(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-21
(45)【発行日】2022-09-30
(54)【発明の名称】非消耗電極を用いた溶接方法および装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20220922BHJP
B23K 9/073 20060101ALI20220922BHJP
B23K 9/167 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
B23K9/095 505B
B23K9/073 530
B23K9/167 A
B23K9/095 501E
(21)【出願番号】P 2021556869
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 EP2020082832
(87)【国際公開番号】W WO2021099541
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2021-11-08
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】ラットナー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】アルテルスマイア,ヨーゼフ
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-058926(JP,A)
【文献】登録実用新案第3204946(JP,U)
【文献】特開2005-193299(JP,A)
【文献】特開2012-000632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非消耗電極(2)、特にタングステン電極を用いた溶接方法であって、
アーク(5)を形成するために、電流源(3)により溶接周波数(f
s)で極性が交互に変化する溶接電流(I)を、前記非消耗電極(2)とワークピース(4)との間に流し、
前記非消耗電極(2)と前記ワークピース(4)との間の溶接電圧(U)および前記極性が変化した後の前記溶接電流(I)を測定し、前記溶接電圧(U)を予め設定された電圧閾値(U
s+,U
s-)と比較し、前記溶接電流(I)を予め設定された電流閾値(I
s+,I
s-)と比較し、前記溶接電圧(U)が前記電圧閾値(U
s+,U
s-)を上回り、前記溶接電流(I)が前記電流閾値(I
s+,I
s-)を下回る場合に、前記極性を変化前の前記極性に戻す
ことを含み、
前記極性が変化してから予め設定された間隔(Δt)が経過した後に、前記溶接電圧(U)および前記溶接電流(I)を前記電圧閾値(U
s+,U
s-)および前記電流閾値(I
s+,I
s-)と比較し、前記アーク(5)の電力を決定し、前記溶接電圧(U)が前記電圧閾値(U
s+,U
s-)より大きい場合、および/または前記溶接電流(I)が前記電流閾値(I
s+,I
s-)より小さい場合、および/または決定された前記電力(P)が予め設定された電力閾値(P
s)より小さい場合に、前記極性を変化前の前記極性に戻す、方法。
【請求項2】
前記溶接電流(I)の前記極性が負極性(-)から正極性(+)へと変化する毎に、前記極性が変化してから予め設定された前記間隔(Δt)を経過した後に、前記溶接電圧(U)および前記溶接電流(I)を前記電圧閾値(U
s+)および前記電流閾値(I
s+)と比較し、前記アーク(5)の前記電力を決定し、前記溶接電圧(U)が予め設定された前記電圧閾値(U
s+)より大きい場合、および/または前記溶接電流(I)が前記電流閾値(I
s+)より小さい場合、および/または決定された前記電力(P)が予め設定された電力閾値(P
s)より小さい場合に、前記極性を負極性(-)に戻す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶接電流(I)の前記極性が正極性(+)から負極性(-)へと変化する毎に、前記極性が変化してから予め設定された前記間隔(Δt)を経過した後に、前記溶接電圧(U)および前記溶接電流(I)を前記電圧閾値(U
s-)および前記電流閾値(I
s-)と比較し、前記アーク(5)の前記電力を決定し、前記溶接電圧(U)が予め設定された前記電圧閾値(U
s-)より大きい場合、および/または前記溶接電流(I)が前記電流閾値(I
s-)より小さい場合、および/または決定された前記電力(P)が予め設定された電力閾値(P
s)より小さい場合に、前記極性を正極性(+)に戻す、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記間隔(Δt)は、5μsから500msで予め設定されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記アーク(5)の前記電力(P)は、前記溶接電圧(U)と前記溶接電流(I)との積から決定される、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記アーク(5)の計測された前記電力(P)を、3Wから3000Wの予め設定された電力閾値(P
s)と比較する請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶接電流(I)は、周期(T)の30%から40%である正極性の時間(t
p)と、周期(T)の60%から70%と等しい負極性の時間(t
n)との間で交互に流れる、請求項1から
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
非消耗電極(2)、特にタングステン電極を用いた溶接装置であって、
溶接周波数(f
s)において極性が交互に変化する溶接電流(I)を前記非消耗電極(2)とワークピース(4)との間に流す電流源(3)と、
タイミングシーケンスを制御し、前記溶接電流(I)および溶接電圧(U)のそれぞれの値を制御し、前記非消耗電極(2)と前記ワークピース(4)との間の前記溶接電圧(U)と、極性が変化した後の前記溶接電流(I)とを測定し、測定された前記溶接電圧(U)を予め設定された電圧閾値(U
s+,U
s-)と比較し、測定された前記溶接電流(I)を予め設定された電流閾値(I
s+,I
s-)と比較するように設計された制御装置(6)と
を備え、
前記制御装置(6)は、以下の方法を実行するように設計されており、
前記方法は、
前記非消耗電極(2)と前記ワークピース(4)との間の前記溶接電圧(U)および前記極性が変化した後の前記溶接電流(I)を測定し、前記溶接電圧(U)を予め設定された電圧閾値(U
s+,U
s-)と比較し、前記溶接電流(I)を予め設定された電流閾値(I
s+,I
s-)と比較し、前記溶接電圧(U)が前記電圧閾値(U
s+,U
s-)を上回り、前記溶接電流(I)が前記電流閾値(I
s+,I
s-)を下回る場合に、前記極性を変化前の前記極性に戻す
ことを含み、
前記極性が変化してから予め設定された間隔(Δt)が経過した後に、前記溶接電圧(U)および前記溶接電流(I)を前記電圧閾値(U
s+,U
s-)および前記電流閾値(I
s+,I
s-)と比較し、アーク(5)の電力を決定し、前記溶接電圧(U)が前記電圧閾値(U
s+,U
s-)より大きい場合、および/または前記溶接電流(I)が前記電流閾値(I
s+,I
s-)より小さい場合、および/または決定された前記電力(P)が予め設定された電力閾値(P
s)より小さい場合に、前記極性を変化前の前記極性に戻す、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非消耗電極、特にタングステン電極を用いた溶接方法であって、アークを形成するために、電流源により、溶接周波数で極性が交互に変化する溶接電流を、非消耗電極とワークピースとの間に流し、非消耗電極とワークピースとの間の溶接電圧および極性が変化した後の溶接電流を測定し、溶接電圧を予め設定された電圧閾値と比較し、溶接電流を予め設定された電流閾値と比較し、溶接電圧が電圧閾値を上回り、溶接電流が電流閾値を下回る場合に、極性を変化前の極性に戻す、方法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、非消耗電極、特にタングステン電極を用いた溶接用の装置であって、溶接周波数において極性が交互に変化する溶接電流を非消耗電極とワークピースとの間に流す電流源と、非消耗電極とワークピースとの間の溶接電圧と、極性が変化した後の溶接電流とを測定し、測定された溶接電圧を予め設定された電圧閾値と比較し、測定された溶接電流を予め設定された電流閾値と比較するように設計された制御装置とを備える、装置に関する。
【背景技術】
【0003】
非消耗電極を用いた溶接、特にタングステン電極を用いたTIG(tungsten inert-gas:タングステン不活性ガス)溶接を行うとき、非消耗電極の先端とワークピースとの間でアークバーンが発生する。ワイヤまたはロッドの形式の添加材料はアークに保持され、溶融される。原則として、溶接プロセスは、非消耗電極を用いて直流電流と交流電流の両方で実行できる。酸化層を形成しやすい材料、例えばアルミニウムまたはマグネシウムからなるワークピースには、交流電流、すなわち極性が交互に変化する溶接電流が主に用いられる。正極性、すなわちワークピースに対する非消耗電極の極性が正の間、酸化膜を破壊し得る一方で、負極性の間、熱エネルギがワークピースに導入され、これにより溶接が実行される。したがって、正極性の間隔、すなわち正の溶接電流の時間は、一般的に、負極性の間隔、すなわち負の溶接電流の時間よりも短く選択される。
【0004】
原則として、本発明は、消耗電極を用いた溶接であって、溶接電流の極性を変化させる溶接にも適用可能である。例えば、アルミニウムのMIG(metal inert-gas:金属不活性ガス)では、アークフェーズの間、溶接電流の極性が変化する。
【0005】
例えば、欧州特許第2431119号明細書には、そのような交流アーク溶接方法と、交流アーク溶接装置が記載されている。
【0006】
正極から負極または負極から正極への極性の反転プロセスの間にアークを発生できない場合、ワークピースの表面の機械加工性が大幅に損なわれる可能性がある。また、ホットメルトバスが冷却されてしまうため、安定的な溶接プロセスがもはや不可能になる。
【0007】
通常、極性の変化後では、溶接電圧および/または溶接電流は監視されている。高すぎる溶接電圧または低すぎる溶接電流は、極性変化後にアークを発生できなかったことを示す。そのような場合には、極性を以前の極性に戻すか反転させる。
【0008】
例えば、欧州特許第0586325号明細書および上述した欧州特許第2431119号明細書には、アークの再発生が成功しなかった場合に、そのような極性反転を行う関連する種類の溶接方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような極性の反転機能を用いた既知の溶接プロセスには、溶接回路のインダクタンスにより、極性の反転条件を表す溶接電圧のブレークダウンまたは溶接電流の増加に遅れが生じ、溶接電圧および溶接電流の間違った値が適用されてしまうという欠点がある。したがって、遅れの後にアークは発生するが、極性の反転は起こる。これにより、溶接プロセスが不安定になり、今度は、溶接ジョイントの品質の欠陥(ワークピースの表面のクリーニング不足またはワークピースへのエネルギ投入量の減少)が発生する。
【0010】
本発明の目的は、非消耗電極を用いた上述した溶接方法および上述した装置であって、アークの再発生に失敗した場合に、より確実に極性を反転させることにより安定して動作し、その結果、より高い溶接品質を得ることができる方法および装置を創作することである。本発明に係る方法および本発明に係る装置は、可能な限り簡単で費用対効果が高く実施できるように設計されている。既知の方法および装置の欠点を回避または少なくとも低減できる。
【0011】
本発明に係る目的は、極性の変化に後に予め設定された間隔が経過した後の溶接電圧および溶接電流を電圧閾値および電流閾値と比較し、アークの電力を追加的に決定し、溶接電圧が電圧閾値よりも大きい場合、および/または溶接電流が電流閾値よりも小さい場合、および/または決定された電力が予め設定された電力閾値よりも小さい場合に、極性を変化前の極性に戻すという事実により、本方法に関して達成される。測定された溶接電圧および測定された溶接電流を電圧閾値および電流閾値と比較するまでに本発明に係る遅れ時間を適用することにより、上述したインダクタンスによる影響および遅れを排除でき、極性の反転を決定するための信頼性の高い結果が得られる。通常、溶接電圧および溶接電流は、継続的に測定される。本発明では、極性変化後に予め設定された間隔が経過した後の測定値を、電圧閾値および電流閾値との比較に使用することが重要である。測定値と閾値との比較のために予め設定された間隔を待機することに加えて、極性の反転のための第3の条件、すなわちアークの電力が予め設定された電力閾値に到達しているか否かのクエリを適用できる。これにより、アークの再発生が成功したかどうかを、より確実に判断できる。アークを発生できなかった場合、極性に変化させずに、極性を以前の極性に戻す。その結果、より安定した溶接プロセスおよびより高い溶接品質が得られる。本方法は、通常存在する溶接装置の制御装置において、提供された方法ステップを実施することで、比較的簡単かつ費用対効果が高く実施される。これは、通常、対応するマイクロプロセッサまたはマイクロコントローラのソフトウェアにより実行される。電圧閾値および電流閾値は、極性に応じて、正または負になる。理論的には、正の電圧閾値および正の電流閾値のそれぞれの大きさは、負の電圧閾値および負の電流閾値の大きさと異なっていてもよい。これらの閾値、並びに電力閾値および予め設定された間隔は、経験的に決定され、対応するメモリまたはデータベースに格納される。正極性から負極性への変化のための予め設定された間隔は、理論的には、負極性から正極性への変化のための予め設定された間隔と異なって選択されてもよい。原則として、極性の反転条件が正極性から負極性への切り換え時または負極性から正極性への切り換え時に適用されるか、および極性反転条件を極性反転毎に作動させるかは今後の検討が必要である。
【0012】
好ましくは、溶接電流の極性が正極性から負極性への変化する毎に、極性の変化後に予め設定された間隔が経過した後の溶接電圧および溶接電流と電圧閾値および電流閾値とを比較し、追加的にアークの電力を決定し、溶接電圧が予め設定された電圧閾値より大きい場合、および/または溶接電流が電流閾値よりも小さい場合、および/または決定された電力が予め設定された電力閾値よりも小さい場合に、極性を正極性に戻す。このように極性が変化する毎に、最終的な極性の反転条件を適用することは、完全に実用的である。
【0013】
代替的にまたは追加的に、溶接電流の極性が正極性から負極性への変化する毎に、極性の変化後に予め設定された間隔が経過した後の溶接電圧および溶接電流と電圧閾値および電流閾値とを比較してもよく、アークの電力を決定してもよく、溶接電圧が予め設定された電圧閾値より大きい場合、および/または溶接電流が電流閾値よりも小さい場合、および/または決定された電力が予め設定された電力閾値よりも小さい場合に、極性を正極性に戻してもよい。全ての極性の変化について、極性の反転条件がテストされ、少なくとも1つの条件が満たされた場合に、極性の反転が実行されることが理想的である。
【0014】
5μsから500msの間隔が予め設定されると理想的である。これらは、溶接システムの典型的なインダクタンスに対する予め設定された間隔に適した値であり、これが適用されれば、より信頼性の高い結果が得られる。
【0015】
本発明のさらなる特徴によれば、アークの電力は、溶接電圧と溶接電流との積から決定される。これは、溶接電圧および溶接電流の既知の値に基づいた単純な計算方法である。
【0016】
理想的には、極性の反転条件の1つとして、決定されたアークの電力が、3Wから3000Wの予め設定された電力閾値と比較される。この値域は、非消耗電極を用いる一般的な溶接プロセス、特にTIG溶接法の場合に、アークの発生に適した指標である。
【0017】
溶接電流は、30Hzから2000Hzの溶接周波数で変化する。これらの値は、非消耗電極を用いた溶接方法の実施に特に適している。したがって、周期は、500μsから33msの間である。溶接電流は、有利には、周期の30%から40%の正極性の時間と、周期の60%から70%に等しい負極性の時間との間で交互に流れる。上述したように、ワークピースの酸化層を破壊するために使用される正極性の時間は、ワークピースにエネルギまたは熱が導入される負極性の時間よりも短くなるように選択される。特定された範囲は、これらの時間にとって有利な値を示す。
【0018】
本発明の目的は、制御装置が上述した方法を実行するように設計された上述した非消耗電極を用いた溶接装置により達成される。結果として得られる利点の詳細については、本方法に関する上記説明を参照されたい。本発明に係る装置は、比較的簡単かつ安価に実施できる。通常、このような溶接装置は、電圧および電流を測定する機能と、それに対応する制御装置とを備えており、それらを上述した方法で適合させる必要がある。これは、通常、ソフトウェアに実装される。
【0019】
添付の図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】非消耗電極を用いた溶接装置の模式的なブロック図。
【
図2】非消耗電極を用いた溶接装置の通常動作中の溶接電圧、溶接電流、およびアークの電力の時間波形。
【
図3】本発明に係る負極性への極性反転の開始時の溶接電圧、溶接電流、およびアークの電力の時間波形。
【
図4】本発明に係る正極性への極性反転の開始時の溶接電圧、溶接電流、およびアークの電力の時間波形。
【
図5】本発明に係る非消耗電極を用いた溶接方法を図示するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、非消耗電極2を用いた溶接装置1、特にタングステン電極を用いたTIG(tangsten inert-gas:タングステン不活性ガス)溶接装置1の模式的なブロック図を示す。電流源3は、非消耗電極2と、導電性材料からなるワークピース4との両方に接続されている。電流源3は、非消耗電極2とワークピース4との間に、溶接周波数(f
s)で極性が交互に変化する溶接電流Iを流す。これにより、非消耗電極2の先端とワークピース4との間のアーク5が、正極性+のフェーズと、負極性-のフェーズとの両方で発生する。通常、電流源3に配置される制御装置6は、タイミングシーケンスを制御し、溶接電流Iおよび溶接電圧Uのそれぞれの値を制御するために使用される。また、制御装置6は、非消耗電極2とワークピース4との間の溶接電圧Uと、極性が変化した後の溶接電流Iを測定するように設計されている。
【0022】
図2は、非消耗電極2を用いた溶接装置1の通常動作における溶接電圧U、溶接電流I、およびアークの電力Pの時間波形を示す。開始フェーズの後、負極性-の溶接電流I、つまり特定の負の溶接電流が流れる。負極性-の時間t
nの終わりに、極性は正極性+に変化する。正極性
+の時間t
pが経過したとき、極性が再度変化する。従来とは異なり、本明細書では負極性-の時間t
nおよび正極性+の時間t
pは、実質的に同じ長さである。2番目の図には、その結果として生じる時間tの関数としての溶接電圧Uを示す。3番目の図には、アーク5の電力Pが時間tの関数として示されている。本発明によれば、負極性-および正極性+に対して、電圧閾値U
s+,U
s-および電流閾値I
s+,I
s-が定義されており、極性の反転が行われるかどうかの条件として、これらの値と溶接電圧Uおよび溶接電流Iの測定値が比較される。本発明によれば、電力閾値P
sが導入されており、溶接電圧Uおよび溶接電流Iから測定または定義されるアーク5の電力Pは、極性の反転のさらなる条件として電力閾値P
sと比較される。
図2は、いずれの場合も、またはいずれの極性においても、アーク5が再発生するため、極性の反転は必要なく、所定のタイミングで常に次の極性に変化する場合を示している。
【0023】
図3は、本発明に係る負極性-への極性反転の開始時の溶接電圧U、溶接電流I、およびアークでの電力Pの時間波形を示している。極性が負極性-から正極性+に変化している間、予め設定された間隔Δtが経過した後に、以下の条件が満たされるかテストされる。
1.U>U
s
2.I<I
s
3.P<P
s
これらの条件のうちの少なくとも1つが満たされた場合、アークの発生に失敗したことを示すので、したがって、極性を以前の極性(示している例では、負極性-)に戻す。図示の例示的な実施形態では、負極性-から正極性+への2回目または3回目の極性の反転において、溶接電流Iの極性は、その都度、負極性-へ再度戻っている。1回または2回の極性を反転させた後、最終的に、ワークピースの酸化層を破壊してアークを再発生できる。この場合、極性は、通常通りに次の極性に再度変化する。酸化層を破壊できない場合、負極性-の非常に長いフェーズが発生する。
【0024】
図4は、本発明に係る正極性+への極性反転の開始時の溶接電圧U、溶接電流I、およびアークでの電力Pの時間波形を示している。この場合において、極性が正極正+から負極性-に反転するとき、予め設定された間隔Δtを経過した後に、以下の条件が満たされるかテストされる。
1.U>U
s-
2.I<I
s-
3.P<P
s
これらの条件のうちの少なくとも1つが満たされた場合、アークの発生に失敗したことを示すので、したがって、極性を以前の極性(示している例では、正極性+)に戻す。図示の例示的な実施形態では、正極性+から負極性-への最初の極性の変化において、溶接電流Iは、正極性+へと再度戻っている。極性の反転後、最終的に、正極性+の間にアークの再発生に成功する。したがって、その後、極性は通常通り次の極性に変化する。酸化層が形成されていない場合、正極性のフェーズが長くなることがある。
【0025】
最後に、
図5は、本発明に係る非消耗電極を用いた溶接方法を説明するためのフローチャートである。ブロック100では、非消耗電極を用いた溶接方法が開始する。開始後、負極性-を有する溶接電流Iを流し(ブロック101)、予め設定された間隔Δtが経過するのを待って(ブロック102)、溶接電流Iの計測値と、予め設定された電流閾値I
s-とを比較する(ブロック103)。溶接電流Iがこの予め設定された電流閾値I
s-よりも小さい場合、ブロック107に進んで、極性を正極性+に戻す。溶接電流Iが予め設定された電流閾値I
s-以上の場合、クエリ104の処理を続行する。ここでは、溶接電圧Uを予め設定された電圧閾値U
s-と比較する。溶接電圧Uがこの予め設定されたU
s-よりも大きい場合、ブロック107に進んで、極性を正極性+に戻す。溶接電圧Uが予め設定された電圧閾値U
s-以下の場合、クエリ105の処理を続行する。ここでは、例えば、溶接電圧Uおよび溶接電流Iから電力Pを決定し、電力Pと予め設定された電力閾値P
sを比較する。電力Pがこの予め設定された電力閾値P
sよりも小さい場合、ブロック107に進んで、極性を正極性+に戻す。電力Pが予め設定された電力閾値P
s以上の場合、負極性-の時間t
nが経過するのを待って(ブロック106)、その後極性を正極性+に変化させる(ブロック107)。
【0026】
極性を正極性+に変化させた後、予め設定された間隔Δt(クエリ102において負極性-に変化させるときの予め設定された間隔Δtとは理論的には異なってもよい)が経過するのを待ち(ブロック108)、その後溶接電流Iの測定値を予め設定された電流閾値Is+と比較する(ブロック109)。溶接電流Iが予め設定された電流閾値Is+よりも小さい場合、ブロック101に進んで、極性を負極性-に戻す。溶接電流Iが予め設定された電流閾値Is+以上の場合、クエリ110の処理を実行する。ここでは、溶接電圧Uを予め設定された電圧閾値Us+と比較する。溶接電圧Uがこの予め設定された電圧閾値Us+よりも大きい場合、ブロック101に進んで、極性を負極性-に戻す。溶接電圧Uが予め設定された電圧閾値Us+以下の場合、クエリ111の処理を実行する。ここでは、電力Pを予め設定された電力閾値Psと比較する。電力Pがこの予め設定された電力閾値Psよりも小さい場合、ブロック101に進んで、極性を負極性-に戻す。電力Pが予め設定された電力閾値Ps以上の場合、負極性-の時間tnが経過するのを待って(ブロック112)、その後、処理はクエリに進み、方法を続行するかどうかを決定する(ブロック113)。必要に応じて、ブロック101に戻って、極性を負極性-に変化させる。クエリ113で本方法を終了する場合、シーケンスを終了させる(ブロック114)。
【0027】
図5のフローチャートは、本発明に係る方法の変形例を説明するためのものである。当然、測定値と閾値との比較(ブロック103,104,105あるいはブロック109,110,111)は任意の順番で実行されてもよい。図示されたフロー図では、これらの測定値と閾値との比較を、論理的な「Or」演算の形式で示している。ブロック103,104,105あるいはブロック109,110,111による比較を論理的な「And」または「And/Or」演算の形式で行うことも可能である。