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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】無機波長板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220922BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20220922BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20220922BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20220922BHJP
【FI】
G02B5/30
B32B7/023
B82Y20/00
B82Y40/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018091325
(22)【出願日】2018-05-10
(65)【公開番号】P2019197154
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-04-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】高田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 和幸
(72)【発明者】
【氏名】榊原 重司
(72)【発明者】
【氏名】菅原 利明
(72)【発明者】
【氏名】松野 雄介
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/061170(WO,A1)
【文献】特開2010-211856(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012523(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0046421(US,A1)
【文献】国際公開第2016/200947(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0242335(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B32B 7/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤグリッド構造を有する無機波長板の製造方法であって、
前記無機波長板は、透明基板と、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで前記透明基板の少なくとも片面に配列され、所定方向に延在する格子状凸部と、を備え、
前記ピッチは、45nm以上100nm以下であり、
前記格子状凸部は、主成分が金属酸化物であり、異なる2種以上の前記ピッチが混在しており、
物理ガイドを用いて、前記透明基板の少なくとも片面に、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーを、前記ポリマーの自己組織化によって、所定方向に延在する格子となるよう配列させて、ポリマー格子を形成するポリマー格子形成工程と、
前記ポリマー格子に、金属酸化物前駆体の蒸気を接触させて、前記カルボニル基に前記金属酸化物前駆体の金属を結合させ、金属酸化物前駆体結合部を形成する金属酸化物前駆体接触工程と、
前記金属酸化物前駆体結合部を有する格子に、水蒸気を接触させて、前記金属酸化物前駆体結合部を酸化させ、金属酸化物を主成分とする金属酸化物格子を形成する酸化工程と、を含む、無機波長板の製造方法。
【請求項2】
前記金属酸化物前駆体接触工程と、前記酸化工程と、をサイクルとして、前記サイクルを複数回繰り返す請求項記載の無機波長板の製造方法。
【請求項3】
前記カルボニル基を含む繰り返しユニットは、メタクリル酸メチルに由来するものである、請求項または記載の無機波長板の製造方法。
【請求項4】
前記カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーは、ポリメタクリル酸メチルからなる分子鎖とポリスチレンからなる分子鎖とを含むブロック共重合体である、請求項記載の無機波長板の製造方法。
【請求項5】
前記物理ガイドは、メタクリル酸メチル/スチレンランダム共重合体を含む、請求項記載の無機波長板の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記金属酸化物格子をマスクとしてエッチングするエッチング工程を含む、請求項からいずれか記載の無機波長板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機波長板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波長板は、光に特定の位相差を与える素子であり、各種の光学機器に搭載されている。一般的には、1/2波長板、1/4波長板、あるいは、これらよりも小さい位相差を与える位相差板が知られており、1/2波長板は、直線偏光を入射した場合に、波長板の光学軸と直線偏光との角度をθとすると、2θ分回転した直線偏光を出射する機能を有する。また、1/4波長板は、例えば、波長板の光学軸に対して面内に45°傾いた直線偏光を入射すると、円偏光へと変換する機能を有する。
【0003】
従来、波長板としては、高分子フィルムに配向性を付与した所謂位相差フィルムが知られている(特許文献1参照)。しかしながら、高分子フィルムによる波長板は、熱やUV光線に対して劣化しやすいため、耐久性に問題があった。例えば、レーザー光線等の光強度が強い光源を使用する機器に対しては、耐熱耐光性が十分でない場合があった。
【0004】
別のタイプの波長板として、ラインアンドスペースの凹凸パターンからなる格子構造による複屈折を利用した、構造性複屈折タイプの波長板が知られている(特許文献2参照)。格子構造を形成する構造性複屈折タイプの波長板は、フィルム材料を延伸して所望の配向性を付与する高分子フィルムの波長板と比較して、均一な性能を発現できる点で優れている。
【0005】
ここで近年、各種電子デバイスには、高密度化、高集積化、高性能化の要求がますます高まっており、構造性複屈折タイプの波長板に対しても、より微細なパターンが要求されるようになった。しかしながら、構造性複屈折を利用した波長板は、その構造が波長オーダーであることに加え、一般的に要求される位相差(λ/4、λ/2)を得るためには、高いアスペクト比が必要となる。このため、要求レベルを満足する構造性複屈折タイプの波長板は、製造が非常に困難な状況にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-231132号公報
【文献】特開2013-200908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐熱性および耐久性に優れ、微細パターンを有する構造性複屈折タイプの無機波長板を提供することにある。また、微細パターンであっても生産性が高く、所望の位相差が実現容易であるとともに、所望の位相差が安定して得られる無機波長板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーと、金属酸化物前駆体との選択的相互作用を利用すれば、微細パターンであっても生産性が高く、耐熱性および耐久性に優れ、所望の位相差が実現できるとともに、所望の位相差が安定して得られる、構造性複屈折タイプの無機波長板が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、ワイヤグリッド構造を有する無機波長板であって、透明基板と、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで前記透明基板上に配列され、所定方向に延在する格子状凸部と、を備え、前記格子状凸部の主成分が金属酸化物である無機波長板である。
【0010】
前記格子状凸部は、異なる2種以上のピッチが混在していてもよい。
【0011】
前記金属酸化物は、Alであってもよい。
【0012】
前記金属酸化物は、TiOであってもよい。
【0013】
また別の本発明は、ワイヤグリッド構造を有する無機波長板の製造方法であって、透明基板の少なくとも片面に、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーを、所定方向に延在する格子となるよう配列させて、ポリマー格子を形成するポリマー格子形成工程と、前記ポリマー格子に、金属酸化物前駆体の蒸気を接触させて、前記カルボニル基に前記金属酸化物前駆体の金属を結合させ、金属酸化物前駆体結合部を形成する金属酸化物前駆体接触工程と、前記金属酸化物前駆体結合部を有する格子に、水蒸気を接触させて、前記金属酸化物前駆体結合部を酸化させ、金属酸化物を主成分とする金属酸化物格子を形成する酸化工程と、を含む、無機波長板の製造方法である。
【0014】
前記金属酸化物前駆体接触工程と、前記酸化工程と、をサイクルとして、前記サイクルを複数回繰り返してもよい。
【0015】
前記ポリマー格子形成工程におけるカルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーの配列は、前記カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーの自己組織化によって形成してもよい。
【0016】
前記ポリマー格子形成工程は、物理ガイドを用いるものであってもよい。
【0017】
前記カルボニル基を含む繰り返しユニットは、メチルメタクリル酸に由来するものであってもよい。
【0018】
前記カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーは、ポリメチルメタクリル酸からなる分子鎖とポリスチレンからなる分子鎖とを含むブロック共重合体であってもよい。
【0019】
さらに、前記金属酸化物格子をマスクとしてエッチングするエッチング工程を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る無機波長板は、無機材料のみで構成されるため、ポリマー材料による波長板と比較して、耐熱性および耐久性に優れる。したがって本発明の無機波長板によれば、レーザー光線等の光強度が強い光源を使用する機器に対しても、十分に適用することができる。
また、格子状凸部を構成する金属酸化物として、高屈折材料(例えば、TiO2)を選択すれば、薄膜の無機波長板を実現することができ、ゼロオーダーの波長板を得ることができる。
また、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーの配列を微細なものとすれば、より微細なパターンの格子状凸部を有する無機波長板を実現することができ、その結果、高性能化デバイスへの要求を満たすことができる。
【0021】
また、本発明に係る無機波長板の製造方法によれば、微細パターンであっても生産性よく、構造性複屈折タイプの無機波長板を製造することができる。
さらに、金属酸化物を主成分とする格子状凸部をマスクとしてエッチングを実施すれば、高いアスペクト比を有する格子状凸部を作製できるため、所望の位相差が実現容易であるとともに、所望の位相差を安定して得られる無機波長板を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施態様を示す図である。
図2】本発明の一実施態様を示す図である。
図3】ガイドパターンを有する実施形態における写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳しく説明する。
【0024】
[無機波長板]
本発明の無機波長板は、格子構造による複屈折を利用した構造性複屈折タイプの波長板である。具体的には、ワイヤグリッド構造を有する無機波長板であって、透明基板と、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで前記透明基板の少なくとも片面に配列され、所定方向に延在する格子状凸部と、を備え、前記格子状凸部の主成分が金属酸化物である無機波長板である。なお、本発明の無機波長板は、透明基板と格子状凸部を備えていればよく、これら以外の他の層を有していてもよい。
【0025】
図1(f)および図2(d)はそれぞれ、本発明の一実施形態に係る無機波長板を示す断面模式図である。図1(f)および図2(d)に示されるように、無機波長板は、透明基板1と、透明基板1の一方の面上に使用帯域の光の波長よりも短いピッチで配列された、金属酸化物を主成分とする領域4にて構成される格子状凸部と、を備える。すなわち、本発明の無機波長板は、金属酸化物を主成分とする格子状凸部が、透明基板の少なくとも片面に一次元格子状に配列されたワイヤグリッド構造を有する。
【0026】
ここで、構造性複屈折タイプの波長板とは、ラインアンドスペースの凹凸パターンからなる格子構造による複屈折を利用した波長板である。例えば、“Submicrometer periodicity gratings as artificial anisotropic dielectrics”(Dale C. Flanders、Appl.Phys.Lett. 42(6),15 March 1983)に記載されているように、その微細構造の材料や凹凸比率により、構造と平行な方向と垂直な方向とで屈折率が異なる波長板を実現できる。物質内での光の速さは屈折率に反比例するので、各々の方向の偏波に対して光の速さは変化する。この結果、入射光は構造複屈折波長板の前後で位相が変化する。水晶や方解石等が有する複屈折特性は、その物質固有のものであり、変えることがほとんどできないのに対して、構造性複屈折タイプの波長板は、凹凸周期構造の寸法や、構成する材料を変更することによって、発現する光学性能を制御することができる。
【0027】
(透明基板)
透明基板(図1における透明基板1)としては、使用帯域の光に対して透光性を示す基板であれば特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。「使用帯域の光に対して透光性を示す」とは、使用帯域の光の透過率が100%であることを意味するものではなく、波長板としての機能を保持可能な透光性を示せばよい。使用帯域の光としては、例えば、波長380nm~810nm程度の可視光が挙げられる。
【0028】
透明基板の主面形状は特に制限されず、目的に応じた形状(例えば、矩形形状)が適宜選択される。透明基板の平均厚みは、例えば、0.1mm~1mmが好ましい。
【0029】
透明基板の構成材料としては、屈折率が1.1~2.2の材料が好ましく、光学活性の性質を有しない材料が適している。コストおよび透光率の観点からは、ガラス、特に石英ガラス(屈折率1.46)やソーダ石灰ガラス(屈折率1.51)を用いることが好ましい。ガラス材料の成分組成は特に制限されず、例えば光学ガラスとして広く流通しているケイ酸塩ガラス等の安価なガラス材料を用いることができる。
【0030】
(格子状凸部)
格子状凸部(たとえば図1(f)における金属酸化物を主成分とする領域4)は、透明基板の片側面に使用帯域の光の波長よりも短いピッチで形成され、所定方向に帯状に配列される。すなわち、本発明の無機波長板は、格子状凸部と溝部となる凹部とが周期的に繰り返される凹凸周期構造を有する。なお、本発明においては、透明基板と格子状凸部との間に、他の層が存在していてもよい。
【0031】
本発明の無機波長板における格子状凸部は、主成分が金属酸化物であればよく、その他の成分が金属酸化物とともに存在していてもよい。また、格子状凸部には、金属酸化物を主成分とする層以外の層が存在していてもよい。例えば、本発明の無機波長板は、金属酸化物を主成分とする格子状凸部をマスクとしてエッチングを施し、凹部に掘り込みを形成した態様も含む。この場合には、格子状凸部は、金属酸化物層を主成分とする層と、掘り込みにより形成された層と、によって構成されることとなる。
【0032】
本発明の無機波長板において、格子状凸部のピッチは、使用帯域の光の波長の1/2より短ければ特に制限されるものではないが、より小さい方が望ましい。可視光用途では、青域の波長が400nmであるため、ピッチとしては200nmより小さいことが必要となる。本発明の無機波長板における格子状凸部の周期長は、材料として用いるカルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーの分子量によって制御することができる。その結果、100nm以下という小さいピッチを、容易に作製することができる。
【0033】
格子状凸部のピッチは、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて、任意の4箇所についてピッチを測定し、その算術平均値を格子状凸部のピッチとすることができる。以下、この測定方法を電子顕微鏡法と称する。
【0034】
また、本発明の無機波長板における格子状凸部は、異なる2種以上のピッチが混在していてもよい。本発明においては、所望の光学性能を発現させる目的で、格子状凸部と溝部となる凹部とは周期的に繰り返し配置される周期構造とすることが好ましい。このため、異なる2種以上のピッチを混在させる場合にも、周期的な配置とすることが好ましい。
【0035】
格子状凸部の構成材料としては、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーと選択的に相互作用する前駆体から形成される金属酸化物を主成分とするものであれば、特に限定されるものではない。例えば、Al、TiO等が挙げられる。これらの中では耐湿性の観点から、Alが好ましい。Alを用いる場合には、水蒸気バリア性に優れた波長板を実現することができる。また、無機波長板を薄膜化できる観点からは、屈折率の高いTiOが好ましい(屈折率約2.0)。本発明においては、高屈折率の材料を選択することにより、ゼロオーダーの波長板を実現することができる。
【0036】
本発明の無機波長板は、構造性複屈折タイプの波長板であるため、格子状凸部の凹凸周期構造の寸法や、構成する材料を変更することによって、発現する光学性能を制御することができる。例えば、Alを主成分とする材料で格子状凸部を構成する場合には、Alの屈折率は約1.6であることから、凸部と凹部との比(L/S)=1として波長450nmの1/4波長板を作製すると、必要な膜厚は約250nmとなる。上記の通り、屈折率の高いTiO(屈折率約2.0)にて、凸部と凹部との比(L/S)=1として波長450nmの1/4波長板を作製すると、必要な膜厚は約110nm程度となり、得られる波長板を薄膜化することができる。
【0037】
格子状凸部の膜厚は、所望の光学性能を発現するために必要な膜厚となるため、特に制限されるものではない。例えば、30nm~3000nmの範囲が挙げられる。なお、格子状凸部の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定できる。
【0038】
本発明の無機波長板が、金属酸化物を主成分とする格子状凸部をマスクとしてエッチングを施し、凹部に掘り込みが形成された態様である場合には、格子状凸部は、金属酸化物を主成分とする層と、掘り込みが形成された層と、で構成されることになる。さらに、本発明の無機波長板においては、透明基板と格子状凸部との間に他の層が存在していてもよいことから、格子状凸部は、金属酸化物を主成分とする層と、他の層および/または透明基板と、で構成される場合がある。なお、他の層としては、例えば、高屈折率材料であるシリカ(SiO)や酸化タンタル(Ta)からなる層等が挙げられる。
【0039】
(保護膜)
また、本発明の無機波長板は、光学特性に影響を与えない範囲において、少なくとも光の入射側の表面が、保護膜により覆われていてもよい。保護膜は、誘電体で構成されることが好ましく、例えば、SiOを好ましく適用することができる。保護膜を有することにより、機械的性能が向上し、凹凸形状を保護する効果が期待できる。
【0040】
(撥水膜)
また、本発明の無機波長板は、少なくとも光の入射側の表面が、撥水膜により覆われていてもよい。撥水膜は有機系が好ましく、例えば、パーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)等のフッ素系シラン化合物を好ましく適用することができる。これにより、無機波長板へのゴミの侵入を防ぐことができるとともに、耐湿性等の信頼性を向上することができる。
【0041】
[無機波長板の製造方法]
本発明の無機波長板の製造方法は、ポリマー格子形成工程と、金属酸化物前駆体接触工程と、酸化工程と、を少なくとも有する。
【0042】
(ポリマー格子形成工程)
ポリマー格子形成工程では、透明基板の少なくとも片面に、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーを、所定方向に延在する格子となるよう配列させて、ポリマー格子を形成する。
【0043】
{カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマー}
本発明においては、後の金属酸化物前駆体接触工程において、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーに含まれるカルボニル基に、金属酸化物前駆体を結合させる。このため、本発明においては、カルボニル基は必須の構成要素であるが、用いられるカルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーは、高分子の繰り返しユニットにカルボニル基を有するものであれば、特に限定されるものではない。
【0044】
なお、本発明の無機波長板の製造方法において用いられるカルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーは、自己組織化性能を有していることが好ましい。自己組織化性能を有するものであれば、自己組織化により、所定方向に延在する格子となる配列を形成することが容易となる。このような自己組織化性能を有し、且つ、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーとしては、例えば、例えば、ポリメタクリル酸メチルからなる分子鎖とポリスチレンからなる分子鎖とを含むブロック共重合体、ポリメタクリル酸エチルからなる分子鎖とポリスチレンからなる分子鎖とを含むブロック共重合体、ポリメタクリル酸t-ブチルからなる分子鎖とポリスチレンからなる分子鎖とを含むブロック共重合体、ポリアクリル酸メチルからなる分子鎖とポリスチレンからなる分子鎖とを含むブロック共重合体、ポリアクリル酸エチルからなる分子鎖とポリスチレンからなる分子鎖とを含むブロック共重合体、ポリアクリル酸t-ブチルからなる分子鎖とポリスチレンからなる分子鎖とを含むブロック共重合体等が挙げられる。これらの中では、自己組織化性能に優れる観点から、メチルメタクリル酸に由来するユニットを有するブロック共重合体が好ましい。
【0045】
特に、本発明の無機波長板の製造方法において用いられるカルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーとしては、ポリメチルメタクリル酸からなる分子鎖とポリスチレンからなる分子鎖とを含むブロック共重合体であることが好ましい。ポリメチルメタクリル酸からなる分子鎖は、優れた自己組織化性能を有しており、ポリメチルメタクリル酸からなる分子鎖からなるブロックと、ポリスチレンからなる分子鎖とを含むブロックは、自己組織化を進行させて、ラメラのような規則的なドメインを有する構造に相分離し、周期的なパターンを形成する。ドメインの形状や寸法は、ブロック共重合体の設計によって調整することができ、ナノスケールの周期的なラメラ構造を形成することも可能となる。
【0046】
{フォトリソグラフィ法による配列}
ポリマー格子形成工程において、透明基板の少なくとも片面に、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーを、所定方向に延在する格子となるよう配列させる方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、フォトリソグラフィ法にて実施することができる。
【0047】
図1に、フォトリソグラフィ法を用いて、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーを、所定方向に延在する格子となるよう配列させる方法について示す。
【0048】
フォトリソグラフィ法を用いて、所定方向に延在する格子となるよう配列させるためには、まず、図1(b)に示すように、透明基板1の少なくとも片面に、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーからなる層(図1(b)においては、ポリメチルメタクリル酸(PMMA)からなる分子鎖を有する領域2)を形成する。
【0049】
次に、形成したカルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーからなる層(図1(b)においては、ポリメチルメタクリル酸(PMMA)からなる分子鎖を有する領域2)の上にフォトレジストを配置して、フォトリソグラフィにより、露光およびフォトマスクの転写を行った後に現像処理を実施し、図1(c)に示すようなラインアンドスペース(L/S)のレジスト5によるパターンを形成する。
【0050】
続いて、得られたL/Sパターン(図1(c)におけるレジスト5によるパターン)をマスクとしてエッチングを実施し、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーからなる層(図1(b)においては、ポリメチルメタクリル酸(PMMA)からなる分子鎖を有する領域2)を除去する(図1(d))。
【0051】
最後に、薬品等によって、レジスト5を溶解して除去することで、図1(e)に示すように、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーが、所定方向に延在する格子となるよう配列したポリマー格子を得る。
【0052】
{自己組織化による配列}
ポリマー格子形成工程において、透明基板の少なくとも片面に、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーを、所定方向に延在する格子となるよう配列させるための別の方法としては、例えば、自己組織化性能を有するポリマーを用いて、自己組織化させる方法が挙げられる。
【0053】
自己組織化性能を有し、且つ、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーとしては、上記の通り、例えば、メチルメタクリル酸に由来するユニットを繰り返し単位として有するポリマーが挙げられる。なかでも、ポリメチルメタクリル酸からなる分子鎖とポリスチレンからなる分子鎖とを含むブロック共重合体であることが好ましい。ポリメチルメタクリル酸からなる分子鎖とポリスチレンからなる分子鎖とを含むブロック共重合体は、ラメラのような規則的なドメインを有する構造に相分離して、周期的なパターンを形成する。該ブロック共重合体の設計によって、ドメインの形状や寸法を調整することができ、ナノスケールの周期的なラメラ構造によるパターンも実現可能となる。
【0054】
なお、自己組織化性能を有するブロック共重合体を用いて、ラメラのような規則的なドメインを有する構造に相分離させて周期的なパターンを形成する場合には、引き続き、後述する、金属酸化物前駆体接触工程と、酸化工程を実施して、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーを、金属酸化物に変換する。そして最後に、カルボニル基を有しない分子鎖で構成された領域を、薬品等によって除去する工程を実施する。
【0055】
{物理ガイドを用いた自己組織化}
さらに、物理ガイドと呼ばれる壁を用いて、この壁の間に、自己組織化性能を有し、且つ、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーを格納することで、より容易にパターンを形成させることが可能となる。物理ガイドを用いる場合には、物理ガイドの幅と、自己組織化により相分離して形成されるパターンの幅とは、必ずしも同一とする必要はない。異ならせることで、最終的に、異なる2種以上のピッチが混在している格子状凸部を有する、無機波長板を実現することができる。
【0056】
図2に、物理ガイドを用いて、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーを、所定方向に延在する格子となるよう配列させる方法について示す。図2に示す態様では、ポリメチルメタクリル酸からなる分子鎖とポリスチレンからなる分子鎖とを含むブロック共重合体を用いる。
【0057】
物理ガイドを用いる方法においては、まず、フォトリソグラフィ法等によって、所定のピッチ間隔を有するガイドパターンを形成する(図2(a)においては、ガイド6)。次に、形成した物理ガイドパターンの凹部に、自己組織化性能を有し、且つ、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーを格納し、自己組織化によって規則的なドメインを有する構造に相分離させて、パターンを形成する。自己組織化するポリマーは、物理ガイドが存在することによって、物理ガイドに沿って、より容易に周期的なラメラ構造を形成し、その結果、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーが、所定方向に延在する格子となるよう配列したポリマー格子を作成することができる。
【0058】
図2に示す態様では、ポリメチルメタクリル酸からなる分子鎖とポリスチレンからなる分子鎖とを含むブロック共重合体を、所定のピッチ間隔を有するガイド6のパターンの凹部に格納する。格納されたブロック共重合体は、自己組織化によって、物理ガイド6に沿って規則的なドメインを有する構造に相分離し、ポリメチルメタクリル酸(PMMA)からなる分子鎖を有する領域2と、ポリスチレンからなる分子鎖を有する領域3とが、交互に存在する、周期的なラメラ構造を形成する。その結果、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマー(図2(a)においては、ポリメチルメタクリル酸(PMMA)からなる分子鎖を有する領域2)が、所定方向に延在する格子となるよう配列したポリマー格子が作成される。
【0059】
なお、前述したように、自己組織化性能を有するブロック共重合体を用いる場合には、後述する、金属酸化物前駆体接触工程と酸化工程とを実施して、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有する分子鎖の領域(図2(a)においては、ポリメチルメタクリル酸(PMMA)からなる分子鎖を有する領域2)を金属酸化物に変換した後、最後に、カルボニル基を有しない分子鎖で構成された領域(図2(b)においては、ポリスチレンからなる分子鎖を有する領域3)と、物理ガイド(図2(b)においては、ガイド6)を、薬品等によって除去する工程を実施する。
【0060】
物理ガイドを作製する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ガイドとなる材料を溶剤に溶解した後、塗布、乾燥して塗膜を形成し、形成された塗膜上にレジストを塗布してレジスト層を形成し、当該レジスト層を露光・現像することによりレジストパターンを形成し、得られたレジストパターンを用いてガイドとなる塗膜をエッチングした後にレジストを剥離することで、最終的な物理ガイドを得る方法が挙げられる。
【0061】
物理ガイドの材料としては、特に限定されるものではなく、例えばポリマーを用いることができる。中では、上記の物理ガイドの作製工程を経ても、形状が崩れにくい特性を有するポリマーを用いることが好ましい。
【0062】
ガイドとなる材料を溶解する溶剤としては、ガイドとなるポリマーとの相溶性や乾燥性等を考慮し、適宜選択することができる。ガイドとなる材料と溶媒との好ましい組み合わせとしては、例えば、ポリメチルメタクリル酸(PMMA)/ポリスチレン(PS)のランダム共重合体と、トルエンまたはプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートとの組合せが挙げられる。
【0063】
(金属酸化物前駆体接触工程)
金属酸化物前駆体接触工程では、ポリマー格子形成工程で形成されたポリマー格子に、金属酸化物前駆体の蒸気を接触させて、ポリマー中のカルボニル基に金属酸化物前駆体の金属を結合させ、金属酸化物前駆体結合部を形成する。
【0064】
本発明における金属酸化物前駆体接触工程は、図1においては、図1(e)から図1(f)への移行過程に実施され、図2においては、図2(a)から図2(b)への移行過程に実施される。すなわち、図1(e)におけるカルボニル基を含む繰り返しユニットからなる分子鎖の領域2を、図1(f)における金属酸化物を主成分とする領域4とするために実施する工程であり、また、図2(a)におけるカルボニル基を含む繰り返しユニットからなる分子鎖の領域2を、図2(b)における金属酸化物を主成分とする領域4とするために実施する工程である。
【0065】
{金属酸化物前駆体}
金属酸化物前駆体接触工程では、ポリマー格子を形成するポリマー中のカルボニル基に、金属酸化物の前駆体となる物質を、蒸気の形態で接触させる。蒸気として供給する金属酸化物前駆体は、カルボニル基に選択的に結合する性質を有するものである。金属酸化物前駆体は、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有する分子鎖とは結合し、当該分子鎖上で成長するが、カルボニル基を有しない分子鎖とは、実質的に非反応性である。
【0066】
したがって、本発明に用いることのできる、カルボニル基に選択的に結合する金属酸化物前駆体は、ルイス酸としての性質を示す化合物であり、例えば、トリメチルアルミニウム(TMA)、テトラクロロチタン(TiCl)等を挙げることができる。トリメチルアルミニウム(TMA)を用いた場合には、最終的に酸化アルミニウム(Al)が金属酸化物として得られ、テトラクロロチタン(TiCl)を用いた場合には、最終的に酸化チタン(TiO)が金属酸化物として得られる。
【0067】
供給する金属酸化物前駆体と基板の接触は、例えば、以下のように行う。真空が保持できるチャンバー内に、基板を配置する。続いて、ドライポンプ等によりチャンバー内を真空排気する。反応を促進するために、基板温度を150~250℃の範囲とする。次に、金属酸化物前駆体をチャンバー内に導入する。その際の蒸気の圧力は、0.1~1mTorrの範囲とすることが好ましい。また、接触時間は300~600秒の範囲とすることが好ましい。この範囲であれば、十分に反応が進む。所定の接触時間が終了した後は、再びチャンバー内を排気する。
【0068】
(酸化工程)
酸化工程では、金属酸化物前駆体接触工程で形成された金属酸化物前駆体結合部を有する格子に、水蒸気を接触させて、金属酸化物前駆体結合部を酸化させ、金属酸化物を主成分とする金属酸化物格子を形成する。得られる金属酸化物格子は、金属酸化物を主成分とするため、エッチング耐性が高く、また、耐熱性も向上した格子状凸部となる。
【0069】
本発明における酸化工程は、図1においては、図1(e)から図1(f)への移行過程に実施され、図2においては、図2(a)から図2(b)への移行過程に実施される。すなわち、図1(e)におけるカルボニル基を含む繰り返しユニットからなる分子鎖の領域2を、図1(f)における金属酸化物を主成分とする領域4とするために実施する工程であり、また、図2(a)におけるカルボニル基を含む繰り返しユニットからなる分子鎖の領域2を、図2(b)における金属酸化物を主成分とする領域4とするために実施する工程である。
【0070】
酸化工程は、金属酸化物前駆体接触工程を実施した後に実施する。これは、酸化工程において酸化する対象が、金属酸化物前駆体接触工程で形成された金属酸化物前駆体結合部を有する格子だからである。金属酸化物前駆体結合部を有する格子において、金属酸化物前駆体結合部の金属を、水蒸気を用いて酸化させて、金属酸化物に変換する。
【0071】
酸化工程において供給する水蒸気の圧力は、1気圧もしくはそれに近い圧力が好ましく、基板温度は150~250℃の範囲とすることが好ましい。また、接触時間は、300~600秒の範囲とすることが好ましい。この範囲であれば、特に問題なく十分に酸化する。
【0072】
(繰り返し)
なお、本発明の無機波長板の製造方法においては、上記の金属酸化物前駆体接触工程と、上記の酸化工程と、を1サイクルとして、これらの工程を複数サイクル繰り返して実施することが好ましい。
【0073】
すなわち、図1においては、図1(e)から図1(f)への移行過程に、図2においては、図2(a)から図2(b)への移行過程に、上記の金属酸化物前駆体接触工程と酸化工程とを繰り返し実施し、最終的に図1(f)または図2(b)とすることが好ましい。
【0074】
金属酸化物前駆体接触工程と酸化工程のサイクルを複数回繰り返すことによって、カルボニル基を含む繰り返しユニットからなる分子鎖から金属酸化物への変換の割合をより高めることが可能となり、最終的に、ほぼ完全な金属酸化物までに到達させることができる。本発明における繰り返し回数は、7回以上とすることが好ましく、10回以上が最も好ましい。
【0075】
(格子状凸部形成工程)
本発明の無機波長板の製造方法において、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーとして、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有する分子鎖とカルボニル基を有しない分子鎖とで構成されるブロック共重合体を用いる場合には、格子状凸部形成工程を実施する。
【0076】
格子状凸部形成工程は、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有する分子鎖とカルボニル基を有しない分子鎖とで構成されるブロック共重合体を用いる場合に必要となる工程であり、上記の金属酸化物前駆体接触工程と、酸化工程とを、必要な場合には複数サイクル実施して、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーを金属酸化物に変換した後に、実施する工程である。具体的には、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーを金属酸化物に変換した後に、カルボニル基を有しない分子鎖で構成された領域、および使用した場合には物理ガイドを、薬品等によって除去することにより、金属酸化物を主成分とする格子状凸部を形成する。
【0077】
例えば、物理ガイドを使用する態様である図2の態様においては、図2(b)から図2(c)の間に実施する工程であり、カルボニル基を有しない分子鎖で構成された、ポリスチレンからなる分子鎖を有する領域3と、ガイド6とを、薬品等によって除去して、金属酸化物を主成分とする領域4で構成される格子状凸部を形成する。
【0078】
(エッチング工程)
本発明の無機波長板の製造方法は、さらに、酸化工程で形成された金属酸化物格子をマスクとしてエッチングする、エッチング工程を有していてもよい。エッチング工程は、図2における図2(c)から図2(d)の間に実施される工程である。図2(d)においては、エッチングにより透明基板1に掘り込みが形成され、透明基板1の一部が格子状凸部の一部を構成する態様が示されている。
【0079】
しかしながら、本発明においては、格子状凸部を構成する金属酸化物を主成分とする層と、透明基板との間に、他の層が存在していてもよい。このため、エッチング工程では、当該他の層のみ、または、当該他の層と透明基板の両者に掘り込みを形成する場合がある。当該他の層のみに掘り込みを形成する場合には、格子状凸部は、金属酸化物を主成分とする層と、当該他の層とで構成される。当該他の層と透明基板の両者に掘り込みを形成する場合には、格子状凸部は、金属酸化物を主成分とする層と、当該他の層、および透明基板の一部とで構成される。
【0080】
本発明の無機波長板は、構造性複屈折タイプの波長板であるため、格子状凸部の周期構造の寸法を変更することによって、発現する光学性能を制御することができる。そして、一般的に要求される位相差(λ/4、λ/2)を得るためには、高いアスペクト比が必要となる。本発明においては、金属酸化物格子をマスクとしてエッチングを実施し、凹部に掘り込みを形成することにより、高いアスペクト比を有する格子状凸部を実現できる。また、エッチングにより所望の寸法に調整することができ、これにより、所望の光学特性を発現させることができる。
【0081】
エッチング方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、エッチング対象に対応したエッチングガスを用いたドライエッチング法が挙げられる。例えば、透明基板として石英を用いた場合には、エッチングガスとしてCFを用いることにより、エッチングが可能である。
【0082】
(保護膜付与工程)
本発明の無機波長板の製造方法は、少なくとも光の入射側の表面を保護膜で覆う、保護膜付与工程を有していてもよい。保護膜付与工程においては、少なくとも波長板の表面(ワイヤグリッドが形成された面)上に、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)やALD(Atomic Layer Deposition)を利用して保護膜を形成する。保護膜としては、誘電体からなる膜とすることが好ましく、例えば、SiO2を好ましく適用することができる。
【0083】
(撥水膜付与工程)
本発明の無機波長板の製造方法は、少なくとも光の入射側の表面を撥水膜で覆う、撥水膜付与工程を有していてもよい。撥水膜付与工程においては、少なくとも波長板の表面(ワイヤグリッドが形成された面)上に、例えば、上述のCVDやALDを利用して撥水膜を形成可する。撥水膜としては、有機系材料からなる膜とすることが好ましく、例えば、パーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)等のフッ素系シラン化合物を好ましく適用することができる。
【0084】
[用途]
本発明の無機波長板は、各種の光学機器に搭載することができる。光学機器としては、液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ、デジタルカメラ等が挙げられる。また、有機材料からなる有機波長板に比べて、耐熱性および耐久性に優れる無機波長板であるため、耐熱性および耐久性が要求される液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ等の用途に特に好適に用いることができる。
【実施例
【0085】
次に、本発明の実施例について図2および図3を用いて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0086】
<実施例1>
実施例1においては、物理ガイドを用いて、物理ガイドの壁の間に自己組織化性能を有し、且つ、カルボニル基を含む繰り返しユニットを有するポリマーを格納してパターンを形成する方法を実施した。
【0087】
[ガイドパターンの作成]
ポリメチルメタクリル酸からなる分子鎖とポリスチレンからなる分子鎖のランダム共重合体(分子量:約40000)を、トルエン中に濃度1.5質量%となるよう溶解した。続いて、得られた溶液をスピンコートして、中性層を作製した。さらに、作製した中性層の上にフォトレジストをコートし、フォトレジスト層を形成した。引き続き、フォトレジスト層を露光・現像することにより、レジストパターンを作製した。得られたレジストパターンを用いて、中性層をOプラズマにてエッチングし、続いてレジストを剥離することにより、中性層によるガイドパターン(図2(a)におけるガイド6)を形成した。ガイドの膜厚(高さ)は、13nmであった。図3(a)に、得られたガイドパターンの写真を示す。
【0088】
[ブロック共重合体の格納]
得られたガイドパターンのガイド(図2(a)におけるガイド6)の壁の間に、ポリメチルメタクリル酸からなる分子鎖とポリスチレンからなる分子鎖とを含むブロック共重合体を格納した。用いたブロック共重合体の分子量は、113,000であり、ポリメチルメタクリル酸からなる分子鎖とポリスチレンからなる分子鎖との組成比は、約1:1であった。なお、格納にあたっては、溶媒としてトルエンを用いて共重合体の濃度を1.5質量%とし、スピンコートを実施した。
【0089】
[ブロック共重合体の自己組織化]
真空中にて、240℃にて12時間の熱処理を実施することにより、ガイド6の間にて、ポリメチルメタクリル酸からなる分子鎖とポリスチレンからなる分子鎖とを含むブロック共重合体を自己組織化させて、規則的なドメインを有する構造に相分離させた。その結果、図2(a)に示すように、ガイド6に沿って、ポリメチルメタクリル酸(PMMA)からなる分子鎖を有する領域2と、ポリスチレンからなる分子鎖を有する領域3とが、交互に存在する周期的なラメラ構造が形成された。形成された周期的なラメラ構造の写真を、図3(b)に示す。作製された周期的なラメラ構造の周期長は、約45nmであった。
【0090】
[金属酸化物前駆体接触工程]
続いて、得られた周期的なラメラ構造に、トリメチルアルミニウム(TMA)の蒸気を接触させて、ポリメチルメタクリル酸(PMMA)からなる分子鎖を有する領域2におけるカルボニル基に金属酸化物前駆体の金属を結合させ、金属酸化物前駆体結合部を形成した。蒸気を供給した環境は真空チャンバー内であり、基板温度は200℃、圧力は1mTorr、供給時間は0.3秒、保持時間は600秒とした。
【0091】
[酸化工程]
続いて、金属酸化物前駆体結合部が形成された周期的なラメラ構造に水蒸気を接触させることにより、金属酸化物前駆体結合部を酸化し、図2(b)に示すように、金属酸化物を主成分とする領域4で構成される金属酸化物格子を形成した。なお、本実施例で形成された金属酸化物は、Alである。水蒸気を供給した環境は真空チャンバー内であり、基板温度は200℃、圧力は1mTorr、供給時間は0.3秒、保持時間は600秒とした。
【0092】
[格子状凸部形成工程]
続いて、ポリスチレンからなる分子鎖を有する領域3とガイド6とを除去して、Alからなる格子状凸部を形成し(図2(c))、無機波長板を得た。ポリスチレンからなる分子鎖を有する領域3とガイド6との除去にあたっては、Oプラズマによるアッシングを行った。得られた無機波長板の格子状凸部は、ピッチ45nm、高さ13nmであった。
【符号の説明】
【0093】
1 透明基板
2 ポリメチルメタクリル酸(PMMA)からなる分子鎖を有する領域
3 ポリスチレンからなる分子鎖を有する領域
4 金属酸化物を主成分とする領域
5 レジスト
6 ガイド
図1
図2
図3