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特許7145166新規な7,9-ドデカジエニル-1-アセテート異性体組成物、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】新規な7,9-ドデカジエニル-1-アセテート異性体組成物、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/113 20060101AFI20220922BHJP
   C07C 67/14 20060101ALI20220922BHJP
   C07C 69/025 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
C07F9/113 CSP
C07C67/14
C07C69/025 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019549421
(86)(22)【出願日】2018-03-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 EP2018055956
(87)【国際公開番号】W WO2018162739
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2021-03-08
(31)【優先権主張番号】1751979
(32)【優先日】2017-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514058706
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ボルドー
(73)【特許権者】
【識別番号】511106259
【氏名又は名称】アンスティテュ ポリテクニーク ドゥ ボルドー
(73)【特許権者】
【識別番号】592236245
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LARECHERCHE SCIENTIFIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】マチュー・プショー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルジニー・リオタール
(72)【発明者】
【氏名】ロイク・ギヨノー
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・ゲレ
【審査官】▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0137447(US,A1)
【文献】特開平01-311037(JP,A)
【文献】特開平02-017142(JP,A)
【文献】特開平08-217781(JP,A)
【文献】Negishi et al.,"Highly Stereoselective syntheses of conjugated E,E- and E,Z-dienes, E-enynes and E-1,2,3-butatrienes via alkenylborane derivatives",Tetrahedron,1991年,Vol.47, No.3,pp.343-356
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C07C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1:
【化1】
[式中、
およびR’は、独立して1~6個の炭素原子を含むアルキル基、またはアリール基を示し、
は、1~8個の炭素原子を含む直鎖アルキル基であり、
、R、およびRは、独立して、H、およびCHから選択される。]
で示され、
(E,E)異性体を含まず、98%以上の(E,Z)異性体、0.1%以上の(Z,Z)異性体、および0.1%以上の(Z,E)異性体を含む、エノールホスフェート異性体の混合物M1の製造方法であって、
以下の工程:
a)検出可能な量の(E,E)異性体を含む式1のエノールホスフェート異性体の混合物を、加水分解性ジエノフィルと接触させること、
b)得られた媒質の塩基性加水分解、および形成された付加物の除去により、混合物M1を得ること、
を含み、
検出可能な量が、0.1%よりも多い量であり、
加水分解性ジエノフィルが、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、および、それらのエステルまたは無水物からなる群から選択される、製造方法。
【請求項2】
検出可能な量の(E,E)異性体を含むエノールホスフェート異性体の混合物が、(E)ヘキサ-2-エナールから得られたものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
式3:
【化2】
[式中、
は、1~8個の炭素原子を含む直鎖アルキル基であり、
、R、およびRは、H、およびCHから独立して選択され、
は、直鎖または分岐鎖のC-Cアルキル基を表す。]
で示され、
異性体純度が、(E,Z)異性体98%以上であり、0.1%以上の(Z,E)および(Z,Z)異性体を含み、(E,E)異性体が1%未満であることを特徴とする、化合物の異性体混合物M2の製造方法であって、
請求項1または2に記載された工程、および、さらに、以下の工程:
c)工程b)で得られた、(E,E)異性体を含まず、98%以上の(E,Z)異性体、0.1%以上の(Z,Z)異性体、および0.1%以上の(Z,E)異性体を含む式1のエノールホスフェート異性体の混合物M1を、XMg-R-OMgXの化合物(式中、各Xは、独立してハロゲン原子を表し、Rは、直鎖または分岐鎖のC-Cアルキル基を表す)と接触させた後、得られた混合物を、ハロゲン化アセチル、無水酢酸、および、酢酸エチルなどの酢酸アルキルからなる群から選択されるアシル化剤と接触させること、
を含む、製造方法。
【請求項4】
式1のエノールホスフェートが、式2:
【化3】
[式中、RおよびR’は、請求項1における定義と同じである。]
の化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
工程a)の反応温度が60℃以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
反応温度が70℃である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
加水分解性ジエノフィルが、無水マレイン酸である、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
工程a)で使用される反応溶媒が、大気圧で70℃以上の沸点を有する、アルカン、芳香族、および極性溶媒からなる群から選択される、有機溶媒である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
有機溶媒が、メチルシクロヘキサンである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
異性体純度が、(E,Z)異性体98%以上であり、0.1%以上の(Z,E)および(Z,Z)異性体を含み、そして、(E,E)異性体を含まないことを特徴とする、請求項1において定義された式1の、(E,Z)、(Z,E)、および(Z,Z)エノールホスフェート異性体の混合物M1。
【請求項11】
式1のエノールホスフェートが、ジエチル-ヘキサ-1,3-ジエン-1-イルホスフェートである、請求項10に記載の混合物M1。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の目的
本発明は、その7E,9Z体が、鱗翅目のブドウ害虫であるヨーロッパブドウガ、ロベシア ボトラナ(Lobesia Botrana)の性フェロモンである、7,9-ドデカジエニル-1-アセテート異性体の混合物に関する。この組成物は、異性体純度が、(7E,9Z)異性体において98%以上であり、(7Z,9E)および(7Z,9Z)異性体の少なくとも1つを0.1%含み、(7E,9E)異性体が1%未満であることを特徴としている。ブドウガのフェロモンが非常に豊富なこの組成物は、新規な2工程のプロセスにより収率55%以上で得られる。
【背景技術】
【0002】
公衆衛生と土壌農業利用性の管理の理由から、作物を害虫抵抗性に処理する技術は、より的を絞った、環境に優しい活動態様に向かって進化している。この目的のために、昆虫の行動を変える性フェロモンの使用は、それらのフェロモンが各種の害虫に独特のもので、非常に低用量で効果的であるので、さまざまな戦略(例えば、捕獲や性的混乱)において、有益である。
【0003】
しかしながら、これらの技術の開発は、活性な分子を得るコストが妨げとなる。実際、これらの分子は、しばしば多くの可能性のある異性体を有しており、選択的な合成技術は、一般的に費用がかかる。
【0004】
さらに、ブドウガなどの昆虫を退治するためにフェロモンを使用する原理は、具体的には、例えば、多数の散布体(例えば、BASFのRAKシステム、または信越化学のIsonetシステムを参照)などの手段によって、ブドウに散布されたフェロモンの雲の中で、その種の雌が発するシグナルを埋め込むことからなる。これらの散布体の有効性を保証するのは、ヘクタールあたりの活性異性体の用量である。しかしながら、現在、これらの散布体に充填されているのは、活性異性体を75重量%しか含まない異性体混合物である。これは、不要な出費を招き、不要な量の化学生成物が栽培地に広がることを要する。したがって、この観点から、適切な異性体に可能な限り濃縮された異性体混合物を製造できることが重要である。
【0005】
最後に、ロベシアのフェロモンには通常存在しない異性体を多く含む混合物を使用することは、問題となり得る。実際、これらの他の異性体は、フェロモンをベースとした生成物の選択性の議論を破壊する、他の昆虫のフェロモンである可能性がある。
【発明の概要】
【0006】
ブドウガの性フェロモンの主成分は、(E,Z)-7,9-ドデカジエニル-1-アセテートである。この分子は2つの二重結合を持っているため、以下の表に示すように、4つの可能な幾何異性体を有する。
【0007】
表1 7,9-ドデカジエニル-1-アセテートの幾何異性体
【表1】
【0008】
このフェロモンの合成によってもたらされる経済的問題に効果的に対応するには、以下の項目が検討されるべきである。
【0009】
・(E,Z)異性体のみ活性がある。したがって、それを優先的に製造できることが重要である。すべての異性体の中で、熱力学的に最も安定な異性体は(E,E)異性体である。
・(E,Z)以外の3つの異性体は、フェロモンの魅了性を妨害しないことが知られていることに留意することが重要である(Ideses et al.Journal of Chemical Ecology、Vol.8、No.1、1982、p.195)。
・(E,E)異性体は、最も安定な異性体であり、すべての公知の合成法において、主要な不活性の不純物である。
【0010】
同様に、農業害虫の他のフェロモンの一定数は、共役ジエンの単位を含んでおり、したがって、本発明の方法はそれらに適用され得る。具体的には、以下の分子を挙げることができる:
(E,Z)-2,4-デカジエナール、(Z,E)-3,5-デカジエニルアセテート、エチル(E,Z)-2,4-デカジエノエート、メチル(E,Z)-2,4-デカジエノエート、(E,Z)-3,5-ドデカジエニルアセテート、(E,Z)-4,6,10-トリメチル-2,4-ドデカジエン-7-オン、(E,Z)-5,7-ドデカジエン-1-オール、(E,Z)-5,7-ドデカジエナール、(E,Z)-5,7-ドデカジエニルアセテート、(E,Z)-7,9-ドデカジエン-1-オール、(E,Z)-7,9-ドデカジエナール、(E,Z)-7,9-ドデカジエニルアセテート、(E,Z)-8,10-ドデカジエン-1-オール、(E,Z)-8,10-ドデカジエナール、(E,Z)-8,10-ドデカジエニルアセテート、(Z,E)-3,5-ドデカジエニルアセテート、(Z,E)-3,7,11-トリメチル-2,4,10-ドデカトリエン、(Z,E)-3,7,11-トリメチルドデカ-2,4-ジエン、(Z,E)-5,7-ドデカジエン-1-オール、(Z,E)-5,7-ドデカジエナール、(Z,E)-5,7-ドデカジエニルアセテート、(Z,E)-5,7-ドデカジエニルプロピオナート、(Z,E)-7,9-ドデカジエン-1-オール、(Z,E)-7,9-ドデカジエニルアセテート、(Z,E)-8,10-ドデカジエン-1-オール、(Z,E)-8,10-ドデカジエナール、(Z,E)-8,10-ドデカジエニルアセテート、(Z,Z)-5,7-ドデカジエナール、(Z,Z)-5,7-ドデカジエニルアセテート、(Z,Z)-7,9-ドデカジエン-1-オール、(Z,Z)-7,9-ドデカジエニルアセテート、(Z,Z)-8,10-ドデカジエン-1-オール、(Z,Z)-8,10-ドデカジエニルアセテート、(E,Z)-10,12-テトラデカジエニルアセテート、(E,Z)-3,5-テトラデカジエン酸、(E,Z)-3,5-テトラデカジエニルアセテート、(E,Z)-8,10-テトラデカジエナール、(E,Z)-8,10-テトラデカジエニルアセテート、(E,Z)-9,11-テトラデカジエニルアセテート、(Z,E)-10,12-テトラデカジエニルアセテート、(Z,E)-3,5-テトラデカジエニルアセテート、(Z,E)-8,10-テトラデカジエン-1-オール、(Z,E)-8,10-テトラデカジエニルアセテート、(Z,E)-9,11-テトラデカジエン-1-オール、(Z,E)-9,11-テトラデカジエナール、(Z,E)-9,11-テトラデカジエニルアセテート、(Z,Z)-10,12-テトラデカジエン-1-オール、(Z,Z)-10,12-テトラデカジエニルアセテート、(Z,Z)-3,5-テトラデカジエン酸、(Z,Z)-8,10-テトラデカジエナール、(Z,Z)-9,11-テトラデカジエン-1-オール、(Z,Z)-9,11-テトラデカジエナール、(Z,Z)-9,11-テトラデカジエニルアセテート、(E,Z)-8,10-ペンタデカジエン-1-オール、(E,Z)-8,10-ペンタデカジエニルアセテート、(E,Z)-9,11-ペンタデカジエナール、(Z,E)-8,10-ペンタデカジエニルアセテート、(Z,Z)-8,10-ペンタデカジエニルアセテート、(Z,Z)-9,11-ペンタデカジエナール、(E,Z)-10,12-ヘキサデカジエン-1-オール、(E,Z)-10,12-ヘキサデカジエナール、(E,Z)-10,12-ヘキサデカジエニルアセテート、(E,Z)-11,13-ヘキサデカジエン-1-オール、(E,Z)-11,13-ヘキサデカジエナール、(E,Z)-11,13-ヘキサデカジエニルアセテート、(E,Z)-9,11-ヘキサデカジエナール、(E,Z)-9,11-ヘキサデカジエニルアセテート、(Z,E)-10,12-ヘキサデカジエナール、(Z,E)-10,12-ヘキサデカジエニルアセテート、(Z,Z)-8,10-ヘプタデカジエン-1-オール。
【0011】
特許出願WO2016001383は、一般式2:
【化1】
[式中、RおよびR’は、独立してアルキル基またはアリール基を示す。]
のジアルキルまたはジアリール-ヘキサ-1,3-ジエン-1-イルホスフェートのような中間体化合物を使用する、一般式:
【化2】
のジエン化合物の、新規な2工程の合成経路を記載している。
【0012】
それによると、(E,Z)-7,9-ドデカジエニル-1-アセテートの合成の場合、この2工程合成により、通常70%~80%の主成分の(E,Z)異性体、通常20%~30%の割合の第2の成分の(E,E)異性体、および、1%未満の割合の他の2つの異性体により構成される、最終異性体混合物を得ることができる。
【0013】
本発明の目的の1つは、(E,E)異性体を含まない化合物2の異性体混合物M1を第1工程で簡単に製造することを可能にする合成法である。次いで、第2工程で、(E,Z)異性体の含有量が非常に多く、他の異性体の含有量が非常に少ない、7,9-ドデカジエニル-1-アセテート異性体の組成物M2を得ることができる。通常、M2は、異性体純度が、(E,Z)異性体で98%以上であり、0.1%以上の(Z,E)および(Z,Z)異性体、および1%未満の(E,E)異性体を含む。
【発明を実施するための形態】
【0014】
最先端技術
異性体純度の観点から、7,9-ドデカジエニル-1-アセテートを得るために先行技術で提案された解決手段を調べると、提案された解決手段の2つの主要な分類が明らかになる。
【0015】
最初の分類は、高い立体選択性(95%より高い)を達成することに主に焦点を当てた合成経路のグループである。一般的に、(E,Z)-7,9-ドデカジエニル-1-アセテートのフェロモンは、第2の異性体が(E,E)異性体となるため、可能な限り高い異性体純度を達成するために、最終ほぼ純粋な(E,Z)中間体を生成することを含む、多数の工程を経て得られる。これらのタイプの合成では、二次的な(Z,Z)および(Z,E)異性体は存在しない。
【0016】
US3954818では、その著者は、収率が不明であるが、(E,Z)-7,9-ドデカジエニル-1-アセテートのフェロモンの純度が99%近い9工程を超える合成について記載している。しかしながら、この方法の重要な中間体は、7-E-ドデセン-9-イノールであることから、フェロモンとして(E,Z)および(E,E)異性体の混合物をそのまま得ている。さらに、この方法は、使用される試薬(リチウムワイヤ、ブチルリチウム、ジシアミルボランなど)のために、工業化を想定するのが難しく、工程数が多いため経済的観点からは有利ではないことに注意する必要がある。
【0017】
US3845108Aでは、その方法は、4番目の工程からの全体の収率は30%で、最終の純度は70%でしかない8つの合成工程で構成される。この方法は、イミノホスホネート中間体と、工業的に使用できない試薬(酸化水銀)の使用に、特徴がある。最終化合物のクロマトグラフィー分析によると、7,9-ドデカジエニル-1-アセテートの(E,Z)および(E,E)異性体の割合は9:1である。
【0018】
FR2341546A1では、9工程の合成が見られ、最後から2番目の工程で、-40℃での再結晶後に、異性体的に純粋な(E,Z)7,9-ドデカジエノールを得ている。最終工程の後、(E,Z)-7,9-ドデカジエニル-1-アセテートが92%の割合で得られ、異性体(E,E)-7,9-ドデカジエニル-1-アセテートが8%の割合で得られる(気相クロマトグラフィー分析)。
【0019】
合成方法の2つ目の分類は、異性体の純度を目的としておらず、異性体の純度のパーセンテージは、通常かなり低い。
【0020】
EP0241335では、その著者は、全体の収率が約10%である、5つの合成工程の方法を記載している。9位の二重結合の立体化学は、プロピル-トリフェニルホスホニウムイリドが関与するウィッティヒ反応の結果であり、この二重結合のシス/トランス比が75/25になることから、フェロモンの異性体純度は少なくとも75%である。したがって、この合成による他の異性体は、(E,E)である。この費用のかかる方法は、圧力下で水素化する装置を必要とする。さらに、ウィッティヒ反応は、除去する費用が高いトリフェニルホスフィンオキシドを大量に生成する。
【0021】
特許US4912253は、マグネシウム化合物(クロロペンタノール誘導体)と、(E,Z)-2,4-ヘプタジエニルアセテートとの銅触媒カップリングによる、ヨーロッパブドウガフェロモンの合成を特許請求している。しかしながら、アセテート誘導体の製造は難しく、この到達経路は、まとまっているものの、依然として費用がかかる。(E,Z)-7,9-ドデカジエニル-1-アセテート異性体は、他の異性体の割合についての記載がないが、92%の純度で得られている。しかしながら、その著者は、銅/リチウム混合触媒の存在下での触媒カップリング反応中に、Z結合の部分的異性化が発生し、そのため、(E,E)異性体の存在をもたらすことを説明している。
【0022】
US7932410では、共役したジエンを長い脂肪鎖に形成する一般的な方法が記載されており、銅錯体をベースとした触媒を介してグリニャール試薬にカップリングする、例えば、1-ペンテン-3-イルイソブチラートなどのα位に二重結合を有するエステルの使用に特徴がある。この方法は、この合成に必要な1,3-ヘプタ-ジエン-3-イルイソブチラートを工業的に入手するのが非常に難しいことから、(E,Z)-7,9-ドデカジエニル-1-アセテートの合成には、工業的に適用できない。さらに、(E,Z)-7,9-ドデカジエニル-1-アセテートは、この方法による合成が記載されておらず、異性体純度が示されていない。その他の合成は、非常に平均的な異性体純度をもたらしている。
【0023】
Alexakisらによる、Tetrahedron、vol.45、no.2、p.389、1989では、その著者は、シリコン誘導体の存在下でエポキシド官能基の反応性を活用する8工程の方法を記載している。立体異性体の選択性は、非常に高く、(E,Z)-7,9-ドデカジエニル-1-アセテート異性体において、約96.5%である。その著者は、7位の二重結合をトランスのみにすることができることを示しており、これは、この合成経路では(E,Z)と(E,E)異性体の混合物しか得られないことを示唆する。
【0024】
最後に、精製方法は、特に(E,E)異性体の割合を減らすことにより、得られた混合物の(E,Z)異性体を豊富にするために、一般的に使用される。そこでは、尿素による精製がしばしば用いられるが、実質的に純粋な(E,Z)体を生成していない。
【0025】
(E,E)異性体を除去する別の技術が、Cassaniらによる、Tet.Let.80、1980、p.3497に、説明はないが、提案されており、それは、テトラシアノエチレン中で異性体混合物を反応させた後、クロマトグラフィーカラムで分離することで構成される。このカラム分離が必要なため、この方法は工業化に適していない。
【0026】
最後に、最短の合成経路は、WO2016001383に記載されたものであり、そして、出願人は、7,9-ドデカジエニルアセテートの合成方法、特にWO2016001383に記載されている方法において、異性体純度が(E,Z)異性体で98%以上であり、M2が0.1%以上の(Z,E)および(Z,Z)異性体を含み、(E,E)異性体が1%未満であることを特徴とする、7,9-ドデカジエニルアセテート異性体の独自の混合物M2を生成するといえるほどに、選択性を付与する手段を発見した。
【0027】
本発明による新規な方法は、式1のエノールホスフェートを加水分解性ジエノフィルと反応させることで構成され、驚くべきことに、(E,E)異性体のみが反応して、塩基による加水分解後に水溶性になって非常に容易に取り除くことができる付加物を与えることを見出したことによる。重要な中間体の精製によって、異性体比を保持しながらこの中間体を反応させることが可能となる。
【0028】
加水分解性ジエノフィルとは、出願人によると、例えばpH≧8で水溶性の塩に容易に変換できる、ディールス・アルダー反応の生成物などのジエノフィル(当業者に知られている概念)を意味する。
【0029】
本発明の意味において、および当業者に周知のように、ジエノフィルは、ディールス・アルダー反応の意味において、誘起またはメソメリー効果により前記二重結合から電子を引き抜く基により置換された二重結合を有する、分子である。
【0030】
誘起またはメソメリー効果により前記二重結合から電子を引き抜く基としては、カルボキシ、無水エステル、シアノ、ニトロ、およびスルホネート基が挙げられる。
【0031】
ディールス・アルダー反応は、アルケン(ジエノフィル)を共役ジエンに付加させてシクロヘキセン誘導体を形成する、有機化学で用いられる化学反応である。ディールス・アルダー反応では、ジエンの4つのπ電子が、2つのπ電子を含むアルケン二重結合と反応する。このため、この反応は付加環化と呼ばれる。アルダールールでは、これらの付加環化の実施を容易にする条件を規定することができ、反応は、電子が豊富なジエンと電子が乏しいジエノフィルとの間でより容易に行われる。言い換えれば、よいジエンは電子供与体である原子または原子団によって置換され、よいジエノフィルは電子受容体である原子または原子団によって置換される。
【0032】
前記基が、誘起またはメソメリー効果により前記二重結合から電子を奪い、塩基性条件下で水の作用により水溶性の塩に変換される可能性もある場合、ジエノフィルは加水分解性ジエノフィルと呼ばれる。
【0033】
加水分解性ジエノフィルとしては、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、およびそれらのエステルまたは無水物などの、それらの加水分解性誘導体が挙げられる。
【0034】
エステルとしては、メチル、エチル、n-プロピル、またはn-ブチルの、アクリレートまたはメタクリレート、マレイン酸ジメチルまたはマレイン酸ジエチルなどのマレイン酸エステルが挙げられる。
【0035】
無水物としては、無水マレイン酸、およびその2位および3位が置換された誘導体が挙げられる。
【0036】
この新規な方法の別の利点は、最終工程を実施したときに、エノールホスフェートと加水分解性ジエノフィルとの反応から得られる異性体の比率が保持されることである。この結果、本発明による(E,Z)-7,9-ドデカジエニルアセテートの合成方法は、前述の方法、特にWO2016001383に記載された方法よりも、はるかに生産性が高い。実際、前述の発明では、エノールホスフェートは、グリニャール試薬の一部を無駄に消費する20~25%の望ましくない(E,E)異性体を含んでいた。したがって、本発明では、第2工程において、20~25%生産性が高くなる。
【0037】
本方法の説明
本発明の第1の目的は、式1:
【化3】
[式中、
およびR’は、独立してアルキル基またはアリール基を示し、
は、1~8個の炭素原子を含む直鎖アルキル基であり、
、R、およびRは、独立して、H、およびCHから選択される。]
で示され、
(E,E)異性体を含まず、98%以上の(E,Z)異性体、0.1%以上の(Z,Z)異性体、および0.1%以上の(Z,E)異性体を含む、エノールホスフェート異性体の混合物M1の製造方法であって、
以下の工程:
a)検出可能な量の(E,E)異性体を含む式1のエノールホスフェート異性体の混合物を、好ましくは有機溶媒S中で、温度Tで、加水分解性ジエノフィルDと接触させること、
b)得られた媒質の塩基性加水分解、および形成された付加物の除去、
を含む、製造方法である。
【0038】
特定の一実施形態では、RおよびRは、独立して、直鎖または分岐鎖のC1-C6アルキルから選択されるアルキル基、および、フェニル、ベンジル、メシチル、またはトリルから選択されるアリール基を示す。直鎖または分岐鎖のC1-C6アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、またはヘキシルから選択され得る。
【0039】
検出可能な量の(E,E)異性体を含むエノールホスフェート異性体混合物は、出願WO2016001383に記載されているように、特に、(E)ヘキサ-2-エナールから得ることができる。
【0040】
本発明において、「検出可能な量」との表現は、不純物を無視できるか否かを考慮する規制薬局方基準を構成する、0.10重量%よりも多い、またはさらに0.2重量%よりも多い量を意味する。結果として、検出不能な量は、0.2重量%未満、またはさらに0.1重量%未満の量に相当する。
【0041】
本発明は、また、式3:
【化4】
[式中、
は、1~8個の炭素原子を含む直鎖アルキル基であり、
、R、およびRは、H、およびCHから独立して選択され、
は、直鎖または分岐鎖のC-Cアルキル基を表す。]
で示され、
異性体純度が、(E,Z)異性体98%以上であり、0.1%以上の(Z,E)および(Z,Z)異性体を含み、(E,E)異性体が1%未満であることを特徴とする、化合物の異性体の混合物M2の製造方法であって、
請求項1または2に記載された工程、および、さらに、以下の工程:
c)工程b)で得られた、(E,E)異性体を含まず、98%以上の(E,Z)異性体、0.1%以上の(Z,Z)異性体、および0.1%以上の(Z,E)異性体を含む式1のエノールホスフェート異性体の混合物M1を、式:XMg-R-OMgXの化合物(式中、各Xは、独立してハロゲン原子を表し、Rは、直鎖または分岐鎖のC-Cアルキル基を表す)と接触させた後、得られた混合物をアシル化剤と接触させること、
を含む、製造方法に関する。
【0042】
本発明による方法は、また、以下の工程:
c)工程b)で得られた、(E,E)異性体を含まず、98%以上の(E,Z)異性体、0.1%以上の(Z,Z)異性体、および0.1%以上の(Z,E)異性体を含む式1のエノールホスフェート異性体の混合物M1を、式:XMg-R-OMgXの化合物(式中、各Xは、独立してハロゲン原子、好ましくはBrまたはCl、特にClを表し、Rは、任意の基であるが、好ましくは、直鎖または分岐鎖のC1-C6アルキル基、より好ましくは、直鎖のC1-C6アルキル基、特にヘキシル基)と接触させた後、得られた混合物をアシル化剤と接触させること、
を含んでもよい。
この工程c)は、98%以上の(E,Z)異性体、0.1%以上の(Z,Z)異性体、および0.1%以上の(Z,E)異性体を含む、式3の化合物の異性体の混合物M2を生成する。
【化5】
[R、R、R、R、およびRは、もっと先で説明された意味を有する。]
【0043】
好ましくは、式1の化合物は式2:
【化6】
[式中、RおよびR’は、独立してアルキル基またはアリール基を示す。]
の化合物である。
このアルキル基は、C1-C6の直鎖または分岐鎖のアルキルから選択されてもよく、このアリール基は、フェニル、ベンジル、メシチル、またはトリルから選択されてもよい。この直鎖または分岐鎖のC1-C6アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、またはヘキシルから選択されてもよい。
【0044】
好ましくは、温度Tは60℃以上、より好ましくは、70℃以上であり、特に、70℃である。
【0045】
好ましくは、加水分解性ジエノフィルDは、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、または、それらのエステルまたは無水物などのそれらの加水分解性誘導体から選択される。特に、無水マレイン酸である。好ましくは、加水分解性ジエノフィルDは、親水性である。
【0046】
本発明に係る方法の工程a)において添加される加水分解性ジエノフィルDの当量数Nは、最もよい収率で反応が生じるのに適切な量であり得る。好ましくは、Nは、0.25~10の範囲、特に0.5~2の範囲である。
【0047】
好ましくは、有機溶媒Sは、アルカン、芳香族、または極性溶媒などの、大気圧で70℃以上の沸点を有する有機溶媒である。好ましくは、Sは、メチルシクロヘキサンである。
【0048】
工程b)は、工程a)から得られた溶液に、好ましくは冷却後に、塩基性水溶液を加え、アルカン、芳香族溶媒、またはそれらの混合物などの非極性溶媒で抽出することによって、有機生成物を回収することにより、実施することができる。
【0049】
好ましくは、アシル化剤は、ハロゲン化アセチル、無水酢酸、および、酢酸エチルなどの酢酸アルキルからなる群から選択される。
【0050】
アセチル化は、アセチルの官能基を有機化合物に導入する反応である。これは、アシル化の特別な場合である。このように、本方法により、正確にはアセチル基によって活性な水素原子が置換されることにより、アセチル(-CO-CH3)が化合物に導入される。ヒドロキシル基の水素のアセチル化により、エステルアセテートとなる、アセトキシ基:-O-CO-CH3が形成される。
【0051】
特定の一実施形態では、本発明の方法は、第1の工程において、WO2016001383に記載された、式2のエノールホスフェートの場合に以下に示されるプロトコルに従い、異性体の混合物の形態で、式1のエノールホスフェート化合物を得ることを含む。
【化7】
【0052】
次いで、得られた混合物をpH>8の水で洗浄して、塩、過剰のクロロホスフェート、およびNMP(N-メチルピロリドン)を除去する。
【0053】
次に、アルカン、芳香族、または極性溶媒など、沸点が70℃以上の有機溶媒Sを加える。これらの溶媒としては、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、鉱油、トルエン、キシレン、ジメチルベンゼン、メチルTHF、ジメチルホルムアミド、およびジメチルスルホキシドが挙げられる。次に、当量数N(Nは0.25~10の範囲、特に0.5~2の範囲である)の、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、または、エステルまたは無水物などのそれらの加水分解性誘導体、特には無水マレイン酸、などの加水分解性ジエノフィルDを加える。好ましくは、加水分解性ジエノフィルDは、無水マレイン酸である。その後、(E,E)異性体がなくなるまで、60℃以上の温度Tに混合物を加熱する。反応は、当業者に知られているクロマトグラフィー技術により監視される。反応時間は、ジエノフィルの当量数、その特性、および反応に選択した温度に依存する。冷却後、塩基性溶液を加え、アルカンまたは芳香族溶媒などの非極性溶媒で抽出することにより、有機生成物を回収する。この精製は、式2のエノールホスフェートの場合、以下の図で示される。
【0054】
【化8】
【0055】
抽出された画分を収集し、部分真空下で濃縮する。そして、異性体純度が、(E,Z)異性体98%以上であり、M1が、0.1%以上の(Z,E)異性体、および0.1%以上の(Z,Z)異性体を含むことを特徴とする、エノールホスフェート1の(E,Z)、(Z,E)および(Z,Z)異性体の混合物M1となる。このジエチル-ヘキサ-1,3-ジエン-1-イルホスフェート異性体の混合物M1は、本発明の別の対象となる。
【0056】
したがって、本発明の第2の対象は、(E,E)異性体を含まず、98%以上の(E,Z)異性体、0.1%以上の(Z,Z)異性体、および0.1%以上の(Z,E)異性体を含む、式1のエノールホスフェート異性体の混合物M1である。
【0057】
「(E,E)異性体を含まない」混合物とは、(E,E)異性体が、異なる異性体の識別を可能にする当業者に知られた標準分析技術によって検出できない混合物、を意味する。例えば、分析技術は、核磁気共鳴(NMR)、またはガスクロマトグラフィー(GC)、好ましくはGC、であってよい。
【0058】
一般的に、本発明において、異なる異性体の割合および異性体の純度は、適切な定量技術、特に、NMR、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、またはGC、特にGCによって、当業者により測定され得る。
【0059】
本発明に係る方法は、次に、WO2016001383に記載のプロトコルの工程2に従って、この異性体混合物を変換して、揮発性化合物の簡単なエバポレーションによって、異性体純度が、(E,Z)異性体98%以上であり、M2が、0.1%以上の(Z,E)および(Z,Z)異性体を含み、(E,E)異性体が1%未満であることを特徴とする、式3の化合物、特に、7,9-ドデカジエニル-1-アセテートの異性体混合物M2を得ることからなる工程を含んでもよい。混合物M2は、本発明の別の対象である。
【0060】
【化9】
【0061】
本発明の第3の対象は、98%以上の(E,Z)異性体、0.1%以上の(Z,Z)異性体、および0.1%以上の(Z,E)異性体を含む、式3の化合物の異性体の混合物M2(Rは、以下で説明される)、である
【0062】
混合物M2を製造する方法を提供することも本発明の目的であり、(E,E)異性体を含まず、98%以上の(E,Z)異性体、0.1%以上の(Z,Z)異性体、および0.1%以上の(Z,E)を含む、式1のエノールホスフェート異性体の混合物M1を、式:XMg-R-OMgXの化合物(各Xは、独立してハロゲン原子、好ましくはBrまたはCl、特にClを表し、Rは、直鎖または分岐鎖のC1-C6アルキル基、好ましくは、直鎖のC1-C6アルキル基、特にヘキシル)と接触させた後、得られた混合物をアシル化剤と接触させること、を含む。
【0063】
好ましくは、アシル化剤は、ハロゲン化アセチル、無水酢酸、および、酢酸エチルなどの酢酸アルキルからなる群から選択される。
【実施例
【0064】
原料および溶媒は、Sigma Aldrichから商業的に入手できる原料である。
エノールホスフェート(ジエチル-ヘキサ-1,3-ジエニルホスフェート)は、WO2016001383に記載された方法を適用することにより、合成される。
グリニャール試薬は、6-クロロ-ヘキサン-1-オール、n-ブチルマグネシウムクロリド、およびマグネシウムから調製される。
【0065】
分析方法は、FID検出器を備えたHP5890シリーズII装置での、ガスクロマトグラフィー(GC)分析で構成される。クロマトグラフィーカラムは、Innowax 30m、0.25mm、0.25μmカラムであり、キャリアガスはヘリウムであり、圧力は11psiである。
【0066】
加熱は、次の温度プロファイルにしたがう:T0=150℃、初期時間10分。勾配20°/分、最終温度:200℃。継続時間7分。
インジェクター250℃、検出器300℃。
注入量は1μlである。サンプルの濃度は、酢酸エチル(ETAC)中、4g/Lである。
【0067】
反応は、温度計および窒素注入口を備え、機械的攪拌(400rpm)を有する、20Lの反応器で実施される。その系は、必要に応じてクライオスタットで冷却される。
【0068】
例1(本発明ではない):尿素での処理による7,9-ドデカジエニルアセテート異性体の混合物の異性体純度の向上
20Lのガラス反応器に、2.94kg(8.92当量)の尿素、および11.8L(5.9体積量)のメタノールを入れ、撹拌を開始し、固体が完全に溶解するまで温度を55±5℃に維持する。
【0069】
反応器の内部温度が40℃未満にならないように、2065g(1当量)の7,9-ドデカンジエニルアセテート異性体の混合物を加える。温度は、1時間、40±5℃を維持し、その後、3時間で20±5℃に低下させる。この冷却中に、結晶化が開始する。次いで、反応混合物を20±5℃で12時間以上撹拌し、その後、5℃の温度になるまで、温度を1時間あたり5℃ずつ下げ、撹拌を続けながら2.5時間維持する。
【0070】
次いで、反応混合物の真空ろ過により固体を除去する。その後、生成物をメタノール(500ml)で洗浄し、真空ろ過により濃縮し、次いで撹拌しながら、水(2体積量)とMTBE(1.15体積量)の混合物で洗浄する。相分離後、水相を除去し、有機相を濃縮する。1334gの7,9-ドデカジエニルアセテート異性体の新規な混合物が、65%の収率で得られる。
【0071】
フェロモン異性体混合物2065gの、濃縮フェロモン1334gを生成させる尿素への最初の包接の後、尿素への2回目の包接が、1L反応器で、100gの濃縮バッチで(反応剤の割合を維持して上記したものと同じプロトコルにより)、実施される。3回目の包接は、同じプロトコルを用いて、62.6gの二回濃縮フェロモン異性体混合物で、実施される。
【0072】
尿素の包接を、1、2、または3回行った後の生成物の異性体純度は、ガスクロマトグラフィーによって同定され、その結果を下記の表に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
このような尿素による処理は時間がかかり、煩雑であり、尿素で複数回続けて精製を行っても、非常に高い純度には到達できないことが示される。このように、上述したプロトコルにしたがう尿素による3回連続の処理の後は、約5%の(E,E)異性体が限界であり、さらに、フェロモンの一部が分解する。
【0075】
例2(本発明ではない):加水分解性ジエノフィルの直接の作用による7,9-ドデカジエニルアセテート異性体の混合物の異性体純度の向上
【0076】
250mLの4つ口フラスコに、7,9-ドデカンジエニルアセテート異性体の混合物10g(44.6mmol)(異性体純度は下記の表に記載)、メチルシクロヘキサン40ml、および無水マレイン酸(加水分解性ジエノフィルD)4.37g(44.6mmol、1.0当量)を入れる。
【0077】
反応混合物をT=70℃で3時間加熱し、その後、30℃に冷却し、飽和NaHCO(1.14M、50ml)を加える。
【0078】
30分撹拌した後、水相をヘプタン(2×20ml)で抽出し、飽和NaCl水溶液(5.92M、20ml)、および水(20mL)で洗浄し、真空下で濃縮する。
【0079】
異性体組成が下記表となった精製フェロモン混合物7.5gが得られる。
【0080】
【表3】
【0081】
この本発明ではない例は、2つの事実を示している。
1)このディールス・アルダー反応では、(E,E)異性体を完全には除去できない。
2)この工程の質量収率は75%であり、これは、上記の高額な工程(エノールホスフェートとマグネシウム化合物のカップリング反応)が、実際の生産性において25%低下することを意味する。
【0082】
実施例3:混合物M1を生成する本発明に係る方法によるジエチル-ヘキサ-1,3-ジエン-1-イルホスフェート異性体の混合物の異性体純度の向上
ジエチル-ヘキサ-1,3-ジエニルホスフェート異性体の混合物は、特許WO2016001383に記載された方法に従い、トランス-ヘキセン-1-アールから得られる。
【0083】
20Lの反応器に、ジエチル-ヘキサ-1,3-ジエニルホスフェートの粗混合物2085g(8.90mol)(異性体の純度を下記の表に示す)、メチルシクロヘキサン8.34L、および、無水マレイン酸523.0g(5.33モル、すなわち0.6当量)を入れる。
【0084】
反応混合物をT=70℃で3時間加熱し、その後、10℃に冷却し、水酸化ナトリウム水溶液(3M、4.17L)を加える。
【0085】
30分撹拌した後、水相をヘプタン(2×3.13L)で抽出し、飽和NaCl水溶液(10%w/w、1×2.09L)で洗浄し、真空下で濃縮する。
【0086】
異性体組成が下記表となったジエチル-ヘキサ-1,3-ジエニルホスフェートの混合物M1が、1566gで得られる。
【0087】
【表4】
【0088】
実施例4:ジエチル-ヘキサ-1,3-ジエン-1-イルホスフェート異性体の精製混合物からのフェロモン混合物M2の製造
実施例3のエノールホスフェート混合物M1から、WO2016001383A1に記載された方法を適用して、フェロモン混合物M2を得る。
【0089】
窒素下で四つ口反応器に、67.1gの6-クロロ-ヘキサン-1-オール(491.7mmol)、474mlのTHF、およびマグネシウム(983.5mmol)から調製したグリニャールアルコラート試薬、を入れる。
【0090】
次に、混合物を5℃に冷却し、次いで、鉄(III)アセチルアセトナート触媒を加える(158mg、0.1%mol)。この黒い混合物に、温度を5℃未満に保ちながら、20分間で、97.5gの前記混合物M1(416.3mmol)を加える。
25℃で2時間撹拌した後、混合物を-5℃に冷却し、85mLの無水酢酸を20分で滴下して加える。室温で1時間撹拌した後、反応混合物をHCl水溶液(1N、680ml)で酸性にする。水相をメチルtert-ブチルエーテル(3×120ml)で3回抽出する。3回の有機相を合わせ、水で洗浄し、真空下で濃縮する。
その後、7,9-ドデカンジエニルアセテート混合物M2が得られる(m=65.7g)。精製エノールホスフェートの最初の全体収率は70%(質量純度=95%、異性体純度=98%)である。
【表5】