(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】工具を固定するための装置及びこのような装置を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
B21D 5/02 20060101AFI20220922BHJP
B21D 37/00 20060101ALI20220922BHJP
B21D 37/14 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
B21D5/02 F
B21D5/02 P
B21D37/00 B
B21D37/14 A
B21D37/14 J
(21)【出願番号】P 2019544073
(86)(22)【出願日】2018-02-19
(86)【国際出願番号】 NL2018050109
(87)【国際公開番号】W WO2018151600
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2021-02-12
(32)【優先日】2017-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】504056462
【氏名又は名称】ウィラ・ベスローテン・フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】WILA B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】ラウウェラー,フランシスクス・ウィルヘルムス
(72)【発明者】
【氏名】キーンハウス,フーブ・フーベルトゥス・ヨハネス
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-024118(JP,A)
【文献】特開2014-124675(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015100655(DE,A1)
【文献】実開昭55-074048(JP,U)
【文献】特開2007-284613(JP,A)
【文献】特開平07-335909(JP,A)
【文献】特開2001-150059(JP,A)
【文献】特表昭63-502129(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0325336(US,A1)
【文献】特開2016-204638(JP,A)
【文献】特表2004-504948(JP,A)
【文献】特開平03-259702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 5/02
B21D 37/00
B21D 37/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工
具を固定するための装置であって、
前記工具の係合部を受け入れるための受入空間と、
前記工具の位置確認及び/又は通信を行うために前記受入空間内又はその近くに配置された手段と
、
前記位置確認及び/又は通信手段を前記受入空間から少なくとも部分的に分離する第1の保護層
とを備える装置において、
前記第1の保護層は、前記位置確認及び/又は通信手段の印刷回路基板の少なくとも一部を露出させており、
前記露出された部分上に導体帯片が形成され、これによって前記工具に存在する電気接点との電気接続が可能となっていることを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記位置確認及び/又は通信手段は、前記受入空間の壁の凹部内に配置され、前記第1の保護層は、前記凹部
を部分的に閉鎖していることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記工具の前記係合部は、前記位置確認及び/又は通信手段と協働する位置確認及び/又は通信要素を備え、前記位置確認及び/又は通信要素は、第2の保護層によって周囲領域から少なくとも部分的に閉鎖されていることを特徴とする、
請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記位置確認及び/又は通信要素は、前記工具の前記係合部の凹部内に配置され、
前記第2の保護層は、前記凹部を前記周囲領域から少なくとも部分的に閉鎖していることを特徴とする、請求項
3に記載の装置。
【請求項5】
前記位置確認及び/又は通信要素は、前記第2の保護層によって前記周囲領域から完全に閉鎖されていることを特徴とする、請求項
3又は4に記載の装置。
【請求項6】
前記第2の保護層は、前記位置確認及び/又は通信要素の少なくなくとも一部を露出させていることを特徴とする、請求項
3又は4に記載の装置。
【請求項7】
前記凹部は、前記第1及び/又は第2の保護層が前記凹部内に隠れるような深さを有することを特徴とする、請求項2又は
4に記載の装置。
【請求項8】
前記第1及び/又は第2の保護層は、前記工具の硬度
と少なくとも同じ硬度を有する材料から作製されていることを特徴とする、
請求項1から7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記第1及び/又は第2の保護層は、5よりも高い、好ましくは、6よりも高い、更に好ましくは、7よりも高い、最も好ましくは、8よりも高いモース硬度を有する材料から構成されていることを特徴とする、請求項
8に記載の装置。
【請求項10】
前記第1及び/又は第2の保護層の材料は、鉱物、金
属、セラミック材料、及びガラスからなる群から選択されることを特徴とする、請求項
8又は9に記載の装置。
【請求項11】
前記第1及び/又は第2の保護層は、前記工具の硬度よりも著しく低い硬度を有する材料から作製されていることを特徴とする、請求項1~
7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記第1及び/又は第2の保護層の材料は、自己修復性材料であることを特徴とする、請求項
11に記載の装置。
【請求項13】
前記第1及び/又は第2の保護層の材料は、エポキシ、任意選択的に繊維強化プラスチック、ホットメルト材、及び有機又は無機物質からなる群から選択されることを特徴とする、請求項
11又は12に記載の装置。
【請求項14】
前記第1及び/又は第2の保護層は、前記受入空間に面する滑らかな上層を備えることを特徴とする、請求項
11~13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記第1及び/又は第2の保護層の材料は、導電性でないか又は殆ど導電性でないことを特徴とする、請求項
8~14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記第1及び/又は第2の保護層は、それぞれ、前記位置確認及び/又は通信手段又は前記位置確認及び/又は通信要素の上に直接配置されていることを特徴とする、
請求項1~15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記第1及び/又は第2の保護層は、それぞれ、キャリ
アを介して、前記位置確認及び/又は通信手段又は前記位置確認及び/又は通信要素の上に配置されていることを特徴とする、請求項
1~15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記第1及び/又は第2の保護層は、取外し可能であることを特徴とする、請求項
17に記載の装置。
【請求項19】
前記第1及び/又は第2の保護層は、比較的高い誘電値を有することを特徴とする、
請求項1~18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記受入空間は、細長であり、前記位置確認及び/又は通信手段及び前記第1の保護層は、実質的に前記受入空間の長さに沿って延在していることを特徴とする、
請求項1~19のいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
前記装置は、前記工具を前記受入空間内にクランプするための手段を有し、機
械のクランプシステムの一部を構成していることを特徴とする、
請求項1~20のいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
前記第1の保護層に対する前記工具の接触を検出する手段であって、前記工具のクランプ動作を中断するように構成されている、手段を備えることを特徴とする、
請求項1~21のいずれか一項に記載の装置。
【請求項23】
工
具を固定するための装置を製造するための方法であって、
a)固定本体内に前記工具の係合部を受け入れるための受入空間を形成するステップと、
b)前記工具の位置確認及び/又は通信を行うための手段を前記受入空間内又はその近くに配置するステップと
、
前記位置確認及び/又は通信手段を前記受入空間から少なくとも部分的に分離する第1の保護層を配置するステップ
とを含み、
前記第1の保護層は、前記位置確認及び/又は通信手段の印刷回路基板の少なくとも一部を露出させており、
前記露出された部分上に導体帯片を形成するステップをさらに含み、これによって前記工具に存在する電気接点との電気接続が可能となっていることを特徴とする、方法。
【請求項24】
前記ステップa)は、
a1)前記受入空間の壁に凹部を形成するサブステップと、
a2)前記位置確認及び/又は通信手段を前記凹部内に配置するサブステップと、
を含み、
前記第1の保護層は、前記凹部を少なくとも部分的に閉鎖するように配置される、ことを特徴とする、請求項
23に記載の方法。
【請求項25】
c)前記位置確認及び/又は通信手段と協働する位置確認及び/又は通信要素を前記工具の前記係合部に接続させるステップと、
d)前記位置確認及び/又は通信要素を周囲領域から少なくとも部分的に分離する第2の保護層を前記工具に配置するステップと、
を含むことを特徴とする、請求項
23又は24に記載の方法。
【請求項26】
前記ステップc)は、
c1)前記工具の前記係合部に凹部を形成するサブステップと、
c2)前記位置確認及び/又は通信要素を前記凹部内に配置するサブステップと、
を含み、
前記第2の保護層は、前記凹部を前記周囲領域から少なくとも部分的に閉鎖するように配置される、
ことを特徴とする、請求項
25に記載の方法。
【請求項27】
前記サブステップa1)及びc1)の各々において、前記凹部は、前記第1及び/又は第2の保護層が前記凹部内に隠れるように配置されるような深さを有することを特徴とする、請求項
24又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記第1及び/又は第2の保護層は、それぞれ、前記位置確認及び/又は通信手段又は前記位置確認及び/又は通信要素の上に直接配置されることを特徴とする、請求項
23~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記第1及び/又は第2の保護層は、それぞれ、キャリ
アを介在させることによって、前記位置確認及び/又は通信手段又は位置確認及び/又は通信要素の上に配置されることを特徴とする、請求項
23~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
取り替えるために、前記第1及び/又は第2の保護層は、それぞれ、前記位置確認及び/又は通信手段又は前記位置確認及び/又は通信要素から取り外され、新規の保護層がその上に配置されることを特徴とする、請求項
29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具、特に、曲げ工具を固定するための装置であって、工具の係合部を受け入れる受入空間と、工具の位置確認及び/又は通信を行うために受入空間内又はその近くに配置された手段と、を備える装置に関する。このような装置は、例えば、本出願人による先の特許出願(特許文献1又は2)から知られている。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、プレスブレーキのクランプビームにクランプされた曲げ工具の位置確認及び識別を行うためのシステムを記載している。このシステムの第1の変更例では、クランプビームの細長の受入空間内に延在する導電体及び工具上の電気接点が用いられている。他の変更例では、工具の存在を静電容量式に検出するコンデンサ表面が受入空間内に形成されている。ここで、工具は、識別回路を更に備えている。識別回路は、読み取られるために、受入空間内の導体と電気的接続を介して接触することが可能になっている。コンデンサ表面及び導電体からの信号が読み取られ、プレスブレーキの制御システムによって処理されることになる。
【0003】
このシステムの更なる発展形態が、特許文献2に記載されている。この文献では、工具とクランプ機構との間で無線データ伝送が行なわれるようになっている。第1の変更例では、通信が光学的に行なわれ、他の変更例では、通信が電磁的に行なわれている。
【0004】
先のシステムは、いずれも、プレスブレーキのクランプシステム内の工具を識別し、これによって、例えば、工具の種類及び寸法を確認することができる。クランプシステム内の工具の位置を正確に決定し、データをクランプシステムと工具との間で実時間(real time)で交換することもできる。また、これらのデータに基づき、制御システムは、工具が意図された加工に対して正しいかどうか及び正しい位置に配置されているかどうかを検証することができる。更に、制御システムは、どの工具がクランプビームのどの位置に配置されねばならないかを指示し、工具が正しい位置に配置された時にプレスブレーキの加工を開始することができる。従って、制御システムは、非加工品が種々の工具によって加工される順序も指示することができる。このように、従来のクランプシステムと比較して、このシステムは、加工速度、精度、及びプロセス信頼度において大きな改良をもたらすことになる。
【0005】
この固定装置は、プレスブレーキ又は他の機械に適用可能であるのみならず、工具貯蔵領域にも適用可能である。ここでも、例えば、自動プロセスによって貯蔵領域内の工具を見出し、引き出し、及び取り換えることを可能にするために、工具の位置決定及び通信が重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】欧州特許出願公開第1600256A1号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1864752A1号明細書
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、前述のシステムを実質的にあらゆる条件下において障害を生じることなく確実に機能するように改良することにある。本発明によれば、この目的は、前述の形式の装置が位置確認及び/又は通信手段を受入空間から少なくとも部分的に分離する第1の保護層を備えることによって、達成される。このような保護層は、位置確認及び/又は通信手段が工具の突出する部分、例えば、バリによって損傷しないように防ぐことができる。また、位置確認及び/又は通信手段の動作が(受入空間内に混入し、位置確認及び/又は通信手段と工具との間に押し込まれることもある)埃、グリース、又は塵によって悪影響を受けないようにすることができる。
【0008】
位置確認及び/又は通信手段が受入空間の壁の凹部内に配置され、該凹部が第1の保護層によって少なくとも部分的に閉鎖されたなら、損傷のリスクが更に低減されることになる。
【0009】
装置の第1の実施形態では、位置確認及び/又は通信手段は、第1の保護層によって受入空間から完全に閉鎖されている。その一方、第1の保護層は、位置確認及び/又は通信手段の少なくとも一部を露出させるようになっていてもよい。後者は、位置確認及び/又は通信手段が非接触方式によって作動しないか又は部分的にしか非接触方式によって作動しない時、特に実施することができる。
【0010】
工具の位置は、静電容量式検出又は光学的検出によって、受動的に測定することができる。しかし、工具の係合部が、位置確認及び/又は通信手段と協働する位置確認及び/又は通信要素を備えていてもよい。この場合、好ましくは、この位置確認及び/又は通信要素は、第2の保護層によって周囲領域から少なくとも部分的に閉鎖されているとよい。これによって、位置確認及び/又は通信システムの両方の構成要素を周囲の影響から保護することができる。
【0011】
また、最適な保護のために、好ましくは、位置確認及び/又は通信要素が工具の係合部の凹部内に配置され、第2の保護層が該凹部を周囲領域から少なくとも部分的に閉鎖しているとよい。
【0012】
位置確認及び/又は通信要素は、その最適な保護のために、第2の保護層によって周囲領域から完全に閉鎖されていてもよい。その一方、特に非接触式動作の場合、第2の保護層は、位置確認及び/又は通信要素の少なくとも一部を露出させてもよい。
【0013】
損傷のリスクを更に低減させるために、凹部は、好ましくは、第1及び/又は第2の保護層が凹部内に隠れるような深さを有していてもよい。これによって、位置確認及び/又は通信システムの構成要素を更に一層奥に配置させても、保護層と接触する機会が極めて小さくなる。
【0014】
本発明による装置の第1の変更形態によれば、第1及び/又は第2の保護層は、工具の硬度よりも少なくとも高い硬度を有する材料から作製されている。第1及び/又は第2の保護層は、例えば、5よりも高い、好ましくは、6よりも高い、更に好ましくは、7よりも高い、最も好ましくは、8よりも高いモース硬度を有する材料から構成することができる。これによって、各保護層は、突出する部分、例えば、工具のバリによる損傷に耐えることができる。これは、第1及び/又は第2の保護層の材料を鉱物、金属、特に焼入鋼、セラミック材料、及びガラスからなる群から選択することによって達成される。
【0015】
本発明による他の変更形態によれば、第1及び/又は第2の保護層は、工具の硬度よりも著しく低い硬度を有する材料から作製されている。このような材料は、柔軟性又は衝撃吸収性を有し、これによって、保護を確実なものとする。第1及び/又は第2の保護層の材料は、好ましくは、自己修復性材料である。従って、生じ得る損傷がすぐに修正され、これによって、保護が維持される。
【0016】
第1及び/又は第2の保護層の材料は、エポキシ、任意選択的に繊維強化プラスチック、ホットメルト材、及び有機又は無機物質からなる群から選択されるとよい。
【0017】
第1及び/又は第2の保護層が受入空間に面する滑らかな上層を備えたなら、工具は、受入空間内に極めて容易にすべり込むことができる。これによって、埃又はグリースが各保護層に付着するリスクも低下する。
【0018】
工具と固定装置との間のデータ伝送に悪影響を与えないために、第1及び/又は第2の保護層の材料は、好ましくは、導電性でないか又は殆ど導電性でないとよい。
【0019】
第1及び/又は第2の保護層が、それぞれ、位置確認及び/又は通信手段又は位置確認及び/又は通信要素上に直接配置されるようになっていたなら、位置確認及び/又は通信システムの構成要素及び関連する保護層をそれぞれ受入空間内又は工具に一体的に取り付けることができる。
【0020】
その一方、第1及び/又は第2の保護層をキャリア、特に、接着層を介して位置確認及び/又は通信手段又は位置確認及び/又は通信要素上にそれぞれ配置することも考えられる。これによって、保護層に対する材料選択の自由度が大きくなる。何故なら、キャリアは、保護層とその下の位置確認及び/又は通信システムの構成要素との間に接続をもたらすからである。
【0021】
この場合、更に、第1及び/又は第2の保護層を取外し可能とすることもできる。これによって、この層は、例えば、損傷されるか又は著しく汚染した時に取り替えることが可能になる。
【0022】
位置確認及び/又は通信システムの構成要素間の良好な通信を保証するために、第1及び/又は第2の保護層は、好ましくは、比較的高い誘電値を有していてもよい。
【0023】
受入空間が細長である場合、位置確認及び/又は通信手段及び第1の保護層は、好ましくは、実質的に受入空間の長さに沿って延在しているとよい。これによって、工具を受入空間の任意の位置に配置することができ、それ故、本発明は、装置の全長に沿って適用可能となる。
【0024】
装置が工具を受入空間内にクランプする手段を有する場合、該装置は、機械、特に、プレスのクランプシステムの一部を構成することができる。
【0025】
構成要素への損傷を防ぐために、装置は、好ましくは、第1の保護層に対する工具の接触を検出するための手段であって、工具のクランプ動作を中断するように構成される、手段を備えていてもよい。工具が保護層と接触したと判断するやいなやクランプ動作を中断することによって、クランプ力が増大するにつれて工具が保護層及びその背後に位置する構成要素を更に損傷するのを防ぐことができる。保護層は、必ずしもこの実施形態におけるような硬質且つ耐擦過性を有する必要がなく、又は逆にこの実施形態におけるような柔軟性且つ自己修正性を有する必要がない。何故なら、この層が、最初に接触検出機能を果たすからである。従って、この場合、保護層は、受動的保護層と対照的に機械的抵抗をもたらす必要がない能動的保護層であってもよい。しかし、勿論、硬質且つ耐擦過性を有する接触検出層又は柔軟性且つ自己修復性を有する接触検出層を考えることもできる。
【0026】
本発明は、前述の形式の装置を製造するための方法にも関する。前述の出願人による先の特許出願は、すでに、工具、特に、曲げ工具を固定するための装置を製造するための方法を暗示的に記載している。この方法は、固定本体内に工具の係合部を受け入れるための受入空間を形成するステップと、工具の位置確認及び/又は通信を行うための手段を受入空間内又はその近くに配置するステップと、を含むものである。
【0027】
本発明による方法は、位置確認及び/又は通信手段を受入空間から少なくとも部分的に分離する第1の保護層を配置するステップを含む点において、前述の方法と異なっている。
【0028】
本発明による方法が好ましく適用される実施形態は、従属請求項26-32の主題を構成している。
【0029】
以下、添付の図面を参照して、本発明を実施例に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】受入空間が画定された上側ビーム及び受入空間内にクランプされる工具を有する、本発明の第1の実施形態による装置の斜視図である。
【
図2】
図1の矢印IIにとって示される部分の詳細図である。
【
図3】工具がクランプされている
図1のクランプ装置の断面図である。
【
図4】
図3の矢印IVによって示される部分の拡大詳細図である。
【
図5】下側工具が受入空間内に斜めに挿入されている状態を示す、下側工具が取り付けられた下側クランプビームの断面図である。
【
図6A-6C】下側工具が受入空間内に挿入される種々の段階における
図5の矢印VIによって示される部分の詳細図である。
【
図7】例えば、
図1-4の装置に適用される保護層を有する細長の位置確認及び/又は通信手段の正面図である。
【
図8】
図7の位置確認及び/又は通信手段及び保護層の拡大側面図である。
【
図9】
図7の矢印IXによって示される部分の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
工具2、図示の例では、曲げ工具を固定するための装置1は、ビーム3を備え、該ビーム3内に工具2の係合部5を受け入れるための受入空間4が画定されている(
図1)。受入空間4は、ここでは、ビーム3の全長に沿って延在している。図示の例では、ビーム3は、機械、ここでは、プレスブレーキのクランプシステムの一部を形成するクランプビームである。工具2の係合部5は、各側に溝30を有している。溝30は、受入空間4内に挿入されたクランプ突起31を受け入れるように構成されている。このクランプ突起31は、例えば、出願人による先の特許出願(国際特許出願公開第2010/056110A1号)に記載されるようなクランプ機構29によって駆動される。
【0032】
曲げ工具2は、係合部5から遠いところにある端に曲げ縁7を画定するノーズ6を有している。曲げ縁7の形状は、以下に説明する下側工具の形状と連携して、プレスブレーキにおいて加工されるプレートに形成される曲げ角度を画定する。実際に、製品にはいくつかの曲げ加工を施さねばならなく、この目的のために、ビーム3に種々の曲げ工具が互いに隣接してクランプされることになる。
【0033】
制御システム8が、製品の設計情報に基づいて行なわねばならない加工の順序に関する指示を与える。また、制御システム8は、この目的のためにどの工具が用いられねばならないか及び該工具がプレスブレーキのどこに配置されねばならないかも指示する。
【0034】
オペレータによって操作されるプレスブレーキの場合、指示は、スクリーン上のクランプビームの位置における光信号の形態又はスクリーン上のメッセージの形態を取ることができる。完全に自動化されたプレスブレーキでは、制御システムは、工具を配置し又は取り外し且つ被加工品をプレス内に挿入する1つ又は複数のロボットを制御することができる。
【0035】
クランプビーム3への種々の工具の実際の位置を制御システム8にフィードバックさせるために、装置1は、工具2を位置確認し及び/又は工具2と通信するための手段9を備えている。これらの位置確認及び/又は通信手段9は、出願人の先の特許出願(特許文献1,2)に記載される形態を取ることができる。クランプビーム3内の任意の位置における工具2の存在を検出することを可能にするために、位置確認及び/又は通信手段9は、ここでは、受入空間4の全長に沿って分配して配置されている。
【0036】
位置確認及び/又は通信手段は、実際には、例えば、印刷回路基板(PCB)の形態にある基板上に配置された多数の電子部品及び/又は光学部品を備えている。位置確認及び/又は通信手段9のこれらの部品は、比較的傷つきやすく、特に大きな力が加えられる工業的環境では、比較的傷つきやすい。すなわち、各工具2は、クランプビーム3の受入空間4内に力によってクランプされる。受入空間4の寸法が工具2の係合部5の寸法よりも大きいので、工具2は、受入空間4内に挿入される時にある程度移動することができるが、これによって、工具2の突き出ている部分がPCB10と接触するリスクが生じる。突き出ている部分は、例えば、工具に付着するバリ又は他の破損部から形成され、工具のクランプ中にPCB10の構成部品に対して押し付けられる可能性がある。
【0037】
PCB10へのこのような損傷を防ぐために、本発明による装置1は、位置確認及び/又は通信手段9を受入空間4から分離させる(以下、「第1の保護層」とも呼ばれる)保護層11を備えている。図示の例では、位置確認及び/又は通信手段9のPCB10は、受入空間4の側壁13内に長手方向に延在する細長凹部又は溝12内に受け入れられている(
図4)。第1の保護層11は、PCB10上に配置され、同様に、受入空間4の長さに沿って延在している(
図7)。
【0038】
位置確認及び/又は通信手段9は、原理的に、環境の変化、例えば、電場強度又は磁場強度の変化、又は光検出の場合、光入射の変化に基づいてのみ、工具2の存在、更に工具2の位置を検出することができるが、工具2は、好ましくは、受入空間4内の位置確認及び/又は通信手段9と協働する位置確認及び/又は通信要素14を備えているとよい。これによって、工具2は、検出されるのみならず、識別されることになる。また、チップの形態を取ることができる位置確認及び/又は通信要素14も、専用の保護層(又は「第2の保護層」)15によって損傷に対して保護されるとよい。位置確認及び/又は通信要素14のチップは、ここでは、工具2の凹部16内に受け入れられ、第2の保護層15が、この凹部16を全体的又は部分的に閉鎖している。
【0039】
図示の例では、位置確認及び/又は通信要素14は、工具2の中央の位置の正確な指示が得られるように、工具2の実質的に軸上に配置されている。図から明らかなように、位置確認及び/又は通信要素14は、工具2の上側の近くに、具体的には、工具2の可動性安全キャッチ17のいくらか上方に配置されている。図示の例では、工具2は、両側に位置確認及び/又は通信要素14を備え、これによって、工具2を2つの方向においてクランプすることができ、(図示の例では、受入空間4の片側にのみ配置された)装置1の位置確認及び/又は通信手段9と協働することができる。この種の装置において一般的に構成されているように、安全キャッチ17は、受入空間4の溝18と協働するようになっている。
【0040】
位置確認及び/又は通信手段9は、ここでは、接続モジュール19を介して制御システム9に接続されている。クランプビーム3の長さの全体に延在するこの接続モジュール19は、クランプビーム3の外壁21の溝20内に受け入れられている。接続モジュールは、クランプビーム3を貫通する1つ又は複数のケーブル22を介して、位置確認及び/又は通信手段9のPCB10と通信するようになっているが、無線接続も考えられる。図示の例では、接続モジュールは、制御システム8に直接接続されず、処理ユニット23を介して接続されている。この処理ユニット23は、PCB10からの情報を処理し、該情報を制御システム8への伝送のための標準フォーマット、例えば、TCP/IP又はCANに変換する。位置確認及び/又は通信手段9は、このように、種々の制御システムと組合せて用いることができる。これは、重要である。何故なら、装置1は、通常、プレスブレーキと別に提供され、種々の製造によるプレスブレーキにも適用可能になっているからである。
【0041】
第1の保護層11は、図示の例では、PCB10と受入空間4との間を完全に分離していない。保護層11は、PCB10の上側24からその高さの一部に沿ってのみ延び、PCB10の下側の一部を露出させている。この露出部分上に導体帯片25が形成され、これによって、工具2に存在する電気接点に対する電気接続が可能になっている。PCB10の第1の保護層11によって覆われていない側に対する損傷のリスクは、僅かである。何故なら、図示の例において、工具2は、下側から受入空間4内に挿入される上側工具だからである。PCB10の露出した下側部分は、ここでは、特にPCB10がある程度奥に配置された時、溝12の下縁によってある程度保護される。
【0042】
これは、下側工具102を示す
図5及び
図6A-6Cに明瞭に示されている。(上側工具2のノーズ6と協働する溝107を上側に備える)この下側工具102は、下側ビーム103、この例では、クランプ装置1の下側クランプビームの受入空間104内に受け入れられている。下側工具102には、位置確認及び/又は通信手段109も設けられている。位置確認及び/又は通信手段109は、とりわけ、受入空間104の側壁113の細長凹部又は溝112内に受け入れられたPCB110を備えている。ここでは、PCB110は、その上側にのみ保護層111を備えている。何故なら、PCB110の下側部分は、下側工具102の端縁126の届く距離を超えているからである。この部分は、溝112の上縁127及び下縁129によって及び保護層111の下縁によって、保護されている。一方、非導電性の保護層111の下方の空間に(ここに図示されない)導電性の保護層を配置することも考えられる。この場合、PCB110は、導電性帯片125との電気接触を維持しながら、追加的に保護されることになる。この図は、位置確認及び/又は通信手段109のPCB110上の構成部品を上側クランプの図よりも明瞭に示している。また、ここでは、位置確認及び/又は通信手段109は、溝120内に受け入れられてケーブル122を介してPCB110に接続されたモジュール119を更に備えている。
【0043】
ここに図示されないが、下側工具102は、勿論、位置確認及び/又は通信手段109と協働する位置確認及び/又は通信要素も備えることができる。このような位置確認及び/又は通信要素は、前述したように、保護層によって周囲領域から遮蔽可能になっている。
【0044】
第1の保護層11,111の材料は、工具2,102が作製される鋼の硬度と少なくとも同程度の硬度を有しているとよい。この観点における適切な材料は、超硬且つ超耐擦過性を有するガラスである。このようなガラスの例として、例えば、Corning(www. Corning.com)による所謂Gorlla■Glass又はWillow■Glass又は対応するガラス種、例えば、Asahi(www.agc.com)によるDragontrailTM又はGTAT(www.gtat.com)によるサファイアガラス、又はセラミック材料が挙げられる。ガラスは、勿論、PCBと工具2との間の通信が光学的手段によって行なわれる時の材料選択である。保護層に対して工具の鋼よりも硬質の材料を用いることによって、極めて良好な保護が達成される。
【0045】
他の可能性として、保護層に対して工具鋼よりも硬度が低いが延性及び衝撃吸収性を有する材料を用いることもできる。PCB10への高負荷は、このような材料を施すことによって減衰され、その一方、保護層が更に凹む可能性があるが、工具の突起によって完全に裂けることがなく又は完全に突き通されることがない。保護層の材料として自己修復性材料が選択された場合、該保護層は、工具の負荷が除去された後に元の形状に戻り、工具の突起と接触する前の保護と同様の保護をもたらすことになる。この観点における適切な材料の例として、エポキシが挙げられ、任意選択的に、繊維強化プラスチック、ホットメルト材、及び有機又は無機物質が挙げられる。保護層は、埃及びグリースの付着を防ぐために及び受入空間内において工具が最小の摩擦で摺動することを確実にするために、滑らかな上層を更に備えていてもよく、これによって、損傷のリスクを更に低減させることができる。
【0046】
保護層の材料は、静電容量式検出に基づく位置確認を可能にするために、高誘電値を有するものであってもよい。
【0047】
保護層によって得られる機械的な保護に加えて又は代わって、クランプ装置1は、電子的安全機構を更に備えることができる。この目的のために、PBC10,110が負荷を受けた時に信号を生じる(図示されない)感圧層がPBC10,110に配置されてもよい。この信号に基づいて、制御システム8は、クランプ動作を中断し、これによって、負荷が更に増大しないようにすることができる。従って、工具2,102とPCB10、110との間の意図されない接触の悪影響を可能な限り制限することができる。ここでは、警告信号を生じる圧力値は、工具とPCBの導体帯片25,125との間の正常な接触が警告信号を生じないように選択されねばならない。これに関連して、保護層11,111が存在するPCB10,110の部分上にのみ感圧層を配置することを考えることもできる。また、保護層11,111自体によって感圧層を形成することも考えられる。この場合、保護層11,111は、厳密には、機械的な抵抗を有する必要がなく、電子的安全性のための信号を生成する感圧センサとしてのみ機能すればよい。追加的に、位置確認及び/又は通信要素14,114を損傷から防ぐために、同様の処置が工具2,102に施されてもよい。
【0048】
保護層は、PCB10,110に直接に配置されるとよく、この目的のために、どのような適切な技術が用いられてもよい。しかし、保護層11,111とPCB10,110との間にキャリア又は中間層、例えば、(ここに図示されない)膠層又は他の接着層を配置することもできる。これによって、ある期間の経過後に、例えば、保護層11,111が損傷又は汚染した時、該保護層11,111をPCB10,110から取り外すことができる。従って、保護層が損傷した時、PCB10,110の全体を取り替える必要がない。
【0049】
本発明を多くの実施形態に基づき説明してきたが、本発明は、これらの実施形態に制限されず、種々に変更されてもよいことを理解されたい。
【0050】
例えば、保護層は、工具とPCBとの間に直接的な電気接触を形成する必要がない場合、PCBの全面を覆って配置されてもよい。また、種々の保護層が組み合わされてもよい。例えば、硬質且つ耐擦過性のガラスからなる保護層が上側ビーム3の位置確認及び通信手段9に対して用いられ、柔軟、吸収性又は自己修復性材料からなる保護層が下側ビーム103の位置確認及び/又は通信手段109に用いられてもよい。クランプビームの保護層及び工具の保護層は、互いに異なっていてもよい。いくつかの保護層が互いに重なって配置されてもよい。例えば、セラミック材料層が、柔軟又は自己修復層によって被覆されてもよいし、又はその逆であってもよい。最後に、受動式保護層及び能動式保護層が組み合わされてもよい。
【0051】
加えて、位置確認及び/又は通信手段及び位置確認及び/又は通信要素は、受入空間内の他の位置及び工具上の他の位置に配置されてもよい。その結果、保護層も、他の位置に配置されることになる。本明細書では、固定装置は、機械、ここでは、プレスブレーキの一部を形成するクランプ装置として記載されているが、他の環境、例えば、工具が同様に係合部を有する受入空間内に配置される貯蔵領域内に適用されてもよい。
【0052】
最後に、本発明は、本明細書において、所謂、「新規標準(New Standard)」の工具及び該工具のために形作られた受入空間と関連して記載されているが、他の形式の工具、例えば、「アメリカ式(America Style)」、「欧州式」European Style)」、「RFA式(RFAStyle)」等と組合せて適用されてもよい。なお、これらの形式の工具は、各々、専用に形作られた受入空間を必要とする。加えて、本明細書において上側ビームとして示されるクランプ機構を有するビームは、下側工具をクランプするための下側ビームとして用いられてもよく、従って、本発明は、下側ビームにも同様に適用可能である。
【0053】
本発明の範囲は、それ故、以下の請求項によってのみ規定されることになる。