IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立製作所の特許一覧

<>
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図1
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図2
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図3
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図4
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図5
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図6
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図7
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図8
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図9
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図10
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図11
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図12
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図13
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図14
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図15
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図16
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図17
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図18
  • 特許-診断システムおよび診断方法 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】診断システムおよび診断方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20220922BHJP
【FI】
G05B23/02 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020569288
(86)(22)【出願日】2019-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2019003440
(87)【国際公開番号】W WO2020157927
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】新家 隆秀
(72)【発明者】
【氏名】沼田 逸平
(72)【発明者】
【氏名】永井 隆之
(72)【発明者】
【氏名】片山 緋沙子
(72)【発明者】
【氏名】植木 洋輔
【審査官】牧 初
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-016509(JP,A)
【文献】特開平10-283013(JP,A)
【文献】特開平09-022432(JP,A)
【文献】特開2004-234536(JP,A)
【文献】特開2005-190271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00-23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の保守対象物に関して契約されている保険に関して、前記保守対象物において所定基準の故障確率を維持した場合の、保険会社に支払うべき年間保険料および前記保守対象物に対する保守実施機会ごとに保険会社から支払われる保険金、の少なくともいずれかの情報を保持する記憶装置と、
前記保守対象物に対して、所定時期に、複数の保守内容それぞれでの保守を実施し、複数の運転内容それぞれでの運転を実施した場合における、当該保守対象物での少なくとも前記所定時期以降の故障確率推移の推定情報をグラフ表示するに際し、前記年間保険料および前記保険金の少なくともいずれかの情報に基づき、前記年間保険料および前記保険金が変動する閾値となる前記故障確率の基準について、保険料および保険金を現状で維持するもの、保険料が現状から一定割合増となるもの、及び保険料が現状から一定割合減となるもの、をそれぞれ示す当該保険のインセンティブ変動ラインとして前記グラフ表示中に表示する演算装置と、
を備えることを特徴とする診断システム。
【請求項2】
前記記憶装置は、
前記保守対象物に関する所定事象の観測値、前記保守対象物に関する保守履歴、および前記保守対象物の運転履歴を保持するものであり
前記演算装置は、
前記観測値と、前記保守履歴または前記運転履歴の少なくともいずれかとを入力として所定の機械学習アルゴリズムに適用して、前記運転履歴が示す運転内容または前記保守履歴が示す保守内容の少なくともいずれかと、当該運転内容での運転実施または当該保守内容での保守実施の少なくともいずれかによる前記事象の観測値の変動内容との相関関係を特定し、
前記事象が前記保守対象物の故障確率に与える影響に関して予め規定した説明変数式を含む故障確率評価アルゴリズムと、前記相関関係とに基づき、複数の前記保守内容それぞれでの保守を前記所定時期に実施した場合の、前記保守対象物での少なくとも前記所定時期以降の故障確率の推移を推定するものである、
ことを特徴とする請求項に記載の診断システム。
【請求項3】
前記演算装置は、
前記故障確率の推移の推定に際し、前記1または複数の運転内容それぞれに関して、当該運転内容を規定する所定条件のユーザ指定を受け付け、当該条件で既定された運転内容での運転を前記所定時期に実施した場合の、前記保守対象物での少なくとも前記所定時期以降の故障確率の推移を推定するものである、
ことを特徴とする請求項に記載の診断システム。
【請求項4】
前記演算装置は、
前記所定条件のユーザ指定として、前記保守対象物の稼働率、使用資材、および構成部品の属性の少なくともいずれかについて受け付けるものである、
ことを特徴とする請求項に記載の診断システム。
【請求項5】
情報処理システムが、
所定の保守対象物に関して契約されている保険に関して、前記保守対象物において所定基準の故障確率を維持した場合の、保険会社に支払うべき年間保険料および前記保守対象物に対する保守実施機会ごとに保険会社から支払われる保険金、の少なくともいずれかの情報を保持する記憶装置を備え、
前記保守対象物に対して、所定時期に、複数の保守内容それぞれでの保守を実施し、複数の運転内容それぞれでの運転を実施した場合における、当該保守対象物での少なくとも前記所定時期以降の故障確率推移の推定情報をグラフ表示するに際し、前記年間保険料および前記保険金の少なくともいずれかの情報に基づき、前記年間保険料および前記保険金が変動する閾値となる前記故障確率の基準について、保険料および保険金を現状で維持するもの、保険料が現状から一定割合増となるもの、及び保険料が現状から一定割合減となるもの、をそれぞれ示す当該保険のインセンティブ変動ラインとして前記グラフ表示中に表示する、
ことを特徴とする診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断システムおよび診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種工場や発電設備といったプラント、或いは水道網や送電網等のインフラは、その稼働内容や周囲環境に応じて負荷がかかり、時間経過と共に劣化や故障を生じうる。
【0003】
そのため、こうした劣化や故障に対処すべく、一定期間ごとの保守、すなわちTBM(Time Based Maintenance)が主として実施される。保守作業には、当然ながら手間やコストを要するため、その効率や精度の改善を図る種々の従来技術が提案されている。
【0004】
例えば、機械設備の健康状態を監視するヘルスマネージメントシステムであって、前記機械設備に設置された複数のセンサから取得したセンサデータ、又は前記センサデータ及び前記機械設備の設置環境を表す環境データを、時系列データとして取得する時系列データ取得部と、前記機械設備が正常な状態のときに取得した前記時系列データである正常データを学習データとして用いた統計的手法により前記機械設備の設備状態及び前記機械設備の性能又は品質の状態を示す健康状態を定量化する状態定量化部と、前記定量化した設備状態及び前記定量化した健康状態を、表示又は/及び外部に出力する出力部と、を備えることを特徴とするヘルスマネージメントシステム(特許文献1参照)などが提案されている。
【0005】
また、プラント又は設備の異常或いはその予兆を検知し、前記プラント又は設備を診断する異常検知・診断方法であって、複数のセンサから取得したデータを対象に前記プラント又は設備の異常を検知し、前記プラント又は設備の保守履歴情報からキーワードを抽出し、該抽出したキーワードを用いて前記プラント又は設備の診断モデルを生成し、この該生成した診断モデルを用いて前記プラント又は設備の診断を行うことを特徴とする異常検知・診断方法。(特許文献2参照)なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-088079号公報
【文献】特開2011-227706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、種々の保守作業や稼働内容が当該保守対象に及ぼす影響を、故障確率や必要コストなどの各面で効率良く推定し、ユーザに提示する手法は提案されていない。このことは、適宜な保守作業のタイミングや内容について有用な判断材料が提供されていないことを意味する。また、上述の保守作業の実施状況やそれによる故障確率の推移は、当該保守対象に関する価値判断の材料ともなりうるが、そうした情報が提供されることもなかった。
【0008】
そこで本発明の目的は、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関する好適な判断材料を提供可能とする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の診断システムは、所定の保守対象物に関して契約されている保険に関して、前記保守対象物において所定基準の故障確率を維持した場合の、保険会社に支払うべき年間保険料および前記保守対象物に対する保守実施機会ごとに保険会社から支払われる保険金、の少なくともいずれかの情報を保持する記憶装置と、前記保守対象物に対して、所定時期に、複数の保守内容それぞれでの保守を実施し、複数の運転内容それぞれでの運転を実施した場合における、当該保守対象物での少なくとも前記所定時期以降の故障確率推移の推定情報をグラフ表示するに際し、前記年間保険料および前記保険金の少なくともいずれかの情報に基づき、前記年間保険料および前記保険金が変動する閾値となる前記故障確率の基準について、保険料および保険金を現状で維持するもの、保険料が現状から一定割合増となるもの、及び保険料が現状から一定割合減となるもの、をそれぞれ示す当該保険のインセンティブ変動ラインとして前記グラフ表示中に表示する演算装置と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の診断方法は、情報処理システムが、所定の保守対象物に関して契約されている保険に関して、前記保守対象物において所定基準の故障確率を維持した場合の、保険会社に支払うべき年間保険料および前記保守対象物に対する保守実施機会ごとに保険会社から支払われる保険金、の少なくともいずれかの情報を保持する記憶装置を備え、前記保守対象物に対して、所定時期に、複数の保守内容それぞれでの保守を実施し、複数の運転内容それぞれでの運転を実施した場合における、当該保守対象物での少なくとも前記所定時期以降の故障確率推移の推定情報をグラフ表示するに際し、前記年間保険料および前記保険金の少なくともいずれかの情報に基づき、前記年間保険料および前記保険金が変動する閾値となる前記故障確率の基準について、保険料および保険金を現状で維持するもの、保険料が現状から一定割合増となるもの、及び保険料が現状から一定割合減となるもの、をそれぞれ示す当該保険のインセンティブ変動ラインとして前記グラフ表示中に表示する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関する好適な判断材料を提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態における診断システムを含むネットワーク構成図である。
図2】本実施形態における診断システムのハードウェア構成例を示す図である。
図3】本実施形態におけるセンサDBの構成例を示す図である。
図4】本実施形態における計測データの構成例を示す図である。
図5】本実施形態におけるイベントDBの構成例を示す図である。
図6】本実施形態における運転DBの構成例を示す図である。
図7】本実施形態における推定結果DBの構成例を示す図である。
図8】本実施形態におけるインセンティブ変動基準DBの構成例を示す図である。
図9】本実施形態における信用値DBの構成例を示す図である。
図10】本実施形態における診断方法のフロー例1を示す図である。
図11】本実施形態における診断方法のフロー例2を示す図である。
図12】本実施形態における診断方法のフロー例3を示す図である。
図13】本実施形態における出力例1を示す図である。
図14】本実施形態における診断方法のフロー例4を示す図である。
図15】本実施形態における出力例2を示す図である。
図16】本実施形態における診断方法のフロー例5を示す図である。
図17】本実施形態における診断方法のフロー例6を示す図である。
図18】本実施形態における信用値の算定式例を示す図である。
図19】本実施形態における出力例3を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
---ネットワーク構成---
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は本実施形態の診断システム100を含むネットワーク構成例を示す図である。図1に示す診断システム100は、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関する好適な判断材料を提供可能とするためのコンピュータシステムである。
【0016】
診断システム100は、例えば、いわゆるO&M(Operation & Management)事業者が運用し、保守対象物に関する保全計画の立案・実行に際して利用する情報処理システムを想定できる。勿論、この運用形態等は一例であって、保守対象物に事業価値を見いだしている保険会社や金融機関など、その他の事業者等が運用・利用するとしてもよい。
【0017】
こうした診断システム100は、インターネット或いは専用線などの適宜なネットワーク10に接続され、保守対象物たるプラント200、センサユニット300、保険会社システム400、および金融機関システム500とデータ通信可能となっている。なお、診断システム100に、センサユニット300が含まれるとしてもよい。
【0018】
このうちプラント200は、上述のとおり保守対象物の一例であって、具体的には、発電プラントや化学プラントなどを想定できる。センサユニット300は、このプラント200の所定箇所ないし周辺に配置され、センシング対象すなわち観測事象に関する観測値を計測データ325として一定時間ごとに得て、これをネットワーク10を経由して診断システム100に提供するものとなる。
【0019】
センサユニット300の観測事象としては、例えば、プラント200における各種機構や加工物、搬送物等の温度、振動量、回転数、電流値、電圧値、流量、流速、など種々のものを想定可能である。
【0020】
また、保険会社システム400は、保守対象物であるプラント200に関して、プラント保有者や、或いは上述のO&M(Operation & Management)事業者と、保険契約を締結している事業者のシステムである。ここで契約対象となる保険は、当該プラント200での故障や事故での損害を補償する保険であり、該当イベント発生時に所定の保険金が支払われるものである。
【0021】
また、金融機関システム500は、上述のプラント200を担保にしてプラント保有者への融資を行う金融機関のシステムである。そのため、この金融機関は、プラント200の価値について精度良く認識しておく必要がある。
【0022】
---ハードウェア構成例---
また、診断システム100のハードウェア構成は、図2に示す如くとなる。すなわち、診断システム100は、記憶装置101、メモリ103、CPU104(演算装置)、入力装置105、出力装置106、および通信装置107を備える。
【0023】
このうち記憶装置101は、ハードディスクドライブなど適宜な不揮発性記憶素子で構成される。
【0024】
また、メモリ103は、RAMなど揮発性記憶素子で構成される。
【0025】
また、CPU104は、記憶装置101に保持されるプログラム102をメモリ103に読み出すなどして実行しシステム自体の統括制御を行なうとともに各種判定、演算及び制御処理を行なう演算装置である。
【0026】
また、入力装置105は、ユーザの入力操作を受け付けるキーボードやマウス、マイクを想定する。
【0027】
また、出力装置106は、CPU104での処理結果を画像や音声等の適宜な形態で出力するディスプレイやスピーカーを想定する。
【0028】
また、通信装置107は、ネットワーク10と接続して、センサユニット300、保険会社システム400、および金融機関システム500といった他装置との通信処理を担うネットワークインターフェイスカード等である。
【0029】
---データ構成例---
続いて、本実施形態の診断システム100が用いる情報について説明する。図3に、本実施形態におけるセンサDB125の一例を示す。
【0030】
センサDB125は、診断システム100がセンサユニット300から得た観測値すなわち計測データ325(図4)を蓄積したデータベースである。
【0031】
そのデータ構造は、例えば、計測日時をキーとして、データリソースのセンサユニット300を一意に特定するセンサID、観測事象、および観測値、といったデータから成るレコードの集合体である。
【0032】
なお、上述の計測データ325は、図4に示すように、センサDB125のレコードと同様の構成となっている。
【0033】
また、図5は本実施形態におけるイベントDB126の構成例を示す図である。本実施形態におけるイベントDB126は、プラント200で発生した故障や事故、或いは、当該プラント200において実施した保守作業といった各種イベントに関する情報を蓄積したデータベースである。
【0034】
こうした情報は、例えば、当該プラント200の管理者等が入力装置105を操作して入力したものや、或いは、センサユニット300から発信された所定の信号(故障や事故に対応したもの)を診断システム100が取得したもの、などを想定できる。
【0035】
そのデータ構造は、発生日時をキーとして、イベント種類、発生箇所、および対応に要したコストといったデータから成るレコードの集合体である。
【0036】
また、図6は本実施形態における運転DB127の構成例を示す図である。本実施形態における運転DB127は、プラント200において実際に設定・運用された運転内容に関する情報を蓄積したデータベースである。
【0037】
そのデータ構造は、対象期間をキーとして、対象、および内容といったデータから成るレコードの集合体である。
【0038】
また、図7は本実施形態における推定結果DB128の構成例を示す図である。本実施形態における推定結果DB128は、プラント200での故障確率推移の推定結果を蓄積したデータベースである。
【0039】
そのデータ構造は、推定対象の機器を一意に特定する機器IDをキーとして、当該機器に対して想定する保守内容ないし運転内容、当該保守内容ないし運転内容を実施した場合のコスト(保守実施時コスト、故障時コスト、および事故時コスト)と故障確率推移、およびコスト期待値、といったデータから成るレコードの集合体である。
【0040】
なお、故障確率推移は、故障確率の時間推移を表す線分を示す数式となるため、図7の例では、当該数式を記述したファイルを値として格納している。
【0041】
また、コスト期待値は、現時点から例えば1ヶ月後、2ヶ月後、といった月単位での時間経過ごとのコスト期待値を例示している。この月単位の時間経過は、次に到来する直近の定期保守実施予定日を想定してもよい。
【0042】
また、この推定結果DB128は、本実施形態の診断方法を未実施の場合、レコードは未格納状態となる。
【0043】
また、図8は本実施形態におけるインセンティブ変動基準DB129の構成例を示す図である。本実施形態におけるインセンティブ変動基準DB129は、上述のプラント200の運営者が保持する保険契約について、その保険対象すなわち保守対象物での故障確率に関して、適用すべき保険料や保険金が変動する閾値を変動基準値として蓄積したデータベースである。
【0044】
そのデータ構造は、保険契約の識別情報たる例えば証券番号をキーとして、保険名、保険料変動の閾値となる故障確率の基準値、および保険金変動の閾値となる故障確率の基準値といったデータから成るレコードの集合体である。
【0045】
このうち、保険料変動に関する故障確率の基準値については、「維持」、「10%増」、といった各条件について、また、保険金変動に関する故障確率の基準値については、「維持」、「10%減」、といった各条件について規定した例を示した。「維持」の場合、当該保険の契約時の保険料や保険金を維持できる条件を示している。また、「10%増」の場合、当該保険の契約時の保険料が10%アップしてしまう条件を示している。また、「10%減」の場合、当該保険の契約時の保険金が10%ダウンしてしまう条件を示している。
【0046】
また、図9は本実施形態における信用値DB130の構成例を示す図である。本実施形態における信用値DB130は、プラント200に関する信用値に関する情報を蓄積したデータベースである。この信用値は、プラント200の総稼働時間のうち故障確率が所定レベル以下である割合を示すものである。また、信用値は、プラント200全体として算定したものと、当該プラント200が含む機器ごとに算定したものの少なくともいずれかである。
【0047】
そのデータ構造は、対象機器を一意に特定する機器IDをキーとして、機器の種類、対象期間、および信用値といったデータから成るレコードの集合体である。
【0048】
---フロー例1---
以下、本実施形態における診断方法の実際手順について図に基づき説明する。以下で説明する診断方法に対応する各種動作は、診断システム100がメモリ103に読み出して実行するプログラムによって実現される。そして、これらのプログラムは、以下に説明される各種の動作を行うためのコードから構成されている。
【0049】
図10は、本実施形態における診断方法のフロー例1を示す図である。この場合、まず、プラント200におけるセンサユニット300が、自身の観測対象に関して保持している計測データ325を、診断システム100に送信する(s1)。
【0050】
一方、診断システム100は、上述のセンサユニット300から計測データ325を受信する(s2)。
【0051】
また、診断システム100は、s2d得た計測データ325を含むレコードを生成(s3)し、これをセンサDB125に格納し(s4)、処理を終了する。ここまでの処理でセンサDB125が生成されることとなる。
【0052】
---フロー例2---
図11は、本実施形態における診断方法のフロー例2を示す図である。続いて、イベントDBの生成フローについて説明する。
【0053】
この場合、プラント200のセンサユニット300は、計測データ325を診断システム100に送信する(s5)。
【0054】
一方、診断システム100は、上述のセンサユニット300から得た計測データ325を、所定の判定ルールに照合して、イベント発生の有無を判定する(s6)。
【0055】
上述の判定ルールは、例えば、観測事象ごとに予め定めている、観測値における正常時の範囲、故障時の範囲、および事故時の範囲であって、これらのいずれかの範囲に計測データ325が属するか否かで、当該観測事象に関するイベント発生状況を判定する、といった形態を想定できる。
【0056】
上述の判定の結果、正常時との判定がなされた場合(s7:N)、診断システム100は処理を終了する。
【0057】
他方、上述の判定の結果、故障または事故のイベント発生が特定された場合(s7:Y)、診断システム100は、当該計測データ325が示す計測日時である発生日時、イベントの判定結果が示すイベント種類、および当該計測データ325が示す観測事象に基づく発生箇所、の各値を含むレコードを生成し、これをイベントDB126に格納し(s8)、処理を終了する。
【0058】
ここまでの処理でイベントDB126が生成されることとなる。
【0059】
---フロー例3---
図12は、本実施形態における診断方法のフロー例3を示す図である。続いて、プラント200における故障確率推移について推定するフローについて説明する。
【0060】
この場合、診断システム100は、センサDB125が示す観測値と、イベントDB126が示す保守履歴ないし運転内容とを入力として機械学習アルゴリズム110に適用し、当該運転内容とそれによる運転実施による該当事象の観測値の変動内容との相関関係、または、上述の保守履歴が示す保守内容と、当該保守内容での保守実施による該当事象の観測値の変動内容との相関関係を特定する(s10)。ここで特定する相関関係としては、例えば、保守内容として「メンテA」を実施すると、センサ「S1」の観測事象「軸温度」が「5%ダウン」、といったものが想定される。
【0061】
続いて、診断システム100は、s10で得た相関関係の情報を故障確率評価エンジン111に適用し、現時点から例えば1ヶ月後、2ヶ月後、といった所定時期に、「メンテA」、「メンテB」といった複数種の保守内容それぞれでの保守を実施した場合の、および「稼働率:75%」、「稼働率:70%」といった複数種の運転内容それぞれでの運転を実施した場合の、少なくともいずれかにおける、プラント200での上述の所定時期以降における故障確率の推移を推定する(s11)。
【0062】
なお、上述の故障確率評価エンジン111は、プラント200に関して、センサユニット300での観測事象が、プラント200ないしその構成機器の故障確率に与える影響に関して予め規定した説明変数式を含む故障確率評価アルゴリズムが該当する。
【0063】
上述の説明変数式は、各観測事象ごとの観測値を入力する変数(例:X~Z)に所定の重み付け係数(例:a~c)を付与した多項式で故障確率Yを定義する、Y=aX+bY+cZ、といった形態を想定できる。
【0064】
なお、上述の説明変数式は、所定の学習済み寿命モデルが示す寿命(故障発生の確率とも言える)のばらつきが最小となる場合の故障確率の式である。この学習済み寿命モデルは、時間経過に伴う故障の発生確率の分布(例:正規分布)を表現した故障率関数である。
【0065】
この故障率関数は、例えば、保守対象物たるプラント200の故障履歴や保守履歴(イベントDB126における故障イベントや保守イベントの情報)に基づく統計処理にて得られる関数である。
【0066】
この場合、診断システム100の故障確率評価エンジン111は、例えば、各保守内容で保守作業を実施する前、例えば、現時点に対応する時間(例:所定時点から現時点までの経過時間)に関して予め保持する説明変数式に、現時点で得られている最新の各観測事象の観測値を代入して故障確率Y1を得る。
【0067】
また、診断システム100の故障確率評価エンジン111は、上述の相関関係に基づき、例えば、各保守内容で保守作業を実施した場合の、各観測事象における観測値の変動状況を特定する。つまり、保守作業実施後における各観測事象の観測値を推定する。ここでは、こうした観測値の変動が保守作業実施から1ヶ月後に生じると仮定して説明する。
【0068】
続いて、診断システム100の故障確率評価エンジン111は、上述の各保守内容で保守作業を実施するした例えば現時点から1ヶ月後に対応する時間に関して予め保持する説明変数式に、上述で推定した観測値(保守作業により変動したもの)を代入し、現時点から1ヶ月後における故障確率Y2を得る。
【0069】
診断システム100は、こうした故障確率の推定を、各時期ごとに順次実行することで、故障確率の推移を推定できる。
【0070】
続いて、診断システム100は、s11で得た、現時点から例えば1ヶ月後、2ヶ月後、といった所定時期に、「メンテA」、「メンテB」といった複数種の保守内容それぞれでの保守を実施した場合の、および「稼働率:75%」、「稼働率:70%」といった複数種の運転内容それぞれでの運転を実施した場合の、少なくともいずれかにおける、プラント200での故障確率の推移(図13の画面1000)を、例えば表示装置106に表示し(s12)、処理を終了する。
【0071】
なお、図13の画面1000で例示するように、ユーザとしては、故障確率の推移の推定に際し、運転内容を規定する各条件の指定を行うことも可能である。よって、診断システム100は、このユーザ指定を受け付けるため、インターフェイス1001を画面1000で表示させる。
【0072】
このインターフェイス1001は、ユーザ指定として、保守対象物たるプラント200の稼働率、使用資材の量、および構成部品の属性である正規品/非正規品、といった各項目について受け付けるものとなる。
【0073】
この場合、診断システム100は、当該ユーザ指定の条件で既定された運転内容での運転を実施した場合について、上述のフローの各ステップを同様に実行し、プラント200での保守作業等の実施以降における故障確率の推移を推定することとなる。
【0074】
---フロー例4---
図14は、本実施形態における診断方法のフロー例4を示す図である。続いて、コスト期待値の算定フローについて説明する。
【0075】
この場合、診断システム100は、イベントDB126における保守履歴が示す保守実施時のコストと、故障および事故の各コストとに基づき、プラント200に対して、各保守内容それぞれでの保守を実施した場合の、および各運転内容それぞれでの運転を実施した場合の、少なくともいずれかにおけるプラント200での保守実施時コスト、故障時コスト、および事故時コストを規定したテーブルを生成する(s15)。
【0076】
具体的には、保守履歴が示す保守実施時のコストの平均値か中央値、故障時のコストの平均値か中央値、および、事故時のコストの平均値か中央値、を各機器ごとないしプラント200に関して算定し、この算定値を推定結果DB128のコスト各欄に設定する。
【0077】
続いて、診断システム100は、図12のフローで得ている故障確率の推移が示す各時期の故障確率に、s15で得た推定結果DB128のコスト欄が規定する故障時コストを乗算する処理、各保守内容それぞれでの保守を実施した場合の、および各運転内容それぞれでの運転を実施した場合の、少なくともいずれかにおける保守実施時コストを、上述の乗算の処理結果に加算し、プラント200におけるコスト期待値を算定する(s16)。
【0078】
なお、診断システム100は、上述のコスト期待値について、プラント200における各機器について算定するものとする。
【0079】
続いて、診断システム100は、s16で得たコスト期待値を、例えば、故障確率の推移と共に表示装置106に表示(図17の画面1100)させ(s17)、処理を終了する。
【0080】
図17の画面1100の例では、プラント200における「機器A」と「機器B」に関して、故障確率の推移と、コスト期待値とを合わせて表示させている形態を示している。
【0081】
---フロー例5---
図16は、本実施形態における診断方法のフロー例5を示す図である。続いて、保守対象物たるプラント200の将来価値の算定フローについて説明する。
【0082】
ここで、診断システム100は、プラント200における、耐用年数、単位時間当たり生産量、保守実施時のダウンタイム、所定基準の故障確率を維持した場合の年間保険料、および保守実施機会ごとに保険会社から支払われる保険金、の各情報を記憶装置101にて予め保持しているものとする。
【0083】
この場合、診断システム100は、プラント200に関して実施予定の保守内容、および当該保守内容での保守実施の契機とする故障確率のそれぞれについてのユーザ指定を入力装置105で受け付ける(s20)。
【0084】
続いて、診断システム100は、上述の図12のフロー例にて推定してある故障確率の推移において、上述のs20にてユーザ指定を受けた故障確率となる頻度をカウントし、当該カウントした頻度に、上述の耐用年数を乗算して、保守実施回数を算定する(s21)。 また、診断システム100は、現時点から上述の耐用年数までの残り稼働時間から、s20にてユーザ指定を受けた保守内容での保守実施時のダウンタイムに、s21で得た保守実施回数を乗算した値を減算して、総稼働時間を算定する(s22)。
【0085】
また、診断システム100は、この総稼働時間を、上述の単位時間当たり生産量に乗算して総生産量を算定する(s23)。
【0086】
また、診断システム100は、上述の保守実施時コストに、s21で得ている保守実施回数を乗算して総保守コストを算定する(s24)。
【0087】
また、診断システム100は、上述の年間保険料に上述の耐用年数を乗算して総支払い保険料を算定する(s25)。
【0088】
また、診断システム100は、上述の保守実施機会ごとの保険金に、s21で得ている保守実施回数を乗算して、保険金総額を算定する(s26)。
【0089】
続いて、診断システム100は、上述のs23で得た総生産量から、s24で得ている総保守コストおよび総支払い保険料を減算し、この減算結果に、s26で得ている保険金総額を加算することで、プラント200の将来価値を算定する(s27)。
【0090】
また、診断システム100は、この将来価値を表示装置106に表示するか、または保険会社システム400、金融機関システム500に送信し(s28)、処理を終了する。
【0091】
---フロー例6---
図17は、本実施形態における診断方法のフロー例6を示す図である。続いて、信用値の算定フローについて説明する。
【0092】
この場合、診断システム100は、上述の図16のフローで得ている総稼働時間と、図12のフローで得ている故障確率の推移とに基づき、総稼働時間のうち故障確率が所定レベル以下(例:10%以下)である割合を、保守対象物の信用値として算定(s30)。具体的には、図18に示す算定式にて信用値の算定を行うものとする。
【0093】
また、診断システム100は、s30で得た信用値を、表示装置106に表示するか、または保険会社システム400、金融機関システム500に送信し(s31)、処理を終了する。
【0094】
なお、診断システム100は、プラント200に関して契約されている保険に関して、インセンティブ変動基準DB129(図8)を参照し、プラント200において所定基準の故障確率を維持した場合の、保険会社に支払うべき年間保険料、およびプラント200に対する保守実施機会ごとに保険会社から支払われる保険金、の情報を抽出し、この情報に基づいて、年間保険料および前記保険金が変動する閾値を示すインセンティブ変動ライン(図18の画面1200における、線分1201、1202)を表示するとすれば好適である。
【0095】
図18におけるインセンティブ変動ライン1201は、保険料変動に関する故障確率の基準値のうち保険料および保険金を現状で「維持」するものを示している。
【0096】
また、インセンティブ変動ライン1202は、保険料変動に関する故障確率の基準値のうち保険料が現状から「10%増」となるもの、また、保険金変動に関する故障確率の基準値のうち現状から「10%減」となるものを示している。
【0097】
これによれば、保守対象物であるプラント200の運営・保守の担当者等に対し、保険料や保険金の観点に関して、好適なタイミング、頻度での保守作業の実施、運転内容の設定等の必要性を明確に提示できる。このことは保守意識の高まりにつながることも期待しうる。
【0098】
本実施形態の診断システムおよび診断方法によれば、プラント等での保守作業や運転設定、故障などの各種イベントの履歴と、当該時期に関するセンサデータをインプットとして、当該保守作業や運転の実施とこれに伴うセンサデータの推移との関係性を、機械学習を用いて推定し、これをユーザに提示可能となる。
【0099】
また、こうした関係性を所定の故障確率評価システムに適用することで、保守作業や運転方法の選択次第で、将来どのように故障確率が変化し、保守や故障等に際しどの程度のコストが必要となるか、をシミュレーションし、その結果をユーザに提示できることとなる。
【0100】
ユーザ側では、複数の保守・運転シナリオごとの故障確率の推移やコストの上下に関して容易に認識して、保守作業のタイミングや内容に関して判断材料として活用できる。このことは、プラント等の保守管理を行うユーザにおいて、TBMからCBM(Condition Based Maintenance)への移行を果たすことにつながりうるため、結果として保守コストの低減・最適化を図れることとなる。
【0101】
また、上述の故障確率の推移は、当該保険対象に関する保険契約における保険料、保険金の変動要因となりうるため、故障確率に関する保険料、保険金の変動基準をユーザに提示することで、当該ユーザにおける保守作業の意欲向上・維持を図ることが期待される。
【0102】
また、上述の故障確率の推移に基づき、保守対象のプラント等の価値を算出して、これを保険会社や銀行等に提示し、保険商品の設計業務や融資案件の与信業務に活用させることも可能となる。
【0103】
すなわち、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関する好適な判断材料を提供可能となる。
【0104】
本明細書の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。すなわち、本実施形態の診断システムにおいて、前記記憶装置は、前記保守対象物の運転履歴を更に保持し、前記演算装置は、前記観測値と、前記保守履歴または前記運転履歴の少なくともいずれかとを入力として所定の機械学習アルゴリズムに適用して、前記運転履歴が示す運転内容または前記保守履歴が示す保守内容の少なくともいずれかと、当該運転内容での運転実施または当該保守内容での保守実施の少なくともいずれかによる前記事象の観測値の変動内容との相関関係を特定するものである、としてもよい。
【0105】
これによれば、プラント等への保守作業に加えて、当該プラント等の運転内容による影響を踏まえた、センサデータ等の観測値の変動の相関関係を特定可能となる。このひいては、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関するより好適な判断材料を提供可能となる。
【0106】
また、本実施形態の診断システムにおいて、前記演算装置は、前記事象が前記保守対象物の故障確率に与える影響に関して予め規定した説明変数式を含む故障確率評価アルゴリズムと、前記相関関係とに基づき、所定時期に、複数の前記保守内容それぞれでの保守を実施した場合の、前記保守対象物での前記所定時期以降における故障確率の推移を推定するものである、としてもよい。
【0107】
これによれば、保守対象物における保守作業や運転内容が観測値の変動に与える影響について、当該保守対象物における故障確率の推移という形で更に具体的に特定することが可能となる。ひいては、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関するより好適な判断材料を提供可能となる。
【0108】
また、本実施形態の診断システムにおいて、前記演算装置は、前記説明変数式と前記相関関係とに基づき、前記所定時期に、1または複数の前記保守内容それぞれでの保守を実施した場合の、および1または複数の運転内容それぞれでの運転を実施した場合の、少なくともいずれかにおける、前記保守対象物での少なくとも前記所定時期以降における故障確率の推移を推定するものである、としてもよい。
【0109】
これによれば、保守対象物における保守作業に加えて、当該保守対象物の運転内容による影響も踏まえうる形態で、故障確率の推移を推定することが可能となる。ひいては、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関するより好適な判断材料を提供可能となる。
【0110】
また、本実施形態の診断システムにおいて、前記演算装置は、前記故障確率の推移の推定に際し、前記1または複数の運転内容それぞれに関して、当該運転内容を規定する所定条件のユーザ指定を受け付け、当該条件で既定された運転内容での運転を前記所定時期に実施した場合の、前記保守対象物での少なくとも前記所定時期以降における故障確率の推移を推定するものである、としてもよい。
【0111】
これによれば、運転内容の条件を詳細に指定した形態で故障確率の推移を特定することが可能となる。ひいては、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関するより好適な判断材料を提供可能となる。
【0112】
また、本実施形態の診断システムにおいて、前記演算装置は、前記所定条件のユーザ指定として、前記保守対象物の稼働率、使用資材、および構成部品の属性の少なくともいずれかについて受け付けるものである、としてもよい。
【0113】
これによれば、運転内容のより具体的な条件を指定した形態で、故障確率の推移を特定することが可能となる。ひいては、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関するより好適な判断材料を提供可能となる。
【0114】
また、本実施形態の診断システムにおいて、前記記憶装置は、前記保守対象物での過去の故障および事故の発生に際し必要となった各コストの情報を更に保持し、前記演算装置は、前記保守履歴が示す保守実施時のコストと、前記故障および前記事故の各コストとに基づき、前記保守対象物に対して、前記1または複数の前記保守内容それぞれでの保守を実施した場合の、および前記1または複数の運転内容それぞれでの運転を実施した場合の、少なくともいずれかにおける前記保守対象物での保守実施時コスト、故障時コスト、および事故時コストを規定したテーブルを生成するものである、としてもよい。
【0115】
これによれば、保守作業や運転内容によって異なりうる各種コストを特定可能となる。ひいては、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関するより好適な判断材料を提供可能となる。
【0116】
また、本実施形態の診断システムにおいて、前記演算装置は、前記故障確率の推移が示す各時期の故障確率に、前記テーブルが規定する故障時コストを乗算する処理と、前記所定時期に、前記1または複数の前記保守内容それぞれでの保守を実施した場合の、および前記1または複数の運転内容それぞれでの運転を実施した場合の、少なくともいずれかにおける前記保守実施時コストを、前記乗算の処理結果に加算して、前記保守対象物におけるコスト期待値を算定する処理と、を更に実行するものである、としてもよい。
【0117】
これによれば、保守作業や運転内容によって異なりうるコスト期待値を特定可能となる。ひいては、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関するより好適な判断材料を提供可能となる。
【0118】
また、本実施形態の診断システムにおいて、前記演算装置は、前記コスト期待値を複数の保守対象物について算定するものである、としてもよい。
【0119】
これによれば、保守対象物ごとに異なりうる、かつ、保守作業や運転内容によっても異なりうる上述のコスト期待値を特定可能となる。ひいては、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関するより好適な判断材料を提供可能となる。
【0120】
また、本実施形態の診断システムにおいて、前記記憶装置は、前記保守対象物における、耐用年数、単位時間当たり生産量、保守実施時のダウンタイム、所定基準の故障確率を維持した場合の年間保険料、および保守実施機会ごとに保険会社から支払われる保険金、の各情報を更に保持し、前記演算装置は、前記保守対象物に関して実施予定の保守内容、および当該保守内容での保守実施の契機とする故障確率のそれぞれについてのユーザ指定を受け付ける処理と、前記推定した故障確率の推移において、前記ユーザ指定を受けた前記故障確率となる頻度をカウントし、当該カウントした頻度に前記耐用年数を乗算して、保守実施回数を算定する処理と、前記耐用年数までの残り稼働時間から、前記ユーザ指定を受けた前記保守内容での保守実施時のダウンタイムに前記保守実施回数を乗算した値を減算して、総稼働時間を算定し、当該総稼働時間を前記単位時間当たり生産量に乗算して総生産量を算定する処理と、前記保守実施時コストに前記保守実施回数を乗算して総保守コストを算定する処理と、前記年間保険料に前記耐用年数を乗算して総支払い保険料を算定する処理と、前記保守実施機会ごとの前記保険金に前記保守実施回数を乗算して、保険金総額を算定する処理と、前記総生産量から、前記総保守コストおよび総支払い保険料を減算し、前記減算の結果に、前記保険金総額を加算することで、前記保守対象物の将来価値を算定する処理と、を更に実行するものである、としてもよい。
【0121】
これによれば、ユーザ指定の保守内容や運転内容など所定条件下における保守対象物の将来価値を特定可能となり、ひいては、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関するより好適な判断材料を提供可能となる。
【0122】
また、本実施形態の診断システムにおいて、前記演算装置は、前記総稼働時間と前記推定した故障確率の推移とに基づき、前記総稼働時間のうち故障確率が所定レベル以下である割合を、前記保守対象物の信用値として算定するものである、としてもよい。
【0123】
これによれば、保守対象物を被保険物として価値評価する必要性のある保険会社や、或いは、保守対象物を例えば動産として担保対象とみなして与信審査等を行う金融機関に向け、当該保守対象物が財を継続的に生み出しうる観点での価値を信用値として特定・提示することが可能となる。ひいては、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関するより好適な判断材料を提供可能となる。
【0124】
また、本実施形態の診断システムにおいて、保守対象物に関する所定事象の観測値、前記保守対象物に関する保守履歴、および前記保守対象物の運転履歴を保持する記憶装置を備え、前記演算装置は、前記観測値と、前記保守履歴または前記運転履歴の少なくともいずれかとを入力として所定の機械学習アルゴリズムに適用して、前記運転履歴が示す運転内容または前記保守履歴が示す保守内容の少なくともいずれかと、当該運転内容での運転実施または当該保守内容での保守実施の少なくともいずれかによる前記事象の観測値の変動内容との相関関係を特定し、前記事象が前記保守対象物の故障確率に与える影響に関して予め規定した説明変数式を含む故障確率評価アルゴリズムと、前記相関関係とに基づき、複数の前記保守内容それぞれでの保守を前記所定時期に実施した場合の、前記保守対象物での少なくとも前記所定時期以降の故障確率の推移を推定し、前記推定した故障確率の推移の情報を、前記故障確率推移の情報としてグラフ表示するものである、としてもよい。
【0125】
これによれば、保守対象物であるプラント等の運営・保守の担当者、或いは金融機関や保険会社の担当者等に対し、当該保守対象物における故障確率の推移を視覚的に明示することが可能となる。ひいては、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関するより好適な判断材料を提供可能となる。
【0126】
また、本実施形態の診断システムにおいて、前記演算装置は、前記故障確率の推移の推定に際し、前記1または複数の運転内容それぞれに関して、当該運転内容を規定する所定条件のユーザ指定を受け付け、当該条件で既定された運転内容での運転を前記所定時期に実施した場合の、前記保守対象物での少なくとも前記所定時期以降の故障確率の推移を推定するものである、としてもよい。
【0127】
これによれば、運転内容の条件を詳細に指定した形態で故障確率の推移を特定し、これを上述の担当者等に視覚的に提示することが可能となる。ひいては、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関するより好適な判断材料を提供可能となる。
【0128】
また、本実施形態の診断システムにおいて、前記演算装置は、前記所定条件のユーザ指定として、前記保守対象物の稼働率、使用資材、および構成部品の属性の少なくともいずれかについて受け付けるものである、としてもよい。
【0129】
これによれば、運転内容のより具体的な条件を指定した形態で、故障確率の推移を特定し、これを上述の担当者等に視覚的に提示することが可能となる。ひいては、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関するより好適な判断材料を提供可能となる。
【0130】
また、本実施形態の診断システムにおいて、前記保守対象物に関して契約されている保険に関して、前記保守対象物において所定基準の故障確率を維持した場合の、保険会社に支払うべき年間保険料および前記保守対象物に対する保守実施機会ごとに保険会社から支払われる保険金、の少なくともいずれかの情報を保持する記憶装置を備え、前記演算装置は、前記故障確率推移の推定情報のグラフ表示に際し、前記年間保険料および前記保険金の少なくともいずれかの情報に基づき、前記年間保険料および前記保険金が変動する閾値となる前記故障確率の基準について、当該保険のインセンティブ変動ラインとして前記グラフ表示中に表示するものである、としてもよい。
【0131】
これによれば、保守対象物であるプラント等の運営・保守の担当者等に対し、好適なタイミング、頻度での保守作業の実施、運転内容の設定等の必要性を明確に提示できる。このことは保守意識の高まりにつながることも期待しうる。ひいては、保守作業の計画や実行或いは保守対象の価値に関するより好適な判断材料を提供可能となる。
【符号の説明】
【0132】
10 ネットワーク
100 診断システム
101 記憶装置
102 プログラム
103 メモリ
104 CPU(演算装置)
105 入力装置
106 出力装置
107 通信装置
110 機械学習エンジン
111 故障確率評価エンジン
125 センサDB
126 イベントDB
127 運転DB
128 推定結果DB
129 インセンティブ変動基準DB
130 信用値DB
200 プラント(保守対象)
300 センサユニット
325 計測データ
400 保険会社システム
500 金融機関システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19