(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置及び内燃機関の制御方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20220922BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
F02D45/00
F02D43/00 301H
F02D43/00 301B
F02D43/00 301Z
F02D43/00 301R
F02D43/00 301U
(21)【出願番号】P 2018154508
(22)【出願日】2018-08-21
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】南波 昇吾
(72)【発明者】
【氏名】押領司 一浩
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 匡行
(72)【発明者】
【氏名】小島 啓
(72)【発明者】
【氏名】池本 明夫
(72)【発明者】
【氏名】中間 健二郎
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-140728(JP,A)
【文献】特開2011-241716(JP,A)
【文献】特開2018-025120(JP,A)
【文献】特開2011-235726(JP,A)
【文献】特開2015-098786(JP,A)
【文献】特開2004-263663(JP,A)
【文献】特開2004-239217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、燃焼室に燃料を供給して可燃混合気を形成する燃料制御手段と、前記燃焼室の中の可燃混合気に点火する点火制御手段と、前記燃焼室に設けられた吸気バルブと排気バルブの開閉位相を変更する吸排気可変バルブ機構とを備えた内燃機関に使用され、前記点火制御手段による予混合火花点火燃焼(以下、SI燃焼と表記する)と、ピストンの圧縮作用による予混合圧縮着火燃焼(以下、HCCI燃焼と表記する)とを切り換えて制御する制御手段を備えた内燃機関の制御装置において、
前記制御手段は、前記SI燃焼を行なうSI燃焼制御モードから前記HCCI燃焼を行なうHCCI燃焼制御モードに切り換える時に、少なくとも、前記燃料制御手段による燃料噴射量、前記点火制御手段による点火時期、及び前記吸排気可変バルブ機構による開閉位相を制御して、前記HCCI燃焼に移行する過程で前記燃焼室内の混合気の圧縮端温度を高めてHCCI燃焼制御モードに移行させる昇温制御を実行する
ものであり、
前記制御手段は、前記SI燃焼制御モードから前記HCCI燃焼を行なうHCCI燃焼制御モードへの変更が要請されて切り換える時に、前記昇温制御として、
前記燃料制御手段による燃料の供給と、前記点火制御手段による点火と、前記吸排気可変バルブ機構によるネガティブバルブオーバーラップ(以下、N-O/Lと表記する)によって昇温を行なう昇温SI燃焼制御モードによる燃焼サイクルと、
前記昇温SI燃焼制御モードによる燃焼サイクルに続く、前記燃料制御手段による燃料の停止と、前記点火制御手段による点火の停止と、前記吸排気可変バルブ機構によるN-O/Lによって昇温を行なう昇温中間燃焼制御モードによる燃焼サイクルと、
前記昇温中間燃焼制御モードによる燃焼サイクルに続く、前記燃料制御手段による燃料の供給と、前記点火制御手段による点火と、前記吸排気可変バルブ機構によるN-O/Lによって昇温を行なう昇温切り換え燃焼制御モードによる燃焼サイクルと
を実行して前記HCCI燃焼制御モードに移行させる
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、
前記制御手段は、
前記昇温SI燃焼制御モードにおける可燃混合気の筒内ガス燃料比を、量論混合比の近傍の筒内ガス燃料比に制御し、また、前記昇温SI燃焼制御モードにおける点火時期を、前記SI燃焼制御モードでの点火時期より遅角した点火時期に制御し、
前記昇温切り換え燃焼制御モードにおける可燃混合気の筒内ガス燃料比を、量論混合比の近傍の筒内ガス燃料比に制御し、また、前記昇温切り換え燃焼制御モードにおける点火時期を、前記SI燃焼制御モードでの点火時期より遅角した点火時期に制御する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関の制御装置において、
前記制御手段は、
前記昇温SI燃焼制御モードにおける点火時期と、前記昇温切り換え燃焼制御モードでの点火時期を同じに設定する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、
前記制御手段は、
前記昇温SI燃焼制御モードにおける可燃混合気の筒内ガス燃料比を、量論混合比の近傍の筒内ガス燃料比に制御し、また、前記昇温SI燃焼制御モードにおける点火時期を、前記SI燃焼制御モードでの点火時期より遅角した点火時期に制御し、
前記昇温切り換え燃焼制御モードにおける可燃混合気の筒内ガス燃料比を、量論混合比より希薄な筒内ガス燃料比に制御し、また、前記昇温切り換え燃焼制御モードにおける点火時期を、前記SI燃焼制御モードでの点火時期より遅角し、かつ前記昇温SI燃焼制御モードにおける点火時期より進角した点火時期にする制御する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項2或いは請求項4に記載の内燃機関の制御装置において、
前記制御手段は、
前記SI燃焼制御モードから前記HCCI燃焼制御モードに移行する時に過給機を作動させる
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項6】
請求項2或いは請求項4に記載の内燃機関の制御装置において、
前記制御手段は、
前記SI燃焼制御モードから前記HCCI燃焼制御モードに移行する時に、過給機の下流に設けたインタークーラを通った空気量を減少し、前記インタークーラを通らない空気量を増加する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項7】
少なくとも、燃焼室に燃料を供給して可燃混合気を形成する燃料制御手段と、前記燃焼室の中の可燃混合気に点火する点火制御手段と、前記燃焼室に設けられた吸気バルブと排気バルブの開閉位相を変更する吸排気可変バルブ機構とを備えた内燃機関に使用され、前記点火制御手段による予混合火花点火燃焼(以下、SI燃焼と表記する)と、ピストンの圧縮作用による予混合圧縮着火燃焼(以下、HCCI燃焼と表記する)とを切り換えて制御する制御手段を備えた内燃機関の制御方法において、
前記制御手段は、前記SI燃焼制御モードから前記HCCI燃焼を行なうHCCI燃焼制御モードへの変更が要請されて切り換える時に、
前記燃料制御手段による燃料の供給と、前記点火制御手段による点火と、前記吸排気可変バルブ機構によるネガティブバルブオーバーラップ(以下、N-O/Lと表記する)によって昇温を行なう昇温SI燃焼制御モードによる燃焼サイクルを実行し、
前記昇温SI燃焼制御モードによる燃焼サイクルに続く、前記燃料制御手段による燃料の停止と、前記点火制御手段による点火の停止と、前記吸排気可変バルブ機構によるN-O/Lによって昇温を行なう昇温中間燃焼制御モードによる燃焼サイクルを実行し、
前記昇温中間燃焼制御モードによる燃焼サイクルに続く、前記燃料制御手段による燃料の供給と、前記点火制御手段による点火と、前記吸排気可変バルブ機構によるN-O/Lによって昇温を行なう昇温切り換え燃焼制御モードによる燃焼サイクルとを実行して前記HCCI燃焼制御モードに移行させる
ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の制御装置及び制御方法に係り、特に、予混合火花点火燃焼方式と、予混合圧縮着火燃焼方式を切り換える内燃機関の制御装置及び制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
点火プラグによる予混合火花点火燃焼方式を採用した内燃機関は、熱効率の向上を目的として圧縮比を高め過ぎると、例えば、ノッキングやプレイグニションと呼ばれる異常燃焼を発生するため、高圧縮比化による熱効率の向上には限界がある。そこで、新気や排気ガスによって希釈された希薄な可燃混合気を、ピストンで圧縮して自己着火燃焼を行う予混合圧縮着火燃焼方式を採用した内燃機関の開発が進められている。
【0003】
尚、以下の説明では図面も含めて、予混合火花点火燃焼を「SI燃焼」(Spark Igition)と表記し、予混合圧縮着火燃焼を「HCCI燃焼」(Homogeneous Charge Compression Ignition)と表記する。
【0004】
HCCI燃焼方式の内燃機関は、従来のSI燃焼方式の内燃機関と比較して、圧縮比を高く設定することができ、更に希薄混合気の燃焼による燃焼温度の低下作用により、冷却損失(シリンダ壁面の温度上昇)やNOxの低減を実現できる。しかしながら、HCCI燃焼では、混合気の着火タイミングが、圧縮行程における化学反応の過程に依存するため、シリンダ内の温度、新気や排気ガスによる希釈割合、燃料噴射タイミング等を正確に管理する必要がある。
【0005】
HCCI燃焼方式の内燃機関では、正常な燃焼を実現できる運転可能範囲が従来のSI燃焼方式の内燃機関よりも狭く、実用運転範囲の全体をカバーすることができない。このため、SI燃焼制御モードと、HCCI燃焼制御モードとの切り換えが必要となる。SI燃焼制御モードと、HCCI燃焼制御モードとでは、可燃混合気の濃度、燃焼室の温度等の環境条件が大きく異なるため、燃焼モードの切り換え時に、燃料噴射時間や点火時期等の制御指令値を単純に切換えるだけでは、失火及び異常燃焼によって排気有害成分の増加や、運転性の悪化を招くという課題がある。
【0006】
このような課題を解決する手段として、例えば、特開2015-140728号公報(特許文献1)には、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードに切り換える際に、中間状態として、燃料カットを実施しながら実効圧縮比を増大させる制御を実施することが提案されている。この特許文献1の制御装置によれば、一方の燃焼モードから他方の燃焼モードへ効率よく切り換えることができると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1においては、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードに切り換える際の中間状態として、燃料カットを実施しながら回転数を低下させる制御を行なっている。したがって、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードに移行する時、燃料カットによって燃焼が実行されていないので、燃焼室内の環境温度が急激に低下してHCCI燃焼を実行する環境条件が成立しない恐れがあり、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの移行が良好に行えないという課題があった。
【0009】
本発明の目的は、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切り換え時に、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの移行を良好に行える環境条件を形成することができる新規な内燃機関の制御装置及び制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の主たる特徴は、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードに切り換える時に、少なくとも燃料噴射量と点火時期、及び吸排気バルブの開閉位相による昇温制御を実行して、HCCI燃焼に移行する過程で燃焼室内の混合気の圧縮端温度を高めてHCCI燃焼制御モードに移行させる、ところにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードとの切り換える過程で、燃料噴射量と点火時期、及び吸排気バルブの開閉位相が適切に制御されて燃焼室内の混合気の圧縮端温度がHCCI燃焼に適した温度に設定でき、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの移行を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明が適用される内燃機関システムの構成を示すシステム構成図である。
【
図2】可燃混合気の筒内ガス燃料比(G/F)と可燃混合気の圧縮端温度とに基づく燃焼領域を説明する説明図である。
【
図3】吸気バルブと排気バルブの位相とリフトを制御する場合の、夫々のバルブ特性を説明する説明図である。
【
図4】吸気バルブと排気バルブの位相及び内部EGRと燃焼室の環境温度の変化を説明する説明図である。
【
図5A】噴射パルス幅に対する噴射流量の特性を説明する特性図である。
【
図5B】圧縮端温度と噴射パルス幅に基づく混合気の燃焼形態を説明する説明図である。
【
図6】本発明の代表的な実施形態を説明する制御フローで、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切り換え時の制御フローを説明するフローチャート図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態における、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切り換え時の代表的な制御目標値の動作を説明する説明図である。
【
図8】
図7に示すSI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切り換え時の代表的な状態量の変化を説明する説明図である。
【
図9】
図7に示すSI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切り換え時の、可燃混合気の筒内ガス燃料比(G/F)と圧縮端温度に基づく燃焼状態の遷移を説明する説明図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態における、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切り換え時の代表的な制御目標値の動作を説明する説明図である。
【
図11】
図10に示すSI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切り換え時の代表的な状態量の変化を説明する説明図である。
【
図12】本発明が適用される他の内燃機関システムの構成を示すシステム構成図である。
【
図13】
図12に示す内燃機関システムを対象にした、本発明の第3の実施形態における、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切り換え時の代表的な制御目標値の動作を説明する説明図である。
【
図14】
図13に示すSI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切り換え時の代表的な状態量の変化を説明する説明図である。
【
図15】
図14に示すSI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切り換え時の、可燃混合気の筒内ガス燃料比(G/F)と圧縮端温度に基づく燃焼状態の遷移を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【実施例1】
【0014】
以下、本発明の第1の実施形態を
図1~
図9を用いて詳細に説明する。尚、第1の実施形態では、ターボ過給機による過給を行なわない非過給条件のもとで、HCCI燃焼を実行できる環境条件が成立した状態で、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードに切り換える時の動作について説明する。
【0015】
図1は、本発明が適用される内燃機関システムの構成を示している。内燃機関1には、吸気流路(吸気管)と排気流路(排気管)とが接続されている。内燃機関1には、排気ガスの速度や圧力エネルギによってタービン2を回転し、コンプレッサ3によって吸入空気を過給するターボ過給機4が備えられている。コンプレッサ3の下流には、インタークーラ5が備えられており、その更に下流には、吸気流路を通ってシリンダ7に流入する吸入空気量を制御するためのスロットル弁6が組み付けられている。スロットル弁6は、アクセルペダルの踏込量に対応して電動モータで弁開度を制御することができる電子制御式スロットル弁である。
【0016】
スロットル弁6の下流には、吸気マニホールド8が接続され、吸気マニホールド8には、吸気温度及び吸気圧力を検出する吸気温度/圧力センサ9が組み付けられている。また、吸気マニホールド8の下流には、吸気の流れに偏流を生じさせることによって、シリンダ7C内の空気流の乱れを強化する流動強化弁10が配置されている。
【0017】
シリンダ7C内にはピストン7Pが配置され、更に、シリンダ7Cには、シリンダ7Cとピストン7Pにより形成される燃焼室に、燃料を直接噴射する直接噴射式の燃料噴射弁11が配置されている。内燃機関1は、吸排気バルブの開閉位相とリフトとを連続的に可変とする可変バルブ機構を、吸気バルブ12と排気バルブ13とにそれぞれ備えている。更に、可変バルブ機構には、吸排気バルブの開閉位相とリフトとをそれぞれ検知するためのバルブポジションセンサ14、15が、吸気バルブ12と排気バルブ13とにそれぞれ組み付けられている。また、シリンダヘッド部には、シリンダ7内に電極部を露出させ、火花スパークによって可燃混合気に点火する点火プラグ16が組み付けられている。
【0018】
クランク軸には、クランク角度センサ17が組み付けられており、クランク角度センサ17から出力される信号に基づき、内燃機関1の回転速度を検出することができる。更に、機関トルクの変動を抑制するため、モータ機能付きオルタネータ21が連結されている。本実施形態では、機関トルクの変動が生じる場合において、モータ機能が備えられたオルタネータ21を駆動して、機関トルクの変動を抑制することができる。
【0019】
排気流路には、排気ガス温度と排気ガス圧力とを検知するための排気温度/圧力センサ18が組み付けられている。排気流路における排気温度/圧力センサ18の下流には、上述のターボ過給機4のタービン2が配置されている。タービン2の下流には、空燃比センサ19が組み付けられており、空燃比センサ19の検出信号に基づき、燃料噴射弁11から供給される燃料噴射量が、目標空燃比となるようにフィードバック制御が行われている。
【0020】
更に、本実施形態においては
図1に示すように、電子制御手段であるECU(Engine Control Unit)20を備えている。ECU20には、上述した各種センサと各種アクチュエータとが接続されている。スロットル弁6、燃料噴射弁11、可変バルブ機構付き吸排気バルブ12及び13等のアクチュエータは、ECU20からの制御信号が出力されることで制御されている。更に、上述した各種センサより入力されたセンサ信号に基づき、内燃機関1の運転状態を検知し、運転状態に応じてECU20によって各種の制御信号が演算されている。尚、以下の説明では、ECU20から燃料噴射弁11に送られる信号を噴射信号、点火プラグ16に送られる信号を点火信号とする。
【0021】
図2は、シリンダ7内の可燃混合気の筒内ガス燃料比(G/F)と圧縮端温度とに基づいた運転可能な領域を示している。圧縮端温度とは、SI燃焼時においては可燃混合気の点火直前の燃焼室内の環境温度(=筒内雰囲気温度)を表し、HCCI燃焼においては可燃混合気の自己着火直前の燃焼室の環境温度を表すものである。したがって、以下の説明では、圧縮端温度を燃焼室の環境温度とも表記することもある。
【0022】
図2において、「SIストイキ燃焼領域」は、圧縮端温度が低く、混合気が均質で、その筒内ガス燃料比(G/F)が量論混合比の近傍で運転される領域であり、「SIリーン燃焼領域」は、圧縮端温度が低く、混合気が均質で、その空燃比及び筒内ガス燃料比(G/F)が希薄なリーン混合比で運転される領域である。尚、量論混合比の近傍とは、排気中のHC、CO、NOx等を三元触媒で浄化可能な範囲を含むものである。「SI燃焼ノック領域」は、圧縮端温度の増加によってノック限界温度Tnockを超えるとノッキングが発生する領域であり、この「SI燃焼ノック領域」での燃焼を避けて運転を行なうことが必要である。
【0023】
次に、「HCCIリーン燃焼領域」は、点火プラグ16による火花点火を停止して可燃混合気の圧縮自己着火によって燃焼する領域を表している。この「HCCIリーン燃焼領域」は圧縮端温度が高く、混合気が均質で、その空燃比が希薄なリーン混合比で運転される領域である。この「HCCIリーン燃焼領域」は「SIリーン燃焼領域」より更に空燃比がリーンである。
【0024】
また、「HCCI燃焼ノック領域」は、「HCCIリーン燃焼領域」よりも混合気の筒内ガス燃料比(G/F)がリッチ側で発熱量が多く、HCCI燃焼制御モードで運転した場合、圧縮端温度の増大からノッキングが発生する領域である。更に「失火領域」は、圧縮端温度の低下と混合気の筒内ガス燃料比(G/F)がリーン側に移行することで、失火が発生する領域である。燃料が噴射された状態で失火を生じると、多量のHCが排出されるという大きな課題を生じるので、この領域での燃焼を避けて運転を行なうことが必要である。
【0025】
このように、「HCCI燃焼ノック領域」と「失火領域」での燃焼を避けて運転を行なうことが必要である。したがって、「SIストイキ燃焼領域」のSI燃焼制御モードから「HCCIリーン燃焼領域」のHCCI燃焼制御モードに切り換える場合においては、混合気の筒内ガス燃料比(G/F)が大きく異なるために、特許文献1のように燃料カットや実効圧縮比の増大といった切り換え制御を行なうことが有効である。
【0026】
しかしながら、燃料噴射弁11や可変バルブ機構等の各種アクチュエータの応答性から、即座に「SIストイキ燃焼領域」、或いは「SIリーン燃焼領域」のSI燃焼制御モードから「HCCIリーン燃焼領域」のHCCI燃焼制御モードに切換えることは困難である。このため、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードに移行する時に、実効圧縮比の増大を行なうにしても燃料カットの影響(掃気による)によって、燃焼室内の環境温度が急激に低下してHCCI燃焼を実行する環境条件が成立しない恐れがあり、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの移行が良好に行えない状態を惹起する。
【0027】
したがって、「SIストイキ燃焼領域」或いは「SIリーン燃焼領域」のSI燃焼制御モードから「HCCIリーン燃焼領域」のHCCI燃焼制御モードに切り換える場合においては、HCCI燃焼を実行する環境条件、特に圧縮端温度を適切に制御してやることが必要である。
【0028】
図3は、位相可変型の可変バルブ機構とリフト可変型の可変バルブ機構の動作を示している。
図3(A)は、位相可変型の可変バルブ機構の例を示しており、バルブの開いている期間(バルブ作動角)を一定として、開閉位相のみを変化させることができる。また、
図3(B)は、リフト可変型の可変バルブ機構の例を示しており、バルブリフトと作動角とを同時に変化させることができる。更に、
図3(C)は、位相可変バルブ機構とリフト可変バルブ機構との両方を用いる例を示しており、バルブ開時期、またはバルブ閉時期のいずれかを固定した状態で、バルブ閉時期またはバルブ開時期とリフトとを同時に変化させることができる。
【0029】
本実施形態は、これらの可変バルブ機構を用いて実効圧縮比を高める制御を併用している。つまり、本実施形態では、位相可変型の可変バルブ機構とリフト可変機構型の可変バルブ機構とを用いて実効圧縮比を高める制御を実行することで、燃焼室内の環境温度を上昇させるようにしている。
【0030】
この環境温度を高める簡単な理由を
図4において説明する。
図4において、EVOは排気バルブの開時期、EVCは排気バルブの閉時期、IVOは吸気バルブの開時期、IVCは吸気バルブの閉時期を表している。そして、位相可変型の可変バルブ機構とリフト可変機構型の可変バルブ機構とを用いて、位相とリフトとを同時に操作することで、
図4(A)のバルブ開閉特性から、
図4(B)のバルブ開閉特性になるように、吸気バルブと排気バルブの位相及びリフトを変化させることができる。
【0031】
図4(B)にある通り、本実施形態では、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードに移行する時に、排気バルブの閉時期EVCと吸気バルブの開時期IVOとの間には、ネガティブバルブオーバーラップ(以下、N-O/Lと表記する)区間が形成される。尚、
図4(A)では、排気バルブの閉時期EVCと吸気バルブの開時期IVOとが重なり、ポジティブバルブオーバーラップ(P-O/Lと表記する)区間が形成される。
【0032】
このN-O/Lが形成されると、排気行程から吸気行程に至る過程で、排気バルブと吸気バルブが閉じられているため、排気ガスは燃焼室に閉じ込められて内部EGR(残留燃焼ガス)の量が多くなる。
図4(C)は内部EGR量を示しており、N-O/Lが形成される状態(実線で表示)の方が、N-O/Lが形成されない状態(破線で表示)に比べて内部EGR量が多くなっている。
【0033】
このため、
図4(D)にある通り、N-O/Lが形成される状態(実線で表示)の方が、N-O/Lが形成されない状態(破線で表示)に比べて燃焼室の環境温度の低下が少なくなっている。更に、N-O/L区間でピストン7Pによって燃焼室内の残留燃焼ガスが圧縮されるため、燃焼室の環境温度は更に高くなる。これによって、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードに移行する時の燃焼室の環境温度を高めて、HCCI燃焼制御モードが実行できる環境に近づけることができる。尚、いうまでもないが、N-O/L区間がある場合の方が、SI燃焼及びHCCI燃焼での圧縮端温度が増加するものである。
【0034】
図5Aは、噴射パルス幅に対する噴射量を示しており、噴射パルス幅が増大すると共に噴射量は増大するが、噴射パルス幅が一定値(TQmin)に満たないと、噴射パルス幅に対する噴射流量は誤差が増大して要求噴射流量を満たすことができない。本実施形態では、
図5Aにおいて、要求噴射流量を満たす時の最少噴射流量をQmin、噴射パルス幅を最少噴射パルス幅TQminと定義する。また、最少噴射パルス幅TQmin未満の噴射パルス(区間Tにおける噴射パルス)が1回または複数回発生しても、本実施形態では噴射が停止したと見做している。
【0035】
図5Bは、圧縮端温度と混合気の筒内ガス燃料比(G/F)に基づく混合気の燃焼可能性を示している。燃焼過程のノッキングは、混合気の未燃焼部分(=未燃混合気)が混合気の燃焼部分(=既燃混合気)の圧力上昇の影響で圧縮され、自己着火することが一因である。
図5Bに示す自己着火限界とは混合気が自己着火を生じて燃焼する限界であり、圧縮端温度が上昇すると混合気が自己着火する傾向にあることを示している。尚、噴射パルス幅が大きくなって、混合気の空燃比がリッチ側に移行して行くと、圧縮端温度が低くても自己着火限界が低下していき自己着火しやすくなっている。
【0036】
火炎伝播限界とは、混合気が点火プラグの放電により着火する限界であり、火炎伝播限界以上の噴射パルス幅で燃料が噴射された場合、混合気が着火して火炎伝播することを示している。また、圧縮端温度の増大で、火炎伝播限界が噴射パルスの減少側に増大することを示している。ここで、
図5Bの火炎伝播限界や自己着火限界は、回転数及び要求トルクにより変動する。
【0037】
そして、自己着火及び火炎伝播が不可能な領域(
図5Bの実線で囲まれた領域)は燃焼が発生しない、或いは燃焼が発生しても火炎が安定して形成されない領域となる。本実施形態では、
図5Bの実線で囲まれた領域を失火領域と定義している。また、
図5Bにおいて、
図5Aで定義した区間Tにおける噴射パルス幅を重ねるとわかるように、区間Tにおける噴射パルスが1回または複数回発生しても、失火領域に入るため、燃焼が発生しないことが分かる。
【0038】
次に、本発明の代表的な実施形態となる、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切り換え時の制御フローについて
図6を用いて説明する。尚、この制御フローは1燃焼サイクル毎に実行されるものである。
【0039】
≪ステップS10≫
ステップS10においては、各種センサから内燃機関の動作状態量を検出する。例えば、吸気温度/圧力センサ9、バルブポジションセンサ14、15、空燃比センサ19、及びこれら以外の必要なセンサから内燃機関の状態量を検出する。内燃機関の動作状態量が検出されるとステップS11に移行する。
【0040】
≪ステップS11≫
ステップS11では、吸気温度、吸気圧力及び吸気バルブの開時期と閉時期から筒内に流入する筒内空気量を推定する。尚、これ以外のセンサ情報から筒内空気量を求めることも可能である。更に、求められた筒内空気量、目標筒内ガス燃料比(G/F)、及び目標トルク等から必要とする燃料噴射量を決定する。ここで、燃料噴射量は噴射パルス幅に置き換えられる。
【0041】
更に、ステップS11では、吸気温度、吸気圧力、排気バルブの閉時期から燃焼室内の圧縮端温度Tcを推定する。圧縮端温度Tcは、先ず吸気温度、吸気圧力、排気バルブの閉時期とから内部EGRガス量を推定する。尚、この推定は物理モデルを構築することで求めることができる。
【0042】
内部EGR量が推定されると、吸気バルブの閉時期における燃焼室容積と上死点における燃焼室容積の比により定義される実効圧縮比を求める。更に、吸気バルブの閉時期における筒内温度と比熱比から断熱圧縮を仮定した演算によって圧縮端温度の推定値Tcを推定する。この圧縮端温度の推定値Tcも物理モデルを構築することで求めることができる。燃料噴射量、圧縮端温度Tc、実効圧縮比を求めるとステップS12に移行する。
【0043】
≪ステップS12≫
ステップS12では、目標筒内ガス燃料比(G/F)、及び圧縮端温度Tcを読み込み、更に吸気側のポジションセンサ14と排気側のポジションセンサ15から、現在の吸排気バルブの位相角と作動角を求める。これらのパラメータが求まるとステップS13に移行する。
【0044】
≪ステップS13≫
ステップS13においては、現在の内燃機関の燃焼モードが変更されるかどうかの判定を行なっている。燃焼モードの変更が要請されていない場合はステップ14に移行し、燃焼モードの変更が要請されている場合はステップS15に移行する。
【0045】
≪ステップS14≫
ステップS14においては、現在の内燃機関の燃焼モードの変更が要請されていないので、現在の燃焼モードを継続する。本実施形態では、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードに移行する場合を想定しているので、ステップS14ではSI燃焼制御モードを継続する。尚、このステップS14で実行される燃焼モードは、後述の
図7で説明するモード1に該当するものである。SI燃焼制御モードを継続すると、エンドに抜けて次の燃焼サイクルの起動タイミングを待つことになる。
【0046】
≪ステップS15≫
ステップS13で燃焼モードの変更が要請されていると判定されているので、ステップS15では、現在の燃焼モードがSI燃焼制御モードかどうかを判定している。この判定には、次の判定条件を満たすかどうかによって、SI燃焼制御モードかどうかを判定することができる。
【0047】
(1)第1の判定条件は、ステップS12で読み込まれた目標筒内ガス燃料比(G/F)が量論混合比の近傍に制御されていることである。(
図2参照)
(2)第2の判定条件は、圧縮端温度TcがSI燃焼でのノッキング限界温度Tknockを下回ることである。(
図2参照)
(3)第3の判定条件は、次の燃焼サイクルに吸排気バルブの位相角と作動角が、HCCI燃焼での目標操作値に移行できないと判定されることである。
(4)第4の判定条件は、次の燃焼サイクルの吸排気バルブの位相角と作動角から推定される圧縮端温度Tcと噴射パルス幅の関係から、
図5Bに示す自己着火限界を下回ることである。
【0048】
そして、上記の各判定基準の全てを満たす場合に限り、SI燃焼制御モードと判定している。SI燃焼制御モードと判定されるとステップS16に移行し、SI燃焼制御モードと判定されないとステップS19に移行する。
【0049】
≪ステップS16≫
ステップS16では、ステップS12で求められた目標筒内ガス燃料比(G/F)及び圧縮端温度Tcから、「昇温SI燃焼制御モード」が可能か判定する。この判定には、次の判定条件を満たすかどうかによって、昇温SI燃焼制御モードが可能かどうかを判定することができる。尚、昇温SI燃焼制御モードとは、SI燃焼のもとで燃焼室の環境温度を高める制御を意味している。この昇温SI燃焼制御モードについては後述する。
【0050】
(1)第1の判定条件は、次の燃焼サイクルの昇温SI制御モードで圧縮端温度TcがSI燃焼でのノッキング限界温度Tknockを超える(Tc>Tknock)ことである。
(2)第2の判定条件は、3燃焼サイクル後に吸排気バルブの位相角と作動角がHCCI燃焼における目標操作値の近傍に到達できることである。尚、第2の判定条件では、3燃焼サイクル後に吸排気バルブの位相角と作動角がHCCI燃焼における目標操作値の近傍に到達できると判定された場合としたが、必ずしも3燃焼サイクルに限らず、3燃焼サイクルより前、或いは後の燃焼サイクルで判定しても良いものである。
(3)第3の判定条件は、3燃焼サイクル後の吸排気バルブの位相角と作動角から推定される圧縮端温度Tcと噴射パルス幅の関係から、
図5Bに示す自己着火限界を上回ることである。
【0051】
そして、上記の判定基準の全てを満たさない場合は、昇温SI燃焼制御モードを実行できると判定してステップS17に移行する。また、上記の判定基準の何れか少なくとも一つ満たす場合は、昇温SI燃焼制御モードを実行できないとしてステップS18に移行する。
【0052】
≪ステップS17≫
ステップS16で昇温SI燃焼制御モードを実行することが可能と判定されているので、ステップS17においては、昇温SI燃焼制御モードを実行する。この昇温SI燃焼制御モードは、SI燃焼のもとで燃焼室の環境温度を高める制御を行なうものであり、その具体的な方法は
図7で詳細に説明する。尚、このステップS17で実行される燃焼モードは、後述の
図7で説明するモード2に該当するものである。昇温SI燃焼制御モードを実行するとエンドに抜けて次の燃焼サイクルの起動タイミングを待つことになる。
【0053】
≪ステップS18≫
一方、ステップS16で昇温SI燃焼制御モードを実行することができないと判定されているので、ステップS18においては、「昇温中間燃焼制御モード」を実行する。この昇温中間燃焼制御モードは、昇温SI燃焼制御で実行していた燃料噴射制御、及び点火制御を停止させると共に、吸排気バルブをHCCI燃焼の目標操作値に移行させる制御を行なうものであり、その具体的な方法は
図7で詳細に説明する。尚、このステップS18で実行される昇温中間燃焼制御モードは、後述の
図7で説明するモード3に該当するものである。昇温中間燃焼制御モードを実行するとエンドに抜けて次の燃焼サイクルの起動タイミングを待つことになる。
【0054】
≪ステップS19≫
ステップS15でSI燃焼領域ではないと判定されているので、ステップS19においては、昇温中間燃焼制御モードを実施しているかどうかを判定している。
図6に示す制御フローは、上述したように燃焼サイクル毎に起動されているので、ステップ19が実行される前の起動タイミングでは、ステップS18の昇温中間燃焼制御モードが実行されている。したがって、ステップS19では前の燃焼サイクルの燃焼状態が判定される。以下の制御ステップにおいても同様である。
【0055】
ここで、ステップS19では、昇温中間燃焼制御モードかどうかが判定されており、その判定基準は次の通りである。
(1)第1の判定条件は、圧縮端温度Tcと
図5Bにおける噴射パルスが失火領域に入るように制御されていることである。
(2)第2の判定条件は、吸排気バルブの位相角と作動角が、HCCI燃焼制御モードの目標操作値への移行過程に制御されていることである。
【0056】
そして、上記の判定基準の全てを満たす場合は、昇温中間燃焼制御モードであると判定してステップS20に移行する。また、上記の判定基準の何れか少なくとも一つを満たさない場合は、昇温中間燃焼制御モードでは無いとしてステップS22に移行する。
【0057】
≪ステップS20≫
ステップS19で昇温中間燃焼制御モードであると判定されているので、ステップS20においては、HCCI燃焼が可能かどうかを判定している。その判定基準は次の通りである。
(1)現在の吸排気バルブの位相角と作動角から2燃焼サイクル後に吸排気バルブの位相角と作動角がHCCI燃焼の目標操作値に移行できることである。
【0058】
そして、HCCI燃焼の目標操作値に移行できると判定された場合、HCCI燃焼制御モードで運転できると判定してステップS21に移行する。一方、HCCI燃焼制御モードで運転できないと判定されると、ステップS18に移行して昇温中間燃焼制御モードを継続する。
【0059】
≪ステップS21≫
ステップS20でHCCI燃焼制御モードを実行することができると判定されているので、ステップS21においては、「昇温切り換え燃焼制御モード」を実行する。この昇温切り換え燃焼制御モードは、昇温中間燃焼制御モードの目標操作値を維持したまま、燃料噴射制御及び点火制御を再開させ、混合気の筒内ガス燃料比(G/F)を量論混合比の近傍に保持してSI燃焼を実行するものであり、その具体的な方法は
図7で詳細に説明する。
【0060】
尚、このステップS21で実行される昇温切り換え燃焼制御モードは、後述の
図7で説明するモード4に該当するものである。昇温切り換え燃焼制御モードを実行するとエンドに抜けて次の燃焼サイクルの起動タイミングを待つことになる。
【0061】
≪ステップS22≫
ステップS19の判定基準によって昇温中間燃焼制御モードかどうかが判定され、昇温中間燃焼制御モードでは無いと判定されるとステップS22のHCCI燃焼制御モードが実行される。
【0062】
尚、このステップS22で実行されるHCCI燃焼制御モードは、後述の
図7で説明するモード5に該当するものである。HCCI燃焼制御モードを実行するとエンドに抜けて次の燃焼サイクルの起動タイミングを待つことになる。
【0063】
以上の通り、
図6に示す制御フローは1燃焼サイクル毎に起動されるので、基本的には、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切り換え過程においては、SI燃焼制御モード(モード1)⇒昇温SI燃焼制御モード(モード2)⇒昇温中間燃焼制御モード(モード3)⇒昇温切り換え燃焼制御モード(モード4)⇒HCCI燃焼制御モード(モード5)の順に実行されるものである。ただ、燃焼サイクルカウンタを設けて、複数の燃焼サイクル、例えば、2燃焼サイクル毎に割り込みをかけて上述の制御フローを実行することも可能である。この場合、連続する燃焼サイクルは同じ燃焼制御モードを実行することになる。
【0064】
次に、各燃焼制御モードの具体的な燃焼制御について
図7、
図8に基づき説明する。
図7は、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切換え過程での各アクチュエータの制御目標値の変化を示している。そして、横軸に時間経過を示し、縦軸に吸気管圧力、燃料噴射量、点火時期、吸排気バルブタイミング、及びオルタネータアシストの各制御目標値を示している。
【0065】
同様に、
図8には、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切換え過程での各状態量の変化を示しており、横軸に時間経過を示し、縦軸に吸気量、筒内ガス燃料比(G/F)、圧縮端温度、燃料噴射量、点火時期、及び機関トルクの各制御状態量を示している。
【0066】
尚、
図7、
図8において、SI燃焼制御モードは「モード1」、昇温SI燃焼制御モードは「モード2」、昇温中間燃焼制御モードは「モード3」、昇温切り換え燃焼制御モードは「モード4」、HCCI燃焼制御モードは「モード5」と表記している。
【0067】
≪SI燃焼制御モード(モード1)≫
SI燃焼制御モードは通常の点火プラグを使用した予混合火花点火燃焼を実行するもので、内燃機関の動作状態に合わせた燃料噴射量、点火時期、吸排気バルブタイミングで動作されている。尚、吸排気バルブタイミングは、バルブオーバーラップを有するポジティブバルブオーバーラップ(P-O/L)に設定されている。
【0068】
≪昇温SI燃焼制御モード(モード2)≫
次に、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼の昇温切り換え燃焼制御モードに移行する際に、準備段階として
図7に示すように昇温SI燃焼制御モードを実行する。
【0069】
先ず、
図4(A)から
図4(B)にあるように、SI燃焼制御モードの吸気バルブの開時期(IVO)を遅角し、排気バルブの閉時期(EVC)を進角する。つまり、圧縮端温度Tcを推定しながらSI燃焼のノッキング限界温度Tknockより低い場合、上述の吸排気バルブの操作を行い、ノッキング限界温度Tknockを超えない所定の位置で操作を終了する。
【0070】
可変バルブ機構を駆動してN-O/L量を増大すると、内部EGR量が増えることで燃焼室の環境温度が上昇する結果、圧縮端温度Tcが増大する。更に、吸気バルブの作動角を増加しつつ、吸気バルブの閉時期を下死点近傍に近づけることによって、N-O/L量が更に大きくなって実圧縮比が増大して圧縮端温度Tcが高くなる。
【0071】
また、吸気バルブの作動角を増大すると吸気量が増加するが、燃料噴射量も増加させて、混合気の空燃比変動を抑制する。更に、混合気量の増加に基づくトルク変動が大きくならないように点火時期をSI燃焼制御モードの場合より遅角する。これによって、
図8に示す通り、混合気量(吸気量)を増やし、筒内ガス燃料比(G/F)をストイキ近傍に維持して発熱量を多くすると共に、点火時期の遅角によってトルク変動の発生による運転性の悪化を抑制している。
【0072】
上述の制御によって、
図8に示す通りHCCI燃焼制御モードに移行する前に、予め混合量を増大すると共に、実効圧縮比の増大によって、圧縮端温度Tcを高めることができるので、後述の昇温中間燃焼制御モードへの期間を短縮することができる。この結果、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切り換え期間を短縮することができる。昇温SI燃焼制御モードが完了すると、昇温中間燃焼制御モードが実行される。尚、昇温SI燃焼ができない場合は、この昇温SI燃焼制御モードは実行されなく、昇温中間燃焼制御モードが実行される。
【0073】
≪昇温中間燃焼制御モード(モード3)≫
SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードに移行する際に、昇温SI燃焼制御モード、或いはHCCI燃焼制御モードで運転できない場合は昇温中間燃焼制御モードを実行する。この場合、昇温SI燃焼制御モードの目標操作値を使用しないで、燃料噴射制御及び点火制御を停止させると共に、吸排気バルブをHCCI燃焼制御モードの目標操作値に移行させる。この場合、吸排気バルブの目標操作値は、昇温SI燃焼制御モードの場合と同じに設定しているが、これとは異なる目標操作値であっても良いものである。
【0074】
これによって、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの移行時において実効圧縮比が増大することに伴って圧縮端温度Tcが上昇する。ただ、燃料噴射制御及び点火制御が停止されているので、
図5Bの失火領域に入ることになる。尚、失火しても、そもそも燃料が存在しないので排気有害成分の増加を招かないものである。このように、圧縮端温度Tcが上昇しても、混合気の燃焼が行われないことで、昇温SI燃焼制御モードで維持していた高温の内部EGRを掃気させることができ、燃焼室内の環境温度をノック限界温度Tnock以下に低下させることができる。これによって、次の燃焼サイクルのHCCI燃焼の昇温切り換え燃焼制御モードでの圧縮端温度Tcを低下して、SIストイキ燃焼領域での燃焼制御モードを実行できるようにしている。
【0075】
つまり、圧縮端温度Tcが高いままSIストイキ燃焼を実行すると、SI燃焼ノック領域(
図2参照)に移行してノッキングを発生する恐れが出てくるので、燃料噴射制御及び点火制御を停止して混合気の燃焼を行なわないことで、圧縮端温度Tcをノック限界温度Tnock以下に低下しているものである。
【0076】
尚、この時には、混合気の燃焼が行われないので機関トルクが低下する現象が発生するが、モータ機能付きオルタネータによって、機関トルク低下分のトルクアシストを行なって、トルク変動を抑制するようにしている。昇温中間燃焼制御モードが完了すると、HCCI燃焼の昇温切り換え燃焼制御モードが実行される。
【0077】
≪昇温切り換え燃焼制御モード(モード4)≫
昇温中間燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードに移行する際に、準備段階として
図7に示すようにHCCI燃焼への昇温切り換え燃焼制御モードを実行する。この昇温切り換え燃焼制御モードにおいては、昇温中間燃焼制御モードに切り替わる前の昇温SI燃焼制御モードの目標操作値を用いて燃料噴射制御及び点火制御を再開させ、筒内ガス燃料比(G/F)を量論混合比の近傍に制御してSI燃焼を実行する。
【0078】
このように、筒内ガス燃料比(G/F)を量論混合比の近傍に維持することで、発熱量を多くして燃焼温度を大きく高め、また、N-O/Lの設定によって更に高温の内部EGRを保持するようにしている。これによって、次の燃焼サイクルでの燃焼室の環境温度を上昇させることで圧縮端温度Tcを高めて、HCCI燃焼が成立する環境条件を形成している。HCCI燃焼の昇温切り換え燃焼制御モード完了すると、HCCI燃焼制御モードが実行される。
【0079】
≪HCCI燃焼制御モード(モード5)≫
HCCI燃焼制御モードは点火プラグによらずに圧縮による予混合自己着火燃焼を実行するもので、点火制御は停止されるが内燃機関の動作状態に合わせた燃料噴射量、吸排気バルブタイミングで動作されている。尚、筒内ガス燃料比(G/F)は失火領域を飛び越えてリーン側に制御され、吸排気バルブタイミングは、バルブオーバーラップを有さないN-O/Lとされている。
【0080】
更に、
図8に基づいてSI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切り換えを実行した場合の状態量の変化について説明する。
【0081】
昇温SI燃焼制御モードでは、吸気量の増加に合せて燃料噴射量を増加することによって筒内ガス燃料比(G/F)を量論混合比の近傍に保持し、更に点火時期を遅角して排気損失を増加させることで、出力を低下させて機関トルクの変動を抑制している。
【0082】
次に、昇温中間燃焼制御モードでは、燃料噴射制御と点火制御を停止させることで、ノッキング及び混合気の自己着火燃焼の発生を無くして、実効圧縮比の増大に伴う異常燃焼の発生を抑制して昇温切り換え燃焼制御モードに切り換えることができる。
【0083】
次に、昇温切り換え燃焼制御モードでは、燃料噴射制御及び点火制御を復帰させ、吸気量の増加と燃料噴射量の増加によって筒内ガス燃料比(G/F)を量論混合比の近傍に保持して発熱量を増加し、更に、点火時期を遅角して排気損失を増加させて出力を低下させることによって、機関トルクの変動を抑制している。
【0084】
最後に、HCCI燃焼制御モードでは、燃料噴射量を減少して混合気の筒内ガス燃料比(G/F)を急速にリーン化すると共に、点火プラグによる点火制御を停止することで、ノッキングの発生を抑制して良好なHCCI燃焼を行なうことができる。
【0085】
このような制御を実行することによって、燃焼室内の圧縮端温度Tcは、昇温SI燃焼制御モード、昇温中間燃焼制御モード、昇温切り換え燃焼制御モードを経過していく過程で、ノッキングや失火を含む異常燃焼が発生するのを抑制しながら、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードに移行して行く過程で順次高くなるように制御することができる。
【0086】
次に、上述した制御フローにしたがった制御モードと燃焼領域について説明する。
図9は、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切り換えを実行した場合の、筒内ガス燃料比(G/F)と圧縮端温度Tc、及び燃焼領域の関係を、
図2を基に示している。尚、「●」印はSI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードに移行する期間の燃焼サイクルの通過点を例示的に示している。
【0087】
SI燃焼制御モード(モード1)から昇温SI燃焼制御モード(モード2)に移行する場合は、筒内ガス燃料比(G/F)を量論混合比の近傍に維持して点火時期を遅角し、更にN-O/Lを設定することで、燃焼サイクルが増える毎に圧縮端温度Tcが高くなっている。
【0088】
次に、昇温SI燃焼制御モード(モード2)から中間燃焼制御(モード3)に移行する場合は、燃料噴射制御を停止するため筒内ガス燃料比(G/F)が無限大(≒空気)になり、筒内ガス燃料比(G/F)が量論混合比の近傍の状態に比べて、比熱比が低下するため圧縮端温度Tcが高くなる。加えて、実効圧縮比が増大しているため圧縮端温度Tcは更に高くなる。
【0089】
次に、昇温中間燃焼制御モード(モード3)から昇温切り換え燃焼制御モード(モード4)に移行する場合は、筒内ガス燃料比(G/F)が量論混合比の近傍になるように、燃料噴射量を設定する。尚、前の燃焼サイクルで燃料噴射制御を停止しているため、N-O/Lの設定によって保持されていた内部EGRは掃気されることで、圧縮前の燃焼室内の混合気の温度はノック限界温度Tnockより低下されるようになる。
【0090】
仮に、昇温中間燃焼制御モードで新気による掃気を行なわないで昇温切り換え燃焼制御モードに移行すると、昇温切り換え燃焼制御モードは「○」印で示した圧縮端温度Tcになって、SI燃焼ノック領域に入ってしまい、ノックキングを発生することになる。これに対して、昇温中間燃焼制御モードを実行して、圧縮前の燃焼室内の燃焼室の環境温度を低下させているので、SI燃焼ノック領域での燃焼を回避してSIストイキ燃焼領域で燃焼を継続することができる。
【0091】
次に、昇温切り換え燃焼制御モード(モード4)からHCCI燃焼制御モード(モード5)に移行する場合は、目標操作値がHCCI燃焼制御モードでの目標操作値に移行しているため、リーン側の目標筒内ガス燃料比(G/F)でHCCI燃焼が実行される。尚、前の燃焼サイクルの昇温切り換え燃焼制御モードのN-O/Lの設定によって、昇温切り換え燃焼制御モードでの高温の排気ガスが保持されているので、HCCI燃焼制御モードへ移行するための圧縮端温度Tcを更に高くすることができる。
【0092】
以上説明した通り、本実施形態によれば、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードに切り換える時に、少なくとも可変バルブ機構の開閉位相、燃料噴射量、及び点火時期を適切に調整して昇温制御を実行することで、HCCI燃焼に移行する過程で燃焼室内の混合気の圧縮端温度を高めてHCCI燃焼制御モードに移行させている。
【0093】
これによれば、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードとの切り換える過程で、燃料噴射と点火、及び吸排気バルブの開閉位相が適切に制御されてシリンダ内の混合気の圧縮端温度がHCCI燃焼に適した温度に設定でき、ノッキングや失火等の異常燃焼を避けながら、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの移行を良好に行うことができる。
【0094】
また、吸気バルブの作動角によって吸気量を制御し、排気バルブの閉時期によって内部EGR量を制御し、吸気バルブの作動角から推定される吸気量に基づき燃料噴射量を制御して目標空燃比に補正するので、吸排気バルブの動作によって、筒内ガス燃料比(G/F)及び圧縮端温度が推定できる。このため、目標操作値等の制御量の演算動作が軽減されるので、高速、高精度の制御を実現できる。
【0095】
また、SI燃焼からHCCI燃焼に切り換える過渡時において、推定された圧縮端温度と筒内ガス燃料比(G/F)とに基づいて、燃焼制御モードを判断することができるので、燃焼制御モードに則した可変バルブ機構の開閉位相、燃料噴射量、及び点火時期の適切な制御が可能となる。
【実施例2】
【0096】
次に、本発明の第2の実施形態について
図10、
図11を用いて説明するが、第1の実施形態と共通する構成、及び作用、効果については、必要である場合を除いてその説明を省略する。第3の実施形態においては、ターボ過給機4を使用して吸気圧を正圧側に上昇させることで、燃焼室内の環境温度を高めることを目的としている。
【0097】
尚、ターボ過給機4は、コンプレッサ側のバイパスバルブやタービン側のウエストゲートバルブ等によって作動時期を選択することができるので、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの移行が実行される運転領域で作動するように構成すると有利である。
【0098】
図10、
図11において、SI燃焼制御モードから昇温SI燃焼制御モードに移行すると、ターボ過給機4の動作を開始することによって、吸気圧力及び吸気密度が増加する。このため、燃焼室内の環境温度が上昇して圧縮端温度Tcが高くなる。このようにターボ過給機4を活用することによって、HCCI燃焼に必要な圧縮端温度Tcに早く到達させることができるので、SI燃焼制御モードとHCCI燃焼制御モードの切り換え期間を短縮することができる。
【0099】
つまり、昇温SI燃焼制御モードにおいては、ターボ過給機4による吸気量の増加及び実効圧縮比の増加に伴う圧縮端温度Tcの増大効果のみならず、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードの切り換え過程の昇温中間燃焼制御モードへの期間を短縮する効果を奏するものである。
【0100】
また、昇温中間燃焼制御モードにおいては、昇温SI燃焼制御モードより更にターボ過給機4による吸気圧力及び吸気密度が増大する。その際に、燃料噴射制御及び点火制御を停止して、
図5Bの失火領域に入るように制御する。その結果、圧縮端温度Tcを更に上昇させることができるようになる。ただ、この場合は燃焼が行われないので高温の内部EGRを掃気させることができ、燃焼室内の環境温度をノック限界温度Tnock以下に低下させることができる。
【0101】
また、昇温切り換え燃焼制御モードにおいても、ターボ過給機4の動作によって吸気圧力及び吸気密度が増大するため、環境温度が上昇して次の燃焼サイクルの圧縮端温度Tcが上昇するようになる。このような動作により、HCCI燃焼を実行する環境を早期に成立させることができる。
【実施例3】
【0102】
次に、本発明の第3の実施形態について
図12~
図15を用いて説明するが、本実施形態は第2の実施形態を基本としている。このため、第2の実施形態と共通する構成、及び作用、効果については、必要である場合を除いてその説明を省略する。
【0103】
第3の実施形態においては、ターボ過給機4を使用した時にインタークーラ5を通過する空気量と、インタークーラ5を通過しない空気量の割合を変えて、高い温度の空気によって燃焼室内の環境温度を高めることを目的としている。また、昇温切り換え燃焼制御モードでの燃料消費量を低減し、更に排気損失を低減して燃費を向上することを目的としている。
【0104】
図12は、第3の実施形態の内燃機関システムの構成を示しており、基本的な構成は
図1で説明した内燃機関システムと同じ構成である。ただ、コンプレッサ3よりも下流側の構成が
図1のものとは異なっている。
【0105】
コンプレッサ3の下流は2つの流路に分岐しており、第1流路22にはインタークーラ5が備えられている。インタークーラ5の下流には、吸気流路を絞りシリンダ7Cに流入する吸入空気量を制御するための第1スロットル弁6が組付けられている。また、第2流路23には、吸気流路を絞りシリンダ7に流入する吸入空気量を制御するための第2スロットル弁24が組み付けられている。
【0106】
2つのスロットル弁6、24は、アクセルペダル踏込量に応じて弁開度を制御することができる電子制御式スロットル弁である。そして、第1流路22と第2流路23とは、スロットル弁6、24の下流で合流しており、その下流には吸気マニホールド8が接続されている。したがって、第1スロットル弁6の開度と、第2スロットル弁24の開度との比率を変化させることによって、シリンダ7Cに供給される吸気温度を制御することができる。
【0107】
つまり、第1流路22を通過する空気はインタークーラ5で冷却されるのに対し、第2流路23を通過する空気は冷却されず高い温度を保っている。このため、第1流路22を流れる空気の量を第1スロットル6で減少させ、第2流路23を流れる空気の量を第2スロットル6で増大すると、シリンダ7Cに供給される全体の空気の温度は高くなる。一方第1流路22を流れる空気の量を第1スロットル6で増大させ、第2流路23を流れる空気の量を第2スロットル6で減少すると、シリンダ7Cに供給される全体の空気の温度は低くなる。したがって、SI燃焼制御モードからHCCI燃制御モードに移行する過程で、第1流路22を流れる空気の量を第1スロットル6で減少させ、第2流路23を流れる空気の量を第2スロットル6で増大すると、吸気温度が高くなるので燃焼室内の環境温度を高めることが可能となる。
【0108】
図13、
図14において、昇温SI燃焼制御モード、昇温中間燃焼制御モード、及び昇温切り換え燃焼制御モードに移行していく過程で、第1スロットル弁6の開度を徐々に減少させてインタークーラ5内に流入する空気量を減少し、逆に第2スロットル弁24の開度を徐々に増大させていくことで、内燃機関に吸入される空気の温度を高めることができる。これによって、燃焼室内の環境温度を高めることで、圧縮行程時の圧縮端温度Tcを更に高めることが可能となる。
【0109】
尚、本実施形態では、昇温切り換え燃焼制御モードでは第2の実施例と異なり、
図15の燃料噴射量の項目にある通り、燃料噴射量を減少してSIリーン燃焼領域で燃焼を行うようにしている。これによって燃料消費量を低減することができる。また、この時は点火時期の項目にある通り、リーン燃焼によるトルク低下を補償するため点火時期を進角側に制御している。更に、この点火時期の進角側への制御は、排気損失を低減して燃費を向上させることにも寄与している。
【0110】
ここで、筒内ガス燃料比(G/F)をSIリーン燃焼領域に維持することで、量論混合比の近傍に維持する場合に比べて燃焼温度が低下する恐れがある。しかしながら、第1スロットル弁6の開度を徐々に全閉に近づけ、第2スロットル弁24の開度を徐々に全開に近づけていくことで、インタークーラ5内に流入する空気量を減少し、内燃機関に吸入される吸入空気の温度を高めたため、次の燃焼サイクルのHCCI燃焼での燃焼室の環境温度を上昇させ、圧縮端温度Tcを増加してHCCI燃焼を実行する環境条件を成立させている。
【0111】
図15は、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの切り換えを実行した場合の、筒内ガス燃料比(G/F)と圧縮端温度Tc、及び燃焼領域の関係を、
図2を基に示している。尚、「●」印はSI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードに移行する期間の燃焼サイクルの通過点を例示的に示している。
【0112】
基本的には、
図9に示す動作と同じであるが、昇温切り換え燃焼制御モードにおいては、燃料噴射量が減少され、また、圧縮端温度Tcが低下しているので、「○」印で示すSI燃焼ノック領域からSIリーン燃焼領域に移行できるので、ノッキキング等の異常燃焼を避けることができる。更に、燃料噴射量を減少してリーン燃焼を行なうため燃料消費量を低減できる効果を奏する。加えて、点火時期が進角側に制御されているので、排気損失を低減して、更に燃費を向上させることができる。
【0113】
以上述べた通り本発明によれば、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードに切り換える時に、少なくとも燃料噴射と点火、及び吸排気バルブの開閉位相による昇温制御を実行して、HCCI燃焼に移行する過程で燃焼室内の混合気の圧縮端温度を高めてHCCI燃焼制御モードに移行させる、構成とした。
【0114】
これによれば、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードとの切り換える過程で、燃料噴射と点火、及び吸排気バルブの開閉位相が適切に制御されてシリンダ内の混合気の圧縮端温度がHCCI燃焼に適した温度に設定でき、SI燃焼制御モードからHCCI燃焼制御モードへの移行を良好に行うことができる。
【0115】
尚、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0116】
1…内燃機関、2…タービン、3…コンプレッサ、4…ターボ過給機、5…インタークーラ、6…スロットル弁、7…シリンダ7C、8…吸気マニホールド、9…吸気温度/圧力センサ、10…流動強化弁、11…燃料噴射弁、12…吸気バルブ、13…排気バルブ、14、15…バルブポジションセンサ、16…点火プラグ、17…クランク角度センサ、18…排気温度/圧力センサ、19…空燃比センサ、20…ECU。