(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】ハチの巣への毒餌剤の運搬を促進させる方法
(51)【国際特許分類】
A01M 1/20 20060101AFI20220922BHJP
【FI】
A01M1/20 B
(21)【出願番号】P 2020571722
(86)(22)【出願日】2020-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2020031948
(87)【国際公開番号】W WO2021039757
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2020-12-22
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2019154666
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020006295
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】本田 拓之
(72)【発明者】
【氏名】前田 和輝
(72)【発明者】
【氏名】阿部 練
【合議体】
【審判長】住田 秀弘
【審判官】居島 一仁
【審判官】西田 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-238317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/20
A01N25/00-25/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毒餌剤の
使用時における糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とすることを特徴とする、ハチによる前記毒餌剤の、巣への運搬を促進させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハチの巣への毒餌剤の運搬を促進させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハチによる被害が増大し問題となっている。日本において約3000種のハチが知られており、そのうち刺咬性の強い肉食系ハチは約20種といわれている。肉食系ハチの中でも、スズメバチやアシナガバチ等のスズメバチ科に属するハチは攻撃性の強い種であり、刺咬されるとアナフィラキシーショックを引き起こすほか、毒針の構造上複数回の攻撃が可能であるため、駆除要望が非常に高い害虫種の1つであり、その駆除に際し、速効性が求められている。
肉食系ハチは、民家の軒下や天井裏に営巣することもあり、都市部では、人の居住区域と肉食系ハチの活動範囲が重複しているため、刺咬による被害が多発する傾向にある。肉食系ハチは、好戦的であるため、人が知らずに巣に接近したために攻撃され、被害に遭う場合もある。例えば、肉食系ハチに刺咬されたことが原因で死亡する人の数は、毎年10~20人程度報告されている。
【0003】
現在のハチの駆除方法としては、殺虫活性成分を含有する液剤またはエアゾール剤を、ハチに直接噴霧して駆除するタイプのものが一般的であり、速効性を有するピレスロイド系殺虫剤などを有効成分として含有するエアゾール剤が多く提案されている(例えば、特許文献1~3等)。しかしながら、これらのエアゾール剤を使用しても、各個体に十分量を噴霧することができない場合や、殺虫効果が発現するまでの時間に、興奮状態となったハチが警戒フェロモンを発散し、より多くの興奮したハチを呼び寄せてしまい、これらのハチに攻撃されることもあった。さらに、液剤またはエアゾール剤は、噴霧されたハチを駆除することはできるものの、巣の中にいる多くのハチを駆除することはできず、再度被害が発生することを抑止できないという問題もあった。
このような状況から、液剤またはエアゾール剤以外のハチの駆除方法として、ハチに毒餌剤を巣に持ち帰らせ、巣の中にいるハチを駆除し、巣を崩壊させるという方法に期待が寄せられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-178793号公報
【文献】特開2015-093846号公報
【文献】特開2011-144151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
毒餌剤によるハチ駆除効果を高めるには、喫食性を高めることが有効である。ハチはエサを喫食したあと帰巣し、巣の中にいる他のハチに口移しでエサを与える習性がある。このため、毒餌剤を喫食したハチに毒餌剤を巣へ運搬させ、他のハチに毒餌剤の殺虫効果を効率的に伝播させることによりハチの巣を崩壊させる効果を高めることができる。
そこで、本発明は、ハチの巣への毒餌剤の運搬を促進させること、さらにはハチの巣を早期に崩壊させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、毒餌剤の糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とすることにより、ハチの喫食性を高め、ハチの巣への毒餌剤の運搬を促進出来ること、さらには、ハチの巣を早期に崩壊させ得ることを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0007】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.毒餌剤の糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とすることを特徴とする、ハチによる前記毒餌剤の、巣への運搬を促進させる方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、毒餌剤の糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とすることにより、ハチの喫食性が高まり、ハチの巣への毒餌剤の運搬を促進させることが出来るため、ハチに対する高い駆除効果を発揮し、ハチの巣全体を効率的に崩壊させることができ、有用である。また、毒餌剤の糖度(Brix)を40以上とすることにより、空気との接触が大きな担持体にこの毒餌剤を含浸、付着または塗布させた場合においても、カビ等の発生が大きく低減され、毒餌剤の腐敗が抑制されるので、ハチに対する駆除効果が低下しないという効果が得られる。
さらに、糖度(Brix)40以上83未満の範囲の毒餌剤を、ハチの巣から1メートルより離れ、かつ、ハチの動線から3メートル以内の範囲に配置することにより、当該毒餌剤をハチが新しい餌もしくは新たな餌場として早い時点で認識するため、結果として、ハチの巣全体を早期に崩壊させることができる。なお、本発明における、ハチの巣全体を早期に崩壊させることの「早期」とは、毒餌剤を上記範囲に配置してから2週間以内を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明における毒餌剤を収納する、ハチ毒餌剤容器の具体的態様のうち吸液性部材を除いた構成の分解斜視図である。
【
図2】
図1に示すハチ毒餌剤容器の中蓋及び傘を取り外した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、毒餌剤の糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とすることを特徴とするものである。
<糖度(Brix)>
本発明における糖度(Brix)とは、20℃における糖用屈折計の示度であり、ハチ駆除に使用する際の毒餌剤全体を、デジタル屈折計PAL-1(アタゴ社製)を使用して20℃で測定した数値を意味する。デジタル屈折計PAL-1(アタゴ社製)の測定範囲は0.0~53.0(Brix)であるため、糖度(Brix)が53.0より高いものについては、イオン交換水で10倍に希釈して測定し、その数値を10倍に換算した数値とした。また、液状製剤以外の場合は、イオン交換水で10倍に希釈して測定し、測定値を10倍した数値を糖度とした。
本発明における毒餌剤の糖度(Brix)は、40以上とするものであるが、50以上がより好ましく、60以上がさらに好ましい。毒餌剤の糖度(Brix)の上限値は83未満とするものである。
本発明は、毒餌剤の糖度(Brix)を40以上とすることにより、ハチの喫食性を向上させるのみならず、ハチがその毒餌剤を巣に運搬する行動を促進させることが出来る。これにより、運搬された毒餌剤は巣内にいる他のハチに与えられ、巣全体に当該毒餌剤が伝播し、巣が崩壊するという優れた駆除効果を発揮するものである。
糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とすることにより、巣への運搬が促進されることは今回初めて得られた知見である。ハチを巣から毒餌剤に誘引し、毒餌剤を巣内に持ち帰らせることにより、最終的に、巣全体を崩壊させることができる。
【0011】
<ハチ>
本発明における駆除対象となるハチは、スズメバチ科(Vespidae)に属するハチを主な対象とするものであるが、アリガタバチ類、クマバチ、ベッコウバチ、ジガバチ、ドロバチ等の膜翅目害虫に属するものが挙げられる。中でも、スズメバチ科ハチとしては、スズメバチ亜科(Vespinae)およびアシナガバチ亜科(Polistinae)に属するハチを挙げることができる。
スズメバチ亜科に属するハチとしては、例えば、オオスズメバチ、キイロスズメバチ、コガタスズメバチ、モンスズメバチ、ヒメスズメバチ、チャイロスズメバチ、クロスズメバチ、シダクロスズメバチ、ヤドリスズメバチ、ツマアカスズメバチなどを挙げることができる。
また、アシナガバチ亜科に属するハチとしては、例えば、キアシナガバチ、セグロアシナガバチ、フタモンアシナガバチ、トガリフタモンアシナガバチ、ヤマトアシナガバチ、キボシアシナガバチ、コアシナガバチ、ヤエヤマアシナガバチ、ムモンホソアシナガバチ、ヒメホソアシナガバチなどを挙げることができる。
【0012】
<糖類>
本発明における毒餌剤は、糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とするため、上白糖、三温糖、黒糖など砂糖類、水あめ、ブドウ糖などでんぷん糖類、はちみつ、糖蜜、乳酸製品(乳酸菌飲料等)、果実、果実加工品、果汁、果汁飲料などを配合し、毒餌剤全体の糖度を調整することが好ましい。これらは、単独もしくは2種以上を混合したもの何れも用いることができる。
本発明における毒餌剤は、廃糖蜜を使用して糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とすることも好適である。廃糖蜜は、スズメバチやアシナガバチといった肉食系ハチを選択的に誘引することができ有用である。ここで、肉食系ハチとは、ミツバチなど非肉食系ハチや他の肉食系ハチ、さらに他の昆虫などを餌とする肉食のハチを意味する。廃糖蜜は、香気成分であるフルフリルアルコール、フルフラール、ソトロンなどを含有する。
【0013】
<その他の誘引成分>
本発明における毒餌剤は、上記成分以外に公知の誘引成分と組み合わせて使用することができる。公知の誘引成分としては、例えば、バルサミコ酢、リンゴ酢、米酢、玄米酢、粕酢、大豆酢、黒酢、ワインビネガー、すだち酢、赤酢、柿酢、麦芽酢、紫イモ酢、サトウキビ酢等の酢、果実酒、ビール、日本酒、焼酎、ウィスキー、ブランデー、ウォッカ、ラム、ジン、テキーラ、紹興酒、白酒、老酒等の酒類、酒粕、魚介類、魚介類加工品、魚介類抽出物、食肉、食肉加工品、食肉抽出物、香料等をベースとしたものであってもよい。これらの誘引成分の中でも、特に液体のものが好ましい。さらに、グリセリン等の脂肪族多価アルコール、ソルビトール等の糖アルコール、キサンタンガム等の増粘多糖類等の保湿成分を含ませれば、長期にわたり誘引成分の効能を発揮させることができる。
【0014】
<殺虫剤>
本発明における毒餌剤は、公知の殺虫剤と組み合わせて使用することにより、喫食したハチはもちろんのこと、巣内にいるハチを確実に駆除できる駆除薬剤とすることができる。併用できる公知の殺虫剤としては、例えば、天然ピレトリン、アレスリン、レスメトリン、フラメトリン、プラレトリン、テラレスリン、フタルスリン、フェノトリン、ペルメトリン、シフェノトリン、サイパーメスリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、イミプロトリン、エンペントリン、エトフェンプロックス、シラフルオフェン、メペルフルトリン、ジメフルトリン等のピレスロイド系化合物;プロポクスル、カルバリル等のカーバメイト系化合物;フェニトロチオン、ダイアジノン、テトラクロロビンホス、DDVP等の有機リン系化合物;メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物;フィプロニル等のフェニルピラゾール系化合物;アミドフルメト等のスルホンアミド系化合物;イミダクロプリド、ジノテフラン等のネオニコチノイド系化合物;ピリプロキシフェン、メトプレン、ハイドロプレン等の昆虫幼若ホルモン様化合物;スルフルラミド等の酸化的リン酸化脱共役剤;プレコセン等の抗幼若ホルモン様化合物;ノバルロン、ジフルベンズロン、エトキサゾール等のキチン合成阻害剤;ヒドラメチルノン等のアミジノヒドラゾン系化合物;フィトンチッド、ハッカ油、オレンジ油、桂皮油、丁子油等の殺虫精油類等の各種殺虫剤を挙げることができ、さらに、サイネピリン、ピペロニルブトキサイド等の共力剤も併用することができる。中でも、ハチが嫌がる忌避性が少なく、かつ、遅効性の殺虫剤、例えば、ダイアジノン、テトラクロロビンホス、スルフルラミド、フィプロニル、ヒドラメチルノンが、本発明の毒餌剤に配合する殺虫剤として適している。
【0015】
また、本発明の毒餌剤に配合する場合は、水溶性が高いものが製剤上好ましい場合がある。例えば、アセフェート、バミドチオン、メチダチオン(DMTP)、フェノブカルブ(BPMC)、エチオフェンカルブ、カルタップ、チオシクラム、イミダクロプリド、チアクロプリド、シロマジン、ホスチアゼート、アセタミプリド、チアメトキサム、カルバリル(NAC)、クロチアニジン、ピメトロジン、ジノテフラン等が挙げられる。これらの中でも、例えば、ジノテフラン(20℃における水溶解度:約54000ppm)、チアメトキサム(20℃における水溶解度:約4100ppm)、イミダクロプリド(20℃における水溶解度:約510ppm)、フェノブカルブ(BPMC、20℃における水溶解度:約610ppm)等の20℃における水溶解度が500ppm以上のものが、本発明の毒餌剤に配合する殺虫剤として適している。
【0016】
<製剤>
本発明における毒餌剤は、使用時における糖度(Brix)が40以上83未満の範囲であればよく、製剤化したもの、さらには、製剤化したものを水で希釈したものが含まれる。製剤型としては、例えば、油剤、乳剤、水和剤、フロアブル剤(水中懸濁剤、水中乳濁剤等)等の液状製剤のほか、ゲル剤、ペースト剤、マイクロカプセル剤、粉剤、粒剤、錠剤等の固形製剤が挙げられる。中でも、液状製剤はハチが喫食しやすいため好適である。さらに、水で希釈しやすく、溶け残りが少ない点においても好適である。希釈に使用する水としては、精製水、水道水、イオン交換水、蒸留水、ろ過処理した水、滅菌処理した水、地下水、井戸水等が用いられる。
本発明の毒餌剤は、スポンジ、吸水性ポリマー等のポリマー、脱脂綿、天然繊維、合成繊維の不織布、織布、紙、多孔体等の担持体に含浸、付着または塗布して、容器に収納したもの、さらに、容器内に雨水等が浸入しない形態として使用することが好ましい。本発明の毒餌剤は、その糖度(Brix)が40以上であることから、例えば、空気との接触が大きな担持体にこの毒餌剤を含浸、付着または塗布させた場合においても、カビ等の発生が大きく低減される。これにより毒餌剤の腐敗が抑制され、ハチに対する駆除効果が低下しないという効果が得られるものである。
【0017】
<製剤助剤>
本発明における毒餌剤は、製剤化に際して、本発明の効果を妨げない範囲で界面活性剤を使用することができる。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤の何れでも特に制限なく使用することができるが、中でも、非イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤が好適である。
具体的には、例えば、非イオン性界面活性剤としては、糖エステル型、脂肪酸エステル型、植物油型、アルコール型、アルキルフェノール型、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー型、アルキルアミン型、ビスフェノール型、多芳香環型のものが挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型のものが挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、アンモニウム型、ベンザルコニウム型のものが挙げられる。両性界面活性剤としては、ベタイン型のものが挙げられる。
中でも好適な非イオン性界面活性剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアリールエーテル、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンヒマシ油、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油等が挙げられ、好適な陰イオン性界面活性剤としては、スルホン酸塩が挙げられる。
特に好適な非イオン性界面活性剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアリールエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が挙げられ、特に好適な陰イオン性界面活性剤としては、アルキルスルホ酢酸塩が挙げられる。なお、これらの界面活性剤は、単独もしくは2種以上を混合したもの何れも用いることができる。
【0018】
本発明における毒餌剤は、一般的に製剤に添加される成分を本発明の効果を妨げない範囲で含有させて製剤化することができる。一般的に製剤に添加される成分の例としては、安定化剤、防腐剤、着色料、誤飲・誤食防止剤、液体担体等が挙げられる。安定化剤の例としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)やブチルヒドロキシアニソール(BHA)等の酸化防止剤、アスコルビン酸等が挙げられる。防腐剤の例としては、塩化ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸塩、パラヒドロキシ安息香酸エステル類、チアベンダゾール等が挙げられる。着色料としては、カラメル色素、クチナシ色素、アントシアニン色素、紅花色素、フラボノイド色素、赤色2号、赤色3号、黄色4号、黄色5号、等が挙げられる。誤飲・誤食防止剤としては、安息香酸デナトニウム等が挙げられる。
【0019】
製剤化の際に用いられる液体担体としては、例えばアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、乳酸エチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族または脂肪族炭化水素類(キシレン、トルエン、アルキルナフタレン、フェニルキシリルエタン、ケロシン、軽油、ヘキサン、シクロヘキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、ヘテロ環系溶剤(スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-エチル-2-ピロリドン、N-オクチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)、酸アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、炭酸アルキリデン類(炭酸プロピレン等)、植物油(大豆油、綿実油等)、植物精油(オレンジ油、ヒソップ油、レモン油等)、および水が挙げられる。
【0020】
<ハチ毒餌剤容器>
本発明における毒餌剤は、容器に収納して使用することが好ましい。
収納する容器は、本発明における毒餌剤を内部に収容できる形態であれば形状や大きさ等は制限されず、使用場所や使用方法に合った形態であればよい。この容器の材質としては、例えば、ガラス、金属、プラスチック等のほか、本発明における毒餌剤が、容器から漏出することがない防水や撥水機能を有する特殊紙などの材質であれば特に制限されない。
容器の態様の1例として、容器の開口部を覆う蓋を有し、この蓋または容器の何れかにハチが侵入する開口部が形成されていると良い。ハチが容器内に侵入しやすいように、複数の開口部を容器に形成することが良いが、その数は容器の大きさにもよるが2個以上5個以下の開口部を形成することが好ましい。また、容器内に侵入したハチが、本発明における毒餌剤を喫食したのち、容易に容器外に出られる形状であることが好ましい。
容器は、透明又は半透明の窓相当部を設けたもの、もしくは透明または半透明の容器としてもよい。
ハチ毒餌剤容器を野外に設置する場合、雨水等が浸入して本発明における毒餌剤が希釈され、ハチ駆除効果が低下することを防止するために、開口部に対し空間を有しつつ雨水等の浸入を防止する覆い部を備える態様が好ましい。
本発明における毒餌剤を収納した容器は、なるべく直射日光の当たらない、または容器の入り口がふさがらないような、地面やベランダなどの平坦な場所に置いて使用するか、当該平坦な場所の平坦面から1~3mの高さの範囲に吊るして使用することが好ましい。
【0021】
<ハチ毒餌剤容器の具体例>
図1、2を参照しながら、本発明の毒餌剤の収納に適したハチ毒餌剤容器1の構成について説明する。ハチ毒餌剤容器1は、ハチが侵入し易いと同時に人の指が本発明の毒餌剤に触れにくくなるよう、またハチ毒餌剤の有効期間を延ばすことができるように構成した。
ハチ毒餌剤容器1は、下容器10(容器本体:底面101、側面102、突起103、開口部105)と、中蓋20と、傘30と、吸液性部材40とを備える。
【0022】
中蓋20は、下容器10の外側に係合し、下容器10と固定可能に構成されている。中蓋20の中央には、下容器10に連通するハチ出入口21(開口)が形成されている。また、中蓋20には、ハチが停留するためのハチ停留ポート22が形成されている。ハチ停留ポート22は、その外縁よりも内側が高くなるように傾斜(ハチ停留ポート22の外縁から中央側に向かうに従い高さが大きくなるように傾斜)している。ハチは、負の走地性、即ち、生物が重力と反対の方向に進行する性質を有すると説明される場合がある。傾斜面22A(外縁からハチ出入口21までの距離D4)を設けることにより、ハチのハチ毒餌剤容器1内への歩行を促進させることが可能になる。なお、
図1に示されるように、隣接する傾斜面22A間には、径方向に延在する溝Gを設けてもよい。溝Gにより、ハチが脚を引っ掛けることが可能になるため、ハチが傾斜面22Aを登ることを補助することが可能になる。傾斜面22Aには、凸部又は凹凸を設けてもよい。
【0023】
傾斜面22Aを設けることにより、傘30と中蓋20の隙間から人の指が差し込まれた場合、差し込まれた指は傾斜面22Aに接触して斜め上方に誘導される。そのため、下容器10内の下方に収納される吸液性部材40と離れる方向に指を誘導することが可能になる。また、指の関節を曲げようとしても指が傘30に当たって曲がりづらくなり、吸液性部材40に触れにくくすることが可能になる。
更に、傾斜面22Aを設けることによって、ハチ毒餌剤容器1を通過する風は、傾斜面22Aに沿って上方に誘導される。このため、風が吸液性部材40に直接当たることを抑制することが可能になり、吸液性部材40に含浸された毒餌剤の揮散量の変動を抑え、ひいては、吸液性部材40の使用可能期間の変動を抑えることが可能になる。
また、ハチ停留ポート22は、下容器10の外周面よりも径方向外側に張り出すように形成されている。このようにハチ停留ポート22を張り出すように設けることで、ハチが停留し易くなり、中蓋20の中央に形成されたハチ出入口21を通して、ハチは下容器10内部に侵入することができる。
なお、中蓋20の周辺部には、傘30の下端(側壁部32の下端)を係合するための係合穴部23が複数形成されている。
【0024】
傘30は、ハチ出入口21の上方を覆うように、中蓋20に係合される。傘30が中蓋20に係合されることで、ハチ出入口21を通して外部に露出する吸液性部材40が傘30によって上方側から覆われ、外部から吸液性部材40に水等(例えば雨)が直接あたることを抑制することができる。また上述の中蓋20の傾斜面22Aによっても水等が下容器10内に入り込むことを抑制することができる。傘30には、ハチ出入口21とハチ毒餌剤容器1外部とを連通するアーチ型開口部31が設けられている。ハチ停留ポート22に停留したハチは、アーチ型開口部31からハチ毒餌剤容器1の内部(傘30の内部)に入り、更にハチ出入口21から下容器10の内部に入ることができる。なお、アーチ型開口部31の両側に位置する側壁部32が中蓋20に係合して傘30と中蓋20とが固定される。ここで、中蓋20の傾斜面22Aを基準とするアーチ型開口部31の高さ(傾斜面22Aと、アーチ型開口部31の中間部との鉛直方向の距離)は、10mm以上35mm以下であることが好ましく、10mm以上30mm以下であることが更に好ましい。中蓋20からのアーチ型開口部31の高さが10mm以上の場合、スズメバチのような大型のハチであっても、ハチ毒餌剤容器1内に侵入することが可能になる。一方で、中蓋20とアーチ型開口部の高さが35mmより大きいと、人の指が本発明の毒餌剤に触れやすくなってしまう。また、ハチ以外の大型昆虫が侵入してしまう。
なお、傘30の上面には、ハチ毒餌剤容器1を外部の部材に引っ掛けて配置するための掛止部35が設けられている。
【0025】
吸液性部材40は、ハチに喫食させるための本発明の毒餌剤が含浸された含浸体である。
図2に示すように、吸液性部材40には、本体部(吸液性部材本体)の上面40a側から下面に向かう方向に延在した孔42(凹部)が形成されている。孔42は、吸液性部材40のみに形成される態様に限定されず、例えば、吸液性部材40と下容器10との間に形成されてもよく、また、下容器10のみに形成されてもよい。なお、孔42が下容器10のみに形成される場合には、吸液性部材40の周縁に沿うように形成されていると、孔42の内部に侵入したハチが吸液性部材40に含浸された本発明の毒餌剤を喫食できるので好適である。
【0026】
孔42は、その内部にハチが侵入するための開口形状、言い換えれば、内部にハチの頭が入る程度の開口を有している。具体的には、孔42の直径は、5~30mmの範囲であることが好適である。孔42の直径が30mmより大きいと孔42の内部が乾燥しやすくなり、孔42の直径が5mmより小さいと孔42の内部にハチの頭が入りにくくなる。ハチは巣穴に首を突っ込む習性がある(例えばスズメバチやアシナガバチは巣穴にいる幼虫から栄養液を口移しで貰うために巣穴に頭を突っ込む(孔42の下方側に濃い液体が溜まっている場合、スズメバチやアシナガバチは頭を突っ込んで孔42の下方側の液体を舐める)習性がある)ため、この習性を利用して、孔42の内部に含まれる本発明の毒餌剤をハチが喫食する。そのため、吸液性部材40の上面40a側が乾燥したとしても、このようなハチの習性を利用して、吸液性部材40に形成された孔42の内部に保持されている本発明の毒餌剤をハチが喫食するので、毒餌剤の有効期間を延ばすことができる。
孔42は、吸液性部材40の上面40a側から下面側に向かう方向に延びて形成されているが、その延在方向は、任意の方向を含む。
また、孔42は、ハチの頭が入る程度の開口を有していれば、吸液性部材40を貫通していなくてもよい。たとえば、吸液性部材40の厚さの半分以上であると、比較的乾燥しやすい上面40a側と比較して乾燥しにくい下面側に含まれる本発明の毒餌剤をハチが喫食することができるので好適である。
以上、
図1、2を参照しながら、ハチ毒餌剤容器1の具体的態様を説明したが、大きさ、形状、配置、数などはこれに限定されず、目的に応じて適宜変更することができる。
【0027】
本発明の糖度(Brix)40以上83未満の範囲の毒餌剤は、ハチの巣から1メートルより離れ、かつ、ハチの動線から3メートル以内の範囲に配置することにより、当該毒餌剤をハチが新しい餌もしくは新しい餌場として早い時点で認識するため、結果として、ハチの巣全体を早期に崩壊させることができるため好ましい。この好適な配置は、ハチの巣から1メートル以内に毒餌剤を配置すると、新たに出現した人工物である毒餌剤にハチが警戒して近づきにくいこと、また、ハチの動線から3メートルより離れた場所に毒餌剤を配置すると、ハチが毒餌剤を新しい餌もしくは新しい餌場として認識するまでに非常に時間がかかることなどに起因すると考えられる。
すなわち、本発明の毒餌剤を、ハチの巣から1メートルより離れ、かつ、ハチの動線から3メートル以内の範囲に配置することにより、ハチが当該毒餌剤に早期に到達して巣への毒餌剤の運搬が促進され、結果として、ハチの巣全体が早期に崩壊するものと推察している。
なお、本発明における「ハチの動線」とは、ハチの巣を起点としてハチが巣と従来からの餌場を往来する軌跡を意味する。
【実施例】
【0028】
以下、試験検体調製例および試験例等により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
なお、実施例において、特に明記しない限り、部は重量部を意味する。
【0029】
<毒餌剤の糖度(Brix)による喫食性の確認試験>
(1)試験検体の調製
下記表1に示す糖度(Brix)のフルクトース水溶液を、3種類調製して試験検体2~4とした。また、水のみの糖度(Brix)0の検体を試験検体1とした。
(2)試験方法について
上記(1)の試験検体1~4それぞれ1.7gを、85mm×80mmの脱脂綿を四つ折りにしたものに含浸させて、円形容器(直径40mm×高さ35mm)に充填したものを、KPカップ(直径130mm×高さ100mm)に載置した。この中に、供試虫(セグロアシナガバチ)1頭を入れて1時間観察し、1回当たりの喫食時間(秒)の平均値を計測した。
試験検体1~4について、その糖度(Brix)と各喫食時間(秒)を、下記表1にまとめて示す。
【0030】
【0031】
表1に示す結果より、糖度(Brix)を40以上(試験検体3、4)とすることにより、飛躍的に喫食性が向上することが明らかとなった。さらに、糖度(Brix)を60以上(試験検体4)とすることにより、糖度(Brix)40(試験検体3)に比べて、3倍以上喫食性が向上することも確認された。
この喫食性の向上は、ハチが良い餌または新たな餌場として認識したということであり、喫食したハチが巣にエサを運搬し、巣の中にいる他のハチに口移しでこのエサを与える(伝播)ことが考えられる。このことを、次の試験で確認した。
【0032】
<伝播確認試験1>
(1)試験検体の調製
上記「毒餌剤の糖度(Brix)による喫食性の確認試験」で使用した、試験検体2~4を使用した。
(2)試験方法
85mm×80mmの脱脂綿にイミダクロプリド0.01重量%のエタノール溶液2gを滴下し乾燥させた後、試験検体2~4それぞれ4gを含浸させ、一晩絶食させた供試虫(ミツバチ♀)1頭に喫食させた。次いで、喫食させた供試虫を金属ケージ(25cm×25cm×25cm)に入れ、そこに表2に示す「追加ハチ数」の追加ハチ(ミツバチ:供試虫と同じ巣に生息するもの)を入れた。14時間後に金属ケージ内の致死した追加ハチの数(「追加ハチの致死ハチ数」)を確認した。試験は、室温(25℃)条件で実施した。
試験検体2~4について、その糖度(Brix)と、追加ハチ数、追加ハチの致死ハチ数および追加ハチの致死率(%)を、下記表2にまとめて示す。
なお、一晩絶食させた供試虫は、全ての試験において致死が確認された。
【0033】
【0034】
表2に示す結果より、糖度(Brix)が40以上の試験検体3、4は、併用したイミダクロプリドにより喫食した供試虫だけではなく、あとから追加した追加ハチに対しても高い致死効果が得られることが明らかとなった。これは、試験検体3、4を喫食した供試虫が、あとから追加した追加ハチに口移しでこの試験検体を与えた(伝播)ため、試験検体3、4を喫食していないあとから追加した追加ハチにも高い致死効果が発現したものと考えられる。
一方、糖度(Brix)が20の試験検体2は、あとから追加した追加ハチに対して、併用したイミダクロプリドによる致死効果が全く得られなかった。
この試験結果から、糖度(Brix)を40以上(試験検体3、4)とすることにより、ハチが良い餌または新たな餌場として認識し、喫食したハチが他のハチに口移しでこのエサを与える(伝播)ことが明らかとなった。
ハチが良い餌または新たな餌場として認識した場合、喫食したハチが巣の中にいる他のハチに口移しでこのエサを与える(伝播)ために、巣に餌を運搬すると考えられるので、毒餌剤の糖度(Brix)を40以上とすることにより、ハチがこの餌を巣に運搬することを促進させ得るものといえる。
【0035】
<伝播確認試験2>
(1)試験検体の調製
糖度(Brix)60、80、83のフルクトース水溶液をそれぞれ調製して、試験検体5~7とした。
(2)試験方法
85mm×80mmの脱脂綿にイミダクロプリド0.01重量%のエタノール溶液2gを滴下し乾燥させた後、試験検体5~7それぞれ4gを含浸させ、一晩絶食させた供試虫(ミツバチ♀)1頭に喫食させた。次いで、喫食させた供試虫を金属ケージ(25cm×25cm×25cm)に入れ、そこに表3に示す「追加ハチ数」の追加ハチ(ミツバチ:供試虫と同じ巣に生息するもの)を入れた。14時間後に金属ケージ内の致死した追加ハチの数(「追加ハチの致死ハチ数」)を確認した。試験は、室温(25℃)条件で実施した。
試験検体5~7について、その糖度(Brix)と、追加ハチ数、追加ハチの致死ハチ数および追加ハチの致死率(%)を、下記表3にまとめて示す。
なお、一晩絶食させた供試虫は、全ての試験において致死が確認された。
【0036】
【0037】
表3に示す結果より、糖度(Brix)が60、80の試験検体5、6は、併用したイミダクロプリドにより喫食した供試虫だけではなく、あとから追加した追加ハチに対しても高い致死効果が得られることが明らかとなった。これは、試験検体5、6を喫食した供試虫が、あとから追加した追加ハチに口移しでこの試験検体を与えた(伝播)ため、試験検体5、6を喫食していないあとから追加した追加ハチにも高い致死効果が発現したものと考えられる。
一方、糖度(Brix)が83の試験検体7は、あとから追加した追加ハチに対して、併用したイミダクロプリドによる致死効果が全く得られなかった。
この試験結果から、糖度(Brix)を83未満(試験検体5、6)とすることにより、ハチが良い餌または新たな餌場として認識し、喫食したハチが他のハチに口移しでこのエサを与える(伝播)ことが明らかとなった。
ハチが良い餌または新たな餌場として認識した場合、喫食したハチが巣の中にいる他のハチに口移しでこのエサを与える(伝播)ために、巣に餌を運搬すると考えられるので、毒餌剤の糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とすることにより、ハチがこの餌を巣に運搬することを促進させ得るものといえる。
【0038】
<伝播確認試験3>
(1)試験検体の調製
上記「伝播確認試験2」の試験検体6、7の糖度(Brix)80、83のフルクトース水溶液を用いたほか、糖度(Brix)70のフルクトース水溶液を調製し、これを試験検体8とした。
(2)試験方法
室内飼育されており、生息するアシナガバチ数が把握されている巣を3個使用して、試験を行った。
85mm×30mmの脱脂綿を2つ折りにしたものに、フィプロニル0.15重量%のエタノール溶液2gを滴下し乾燥させた後、試験検体6~8それぞれ4gを含浸させ、供試虫(アシナガバチ)1頭に喫食させた。次いで、喫食させた供試虫を巣に戻し、14時間後の巣内において致死したアシナガバチの数を確認した。
試験検体6~8それぞれを喫食させた供試虫は、全て致死が確認された。
試験は、室温(25℃)条件で実施した。
試験検体6~8について、その糖度(Brix)と、致死したハチ数(供試虫は含まない)を巣内生息ハチ数で除した致死ハチ率(%)を、下記表4にまとめて示す。
【0039】
【0040】
表4に示す結果のとおり、アシナガバチに対しても、糖度(Brix)が70、80の試験検体8、6は、併用したフィプロニルにより喫食した供試虫だけではなく、巣内のハチに対して、14時間という短期間において高い致死効果が得られることが明らかとなった。これは、試験検体8、6を喫食した供試虫が、巣内のハチに口移しでこの試験検体を与えた(伝播)ため、高い致死効果が発現したものと考えられる。また、試験検体8、6のいずれかを喫食させた供試虫の巣では女王バチが致死しており、巣として正常な機能を維持出来ない状態となっていた。
一方、糖度(Brix)が83の試験検体7は、巣内のハチに対して、併用したフィプロニルによる致死効果が全く得られず、巣は正常に機能していた。
この試験結果から、アシナガバチに対しても、糖度(Brix)を83未満(試験検体8、6)とすることにより、ハチが良い餌として認識し、喫食したハチが他のハチに口移しでこのエサを与える(伝播)ことが明らかとなった。
肉食系のハチにおいても、良い餌として認識した場合、喫食した肉食系のハチが巣の中にいる他のハチに口移しでこのエサを与える(伝播)ために、巣に餌を運搬すると考えられるので、毒餌剤の糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とすることにより、ハチがこの餌を巣に運搬することを促進させ得るものといえる。
【0041】
<屋外試験1>
(1)試験検体の調製
誘引成分(酒、酢、糖(スクロースを主成分とする)、乳酸菌飲料等)と溶剤(乳酸エチル)および水を用いて、糖度(Brix)が63の実施例試験検体(実施例1)と、糖度(Brix)が18の比較例試験検体(比較例1)を調製した。
また、市販されているスズメバチ誘引剤原液(株式会社SHIMADA社製:スズメバチバスター)を用法に従って水で希釈した糖度(Brix)が15の比較例試験検体(比較例2)を調製した。
(2)試験方法
170mm×80mmの脱脂綿を二つ折りにしたもの2枚に実施例試験検体(実施例1)と比較例試験検体(比較例1、2)をそれぞれ100g含浸させたものを、市販されているハチ捕獲器の空容器(直径90mm、高さ120mm、円筒型プラスチック容器)に収納した。これを、兵庫県上郡町の公園内のスズメバチの巣の近くであり、スズメバチをよく見かける場所の木(巣から約30m)に吊るして設置(ハチの動線から2m離れ、地面から2mの高さの場所)した。設置から1ヶ月間(2018年9月~10月)、平日の15時頃に、スズメバチの巣と試験検体を含浸させた脱脂綿を収納した容器との間を、スズメバチが往復するかを確認した。
なお、試験検体を含浸させた脱脂綿の乾燥具合を確認し、乾燥している場合は、脱脂綿が湿る程度に試験検体を随時追加した。
【0042】
(3)試験結果
糖度(Brix)が40以上83未満の範囲の実施例試験検体を使用した実施例1(糖度(Brix):63)では、スズメバチが、スズメバチの巣と実施例試験検体を含浸させた脱脂綿を収納した容器との間を、必ず1日1回以上往復することが確認された。さらに、当該容器では、スズメバチが他のスズメバチに口移しでこのエサを与える様子(伝播)も確認された。
一方、糖度(Brix)が40より低い比較例試験検体を使用した比較例1(糖度(Brix):18)、比較例2(糖度(Brix):15)では、比較例試験検体を含浸させた脱脂綿を収納した容器に、接近するスズメバチが1頭確認されたが、巣への運搬や口移しでエサを与える様子(伝播)は全く確認されなかった。
(4)考察
上記「屋外試験1」の結果より、糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とすることにより、ハチが良い餌または新たな餌場として認識し、喫食したハチが餌を巣に運搬することが明らかとなった。
上記「伝播確認試験」と同様にこの屋外試験の結果からも、ハチが良い餌または新たな餌場として認識した場合、喫食したハチが巣の中にいる他のハチに口移しでこのエサを与える(伝播)ために、巣に餌を運搬すると考えられるので、毒餌剤の糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とすることにより、ハチがこの餌を巣に運搬することを促進させ得ることが改めて確認された。
【0043】
<屋外試験2>
(1)試験検体の調製
誘引成分(糖、蜜、乳酸菌飲料等)と溶剤(乳酸エチル)、界面活性剤(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)、フィプロニルおよび水を用いて、糖度(Brix)が71の実施例試験検体(実施例2)を調製した。
(2)試験方法
直径13mmの穴を6個開けた、直径75mm、厚さ20mmの円柱状の不織布に、実施例試験検体(実施例2)を90g含浸させた。これを、雨水の浸入を防ぐ傘を備えた容器(直径100mm、高さ30mm、傘まで含めた高さ55mm、円柱形容器)に収納した。これを、兵庫県上郡町の河川近くの桜の木に営巣されたスズメバチの巣(直径40cm程度)の近くの木(巣から約2m)に吊るして設置(ハチの動線から0.5m離れ、地面から1mの高さの場所)した。設置後、毎日18時頃に目視観察して、スズメバチの巣と実施例2を含浸させた不織布を収納した容器との間を、スズメバチが往復するか、さらに、巣が崩壊しているかを確認した。ここで、「巣が崩壊する」とは、5分間あたりのスズメバチの巣の出入り数がゼロになることを意味する。5分間あたりのスズメバチの出入りが無かった時点において、その巣は崩壊したと判断した。
【0044】
(3)試験結果
試験開始2日後には、実施例2を含浸させた不織布を収納した容器とスズメバチの巣との間を、スズメバチが頻繁に往復する様子が確認された。試験開始3日後には、スズメバチの巣への出入りが1頭のみとなり、試験開始4日後は、スズメバチの巣への出入りが全く確認されなかった。なお、実施例2を含浸させた不織布を収納した容器を設置する前日の18時頃は、スズメバチの巣を出入りするスズメバチは5分間あたり45頭であった。
この試験結果により、直径40cm程度のスズメバチの巣が、試験検体設置から4日後に崩壊することが明らかとなった。
(4)考察
上記「屋外試験2」の結果より、毒餌剤の糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とすることにより、ハチの喫食性が高まり、ハチの巣への毒餌剤の運搬を促進させることが出来るため、ハチに対する高い駆除効果が発揮され、ハチの巣全体を効率的に崩壊させ得ることが明らかとなった。
【0045】
<屋外試験3>
(1)試験方法
上記「屋外試験2」において、実施例試験検体(実施例2)90gを含浸させ、雨水の浸入を防ぐ傘を備えた容器に収納したものを毒餌剤として使用し、下記表5に示す4個のハチの巣に対して、試験番号1~4の配置場所に配置した。
上記毒餌剤を配置後、目視観察によりハチの巣と毒餌剤との間を、ハチが往復するか、さらに、巣が崩壊するかを確認し、配置から崩壊までの日数を計測した。ここで、「巣が崩壊する」とは、配置後の目視観察により5分間あたりのハチの巣の出入り数がゼロになることを意味する。
【0046】
【0047】
(4)考察
上記「屋外試験3」の結果より、糖度(Brix)40以上83未満の範囲の毒餌剤を、ハチの巣から1メートルより離れ、かつ、ハチの動線から3メートル以内の範囲に配置することにより、当該毒餌剤をハチが新しい餌もしくは新しい餌場として早い時点で認識するため、結果として、ハチの巣を早期、毒餌剤の配置から遅くとも2週間以内に崩壊させ得ることが明らかとなった。これは、糖度(Brix)40以上83未満の範囲の毒餌剤を、特定の場所に配置することにより、配置から早い時期に、ハチが当該毒餌剤を新しい餌または新たな餌場として認識すること、さらには、糖度(Brix)40以上83未満の範囲の毒餌剤であるから、巣への毒餌剤の運搬が促進され、結果として、ハチの巣全体が早期に崩壊するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
毒餌剤の糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とすることにより、ハチが良い餌または新たな餌場として認識してハチの喫食性が高まり、喫食したハチが巣の中にいる他のハチに口移しでこのエサを与える(伝播)ために、巣への毒餌剤の運搬を促進させることが出来る。また、糖度(Brix)40以上83未満の範囲の毒餌剤を、特定の場所に配置することにより、ハチの巣全体を早期に崩壊させ得ることができる。
すなわち、毒餌剤の糖度(Brix)を40以上83未満の範囲とすることにより、また、特定の場所に配置することにより、ハチに対する高い駆除効果が得られ、最終的にハチの巣全体を効率的、かつ、早期に崩壊させることができるため、本発明は極めて有用である。