(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】インク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20220922BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20220922BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2021069826
(22)【出願日】2021-04-16
(62)【分割の表示】P 2020183014の分割
【原出願日】2020-10-30
【審査請求日】2021-04-16
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183923
【氏名又は名称】株式会社DNPファインケミカル
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】井島 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】山崎 史絵
(72)【発明者】
【氏名】小谷 亮介
(72)【発明者】
【氏名】安井 涼馬
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-092252(JP,A)
【文献】特開2016-169393(JP,A)
【文献】特開2016-222820(JP,A)
【文献】特開2017-155181(JP,A)
【文献】特開2019-137765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット法によって吐出される活性エネルギー線硬化型のインク組成物であって、
前記インク組成物は、重合開始剤と、重合性化合物と、光輝性顔料と、を含有し、
前記光輝性顔料の含有量は前記インク組成物全量中1.5質量%以上であり、
前記光輝性顔料は、薄膜形状の光輝性顔料を含有し、
前記重合開始剤の含有量は、前記インク組成物全量中10質量%以上であり、
前記重合開始剤は、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤と、アミノアセトフェノン系重合開始剤と、チオキサントン系重合開始剤と、を含有する
インク組成物。
【請求項2】
前記インク組成物をPETフィルムの表面に吐出し、活性エネルギー線を照射して該PETフィルムの表面に光輝性層を形成し、45°の入射角で入射光を該光輝性層に対して入射させ、その入射角に対する反射角から法線方向に15°角度を変更させた角度を測定角度として、その測定角度でのL*a*b*表色系におけるL*(明度指数)を測定したときに、前記L*(明度指数)が110以上である
請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の含有量は、前記重合開始剤全量中10質量%以上
31質量%以下であり、
前記アミノアセトフェノン系重合開始剤の含有量は、前記重合開始剤全量中5質量%以上50質量%以下であり、
前記チオキサントン系重合開始剤の含有量は、前記重合開始剤全量中5質量%以上50質量%以下である
請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記光輝性顔料は、金属含有光輝性顔料を含有する
請求項1から
3のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項5】
インクジェット法によって活性エネルギー線硬化型のインク組成物を吐出する記録方法であって、
前記インク組成物は、重合開始剤と、重合性化合物と、光輝性顔料と、を含有し、
前記光輝性顔料の顔料量は1.5%以上であり、
前記光輝性顔料は、薄膜形状の光輝性顔料を含有し、
前記重合開始剤の含有量は、前記インク組成物全量中10質量%以上であり、
前記重合開始剤は、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤と、アミノアセトフェノン系重合開始剤と、チオキサントン系重合開始剤と、を含有する
記録方法。
【請求項6】
インクジェット法によって活性エネルギー線硬化型のインク組成物を吐出する印刷物の製造方法であって、
前記インク組成物は、重合開始剤と、重合性化合物と、光輝性顔料と、を含有し、
前記光輝性顔料の顔料量は1.5%以上であり、
前記光輝性顔料は、薄膜形状の光輝性顔料を含有し、
前記重合開始剤の含有量は、前記インク組成物全量中10質量%以上であり、
前記重合開始剤は、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤と、アミノアセトフェノン系重合開始剤と、チオキサントン系重合開始剤と、を含有する
印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にインクジェット法によって吐出される活性エネルギー線硬化型の光輝性加飾印刷用のインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材(記録媒体)やその表面の一部又は全面に着色層が形成された印刷物等の被体に金属調を有する画像を表現することが行われることがある。このような金属調の光沢性を付与する手法として、真鍮、アルミニウム微粒子等から作製された金属粉を用いたインキの塗布や、金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写方式等が用いられてきた。
【0003】
そして、近年、金属光沢を有する塗膜を形成する上記の方法の他に、インクジェット方式の印刷方法への応用例が数多く見受けられ、その一つとして光輝性加飾印刷がある。インクジェット方式を用いた光輝性加飾印刷は、主としてインクジェットプリンター等を用いて行われる。
【0004】
例えば、特許文献1には、光輝性顔料と、所定量のラジカル重合性化合物と、重合開始剤と、を含有するインク組成物が開示されている。特許文献1には、このインク組成物は、硬化性に優れ、かつ、優れた柔軟性と高い膜硬度とが両立された金属調の光沢性を有する印刷物が得られるものであることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、所定の光輝性顔料と、有機溶剤と、光重合性化合物と、光重合開始剤とを含有するインク組成物が開示されている。特許文献2には、このインク組成物は、金属光沢の良好な塗膜を形成することができるものであることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-31284号公報
【文献】特開2017-2162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、光輝性顔料は、可視光や紫外線を反射する性質を有するため、光輝性顔料を含有する活性エネルギー線硬化型のインク組成物は、硬化性が悪化するという問題がある。
【0008】
例えば、硬化性を改善するために広い波長領域に吸収を有するアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤を使用することが考えられる。しかしながら、単に重合開始剤の含有量を増やしても、硬化性は改善するが良好な金属調の光沢性を付与することができないことが本発明者らの研究により明らかとなった。
【0009】
本発明は、良好な金属調の光沢性を維持しつつ、硬化性を向上することのできる活性エネルギー線硬化型のインク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、複数種の重合開始剤を特定の組合せで含有するインク組成物であれば上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0011】
(1)インクジェット法によって吐出される活性エネルギー線硬化型のインク組成物であって、前記インク組成物は、重合開始剤と、重合性化合物と、光輝性顔料と、を含有し、前記光輝性顔料の含有量は前記インク組成物全量中1.5質量%以上であり、前記重合開始剤の含有量は、前記インク組成物全量中10質量%以上であり、前記重合開始剤は、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤と、アミノアセトフェノン系重合開始剤と、チオキサントン系重合開始剤と、を含有するインク組成物。
【0012】
(2)前記アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の含有量は、前記重合開始剤全量中10質量%以上80質量%以下であり、前記アミノアセトフェノン系重合開始剤の含有量は、前記重合開始剤全量中5質量%以上50質量%以下であり、前記チオキサントン系重合開始剤の含有量は、前記重合開始剤全量中5質量%以上50質量%以下である(1)に記載のインク組成物。
【0013】
(3)前記アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の含有量は、前記重合開始剤全量中10質量%以上39質量%以下である(2)に記載のインク組成物。
【0014】
(4)前記光輝性顔料は、金属含有光輝性顔料を含有する(1)から(3)のいずれかに記載のインク組成物。
【0015】
(5)インクジェット法によって活性エネルギー線硬化型のインク組成物を吐出する記録方法であって、前記インク組成物は、重合開始剤と、重合性化合物と、光輝性顔料と、を含有し、前記光輝性顔料の顔料量は1.5%以上であり、前記重合開始剤の含有量は、前記インク組成物全量中10質量%以上であり、前記重合開始剤は、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤と、アミノアセトフェノン系重合開始剤と、チオキサントン系重合開始剤と、を含有する記録方法。
【0016】
(6)インクジェット法によって活性エネルギー線硬化型のインク組成物を吐出する印刷物の製造方法であって、前記インク組成物は、重合開始剤と、重合性化合物と、光輝性顔料と、を含有し、前記光輝性顔料の顔料量は1.5%以上であり、前記重合開始剤の含有量は、前記インク組成物全量中10質量%以上であり、前記重合開始剤は、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤と、アミノアセトフェノン系重合開始剤と、チオキサントン系重合開始剤と、を含有する印刷物の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のインク組成物は、光沢性を維持しつつ、硬化性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例の光沢評価でのL
*a
*b
*表色系におけるL
*(明度指数)の測定角度を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0020】
<1.インク組成物>
本実施の形態に係るインク組成物は、インクジェット法によって吐出される活性エネルギー線硬化型のインク組成物である。そして、このインク組成物は、重合性化合物と、光輝性顔料と、を含有しており、活性エネルギー線が照射されると、被体の表面に光輝性顔料を含有する光輝性層が形成されて、被体に金属調の光沢性を付与することができる。なお、本明細書において被体とは、記録媒体の表面そのものであっても、記録媒体の表面の一部又は全面に着色層、プライマー層やオーバーコート層が形成されたものであってもよく、特に限定されるものではない。また、詳しくは後述するが、本明細書において「着色層」とは、光輝性顔料とは異なる通常のインク組成物の使用されるような色材(染料・顔料)を含有する層を意味する。
【0021】
そして、このインク組成物に含まれる光輝性顔料の含有量は1.5質量%以上である。これにより、良好な金属調の光沢性を付与することができるととともに、被体の隠蔽性をも向上させることが可能となる。
【0022】
ところが、光輝性顔料は、可視光や紫外線を反射する性質を有するため、活性エネルギー線硬化型のインク組成物中の光輝性顔料の含有量を増やすと、硬化性が悪化するという問題が発生する。そこで、本実施の形態に係るインク組成物は、重合開始剤の含有量がインク組成物全量中10質量%以上であって、重合開始剤は、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤と、アミノアセトフェノン系重合開始剤と、チオキサントン系重合開始剤と、を含有することを特徴とする。これにより、インク組成物の硬化性を向上させることが可能となる。
【0023】
しかも、吸収波長領域の異なる複数種類の重合開始剤を含有させることで、インク組成物の硬化速度を適度なものとすることが可能となるので、硬化ムラや硬化収縮などによる光輝性顔料の配向阻害を抑制し、被体に付与する金属調の光沢性も維持することが可能となる。
【0024】
以下、本実施の形態に係るインク組成物に含まれる各成分について各々説明する。
【0025】
[光輝性顔料]
光輝性顔料は、被体に金属調の光沢性を付与する機能を有する。光輝性顔料としては、たとえばパール顔料や金属含有光輝性顔料を含むものが挙げられる。中でも光輝性顔料は金属含有光輝性顔料を含有することが好ましい。被体により好適な金属調の光沢性を付与することができる。
【0026】
なお、光輝性顔料は金属含有光輝性顔料を含有する場合、金属含有光輝性顔料の含有量が光輝性顔料全量中30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70量%以上であることがさらに好ましい。
【0027】
パール顔料としては、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス、二酸化ケイ素、金属酸化物、およびそれらの積層等の真珠光沢や干渉光沢を有する顔料が挙げられる。
【0028】
金属含有光輝性顔料としては、アルミニウム、銀、金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅等の単体金属;金属化合物;合金およびそれら混合物の少なくとも1種を挙げることができる。金属含有光輝性顔料としてはアルミニウムを含むものを使用することが好ましい。光輝性顔料としてアルミニウムを含むものを用いることで、被体により好適な金属調の光沢性を付与することができる。
【0029】
光輝性顔料の含有量は、インク組成物全量中1.5質量%以上であれば特に限定されないが、光輝性顔料の含有量の上限は、インク組成物全量中2.0質量%以上であることが好ましく、2.5質量%以上であることがより好ましい。これにより、被体により好適な金属調の光沢性を付与することができるようになる。光輝性顔料の含有量の上限は、特に限定されるものではないが、インク組成物全量中5.0質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以下であることがさらに好ましい。このような範囲であることで、インク組成物や分散液中での光輝性顔料の分散性が向上する。
【0030】
金属含有光輝性顔料の体積平均粒子径(D50)が0.01μm以上3.0μm以下であり、体積平均粒子径(D90)が4.5μm以下であり、厚みが10nm以上1.0μm以下であることが好ましい。このような形状であることで、被体により好適な金属調の光沢性を付与することができる。
【0031】
金属含有光輝性顔料の体積平均粒子径(D50)の下限は、0.02μm以上であることがより好ましく、0.03μm以上であることがさらに好ましい。金属含有光輝性顔料の体積平均粒子径(D50)の上限は、2.7μm以下であることがより好ましく、2.5μm以下であることがさらに好ましい。金属含有光輝性顔料の体積平均粒子径(D90)は、4.0μm以下であることがより好ましく、3.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0032】
金属含有光輝性顔料の厚みが10nm以上であることで、金属含有光輝性顔料の反射性、光輝性が向上し、被体により好適な金属調の光沢性を付与することができるようになる。金属含有光輝性顔料の厚みが1.0μm以下であることで、インク組成物や分散液中での金属含有光輝性顔料の分散性が向上する。
【0033】
金属含有光輝性顔料の厚みの下限は、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましい。金属含有光輝性顔料の厚みの上限は、0.8μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0034】
なお、光輝性顔料の体積平均粒子径(D50)、体積平均粒子径(D90)及び厚みは、例えばシスメックス(株)製「FPIA-3000S」、(株)島津製作所製レーザー回折式粒度分布計「SALD 7500nano」等を使用して測定することができる。
【0035】
光輝性顔料は、金属含有粒子を機械的に造形することによって、たとえばボールミルまたはアトリションミルの中で磨砕することによって得ることができる。金属含有粒子は、公知のアトマイズ法によって得ることもできる。
【0036】
また、光輝性顔料を製造する別な方法として、基材上に形成された金属含有薄膜を微粉砕することもまた可能である。そのような方法として、例えば、剥離用樹脂層を被覆した平坦な基材の上に、真空蒸着、イオンプレーティングまたはスパッタリング法等によって10nm以上1.0μm以下程度の金属含有薄膜を形成して金属含有薄膜を基材から剥離させて微粉砕する方法が挙げられる。なお、金属含有薄膜との文言は、金属酸化物等の金属化合物含有薄膜も含む概念で使用される。金属含有薄膜の厚さの下限は、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。金属含有薄膜の厚さの上限は、0.9μm以下であることがより好ましく、0.8μm以下であることがさらに好ましい。
【0037】
光輝性顔料の製造に用いられる基材の具体例は、ポリテトラフルオロエチレンフィルム;ポリエチレンフィルム;ポリプロピレンフィルム;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム;66ナイロン、6ナイロン等のポリアミドフィルム;ポリカーボネートフィルム;トリアセテートフィルム;ポリイミドフィルムである。好ましい基材は、ポリエチレンテレフタレートまたはその共重合体のフィルムである。
【0038】
光輝性顔料の製造に用いられる基材の好ましい厚さの下限は、特に限定されるものではないが10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。基材の厚みが10μm以上であることで取り扱い性が良好となる。シート状基材の好ましい厚さの上限は、特に限定されるものではないが、150μm以下であることが好ましく、145μm以下であることがより好ましく、140μm以下であることがさらに好ましい。基材の厚みが150μm以下であれることで、印刷物の柔軟性を向上させて、ロール化や剥離が容易となる。
【0039】
基材に被覆される剥離用樹脂層に用いる樹脂の具体例は、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、セルロース誘導体、ポリビニルアセタール、アクリル酸共重合体、変性ナイロン樹脂である。剥離用樹脂層に用いる樹脂を樹脂層とするには、樹脂溶液をシート状基材上にグラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージョン塗布、ディップ塗布、スピンコート塗布等の塗布により、剥離用樹脂層を形成する。
【0040】
剥離用樹脂層の厚さの下限は、特に限定されるものではないが、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましい。0.1μm以上であることで金属含有薄膜を基材から容易に剥離させることが可能となる。剥離用樹脂層の厚さの上限は、特に限定されるものではないが、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。50μm以下であることで金属含有薄膜を基材から容易に剥離させることが可能となる。
【0041】
なお、基材の上に金属含有薄膜が形成された印刷物から、インク組成物やインク組成物の製造に用いられる分散液を製造してもよい。剥離用樹脂を溶解しうると共に光輝性顔料と反応しない溶媒中に浸漬するか、または浸漬と同時に超音波処理を行うとよい。このような溶媒としてはインク組成物を構成する重合性化合物や溶媒等が挙げられる。剥離用樹脂が光輝性顔料を分散させる分散剤としての機能を有し光輝性顔料の分散性が向上する。この場合、光輝性顔料の粒径及び膜厚は、金属含有薄膜を形成したときの条件や超音波分散時間により調整される。なお、剥離用樹脂溶解溶液から光輝性顔料を遠心分離により沈降分離させて光輝性顔料を回収し、インク組成物を構成する重合性化合物や溶媒等に光輝性顔料を分散させてもよい。
【0042】
[重合性化合物]
重合性化合物とは、活性エネルギー線を照射することにより重合されるエチレン性不飽和二重結合を有する化合物である。活性エネルギー線とは、遠紫外線、紫外線、近紫外線、可視光線、赤外線、X線、γ線等の電磁波が含まれる。
【0043】
重合性化合物としては、エチレン性不飽和二重結合が化合物中に1個有する単官能重合性化合物であってもよいし、エチレン性不飽和二重結合が化合物中に2個以上有する多官能重合性化合物であってもよい。なお、重合性化合物は、その分子量によってはオリゴマーやポリマーとも称される化合物をも含む概念である。
【0044】
単官能モノマーの例として、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)、環状トリメチロールプロパンフォルマルアクリレート(CTFA)、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)アクリレート、(2-メチル-2-イソブチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)(メタ)アクリレート、(シクロヘキサンスピロ-2-(1,3-ジオキソラン-4-イル))(メタ)アクリレート、アルキルシクロアルキルアクリレートである4-t-ブチルシクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、γ-ブチロラクトンアクリレート、クレゾールアクリレート、2-アクリロイロキシエチルフタレート、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタレート、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-アクリロイロキシプロピルフタレート、パラクミルフェノキシエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート、1-アダマンチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、3-3-5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、アクリロイルモルフォリン、N-ビニルカプロラクタム、イミドアクリレート、イソオクチルアクリレート、トリデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソデシルアクリレート、カプロラクトンアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリプロピレングリコールアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、及び、これらのアクリレートにアルコキシ変性、及びカプロラクトン変性等の各種変性を有するもの、を挙げることができる。
【0045】
多官能モノマーの例として、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、長鎖脂肪族ジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンジ(メタ)アクリレート、トリグリセロールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、メトキシ化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、アクリル化イソシアヌレート、ビス(アクリロキシネオペンチルグリコール)アジペート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、フタル酸ジ(メタ)アクリレート、リン酸ジ(メタ)アクリレート、亜鉛ジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート及びこれらの変性数違い、変性種違い、構造違いの(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0046】
[重合開始剤]
本実施の形態に係るインク組成物は重合開始剤を含有する。重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によりインク組成物中の重合性化合物の重合反応を促進する。この重合開始剤は、インク組成物全量中10質量%以上であって、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤と、アミノアセトフェノン系重合開始剤と、チオキサントン系重合開始剤と、を含有することを特徴とする。
【0047】
アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤とは、アシルフォスフィンオキサイド骨格を有する重合開始剤である。アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤としては、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等のビスアシルフォスフィンオキサイド類;2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィン酸メチルエステル、2-メチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ピバロイルフェニルフォスフィン酸イソプロピルエステル、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等のモノアシルフォスフィンオキサイド類等が挙げられる。
【0048】
アミノアセトフェノン系重合開始剤とは、アミノアセトフェノン骨格を有する重合開始剤である。アミノアセトフェノン系重合開始剤としては、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパノン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン等が挙げられる。
【0049】
チオキサントン系重合開始剤とは、チオキサントン骨格を有する重合開始剤である。チオキサントン系重合開始剤としては2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン等が挙げられる。
【0050】
重合開始剤全量中のアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の含有量は、特に制限されるものではない。その中でも、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の含有量の下限は、重合開始剤全量中5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の含有量の上限は、重合開始剤全量中90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、39質量%以下であることがさらに好ましい。アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の含有量は、重合開始剤全量中10質量%以上39質量%以下であることが特に好ましい。このような範囲にすることで、印刷物の光沢性を維持しつつ、インク組成物の硬化性をさらに向上させることが可能となる。
【0051】
重合開始剤全量中のアミノアセトフェノン系重合開始剤の含有量は、特に制限されるものではない。その中でも、アミノアセトフェノン系重合開始剤の含有量の下限は、重合開始剤全量中3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。アミノアセトフェノン系重合開始剤の含有量の上限は、重合開始剤全量中55質量%以下であることが好ましく、53質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。このような範囲にすることで、印刷物の光沢性を維持しつつ、インク組成物の硬化性をさらに向上させることが可能となる。
【0052】
重合開始剤全量中のチオキサントン系重合開始剤の含有量は、特に制限されるものではない。その中でも、チオキサントン系重合開始剤の含有量の下限は、重合開始剤全量中3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。チオキサントン系重合開始剤の含有量の上限は、重合開始剤全量中55質量%以下であることが好ましく、53質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。このような範囲にすることで、印刷物の光沢性を維持しつつ、インク組成物の硬化性をさらに向上させることが可能となる。
【0053】
そして、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤と、アミノアセトフェノン系重合開始剤と、チオキサントン系重合開始剤と、の合計含有量の下限は、インク組成物全量中5質量%以上であることが好ましく、6質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることがさらに好ましい。アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤と、アミノアセトフェノン系重合開始剤と、チオキサントン系重合開始剤と、の合計含有量の上限は、25質量%以下であることが好ましく、23質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。このような範囲にすることで、印刷物の光沢性を維持しつつ、インク組成物の硬化性をさらに向上させることが可能となる。
【0054】
さらに、本実施の形態に係るインク組成物には、上記の重合開始剤とは異なる重合開始剤を含有してもよい。そのような重合開始剤の具体例として、例えば、α-ヒドロキシケトン類、ベンゾイン誘導体、ベンジルケタール類、ジアリルケトン類、芳香族オニウム塩類、有機過酸化物、チオキサントンとは異なるチオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、チタノセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物等が挙げられる。
【0055】
重合開始剤の含有量は、インク組成物全量中10質量%以上であれば特に制限されるものではない。重合開始剤の含有量の上限は、インク組成物全量中20質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。重合開始剤の含有量がインク組成物全量中10質量%以上であることで、インク組成物の硬化性を向上させることができる。重合開始剤の含有量がインク組成物全量中20質量%以下であることで、相対的に他の成分(重合性化合物や光輝性顔料等)を増やすことが可能となるので、良好な金属調の光沢性を付与することが可能となり、インク組成物の硬化性を向上することができる。
【0056】
[重合禁止剤]
本実施の形態に係るインク組成物は、必要に応じて重合禁止剤を含有してもよい。重合禁止剤としては、特に限定されず、例えば、ジフェニルピクリルヒドラジド、トリ-p-ニトロフェニルメチル,p-ベンゾキノン、p-tert-ブチルカテコール、ピクリン酸、塩化銅、メチルハイドロキノン、メトキノン、tert-ブチルハイドロキノン、フェノチアジン類、ニトロソアミン類等の重合禁止剤を用いることができる。
【0057】
[表面調整剤]
本実施の形態に係るインク組成物は、必要に応じて表面調整剤を含有してもよい。表面調整剤としては特に限定されないが、具体例としては、ジメチルポリシロキサンを有するビックケミー社製「BYK-306」、「BYK-333」、「BYK-371」、「BYK-377」、エボニックデグサジャパン社製「TegoRad2010」「TegoRad2100」、「TegoRad2200N」、「TegoRad2300」等が挙げられる。
【0058】
[その他の添加剤]
本実施の形態に係るインク組成物は、その他の添加剤として、溶剤、可塑剤、光安定化剤、ワックス、酸化防止剤、配向剤等、種々の添加剤を含有していても良い。なお、インク組成物であっても樹脂を含有していてもよい。
【0059】
なお、本実施の形態に係るインク組成物は、光輝性顔料とは異なる通常のインクジェット用のインク組成物の使用されるような色材(染料・顔料)は含有してもよい。色材はインク組成物全量中3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に好ましく、0.2質量%以下であることが更になお好ましい。
【0060】
(インク組成物の粘度及び表面張力)
本実施の形態に係るインク組成物の粘度は、インクジェット吐出性、吐出安定性の点から、吐出温度(例えば40℃)での粘度が30mPa・s以下であることが好ましく、25mPa・s以下であることがより好ましく、22mPa・s以下であることがさらに好ましい。又、本実施の形態に係るインク組成物の粘度は、5mPa・s以上であることが好ましく、7mPa・s以上であることがより好ましく、10mPa・s以上であることがさらに好ましい。
【0061】
又、本実施の形態に係るインク組成物の表面張力は、インクジェットの吐出性、吐出安定性、基材へのレベリング性の点から、25℃での表面張力が20mN/m以上であることが好ましく、23mN/m以上であることがより好ましく、25mN/m以上あることがさらに好ましい。又、本実施の形態に係るインク組成物の表面張力は、40mN/m以下であることが好ましく、37mN/m以下であることがより好ましく、35mN/m以下であることがさらに好ましい。
【0062】
(インク組成物の製造方法)
インク組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。インク組成物には、分散機を用いて、重合性化合物、光輝性顔料、重合開始剤、分散剤等で分散し、その後、必要に応じて重合禁止剤、レベリング剤等を添加して均一に撹拌することにより、混合物を得て、その後光輝性顔料を添加して更にフィルターで濾過することによってインク組成物が得られる。
【0063】
次に、本実施の形態に係るインク組成物により得られる印刷物について説明する。
【0064】
<2.印刷物>
上記の実施形態に係るインク組成物を使用して得られる印刷物は、基材(記録媒体)と、この基材(記録媒体)の表面に形成された光輝性層と、を備える。そして、この光輝性層は、上記の実施形態に係るインク組成物に含有される重合性化合物の硬化物と、光輝性顔料と、を含有する。ここで、上記の実施形態に係るインク組成物は、光輝性顔料の含有量は1.5質量%以上であって、吸収波長領域の異なる複数種類の重合開始剤を含有しているので、光沢性を維持しつつ、硬化性が向上された光輝性層を形成することができる。なお、印刷物とは、少なくとも基材(記録媒体)と光輝性層とを備えていればよく、例えば、基材(記録媒体)と光輝性層に加え、通常のインク組成物によって形成された着色層、プライマー層やオーバーコート層を備えていてもよい。
【0065】
以下、印刷物を構成する各層について説明する。
【0066】
[基材(記録媒体)]
基材(記録媒体)としては、特に限定はされず、樹脂基材、金属板ガラスなどの非吸収性基材であっても、紙や布帛などの吸収性基材であっても、受容層を備える基材のような表面塗工が施された基材であってもよく、種々の基材を使用することができる。
【0067】
非吸収性基材としては、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系合成紙、塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂基材や、金属、金属箔コート紙、ガラス、合成ゴム、天然ゴム等を挙げることができる。
【0068】
吸収性基材としては、更紙、中質紙、上質紙、綿、化繊織物、絹、麻、布帛、不織布、皮革等を挙げることができる。
【0069】
表面塗工が施された基材としてはコート紙、アート紙、キャスト紙、軽量コート紙、微塗工紙等を挙げることができる。
【0070】
[プライマー層]
印刷物はプライマー層を備えていてもよい。プライマー層は、基材(記録媒体)の表面に形成され、着色層や光輝性層との接着性を向上させる機能を有する。
【0071】
プライマー層を形成することのできるプライマー剤としては活性エネルギー線硬化型のインク組成物であっても、溶剤を含有する溶剤型のインク組成物であっても、水を含有する水性型のインク組成物であってもよい。プライマー剤は、例えば、後述する着色層を形成するインク組成物であって、樹脂成分や重合性化合物を主成分とし、色材を除外又は減量して色彩を視認しないように調整したようなインク組成物であってもよい。着色層と同様の組成のプライマー剤を使用することで着色層との密着性を向上させることができる。また、プライマー剤は、例えば、従来公知のプライマー剤であってもよい。
【0072】
プライマー剤を基材(記録媒体)の表面を塗布する方法としてはどのような方法であってもよく、例えば、スプレー塗布、タオル、スポンジ、不織布、ティッシュ等を用いた塗布、ディスペンサー、刷毛塗り、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、インクジェット、熱転写方式等のいずれであってもよい。
【0073】
[着色層]
印刷物は着色層を備えていてもよい。着色層とは、光輝性顔料とは異なる通常のインク組成物の使用されるような色材(染料・顔料)を含有する層であり、主に基材の表面又は基材の表面に形成された層(プライマー層、コーティング層や受理溶液の層等)の表面に塗布されたインク組成物により形成される層である。又、この着色層を形成するインク組成物は、活性エネルギー線硬化型のインク組成物であっても、色材を含有し、溶剤を含有する溶剤型のインク組成物であっても、色材を含有し、水を含有する水性型のインク組成物であってもよい。また、複数のインク組成物(例えば、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを含む複数の層の場合等)であってもよい。上記の実施形態に係るインク組成物により形成される光輝性層は光沢性を維持できるものであるので、このような複数のインク組成物から形成された画像であることで、耐擦過性に優れ、光沢性によりその画像を際立たせる極めて意匠性に優れた印刷物となる。
【0074】
着色層には樹脂が含有されていてもよい。着色層に樹脂が含有される場合、この樹脂は、インク組成物に含まれるバインダー樹脂や高分子分散剤がそのままこのインク層の樹脂となってもよいし、インク組成物に含まれる重合性化合物が基材(記録媒体)の表面に吐出された後に活性エネルギー線を照射して重合されて形成された硬化物であってもよい。
【0075】
又、この着色層を形成するためのインク組成物の塗布方法は、特に限定されるものではない。例えば、スプレー法、コーター法、インクジェット法、グラビア法、フレキソ法等を挙げることができる。中でもインクジェット法により吐出(塗布)されることが好ましい。インクジェット法であれば、基材の任意の場所に吐出(塗布)することも、基材全面に吐出(塗布)することも容易である。
【0076】
着色層を形成するインク組成物の色材は、特に限定されるものではなく、染料系であってもよいし、顔料系であってもよい。着色層の耐水性や耐光性等の耐性が良好である顔料系インク組成物を使用することが好ましい。着色層を形成するインク組成物に用いることのできる顔料は特に限定されない。従来のインク組成物に使用されている有機顔料又は無機顔料等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。具体的な有機顔料としては、例えば、不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、染料からの誘導体、フタロシアニン系有機顔料、キナクリドン系有機顔料、ペリレン系有機顔料、ジオキサジン系有機顔料、ニッケルアゾ系顔料、イソインドリノン系有機顔料、ピランスロン系有機顔料、チオインジゴ系有機顔料、縮合アゾ系有機顔料、ベンズイミダゾロン系有機顔料、キノフタロン系有機顔料、イソインドリン系有機顔料、キナクリドン系固溶体顔料、ペリレン系固溶体顔料等の有機固溶体顔料等、無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛等、その他の顔料として、カーボンブラック等が挙げられる。インク組成物に用いることのできる顔料は、複数の有機顔料や無機顔料を併用してもよく、顔料分散剤によって水溶性溶媒中に分散させた顔料分散体と自己分散型顔料を併用したものであってもよい。
【0077】
[光輝性層]
光輝性層は、上記の実施形態に係る重合性化合物と、光輝性顔料と、重合開始剤と、を含有するインク組成物により形成される層である。具体的には、重合性化合物と、光輝性顔料と、重合開始剤と、を含有するインク組成物が被体の表面にインクジェット法によって吐出され、活性エネルギー線を照射することで形成される重合性化合物の硬化物と、光輝性顔料と、を含有する層である。
【0078】
この光輝性層は、吸収波長領域の異なる複数種類の重合開始剤を含有させることで、インク組成物の硬化速度を適度なものとすることが可能となるので、光沢性を維持しつつ、硬化性を向上することができる。
【0079】
この光輝性層は、光輝性顔料を光輝性層全量中1.5質量%以上の割合で含有することが好ましく、2.0質量%以上の割合で含有することがより好ましく、2.5質量%以上の割合で含有することが好ましい。この光輝性層は、光輝性顔料を光輝性層全量中5.0質量%以下の割合で含有することが好ましく、4.5質量%以下の割合で含有することがより好ましく、4.0質量%以下の割合で含有することがさらに好ましい。
【0080】
[オーバーコート層]
印刷物はオーバーコート層を備えていてもよい。オーバーコート層は、印刷物の最上面(例えば光輝性層や着色層の表面)に形成され、印刷物の耐久性を向上させる機能を有する。
【0081】
オーバーコート層を形成することのできるオーバーコート剤としては活性エネルギー線硬化型のインク組成物であっても、溶剤を含有する溶剤型のインク組成物であっても、水を含有する水性型のインク組成物であってもよい。オーバーコート剤は、例えば、上述した着色層を形成するインク組成物であって、樹脂成分や重合性化合物を主成分とし、色材を除外又は減量して色彩を視認しないように調整したようなインク組成物であってもよい。着色層と同様の組成のオーバーコート剤を使用することで着色層との密着性を向上させることができる。また、オーバーコート剤は、例えば、従来公知のオーバーコート剤であってもよい。
【0082】
オーバーコート剤を光輝性層や着色層の表面に塗布する方法としてはどのような方法であってもよく、例えば、スプレー塗布、タオル、スポンジ、不織布、ティッシュ等を用いた塗布、ディスペンサー、刷毛塗り、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、インクジェット、熱転写方式等のいずれであってもよい。
【0083】
<3.記録方法>
上記の実施形態に係るインク組成物を用いて基材(記録媒体)の表面に記録する記録方法は、インクジェット法によって活性エネルギー線硬化型のインク組成物を吐出する記録方法である。インクジェット法によってインク組成物を吐出することで小ロットの印刷物の製造に対応可能となる。
【0084】
インクジェット記録装置は、ピエゾ方式、サーマル方式、静電方式等のいずれのインクジェット記録装置にも適用することができる。
【0085】
そして、インクジェット法によって吐出されたインク組成物に活性エネルギー線を照射する。活性エネルギー線は、遠紫外線、紫外線、近紫外線、可視光線、赤外線、X線、γ線等の電磁波のほか、電子線、プロトン線、中性子線の活性エネルギー線を挙げることができる。活性エネルギー線を照射する光源は特に限定されるものではなく、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、紫外線レーザー、太陽光、LEDランプ等が挙げられる。省エネルギーであり、印刷装置の設計設備の自由度が高いという観点から光源としてLEDランプを用いることがより好ましい。
【0086】
この記録方法で得られた印刷物であれば、光沢性を維持しつつ、硬化性を向上することができる。
【0087】
<4.印刷物の製造方法>
上記の実施形態に係るインク組成物を基材の表面に吐出する記録方法は、印刷物の製造方法として定義することもできる。
【0088】
この製造方法で得られた印刷物であれば、光沢性を維持しつつ、硬化性を向上することができる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0090】
1.光輝性顔料の作成
(1)光輝性顔料1
下記組成の塗工液1を厚み100μmのPETフィルム上にバーコート法で均一に塗布し、60℃で10分間乾燥し、剥離樹脂層を形成した。
【0091】
塗工液1
・セルロースアセテートブチレート(ブチル化率35~39%、関東化学社製) 3%
・イソプロパノール 97%
【0092】
次に、(株)真空デバイス製「VE-1010方真空蒸着装置」を使用して、剥離樹脂層上に膜厚20nmの金属含有薄膜を形成して積層体を作製した。得られた積層体をイソプロパノール中に浸漬すると共に、(株)アズワン製「VS-150超音波分散機」を用いて剥離、粉砕、微分散処理を同時に12時間行い、光輝性顔料(アルミニウムからなる金属含有光輝性顔料)を含有する光輝性顔料分散液を得た。
【0093】
得られた光輝性顔料分散液を開き目5μmのSUSメッシュフィルターで濾過し、粗大粒子を除去した。次いで、イソプロパノールをエバポレーターにより濾液から留去した。その後、イソプロパノールをフェノキシエチルアクリレートに置き換え、光輝性顔料の濃度を調整し、光輝性顔料1を5質量%含有する光輝性顔料分散液1を調製した。この光輝性顔料1の体積平均粒子径(D50)は2.5μm、体積平均粒子径(D90)は3.5μm、厚みは40nmであった。
【0094】
(2)光輝性顔料2
上記と同様に光輝性顔料分散液を製造し、光輝性顔料分散液200gに対し、5gの酸価70のポリエステル樹脂(Crylcoat340、ベルギー国のUCBにより供給)および5gのエポキシ当量750のエポキシ樹脂(Araldit GT6063ES、スイス国のVanticoにより供給)を、100gのアセトンに溶解させたものを加えて1時間撹拌した後、上述の遠心分離と洗浄の操作を行い、アセトンをフェノキシエチルアクリレートに置き換え、表面保護処理された光輝性顔料2を5質量%含有する光輝性顔料分散液2を調製した。この光輝性顔料2の体積平均粒子径(D50)は2.3μm、体積平均粒子径(D90)は2.7μm、厚みは25nmであった。
【0095】
(3)光輝性顔料3
上記の光輝性顔料2の製造において、ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂をステアリン酸ステアリル1gに置き換えて同様の操作を行い、表面保護処理された光輝性顔料3を5質量%含有する光輝性顔料分散液3を調製した。この光輝性顔料3の体積平均粒子径(D50)は2.0μm、体積平均粒子径(D90)は2.5μm、厚みは20nmであった。
【0096】
(4)光輝性顔料4
上記の光輝性顔料2の製造において、ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂を、1gのDisperbyk180(リン酸基含有分散剤、酸価:95mgKOH/g添加剤、アミン価:95mgKOH/g添加剤;ビッグケミー社0.2gのオクチルホスホン酸に置き換え、フェノキシエチルアクリレートを1,6-ヘキサンジオールジアクリレートに置き換えて同様の操作を行い、表面保護処理された光輝性顔料4を5質量%含有する光輝性顔料分散液4を調製した。この光輝性顔料4の体積平均粒子径(D50)は1.9μm、体積平均粒子径(D90)は2.1μm、厚みは20nmであった。
【0097】
2.インク組成物の製造
上記の「光輝性顔料分散液」を使用して実験例のインク組成物を製造した。具体的には、上記の光輝性顔料分散液1~4から光輝性顔料1~4を取り出し、重合性化合物と、光輝性顔料と、重合禁止剤と、を用いて下記表の割合になるように実施例、比較例のインク組成物を調整した。表中の単位は「質量%」である。
【0098】
【0099】
表中、「IRGACURE TPO」とは、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(BASF社製の重合開始剤であって、「アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤」に該当する)である。
【0100】
表中、「IRGACURE 819」とは、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製の重合開始剤であって、「アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤」に該当する)である。
【0101】
表中、「IRGACURE 379」は、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン(BASF社製の重合開始剤であって、「アミノアセトフェノン系重合開始」に該当する)である。
【0102】
表中、「IRGACURE 907」とは、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパノン-1-オン(BASF社製の重合開始剤であって、であって「アミノアセトフェノン系重合開始剤」に該当する)である。
【0103】
表中、「Omnirad DETX」とは、2,4-ジエチルチオキサントン(IGM Resins社製の重合開始剤であって、「チオキサントン系重合開始剤」に該当する)である。
【0104】
表中、「Omnirad ITX」とは、2-イソプロピルチオキサントン(IGM Resins社製の重合開始剤であって、「チオキサントン系重合開始剤」に該当する)である。
【0105】
表中、「Omnirad CTX」とは、2-クロロチオキサントン(IGM Resins社製の重合開始剤であって、「チオキサントン系重合開始剤」に該当する)である。
【0106】
表中、「Speedcure EDB」とは、エチル-4-(ジメチルアミノ)ベンゾナーテ(Lambson社製の重合開始剤)である。
【0107】
表中、「Speedcure BMS」とは、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイドである(Lambson社製の重合開始剤)。
【0108】
表中、「Speedcure EHA」とは、2-エチルヘキシル-4-(ジメチルアミノ)ベンゾナーテである(Lambson社製の重合開始剤)。
【0109】
表中、「Speedcure MBP」とは、4-メチルベンゾフェノンである(Lambson社製の重合開始剤)。
【0110】
3.評価
(1)硬化性評価
実施例及び比較例のインク組成物を用いて得られた印刷物での光輝性層の硬化性を評価した。具体的には、実施例及び比較例のインク組成物をインクジェット記録装置(富士フイルム(株)製「マテリアルプリンター DMP-2850」)によって、記録媒体(PETフィルム(東洋紡(株)コスモシャインA4360))の表面に吐出し、波長385nmのLEDランプにより、ピーク照度250mW/cm2、積算光量650mW/cm2の活性エネルギー線を照射することにより、印刷物を製造した。得られた印刷物の光輝性層を指で触れて硬化性を確認した。
評価基準
〇:べたつきがなく、硬化性は良好であった。
△:印刷直後に若干のタックがあった。
×:タックが強く、硬化不良であった。
〇、△が実使用可能範囲内である。
【0111】
(2)光沢評価
実施例及び比較例の非水性インク組成物を用いて得られた印刷物の光沢を評価した具体的には、上記で得られた印刷物について、コニカミノルタ社製マルチアングル測色系CM-M6を使用して
図1に示すように、印刷面から45°の入射角で入射光を光輝性層に対して入射させ、その入射角に対する反射角から法線方向に15°角度を変更させた角度を測定角度として、その測定角度でのL
*a
*b
*表色系におけるL
*(明度指数)を測定し、以下の評価基準により光沢を評価した(表中「光沢」と表記)。
〇:L
*値が130以上であった。
△:L
*値が110以上130未満であった。
×:L
*値が110未満であった。
〇、△が実使用可能範囲内である。
【0112】
(3)隠蔽率評価
実施例及び比較例のインク組成物を用いて得られた印刷物の隠蔽率を評価した。具体的には、隠蔽率試験紙に、実施例及び比較例のインク組成物を、をインクジェット記録装置によって隠蔽率試験紙の表面に吐出し、活性エネルギー線を照射することにより、硬化させ、白色部と黒色部における三刺激値Yを測定し、隠蔽率を求め、以下の評価基準により隠蔽率を評価した(表中「隠蔽率」と表記)。
評価基準
〇:隠蔽率が95%以上である
△:隠蔽率が80%以上95%未満である
×:隠蔽率が80%未満である
〇、△が実使用可能範囲内である。
【0113】
上記表から分かるように、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤と、アミノアセトフェノン系重合開始剤と、チオキサントン系重合開始剤と、を含有する実施例のインク組成物は、光沢性を維持しつつ、硬化性を向上することができることが分かる。
【0114】
特に、光輝性顔料の含有量がインク組成物全量中1.5質量%以上であって、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の含有量が重合開始剤全量中10質量%以上39質量%以下である実施例4~11、13、14では、光沢性と硬化性とのバランスが特に良好であった。
【0115】
一方、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤と、アミノアセトフェノン系重合開始剤と、チオキサントン系重合開始剤と、の3種の重合開始剤を全て含んでいない比較例1~4、6、7のインク組成物は、硬化性が悪化しているか光沢性を維持できていなかった。そして、光輝性顔料の含有量がインク組成物全量中1.5質量%未満の割合である比較例5は、硬化性は良好であるが、光沢性や隠蔽性は不十分であった。
【符号の説明】
【0116】
1 印刷物