(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】地盤の強度推定方法
(51)【国際特許分類】
E02D 1/08 20060101AFI20220922BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20220922BHJP
G01N 3/40 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
E02D1/08
E02D3/12 102
G01N3/40 B
(21)【出願番号】P 2018145436
(22)【出願日】2018-08-01
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 真貴子
(72)【発明者】
【氏名】石井 裕泰
(72)【発明者】
【氏名】藤原 斉郁
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-011353(JP,A)
【文献】特開平11-013047(JP,A)
【文献】特開2011-045333(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0257920(US,A1)
【文献】特開2001-289771(JP,A)
【文献】特開平10-090150(JP,A)
【文献】特開2006-329809(JP,A)
【文献】内田直人、外1名,針貫入試験による深層混合改良体の強度評価手法の体系化,土木学会第60回年次学術講演会,3-023,日本,社団法人土木学会,2005年09月,第45-46頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00-1/08
G01N 3/00-3/62
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に針貫入試験を行った際の針貫入量Lに対する針貫入荷重Pの比率である針貫入勾配N
pを用いて、地盤の推定一軸圧縮強さq
uの常用対数を該針貫入勾配N
pの常用対数の一次関数で求める推定
式を、複数回の針貫入試験により得られる前記針貫入勾配N
pのばらつき
である標準偏差N
p-stdev
もしくは変動係数N
p-cv
により補正して補正推定式とし、該補正推定式により地盤の強度を推定する
方法であり、
針貫入勾配N
p、標準偏差N
p-stdev、変動係数N
p-cvを説明変数とし、地盤の推定一軸圧縮強さq
uを目的変数とする式に対して回帰分析を実行することにより、前記補正推定式を以下の式(A)、(B)、(C)のいずれかに設定し、該補正推定式に基づいて地盤の強度を推定することを特徴とする、地盤の強度推定方法。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の強度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤に対して、セメントや薬液等の固化材料を注入して混合もしくは攪拌することにより当該軟弱地盤を強化する地盤改良方法において、改良地盤が設計上必要とされる品質を確保していることを確認する必要がある。通常、改良地盤の品質管理法としては、改良地盤からボーリングによってコアを採取し、ボーリングコアに対して一軸圧縮試験を行うことにより強度を評価する方法が適用される。しかしながら、このようにボーリングコアに対して一軸圧縮試験を行う品質管理法では、評価に多大な時間と労力や手間を要するといった課題、不撹乱試料の採取に熟練した技術を要するといった課題、さらには、多くの試料を採取することが現実的でないといった課題がある。
そこで、非特許文献1であるJGS3431-2012には、ボーリングコアを用いた品質管理法に代わり、簡易に一軸圧縮強さを推定できる手法として針貫入試験が基準化されている。針貫入試験は、「もめん針2号 大くけ針(φ0.84mm又は0.89mm,長さ54.5±1.4mm)」を試料に貫入し、針の貫入長さLと貫入荷重Pを測定し、針貫入量Lに対する針貫入荷重Pの比率である針貫入勾配Np(=P/L)を求める試験である。非特許文献1において、針貫入勾配Npから試料の一軸圧縮強さquを推定する場合、その図-10.4.1乃至図-10.4.3に示されるように両対数グラフ(常用対数グラフ)にて整理することができ、以下の式(1)により求められるとしている。
【0003】
【数1】
針貫入試験の結果から試料の一軸圧縮強さq
uを推定する場合には上記の式(1)に従うものとし、然るべきキャリブレーションを実施して両者の関係を決定するものとされている。尚、対象の試験範囲が狭い場合には、普通算術目盛でキャリブレーションを整理し、推定式を求めてもよいとされている。
【0004】
また、特許文献1には、針貫入試験に適用されるペネトロメータが提案されている。具体的には、先端に針を結着した貫入杆を、把持筒に進退可能で弾発ばねにて弾発させて貫入杆の先端側が常に把持筒から突出する状態に挿着し、把持筒から突出する貫入杆の根部外面に荷重目盛を設け、把持筒の先端に荷重目盛を読取るための指標リングを備えている。さらに、針を試験体に押付ける際にその先端が試験体に当接して貫入杆に対し後退する移動片を貫入杆の先端に設け、移動片と針の先端を一致させた状態を0位置とする長さ目盛を、荷重目盛と同一方向から読取り得る側の貫入杆の先端外面に備えている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】地盤工学会基準、基準番号:JGS3431-2012、規格・基準名:針貫入試験方法
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
改良地盤の強度は一般に均一でなく、固化材が多い箇所と少ない箇所が存在し、また、石の存在等による影響も大きく、これらが複合して改良地盤の強度にはばらつきが存在する。しかしながら、上記するようにペネトロメータを用いた針貫入試験の結果から試料の一軸圧縮強さquを推定する方法においては、この強度のばらつきが考慮されておらず、改良地盤の強度の推定精度には改善の余地が十分にある。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、地盤強度の推定精度を高めることのできる地盤の強度推定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による地盤の強度推定方法の一態様は、
地盤に針貫入試験を行った際の針貫入量Lに対する針貫入荷重Pの比率である針貫入勾配Npを用いて、地盤の推定一軸圧縮強さquの常用対数を該針貫入勾配Npの常用対数の一次関数で求める推定式、もしくは、地盤の推定一軸圧縮強さquを該針貫入勾配Npの一次関数で求める推定式を、複数回の針貫入試験により得られる前記針貫入勾配Npのばらつきにより補正して補正推定式とし、該補正推定式により地盤の強度を推定することを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、地盤の推定一軸圧縮強さquを針貫入勾配Npの関数で求める推定式を、複数回の針貫入試験により得られる針貫入勾配Npのばらつきにより補正してなる補正推定式を用いて推定することにより、改良地盤の強度の推定精度を高めることが可能になる。ここで、推定される地盤は、改良前の原地盤であってもよいし、セメントや薬液等の固化材料により改良された改良地盤であってもよい。また、補正推定式の基になる推定式は、地盤の推定一軸圧縮強さquの常用対数を針貫入勾配Npの常用対数の一次関数で求める推定式であってもよいし、地盤の推定一軸圧縮強さquを針貫入勾配Npの一次関数で求める推定式であってもよい。本発明者等は、原地盤もしくは改良地盤(改良体)が均一でなく、ばらつきが大きいほど一軸圧縮強さが低下することを実験により明らかにしている。そして、針貫入試験で得られた針貫入勾配(複数の針貫入勾配の平均値を含む)に加えて、針貫入勾配のばらつきを推定式に取り入れ、ばらつきによって推定式を補正することにより、地盤強度の推定精度が高まることを見出している。「針貫入勾配Npのばらつき」の指標としては、標準偏差や変動係数等が挙げられる。
【0010】
また、本発明による地盤の強度推定方法の他の態様は、針貫入勾配Np、標準偏差Np-stdev、変動係数Np-cvを説明変数とし、地盤の推定一軸圧縮強さquを目的変数とする式に対して回帰分析を実行することにより、前記補正推定式を以下の式(A)、(B)、(C)のいずれかに設定し、該補正推定式に基づいて地盤の強度を推定することを特徴とする。
【0011】
【数2】
本態様によれば、回帰分析により求められた複数の補正推定式のいずれかを用いることにより、地盤の推定一軸圧縮強さq
uを精度よく推定することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上の説明から理解できるように、本発明の地盤の強度推定方法によれば、地盤強度の推定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は、先行研究による針貫入勾配測定結果の深度分布を示す図であり、(b)は、本発明者等による針貫入勾配測定結果の深度分布を示す図である。
【
図2】机上型針貫入試験装置を供試体と共に示す写真図である。
【
図3】供試体における針貫入箇所を説明する図であって、(a)は平面図であり、(b)は側面図である。
【
図4】(a)乃至(d)はそれぞれ、No.1供試体乃至No.4供試体の貫入長さと貫入荷重の関係図及び針貫入勾配の頻度分布図である。
【
図5】(a)乃至(d)はそれぞれ、No.5供試体乃至No.8供試体の貫入長さと貫入荷重の関係図及び針貫入勾配の頻度分布図である。
【
図6】(a)、(d)はそれぞれ、No.9供試体、No.10供試体の貫入長さと貫入荷重の関係図及び針貫入勾配の頻度分布図である。
【
図7】セメント改良土を対象とした既往データと、本実験による各供試体で得られたデータによる、針貫入勾配と一軸圧縮強さの関係を示す図であって、相関式(1)と共に示す図である。
【
図8】相関式(1)で得られた推定一軸圧縮強さと実測一軸圧縮強さの関係を示す図である。
【
図9】本実験による平均針貫入勾配と実測一軸圧縮強さの関係を示す図であって、相関式(2)と共に示す図である。
【
図10】針貫入勾配と一軸圧縮強さの関係を示す図であって、補正推定式の一例である補正推定式(1)と共に示す図である。
【
図11】相関式(2)で得られた推定一軸圧縮強さと実測一軸圧縮強さの関係を示す図である。
【
図12】補正推定式の一例である補正推定式(1)で得られた推定一軸圧縮強さと実測一軸圧縮強さの関係を示す図である。
【
図13】補正推定式の他の例である補正推定式(2)において、変動係数0.1乃至0.4に対応する近似線を示す図である。
【
図14】補正推定式(2)で得られた推定一軸圧縮強さと実測一軸圧縮強さの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態に係る地盤の強度推定方法について、添付の図面を参照しながら説明する。
[実施形態に係る地盤の強度推定方法]
はじめに、実施形態に係る地盤の強度推定方法について説明する。この強度推定方法は、地盤に針貫入試験を行った際の針貫入量Lに対する針貫入荷重Pの比率である針貫入勾配Npを用いる。ここで、対象となる地盤は、改良前の原地盤であってもよいし、セメントや薬液等の固化材料を注入して混合もしくは攪拌することにより軟弱地盤等の原地盤が改良された改良地盤であってもよいが、改良地盤の強度推定において好適である。
【0015】
本実施形態では、針貫入勾配Npを用いて、地盤の推定一軸圧縮強さquの常用対数を針貫入勾配Npの常用対数の一次関数で求める推定式、もしくは、地盤の推定一軸圧縮強さquを該針貫入勾配Npの一次関数で求める推定式を、複数回の針貫入試験により得られる針貫入勾配Npのばらつきにより補正して補正推定式とし、この補正推定式により地盤の強度を推定する。
【0016】
より具体的には、針貫入勾配Np、標準偏差Np-stdev、変動係数Np-cvを説明変数とし、地盤の推定一軸圧縮強さquを目的変数とする式に対して回帰分析を実行する。そして、この回帰分析により、補正推定式を以下の式(2)乃至(4)のいずれかに設定し、いずれかの補正推定式に基づいて地盤の強度を推定する。
【0017】
【0018】
地盤の推定一軸圧縮強さquを針貫入勾配Npの関数で求める推定式を、複数回の針貫入試験により得られる針貫入勾配Npのばらつきにより補正してなる補正推定式(2)乃至(4)のいずれかを用いて推定することにより、改良地盤の強度の推定精度を高めることができる。
【0019】
[針貫入実験、針貫入実験に基づく補正推定式の特定]
本発明者等は針貫入実験を行うとともに、過去の先行研究をも適宜参照しながら、針貫入実験や先行研究に基づいて地盤の強度推定方法に適用される補正推定式を特定した。以下、針貫入実験を詳細に説明するとともに、針貫入実験に基づいて特定された補正推定式の精度について説明する。
【0020】
<はじめに>
セメント改良土の品質管理においては、ボーリングコアを用いた一軸圧縮試験による強度評価が一般的である。しかしながら、この作業には多大な時間と労力、及び手間を要する。そこで、評価法の合理化に向けて針貫入勾配から換算一軸圧縮強さを推定できる針貫入試験の活用に着目するが、針貫入勾配が局所的な弱部や強部を拾う可能性や測定結果そのものの信頼性、さらには、現状必ずしも十分とは言えない一軸圧縮強さの推定精度が改善すべき課題として挙げられる。そこで、本実験では、針貫入測定が持つばらつきの実態把握を行い、換算処理に関わる基礎データを先行研究から収集すると共に、一軸圧縮強さへの換算方法を検討し、推定一軸圧縮強さを求める補正推定式を特定することとする。また、測定に当たり、高い測定精度と信頼度を確保するべく、先行研究で多用される「携行型」に代わり「机上型」貫入試験装置を活用する。ここで、「携行型」とは、測定器を手作業でコア箱内の改良体に押付けて針を貫入し、その際のバネの縮みから貫入時の最大荷重を検出するものであり、コア観察に際して簡易に測定が行えることが特長となる。一方、「机上型」とは、測定誤差要因を極力排除してデータの信頼度をより高めるべく、供試体を架台に固定し、機械で制御する針貫入試験方法である。
【0021】
<先行研究について>
針貫入試験を実務での強度・品質管理に直接的に役立てる試みとして、内田ら(針貫入試験による深層混合改良体の強度評価手法の体系化,土木学会第60回年次学術講演会、pp.45-46、2005.)は、有明粘土層において原位置改良した地盤改良体のボーリングコアを対象に、一軸圧縮試験、及び携行型針貫入試験を実施した。その結果を
図1(a)に示す。
【0022】
一軸圧縮試験はボーリングコアの深度方向に1m間隔で実施し、針貫入試験は10cm間隔で実施し、針貫入勾配と同一箇所での一軸圧縮強さとの相関式より、針貫入勾配を一軸圧縮強さに換算した。強度・品質管理においては必要測定数を特定することが求められることから、換算一軸圧縮強さの深度分布が実測一軸圧縮強さの分布に調和できる条件として、20cm間隔3測定点の移動平均での把握を推奨した。
【0023】
<実験方法について>
上記取り組みを踏まえ、本発明者等は、ローム層(Lm)、洪積粘土層(Dc)、洪積砂質土層(Ds)を原位置改良した固化体を測定対象とし、先行研究に準じた
図1(b)に示す測定結果を得た。本検討は、さらにDs層を対象に、以下(イ)、(ロ)に詳述する通り、「机上型」針貫入試験を活用の上、多点データの測定にあたるものである。
【0024】
(イ)机上型針貫入試験の活用:上記先行研究でも利用された「携行型」は簡易に測定を行えることがメリットである反面、供試体側面に対する貫入の鉛直性や貫入速度の一律性が確保しにくい点が欠点となる。そこで、こうした測定誤差要因を極力排除し、データの信頼度をより高めるべく、
図2に示すように供試体を架台に固定して機械で制御する、「机上型」針貫入試験方法を採用した。測定に際しては、地盤工学会基準に基づき、貫入針はもめん針2号(φ=0.84mm)を用い、貫入速度は20mm/minとし、針の貫入長さが10mmに達するか、あるいは貫入荷重が最大に達した時点の貫入荷重P(N)と貫入長さL(mm)により針貫入勾配Np(N/mm)をP/Lにより算出した。
【0025】
(ロ)多点データの測定:マスとしての一軸圧縮強さに比べて針貫入勾配は局所的な特性値となることを考慮し、一軸圧縮試験用供試体内で針貫入勾配のばらつきの実態を把握することとした。針貫入勾配の測定に当たり、
図3に示す通り、一軸圧縮試験供試体の円周方向と深度方向に均等な間隔で5点×5深度=25点測定することにより針貫入勾配の実態把握にあたると共に、一軸圧縮強さへの換算や評価への反映を試みることとした。測定対象は
図1(b)に示すDs層から採取した、No.1供試体乃至No.10供試体とし、各々の一軸圧縮試験実施前に各25点で総計250点の貫入量と貫入勾配の関係を収集した。
【0026】
<試験結果>
図4乃至
図6において、No.1供試体乃至No.10供試体における25測点の貫入長さと貫入荷重の関係、及び針貫入勾配の頻度分布を示す。
【0027】
図4乃至
図6より、針貫入勾配測定の実態として、多くは貫入長さ10mmに達するまでほぼ直線的に貫入荷重が増加していたが、礫など局所的な高強度部に当たって針が降伏・破断するケース(No.3、No.8)や、貫入過程での強度変化に伴い変曲点を有するケース(No.4)も見受けられた。この種のデータについては、将来的には強度評価への反映が可能であるが、針貫入勾配を上記P/Lで算定したところ、その範囲は3N/mm乃至90N/mmに分布し、最大値と最小値の比は30倍に及んだ。また、各供試体で得られた針貫入勾配25点の変動係数CV1は、
図4乃至
図6中に併記のとおり0.1乃至0.4となり、同一土層ながら今回測定対象の10個の供試体間でばらつき度合いに相違が生じた。その要因として、対象地盤の性状のばらつきなどの原位置地盤の影響や、セメントの混合度合いなどの施工面での影響が考えられる。
過去の検討においては針貫入勾配N
pと一軸圧縮強さq
uは両対数(常用対数)軸上の線形式で関連づけられ、一軸圧縮強さq
uの推定に活用されている。セメント改良土を対象とした既往データ(岡田ら:針貫入試験による軟弱な地山強度の推定、土と基礎、Vol.33、No.2、pp.35-38、1985.)に対して、本実験による各供試体で得られた平均N
pと実測q
uを
図7にプロットしたところ、分布傾向及び分布幅とも調和し、本実験を含めた近似式として図中に付記した相関式(1)を確認した。但し、本実験で得られた測定結果10点について実測と相関式(1)で得た推定q
uの関係は、
図8に示すように±50%程度の誤差を生じ、q
uの推定方法としては改善の余地を残している。
【0028】
<補正推定式についての考察>
(対象別相関式による強度推定)
図7によるN
pとq
uの関連付けは一般化と汎用利用を意図し、一軸圧縮強さの範囲は300kN/m
2乃至20000kN/m
2に及ぶ。これに対して、上記する先行研究でも採用される通り、評価対象の現場や土質別に相関を特定することにより、より一層精度の高い推定式(補正推定式)を得ることができる。本実験で得られた測定結果10点に限定した相関は
図9に示すようになり、
図7と異なる相関式(2)を得る。加えて本実験では、一軸圧縮供試体内でのN
pのばらつきを把握していることから、相関式について以下のように考察した。すなわち、改良土強度の寸法影響に関し、対象改良土強度のばらつき評価において、その変動係数が大きいほど供試体寸法増加に伴う強度低減の割合が大きいと推察される。これは、ばらつきが大きいほど供試体内に潜在的な弱部が存在することになり、i)載荷荷重に応じて早い段階で局所的な破壊が進展し、そのことがピーク強度の低減につながること、ii)供試体が大きくなるほど弱部の絶対数が増加することからピーク強度の低減度合いが顕著になること、に依拠する。ここで、本実験で得た1供試体あたり25点のN
pが上記の潜在的な弱部の定量把握を代替していると考えれば、平均N
pに加えてN
pのばらつき度合いも実測q
uとの相関に影響するとの解釈に至り得る。そこで、N
pの標準偏差と各一軸圧縮強さの関係を
図10にまとめたところ、ばらつき度合いの増加に応じてq
uが低減することとなった。以上を踏まえ、平均N
p(N
p-ave)とN
pの標準偏差(N
p-stdev)を説明変数とし、目的変数となるq
uに対して重回帰分析を行うことにより以下の補正推定式(1)(式(5))を得た。
【0029】
【0030】
上記する相関式(2)及び補正推定式(1)(式(5))による推定q
uと実測q
uの関係を、それぞれ
図11と
図12に示す。多点データ測定を通して得られたN
pのばらつきを定量的に考慮することにより、推定精度の向上が期待でき、本結果では概ね±20%の精度を確保することが見込まれる。
【0031】
(汎用相関式による強度推定)
以上の考察により、一軸圧縮強さquの推定においてNpのばらつきを考慮することの有効性を確認しているが、ここでは、汎用利用を想定する相関式(1)の精度向上の可能性を考察する。相関式(1)中のNpを含む項は踏襲する一方で、切片についてはNpのばらつきに応じて変動するとの仮定に一定の合理性が見出せると考え、Npの変動係数Np-cvの影響を、係数a,b,cを介して以下の補正推定式(2)(式(6))にて考慮することとした。
【0032】
【0033】
ここで、係数aはN
p-cv=1の場合の切片に相当する。本実験にて測定した10供試体について、実測値と上記推定値の残差2乗和を最小とする係数を特定したところ、a=2.792、b=3.097、c=2.479となり、N
p-cv=0.1乃至0.4に対応する近似線は
図13のようになる。さらに、本式による推定q
uと実測q
uとの関係は
図14に示すようになり、概ね誤差20%に収まる結果となる。±50%程度の誤差を生じていた上記する
図8と比べると信頼度の向上が認められ、N
pのばらつきを考慮する汎用推定式の一形態として活用性が期待される。
【0034】
<まとめ>
本実験では、まず、「机上型」貫入試験装置を用いて多点の針貫入勾配を測定し、貫入針の破断を含む測定の実態を明らかにした。加えて、本測定データを基に針貫入勾配のばらつきを一軸圧縮強さの推定に反映することにより、検討対象別相関式、及び汎用相関式による強度推定精度を向上できる可能性を明示した。
【0035】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本発明はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。