(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】血液浄化装置及び血液浄化装置による患者の栄養状態の推定方法
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20220922BHJP
A61M 1/16 20060101ALI20220922BHJP
A61B 5/145 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
A61M1/36 100
A61M1/16 111
A61B5/145
A61M1/16 135
(21)【出願番号】P 2018116787
(22)【出願日】2018-06-20
【審査請求日】2021-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 晋也
(72)【発明者】
【氏名】河原林 理
(72)【発明者】
【氏名】豊田 将弘
(72)【発明者】
【氏名】秋田 邦彦
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/017623(WO,A1)
【文献】特開平6-218047(JP,A)
【文献】国際公開第01/76661(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0305869(US,A1)
【文献】米国特許第4381999(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00 - 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動脈側血液回路及び静脈側血液回路を有するとともに、当該動脈側血液回路の先端から静脈側血液回路の先端まで患者の血液を体外循環させる血液回路と、
前記動脈側血液回路及び静脈側血液回路の間に介装されて前記血液回路を流れる血液を浄化するとともに、血液を浄化するための血液浄化膜を介して前記血液回路で体外循環する血液が流れる血液流路及び透析液が流れる透析液流路が形成された血液浄化器と、
前記血液浄化膜を介して前記血液流路の血液から水分を濾過して前記透析液流路から排出することにより除水する除水部と、
前記血液流路の液体と前記透析液流路の液体との間の差圧によって前記血液浄化膜に生じる膜間圧力差を検出する検出部と、
前記血液回路にプライミング液を充填させるプライミング工程と、前記血液回路に患者の血液を体外循環させて前記血液浄化器にて血液浄化治療を行う治療工程とを順次実行し得る制御部と、
を具備した血液浄化装置において、
前記除水部による濾過が行われていない状態で、膠質浸透圧が発生しない液体を前記血液流路に充填させた場合に生じる前記膜間圧力差と、前記除水部による濾過が行われていない状態で、患者の血液を前記血液流路に充填させた場合に生じる前記膜間圧力差とに基づいて、前記血液流路を流れる血液の膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値を取得する膠質浸透圧取得部を具備
するとともに、
前記制御部は、前記除水部による濾過が行われていない状態で、膠質浸透圧が発生しない前記プライミング工程で使用されるプライミング液を前記血液流路に充填させるとともに、前記検出部にて膜間圧力差を求める第1工程と、前記除水部による濾過が行われていない状態で、前記治療工程で体外循環する患者の血液を前記血液流路に充填させるとともに、前記検出部にて膜間圧力差を求める第2工程とを実行するものとされ、
前記膠質浸透圧取得部は、前記第1工程で求められた膜間圧力差と前記第2工程で求められた膜間圧力差とに基づいて前記膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値を取得し、
前記膠質浸透圧取得部にて取得された膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値に基づいて、血漿総タンパク又は当該血漿総タンパクの相関値を取得する血漿総タンパク取得部を
さらに具備したことを特徴とする血液浄化装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記血液流路及び透析液流路における液体の流れを停止させて前記第1工程及び第2工程を実行することを特徴とする請求項
1記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記血液浄化器の前記血液流路に対する血液の入口側の圧力を検出する血液流路側入口圧検出部と、当該血液流路に対する血液の出口側の圧力を検出する血液流路側出口圧検出部と、前記血液浄化器の前記透析液流路に対する透析液の入口側の圧力を検出する透析液流路側入口圧検出部と、当該透析液流路に対する透析液の出口側の圧力を検出する透析液流路側出口圧検出部とを有することを特徴とする請求項1
又は請求項2記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記検出部が予め決められた所定位置に配設されるものとされ、且つ、前記除水部による濾過が行われていない状態で、膠質浸透圧が発生しない液体を前記血液流路に充填させた場合に生じる前記膜間圧力差を理論値として記憶し得るとともに、前記膠質浸透圧取得部は、当該理論値と、前記除水部による濾過が行われていない状態で、患者の血液を前記血液流路に充填させた場合に生じる前記膜間圧力差とに基づいて、前記血液流路を流れる血液の膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値を取得することを特徴とする請求項1記載の血液浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイアライザを使用した透析治療など、患者の血液を体外循環させつつ浄化するための血液浄化装置及び血液浄化装置による患者の栄養状態の推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、透析治療時においては、採取した患者の血液を体外循環させて再び体内に戻すための血液回路が用いられており、かかる血液回路は、例えば中空糸膜を具備したダイアライザ(血液浄化器)と接続し得る動脈側血液回路及び静脈側血液回路から主に構成されている。これら動脈側血液回路及び静脈側血液回路の各先端には、動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針が取り付けられ、それぞれが患者に穿刺されて透析治療における血液の体外循環が行われることとなる。
【0003】
このうち、動脈側血液回路には、被しごきチューブが接続されるとともに、当該被しごきチューブをローラにてしごくことにより送液可能なしごき型の血液ポンプが配設されている。かかる血液ポンプを駆動させることにより、血液回路内において患者の血液を体外循環させることができるので、その体外循環する血液に対してダイアライザによる血液浄化治療が施されることとなる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の血液浄化装置においては以下のような問題がある。
患者の血液においてアルブミンを主体としたタンパク質が少ない場合、普段の食事でタンパク質の摂取が少ないことが分かり、栄養状態が悪いことが推定される。かかるアルブミンを主体としたタンパク質は、例えば患者の血液における血漿総タンパクを検出することにより把握することができることから、健康診断にて血液を採取して血漿総タンパクを測定することにより、栄養状態を推定することができる。
【0006】
そこで、本出願人は、血液浄化治療時において血液浄化器の血液浄化膜を用いて膠質浸透圧を求め、その膠質浸透圧に基づいて、血漿総タンパク等の患者の栄養状態を反映したパラメータを把握することができる血液浄化装置を検討するに至った。すなわち、血液浄化器の血液浄化膜は、アルブミンを主体としたタンパク質等の物質を通過させず、それより小さい物質のみを通過させる性質を有していることから、当該血液浄化膜を用いて膜間圧力差(血液流路と透析液流路との圧力差:TMP)を検出すれば、患者の血液における膠質浸透圧を求めることができると考えたのである。
【0007】
一方、血液浄化器の血液浄化膜における膜間圧力差(TMP)は、通常、圧力を検出するセンサの高低差(ヘッド差)等の誤差要因があるため、これを補正すべく、除水ポンプにより濾過が行われていない状態で膜間圧力差を検出し、その検出値をゼロ補正値として使用する(例えば、実際の検出値からゼロ値補正値を引いて膜間圧力差を求める)必要がある。この場合、種々の誤差要因に加えて膠質浸透圧を含んでゼロ補正されてしまうため、膠質浸透圧を求めることができない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、血液浄化器の血液浄化膜を利用して膠質浸透圧又は膠質浸透圧の相関値を精度よく求めることができ、患者の栄養状態を正確に推定することができる血液浄化装置及び血液浄化装置による患者の栄養状態の推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、動脈側血液回路及び静脈側血液回路を有するとともに、当該動脈側血液回路の先端から静脈側血液回路の先端まで患者の血液を体外循環させる血液回路と、前記動脈側血液回路及び静脈側血液回路の間に介装されて前記血液回路を流れる血液を浄化するとともに、血液を浄化するための血液浄化膜を介して前記血液回路で体外循環する血液が流れる血液流路及び透析液が流れる透析液流路が形成された血液浄化器と、前記血液浄化膜を介して前記血液流路の血液から水分を濾過して前記透析液流路から排出することにより除水する除水部と、前記血液流路の液体と前記透析液流路の液体との間の差圧によって前記血液浄化膜に生じる膜間圧力差を検出する検出部と、前記血液回路にプライミング液を充填させるプライミング工程と、前記血液回路に患者の血液を体外循環させて前記血液浄化器にて血液浄化治療を行う治療工程とを順次実行し得る制御部とを具備した血液浄化装置において、前記除水部による濾過が行われていない状態で、膠質浸透圧が発生しない液体を前記血液流路に充填させた場合に生じる前記膜間圧力差と、前記除水部による濾過が行われていない状態で、患者の血液を前記血液流路に充填させた場合に生じる前記膜間圧力差とに基づいて、前記血液流路を流れる血液の膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値を取得する膠質浸透圧取得部を具備するとともに、前記制御部は、前記除水部による濾過が行われていない状態で、膠質浸透圧が発生しない前記プライミング工程で使用されるプライミング液を前記血液流路に充填させるとともに、前記検出部にて膜間圧力差を求める第1工程と、前記除水部による濾過が行われていない状態で、前記治療工程で体外循環する患者の血液を前記血液流路に充填させるとともに、前記検出部にて膜間圧力差を求める第2工程とを実行するものとされ、前記膠質浸透圧取得部は、前記第1工程で求められた膜間圧力差と前記第2工程で求められた膜間圧力差とに基づいて前記膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値を取得し、前記膠質浸透圧取得部にて取得された膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値に基づいて、血漿総タンパク又は当該血漿総タンパクの相関値を取得する血漿総タンパク取得部をさらに具備したことを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の血液浄化装置において、前記制御部は、前記血液流路及び透析液流路における液体の流れを停止させて前記第1工程及び第2工程を実行することを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の血液浄化装置において、前記検出部は、前記血液浄化器の前記血液流路に対する血液の入口側の圧力を検出する血液流路側入口圧検出部と、当該血液流路に対する血液の出口側の圧力を検出する血液流路側出口圧検出部と、前記血液浄化器の前記透析液流路に対する透析液の入口側の圧力を検出する透析液流路側入口圧検出部と、当該透析液流路に対する透析液の出口側の圧力を検出する透析液流路側出口圧検出部とを有することを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の血液浄化装置において、前記検出部が予め決められた所定位置に配設されるものとされ、且つ、前記除水部による濾過が行われていない状態で、膠質浸透圧が発生しない液体を前記血液流路に充填させた場合に生じる前記膜間圧力差を理論値として記憶し得るとともに、前記膠質浸透圧取得部は、当該理論値と、前記除水部による濾過が行われていない状態で、患者の血液を前記血液流路に充填させた場合に生じる前記膜間圧力差とに基づいて、前記血液流路を流れる血液の膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値を取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の発明によれば、除水部による濾過が行われていない状態で、膠質浸透圧が発生しない液体を血液流路に充填させた場合に生じる膜間圧力差と、除水部による濾過が行われていない状態で、患者の血液を血液流路に充填させた場合に生じる膜間圧力差とに基づいて、血液流路を流れる血液の膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値を取得するので、血液浄化器の血液浄化膜を利用して膠質浸透圧又は膠質浸透圧の相関値を精度よく求めることができ、患者の栄養状態を正確に推定することができる。
【0024】
また、第1工程で求められた膜間圧力差と前記第2工程で求められた膜間圧力差とに基づいて膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値を取得するので、血液浄化器の血液浄化膜を利用して膠質浸透圧又は膠質浸透圧の相関値をより円滑に求めることができる。
【0025】
さらに、第1工程において前記血液流路に充填される膠質浸透圧が発生しない液体は、プライミング工程で使用されるプライミング液とされ、且つ、第2工程において血液流路に充填される血液は、治療工程で体外循環する血液とされるので、プライミング工程で使用されるプライミング液を有効活用して膠質浸透圧又は膠質浸透圧の相関値を正確に求めることができる。
またさらに、取得された膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値に基づいて、血漿総タンパク又は当該血漿総タンパクの相関値を取得するので、患者の栄養状態の指標として膠質浸透圧又は膠質浸透圧の相関値に加え、血漿総タンパク又は当該血漿総タンパクの相関値を取得して患者の栄養状態をより的確に把握させることができる。
【0026】
請求項2の発明によれば、血液流路及び透析液流路における液体の流れを停止させて前記第1工程及び第2工程を実行するので、液体が流れる際に生じる誤差要因(圧力損失等)を抑制することができ、膠質浸透圧又は膠質浸透圧の相関値をより正確に求めることができる。
【0027】
請求項3の発明によれば、検出部は、血液浄化器の血液流路に対する血液の入口側の圧力を検出する血液流路側入口圧検出部と、当該血液流路に対する血液の出口側の圧力を検出する血液流路側出口圧検出部と、血液浄化器の前記透析液流路に対する透析液の入口側の圧力を検出する透析液流路側入口圧検出部と、当該透析液流路に対する透析液の出口側の圧力を検出する透析液流路側出口圧検出部とを有するので、通常の血液浄化装置が具備する検出部を有効活用して、膠質浸透圧又は膠質浸透圧の相関値を求めるための膜間圧力差を正確且つ容易に検出することができる。
【0028】
請求項4の発明によれば、前記検出部が予め決められた所定位置に配設されるものとされ、且つ、除水部による濾過が行われていない状態で、膠質浸透圧が発生しない液体を血液流路に充填させた場合に生じる膜間圧力差を理論値として記憶するとともに、当該理論値と、除水部による濾過が行われていない状態で、患者の血液を血液流路に充填させた場合に生じる膜間圧力差とに基づいて、血液流路を流れる血液の膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値を取得するので、より簡易に膠質浸透圧又は膠質浸透圧の相関値を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る透析装置(血液浄化装置)を示す模式図
【
図3】同透析装置のプライミング工程における状態を示す模式図
【
図4】同透析装置の第1工程における状態を示す模式図
【
図5】同透析装置の治療工程における状態を示す模式図
【
図6】同透析装置の第2工程における状態を示す模式図
【
図7】同透析装置の他の形態の第2工程における状態を示す模式図
【
図8】本発明の第2の実施形態に係る透析装置(血液浄化装置)の制御内容を示すフローチャート
【
図9】本発明の他の実施形態に係る透析装置(血液浄化装置)を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
第1の実施形態に係る血液浄化装置は、透析治療を行うための透析装置から成り、
図1に示すように、動脈側血液回路1及び静脈側血液回路2を有する血液回路と、血液回路を流れる血液を浄化するダイアライザ3(血液浄化器)と、動脈側血液回路1に接続された動脈側エアトラップチャンバ5と、静脈側血液回路2に接続された静脈側エアトラップチャンバ6と、複式ポンプ7と、除水ポンプ8(除水部)と、制御部10と、膠質浸透圧取得部11と、血漿総タンパク取得部12と、表示部13と、記憶部14とを具備して構成されている。
【0032】
動脈側血液回路1には、その先端にコネクタcを介して動脈側穿刺針aが接続されるとともに、途中にしごき型の血液ポンプ4及び動脈側エアトラップチャンバ5が配設されている。静脈側血液回路2には、その先端にコネクタdを介して静脈側穿刺針bが接続されるとともに、途中に静脈側エアトラップチャンバ6が接続されている。さらに、動脈側血液回路1の先端側(コネクタc近傍)及び静脈側血液回路2の先端側(コネクタd近傍)には、それら流路をそれぞれ任意に閉塞又は開放し得る電磁弁V1及び電磁弁V2が接続されている。
【0033】
そして、透析治療時、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを患者に穿刺した状態で、血液ポンプ4を駆動させると、患者の血液は、動脈側血液回路1を通ってダイアライザ3に至った後、該ダイアライザ3によって血液浄化が施され、静脈側血液回路2を通って患者の体内に戻る。すなわち、患者の血液を血液回路の動脈側血液回路1の先端から静脈側血液回路2の先端まで体外循環させつつダイアライザ3にて浄化することにより透析治療(血液浄化治療)が行われるのである。なお、本明細書においては、血液を脱血(採血)する穿刺針の側を「動脈側」と称し、血液を返血する穿刺針の側を「静脈側」と称しており、「動脈側」及び「静脈側」とは、穿刺の対象となる血管が動脈及び静脈の何れかによって定義されるものではない。
【0034】
動脈側エアトラップチャンバ5には、上部から延びて先端が大気解放とされたオーバーフローラインLaが取り付けられており、当該動脈側エアトラップチャンバ5をオーバーフローした液体(プライミング液)を外部に排出させ得るよう構成されている。このオーバーフローラインLaには、電磁弁V3が配設されており、当該オーバーフローラインLaの流路を任意タイミングで閉塞又は開放可能とされている。
【0035】
ダイアライザ3は、その筐体部に、血液導入口3a(血液導入ポート)、血液導出口3b(血液導出ポート)、透析液導入口3c(透析液導入ポート)及び透析液導出口3d(透析液導出ポート)が形成されており、このうち血液導入口3aには動脈側血液回路1の基端が接続されるとともに、血液導出口3bには静脈側血液回路2の基端が接続されている。また、透析液導入口3c及び透析液導出口3dは、透析装置本体から延設された透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2にそれぞれ接続されている。
【0036】
ダイアライザ3内には、複数の中空糸3eが収容されており、この中空糸3eが血液を浄化するための血液浄化膜を構成している。しかして、ダイアライザ3内には、中空糸3e(血液浄化膜)を介して患者の血液が流れる血液流路(血液導入口3aと血液導出口3bとの間の流路)及び透析液が流れる透析液流路(透析液導入口3cと透析液導出口3dとの間の流路)が形成されている。そして、血液浄化膜を構成する中空糸3eには、その外周面と内周面とを貫通した微小な孔(ポア)が多数形成されて中空糸膜を形成しており、該膜を介して血液中の不純物等が透析液内に透過し得るよう構成されている。
【0037】
複式ポンプ7は、透析装置本体内において透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2に跨って配設されているとともに、透析液排出ラインL2における複式ポンプ7をバイパスするバイパスラインL3には、ダイアライザ3の血液流路を流れる患者の血液から水分を除去するための除水ポンプ8(除水部)が配設されている。この除水ポンプ8は、駆動によってダイアライザ3の血液流路に対する透析液流路の圧力を低下(陰圧)させることができるので、中空糸3e(血液浄化膜)を介して血液流路の血液から水分を濾過して透析液流路から排出することにより除水が可能とされている。また、透析液排出ラインL2には、複式ポンプ7及び除水ポンプ8をバイパスするバイパスラインL4が形成されている。このバイパスラインL4には、電磁弁V6が配設されており、当該バイパスラインL4の流路を任意タイミングで閉塞又は開放可能とされている。
【0038】
透析液導入ラインL1は、透析液をダイアライザ3に導入するための流路から成り、その一端はダイアライザ3の透析液導入口3cに接続されるとともに、他端は所定濃度の透析液を調製する透析液供給装置(不図示)に接続されている。透析液排出ラインL2は、ダイアライザ3から排出された排液を導出するための流路から成り、その一端はダイアライザ3の透析液導出口3dに接続されるとともに、他端は図示しない排液手段と接続されている。
【0039】
これにより、複式ポンプ7を駆動すると、透析液供給装置から供給された透析液が透析液導入ラインL1を流れてダイアライザ3に送液されるとともに、透析液排出ラインL2を流れて排液手段に送液されるようになっている。なお、透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2におけるダイアライザ3との接続部近傍には、それぞれ電磁弁V4及び電磁弁V5がそれぞれ配設されており、これら透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2の流路を任意タイミングで閉塞又は開放可能とされている。
【0040】
プライミング液供給ラインLbは、その一端が透析液導入ラインL1における複式ポンプ7とダイアライザ3との間の所定位置にある接続部9に接続されるとともに、他端が動脈側血液回路1における血液ポンプ4と電磁弁V1との間の所定位置に接続されている。かかるプライミング液供給ラインLbには、その流路を任意タイミングで閉塞又は開放し得る電磁弁V7が配設されており、当該電磁弁V7を開状態とすることで、透析液導入ラインL1の透析液(プライミング液)を動脈側血液回路1に供給し得るようになっている。
【0041】
また、本実施形態に係る動脈側血液回路1における基端側、静脈側血液回路2における基端側、透析液導入ラインL1における一端側及び透析液排出ラインL2における一端側のダイアライザ3に対する接続部近傍には、血液流路の液体と透析液流路の液体との間の差圧によって中空糸3e(血液浄化膜)に生じる膜間圧力差を検出可能な検出部(血液流路側入口圧検出部P1、血液流路側出口圧検出部P2、透析液流路側入口圧検出部P3及び透析液側出口圧検出部P4)がそれぞれ取り付けられている。
【0042】
すなわち、検出部は、ダイアライザ3の血液流路に対する血液の入口側の圧力を検出する血液流路側入口圧検出部P1と、当該血液流路に対する血液の出口側の圧力を検出する血液流路側出口圧検出部P2と、ダイアライザ3の透析液流路に対する透析液の入口側の圧力を検出する透析液流路側入口圧検出部P3と、当該透析液流路に対する透析液の出口側の圧力を検出する透析液流路側出口圧検出部P4とを有している。
【0043】
そして、血液流路側入口圧検出部P1の検出値をPBi、血液流路側出口圧検出部P2の検出値をPBo、透析液流路側入口圧検出部P3の検出値をPDi、透析液流路側出口圧検出部P4の検出値をPDoとすると、中空糸3e(血液浄化膜)に生じる膜間圧力差(TMP)は、以下の演算式にて求めることができる。
TMP=(PBi+PBo)/2-(PDi+PDo)/2 … 演算式
【0044】
制御部10は、透析装置本体に配設されたマイコン等から成り、電磁弁V1~V7の開閉制御やアクチュエータ類(血液ポンプ4、複式ポンプ7及び除水ポンプ8等)の駆動制御を行うためのものである。また、本実施形態に係る制御部10は、血液回路にプライミング液(本実施形態においては、プライミング液供給ラインLbにて供給される透析液)を充填させるプライミング工程(
図3参照)と、血液回路に患者の血液を体外循環させてダイアライザ3にて透析治療(血液浄化治療)を行う治療工程(
図5参照)と、透析治療後における血液回路内の血液を患者に戻す返血工程とを順次実行し得るようになっている。
【0045】
ここで、本実施形態に係る制御部10は、除水ポンプ8(除水部)による濾過が行われていない状態(除水ポンプ8が停止した状態)で、膠質浸透圧が発生しない液体を血液流路に充填させるとともに、検出部(P1~P4)にて膜間圧力差(TMPa)を求める第1工程(
図4参照)と、除水ポンプ8(除水部)による濾過が行われていない状態(除水ポンプ8が停止した状態)で、患者の血液を血液流路に充填させるとともに、検出部(P1~P4)にて膜間圧力差(TMPb)を求める第2工程(
図6参照)とを実行可能とされている。
【0046】
また、本実施形態においては、第1工程において血液流路に充填される膠質浸透圧が発生しない液体は、プライミング工程で使用されるプライミング液(本実施形態においては、プライミング液供給ラインLbにて供給される透析液)とされ、且つ、第2工程において血液流路に充填される血液は、治療工程で体外循環する血液とされる。なお、治療工程前には、ダイアライザ3の透析液流路に透析液を充填させるためのガスパージ工程が行われるようになっている。
【0047】
膠質浸透圧取得部11は、除水ポンプ8による濾過が行われていない状態で、膠質浸透圧が発生しない液体(プライミング液)を血液流路に充填させた場合に生じる膜間圧力差(TMPa)と、除水ポンプ8による濾過が行われていない状態で、患者の血液を血液流路に充填させた場合に生じる膜間圧力差(TMPb)とに基づいて、血液流路を流れる血液の膠質浸透圧(CP)を取得するもので、本実施形態においては、TMPaとTMPbとの差(TMPb-TMPa)を算出することにより、膠質浸透圧(CP)を取得可能とされている。
【0048】
なお、本実施形態においては、TMPaとTMPbとの差を算出して膠質浸透圧を取得しているが、例えばTMPa及びTMPbと膠質浸透圧(CP)との関係を示すテーブルに基づいて膠質浸透圧(CP)を取得するようにしてもよい。また、膠質浸透圧取得部11は、膠質浸透圧(CP)を取得するものに限らず、膠質浸透圧の相関値(例えば、TMPaとTMPbとの比や所定の係数を乗算した値等)を算出やテーブル参照等によって取得するものとしてもよい。
【0049】
血漿総タンパク取得部12は、膠質浸透圧取得部11にて取得された膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値に基づいて、血液中におけるアルブミン等の蛋白質の量(g/dL)を把握可能な血漿総タンパク(TP)を取得するもので、本実施形態においては、以下の関係式からTPを解くことにより算出している。
CP(膠質浸透圧)=2.1(TP)+0.16(TP)2+0.009(TP)3
【0050】
なお、本実施形態においては、上記関係式からTPを算出することにより血漿総タンパクを取得しているが、例えば血漿総タンパク(TP)と膠質浸透圧(CP)との関係を示すテーブルに基づいて血漿総タンパク(TP)を取得するようにしてもよい。また、血漿総タンパク取得部12は、血漿総タンパク(TP)を取得するものに限らず、血漿総タンパクの相関値(例えば、所定の係数を乗算した値等)を算出やテーブル参照等によって取得するものとしてもよい。
【0051】
表示部13は、液晶モニタ等の画面から成るもので、膠質浸透圧取得部11にて取得された膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値を表示し得るよう構成されている。また、本実施形態に係る表示部13は、膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値に加え、血漿総タンパク取得部12にて取得された血漿総タンパク又は当該血漿総タンパクの相関値を表示し得るよう構成されている。しかして、表示部13にて表示された膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値、更には血漿総タンパク又は当該血漿総タンパクの相関値によって、医師等医療従事者が患者の栄養状態を推定し得るようになっている。
【0052】
記憶部14は、記憶媒体から成るもので、膠質浸透圧取得部11にて取得された膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値や、血漿総タンパク取得部12にて取得された血漿総タンパク又は当該血漿総タンパクの相関値を記憶し得るよう構成されている。かかる記憶部14にて記憶された膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値、或いは血漿総タンパク又は当該血漿総タンパクの相関値は、患者の他の情報と紐付けされて記憶されるのが好ましく、本透析装置と情報を送信又は受信可能なサーバ等に送信するよう構成してもよい。
【0053】
以下、本実施形態に係る制御部10による制御内容について、
図2のフローチャートに基づいて説明する。
先ず、治療前において、プライミング工程及びガスパージ工程が実行される(S1)。かかる工程S1は、
図3に示すように、コネクタcとコネクタdとを接続して互いの流路を連通させた後、電磁弁V4、V5を閉状態、且つ、電磁弁V1~V3、V6、V7を開状態とするとともに、血液ポンプ4及び複式ポンプ7を駆動、及び除水ポンプ8を停止させた状態とすることにより行われる。
【0054】
これにより、透析液導入ラインL1の透析液(プライミング液)は、プライミング液供給ラインLbを介して血液回路に流れて充填されるとともに、オーバーフローラインLaを介して外部に流出することによりプライミング工程が行われることとなる。続いて、電磁弁V6、V7を閉状態としつつ電磁弁V4、V5を開状態とすることにより、ダイアライザ3の透析液流路に透析液が流れてガスパージ工程が行われることとなる。
【0055】
次に、除水ポンプ8(除水部)による濾過(除水)が行われていない状態で、膠質浸透圧が発生しない液体(S1のプライミング工程にて使用されたプライミング液)を血液流路に充填させるとともに、検出部(P1~P4)にて膜間圧力差(TMPa)を求める第1工程S2が実行される。具体的には、第1工程S2においては、
図4に示すように、電磁弁V3、V6、V7を閉状態、且つ、電磁弁V1、V2、V4、V5を開状態とするとともに、血液ポンプ4及び複式ポンプ7を駆動、及び除水ポンプ8の停止を維持した状態において、検出部(P1~P4)の検出値から膜間圧力差(TMPa)を算出する。
【0056】
その後、血液回路に患者の血液を体外循環させてダイアライザ3にて血液浄化治療を行う治療工程S3が行われる。かかる治療工程S3は、
図5に示すように、コネクタcとコネクタdとの接続を解除して動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを接続した後、電磁弁V3、V6、V7を閉状態、且つ、電磁弁V1、V2、V4、V5を開状態とするとともに、血液ポンプ4、複式ポンプ7及び除水ポンプ8を駆動させることにより行われる。
【0057】
これにより、患者の血液は、血液回路内のプライミング液(透析液)と置換されて体外循環するとともに、体外循環過程においてダイアライザ3により血液浄化治療が施されることとなる。また、除水ポンプ8が駆動することにより、中空糸3e(血液浄化膜)を介して血液流路の血液から水分を濾過して透析液流路から排出することができるので、除水を行うことができる。
【0058】
次に、S4にて治療開始から所定時間経過したか否か判定され、所定時間経過したと判定されると、除水ポンプ8を停止して濾過(除水)を停止する(S5)。その後、除水ポンプ8(除水部)による濾過(除水)が行われていない状態で、患者の血液を血液流路に充填させるとともに、検出部(P1~P4)にて膜間圧力差(TMPb)を求める第2工程S6が実行される。具体的には、第2工程S6においては、
図6に示すように、電磁弁V3、V6、V7を閉状態、且つ、電磁弁V1、V2、V4、V5を開状態とするとともに、血液ポンプ4及び複式ポンプ7の駆動を維持しつつ除水ポンプ8を停止させた状態において、検出部(P1~P4)の検出値から膜間圧力差(TMPb)を算出する。
【0059】
その後、膠質浸透圧取得部11による算出によって、TMPa及びTMPbから膠質浸透圧(CP)又は当該膠質浸透圧(CP)の相関値を取得し(S7)、続いて、血漿総タンパク取得部12による算出によって、取得された膠質浸透圧(CP)又は当該膠質浸透圧(CP)の相関値に基づいて、血漿総タンパク(TP)又は当該血漿総タンパク(TP)の相関値を取得する(S8)。こうして取得された膠質浸透圧(CP)又は当該膠質浸透圧(CP)の相関値、及び血漿総タンパク(TP)又は当該血漿総タンパク(TP)の相関値は、表示部13にて表示されるとともに記憶部14にて記憶される(S9)。
【0060】
このように、本実施形態においては、除水ポンプ8(除水部)による濾過が行われていない状態で、膠質浸透圧が発生しない液体(プライミング液としての透析液)を血液流路に充填させるとともに、検出部(P1~P4)にて膜間圧力差(TMPa)を求める第1工程S2と、除水ポンプ8(除水部)による濾過が行われていない状態で、患者の血液を血液流路に充填させるとともに、検出部(P1~P4)にて膜間圧力差(TMPb)を求める第2工程S6とを実行する制御部10を具備するとともに、膠質浸透圧取得部11は、第1工程S2で求められた膜間圧力差(TMPa)と第2工程S6で求められた膜間圧力差(TMPb)とに基づいて膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値を取得することができるのである。
【0061】
なお、S9において、膠質浸透圧(CP)又は当該膠質浸透圧(CP)の相関値を表示及び記憶するものであれば、血漿総タンパク(TP)又は当該血漿総タンパク(TP)の相関値を取得しない(その場合、血漿総タンパク(TP)又は当該血漿総タンパク(TP)の相関値を表示及び記憶をしない)ものとしてもよい。また、膠質浸透圧(CP)又は当該膠質浸透圧(CP)の相関値、及び血漿総タンパク(TP)又は当該血漿総タンパク(TP)の相関値を表示しつつ記憶しないもの、或いは表示しないで記憶するもの等であってもよい。さらに、膠質浸透圧(CP)又は当該膠質浸透圧(CP)の相関値、及び血漿総タンパク(TP)又は当該血漿総タンパク(TP)の相関値を表示及び記憶しないで、外部のサーバ等に送信するものであってもよい。
【0062】
しかるに、本実施形態に係る制御部10は、第1工程S2及び第2工程S6において、血液ポンプ4及び複式ポンプ7を駆動させた状態で膜間圧力差(TMPa、TMPb)を求めているが、血液ポンプ4及び複式ポンプ7を停止させた状態で膜間圧力差(TMPa、TMPb)を求めるようにしてもよい。この場合、例えば第2工程S6(第1工程S2も同様)について説明すると、
図7に示すように、電磁弁V3、V6、V7を閉状態、且つ、電磁弁V1、V2、V4、V5を開状態とするとともに、血液ポンプ4、複式ポンプ7及び除水ポンプ8を停止することにより行われる。
【0063】
かかる制御によって、血液流路及び透析液流路における液体の流れを停止させて第1工程S2及び第2工程S6を実行することができるので、血液流路及び透析液流路における液体の流れによる圧力損失や複式ポンプ7の不均衡な駆動による濾過の発生といった誤差要因を抑制することができ、膠質浸透圧又は膠質浸透圧の相関値(さらには、血漿総タンパク又は当該血漿総タンパクの相関値)をより正確に求めることができる。
【0064】
また、血液流路及び透析液流路における液体の流れを停止させることにより、動脈側血液回路1におけるダイアライザ3の上流側(入口側)と静脈側血液回路2におけるダイアライザ3の下流側(出口側)、及び透析液導入ラインL1におけるダイアライザ3の上流側(入口側)と透析液排出ラインL2におけるダイアライザ3の下流側(出口側)の液圧が略同一となるので、血液流路側入口圧検出部P1の検出値と血液流路側出口圧検出部P2の検出値の何れか一方、及び透析液流路側入口圧検出部P3の検出値と透析液流路側出口圧検出部P4の検出値の何れか一方によって、TMPa或いはTMPbを求めることができる。
【0065】
本実施形態によれば、除水ポンプ8(除水部)による濾過が行われていない状態で、膠質浸透圧が発生しない液体を血液流路に充填させた場合に生じる膜間圧力差(TMPa)と、除水ポンプ8(除水部)による濾過が行われていない状態で、患者の血液を血液流路に充填させた場合に生じる膜間圧力差とに基づいて、血液流路を流れる血液の膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値を取得するので、ダイアライザ3(血液浄化器)の中空糸3e(血液浄化膜)を利用して膠質浸透圧又は膠質浸透圧の相関値を精度よく求めることができ、患者の栄養状態を正確に推定することができる。
【0066】
また、第1工程で求められた膜間圧力差(TMPa)と第2工程で求められた膜間圧力差(TMPb)とに基づいて膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値を取得するので、ダイアライザ3(血液浄化器)の中空糸3e(血液浄化膜)を利用して膠質浸透圧又は膠質浸透圧の相関値をより円滑に求めることができる。さらに、第1工程において血液流路に充填される膠質浸透圧が発生しない液体は、プライミング工程で使用されるプライミング液とされ、且つ、第2工程において血液流路に充填される血液は、治療工程で体外循環する血液とされるので、プライミング工程で使用されるプライミング液を有効活用して膠質浸透圧又は膠質浸透圧の相関値を正確に求めることができる。
【0067】
またさらに、本実施形態に係る検出部は、ダイアライザ3(血液浄化器)の血液流路に対する血液の入口側の圧力を検出する血液流路側入口圧検出部P1と、当該血液流路に対する血液の出口側の圧力を検出する血液流路側出口圧検出部P2と、ダイアライザ3(血液浄化器)の透析液流路に対する透析液の入口側の圧力を検出する透析液流路側入口圧検出部P3と、当該透析液流路に対する透析液の出口側の圧力を検出する透析液流路側出口圧検出部P4とを有するので、通常の血液浄化装置が具備する検出部を有効活用して、膠質浸透圧又は膠質浸透圧の相関値を求めるための膜間圧力差を正確且つ容易に検出することができる。
【0068】
また、本実施形態によれば、取得された膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値に基づいて、血漿総タンパク又は当該血漿総タンパクの相関値を取得するので、患者の栄養状態の指標として膠質浸透圧又は膠質浸透圧の相関値に加え、血漿総タンパク又は当該血漿総タンパクの相関値を取得して患者の栄養状態をより的確に把握させることができる。なお、取得された膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値に基づいて、患者の栄養状態を推定し得る他の指標を求めるようにしてもよい。
【0069】
次に、本発明に係る第2の実施形態について説明する。
本実施形態に係る血液浄化装置は、第1の実施形態と同様、透析治療を行うための透析装置から成り、
図1に示すように、動脈側血液回路1及び静脈側血液回路2を有する血液回路と、血液回路を流れる血液を浄化するダイアライザ3(血液浄化器)と、動脈側血液回路1に接続された動脈側エアトラップチャンバ5と、静脈側血液回路2に接続された静脈側エアトラップチャンバ6と、複式ポンプ7と、除水ポンプ8(除水部)と、制御部10と、膠質浸透圧取得部11と、血漿総タンパク取得部12と、表示部13と、記憶部14とを具備して構成されている。なお、装置構成については、第1の実施形態と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0070】
本実施形態においては、血液回路が所定の位置に固定されるよう構成されており、検出部(P1~P4)が予め決められた所定位置に配設されるようになっている。そして、除水ポンプ8(除水部)による濾過が行われていない状態で、膠質浸透圧が発生しない液体(プライミング液としての透析液)を血液流路に充填させた場合に生じる膜間圧力差(TMPa)を理論値として記憶部14で記憶し得るとともに、膠質浸透圧取得部11は、当該理論値と、除水ポンプ8(除水部)による濾過が行われていない状態で、患者の血液を血液流路に充填させた場合に生じる膜間圧力差(TMPb)とに基づいて、血液流路を流れる血液の膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値を取得可能とされている。
【0071】
以下、本実施形態に係る制御部10による制御内容について、
図8のフローチャートに基づいて説明する。
先ず、除水ポンプ8による濾過が行われていない状態で、膠質浸透圧が発生しない液体を血液流路に充填させた場合に生じる膜間圧力差(TMPa)を理論値として記憶部14に予め記憶させておく。そして、治療前において、プライミング工程及びガスパージ工程が実行される(S1)。かかる工程S1は、
図3に示すように、コネクタcとコネクタdとを接続して互いの流路を連通させた後、電磁弁V4、V5を閉状態、且つ、電磁弁V1~V3、V6、V7を開状態とするとともに、血液ポンプ4及び複式ポンプ7を駆動、及び除水ポンプ8を停止させた状態とすることにより行われる。
【0072】
これにより、透析液導入ラインL1の透析液(プライミング液)は、プライミング液供給ラインLbを介して血液回路に流れて充填されるとともに、オーバーフローラインLaを介して外部に流出することによりプライミング工程が行われることとなる。続いて、電磁弁V6、V7を閉状態としつつ電磁弁V4、V5を開状態とすることにより、ダイアライザ3の透析液流路に透析液が流れてガスパージ工程が行われることとなる。
【0073】
その後、血液回路に患者の血液を体外循環させてダイアライザ3にて血液浄化治療を行う治療工程S2が行われる。かかる治療工程S2は、
図5に示すように、コネクタcとコネクタdとの接続を解除して動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを接続した後、電磁弁V3、V6、V7を閉状態、且つ、電磁弁V1、V2、V4、V5を開状態とするとともに、血液ポンプ4、複式ポンプ7及び除水ポンプ8を駆動させることにより行われる。
【0074】
これにより、患者の血液は、血液回路内のプライミング液(透析液)と置換されて体外循環するとともに、体外循環過程においてダイアライザ3により血液浄化治療が施されることとなる。また、除水ポンプ8が駆動することにより、中空糸3e(血液浄化膜)を介して血液流路の血液から水分を濾過して透析液流路から排出することができるので、除水を行うことができる。
【0075】
次に、S3にて治療開始から所定時間経過したか否か判定され、所定時間経過したと判定されると、除水ポンプ8を停止して濾過(除水)を停止する(S4)。その後、除水ポンプ8(除水部)による濾過(除水)が行われていない状態で、患者の血液を血液流路に充填させるとともに、検出部(P1~P4)にて膜間圧力差(TMPb)を求める第2工程S5が実行される。具体的には、第2工程S5においては、
図6に示すように、電磁弁V3、V6、V7を閉状態、且つ、電磁弁V1、V2、V4、V5を開状態とするとともに、血液ポンプ4及び複式ポンプ7の駆動を維持しつつ除水ポンプ8を停止させた状態において、検出部(P1~P4)の検出値から膜間圧力差(TMPb)を算出する。
【0076】
その後、膠質浸透圧取得部11による算出によって、予め記憶した理論値であるTMPa及び実測値であるTMPbから膠質浸透圧(CP)又は当該膠質浸透圧(CP)の相関値を取得し(S6)、続いて、血漿総タンパク取得部12による算出によって、取得された膠質浸透圧(CP)又は当該膠質浸透圧(CP)の相関値に基づいて、血漿総タンパク(TP)又は当該血漿総タンパク(TP)の相関値を取得する(S7)。こうして取得された膠質浸透圧(CP)又は当該膠質浸透圧(CP)の相関値、及び血漿総タンパク(TP)又は当該血漿総タンパク(TP)の相関値は、表示部13にて表示されるとともに記憶部14にて記憶される(S8)。
【0077】
本実施形態によれば、検出部(P1~P4)が予め決められた所定位置に配設されるものとされ、且つ、除水ポンプ8(除水部)による濾過が行われていない状態で、膠質浸透圧が発生しない液体を血液流路に充填させた場合に生じる膜間圧力差(TMPa)を理論値として記憶するとともに、当該理論値と、除水ポンプ8(除水部)による濾過が行われていない状態で、患者の血液を血液流路に充填させた場合に生じる膜間圧力差(TMPb)とに基づいて、血液流路を流れる血液の膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値を取得するので、膜間圧力差(TMPa)を実測値として取得することが不要となり、より簡易に膠質浸透圧又は膠質浸透圧の相関値を求めることができる。
【0078】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば
図9に示すように、プライミング液供給ラインLbに代えて、生理食塩液を収容したバッグD(生食バッグ)に接続されたプライミング液供給ラインLcとし、生理食塩液をプライミング液として供給可能なものに適用してもよい。この場合、膠質浸透圧が発生しない液体として、プライミング液としての生理食塩液を使用するのが好ましい。なお、膠質浸透圧が発生しない液体として、透析液や生理食塩液とは異なる他の液体を用いるものとしてもよい。
【0079】
また、膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値の取得は、治療初期の1回に限らず、治療中に第2工程を複数回行って、その都度、膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値を取得するようにしてもよい。また、本実施形態においては、透析治療時に用いられる透析装置に適用しているが、患者の血液を体外循環させつつ浄化し得る他の装置(例えば血液濾過透析法、血液濾過法、AFBFで使用される血液浄化装置、血漿吸着装置など)に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
除水部による濾過が行われていない状態で、膠質浸透圧が発生しない液体を血液流路に充填させた場合に生じる膜間圧力差と、除水部による濾過が行われていない状態で、患者の血液を血液流路に充填させた場合に生じる膜間圧力差とに基づいて、血液流路を流れる血液の膠質浸透圧又は当該膠質浸透圧の相関値を取得する血液浄化装置及び血液浄化装置による患者の栄養状態の推定方法であれば、他の形態及び用途のものにも適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 動脈側血液回路
2 静脈側血液回路
3 ダイアライザ(血液浄化器)
3a 血液導入口
3b 血液導出口
3c 透析液導入口
3d 透析液排出口
3e 中空糸(血液浄化膜)
4 血液ポンプ
5 動脈側エアトラップチャンバ
6 静脈側エアトラップチャンバ
7 複式ポンプ
8 除水ポンプ(除水部)
9 接続部
10 制御部
11 膠質浸透圧取得部
12 血漿総タンパク取得部
13 表示部
14 記憶部
P1 血液流路側入口圧検出部
P2 血液流路側出口圧検出部
P3 透析液流路側入口圧検出部
P4 透析液流路側出口圧検出部
L1 透析液導入ライン
L2 透析液排出ライン
L3 バイパスライン
L4 バイパスライン
La オーバーフローライン
Lb プライミング液供給ライン