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特許7145207アセチレン水素化触媒を強化するためのリンイリドの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】アセチレン水素化触媒を強化するためのリンイリドの使用
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/02 20060101AFI20220922BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20220922BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20220922BHJP
   C07C 5/09 20060101ALI20220922BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20220922BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220922BHJP
【FI】
B01J31/02 102Z
B01J37/02 101D
B01J37/16
C07C5/09
C07C11/04
C07B61/00 300
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2020514600
(86)(22)【出願日】2018-09-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 US2018050556
(87)【国際公開番号】W WO2019055451
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-09-08
(31)【優先権主張番号】15/702,413
(32)【優先日】2017-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502303175
【氏名又は名称】シェブロン フィリップス ケミカル カンパニー エルピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スネル、ライアン ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ツクシュアン
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-519582(JP,A)
【文献】国際公開第2016/077445(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0102819(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07C 5/09
C07C 11/04
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
パラジウムおよび無機担持体を含む担持水素化触媒であって、
高度不飽和炭化水素を不飽和炭化水素に選択的に水素化することができる、担持水素化触媒と、
ドーパントであって、双性イオン、イリド、ベタイン、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分を含む、ドーパントと、を含む、組成物。
【請求項2】
前記ドーパントが、イリドから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ドーパントが、リンイリドから選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ドーパントが、カルボニル基をさらに含むリンイリドから選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記イリドが、安定化されたものとして分類され、かつR -P=CHRの形態であり、Rが、COX基またはCN基を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記イリドが、1-(トリフェニルホスホラニリデン)-2-プロパノン(TPP-2P)、2-(トリフェニルホスホランリデン)プロピオンアルデヒド、(トリフェニルホスホラニリデン)アセトニトリル、(トリフェニルホスホランリデン)アセトアルデヒド、(トリフェニルホスホランリデン)ケテン、(フェナシリデン)トリフェニルホスホラン、エチル(トリフェニルホスホラニリデン)ピルベート、またはそれらの組み合わせから選択されるホスホラニリジンである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記ドーパントが、約200℃以上の沸点を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記無機担持体上に配置された、第1B族金属、第1B族金属化合物、銀化合物、フッ素、フッ化物化合物、硫黄、硫黄化合物、アルカリ金属、アルカリ金属化合物、アルカリ性金属、アルカリ性金属化合物、ヨウ素、ヨウ化物化合物、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記パラジウムが、前記触媒の総重量に基づいて約0.005重量%~約5重量%の量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記ドーパントが、前記触媒の総重量に基づいて約0.005重量%~約5重量%の量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記無機担持体が、約2m/g~約100m/gの表面積を有し、前記パラジウムの約90重量%超が、前記無機担持体の外周付近に集中している、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
選択的水素化触媒を作製する方法であって、前記方法が、
無機担持体をパラジウム含有化合物と接触させて担持パラジウム組成物を形成することと、
前記担持パラジウム組成物をドーパントと接触させて選択的水素化触媒前駆体を形成することであって、
前記ドーパントが、双性イオン、イリド、ベタイン、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分を含む、選択的水素化触媒前駆体を形成することと、
前記選択的水素化触媒前駆体を還元して前記選択的水素化触媒を形成することと、を含み、前記方法が、前記無機担持体、前記担持パラジウム組成物、または前記選択的水素化触媒前駆体を少なくとも1つの選択性向上剤と接触させることをさらに含む、方法。
【請求項13】
前記ドーパントが、イリドから選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ドーパントが、リンイリドから選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ドーパントが、カルボニル基をさらに含むリンイリドから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記イリドが、安定化されたものとして分類され、かつR -P=CHRの形態であり、Rが、COX基またはCN基を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記イリドが、1-(トリフェニルホスホラニリデン)-2-プロパノン(TPP-2P)、(トリフェニルホスホラニリデン)アセトニトリル、(トリフェニルホスホランリデン)ケテン、(フェナシリデン)トリフェニルホスホラン、(トリフェニルホスホランリデン)アセトアルデヒド、エチル(トリフェニルホスホラニリデン)ピルベート、2-(トリフェニルホスホランリデン)プロピオンアルデヒド、またはそれらの組み合わせから選択されるホスホラニリジンである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ドーパントが、約200℃以上の沸点を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記無機担持体、前記担持パラジウム組成物、前記選択的水素化触媒前駆体、または前記選択的水素化触媒が、第1B族金属、第1B族金属化合物、銀化合物、フッ素、フッ化物化合物、硫黄、硫黄化合物、アルカリ金属、アルカリ金属化合物、アルカリ性金属、アルカリ性金属化合物、ヨウ素、ヨウ化物化合物、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記パラジウムが、前記選択的水素化触媒の総重量に基づいて約0.005重量%~約5重量%のPdの量で存在する、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記ドーパントが、前記選択的水素化触媒の総重量に基づいて約0.005重量%~約5重量%の量で存在する、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つの選択性向上剤が、第1B族金属、第1B族金属化合物、銀化合物、フッ素、フッ化物化合物、硫黄、硫黄化合物、アルカリ金属、アルカリ金属化合物、アルカリ性金属、アルカリ性金属化合物、ヨウ素、ヨウ化物化合物、またはそれらの組み合わせから選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項23】
前記選択性向上剤が、元素銀、硝酸銀、酢酸銀、臭化銀、塩化銀、ヨウ化銀、フッ化銀、またはそれらの組み合わせを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項24】
前記選択性向上剤が、元素アルカリ金属、アルカリ金属フッ化物、アルカリ金属塩化物、アルカリ金属臭化物、アルカリ金属ヨウ化物、アルカリ金属酸化物、アルカリ金属カーボネート、アルカリ金属スルフェート、アルカリ金属ホスフェート、アルカリ金属ボレート、フッ化カリウム、またはそれらの組み合わせを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項25】
前記選択性向上剤が、銀およびフッ化カリウムを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項26】
前記選択性向上剤が、前記選択的水素化触媒の総重量に基づいて約0.005重量%~約5重量%の量で存在する、請求項12に記載の方法。
【請求項27】
前記無機担持体が、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミノシリケート、スピネル、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項28】
高度不飽和炭化水素を選択的に水素化して不飽和炭化水素富化組成物にする方法であって、前記方法が、
パラジウムおよびドーパントを含む担持触媒を、高度不飽和炭化水素を含む原料と、前記高度不飽和炭化水素原料の少なくとも一部を水素化して前記不飽和炭化水素富化組成物を形成するのに好適な条件下で接触させることを含み、前記ドーパントが、双性イオン、イリド、ベタイン、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分を含む、方法。
【請求項29】
前記高度不飽和炭化水素が、アセチレン、メチルアセチレン、プロパジエン、ブタジエン、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記水素化に好適な条件が、前記ドーパントのほぼ前記沸点未満の温度で前記接触させるステップを実行することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記水素化に好適な条件が、前記接触させるステップを、前記ドーパントのほぼ前記沸点以上の温度に上昇させて実行することを含む、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本開示は、不飽和炭化水素の生成に関し、より具体的には、選択的水素化触媒、ならびにその作製および使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンおよびプロピレンなどの不飽和炭化水素は、付加価値の高い化学物質およびポリマーを調製する際の供給原料としてしばしば用いられる。不飽和炭化水素は、石炭に由来する炭化水素、合成原油に由来する炭化水素、ナフサ、精製ガス、エタン、プロパン、ブタンなどを含む炭化水素の熱分解または水蒸気分解により生成され得る。これらの様式において生成された不飽和炭化水素は、アセチレンおよびジオレフィンなどの高度不飽和炭化水素を少量含有し得、後続の化学物質およびポリマーの生成に悪影響を及ぼし得る。したがって、ポリマーグレードのモノオレフィンなどの不飽和炭化水素生成物を形成するために、モノオレフィン流中のアセチレンおよびジオレフィンの量は典型的には減少される。例えば、ポリマーグレードのエチレンにおいて、アセチレン含有量は典型的には約2ppmw未満である。
【0003】
主にモノオレフィンを含む不飽和炭化水素流中のアセチレンおよびジオレフィンの量を減少させるために一般的に使用される1つの手法は、アセチレンおよびジオレフィンをモノオレフィンに選択的に水素化することを含む。このプロセスは、モノオレフィンおよび高度不飽和炭化水素の飽和炭化水素への水素化が最小限に抑えられるという点で選択的である。例えば、エチレンまたはアセチレンのエタンへの水素化は最小限に抑えられる。
【0004】
選択的水素化プロセスに対する1つの課題は、不飽和モノオレフィン(例えば、エチレン)から飽和炭化水素(例えば、エタン)への制御不能な還元につながる暴走反応の可能性である。暴走反応を最小限に抑える方法論の1つは、水素化触媒における選択性向上剤の量を増加することである。したがって、触媒調製物は、1つ以上の選択性向上剤を含んでもよい。選択性向上剤は、高度不飽和オレフィンを不飽和オレフィンに水素化するための触媒選択性を高める、アルカリ金属ハロゲン化物などの材料である。追加の量の選択性向上剤の使用は、充填量の増加とも称され、触媒選択性の改善につながり得るが、充填量の増加は、触媒活性の低下などの欠点を有し得る。
【0005】
選択的水素化触媒を評価する1つの方法は、2つの異なる決定された温度点、T1およびT2間の差である機能窓である。T1は「浄化」温度であり、原料中の高度不飽和炭化水素が生成物中に20ppmw未満存在するように変換された時点の温度と定義され得る。T2は「暴走」温度であり、エタンが生成物の3重量%を占めるまで過剰水素化が発生しているときの温度と定義される。機能窓が大きいほど触媒は選択的であり、不要な暴走の可能性が低くなる。
【0006】
したがって、改善された機能窓ならびに/または所望の選択性および/もしくは活性などの、改善された性能を示す選択的水素化触媒に対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【0007】
本明細書では、パラジウムおよび担持体を含む担持水素化触媒であって、高度不飽和炭化水素を不飽和炭化水素に選択的に水素化することができる担持水素化触媒と、ドーパントであって、双性イオン、イリド、ベタイン、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分を含むドーパントとを含む、組成物が開示される。
【0008】
本明細書では、選択的水素化触媒を作製する方法もまた開示され、この方法は、担持体をパラジウム含有化合物と接触させて担持パラジウム組成物を形成することと、担持パラジウム組成物をドーパントと接触させて選択的水素化触媒前駆体を形成することであって、ドーパントが、双性イオン、イリド、ベタイン、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分を含む、選択的水素化触媒前駆体を形成することと、選択的水素化触媒前駆体を還元して選択的水素化触媒を形成することとを含む。
【0009】
本明細書では、担持体をパラジウム含有化合物と接触させて担持パラジウム組成物を形成することと、担持パラジウム組成物をドーパントと接触させて選択的水素化触媒前駆体を形成することであって、ドーパントが、双性イオン、イリド、ベタイン、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分を含む、選択的水素化触媒前駆体を形成することと、選択的水素化触媒前駆体を還元して選択的水素化触媒を形成することとによって調製される、選択的水素化触媒もまた開示される。
【0010】
本明細書では、高度不飽和炭化水素を不飽和炭化水素富化組成物に選択的に水素化する方法もまた開示され、この方法は、パラジウムおよびドーパントを含む担持触媒を、高度不飽和炭化水素を含む原料と、高度不飽和炭化水素原料の少なくとも一部を水素化して不飽和炭化水素富化組成物を形成するのに好適な条件下で接触させることを含み、ドーパントが、双性イオン、イリド、ベタイン、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本開示およびその利点をより完全に理解するために、添付の図面および発明を実施するための形態に関連してなされる以下の簡単な説明を参照する。ここで、同様の参照番号は同様の部品を表す。
【0012】
図1】選択的水素化プロセスの一実施形態のプロセスフロー図である。
図2】実施例1の触媒の温度の関数としてのエタンメイクのプロットである。
図3】実施例1の触媒の温度の関数としてのエチレンの重量パーセントのプロットである。
図4】実施例2の触媒の温度の関数としてのエタンメイクのプロットである。
図5】実施例2の触媒の温度の関数としてのエチレンの重量パーセントのプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
選択的水素化触媒は、典型的には担持Pd/Agを含む。KFなどの選択性向上剤をパラジウム系触媒に添加すると、その機能窓を改善できる。さらに、触媒へのイオン液体の添加は、水素化性能が改善された触媒を提供し得る。KFおよびイオン液体の両方は、正電荷と負電荷との間に共有結合を含有しない塩である。共有結合(複数可)を介して結合した正電荷および負電荷の両方を含有する単一分子が、選択的水素化触媒(例えば、パラジウム系アセチレン水素化触媒)の有益なドーパントとなり得ることが予期せず発見された。
【0014】
1つ以上の実施形態の例示的な実装形態が以下に提供されるが、開示されるシステムおよび/または方法は、現在知られているかまたは存在するかにかかわらず、任意の数の手法を使用して実装され得ることが最初に理解されるべきである。本開示は、本明細書において例示され、説明される例示的な設計および実装形態を含む、以下で例示される例示的な実装形態、図面、および手法に限定されるべきでなく、添付の特許請求の範囲と同等物の全範囲とを併せた範疇で修正されてもよい。
【0015】
一実施形態では、選択的水素化触媒を作製する方法は、無機触媒担持体をパラジウム含有化合物と接触させて担持パラジウム組成物を形成することと、担持パラジウム組成物をドーパントと接触させることとを含む。本明細書では、本開示は、単一分子内に正電荷および負電荷の両方を含むドーパントの使用を中心とし、正電荷および負電荷の部分は共有結合(複数可)を介して結合している。一実施形態では、本明細書に開示される方法論により、向上した選択性、改善された機能窓、および/または硫黄による不活性化からの改善された回復を有する選択的水素化触媒を得る。本明細書に開示されるタイプの触媒は、選択的水素化触媒(SHC)として利用され得る。
【0016】
SHCは、本明細書に開示される成分(例えば、無機担持体、パラジウム、ドーパントなど)を接触させて、選択的水素化触媒として利用され得る組成物を形成した結果であることを理解されたい。SHCを形成するために利用される材料は、元の材料がSHC中の別個の存在として識別できないように、接触して変換することができる。例えば、本開示は、SHCの形成における金属含有化合物の利用について説明するものとする。選択的水素化触媒として利用されるSHCは、金属含有化合物の1つ以上の成分を含有し得るが、SHCの他の成分と元々接触していたドーパントまたは金属含有化合物は、最終生成物において識別できない場合がある。
【0017】
SHCは、高度不飽和炭化水素を不飽和炭化水素に選択的に水素化するために使用され得る。本明細書で使用される場合、高度不飽和炭化水素は、三重結合、2つの共役炭素-炭素二重結合、または2つの累積炭素-炭素二重結合を含有する炭化水素として定義される。本明細書で使用される場合、不飽和炭化水素は、孤立した炭素-炭素二重結合を含有する炭化水素として定義される。高度不飽和炭化水素の例には、アセチレン、メチルアセチレン、およびプロパジエンが含まれるが、これらに限定されない。不飽和炭化水素の例には、エチレンおよびプロピレンが含まれる。また、「触媒」という用語は、担持体中または担持体上に含浸された材料とともに担持体を指すことも理解される。
【0018】
一実施形態では、SHCは、例えば、これらに限定されないが、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミノシリケート(例えば、粘土、セラミック、および/またはゼオライト)、スピネル(例えば、アルミン酸亜鉛、チタン酸亜鉛、および/またはアルミン酸マグネシウム)、またはそれらの組み合わせなどの無機担持体を含むことができる。一実施形態では、SHCはアルミナ担持体を含む。いくつかの実施形態では、アルミナ担持体はアルファ(α)-アルミナ担持体を含む。
【0019】
無機担持体は、約2~約100平方メートル/グラム(m/g)、あるいは約2m/g~約75m/g、あるいは約3m/g~から約50m/g、あるいは約4m/g~約25m/g、あるいは約5m/g~約15m/gの表面積を有し得る。担持体の表面積は、任意の好適な方法を使用して決定し得る。好適な方法の例には、担持体に吸着された窒素の量を測定するブルナウアー・エメット・テラー(「BET」)法が含まれる。あるいは、担持体の表面積は、本開示に相反しないあらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる「Automated Pore Volume and Pore Size Distribution of Porous Substances by MERCURY Porosimetry」と題されたASTM UOP 578-02に説明されているような水銀圧入法によって測定することができる。
【0020】
無機担持体の粒子は、概して、約1mm~約10mm、あるいは約2mm~約6mm、あるいは約2mm~約4mm、あるいは約3mm~約5mm、あるいは約3.8mm~約4.2mm、あるいは約4mm~約6mmの平均直径を有し、任意の好適な形状を有することができる。一実施形態では、無機担持体の形状は円筒形であり得る。代替実施形態では、無機担持体の形状は球形であり得る。一実施形態では、無機担持体は、他のすべての成分が考慮される場合、SHCのバランスを含むような量で存在することができる。
【0021】
一実施形態では、SHCは第10族金属を含む。周期表の元素の族は、Chemical and Engineering News,63(5),27,1985において公表された元素の周期表のバージョンにおいて示された付番方式を使用して示される。一実施形態では、金属は、ニッケル、パラジウム、白金、またはそれらの組み合わせを含むことができる。一実施形態では、金属はパラジウムを含む。無機担持体をパラジウム含有化合物と接触させることによりSHCにパラジウムを添加して、本明細書でより詳細に後述するように、担持パラジウム組成物を形成することができる。好適なパラジウム含有化合物の例には、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、ヘキサクロロパラジウム酸アンモニウム、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム、酢酸パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硝酸テトラアンミンパラジウム、またはそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。一実施形態では、パラジウム含有化合物は水溶液の成分である。本開示における使用に好適なパラジウム含有溶液の例には、パラジウム金属を含む溶液が含まれるが、これに限定されない。
【0022】
一実施形態では、SHCは、SHCの総重量に基づいて約0.005重量%~約5重量%、あるいは約0.01重量%~約3重量%、あるいは約0.02重量%~約1重量%、あるいは約0.02重量%~約0.04重量%、あるいは約0.018重量%~約0.05重量%、あるいは約0.03重量%~約0.05重量%の量でパラジウム含有化合物を使用して調製され得る。SHCに組み込まれるパラジウムの量は、SHCを調製するために使用されるパラジウム含有化合物の量について本明細書に説明される範囲内であり得る。
【0023】
一実施形態では、SHCはドーパントを含む。実施形態では、ドーパントは、共有結合(複数可)を介して結合された正電荷および負電荷の両方を含有する単一分子を含む。正電荷および負電荷は、特定のpH範囲内および/または共鳴構造の一部としてのみ存在し得る。実施形態では、ドーパントは、双極性イオンまたは内部塩とも称されることがある双性イオンを含み、これは正電荷および負電荷の両方を含む中性分子である。実施形態では、双性イオンは、複数の正電荷および負電荷を含む。実施形態では、双性イオンは、カルボニルイミド、アゾメチンイミド、ビニルカルベン、イリド、ベタインまたはそれらの組み合わせを含む。
【0024】
実施形態では、ドーパントはベタインを含み、ベタインは、水素原子を持たないオニウムイオンを含む正に帯電したカチオン性官能基と、カルボキシレート基などの負に帯電した官能基とを含む中性化合物である。オニウムイオンは、プニクトゲン(元素周期表の第15族)、カルコゲン(第16族)、またはハロゲン(第17族)の単核親水素化物のプロトン化の結果であり得る。実施形態では、オニウムイオンはプニクトゲン(例えば、第四級アンモニウムまたはホスホニウムカチオン)から誘導される。
【0025】
実施形態では、ドーパントはイリド、または形式正電荷(例えば、窒素、リン、または硫黄)を有するヘテロ原子に直接結合した負帯電原子を含む中性(1,2-)双極子分子から選択される。実施形態では、ドーパントはリンを含むイリド化合物であり、リンイリドとも称される。実施形態では、ドーパントは式R P=CHRを有するリンイリド(またはアルキリデンホスホラン)から選択される。リンイリドの安定性、反応性、および選択性は、イリドα-炭素原子に結合した残基Rに依存し、リンに結合した置換基Rにもわずかに依存する。実施形態では、ドーパントは、本開示に相反しないあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれるScience of Synthesis:Compounds with Two Carbon-Heteroatom Bonds,2004,Padwa Editor,pp.973-974に説明されているように、「安定化」イリド、「準安定化」もしくは「緩和」イリド、または「非安定化」、または「反応性」イリドを含む。
【0026】
実施形態では、ドーパントは「安定化」イリドであり、RはCOXまたはCNを含む。実施形態では、ドーパントは「準安定化」または「緩和」イリドを含み、Rはアリールまたはアリルである。実施形態では、ドーパントは「非安定化」イリドであり、RはHまたはアルキルである。実施形態では、Rはカルボニル基を含む。実施形態では、RはCOXを含み、Xは水素、ヒドロカルビル基、-ORから選択され、Rは水素またはヒドロカルビル基である。実施形態では、Rはアルキルまたはアリール基を含む。実施形態では、Rはスルホニル基を含まない。実施形態では、各Rはアルキル基またはアリール基から独立して選択され得る。実施形態では、各Rはメチル基およびフェニル基から独立して選択され得る。
【0027】
この開示を読むと、当業者は好適なドーパントを認識するであろうし、それらを完全に網羅したリストは本明細書では提供しないものとする。非限定的な例として、実施形態では、本開示によるドーパントはホスホラニリデンを含む。実施形態では、ドーパントは、1-(トリフェニルホスホラニリデン)-2-プロパノン(TPP-2P)、2-(トリフェニルホスホランリデン)プロピオンアルデヒド、(トリフェニルホスホラニリデン)アセトニトリル、(トリフェニルホスホランリデン)アセトアルデヒド、(トリフェニルホスホランリデン)ケテン、エチル(トリフェニルホスホラニリデン)ピルベート、(フェナシリデン)トリフェニルホスホラン、またはそれらの組み合わせから選択される。
【0028】
本出願の目的において、本明細書で使用される場合、「ヒドロカルビル(複数可)」または「ヒドロカルビル基(複数可)」という用語は、IUPACによって指定される定義に従い、「炭化水素」の炭素原子から1個の水素原子を除去することにより誘導される一価の基(複数可)を指す。ヒドロカルビル基は、非環式および環式基を含む脂肪族であり得る。ヒドロカルビル基は、環、環系、芳香族環、および芳香族環系を含み得る。ヒドロカルビル基には、例として、とりわけ、アリール、アルキル、シクロアルキル、およびこれらの基の組み合わせが含まれ得る。ヒドロカルビル基は、別途特定しない限り、直鎖状または分岐状であり得る。本出願の目的において、「アルキル」または「シクロアルキル」という用語は、アルカンの任意の炭素原子から水素原子を除去することにより誘導される一価の基を指す。例えば、実施形態では、ヒドロカルビルはメチル基を含む。本出願の目的において、「アリール」または「アリーレン」という用語は、アリール環の任意の炭素原子から水素原子を除去することにより誘導される一価の基を指す。例えば、実施形態では、ヒドロカルビルは、フェニル基、ベンジル基、置換フェニル基、置換ベンジル基、またはそれらの組み合わせを含む。
【0029】
本開示における使用に好適なドーパントは、大気圧で約200℃、250℃、または300℃以上の沸点によってさらに特徴付けられ得る。実施形態では、ドーパントは熱的に安定しており、ドーパントが選択的水素化中に触媒表面からすぐに脱着しないほど十分に高い沸点を有する。他の実施形態では、ドーパントは、水分および/または空気にさらされると、大気圧で約200℃、250℃、または300℃以上の沸点を有する種に変換される。
【0030】
一実施形態では、ドーパントは、SHCの総重量に対するドーパントの重量に基づいて約0.001重量%~約5重量%、あるいは約0.005重量%~約5重量%、あるいは約0.001重量%~約3重量%、あるいは約0.005重量%~約2重量%の量でSHCの調製のための混合物中に存在し得る。一実施形態では、ドーパントは、約5、4、3、2、1、または0.5重量%以下の量でSHCの調製のための混合物中に存在し得る。SHCに組み込まれるドーパントの量は、SHCを調製するために使用されるドーパントの量について本明細書に説明される範囲内であり得る。
【0031】
一実施形態では、SHCは、1つ以上の選択性向上剤をさらに含むことができる。好適な選択性向上剤には、第1B族金属、第1B族金属化合物、銀化合物、金化合物、フッ素、フッ化物化合物、金属、アルカリ金属化合物、アルカリ性金属、アルカリ性金属化合物、ヨウ素、ヨウ化物化合物、またはそれらの組み合わせが含まれるが、それらに限定されない。一実施形態では、SHCは、SHCの総重量に基づいて約0.001重量%~約10重量%、あるいは約0.01重量%~約5重量%、あるいは約0.005重量%~約5重量%、あるいは約0.01重量%~約2重量%の量でSHCの調製のための混合物中に存在し得る1つ以上の選択性向上剤を含む。SHCに組み込まれる選択性向上剤の量は、SHCを調製するために使用される選択性向上剤の量について本明細書に説明される範囲内であり得る。
【0032】
一実施形態では、選択性向上剤は、銀(Ag)、銀化合物、またはそれらの組み合わせを含む。好適な銀化合物の例には、硝酸銀、酢酸銀、臭化銀、塩化銀、ヨウ化銀、フッ化銀、またはそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。一実施形態では、選択性向上剤は硝酸銀を含む。SHCは、SHCの総重量に基づいて約0.005重量%~約5重量%の銀、あるいは約0.01重量%~約1重量%の銀、あるいは約0.02重量%~約0.5重量%、あるいは約0.03重量%~約0.3重量%の量で硝酸銀を使用して調製され得る。SHCに組み込まれる銀の量は、SHCを調製するために使用される硝酸銀の量について本明細書に説明される範囲内であり得る。
【0033】
一実施形態では、選択性向上剤は、アルカリ金属、アルカリ金属化合物、またはそれらの組み合わせを含む。好適なアルカリ金属化合物の例には、元素アルカリ金属、アルカリ金属ハロゲン化物(例えば、アルカリ金属フッ化物、アルカリ金属塩化物、アルカリ金属臭化物、アルカリ金属ヨウ化物)、アルカリ金属酸化物、アルカリ金属カーボネート、アルカリ金属スルフェート、アルカリ金属ホスフェート、アルカリ金属ボレート、またはそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。一実施形態では、選択性向上剤はフッ化カリウム(KF)を含む。別の実施形態では、SHCは、SHCの総重量に基づいて約0.01重量%~約5重量%、あるいは約0.05重量%~約2重量%、あるいは約0.05重量%~約1重量%の量でアルカリ金属化合物を使用して調製され得る。SHCに組み込まれるアルカリ金属の量は、SHCを調製するために使用されるアルカリ金属化合物の量について本明細書に説明される範囲内であり得る。
【0034】
担持パラジウム組成物ならびに任意選択的な選択性向上剤(複数可)としてのフッ化カリウムおよび/または銀(例えば、担持Pd/KF、担持Pd/Ag、または担持Pd/KF/Ag)に関して以下に説明するが、本開示のSHCは、本開示によるドーパントと組み合わせて、上述の任意の金属、担持体、および選択性向上剤(複数可)を用いて形成され得る。
【0035】
一実施形態では、SHCを調製する方法は、無機担持体をパラジウム含有化合物と接触させて担持パラジウム組成物を形成することから開始することができる。接触は、任意の好適な手法を使用して行うことができる。例えば、無機担持体は、担持体の細孔容積よりも大きいパラジウム含有化合物を含有する体積の溶液に浸漬することにより、パラジウム含有化合物を含有する溶液と接触させることができる。そのような実施形態では、得られる担持パラジウム組成物は、パラジウム皮膜を形成するように担持パラジウム組成物の周辺付近に集中している約90重量%超、あるいは約92重量%~約98重量%、あるいは約94重量%~約96重量%のパラジウムを有し得る。
【0036】
パラジウム皮膜は、そのような皮膜の厚さが本明細書に開示される水素化プロセスを促進し得る限り、任意の厚さであり得る。概して、パラジウム皮膜の厚さは、約1ミクロン~約3000ミクロン、あるいは約5ミクロン~約2000ミクロン、あるいは約10ミクロン~約1000ミクロン、あるいは約50ミクロン~約500ミクロンの範囲内であり得る。そのような方法の例は、米国特許第4,404,124号および第4,484,015号においてさらに詳細に説明されており、これらはそれぞれ、本開示に相反しないあらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0037】
担持パラジウム組成物、選択的水素化触媒および/またはSHC組成物のパラジウム皮膜の厚さを決定するために、任意の好適な方法が使用され得る。例えば、1つの方法は、SHCの代表的な試料を割り開くことと、N,N-ジメチル-パラ-ニトロソアニリンの希薄アルコール溶液で触媒片を処理することとを伴う。処理溶液はパラジウムと反応して赤色になることができ、それを使用して触媒上のパラジウムの分布を評価することができる。SHCの皮膜中のパラジウム濃度を測定するためのさらに別の手法は、触媒の代表的な試料を割り開くことと、その後、触媒片を水素などの還元剤で処理して皮膜の色を変え、それによりパラジウムの分布を評価することとを伴う。あるいは、パラジウム皮膜の厚さは、電子マイクロプローブ分析器を使用して触媒の断面を分析することにより決定することができる。
【0038】
無機担持体をパラジウム含有化合物の溶液と接触させることにより形成された担持パラジウム組成物は、約15℃~約150℃、あるいは約30℃~約100℃、あるいは約60℃~約100℃の温度で、約0.1時間~約100時間、あるいは約0.5時間~約20時間、あるいは約1時間~約10時間の期間、任意選択的に乾燥させることができる。あるいは、またはさらに、担持パラジウム組成物を焼成することができる。この焼成ステップは、最高約850℃、あるいは約150℃~約700℃、あるいは約150℃~約600℃、あるいは約150℃~約550℃の温度で、約0.2時間~約20時間、あるいは約0.5時間~約20時間、あるいは約1時間~約10時間の期間行うことができる。一実施形態では、担持パラジウム組成物を乾燥させ、その後、焼成させることができる。
【0039】
一実施形態では、SHCを調製する方法は、担持パラジウム組成物を本明細書に説明されるタイプのドーパント(例えば、リンイリドまたは組成物、例えば、それを含む溶液)と接触させることをさらに含む。
【0040】
一実施形態では、ドーパントは担持パラジウム組成物と接触する。接触は、例えば、初期湿潤含浸などの、本明細書に説明されるパラメーターを満たす選択的水素化触媒を生成する任意の好適な様式で行うことができる。本明細書では、SHCは、担持パラジウム組成物のドーパントとの接触によって形成され、Pd/Dと呼称される。簡単に言えば、ドーパントを溶媒に溶解して、ドーパント含有溶液を形成することができる。溶媒は、ドーパントが溶解する任意の好適な溶媒であり得る。実施形態では、溶媒は水を含む。実施形態では、溶媒は、トルエン、ベンゼン、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、四塩化炭素などから選択される有機溶媒を含む。実施形態では、溶媒は、ブタノール、エタノール、またはメタノールなどの有機アルコールを含む。望ましくは、溶媒は150℃未満の沸点を有し、本出願において説明される温度で乾燥することによって簡単に除去され得る。ドーパントは、約0.01重量%~約3重量%、約0.05重量%~約2.5重量%、または約0.1重量%~約2重量%の量で溶媒と組み合わされ得る。一実施形態では、担持パラジウム組成物をドーパント溶液に添加または組み合わせて、Pd/D組成物を形成することができる。
【0041】
一実施形態では、銀を担持パラジウム組成物に添加することができる(ドーパントなし)。例えば、担持パラジウム組成物は、組成物の細孔容積を満たすために必要な量よりも多い量の硝酸銀水溶液に入れることができる。得られる材料は、担持パラジウム/銀組成物であり得る(この特定の実施形態は、Pd/Ag組成物と称される)。
【0042】
一実施形態では、Pd/Ag組成物はさらにドーパントと接触する。接触は上記のように行われ、Pd/Ag/Dを形成することができる。
【0043】
一実施形態では、本明細書で前述したような任意の好適な手法を使用して、1つ以上のアルカリ金属を(ドーパントと接触する前または後に)Pd/Ag組成物に添加することができる。一実施形態では、選択性向上剤はフッ化アルカリを含み、得られる材料はパラジウム/銀/アルカリ金属フッ化物担持組成物である。一実施形態では、選択性向上剤はフッ化カリウムを含み、得られる材料はパラジウム/銀/フッ化カリウム(Pd/Ag/KF)担持組成物である。
【0044】
一実施形態では、担持パラジウム組成物は、アルカリ金属ハロゲン化物および銀化合物の両方と(ドーパントと接触する前または後に)接触する。担持パラジウム組成物のアルカリ金属ハロゲン化物および銀化合物の両方との接触は同時に行うことができる、あるいは、接触はユーザーが所望する順序で連続して行うことができる。
【0045】
一実施形態では、組成物をドーパントと接触させる前に、1つ以上の選択性向上剤を担持パラジウム組成物と接触させることができる。そのような実施形態では、得られた組成物(例えば、Pd/Ag、Pd/KF、またはPd/Ag/KFを含む)を本明細書で前述した条件下で焼成させて、その後、ドーパントと接触させることができる。例えば、ドーパントをPd/Ag、Pd/KF、および/またはPd/Ag/KF組成物に添加して、それぞれPd/Ag/D、Pd/KF/D、および/またはPd/Ag/KF/D組成物を提供することができる。代替実施形態では、組成物をドーパントと接触させた後に、1つ以上の選択性向上剤を担持パラジウム組成物と接触させることができる。例えば、Agおよび/またはKFをPd/D組成物に添加して、Pd/Ag/D、Pd/KF/D、および/またはPd/Ag/KF/D組成物を提供することができる。さらに別の代替実施形態では、1つ以上の選択性向上剤を担持パラジウム組成物およびドーパントと同時に接触させることができる。
【0046】
一実施形態では、本明細書に開示されるタイプのSHCを調製する方法は、本明細書で前述のそれぞれのタイプのα-アルミナ担持体、パラジウム、およびドーパントを接触させることを含む。代替実施形態では、本明細書に開示されるタイプのSHCを調製する方法は、α-アルミナ担持体、パラジウム、ドーパント、および1つ以上の選択性向上剤(例えば、銀および/またはフッ化カリウム)を接触させることを含む。得られた材料(Pd/D、Pd/Ag/D、Pd/KF/D、および/またはPd/Ag/KF/D組成物)を乾燥させて、乾燥触媒組成物を形成することができる。いくつかの実施形態では、この乾燥ステップは、約0℃~約150℃、あるいは約30℃~約100℃、あるいは約50℃~約80℃の範囲内の温度で、約0.1時間~約100時間、あるいは約0.5時間~約20時間、あるいは約1時間~約10時間の期間、周囲圧力から100トルの真空までの範囲の圧力で行うことができる。一実施形態では、前述の組成物の乾燥中に使用される空気、水分、および/または温度範囲にさらされると、前駆体ドーパントが本明細書に説明されるタイプのドーパントに変換されるように、または乾燥もしくは他の水素化前ステップ中に本明細書に説明されるようなドーパントが形態を変化させ、それによってSHCが添加されたドーパントの変化した形態を含むように、ドーパント前駆体が用いられる。いくつかの実施形態では、この乾燥ステップは、周囲圧力で行うことができ、あるいは、この乾燥ステップは、約0.1気圧から1気圧の圧力で行うことができる。
【0047】
乾燥触媒組成物は、水素ガスまたは水素ガス含有原料、例えば、選択的水素化プロセスの供給流を使用して還元され得、それによって選択的水素化プロセスの最適な動作を提供してSHCを形成する。そのような気体水素還元は、例えば、約0℃~約150℃、あるいは約20℃~約100℃、あるいは約25℃~約80℃の範囲内の温度で行うことができる。
【0048】
一実施形態では、SHCを調製する方法は、無機担持体をパラジウム含有化合物(例えば、塩化パラジウム、硝酸パラジウム)と接触させて担持パラジウム組成物を形成することと、担持パラジウム組成物を乾燥および焼成して乾燥および焼成された担持パラジウム組成物を形成することとを含む。次いで、乾燥および焼成された担持パラジウム組成物を銀含有化合物(例えば、亜硝酸銀、フッ化銀)と接触させてPd/Ag組成物を形成し、次いで、乾燥および/または焼成して乾燥および/または焼成されたPd/Ag組成物を形成することができる。乾燥および/または焼成されたPd/Ag組成物をアルカリ金属フッ化物(例えば、フッ化カリウム)と接触させてPd/Ag/KF組成物を形成し、次いで、乾燥および焼成することができる。次いで、乾燥および焼成されたPd/Ag/KF組成物をドーパントと接触させて触媒組成物を形成し、その後、還元してSHCを形成することができる。
【0049】
いくつかの実施形態では、SHCは、ドーパントと接触しているパラジウム/銀/アルカリ金属塩組成物から形成され得る。いくつかの実施形態では、得られた材料は、さらに処理されてSHCを形成することができる触媒前駆体である。いくつかの実施形態では、さらなる処理は乾燥を含む。いくつかの実施形態では、さらなる処理は還元を含む。いくつかの実施形態では、さらなる処理は乾燥および還元を含む。
【0050】
一実施形態では、SHCは選択的水素化プロセスを触媒する。そのようなプロセスでは、SHCは、エチレンなどの不飽和炭化水素を主に含有するが、アセチレンなどの高度不飽和炭化水素も含有する不飽和炭化水素流と接触させ得る。接触は、高度不飽和炭化水素を不飽和炭化水素に選択的に水素化するのに有効な条件で、水素の存在下で実施することができる。一実施形態では、本明細書に開示されるタイプのSHCは、例えば、これらに限定されないが、アセチレン、メチルアセチレン、プロパジエン、ブタジエンまたはそれらの組み合わせなどの高度不飽和炭化水素の水素化において使用される。
【0051】
図1は、本明細書に開示されるタイプのSHCを利用する水素化プロセスの実施形態を示す。水素化プロセスは、不飽和炭化水素流10および水素(H)流20を、SHCが中に配置されている水素化反応器30に供給することを含む。不飽和炭化水素流10は、主に1つ以上の不飽和炭化水素を含むが、例えば、これらに限定されないが、アセチレン、メチルアセチレン、プロパジエン、およびブタジエンなどの1つ以上の高度不飽和炭化水素も含み得る。あるいは、不飽和炭化水素流10および水素流20は組み合わされて、水素化反応器30に供給される単一の流れとなり得る。
【0052】
一実施形態では、反応器30は、バックエンド構成の不飽和炭化水素生成プラントのアセチレン除去ユニットに属することができる選択的水素化反応器である。本明細書で使用される場合、「バックエンド」とは、脱エタン精留塔から低沸点留分を受け取る不飽和炭化水素生成ユニット内のアセチレン除去ユニットの位置を指す。脱エタン塔は、脱メタン精留塔から高沸点留分を受け取る。脱メタン塔は、不飽和炭化水素生成プロセスから原料を受け取る。
【0053】
一実施形態では、反応器30は、フロントエンド脱エタン装置構成の不飽和炭化水素生成プラントのアセチレン除去ユニットに属することができる選択的水素化反応器である。本明細書で使用される場合、「フロントエンド脱エタン装置」とは、脱エタン精留塔から低沸点留分を受け取る不飽和炭化水素生成ユニット内のアセチレン除去ユニットの位置を指す。脱エタン塔は、不飽和炭化水素生成プロセスから原料を受け取る。
【0054】
一実施形態では、反応器30は、フロントエンド脱プロパン装置構成の不飽和炭化水素生成プラントのアセチレン除去ユニットに属することができる選択的水素化反応器である。本明細書で使用される場合、「フロントエンド脱プロパン装置」とは、脱プロパン精留塔から低沸点留分を受け取る不飽和炭化水素生成ユニット内のアセチレン除去ユニットの位置を指す。脱プロパン塔は、不飽和炭化水素生成プロセスから原料を受け取る。
【0055】
一実施形態では、反応器30は、生ガス構成の不飽和炭化水素生成プラントのアセチレン除去ユニットに属することができる選択的水素化反応器である。本明細書で使用される場合、「生ガス」とは、炭化水素精留を一切介在させることなく不飽和炭化水素生成プロセスから原料を受け取る不飽和炭化水素生産ユニット内のアセチレン除去ユニットの位置を指す。
【0056】
水素化反応器30、および同様に本明細書に開示される選択的水素化触媒は、バックエンドアセチレン除去ユニット、フロントエンド脱エタン装置ユニット、フロントエンド脱プロパン装置、または生ガスユニットにおける使用に限定されず、不飽和炭化水素流中に含有される高度不飽和炭化水素が不飽和炭化水素に選択的に水素化されるあらゆるプロセスにおいて使用され得ることが理解される。
【0057】
アセチレン除去ユニットがバックエンド構成にあるこれらの実施形態では、水素化反応器30に供給される高度不飽和炭化水素はアセチレンを含む。水素化反応器30に供給される水素対アセチレンのモル比は、約0.1~約10、あるいは約0.2~約5、あるいは約0.5~約3の範囲内であり得る。
【0058】
アセチレン除去ユニットがフロントエンド脱エタン装置、フロントエンド脱プロパン装置または生ガス構成にある実施形態では、水素化反応器30に供給される高度不飽和炭化水素はアセチレンを含む。そのような実施形態では、水素化反応器30に供給される水素対アセチレンのモル比は、約10~約3000、あるいは約10~約2000、あるいは約10~約1500の範囲内であり得る。
【0059】
アセチレン除去ユニットがフロントエンド脱プロパン装置または生ガス構成にある実施形態では、水素化反応器30に供給される高度不飽和炭化水素はメチルアセチレンを含む。そのような実施形態では、水素化反応器30に供給される水素対メチルアセチレンのモル比は、約3~約3000、あるいは約5~約2000、あるいは約10~約1500の範囲内であり得る。
【0060】
アセチレン除去ユニットがフロントエンド脱プロパン装置または生ガス構成にある実施形態では、水素化反応器30に供給される高度不飽和炭化水素はプロパジエンを含む。そのような実施形態では、水素化反応器30に供給される水素対プロパジエンのモル比は、約3~約3000、あるいは約5~約2000、あるいは約10~約1500の範囲内であり得る。
【0061】
別の実施形態では、反応器30は複数の反応器を表し得る。複数の反応器は、任意選択的に、反応により生成された熱を除去する手段によって分離され得る。複数の反応器は、任意選択的に、反応器からの入口流および排出流を制御する手段、または複数の反応器内の個別あるいは集団の反応器を再生できる熱除去手段によって分離され得る。選択的水素化触媒は、水素化反応器30内に、固定触媒床などの任意の好適な構成で配置され得る。
【0062】
一酸化炭素もまた、別個の流れ(図示せず)を介して反応器30に供給され得、または水素流20と組み合わされ得る。一実施形態では、水素化プロセス中に反応器30に供給される一酸化炭素の量は、反応器30に供給される流体の総モルに基づいて約0.15モル%未満である。
【0063】
水素化反応器30は、水素の存在下で選択的水素化触媒と接触すると、高度不飽和炭化水素の1つ以上の不飽和炭化水素への選択的水素化に有効な条件で作動できる。条件は、高度不飽和炭化水素の不飽和炭化水素への水素化を最大化し、高度不飽和炭化水素および不飽和炭化水素の飽和炭化水素への水素化を最小限に抑えるのに有効であることが望ましい。いくつかの実施形態では、アセチレンはエチレンに選択的に水素化され得る。あるいは、メチルアセチレンはプロピレンに選択的に水素化され得る。あるいは、プロパジエンはプロピレンに選択的に水素化され得る。あるいは、ブタジエンはブテンに選択的に水素化され得る。いくつかの実施形態では、水素化ゾーン内の温度は、約5℃~約300℃、あるいは約10℃~約250℃、あるいは約15℃~約200℃の範囲内であり得る。いくつかの実施形態では、水素化ゾーン内の圧力は、約15(204kPa)~約2,000(13,890kPa)ポンド毎平方インチゲージ(psig)、あるいは約50psig(446kPa)~約1,500psig(10,443kPa)、あるいは約100psig(790kPa)~約1,000psig(6,996kPa)の範囲内であり得る。
【0064】
再び図1を参照すると、水素化反応器30において生成された1つ以上のモノオレフィンを含む不飽和炭化水素およびあらゆる未変換反応物を含む排出流40は、水素化反応器30を退出する。一実施形態では、排出流40は主にエチレンを含み、および/または約5ppmw未満、あるいは約1ppmw未満の高度不飽和炭化水素を含む。
【0065】
一実施形態では、本明細書に説明されるタイプのSHCは、ドーパントの非存在下で調製された他の同様の選択的水素化触媒と比較した場合、同等の触媒活性を有し得る(例えば、Pd/Ag、Pd/KF、またはPd/Ag/KFを含むSHCと比較して)。同等の触媒活性は、同等の浄化温度に言い換えられる。本明細書では、浄化温度はT1と呼称され、不飽和炭化水素ならびにアセチレンおよびジオレフィンなどの高度不飽和炭化水素を含む供給流において高度不飽和炭化水素(例えば、アセチレン)濃度が20ppmw未満に低下する温度を指す。一実施形態では、本明細書に開示されるタイプのSHCは、約80°F~約160°F、あるいは約85°F~約145°F、あるいは約90°F~約130°FのT1を有し得る。
【0066】
一実施形態では、SHCは、ドーパントの非存在下で調製された他の同様のSHCと比較した場合、増加した選択性を示し得る(例えば、Pd/Ag、Pd/KF、またはPd/Ag/KFを含むSHCと比較して)。本明細書では、選択性とは、SHCが高度不飽和炭化水素を不飽和炭化水素に変換する(本明細書では変換1と称される)際の速度と、SHCが不飽和炭化水素を飽和炭化水素に変換する(本明細書では変換2と称される)際の速度との比較を指す。SHCは、本明細書に説明されるタイプのドーパントの非存在下で調製された他の同様の触媒と比較した場合、変換1の速度の増加および変換2の速度の減少を示すことができる。変換2は高度に発熱性であり、過剰な不飽和炭化水素の存在により、暴走反応または不飽和炭化水素の飽和炭化水素への制御不可能な変換を引き起こし得る。実施形態では、SHCのより高い選択性は、暴走反応の発生率の減少をもたらし、水素化プロセスの機能窓を増加させることができる。
【0067】
実施形態では、高度不飽和炭化水素はアセチレンを含み、動作窓は、ドーパントを欠く触媒で調製された他の同様の組成物を利用する方法よりも少なくとも約10°F、20°F、または35°F大きい(例えば、Pd/Ag、Pd/KF、またはPd/Ag/KFを含むSHCと比較して)。
【0068】
機能窓(ΔT)は、高度不飽和炭化水素および不飽和炭化水素を含む供給原料を有する反応の生成物において3重量%の飽和炭化水素(例えば、エタン)が見出される暴走温度(T2)と、浄化温度(T1)との差として定義される。ΔTは、高度不飽和炭化水素(例えば、アセチレン)を不飽和炭化水素(例えば、エチレン)に水素化するための選択的水素化触媒の動作安定性の便利な尺度である。水素化触媒の安定性が高いほど、得られた不飽和炭化水素(例えば、エチレン)の水素化に必要なT1を超える温度が高くなる。T2は、断熱反応器において暴走エチレン水素化反応が発生する高い可能性が存在する温度と一致する。したがって、より大きなΔTは、完全なアセチレン水素化のためのより安定した触媒およびより広い機能窓に変換される。
【0069】
一実施形態では、本明細書に開示されるタイプのSHCは、約25°F~約180°F、あるいは約30°F~約170°F、あるいは約35°F~約160°Fの動作窓を有し得る。一実施形態では、本明細書に開示されるタイプのSHCは、約60°F、70°F、または75°F以上の動作窓を有し得る。本明細書に説明されるタイプのSHCの機能窓は、ドーパントの非存在下で調製された他の同様の触媒と比較した場合、約20%超、あるいは約25%超、あるいは約30%超、あるいは約35%超増加され得る(例えば、Pd/Ag、Pd/KF、またはPd/Ag/KFを含むSHCと比較して)。より高い機能窓は、より選択的なSHCを示す。選択性とは、典型的には、T1でのアセチレンのエチレン変換率を指す。
【0070】
実施形態では、本開示のSHCは、環境衛生および安全性の観点から望ましい。例えば、本明細書に説明されるようなドーパントは、当該技術分野で既知の他のドーパントよりも揮発性が低い場合がある。本明細書に説明されるような熱的に安定したドーパントの利用は、不飽和炭化水素(例えば、エチレン)生成物に残留する揮発性ドーパントの懸念を減らし得る。実施形態では、本明細書に提供されるドーパントは、低毒性を有する。このような低毒性は、2、1、または0以下のNFPA 704 Health Ratingによって示され得る。
【0071】
一実施形態では、SHCは、ドーパントの非存在下で調製された他の同様のSHCと同等以上の活性を示し得る(例えば、Pd/Ag、Pd/KF、またはPd/Ag/KFを含むSHCと比較して)。一実施形態では、SHCは、ドーパントの非存在下で調製された他の同様のSHCと比較して、より一定の活性を示し得る(例えば、Pd/Ag、Pd/KF、またはPd/Ag/KFを含むSHCと比較して)。一実施形態では、本明細書に説明されるタイプのドーパントを有する担持パラジウム触媒組成物を含むSHC(例えば、Pd/D)は、1つ以上の選択性向上剤を含む水素化触媒の選択性および活性と同等の選択性および活性を示す触媒をもたらし得る(例えば、Pd/Ag、Pd/KF、またはPd/Ag/KFと比較して)。別の実施形態では、本明細書に説明されるタイプのドーパント(例えば、Pd/Ag/DまたはPd/KF/D)を有する単一の選択性向上剤を含む水素化触媒の処理は、少なくとも2つの選択性向上剤を含む水素化触媒の選択性および活性と同等の選択性および活性を示す触媒をもたらし得る(例えば、Pd/Ag/KF)。本開示によるSHCは、より少ない追加の選択性向上剤を含み得る(または追加の選択性向上剤をまったく含まない)ため、ひいては、その製造においてより少ないステップを必要とし、実施形態では、本開示によるドーパント(複数可)(例えば、本明細書の以下の実施例2のイリド)の利用は、そのような選択性向上剤(複数可)のより低コストな置き換えを可能にし得る(例えば、実施例2のAgおよびKF)。
【0072】
高度不飽和炭化水素および不飽和炭化水素を含む炭化水素原料の選択的水素化のための方法は、選択的水素化およびSHCの初期温度(T0)を有する反応器中の炭化水素原料との接触中に到達する最高温度未満の沸点を有する、本明細書に開示されるタイプのドーパントを含むSHC触媒の調製を含むことができる。ドーパントは、T0で反応が開始されると、SHCと結合したままになり得る。ドーパントの沸点に応じて、時間の経過とともに温度がドーパントの沸点を超えて上昇する場合、ドーパントはSHCから蒸発(すなわち、ボイルオフ)し得る。ドーパントを利用して調製されたSHCは、ドーパントがSHCに結合しているまたは結合していた場合、経時的な活性の増加および初期選択性の向上を示し得る。ドーパントを利用して調製されたSHCは、組成物が安定化するにつれて触媒の選択性および予測可能な触媒活性が増加するため、より安定した動作を可能にし、暴走反応の可能性の低下を可能にするので、これは新しい触媒を用いる反応に有利であり得る。換言すれば、ドーパントを利用して調製されたSHCの存在は、触媒交換後の起動中の反応の制御を支援することができる。ドーパントの損失に続いて、得られた組成物は、ドーパントの非存在下で調製された他の同様の触媒(例えば、Pd/Ag、Pd/KF、またはPd/Ag/KFを含むSHC)の活性および選択性と同等の活性および選択性を示し得る。
【0073】
代替実施形態では、高度不飽和および不飽和炭化水素を含む炭化水素原料の選択的水素化のための方法は、本明細書で前述したように、高沸点ドーパントを含む(すなわち、選択的水素化中に到達する最高温度を超える沸点を有する)SHCの調製およびSHCと炭化水素原料との接触を含む。高沸点ドーパント化合物は、反応温度が高沸点ドーパントの沸点未満のままである限り、触媒の寿命を通してSHCと結合したままであり得る。高沸点ドーパントを利用して調製されたSHCは、ドーパントの非存在下で調製された他の同様の触媒組成物と比較した場合、触媒活性および選択性などの特性において改善を示し得る(例えば、Pd/Ag、Pd/KF、またはPd/Ag/KFを含むSHCと比較して)。
【0074】
代替実施形態では、高度不飽和炭化水素および不飽和炭化水素を含む炭化水素原料の選択的水素化のための方法は、本明細書で前述したそれぞれのタイプの高沸点ドーパントおよび低沸点ドーパントを含むSHCの調製、ならびにSHCと炭化水素原料との接触を含む。低沸点ドーパントおよび高沸点ドーパントの両方を利用して調製されたSHCは、ドーパントの非存在下で調製された他の同様の触媒組成物と比較した場合、触媒活性および選択性などの特性において改善を示し得る(例えば、Pd/Ag、Pd/KF、またはPd/Ag/KFを含むSHCと比較して)。さらに、1つ以上のドーパントを含むこれらのSHCは、組成物が安定化するにつれて触媒の選択性および予測可能な触媒活性が増加するため、このようなSHCはより安定した動作を可能にし、暴走反応の可能性の低下を可能にするので、新しい触媒を用いる反応に有利であり得る。
【実施例
【0075】
本開示が概して説明されてきたが、以下の実施例は、本開示の特定の実施形態として、その実践および利点を実証するために提供される。実施例は例示として提供され、いかなる様式においても本明細書または以下の特許請求の範囲を限定することを意図していないことを理解されたい。
【0076】
実施例1:Pd/Ag/KFおよびPd/Ag/KF/D触媒の比較
本開示によるSHCの効果を研究するために、ドーパントとして1重量%のTPP-2Pを含む本開示によるPd/Ag/KF/D触媒を研究した。安定したリンイリドであるTPP-2Pの共鳴構造を以下の(1)に示す。
【化1】
【0077】
比較または「ベースライン」のPd/Ag/KF触媒であるCC1を、本開示に相反しないあらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,484,015号に説明されているような、4mm×4mm錠剤の形態で、Sud Chemie of Huefeld、Germanyによって供給されている市販のPd/Ag/KF触媒/α-Alペレットを使用して調製した。α-Alペレットは、約5~約7m/gの表面積を有していた(N吸着を用いるBET法により決定した)。
【0078】
より具体的には、100gのアルミナ担持体を、400ppmwのPd濃度を有する100gのPdCl溶液の溶液で含浸した。次いで、この触媒を、90℃で1時間、200℃で1時間、400℃で1時間、540℃で3時間乾燥して、400重量ppm(ppmw)のパラジウムを含む触媒を得た。次いで、上記のPd/α-Alペレットを、410ppmwのAg濃度を有する100gのAgNO溶液の溶液で含浸した。次いで、この触媒を、90℃で1時間、200℃で1時間、400℃で1時間、および540℃で3時間乾燥して、400重量ppm(ppmw)のパラジウムおよび400重量ppm(ppmw)の銀を含む触媒を得た。上記の触媒を、26gの水に溶解した0.149gのKFを有するKF溶液で初期湿潤によってさらに含浸した。次いで、この触媒を、90℃で1時間、200℃で1時間、400℃で1時間、および540℃で3時間乾燥して、400重量ppm(ppmw)のパラジウム、400重量ppm(ppmw)の銀、および1000ppmwのカリウムを含む触媒を得た。
【0079】
1重量%のTPP-2Pを含む、本開示によるPd/Ag/KF/D SHCであるSHC-1を、1.0gのTPP-2Pを30mLのエタノールに溶解し、100gのCC1触媒組成物にTPP-2P含有溶液を含浸させることによって調製した。次いで、含浸触媒をフード内で開いたまま一晩乾燥させた。
【0080】
次いで、20mLの触媒を反応器に装填し、200mL/分のHおよび200psigで100°Fで60分間還元した。次いで、触媒を使用して、アセチレン含有ガス混合物を水素化した。このような実施例において使用される合成原料は、エチレンプラントの脱エタン精留塔の頂部からの原料の典型である。ただし、合成原料においてエタンがメタンに置き換えられたため、反応器排出液中に見出されるあらゆるエタンはエチレンの水素化の結果であった。合成原料は、およそ25.8モルパーセントのメタン、47.4モルパーセントのエチレン、0.16モルパーセントのアセチレン、26.6モルパーセントの水素、0.034モルパーセントの一酸化炭素を含有していた。
【0081】
このTPP-2P含有触媒、SHC-1の結果を、ベースラインCC1触媒とともに、以下の図2および3ならびに表1に示す。図2は、CC1およびSHC-1触媒の温度(°F)の関数としてのエタンメイク(ppm)のプロットである。図3は、CC1およびSHC-1触媒の温度(°F)の関数としてのエチレンの重量パーセントのプロットである。SHC-1触媒を含有するTPP-2Pは、比較CC1触媒よりも選択的(すなわち、増加した重量パーセントのエチレン)であり、比較触媒CC1よりも大きな機能窓を有する。TPP-2P触媒SHC-1の活性は、より高いT1値によって示されるように、CC1触媒の活性よりも低かった。制限なしにドーパントの充填量を減少すると、強化された機能窓を維持しながら、増加した活性を有するSHCを提供し得る。
【表1】
【0082】
実施例2:Pd/Ag/KFおよびPd/D触媒の比較
複数のステップ(例えば、これらに限定されないが、銀およびフッ化カリウムなどの複数の安定性向上剤の添加)が最終触媒に多大なコストを追加する可能性があるため、SHCを作製するための製造ステップの数を減少させることが望ましい。パラジウムのみの選択的水素化触媒は、あまりにも活性が高く、非選択的である傾向があるため、AgおよびKFなどの様々な選択性向上剤を添加して、機能窓を改善する。他の選択性向上剤(複数可)に加えてではなく、その代わりとして、本開示によるドーパントの可能性のある使用を研究するために、ドーパントとして0.5重量パーセントのTPP-2Pを含むPd/D触媒、SHC-2を研究した。本開示によるPd/D SHCであるSHC-2を、0.5gのTPP-2Pを30mLのエタノールに溶解し、100gのPd触媒組成物にTPP-2P含有溶液を含浸させることによって調製した。次いで、含浸触媒をフード内で開いたまま一晩乾燥させた。実施例1に説明されるように、SHC-2触媒を還元し、アセチレン含有ガス混合物を水素化するために利用した。
【0083】
このTPP-2P含有触媒、SHC-2の結果を、実施例1のベースラインCC1触媒とともに、以下の図4および5ならびに表2に示す。図4は、CC1およびSHC-2触媒の温度(°F)の関数としてのエタンメイク(ppm)のプロットである。図5は、CC1およびSHC-2触媒の温度(°F)の関数としてのエチレンの重量パーセントのプロットである。TPP-2P含有SHC-2触媒は、比較CC1触媒と同等以上の性能(例えば、選択性および機能窓に関して)を発揮し、比較CC1触媒はPd/Ag/KFを含有していた。SHC-2触媒は、比較CC1触媒よりも34%大きい作動窓を有していた。さらに、開始活性はCC1触媒とも同等である。
【表2】
【0084】
追加の実施形態
上に開示された特定の実施形態は、本明細書の教示の利益を有する当業者には明らかである、異なるが同等の様式で修正および実践され得るため、例示的なものに過ぎない。さらに、以下の特許請求の範囲に説明されるもの以外に、本明細書に示される構造または設計の詳細に制限を加えることは意図されていない。したがって、上に開示された特定の例示的な実施形態は、変更または修正されてもよく、すべてのそのような変形形態は、本開示の範囲および趣旨内にあると考えられることは明らかである。実施形態(複数可)の特徴を組み合わせること、統合すること、および/または省略することから生じる代替実施形態もまた、本開示の範囲内である。組成物および方法は、様々な成分またはステップを「有する(having)」、「含む(comprising)」、「含有する(containing)」、または「含む(including)」という幅広い用語において説明されるが、組成物および方法はまた、様々な成分またはステップ「から本質的になる」かまたは「からなる」こともできる。特許請求の範囲の任意の要素に関する「任意選択的に」という用語の使用は、対象要素が必要とされるか、あるいは必要とされないことを意味し、それら両方の選択肢が特許請求の範囲内である。
【0085】
上に開示された数および範囲は、多少の量だけ変動し得る。下限および上限を有する数値範囲が開示されるときはいつでも、その範囲内に収まる任意の数および任意の包含範囲が具体的に開示される。特に、本明細書に開示されるあらゆる値の範囲(「約a~約b(from about a to about b)」、または、同等に、「およそa~b(from approximately a to b)」、または、同等に、「およそa~b(from approximately a-b)」の形態)は、より広い値の範囲内に包含されるあらゆる数および範囲を記載するものと理解されるべきである。また、特許請求の範囲における用語は、特許権所有者によって明示的かつ明確に定義されていない限り、平易な通常の意味を有する。さらに、特許請求の範囲において使用される場合、不定冠詞「a」または「an」は、それが導入する1つまたは複数の要素を意味するように本明細書で定義される。本明細書と、1つ以上の特許または他の文書とにおいて、語または用語の使用に不一致がある場合は、本明細書と矛盾しない定義を採用する必要がある。
【0086】
以下は、本開示による非限定的な特定の実施形態である:
A:パラジウムおよび担持体を含む担持水素化触媒であって、高度不飽和炭化水素を不飽和炭化水素に選択的に水素化することができる担持水素化触媒と、ドーパントであって、双性イオン、イリド、ベタイン、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分を含むドーパントとを含む、組成物。
【0087】
B:選択的水素化触媒を作製する方法であって、担持体をパラジウム含有化合物と接触させて担持パラジウム組成物を形成することと、担持パラジウム組成物をドーパントと接触させて選択的水素化触媒前駆体を形成することであって、ドーパントが、双性イオン、イリド、ベタイン、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分を含む、選択的水素化触媒前駆体を形成することと、選択的水素化触媒前駆体を還元して選択的水素化触媒を形成することとを含む、方法。
【0088】
C:担持体をパラジウム含有化合物と接触させて担持パラジウム組成物を形成することと、担持パラジウム組成物をドーパントと接触させて選択的水素化触媒前駆体を形成することであって、ドーパントが、双性イオン、イリド、ベタイン、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分を含む、選択的水素化触媒前駆体を形成することと、選択的水素化触媒前駆体を還元して選択的水素化触媒を形成することとによって調製される、選択的水素化触媒。
【0089】
D:高度不飽和炭化水素を不飽和炭化水素富化組成物に選択的に水素化する方法であって、パラジウムおよびドーパントを含む担持触媒を、高度不飽和炭化水素を含む原料と、高度不飽和炭化水素原料の少なくとも一部を水素化して不飽和炭化水素富化組成物を形成するのに好適な条件下で接触させることを含み、ドーパントが、双性イオン、イリド、ベタイン、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分を含む、方法。
【0090】
実施形態A、B、C、およびDの各々は、以下の追加要素のうちの1つ以上を有し得る:要素1:ドーパントが、イリドから選択される。要素2:ドーパントが、リンイリドから選択される。要素3:ドーパントが、カルボニル基をさらに含むリンイリドから選択される。要素4:イリドが、安定化されたものとして分類され、かつR -P=CHRの形態であり、Rが、COX基またはCN基を含む。要素5:イリドが、1-(トリフェニルホスホラニリデン)-2-プロパノン(TPP-2P)、2-(トリフェニルホスホランリデン)プロピオンアルデヒド、(トリフェニルホスホラニリデン)アセトニトリル、(トリフェニルホスホランリデン)アセトアルデヒド、(トリフェニルホスホランリデン)ケテン、(フェナシリデン)トリフェニルホスホラン、エチル(トリフェニルホスホラニリデン)ピルベート、またはそれらの組み合わせから選択されるホスホラニリジンである。要素6:ドーパントが、約200℃以上の沸点を有する。要素7:無機担持体上に配置された、第1B族金属、第1B族金属化合物、銀化合物、フッ素、フッ化物化合物、硫黄、硫黄化合物、アルカリ金属、アルカリ金属化合物、アルカリ性金属、アルカリ性金属化合物、ヨウ素、ヨウ化物化合物、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分をさらに含む。要素8:無機担持体を含む。要素9:パラジウムが、触媒の総重量に基づいて約0.005重量%~約5重量%のPdの量で存在する。要素10:ドーパントが、触媒の総重量に基づいて約0.005重量%~約5重量%の量で存在する。素子11:担持体が、約2m/g~約100m/gの表面積を有し、パラジウムの約90重量%超が、担持体の外周付近に集中している。要素12:担持体、担持パラジウム組成物、選択的水素化触媒前駆体、または選択的水素化触媒が、第1B族金属、第1B族金属化合物、銀化合物、フッ素、フッ化物化合物、硫黄、硫黄化合物、アルカリ金属、アルカリ金属化合物、アルカリ性金属、アルカリ性金属化合物、ヨウ素、ヨウ化物化合物、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分をさらに含む。要素13:担持体が、無機担持体である。要素14:担持体が、アルファアルミナを含む。要素15:担持体、担持パラジウム組成物、または選択的水素化触媒前駆体を、少なくとも1つの選択性向上剤と接触させることをさらに含む。要素16:少なくとも1つの選択性向上剤が、第1B族金属、第1B族金属化合物、銀化合物、フッ素、フッ化物化合物、硫黄、硫黄化合物、アルカリ金属、アルカリ金属化合物、アルカリ性金属、アルカリ性金属化合物、ヨウ素、ヨウ化物化合物、またはそれらの組み合わせから選択される。要素17:選択性向上剤が、元素銀、硝酸銀、酢酸銀、臭化銀、塩化銀、ヨウ化銀、フッ化銀、またはそれらの組み合わせを含む。要素18:選択性向上剤が、元素アルカリ金属、アルカリ金属フッ化物、アルカリ金属塩化物、アルカリ金属臭化物、アルカリ金属ヨウ化物、アルカリ金属酸化物、アルカリ金属カーボネート、アルカリ金属スルフェート、アルカリ金属ホスフェート、アルカリ金属ボレート、フッ化カリウムを含む、またはそれらの組み合わせを含む。要素19:選択性向上剤が、銀およびフッ化カリウムを含む。要素20:選択性向上剤が、選択的水素化触媒の総重量に基づいて約0.005重量%~約5重量%の量で存在する。要素21:選択性向上剤が、選択的水素化触媒の総重量に基づいて約0.01重量%~約5重量%の量で存在する。要素22:触媒前駆体を、約0℃~約150℃の範囲の温度で約0.1時間~約100時間の範囲の期間乾燥させることをさらに含む。要素23:担持体が、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミノシリケート、スピネル、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分を含む。要素24:高度不飽和炭化水素が、アセチレン、メチルアセチレン、プロパジエン、ブタジエン、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの成分を含む。要素25:水素化に好適な条件が、ドーパントのほぼ沸点未満の温度で接触するステップを実行することを含む。要素26:温度を、ドーパントのほぼ沸点以上の温度に上昇させることをさらに含む。要素27:高度不飽和炭化水素が、アセチレンを含み、エチレンに対する選択性が、ドーパントを欠く触媒で調製された他の同様の組成物を利用する方法よりも少なくとも約20%大きい。
【0091】
本発明の好ましい実施形態が示され、説明されているが、当業者は本開示の教示から逸脱することなくそれらの修正を行うことができる。本明細書に説明される実施形態は例示的なものに過ぎず、限定を意図したものではない。本明細書に開示される本発明の多くの変形および修正は、可能であり、本発明の範囲内にある。
【0092】
上記の開示が完全に理解されると、多数の他の修正、同等物、および代替物が当業者に明らかとなるであろう。以下の特許請求の範囲は、該当する場合、かかるすべての修正、同等物、および代替物を包含するものと解釈されることが意図されている。したがって、保護の範囲は、上記の説明によって限定されず、以下の特許請求の範囲によってのみ限定され、その範囲は特許請求の範囲の主題のすべての同等物を含む。各請求項は、本発明の一実施形態として明細書に組み込まれる。したがって、特許請求の範囲は、さらなる説明であり、本発明の詳細な説明への追加である。本明細書に引用されるすべての特許、特許出願、および刊行物の開示は、本明細書に記載されたものを補足する例示的な、手順上の、または他の詳細を提供する限りにおいて、参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5