(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】棒状芯繰出具
(51)【国際特許分類】
B43K 21/22 20060101AFI20220922BHJP
B43K 21/16 20060101ALI20220922BHJP
A45D 40/20 20060101ALI20220922BHJP
B43M 11/00 20060101ALN20220922BHJP
【FI】
B43K21/22 Z
B43K21/16 H
A45D40/20 F
B43M11/00 A
(21)【出願番号】P 2018203637
(22)【出願日】2018-10-30
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】梶原 巧
【審査官】稲荷 宗良
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-245740(JP,A)
【文献】特開2012-245741(JP,A)
【文献】特開2009-285867(JP,A)
【文献】特開2013-022828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 21/22
B43K 21/16
A45D 40/20
B43M 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と、当該軸筒内に配設され筆記用の芯を把持するチャックとチャックに外嵌された締具と前記芯を収納する芯タンクとを有する芯繰出機構と、を備え、前記チャックが前後動するよう操作することで前記芯繰出機構が作動し、前記芯を前記軸筒の前端開口部から出没可能に構成した棒状芯繰出具であって、
前記軸筒の内部に前後動自在且つ回動自在に配設された回転子を備え、前記回転子は、前記軸筒を前後に振ることで前後動するよう当該軸筒内に遊嵌されると共にその前後動に伴い当該軸筒に対して回転するよう構成され、前記チャックが前記回転子の回転に連動して前記軸筒に対して回転するよう構成
され、
前記芯繰出機構の外側面に形成した窓部に操作体が配設され、前記操作体と前記回転子とが当接することで当該回転子の前方への移動量を制限すると共に、前記操作体を操作することで前記回転子の前方への移動制限が解除されるよう構成され、
前記軸筒の窓部に係止部が形成され、前記操作体に前記窓部の係止部と係止する被係止部が形成され、前記係止部と前記被係止部との係止状態を解除することで前記操作体が操作可能となるよう構成され、
前記操作体を操作することで前記回転子の前方への移動制限が解除された状態では、前記軸筒を前後に振ることにより、前記芯を回転させると共に前記芯繰出機構が作動して当該芯が前方へ繰り出されることを特徴とする棒状芯繰出具。
【請求項2】
前記軸筒の内側面または前記回転子の外側面に、互いの対向する端部にカム斜面を有する前部カム突起と後部カム突起とを備え、前記前部カム突起と前記後部カム突起は軸周方向に半位相ずれた状態で形成され、
前記回転子の外側面または前記軸筒の内側面に、前後端にカム斜面を備えたカム突起が形成され、
前記回転子の前後動に伴い前記カム突起が前記前部カム突起及び前記後部カム突起に対して交互に当接し、前記カム斜面に沿って移動することで、当該回転子が当該軸筒に対して回転するよう構成したことをと特徴とする請求項1に記載の棒状芯繰出具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒状の芯を回転可能な棒状芯繰出具に関する。
【背景技術】
【0002】
軸筒の内部に、シャープペンシル、色鉛筆、クレヨン、あるいは固形糊、口紅、アイライナー、アイシャドウまたはリップクリームなど棒状の芯を収容し、該芯の先端部を軸筒より繰り出して先端開口部から当該芯を突出させた状態で紙面などへの筆記や塗布を行なう棒状芯繰出具はよく知られている。
【0003】
前述した棒状芯繰出具は、芯の繰り出し動作を行い、軸筒内に配設した芯繰出ユニットを作動させて該軸筒の先端開口部から芯を突出させて使用するものである。また、棒状芯繰出具は軸筒の先端から突出した芯で筆記や塗布するものであるため、筆記や塗布を続けると、芯が片減りして筆跡や塗布した際の描線が芯径より幅広になってしまう問題がある。この問題を解決する手段として、例えば、シャープペンシルでは、特許文献1に開示のように、軸筒内に芯の狭持・解放を行うチャックが配置され、軸筒の後部ないし側部に配置されたノック体を操作することにより、芯の繰り出しと芯を回転させることができ、これにより筆記時の芯の片減りと折損を防止することができる構造が知られている。
【0004】
この特許文献1のシャープペンシルは、ノック部材の押圧操作により芯タンク及び摺動子を移動させ、その摺動子の移動により回転子を回転させ、更に、回転子の回転により芯タンク及び当該芯タンクに固定されたチャックを回転させるよう構成することで、芯の回転と前方へ繰出しとが可能な構造となっている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の構造では、使用者の任意のタイミングでノック部材を押圧操作することで芯の繰り出しと芯の回転動作を行うことができるが、操作部となるノック部材が軸筒の後端または側部にあるため、ノック部材が後端にある場合は筆記時に芯を回転させたい時にシャープペンシルを持ち替えてからノック部材を操作する必要があり、手間が掛かるという問題があった。また、ノック部材が軸筒の側部にある場合は、筆記時の体勢のままでもノック部材の操作は可能になるものの、筆記時にノック部材に指が触れてしまうと使用者の意図に反して芯が回転したり繰り出し操作がされてしまい。使用者の意に反して芯が回転し筆跡に変化が出たり、芯が出すぎることで芯の折損が発生する虞があった。更に、ノック部材に触れながら筆記すると、チャックが開いた状態で筆記することとなり、筆圧に耐えられずに芯もぐりが発生する虞があった。
【0006】
一方、特許文献2には筆記時の筆圧により軸筒に対して芯が後退することで、芯を回転させつつ芯を繰出すことが可能なメカニカルペンシルが開示されている。
この特許文献2のメカニカルペンシルは、軸筒又は先部材内に、芯の後退を阻止するチャックユニットと、芯を保持する機能を有する摺動ユニットが配置され、摺動ユニットの外周に鋸歯状の連なる溝が形成され、その鋸歯状の連なる溝と係合する突起を有する回転子の回転により、前記摺動ユニットが前後動し、且つ、その摺動ユニットの前後動の距離が間欠的に異なり、複数回の筆記圧の付加と解除によって、芯の回転と芯の繰り出しとが同時且つ自動的に行ってくれるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-048680号公報
【文献】国際公開第2012/014832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2の構造では、軸筒を保持して筆記することにより芯が後退することで芯の回転と芯の繰り出しを自動的に行ってくれるが、芯の繰り出しは芯の後退動作が複数回行われるたびに1回勝手に行われるため、必要なときに芯を繰出してくれない場合や必要の無いときに勝手に芯を繰出してしまう虞があった。また、芯の回転や繰り出し動作は筆記時の筆圧により芯が後退することで行われる。このため、筆記時に必ず芯が沈む動作を伴うことで、使用者によってはその筆記感に違和感や不快さを感じる場合があった。
【0009】
本発明は、前記問題を鑑みてなされたものであって、筆記時に芯を沈ませる(芯を後退させる)ことなく、筆記時の把持状態のまま軸筒を前後に振ることで、芯の回転動作を任意のタイミングで容易に実施できる棒状芯繰出具を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
「1.軸筒と、当該軸筒内に配設され筆記用の芯を把持するチャックとチャックに外嵌された締具と前記芯を収納する芯タンクとを有する芯繰出機構と、を備え、前記チャックが前後動するよう操作することで前記芯繰出機構が作動し、前記芯を前記軸筒の前端開口部から出没可能に構成した棒状芯繰出具であって、
前記軸筒の内部に前後動自在且つ回動自在に配設された回転子を備え、前記回転子は、前記軸筒を前後に振ることで前後動するよう当該軸筒内に遊嵌されると共にその前後動に伴い当該軸筒に対して回転するよう構成され、前記チャックが前記回転子の回転に連動して前記軸筒に対して回転するよう構成され、
前記芯繰出機構の外側面に形成した窓部に操作体が配設され、前記操作体と前記回転子とが当接することで当該回転子の前方への移動量を制限すると共に、前記操作体を操作することで前記回転子の前方への移動制限が解除されるよう構成され、
前記軸筒の窓部に係止部が形成され、前記操作体に前記窓部の係止部と係止する被係止部が形成され、前記係止部と前記被係止部との係止状態を解除することで前記操作体が操作可能となるよう構成され、
前記操作体を操作することで前記回転子の前方への移動制限が解除された状態では、前記軸筒を前後に振ることにより、前記芯を回転させると共に前記芯繰出機構が作動して当該芯が前方へ繰り出されることを特徴とする棒状芯繰出具。
2.前記軸筒の内側面または前記回転子の外側面に、互いの対向する端部にカム斜面を有する前部カム突起と後部カム突起とを備え、前記前部カム突起と前記後部カム突起は軸周方向に半位相ずれた状態で形成され、
前記回転子の外側面または前記軸筒の内側面に、前後端にカム斜面を備えたカム突起が形成され、
前記回転子の前後動に伴い前記カム突起が前記前部カム突起及び前記後部カム突起に対して交互に当接し、前記カム斜面に沿って移動することで、当該回転子が当該軸筒に対して回転するよう構成したことをと特徴とする前記1項に記載の棒状芯繰出具。」である。
【0011】
本発明の棒状芯繰出具によれば、軸筒を振ることで、筆記時の状態のまま持ち替えることなく、任意のタイミングで回転子を回転させ、それに伴いチャックを回転させることができる。そして、チャックは芯を狭持可能に構成していることからチャックの回転に伴い芯を回転させることができる。また、その回転動作は軸筒を前後に振ることで行うため、使用者は芯を繰出すための操作部等に触れることなく、芯を回転させることが可能となる。このため、芯を回転させるために芯を後退させる必要がないことから良好な筆感を得られると共に誤動作により使用者の意に反して芯が回転してしまうことを防止できる。
尚、本発明では軸筒を前後に振る動作により回転子を前後動させ、回転子の前後動によりチャックを回転させるため、軸筒を振った際、回転子に大きな慣性力が働くよう、回転子は一定以上の重量を有するように構成することが好ましい。また、回転子に重量を持たせる手段としては、回転子を金属などの比重の重い素材で形成してもよく、回転子に重りとなる重量体を固着させることで重量を増やしても良い。
【0012】
また、本発明において、回転子を回転する方法は、軸筒を振ることにより回転子が前後動するのに伴い回転子が回転するよう構成されていれば、その手段は特に限定されることはないが、例えば、軸筒の内側面または回転子の外側面に、互いの対向した端面にカム斜面を有する前部カム突起と後部カム突起とを備え、前記前部カム突起と前記後部カム突起とを軸周方向に半位相ずれた状態で形成し、回転子の外周面または軸筒の内周面には前後にカム斜面を備えたカム突起を形成し、回転子の前後動に伴いカム突起が前方カム及び後方カムに対して交互に当接し、カム斜面に沿って移動することで回転子が軸筒に対して回転するよう構成してもよく、この場合、回転子のカム突起が軸筒の前部カム突起または後部カム突起と当接する度にカム斜面の傾斜角度に応じて回転子を一定量回転させることができる。
【0013】
更に、本発明では軸筒を前後に振ることで回転子を回転させると共に芯繰出機構を作動させて芯が前方へ繰り出すよう構成してもよい。但し、回転子の回転に伴いチャックに狭持された芯を回転させる度に当該芯が前方へ繰出されてしまうと、芯が前方へ突出しすぎることで当該芯の折損が発生する虞がある。このため、芯の繰り出し動作を行うか否かを切り替えることが可能な構成とすることが好ましい。
【0014】
その切り替え手段としては、軸筒の外側面に形成した窓部に操作体を配設し、操作体と回転子とが当接することで当該回転子の前方への移動量を制限すると共に、操作体を操作することで回転子の前方への移動制限が解除されるよう構成してもよく、この場合、回転子の前方への移動制限を解除した状態で振り動作を行うことにより回転子を前進させ、回転子と芯タンクまたはチャックとが当接するよう構成することで、回転子に押されてチャックを前進させることができることから、公知の振出式シャープペンシル同様に、振り動作で芯を前方へ繰出しつつ、更に芯を回転させることができる。
【0015】
また、軸筒の窓部に係止部を形成し、操作体に係止部と係止する被係止部を形成し、係止部と被係止部との係止状態を解除することで操作体が操作可能となるよう構成してもよく、この場合、係止部と被係止部との係止状態を解除しない限り、操作体を操作できないため、誤って操作体に触れても操作体が動くことを防止できることから、振り動作により使用者の意に反して芯が繰り出されることを防止することができる。
尚、係止部と被係止部との係止状態を解除する方法としては、指が触れても簡単には係止状態が解除されないように、一定以上の力を掛けることで解除されるよう構成してもよく、筆記時に指が操作体に触れても操作体が移動し難い方向(例えば軸周方向または後退方向等)に力を掛けることで解除されるよう構成してもよい。
【0016】
更に、軸筒の振り動作時にチャックが回転する際、チャックや締具等に負荷が掛からないよう、軸筒に対して芯繰出機構全体が回転し易くなるよう構成することが好ましく、その手段としては特に限定されないが、例えば、芯繰出機構と軸筒との間にリング部材を配設し、リング部材により芯繰出機構の回転が軸筒に伝わらないよう構成することで回転し易くしてもよく、芯繰出機構と軸筒との間に潤滑剤を塗布することで回転し易くしてもよく、芯繰出機構が当接する軸筒の内面に複数のリブを形成し、芯繰出機構と軸筒との接触面積を減らすことで回転し易くしてもよく、芯繰出機構の外側部に複数の突起部を設け、突起部と軸筒内面とが当接するよう構成することで接触面積を減らして芯繰出機構が回転し易くなるよう構成してもよい。尚、前記手段を複数同時に用いて効果を相乗的に向上させてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、筆記時に芯を沈ませる(芯を後退させる)ことなく、筆記時の把持状態のまま軸筒を前後に振ることで、芯の回転動作を任意のタイミングで容易に実施できる棒状芯繰出具を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図4】軸筒内に配置される芯繰出機構、回転子、重量体の側面図である。
【
図5】回転子のカム突起が前後動した際、回転子のカム突起が前軸の前部カム突起及び後部カム突起と当接して回転する状態を説明するため、外方から視た展開図である。
【
図6】操作体を操作し前進させた状態を示す正面図である。
【
図7】
図6における棒状芯繰出具の拡大縦断面図である。
【0019】
次に図面を参照しながら、本発明の棒状芯繰出具をシャープペンシルを用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
また、本実施例では、軸筒の長手方向において、先口がある方を前方と表現し、その反対側を後方と表現する。更に、軸筒の軸径方向において、チャックがある方を内方と表現し、その反対側を外方と表現する。
尚、説明を分かりやすくするために、図面中の同様の部材、同様の部分については同じ符号を付してある。
【0020】
実施例1
図1は実施例1のシャープペンシル1(棒状芯繰出具)の正面図であり、
図2は
図1の拡大縦断面図であり、
図3は
図2のA-A線における拡大断面図であり、
図4は軸筒4内に配置される芯繰出機構8と回転子18と重量体17の側面図である。
図1及び
図2に示すように、シャープペンシル1は、筒状に形成された前軸2と前軸2の前部に螺着された先口3とで軸筒4が構成され、軸筒4の後部には外側部にクリップ部5aが形成された後筒体5と後筒体5の後端開口部5bから後方へ突出するようノック体6とを有するノックユニット7が装着され、軸筒4の内部には芯繰出機構8が挿入され、更に、前軸2の外側部の窓部2hには操作体9を装着して構成してある。
【0021】
次に、シャープペンシル1を構成する各部品について詳述する。
図2に示すように、軸筒4の内方には、頭部10aが3分割された黄銅製のチャック10が配設してある。そして、チャック10の頭部10aを覆うように筒状の締具11が外嵌され、締具11の後部に当接するように前部に鍔部12aを備えた筒状体12を配設してある。
更に、チャック10の頭部10aの外周部は前方へ向って拡径するようにテーパ状に形成してあり、頭部10aに締具11を外嵌している状態では、頭部10aの内周部でシャープペンシル用の芯13を狭持可能に構成してある。そして、チャック10の頭部10aに締具11を外嵌していない状態では、頭部10aが互いに離間して開くように形成してあり、その状態では頭部10aで芯13の狭持が解除されるよう構成してある。
【0022】
また、チャック10の後部には筒状の連結体14が圧入装着してあり、連結体14の前部と筒状体12の内段部12bとの間に鋼線を巻いてコイルスプリング状に形成したチャックスプリング15を張架してあり、チャックスプリング15によりチャック10を後方へ弾発してある。そして、連結体14の後方には内部に予備の芯を収納可能な芯収容部16eを備えた筒状の芯タンク16が圧入装着してある。
【0023】
更に、芯タンク16について詳述すると、
図2から
図4に示すように、芯タンク16の外周部は前部に比べて後部が径小になるよう段状に形成してあり、前部外周部16aと中央外周部16bとの境となる第一段部16cが形成され、中央外周部16bには第一段部16cから軸方向に沿って後方へ延び外方へ突出したレール部16dを形成してある。
【0024】
そして、チャック10と締具11と筒状体12と連結体14とチャックスプリング15と芯タンク16とで前述した芯繰出機構8が構成される。
【0025】
また、
図2~
図4に示すように、芯タンク16の外方には黄銅製の重量体17が遊嵌してあり、芯タンク16のレール部16dを重量体17の側面に軸方向に沿って延び、内外を貫通するように形成した側溝17aに挿入することで、重量体17と芯タンク16とを回動不能且つ前後動可能に係着してある。
更に、重量体17の外周部には筒状の回転子18を圧入装着して重量体17と回転子18とを一体化してあり、回転子18の外側面には前後端にカム斜面18b(前方カム斜面18b1、後方カム斜面18b2)を備えたカム突起18aを形成してある。尚、カム突起18aは軸周方向に沿って3つの突起が均等配置(120°毎に配置)されるように形成してある。
【0026】
次に、前軸2について詳述すると、
図2~
図4に示すように、前軸2の内面には内方へ向って突出するカム突起が前後に分けて形成(前部カム突起2b、後部カム突起2c)してある。そして、前部カム突起2bは複数の突起で構成され、各前部カム突起2bはその前方部で隣の突起と連絡するように連絡部を形成してあり、前部カム突起2bの後端には前部カム斜面2b1が各々形成してある。更に、後方カム突起2cも前部カム突起2b同様、複数の突起で構成されると共に各突起は後端部の連絡部で連絡するよう形成され、後部カム突起2cの前端には後部カム斜面2c1を各々形成してある。
尚、前記カム突起2bと後部カム突起2cは軸周方向に半位相分(本実施例では60°)ずれた状態で形成してある。
【0027】
また、
図5に示すようように、複数の前部カム突起2bと複数の後方カム突起2cとにより、隣り合う突起同士の間にはカム溝2dが形成され、カム溝2dには回転子18のカム突起18aが挿入される。そして、カム突起18aがカム溝2d内を前後に摺動可能に構成すると共に、前後への摺動によりカム突起18aのカム斜面18bと前軸2の前部カム斜面2b1及び後部カム斜面2c1とが当接することで、回転子18が前軸2に対して一方に回転(前軸2を後方から見て反時計回り方向)するよう構成してある。
尚、本発明においては、1度の振り動作で回転子が回転する角度が小さいと芯の片減りを解消する効果が弱く、回転する角度が大きすぎると芯のエッジ部で筆記する場合が発生し、芯が欠けたり折れやすくなることから、1度の振り動作で回転子が回転する角度は、30°以上180°以下が好ましく、60°以上、150°以下とすることがより好ましい。本実施例では、例えば回転子が最前進した位置からで考えると、後退時に60°、後退後の前進時に60°となるよう構成しているため、1回の前後への振り動作による回転子の前後動により回転子は120°回転する。
【0028】
更に、前軸2の後部外側面には、内孔まで貫通する係止穴2eが形成してあり、内周面には後端から前方へ向って延びる係止溝2fを形成してある。また、前軸2の前部外周面には雄螺子部2gを形成してある。
そして、前軸2の中央外側部には内孔まで貫通する窓部2hが形成してあり、その前部両側部には凹状の係止部2iが連続して2箇所(第一係止部2i1、第二係止部2i2)形成してある。また、窓部には前述した操作体9が前後動可能に挿入してある。
【0029】
操作体9について詳述すると、
図1及び
図2に示すように、操作体9には前部外側面から外方へ向って突出する係止突起9a(被係止部)を形成してあり、係止突起9a(被係止部)と前軸2の窓部2hの係止部2i(第一係止部2i1、第二係止部2i2)とを係脱可能に構成してある。尚、
図1は、係止突起9aと第二係止部2i2とを着脱自在に係止した状態であり、この状態では操作体9の後端と重量体17の前端とが当接するように構成してある。また、操作体9の表面部には、指で操作体9を操作する際に滑り難くなるように、複数の突状部9bを平行に並べて形成してある。
尚、本実施例では、操作体9の係止突起9a(被係止部)と前軸2の窓部2hの係止部2i(第一係止部2i1、第二係止部2i2)との係止状態を解除は、操作体9を前方または後方へ押圧することで実行することができるが、解除に必要な押圧力は5.0N以上に設定してあり、振動作時に重量体17が当接した際に発生する押圧力は最大でも3.0N程度、筆記時に指が操作体9に誤って触れた際に発生する押圧力が最大でも同じく3.0N程度であることから、係止突起9aと係止部2iとの嵌合力の方が十分に大きいため、筆記時や振動作時に操作体9と窓部2hとの係止状態が解除されて操作体9が移動してしまうことが無いように構成してある。
【0030】
先口3について詳述すると、
図2に示すように、先口3には前後に貫通する内孔が形成してあり、先口3の前部内孔には芯13を軽い力で保持する芯保持部21aを備えたスライダーユニット19が挿入してある。また、先口3の後部内周面には雌螺子部3aを形成してあり、雌螺子部3aと前軸2の雄螺子部2gとを螺合することで先口3を前軸2に着脱自在に装着してある。更に、先口3の前部内孔は軸周方向に均等配置された複数のリブ3cにより形成してある。
尚、筒状体12の前端と先口3のリブ3cとを当接させているため、その当接部の接触面積は全周で当接する場合の約50%まで小さくなる。このため、後述する軸筒4の振り動作で芯繰出機構8が回転する際に、芯繰出機構8が軸筒4に対して回転し易くなるよう構成してある。
【0031】
また、スライダーユニット19は、ステンレス製のパイプで形成されたガイドパイプ20を、スライド部材21に圧入装着することで一体化してある。尚、スライド部材21の内部には芯13を軽い保持力(本実施例では10g程度)で保持する芯保持部21aを形成してある。そして、スライダーユニット19は先口3に対して前後に摺動自在に挿入され、ガイドパイプ20の前部が先口3の前端開口部3bから出没可能に構成してある。
【0032】
後筒体5について詳述すると、後筒体5は前後に貫通する内孔を形成してあり、後方外筒部5cと後方外筒部5cより小径で形成された前方内筒部5dとで構成してある。また、後方外筒部5dには外側部から前方へ延びるように形成されたクリップ部5aを形成してあり、クリップ部5aと前軸2(軸筒4)とで狭持させることで、クリップとして機能するように構成してある。更に、後部内側にはリターンスプリング22を当接するための段部5eが形成してある。
また、前方内筒部5dの外周面には、クリップ部5aの真下の位置に、係止用突起5fと回転位置決め突起5gを形成するとともに、回転位置決め突起5gの後方に長手方向に延びる開口窓5hを軸心に対向するように2箇所形成してある。
【0033】
次に、ノック体6について詳述する。ノック体6は筒状の押圧部材23と消しゴム24とキャップ25とで構成され、押圧部材23の前部外周面には軸心を挟んで対向した位置に突起23aが形成するとともに、突起23aに対して90°回転した位置に口窓部を同じく対向して形成してあり(図示せず)、突起23aが位置する前部が弾性変形可能に構成してある。また、この押圧部材23の後部には外鍔23bが形成してある。
そして、押圧部材23の突起23aを後筒体5の開口窓5gに挿入することで、押圧部材23を後筒体5に対して前後動可能且つ回動不能に係止し、押圧部材23の外鍔23bの前端と後筒体5の段部5eとの間にリターンスプリング22を張架することで押圧部材23を後方へ弾発してある。更に、押圧部材23の内面には芯挿通孔を有する内鍔23cが形成してあり、この内鍔23cの前面がノック時(芯繰り出し時)に芯タンク16の後端を押圧する押圧面として機能するよう構成してある。
【0034】
また、押圧部材23の後部内孔には消しゴム24が装着してあり、押圧部材23の後部外周にはキャップ25が着脱自在に装着してある。
そして、後筒体5とリターンスプリング22とノック体6とでノックユニット7が構成される。
【0035】
更に、ノックユニット7を前軸2に装着する際、前軸2の係止溝2f内に係止用突起5f及び回転位置決め突起5gを挿入することでノックユニット7の回転方向が位置決めされ、係止穴2eに係止用突起5fを係止することでノックユニット7が着脱不能に係止される。
【0036】
次に、
図1、
図2、
図6及び
図7を用いて、筆記時に軸筒4を持ち替えることなく軸筒4を前後に振ることで回転子18とチャック10が回転し、それに伴い芯13が回転する状況を説明する。
筆記時に筆記姿勢を維持した状態(
図1及び
図2の状態)で軸筒4を前後に振ると、始めに軸筒4に対して遊嵌している回転子18と回転子18に圧入装着して一体化させてある重量体17とが共に慣性力で後方へ移動する。この際、
図5の矢印Xに示すように、回転子18のカム突起18aが後方側へ移動し、カム突起18aの後方カム斜面18b2と前軸2の後部カム突起2cの後部カム斜面2c1とが当接することで回転子18は後部カム斜面2c1に沿って
図5における右方向(前軸2を後方から視て反時計回り方向)に回転する。この回転子18の回転に伴い重量体17と回動不能に係止している芯タンク16が回転し、更に、芯タンク16の回転に伴い当該芯タンク16に圧入装着している連結体14を介してチャック10が回転する。そして、チャック10の回転に伴い締具11と締具11の後部に当接している筒状体12と筒状体12を前方へ弾発しているチャックスプリング15が同時に回転するため芯繰出機構8全体が前軸2(軸筒4)に対して回転すると共に、チャック10に狭持されている芯13も同方向へ回転する。
尚、回転子18の後退時に回転子18と共に芯13が回転する角度は前述したように60°に設定してある。また、回転子18の後退は回転子18の後端が前軸2の内段2aに当接することで停止するよう構成してある。
【0037】
更に、振り動作を続けることで、今度は軸筒4に対して遊嵌している回転子18と重量体17とが共に慣性力で前方へ移動する。この際、
図5の矢印Yに示すように、回転子18のカム突起18aが前方側へ移動し、カム突起18aの前方カム斜面18b1と前軸2の前部カム突起2bの前部カム斜面2b1とが当接することで回転子18は前部カム斜面2b1に沿って
図5における右方向(前軸2を後方から視て反時計回り方向)に回転する。この際、前述した回転子18が後退した時と同様に芯繰出機構8全体が前軸2(軸筒4)に対して一方向に回転すると共にチャック10に狭持されている芯13も回転する。
尚、回転子18が後退した状態から前進した際に回転する角度は後退時と同様に60°に設定したあるため、回転子18、芯繰出機構8及び芯13の1回の前後動で回転する角度は120°回転するよう構成される。
【0038】
また、この際、回転子18の前進は重量体17の前端が操作体9の後端に当接することで停止するため、重量体17の前端と芯タンク16の第一段部16cとが当接することがない。つまり、
図1及び
図2の状態から軸筒4を振っても芯タンク16が重量体17に押されて前進することはなく、チャック10も前進しない。このため、芯13の回転のみを行うことができ、不必要に芯13が繰出されることがないことから、芯13の繰り出しすぎによる芯13の折損を防止できた。
【0039】
尚、芯13の回転と芯13の繰り出しとを同時に行いたい場合は、
図1の状態から、操作体9を前方方向へ指で押圧(5N以上の力)して係止突起9aと前軸2の第二係止部2i2との係止状態を解除して操作体9を前進させる。そして、
図6に示すように、係止突起9aと前軸2の第一係止部2i1とを係止させる。
この状態で軸筒4を前後に振ると、回転子18の回転に伴う芯繰出機構8と芯13の回転は操作体9の係止突起9aと前軸2の第二係止部2i2とを係止していた場合と同様に行わるが、
図7に示すように、回転子18と重量体17とが慣性力で前進した際に重量体17の前端と芯タンク16の第一段部16cとが当接することから、重量体17に押されて芯タンク16が前進し、それに伴い連結体14とチャック10とを前進させることができる。このため、軸筒4の振り動作で芯13を回転させると共に、公知の振出式シャープペンシルと同様に芯13を前方へ繰出すことが可能となる。尚、本実施例では、ノック体6を後方から押圧することでも公知の後端ノック式シャープペンシル同様にチャックを前進させて芯13を前方へ繰出すことが可能である。
【0040】
以上により、本実施例のシャープペンシル1(棒状芯繰出具)は、筆記時に持ち替えることなく軸筒4を振ることにより、容易にチャック10とチャック10に狭持された芯13とを回転させることができると共に使用者の任意のタイミングで操作体9を操作して回転子18の前方方向への移動制限を解除することで芯13の繰り出しと芯13の回転とを同時に行う状態への切り替えが可能なものとなり、利便性が飛躍的に向上するものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の棒状芯繰出具は、シャープペンシルや色鉛筆、クレヨンなどの筆記具に限定されること無く、口紅、アイライナー、アイシャドウ、リップクリームなどの化粧用品や医療用器具などに広く使用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1…シャープペンシル(棒状芯繰出具)、
2…前軸、2a…内段、2b…前部カム突起、2b1…前部カム斜面、
2c…後部カム突起、2c1…後部カム斜面、2d…カム溝、2e…係止穴、
2f…係止溝、2g…雄螺子部、2h…窓部、2i…係止部、
2i1…第一係止部、2i2…第二係止部、
3…先口、3a…雌螺子部、3b…前端開口部、3c…リブ、
4…軸筒、
5…後筒体、5a…クリップ部、5b…後端開口部、5c…後方外筒部、
5d…前方内筒部、5e…段部、5f…係止用突起、5g…回転位置決め突起、
5h…開口窓、
6…ノック体、
7…ノックユニット、
8…芯繰出機構、
9…操作体、9a…係止突起(被係止部)、9b…突状部、
10…チャック、10a…頭部、
11…締具、
12…筒状体、12a…鍔部、12b…内段部、
13…芯、
14…連結体、
15…チャックスプリング、
16…芯タンク、16a…前部外周部、16b…中央外周部、16c…第一段部、
16d…レール部、16e…芯収容部、
17…重量体、17a…側溝、
18…回転子、18a…カム突起、18b…カム斜面、18b1…前方カム斜面、
18b2…後方カム斜面、
19…スライダーユニット、
20…ガイドパイプ、
21…スライド部材、21a…芯保持部、
22…リターンスプリング、
23…押圧部材、23a…突起、23b…外鍔、23c…内鍔、
24…消しゴム、
25…キャップ。