(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】イオン注入装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/317 20060101AFI20220922BHJP
G21F 7/00 20060101ALI20220922BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
H01J37/317 Z
G21F7/00 Z
H01L21/265 603Z
(21)【出願番号】P 2019051014
(22)【出願日】2019-03-19
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000183196
【氏名又は名称】住友重機械イオンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】松下 浩
(72)【発明者】
【氏名】大西 亮太
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-206504(JP,A)
【文献】特開2018-195806(JP,A)
【文献】特開2010-151617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37
H01L 21
G21F 7
G21K 5
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームが輸送されるビームラインに沿って配置される複数のユニットと、前記ビームラインの最下流に配置される基板搬送処理ユニットとを含み、高エネルギーのイオンビームの衝突により中性子線が発生しうる中性子線発生源を有する装置本体と、
前記装置本体を少なくとも部分的に包囲する筐体と、
前記中性子線発生源から前記筐体までの距離が所定以下となる方向に前記中性子線発生源から出射される中性子線が入射しうる位置に配置される中性子線散乱部材と、を備えることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記中性子線散乱部材は、前記中性子線発生源から前記筐体までの距離が第1距離となる第1方向に前記中性子線発生源から出射される中性子線が入射しうる位置に配置される第1中性子線散乱部材と、前記中性子線発生源から前記筐体までの距離が前記第1距離よりも大きい第2距離となる第2方向に前記中性子線発生源から出射される中性子線が入射しうる位置に配置され、前記第1中性子線散乱部材よりも厚みの小さい第2中性子線散乱部材とを含むことを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記中性子線散乱部材は、前記中性子線発生源から前記筐体までの距離が第1距離となる第1方向に前記中性子線発生源から出射される中性子線が入射しうる位置に配置される一方、前記中性子線発生源から前記筐体までの距離が前記第1距離よりも大きい第3距離となる第3方向に前記中性子線発生源から出射される中性子線が入射しうる位置に配置されないことを特徴とする請求項1または2に記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記中性子線発生源は、前記ビームラインに設けられるスリット、ビームモニタおよびビームダンプの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記中性子線散乱部材の少なくとも一部は、前記筐体に取り付けられることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項6】
前記中性子線散乱部材の少なくとも一部は、前記筐体に設けられる扉に取り付けられることを特徴とする請求項5に記載のイオン注入装置。
【請求項7】
前記中性子線散乱部材の少なくとも一部は、前記装置本体および前記装置本体の支持構造体の少なくとも一方に取り付けられることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項8】
前記中性子線散乱部材は、前記ビームラインの一部区間に沿って配置される前記筐体の一部には取り付けられないことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項9】
前記複数のユニットは、イオン源から引き出されるイオンビームを加速させて前記高エネルギーのイオンビームを生成するビーム加速ユニットと、前記高エネルギーのイオンビームを前記基板搬送処理ユニットに向けて輸送するビーム輸送ユニットと、を備え、
前記中性子線散乱部材は、前記ビーム輸送ユニットに沿って配置される前記筐体の一部に少なくとも部分的に取り付けられる一方、前記ビーム加速ユニットに沿って配置される前記筐体の一部には少なくとも部分的に取り付けられないことを特徴とする請求項8に記載のイオン注入装置。
【請求項10】
前記複数のユニットは、前記ビーム加速ユニットと前記ビーム輸送ユニットの間をつなぐビーム偏向ユニットをさらに備え、
前記ビームラインは、直線状の前記ビーム加速ユニットと、曲線状の前記ビーム偏向ユニットと、直線状の前記ビーム輸送ユニットとによってU字状に構成され、
前記中性子線散乱部材は、前記ビーム偏向ユニットに沿って配置される前記筐体の一部に少なくとも部分的に取り付けられることを特徴とする請求項9に記載のイオン注入装置。
【請求項11】
前記基板搬送処理ユニットは、前記高エネルギーのイオンビームをウェハに照射する注入処理がなされる注入処理室と、複数枚のウェハを収容可能なウェハ容器が載置されるロードポートと、前記注入処理室と前記ウェハ容器の間でウェハを搬送する基板搬送装置と、を備え、
前記筐体は、前記ロードポートの鉛直上方において前記ウェハ容器が鉛直方向に通過可能となるよう構成されるウェハ容器搬送口を有し、
前記中性子線散乱部材は、前記ウェハ容器搬送口における前記ウェハ容器の搬送を妨げないように配置されることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項12】
前記中性子線散乱部材の一部は、前記ウェハ容器搬送口を挟んで水平方向に重なるように配置されることを特徴とする請求項11に記載のイオン注入装置。
【請求項13】
前記筐体は、前記ロードポートの正面に設けられる出入口と、前記出入口の右端または左端を閉鎖する一枚のヒンジ扉と、前記ヒンジ扉により閉鎖されない前記出入口の残りを閉鎖する二枚のスライド扉とを有し、
前記中性子線散乱部材は、前記ヒンジ扉および前記スライド扉の双方に取り付けられることを特徴とする請求項11または12に記載のイオン注入装置。
【請求項14】
前記筐体は、前記ロードポートの正面に設けられる出入口と、前記出入口の右端および左端を閉鎖する二枚のヒンジ扉と、前記二枚のヒンジ扉により閉鎖されない前記出入口の中央を閉鎖する一枚のスライド扉とを有し、
前記中性子線散乱部材は、前記ヒンジ扉および前記スライド扉の双方に取り付けられることを特徴とする請求項11または12に記載のイオン注入装置。
【請求項15】
前記筐体は、前記装置本体の側方に設けられる側壁部と、前記装置本体の鉛直上方に設けられる天井部と、前記装置本体の鉛直下方に設けられる床部とを含み、
前記側壁部、前記天井部および前記床部のそれぞれは、前記中性子線散乱部材が取り付けられる箇所と、前記中性子線散乱部材が取り付けられない箇所とを有することを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項16】
前記中性子線散乱部材は、水素原子の含有量が0.08g/cm
3~0.15g/cm
3である材料で構成されることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項17】
前記中性子線散乱部材は、ポリオレフィンを含むことを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項18】
前記中性子線散乱部材は、硼素原子をさらに含むことを特徴とする請求項17に記載のイオン注入装置。
【請求項19】
前記中性子線散乱部材の少なくとも一部は、板状またはブロック状であることを特徴とする請求項1から18のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項20】
前記板状または前記ブロック状の中性子線散乱部材の表面に不燃性シートが取り付けられることを特徴とする請求項19に記載のイオン注入装置。
【請求項21】
前記中性子線散乱部材の少なくとも一部は、粒状、ジェル状またはペースト状であることを特徴とする請求項1から20のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項22】
前記筐体に取り付けられるX線遮蔽部材をさらに備えることを特徴とする請求項1から21のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項23】
前記高エネルギーのイオンビームは、4MeV以上のエネルギーを有する硼素イオンを含むことを特徴とする請求項1から22のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、導電性を変化させる目的、半導体ウェハの結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウェハにイオンを注入する工程が標準的に実施されている。この工程で使用される装置は、一般にイオン注入装置と呼ばれる。ウェハの表面近傍に注入されるイオンの所望の注入深さに応じて、イオンの注入エネルギーが決定される。浅い領域への注入には低エネルギーのイオンビームが使用され、深い領域への注入には高エネルギーのイオンビームが使用される。
【0003】
最近では、さらに深い領域への注入のために、従来の高エネルギーイオン注入に比べてさらに高いエネルギーのイオンビームを使用するいわゆる超高エネルギーイオン注入への要求が高まっている。超高エネルギーに加速されたイオンは、イオン注入装置のビームラインに存在する部材と衝突して核反応を引き起こす可能性がある。生起する核反応によっては、中性子線などの放射線が発生しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中性子線の発生が懸念される超高エネルギーイオン注入装置の場合、装置全体を放射線管理区域内に設置することも考えられるが、量産用の半導体製造工場内に放射線管理区域を別途設けることは容易ではない。
【0006】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、装置外の中性子線量率を抑制できるイオン注入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様のイオン注入装置は、イオンビームが輸送されるビームラインに沿って配置される複数のユニットと、ビームラインの最下流に配置される基板搬送処理ユニットとを含み、高エネルギーのイオンビームの衝突により中性子線が発生しうる中性子線発生源を有する装置本体と、装置本体を少なくとも部分的に包囲する筐体と、中性子線発生源から筐体までの距離が所定以下となる方向に中性子線発生源から出射される中性子線が入射しうる位置に配置される中性子線散乱部材と、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、装置外の中性子線量率が抑制されたイオン注入装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】筐体に設けられる中性子線散乱部材を模式的に示す図である。
【
図3】筐体とは別に設けられる中性子線散乱部材を模式的に示す図である。
【
図4】実施の形態に係るイオン注入装置の概略構成を示す上面図である。
【
図5】
図5(a)~(c)は、
図4のイオン注入装置の概略構成を示す側面図である。
【
図6】ロードポートの正面扉の構造を模式的に示す上面図である。
【
図7】
図7(a),(b)は、ロードポートの開放状態の正面扉を模式的に示す上面図である。
【
図8】実施の形態に係るイオン注入工程の流れを示すフローチャートである。
【
図9】第1工程におけるイオン注入装置を模式的に示す図である
【
図10】第2工程におけるイオン注入装置を模式的に示す図である。
【
図11】第3工程におけるイオン注入装置を模式的に示す図である。
【
図12】第4工程におけるイオン注入装置を模式的に示す図である。
【
図13】第5工程におけるイオン注入装置を模式的に示す図である。
【
図14】第6工程におけるイオン注入装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0012】
本実施の形態は、高エネルギー用のイオン注入装置に関する。イオン注入装置は、イオン源で生成したイオンビームを加速させ、加速して得られた高エネルギーのイオンビームをビームラインに沿って被処理物(例えば基板またはウェハW)まで輸送し、被処理物にイオンを注入する。
【0013】
本実施の形態における「高エネルギー」とは、4MeV以上、5MeV以上または10MeV以上のエネルギーを有するイオンビームのことをいう。高エネルギーのイオン注入によれば、従来の4MeV未満のエネルギーのイオン注入に比べてより高エネルギーで所望の不純物イオンがウェハ表面に打ち込まれるので、ウェハ表面のより深い領域(例えば深さ5μm以上)に所望の不純物を注入することができる。高エネルギーイオン注入の用途は、例えば、最新のイメージセンサ等の半導体デバイス製造におけるP型領域および/またはN型領域を形成することである。
【0014】
高エネルギー用のイオン注入装置では、高エネルギーイオンビームがビームラインの構成部材に衝突することで中性子線が発生しうる。本発明者らの知見によれば、4MeV以上のエネルギーを有する硼素イオンビームを用いる場合に中性子線が発生することが分かっている。具体的には、非放射性核種である硼素11Bについて、以下の(1)および(2)で示される核反応が生じうる。
11B+11B → 21Ne+n …(1)
11B+12C → 22Ne+n …(2)
【0015】
上記(1)は、硼素11B同士が衝突して中性子nが発生する核反応(B-B反応ともいう)である。まず、ビームラインの構成部材に硼素11Bのイオンビームが入射(衝突)すると、その構成部材の内部に硼素11Bが蓄積されていく。その後に高エネルギーの硼素11Bのイオンビームが構成部材の内部に蓄積された硼素11Bに衝突すると、上記(1)で示されるB-B反応が生じて中性子線が発生する。
【0016】
上記(2)は、硼素11Bと炭素12Cが衝突して中性子nが発生する核反応(B-C反応ともいう)である。ビームラインの構成部材の少なくとも一部は、グラファイト(つまり炭素)で構成されるため、グラファイトに高エネルギーの硼素11Bのイオンビームが衝突することで、上記(2)で示されるB-C反応が生じて中性子線が発生する。なお、グラファイトの内部に硼素11Bが蓄積されることで、上記(1)のB-B反応による中性子線も発生しうる。
【0017】
このように、高エネルギー用のイオン注入装置では、注入イオンに放射性核種が含まれていないにも拘わらず、ビームラインの様々な箇所に高エネルギーイオンビームが衝突することで放射性核種が生成されて中性子線が発生しうる。したがって、高エネルギー用のイオン注入装置は、高エネルギーイオンビームの衝突により中性子線が発生しうる中性子線発生源を有する。したがって、高エネルギー用のイオン注入装置では、中性子線発生源にて発生する中性子線を適切に管理する必要がある。
【0018】
一般に、中性子線などの放射線が生じる装置を扱う場合、専用の放射線管理区域を設け、その区域内にイオン注入装置を設置する運用方法が考えられる。しかしながら、量産用の半導体製造工場内に放射線管理区域を別途設けることは容易ではない。半導体製造工場内では、イオン注入装置と他の装置の間でウェハ容器等を随時搬送する必要があり、放射線管理区域内にイオン注入装置を設置した場合には管理区域との間でウェハ容器等の搬出入が発生する。中性子線を適切に遮蔽するためには、例えば数十cm以上の厚みのコンクリート壁が必要となり、ウェハ容器の搬出入のための遮蔽扉も非常に厚いものとなる。そうすると、ウェハ容器の搬出入のために厚い遮蔽扉を都度開閉する必要があり、大変な労力となる。また、遮蔽扉の開閉時にイオン注入装置の運転を停止しなければならないとすると半導体デバイスの生産効率が低下してしまう。そこで、発明者らは、ビームラインを構成する装置本体の外周を囲う筐体に中性子線散乱部材を取り付けることにより、筐体の外部の中性子線量率が法令等で定められる基準値を下回るようにすることを考えた。
【0019】
なお、高エネルギー用のイオン注入装置にて発生する放射線として、上述の中性子線の他にX線が挙げられる。筐体にはX線の遮蔽部材として鉛板などが取り付けられる。X線は、中性子線に比べて遮蔽が容易であり、例えば厚さが1mm~5mm程度の鉛板を用いることで筐体の外部に向かうX線を十分に遮蔽できる。一方、中性子線量率を低下させることは容易ではない。例えば、中性子線散乱部材として一般的な高密度ポリエチレン(比重0.95g/cm3程度)を用いる場合、中性子線量率を1/10に減衰させるためには150mm~200mm程度の厚みが必要となる。
【0020】
中性子線量率を低下させるためには、装置全体を厚みの大きい中性子線散乱部材で包囲することが望ましいかもしれない。しかしながら、高エネルギー用のイオン注入装置では、イオンビームを高エネルギーまで加速するための加速装置が大型となるため、装置本体の占める面積は例えば10m×20m以上となり、装置本体の高さも2mを超える。そのため、装置全体にわたって厚みの大きい中性子線散乱部材を取り付けると、大量の中性子線散乱部材が必要となり、コストおよび製品重量の大幅な増加につながり望ましくない。
【0021】
本実施の形態では、中性子線を完全に遮蔽することを目指すのではなく、筐体の外部で中性子線量率が法令等で定められる所定の基準値を超えるおそれのある箇所に重点的に中性子線散乱部材を配置するようにする。具体的には、中性子線発生源から筐体までの距離に応じて中性子線散乱部材の配置を変えるようにする。中性子線量率は、中性子線発生源からの距離の2乗に反比例し、中性子線発生源から筐体までの距離が近い場所では中性子線量率が大きくなるが、中性子線発生源から筐体の距離が遠い場所では中性子線量率が小さくなるためである。
【0022】
なお、本実施の形態における中性子線発生源にて発生する中性子線量率はそれほど大きくなく、例えば、中性子線発生源から約1mの距離での中性子線量率は0.1~2μSv/h程度である。したがって、中性子線量率が相対的に高い箇所に重点的に中性子線散乱部材を配置することで、筐体の外部での中性子線量率を法令等で定める基準値以下に抑えることが可能となりうる。
【0023】
本実施の形態における「中性子線散乱部材」とは、中性子線に対する散乱効果の大きい材料のことをいう。中性子線の散乱効果の大きい元素として水素(H)や硼素(B)が知られており、水素や硼素の含有率が高い材料が中性子線散乱部材として好ましい。例えば、水素密度の高い材料として、ポリエチレンやパラフィンなどのポリオレフィンが挙げられ、水素原子の含有量が0.08~0.15g/cm3である材料が好ましい。具体例として、比重が0.94~0.97g/cm3程度の高密度ポリエチレンが挙げられる。また、中性子線散乱部材として、高密度ポリエチレンに酸化硼素(B2O3)などの硼素化合物が10~40重量%程度含まれるものを用いてもよい。
【0024】
図1は、筐体70に設けられる中性子線散乱部材76a,76bを模式的に示す図である。筐体70は、ビームラインを構成する装置78の外周を囲むように配置され、外部空間Eと内部空間Fを隔てる。中性子線発生源79は、装置78の内部に存在する。筐体70は、外部空間Eに露出する外面70aと、内部空間Fに露出する内面70bとを有する。中性子線散乱部材76a,76bは、筐体70の内部、つまり、筐体70の外面70aと内面70bの間に設けられる。
【0025】
筐体70は、中性子線散乱部材76a,76bが設けられる収容部71(単に収容部ともいう)と、中性子線散乱部材が設けられない非収容部72とを有する。収容部71は、厚さtaが相対的に大きい第1中性子線散乱部材76aが設けられる第1収容部71aと、厚さtbが相対的に小さい第2中性子線散乱部材76bが設けられる第2収容部71bとを含む。
【0026】
第1中性子線散乱部材76aは、中性子線発生源79から筐体70の外面70aまでの距離が第1距離となる第1方向(矢印Da)に配置され、中性子線発生源79から第1方向に出射される中性子線が入射しうる位置に配置される。第2中性子線散乱部材76bは、中性子線発生源79から筐体70の外面70aまでの距離が第1距離よりも大きい第2距離となる第2方向(矢印Db)に配置され、中性子線発生源79から第2方向に出射される中性子線が入射しうる位置に配置される。第1中性子線散乱部材76aの厚さtaは、例えば100mm以上であり、200mm~500mm程度である。一方、第2中性子線散乱部材76bの厚さtbは、例えば50mm以上であり、100mm~200mm程度である。第1距離(Da)は、例えば2m未満、1.5m未満または1m未満であり、第2距離(Db)は、例えば10m未満または5m未満であり、2m以上、1.5m以上または1m以上である。
【0027】
中性子線発生源79から筐体70の外面70aまでの距離が第1距離および第2距離よりも大きい第3距離となる第3方向(矢印Dc)には中性子線散乱部材が配置されていない。第3距離(Dc)は、例えば5m以上、10m以上または15m以上である。したがって、本実施の形態では、中性子線発生源79から筐体70の外面70aまでの距離がある所定値(例えば第2距離)以下となる方向に中性子線散乱部材が配置され、中性子線発生源79から筐体70の外面70aまでの距離が別の所定値(例えば第3距離)を超える方向には中性子線散乱部材が配置されない。
【0028】
第1中性子線散乱部材76aは、散乱部材の厚み方向と、中性子線発生源79から筐体70の外面70aに向かう第1方向(矢印Da)との角度差θaが小さい場所に配置されるとも言える。一方で、第2中性子線散乱部材76bは、散乱部材の厚み方向と、中性子線発生源79から筐体70の外面70aに向かう第2方向(矢印Db)との角度差θbが大きい場所に配置されるとも言える。中性子線発生源79から第1中性子線散乱部材76aに向かう中性子線は、第1中性子線散乱部材76aに対してほぼ直角に入射しうるため、中性子線が通過する実効的な厚み(ta/cos(θa))と散乱部材の実際の厚みtaとがほぼ等しい。一方、中性子線発生源79から第2中性子線散乱部材76bに向かう中性子線は、第2中性子線散乱部材76bに対して斜めに入射しうるため、中性子線が通過する実効的な厚み(tb/cos(θa))が散乱部材の実際の厚みtbよりも大きくなる。そのため、相対的に小さい厚みtbの第2中性子線散乱部材76bを用いたとしても、筐体70の外部空間Eにおける中性子線量率を効果的に低減できる。
【0029】
図1の例では、第1収容部71aと第2収容部71bが隣接して配置され、第1収容部71aと第2収容部71bが少なくとも部分的に厚み方向または中性子線発生源79から外面70aに向かう方向に重なるように配置される。また、第1収容部71aに設けられる第1中性子線散乱部材76aと、第2収容部71bに設けられる第2中性子線散乱部材76bとが少なくとも部分的に厚み方向または中性子線発生源79から外面70aに向かう方向に重なるように配置される。これにより、第1収容部71aと第2収容部71bの隙間を通じて高線量率の中性子線が外部空間Eに漏れ出るのを防ぐことができる。
【0030】
図1の例では、中性子線散乱部材76a,76bの厚みを2段階で変化させているが、中性子線散乱部材の厚みを3段階以上の段階数で変化させてもよいし、中性子線散乱部材の厚みを連続的に変化させてもよい。また、第1収容部71aおよび第2収容部71bにおいて、所望の厚みta,tbを有する板状またはブロック状の中性子線散乱部材を用いてもよいし、所望の厚みta,tbよりも薄い板状またはブロック状の中性子線散乱部材を厚み方向に複数重ねて用いてもよい。
【0031】
図2は、収容部71の構造を詳細に示す図である。収容部71は、本体枠73と、蓋板74とを有する。収容部71の内部には、X線遮蔽部材75と、中性子線散乱部材76とが設けられる。本体枠73は、X線遮蔽部材75および中性子線散乱部材76を支持するための支持構造であり、収容部71の外面70aおよび側面70cを構成する。蓋板74は、本体枠73の開口に取り付けられ、収容部71の内面70bを構成する。本体枠73および蓋板74は、鉄やアルミニウムなどの金属材料で構成される。X線遮蔽部材75および中性子線散乱部材76は、厚み方向に重ねて配置され、例えばX線遮蔽部材75が外面70a側、中性子線散乱部材76が内面70b側となるように配置される。X線遮蔽部材75は、例えば鉛板であり、中性子線散乱部材76は、例えば板状またはブロック状の高密度ポリエチレンである。なお、蓋板74を設ける代わりに、中性子線散乱部材76の内面70b側の表面に不燃性シートを取り付けてもよい。また、蓋板74と中性子線散乱部材76の間に不燃性シートを追加的に取り付けてもよい。不燃性シートとは、加熱された場合に一定時間(例えば20分)燃焼しないシート状部材であり、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)系の樹脂シート、ガラス繊維を基材とする樹脂シート、または金属シートなどが挙げられる。
【0032】
非収容部72は、中性子線散乱部材76が内部に設けられない点を除いて収容部71と同様に構成することができる。非収容部72は、例えば、
図2に示す本体枠73および蓋板74を有し、非収容部72の内部にX線遮蔽部材75が設けられる。非収容部72の厚みは、収容部71の厚みと同じであってもよいし、収容部71の厚みより小さくてもよい。非収容部72の内部は空洞であってもよい。
【0033】
図3は、筐体70とは別に設けられる中性子線散乱部材77a,77bを模式的に示す図であり、中性子線発生源79が存在する装置78または装置78の支持構造に対して中性子線散乱部材77a,77bが取り付けられる。筐体70には中性子線散乱部材が設けられていないため、筐体70は上述の非収容部72として構成される。中性子線散乱部材77a,77bの表面には不燃性シートが取り付けられてもよい。
【0034】
図3においても、中性子線発生源79から筐体70の外面70aまでの距離に応じて中性子線散乱部材77a,77bを配置している。厚みtaの大きい第1中性子線散乱部材77aは、中性子線発生源79から筐体70の外面70aまでの距離が第1距離となる第1方向(矢印Da)に配置され、中性子線発生源79から第1方向に出射される中性子線が入射しうる位置に配置される。厚みtbの小さい第2中性子線散乱部材77bは中性子線発生源79から筐体70の外面70aまでの距離が第1距離よりも大きい第2距離となる第2方向(矢印Db)に配置され、中性子線発生源79から第2方向に出射される中性子線が入射しうる位置に配置される。一方、中性子線発生源79から筐体70の外面70aまでの距離が第1距離および第2距離よりも大きい第3距離となる第3方向(矢印Dc)には中性子線散乱部材が配置されていない。このように中性子線散乱部材77a,77bを配置することで、
図1の構成と同様の中性子線量率の低減効果が見込まれる。
【0035】
図3では中性子線発生源79のより近くに中性子線散乱部材77a,77bが配置されるため、
図1の中性子線散乱部材76a,76bに比べて必要とされる中性子線散乱部材の量が少なくて済む。したがって、
図1よりも
図3の中性子線散乱部材の配置の方が好ましいかもしれない。しかしながら、ビームラインを構成する装置78の周囲には様々な機器やケーブル等があり、装置78の近傍において中性子線散乱部材を隙間なく配置することは必ずしも容易ではない。そこで、本実施の形態では、
図1のように筐体に取り付ける中性子線散乱部材76a,76bを基本としつつ、
図3のように装置本体の近傍にも中性子線散乱部材77a,77bを適宜配置するようにする。これにより、装置全体での中性子線散乱部材の総量を低減しつつ、筐体の外部空間Eでの中性子線量率が基準値以下となるようにする。
【0036】
図4は、実施の形態に係るイオン注入装置100を概略的に示す上面図である。
図5(a)~(c)は、
図4のイオン注入装置の概略構成を示す側面図である。
図5(a)は、
図4のA-A線断面に対応し、
図5(b)は、
図4のB-B線断面に対応し、
図5(c)は、
図4のC-C線断面に対応する。
【0037】
イオン注入装置100は、装置本体58と、筐体60とを備える。装置本体58は、ビーム生成ユニット12と、ビーム加速ユニット14と、ビーム偏向ユニット16と、ビーム輸送ユニット18と、基板搬送処理ユニット20とを含む。筐体60は、装置本体58の外周に配置され、装置本体58を少なくとも部分的に包囲する。詳細は後述するが、図面においてハッチングを施した箇所に中性子線散乱部材が配置されている。
【0038】
ビーム生成ユニット12は、イオン源10と、質量分析装置11とを有する。ビーム生成ユニット12では、イオン源10からイオンビームが引き出され、引き出されたイオンビームが質量分析装置11により質量分析される。質量分析装置11は、質量分析磁石11aと、質量分析スリット11bとを有する。質量分析スリット11bは、質量分析磁石11aの下流側に配置される。質量分析装置11による質量分析の結果、注入に必要なイオン種だけが選別され、選別されたイオン種のイオンビームは、次のビーム加速ユニット14に導かれる。
【0039】
ビーム加速ユニット14は、イオンビームの加速を行う複数の線形加速装置22a,22b,22cと、ビームプロファイルスリット23とを有し、ビームラインBLのうち直線状に延びる部分を構成する。複数の線形加速装置22a~22cのそれぞれは、一以上の高周波共振器を備え、高周波(RF)電場をイオンビームに作用させて加速させる。ビームプロファイルスリット23は、ビーム加速ユニット14の最下流に設けられ、複数の線形加速装置22a~22cにより加速された高エネルギーイオンビームのビームプロファイルを測定するために用いられる。
【0040】
本実施の形態では、三つの線形加速装置22a~22cが設けられる。第1線形加速装置22aは、ビーム加速ユニット14の上段に設けられ、複数段(例えば5段~10段)の高周波共振器を備える。第1線形加速装置22aは、ビーム生成ユニット12から出力される連続ビーム(DCビーム)を特定の加速位相に合わせる「バンチング(bunching)」を行い、例えば、1MeV程度のエネルギーまでイオンビームを加速させる。第2線形加速装置22bは、ビーム加速ユニット14の中段に設けられ、複数段(例えば5段~10段)の高周波共振器を備える。第2線形加速装置22bは、第1線形加速装置22aから出力されるイオンビームを2~3MeV程度のエネルギーまで加速させる。第3線形加速装置22cは、ビーム加速ユニット14の下段に設けられ、複数段(例えば5段~10段)の高周波共振器を備える。第3線形加速装置22cは、第2線形加速装置22bから出力されるイオンビームを4MeV以上の高エネルギーまで加速させる。
【0041】
本実施の形態では、ビーム加速ユニット14に含まれる15段~30段程度の高周波共振器を三つの線形加速装置22a~22cに分けて実装しているが、ビーム加速ユニット14の構成は図示されるものに限られない。ビーム加速ユニット14は、全体が一つの線形加速装置として構成されてもよいし、二つの線形加速装置や四以上の線形加速装置に分かれて実装されてもよい。また、ビーム加速ユニット14が他の任意の形式の加速装置で構成されてもよく、例えばタンデム加速装置を備えてもよい。本実施の形態は、特定のイオン加速方式には限定されず、4MeV以上の超高エネルギーイオンビームを生成可能であれば任意のビーム加速装置を採用することができる。
【0042】
ビーム加速ユニット14から出力される高エネルギーイオンビームは、ある範囲のエネルギー分布を持っている。このため、ビーム加速ユニット14の下流で高エネルギーのイオンビームを往復走査および平行化させてウェハに照射するためには、事前に高い精度のエネルギー分析と、軌道補正及びビーム収束発散の調整を実施しておくことが必要となる。
【0043】
ビーム偏向ユニット16は、ビーム加速ユニット14から出力される高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、エネルギー分散の制御、軌道補正を行う。ビーム偏向ユニット16は、ビームラインBLのうち円弧状に延びる部分を構成する。高エネルギーイオンビームは、ビーム偏向ユニット16によって方向転換され、ビーム輸送ユニット18に向かう。
【0044】
ビーム偏向ユニット16は、エネルギー分析電磁石24と、エネルギー分散を抑制する横収束四重極レンズ26と、エネルギー分析スリット27と、第1ファラデーカップ28と、ステアリング(軌道補正)を提供する偏向電磁石30と、第2ファラデーカップ31とを有する。エネルギー分析電磁石24は、エネルギーフィルタ電磁石(EFM)とも呼ばれる。また、エネルギー分析電磁石24、横収束四重極レンズ26、エネルギー分析スリット27および第1ファラデーカップ28で構成される装置群を総称して「エネルギー分析装置」とも呼ばれる。
【0045】
エネルギー分析スリット27は、エネルギー分析の分解能を調整するためにスリット幅が可変となるよう構成される。エネルギー分析スリット27は、例えば、スリット幅方向に移動可能な二枚の遮蔽体により構成され、二枚の遮蔽体の間隔を変化させることによりスリット幅が調整可能となるように構成される。エネルギー分析スリット27は、スリット幅の異なる複数のスリットのいずれか一つを選択することによりスリット幅が可変となるよう構成されてもよい。
【0046】
第1ファラデーカップ28は、エネルギー分析スリット27の直後に配置され、エネルギー分析用のビーム電流測定に用いられる。第2ファラデーカップ31は、偏向電磁石30の直後に配置され、軌道補正されてビーム輸送ユニット18に入るイオンビームのビーム電流測定用に設けられる。第1ファラデーカップ28および第2ファラデーカップ31のそれぞれは、ファラデーカップ駆動部(不図示)の動作によりビームラインBLに出し入れ可能となるよう構成される。
【0047】
ビーム輸送ユニット18は、ビームラインBLのうち直線状に延びる部分を構成し、装置中央のメンテナンス領域MAを挟んでビーム加速ユニット14と並行する。ビーム輸送ユニット18の長さは、ビーム加速ユニット14の長さと同程度となるように設計される。その結果、ビーム加速ユニット14、ビーム偏向ユニット16およびビーム輸送ユニット18で構成されるビームラインBLは、全体でU字状のレイアウトを形成する。
【0048】
ビーム輸送ユニット18は、ビーム整形器32と、ビーム走査器34と、ビームダンプ35と、ビーム平行化器36と、最終エネルギーフィルタ38と、左右ファラデーカップ39L,39Rとを有する。
【0049】
ビーム整形器32は、四重極収束/発散装置(Qレンズ)などの収束/発散レンズを備えており、ビーム偏向ユニット16を通過したイオンビームを所望の断面形状に整形するよう構成されている。ビーム整形器32は、例えば、電場式の三段四重極レンズ(トリプレットQレンズともいう)で構成され、三つの四重極レンズを有する。ビーム整形器32は、三つのレンズ装置を用いることにより、イオンビームの収束または発散を水平方向(x方向)および鉛直方向(y方向)のそれぞれについて独立に調整しうる。ビーム整形器32は、磁場式のレンズ装置を含んでもよく、電場と磁場の双方を利用してビームを整形するレンズ装置を含んでもよい。
【0050】
ビーム走査器34は、ビームの往復走査を提供するよう構成され、整形されたイオンビームをx方向に走査するビーム偏向装置である。ビーム走査器34は、ビーム走査方向(x方向)に対向する走査電極対を有する。走査電極対は可変電圧電源(図示せず)に接続されており、走査電極対の間に印加される電圧を周期的に変化させることにより、電極間に生じる電界を変化させてイオンビームをさまざまな角度に偏向させる。その結果、イオンビームが矢印Xで示される走査範囲にわたって走査される。
図4において、走査範囲でのイオンビームの複数の軌跡を細実線で示している。
【0051】
ビーム走査器34は、矢印Xで示される走査範囲を超えてビームを偏向させることにより、ビームラインBLから離れた位置に設けられるビームダンプ35にイオンビームを入射させる。ビーム走査器34は、ビームダンプ35に向けてビームラインBLからイオンビームを一時的に待避させることにより、下流の基板搬送処理ユニット20にイオンビームが到達しないようにイオンビームを遮断する。
【0052】
ビーム平行化器36は、走査されたイオンビームの進行方向を設計上のビームラインBLの軌道と平行にするよう構成される。ビーム平行化器36は、中央部にイオンビームの通過スリットが設けられた円弧形状の複数の平行化レンズ電極を有する。平行化レンズ電極は、高圧電源(図示せず)に接続されており、電圧印加により生じる電界をイオンビームに作用させて、イオンビームの進行方向を平行に揃える。なお、ビーム平行化器36は他のビーム平行化装置で置き換えられてもよく、ビーム平行化装置は磁界を利用する磁石装置として構成されてもよい。
【0053】
最終エネルギーフィルタ38は、イオンビームのエネルギーを分析し必要なエネルギーのイオンを下方(-y方向)に偏向して基板搬送処理ユニット20に導くよう構成されている。最終エネルギーフィルタ38は、角度エネルギーフィルタ(AEF)と呼ばれることがあり、電界偏向用のAEF電極対を有する。AEF電極対は、高圧電源(図示せず)に接続される。
図5(c)において、上側のAEF電極に正電圧、下側のAEF電極に負電圧を印加させることにより、イオンビームを下方に偏向させる。なお、最終エネルギーフィルタ38は、磁界偏向用の磁石装置で構成されてもよく、電界偏向用のAEF電極対と磁石装置の組み合わせで構成されてもよい。
【0054】
左右ファラデーカップ39L,39Rは、最終エネルギーフィルタ38の下流側に設けられ、矢印Xで示される走査範囲の左端および右端のビームが入射しうる位置に配置される。左右ファラデーカップ39L,39Rは、ウェハWに向かうビームを遮らない位置に設けられ、ウェハWへのイオン注入中のビーム電流を測定する。
【0055】
ビーム輸送ユニット18の下流側、つまり、ビームラインBLの最下流には基板搬送処理ユニット20が設けられる。基板搬送処理ユニット20は、注入処理室40と、ビームモニタ42と、基板搬送装置44と、ロードポート46とを有する。注入処理室40には、イオン注入中のウェハWを保持し、ウェハWをビーム走査方向(x方向)と直角方向(y方向)に動かすプラテン駆動装置(不図示)が設けられる。
【0056】
ビームモニタ42は、注入処理室40の内部のビームラインBLの最下流に設けられる。ビームモニタ42は、ビームラインBL上にウェハWが存在しない場合にイオンビームが入射しうる位置に設けられており、イオン注入工程の事前または工程間においてビーム電流を測定するよう構成される。ビームモニタ42は、例えば、注入処理室40と基板搬送装置44との間を接続する搬送口43の近くに位置し、搬送口43よりも鉛直下方の位置に設けられる。
【0057】
基板搬送装置44は、ウェハ容器45が載置されるロードポート46と、注入処理室40との間でウェハWを搬送するよう構成される。ロードポート46は、複数のウェハ容器45が同時に載置可能となるよう構成されており、例えば、x方向に並べられる4台の載置台を有する。ロードポート46の鉛直上方にはウェハ容器搬送口47が設けられており、ウェハ容器45が矢印Yで示されるように鉛直方向に通過可能となるよう構成される。ウェハ容器45は、例えば、イオン注入装置100が設置される半導体製造工場内の天井等に設置される搬送ロボットによりウェハ容器搬送口47を通じてロードポート46に自動的に搬入され、ロードポート46から自動的に搬出される。
【0058】
イオン注入装置100は、さらに中央制御装置50を備える。中央制御装置50は、イオン注入装置100の動作全般を制御する。中央制御装置50は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現され、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現され、中央制御装置50により提供される各種機能は、ハードウェアおよびソフトウェアの連携によって実現されうる。
【0059】
中央制御装置50の近傍には、イオン注入装置100の動作モードを設定するための表示装置や入力装置を有する操作盤49が設けられる。中央制御装置50および操作盤49の位置は特に限られないが、例えば、ビーム生成ユニット12と基板搬送処理ユニット20の間のメンテナンス領域MAの出入口48に隣接して中央制御装置50および操作盤49を配置することができる。イオン注入装置100を管理する作業員による作業頻度の高いイオン源10、ロードポート46および中央制御装置50および操作盤49の場所を隣接させることで、作業効率を高めることができる。
【0060】
イオン注入装置100は、4MeV以上の高エネルギーのイオンビームの衝突により中性子線が発生しうる中性子線発生源を有する。中性子線発生源となりうる箇所は、高エネルギーのイオンビームが連続的に入射しうる部材であり、スリット、ビームモニタおよびビームダンプなどである。具体的には、中性子線発生源となりうるスリットとして、ビームプロファイルスリット23やエネルギー分析スリット27などが挙げられる。また、中性子線発生源となりうるビームモニタとして、第1ファラデーカップ28や第2ファラデーカップ31、左右ファラデーカップ39L,39R、ビームモニタ42などが挙げられる。また、ビーム走査器34の下流に設けられるビームダンプ35も中性子線発生源となりうる。
図4および
図5(a)~(c)において、中性子線発生源となりうるビームラインの構成要素を黒色で塗りつぶしている。
【0061】
イオン注入装置100は、装置内で発生しうる中性子線を測定するための複数の中性子線測定器51,52,53,54を備える。イオン注入装置100にて発生しうる中性子線の線量率はそれほど大きくなく、一般的な中性子線測定器の検出限界に近い値となりうるため、計測精度を高めるために中性子線発生源の近傍に配置される。第1中性子線測定器51は、ビームプロファイルスリット23の近傍に配置され、第2中性子線測定器52は、エネルギー分析スリット27および第1ファラデーカップ28の近傍に配置される。第3中性子線測定器53は、ビームダンプ35と左右ファラデーカップ39L,39Rの間に位置する最終エネルギーフィルタ38の近傍に配置され、第4中性子線測定器54は、ビームモニタ42の近傍に配置される。
【0062】
なお、中性子線測定器の配置は例示にすぎず、図示される箇所よりも少ない箇所または多い箇所に中性子線測定器が配置されてもよい。例えば、第2ファラデーカップ31やビームダンプ35の近傍に追加または代替の中性子線測定器が配置されてもよい。また、同一箇所に複数の中性子線測定器が設けられてもよく、例えば、
図4の4箇所に配置される中性子線測定器51~54のそれぞれが複数台(例えば2台または3台)の中性子線測定器を有してもよい。
【0063】
筐体60は、装置本体58にて発生する中性子線を散乱させ、筐体60の外側の外部空間Eの中性子線量率が所定の基準値以下となるようにする。筐体60は、
図5(a)~(c)に示されるように、装置本体58の側方に設けられる側壁部61と、装置本体58の鉛直上方に設けられる天井部62と、装置本体の鉛直下方に設けられる床部63とを含む。筐体60は、装置本体58が占める略直方体の内部空間Fを包囲する。
【0064】
側壁部61、天井部62および床部63のそれぞれは、少なくとも部分的に中性子線散乱部材が取り付けられている。一方で、ビームラインの一部区間に沿って配置される筐体60の一部、つまり、側壁部61、天井部62および床部63の一部には中性子線散乱部材が取り付けられていない。図面において、ハッチングのある箇所に中性子線散乱部材が設けられ、ハッチングのない箇所には中性子線散乱部材が設けられていない。
【0065】
側壁部61、天井部62および床部63のそれぞれの少なくとも一部は、例えば、上述の収容部71または非収容部72と同様に構成することができる。なお、筐体60の任意の位置にスライド扉やヒンジ扉を設けることができ、これらの扉構造に対して中性子線散乱部材が取り付けられてもよい。
【0066】
側壁部61は、ビーム生成ユニット12の近傍または周囲に配置される第1側壁部61aを有する。ビーム生成ユニット12は、高エネルギーに加速される前の低エネルギーのイオンビームが通過する箇所であり、中性子線発生源とはならない。また、第1側壁部61aは、中性子線発生源から5m~10m以上離れた位置に設けられるため、中性子線散乱部材が設けられていない。例えば、第1側壁部61aは、上述の非収容部72と同様に構成される。
【0067】
側壁部61は、ビーム加速ユニット14に沿って配置される第2側壁部61bおよび第3側壁部61cを有する。第2側壁部61bは、高エネルギーに加速される前のイオンビームが通過する第1線形加速装置22aおよび第2線形加速装置22bに沿って配置されるため、中性子線散乱部材が設けられていない。一方、第3側壁部61cは、高エネルギーのイオンビームが通過する第3線形加速装置22cに沿って配置される部分であり、中性子線発生源となりうるビームプロファイルスリット23の近傍に配置されるため、中性子線散乱部材が設けられる。第2側壁部61bは、例えば、上述の非収容部72と同様に構成される。第3側壁部61cは、例えば、上述の収容部71と同様に構成される。第3側壁部61cは、第2収容部71bと同様に構成され、厚みの小さい第2中性子線散乱部材76bが設けられてもよい。
【0068】
側壁部61は、ビーム偏向ユニット16に沿って配置される第4側壁部61d、第5側壁部61eおよび第6側壁部61fを有する。ビーム偏向ユニット16は、中性子線発生源となりうるエネルギー分析スリット27、第1ファラデーカップ28および第2ファラデーカップ31を有するため、ビーム偏向ユニット16の近傍の側壁部61d~61fには中性子線散乱部材が設けられる。
【0069】
第4側壁部61dは、ビームラインBLが円弧状となるエネルギー分析電磁石24の近傍に配置されるため、ビームラインBLから第4側壁部61dまでの距離が比較的大きい。そのため、第4側壁部61dには厚みの小さい中性子線散乱部材が設けられる。同様に、第6側壁部61fは、ビームラインBLが円弧状となる偏向電磁石30の近傍に配置され、ビームラインBLから第6側壁部61fまでの距離が比較的大きいため、厚みの小さい中性子線散乱部材が設けられる。第4側壁部61dおよび第6側壁部61fは、上述の第2収容部71bと同様に構成され、厚みの小さい第2中性子線散乱部材76bが設けられてもよい。
【0070】
第5側壁部61eは、ビームラインBLが直線状となる横収束四重極レンズ26、エネルギー分析スリット27および第1ファラデーカップ28の近傍に配置され、ビームラインBLと並行する。第5側壁部61eは、筐体60の占有面積を小さくする観点からビームラインBLに近接して配置される。中性子発生源となるエネルギー分析スリット27や第1ファラデーカップ28から第5側壁部61eまでの距離は小さく、例えば2m以下、1.5m以下、または1m以下である。さらに、エネルギー分析スリット27や第1ファラデーカップ28から第5側壁部61eに向かう中性子線は、第5側壁部61eの厚み方向に進行するため、中性子線が通過する実効的な厚みを稼ぐことも難しい。そのため、第5側壁部61eには、厚みの大きい中性子線散乱部材が設けられ、その厚さは例えば150mm以上、200mm以上または300mm以上である。第5側壁部61eは、上述の第1収容部71aと同様に構成され、厚みの大きい第1中性子線散乱部材76aが設けられてもよい。
【0071】
側壁部61は、ビーム輸送ユニット18に沿って配置される第7側壁部61gを有する。第7側壁部61gは、ビーム輸送ユニット18の上流側に位置するビーム整形器32、ビーム走査器34およびビーム平行化器36の近傍に配置される。第7側壁部61gの近傍には、中性子線発生源となりうる第2ファラデーカップ31やビームダンプ35が存在するものの、これらの中性子線発生源から第7側壁部61gまでの距離が比較的大きい。そのため、第7側壁部61gには厚みの小さい中性子線散乱部材が設けられる。第7側壁部61gは、上述の第2収容部71bと同様に構成され、厚みの小さい第2中性子線散乱部材76bが設けられてもよい。
【0072】
側壁部61は、最終エネルギーフィルタ38、注入処理室40および基板搬送装置44に沿って配置される第8側壁部61hを有する。第8側壁部61hは、高エネルギーイオンビームが頻繁に入射しうるビームモニタ42の近傍に配置され、ビームモニタ42における中性子線量率が比較的多いため、厚みの大きい中性子線散乱部材が設けられる。第8側壁部61hは、上述の第1収容部71aと同様に構成され、厚みの大きい第1中性子線散乱部材76aが設けられてもよい。
【0073】
側壁部61は、ロードポート46を囲うように配置される第9側壁部61iを有する。第9側壁部61iは、ロードポート46の正面に配置される部分と、ロードポート46の側方に配置される部分とを有する。第9側壁部61iにはロードポート46への出入口と正面扉が設けられる。第9側壁部61iは、ビームモニタ42の近傍に配置されるため、中性子線散乱部材が設けられる。第9側壁部61iは、ビームモニタ42からの距離が近いため、厚みの大きい中性子線散乱部材を設けることが好ましいが、正面扉の厚みを大きくしすぎると正面扉の開閉に労力がかかり、利便性の低下につながる。そこで、ビームモニタ42とロードポート46の間に追加の中性子線散乱部材64a,64bを配置することにより、第9側壁部61iに必要とされる中性子線散乱部材の厚みを小さくしている。第9側壁部61iは、上述の第2収容部71bと同様に構成され、厚みの小さい第2中性子線散乱部材76bが設けられてもよい。
【0074】
なお、天井部62および床部63についても、側壁部61と同様の考え方で中性子線散乱部材が設けられている。つまり、中性子線発生源の近傍や、中性子線発生源から天井部62または床部63までの距離が近い箇所において、中性子線散乱部材を重点的に配置するようにし、それ以外の箇所では中性子線散乱部材を薄くするか、中性子線散乱部材を設けないようにしている。
【0075】
図5(a)において、天井部62は、中性子線散乱部材が設けられない第1天井部62aと、中性子線散乱部材が設けられる第2天井部62bを有する。第1天井部62aは、ビーム生成ユニット12と、ビーム加速ユニット14の上流側(第1線形加速装置22aおよび第2線形加速装置22b)とに沿って配置される。第2天井部62bは、ビーム加速ユニット14の下流側(第3線形加速装置22cおよびビームプロファイルスリット23)に沿って配置される。第2天井部62bは、中性子線発生源となりうるビームプロファイルスリット23からの距離が近い(例えば1m以内である)ため、ビームプロファイルスリット23からの距離に応じて中性子線散乱部材の厚さを段階的に変化させている。例えば、第2天井部62bにおいて、ビームプロファイルスリット23からの距離が近くなるほど板状の中性子線散乱部材を重ねる枚数を多くしている。
【0076】
図5(a)において、床部63は、中性子線散乱部材が設けられない第1床部63aと、中性子線散乱部材が設けられる第2床部63bを有する。第1床部63aは、ビーム生成ユニット12と、ビーム加速ユニット14の上流側とに沿って配置される。第2床部63bは、ビームプロファイルスリット23の近傍に配置される。床部63は、装置本体58の取り付けや作業時の足場を確保する観点から極力平坦となるように構成されることが好ましい。言いかえれば、床部63に厚みの大きい中性子線散乱部材を部分的に配置することで、床部63の上面が階段状に構成されることは好ましくない。そこで、第3線形加速装置22cやビームプロファイルスリット23を収容する装置の下面に追加の中性子線散乱部材64c,64dを配置し、第2床部63bに必要とされる中性子線散乱部材の厚みを小さくしている。
【0077】
図5(b)において、天井部62は、中性子線散乱部材が設けられる第3天井部62cを有する。第3天井部62cは、ビーム偏向ユニット16に沿って配置される。第3天井部62cは、第2天井部62bと同様、中性子線発生源となりうるエネルギー分析スリット27や第1ファラデーカップ28の近傍において、中性子線発生源からの距離が近くなるほど中性子線散乱部材の厚みが大きくなるように構成される。
【0078】
図5(b)において、床部63は、中性子線散乱部材が設けられる第3床部63cを有する。第3床部63cは、ビーム偏向ユニット16に沿って配置される。また、ビーム偏向ユニット16を構成する装置の下面には、追加の中性子線散乱部材64eが配置される。追加の中性子線散乱部材64eは、中性子線発生源となりうるエネルギー分析スリット27や第1ファラデーカップ28の近傍に配置され、中性子線発生源からの距離が近くなるほど中性子線散乱部材の厚みが大きくなるように構成される。追加の中性子線散乱部材64eを配置することで、第3床部63cに必要とされる中性子線散乱部材の厚みを小さくしている。
【0079】
図5(c)において、天井部62は、中性子線散乱部材が設けられる第4天井部62dおよび第5天井部62eを有する。第4天井部62dは、ビーム輸送ユニット18に沿って配置され、第5天井部62eは、基板搬送処理ユニット20に沿って配置される。第4天井部62dは、中性子線発生源となりうる第2ファラデーカップ31およびビームダンプ35のそれぞれの近傍において中性子線散乱部材の厚みが大きくなるように構成される。また、ビーム走査器34の上面のうちビームダンプ35の近傍の位置には追加の中性子線散乱部材64gが設けられている。第5天井部62eは、中性子線発生源となりうるビームモニタ42からの距離が近くなるほど中性子線散乱部材の厚みが大きくなるように構成される。
【0080】
図5(c)において、床部63は、中性子線散乱部材が設けられる第4床部63dおよび第5床部63eを有する。第4床部63dは、ビーム輸送ユニット18に沿って配置され、第5床部63eは、基板搬送処理ユニット20に沿って配置される。第4床部63dは、中性子線散乱部材の厚みが均一となるように構成されている。第2ファラデーカップ31の近傍の装置本体58の下面には、追加の中性子線散乱部材64fが配置されている。追加の中性子線散乱部材64fを配置することで、第4床部63dに必要とされる中性子線散乱部材の厚みを小さくしている。第5床部63eは、ビームモニタ42が設けられる注入処理室40の近傍において、中性子線散乱部材の厚みが大きくなるよう構成されている。なお、基板搬送装置44およびロードポート46の床部(第6床部)63fには、中性子線散乱部材が設けられていない。注入処理室40と基板搬送装置44の間に配置される追加の中性子線散乱部材64aにより、ビームモニタ42から第6床部63fに向かう中性子線量率を十分低減できるからである。
【0081】
図5(c)において、基板搬送処理ユニット20に設けられる追加の中性子線散乱部材64a,64bは、注入処理室40とロードポート46の間のウェハWの搬送を妨げないように配置される。具体的には、搬送口43が設けられる高さ位置において、矢印Zで示される水平方向のウェハ搬送経路上に中性子線散乱部材が配置されないように構成される。つまり、追加の中性子線散乱部材64a,64bは、互いに水平方向に重ならないように配置される。その一方で、矢印Zで示される水平方向のウェハ搬送経路を通じて外部に中性子線が漏れ出すのを防ぐため、ロードポート46の正面には中性子線散乱部材を含む第9側壁部61iが設けられる。第9側壁部61iは、追加の中性子線散乱部材64a,64bのそれぞれと部分的に水平方向に重なるように配置される。
【0082】
図5(c)において、基板搬送処理ユニット20に設けられる追加の中性子線散乱部材64bは、ウェハ容器搬送口47を通じた矢印Yで示される鉛直方向のウェハ容器の搬送を妨げないように配置される。つまり、追加の中性子線散乱部材64bは、ウェハ容器搬送口47を挟んで第9側壁部61iから水平方向に離れて配置される。その一方で、ウェハ容器搬送口47を通じて外部に中性子線が漏れ出すのを防ぐため、追加の中性子線散乱部材64bと第9側壁部61iとが部分的に水平方向に重なるように配置される。
【0083】
図6は、ロードポート46の正面扉80の構造を模式的に示す上面図である。ロードポート46は、左右方向(矢印Sの方向)に一列に並べられる4個の載置台46a~46dを有する。ロードポート46の正面には、
図4の第9側壁部61iの一部で囲われる出入口81が設けられ、出入口81を閉鎖可能となるように二枚のスライド扉82,83と、一枚のヒンジ扉84が設けられる。正面扉80を構成する各扉82~84には中性子線散乱部材が取り付けられている。
【0084】
第1スライド扉82は、左右方向に延びる第1レール85に沿って左右方向にスライド可能となるよう構成され、第2スライド扉83は、左右方向に延びる第2レール86に沿って左右方向にスライド可能となるよう構成される。第1スライド扉82および第2スライド扉83は、奥行き方向に異なる位置に配置され、ロードポート46の正面視において第1スライド扉82が奥側、第2スライド扉83が手前側に配置されている。ヒンジ扉84は、出入口81の右端に設けられるヒンジ87を回転軸として矢印Rで示されるように回動可能となるよう構成される。
【0085】
図6に示される正面扉80の閉鎖状態において、第1スライド扉82は出入口81の中央に配置され、第2スライド扉83は出入口81の左側に配置され、ヒンジ扉84は出入口81の右側に配置される。別の言い方をすれば、ヒンジ扉84は出入口81の右端を閉鎖し、二枚のスライド扉82,83はヒンジ扉84に閉鎖されない出入口81の残りの部分を閉鎖する。閉鎖状態において、第1スライド扉82および第2スライド扉83は、部分的に奥行き方向に重なるように構成され、第1スライド扉82およびヒンジ扉84も、部分的に奥行き方向に重なるように構成される。ヒンジ扉84は、閉鎖状態において、第2スライド扉83と奥行き方向の位置が一致するように構成される。
【0086】
図7(a),(b)は、開放状態の正面扉80を模式的に示す上面図である。
図7(a)は、出入口81の左側を開放した状態を示す。ヒンジ扉84が手前に開放され、第1スライド扉82および第2スライド扉83が出入口81の右側にスライドされている。その結果、左側に配置される第1載置台46aおよび第2載置台46bの双方の正面が開放された状態となる。
図7(b)は、出入口81の右側を開放した状態を示す。ヒンジ扉84が手前に開放され、第1スライド扉82および第2スライド扉83が出入口81の左側にスライドされている。その結果、右側に配置される第3載置台46cおよび第4載置台46dの双方の正面が開放された状態となる。
【0087】
本実施の形態によれば、4個の載置台46a~46dが設けられるロードポート46において、三枚の扉82~84を組み合わせることで、開放状態において左右いずれかの2個の載置台の正面全体を開放させることができ、左右方向に余裕のある作業スペースを提供できる。仮に、正面扉80を二枚のスライド扉のみで構成した場合、出入口81の中央付近において二枚のスライド扉が重なるように配置されるため、中央の2個の載置台46b,46cの手前を広く開放させることができない。また、正面扉80を三枚のスライド扉で構成した場合、三枚のスライド扉を奥行き方向にずらして配置する必要があり、正面扉80の全体の奥行き方向の厚みが増えてしまう。本実施の形態では、正面扉80を構成する各扉82~84のそれぞれに厚みの大きい(例えば200mm程度の)中性子線散乱部材が取り付けられるため、三枚のスライド扉を採用する場合には正面扉80の奥行きが大きくなってしまう。一方、本実施の形態によれば、二枚のスライド扉と一枚のヒンジ扉を組み合わせることで、正面扉80の奥行きを小さくしつつ、出入口81を広く開放させることができる。
【0088】
図6および
図7(a),(b)に示される正面扉80では、ヒンジ扉84を出入口81の右側に設ける構成としたが、ヒンジ扉84を出入口81の左側に設けてもよい。つまり、図示される構造とは左右対称となるように正面扉80を構成してもよい。その他、出入口81の左側に第1ヒンジ扉を配置し、出入口81の右側に第2ヒンジ扉を配置し、出入口81の中央に一枚のスライド扉が配置されるように構成してもよい。
【0089】
つづいて、中性子線の測定について述べる。中央制御装置50は、
図4に示される複数の中性子線測定器51~54のそれぞれの測定値を取得し、中性子線の発生状況をモニタする。中央制御装置50は、複数の中性子線測定器51~54の測定値に基づいて、少なくとも一箇所の中性子線発生源の位置を推定し、位置が推定された少なくとも一箇所の中性子線発生源から放射される中性子線強度を推定する。
【0090】
例えば、第1中性子線測定器51や第2中性子線測定器52にて中性子線が検出される一方で、第3中性子線測定器53や第4中性子線測定器54にて中性子線が検出されない場合、ビームラインBLの上流側に中性子線発生源があることが推定される。この場合、第1中性子線測定器51および第2中性子線測定器52のそれぞれの測定値の大きさを解析することで、いずれの中性子線発生源にて中性子線が発生しているかを推定できる。例えば、第1中性子線測定器51の測定値が大きく、第2中性子線測定器52の測定値が小さい場合、ビームプロファイルスリット23が中性子線発生源であることが推定される。また、第1中性子線測定器51の測定値が小さく、第2中性子線測定器52の測定値が大きい場合、エネルギー分析スリット27、第1ファラデーカップ28および第2ファラデーカップ31の少なくとも一つが中性子線発生源であることが推定される。また、第1中性子線測定器51の測定値および第2中性子線測定器52の測定値がいずれも大きい場合、ビームプロファイルスリット23、エネルギー分析スリット27、第1ファラデーカップ28および第2ファラデーカップ31の全てが中性子線発生源である可能性が推定される。逆に、第1中性子線測定器51の測定値および第2中性子線測定器52にて中性子線が検出されず、第3中性子線測定器53や第4中性子線測定器54にて中性子線が検出される場合、ビームラインBLの下流側に中性子線発生源があることが推定される。中性子線発生源の位置を推定することにより、位置が推定された中性子線発生源に対する複数の中性子線測定器51~54の配置や距離に基づいて、位置が推定された中性子線発生源から放射される中性子線強度を推定することもできる。
【0091】
中央制御装置50は、複数の中性子線測定器51~54の測定値に基づいて、筐体60の内側の内部空間Fの中性子線の線量率分布を推定してもよい。中央制御装置50は、複数の中性子線測定器51~54の測定値に基づいて、筐体60の外側の中性子線量率を推定してもよい。中央制御装置50は、例えば、中性子線発生源の位置および中性子線量率を推定し、推定した中性子線発生源の位置および中性子線量率に基づいて、筐体60の外部空間Eまたは内部空間Fの任意の位置の中性子線量率をシミュレーション等により算出してもよい。筐体60の内部または外部の中性子線量率は、装置本体58の配置や筐体60の配置、筐体60に設けられる中性子線散乱部材の配置、および、筐体60とは別に設けられる中性子線散乱部材の配置を考慮して算出されてもよい。中央制御装置50は、算出した筐体60の内部または外部の中性子線量率が所定の上限値を超える場合、アラートを出力したり、イオンビームの出力を一時的に停止したり、中性子線量率が上限値未満となるように装置本体58を構成する複数の装置の少なくとも一つの動作条件を変更したりしてもよい。
【0092】
中央制御装置50は、複数の中性子線測定器51~54の測定値に基づいて、ビームラインBLに沿って配置される複数の装置の少なくとも一つをモニタしてもよい。具体的には、装置本体58を構成する複数の装置の少なくとも一つの異常を検知したり、複数の装置のうちメンテナンスが必要な装置を推定したりしてもよい。中央制御装置50は、装置本体58の動作モードに関する情報を用いて、モニタ対象となる少なくとも一つの装置が正常であるか異常であるかを判定してもよい。装置本体58の動作モードに応じて、中性子線発生源となる場所や中性子線発生源にて発生する中性子線量率が異なりうるからである。以下、
図8~
図14を参照しながら、中性子線が発生しうる状況となる動作モードについて説明する。
【0093】
図8は、実施の形態に係るイオン注入工程の流れを示すフローチャートであり、イオンビームを調整した後にウェハWにイオン注入する流れを示している。
図9~
図14は、各工程における装置本体58の動作モードと、中性子線発生源の位置と、複数の中性子線測定器51~54で検出される中性子線90~97とを模式的に示している。
図9~
図14において、ビームラインBLを通過するイオンビームの到達範囲を太線で示し、主たる中性子線発生源を黒く塗りつぶしている。
【0094】
まず、
図8の第1工程(S10)において、ビームエネルギーが調整される。
図9は、第1工程におけるイオン注入装置100を模式的に示す。第1工程は、ビームプロファイルスリット23をビームラインBLに挿入し、エネルギー分析スリット27のスリット幅を狭くし、第1ファラデーカップ28をビームラインBLに挿入した状態(第1動作モードともいう)でなされる。第1工程では、ビームプロファイルスリット23、エネルギー分析スリット27および第1ファラデーカップ28に高エネルギーイオンビームが衝突して中性子線が発生する可能性がある。したがって、第1工程では、ビームプロファイルスリット23、エネルギー分析スリット27および第1ファラデーカップ28が中性子線発生源となりうる。このとき、ビームプロファイルスリット23にて発生する中性子線90は、主に第1中性子線測定器51により検出される。また、エネルギー分析スリット27や第1ファラデーカップ28にて発生する中性子線91は、主に第2中性子線測定器52により検出される。なお、ビームプロファイルスリット23にて発生する中性子線90は、第2中性子線測定器52にも検出されうる。同様に、エネルギー分析スリット27や第1ファラデーカップ28にて発生する中性子線91は、第1中性子線測定器51にも検出されうる。
【0095】
つづいて、
図8の第2工程(S12)において、第1ファラデーカップ28を用いてビーム電流が調整される。
図10は、第2工程におけるイオン注入装置100を模式的に示す。第2工程は、ビームプロファイルスリット23をビームラインBLから待避し、エネルギー分析スリット27のスリット幅を広くして通常幅とし、第1ファラデーカップ28をビームラインBLに挿入した状態(第2動作モードともいう)でなされる。第2工程は、
図9の第1工程と同様の動作モードとなるが、ビームプロファイルスリット23には高エネルギーイオンビームが衝突せず、エネルギー分析スリット27には高エネルギーイオンビームが衝突しにくくなる。その結果、第2工程では、実質的に第1ファラデーカップ28のみに高エネルギーイオンビームが衝突し、第1ファラデーカップ28が中性子線発生源となりうる。第1ファラデーカップ28にて発生する中性子線92は、第1中性子線測定器51や第2中性子線測定器52により検出されうる。第2工程では、より多くの高エネルギーイオンビームが第1ファラデーカップ28に入射するため、第1工程よりも第1ファラデーカップ28にて発生しうる中性子線92の線量率が高くなる。
【0096】
次に、
図8の第3工程(S14)において、第2ファラデーカップ31を用いてビーム電流が調整される。
図11は、第3工程におけるイオン注入装置100を模式的に示す。第3工程は、第1ファラデーカップ28をビームラインBLから待避し、第2ファラデーカップ31をビームラインBLに挿入した状態(第3動作モードともいう)でなされる。第3工程では、イオンビームが第2ファラデーカップ31に衝突するため、第2ファラデーカップ31が主たる中性子線発生源となりうる。第2ファラデーカップ31にて発生する中性子線93は、主に第1中性子線測定器51および第2中性子線測定器52にて検出される。このとき、第2ファラデーカップ31の近傍に配置される第2中性子線測定器52にて検出される中性子線93の線量率が相対的に大きく、第2ファラデーカップ31から離れて配置される第1中性子線測定器51にて検出される中性子線93の線量率が相対的に小さくなる。
【0097】
次に、
図8の第4工程(S16)において、ビームモニタ42を用いてビーム電流が調整される。
図12は、第4工程におけるイオン注入装置100を模式的に示す。第4工程は、第2ファラデーカップ31をビームラインBLから待避し、ビーム走査器34にてイオンビームを往復走査しないアンスキャン状態(第4動作モードともいう)でなされる。第4工程では、イオンビームがビームモニタ42に衝突するため、ビームモニタ42が主たる中性子線発生源となりうる。ビームモニタ42にて発生する中性子線94は、主に第3中性子線測定器53および第4中性子線測定器54にて検出される。このとき、ビームモニタ42の近傍に配置される第4中性子線測定器54にて検出される中性子線94の線量率が相対的に大きく、ビームモニタ42から離れて配置される第3中性子線測定器53にて検出される中性子線94の線量率が相対的に小さくなる。
【0098】
次に、
図8の第5工程(S18)において、イオンビームがビームラインBLから一時的に待避され、注入処理室40にイオン注入すべきウェハWが搬入される。
図13は、第5工程におけるイオン注入装置100を模式的に示す。第5工程では、ビーム走査器34を用いてイオンビームを偏向させ、イオンビームがビームダンプ35に入射する状態(第5動作モードともいう)となる。したがって、第5工程では、ビームダンプ35が主たる中性子線発生源となりうる。ビームダンプ35にて発生する中性子線95は、主に第1中性子線測定器51、第2中性子線測定器52および第3中性子線測定器53にて検出される。このとき、ビームダンプ35の近傍に配置される第3中性子線測定器53にて検出される中性子線95の線量率が相対的に大きく、ビームダンプ35から離れて配置される第1中性子線測定器51や第2中性子線測定器52にて検出される中性子線95の線量率が相対的に小さくなる。
【0099】
次に、
図8の第6工程(S20)において、ビーム走査器34を用いて往復走査されるイオンビームがウェハWに照射されてイオン注入処理がなされる。
図14は、第6工程におけるイオン注入装置100を模式的に示す。第6工程では、ビーム走査器34を用いてイオンビームが往復走査され、左右ファラデーカップ39L,39Rにイオンビームが入射する状態となる。また、第6工程では、ウェハWが鉛直方向に往復運動してウェハWに入射しないイオンビームの少なくとも一部がビームモニタ42に入射する状態(第6動作モードともいう)となる。したがって、第6工程では、左右ファラデーカップ39L,39Rおよびビームモニタ42が主たる中性子線発生源となりうる。左右ファラデーカップ39L,39Rにて発生する中性子線96は、主に第3中性子線測定器53により検出され、ビームモニタ42にて発生する中性子線97は、主に第4中性子線測定器54により検出される。なお、第6工程では、注入処理室40に到達するイオンビームの一部がビームモニタ42に入射するため、第4工程よりもビームモニタ42にて発生しうる中性子線量率が低くなり、第4中性子線測定器54により検出される中性子線97の線量率も低くなる。
【0100】
なお、装置本体58は、これらの第1工程~第6工程のそれぞれに対応する動作モード以外にも、装置本体58の状態によって様々な動作モードを取りうる。
【0101】
このように、装置本体58の動作モードが変わると、中性子線発生源となりうる箇所が変化し、中性子線発生源にて発生する中性子線量率も変化しうる。そこで、中央制御装置50は、装置本体58の動作モードに応じた異常検知を行う。中央制御装置50は、装置本体58の動作モードに関する情報と、特定の動作モードにおける少なくとも一つの中性子線測定器の測定値とに基づいて装置をモニタする。例えば、動作モードに応じて異常検知の基準を異ならせ、動作モードに応じた基準を用いて複数の装置の少なくとも一つをモニタしてもよい。また、少なくとも一つの中性子線測定器の測定値が特定の動作モードに対応して定められる基準値を超える場合、測定値が基準値以下となるように複数の装置の少なくとも一つの動作条件を変更してもよい。例えば、中性子線量率が低下するように動作条件を変更したり、中性子線が発生しないようにビーム出力を一時的に停止したりしてもよい。
【0102】
図9の第1動作モードまたは
図10の第2動作モードの場合、第1中性子線測定器51や第2中性子線測定器52にて中性子線90,91,92が検出される可能性がある一方で、第3中性子線測定器53や第4中性子線測定器54にて中性子線が検出されない状態が正常と言える。そこで、第1動作モードや第2動作モードでは、第1中性子線測定器51および第2中性子線測定器52の上限値が高めに設定され、第3中性子線測定器53および第4中性子線測定器54の上限値が低め(例えば背景ノイズレベル近傍)に設定される。これにより、万が一、第3中性子線測定器53または第4中性子線測定器54にて中性子線が検出される場合に、イオン注入装置100において何らかの異常が発生したことを検知できる。第1中性子線測定器51および第2中性子線測定器52を用いることで、ビーム加速ユニット14およびビーム偏向ユニット16の少なくとも一方にて発生する中性子線をモニタしながら、ビームエネルギーやビーム電流の調整を実行してもよい。これにより、第1中性子線測定器51または第2中性子線測定器52の測定値が上限値を超える場合に、第1動作モードまたは第2動作モードの調整工程において何らかの異常が発生したことを検知できる。
【0103】
図11の第3動作モードの場合、第2ファラデーカップ31が主たる中性子線発生源となりうるため、第1中性子線測定器51や第2中性子線測定器52にて中性子線が検出されない、または、微量の中性子線が検出されうる状態が正常と言える。例えば、第2ファラデーカップ31の近傍に配置される第2中性子線測定器52にて検出される中性子線量率よりも、第2ファラデーカップ31から離れて配置される第1中性子線測定器51にて検出される中性子線量率が小さい状態が正常と言える。そこで、第3動作モードでは、第1中性子線測定器51および第2中性子線測定器52を用いて、エネルギー分析装置より下流の第2ファラデーカップ31にて発生する中性子線をモニタしながらビーム電流の調整を実行してもよい。
【0104】
図12の第4動作モードの場合、ビームモニタ42が主たる中性子線発生源となりうるため、第3中性子線測定器53や第4中性子線測定器54にて中性子線が検出される可能性がある一方で、第1中性子線測定器51や第2中性子線測定器52にて中性子線が検出されない状態が正常と言える。そこで、第4動作モードでは、第1中性子線測定器51および第2中性子線測定器52の上限値を低め(例えば背景ノイズレベル近傍)に設定し、第3中性子線測定器53および第4中性子線測定器54の上限値を高めに設定してもよい。第4動作モードでは、第3中性子線測定器53および第4中性子線測定器54を用いて、ビームモニタ42にて発生する中性子線をモニタしながらビーム電流の調整を実行してもよい。
【0105】
図13の第5動作モードの場合、ビームダンプ35が主たる中性子線発生源となりうるため、第1中性子線測定器51、第2中性子線測定器52または第3中性子線測定器53にて中性子線が検出されない、または、微量の中性子線が検出されうる状態が正常と言える。例えば、ビームダンプ35の近傍に配置される第3中性子線測定器53にて検出される中性子線量率よりも、ビームダンプ35から離れて配置される第1中性子線測定器51や第2中性子線測定器52にて検出される中性子線量率が小さい状態が正常と言える。そこで、第5動作モードでは、第1中性子線測定器51、第2中性子線測定器52および第3中性子線測定器53を用いて、ビームダンプ35にて発生する中性子線を測定しながらビームが適切に待避されているかをモニタしてもよい。第5動作モードにおいて、第4中性子線測定器54に中性子線が検出される場合、ビーム待避に何らかの異常が発生したとみなし、ウェハの搬出入を停止させてもよい。
【0106】
図14の第6動作モードの場合、左右ファラデーカップ39L,39Rおよびビームモニタ42が主たる中性子線発生源となりうるため、第4動作モードと同様、第3中性子線測定器53および第4中性子線測定器54を用いて中性子線を測定しながら、イオン注入処理が適切になされているかをモニタしてもよい。左右ファラデーカップ39L,39Rやビームモニタ42にて中性子線が発生しない場合であっても、最終エネルギーフィルタ38にて異常が発生し、AEF電極対に高エネルギーイオンビームが衝突する場合には、最終エネルギーフィルタ38が中性子線発生源となる可能性がある。異常発生により最終エネルギーフィルタ38にて中性子線が発生する場合、第3中性子線測定器53にて検出される中性子線量率が上昇することが想定される。そこで、第3中性子線測定器53にて測定される中性子線量率のみが第6動作モードに対して定められる上限値を超える場合、最終エネルギーフィルタ38に異常が発生したとみなし、イオン注入処理を停止させてもよい。
【0107】
中央制御装置50は、複数の中性子線測定器51~54の測定値を蓄積し、上述した複数の動作モードにおける各測定器の測定値の関係性や時間変化の推移を分析してもよい。例えば、装置本体58の動作モードと、特定の動作モードにおける複数の中性子線測定器51~54の測定値との相関データを蓄積し、蓄積された相関データに基づいて装置本体58を構成する各装置の状態を推定してもよい。各装置の状態として、例えば、現時点においてメンテナンスが必要な状況であるか否かを推定してもよいし、将来的にメンテナンスが必要となる時期がいつ頃となるかを推定してもよい。装置の経年使用によって中性子線発生源に蓄積される硼素量が増えるほど、中性子線発生源にて発生しうる中性子線量率が増加しうるため、測定器にて測定される中性子線量率の増加傾向を分析することでメンテナンスの要否や時期を推定できる。
【0108】
中央制御装置50は、装置本体58の動作モードと、特定の動作モードにおける複数の中性子線測定器51~54の測定値とに基づいて、少なくとも一つの測定器自体の異常を検知してもよい。一般に、中性子線測定器自体の異常を検知するには、複数の中性子線測定器を同じ位置に配置して同条件の中性子線を測定する必要がある。しかしながら、本実施の形態のように複数の中性子線発生源があるために複数箇所で中性子線を測定する必要がある場合、複数箇所のそれぞれに複数の中性子線測定器を配置すると大幅なコストの増加につながる。そこで、本実施の形態では、互いに異なる箇所に配置される複数の中性子線測定器51~54の測定値に基づいて、少なくとも一つの中性子測定器自体の異常を検知してもよい。
【0109】
上述した各動作モードでは、動作モードごとに主たる中性子線発生源となりうる場所が決まっており、中性子線発生源から各中性子線測定器51~54までの距離も固定されているため、特定の動作モードにおける各中性子線測定器51~54の測定値の比率はほぼ一定となる。したがって、動作モードごとに定められる各中性子線測定器51~54の測定値の比率から逸脱する測定値がある場合、測定器自体の異常を検知したり、異常が発生している測定器を推定したりできる。また、複数の動作モードにおいて各中性子線測定器51~54の測定値の比率を算出して比較することで、異常が発生している測定器を推定してもよい。
【0110】
本実施の形態によれば、動作モードに応じて中性子線発生源となりうる箇所を推定しているため、想定される中性子線発生源の数(例えば8箇所)よりも少ない複数の位置(例えば4箇所)に配置される中性子線測定器51~54を用いて装置内の中性子線を適切にモニタできる。つまり、複数箇所の中性子線発生源のそれぞれに1対1で対応するように中性子線測定器を配置する場合に比べて中性子線測定器の数を少なくすることができ、多数の中性子線測定器を配置することによるコスト増加を防ぐことができる。
【0111】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれ得る。
【0112】
上述の実施の形態では、装置本体58や筐体60に板状またはブロック状の中性子線散乱部材を取り付ける場合について示した。変形例においては、粒状、ジェル状またはペースト状の中性子線散乱部材を設けてもよい。例えば、装置本体58や筐体60の表面や隙間にジェル状またはペースト状の中性子線散乱部材を塗布または充填してもよい。その他、装置本体58や筐体60の支持構造における空洞部分に粒状の中性子線散乱部材を充填してもよい。
【0113】
本実施の形態のある態様は以下の通りである。
(項1-1)
イオンビームが輸送されるビームラインに沿って配置される複数のユニットと、前記ビームラインの最下流に配置される基板搬送処理ユニットとを含み、高エネルギーのイオンビームの衝突により中性子線が発生しうる中性子線発生源を有する装置本体と、
前記装置本体を少なくとも部分的に包囲する筐体と、
前記中性子線発生源から前記筐体までの距離が所定以下となる方向に前記中性子線発生源から出射される中性子線が入射しうる位置に配置される中性子線散乱部材と、を備えることを特徴とするイオン注入装置。
(項1-2)
前記中性子線散乱部材は、前記中性子線発生源から前記筐体までの距離が第1距離となる第1方向に前記中性子線発生源から出射される中性子線が入射しうる位置に配置される第1中性子線散乱部材と、前記中性子線発生源から前記筐体までの距離が前記第1距離よりも大きい第2距離となる第2方向に前記中性子線発生源から出射される中性子線が入射しうる位置に配置され、前記第1中性子線散乱部材よりも厚みの小さい第2中性子線散乱部材とを含むことを特徴とする項1-1に記載のイオン注入装置。
(項1-3)
前記中性子線散乱部材は、前記中性子線発生源から前記筐体までの距離が第1距離となる第1方向に前記中性子線発生源から出射される中性子線が入射しうる位置に配置される一方、前記中性子線発生源から前記筐体までの距離が前記第1距離よりも大きい第3距離となる第3方向に前記中性子線発生源から出射される中性子線が入射しうる位置に配置されないことを特徴とする項1-1または項1-2に記載のイオン注入装置。
(項1-4)
前記中性子線発生源は、前記ビームラインに設けられるスリット、ビームモニタおよびビームダンプの少なくとも一つであることを特徴とする項1-1から項1-3のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-5)
前記中性子線散乱部材の少なくとも一部は、前記筐体に取り付けられることを特徴とする項1-1から項1-4のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-6)
前記中性子線散乱部材の少なくとも一部は、前記筐体に設けられる扉に取り付けられることを特徴とする項1-5に記載のイオン注入装置。
(項1-7)
前記中性子線散乱部材の少なくとも一部は、前記装置本体および前記装置本体の支持構造体の少なくとも一方に取り付けられることを特徴とする項1-1から項1-6のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-8)
前記中性子線散乱部材は、前記ビームラインの一部区間に沿って配置される前記筐体の一部には取り付けられないことを特徴とする項1-1から項1-7のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-9)
前記複数のユニットは、イオン源から引き出されるイオンビームを加速させて前記高エネルギーのイオンビームを生成するビーム加速ユニットと、前記高エネルギーのイオンビームを前記基板搬送処理ユニットに向けて輸送するビーム輸送ユニットと、を備え、
前記中性子線散乱部材は、前記ビーム輸送ユニットに沿って配置される前記筐体の一部に少なくとも部分的に取り付けられる一方、前記ビーム加速ユニットに沿って配置される前記筐体の一部には少なくとも部分的に取り付けられないことを特徴とする項1-8に記載のイオン注入装置。
(項1-10)
前記複数のユニットは、前記ビーム加速ユニットと前記ビーム輸送ユニットの間をつなぐビーム偏向ユニットをさらに備え、
前記ビームラインは、直線状の前記ビーム加速ユニットと、曲線状の前記ビーム偏向ユニットと、直線状の前記ビーム輸送ユニットとによってU字状に構成され、
前記中性子線散乱部材は、前記ビーム偏向ユニットに沿って配置される前記筐体の一部に少なくとも部分的に取り付けられることを特徴とする項1-9に記載のイオン注入装置。
(項1-11)
前記基板搬送処理ユニットは、前記高エネルギーのイオンビームをウェハに照射する注入処理がなされる注入処理室と、複数枚のウェハを収容可能なウェハ容器が載置されるロードポートと、前記注入処理室と前記ウェハ容器の間でウェハを搬送する基板搬送装置と、を備え、
前記筐体は、前記ロードポートの鉛直上方において前記ウェハ容器が鉛直方向に通過可能となるよう構成されるウェハ容器搬送口を有し、
前記中性子線散乱部材は、前記ウェハ容器搬送口における前記ウェハ容器の搬送を妨げないように配置されることを特徴とする項1-1から項1-10のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-12)
前記中性子線散乱部材の一部は、前記ウェハ容器搬送口を挟んで水平方向に重なるように配置されることを特徴とする項1-11に記載のイオン注入装置。
(項1-13)
前記筐体は、前記ロードポートの正面に設けられる出入口と、前記出入口の右端または左端を閉鎖する一枚のヒンジ扉と、前記ヒンジ扉により閉鎖されない前記出入口の残りを閉鎖する二枚のスライド扉とを有し、
前記中性子線散乱部材は、前記ヒンジ扉および前記スライド扉の双方に取り付けられることを特徴とする項1-11または項1-12に記載のイオン注入装置。
(項1-14)
前記筐体は、前記ロードポートの正面に設けられる出入口と、前記出入口の右端および左端を閉鎖する二枚のヒンジ扉と、前記二枚のヒンジ扉により閉鎖されない前記出入口の中央を閉鎖する一枚のスライド扉とを有し、
前記中性子線散乱部材は、前記ヒンジ扉および前記スライド扉の双方に取り付けられることを特徴とする項1-11または項1-12に記載のイオン注入装置。
(項1-15)
前記筐体は、前記装置本体の側方に設けられる側壁部と、前記装置本体の鉛直上方に設けられる天井部と、前記装置本体の鉛直下方に設けられる床部とを含み、
前記側壁部、前記天井部および前記床部のそれぞれは、前記中性子線散乱部材が取り付けられる箇所と、前記中性子線散乱部材が取り付けられない箇所とを有することを特徴とする項1-1から項1-14のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-16)
前記中性子線散乱部材は、水素原子の含有量が0.08g/cm3~0.15g/cm3である材料で構成されることを特徴とする項1-1から項1-15のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-17)
前記中性子線散乱部材は、ポリオレフィンを含むことを特徴とする項1-1から項1-16のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-18)
前記中性子線散乱部材は、硼素原子をさらに含むことを特徴とする項1-17に記載のイオン注入装置。
(項1-19)
前記中性子線散乱部材の少なくとも一部は、板状またはブロック状であることを特徴とする項1-1から項1-18のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-20)
前記板状または前記ブロック状の中性子線散乱部材の表面に不燃性シートが取り付けられることを特徴とする項1-19に記載のイオン注入装置。
(項1-21)
前記中性子線散乱部材の少なくとも一部は、粒状、ジェル状またはペースト状であることを特徴とする項1-1から項1-20のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-22)
前記筐体に取り付けられるX線遮蔽部材をさらに備えることを特徴とする項1-1から項1-21のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-23)
前記高エネルギーのイオンビームは、4MeV以上のエネルギーを有する硼素イオンを含むことを特徴とする項1-1から項1-22のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【0114】
本実施の形態のある別の態様は以下の通りである。
(項2-1)
イオンビームが輸送されるビームラインに沿って配置される複数の装置と、
前記ビームラインの近傍の複数の位置に配置され、高エネルギーのイオンビームの衝突により前記ビームラインの複数箇所で発生しうる中性子線を測定する複数の中性子線測定器と、
前記複数の中性子線測定器のうち少なくとも一つの中性子線測定器の測定値に基づいて、前記複数の装置の少なくとも一つをモニタする制御装置と、を備えることを特徴とするイオン注入装置。
(項2-2)
前記制御装置は、前記複数の中性子線測定器の測定値に基づいて、前記ビームラインの少なくとも一箇所の中性子線発生源の位置を推定することを特徴とする項2-1に記載のイオン注入装置。
(項2-3)
前記制御装置は、前記複数の中性子線測定器の測定値に基づいて、前記ビームラインの少なくとも一箇所の中性子線発生源から放射される中性子線強度を推定することを特徴とする項2-1または項2-2に記載のイオン注入装置。
(項2-4)
前記複数の中性子線測定器の少なくとも一つは、前記ビームラインに設けられるスリット、ビームモニタおよびビームダンプの少なくとも一つの近傍に配置されることを特徴とする項2-1から項2-3のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-5)
前記制御装置は、前記複数の装置の動作モードに関する情報と、特定の動作モードにおける少なくとも一つの中性子線測定器の測定値とに基づいて、前記複数の装置の少なくとも一つの異常を検知することを特徴とする項2-1から項2-4のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-6)
前記制御装置は、前記少なくとも一つの中性子線測定器の測定値が前記特定の動作モードに対応して定められる基準値を超える場合、前記測定値が前記基準値以下となるように前記複数の装置の少なくとも一つの動作条件を変更することを特徴とする項2-5に記載のイオン注入装置。
(項2-7)
前記制御装置は、前記複数の装置の動作モードと、特定の動作モードにおける前記複数の中性子線測定器の測定値との相関データを蓄積し、蓄積された相関データに基づいて前記複数の装置のうちメンテナンスが必要な装置を推定することを特徴とする項2-1から項2-6のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-8)
前記制御装置は、前記蓄積された相関データに基づいて前記複数の装置の少なくとも一つのメンテナンス時期を推定することを特徴とする項2-7に記載のイオン注入装置。
(項2-9)
前記制御装置は、前記複数の装置の動作モードに関する情報と、特定の動作モードにおける少なくとも二以上の中性子線測定器の測定値とに基づいて、前記複数の装置の少なくとも一つの異常を検知することを特徴とする項2-1から項2-8のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-10)
前記複数の装置は、イオン源から引き出されるイオンビームを加速させて前記高エネルギーのイオンビームを生成するビーム加速装置と、前記ビーム加速装置の下流に配置されるエネルギー分析装置と、を含み、
前記制御装置は、前記ビーム加速装置および前記エネルギー分析装置の少なくとも一方にて発生しうる中性子線を少なくとも二以上の中性子線測定器を用いてモニタしながら、前記エネルギー分析装置から出力されるイオンビームのエネルギーおよびビーム電流の少なくとも一方を調整することを特徴とする項2-1から項2-9のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-11)
前記複数の中性子線測定器は、前記ビーム加速装置の出口に設けられるスリットの近傍に配置される第1測定器と、前記エネルギー分析装置の出口に設けられるスリットおよびビームモニタの近傍に配置される第2測定器と、を含み、
前記制御装置は、前記ビーム加速装置および前記エネルギー分析装置の少なくとも一方にて発生しうる中性子線を前記第1測定器および前記第2測定器を用いてモニタすることを特徴とする項2-10に記載のイオン注入装置。
(項2-12)
前記制御装置は、前記エネルギー分析装置よりも前記ビームラインの下流にて発生しうる中性子線を前記第1測定器および前記第2測定器を用いてモニタすることを特徴とする項2-11に記載のイオン注入装置。
(項2-13)
前記複数の装置は、前記イオンビームに電界および磁界の少なくとも一方を印加し、前記ビームラインから離れて設けられるビームダンプに向けてイオンビームを待避させるビーム偏向装置を含み、
前記制御装置は、前記ビーム偏向装置による前記イオンビームの待避時において前記ビームダンプにて発生しうる中性子線を少なくとも二以上の中性子線測定器を用いてモニタすることを特徴とする項2-1から項2-12のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-14)
前記複数の中性子線測定器は、前記イオンビームが照射されるウェハが配置される注入位置の近傍に設けられるビームモニタよりも上流側に配置される第3測定器と、前記注入位置の近傍に設けられる前記ビームモニタよりも下流側に配置される第4測定器とを含み、
前記制御装置は、前記注入位置の近傍に設けられる前記ビームモニタにて発生しうる中性子線を前記第3測定器および前記第4測定器を用いてモニタすることを特徴とする項2-1から項2-13のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-15)
前記制御装置は、前記複数の装置の動作モードに関する情報と、特定の動作モードにおける前記複数の中性子線測定器の測定値に基づいて、少なくとも一つの中性子線測定器自体の異常を検知することを特徴とする項2-1から項2-14のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-16)
前記複数の装置および前記複数の中性子線測定器を包囲する筐体をさらに備え、
前記制御装置は、前記複数の中性子線測定器の測定値に基づいて前記筐体の外側の中性子線量率を推定することを特徴とする項2-1または項2-15のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-17)
前記制御装置は、前記筐体に含まれる中性子線散乱材および前記ビームラインの近傍に配置される中性子線散乱材の少なくとも一方の配置に基づいて前記筐体の外側の中性子線量率を推定することを特徴とする項2-16に記載のイオン注入装置。
(項2-18)
前記制御装置は、推定した前記筐体の外側の中性子線量率が所定の上限値を超える場合、前記筐体の外側の中性子線量率が低下するように前記複数の装置の少なくとも一つの動作条件を変更することを特徴とする項2-16または項2-17に記載のイオン注入装置。
(項2-19)
前記制御装置は、前記複数の中性子線測定器の測定値に基づいて前記筐体の内側の中性子線の線量率分布を推定することを特徴とする項2-16から項2-18のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-20)
前記高エネルギーのイオンビームは、4MeV以上のエネルギーを有する硼素(B)イオンを含むことを特徴とする項2-1から項2-19のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-21)
イオンビームが輸送されるビームラインの近傍の複数の位置に配置される複数の中性子線測定器を用いて、高エネルギーのイオンビームの衝突により前記ビームラインの複数箇所で発生しうる中性子線を測定することと、
前記複数の中性子線測定器のうち少なくとも一つの中性子線測定器の測定値に基づいて前記ビームラインに沿って配置される複数の装置の少なくとも一つをモニタすることと、を備えることを特徴とするイオン注入方法。
【符号の説明】
【0115】
10…イオン源、12…ビーム生成ユニット、14…ビーム加速ユニット、16…ビーム偏向ユニット、18…ビーム輸送ユニット、20…基板搬送処理ユニット、22a~22c…線形加速装置、23…ビームプロファイルスリット、24…エネルギー分析電磁石、27…エネルギー分析スリット、28…第1ファラデーカップ、31…第2ファラデーカップ、34…ビーム走査器、35…ビームダンプ、40…注入処理室、42…ビームモニタ、44…基板搬送装置、45…ウェハ容器、46…ロードポート、47…ウェハ容器搬送口、58…装置本体、60…筐体、61…側壁部、62…天井部、63…床部、80…扉構造、81…出入口、82,83…スライド扉、84…ヒンジ扉、100…イオン注入装置。