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特許7145343フォージャサイト型ゼオライトおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】フォージャサイト型ゼオライトおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/24 20060101AFI20220922BHJP
   B01J 29/08 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
C01B39/24
B01J29/08 M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021556288
(86)(22)【出願日】2021-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2021015709
(87)【国際公開番号】W WO2021210674
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2020073626
(32)【優先日】2020-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱▲崎▼ 裕一
(72)【発明者】
【氏名】稲木 千津
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 俊二
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-501278(JP,A)
【文献】特開2000-086233(JP,A)
【文献】特開2001-089773(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1951814(CN,A)
【文献】特開平08-253312(JP,A)
【文献】特開平03-205313(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104230633(CN,A)
【文献】特開2014-104372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B39/02-39/24
B01J29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IRスペクトルにおいて、3730cm-1以上、3760cm-1以下の範囲に極大を有する吸収帯1(表面シラノール基)と、3550cm-1以上、3700cm-1以下の範囲に極大を有する吸収帯2(酸性水酸基)とを有し、前記吸収帯2のピーク高さ(h2)に対する前記吸収帯1のピーク高さ(h1)の比(h1/h2)が1.0以下であり、ケイバン比が10以上、200以下であるフォージャサイト型ゼオライト。
【請求項2】
窒素吸着法により測定される細孔直径3.5nm以上、5nm以下の範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積が0.03g/cm未満の範囲にある、請求項1に記載されたフォージャサイト型ゼオライト。
【請求項3】
NH昇温脱離量が0.1mmol/g以上、1.3mmol/g以下の範囲にある請求項1または請求項2に記載されたフォージャサイト型ゼオライト。
【請求項4】
水吸着量に対するNH昇温脱離量の比が0.045以上、0.1以下の範囲にある請求項3に記載されたフォージャサイト型ゼオライト。
【請求項5】
フォージャサイト型ゼオライトを500℃以上、800℃以下の範囲の温度でスチーム処理して当該ゼオライトの骨格からアルミニウムを引き抜く脱アルミニウム工程、
前記脱アルミニウム工程を経て得られたフォージャサイト型ゼオライトを、硫酸、硝酸、塩酸から選ばれる少なくとも1種の無機酸を用いて酸処理して、骨格から引き抜かれたアルミニウムを除去する酸処理工程、
前記酸処理工程を経て得られたフォージャサイト型ゼオライトを300℃以上、650℃以下の範囲の温度でスチーム処理するスチーム処理工程、を備え、
前記酸処理工程において、前記脱アルミニウム工程を経て得られたフォージャサイト型ゼオライトに含まれるアルミニウム1モルに対し、前記無機酸に由来するプロトンのモル数が1.2以上、8.3以下の範囲となるような量で前記無機酸を含む溶液を用いて酸処理するフォージャサイト型ゼオライトの製造方法。
【請求項6】
前記脱アルミニウム工程において、得られるフォージャサイト型ゼオライトの格子定数が2.430nm以上、2.445nm以下となるようにスチーム処理する、請求項に記載された、フォージャサイト型ゼオライトの製造方法。
【請求項7】
前記酸処理工程において、得られるフォージャサイト型ゼオライトの格子定数が2.430nm以上、2.440nm以下となるように酸処理する請求項または請求項に記載されたフォージャサイト型ゼオライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面シラノール基が少ないフォージャサイト型ゼオライトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトという物質名は、結晶性の多孔質アルミノシリケートの総称である。ゼオライトは、石油精製や石油化学をはじめとする多くの工業プロセスにおいて、触媒、吸着剤、および分離膜などとして幅広く使用されてきた。例えば、流動接触分解プロセスは、触媒を用いて石油中の重油分を分解し、付加価値の高いガソリンなどの留分を得る重要なプロセスである。このプロセスの触媒として、強い固体酸を有する多孔性材料であるフォージャサイト型ゼオライトが古くから使用されてきた。また、フォージャサイト型ゼオライトは、吸着剤としても、古くから使用されている。
【0003】
フォージャサイト型ゼオライトの特性は、SiとAlとの比率によって大きく影響を受けることが知られている。この比率は、一般的にケイバン比(SAR)とも呼ばれ、SiO/Alのモル比で表される。例えば、このケイバン比を高くすると、ゼオライトの骨格内のAlが減少するので、骨格内Alに由来する固体酸が減少し、疎水性(水との親和性が低い)を示すことが知られている。逆に、このケイバン比を低くすると、骨格内Alに由来する固体酸が増加し、親水性を示す。
【0004】
フォージャサイト型ゼオライトの骨格ケイバン比を高める方法として、1)水蒸気による水熱処理、2)EDTA処理、または3)ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム処理などの脱アルミニウム処理が知られている(非特許文献1)。このような処理を用いることで、ケイバン比が高いフォージャサイト型ゼオライトが合成できるようになった(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭62-216913号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】小野嘉夫、八嶋建明編、「ゼオライトの科学と工学」、第1版、株式会社講談社、2000年7月10日、p.119~134
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1および特許文献1の方法では、疎水性のフォージャサイト型ゼオライトを合成すると、その骨格内からアルミニウムが除去されるので、固体酸が減少してしまうという課題があった。
【0008】
このような状況を踏まえ、本発明は、疎水性でありながら、固体酸が多いフォージャサイト型ゼオライトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、フォージャサイト型ゼオライトの表面シラノール基に着目し、これを減少させることを試みた。本発明者らは、フォージャサイト型ゼオライトを脱アルミニウム処理した後、その表面に残留するAl化合物を酸で除去して、特定の温度でスチーム処理する方法を用いると、当該ゼオライトの固体酸量を維持しつつ、水との親和性がより低い(より疎水性の)フォージャサイト型ゼオライトが得られることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明のフォージャサイト型ゼオライトは、IRスペクトルにおいて、3730cm-1以上、3760cm-1以下の範囲に極大を有する吸収帯1(表面シラノール基)と、3550cm-1以上、3700cm-1以下の範囲に極大を有する吸収帯2(酸性水酸基)とを有し、前記吸収帯2のピーク高さ(h2)に対する前記吸収帯1のピーク高さ(h1)の比(h1/h2)が1.2未満である。
【0011】
また、本発明のフォージャサイト型ゼオライトの製造方法は、フォージャサイト型ゼオライトを500℃以上、800℃以下の範囲の温度でスチーム処理して当該ゼオライトの骨格からアルミニウムを引き抜く脱アルミニウム工程、前記脱アルミニウム工程を経て得られたフォージャサイト型ゼオライトを酸処理して、骨格から引き抜かれたアルミニウムを除去する酸処理工程、前記酸処理工程を経て得られたフォージャサイト型ゼオライトを300℃以上、650℃以下の範囲の温度でスチーム処理するスチーム処理工程、を備える。
【0012】
本発明によれば、疎水性でありながら、固体酸が多いフォージャサイト型ゼオライトおよびその製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で得られたフォージャサイト型ゼオライトのIRスペクトルである。
図2】比較例1で得られたフォージャサイト型ゼオライトのIRスペクトルである。
図3】比較例2で得られたフォージャサイト型ゼオライトのIRスペクトルである。
図4】実施例および比較例で得られた各フォージャサイト型ゼオライトの水吸着量とアンモニア昇温脱離量との相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のフォージャサイト型ゼオライトについて、詳述する。
【0015】
本発明のフォージャサイト型ゼオライト(以下、「本発明のゼオライト」ともいう。)は、水との親和性に影響を与える表面シラノール基の量と、その固体酸性に影響を与える酸性水酸基の量とを、IRスペクトルから得られる吸収帯のピーク高さの比で特定したものである。すなわち、IRスペクトルにおいて、3730cm-1以上、3760cm-1以下の範囲に極大を有する吸収帯1(表面シラノール基)のピーク高さ(h1)と、3550cm-1以上、3700cm-1以下の範囲に極大を有する吸収帯2(酸性水酸基)のピーク高さ(h2)との比(h1/h2)が、1.2未満である。表面水酸基の量が減少し、酸性水酸基の量が増えれば、この比は小さくなる。この比は、低ければ低いほど良いが、その下限値は0.01であってもよい。また、この比は、0.01以上、1.0以下の範囲にあることが好ましい。この比が低くなると、本発明のゼオライトの水との親和性がより低下し(より疎水性になる)、固体酸量がより多くなる傾向がある。さらに、この比は0.1以上、0.8以下の範囲にあることがより好ましい。
なお、3730cm-1以上、3760cm-1以下の範囲および3550cm-1以上、3700cm-1以下の範囲に、複数のピークがある場合、複数のピークのうち最もピーク高さが高いピークのピーク高さを、各吸収帯のピーク高さとする。
【0016】
本発明のゼオライトは、そのケイバン比が、10以上、200以下の範囲にあることが好ましい。このケイバン比は、本発明のゼオライトの組成比から算出したものである。このケイバン比が高いほど、骨格のケイバン比も高くなりやすいので、本発明のゼオライトの水との親和性がより低下し(より疎水性になる)やすくなる。ただし、このケイバン比が高すぎると、骨格内のアルミニウムが少なくなりやすいので、固体酸量も少なくなってしまう。したがって、本発明のゼオライトは、そのケイバン比が、30以上、150以下の範囲にあることがより好ましい。
【0017】
本発明のゼオライトは、その格子定数が、2.430nm以上であることが好ましい。本発明において、格子定数は、本発明のゼオライトの骨格のケイバン比を示す指標である。骨格内のアルミニウムが増える(骨格のケイバン比が小さくなる)と格子定数は大きくなり、骨格内のアルミニウムが減る(骨格のケイバン比が大きくなる)と格子定数は小さくなる。本発明のゼオライトの格子定数が低すぎると、骨格内のアルミニウムが少ないので、その固体酸量が少なくなってしまう。また、その格子定数が大きすぎても、水との親和性が高くなりやすい。したがって、本発明のゼオライトは、2.430nm以上、2.440nm以下の範囲にあることがより好ましく、2.431nm超、2.435nm以下の範囲にあることが特に好ましい。
【0018】
本発明のゼオライトは、その結晶性が高いほうが好ましい。ゼオライトの結晶性は、ゼオライトの耐久性や固体酸性質に影響を与える。本発明では、ゼオライトの結晶性を表す指標として、X線回折測定により得られるフォージャサイト構造に由来する回折ピークの強度を用いた。具体的には、特定の方法で得られたフォージャサイト型ゼオライトを標準物質とし、X線回折測定により得られるフォージャサイト構造に由来するピークの強度比を、本発明のゼオライトの結晶性の指標とした。本発明のゼオライトは、この強度比が、1.00以上であることが好ましく、1.40以上であることがより好ましい。結晶性が高ければ高いほど好ましいことは当業者にとって自明である。本発明のゼオライトでは、その上限が3.00以下であってもよい。
【0019】
本発明のゼオライトは、その比表面積が、650m/g以上であることが好ましい。ゼオライトは、一般的に、その骨格に由来する細孔構造によって極めて広い比表面積を有する。本発明のゼオライトの比表面積が650m/gより低い場合、本発明のゼオライトが有する骨格に由来する細孔構造が十分に発達していないおそれがあり、その固体酸量が低くなってしまうことがある。フォージャサイト型ゼオライトの比表面積は、高ければ高いほど好ましいが、その上限が、850m/g以下であってもよい。より具体的には、その比表面積が、700m/g以上、750m/g以下の範囲にあってもよい。
【0020】
本発明のゼオライトは、そのアルカリ金属含有量が低いことが好ましい。アルカリ金属は、ゼオライトに含まれる固体酸を被毒することがある。したがって、本発明のゼオライトのアルカリ金属含有量は、アルカリ金属をMとしたとき、MO換算で0.3質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましい。本発明のゼオライトは、アルカリ金属の中でも特にNaによって被毒されやすいので、その含有量が少ないことが好ましい。
【0021】
本発明のゼオライトは、その平均粒子径が0.1μm以上、10μm以下の範囲にあることが好ましく、0.5μm以上、5μm以下の範囲にあることがより好ましく、0.7μm以上、3μm以下の範囲にあることが特に好ましい。触媒用途として用いる場合、平均粒子径がこの範囲にあると、触媒活性や耐久性が良好になりやすい。
【0022】
本発明のゼオライトは、窒素吸着法により測定される細孔分布から算出された3.5nm以上、5nm以下の細孔容積が0.03cm/g未満であることが好ましく、0.02cm/g以下であることがより好ましく、0.01cm/g以下であることが特に好ましい。このメソ孔に該当する細孔容積が少ないほど、ゼオライトの外表面も小さくなりやすいので、水吸着量を少なくすることができる。
【0023】
本発明のゼオライトは、そのアンモニア昇温脱離量が0.1mmol/g以上、1.3mmol/g以下であることが好ましく、0.15mmol/g以上、1mmol/g以下であることがより好ましく、0.25mmol/g以上、1mmol/g以下であることが特に好ましい。アンモニア昇温脱離量は、物質の固体酸の量を示す指標である。
【0024】
フォージャサイト型ゼオライトの水吸着量は、疎水性を示す指標であり、その量が少ないほど疎水性である。本発明のゼオライトは、その水吸着量が16%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが特に好ましい。
【0025】
本発明のゼオライトの水吸着量に対するアンモニア昇温脱離量の比(アンモニア昇温脱離量/水吸着量)は、0.045以上、0.1以下であることが好ましく、0.05以上、0.1以下であることがより好ましく、0.06以上、0.1以下であることが特に好ましい。フォージャサイト型ゼオライトのアンモニア昇温脱離量は、そのゼオライト骨格に含まれるアルミニウムの含有量に影響を受け、ゼオライト骨格に含まれるアルミニウムの含有量が少ないほどアンモニア昇温脱離量も少ない傾向にある。一方、フォージャサイト型ゼオライトの水吸着量はゼオライト骨格に含まれるアルミニウムの含有量および表面シラノール基の量に影響を受け、これらが少ないほど水吸着量も少ない傾向にある。本発明のゼオライトは、従来のフォージャサイト型ゼオライトと比較して表面シラノール基の量が少ないので、従来のフォージャサイト型ゼオライトと同程度の水吸着量で、アンモニア昇温脱離量を多くすることができるを(図4参照)。
【0026】
本発明のゼオライトは疎水性でありながら、固体酸が多いので、例えば、石油精製における流動接触分解用触媒や水素化分解用触媒の構成成分の一つとして用いることができる。また、吸着剤としても使用することができる。
【0027】
以下、本発明のフォージャサイト型ゼオライトの製造方法について、詳述する。
【0028】
本発明のフォージャサイト型ゼオライトの製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)は、
フォージャサイト型ゼオライトを500℃以上、800℃以下の範囲の温度でスチーム処理して当該ゼオライトの骨格からアルミニウムを引き抜く脱アルミニウム工程、
前記脱アルミニウム工程を経て得られたフォージャサイト型ゼオライトを酸処理して、骨格から引き抜かれたアルミニウムを除去する酸処理工程、
前記酸処理工程を経て得られたフォージャサイト型ゼオライトを300℃以上、650℃以下の範囲の温度でスチーム処理するスチーム処理工程、を備える。
【0029】
本発明の製造方法は、フォージャサイト型ゼオライトを500℃以上、800℃以下の範囲の温度でスチーム処理して当該ゼオライトの骨格からアルミニウムを引き抜く脱アルミニウム工程を備える。酸処理でもフォージャサイト型ゼオライトの骨格中のアルミニウムを引き抜くことは可能であるが、これらの方法では当該ゼオライトの骨格へのダメージが大きくなりやすい。したがって、後述の酸処理工程の前に、この工程を行っておくことが重要である。なお、このとき、引き抜かれたアルミニウムは、ゼオライトの表面にアルミニウム化合物として残留する。これは骨格外アルミニウムとも呼ばれる。
【0030】
この工程で用いるフォージャサイト型ゼオライトは、市販されているものを購入してもよく、また従来公知の方法で合成してもよい。例えば、Si原料、Al原料を加え、さらにNa原料および水を加えた後、80℃以上、120℃以下程度の温度で水熱処理することで、フォージャサイト型ゼオライトが得られる。原料として用いるフォージャサイト型ゼオライトのケイバン比は、2以上、10以下の範囲にあることが好ましい。ケイバン比がこの範囲にあるフォージャサイト型ゼオライトは、工業的に量産しやすい。このフォージャサイト型ゼオライトは、アンモニウムイオンでイオン交換されたものであることがより好ましい。
【0031】
この工程では、フォージャサイト型ゼオライトを600℃以上、700℃以下の範囲の温度でスチーム処理することが好ましい。この温度域でスチーム処理を行うと、効率よくゼオライトの骨格からアルミニウムを引き抜くことができる。
【0032】
この工程では、スチーム処理時間が、概ね1時間以上、24時間以下の範囲にあることが好ましい。前述のスチーム処理温度にもよるが、処理時間が短すぎてもスチーム処理によって骨格からアルミニウムを充分に引き抜けないことがあるので、好ましくない。また、スチーム処理時間を長くしても、生産性の観点から好ましくない。
【0033】
この工程におけるスチーム濃度は、飽和水蒸気量の50%以上であり、90%以上であることが好ましい。飽和水蒸気量が低い状態でスチーム処理をすると、ゼオライトの骨格が壊れやすくなる傾向にある。この理由は、骨格外アルミニウムが生成する際にできる欠陥によって骨格が不安定になるためと考えられる。このような状態では、熱によってゼオライトの骨格が壊れやすくなる。一方、前述の飽和水蒸気量の範囲であれば、ゼオライトの骨格は壊れにくくなる傾向にある。
【0034】
この工程で得られるフォージャサイト型ゼオライトは、その格子定数が2.430nm以上、2.445nm以下の範囲にあることが好ましい。格子定数がこの範囲に含まれるようにスチーム処理を行うことで、後述の酸処理工程でフォージャサイト型ゼオライトの骨格が壊れにくくなる。
【0035】
本発明の製造方法は、前記脱アルミニウム工程を経て得られたフォージャサイト型ゼオライトを酸処理して、骨格から引き抜かれたアルミニウムを除去する酸処理工程を備える。この工程では、硫酸やEDTA(エチレンジアミンテトラアセテート)などを用いてスチーム処理後のゼオライトの表面に残留した骨格外アルミニウムを除去する。
【0036】
この工程では、酸として、従来公知の酸を用いることができる。例えば酸としては、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸、EDTA、およびクエン酸などを用いることができる。この工程においては、安価な無機酸を用いることが好ましい。
【0037】
この工程における酸処理の温度は、50℃以上、98℃以下の範囲にあることが好ましく、65℃以上、95℃以下の範囲にあることがより好ましい。この工程では、高めの温度で酸処理して、ゼオライトの表面に残留した骨格外アルミニウムを可能な限り除去することが好ましい。
【0038】
この工程における酸溶液には、アンモニウムイオンを含む塩を添加してもよい。このように、アンモニウムイオンが存在する酸溶液を用いて酸処理を行うと、フォージャサイト型ゼオライトに含まれるアルカリ金属を除去しやすい。
【0039】
この工程における酸は、前記脱アルミニウム工程を経て得られたフォージャサイト型ゼオライトに含まれるアルミニウム1モルに対して、酸に由来するプロトンのモル数が1.2以上、8.3以下の範囲となるような量で溶液中に含まれていることが好ましい。例えば、1molのアルミニウム(Al)を含むフォージャサイト型ゼオライトを硫酸(HSO)で酸処理する場合、酸溶液に含まれる硫酸を0.6モル以上、4.2モル以下の範囲に調整することが好ましい。
【0040】
この工程における酸処理の時間は、酸処理の温度、または酸の量にもよるが、概ね0.5時間以上、24時間以下の範囲であることが好ましい。酸処理の時間が概ねこの範囲内であれば、酸処理工程の目的を十分に達成することができる。酸処理の時間は長くても問題ないが、生産性の観点からいえば、好ましくない。
【0041】
酸処理後の酸溶液とゼオライトは、ろ過などの方法で固液分離することができる。また、この時に分離したゼオライトには酸溶液に由来する成分が残留することがある。そのため、分離したゼオライトを再度イオン交換水に懸濁させ、濾布上で75℃未満の温水を掛けるなどの洗浄処理を行うことが好ましい。この洗浄処理は、濾液の電導度が0.1mS/cm以下となるまで繰り返すとよい。分離したゼオライトは、温度80℃以上、200℃以下の範囲で乾燥させて、ゼオライトを得ることができる。
【0042】
この工程で得られるフォージャサイト型ゼオライトは、その格子定数が2.430nm以上、2.440nm以下の範囲にあることが好ましい。格子定数がこの範囲に含まれるように酸処理を行うことで、後述のスチーム処理工程で得られるフォージャサイト型ゼオライトの固体酸量を維持できる。
【0043】
本発明の製造方法は、前記酸処理工程を経て得られたフォージャサイト型ゼオライトを300℃以上、650℃以下の範囲の温度でスチーム処理するスチーム処理工程を備える。この工程では、前述の脱アルミニウム工程においてゼオライトの骨格内のアルミニウムが除去されているので、アルミニウムの脱離はそれほど起こらず、ゼオライトの表面付近でSiの移動が起こるようになる。このとき、前述の酸処理工程において骨格外アルミニウムを除去した際に生成した表面シラノール基とSiが結合して、ゼオライトの表面シラノール基が減少するものと考えられる。
【0044】
この工程では、前述の酸処理工程を経て得られたフォージャサイト型ゼオライトを400℃以上、650℃以下の範囲の温度でスチーム処理することが好ましい。この温度域でスチーム処理を行うと、ゼオライトの表面付近でSiが移動しやすくなると共に骨格内のアルミニウムが引き抜かれにくくなるので、ゼオライトの固体酸量を維持しつつ表面シラノール基を減らすことができる。
【0045】
この工程では、スチーム処理時間が、概ね0.5時間以上、12時間以下の範囲にあることが好ましい。この工程では、処理温度にもよるが、スチーム処理の時間が長すぎると骨格内のアルミニウムが引き抜かれやすくなってしまう。また、短すぎても、Siの移動が少なくなり、表面シラノール基の減少量が少なくなることがある。したがって、スチーム処理時間は、1時間以上、6時間以下の範囲にあることがより好ましい。
【0046】
この工程におけるスチーム濃度は、飽和水蒸気量の50%以上であり、90%以上であることが好ましい。この工程では、スチーム濃度が高いほうが、ゼオライトの表面付近のSiの移動を促進することができる。
【実施例
【0047】
以下、本発明のゼオライトおよびその製造方法について、実施例を用いて詳述するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0048】
本発明の実施例における測定および評価は、次の方法で行った。
【0049】
(組成分析)
蛍光X線測定装置(RIX-3000)を用いて、試料のSi、Al、およびNa含有量を測定した。この測定結果から、SiおよびAl含有量を、それぞれSiO、Alに換算して、ケイバン比(SiO/Alモル比)を算出した。
【0050】
(結晶構造の確認)
乳鉢で粉砕した試料をX線回折装置(リガク社製「RINT-Ultima」、線源:CuKα)にセットし、2θ=14~33°までスキャンしてX線回折測定した。得られた試料のX線回折パターンから、フォージャサイト構造(FAU)に帰属される回折面にピークが確認できたものは、フォージャサイト構造を有していると判断した。具体的には、(331)、(511)、(440)、(533)、(642)および(555)面に帰属される回折ピークの有無を確認した。なお、これらの回折面に帰属されるピークの位置は、技術文献(M. M. J. Treacy, J. B. Higgins, COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDERPATTERNS FOR ZEOLITES, Fifth Revised Edition, Elsevier)から確認することができる。なお、ピークの位置は測定条件などによって多少変動することがあるので、上記文献に記載されたピーク位置から±0.5°の範囲にあれば、フォージャサイト構造に由来するピークを有しているものとみなせる。
【0051】
(IR測定)
試料粉末を20~25mgでΦ20mmのペレットに成形した。測定前にペレットを幕張理化学製真空加熱前処理装置に導入し、高真空(10-3Pa)中で300℃にて3時間の前処理を実施した。セルを50℃に冷却した後、日本分光製FT/IR-6100により以下の条件でIRを測定した
検出器:TGS
分解能:2.0cm-1
測定範囲:4,000~800cm-1
積算回数:100回
得られたスペクトルについて、4,000cm-1における吸光度と、3,000cm-1における吸光度とを直線で結ぶ2点間補正により、ベースラインを設定した。そして、3730cm-1以上、3760cm-1以下の範囲に極大を有する吸収帯(表面シラノール基)のピーク高さ(h1)と、3550cm-1以上、3700cm-1以下の範囲に極大を有する吸収帯(酸性水酸基)のピーク高さ(h2)を計測し、ピーク高さの比(h1/h2)を算出した。
なお、3730cm-1以上、3760cm-1以下の範囲および3550cm-1以上、3700cm-1以下の範囲に、複数のピークがある場合、複数のピークのうち最もピーク高さが高いピークのピーク高さを、各吸収帯のピーク高さとした。
【0052】
(格子定数測定)
試料粉末を約2/3重量部、内部標準としてTiOアナターゼ型の粉末(関東化学製、酸化チタン(IV)(アナターゼ型))を約1/3重量部秤量し、乳鉢を用いて混合した。この粉末をX線回折装置(リガク社製「RINT-Ultima」、線源:CuKα)にセットし、2θ=23~33°までスキャンしてX線回折パターンを測定した。得られたパターンから、TiOアナターゼ型、フォージャサイト型ゼオライトの(533)面、(642)面のそれぞれのピーク半値幅の中心を示す2θを用いて、以下の数式(1)~(3)から格子定数を算出した。
【0053】
【数1】
【0054】
(X線回折強度比)
乳鉢で粉砕した粉末試料をX線回折装置(リガク社製「RINT-Ultima」、線源:CuKα)にセットし、2θ=14~33°までスキャンしてX線回折パターンを測定した。得られたパターンから、T、フォージャサイト構造(FAU)の(331)、(511)、(440)、(533)、(642)および(555)面に帰属される回折ピークの強度を合計し、同様にして測定した市販されているフォージャサイト型ゼオライト(Zeolyst社製CBV720)のピーク強度の合計に対する割合を算出してX線回折強度比を算出した。
【0055】
(比表面積測定)
不活性ガス雰囲気下で500℃1時間の前処理を実施した試料粉末を測定用試料セルに投入し、測定装置(日本ベル社製「MR-6」)内で-196℃雰囲気下にて窒素ガス濃度30vol%、ヘリウムガス濃度70vol%の混合ガスを充分流通させて、試料粉末に窒素を吸着させた。その後、雰囲気温度を25℃に上昇させることによって試料粉末に吸着した窒素を脱離させて、その脱離量をTCD検出器にて検出した。検出された窒素の脱離量を窒素分子の断面積を用いて比表面積に換算することによって、試料粉末1g当たりの比表面積を求めた。
【0056】
(窒素吸着法を用いた細孔分布測定)
以下の条件で窒素吸着法による細孔分布測定を行った。
測定方法 窒素吸着法
測定装置 BEL SORP-miniII(マイクロトラック・ベル株式会社製)
サンプル量 約0.05g
前処理 500℃、1時間(真空下)
相対圧範囲 0~1.0
吸着等温線からBJH法でメソ孔分布を算出し、細孔直径3.5~5.0nmの範囲にある細孔群の細孔容積および細孔直径3.5~60nmの範囲にある細孔群の細孔容積を算出した。
【0057】
(一次粒子径評価)
試料粉末を試料板に分散させた後、走査型電子顕微鏡(日本電子社製:JSM-7600S)を用いて一次粒子を観察した(加速電圧1.0kV、倍率1万~5万倍)。得られた画像から無作為に50個の一次粒子を選出し、長径の平均値を平均粒子径とした。
【0058】
(水吸着量評価)
試料粉末1.0gに300℃で3時間の前処理を実施し、東京理化器社製恒温恒湿器「KCL-2000」を用いて40℃、湿度40%の雰囲気で5時間吸湿させた。吸湿前後の試料重量から次のように水吸着量を算出した。
水吸着量(%)=(吸湿後の試料重量-吸湿前の試料重量)/吸湿前の試料重量×100
【0059】
(固体酸量評価(NH昇温脱離量))
500℃で1時間の前処理を実施した試料粉末を0.05g計量し、マイクロトラック・ベル社製「BELCAT II」装置を用いてNH昇温脱離量を測定した。Heを流通させ500℃まで1時間かけて昇温し、500℃で1時間保持後、100℃に冷却し、NH5%/Heを流通させて100℃で30分間保持した。その後、Heを流通させながら100℃で30分間保持した。Heを流通させながら100℃から700℃まで10℃/分の速度で昇温させながら、TCDで脱離したNHを検出した。
【0060】
[実施例1]
(脱アルミニウム工程)
ケイバン比が5.0、格子定数が2.466nm、比表面積が720m/g、Na含有量がNaO換算で13.0質量%であるフォージャサイト型ゼオライト(以下、「NaY」)を準備した。このNaY50.0kgを温度60℃の水500Lに加え、さらに硫酸アンモニウム14.0kgを加えて懸濁液を得た。この懸濁液を70℃で1時間攪拌し、ろ過した。ろ過により得られた固体を水で洗浄した。次いで、この固体を、温度60℃の水500Lに硫酸アンモニウム14.0kgを溶解した硫酸アンモニウム溶液で洗浄し、さらに、60℃の水500Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥して、NaYに含まれるNaの約65質量%がアンモニウムイオン(NH )でイオン交換されたフォージャサイト型ゼオライト(以下、「65NHY」)を約45kg得た。このNHYのNa含有量はNaO換算で4.5質量%であった。このNHY40kgを、飽和水蒸気雰囲気中にて670℃で1時間スチーム処理し、脱アルミニウムされたフォージャサイト型ゼオライト(以下、「USY」)を得た。
【0061】
このUSYを温度60℃の水400Lに全量加え、次いで硫酸アンモニウム49.0kgを加え、懸濁液を得た。この懸濁液を90℃で1時間攪拌し、ろ過した。ろ過により得られた固体を温度60℃の水2400Lで洗浄した。次いで、この固体を130℃で20時間乾燥して、当初のNaYに含まれるNaの約93質量%がNHでイオン交換されたフォージャサイト型ゼオライト、(以下「93NHUSY」)を約37kg得た。この93NHUSYの組成分析を実施したところ、ケイバン比が5.0、Na含有量がNaO換算で1.1質量%であった。この93NHUSY10.0kgを、飽和水蒸気雰囲気中にて670℃で2時間スチーム処理し、酸処理用のゼオライトを約2.7kg得た。この時、酸処理用のゼオライトの格子定数は、2.438nmであった。
【0062】
(酸処理工程)
この酸処理用のゼオライト8.0kgを、室温の水62Lに懸濁し、25質量%の硫酸27.2kgを徐々に加えて酸溶液を調製した後、これを75℃に昇温し、4時間攪拌した。撹拌終了後の酸溶液をろ過して得られた固体を、60℃のイオン交換水96Lで洗浄し、さらに110℃で20時間乾燥した。得られたゼオライトの組成分析を実施したところ、ケイバン比が64、格子定数は、2.431nmであった。
【0063】
(スチーム処理工程)
前述の工程で得られた酸処理後のゼオライト200gを、飽和水蒸気雰囲気中にて500℃で2時間スチーム処理した。この工程を経て得られたゼオライトについて、上記の測定および評価を行った。その結果を、表1に示す。また、そのIRスペクトルを図1に示す。
【0064】
[実施例2]
スチーム処理工程において、スチーム処理の温度を600℃とした以外は、実施例1と同様の方法でゼオライトを得た。このゼオライトについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0065】
[実施例3]
スチーム処理工程において、スチーム濃度を飽和水蒸気量の50%とした以外は、実施例2と同様の方法でゼオライトを得た。このゼオライトについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0066】
[実施例4]
酸処理工程において硫酸量を22.1kg、処理温度を90℃とし、スチーム処理工程において、スチーム温度を400℃とした以外は、実施例1と同様の方法でゼオライトを得た。このゼオライトについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0067】
[実施例5]
酸処理工程において硫酸量を20.1kg、処理温度を90℃とし、スチーム処理工程において、スチーム温度を350℃とした以外は、実施例1と同様の方法でゼオライトを得た。このゼオライトについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0068】
[実施例6]
酸処理工程において硫酸量を42.0kg、処理温度を90℃とし、スチーム処理工程において、スチーム温度を400℃とした以外は、実施例1と同様の方法でゼオライトを得た。このゼオライトについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0069】
[比較例1]
実施例1の酸処理工程で得られたゼオライトについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。また、そのIRスペクトルを図2に示す。
【0070】
[比較例2]
スチーム処理工程において、スチーム処理の温度を700℃とした以外は、実施例1と同様の方法でゼオライトを得た。このゼオライトについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。また、そのIRスペクトルを図3に示す。
【0071】
[比較例3]
市販されているフォージャサイト型ゼオライト(Zeolyst社製CBV720)について、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0072】
[比較例4]
実施例6の酸処理工程で得られたゼオライトについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例1~6のフォージャサイト型ゼオライトは、比較例1~4のゼオライトと比べて、同じ水吸着量で比較した場合にNH昇温脱離量が多く(図4参照)、より固体酸量が多い。このように、本発明のゼオライトは、疎水性でありながら、固体酸が多い。
図1
図2
図3
図4