(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】デバイス形成に用いることができる塗布方法および塗布装置
(51)【国際特許分類】
B05D 1/28 20060101AFI20220922BHJP
B05C 1/02 20060101ALI20220922BHJP
B05C 1/04 20060101ALI20220922BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20220922BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
B05D1/28
B05C1/02 101
B05C1/04
B05D3/00 D
B05D3/12 E
(21)【出願番号】P 2021549637
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2020009220
(87)【国際公開番号】W WO2021176606
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】内藤 勝之
(72)【発明者】
【氏名】信田 直美
(72)【発明者】
【氏名】熊田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】齊田 穣
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-174992(JP,A)
【文献】特開2016-190202(JP,A)
【文献】実開平06-024771(JP,U)
【文献】特開平10-028926(JP,A)
【文献】特開2013-066879(JP,A)
【文献】特開2013-066873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B05C 1/00-21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に配列された短冊状のセルベース上にメニスカス塗布により塗布膜を形成する塗布方法であって、
(a)
メニスカスが形成される部分の、長手方向に垂直な方向の断面が一定である塗布バーヘッドと、
前記基材と
を、略平行になるように配置し、
(b)メニスカスが形成される部分に塗布液を供給する複数の塗布ノズルを、隣接する2つの前記塗布ノズルの中央部分が隣接する2つの前記短冊状のセルベースの分離領域に一致するように配置し、
(c)前記塗布ノズルから前記塗布液を供給しながら、前記基材または前記塗布バーヘッドを移動して、前記塗布膜を形成させる、
塗布方法。
【請求項2】
前記メニスカスが形成される部分が、前記塗布バーヘッドと、前記基材との間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
最初に前記塗布液の供給を開始して、前記ギャップにメニスカスを形成させた後、前記基材または前記塗布バーヘッドを移動させる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記分離領域におけるメニスカスの液量が周囲より少ない、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記塗布ノズルのピッチと前記セルベースのピッチとが同じである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記塗布ノズルのピッチが前記セルベースのピッチの整数倍である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記塗布ノズルの間隔を、前記塗布液の粘性および表面張力に基づいて調整する、請求項
1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記基材が塗布前にロール状に巻かれており、塗布後の基材が別のロールに巻き取られる、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記短冊状のセルベースが配置された前記基材の反射率または透過率の分布を測定して、複数の塗布ノズルを、隣接する2つの塗布ノズルの中央部分が隣接する2つのセルベースの分離領域に一致するように配置する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記分離領域上の塗布膜の一部または全てを、さらにスクライブ法によって処理して短冊状の薄膜を形成する、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
基材上に配列された短冊状のセルベース上にメニスカス塗布により塗布膜を形成する塗布装置であって、
前記基材に対して略平行に配置される
、メニスカスが形成される部分の、長手方向に垂直な方向の断面が一定である塗布バーヘッドと、
前記基材を搬送する部材と、
前記基材と前記塗布バーヘッドとの間に塗布液を供給する
ことができる位置に配置された、複数の塗布ノズルと、
前記塗布液を前記塗布ノズルに供給する部材と、
を有し、
前記塗布ノズルが、隣接する2つの塗布ノズルの中央部分が、隣接する2つのセルベースの分離領域に一致するように配置する部材を有する、塗布装置。
【請求項12】
前記塗布ノズルが別々に脱着可能である、請求項
11に記載の装置。
【請求項13】
前記塗布ノズルの間隔を前記塗布液の粘性と表面張力に基づいて調整する部材をさらに有する、請求項
11または12に記載の装置。
【請求項14】
前記塗布ノズルの間隔を調整するスペーサーをさらに有する、請求項
11~13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
間隔が一定の複数の孔または溝がある塗布ノズル固定用部材をさらに有する、請求項
11~13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
前記塗布ノズルが、パンタグラフ機構を有する伸縮構造物の末端またはジョイント部に固定された、請求項
11~13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
前記塗布ノズルが、前記塗布液を供給するチューブを着脱可能に接続できる接続部を有する、請求項
11~16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
一つの塗布液タンクと、複数の前記塗布ノズルとを連結するチューブをさらに有する、請求項
11~17のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
前記
塗布膜の反射率または透過率の分布を測定する部材をさらに有する、請求項
11~18のいずれか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、デバイス形成に用いることができる塗布方法および塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機半導体を用いた有機薄膜太陽電池や有機/無機ハイブリッド太陽電池は、活性層の形成に安価な塗布法を適用できることから、低コストの太陽電池として期待されている。有機薄膜太陽電池や有機/無機ハイブリッド太陽電池を低コストで実現するためには、有機活性層やその他の層を形成する塗布材料を均一に塗布することが求められる。各層の膜厚は数nmから数100nm程度であり、そのような非常に薄い層を大面積で均一性よく形成することが求められる。例えば、低コストで大面積に極薄い層を塗布可能なロール・ツー・ロール(R2R)塗布法のひとつとしてメニスカス塗布法が知られている。メニスカス塗布法として塗布バーヘッドに複数のノズルから液供給を行い、単一の大面積の塗布膜を得る方法は簡便であり、器具の構造も簡単である。しかし均一な膜厚を得ることが困難な場合がある。
【0003】
また、太陽電池モジュールにおいてはセルを直列にして電圧を上げることが行なわれている。そのため得られた大面積の膜をスクライブやリソグラフィ等によって分離して、短冊状のセルを作製することが一般的に行われている。セルの幅は下地電極の導電性が高いほど広くすることができる傾向がある。セルとセルとの間に存在する分離領域は、幅が広いほどデバイス作製は容易になるが、開口率が小さくなり出力が小さくなる傾向がある。分離領域の幅の調整はデバイス作製において重要な問題である。
【0004】
リソグラフィに比べてスクライブ処理は簡便であるが、スクライブ処理による残渣が発生することが多く、それがデバイスの欠陥等になる可能性がある。またレーザーによるスクライブ処理は大きなエネルギーが必要であり、物理的な刃によるスクライブ処理では刃の寿命が問題となることがある。
【0005】
また、スクライブにおいてはスクライブする箇所は下地電極に対して正確に制御する必要があるが下地電極は上部に形成された膜によって覆われるため判別が難しくなる課題があった。
【0006】
このようなスクライブ処理に代えて、平行に配列された、複数の短冊状のセルをメニスカス塗布法により形成することも検討されている。具体的には、形成させようとするセル幅に応じた分離された領域を有する塗布バーヘッドを準備し、分離された領域ごとに複数のノズルから液供給を行い、塗布を行う。この方法によれば、それぞれの領域に応じた幅の、分離したセルを形成することができる。しかし、塗布バーヘッドの構造が複雑になり、コスト増や塗布バーヘッドの洗浄の頻度が高くなるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、基材上に配列された、複数の短冊状の塗布膜を、例えばロール・ツー・ロール(R2R)法により、簡便かつ安価に形成することができる塗布方法、および種々の液物性や条件に柔軟に対応できメンテナンスが簡単な塗布装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の塗布方法は、
基材上に配列された短冊状のセルベース上にメニスカス塗布により塗布膜を形成する塗布方法であって、
(a)塗布バーヘッドと、
前記基材と
を、略平行になるように配置し、
(b)メニスカスが形成される部分に塗布液を供給する複数の塗布ノズルを、隣接する2つの前記塗布ノズルの中央部分が隣接する2つの前記短冊状のセルベースの分離領域に一致するように配置し、
(c)前記塗布ノズルから前記塗布液を供給しながら、前記基材または前記塗布バーヘッドを移動して、前記塗布膜を形成させる、
方法である。
【0010】
また、実施形態による塗布装置は
基材上に配列された短冊状のセルベース上にメニスカス塗布により塗布膜を形成する塗布装置であって、
前記基材に対して略平行に配置される塗布バーヘッドと、
前記基材を搬送する部材と、
塗布液を供給する複数の塗布ノズルと、
前記塗布液を前記塗布ノズルに供給する部材と、
を有し、
前記塗布ノズルが、隣接する2つの塗布ノズルの中央部分が、隣接する2つのセルベースの分離領域に一致するように配置する部材を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態による塗布方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
なお、実施形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施形態とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0014】
図1は、実施形態による塗布方法を示す概念図である。
図1において、塗布バーヘッド101に、複数の塗布ノズル102から塗布液105が供給され、その塗布液が塗布バーヘッド101と基材104とのギャップに流れ込み、ギャップ近傍にメニスカスが形成される。塗布バーヘッド101は基材104に対して、略平行、すなわちギャップが一定になるように配置される。そして、塗布液105を連続的に供給しながら、基材102を矢印側、すなわち塗布バーヘッド101に対してに移動させることで、基材上に塗布膜(薄膜ということもある)106が形成される。この例では、基材を移動させているが、塗布バーヘッドを移動してもよい。ここで移動方向は、塗布バーヘッドの長手方向に対して略垂直であることが好ましい。
【0015】
セルベース107(例えば透明電極等)は基材上に予め形成されており、光学装置108はノズルの位置と基材の相対的な位置を調整するために、塗布前の基材表面を観察するためのものである。この光学装置は、ノズルの位置を併せて観察できるものであってもよい。この装置は、基材の反射率または透過率の分布を測定する。この測定結果に基づいて、複数の塗布ノズルを、隣接する2つの塗布ノズルの中央部分が隣接する2つのセルベースの分離領域に一致するように配置することができる。なお、実施形態において「セル」は必ずしもバッテリーセルを意味するものでは無く、小区画に積層されたデバイスを一般的に指すものである。また、セルベースとは、そのようなセルの積層構造の一部分を指すものである。
【0016】
なお、本実施形態において、略垂直または略平行とは、実施形態による効果を損なわない範囲で垂直または平行に対して若干の差が許容されることを意味する。具体的には、上記の例において、基材102を塗布バーヘッド101に対して移動する方向は、塗布バーヘッドのの長手方向に対して典型的には垂直、すなわち90°の角度であるが、±15°程度の傾きを持たせることもできる。すなわち、略垂直および略平行とは、垂直または平行な方向に対して±15°程度の差があってもよい。
【0017】
基材は、一般的に電子デバイスなどに用いられるものから任意に選択することができる。基材としては、ガラスやシリコン基板などの無機材料、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)、ポリエチレンナフタレート(以下、PENという)、ポリカーボネート(以下、PCという)、ポリメチルメタクリレート(以下、PMMAという)などの樹脂材料が挙げられる。特に、柔軟性のある有機材料を用いると、R2Rによる塗布が容易になるので好ましい。
【0018】
塗布バーヘッド101は、一般的に棒状のバーヘッドが用いられる。ここで、塗布バーヘッド101の長手方向に垂直な方向の断面の、メニスカスが形成される部分に対応する形状が、前記塗布バーヘッドの長手方向で一定であることが好ましい。言い換えると、塗布バーヘッドの長手方向に平行な方向の断面を観察した場合、メニスカスが形成される面に対応する断面端が直線になっていることが好ましい。この結果、塗布バーヘッドの長手方向で、基材104とメニスカスが形成される面に対応する断面端との距離は一定になっている。なお、塗布バーヘッドの、メニスカスが形成されない面、例えば塗布面の背面側についてはいかなる形状であってもよい。
【0019】
実施形態において、塗布バーヘッド断面は種々の形態をとることができる。円、楕円、台形等がある。典型的には、塗布バーヘッドは、幅が一定の板状または柱状の形状である。
図1においては円柱状の塗布バーヘッドが例示されている。また、底面が曲線で他の3辺が直線状である断面形状を有していてもよい。
【0020】
塗布ノズル(以下、簡単にノズルということがある)102は複数配置され、それぞれから供給される塗布液が、個別に塗布膜を形成する。
図1においては、それぞれのノズルから供給された塗布液が、分離された塗布膜106を形成しており、これらの塗布膜が形成しようとする短冊状の薄膜に対応する。
【0021】
そして、隣接する2つのノズルの中央部分が隣接する2つのセルベースの分離領域に一致するように配置される。分離領域は、通常、幅が一定の帯状の領域である。そして、2つのノズルの中央部分が分離領域に一致するとは、2つのノズルの間の距離に対して、分離領域の中央部分が2つのノズルの中央から±10%の位置、好ましくは±5%の位置にあることをいう。
【0022】
複数の短冊状の薄膜の配置は目的とするデバイス、例えば太陽電池の構造設計に応じて設定される。本実施形態による塗布方法においては、メニスカスが形成されるヘッド部分への塗布液の拡散によってメニスカス形状が保たれるが、ノズル間の中央に一致する部分、すなわち分離領域上には条件によって、全く塗布膜が形成されないか、他の領域に比べて膜厚が薄くするか、または逆に厚くするかのいずれかにすることができる。
図1においては、隣接する塗布膜106は相互に分離している場合を示しており、その塗布膜は、そのまま短冊状の薄膜とすることもできる。また、塗布条件によっては、隣接する2つの塗布膜が連結することもあるが、ノズルの位置や塗布速度、塗布液の物性などを調整することで、分離領域における膜厚を薄くしたり、厚くしたりすることもできる。このような場合には、塗膜が連続しているために、直接的に複数の短冊状の薄膜を得ることが困難であるため、例えばスクライブ処理によって、分離領域にある塗布膜の一部または全てを除去して、複数の短冊状の薄膜を得ることができる。この方法によれば、膜厚が異なる膜領域をスクライブで除去して、膜厚が均一な部分を短冊状の薄膜とすることができるので、各薄膜に対応するセルの間の特性のバラつきを少なくすることができる。なお、分離領域において膜厚を周囲と変化させることにより、光学的な識別を容易にすることができる。その結果、形成された薄膜または塗布膜の上にさらに塗布膜を設けたり、分離領域をスクライブ処理する時の位置合わせが容易になる。
【0023】
本実施形態においては、塗布液の供給の開始は、基材または塗布バーヘッドの移動を開始する前でも、後でもよい。このように塗布液の供給開始のタイミングを変えることで、塗布膜の性状を変化させることができる。
【0024】
まず、基材または塗布バーヘッドを移動する前に塗布液の供給を開始して、塗布バーヘッドと基材とのギャップにメニスカスを形成させてから塗布を開始すると、その後に供給された塗布液のメニスカスの広がりが下地の塗布液の存在によるメニスカス広がり部の表面張力のために少なくなり、メニスカスの液量が周囲より少なく、その結果、分離領域またはその近傍(塗布膜の両末端近傍)の塗布膜の膜厚が薄くなる傾向がある。膜厚が薄くなった部分はスクライブ処理等が簡便になり、残渣も少なくなるので好ましい。
【0025】
一方、基材または塗布バーヘッドの移動を開始した後、塗布バーヘッドと基材とのギャップ間に塗布液を供給してメニスカスを形成させ、塗布すると、分離領域またはその近傍の塗布膜が厚くなる傾向がある。塗布膜が厚い部分は光学的に検知が容易になるため、スクライブ処理時に位置合わせが容易になる。塗布膜の膜厚が薄くて光学的に検知するのが難しい場合には、分離領域の膜厚を厚くすることが好ましい。
【0026】
ノズルのピッチは短冊状のセルベースのピッチの整数倍が好ましい。スクライブ条件を一定にするためには両者のピッチが同じであることが好ましい。ここでノズルのピッチの調整に際して、塗布膜の物性値(表面張力、粘性)を考慮することが好ましい。表面張力が大きく、粘性の小さい塗布液はメニスカスの広がりの速度が大きく、ノズルのピッチを広くしても均一な塗布膜が得られやすい。メニスカスの広がり速度は表面張力と粘性の比の0.5乗におおよそ比例することから、粘性と表面張力が既知の塗布液を用いて、塗布速度を変更した場合の検量線を作成し、最適なノズル間隔を採用することが好ましい。
【0027】
また、ノズルのピッチがセルベースのピッチより大きい場合にはスクライブ条件を変える必要があるがスクライブ回数を少なくすることができる。塗布膜のピッチは広い方が好ましいので、ノズルのピッチはセルベースのピッチの1~3倍が好ましい。
【0028】
ノズルの間隔を調整する方法としては種々の方法を採用することができる。複数のノズルの間にスペーサーを挟んで制御する方法は種々のサイズのスペーサーを準備することにより簡便に調整ができ、また、ノズル間の複数の間隔が一定ではないような塗布を行うこともできる。
【0029】
間隔が一定の複数の孔または溝がある固定用部材でノズルを固定する方法では、ノズルの形状がニードルである場合には高い精度で簡便に固定できる。
【0030】
パンタグラフ機構を有する伸縮構造物の末端またはジョイント部にノズルを固定する方法では、伸縮構造物を伸ばしたり、縮めたりすることにより、簡便にノズル間隔を変化させることができる。
【0031】
なお、本実施形態においては、塗布に際して、
(i)塗布バーヘッドを固定し、基材を移動させる、
(ii)基材を固定し、塗布バーヘッドを移動させる、
(iii)塗布バーヘッドおよび基材を移動させる、
のいずれの方法をとることもできる。塗布対象となる基材が柔軟性を有していたり、基材が長尺である場合には、安定性の観点から、(i)塗布バーヘッドを固定し、基材を移動させることが好ましい。特に、樹脂材料などを基材とした塗膜を形成しようとする場合には、基材が塗布前にロール状に巻かれており、塗布後の基材が別のロールに巻き取られる、いわゆるロール・ツー・コート法を適用することが好ましい。
【0032】
このような塗布方法は、基材上に配列された短冊状セルを構成要素とするデバイスに用いるセル用薄膜を形成する場合に用いることができるものである。
【0033】
図2は、実施形態によるデバイス作製に用いることができる塗布装置を示す概念図である。
【0034】
塗布装置200は、基材上に配列された短冊状のセルベース上にメニスカス塗布により塗布膜を形成する塗布装置であり、
基材に対して略平行に配置される塗布バーヘッド201と、
基材202を搬送する部材(203aおよび203b)と、
塗布液205aを供給する複数の塗布ノズル206(
図2では一つ表示)と、
塗布液をノズルに供給する部材(204a、204b、および204c)と、
を有する。そして、複数のノズルは、メニスカスが形成される部分に塗布液を供給するものである。隣接する2つのノズルの中央部分が隣接する2つのセルベースの分離領域に一致するように配置されている。207aは基材表面の位置を、207bはやノズルの位置を観察するための光学装置である。この光学装置によって、基材の透過率や反射率を測定して、またノズルの位置を測定して、分離領域の位置を検出したり、その分離領域の位置に応じてノズルの位置を調整することができる。
【0035】
塗布装置は通常、乾燥装置(図示せず)に基材をそのまま搬送して塗布膜205cを乾燥させる。
【0036】
図2において、塗布バーヘッドは、メニスカスを形成させる部分に対応する面が曲面であり、他の3面が平滑な面である棒状の部材である。
【0037】
基材を搬送する部材203aおよび203bは、例えば2つのローラーであり、そのうちひとつが動力によって駆動され、基材が搬送されるようになっていてもよい。また、塗布後の基材が動力によって駆動される軸に巻き取られるようにすることもできる。この場合は、その軸が基材を搬送する部材となる。
【0038】
実施形態の塗布装置においては、複数のノズルが別々に脱着可能であるとすることができる。
【0039】
実施形態の塗布装置においては、ノズルの間隔を塗布液の粘性と表面張力から調整する部材をさらに有することができる。前記した通り、表面張力および粘性が既知である塗布液から得られた情報をもとに、採用する塗布液の表面張力および粘性に基づいて、最適なノズル間隔を決定し、ノズル間隔を決定されたノズル間隔に調整する部材を塗布装置に組み込むことが好ましい。そのような部材としては、ノズルの間に配置してノズル間隔を調整するスペーサー、一定の複数の孔または溝が設けられ、その孔または溝にノズルを固定することができる部材、パンタグラフ機構を有する伸縮構造物の末端またはジョイント部にノズルが固定され、伸縮によってノズルの間隔を調整できる部材などがある。
【0040】
実施形態による塗布装置は、塗布液をノズルに供給する部材を有する。
図2において、この部材は、塗布液タンク204a、塗布液タンク204b、配管204cで構成されている。実施形態の塗布装置においては、ノズル206に液を供給するチューブ204cがノズルに脱着できるジョイントを有することができる。これにより個別のノズルを容易に脱着できる。
【0041】
実施形態の塗布装置においては、一つのタンクから各ノズルに連結する各チューブを有することができる。これにより配管を簡便にできると共に、タンクから均一に圧力をかけて各チューブへの液供給量を均一に制御しやすくなる。
【0042】
実施形態の塗布装置においては、基材および塗布バーヘッドの移動方向は特に限定されないが、
図2に示すように、塗布バーヘッドを固定し、基材を鉛直方向に下から上に搬送しながら塗布することが好ましい。基材を鉛直方向に下から上へ移動することによって、メニスカス部に重力がかかるため、高速で塗布しても均一な膜を形成しやすい。しかしながら、装置の構成や塗布液の物性などに応じて、移動方向は調整することができ、一般的には鉛直方向から±30°の範囲とされる。
【0043】
基材搬送部材は、基材を下から上へと搬送するものであることが好ましく、ノズルは、メニスカスが形成される部分の上部から塗布液を供給するものであることが好ましい。これによりメニスカスに重力がかかり、より高速な塗布が可能となる。メニスカスが形成される部分の上部から塗布液を供給することにより液だれを抑制できるという効果もある。
【0044】
塗布装置は、塗布バーヘッドと基材との距離を測定し、その距離を制御する部材をさらに具備することができる。この部材により塗布膜厚の均一性をより高くすることができる。
【0045】
塗布装置は、塗布バーヘッドを洗浄する部材をさらに具備することができる。これにより定期的に塗布バーヘッドを洗浄し、雰囲気から混入する不純物や塗布液から析出する固体物を除くことができる。具体的には、水などの溶媒を噴霧または放射する部材、超音波を印加する部材などが挙げられる。
【0046】
塗布装置は、余剰の塗布液を回収する部材をさらに具備することができる。この部材により、塗布終了後の塗布液の逆流や高価な塗布液のロスを防ぐと共に溶媒等の環境への放出を抑制できる。
【0047】
このような塗布装置は、基材上に配列された短冊状セルを構成要素とするデバイスを製造する際に、セルを構成する薄膜を形成する場合に用いることができるものである。
【0048】
(実施例1)
図2に示した塗布装置20を用いて、以下のようにして太陽電池用の薄膜塗布を行う。まず、300mm幅のロール状のPETフィルム上にR2R対応のスパッタ装置でシート抵抗が5Ω/□のITO/Ag合金/ITOの透明電極を作製する。次にレーザースクライブでセルピッチが20mmで幅が50μmの分離領域を持った短冊状に透明電極をパターニングする。断面が半径10mmの円で、塗布幅方向の長さが300mmのSUS303製の塗布バーヘッドを製作する。
【0049】
20mmピッチで孔を形成した長さ320mmのノズル固定部材に長さ50mmのステンレス製のロック基付のニードルノズルを各孔に挿入する。各ニ-ドルにはテフロン製チューブを着脱可能なジョイントで接続し、各小型ポンプで塗布液を供給する。
【0050】
ホール輸送層を作製するための塗布液としてPEDOT/PSS水分散液を準備し、上記PET上透明電極に
図2の塗布装置で塗布する。塗布バーヘッドとPET基材との最小ギャップ距離が150μmとなるように、アクチュエータを用いて塗布バーヘッドを配置する。ノズル間の中央が透明電極の分離領域に一致するように、光学装置で観察してPETフィルム、バーヘッド、ノズルを設置する。
【0051】
塗布バーヘッドにそれぞれのニードルノズルから20μLの塗布液を供給して基材の搬送開始前にメニスカスを形成する。ノズルの角度とギャップ距離を制御しながら、PET基材を搬送して塗布液を連続的に供給して塗布膜を得る。PET基材の移動速度は83mm/sで一定とする。塗布後のPET基材はR2R対応の熱風乾燥炉に搬送して連続的に乾燥する。
【0052】
次に、モノクロロベンゼン1mLに対して、8mgのPTB7([ポリ{4,8-ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2,6-ジイル-1t-alt-3-フルオロ-2-[(2-エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,4-b]チオフェン-4,6-ジイル}]/p型半導体)と、12mgのPC70BM([6,6]フェニルC71ブチル酸メチルエスター/n型半導体)とを分散させることによって、太陽電池の有機活性層の形成材料である塗布液を調製する。ホール輸送層を形成したPET基材上に
図2の塗布装置で塗布する。塗布バーヘッドと基材表面との最小ギャップ距離が300μmとなるように、アクチュエータを用いて塗布バーヘッドを配置する。上記と同様に、ノズル間の中央が透明電極の分離領域に一致するように、PETフィルム、バーヘッド、ノズルを設置する。それぞれのニードルノズルから40μLの塗布液を供給して基材の搬送開始前にメニスカスを形成する。ノズルの角度とギャップ距離を制御しながら、PET基材を搬送して塗布液を連続的に供給して塗膜を得る。PET基材の移動速度は83mm/sで一定とする。塗布後のPET基材はR2R対応の熱風乾燥炉に搬送して連続的に乾燥する。作製された両塗布膜は分離利用行きの膜厚が周囲よりも薄く、スクライブにより除去しやすく、分離領域で分離して、短冊状のセルを形成するのに都合がよい。
【0053】
(実施例2)
本実施例では半透明な太陽電池に使用する有機活性層を作製する。実施例1に比べて1/2の濃度の有機活性層の塗布液を用い、基材の搬送する前にメニスカスを作製することなく、搬送開始と同時にノズルから液供給を開始することを除いては実施例1と同様にして塗布膜を作製する。作製された両塗布膜はノズル間の中央部にある分離領域の膜厚が周囲よりも厚くなっている。このような形状は、光学装置によって分離領域を判別しやすく、スクライブにより分離領域にある塗布膜を除去することが容易である。そして分離領域にある、膜厚の厚い部分が除去されたことにより塗布膜間の特性のバラつきを少なくすることができる。
【0054】
(実施例3)
300mm幅のロール状のPETフィルム上にR2R対応のスパッタ装置でシート抵抗が10Ω/□のITO/Ag合金/ITOの透明電極を作製する。次にレーザースクライブでセルピッチが12mmで幅が50μmの分離領域を持った短冊状に透明電極をパターニングする。略台形状であり、底面に対応する部分が曲率半径が80mmである断面を有し、塗布幅方向の長さが300mmである、SUS303製の棒状塗布バーヘッドを製作する。
【0055】
24mmピッチで孔を形成した長さ320mmのノズル固定部材に長さ50mmのステンレス製のロック基付のニードルノズルを各孔に挿入する。各ニ-ドルにはテフロン製チューブを着脱可能なジョイントで接続し、各小型ポンプで塗布液を供給する。
【0056】
ホール輸送層を作製するための塗布液としてPEDOT/PSS水分散液を準備し、上記PET上透明電極に
図2の塗布装置で塗布する。塗布バーヘッドとPET基材との最小ギャップ距離が150μmとなるように、アクチュエータを用いて塗布バーヘッドを配置する。ノズル間の中央が透明電極の分離領域に一致するように、PETフィルム、バーヘッド、ノズルを設置する。
【0057】
塗布バーヘッドにそれぞれのニードルノズルから25μLの塗布液を供給して基材の搬送開始前にメニスカスを形成する。ノズルの角度とギャップ距離を制御しながら、PET基材を搬送して塗布液を連続的に供給して塗布膜を得る。PET基材の移動速度は83mm/sで一定とする。塗布後のPET基材はR2R対応の熱風乾燥炉に搬送して連続的に乾燥する。
【0058】
次に、モノクロロベンゼン1mLに対して、8mgのPTB7([ポリ{4,8-ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2,6-ジイル-1t-alt-3-フルオロ-2-[(2-エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,4-b]チオフェン-4,6-ジイル}]/p型半導体)と、12mgのPC70BM([6,6]フェニルC71ブチル酸メチルエスター/n型半導体)とを分散させることによって、太陽電池の有機活性層の形成材料である塗布液を調製する。ホール輸送層を形成したPET基材上に
図2の塗布装置で塗布する。塗布バーヘッドと基材表面との最小ギャップ距離が300μmとなるように、アクチュエータを用いて塗布バーヘッドを配置する。上記と同様に、ノズル間の中央が透明電極の分離領域に一致するように、PETフィルム、バーヘッド、ノズルを設置する。それぞれの塗布バーヘッドにそれぞれのニードルノズルから45μLの塗布液を供給して基材の搬送開始前にメニスカスを形成する。ノズルの角度とギャップ距離を制御しながら、PET基材を搬送して塗布液を連続的に供給して塗膜を得る。PET基材の移動速度は83mm/sで一定とする。塗布後のPET基材はR2R対応の熱風乾燥炉に搬送して連続的に乾燥する。作製された塗布膜は分離領域の膜厚が周囲よりも薄く、スクライブにより除去しやすく、分離領域で分離して、短冊状のセルを形成するのに都合がよい。
【0059】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
101…塗布バーヘッド
102…塗布ノズル
103…分離領域
104…基材
105…塗布液
106…塗布膜
107…セルベース
108…光学装置
200…塗布装置
201…塗布バーヘッド
202…基材
203a、203b…基材を搬送する部材
204a…塗布液タンク
204b…送液ポンプ
204c…配管
205a…塗布液
205b…メニスカス
205c…塗布膜
206…塗布ノズル
207a、207b…光学装置