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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   B61F 3/14 20060101AFI20220922BHJP
   B61D 17/02 20060101ALI20220922BHJP
   B61D 49/00 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
B61F3/14
B61D17/02
B61D49/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018211166
(22)【出願日】2018-11-09
(65)【公開番号】P2020075661
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 悟
(72)【発明者】
【氏名】宇野 達哉
(72)【発明者】
【氏名】川本 英樹
(72)【発明者】
【氏名】水島 文夫
(72)【発明者】
【氏名】若林 雄介
【審査官】金田 直之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-196054(JP,A)
【文献】特開2015-229492(JP,A)
【文献】特開2005-262962(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0152248(US,A1)
【文献】特許第6254510(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 3/14
B61D 17/02
B61D 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸でつながる一対の車輪を2つ有する台車と、底部に前記台車を収容するための収容空間が形成された車体とを備える鉄道車両であって、
前記台車は、前記収容空間内において、前記車体に対して所定の鉛直軸を中心に予め設定された回動範囲内で回動可能に前記車体に接続されており、
前記台車に車体長手方向に対向する一対の対向面の少なくとも一方は、前記一対の車輪の間において前記車軸に車体長手方向に対向する対向面部を有し、
車体幅方向と前記車軸のなす角が最大となったときに車体幅方向に見た場合、少なくとも1つの前記車輪が前記対向面部と重なる、鉄道車両。
【請求項2】
前記車軸が車体幅方向に平行であるときに車体幅方向に見た場合、前記一対の車輪が前記対向面部と重なる、請求項1に記載の鉄道車両。
【請求項3】
前記車体は、前記台車の車体長手方向の両側で地面に対向して水平に延びる底部塞ぎ板と、及び、前記底部塞ぎ板の前記台車側の端部からそれぞれ上方に延びて、前記台車に車体長手方向に対向する一対の端部塞ぎ板と、前記台車に車体幅方向に対向する一対の側面カバーとを有しており、
前記端部塞ぎ板と前記車軸との間であって且つ前記一対の車輪の間の領域には、前記収容空間を埋める空間埋め部材として、第1部材が設けられており、
前記第1部材が、前記対向面部を有する、請求項1又は2に記載の鉄道車両。
【請求項4】
前記第1部材は、前記車体に対して取り外し可能である、請求項3に記載の鉄道車両。
【請求項5】
前記第1部材の地面に対向する面は、前記底部塞ぎ板と同じ高さに位置する、請求項3又は4に記載の鉄道車両。
【請求項6】
前記車体は、前記台車の車体長手方向の両側で地面に対向して水平に延びる底部塞ぎ板と、前記底部塞ぎ板の前記台車側の端部からそれぞれ上方に延びて、前記台車に車体長手方向に対向する一対の端部塞ぎ板と、前記台車に車体幅方向に対向する一対の側面カバーとを有しており、
前記端部塞ぎ板は、前記車軸に向かって前記一対の車輪の間の領域まで車体長手方向に突出した突出部分を有し、当該突出部分が前記対向面部を構成する、請求項1又は2に記載の鉄道車両。
【請求項7】
前記台車は、牽引装置により前記車体と結合される台車枠を有し、
前記収容空間を埋める空間埋め部材として、前記収容空間における前記牽引装置より下方に配置された、平面視して前記牽引装置に重なる第2部材を備える、請求項1~6のいずれか1項に記載の鉄道車両。
【請求項8】
前記台車は、牽引装置により前記車体と結合される台車枠を有し、前記台車枠は、車体幅方向に延びる横梁と、当該横梁の車体幅方向の両端部に接続されて車体長手方向に延びる一対の側梁とを有し、
前記収容空間を埋める空間埋め部材として、前記一対の側梁の間であって且つ車体長手方向における前記車軸と前記横梁との間の位置に配置された第3部材を備える、請求項1~7のいずれか1項に記載の鉄道車両。
【請求項9】
前記横梁には、前記車軸に接続された減速機を介して前記車輪を回転駆動する主電動機が取り付けられており、
前記第3部材は、前記収容空間における前記主電動機の車体幅方向一方側であって、且つ車体長手方向における前記減速機と前記横梁との間の位置に配置される、請求項8に記載の鉄道車両。
【請求項10】
前記車体は、前記台車の車体長手方向の両側で地面に対向して水平に延びる底部塞ぎ板と、前記底部塞ぎ板の前記台車側の端部からそれぞれ上方に延びて、前記台車に車体長手方向に対向する一対の端部塞ぎ板と、前記台車に車体幅方向に対向する一対の側面カバーとを有しており、
前記収容空間は、前記一対の端部塞ぎ板と前記一対の側面カバーとにより囲まれ、且つ、上下方向における前記端部塞ぎ板の上端部と下端部の間の空間であり、
前記収容空間における空隙部分の容積が7m以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載の鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の底部に台車を設置するための収容空間が形成された鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄道車両の分野では、走行中の騒音対策が種々提案されている。例えば、特許文献1には、鉄道車両の走行中に発生する騒音の原因と考えられる鉄道車両床下に発生する蛇行流れを低減する方法が提案されている。具体的には、特許文献1では、鉄道車両の床下に送風機を設置している。この送風機に鉄道車両の走行中に送風させて、鉄道車両の床下流れと鉄道車両の側方流れとの速度分布を均一にして、蛇行流れの低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6254510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄道車両の走行時に発生する可聴領域より低い低周波の圧力変動は、人間の聴覚では感知ができないものの、鉄道沿線家屋の建具などを振動させることで、騒音の原因となる可能性がある。低周波圧力変動は、鉄道車両の速度の増加とともに増大するが、鉄道車両の高速化に伴っても、低周波圧力変動を少なくとも増加させない、あるいは低減することが望まれている。しかしながら、低周波圧力変動の発生要因は、はっきりと判明しておらず、これまで低周波圧力変動に対する効果的な対応策はなされていなかった。
【0005】
そこで、本発明は、走行時の低周波圧力変動を好適に低減することができる鉄道車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者等は、鋭意研究の結果、車体の底部に台車を設置するための収容空間の隙間の容積を小さくすることが、鉄道車両の走行時の低周波圧力変動を低減するのに特に有効であることを見出した。本発明は、このような観点からなされたものである。
【0007】
すなわち、本発明の一態様に係る鉄道車両は、車軸でつながる一対の車輪を2つ有する台車と、底部に前記台車を収容するための収容空間が形成された車体とを備える鉄道車両であって、前記台車は、前記収容空間内において、前記車体に対して所定の鉛直軸を中心に予め設定された回動範囲内で回動可能に前記車体に接続されており、前記台車に車体長手方向に対向する一対の対向面の少なくとも一方は、前記一対の車輪の間において前記車軸に車体長手方向に対向する対向面部を有し、車体幅方向と前記車軸のなす角が最大となったときに車体幅方向に見た場合、少なくとも1つの前記車輪が前記対向面部と重なる。
【0008】
上記の構成によれば、車軸に車体長手方向に対向する対向面部が、車体幅方向と車軸のなす角が最大となったときに車体幅方向に見た場合、少なくとも1つの車輪と重なる。このため、台車に車体長手方向に対向する対向面が車体幅方向に見た場合に車輪と重ならない従来の鉄道車両に比べて、台車周りの空間の容積を低減することができる。この結果、台車周りで発生する鉄道車両の走行時の低周波圧力変動を低減することができる。
【0009】
上記の構成において、前記車軸が車体幅方向に平行であるときに車体幅方向に見た場合、前記一対の車輪が前記対向面部と重なってもよい。この構成によれば、より台車周りの空間の容積を低減することができる。
【0010】
上記の構成において、前記車体は、前記台車の車体長手方向の両側で地面に対向して水平に延びる底部塞ぎ板と、前記底部塞ぎ板の前記台車側の端部からそれぞれ上方に延びて、前記台車に車体長手方向に対向する一対の端部塞ぎ板と、前記台車に車体幅方向に対向する一対の側面カバーとを有しており、前記端部塞ぎ板と前記車軸との間であって且つ一対の車輪の間の領域には、前記収容空間を埋める空間埋め部材として、第1部材が設けられており、前記第1部材が、前記対向面部を有してもよい。この構成によれば、端部塞ぎ板が車体幅方向に沿って延びるように設計された従来の車体においても、台車周りの空間の容積を低減することができる。
【0011】
上記の構成において、前記第1部材は、前記車体に対して取り外し可能であってもよい。この構成によれば、車体に設置する台車の形状、大きさ、車体に対する台車の回動範囲に応じて、車体に取り付ける第1部材を自由に変更することができる。
【0012】
上記の構成において、前記第1部材の地面に対向する面は、前記底部塞ぎ板と同じ高さに位置してもよい。この構成によれば、第1部材が底部塞ぎ板と地面との間の空気の流れの抵抗となるのを抑制しつつ、台車周りの空間の容積をより低減できる。
【0013】
上記の構成において、第1部材を収容空間に設ける代わりに、前記車体は、前記台車の車体長手方向の両側で地面に対向して水平に延びる底部塞ぎ板と、前記底部塞ぎ板の前記台車側の端部からそれぞれ上方に延びて、前記台車に車体長手方向に対向する一対の端部塞ぎ板と、前記台車に車体幅方向に対向する一対の側面カバーとを有しており、前記端部塞ぎ板は、前記車軸に向かって前記一対の車輪の間の領域まで車体長手方向に突出した突出部分を有し、当該突出部分が前記対向面部を構成してもよい。この構成によれば、台車周りの空間の容積を低減することができる。さらに、端部塞ぎ板が車軸に向かって突出した部分を有するため、端部塞ぎ板より台車とは反対側の床下機器などを設置するスペースを拡大することができる。
【0014】
上記の構成において、前記台車は、牽引装置により前記車体と結合される台車枠を有し、前記収容空間を埋める空間埋め部材として、前記収容空間における前記牽引装置より下方に配置された、平面視して前記牽引装置に重なる第2部材を備えてもよい。この構成によれば、台車周りの空間の容積をより低減することができる。
【0015】
上記の構成において、前記台車は、牽引装置により前記車体と結合される台車枠を有し、前記台車枠は、車体幅方向に延びる横梁と、当該横梁の車体幅方向の両端部に接続されて車体長手方向に延びる一対の側梁とを有し、前記収容空間を埋める空間埋め部材として、前記一対の側梁の間であって且つ車体長手方向における前記車軸と前記横梁との間の位置に配置された第3部材を備えてもよい。この構成によれば、台車周りの空間の容積をより低減することができる。
【0016】
上記の第3部材を備える構成において、前記横梁には、前記車軸に接続された減速機を介して前記車輪を回転駆動する主電動機が取り付けられており、前記第3部材は、前記収容空間における前記主電動機の車体幅方向一方側であって、且つ車体長手方向における前記減速機と前記横梁との間の位置に配置されてもよい。
【0017】
上記の構成において、前記車体は、前記台車の車体長手方向の両側で地面に対向して水平に延びる底部塞ぎ板、及び、前記底部塞ぎ板の前記台車側の端部からそれぞれ上方に延びて、前記台車に車体長手方向に対向する一対の端部塞ぎ板と、前記台車に車体幅方向に対向する一対の側面カバーとを有しており、前記収容空間は、前記一対の端部塞ぎ板と前記一対の側面カバーとにより囲まれ、且つ、上下方向における前記端部塞ぎ板の上端部と下端部の間の空間であり、前記収容空間における空隙部分の容積が7m以下であってもよい。この構成によれば、低周波圧力変動を低減する顕著な効果が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、走行時の低周波圧力変動を好適に低減することができる鉄道車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態に係る鉄道車両の台車周りを斜め下方から見た概略拡大斜視図である。
図2図1に示す鉄道車両の台車周りの概略拡大側面断面図である。
図3図2のIII-III矢視断面図である。
図4図1に示す鉄道車両の車体を斜め下方から見た概略拡大斜視図である。
図5】台車周りの空隙容積に応じた各周波数と圧力変動レベルの関係を示す図である。
図6】台車周りの空隙容積と、鉄道車両走行時の圧力変動レベルの関係を示すグラフである。
図7】第2実施形態に係る鉄道車両の台車周りの概略拡大上面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る鉄道車両1の台車2周りを斜め下方から見た概略拡大斜視図である。図2は、鉄道車両1の台車2周りの概略拡大側面断面図である。図3は、鉄道車両1の台車2周りの概略拡大上面断面図であり、より詳しくは図2のIII-III矢視断面図である。以下の説明では、鉄道車両1の車体3が延びる長さ方向を車体長手方向とし、それに直交する横方向を車体幅方向として定義する。車体長手方向は前後方向とも称し、車体幅方向は左右方向とも称しえる。また、図面中において同一の構成については同一符号を付している。
【0021】
本実施形態の鉄道車両1は、台車2と、台車2に下方から支持される車体3とを備える。図1及び図2に示すように、台車2は、空気バネ6を介して車体3を支持する台車枠4を備える。台車枠4は、車体幅方向に延びる横梁と、横梁の車体幅方向の両端部に接続されて車体長手方向に延びる一対の側梁4bとを有する。本実施形態では、横梁は、車体幅方向に延びる2本の横梁本体4aと、車体長手方向に延びて2本の横梁本体4aを接続する2本のつなぎ梁4cを有する。2本の横梁本体4aは、台車枠4の中央付近にて車体長手方向に互いに離間して配置され、2本のつなぎ梁4cは、車体幅方向に互いに離間して配置される。
【0022】
台車枠4の車体長手方向両側には、一対の輪軸5が互いに車体長手方向に離れて配置されている。具体的には、一対の輪軸5は、車両長手方向における側梁4bの一端部及び他端部とそれぞれ同じ位置に配置される。輪軸5は、車体幅方向に沿って延びる車軸5aと、車軸5aに設けられた一対の車輪5bとを有する。車軸5aを回転自在に支持する軸受(図示せず)は、軸箱7に収容されている。軸箱7と側梁4bとの間には、一次サスペンションとなるバネ8(例えば、コイルバネ)が介設されている。
【0023】
本実施形態では、台車2は、車軸5aを駆動させる駆動手段を備える動台車である。図3に示すように、車体長手方向に互いに離れた横梁本体4aと車軸5aとの間のスペースには、車軸5aを駆動させる駆動手段として、主電動機11及び減速機12が配置されている。なお、図2では、主電動機11及び減速機12を省略する。主電動機11は、横梁本体4aに取り付けられている。減速機12は、車体幅方向における主電動機11の一方側に位置しており、車軸5aに平行に延びる軸継手11aを介して当該主電動機11に接続されている。減速機12は、図示しない支持部材により側梁4bに支持されており、車軸5aに接続されている。主電動機11の回転動力が減速機12を介して車軸5aに伝達されて車輪5bが回転駆動される。
【0024】
横梁の中央、より詳しくは2本のつなぎ梁4cの間には、台車2の牽引力を車体3に伝達する牽引装置13が設けられている。牽引装置13は、台車2の台車枠4と車体3とを接続している。本実施形態では、牽引装置13は、1本リンク式である。牽引装置13は、鉛直方向に延びる中心ピン13aを有しており、台車2は、車体3に対して中心ピン13aを中心に予め設定された回動(旋回)範囲内で回動(旋回)可能に車体3に接続されている。なお、図1図3には、車軸5aが車体幅方向に平行であるときの鉄道車両1が示されており、図3には、部分的に、車体幅方向とのなす角が最大となったときの車軸5aとそれに接続される車輪5b及び減速機12が二点鎖線で示されている。
【0025】
車体3の床下には、台車2の車体長手方向の一方側及び他方側で、図示しない各種機器(以下、「床下機器」という。)が設置されている。床下機器は、車体3の台枠(図示せず)に吊下げ支持されている。台車2の車体長手方向の一方側及び他方側のそれぞれに、床下機器の底面を覆う底部塞ぎ板21が配置されている。台車2の車体長手方向の一方側及び他方側の各底部塞ぎ板21は、地面Gに対向して水平に延びている。各底部塞ぎ板21は、車両限界内に配置されている。車両限界とは、荷重が変化したとしても、車両と軌道R及び地面Gとが接触しないように定められた限界をいう。
【0026】
各底部塞ぎ板21の台車2側の端部21aには、それぞれ端部塞ぎ板22がつながっている。端部塞ぎ板22は、それぞれ、底部塞ぎ板21の台車2側の端部21aから上方に延びており、台車2に車体長手方向に対向している。すなわち、一対の端部塞ぎ板22が車体長手方向に台車2を挟むように配置されている。本実施形態では、台車2の車体長手方向両側に配置された2つの端部塞ぎ板22は、所定の鉛直線(例えば中心ピン13aに沿った直線)に対して略軸対称な形状を有している。
【0027】
また、図1及び図3に示すように、車体3は、台車2の側面を覆う一対の側面カバー23を有する。各側面カバー23は、台車2に車体幅方向に対向している。一対の側面カバー23は、それぞれ、車体長手方向に延びており、一方の端部塞ぎ板22の車体幅方向における端部と他方の端部塞ぎ板22の車体幅方向における端部とをつないでいる。側面カバー23の下端部は、底部塞ぎ板21と同じ高さに位置している。
【0028】
こうして、車体3の底部には、一対の端部塞ぎ板22と一対の側面カバー23とにより囲まれた、台車2を収容するための収容空間Sが形成されている。以下、収容空間Sについて、図4を参照しながら説明する。図4は、車体3を斜め下方から見た概略拡大斜視図であり、具体的には、図1の鉄道車両1から台車2を除いて示した図である。
【0029】
本実施形態では、各端部塞ぎ板21には、収容空間Sにおける台車2の周りの空間を埋める空間埋め部材として、第1部材(板-車軸間空間埋め部材)31が設けられている。図3に示すように、各第1部材31は、端部塞ぎ板22と車軸5aとの間であって且つ一対の車輪5bの間の領域に配置されている。図2に示すように、第1部材31の地面Gに対向する面は、地面Gに平行であり、底部塞ぎ板21と同じ高さに位置している。
【0030】
第1部材31は、鉄道車両1がカーブしたレールRを走行する際に車体3に対して台車2が回転したときに(図3の二点鎖線)、当該台車2と接触しないよう、台車2の可動領域外に設置される。第1部材31は、アルミニウムを加工したものである。第1部材31は、台車2に接触しない範囲で、且つ、できるだけ台車2の周りの空間を埋めるのに適するよう加工され製作される。
【0031】
本実施形態では、図3に示すように、第1部材31の車体幅方向一方側部分は、台車2の減速機12が接触しないように車体長手方向の長さが短くなるよう形成されている。図3に示すように、第1部材31は、台車2が車体3に対して中心ピン13aを中心に回動したときに減速機12と接触しないように、平面視して段差状に形成されている。具体的には、第1部材31は、一対の車輪5aの間において車軸5bに車体長手方向に対向する対向面部を有し、この対向面部は、第1面部P1と、第1面部P1より車軸5bから遠位側に配置された第2面部P2を含む。
【0032】
このうち、第1面部P1は、図2及び図3に示すように、車体幅方向に見た場合に一対の車輪5bの双方と重なるように配置されている。なお、第1面部P1は、車体幅方向と車軸5aのなす角が最大となったときに車体幅方向に見た場合に、一対の車輪5bのうちの少なくとも一方の車輪5bと重なる。第1面部P1は、本発明の「対向面部」に相当する。
【0033】
また、第1部材31は、例えばボルトやナットを用いて、端部塞ぎ板21に対して取り外し可能に構成されている。
【0034】
収容空間Sには、第1部材31とは別に、収容空間Sを埋める空間埋め部材として、第2部材(牽引装置下方空間埋め部材)32と2つの第3部材(横梁-車軸間空間埋め部材)33が配置されている。なお、第2部材32と第3部材33も、第1部材31と同様、アルミニウムを加工したものである。
【0035】
第2部材32は、主に牽引装置13の真下の空間を埋める部材である。第2部材32は、車体3に支持されている。第2部材32は、収容空間Sにおける牽引装置13より下方の位置に配置された直方体状の本体部32aと、本体部32aの上面から上方に延びて車体3につながる板状の2つの支持部32bとを有する。2つの支持部32bは、それらの間に牽引装置13が配置されるように、車体幅方向に互いに対向している。図2に示すように、第2部材32(具体的には本体部32a)の地面Gに対向する面は、地面Gに平行であり、底部塞ぎ板21と同じ高さに位置している。また、第2部材32は、図3に示すように、平面視して牽引装置13に重なる。
【0036】
第3部材33は、主電動機11に車体幅方向に隣接した空間であって、車体長手方向における減速機12と横梁本体4aの間の空間を埋める部材である。第3部材33は、車体3に支持されている。第3部材33は、図3に示すように、収容空間Sにおける主電動機11の車体幅方向一方側であって、且つ、車体長手方向における減速機12と横梁本体4aとの間のスペースを上下方向に通過するように配置されている。図2に示すように、第3部材33の地面Gに対向する面は、地面Gに平行であり、底部塞ぎ板21と同じ高さに位置している。
【0037】
以上に説明した構成によれば、車軸5aに車体長手方向に対向する第1面部P1が、車体幅方向に見た場合に車輪5bと重なる。このため、台車に車体長手方向に対向する対向面が車体幅方向に見た場合に車輪と重ならない従来の鉄道車両に比べて、台車2周りの空間の容積を低減することができる。この結果、台車2周りで発生する鉄道車両1の走行時の低周波圧力変動を低減することができる。
【0038】
また、本実施形態では、第1部材31が端部塞ぎ板22に対して取り外し可能であるため、車体3に設置する台車2の形状、大きさ、車体3に対する台車2の回動範囲に応じて、車体3に取り付ける第1部材31を自由に変更することができる。
【0039】
また、本実施形態では、第1部材31の地面Gに対向する面は、底部塞ぎ板21と同じ高さに位置している。このため、第1部材31が底部塞ぎ板21と地面Gとの間の空気の流れの抵抗となるのを抑制しつつ、台車2周りの空間の容積をより低減できる。
【0040】
また、本実施形態では、第1部材31以外にも、台車2の周りの空間を埋める空間埋め部材として、第2部材32及び第3部材32が配置されているため、台車2周りの空間の容積をより低減することができる。
【0041】
(確認試験)
次に、空間埋め部材により台車2の周りの空間を埋めたことによる低周波圧力変動レベルの低減効果について確認試験を行った。確認試験の結果について、表1並びに図5及び図6を参照しつつ説明する。
【0042】
確認試験では、台車2の周りの空間に空間埋め部材を埋めた場合(実験例1,2)と埋めていない場合(比較例)のシミュレーションモデルを作成し、シミュレーションモデルを用いて、所定の速度で鉄道車両が高速走行したときの各周波数における大気圧からの圧力変動分を算出した。
【0043】
具体的に、実験例1は、複数の空間埋め部材を台車2の周りの空間に埋めて、空隙容積を5.7mにしたケースである。実験例2は、実験例1よりも空間埋め部材の合計容積を大きくし、空隙容積を3.6mにしたケースである。比較例は、空間埋め部材を台車2の周りの空間に埋めなかったケースであり、空隙容積が8.2mであるケースである。ここで、空隙容積は、収容空間Sにおける空隙部分の容積であり、具体的には、収容空間Sの容積から台車2及び空間埋め部材を除いた容積である。また、収容空間Sの容積とは、一対の端部塞ぎ板22と一対の側面カバー23とにより囲まれ、且つ、上下方向における端部塞ぎ板22の上端部と下端部の間の空間の容積であり、図4の例を用いて説明すれば、一対の端部塞ぎ板22と一対の側面カバー23とにより囲まれた直方体状の空間の容積である。
【0044】
図5は、実験例1,2及び比較例で得られた各周波数と圧力変動レベルの関係を示す図である。実験では、5Hz~40Hzの範囲の周波数帯における複数の周波数について、圧力変動レベルを算出した。圧力変動レベルは、実験例1,2及び比較例の各圧力変動分を、基準圧力(20μPa)との比の常用対数で示した値である。
【0045】
【表1】

【0046】
表1は、各例の空隙容積と、比較例に対する圧力変動レベルの合計値の低減量をまとめたものである。具体的に、比較例に関しては、「比較例に対する圧力変動レベルの合計値の低減量」は、当然のことながら0dBである。実験例1,2の各々に関して、「比較例に対する圧力変動レベルの合計値の低減量」は、図5でプロットした各実験例における圧力変動レベルの合計値から、図5でプロットした比較例における圧力変動レベルの合計値を差し引いた値で示される。
【0047】
図6は、横軸を空隙容積とし、縦軸を「比較例に対する圧力変動レベルの合計値の低減量」として、表1に示した実験結果をプロットしたグラフである。図6に示すように、空隙容積が小さくなるにつれて、圧力変動レベルは線形に低減した。図6には、プロットした点の近似直線も示される。この近似直線から、空隙容積を7m以下にすることで、約1dBの圧力変動レベルの低減が見込まれる。また、この近似直線から、空隙容積を6m以下にすることで、約1.5dBの圧力変動レベルの低減が見込まれるため、より好適である。
【0048】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る鉄道車両について、図7を参照しつつ説明する。図7は、第2実施形態に係る鉄道車両1aの台車2周りの概略拡大上面断面図である。本実施形態は、第1部材31を備える代わりに、端部塞ぎ板22自体が車軸5aに向かって一対の車輪5bの間の領域まで車体長手方向に突出した突出部分41を有している点で、第1実施形態と異なる。
【0049】
具体的には、端部塞ぎ板22が、車軸5aに向かって車体長手方向に突出した突出部分41を有しており、突出部分41は、一対の車輪5aの間において車軸5bに車体長手方向に対向する。突出部分41は、台車2が車体3に対して中心ピン13aを中心に回動したときに減速機12と接触しないように、平面視して段差状に形成されている。突出部分41は、第1面部P1と、第1面部P1より車軸5bから遠位側に配置された第2面部P2を含む。このうち、第1面部P1は、車軸5aが車体幅方向に平行であるときに車体幅方向に見た場合に、一対の車輪5bの双方と重なるように配置されている。なお、端部塞ぎ板22の台車2に車体長手方向に対向する面のうち、突出部分41の第2面部P2及び突出部分41以外の部分42は、車体幅方向に見た場合に一対の車輪5bに重ならない。
【0050】
本実施形態でも、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、端部塞ぎ板22が車軸5aに向かって突出した部分を有するため、端部塞ぎ板22より台車2とは反対側で底部塞ぎ板21に覆われるスペースを拡大することができる。このため、床下機器などを設置するスペースを拡大することができる。
【0051】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0052】
上記の実施形態では、上述した空間埋め部材はいずれもアルミニウムで製作されていたが、空間埋め部材の材料について特に制限されるものではない。例えば、空間埋め部材は、鉄、樹脂、木材などであってもよい。空間埋め部材は、例えば、中実であってもよいし、中空の箱状であってもよい。
【0053】
また、空間埋め部材の形状についても、上記実施形態で説明されたものに制限されるものではない。例えば、第1部材31、第2部材32及び第3部材33の地面Gに対向する面は、地面Sに平行でなくてもよいし、底部塞ぎ板21と同じ高さに位置していなくてもよい。また、減速機12と横梁本体4aとが車体長手方向に延びる連結部材で連結されている場合には、第3部材33は、当該連結部材を避けつつ減速機12と横梁本体4aの間の空間を埋める形状であってもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、本発明の「対向面部」に相当する第1面部P1が、車軸5aが車体幅方向に平行であるときに車体幅方向に見た場合に一対の車輪5bの双方と重なるように配置されていたが、本発明の対向面部はこれに限定されない。例えば、本発明の対向面部は、車体幅方向と車軸のなす角が最大となったときに車体幅方向に見た場合に一対の車輪と重なるように配置されていればよい。この場合でも、台車に車体長手方向に対向する対向面が車体幅方向に見た場合に車輪と重ならない従来の鉄道車両に比べて、台車周りの空間の容積を低減することができる。但し、上記実施形態のように、車軸が車体幅方向に平行であるときに車体幅方向に見た場合に一対の車輪が対向面部と重なる構成では、車軸5aにより近いスペースを埋めることができ、より台車周りの空間の容積を低減することができる。
【0055】
また、上記実施形態では、空間埋め部材は、車体3に支持されていたが、本発明の空間埋め部材は、台車2に支持されていてもよい。例えば、第3部材33は、車体3に支持されていたが、台車2の台車枠4に支持されていてもよいし、台車2の別の要素に支持されてもよい。また、第1部材31は、端部塞ぎ板21に対して取り外し可能でなくてもよい。例えば、第1部材31は、車体3の台枠などに対して取り外し可能に構成されて、車体3の台枠にぶら下げ支持された状態で端部塞ぎ板21の中央部分に配置されてもよい。この場合、第1部材31は、端部塞ぎ板21から離間して配置されてもよい。
【0056】
また、本発明の鉄道車両は、第2部材32及び第3部材33の一方又は双方を備えていなくてもよいし、例えば第1部材31、第2部材32及び第3部材33以外の空間埋め部材を備えていてもよい。例えば、上述した空間埋め部材とは別の空間埋め部材を、第1部材31に車体幅方向に隣接する空間、車体幅方向における側面カバー23と台車2の間の空間、車両上下方向における車体3と台車枠4の間の空間などに設けてもよい。また、収容空間における空隙部分の容積を低減するために、側面カバー23を厚くしてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、台車2に車体長手方向に対向する一対の対向面の双方が、対向面部を有していたが、台車に車体長手方向に対向する一対の対向面の少なくとも一方が対向面部を有していればよい。
【0058】
また、上記の第1実施形態の端部塞ぎ板22が、第2実施形態で説明された突出部分41を有していてもよい。そして、この突出部分41に第1部材31が設けられていてもよ。
【0059】
また、上記実施形態では、台車2は、車軸5aを駆動させる駆動手段として主電動機11及び減速機12を備えた動台車であったが、本発明が備える台車は動台車でなくてもよい。すなわち、本発明の鉄道車両が備える台車は、車軸を駆動させる駆動手段を備えない従台車であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 :鉄道車両
2 :台車
3 :車体
4 :台車枠
5a :車軸
5b :車輪
11 :主電動機
12 :減速機
13 :牽引装置
21 :底部塞ぎ板
22 :端部塞ぎ板
23 :側面カバー
31 :第1部材
32 :第2部材
33 :第3部材
41 :中央側板部
42 :外側板部
P1 :第1面部(対向面部)
S :収容空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7