(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】無機材料用水性接着剤の耐湿性向上剤及び無機材料用水性接着剤
(51)【国際特許分類】
C09J 103/02 20060101AFI20220922BHJP
C09J 129/04 20060101ALI20220922BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
C09J103/02
C09J129/04
C09J11/08
(21)【出願番号】P 2020531858
(86)(22)【出願日】2018-07-24
(86)【国際出願番号】 JP2018027618
(87)【国際公開番号】W WO2020021616
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104813
【氏名又は名称】古谷 信也
(72)【発明者】
【氏名】林 美有紀
(72)【発明者】
【氏名】喜多 藍
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06084021(US,A)
【文献】特開平11-199786(JP,A)
【文献】特開2005-036204(JP,A)
【文献】特開2013-136864(JP,A)
【文献】特表2015-531014(JP,A)
【文献】特開2005-048349(JP,A)
【文献】特開昭60-103070(JP,A)
【文献】特開2009-144140(JP,A)
【文献】特開2006-257595(JP,A)
【文献】特開平05-247882(JP,A)
【文献】特開2014-028939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 103/02
C09J 11/08
C09J 129/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料用水性接着剤の耐湿性向上剤(J)と、主剤(D)と、架橋剤(C)と、水とを含有してなる水性接着剤であって、前記主剤(D)が、デンプン(D1)、ポリビニルアルコール(D2)、3個~20個の単糖から構成された糖(D3)及び5価以上の多価カルボン酸(D4)からなる群から選ばれる少なくとも1種である無機材料用水性接着剤
であって、前記耐湿性向上剤(J)が、下記(共)重合体(A1)および(共)重合体(A2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の(共)重合体(A)を含有してなる耐湿性向上剤であり、前記架橋剤(C)が、尿素(C1)、ホウ素化合物(C2)、ポリアミン(C3)、アルカノールアミン(C4)及び2価~4価の多価カルボン酸(C5)からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記主剤(D)と前記架橋剤(C)との組合せ[(D)/(C)]は、(D1)/(C1)、(D1)/(C5)、(D2)/(C2)、(D3)/(C3)、(D4)/(C3)、又は(D4)/(C4)である、無機材料用水性接着剤:
(共)重合体(A1):炭素数3~30の不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(a1)と25℃における溶解度が10g以下/水100gである(メタ)アクリル酸エステル(a2)とを構成単量体として含み、重量平均分子量が3,000~150,000である(共)重合体、
(共)重合体(A2):前記不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(a1)を構成単量体として含み、前記(メタ)アクリル酸エステル(a2)を構成単量体として含まず、重量平均分子量が6,000~150,000である(共)重合体。
【請求項2】
前記(a1)が、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の
無機材料用水性接着剤。
【請求項3】
前記(a2)が、(メタ)アクリル酸アルキル(アルキルの炭素数2~28)エステルである請求項1又は2記載の
無機材料用水性接着剤。
【請求項4】
前記(共)重合体(A1)の構成単量体中の前記(a1)と(a2)との重量比[(a1)/(a2)]が、60/40~99/1である請求項3記載の
無機材料用水性接着剤。
【請求項5】
前記主剤(D)と架橋剤(C)との合計重量に基づいて、(共)重合体(A)の重量が1~25重量%である請求項
1~4のいずれか記載の無機材料用水性接着剤。
【請求項6】
請求項
1~5のいずれか記載の無機材料用水性接着剤の硬化物で接着された無機材料接着物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機材料用水性接着剤の耐湿性向上剤及び無機材料用水性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐熱性を有する無機材料接着物、例えば、無機繊維積層体は、グラスウール、ロックウール等の無機繊維から構成され、無機繊維を接着するため、バインダーを付着させた該無機繊維を機械的手段でマット状等に成形して製造されている。こうした無機繊維積層体等の無機材料接着物は、建築物や各種装置の断熱材等として幅広く使用されている。該バインダーとしては、従来からフェノール化合物とホルムアルデヒドとの縮合物であるフェノール樹脂からなる水性バインダーが多く使用されてきた。しかし、該バインダーは、通常、ホルムアルデヒドを含有し、これを用いた積層体からはホルムアルデヒドが環境中に放出されるという問題があることから、ホルムアルデヒドを含有しない改良バインダーが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のバインダーは、300から900の数平均分子量を有する、エチレン性不飽和カルボン酸のオリゴマーまたはコオリゴマーの水溶液およびポリオールを含む組成物であるが、バインダーの接着性が十分ではなかった。
本発明の目的は、上記課題を解決し、無機材料の接着性に優れる無機材料用水性接着剤を与える耐湿性向上剤及びそれを使用した無機材料用水性接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、下記(共)重合体(A1)および(共)重合体(A2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の(共)重合体(A)を含有してなる無機材料用水性接着剤の耐湿性向上剤である(J)。
(共)重合体(A1):炭素数3~30の不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(a1)と25℃における溶解度が10g以下/水100gである(メタ)アクリル酸エステル(a2)とを構成単量体として含み、重量平均分子量が3,000~150,000である(共)重合体
(共)重合体(A2):前記不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(a1)を構成単量体として含み、前記(メタ)アクリル酸エステル(a2)を構成単量体として含まず、重量平均分子量が6,000~150,000である(共)重合体
【発明の効果】
【0006】
本発明の無機材料用水性接着剤の耐湿性向上剤(J)は、以下の効果を奏する。
(1)無機材料用水性接着剤(X)に優れた接着性を付与する。
(2)無機材料の接着物、とくに、無機繊維積層体に、優れた耐湿性を付与する。
(3)無機材料の接着物、とくに、無機繊維積層体に、優れた剛性を付与する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<炭素数3~30の不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(a1)(以下、単に、不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(a1)ともいう)>
本発明における不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(a1)は、重合性不飽和基を1個有する炭素数[以下においてCと略記することがある]3~30の(ポリ)カルボン酸(無水物)である。なお、本発明において不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)は、不飽和モノカルボン酸、不飽和ポリカルボン酸および/または不飽和ポリカルボン酸無水物を意味する。
該(a1)のうち、不飽和モノカルボン酸としては、脂肪族(C3~24、例えばアクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸)、脂環含有(C6~24、例えばシクロヘキセンカルボン酸);不飽和ポリ(2~3またはそれ以上)カルボン酸(無水物)としては、不飽和ジカルボン酸(無水物)[脂肪族ジカルボン酸(無水物)(C4~24、例えばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、およびこれらの無水物)、脂環含有ジカルボン酸(無水物)(C8~24、例えばシクロヘキセンジカルボン酸、シクロヘプテンジカルボン酸、ビシクロヘプテンジカルボン酸、メチルテトラヒドロフタル酸、およびこれらの無水物)等]等が挙げられる。(a1)は1種単独でも、2種以上併用してもいずれでもよい。
【0008】
上記(a1)のうち、無機材料の接着性の観点から好ましいのはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、さらに好ましいのはアクリル酸、メタクリル酸、とくに好ましいのはアクリル酸である。
【0009】
<25℃における溶解度が10g以下/水100gである(メタ)アクリル酸エステル(a2)(以下、単に(メタ)アクリル酸エステル(a2)ともいう)>
本発明における(メタ)アクリル酸エステル(a2)としては、25℃における溶解度が10g以下/水100gであるのもの、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル、(メタ)アクリル酸2-オクチルノニル、(メタ)アクリル酸1-ヘキシルトリデシル、(メタ)アクリル酸2-ブチルヘプタデシル、(メタ)アクリル酸1-オクチルペンタデシル、(メタ)アクリル酸2-デシルテトラデシル、(メタ)アクリル酸2-ドデシルヘキサデシル、及び前記アルキル基中の炭素-炭素共有結合を1個のエーテル結合に置換したものが挙げられる。
【0010】
上記(a2)のうち、無機材料の接着性および耐湿性の観点から、好ましいのは(メタ)アクリル酸アルキル(アルキルの炭素数2~28)エステル、さらに好ましいのは該アルキルが炭素数4~20のもの、とくに好ましいのは該アルキルエステルが、分岐鎖アルキルエステル、直鎖アルキルエステルと分岐アルキルエステルとの併用である。
【0011】
<(共)重合体(A1)>
本発明における(共)重合体(A1)は、前記不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(a1)と(メタ)アクリル酸エステル(a2)とを構成単量体[以下、構成単位と記載することがある]として含む(共)重合体[以下、(共)重合体と記載することがある]である。
【0012】
前記(A1)を構成するモノマー(単量体)の重量比[(a1)/(a2)]は、無機材料の接着性および耐湿性の観点から、好ましくは60/40~99/1、さらに好ましくは60/40~98/2、とくに好ましくは70/30~97/3である。
【0013】
(共)重合体(A1)の重量平均分子量[以下Mwと略記。測定は後述のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法による。]は、接着性および取扱いの観点から、3,000~150,000、好ましくは6,000~100,000、とくに好ましくは9,000~45,000である。
【0014】
本発明におけるMwのGPC測定条件は下記のとおりである。なお、以下は例示であり、同等の測定が確保されるかぎり、他の装置等であってもよい。
<GPC測定条件>
[1]装置 :ゲルパーミエイションクロマトグラフィー
[型番「HLC-8120GPC」、東ソー(株)製]
[2]カラム :「TSKgelG6000PWxl」、「TSKgel
G3000PWxl」[いずれも東ソー(株)製]を直列に連結。
[3]溶離液 :メタノール/水=30/70(容量比)に
0.5重量%の酢酸ナトリウムを溶解させたもの。
[4]基準物質:ポリエチレングリコール(以下PEGと略記)
[5]注入条件:サンプル濃度0.25重量%、カラム温度40℃
【0015】
<(共)重合体(A2)>
本発明における(共)重合体(A2)は、不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(a1)を構成単量体として含み、前記(メタ)アクリル酸エステル(a2)を構成単量体として含まない。換言すれば、構成単量体としての前記(メタ)アクリル酸エステル(a2)の含有量はゼロである。
【0016】
(共)重合体(A2)の重量平均分子量[測定は上述のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法による。]は、接着性および取扱いの観点から、6,000~150,000、好ましくは6,000~100,000、とくに好ましくは9,000~45,000である。
【0017】
前記(A1)、(A2)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記(a1)、(a2)のモノマー以外の不飽和モノマー(x)をさらに構成単量体とする共重合体としてもよい。
不飽和モノマー(x)としては、ヒドロキシアルキル(C1~5)(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、スチレン、アリルアミン、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
上記(x)は、(a1)と(a2)との合計重量に基づいて、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、とくに好ましくは1重量%以下である。
【0018】
(共)重合体(A1)、(A2)は、公知の溶液重合法で製造することができ、生産性の観点から好ましいのは水を含む溶液重合法である。水の含有量としては、使用する全溶媒量に対して水を40質量%以上使用することが好ましく、使用する溶媒の全量を水とすることが好ましい。
有機溶剤を使用する場合は、重合後脱溶剤して水に溶解させてもよく、脱溶剤せずにそのまま用いてもいずれでもよい。単独で、または水と共に使用できる有機溶剤としては、水性溶剤(25℃での水への溶解度が10g以上/100g水)、例えばケトン(アセトン、メチルエチルケトン(以下MEKと略記)、ジエチルケトン等)、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)等が挙げられ、生産性の観点から好ましいのはアセトン、MEK、イソプロパノールである。有機溶剤は1種または2種以上で使用することができる。
該(A1)、(A2)は、例えば、溶液(工業上の観点から好ましいのは水溶液)として得られ、溶液中の(A1)、(A2)の含有量(重量%)は、生産性および後工程の水性接着剤の製造時のハンドリング性の観点から好ましくは5~80%、さらに好ましくは10~70%、とくに好ましくは20~60%である。
【0019】
上記(A1)、(A2)の製造時の重合温度は、生産性および(A1)、(A2)の分子量制御の観点から好ましくは0~200℃、さらに好ましくは40~150℃である。
重合時間は、製品中の残存モノマー含量の低減および生産性の観点から好ましくは1~10時間、さらに好ましくは2~8時間である。
重合反応の終点は残存モノマー量で確認できる。残存モノマー量は、無機材料に対する接着性の観点から、(A1)、(A2)の重量に基づいて好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下である。残存モノマー量はガスクロマトグラフィー法により測定できる。
【0020】
<無機材料用水性接着剤の耐湿性向上剤(J)>
本発明の無機材料用水性接着剤の耐湿性向上剤(J)は、前記(共)重合体(A1)および(共)重合体(A2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の(共)重合体(A)を含有してなる。
(共)重合体(A)のうち、接着性、耐湿性、剛性の観点から、好ましいのは(A1)、又は(A1)と(A2)との併用であり、さらに好ましいのは(A1)である。
また、上記(A1)と(A2)とを併用する場合、(A1)と(A2)との重量比[(A1)/(A2)]は、好ましくは30/70~95/5、さらに好ましくは40/60~90/10、とくに好ましくは50/50~85/15である。
(J)の重量に基づく、(A)の重量は、工業上および取扱いの観点から、好ましくは10~80重量%、さらに好ましくは20~60重量%である。
この耐湿性向上剤(J)は、後述の無機材料用水性接着剤(X)用の耐湿性向上剤として好適に用いられる。
【0021】
<主剤(D)>
本発明における主剤(D)は、例えば、デンプン(D1)、ポリビニルアルコール(D2)、3個~20個の単糖から構成された糖(D3)及び5価以上の多価カルボン酸(D4)からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0022】
デンプン(D1)としては、例えば、トウモロコシを原料とするコーンスターチ、酸化デンプンが挙げられる。
【0023】
ポリビニルアルコール(D2)としては、公知のものを使用でき、重量平均分子量(Mw)は好ましくは5,000~100,000、さらに好ましくは10,000~50,000である。なお、ケン化度は、好ましくは70~100、さらに好ましくは80~100である。
【0024】
糖(D3)としては、3個~20個の単糖から構成された糖であり、好ましくは3個~15個の単糖から構成された糖である。糖(D3)としては、例えば、三糖(ラフィノース等)、オリゴ糖が挙げられる。糖(D3)のうち、接着性の観点から、好ましいのはオリゴ糖である。
【0025】
多価カルボン酸(D4)としては、例えば、ポリアクリル酸(Mw1,000~5,000)が挙げられる。
【0026】
前記主剤(D)のうち、接着性および剛性の観点から、好ましいのは(D1)、(D2)、(D4)であり、さらに好ましいのは(D1)、(D2)であり、とくに好ましいのは(D1)である。
【0027】
<架橋剤(C)>
本発明における架橋剤(C)は、前記主剤(D)と反応し得る官能基を少なくとも2個有するものである。架橋剤(C)としては、例えば、尿素(C1)、ホウ素化合物(C2)、ポリアミン(C3)、アルカノールアミン(C4)及び2価~4価の多価カルボン酸(C5)からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0028】
ホウ素化合物(C2)としては、例えば、ホウ砂、ホウ酸が挙げられる。
ポリアミン(C3)としては、例えば、1,6-ヘキサンジアミン、トリエチレンヘキサミンが挙げられる。
アルカノールアミン(C4)としては、例えば、イソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンが挙げられる。
2価~4価の多価カルボン酸(C5)としては、例えば、マレイン酸、トリメリット酸、エチレンテトラカルボン酸が挙げられる。
【0029】
<無機材料用水性接着剤(X)>
本発明の無機材料用水性接着剤(X)は、前記耐湿性向上剤(J)と、主剤(D)と、架橋剤(C)と、水とを含有してなる。
この無機材料用水性接着剤(X)は、無機材料(ガラス、セラミック、金属)用の水性接着剤として用いることができ、とりわけグラスウール、ロックウール等の無機繊維用の水性接着剤(いわゆる無機繊維用水性バインダー)として好適に用いることができる。
【0030】
主剤(D)と架橋剤(C)との合計重量に基づいて、(共)重合体(A)の重量<(A)/[(D)+(C)]>は、剛性および接着性の観点から、好ましくは1~25重量%、さらに好ましくは3~15重量%、とくに好ましくは5~10重量%である。
【0031】
主剤(D)と架橋剤(C)との組合せ[(D)/(C)]としては、好ましいのは(D1)/(C1)、(D1)/(C3)、(D1)/(C4)、(D1)/(C5)、(D2)/(C2)、(D2)/(C5)、(D3)/(C1)、(D3)/(C3)、(D3)/(C4)、(D3)/(C5)、(D4)/(C3)、(D4)/(C4)、さらに好ましいのは(D1)/(C1)、(D2)/(C2)、(D3)/(C3)、(D4)/(C3)、(D4)/(C4)、とくに好ましいのは(D1)/(C1)、(D2)/(C2)である。
【0032】
水性接着剤(X)の重量に基づいて、(A)と(D)と(C)の合計重量は、ハンドリング性の観点から、好ましくは10~70重量%、さらに好ましくは20~60重量%、とくに好ましくは30~50重量%である。
また、水の含有量は、水性接着剤(X)の重量に基づいて、好ましくは25~85重量%、さらに好ましくは35~75重量%、とくに好ましくは45~65重量%である。
【0033】
本発明の無機材料用水性接着剤(X)には、必要により、本発明の効果を阻害しない範囲で、硬化促進剤(次亜リン酸ナトリウム、アンモニア等)を含有してもよい。該硬化促進剤は、(A)と(D)と(C)との合計重量に基づいて、接着性の観点から、好ましくは1~15重量%、さらに好ましくは2~10重量%、とくに好ましくは3~5重量%である。
【0034】
本発明の無機材料用水性接着剤(X)の製造方法としては、前記(共)重合体(A)を含有してなる耐湿性向上剤(J)と、主剤(D)、架橋剤(C)、水、および必要により加えられる硬化促進剤を混合、分散できる方法であれば、とくに限定されることはない。混合時間は、例えば30分~3時間であり、無機材料用水性接着剤(X)の均一混合は目視で確認することができる。
なお、上記(J)、(D)、(C)、硬化促進剤は、それぞれ、溶液、好ましくは水溶液の形態で混合して、水性接着剤(X)を得てもよい。
【0035】
本発明の無機材料用水性接着剤(X)は、従来の、フェノール化合物とホルムアルデヒドとの縮合物であるフェノール樹脂からなるものではないことから、ホルムアルデヒドは含有しない。また、該無機材料用水性接着剤(X)は、後述の方法で評価される無機材料の接着性、無機材料の接着物の耐湿、剛性において極めて優れている。
【0036】
本発明の無機材料用水性接着剤(X)は、とりわけ耐熱性積層体材料である無機繊維用の水性接着剤として好適に用いられる。
無機繊維としては、ガラス繊維、スラグ繊維、岩綿、石綿、金属繊維等が挙げられる。
【0037】
<無機材料接着物>
本発明の無機材料接着物は、無機材料が無機材料用水性接着剤(X)の硬化物で接着したものである。なお、無機材料が、無機繊維である場合、本発明の無機材料接着物は好ましくは後述の無機繊維積層体である。
【0038】
無機材料接着物において、無機材料の重量に基づく水性接着剤(X)の硬化物付着量は、無機材料の接着性、および無機材料接着物の剛性、耐湿性の観点から好ましくは0.5~30重量%、さらに好ましくは1~20重量%、とくに好ましくは2~15重量%である。
【0039】
<無機繊維積層体>
無機繊維積層体は、前記水性接着剤(X)の硬化物が無機繊維積層物に付着した無機繊維積層体である。すなわち、例えば、無機繊維に前記水性接着剤(X)を付着させ、これを積層して積層物とした後、これを加熱、成形するか、あるいは、該無機繊維またはそのストランド(繊維束)を積層して積層物とし、これに前記水水性接着剤(X)を散布し付着させて、これを加熱、成形することにより得られる。
水性接着剤(X)の該無機繊維またはその積層物への付着方法としては、例えばエアスプレー法またはエアレススプレー法、パッディング法、含浸法、ロール塗布法、カーテンコーティング法、ビーターデポジション法、凝固法等の公知の方法が挙げられる。
【0040】
無機繊維積層体を構成する無機繊維(無機繊維積層物)の重量に基づく水性接着剤(X)の硬化物付着量は、無機繊維の接着性、積層体表面の平滑性および積層体の剛性、耐湿性の観点から好ましくは0.5~30重量%、さらに好ましくは1~20重量%、とくに好ましくは2~15重量%である。
【0041】
本発明の無機材料接着物(好ましくは無機繊維積層体)の製造に際して、水性接着剤(X)は、例えば、無機材料(好ましくは無機繊維)に適当量付着させた後、加熱して硬化させる。
加熱温度は、該積層体の、接着性、耐湿性および該積層体の着色抑制、工業上の観点から好ましくは100~400℃、さらに好ましくは200~350℃である。
加熱時間は、反応率および該無機材料接着物(好ましくは無機繊維積層体)の着色抑制の観点から好ましくは2~90分、さらに好ましくは5~40分である。
【0042】
本発明の耐湿性向上剤(J)、無機材料用水性接着剤(X)は、無機材料(好ましくは無機繊維)の接着性に優れ、無機材料接着物(好ましくは無機繊維積層体)に優れた剛性、耐湿性を付与できる。これは、前記(J)、(X)の構成により、硬化途上で接着剤溶融物が無機材料の接着面、無機繊維の場合には無機繊維の交点に効率的に集まりやすく、該接着面、該交点で効率的に硬化が進行するとともに、その硬化物の樹脂物性に優れるためと推定される。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下において部および%はそれぞれ重量部および重量%を示す。
【0044】
<実施例1>
オートクレーブに、イソプロパノール435部[溶媒]を仕込み、撹拌下窒素を通気してオートクレーブ内の窒素置換を行った(気相酸素濃度500ppm以下)。窒素を吹き込みながら82℃に昇温した後、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)[開始剤]4.5部をイソプロパノール100部に溶解させた溶液(3-メルカプトプロピオン酸[連鎖移動剤]は使用しない)と、アクリル酸(a1-1)282部とアクリル酸2-エチルヘキシル(a2-5)7.9部との混合液とを同時に3時間かけて滴下し、さらに82℃で2時間撹拌して重合反応を行った。
その後、溶液中のイソプロパノールを脱溶剤し、不揮発分が40%になるように水を加え、(共)重合体(A-1)を含有してなる無機材料用水性接着剤の耐湿性向上剤(J-1)[水溶液]を得た。なお、(A-1)はMw12,000、酸価760mgKOH/gであった。
【0045】
<実施例2~10>
実施例1において、表1の反応組成(部)にしたがった以外は、実施例1と同様にして、各耐湿性向上剤(J)を得た。
【0046】
<実施例11>
オートクレーブに、水170部[溶媒]を仕込み、撹拌下窒素を通気してオートクレーブ内の窒素置換を行った(気相酸素濃度500ppm以下)。窒素を吹き込みながら100℃に昇温した後、次亜リン酸ナトリウム36.4部[還元剤]を水145部に溶解させた溶液[開始剤]と、過酸化水素水(30%水溶液)13.3部[酸化剤]とアクリル酸(a1-1)310部を同時に3時間かけて滴下し、さらに100℃で2時間撹拌して重合反応を行った。
その後、不揮発分が40%になるように水を加え、(共)重合体(A-11)を含有してなる無機材料用水性接着剤の耐湿性向上剤(J-11)[水溶液]を得た。なお、(A-11)はMw9,400、酸価780mgKOH/gであった。
【0047】
<実施例12~15、比較例1>
実施例1において、表1の反応組成(部)にしたがった以外は、実施例1と同様にして、各耐湿性向上剤(J)を得た。結果を表1に示す。
【0048】
<製造例1>
容器に、水60部を仕込み、撹拌しながらデンプン「コーンスターチ(Y)」[三和澱粉工業社製](D-1)30部を1時間かけて仕込んだ。ここに尿素(C-1)を10部仕込み、さらに1時間撹拌して、(D-1)と(C-1)との水溶液[40%]を得た。
【0049】
<製造例2>
容器に、水60部を仕込み、撹拌しながら酸化デンプン「王子エースL」[王子コーンスターチ社製](D-2)22部を1時間かけて仕込んだ。ここに、トリメリット酸(C-2)18部を仕込み、さらに1時間撹拌して、(D-2)と(C-2)との水溶液[40%]を得た。
【0050】
<製造例3>
容器に、水60部を仕込み、撹拌しながらポリビニルアルコール「JL-05E」[日本酢ビ・ポバール社製](D-3)38部を1時間かけて仕込んだ。ここにホウ砂(C-3)を2部仕込み、さらに1時間撹拌して、(D-3)と(C-3)との水溶液[40%]を得た。
【0051】
<製造例4>
容器に、水32部を仕込み、撹拌しながらポリアクリル酸(D-4)水溶液[Mw=4000、濃度50%]56部を1時間かけて仕込んだ。ここにトリエタノールアミン(C-4)12部を撹拌しながら仕込み、さらに1時間撹拌して、(D-4)と(C-4)との水溶液[40%]を得た。
【0052】
<製造例5>
容器に、水60部を仕込み、撹拌しながら、糖[MALTRIN(登録商標)M200、三晶(株)製](D-5)30部を1時間かけて仕込んだ。ここに1,6-ヘキサンジアミン(C-5)10部を仕込み、さらに1時間撹拌して、(D-5)と(C-5)との水溶液[40%]を得た。
【0053】
<実施例16~43、比較例2>
表2、3に示した配合組成(部)に従って、容器に仕込み、混合して、各無機材料用水性接着剤(X)を調製した。得られた水性接着剤(X)を用いて下記要領で無機繊維積層体の試験片を作成し、それぞれ後述の方法で評価した。結果を表2、3に示す。
【0054】
<無機繊維積層体の作成>
タテ×ヨコ×厚みが30cm×30cm×2cm、密度が0.035g/cm3のガラス繊維積層物を、離型処理したタテ×ヨコ×深さが30cm×30cm×5cmの平板金型内に載置した。
次に、硬化物付着量が該積層物の重量に対して15%相当量となるように、各水性接着剤をそれぞれエアスプレーを使用して該積層物に均一噴霧した。その後、220℃の循風乾燥機で40分間熱処理(乾燥、硬化)を行い、厚み約2cm、密度0.040g/cm3の積層体(S-1)を得た。同様にして積層体(S-1)を合計5個作成した。
【0055】
(1)接着性の評価
各積層体(S-1)から、長さ×幅×厚みが10cm×1.5cm×2cmの試験片を切り出した。これら5個の試験片をオートグラフ[型番「AGS-500D」、(株)島津製作所製]を用いてJISR3420「ガラス繊維一般試験方法」の「7.4引張強さ」に準拠して引張強さを測定し、試験片5個の平均値を下記の基準で接着性を評価した。
<評価基準>
☆:500N/m2以上
◎:450N/m2以上500N/m2未満
○:400N/m2以上450N/m2未満
△:300N/m2以上400N/m2未満
×:300N/m2未満
【0056】
(2)耐湿性の評価
各積層体(S-1)から長さ×幅×厚みが10cm×1.5cm×2cmの試験片を5個切り出した。それらを50℃、湿度80%RHの恒温恒室機に60分間入れた。その後取り出し、25℃、30%RHで60分間、目開き400μmの篩の上に静置した。
その耐湿性試験後の試験片について前記(1)と同様に引張り強度を測定して、耐湿性試験後の強度×100/上記(1)の強度(単位:%)を算出し、以下の評価基準で耐湿性の評価を行った。
<評価基準>
☆:90%以上
◎:80%以上、90%未満
○:70%以上、80%未満
△:60%以上、70%未満
×:60%未満
【0057】
(3)剛性の評価
各積層体(S-1)からタテ30cm×ヨコ0.5cm×厚み2cmの積層体を切り出して、これを長さ×幅×厚みが30cm×2cm×0.5cmの試験片として用いた。試験片を支点間距離25cmの台に置き、25℃の試験片のたわみ率を測定し、試験片5個の平均値を下記の基準で剛性を評価した。
試験片のたわみ率(%)=たわみ(mm)×100/250
<評価基準>
☆:たわみ率1.0%未満
◎:たわみ率1.0%以上、2.0%未満
○:たわみ率2.0%以上、3.0%未満
△:たわみ率3.0%以上、5.0%未満
×:たわみ率5.0%以上
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
表1~3の結果から、本発明の無機材料水性接着剤用耐湿性向上剤(J)は、比較のものに比べて、無機材料用水性接着剤に、優れた無機材料(とくに無機繊維)の接着性を付与し、さらに無機材料の接着物(とくに無機繊維積層体)に優れた耐湿性と剛性とを付与することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の無機材料水性接着剤用耐湿性向上剤(J)、無機材料用水性接着剤(X)は、無機材料(とりわけ耐熱性積層体材料である無機繊維であるガラス繊維等)を接着するのに好適であり、該水性接着剤を用いた無機材料接着物(とくに無機繊維積層体)は、各種無機材料の接着物、とくに建築物や各種装置の断熱材、保温材および吸音材等として幅広い分野に適用できることから、極めて有用である。