発明の範囲を限定するものではない。
【0095】
実施例1-デジタルCTC検査の予備的試験および検証
CTCチップ-液滴検査の実行可能性を試験するために、本発明者らはまず、前立腺腫瘍細胞では特異的に発現されるが混入している白血球には存在しないいくつかの転写物を選択した。これらは、前立腺系統特異的マーカーであるKLK3(カリクレイン関連ペプチダーゼ;または前立腺特異的抗原すなわちPSMA)、FOLH1(葉酸加水分解酵素;または前立腺特異的膜抗原すなわちPSMA)およびAMACR(アルファメチルアシルCoAラセミ化酵素)ならびにEpCAM(上皮細胞接着分子)であった。PCR条件は、イントロンにまたがるプライマーとIntegrated DNA Technologies(コーラルヴィル、アイオワ州)のZEN二重消光FAM標識プローブとを使用して標準的なqPCRプロトコルに従って最適化した。系の動的範囲を調査するために、これらの条件をまず、癌細胞と白血球との混合物からカプセル化されたcDNAを使用して試験した。次に、個々の細胞を選択する手作業での単離技法を用いて、0個、3個、6個、12個、25個および125個の前立腺癌LNCaP細胞を、HD血液の個々の5ml分取の中にスパイクし、続いてCTC-iチップ処理、RT-PCRおよび、RainDropシステムを使用した液滴カプセル化を行った。本発明者らは、KLK3をこの実験の標的転写物として選択した、というのもそれは程よく豊富に存在することが予測されるからである。5,000の強度閾値を用いて、本発明者らは、おおよそ250個の液滴でたった3個の細胞に値するKLK3転写物が容易に検出されることを見出した。
【0096】
これらの予備データに基づき、本発明者らは、転移性および限局性の前立腺癌を有する患者において健常対照と比較してCTCチップ液滴検査を試験した。各試料をiチップの中に流し、その後、上記4つの前立腺マーカー:KLK3、AMACR、FOLH1およびEpCAMを使用してCTC含有産物を液滴RT-PCRの中に流した。局所性または転移性のいずれかの前立腺癌を有する患者は、HD対照と比較してより著しく高い陽性液滴計数を生じた。
【0097】
図1Aは、LNCaP前立腺癌細胞の全RNAから調製され、白血球と混和され、2つの異なる前立腺プライマー組を使用して液滴PCRによって分析された、cDNAの希釈液を示す。結果はいくつかの純度を表し、この範囲に亘って陽性液滴数の良好な応答を示す。
【0098】
図1Bは、HD血液試料の中へスパイクされ、CTCiチップの中に流され、液滴RT-PCR(KLK3プライマー組)に供された、手作業で単離されたLNCaP細胞を示す。結果は、少数の標的細胞にまで至る優れた感度を示す。
【0099】
図1Cは、CTC-iチップの中を通って処理され、3つの前立腺特異的なバイオマーカーおよび1つの上皮特異的なバイオマーカー(KLK3、AMACR、FOLH1、EpCAM)を使用するRT-PCRおよび液滴分析に供された、健常対照、限局性の(切除可能な)前立腺癌および転移性の前立腺癌を有する患者からの血液試料の分析を示す。4つマーカー全てを合わせたときの液滴の総数/mlの結果を示す。
【0100】
これらの結果は、CTC-iチップに液滴に基づくPCR読み出しを適用することによって、生物学的検体中に存在する実質的に全てのCTCを検出するその感度が著しく向上することを示唆している。まとめると、CTC-iチップおよび液滴PCRは、互いに適合性が高く直列で一体化させて新規かつ高感度で正確な生体検査を作り出すことができる、2つの強力なマイクロ流体技術を表す。
【0101】
実施例2-デジタルCTC検査プロトコル
この実施例は、本明細書に記載の方法に使用できる一般的デジタルCTC検査プロトコルを提供する。本明細書中に記載されるいくつかの実施例では、この一般的プロトコルの様々な態様を用いた。例えば、以下に記載する(RNA精製からcDNA合成までに関する)プロトコルのステップ3の手法1を用いて、
図15A~15Cのデータが生成された。ステップ3の手法2を用いて
図19A~24Bのデータが生成された。
【0102】
1.患者の血液をI-チップ、バージョン1.3Mまたは1.4.5Tの中に流す。試料を氷上の15mL円錐形チューブ内に回収する。
【0103】
2.4Cで試料の遠心沈殿を行う。上清を静かに移し、ペレットにSUPERase(商標)In(DTT非依存性RNアーゼ阻害剤)+RNALater(登録商標)安定化溶液(RNアーゼを阻害することによってRNA分解を防止するもの)を添加する。試料を瞬間凍結させ、さらなる処理を行うまで-80のところに置く。試料は-80で安定である。
【0104】
3.RNA精製からcDNA合成までは、以下に記載の実施例で用いた2つの異なる処理プロトコルが存在する。
【0105】
手法1
a.試料を氷上で解凍した。
【0106】
b.洗剤(NP40、Tween20)を使用した試料の直接溶解。
c.溶解した試料をそのままcDNA合成(SuperscriptIII)に使用した。
【0107】
d.cDNA合成試料をSPRI(Agencourt AMPure(登録商標)XPビーズ)による浄化によって精製して洗剤およびあらゆる<100bpのヌクレオチドを除去した。
【0108】
手法2
a.試料を氷上で解凍した。
【0109】
b.試料をRNeasyQiagenMicroKitで処理した。プロトコルは、従前のQiagenの推奨と比較してわずかな変化を有する。より多い体積の緩衝剤RLT(溶解用緩衝剤)を使用すると同時に、より高いETOH濃度を用いた。これらの改変は、試料にRNALater(登録商標)を添加するがゆえに行った。
【0110】
c.cDNA合成後-試料をSPRI(Agencourt AMPure XPビーズ)による浄化によって精製して洗剤およびあらゆる<100bpのヌクレオチドを除去した。
【0111】
4.cDNA(アプローチ1または2により合成)は、2つの異なる方法で処理することができる:
a.cDNAを直接、ddPCRに使用した;または
b.Fluidigm BioMark(商標)入れ子式PCR手法を用いてcDNAを増幅させた(入れ子式PCRに使用した遺伝子からのプライマーは事前に検証した)。増幅させたcDNAを希釈した。
【0112】
5.cDNA(ステップ4aまたは4bから)、プローブとしてのBiorad Supermix(商標)、(対象遺伝子のための)1つ以上のプライマー(4つ以下の異なるプライマー(FAMおよびHEX)を多重化することができる)を合計22μlの体積に添加した。
【0113】
6.液滴を生成させた(1ウェルあたり約15,000~18,000個の液滴)。
7.液滴試料をPCR機の中に入れた。PCR条件はBioradの推奨とは異なっていた。本発明者らは、全ての液滴を確実に同じ温度にするために、緩やかな傾斜ではなく段階的降下を用いた。これは、RainDanceが用いるものともBioradが用いるものとも異なっている。勾配ではなく段階的降下を用いることによって、よりよい結果(すなわち、より大きな信号および、陽性液滴と陰性液滴との間でのより大きな分離)を得ることができる。
【0114】
8.PCRの後、陽性液体の数をddPCR機で数えた。
9.データを収集し、TIBCO(登録商標)Spotfire(登録商標)解析ソフトウェアを使用して解析した。
【0115】
試薬、試薬濃度および反応体積を以下に示す:
試薬:
・プローブとしてのBiorad ddPCR(商標)Supermix(dUTPなし)
・IDTプライマー/プローブ(20倍濃縮または40倍濃縮)
・cDNA(細胞株で1ng/ul)
・ヌクレアーゼ不含水
・エッペンドルフ セミスカート96ウェルプレート(これらのプレートのみが機械で正常に機能する)
試験関連の細胞株
単一反応当たり:
ddPCR Supermix 11.0μl
プライマー(20倍濃縮) 1.10μl
cDNA(1ng/μl) 1.10μl
水 8.80μl
合計 1ウェル当たり22.0μl
ddPCR supermix、cDNAおよび水を含有するマスターミックスをウェル内へ分取し、各々1.1μlのプライマーを各ウェルに加え、十分に混合した。
【0116】
患者試料
個々の遺伝子について単一反応当たり
ddPCR Supermix 11.0μl
プライマー(20倍濃縮) 1.1μl
cDNA(患者) 9.9μlまで(満たない場合は水で釣り合わせる)
合計 1ウェル当たり22.0μl
多数の遺伝子についての単一多重化反応当たり
ddPCR Supermix 11.0μl
プライマー1(40倍濃縮) .55μl
プライマー2(40倍濃縮) .55μl
プライマー3(40倍濃縮) .55μl
プライマー4(40倍濃縮) .55μl
cDNA(患者) 8.8μl
合計 1ウェル当たり22.0μl
遺伝子特異的プライマーに対して多数の患者を試験する場合、または多数の遺伝子に対して多重化するプライマーを試験する場合、ddPCR supermixとプライマーとを含むものであるマスターミックスをウェル内へ分取し、続いて各ウェルに患者cDNAを加え、十分に混合した。
【0117】
実施例3-遺伝子検証のためのプロトコル
表1に列挙する特異的マーカー遺伝子を選択するために下記のプロトコルを用いた。
【0118】
1.CTCに対しては独特であるが白血球(WBC)、白血球(leukocyte)などをバイオインフォマティクス的に徹底調査した。一次腫瘍およびCTCの遺伝子発現データをWBC遺伝子発現データセットと比較して、一次腫瘍および/またはCTCにのみ存在する転写物を探し出した。
【0119】
2.閾値カットオフを通過した転写物をqPCRによって検証した。
3.プライマーをIDTによって合成した。プローブをFAM/ZEN/IBFQで標識した。
【0120】
4.qPCR検証には、2つの異なる細胞株、(CPTカラムにより単離された)5つの健常提供者WBC、および陰性対照としての水に対して各転写物を少なくとも2つの独立したプライマー組によって検証することを要した。50サイクルのqPCRを用いて、転写物の発現が細胞株にのみ存在し健常提供者に存在しないことを確認した。
【0121】
5.qPCR検証を通過した転写物を、CTC-iチップを通過させる細胞株および健常提供者を用いたddPCRで(細胞のスパイクの有り無しで)検証した。
【0122】
6.対照の疾患に応じて転写物のパネルを(1反応当たり4つまでの遺伝子)多重化した。
【0123】
この方略の効力はスパイク細胞実験で以下に示されるが、スパイク細胞実験は、慎重に数を測定した(LNCAP前立腺癌細胞株からの)腫瘍細胞を個々に顕微操作し、対照血液検体を添加し、CTC-iチップに通してその後に上記のd-CTC検査で分析するものであった。スパイクする細胞の数が増えると、
図2に示すようにデジタル信号の数が増加を示し、それはこのプロトコルの能力を例証している。
図2は、プローブとしての単一の遺伝子転写物(前立腺癌のPSAとしても知られるKLK3)の使用を実証する(検査において本発明者らは8~24個の遺伝子転写物を使用し、それによって感度をさらに向上させている)。ここで、本発明者らは、計算した数の癌細胞をスパイクする(各セルを顕微操作して選び、10mlの対照血液検体中に導入する)。その後、血液をCTCチップに通して処理し、上記のデジタル読み出しに供する。単一の癌細胞でスパイクされた場合に血中に観察される信号は全くない。2細胞/血液10mlの投入は明確な信号(65個の陽性液滴)を生成する。この場合、10個のCTC産物を4つに分割して4重に流したため、64個の液滴は実際には腫瘍細胞の1/4に由来するデジタル信号を表す。
【0124】
この検査は高感度だけでなく再現性も有する。
図3に示すように、これらのスパイク細胞実験でのデジタル信号は、高い再現性を示し(ここでは2つの独立な反復を示している)、細胞を(血液でなく)緩衝液の中にスパイクして直接(CTCチップ処理なしで)分析した場合に同じ量の信号が見られる。したがって、腫瘍細胞を数十億個もの正常血液細胞の中に希釈し、その後にデジタル読み出しに先立ってCTCチップを使用して「再単離」した場合、信号の損失は実質的に存在しない。
【0125】
実施例4-CTCチップ産物からの遺伝子転写物の多重デジタル分析
本発明者らは、微少量のCTCチップ産物から多くの異なる遺伝子転写物を試験することのできる多重検査を確立した。
【0126】
これは、独立した多数の遺伝子を使用することのより高い感度および特異性を、投入される鋳型の量が限られている(したがって多数の反応へと希釈されるべきでない)という事実と組み合わせたものである。
【0127】
新規検査は、1反応当たり多数の遺伝子、例えば、2個、3個、4個、6個、8個、10個またはそれより多い遺伝子を含み、各遺伝子は、様々な比率で蛍光結合プライマーを選択することによって独特に二次元空間に分解される。それゆえ、鋳型を希釈する必要なく、1回の反応で2つ、3つ、4つまたはそれより多い遺伝子転写物を独立に測定することができる。種々の癌について、多数の異なる反応(例えば、4回の反応において最大20個の異なる遺伝子転写物)を実行および分析することができ、入れ子式RT-PCRデジタル検査を適用すれば、実施できる反応の数に制限はない。
【0128】
多重反応の結果を1つの図で提示する(それゆえ各遺伝子の増幅を分離して区別する)ために、本発明者らは、2つの蛍光プローブ(FAMおよびHEX)の濃度を変化させた。こうすることによって、個々の遺伝子増幅反応のそれぞれが、遺伝子特異的プライマーの組成を反映する、したがって遺伝し特異的PCR産物を識別する、FAM/HEX識別特徴の独特の組み合わせを有する。二次元空間に、単一の多重反応から生じた4つの異なる遺伝子増幅産物の信号位置を示すことができる。各PCR反応をカプセル化する液滴を使用するデジタルPCRに適用されるように、この方法は、定量的に示されるものである陽性液滴の二元信号振幅を改変することによって、標的を個々の集合体に分離する。予測されるとおり、この方法は、多数の遺伝子(例えば、合計4つの反応において16個のマーカー)についての全信号の累加的採点だけでなく、個々の遺伝子標的のそれぞれからの信号を定量する能力の維持も可能にする。
【0129】
プローブ1:100% FAM
プローブ2:100% HEX
プローブ3:FAMとHEXとの混合物-合計100%
プローブ4:FAMとHEXとの混合物-合計100%
表3~7に示すように、多重反応において下記のプローブ混合物を使用した:
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
検証および試験
この多重方略の有効性を検証および実証するために、本発明者らは、(スパイク細胞実験を用いた)概念と患者由来の試料とを示した。
図4は、健常提供者(HD)からの正常な対照血液試料をCTCチップによって処理して4つの異なる遺伝子転写物(その全てが陰性(すなわちブランク液滴)である)についてdーCTC検査に供した結果を示す。
【0136】
他方、
図5は、スパイク細胞実験から得たデータを表すものであり、当該実験では、前立腺癌細胞株を血中に導入してCTCチップにより処理し、続いてデジタル検査を行い、4系統の転写物の各々について陽性信号(蛍光液滴)が示された。これらは、二次元プロットの中で、(写真では色付けされている)2つのプローブの蛍光の区別に基づいて別個の場所に現れた。試料は使用細胞が過剰に投入されているため、いくつかの液滴は1つ以上の遺伝子転写物からの信号を含んでいた(液滴1個あたり多数個ある遺伝子は灰色で示されている)。
【0137】
各反応において4つの異なる遺伝子を表す方略は、各腫瘍タイプの代わりに特異的系統マーカーを使用して多様な癌に適用可能であった。例えば、前立腺癌では、本発明者らは、2つの反応のそれぞれについて4つの四つ組(1つの四つ組当たり1つの遺伝子)を使用する多重反応の予測(理論モデル)をした(合計8つの遺伝子マーカー)。スパイク細胞実験(対照血液中に導入されCTC-iチップにより処理される前立腺癌細胞)は、予測された結果を正確に再現した。
【0138】
さらに、
図6A~6Bおよび
図7A~7Bは、まとめ合わせると、本発明の解析プログラムが全ての陽性信号をまさにモデリングから予測されるとおりに四半部内に統合し、特異的遺伝子信号の採点方法を本発明者らが開発するのを可能にした、ということを示している。信号の多次元空間解析は、高い精度レベルでの自動化された分析および採点を可能にした。
図6Aおよび6Bはそれぞれ反応1の前立腺癌細胞株についての理論モデルおよび実際の結果を示し、
図7Aおよび7Bはそれぞれ、反応2の同じ前立腺癌細胞株についての理論モデルおよび実際の結果を示す。
【0139】
図8A~8B(乳癌および肺癌の理論および実際の結果、反応1)および
図9A~9B(乳癌および肺癌の理論および実際の結果、反応2)、
図10A~10B(同じ、反応3)、
図11A~11B(同じ、反応4)、
図12A~12B(同じ、反応5)、
図13A~13B(同じ、反応6)は、乳癌および肺癌に関して同じ手法を用いた場合の結果を示す。本発明者らは、以下(乳癌細胞と肺癌細胞との両方に関するスパイク細胞実験を用いる理論対検証)に示すように、殆どの腺癌で共有されている(つまり、乳癌と肺癌とをまとめ合わせる)マーカーを識別するのに有効な多重癌パネルを6つの反応(合計24個のマーカーでは各反応に4つの遺伝子マーカー)として確立することができる。
【0140】
これらの図は、多数の遺伝子転写物を多重様式(1反応当たり4つの遺伝子)で試験する同じ手法を乳癌に適応した場合の結果を示す。(合計24個の遺伝子転写物を独立に試験することを可能にする)6つの異なる反応を同じCTCチップ産物に実施し、その各々を指定の(上のパネルで予測された)信号位置を有し、スパイク細胞検証実験で観察された(下のパネルで観察された)。
【0141】
実施例5-腫瘍特異的mRNAの検出を改善する標的特異的な前増幅
腫瘍特異的RNAの検出を改善するために、遺伝子特異的増幅の各々について入れ子式PCR方略を最適化した。これを成し遂げるために、CTCに由来するcDNAをまず、d-CTC検査に使用する遺伝子特異的プライマーの数塩基対外側に配置される遺伝子特異的プライマーで増幅した。各遺伝子について、2~3個のプライマー組を試験し、遺伝子特異的d-CTC検査プライマーに適合しておりかつHD血液において試験結果が陰性であるプライマー組を患者試料の分析のために選択した。
【0142】
上記のとおり、標的特異的増幅プロトコルをまず、種々の癌に由来する細胞株で試験した。その後、血液と混ぜてCTC-iチップによって濃縮した癌細胞株の混合物を使用して腫瘍細胞に特異的な(かつ白血球には存在しない)プライマーの組み合わせを試験した。CTC-iチップによって処理したHD血液を対照として使用した。この方略にとって肝要なのは、正常血液細胞からのベースライン信号を増加させることなく微少量のCTC由来cDNAからの信号を増強する入れ子式PCR条件の考案である。この感度は、PCRプライマー配列および検査条件を慎重に最適化することならびに外部PCRと内部PCRとでサイクル数の釣り合いをとることによって達成された。全ての条件は、最初に生成核酸を使用して検証し、次に、対照血液試料中へスパイクされかつCTC-iチップによって処理された個々の腫瘍細胞を使用して検証し、次に、種々の健常血液提供者の広い(>10)パネルを使用して検証し、最終的に、転移性または限局性のいずれかである前立腺、乳房、メラノーマ、肝臓、肺または膵臓の癌を有する患者からの患者由来血液試料を使用して検証する。
【0143】
試薬
・DNA懸濁用緩衝液(10mMのトリス、pH8.0、0.1mMのEDTA)(TEKnova、PNT0221)
・0.5EDTA、pH8.0(インビトロジェン、PN Am9260G)
・TaqMan前増幅マスターミックス(Applied Biosystems、PN4391128)
・ヌクレアーゼ不含水(TEKnova、PN W330)
10倍濃縮の特異的標的増幅(STA)プライマー混合物の調製
1.)DNA非存在フード内で、0.5μLの200μMのプライマーの対の各々(0.5μLの順方向プライマーおよび0.5μLの逆方向プライマー)を混合した。
【0144】
2.)各プライマーを1倍濃度のDNA懸濁用緩衝液中に希釈して終濃度を500nMとした。(例:プールされたプライマーの体積が8mLに等しい場合には192mLのDNA懸濁用緩衝液を添加する)
3.)混合物の渦流撹拌を20秒間行い、遠心沈殿を30秒間行った。
【0145】
4.)10倍濃縮のSTAプライマー混合物は繰り返し使用するために4℃で6ヶ月まで貯蔵することができ、または長期使用のために-20℃で凍結貯蔵することができる。
【0146】
STA反応混合物の調製
1.)96ウェルPCRプレートの各ウェルに下記の混合物を調製する。
【0147】
【0148】
2.)6μLのcDNAを9μLのSTA反応混合物に添加する
3.)20サイクルではなく18サイクルの変性およびアニーリング/伸長ステップを用いて下記に一覧で示す熱サイクル条件を用いた(注:18サイクルは、TSA前増幅プロトコルを全トランスクリプトーム増幅と比較するために用いた)。
【0149】
【0150】
各液滴PCR反応に1μlの前増幅産物を投入する。
図14は、1ngの非増幅細胞株cDNAならびに、10、14および18サイクルの前増幅後の1μlの前増幅産物から得られた、7つのマーカー(PIP、PRAME、RND3、PKP3、FAT1、S100A2およびAGR2)の液滴PCR信号を示す。さらなるサイクルの前増幅は信号の増加をもたらす。注目すべきことに、この細胞株において非常に低レベルで発現されるマーカーであるPRAMEは、18サイクルの前増幅の後にのみ検出され、当該技法の有用性を実証している。
【0151】
実施例6-臨床データおよび検査検証
臨床研究からの実際の患者試料を使用して本明細書に記載の検査を検証した。これらは、転移癌(肺、乳房、前立腺およびメラノーマ)を有する患者および限局癌(前立腺)を有する患者を含む。検査は実施例2~5に記載されているとおりに行った。
【0152】
図15A、BおよびCは、肺(6人の患者;
図15A)、乳房(6人の患者;
図15B)および前立腺(10人の患者;
図15C)の転移癌を有する患者からの臨床検査の概要により、実質的に全ての患者は陽性信号を有するがその一方で健常対照はそれを全く有しないことが示されたことを示す。この検査では、全ての陽性点数を足し合わせた(累加点数)。しかしながら、以下に記載するように、点数を個々の遺伝子によって
図16に示すように分解することもできる。
【0153】
図16は、多数のプローブからのデータの累加的な解析を例示するものであり、10/11の転移性前立腺癌患者(患者1人当たりの基準では91%)および0/12(0%)の健常対照での陽性信号を示す。試料1つ当たりの基準では28個のうち24個の試料が陽性信号を有し、86%の検出率を示していた。さらに、いくつかの個々のマーカーはかなり効果的であり、例えば、AGR2(転移癌については9/10の検出、および限局癌については0/3の検出)、TMPRSS2(5/10および1/3)、KLK2(6/10および0/3)、STEAP2(1/10および1/3)、FAT1(2/10および1/3)およびFOLH1(3/10および1/3)となった。
【0154】
上に示したように、上記の多重蛍光色体系を用いて、独立した検証および定量のために個々の遺伝子マーカーを分解することもできる。以下のこの実施例では、転移性前立腺癌を有する患者は多数の陽性マーカーを有し、限局性前立腺癌を有する患者はより少ないマーカーのより少ない数の陽性点数を有し、健常対照は全てのマーカーについて陰性である。
【0155】
図17は、3つの代表的な患者試料からの臨床データを示す。各々4つの遺伝子転写物(合計8つのプローブ)を使用する2つの個別の反応において転移性前立腺癌を有する患者の血液試料は、多数の信号を示した(全てのプローブは様々な程度で陽性である)。対照的に、限局性(治癒可能な)前立腺癌を有する患者の血液試料はより弱い(しかし明確に検出できる)信号を示した。プローブ1(TMPRSS2)、5(KLK3)、6(HOXB13)、7(AGR2)は、転移癌患者において最も強い信号を有しており、プローブ2(FAT1)および4(STEAP2)は、限局癌患者において最も陽性であった。この結果は、血中の癌細胞における信号の異種性、および検査の中で差異のある信号を詳細に分析することの重要性を明確に例証している。(癌患者試料と等しく処理された)HD対照からの血液は、信号が全く存在していなかった。
【0156】
実施例7-CTC内でのシグナル伝達経路の測定
血液試料中に存在するCTCのデジタル式(定量的)手段を提供することに加えて、本発明者らのd-CTC検査は、血中の腫瘍細胞に独特である特異的シグナル伝達経路の分析も可能にする。例えば、前立腺系統特異的遺伝子のサブセットはアンドロゲンシグナル伝達(例えばPSA)が動因となったが、別のサブセットはアンドロゲンシグナル伝達(例えばPSMA)によって抑制された。これらの遺伝子を一緒に分析することにより、CTC内でのアンドロゲンシグナル伝達の状態を確認することができる。必須経路の標的化および遮断における治療剤の有効性についての情報を同時に用いて血中のCTC信号の総数を定義することは治療モニタリングのために重要である。
【0157】
本発明者らはこの概念を、抗アンドロゲン剤であるアビラトロンが癌進行の抑制に有効である前立腺癌、特に、アンドロゲン経路に未だ依存性である腫瘍において例証してきた。以下に、第一線のリュープロリドに対してもはや応答性でない「去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)」を有しアビラテロンで処置された患者の結果を示した。アンドロゲン応答マーカー(緑色)は、初期の有効性を示す療法によって最初に抑制されたが、後に腫瘍が抵抗性になるにつれて回復し、患者はこの薬剤で疾患が進行する。
【0158】
図18は、転移性前立腺癌を有する患者の臨床研究の結果を提供する。「アンドロゲン受容体に起因する遺伝子(ARオン)」からの信号のサブセットはこの棒グラフのバーの上部に緑色で示され、その一方で「アンドロゲンで抑制される遺伝子(ARオフ)」は各バーの下部に赤色で示される。患者はアンドロゲン経路阻害剤であるアビラトロン(例えばザイティガ(登録商標)(酢酸アビラテロン)で処置されているため、ARオン信号は大きく低減され、血中の癌細胞内でアンドロゲン経路が効果的に抑制されることを示している。しかし、薬物処置の第4サイクルまでにアンドロゲン経路は癌細胞において再活性化されると見受けられ(増加している緑色信号)、薬物抵抗性を指し示している。これらの時点において行われた血清PSA測定結果は、薬物処置の失敗と一致する。
【0159】
実施例8-腫瘍特異的mRNAの検出を改善する非特異的前増幅
実施例5と同様に、非特異的全トランスクリプトーム増幅(WTA)を用いてCTC特異的転写物の検出率を向上させることができる。この方法は、対象標的だけでなく産物中に見つかるあらゆる伝達を増幅させるランダムなプライマーの使用に依拠する。この実施例では、下記のとおりSMARTer(商標)Ultra Low RNAキットプロトコル(Clontech)を用いた。
【0160】
RNAをPCR用のチューブまたはプレートに移す
1)1:50,000に希釈された1uLのERCC Spike-In Mix 1を各試料に添加する
2)各試料の体積を10uLに増やす
3)1uLの3’SMART CDSプライマーIIAを各試料に添加する
4)熱サイクル機の「72C」プログラムを実行する:
72℃ 3分
4°C 永遠
第一鎖cDNAマスターミックス(FSM):
1倍濃度で4uL 5倍濃縮の第一鎖用緩衝液
0.5uL DTT
1uL dNTP混合物
1uL SMARTer IIAオリゴヌクレオチド
0.5uL RNアーゼ阻害剤
2uL SMARTScribe RT
1試料当たり9uL
5)試料個数分のFSMを10%過剰に調製し、次いで9uLのFSMを各試料に添加し、ピペット操作で混合する
6)熱サイクル機の「cDNA」プログラムを実行する:
42℃ 90分
70℃ 10分
4°C 永遠
第二鎖合成および増幅(SSM):
1倍濃度で25uL 2倍濃縮のSeqAmp PCR用緩衝液
1μL プライマーIIA-v3
1μL SeqAmp DNAポリメラーゼ
3uL ヌクレアーゼ不含水 1試料当たり30uL
7)試料個数分のSSMを10%過剰に調製し、次いで30uLのSSMを各試料に添加し、ピペット操作で混合する
8)熱サイクル機の「PCR」プログラムを実行する:
95℃ 1分
Xサイクル
98℃ 10秒
65℃ 30秒
68℃ 3分
72℃ 10分
4℃ 永遠
サイクルの回数はRNA投入量に応じて調節することができる(例えば、単一の細胞には18サイクル、または10ngのRNA投入量では9サイクル)。加えて、4℃の停止点は一晩である。
【0161】
固相可逆固定(SPRI)による精製:
PCR産物をlo-bind1.5mLエッペンドルフに移し、第2組のチューブに試料IDのラベルを付け;最終的に溶離させるときまで室温でSPRIプロトコルを行う
9)AMPure(商標)XPビーズ[4度]を室温で少なくとも30分間保温する
10)十分な量の溶離用緩衝液が解凍されて室温であることを確認する
11)80%エタノールを作る(1試料当たり少なくとも400uL)
12)50uLのビーズを各試料に添加する前に、十分に混合すべくピペット操作を上下に5~10回行ってビーズの十分な渦流撹拌を行う。注:ビーズをピペットで採取するときには、体積のよりよい制御および先端でのより少ないビーズの付着のためにRPT先端具を使用することが賢明である
13)試料を室温で5分間保温する
14)試料を磁石の上に置き、5分間静置する
15)ビーズを乱さずに上清(約95uL)をピペットで吸い出す(ピペット先端が褐色になっているか確認し、相当な量のビーズの損失があればチューブに戻す)
16)200uLの80%エタノールで2回洗浄する-ビーズペレットを混合または撹乱しないこと。
【0162】
単純にビーズペレットをエタノールに30秒間浸し、その後にエタノールを除去する。エタノール洗浄の合間にビーズペレットが乾燥しないようにすること。
【0163】
17)ビーズペレットの光沢がもはやなくなるまで(但しそれらが割れる前に)磁気ラック上で試料を風乾する。乾燥中、底に溜まる残留エタノールをピペットで取り除く(注:乾燥時間は増幅後のDNA濃度に大いに依存する可能性がある)。単一細胞レベルのRNA投入量では乾燥に通常3~5分間掛かる一方、その他のIFD産物試料は1時間まで掛かった。
【0164】
18)ペレットを、それらが割れ始める時に17uLの溶離用緩衝液中で溶離させる。試料を磁石から取り外し、全てのビーズが溶液中に入るまでペレットの上に緩衝液をピペットで加え;その後、ピペット操作で混合してビーズを完全に再懸濁させる(これは効果の程度が各試料で異なるであろう)。激しく混合し過ぎないようにすること、というのも、これは、達成可能な溶離体積を低下させる傾向にある気泡を多く作り出すからである。
【0165】
19)再懸濁させた試料を室温で少なくとも2分間保温し、その後、全ての試料を高速旋回させる。
【0166】
20)試料を磁気ラック上に戻して5分間置く。
21)約15uLの溶離した増幅cDNAをピペットで吸い取り、ピペット先端にビーズがあるか確認する。ビーズが存在しているならば、ピペットで溶液をビーズペレットの上に戻し、溶離をもう1回試みる前に約1分間静置する。そうでなければ、新しいlo-bind1.5mLエッペンドルフ、PCRチューブまたは96ウェルPCRプレートの中に保存する。注:溶離産物中に繰り返しビーズが入るようであれば、吸入体積を14uL以下にすることが唯一の解決策となり得る。
【0167】
この全トランスクリプトーム増幅(WTA)手法は最初に、種々の癌に由来する細胞株で試験した。
図19Aおよび19Bは、3回の異なる反復のSMARTerで前増幅した、肝臓癌細胞株(HEPG2)由来のcDNA(18サイクル)を、肝臓癌パネルからの12個のプローブで分析したものを示す。
図19Aに示すように、各標的領域の増幅効率は異なるがそれは3回の反復(WTA1、WTA2、WTA3)の間で一致しており、この手法の再現性を実証している。
図19Bに示すように、18サイクルのSMARTer前増幅を用いるこれらの方法は、おおよそ4桁(10
8対10
4)の信号の増大をもたらし、検出の著しい強化をもたらす。
【0168】
実施例9-肝臓癌の多重対個別マーカー検査
各試料のために各患者から10~20mLの血液を採取した。血液を到着から3時間以内に、負枯渇モードで流しているCTC-iチップで処理した。Qiagen RNeasy(商標)plusマイクロキットを使用して産物からRNAを抽出し、取得可能な17uLのうちの5uLを、ClonTechのv3 SMARTer(商標)全トランスクリプトーム増幅(WTA)方略を用いて増幅させた。その後、WTA産物の1%をデジタルPCRプレートの各ウェルの中に投入し、500nMのTaqman(商標)プライマー/プローブ合剤を使用して対象の各遺伝子について転写物濃度を決定した。転写物計数を血液体積に規格化してHCC、HDおよびCLDの患者同士で比較した。HCC患者は、生検確認済の未切除肝細胞癌腫として定義され、CLD患者は、超音波/MRIが陰性である、様々な病因(アルコール媒介性、HBV、HCV)の肝臓疾患を有する患者である。HDは、10~20mLの血液を提供する、研究所外の健常提供者である。
【0169】
図20A~20Cは、21人の肝細胞癌腫(HCC)患者(
図20A)、13人の慢性肝臓疾患(CLD)患者(
図20B)および15人の健常提供者(HD)(
図20C)における液滴総数を示す。HCC患者はCLDおよびHDのどちらと比べてもより多い数の液滴を示し、パネルから高リスクCLD群がかなり取り除かれていることおよび、パネルを用いてそれらの患者を肝臓癌の発症に関してスクリーニングできることを示唆している。これは、現在診療所で利用可能な肝臓癌のためのスクリーニング方法cの特異性が低いことを考慮すれば重要な結果である。CLD患者についてアメリカ肝臓病協会は、6ヶ月毎の超音波(US)(詳細なアルゴリズムは、検出される肝臓病巣の大きさに依存する)を推奨している。中国において、AFP遺伝子マーカーと超音波スクリーニングとの有望な組み合わせは、スクリーニングされた母集団がたった60%の遵守率を維持した場合でさえ、スクリーニングされた人が、スクリーニングされなかった人に比べて死亡率の37%の得をする、ということを実証した。
【0170】
各検査の感度および特異性は、「罹患」対「非罹患」を定義するために選択される閾値に依存するが、20ug/Lを用いて、AFP遺伝子マーカーは50~80%の感度および80~90%の特異性を有する。20ng/mlをカットオフ点として用いる研究では、感度は78.9%に上昇するが、特異性は78.1%に落ち込む(Taketa、Alpha-fetoprotein、J.Med.Technol.、1989;33:1380)。他方、本発明の検査は、患者の臨床履歴を考慮に入れ、かつ根治的切除または肝臓移植を受けた者について補正した場合、全体的な検出率が76%であり、特異性が100%であった。
【0171】
さらに、本明細書において用いられる肝臓癌検査の11個のマーカーは全て、76%の感度に寄与したが、上位5つのマーカー(AHSG、ALB、APOH、FGBおよびFGG)はそれら自体で70%の感度を有し、その一方で上位3つのマーカーのみ(ALB、FGB、FGG)では67%の感度を生じる。ALB単独では症例の56%を検出した。
【0172】
実施例10-肺癌についての多重対個別マーカー検査
8人の転移性肺患者および8人の健常提供者の血液試料を、先に記載したようにCTCチップに通して処理した。試料に遠心沈殿を行い、RNAlater(商標)で処理し、-80Cで保存した。RNAを精製し、記載したようにcDNAを合成した。6μlのcDNAおよび図中に列挙されるプローブに対応する入れ子型プライマーを使用して各試料に対してSTAを実施した。各液滴PCR反応につき1μlのSTA産物を投入した。
【0173】
液滴数を血液体積に正規化した。
図21Aおよび21Bに示すように、多重化した肺遺伝子マーカーのパネルは、8人の健常提供者のバックグラウンドを上回る転移性肺癌患者試料を100%(8/8)検出することができた。肺パネルの各マーカーの感度もまた決定したところ、結果は、SFRPの検出率が8/8であり、FAT1プローブ2の検出率が7/8であり、TMPRSS4の検出率が6/8であり、FOXF1およびARG2、プローブ2の検出率が5/8であり、FAT1の検出率が4/8であり、FAT2およびAGR2の検出率が3/8であり、FAT2、プローブ2の検出率が2/8であったことを示している。
【0174】
SERPINA3およびSFRP2の検査は、SFRP2が肺癌および乳癌のどちらの検出にも有効であることを指し示したが、他方で前者は、乳癌検出に対してより特異的であるがいくつかの肺癌試料も検出すると見受けられる。
【0175】
実施例11-乳癌についての多重対個別マーカー検査
9人の転移性乳癌患者、5人の限局性乳癌患者および15人の健常提供者からの血液試料をCTCチップに通して処理した。産物をペレット化し、RNAlater(商標)で処理し、-80Cで保存した。先に記載したように各試料からRNAおよびcDNAを調製した。
図22中に列挙されるプローブに対応する入れ子型プライマー(FAT2、SCGB2A1、PGR、PRAME、TFAP2C、S100A2、FAT1、AGR2、PKP3、RND3およびPIP)を使用して各試料から6μlのcDNAをSTA増幅した。液滴数を血液体積に正規化し、各マーカーについて、最も高い健常提供者の値を患者試料の値から差し引いた。
【0176】
図22は、各患者についてのバックグラウンドより上の信号を示す。これらの方法は、7/9(78%)の転移性試料および2/5(40%)の限局性試料を検出した。各マーカー単独での感度は1/14~6/14で変動し、最も関連のある2つのマーカーはAGR2(6/14)およびFAT1(5/14)であり、その次に最も関連のある4つのマーカーはRND3、PKP3、PRAMEおよびSCGB2A1(それぞれ3/14)であった。
【0177】
実施例12-転移性乳癌におけるAVR7検出
10人の転移性乳癌患者、7人の健常提供者からの血液試料をCTCチップに通して処理した。産物をペレット化し、RNAlater(商標)で処理し、-80Cで保存した。先に記載したように各試料からRNAおよびcDNAを調製した。6μlの未増幅cDNAを各液滴PCR反応に投入した。試料は、アンドロゲン受容体のv7アイソフォーム(ARv7、配列は表1中)に対するプローブを使用して分析した。液滴数を血液体積に正規化した。
【0178】
図23Aに示すように、ARv7は5/10の患者(50%)においてバックグラウンド(HD)レベルを超えて検出され、検査が好結果にARv7を液体生検から検出することを実証した。患者のうちの1人は三重陰性乳癌を有しており、三重陰性乳癌(TNBC)との関連(例えば、3つの最も一般的な乳癌マーカーであるエストロゲン受容体(ER)マーカー、HER2/neuマーカーおよびプロゲステロン受容体(PR)マーカーのいずれかの遺伝子を発現しない患者)においてさえARv7がマーカーとして有用であることが示唆された。
【0179】
実施例13-メラノーマについての多重対個別マーカー検査
(各々多数の描点(合計描点:182)を有する)34人の転移性または切除不可能なメラノーマ患者および15人の健常提供者からの血液試料をCTCチップに通して処理した。産物をペレット化し、RNAlater(商標)で処理し、-80Cで瞬間凍結した。先に記載したように各試料からRNAおよびcDNAを調製した。
図24A中のグラフの下部に沿って列挙されているプローブに対応する入れ子型プライマー(個々のマーカーはPMEL、MLANA、MAGEA6、PRAME、TFAP2CおよびSOX10))を使用して、各試料から12μlのcDNAを特異的標的増幅(10サイクル)によって増幅させた。液滴数を血液体積に正規化した。
図24Bは、健常提供者と比較した場合のメラノーマ患者において検出された液滴信号のドットプロット分布図を示す。全患者の描点について検出感度は81%であった(患者の描点は、6つのマーカーのうち任意の1つが、その特定マーカーについてのHDでの最も高いバックグラウンド信号を上回る液滴信号を示す場合に、陽性に採点される)。個々のマーカーのうち、PMELおよびMLANAは最も高い検出率を示した。
【0180】
その他の実施形態
本発明をその詳細な説明と併せて記載してきたが、上記の記載が例示を意図したものであり、別記の特許請求項の範囲によって定義される本発明の範囲を制限するものではない、ということは理解されるべきである。その他の態様、利点および変化形態は添付の特許請求の範囲に含まれる。
【配列表】