(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】血液を含むリン酸カルシウムセメント組成物
(51)【国際特許分類】
A61L 27/12 20060101AFI20220926BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20220926BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20220926BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20220926BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20220926BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20220926BHJP
A61F 2/28 20060101ALI20220926BHJP
C04B 12/02 20060101ALI20220926BHJP
C04B 28/34 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
A61L27/12
A61L27/36 100
A61L27/36 311
A61L27/40
A61L27/58
A61L27/54
A61L27/50
A61F2/28
C04B12/02
C04B28/34
(21)【出願番号】P 2018552715
(86)(22)【出願日】2017-04-06
(86)【国際出願番号】 EP2017058293
(87)【国際公開番号】W WO2017174747
(87)【国際公開日】2017-10-12
【審査請求日】2020-03-06
(32)【優先日】2016-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510187211
【氏名又は名称】グラフティス
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】507421289
【氏名又は名称】ナント・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】NANTES UNIVERSITE
(73)【特許権者】
【識別番号】322010420
【氏名又は名称】オニリス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-ミシェル・ブレ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・ゴーティエ
(72)【発明者】
【氏名】ブリュノ・ビュジョリ
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・ジャンヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】シャルロット・メリエ
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-508643(JP,A)
【文献】特開2011-087973(JP,A)
【文献】特開2014-195712(JP,A)
【文献】J Biomed Mater Res B: Appl Biomater.,2010年,92B,p.95-101
【文献】Biomaterials,2004年,25,p.3453-3462
【文献】Adv Orthop.,2012年,Vol.2012,Article ID 282068,p.1-7
【文献】Neuro Med Chir.(Tokyo),2014年,54,p.722-726
【文献】宮崎県工業技術センター・宮崎県食品開発センター研究報告,2006年,51,p.13-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末成分及び液体成分を含有する骨セメントペーストであって、
前記粉末成分が、前記粉末成分の総質量に対する質量により、
- 少なくとも70質量%の、9μm以上の平均粒径を有するα-リン酸三カルシウム(α-TCP)粒子であって、前記平均粒径は、レーザー回折分析によって測定される前記粒子の平均相当の直径である、α-TCP粒子、
- 少なくとも5質量%の析出又はカルシウム欠損アパタイト(CDA)、並びに
- 以下のいずれか:
(i)少なくとも1質量%のリン酸一カルシウム一水和物(MCPM)及び少なくとも1質量%のリン酸二カルシウム二水和物(DCPD)、又は
(ii)少なくとも1質量%の無水リン酸二カルシウム(DCPA)
を含み、
前記液体成分が、血液を含む、
骨セメントペースト。
【請求項2】
前記液体成分が、血液である、請求項1に記載の骨セメントペースト。
【請求項3】
前記粉末成分が、ヒドロキシアパタイト(HA)、非晶質リン酸カルシウム(ACP)、無水リン酸一カルシウム(MCPA)、リン酸一カルシウム一水和物(MCPM)、リン酸二カルシウム二水和物(DCPD)、無水リン酸二カルシウム(DCPA)、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)、リン酸四カルシウム(TTCP)、及びこれらの混合物から成る群から選択される他のリン酸カルシウム化合物を更に含む、請求項1又は請求項2に記載の骨セメントペースト。
【請求項4】
前記粉末成分が:
- 9μm以上の平均粒径を有するα-リン酸三カルシウム(α-TCP)粒子、
- MCPM、
- DCPD、及び
- CDA
を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の骨セメントペースト。
【請求項5】
前記液体成分(L)/粉末成分(P)の比率が、0.3~0.7mL/gの間である、請求項1から4のいずれか一項に記載の骨セメントペースト。
【請求項6】
前記α-リン酸三カルシウム(α-TCP)粒子が、10μm以上の平均粒径を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の骨セメントペースト。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の骨セメントペーストの固化によって得られるアパタイト系リン酸カルシウムセメント。
【請求項8】
X線画像化若しくはMRIのための造影剤を更に含む、及び/又は治療薬若しくは治療効果を示す化合物を更に含む、請求項7に記載のアパタイト系リン酸カルシウムセメント。
【請求項9】
アパタイト系リン酸カルシウムセメントを製造するための方法であって、前記方法が、次の工程:
a)9μm以上の平均粒径を有するα-リン酸三カルシウム(α-TCP)粒子であって、前記平均粒径は、レーザー回折分析によって測定される前記粒子の平均相当の直径である、α-TCP粒子、少なくとも5質量%の析出又はカルシウム欠損アパタイト(CDA)、並びに以下のいずれか:(i)少なくとも1質量%のリン酸一カルシウム一水和物(MCPM)及び少なくとも1質量%のリン酸二カルシウム二水和物(DCPD)、又は(ii)少なくとも1質量%の無水リン酸二カルシウム(DCPA)を含む粉末成分と血液を含む液体成分とを混合することによる、骨セメントペーストの調製、並びに
b)前記骨セメントペーストの固化
を含
み、
前記方法は、人体において実施されない、方法。
【請求項10】
前記α-リン酸三カルシウム(α-TCP)粒子が、10μm以上の平均粒径を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
歯又は骨の欠損の充填における使用のための、請求項7又は請求項8に記載のアパタイト系リン酸カルシウムセメント。
【請求項12】
請求項7又は請求項8に記載のアパタイト系リン酸カルシウムセメントを含むインプラント。
【請求項13】
椎体間固定ケージ内での脊椎固定の促進における使用のための、請求項7又は請求項8に記載のアパタイト系リン酸カルシウムセメント。
【請求項14】
- 固定ケージ、並びに
- 少なくとも70質量%の、9μm以上の平均粒径を有するα-リン酸三カルシウム(α-TCP)粒子であって、前記平均粒径は、レーザー回折分析によって測定される前記粒子の平均相当の直径である、α-TCP粒子、少なくとも5質量%の析出又はカルシウム欠損アパタイト(CDA)、並びに以下のいずれか:(i)少なくとも1質量%のリン酸一カルシウム一水和物(MCPM)及び少なくとも1質量%のリン酸二カルシウム二水和物(DCPD)、又は(ii)少なくとも1質量%の無水リン酸二カルシウム(DCPA)を含む粉末成分並びに血液を含む液体成分を含む骨セメントペースト
を含む、脊椎固定のためのキット。
【請求項15】
前記α-リン酸三カルシウム(α-TCP)粒子が、10μm以上の平均粒径を有する、請求項14に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液を含むリン酸カルシウムセメント組成物に関する。本発明は、前記組成物を調製する方法、更に前記組成物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
代用骨としての合成リン酸カルシウムの開発は、in vivoで吸収され、天然の骨によって置換される性能を有すことから、骨手術においてまさに現在使用されている多孔質セラミックの例と共に、ここ数十年間拡大しつつある。注入可能なリン酸カルシウムセメント(CPC)は、主な機械的特性が向上しており、その注入可能な特徴によって低侵襲手術条件下での埋め込みが可能であることから、次世代製品と考えられている。したがって、いくつかの銘柄の注入可能なCPCが市販されるようになってからすでに数年が経過しているものの、具体的には、とりわけ、その疲労強度を高め、骨伝導特性を増強させることによって、その用途を広げ、特定の臨床的適応(例えば、椎体間固定用のケージの充填、椎体増強)に適したものにするため、本質的な改良が未だに必要とされている。
【0003】
CPCの機械的特性(例えば、より高い弾性)を改良するため、興味深く、熱心に研究されている、1つの手段は、例えば、ポリ乳酸(PLA)、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、若しくはポリカプロラクトン(PCL)等のポリエステル、キトサン(Liu, H.他、Acta Biomaterialia 2006、2、557)、ゼラチン(Bigi, A.他、Biomaterials 2004、25、2893及びHabraken, W.他、Journal Of Biomedical Materials Research Part A 2008、87A、643)、コラーゲン(Miyamoto, Y.他、Biomaterials 1998、19、707及びOtsuka, M.他、J Biomed Mater Res B 2006、79B、176)、又はポリペプチド(Lin, J. P.他、Journal Of Biomedical Materials Research Part B-Applied Biomaterials、2006、76B、432)を含む、生体適合性及び生分解性の繊維又はマイクロ粒子をセメント配合物に導入することである。生分解性ポリマーの無機マトリックスに対する良好な親和性がある場合、無機/有機界面における制約性が良好に移行する結果として、2つの成分の間の共同効果が実際に見込まれ得る。
【0004】
これまで、既知のリン酸カルシウムセメントは十分な機械的特性を有しておらず、それらは実際に非常に脆く、疲労強度が非常に低い。
【0005】
更に、これらのセメントの骨伝導能は低下しており、したがって、その使用は少量に限られる。
【0006】
したがって、機械的特性が改良され、骨伝導能が改善されたリン酸カルシウムセメントの必要性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Liu, H.他、Acta Biomaterialia 2006、2、557
【文献】Bigi, A.他、Biomaterials 2004、25、2893
【文献】Habraken, W.他、Journal Of Biomedical Materials Research Part A 2008、87A、643
【文献】Miyamoto, Y.他、Biomaterials 1998、19、707
【文献】Otsuka, M.他、J Biomed Mater Res B 2006、79B、176
【文献】Lin, J. P.他、Journal Of Biomedical Materials Research Part B-Applied Biomaterials、2006、76B、432
【文献】Despas, C.; Schnitzler, V.; Janvier, P.; Fayon, F.; Massiot, D.; Bouler, J. M.; Bujoli, B.; Walcarius, A. High-frequency impedance measurement as a relevant tool for monitoring the apatitic cement setting reaction Acta Biomater 2014、10、940
【文献】Thiebaut, J. M.; Roussy, G.; Chlihi, K.; Bessiere, J. Dielectric study of the activation of blende with cupric ions Journal Of Electroanalytical Chemistry 1989、262、131
【文献】Gauthier他2005、Biomaterials
【文献】Verron, E.; Gauthier, O.; Janvier, P.; Pilet, P.; Lesoeur, J.; Bujoli, B.; Guicheux, J.; Bouler, J. M. In vivo bone augmentation in an osteoporotic environment using bisphosphonate-loaded calcium deficient apatite Biomaterials 2010、31、7776
【文献】Ginebra, M. P.; Rilliard, A.; Fernandez, E.; Elvira, C.; San Roman, J.; Planell, J. A. Mechanical and rheological improvement of a calcium phosphate cement by the addition of a polymeric drug J Biomed Mater Res 2001、57、113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、満足のいく機械的特性を有する注入可能なリン酸カルシウムセメントを提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、改良された機械的、生物学的、及び流体力学的特性を有する注入可能なリン酸カルシウムセメントを提供することである。
【0010】
本発明の目的は、骨固定又は脊椎固定に適した注入可能なリン酸カルシウムセメントを提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上であるα-リン酸三カルシウム(α-TCP)粒子を含む粉末成分及び血液又は血液由来製品を含む液体成分を含有する骨セメントペーストに関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(A)QSセメント単独(a)及びその血液含有類似物(b)、(B)HBSセメント単独(c)及びその血液含有類似物(d)における反応時間に対する誘電率ε'(左)、と誘電損失ε''(右)の変化。周波数:10MHz、温度:37℃。
図1Aは比較データを有し、
図1Bは、本発明に記載の組成物(血液を含む)と血液を含まない組成物を比較している。
【
図2】組成物の注入性能を評価した図である。QS(△)(比較組成物)及びその血液含有類似物(比較組成物)(▲)、HBS(□)(比較組成物)及びその血液含有類似物(■)(本発明に記載の組成物)における時間の関数としての20℃でのセメントペーストの押し出しに必要な力。
【
図3】組成物の機械的特性を評価した図である。72時間の固化時間後のセメント配合物の圧縮強度:(右)QS(直線)及びその血液含有類似物(点線)、(左)HBS(直線)及びその血液含有類似物(点線)。
【
図4】新たに形成した骨と残存する埋め込み材料のSEM測定を用いた比較定量分析。
【
図5】比較組成物(a)、本発明に記載の組成物(b)、及び自家移植片(c)のSEM顕微鏡写真。
【
図6】3次元定量化ケージ内部体積(500mm
3-μCT分析-解像度12μm)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
有利な実施形態によれば、本発明は、平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上であるα-リン酸三カルシウム(α-TCP)粒子を含む粉末成分及び血液を含む液体成分を含有する骨セメントペーストに関する。
【0014】
本発明によれば、「リン酸カルシウムセメント」(又はCPC)は、粉末状固相(又は粉末成分)が、リン酸カルシウム化合物又はカルシウム化合物及び/若しくはリン酸化合物の混合物から成るセメントである。
【0015】
本発明によれば、「骨セメントペースト」は、粉末成分と液体成分を混合することによって得られるペーストである。
【0016】
本発明の文脈では、「リン酸カルシウム(phosphocalcic)」又は「リン酸カルシウム(calcium phosphate)」という用語は、オルトリン酸(PO4
3-)、メタリン酸、又はピロリン酸(P2O7
4-)及び時に水酸化イオン又は水素イオン等の他のイオンと共にカルシウムイオン(Ca2+)を含有している無機物を指す。
【0017】
粉末成分
本出願内では、粉末成分は、所定の平均粒径であるα-リン酸三カルシウム粒子を含む。
【0018】
リン酸三カルシウム(TCP)は、式がCa3(PO4)2であり、オルトリン酸カルシウム、第三級リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、又は骨灰としても知られている。α-TCPの式は、α-Ca3(PO4)2である。
【0019】
本発明に記載のα-TCP粒子は、平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは11μm以上、更に最も好ましくは12μm以上である。
【0020】
一実施形態によれば、本発明に記載のα-TCP粒子は、平均粒径が10μmを上回る。
【0021】
本発明の文脈では、「平均粒径」(又は「平均サイズ」若しくは「平均の粒径」)という用語は、レーザー回析分析によって測定された前記粒子の平均相当の直径を意味する。
【0022】
本発明に記載の骨セメントペーストの粉末成分はα-TCPを含み、前記α-TCPは、上記で定義された通り、平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上である粒子の形態である。
【0023】
一実施形態によれば、上記で定義されたα-TCP粒子は、平均粒径が9μm~100μmの間、好ましくは10μm~100μmの間である。
【0024】
一実施形態によれば、粉末成分は、α-TCP以外の少なくとも1種のリン酸カルシウム化合物を更に含む。
【0025】
したがって、本発明に記載の骨セメントペーストの粉末成分は、1種又はいくつかの他のリン酸カルシウム化合物を含んでもよく、前記化合物は、α-TCPとは異なる。したがって、粉末成分は、上記で定義されたα-TCP粒子を、少なくとも1種の他のリン酸カルシウム化合物と組み合わせて含んでもよい。
【0026】
α-TCP以外のリン酸カルシウム化合物のうち、1種は、ヒドロキシアパタイト(HA)、非晶質リン酸カルシウム(ACP)、無水リン酸一カルシウム(MCPA)、リン酸一カルシウム一水和物(MCPM)、リン酸二カルシウム二水和物(DCPD)、無水リン酸二カルシウム(DCPA)、析出アパタイト又はカルシウム欠損アパタイト(CDA)、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)、リン酸四カルシウム(TTCP)、及びこれらの混合物から成る群から選択されるものであってもよい。
【0027】
一実施形態によれば、粉末成分は、上記で定義されたα-TCP粒子を、いくつかの異なるリン酸カルシウム化合物の混合物と組み合わせて含む。
【0028】
好ましくは、本発明に記載の骨セメントペーストの粉末成分は:
- 平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上であるα-TCP粒子、及び
- MCPA、DCPD、CDA、及びこれらの混合物から成る群から選択される、少なくとも1種のリン酸カルシウム化合物
を含む。
【0029】
好ましい実施形態では、本発明に記載の粉末成分は、平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上であるα-TCP粒子を、前記粉末成分の総質量に対して、少なくとも40質量%、好ましくは、少なくとも50質量%、より好ましくは、少なくとも60質量%含む。
【0030】
有利な実施形態によれば、本発明に記載の骨セメントペースト中の粉末成分は、平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上であるα-TCP粒子を、前記粉末成分の総質量に対して、少なくとも70質量%、好ましくは、少なくとも80質量%含む。
【0031】
一実施形態によれば、本発明に記載の粉末成分は、前記粉末成分の総質量に対して、平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上であるα-TCP粒子のみから成る。このような実施形態内では、粉末成分は、平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上であるα-TCP粒子を、前記粉末成分の総質量に対して、100質量%含む。
【0032】
好ましい実施形態によれば、本発明に記載の粉末成分は:
- 平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上であるα-TCP粒子、
- MCPM、
- CDA、及び
- DPCD
を含む。
【0033】
別の実施形態によれば、本発明に記載の粉末成分は:
- 平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上であるα-TCP粒子、
- CDA、及び
- DPCA
を含む。
【0034】
好ましくは、本発明に記載の粉末成分は:
- 平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上であるα-TCP粒子を、前記粉末成分の総質量に対して、少なくとも70質量%、好ましくは、少なくとも75質量%、
- CDAを、前記粉末成分の総質量に対して、少なくとも5質量%、
- MCPM及びDCPDの混合物を、前記粉末成分の総質量に対して、少なくとも1質量%
含む。
【0035】
好ましくは、本発明に記載の粉末成分は:
- 平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上であるα-TCP粒子を、前記粉末成分の総質量に対して、少なくとも70質量%、好ましくは、少なくとも75質量%、
- CDAを、前記粉末成分の総質量に対して、少なくとも5質量%、
- MCPMを、前記粉末成分の総質量に対して、少なくとも1質量%、及び
- DCPDを、前記粉末成分の総質量に対して、少なくとも1質量%
含む。
【0036】
好ましくは、本発明に記載の粉末成分は:
- 平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上であるα-TCP粒子を、前記粉末成分の総質量に対して、少なくとも70質量%、好ましくは、少なくとも75質量%、
- CDAを、前記粉末成分の総質量に対して、少なくとも5質量%、及び
- DCPAを、前記粉末成分の総質量に対して、少なくとも1質量%
含む。
【0037】
一実施形態によれば、本発明に記載の粉末成分は:
- 平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上であるα-TCP粒子を、前記粉末成分の総質量に対して、70質量%~80質量%、
- CDAを、前記粉末成分の総質量に対して、1質量%~15質量%、好ましくは5質量%~10質量%、
- MCPMを、前記粉末成分の総質量に対して、1質量%~10質量%、好ましくは1質量%~5質量%、
- DCPDを、前記粉末成分の総質量に対して、1質量%~10質量%、好ましくは1質量%~5質量%
含む。
【0038】
一実施形態によれば、本発明に記載の粉末成分は:
- 平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上であるα-TCP粒子を、前記粉末成分の総質量に対して、70質量%~80質量%、
- CDAを、前記粉末成分の総質量に対して、1質量%~15質量%、好ましくは5質量%~10質量%、及び
- DCPAを、前記粉末成分の総質量に対して、1質量%~15質量%、好ましくは5質量%~10質量%
含む。
【0039】
本発明に記載の骨セメントペースト中の粉末成分は、少なくとも1種の多糖を更に含んでもよい。
【0040】
多糖は、グリコシド結合によって連結した多くの単糖から成る、デンプン及びセルロース等の炭水化物の分類の1つである。
【0041】
セルロースエーテル及びその塩並びにこれらの混合物は、本発明に記載の粉末成分に使用される好ましい多糖であり、より好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)から成る群から選択される。
【0042】
好ましくは、セルロースエーテルの量は、本発明に記載の粉末成分の総量に対して0.1質量%~5質量%の間、好ましくは1質量%~3質量%の間、より好ましくは1質量%~約2質量%の間で変化する。
【0043】
液体成分
上記の通り、本発明に記載の骨セメントペーストは、血液又は血液由来製品を含む液体成分を含む。
【0044】
有利な実施形態によれば、前記液体成分は、血液を含み、より好ましくは血液である。
【0045】
本出願内では、「血液」という用語は全血を指す。したがって、それは白血球、赤血球、及び血小板を含む。
【0046】
本出願内では、「血液由来製品」という用語は血漿、血清、及び前述の細胞を指す。
【0047】
本発明によれば、液体成分は、次のうちの1つ又は複数を含んでもよい:生理食塩水、脱イオン水、希リン酸、希有機酸(酢酸、クエン酸、コハク酸)、リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム若しくは炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、Na2HPO4水溶液、及び/又はNa2HPO4/NaH2PO4水溶液。
【0048】
一実施形態によれば、本発明に記載の骨セメントペースト中の液体成分(L)/粉末成分(P)の割合は、0.3~0.7mL/gの間、好ましくは0.4~0.6mL/gの間、より好ましくは0.45又は0.55mL/gである。
【0049】
セメント
本発明は、上記で定義された骨セメントペーストの固化によって得られるアパタイト系リン酸カルシウムセメント(apatitic calcium phosphate cement)にも関する。
【0050】
本発明の文脈では、「リン酸カルシウムセメント」(CPC)は、血液を含む液体成分の存在下で固化及び硬化するカルシウム塩を最終的に追加する、1種又は複数のリン酸カルシウムを含む又は1種又は複数のリン酸カルシウムから成る固形の複合材料である。該用語は、固化後に得られる硬化した材料を指す。固化時間、粘性等のセメントの特性を調整するため、凝集若しくは膨潤の時間を短縮させるため、及び/又はマクロ多孔性をもたらすため、並びに最終的な硬化製品に弾性を付与するため、他の添加剤を少量で含んでもよい。
【0051】
「アパタイト系」リン酸カルシウムセメントは、式Ca5x(PO4)3x,(OH, Cl, F)x(x≧1)の六方晶系で結晶化する。
【0052】
本発明の文脈では、セメントの「固化」は、環境、室温、又は体温に応じた周囲温度における、セメントペーストの自動的な(hand-off)自己硬化を意味する。
【0053】
本発明に記載のCPCは、「CPC/血液複合物」と呼んでもよい。
【0054】
一実施形態によれば、本発明のアパタイト系リン酸カルシウムセメントは、X線画像化又はMRIのための造影剤、好ましくは水溶性造影剤、より好ましくはX線画像化のための芳香族ポリヨウ素化合物(aromatic polyiodine compound)又はMRIのためのガドリニウム含有化合物を更に含む。
【0055】
別の実施形態によれば、本発明のアパタイト系リン酸カルシウムセメントは、治療薬(ビスホスホネート又は抗生物質等)又は治療効果を示す化合物(抗癌性のケモカイン又はガリウム等)を更に含む。
【0056】
本発明は、次の工程を含む方法によって得ることができるアパタイト系リン酸カルシウムセメントにも関する:
a)平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上であるα-TCP粒子を含む粉末成分と血液又は血液由来製品を含む液体成分であって、好ましくは血液を含む前記液体成分の混合による骨セメントペーストの調製、及び
b)前記骨セメントペーストの固化。
【0057】
好ましくは、本発明によれば、固化時間は、10分間~72時間、好ましくは10時間~20時間にわたる。具体的には、本発明に記載の固化時間は約13時間である。
【0058】
好ましい実施形態によれば、本発明に記載のアパタイト系リン酸カルシウムセメントは注入可能である。
【0059】
本発明の文脈では、「注入可能なセメント」又は「注入するために適当な形態のセメント」は、直径が数mm、好ましくは1mm~5mmの間、より好ましくは1mm~3mmの間、最も好ましくは2mm~3mmの間の針を通して押し出し得るセメントペーストを指す。注入可能なセメントの特に重要なパラメータは、大きな粒子が存在しないこと、in vivo(37℃)での適当な粘性及び適切な固化時間を含む。
【0060】
好ましくは、本発明に記載のアパタイト系リン酸セメントの圧縮強度は、2MPa~15MPaの間である。
【0061】
本出願内では、「圧縮強度」は、破損時にセメントサンプルによって支えられる最大圧縮応力である。
【0062】
一実施形態によれば、本発明に記載のアパタイト系CPCは、硬化72時間後に延性材料の典型的な圧縮強度曲線を示す。具体的には、本発明に記載のCPCは塑性挙動を示す。これは、この種類のセメントの硬化したサンプルを機械的試験(例えば、圧縮強度試験)に供する場合、破砕される前に変形プロファイルが示されることを意味する。
【0063】
本発明に記載のCPC/血液複合物は、血液がセメントに粘着性、凝集性、及び塑性を付与するという点で有利である。更に、血液の使用によって、血液を含まないセメントと比較して骨伝導能及び吸収が著しく増大する。
【0064】
本発明に記載のCPCは、有利なことに生体吸収性である。
【0065】
本明細書で用いる用語「生体吸収性」は、in vivoで吸収される材料の性能を指す。本発明の文脈では、「完全な」吸収とは、目立った細胞外断片が残存していないことを意味する。該吸収過程は、体液、酵素、又は細胞の働きを介した元のインプラント材料の除去に関連する。
【0066】
吸収されたリン酸カルシウムは、例えば、骨芽細胞の働きを介して新しい骨ミネラルとして再沈着されることもあれば、体内で再利用又は排泄されることもある。「強力な生体吸収性」とは、リン酸カルシウムインプラントの大部分が1~5年の間に吸収されることを意味する。この遅れは、リン酸カルシウムインプラントの固有の特徴だけでなく、埋め込み部位、患者の年齢、インプラントの初期の安定性等によっても左右される。
【0067】
使用
本発明に記載のCPCは、具体的には、骨の修復、増強、再建、再生、及び骨粗鬆症等の骨疾患の治療に関連する歯科的及び医学的用途のために使用することができる。
【0068】
追加の医学的用途は、骨欠損の修復、脊椎固定における骨折の修復、人工装具(股関節、膝関節、肩関節、又は他の箇所)の修正手術(surgery revision)、骨増強、及び骨再建を含む。
【0069】
本発明は、歯又は骨の欠損を充填するための、上記で定義されたアパタイト系リン酸セメントの使用にも関する。
【0070】
歯又は骨の欠損の中には、外傷、手術、又は病態によって生じた欠損に言及することもある。具体的には、本発明に記載のアパタイト系リン酸セメントは、骨粗鬆症又は骨髄病変の治療に使用されうる。
【0071】
本発明に記載のCPC/血液複合物は、多くの用途、特に外科的用途で使用されうる。
【0072】
本発明は、上記で定義されたアパタイト系リン酸セメントを含むインプラントにも関する。具体的には、このインプラントは、骨を修復、復元、若しくは増強すること、及び/又は骨若しくは歯の欠損を充填することに使用されうる。
【0073】
本発明は、インプラント(スクリュー)の固定において、骨固定具を増強するための、上記で定義されたアパタイト系リン酸セメントの使用にも関する。
【0074】
このような用途の目的は、質の悪い骨を有する患者において、固定インプラント周囲の骨を緻密化することである。このような用途において、該セメントは固化し、該スクリューにとって機械的により安定した環境を提供する。この作用様式は、CPC/血液複合物が、機械的応力の一部を吸収することを可能とする塑性(低脆性)を有するため、更により効率的である。
【0075】
本発明に記載のCPC/血液複合物の使用は、微小な動き(micro-movements)を防ぎ、固定インプラントの安定性を最適化し、手術後短期間で体重を支えるまでに復帰し(機械的増強)、組み合わせたセメントが天然の骨に再構築された後、長期的に体重を支える(生物学的増強)という点で有利である。
【0076】
この用途のための埋め込み手技は次の通りである:注入性能(injectability)が極めて高いことから、本発明に記載のセメント(全血を伴う)を、固定インプラント(スクリュー)周囲の領域中の骨梁構造に浸透させ、充填する。全血を伴う該セメントの流動性(低粘性)は、この臨床的用途における低侵襲アプローチ及び送達を可能にする。
- インプラント固定前の留置:全血を含むセメントを予め設けた孔から注入する。スクリュー埋め込みの際、CPC/血液複合物を、スクリュー周囲の骨梁構造内に押し込み、より高密度の領域を形成する、又は
- スクリューがカニューレ式及び有窓型である場合(例えば:N-Force、Innovision社)、固定インプラント留置後の留置。全血を含むセメントを該スクリューのカニューレに注入し、該スクリュー軸の開窓を介して骨梁構造に到達させ、浸透させる。
【0077】
本発明は、骨髄病変の治療、特に「軟骨下形成」手技の実施による治療のための、上記で定義されたアパタイト系リン酸セメントの使用にも関する。したがって、これは、骨髄病変の治療に対して使用するための、上記で定義されたアパタイト系リン酸セメントに関する。
【0078】
このような用途の目的は、骨髄病変によって形成された空洞であって、骨梁量の減少及び関連する機械的抵抗性の消失をもたらす空洞を充填することである。
【0079】
該作用様式は次の通りである:該セメントは固化し、埋め込み部位において機械的により安定した領域及び圧迫に対する機械的抵抗性の増強を提供する。
【0080】
本発明に記載のCPC/血液複合物の使用は、圧迫に対する機械的抵抗性の増強によって、疼痛が除去され(治療上の短期間な効果)、関節面の陥没が予防される(予防上のより長期的な作用)という点で有利である。
【0081】
この用途のための埋め込み手技は次の通りである:注入に極めて適していることから、全血を伴う該セメントを、該領域中の骨構造に浸透させ、充填する。全血を伴う該セメントの流動性(低粘性)は、この臨床的用途における低侵襲アプローチ及び送達を可能にする。
【0082】
本発明は、体間ケージ内での脊椎固定を促進するための、上記で定義されたアパタイト系リン酸セメントの使用にも関する。
【0083】
椎体間脊椎固定の用途のための目的は、骨橋を形成させるために椎体間固定ケージを充填し、固定を最適化することである。該作用様式は次の通りである:該セメントは一旦適所で固化し、天然の骨に吸収され、再構築されることによって骨橋の形成を可能にする。
【0084】
本発明に記載のCPC/血液複合物の使用は、より長期間、より安定した固定を可能にするという点で有利である。全血を伴う場合のこのCPCの特に活発な骨形成特性は、最適な骨再建(再建の量、質、及び時期)のための成功の鍵である。
【0085】
この用途のための埋め込み手技は次の通りである:全血を伴う該セメントの流動性(低粘性)及び凝集性は、この臨床的用途における低侵襲アプローチ及び送達を可能にする。該セメントを、埋め込み前又は第2工程における該ケージの留置後に固定ケージ内に留置することができる:
- 該ケージの設計から、埋め込み後の留置(注入孔の非存在下)が不可能である場合、固定ケージの埋め込み前の留置、又は
- 注入孔が存在する場合(注入孔はポジショナー/ハンドルの孔である場合もある)、固定ケージの埋め込み後の留置。
【0086】
本発明は、脊椎固定のためのキットであって:
- 好ましくはPEEK製の固定ケージ、及び
- 平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上であるα-リン酸三カルシウム(α-TCP)粒子を含む骨セメント粉末
を含むキットにも関する。
【0087】
このキットは、次に、骨セメントペースト及び固化後の対応するセメントを得るため、上記で定義された液体成分と組み合わせて使用される。
【0088】
本発明は、脊椎固定のためのキットであって:
- 好ましくはPEEK製の固定ケージ、及び
- 平均粒径が9μm以上、好ましくは10μm以上であるα-リン酸三カルシウム(α-TCP)粒子を含む粉末成分及び血液又は血液由来製品を含む液体成分を含む骨セメントペースト
を含むキットにも関する。
【0089】
本発明は、体間ケージ内での脊椎固定を促進する方法であって、次の工程を含む方法にも関する:
- 好ましくはPEEK製の固定ケージを2つの椎体の間に留置すること、及び
- 上記で定義された骨セメントペーストを前記ケージ内に注入すること。
【0090】
この方法は、上記で説明された通りに実施される。
【0091】
これは、固定ケージを留置するための工程を、注入工程の前に実施するという点で、既知の方法よりも有利である。実際に、これまで、セメントの注入前にケージを留置する既知の方法はなかった。既知の方法は、自家骨で充填した固定ケージの留置に関するものである。更に、これらの先行技術の方法は、高い破損率を有する。
【0092】
本発明は、次の図及び実施例を考慮して更に例示される。
【実施例】
【0093】
材料
本試験で使用されたアパタイト系リン酸カルシウムセメント(CPC)は、Graftys SA社(Aix-en-Provence、France)から入手した。
【0094】
Graftys(登録商標)HBS
Graftys(登録商標)HBSは、78質量%のα-リン酸三カルシウム(α-TCP)(Ca3(PO4)2)(平均相当直径:12μm)、5質量%のリン酸二カルシウム二水和物(DCPD)(CaHPO4、2H2O)、5質量%のリン酸一カルシウム一水和物(MCPM)(Ca(H2PO4)2、H2O)、10質量%のCDA(Ca10-x[ ]x(HPO4)y(PO4)6-y(OH)2-z[ ]z)、2質量%のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(E4 M(登録商標)、Colorcon社-Dow Chemical社、Bougival、France)の混合物である。
【0095】
液相は、5質量%のNa2HPO4水溶液(液体/粉末比=0.5mL.g-1)から成る。
【0096】
Graftys(登録商標)Quickset
Graftys(登録商標)Quicksetは、78質量%のα-TCP(平均相当直径:5μm)、10質量%の無水リン酸二カルシウム(DCPA)(CaHPO4)、10質量%のCDA、2質量%のHPMCの混合物である。
【0097】
液相は、0.5質量%のNa2HPO4水溶液(液体/粉末比=0.45mL.g-1)から成る。
【0098】
Graftys(登録商標)HBS及びGraftys(登録商標)Quicksetのセメントペーストサンプルは、分析前に、得られるペーストの均質性を確保するため、粉末化した製剤8gとそれぞれの液相を2分間混合することによって調製した。
【0099】
液相を新たに採取したヒツジ血液に完全に置き換えること以外同じ条件を、対応する血液/CPC複合物の製剤にも適用した。
【0100】
方法
過去に報告されている通り、HP 4194 A impedance/gain-phase analyser(Hewlett-Packard社)を備え、37℃で複素インピーダンス測定及びGillmore針測定を同時に実行することができる実験設備を使用し、高周波インピーダンス測定を0.4~100MHzの間で記録した(Despas, C.; Schnitzler, V.; Janvier, P.; Fayon, F.; Massiot, D.; Bouler, J. M.; Bujoli, B.; Walcarius, A. High-frequency impedance measurement as a relevant tool for monitoring the apatitic cement setting reaction Acta Biomater 2014、10、940)。
【0101】
該実験装置は、自動データ取得及び複素インピーダンスZ*のリアルタイム計算、そこから誘電率ε'(双極子の変化(dipole variation)に関連する)及び誘電損失ε''(自由荷電の移動に関連する)の算出を可能にするコンピュータによって完成された(Thiebaut, J. M.; Roussy, G.; Chlihi, K.; Bessiere, J. Dielectric study of the activation of blende with cupric ions Journal Of Electroanalytical Chemistry 1989、262、131)。
【0102】
初期固化時間(ti)は、小さなGillmore針(直径2.12mm、質量113.4g)がサンプルの表面にくぼみをつけることができなくなるまでに経過した時間として定義され、最終固化時間(tf)は、大きなGillmore針(直径1.06mm、質量453.6g)を使用した際の対応する値である。
【0103】
時間に対する圧縮強度測定及びテクスチャー分析は、AMETEK LS5 texture analyzerを使用して実施した。時間に対する、セメントペーストサンプルをシリンジ(カートリッジの内径8.2mm、出口孔の内径1.7mm)から押し出すために必要な圧縮力を、押出速度定数(0.1mm s-1)を一定に保ちつつ、一定の間隔(約3分毎)で測定した。
【0104】
Graftys(登録商標)HBS及びGraftys(登録商標)Quickset CPC、対比としてそれぞれの血液複合物のin vivoでの埋め込み
動物及び手術手順
全ての動物の取扱い及び手術手順は、実験動物の世話及び使用に関する欧州共同体指針(DE 86/609/CEE)に従って実施され、地方の獣医科大学倫理委員会に承認された。
【0105】
検討する生体材料は、24匹の成熟雌ニュージーランド白ウサギ(3~3.5kg)の大腿骨の遠位末端に、それぞれ4週間及び8週間の両期間埋め込まれた。膝関節の外側関節切開を実施し、円柱状6x10mmの臨界サイズ骨欠損を大腿の遠位末端に形成した。生理食塩水の潅注後、骨小腔(osseous cavity)を慎重に乾燥させ、検討するリン酸カルシウムセメントを充填した。12匹のウサギに、Graftys(登録商標)HBS、対比としてその血液複合物を埋め込み、また同数のウサギに、Graftys(登録商標)Quickset、対比としてその血液複合物を埋め込んだ。
【0106】
2次元組織形態計測的SEM分析及び組織学的試験
SEM式組織形態計測及び光学顕微鏡下での定性的組織学的検査のため、埋め込まれたサンプル及び対照サンプルを古典的に調製した(詳細はGauthier他2005、Biomaterialsを参照)。各サンプルの一連の7mm非脱灰切片を、モバットペンタクローム染色を使用して染色した。この骨特殊染色は、無機物(黄色~緑色)、骨様組織(赤線)、及びセメント(青色)を識別することに、完全に適合している(Verron, E.; Gauthier, O.; Janvier, P.; Pilet, P.; Lesoeur, J.; Bujoli, B.; Guicheux, J.; Bouler, J. M. In vivo bone augmentation in an osteoporotic environment using bisphosphonate-loaded calcium deficient apatite Biomaterials 2010、31、7776)。より具体的な組織成分を分析するため、ヘマトキシリン-エオシン染色を実施した。偏光顕微鏡(Axioplan2(登録商標)、Zeiss、Germany)を用いてサンプルを観察した。
【0107】
統計分析
ウサギを用いたSEM式組織形態計測試験
8つの実験群(N=6)それぞれの平均値を算出し、異なる群間及び異なる治療群間における統計的差異を、分散分析法(ANOVA)によって評価した。有意水準(threshold for significance)を95%(p=0.05)に設定した。
【0108】
(実施例1)
組成物の固化時間
本発明に記載の組成物の固化時間を、血液を含まない先行技術の組成物と比較し、また血液及びα-TCP粒子の平均粒径が10μm未満であるCPCを含む組成物と比較した。
【0109】
血液を、2種の市販の注入可能なアパタイト系セメント(Graftys(登録商標)Quickset[QSと略す]及びGraftys(登録商標)HBS[HBSと略す])の組成物に導入したところ、固化時間に著しい差が認められた(表1参照)。この目的のため、他の全てのパラメータを固定しつつ、液相(それぞれ、0.5質量%Na2HPO4及び5質量%Na2HPO4)を、クエン酸ナトリウム(3.2質量%)を添加することによって安定化したヒツジ血液で完全に置き換えた。
【0110】
最初に、材料の貫入抵抗性の変化を評価することによって、初期固化時間(ti)及び最終固化時間(tf)の測定が可能なGillmore針標準試験法を使用して、体温でのCPC固化反応に対する血液の影響の可能性について検討した。迅速固化配合物(QS)に血液を加えた場合、初期固化時間に4分間の延長が認められたが、HBSの液相として血液を使用した場合、得られた複合物の弾力性のため、「目に見える圧痕」が認められなかったことから、Gillmore方法によるti値が測定できなかった。
【0111】
【0112】
Despas, C.; Schnitzler, V.; Janvier, P.; Fayon, F.; Massiot, D.; Bouler, J. M.; Bujoli, B.; Walcarius, A. High-frequency impedance measurement as a relevant tool for monitoring the apatitic cement setting reaction Acta Biomater 2014、10、940の論文によって、アパタイト系CPCの硬化過程の原動力である、α-リン酸三カルシウム(α-TCP)からカルシウム欠損ヒドロキシアパタイト(CDA)への変換を、in situでモニタリングするための高周波インピーダンス測定に基づいた関連する一般的な方法の開発が報告されている。
【0113】
複素インピーダンスデータから、誘電率(ε'、双極子の変化に関連)及び誘電損失(ε''、自由電荷の移動に関連)の算出が可能である。場合によっては、特にセメントペーストに添加物が存在する場合、著しい限界を示すGillmoreの従来の標準法とは対照的に、この両パラメータの変化は、固化過程の間に生じる化学反応に強く相関することが判明した。
【0114】
したがって、血液と組み合わせたそれの類似物と比較したQS及びHBSのインピーダンス応答を記録し、固化反応の間のε'及びε''の実験値の進展を
図1に示す。予め示した通り、ε'及びε''曲線の急激な変化(↑ε'及び↓ε''値)は、粒子表面でのα-TCPからCDAへの転化に割り当てることができる。
【0115】
迅速固化配合物の場合(QSとの比較データ)、液相を血液で代替することによって、血液含有組成物におけるCDAの析出開始が、より長時間を要する方向へとわずかに移行するものの、反応時間に対する誘電率及び誘電損失の進展に有意な変化は生じなかった。これは、液相としての血液の存在下における固化反応が劇的に遅延する(約13時間)HBSの場合(本発明に記載の組成物に相当)とは著しく対照的である。
【0116】
QSに関する結果は
図1A、HBSに関する結果は
図1Bに示す。
【0117】
(実施例2)
組成物の注入性能
テクスチャー分析は、リン酸カルシウムペーストの注入性能を精査し、圧力下でのその挙動を評価することに関する(Ginebra, M. P.; Rilliard, A.; Fernandez, E.; Elvira, C.; San Roman, J.; Planell, J. A. Mechanical and rheological improvement of a calcium phosphate cement by the addition of a polymeric drug J Biomed Mater Res 2001、57、113)。
【0118】
血液を含まない両セメントにおいて、押出力は速やかにプラトーに達し、続いて非常に急激な増加を示す(
図2)。これは、硬化過程の開始に相当する。
【0119】
液相を血液で代替することによって、インピーダンス測定によって証明された固化特性の変化と完全に一致し(実施例1に記載)、材料、特に本発明に記載のHBSに基づく組成物の注入がより容易になった。
【0120】
全ての場合において、シリンジの全内容物が注入できることから、該セメントペーストの押し出しに必要な力の増加は相分離によるものではなかった。
【0121】
(実施例3)
組成物の機械的特性
CPC組成物中に血液を導入することによって、QS配合物の機械的特性に有意な変化は生じなかった。実際に、これらの比較組成物における、72時間の固化時間後の圧縮強度は、脆性挙動(fragile behaviour)において血液の存在下(21±2MPa)又は非存在下(25±5MPa)と同等の範囲であった(
図3右参照)。この所見は、複素インピーダンス応答における血液の極めて限定的な影響と一致する。
【0122】
これに反して、本発明に記載の組成物(HBS配合物)において、血液と組み合わせた場合、72時間の固化時間後の圧縮強度が大幅に低下したことから(血液を含まない比較組成物の14±2MPaに対し、本発明の組成物では6.4±0.1MPa)、劇的な変化が認められた。
【0123】
興味深いことに、堅さはHBSを下回り、これによって、混合後72~336時間における該サンプル(
図3左参照)のより塑性の高い挙動の説明が付く。
【0124】
(実施例4)
組成物の吸収特性
定量的SEM組織形態計測
埋め込み(上記に説明した通り)4週間後で、全ての群は同等の骨新生率を示し、本発明に記載の組成物(HBS/血液)のみが、他の群と比較して有意に高い材料の分解率を示した(p<0.0001)(
図4A)。12週間後、本発明に記載の組成物(HBS/血液組成物)は、他の群と比較した場合、有意に高い材料の分解率に達し(p<0.0001)、より高い骨新生率をもたらした(p<0.01)(
図4B)。
【0125】
(実施例5)
CPC、CPC血液複合物、及び自家移植片によるヒツジ脊椎固定におけるin vivo反応比較試験
埋め込み3ヵ月後の体間ケージ内での脊椎固定を促進することにおける、本発明に記載の組成物の性能を評価するため(血液を含まない組成物と比較)、ヒツジを用いたin vivo試験を実施した。自家移植片は陽性対照として使用された。
【0126】
組成物
- 比較のCPCは、78質量%α-TCP、10質量%無水リン酸二カルシウム(DCPA)(CaHPO4)、10質量%CDA、2質量%HPMCの混合物である。無機粉末粒子の平均粒径は6μmであった。液相は、0.5質量%Na2HPO4水溶液から成る(液体/粉末の比率=0.45mL.g-1)。
- 本発明の組成物は、78質量%α-リン酸三カルシウム(α-TCP)(Ca3(PO4)2)、5質量%リン酸二カルシウム二水和物(DCPD)(CaHPO4、2H2O)、5質量%リン酸一カルシウム一水和物(MCPM)(Ca(H2PO4)2、H2O)、10質量%CDA(Ca10-x[ ]x(HPO4)y(PO4)6-y(OH)2-z[ ]z)、2質量%ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(E4 M(登録商標)、Colorcon社-Dow Chemical社、Bougival、France)の混合物である。α-TCPの平均粒径は12μmであった。液相は、クエン酸ナトリウム(3.2質量%)を添加することによって安定化した新鮮なヒツジ血液から成る(液体/粉末の比率=0.5mL.g-1)。
- 自家皮質海綿骨移植片は、遠位大腿骨端部から採取された。
【0127】
体間ケージ
L2/L3及びL4/L5のヒツジ椎間レベルの間の椎間板切除後、ポリエーテルエーテルケトンケージ、LDR社-ROI-C(登録商標)(14x14x6mm)を留置した。自家移植片を、骨鉗子で押しつぶし、次に、嵌入する前の固定ケージに詰め込んだ。本発明に記載の組成物及び比較組成物を、嵌入後のケージ内に注入した。埋め込み3ヵ月後、頚静脈内に留置したカテーテルを介してペントバルビタール(Dolethal(登録商標)、Vetoquinol S.A.、France)20mLを静脈内に注入することによって、動物を安楽死させた。次に、L1~L5の腰部位を、周囲の軟組織から切離後に採取し、X線で画像化し、直ちに10%中性ホルマリン溶液中に静置した。L2/L3及びL4/L5椎間の検体を、pH7.2の中性ホルマリン溶液中、4℃で24時間固定し、次に、70%~100%まで含有量を増加させた各エタノール槽内で3日間脱水させた。次に、メチルメタクリレートを使用して樹脂含浸を行った。
【0128】
結果
SEM観察(
図5)及び3D-μCT定量分析(
図6)によって以下が示される:
- 本発明の組成物と比較組成物との比較:手術3ヵ月後の高く上昇した吸収率及び結果的に増加した骨新生、並びに
- 本発明の組成物と自家移植片との比較:手術3ヵ月後の相対的固定率。
【0129】
埋め込み12週間後、血液複合物セメントは、対照と比較して、より高い吸収率(+22%)を示した。新たに形成された骨の質は、試験した両CPCにおいて極めて同等であり、優れた骨/インプラント骨癒合界面(osteocoalescent interface)を有する。
【0130】
(実施例6)
本発明に記載の組成物の固化時間及び圧縮強度
本発明に記載の組成物の固化時間を、先行技術の血液を含まない組成物及び血液を含む組成物と比較した。
【0131】
本試験に使用したアパタイト系リン酸カルシウムセメント(CPC)は、Graftys SA(Aix-en-Provence、France)から入手した。
【0132】
Graftys(登録商標)GQSb10hは、78質量%α-TCP(平均相当の粒径:9.1μm)、10質量%無水リン酸二カルシウム(DCPA)(CaHPO4)、10質量%CDA、及び2質量%HPMCの混合物である。
【0133】
液相(液体/粉末の比率=0.45mL.g-1)は:
- 0.5質量%Na2HPO4水溶液、
- 又は5質量%Na2HPO4水溶液、
- 又は新たに採取したヒツジ血液
のいずれかから成る。
【0134】
Graftys(登録商標)GQSb10hセメントペーストサンプルは、粉末製剤8gを、それぞれの液相と2分間混合し、得られるペーストの均質性を分析前に確保した。
【0135】
測定された特性は次のものである:
【0136】
【0137】
実施例1、2、及び3で認められた及びHBS組成物で認められた血液添加効果は、ここでは粉末の平均粒径が9μmを上回るQS組成物において認められる。
【0138】
(実施例7)
(比較):本発明に記載の組成物(液体成分として血液を含む)の特性と液体成分として血漿を含む組成物の特性との比較(Graftys(登録商標)HBS対Graftys(登録商標)HBS+血漿)
Graftys(登録商標)HBSは、78質量%α-リン酸三カルシウム(α-TCP)(Ca3(PO4)2)(平均相当の粒径:12μm)、5質量%リン酸二カルシウム二水和物(DCPD)(CaHPO4、2H2O)、5質量%リン酸一カルシウム一水和物(MCPM)(Ca(H2PO4)2、H2O)、10質量%CDA(Ca10-x[ ]x(HPO4)y(PO4)6-y(OH)2-z[ ]z)、2質量%ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(E4 M(登録商標)、Colorcon社-Dow Chemical社、Bougival、France)の混合物である。
【0139】
液相(液体/粉末の比率=0.5mL.g-1)は:
- 5質量%Na2HPO4水溶液、
- 又は新たに採取したヒツジ血液から得られた血漿
のいずれかから成る。
【0140】
血漿は、室温(RT)において1,800gで15分間の血液遠心分離後に得られた。
【0141】
Graftys(登録商標)HBSセメントペーストサンプルは、粉末製剤8gを、それぞれの液相と2分間混合することによって調製し、得られるペーストの均質性を分析前に確保した。
【0142】
測定された特性は以下の表に示される通りである:
【0143】
【0144】
固化時間及び圧縮強度の両観点から、HBSの液体成分を血漿で置き換えることによって、骨移植術に適したセメントは得られない。
【0145】
(実施例8)
治療薬及び任意で造影剤を含む組成物
Graftys(登録商標)MIAは、78質量%α-リン酸三カルシウム(α-TCP)(Ca3(PO4)2)(平均相当の粒径:12μm)、5質量%リン酸二カルシウム二水和物(DCPD)(CaHPO4、2H2O)、5質量%リン酸一カルシウム一水和物(MCPM)(Ca(H2PO4)2、H2O)、アレンドロン酸塩を部分的に担持させた10質量%CDA(Ca10-x[ ]x(HPO4)y(PO4)6-y(OH)2-z[ ]z)、2質量%ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(E4 M(登録商標)、Colorcon社-Dow Chemical社、Bougival、France)の混合物である。固相は、セメントの1g毎にアレンドロン酸塩0.56mgを含有する。
【0146】
液相(液体/粉末の比率=0.5mL.g-1)は:
- 5質量%Na2HPO4水溶液、
- 又は新たに採取したヒツジ血液、
- 又は新たに採取したヒツジ血液+Xenetix(ヨウ素168mg/血液mL)
から成る。
【0147】
Graftys(登録商標)HBSセメントペーストサンプルは、粉末製剤8gを、それぞれの液相と2分間混合することによって調製し、得られるペーストの均質性を分析前に確保した。
【0148】
測定された特性は以下の表に示される通りである:
【0149】
【0150】
Xenetix(登録商標)を血液に添加することで、セメントの固化時間が延長し、圧縮強度が低下する。しかし、それらの2つの取扱い特性は、依然として骨移植術に適合すると思われる。