(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】アサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤、活アサリ又は活ハマグリの保持用水溶液、及び、保管時劣化が抑制されたアサリ又はハマグリの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23B 4/00 20060101AFI20220922BHJP
A23L 17/40 20160101ALI20220922BHJP
A01K 61/54 20170101ALI20220922BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20220922BHJP
【FI】
A23B4/00 H
A23L17/40 C
A01K61/54
A23K10/30
(21)【出願番号】P 2018159375
(22)【出願日】2018-08-28
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 綾子
(72)【発明者】
【氏名】藤本 敏弘
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-142857(JP,A)
【文献】特開平08-322420(JP,A)
【文献】特開平06-048949(JP,A)
【文献】特開2005-307150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B
A23L
A01K
A23K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エノキタケ抽出物を含む、アサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤。
【請求項2】
前記抽出物を、前記アサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤の乾燥重量全体中、乾燥重量で50~100重量%含む、請求項1に記載のアサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤。
【請求項3】
エノキタケ抽出物を0.1~800ppm(固形分)含有し、塩化ナトリウム濃度が2~3.5重量%である、活アサリ又は活ハマグリの保持用水溶液。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のアサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤を用いた請求項3に記載の水溶液。
【請求項5】
温度が1~25℃の範囲にある請求項3又は4に記載の水溶液中に、酸素が供給された状態で10~15000分間保持された活アサリ又は活ハマグリ。
【請求項6】
請求項5に記載の活アサリ又は活ハマグリが冷蔵または冷凍された生アサリ又は生ハマグリ。
【請求項7】
請求項6に記載の生アサリ又は生ハマグリが加熱調理されたアサリ又はハマグリ。
【請求項8】
エノキタケ抽出物を0.1~800ppm(固形分)含有し、塩化ナトリウム濃度が2~3.5重量%、温度が1~25℃の範囲にある水溶液中に、酸素が供給された状態で活アサリ又は活ハマグリを10~15000分間保持することを特徴とする、保管時劣化が抑制されたアサリ又はハマグリの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤、活アサリ又は活ハマグリの保持用水溶液、及び、保管時劣化が抑制されたアサリ又はハマグリの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アサリやハマグリの身やだし汁は磯の風味を持ち、加熱調理後も身がふっくらとしており人気が高い食材である。しかしながら、水揚げ後の生アサリ又は生ハマグリを冷蔵してから輸送または保存すると、加熱調理によって身が固くなったり身やせして見え、また、プリプリとした食感や色味が低下するという問題が進行し、食感や外観を保持したまま輸送できる地域が限られていた。また、水槽に海水を入れて酸素を供給しながら魚介類を生きたまま定温輸送する方法もあるが、この方法では温度管理や酸素管理に大型の装置を必要とし、経済効率の点で望ましいものではなかった。さらに、アサリやハマグリを海水パックで輸送する方法もあるが、食感や外観を保持したまま輸送できる期間は限定的であった。さらにまた、水揚げ直後の生アサリ又は生ハマグリを冷凍してから輸送または保存する方法も一般的であるが、この方法によると、冷凍中の水分昇華や、解凍時のドリップなどによりアサリ又はハマグリの食感が著しく損なわれる、いわゆる冷凍障害が発生するという問題があった。
【0003】
特許文献1では、生鮮魚介類の鮮度を保持することを目的に、α,α-トレハロース、クエン酸等の有機酸、及び/又は、ポリフェノールを有効成分として含有する魚介類の鮮度保持剤が開示されている。しかし、この鮮度保持剤をアサリやハマグリに適用すると、鮮度保持剤に含まれる成分の風味や色がアサリやハマグリに付着して、本来の風味や色調が損なわれる問題がある。
【0004】
特許文献2には、成貝の蓄養時に適用することで、身痩せの防止とともに、クエン酸やコハク酸など呈味性の有機酸含量の増加したおいしい二枚貝を得るのに役立つ飼育剤として、分子量540以下で、かつ貯蔵糖あるいは貯蔵糖を構成している糖またはセロビオースを有効成分とする二枚貝飼育剤が開示されている。しかし、本飼育剤は、二枚貝の成長を促進して飼育中の身痩せを防止することを目的としたものであり、アサリやハマグリの水揚げ後に進行し得るアサリやハマグリの食感や外観の低下を抑制しようとするものではない。
【0005】
特許文献3には、貝類を短時間で軟化させて食感および食味を改善するために、アルカリ性物質と、乳酸ナトリウムまたは乳酸カリウムとを含む品質改良剤を貝類に接触させる方法が開示されている。しかし、当該方法は、貝類を短時間で軟化させることを目的としたものであり、アサリやハマグリの水揚げ後に進行し得るアサリやハマグリの食感や外観の低下を抑制しようとするものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-225047号公報
【文献】特開2011-10637号公報
【文献】特開2010-154799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、アサリ又はハマグリの水揚げ後、保管時に進行し得る加熱調理後の固化や身やせを抑制し、プリプリとした食感や色味を維持したアサリ又はハマグリを提供するために使用される、アサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤、活アサリ又は活ハマグリの保持用水溶液、及び、保管時劣化が抑制されたアサリ又はハマグリの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の抽出物を特定量含有した特定の塩化ナトリウム濃度の水溶液に、活アサリ又は活ハマグリを特定時間保持することで、その後の保管時に進行し得るアサリ又はハマグリの固化や身やせを抑制し、プリプリとした食感や色味を維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の第一は、エノキタケ抽出物、酵母抽出物及び大麦抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種の抽出物を含む、アサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤に関する。当該アサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤は、前記抽出物を、前記アサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤の乾燥重量全体中、乾燥重量で50~100重量%含むことが好ましい。
本発明の第二は、エノキタケ抽出物、酵母抽出物及び大麦抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種の抽出物を0.1~800ppm(固形分)含有し、塩化ナトリウム濃度が2~3.5重量%である、活アサリ又は活ハマグリの保持用水溶液に関する。当該活アサリ又は活ハマグリの保持用水溶液は、前記アサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤を用いたものであってよい。
本発明の第三は、温度が1~25℃の範囲にある前記水溶液中に、酸素が供給された状態で10~15000分間保持された活アサリ又は活ハマグリに関する。
本発明の第四は、前記活アサリ又は活ハマグリが冷蔵または冷凍された生アサリ又は生ハマグリに関する。
本発明の第五は、前記生アサリ又は生ハマグリが加熱調理されたアサリ又はハマグリに関する。
本発明の第六は、エノキタケ抽出物、酵母抽出物及び大麦抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種の抽出物を0.1~800ppm(固形分)含有し、塩化ナトリウム濃度が2~3.5重量%、温度が1~25℃の範囲にある水溶液中に、酸素が供給された状態で活アサリ又は活ハマグリを10~15000分間保持することを特徴とする、保管時劣化が抑制されたアサリ又はハマグリの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に従えば、アサリ又はハマグリの水揚げ後、保管時に進行し得るアサリ又はハマグリの加熱調理後の固化や身やせを抑制し、プリプリとした食感や色味を維持したアサリ又はハマグリを提供するために使用される、アサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤、活アサリ又は活ハマグリの保持用水溶液、及び、保管時劣化が抑制されたアサリ又はハマグリの製造方法を提供することができる。本発明によると、アサリ又はハマグリを冷蔵または冷凍した場合においてアサリ又はハマグリの固化や身やせを抑制し、プリプリとした食感や色味を維持することができ、また、冷凍した場合であっても、冷凍障害を抑制することもできる。また、保管時劣化抑制剤に由来する風味や色がアサリ又はハマグリに付着することも回避できる。本発明によると、アサリ又はハマグリの固化や身やせが抑制され食感や色味が維持されるので、加熱調理後の食感や外観を維持したアサリ又はハマグリの輸送可能なエリアを拡大することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明のアサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤は、アサリ又はハマグリの水揚げ後、特に生アサリ又は生ハマグリの冷蔵または冷凍中に生じ得るアサリ又はハマグリの加熱調理後の固化や身やせ、食感や色味の低下等の劣化を抑制するためのもので、特定の抽出物を含有する。本発明のアサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤は、塩水に配合して使用されるもので、生アサリ又は生ハマグリを冷蔵または冷凍する前に、本発明のアサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤を含む塩水で活アサリ又は活ハマグリを処理することで本発明の目的を達成することができる。
【0012】
本発明のアサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤で使用する抽出物は、エノキタケ抽出物、酵母抽出物及び大麦抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種の抽出物である。
【0013】
前記エノキタケ抽出物としては特に限定されないが、例えば、エノキタケの子実体を熱水及び/又はアルコール等の抽出溶媒で抽出した抽出物、酵素やアルカリ性の溶媒でエノキタケの子実体を分解してから熱水やアルコール等の抽出溶媒で抽出した抽出物、更にはこれら抽出物を濃縮した濃縮液、前記抽出物または前記濃縮液を乾燥して得られた粉末等が挙げられる。これら抽出物は、消費者の安心安全志向から、水や天然由来エタノール以外の溶媒を用いない抽出物が好ましい。但し、コスト面を考えると、水がより好ましい。
【0014】
抽出時の抽出溶媒の温度は、抽出溶媒の種類によって好適な温度幅が変動し得るが、一般に、抽出溶媒の大気圧下での沸点(℃)-20℃~抽出溶媒の大気圧下での沸点(℃)が好ましい。抽出時の抽出溶媒の温度が、該抽出溶媒の大気圧下での沸点(℃)-20℃より低いと、アサリ又はハマグリの保管時の劣化抑制効果が弱くなる場合があり、大気圧下での沸点(℃)より高くなると、特殊な加圧設備が必要となるため、抽出方法が複雑になる場合がある。
【0015】
前記エノキタケは、タマバリタケ科のキノコの一種であるFlammulina velutipes種のことをいう。特に限定されないが、人工的に栽培した白色かつもやし状の市販エノキタケを使用することができる。かかる市販エノキタケは、一般に食用とされており、容易に入手可能である。
【0016】
前記酵母抽出物としては特に限定されないが、例えば、酵母を熱水やアルコール等の抽出溶媒で抽出した抽出物、酵素やアルカリ性の溶媒で酵母を分解してから熱水やアルコール等の抽出溶媒で抽出した抽出物、更にはこれら抽出物を濃縮した濃縮液、前記抽出物または前記濃縮液を乾燥して得られた粉末等が挙げられる。これら抽出物は、消費者の安心安全志向から、水や天然由来エタノール以外の溶媒を用いない抽出物が好ましい。但し、コスト面を考えると、水がより好ましい。
【0017】
抽出時の抽出溶媒の温度は、抽出溶媒の種類によって好適な温度幅が変動し得るが、一般に、抽出溶媒の大気圧下での沸点(℃)-20℃~抽出溶媒の大気圧下での沸点(℃)が好ましい。抽出時の抽出溶媒の温度が、該抽出溶媒の大気圧下での沸点(℃)-20℃より低いと、アサリ又はハマグリの保管時の劣化抑制効果が弱くなる場合があり、大気圧下での沸点(℃)より高くなると、特殊な加圧設備が必要となるため、抽出方法が複雑になる場合がある。
【0018】
前記酵母は、嫌気環境下で発酵する際に、糖を資化してアルコールを生成する微生物のことをいう。具体例として、サッカロミセス(Saccharomyces)属に属する酵母や、キャンディダ(Candida)属に属する酵母等が挙げられるが、特に限定されない。食経験が豊富である観点から、前記酵母は、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)であってもよく、研究等で知見が多い観点から、前記酵母は、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)であってもよい。
【0019】
前記大麦抽出物としては特に限定されないが、例えば、大麦を熱水やアルコール等の抽出溶媒で抽出した抽出物、酵素やアルカリ性の溶媒で大麦を分解してから熱水やアルコール等の抽出溶媒で抽出した抽出物、更にはこれら抽出物を濃縮した濃縮液、前記抽出物または前記濃縮液を乾燥して得られた粉末等が挙げられる。これら抽出物は、消費者の安心安全志向から、水や天然由来エタノール以外の溶媒を用いない抽出物が好ましい。但し、コスト面を考えると、水がより好ましい。
【0020】
抽出時の抽出溶媒の温度は、抽出溶媒の種類によって好適な温度幅が変動し得るが、一般に、抽出溶媒の大気圧下での沸点(℃)-20℃~抽出溶媒の大気圧下での沸点(℃)が好ましい。抽出時の抽出溶媒の温度が、該抽出溶媒の大気圧下での沸点(℃)-20℃より低いと、アサリ又はハマグリの保管時の劣化抑制効果が弱くなる場合があり、大気圧下での沸点(℃)より高くなると、特殊な加圧設備が必要となるため、抽出方法が複雑になる場合がある。
【0021】
前記大麦は、中央アジア原産のイネ科の植物で、学名をHordeum velgareといい、二条大麦と六条大麦、皮麦とはだか麦、うるち種ともち種に分類されるものをいう。
【0022】
本発明のアサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤は、エノキタケ抽出物、酵母抽出物及び大麦抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種の抽出物を、該劣化抑制剤の乾燥重量全体に対し乾燥重量で50~100重量%含有することが好ましい。より好ましくは70~100重量%であり、さらに好ましくは90~100重量%である。50重量%よりも少ないと、アサリ又はハマグリの保管時の劣化抑制効果を発揮できない場合がある。本発明のアサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤に含まれ得る前記抽出物以外の固形分としては特に限定されず、天然由来の固形分であれば何を含有しても良い。
【0023】
本発明のアサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤の形状は特に限定されず、水溶液等の液体の形状であってもよいし、粉末状、顆粒状、ブロック状等の固形の形状であってもよい。
【0024】
本発明のアサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤は、これを真水、海水、または塩水に添加することで、次に説明する本発明の活アサリ又は活ハマグリの保持用水溶液を調製するために使用することができる。また、収穫した活アサリ又は活ハマグリを一時的に飼育している生け簀や物流時の海水パックに、本発明のアサリ又はハマグリの保管時劣化抑制剤を投入することで、加熱調理後の固化や身やせを抑制し、プリプリとした食感や色味を維持する効果を得ることができる。
【0025】
本発明の活アサリ又は活ハマグリの保持用水溶液は、前記抽出物を含有するものである。該水溶液に活アサリ又は活ハマグリを浸漬することで使用され、これによって、この使用後に活アサリ又は活ハマグリを冷蔵保存または冷凍保存する際にアサリ又はハマグリの加熱調理後の固化や身やせを抑制し、プリプリとした食感や色味を維持する効果を得ることができる。
【0026】
本発明の活アサリ又は活ハマグリの保持用水溶液は、前記抽出物を固形分で0.1~800ppm含有することが好ましい。当該含有量は、0.1~240ppmがより好ましく、0.2~240ppmが更に好ましく、0.2~60ppmが特に好ましい。0.1ppmより少ないとアサリ又はハマグリの保管時の劣化抑制効果を発揮できない場合がある。800ppmを越えると前記抽出物に由来する色素成分がアサリ又はハマグリに付着したり、アサリ又はハマグリの食感又は風味が損なわれる場合がある。
【0027】
本発明の活アサリ又は活ハマグリの保持用水溶液の塩化ナトリウム濃度は、2~3.5重量%が好ましく、2.3~3.5重量%がより好ましく、2.3~3.2重量%がさらに好ましく、2.5~3重量%が特に好ましい。塩化ナトリウム濃度が2重量%未満、又は3.5重量%を超えると、本発明の保持用水溶液中でアサリ又はハマグリが生育できず、却ってアサリ又はハマグリの保管時の劣化抑制効果が損なわれる場合がある。
【0028】
本発明の活アサリ又は活ハマグリの保持用水溶液は、上記塩化ナトリウム濃度を満足する限り、塩化ナトリウム以外の塩類を含有していてもよい。しかし、塩化ナトリウム以外の塩類の含有量は、塩化ナトリウム重量に対して1/3の重量までに制限することが好ましい。塩化ナトリウム以外の塩類の種類としては食品添加物として使用し得る塩類であれば特に限定されない。
【0029】
前記保持用水溶液は、上記塩化ナトリウム濃度を満足する限り、真水に食塩を添加して製造されたものであってもよいし、海水を利用して、又は、海水の塩化ナトリウム濃度を調整したものを利用して製造されたものであってもよい。
【0030】
本発明の活アサリ又は活ハマグリの保持用水溶液を用いて、特に生アサリ又は生ハマグリを冷蔵または冷凍する前に、活アサリ又は活ハマグリを処理することで、加熱調理後の固化や身やせを抑制し、プリプリとした食感や色味を維持したアサリ又はハマグリを製造することができる。当該処理の具体的態様の一例は以下のとおりである。該水溶液の温度を、好適には1~25℃の範囲とし、該水溶液に酸素を供給しつつ活アサリ又は活ハマグリを浸漬して、好適には10~15000分間保持する。その後、該水溶液から活アサリ又は活ハマグリを取り出すことで、加熱調理後の固化や身やせを抑制し、プリプリとした食感や色味を維持したアサリ又はハマグリを得ることができる。水溶液は予め殺菌してから使用してもよく、その場合、殺菌方法については特に限定されず、例えば、紫外線照射による殺菌、オゾン殺菌、塩素殺菌などを行なえばよい。
【0031】
前記水溶液の温度は1~25℃の範囲でコントロールすることが好ましく、1~17℃がより好ましく、3~17℃が更に好ましい。該温度が1℃より低い又は25℃より高いと、前記水溶液中で活アサリ又は活ハマグリの活動が低下してアサリ又はハマグリの保管時の劣化抑制効果を発揮できない場合がある。
【0032】
前記水溶液への酸素の供給方法としては、アサリ又はハマグリの生育に必要な溶存酸素濃度を確保できれば、どのような方法であってもよい。
【0033】
活アサリ又は活ハマグリを前記水溶液中で保持する時間は、10~15000分間が好ましく、10~9000分間がより好ましく、10~7200分間が更に好ましく、10~6000分間が特に好ましく、150~6000分間が極めて好ましい。保持時間が10分間より短いと、保管時劣化抑制剤の活アサリ又は活ハマグリに対する保持時間が足りず、アサリ又はハマグリの保管時の劣化抑制効果を発揮できない場合がある。また15000分間より長いとアサリ又はハマグリの風味又は食感が損なわれる場合がある。
【0034】
以上で説明した本発明の活アサリ又は活ハマグリの保持用水溶液を用いた活アサリ又は活ハマグリの処理は、静置した水槽で行なってもよいし、水槽ごと輸送しつつ行なってもよい。輸送しながら該処理をする場合であっても、本発明の方法によると、水溶液の温度が前述した範囲内にあれば厳格な温度管理を行なう必要がないので、従来の魚介類を生きたまま輸送する方法と比較して輸送コストを抑制することができる。
【0035】
本発明のアサリ又はハマグリの製造方法に従って得られたアサリ又はハマグリは、前述のように前記水溶液に特定時間保持した後、水揚げしてから殻むき、または、殻付きのまま冷蔵で1~5日間保存しても、加熱調理後の固化や身やせが抑制され、プリプリとした食感や色味が維持されている。また、本発明のアサリ又はハマグリの製造方法に従って得られたアサリ又はハマグリは、前述のように前記水溶液に特定時間保持した後、水揚げしてから、1ヶ月以上冷凍保存しても、加熱調理後の固化や身やせが抑制され、プリプリとした食感や色味が維持されている。
【0036】
なお、本発明における加熱調理とは、食材に熱を加えて調理する方法全般をいい、具体的には、揚げる、焼く、炒める、茹でる、煮る、蒸す、燻製などの処理を施すことをいう。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0038】
(製造例1) エノキタケ抽出物の作製
市販のエノキタケ(子実体)100gに100℃に加熱した熱水200mlを加え、2時間保持した。その後固形分を濾別して、固形分量が0.6重量%のエノキタケ抽出物を得た。得られたエノキタケ抽出物の0.5重量%(W/W)固形分濃度の水溶液の粘度は17mPa・sであった。
【0039】
(製造例2) 酵母抽出物の作製
パン酵母(株式会社カネカ製「カネカイーストGA」)100gに100℃に加熱した熱水200mlを加え、2時間保持した。その後固形分を濾別して、固形分量が1.0重量%の酵母抽出物を得た。得られた酵母抽出物の0.5重量%(W/W)固形分濃度の水溶液の粘度は8mPa・sであった。
【0040】
(製造例3) 大麦抽出物の作製
大麦粉(石橋工業株式会社製「大麦粉」)100gに100℃に加熱した熱水200mlを加え、2時間保持した。その後固形分を濾別して、固形分量が0.5重量%の大麦抽出物を得た。得られた大麦抽出物の0.5重量%(W/W)固形分濃度の水溶液の粘度は5mPa・sであった。
【0041】
(製造例4) 昆布抽出物の作製
真昆布(株式会社くらこん製「真昆布」)100gに100℃に加熱した熱水200mlを加え、2時間保持した。その後固形分を濾別して、固形分量が2.0重量%のコンブ抽出物を得た。得られたコンブ抽出物の0.5重量%(W/W)固形分濃度の水溶液の粘度は120mPa・sであった。
【0042】
<アサリ又はハマグリの加熱調理後の固化度の評価>
実施例および比較例において得たアサリ又はハマグリの加熱調理後の固化度は、訓練された10名(男性5人、女性5人)のパネラーにより食してもらい、各人が以下の基準に基づいて評価し、10人の各評価点の平均値を評価値とした。
5点:実施例15のアサリ又は実施例17のハマグリよりも非常に軟らかい
4点:実施例15のアサリ又は実施例17のハマグリよりも軟らかい
3点:実施例15のアサリ又は実施例17のハマグリと同等の軟らかさである
2点:実施例15のアサリ又は実施例17のハマグリより固い
1点:実施例15のアサリ又は実施例17のハマグリよりも非常に固い。
【0043】
<アサリ又はハマグリの加熱調理後の身やせの評価>
実施例および比較例において得たアサリ又はハマグリの加熱調理後の身やせの程度は、訓練された10名(男性5人、女性5人)のパネラーが、以下の基準に基づき目視で評価し、10人の各評価点の平均値を評価値とした。
5点:実施例15のアサリ又は実施例17のハマグリよりも非常にふっくらしており、全く身やせしていない
4点:実施例15のアサリ又は実施例17のハマグリよりもふっくらしており、ほぼ身やせしていない
3点:実施例15のアサリ又は実施例17のハマグリと同等のふっくらさで、あまり身やせしていない
2点:実施例15のアサリ又は実施例17のハマグリより身やせしており、ふっくらしていない
1点:実施例15のアサリ又は実施例17のハマグリよりも非常に身やせしており、全くふっくらしていない。
【0044】
<アサリ又はハマグリの加熱調理後の食感評価>
実施例および比較例において得たアサリ又はハマグリの加熱調理後のプリプリとした食感の程度は、訓練された10名(男性5人、女性5人)のパネラーにより食してもらい、各人が以下の基準に基づいて評価し、10人の各評価点の平均値を評価値とした。
5点:実施例15のアサリ又は実施例17のハマグリよりも非常にプリプリ感がある
4点:実施例15のアサリ又は実施例17のハマグリよりもプリプリ感がある
3点:実施例15のアサリ又は実施例17のハマグリと同等のプリプリ感がある
2点:実施例15のアサリ又は実施例17のハマグリよりプリプリ感がない
1点:実施例15のアサリ又は実施例17のハマグリと比較して全くプリプリ感がない。
【0045】
<アサリ又はハマグリの加熱調理後の色味>
実施例および比較例において得られたアサリ又はハマグリの加熱調理後の色味は、訓練された10名(男性5人、女性5人)のパネラーが、以下の基準に基づき目視で評価し、○と評価した人数が5人以上の場合○と評価し、○と評価した人数が5人未満の場合×と評価した。
○:実施例15のアサリ又は実施例17のハマグリと色味が同等で、変色がなく良好な色味である
×:実施例15のアサリ又は実施例17のハマグリと比較して変色しており、色味が悪い。
【0046】
<総合評価>
アサリ又はハマグリの加熱調理後の固化度、加熱調理後の身やせ、加熱調理後の食感、及び、加熱調理後の色味の各評価結果を基に、総合評価を行った。その際の評価基準は以下の通りである。
A:アサリ又はハマグリの加熱調理後の固化度、加熱調理後の身やせ、及び加熱調理後の食感の評価が全て4.5点以上5.0点以下を満たしており、且つ色味の評価が○であるもの。
B:アサリ又はハマグリの加熱調理後の固化度、加熱調理後の身やせ、及び加熱調理後の食感の評価が全て4.0点以上5.0点以下であって、且つ4.0以上4.5未満が少なくとも一つあり、且つ色味の評価が○であるもの。
C:アサリ又はハマグリの加熱調理後の固化度、加熱調理後の身やせ、及び加熱調理後の食感の評価が全て3.0点以上5.0点以下であって、且つ3.0以上4.0未満が少なくとも一つあり、且つ色味の評価が○であるもの。
D:アサリ又はハマグリの加熱調理後の固化度、加熱調理後の身やせ、及び加熱調理後の食感の評価が全て2.0点以上5.0点以下であって、且つ2.0以上3.0未満が少なくとも一つあり、且つ色味の評価が○であるもの。
E:アサリ又はハマグリの加熱調理後の固化度、加熱調理後の身やせ、及び加熱調理後の食感の評価において、2.0未満が少なくとも一つあるもの。または色味の評価が×であるもの。
【0047】
(実施例1)
表1の配合に従い、製造例1で得られたエノキタケ抽出物1重量%と、食塩3重量%を配合した水溶液1リットルを水槽に調製し、水温を15℃にコントロールした。該水槽に、活アサリ50体を浸漬し、酸素を供給しながら、180分間保持した後、アサリを水揚げした。水揚げ後、速やかに水気を切ってから真空包装し、4℃の冷蔵庫で48時間保存した後、100℃の熱水で15分間ボイル調理した。その後、アサリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行った。それらの結果を表1に示した。
【0048】
【0049】
(実施例2)
表1の配合に従い、前記エノキタケ抽出物の代わりに、製造例2で得られた酵母抽出物を配合した以外は、実施例1と同様にしてアサリを得た。得られたアサリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行った。それらの結果を表1に示した。
【0050】
(実施例3)
表1の配合に従い、前記エノキタケ抽出物の代わりに、製造例3で得られた大麦抽出物を配合した以外は、実施例1と同様にしてアサリを得た。得られたアサリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行った。それらの結果を表1に示した。
【0051】
(実施例4)
表1の配合に従い、実施例1の活アサリを活ハマグリに変えた以外は実施例1と同様にしてハマグリを得た。得られたハマグリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行った。それらの結果を表1に示した。
【0052】
(実施例5)
表1の配合に従い、前記エノキタケ抽出物の代わりに、製造例2で得られた酵母抽出物を配合した以外は、実施例4と同様にしてハマグリを得た。得られたハマグリの固化度、身やせ、食感、及び色味について評価し、それらの結果を表1に示した。
【0053】
(実施例6)
表1の配合に従い、前記エノキタケ抽出物の代わりに、製造例3で得られた大麦抽出物を配合した以外は、実施例4と同様にしてハマグリを得た。得られたハマグリの固化度、身やせ、食感、及び色味について評価し、それらの結果を表1に示した。
【0054】
(比較例1)
表1の配合に従い、前記エノキタケ抽出物の代わりに、製造例4で得られた昆布抽出物を配合した以外は、実施例1と同様にしてアサリを得た。得られたアサリの固化度、身やせ、食感、及び色味について評価し、それらの結果を表1に示した。
【0055】
(比較例2)
この比較例は、特許文献1(特開2003-225047号公報)の実施例B-6に記載された鮮度保持剤に準拠したものである。表1の配合に従い、前記エノキタケ抽出物を配合せず、トレハロース、クエン酸、及び、ポリフェノールを配合した以外は、実施例1と同様にしてアサリを得た。得られたアサリの固化度、身やせ、食感、及び色味について評価し、それらの結果を表1に示した。
【0056】
(比較例3)
この比較例は、特許文献2(特開2011-10637号公報)の実施例1に記載された二枚貝飼育剤に準拠したものである。表1の配合に従い、グルコース0.01重量%及び食塩3重量%を配合した水溶液1リットルを水槽に調製し、水温を15℃にコントロールした。該水槽に、活アサリ50体を浸漬し、酸素を供給しながら、24時間保持した後、アサリを水揚げした。水揚げ後、速やかに水気を切ってから真空包装し、4℃の冷蔵庫で48時間保存した後、100℃の熱水で15分間ボイル調理した。その後、アサリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行った。それらの結果を表1に示した。
【0057】
(比較例4)
表1の配合に従い、比較例1の活アサリを活ハマグリに変えた以外は比較例1と同様にしてハマグリを得た。得られたハマグリの固化度、身やせ、食感、及び色味について評価し、それらの結果を表1に示した。
【0058】
表1から明らかなように、抽出物の0.5%(W/W)固形分濃度の水溶液の粘度が3~50mPa・sの範囲にあるエノキタケ抽出物(製造例1)、酵母抽出物(製造例2)、又は、大麦抽出物(製造例3)を含む食塩水で処理して得られたアサリ又はハマグリ(実施例1~6)は、加熱調理しても、いずれも軟らかく、身やせしておらず、プリプリとした食感があり、また、色味も良好であった。特にエノキタケ抽出物を含む食塩水で処理して得られたアサリ又はハマグリ(実施例1及び4)の固化度、身やせ、及び食感の評価は極めて良好であった。
【0059】
一方、抽出物の0.5%(W/W)固形分濃度の水溶液の粘度が120mPa・sの昆布抽出物(製造例4)を含む食塩水で処理して得られたアサリ又はハマグリ(比較例1及び4)は、加熱調理により固くなり、身やせしており、プリプリとした食感は感じ難かった。また、トレハロース、クエン酸、及びポリフェノールを添加した食塩水で処理して得られたアサリ(比較例2)は、加熱調理により固くなり、身やせしており、プリプリとした食感も感じ難く、しかもポリフェノールによる着色が見られた。また、グルコースを添加した食塩水で処理して得られたアサリ(比較例3)は、加熱調理により固くなり、身やせしており、プリプリとした食感も感じ難かった。
【0060】
(実施例7及び8、比較例5)
表2の配合に従い、エノキタケ抽出物の配合量を1.0重量%から、0.1重量%(実施例7)、10.0重量%(実施例8)、又は、15.0重量%(比較例5)に変更した以外は、実施例1と同様にしてアサリを得た。得られたアサリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行い、それらの結果を表2に示した。
【0061】
【0062】
(比較例6)
表2の配合に従い、エノキタケ抽出物を配合せずに調製した水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にしてアサリを得た。得られたアサリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行い、それらの結果を表2に示した。
【0063】
(比較例7)
表2の配合に従い、エノキタケ抽出物を配合せずに調製した水溶液を使用した以外は、実施例4と同様にしてハマグリを得た。得られたハマグリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行い、それらの結果を表2に示した。
【0064】
表2から明らかなように、水溶液中のエノキタケ抽出物の固形分量が0.1~800ppmの範囲にある食塩水で処理して得られたアサリ又はハマグリ(実施例1、4、7、及び8)は、加熱調理しても、いずれも軟らかく、身やせはしておらず、プリプリとした食感があり、また、色味も良好であった。特に前記固形分量が60ppmの食塩水で処理して得られたアサリ又はハマグリ(実施例1及び4)の固化度、身やせ、及び食感の評価は極めて良好であった。
【0065】
一方、エノキタケ抽出物の固形分量が900ppmの食塩水で処理して得られたアサリ(比較例5)は、顕著に身やせはしていなかったものの、加熱調理により固くなり、プリプリとした食感は感じ難かった。また、エノキタケ抽出物を含有しない食塩水で処理して得られたアサリ又はハマグリ(比較例6及び7)は、加熱調理により固くなり、身やせしており、プリプリとした食感は感じ難かった。
【0066】
(実施例9)
表3の条件に従い、塩を含む水溶液の種類を食塩水から海水へ変更した以外は、実施例1と同様にしてアサリを得た。得られたアサリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行い、それらの結果を表3に示した。
【0067】
【0068】
(実施例10)
表3の条件に従い、塩を含む水溶液の種類を食塩水から海水へ変更した以外は、実施例4と同様にしてハマグリを得た。得られたハマグリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行い、それらの結果を表3に示した。
【0069】
(比較例8)
この比較例は、特許文献3(特開2010-154799号公報)の実施例1-1に記載された貝類の品質改良剤に準拠したものである。表3の配合に従い、水溶液に添加する塩の種類を食塩から乳酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムへ変えた以外は、実施例1と同様にしてアサリを得た。
【0070】
表3から明らかなように、エノキタケ抽出物を含み塩化ナトリウムの含有量が2~3.5重量%の範囲にある水溶液で処理して得られたアサリ又はハマグリ(実施例1、4、9、及び10)は、加熱調理しても、いずれも軟らかく、身やせしておらず、プリプリとした食感があった。一方、エノキタケ抽出物を含有するが塩化ナトリウムの代わりに乳酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムの含有量を3.5重量%とした水溶液に浸漬した活アサリ(比較例8)は、180分間の浸漬によって死滅してしまった。
【0071】
(実施例11、12)
表4の条件に従い、水溶液の水温を15℃から、10℃(実施例11)、又は、20℃(実施例12)にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてアサリを得た。得られたアサリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行い、それらの結果を表4に示した。
【0072】
【0073】
(実施例13、14)
表4の条件に従い、水溶液の水温を15℃から、10℃(実施例13)、又は、20℃(実施例14)にそれぞれ変更した以外は、実施例4と同様にしてハマグリを得た。得られたハマグリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行い、それらの結果を表4に示した。
【0074】
表4から明らかなように、エノキタケ抽出物を含み水温が1~25℃の食塩水で処理して得られたアサリ又はハマグリ(実施例1、4、11~14)は、加熱調理しても、いずれも軟らかく、身やせしておらず、プリプリとした食感が感じられた。特にエノキタケ抽出物を含み水温が15℃の食塩水で処理して得られたもの(実施例1及び4)の固化度、身やせ、及び食感の評価は極めて良好であった。
【0075】
(実施例15及び16、比較例9及び10)
表5の条件に従い、水溶液中でのアサリの保持時間を180分間から、15分間(実施例15)、14400分間(実施例16)、5分間(比較例9)、又は、17280分間(比較例10)に変更した以外は、実施例1と同様にしてアサリを得た。得られたアサリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行い、それらの結果を表5に示した。
【0076】
【0077】
(実施例17、比較例11及び12)
表5の条件に従い、水溶液中でのハマグリの保持時間を180分間から、15分間(実施例17)、5分間(比較例11)、又は、17280分間(比較例12)に変更した以外は、実施例4と同様にしてハマグリを得た。得られたハマグリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行い、それらの結果を表5に示した。
【0078】
表5から明らかなように、エノキタケ抽出物を含む食塩水に10~15000分間保持して得られたアサリ又はハマグリ(実施例1、4、15、16、及び17)は、加熱調理しても、いずれも軟らかく、身やせしておらず、プリプリとした食感があった。特に保持時間を180分間としたアサリ又はハマグリ(実施例1及び4)の固化度、身やせ、及び食感の評価は極めて良好であった。一方、保持時間が5分間のアサリ又はハマグリ(比較例9及び11)は、加熱調理により固くなり、身やせしており、プリプリとした食感は感じ難かった。また、保持時間が17280分間のアサリ又はハマグリ(比較例10及び12)も、加熱調理により固くなり、プリプリとした食感は感じ難かった。
【0079】
(実施例18~20)冷蔵保管後のアサリ
表6の条件に従い、水揚げ後の保存温度は同じで、保存期間を48時間から、96時間(実施例18)、120時間(実施例19)、又は、0時間(実施例20)に変更した以外は実施例1と同様にして、アサリを得た。得られたアサリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行い、それらの結果を表6に示した。
【0080】
【0081】
(比較例13)冷蔵保管後のアサリ
表6の条件に従い、水揚げ後の保存温度は同じで、保存期間を48時間から、120時間に変更した以外は比較例6と同様にして、アサリを得た。得られたアサリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行い、それらの結果を表6に示した。
【0082】
(実施例21)冷蔵保管後のハマグリ
表6の条件に従い、水揚げ後の保存温度は同じで、保存期間を48時間から、120時間に変更した以外は実施例4と同様にして、ハマグリを得た。得られたハマグリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行い、それらの結果を表6に示した。
【0083】
(比較例14)冷蔵保管後のハマグリ
表6の条件に従い、水揚げ後の保存温度は同じで、保存期間を48時間から、120時間に変更した以外は比較例7と同様にして、ハマグリを得た。得られたハマグリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行い、それらの結果を表6に示した。
【0084】
表6から明らかなように、エノキタケ抽出物を含む食塩水で処理した後、0時間~120時間冷蔵保存して得られたアサリ又はハマグリ(実施例1、18、19、20、4、及び21)は、加熱調理しても、いずれも軟らかく、身やせしておらず、プリプリとした食感があった。特に、食塩水から水揚げ後即座に加熱調理して得られたアサリ(実施例20)、及び、食塩水から水揚げ後48時間冷蔵保存後に加熱調理して得られたアサリ又はハマグリ(実施例1及び4)の固化度、身やせ、及び食感の評価は極めて良好であった。一方、エノキタケ抽出物を含有しない食塩水で処理したアサリ又はハマグリを120時間冷蔵保存したもの(比較例13、及び14)は、48時間冷蔵保存したもの(比較例6、及び7)と同様、加熱調理により固くなり、身やせしており、プリプリとした食感は感じ難かった。
【0085】
(実施例22)冷凍保管後のアサリ
表6の条件に従い、4℃で48時間の保存条件を、-20℃の冷凍庫に1ヶ月保管し、その後4℃の冷蔵庫に24時間静置解凍の条件に変更した以外は、実施例1と同様にしてアサリを得た。得られたアサリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行った。それらの結果を表6に示した。
【0086】
(実施例23)剥き身を冷凍保管後のアサリ
表6の条件に従い、実施例22と同様にして活アサリを水槽中に保持した後、殻が付いたままでの冷解凍を、殻を剥いた剥き身での冷解凍に変更した以外は、実施例22と同様にしてアサリを得た。得られたアサリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行った。それらの結果を表6に示した。
【0087】
(実施例24)冷凍保管後のハマグリ
表6の条件に従い、実施例22のアサリをハマグリに変更した以外は、実施例22と同様にしてハマグリを得た。得られたハマグリの固化度、身やせ、食感、及び色味について官能評価を行った。それらの結果を表6に示した。
【0088】
表6から明らかなように、エノキタケ抽出物を含む食塩水で処理した後1ヶ月間冷凍保存して得られたアサリ又はハマグリ(実施例22及び24)は、加熱調理しても軟らかく、身やせしておらず、プリプリとした食感があった。また、エノキタケ抽出物を含む食塩水で処理した後、殻を剥き、1ヶ月間冷凍保存して得られたアサリ(実施例23)も加熱調理しても軟らかく、身やせしておらず、プリプリとした食感が感じられた。