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特許7145374インビボでの切断可能連結部分によって抗マトリプターゼ抗体にコンジュゲートされた化学療法剤を用いる腫瘍細胞の標的化
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】インビボでの切断可能連結部分によって抗マトリプターゼ抗体にコンジュゲートされた化学療法剤を用いる腫瘍細胞の標的化
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/68 20170101AFI20220926BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220926BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20220926BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20220926BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20220926BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220926BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220926BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
A61K47/68
A61K39/395 P
A61K31/40
A61K47/60
A61K47/65
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018549206
(86)(22)【出願日】2017-03-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-04
(86)【国際出願番号】 US2017022993
(87)【国際公開番号】W WO2017161288
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-03-17
(31)【優先権主張番号】15/075,008
(32)【優先日】2016-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517349186
【氏名又は名称】ラトガース ザ ステイト ユニバーシティー オブ ニュージャージー
(73)【特許権者】
【識別番号】518325862
【氏名又は名称】ジョージタウン ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Georgetown University
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】リン,シアン-ヨ
(72)【発明者】
【氏名】ベルティノ,ジョゼフ,アール.
(72)【発明者】
【氏名】リン,チェン-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】セーケイ,ゾルターン
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/075477(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0015728(US,A1)
【文献】特表2013-543003(JP,A)
【文献】国際公開第2015/188934(WO,A1)
【文献】特開2015-209426(JP,A)
【文献】特表2009-521913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/50
A61K 39/395
A61K 31/00
A61K 45/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍細胞上に発現した活性化マトリプターゼに選択的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含む免疫複合体であって、
前記抗体またはその抗原結合断片が、リンカーを介して細胞毒と連結しており、
前記細胞毒が、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、およびアウリスタチンPEからなる群から選択され、
前記抗マトリプターゼ抗体が、M69もしくはその抗原結合断片を含む、または、そのキメラ抗体もしくはヒト化抗体であり、
前記リンカーが第1の連結成分および第2の連結成分を含み、前記第1の連結成分がPEGを含み、前記第2の連結成分がPEGを含み、
前記第1の連結成分が前記第2の連結成分にトリアゾール部分を介して結合されており、前記細胞毒が前記第2の連結成分に結合されている
ことを特徴とする免疫複合体。
【請求項2】
請求項1に記載の免疫複合体において、前記リンカーが切断可能連結部分をさらに含むことを特徴とする免疫複合体。
【請求項3】
請求項2に記載の免疫複合体において、前記切断可能連結部分が、カテプシンBによって切断可能なVal-Cit連結部分またはPhe-Lys連結部分を含むことを特徴とする免疫複合体。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の免疫複合体において、前記リンカーが前記抗マトリプターゼ抗体上のリジン残基に共有結合されることを特徴とする免疫複合体。
【請求項5】
請求項に記載の免疫複合体において、前記第1の連結成分が前記抗マトリプターゼ抗体上のリジン残基に共有結合されることを特徴とする免疫複合体。
【請求項6】
請求項に記載の免疫複合体において、前記第2の連結成分が切断可能連結部分を含むことを特徴とする免疫複合体。
【請求項7】
請求項に記載の免疫複合体において、前記切断可能連結部分が、カテプシンBによって切断可能なVal-Cit連結部分またはPhe-Lys連結部分を含むことを特徴とする免疫複合体。
【請求項8】
マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療するための組成物であって、請求項1乃至の何れか一項に記載の免疫複合体を含む組成物。
【請求項9】
請求項に記載の組成物において、前記悪性腫瘍が血液学的悪性腫瘍を含むことを特徴とする組成物。
【請求項10】
請求項に記載の組成物において、前記血液学的悪性腫瘍が、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性単球性白血病(AMOL)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫(BL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、および多発性骨髄腫(MM)からなる群から選択されることを特徴とする組成物。
【請求項11】
請求項に記載の組成物において、前記悪性腫瘍が上皮悪性腫瘍を含むことを特徴とする組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の組成物において、前記上皮悪性腫瘍が、前立腺腫瘍、乳腺腫瘍、脳腫瘍、腎腫瘍、肺腫瘍、結腸腫瘍、膀胱腫瘍、皮膚腫瘍、甲状腺腫瘍、卵巣腫瘍、および中皮腫からなる群から選択されることを特徴とする組成物。
【請求項13】
請求項乃至12の何れか一項に記載の組成物と、マトリプターゼを活性化する免疫調節剤とを含む組み合わせ医薬。
【請求項14】
請求項13に記載の組み合わせ医薬において、前記免疫調節剤がサリドマイドまたはサリドマイド類似体を含むことを特徴とする組み合わせ医薬。
【請求項15】
細胞毒にリンカーを介して共有結合される、抗マトリプターゼ抗体またはその抗原結合部分を含む免疫複合体であって、前記細胞毒が、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、およびアウリスタチンPEからなる群から選択され、前記リンカーが、
前記抗マトリプターゼ抗体またはその抗原結合部分の上に位置するリジン残基を介して、前記抗マトリプターゼ抗体またはその抗原結合部分に結合された第1の連結成分;および
切断可能連結部分を含む第2の連結成分であって、トリアゾール部分を介して前記第1の連結成分に、かつ前記切断可能連結部分を介して前記細胞毒に結合されている、第2の連結成分を含み、
前記切断可能連結部分は、カテプシンBによって切断可能なVal-Cit連結部分またはPhe-Lys連結部分を含み、
前記第1の連結成分は、前記抗マトリプターゼ抗体またはその抗原結合部分の上の前記リジン残基と前記トリアゾール部分との間の前記アミド結合間に約3~約7の間のポリ(エチレングリコール)(PEG)単位を含み、
前記第2の連結成分は、前記トリアゾール部分と前記切断可能連結部分との間に約3~約7の間のポリ(エチレングリコール)(PEG)単位を含み、
前記抗マトリプターゼ抗体またはその抗原結合部分は、M69またはその抗原結合部分を含む
ことを特徴とする免疫複合体。
【請求項16】
請求項15に記載の免疫複合体において、前記細胞毒がモノメチルアウリスタチンE(MMAE)を含むことを特徴とする免疫複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2010年1月7日に出願された米国仮特許出願第61/293,030号明細書、および2009年11月18日に出願された米国仮特許出願第61/262,373号明細書の35U.S.C.§119(e)下での優先権を順に主張する、2010年11月18日に出願された国際出願PCT/US10/57235号明細書の国内段階移行である、2012年5月18日に出願された米国特許出願第13/510,801号明細書の35U.S.C§120下での一部継続出願である、米国特許出願第15/075,008号明細書に対する優先権を主張する。前述の参考文献のすべてが、ここでそれら全体が参照により援用される。
【0002】
本発明は、抗がん剤およびモノクローナル抗体を含む新しい免疫複合体、ならびに、限定はされないが血液学的悪性腫瘍および上皮がんを含む、マトリプターゼを発現するがん細胞、例えば多発性骨髄腫および乳がんの細胞の増殖を死滅させるまたは阻害するような免疫複合体の使用に関する。したがって、本発明はまた、マトリプターゼを発現するがんを治療する新しい方法に関する。
【背景技術】
【0003】
マトリプターゼは、乳腺および前立腺腫瘍細胞を含む上皮由来の細胞によって発現されるII型膜貫通セリンプロテアーゼである。マトリプターゼは、保存された細胞外ドメインに加えて、N末端膜貫通ドメインおよび複数の細胞外ドメインによって特徴づけられる(Lin C.Y.,et al.,J.Biol.Chem.,1999,274(26):18237-18242.)。マトリプターゼは、二本鎖活性酵素になるため、タンパク質分解切断により活性化される必要がある酵素原である。正常な生理学的条件下で、プロテアーゼ活性を密に調節する、マトリプターゼに結合するHGFアクチベーターインヒビターI(HAI-1)と称される内因性阻害剤が過剰量で存在する(Lin,C.Y.,et al.,J.Biol,Chem.,1999,274:18231-18236;Oberst,M.D.,et al.,J.Biol.Chem.,2003,278:26773-26779.)。HAI-1はまた、阻害機能を発揮する以外に、マトリプターゼの活性化、適切な発現および細胞内輸送における重要な役割を担う(Oberst,M.D.,et al.,J.Biol.Chem.,2003,278:26773-26779;Oberst,M.D.,et al.,Am.J.Physiol.Cell Physiol.,2005,289:C462-C470.)。
【0004】
マトリプターゼは、肝細胞増殖因子(HGF)およびウロキナーゼプラスミノゲンアクチベーター(uPA)およびプロテアーゼ活性化受容体をインビトロでタンパク分解性に活性化することが知られている(Lee,S.L.,et al.,J.Biol.Chem.,2000,275:36720-36725;Suzuki,M.,et al.,J.Biol.Chem.,2004,279:14899-14908.)。HGFおよびuPA双方は、それらの役割において細胞浸潤および転移ならびに細胞運動性に関与している(Trusolino,L.and Comoglio,P.M.,Nat.Rev.Cancer,2002,2:289-300;Sidenius,N.and Blasi,F.,Cancer Metastasis Rev.,2003,22:205-222.)。HGFにおける同族受容体は、チロシンキナーゼ受容体Metである。HGFの結合時、Metは、複数のシグナル伝達経路、例えば、Ras-MAPK、PI3K、SrcおよびStat3を誘導し得、最終的に浸潤性増殖をもたらす。マトリプターゼの過剰発現と組み合わされる高レベルのMetは、乳がんを有する患者における予後不良に関連する。
【0005】
乳がん、前立腺がんおよび卵巣がんを含む幾つかの固形上皮由来腫瘍におけるマトリプターゼレベルの試験が、過去数年にわたり実施されている(レビューについては、Uhland,K.,Cell.Mol.Life Sci.,2007,63(24):2968-78を参照のこと)。乳がんを有する患者からの組織マイクロアレイによると、Met、マトリプターゼおよびHAI-1の高レベル発現が患者の予後不良に関連することが示された(Kang,J.Y.,et al.,Cancer Res.,2003,63:1101-1105.)。前立腺腫瘍では、HAI-1の発現減少を伴うマトリプターゼのレベル上昇は、腫瘍グレードの上昇に関連した(Saleem,M.,et al.,Cancer Epidemiol.Biomarkers Prev.,2006:15,217-227.)。卵巣がんを有する患者でのステージIIIの82%およびステージIII/VIの55%においてもマトリプターゼの過剰発現が見出された。
【0006】
腫瘍の開始、進行および転移におけるマトリプターゼの有意な役割を考慮すると、このプロテアーゼに対する幾つかの阻害剤が、それらの抗がん活性について動物モデルにおいて検討されている。マトリプターゼ阻害剤エコチンによる腫瘍増殖および転移形成の減少は、PC-3前立腺がん異種移植モデルにおいて示されている(Takeuchi,N.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1999,96,11054-11061.)。別のマトリプターゼ阻害剤CVS-3983もまた、アンドロゲン非依存性前立腺がんのマウスモデルにおいて腫瘍サイズを減少させた(Galkin,A.V.,et al.,Prostate,2004,61,228-235)。
【0007】
モノメチルアウリスタチンE(「MMAE」)は、化学療法に基づく治療における有望な用途を示しているFDA承認合成抗新生物剤である。MMAEは、強力な抗有糸分裂化合物であるが、単独で投与されるとき、高レベルの細胞傷害性を示し、スタンドアロン化合物としてのその臨床的価値を制限している。モノメチルアウリスタチンF(「MMAF」)は、デスメチル-アウリスタチンFとしても知られ、MMAEと同様に抗有糸分裂剤である実験合成抗新生物薬である。MMAEと同様、MMAFは、単独で投与されるとき、高レベルの細胞傷害性を示す。したがって、MMAFおよびMMAE結合免疫複合体を利用する、治療的に有効な抗体に基づく治療に対しては緊急的需要がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、前述の需要を満たすため、血液がん、例えば、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性単球性白血病(AMOL))、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫(BL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、および多発性骨髄腫(MM)などを治療するための新しい治療薬、ならびに様々な上皮がん、例えば、前立腺、乳房、脳、腎臓、肺、結腸、膀胱、皮膚、甲状腺、および卵巣腫瘍、および中皮腫などを治療するための新しい治療薬を提供する。
【0009】
II型膜結合セリンプロテアーゼのマトリプターゼは、多発性骨髄腫(MM)や他の血液および上皮がん細胞の細胞株中で発現される。本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を選択的に標的化するため、細胞毒、例えばアウリスタチンMMAEおよびMMAFにコンジュゲートされた抗マトリプターゼ抗体を提供する。マトリプターゼを発現するがん細胞を標的化するための強力な抗がん剤とコンジュゲートされた抗体は、様々な利点を有する。例えば、化学療法剤のマトリプターゼを過剰発現する腫瘍細胞への選択的送達の結果、正常組織に対する毒性は低下する。さらに、マトリプターゼのmRNAレベルが腎臓、肺、結腸、膀胱、膵臓、前立腺、皮膚、乳房、甲状腺および卵巣を含む他の臓器における腫瘍内に見出されていることから、これらの免疫複合体はこれらのがんを治療するのに有用である。
【0010】
一実施形態では、本発明は、抗マトリプターゼ抗体および細胞毒の免疫複合体を提供する。一部の実施形態では、細胞毒は、ドキソルビシン(DOX)、アウリスタチン、例えば、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、カリケアマイシン、およびリシンから選択される。一部の実施形態では、細胞毒は、MMAEである。一部の実施形態では、細胞毒は、MMAFである。一部の実施形態では、細胞毒は、抗マトリプターゼ抗体に共有結合される。一部の実施形態では、抗マトリプターゼ抗体は、M69である。したがって、一部の実施形態では、免疫複合体は、M69に共有結合されたMMAEである。他の実施形態では、免疫複合体は、M69に共有結合されたMMAFである。
【0011】
一実施形態では、本発明はまた、免疫複合体で用いるためのリンカーを提供する。一部の実施形態では、リンカーは、切断可能連結部分を含む。一部の実施形態では、切断可能連結部分は、カプテシン(Capthesin)Bによって切断可能なVal-Cit部分またはPhy-Lys部分を含む。一部の実施形態では、リンカーは、抗体の表面に直接的にコンジュゲートされる。一部の実施形態では、リンカーは、リジン側鎖に共有結合される。一部の実施形態では、リンカーは、第1の連結成分および第2の連結成分を含む。一部の実施形態では、第1の連結成分は、トリアゾール部分を介して第2の連結成分に結合される。一部の実施形態では、第1の連結成分は、抗体の表面に結合される。一部の実施形態では、第2の連結成分は、切断可能連結部分を含む。一部の実施形態では、第2の連結成分は、治療薬を含む。一部の実施形態では、リンカーは、PEGに基づく。一部の実施形態では、第1の連結成分は、PEGに基づく。一部の実施形態では、第2の連結成分は、PEGに基づく。一部の実施形態では、抗体は、抗マトリプターゼ抗体を含む。一部の実施形態では、抗マトリプターゼ抗体は、M69を含む。一部の実施形態では、治療薬は、細胞毒を含む。一部の実施形態では、細胞毒は、ドキソルビシン(DOX)、アウリスタチン、例えば、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、カリケアマイシン、およびリシンから選択される。一部の実施形態では、細胞毒は、MMAEである。一部の実施形態では、細胞毒は、MMAFである。
【0012】
さらに、本発明によると、免疫調節剤のサリドマイドが骨髄腫細胞内でのマトリプターゼの活性化を顕著に誘導することが発見されている。したがって、本発明は、MMおよび他のがんを治療するための、限定はされないがサリドマイドおよびその類似体を含む免疫調節剤の投与と組み合わせた活性マトリプターゼを標的化する免疫複合体の投与を提供する。サリドマイド類似体は、当該技術分野で公知であり、例えば、レナリドミド、CC-3052、CC-4047、CC-5103、IMiD3、EM12、およびENMD0995を含む。
【0013】
したがって、一態様では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、治療有効量の抗マトリプターゼ抗体を含む組成物をかかる治療を必要とする対象に投与するステップを含む方法を提供する。一部の実施形態では、抗マトリプターゼ抗体はM69である。
【0014】
別の態様では、本発明は、治療有効量の抗マトリプターゼ抗体を含有する組成物を、治療有効量のマトリプターゼを活性化する免疫調節剤と組み合わせて、かかる治療を必要とする対象に投与することにより、血液学的悪性腫瘍を治療する方法を提供する。一部の実施形態では、抗マトリプターゼ抗体はM69である。一部の実施形態では、免疫調節剤は、サリドマイドまたはその類似体である。
【0015】
別の態様では、本発明は、治療有効量の抗マトリプターゼ抗体と細胞毒との間の免疫複合体を含有する組成物を、かかる治療を必要とする対象に投与することにより、悪性細胞がマトリプターゼを発現する悪性腫瘍を治療する方法を提供する。一部の実施形態では、細胞毒は、ドキソルビシン(DOX)、アウリスタチン、例えば、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、およびアウリスタチンPE、カリケアマイシン、およびリシンから選択される。一部の実施形態では、細胞毒は、MMAEである。一部の実施形態では、細胞毒は、MMAFである。一部の実施形態では、細胞毒は、抗マトリプターゼ抗体に共有結合される。一部の実施形態では、抗マトリプターゼ抗体はM69である。したがって、一部の実施形態では、免疫複合体は、M69に共有結合されたMMAEである。他の実施形態では、免疫複合体は、M69に共有結合されたMMAFである。
【0016】
別の態様では、本発明は、治療有効量の抗マトリプターゼ抗体と細胞毒との間の免疫複合体を含有する組成物を、治療有効量のマトリプターゼを活性化する免疫調節剤と組み合わせて、かかる治療を必要とする対象に投与することにより、悪性細胞がマトリプターゼを発現する悪性腫瘍を治療する方法を提供する。一部の実施形態では、細胞毒は、ドキソルビシン(DOX)、アウリスタチン、例えば、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、およびアウリスタチンPE、カリケアマイシン、およびリシンから選択される。一部の実施形態では、細胞毒は、MMAEである。一部の実施形態では、細胞毒は、MMAFである。一部の実施形態では、細胞毒は、抗マトリプターゼ抗体に共有結合される。一部の実施形態では、抗マトリプターゼ抗体はM69である。したがって、一部の実施形態では、免疫複合体は、M69に共有結合されたMMAEである。他の実施形態では、免疫複合体は、M69に共有結合されたMMAFである。一部の実施形態では、免疫調節剤は、サリドマイドまたはその類似体である。したがって、一部の実施形態では、該方法は、治療有効量のM69-MMAE免疫複合体のサリドマイドまたはサリドマイド類似体と組み合わせた投与を含む。他の実施形態では、該方法は、治療有効量のM69-MMAF免疫複合体のサリドマイドまたはサリドマイド類似体と組み合わせた投与を含む。他の実施形態では、該方法は、治療有効量のM69-アウリスタチンPE免疫複合体のサリドマイドまたはサリドマイド類似体と組み合わせた投与を含む。
【0017】
別の態様では、本発明は、抗マトリプターゼ抗体および細胞毒を含む、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体を提供する。
【0018】
別の態様では、本発明は、上記の実施形態の何れかに従う、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体を含有する組成物を提供する。
【0019】
別の態様では、本発明は、哺乳動物からの造血細胞を含有する試験試料を抗マトリプターゼ抗体と接触させ、悪性腫瘍を示す、抗体とマトリプターゼとの間での複合体の形成を検出することにより、血液学的悪性腫瘍を診断する方法を提供する。
【0020】
別の態様では、本発明は、造血細胞を抗マトリプターゼ抗体または上記の実施形態の何れかに従う免疫複合体で治療することにより、マトリプターゼを発現する造血細胞の増殖を阻害する方法を提供する。
【0021】
別の態様では、本発明は、上記の実施形態の何れかに従う免疫複合体を含有する哺乳動物組織または細胞におけるマトリプターゼの発現を検出するためのアッセイキットを提供する。
【0022】
別の態様では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現する悪性腫瘍を治療するためのキットにおいて、上記の実施形態の何れかに従う免疫複合体を含むキットを提供する。
【0023】
別の態様では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現する悪性腫瘍を治療するための、上記の実施形態の何れかに従う免疫複合体の使用を提供する。
【0024】
別の態様では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現する悪性腫瘍を治療するための薬剤の製造のための、上記の実施形態の何れかに従う免疫複合体の使用を提供する。
【0025】
本発明のこれらや他の態様は、以下の図面および詳細な説明を参照することにより、より十分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、ヒトリンパ腫および骨髄腫細胞におけるマトリプターゼおよびHAI-1のウエスタン分析を表す。パネル(A)における細胞株は、Hs445(レーン2)、HuT78(レーン3)、Farage(レーン4)、Raji(レーン5)、Daudi(レーン6)、Namalwa(レーン7)、Ramos(レーン8)、ST486(レーン9)、SU-DHL-4(レーン10)、SU-DHL-6(レーン11)、OCI-LY-3(レーン12)、RPMI-8226(レーン13)を含む。パネル(B)における細胞株は、HL-60(レーン2)、Reh(レーン3)、Jurkat(レーン4)、SUP-T1(レーン5)、CCRF-CEM(レーン6)、CCRF-HSB-2(レーン7)、MOLT-3(レーン8)、MOLT-4(レーン9)、CCRF-SB(レーン10)、RS4-11(レーン11)、THP-1(レーン12)、U937(レーン13)を含む。パネル(C)は、指定の3つのMM細胞株におけるマトリプターゼのレベルの評価を示す。GAPDHは、内部対照としての役割を果たした。パネル(D)は、指定通りにマトリプターゼmAb M24、HAI-1mAb M19、および活性化マトリプターゼM69で各々染色されたパラフィン包埋多発性骨髄腫の組織切片を示す。
図2図2は、MM細胞に対するM24-DOXの細胞傷害性効果を図示する。24ウェルプレート内のMM細胞(1×10/ウェル)が、M24-DOXの存在下または不在下で、様々な濃度で48時間治療された。細胞数がVi-Cellカウンター(Beckman)によって計数された。エラーバーは、平均値の標準誤差を表す。統計学的比較:、対照よりも有意に低い、p<0.036。プロット値は、3つの独立実験からの重複値を表す。
図3A-B】図3A-Bは、M24-DOXの細胞内への内部移行を表す。MM.1S細胞のM24-DOXへの様々な時間での曝露後、細胞は固定され、染色された。免疫複合体は、蛍光顕微鏡により可視化された。DAPIは、核染色に用いられた。
図4A-C】図4A-Cは、正常な骨髄間葉細胞に対するM24-DOXの低減された細胞傷害性を図示する。骨髄由来間葉系間質細胞(5×10/ウェル、24ウェルプレート)が、M24-DOXまたは遊離DOXで様々な濃度で4日間治療された。細胞数がVi-Cellカウンターによって測定された。(A)は、M24-DOXが間質細胞に対する細胞傷害性を欠いていることを示し;(B)は、心筋細胞に対する低減された細胞傷害性を示し;かつ(C)は、M24-DOXとDOXおよび対照との比較を示す。
図5図5は、サリドマイドによって誘導されるMM細胞内でのマトリプターゼの活性化を図示する。MM細胞(MM.1S)は、24時間適応の様々な濃度のサリドマイドで治療され、その後、ウエスタン分析により、酵素の活性型に特異的なモノクローナル抗体(M69)を用いてマトリプターゼの活性化が検出された。プロテアーゼの潜在型についても、不活性型酵素に対するmAb(M24)を用いて検出された。GAPDHは、対照としての役割を果たした。
図6A-B】図6A-Bは、サリドマイドがMM細胞をM69-DOXに対して感作させるが、M24-DOXに対して感作させない。(A)MM細胞のM69-DOX単独による治療とM69-DOX/サリドマイド併用療法との比較;および(B)MM細胞のM24-DOX単独による治療とM24-DOX/サリドマイド併用療法との比較。
図7図7は、サリドマイドによって誘導されるMM細胞内でのマトリプターゼの活性化を図示する。MM細胞(MM.1S)は、24時間適応の様々な濃度のサリドマイドで治療され、その後、ウエスタン分析により、酵素の活性型に特異的なモノクローナル抗体(M69)を用いてマトリプターゼの活性化が検出された。プロテアーゼの潜在型についても、不活性型酵素に対するmAb(M24)を用いて検出された。GAPDHは、対照としての役割を果たした。
図8図8は、10mg/kgおよび20mg/kg用量でのM69-DOXによる治療を、2mg/kg用量でのDOXおよび対照による治療と比較することで、活性マトリプターゼを標的化するM69-DOXコンジュゲートがインビボで乳腺腫瘍増殖を阻害したことを図示する。
図9図9は、2mg/kg用量でのDOXおよび対照による治療と比べての、10mg/kgおよび20mg/kg用量でのM69-DOXによる腫瘍重量の減少を図示する。
図10図10は、対照と比べての、20mg/kgおよび2mg/kg用量でのM69-DOXまたは2mg/kg用量でのDOXによる治療中のマウスの平均重量を図示する。
図11図11は、PEG5-DBCOを有するリジン側鎖を用いたMMAEとM69との間のコンジュゲーションを図示する。
図12図12は、図11中に示される化学ステップを適用後の免疫複合体M69-MMAEのMALDI-TOF分析を図示する。
図13図13は、マトリプターゼ-MMAEコンジュゲートが、重量減少または毒性の徴候を引き起こすことなく、TNBC MDA-MB-468の増殖をいかに阻害するかを図示する。マウスは、1000万個の腫瘍細胞が右側腹部に皮下接種された。腫瘍が触知可能であったとき(100~200mm)、マウスは2群(n=6)に無作為化され、免疫複合体が5mg(M69-MMAE)/kg(四角形、下線)で腹腔内投与された場合の矢印により示される幾つかの時点に治療された。対照マウスは、生理食塩水(菱形、上線)を受けた。
図14図14は、前立腺がん細胞および非小細胞肺(NSCL)がん細胞におけるマトリプターゼ陽性および陰性細胞に対するM69-MMAE免疫複合体のIC50を図示する。
図15A-C】図15A-Cは、トリプルネガティブ乳がん(MDA-MB-468)(A)非小細胞肺(NSCL)がん細胞(H322)(B)、および前立腺がん細胞(DU145)(C)に対するM69-MMAE免疫複合体のインビボ有効性を図示する。菱形は対照を表し、四角形を伴う線は5mg/mLでのM69-MMAEを表し、(B)においては、三角形を伴う線は1mg/mLでのM69-MMAEを表す。矢印は、免疫複合体で治療された時を示す。
図16図16は、DU145およびPC3細胞が、指定通りの様々な濃度でのM69-MMAEに、pH7.4(菱形)またはpH6.5(四角形)のHClで酸性化された培地下で72時間曝露されたことを図示する。生存度が、各々の培地を有する対照ウェル内の細胞の生存度の百分率として測定された。
図17図17は、Taxotere耐性および感受性前立腺がん細胞のPC3R(菱形)またはPC3(四角形)が、指定通りの様々な濃度でのM69-MMAEで治療されたことを図示する。生存度が、対照ウェル内の細胞の生存度の百分率として測定された。
図18図18は、実施例11~13で用いられるADC構築物の全体設計を図示する。八角形はDBCO単位を表し、矢印は銅を含まないクリックケミストリーを表す。
図19図19は、実施例11~13で用いられるアジド-PEG4-Val-Cit-PABA-MMAE構築物の化学合成を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
マトリプターゼが主に正常な上皮および種々の上皮由来のがん細胞により産生される一方で、この膜結合プロテアーゼが血液学的悪性腫瘍の様々な細胞内にも存在することが、本発明により発見されている。本発明は、マトリプターゼに対する抗体を投与することにより血液学的悪性腫瘍を治療する方法を提供する。本発明は、抗マトリプターゼ抗体および細胞毒の免疫複合体、ならびに細胞がマトリプターゼを発現する悪性腫瘍を治療するために免疫複合体を用いる方法をさらに提供する。本発明の好ましい一実施形態では、アウリスタチン、例えば、MMAE、MMAF、またはアウリスタチンPEは、骨髄腫細胞を標的化するためのマトリプターゼに対するモノクローナル抗体とコンジュゲートされる。一部の実施形態では、該抗体はM69である。したがって、一部の実施形態では、免疫複合体は、M69-アウリスタチン、例えば、M69-MMAE、M69-MMAF、および/またはM69-アウリスタチンPEである。
【0028】
したがって、第1の態様では、本発明は、治療有効量の抗マトリプターゼ抗体を含有する組成物をかかる治療を必要とする対象に投与することにより血液学的悪性腫瘍を治療する方法を提供する。
【0029】
この態様の一実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、血液学的悪性腫瘍がマトリプターゼを発現する細胞を含むがんである、方法を提供する。
【0030】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、血液学的悪性腫瘍が、白血病、リンパ腫、および骨髄腫から選択される、方法を提供する。
【0031】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、血液学的悪性腫瘍が、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性単球性白血病(AMOL)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫(BL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、および多発性骨髄腫から選択される、方法を提供する。
【0032】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、血液学的悪性腫瘍が多発性骨髄腫である、方法を提供する。
【0033】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、血液学的悪性腫瘍が悪性細胞がマトリプターゼを発現するがんである、方法を提供する。
【0034】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体がモノクローナル抗体(mAb)である、方法を提供する。一部の実施形態では、モノクローナル抗体はM69である。さらなる実施形態では、抗マトリプターゼ抗体は、細胞傷害性化合物に共有結合される。さらなる実施形態では、細胞傷害性化合物は、MMAE、MMAF、および/またはアウリスタチンPEを含むアウリスタチンである。したがって、一部の実施形態では、本発明は、MMAE、MMAF、および/またはアウリスタチンPEにコンジュゲートされた抗マトリプターゼ抗体を治療有効量で投与することにより血液学的悪性腫瘍を治療する方法を提供し、さらなる実施形態では、抗マトリプターゼ抗体はM69である。
【0035】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体から選択される、方法を提供する。
【0036】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、組成物が薬学的に許容できる担体をさらに含む、方法を提供する。
【0037】
第2の態様では、本発明は、治療有効量の抗マトリプターゼ抗体を含有する組成物を治療有効量のマトリプターゼを活性化する免疫調節剤と組み合わせてかかる治療を必要とする対象に投与することにより血液学的悪性腫瘍を治療する方法を提供する。一部の実施形態では、免疫調節剤は、サリドマイドまたはサリドマイド類似体である。
【0038】
この態様の一実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、悪性腫瘍が多発性骨髄腫である、方法を提供する。
【0039】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体が活性化マトリプターゼに特異的な抗体である、方法を提供する。
【0040】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体がmAb M69である、方法を提供する。
【0041】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体が抗原結合断片である、方法を提供する。
【0042】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体からなる群から選択される、方法を提供する。
【0043】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体がモノクローナル抗体であり、かつ免疫調節剤がサリドマイドまたはサリドマイド類似体である、方法を提供する。
【0044】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、免疫調節剤が、マトリプターゼが抗マトリプターゼ抗体を含む組成物の投与前に活性化されるのに十分な時間かけて対象に投与される、方法を提供する。
【0045】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、組成物が薬学的に許容できる担体をさらに含む、方法を提供する。
【0046】
第3の態様では、本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体と細胞毒との間の免疫複合体を含む組成物を治療有効量でかかる治療を必要とする対象に投与するステップを含む、方法を提供する。
【0047】
この態様の一実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療する方法において、血液学的悪性腫瘍がマトリプターゼを発現する細胞を含むがんである、方法を提供する。
【0048】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療する方法において、悪性腫瘍ががんである、方法を提供する。
【0049】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療する方法において、悪性腫瘍がマトリプターゼ陽性悪性B細胞リンパ腫または上皮がんである、方法を提供する。
【0050】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療する方法において、悪性腫瘍が、マントル細胞リンパ腫(MCL)、バーキットリンパ腫(BL)、およびびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBL)からなる群から選択されるマトリプターゼ陽性悪性B細胞リンパ腫である、方法を提供する。
【0051】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療する方法において、悪性腫瘍が、前立腺、乳房、脳、腎臓、肺、結腸、膀胱、および卵巣からなる群から選択される上皮がん、ならびに他の腫瘍タイプ、例えば、甲状腺腫瘍、皮膚腫瘍、および中皮腫である、方法を提供する。
【0052】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療する方法において、悪性腫瘍が、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性単球性白血病(AMOL)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、マントル細胞リンパ腫(MCL)および多発性骨髄腫からなる群から選択される、方法を提供する。
【0053】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療する方法において、悪性腫瘍が多発性骨髄腫である、方法を提供する。
【0054】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体がモノクローナル抗体(mAb)である、方法を提供する。一部の実施形態では、モノクローナル抗体はM69である。
【0055】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体が抗原結合断片である、方法を提供する。一部の実施形態では、抗原結合断片は、M69の抗原結合断片である。
【0056】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体からなる群から選択される、方法を提供する。
【0057】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療する方法において、細胞毒が、毒素、抗生物質、および放射性同位体を含む化合物から選択される、方法を提供する。
【0058】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療する方法において、細胞毒が、ドキソルビシン(DOX)、アウリスタチン、例えば、MMAE、MMAF、およびアウリスタチンPE、カリケアマイシン、およびリシンから選択される、方法を提供する。
【0059】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療する方法において、細胞毒がドキソルビシン(DOX)である、方法を提供する。
【0060】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、細胞毒がアウリスタチンである、方法を提供する。
【0061】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、細胞毒がMMAEである、方法を提供する。
【0062】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、細胞毒がMMAFである、方法を提供する。
【0063】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、細胞毒がアウリスタチンPEである、方法を提供する。
【0064】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、悪性腫瘍がドキソルビシンの治療に対して難治性のがんである、方法を提供する。
【0065】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、悪性腫瘍がアウリスタチンの治療に対して難治性のがんである、方法を提供する。
【0066】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、悪性腫瘍がMMAEの治療に対して難治性のがんである、方法を提供する。
【0067】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、悪性腫瘍がMMAFの治療に対して難治性のがんである、方法を提供する。
【0068】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、悪性腫瘍がアウリスタチンPEの治療に対して難治性のがんである、方法を提供する。
【0069】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、免疫複合体がM24-DOXまたはM69-DOXである、方法を提供する。
【0070】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、免疫複合体がM24-アウリスタチンまたはM69-アウリスタチンである、方法を提供する。
【0071】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、免疫複合体がM24-MMAEまたはM69-MMAEである、方法を提供する。
【0072】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、免疫複合体がM24-MMAFまたはM69-MMAFである、方法を提供する。
【0073】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、免疫複合体がM24-アウリスタチンPEまたはM69-アウリスタチンPEである、方法を提供する。
【0074】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、細胞毒が共有結合を介して抗マトリプターゼ抗体にカップリングされる、方法を提供する。
【0075】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、対象が哺乳動物患者である、方法を提供する。
【0076】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、対象がヒトである、方法を提供する。
【0077】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、組成物が薬学的に許容できる担体をさらに含む、方法を提供する。
【0078】
第4の態様では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、治療有効量の抗マトリプターゼ抗体と細胞毒との間の免疫複合体を含む組成物を治療有効量のマトリプターゼを活性化する免疫調節剤と組み合わせて、かかる治療を必要とする対象に投与するステップを含む、方法を提供する。
【0079】
この態様の一実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、悪性腫瘍が多発性骨髄腫である、方法を提供する。
【0080】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体が活性化マトリプターゼに特異的な抗体である、方法を提供する。
【0081】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体がモノクローナル抗体(mAb)である、方法を提供する。一部の実施形態では、モノクローナル抗体はM69である。
【0082】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体が抗原結合断片である、方法を提供する。一部の実施形態では、抗原結合断片は、M69の抗原結合断片である。
【0083】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体からなる群から選択される、方法を提供する。
【0084】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体がmAb M69であり、かつ細胞毒がドキソルビシン(DOX)である、方法を提供する。
【0085】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体がmAb M69であり、かつ細胞毒がアウリスタチンである、方法を提供する。
【0086】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体がmAb M69であり、かつ細胞毒がMMAEである、方法を提供する。
【0087】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体がmAb M69であり、かつ細胞毒がMMAFである、方法を提供する。
【0088】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、抗マトリプターゼ抗体がmAb M69であり、かつ細胞毒がアウリスタチンPEである、方法を提供する。
【0089】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、免疫調節剤がサリドマイドまたはサリドマイド類似体である、方法を提供する。
【0090】
この態様の別の実施形態では、本発明は、悪性細胞がマトリプターゼを発現するような悪性腫瘍を治療する方法において、免疫調節剤がマトリプターゼが免疫複合体を含む組成物の投与前に活性化されるような十分な時間かけて対象に投与される、方法を提供する。
【0091】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、(a)悪性腫瘍が多発性骨髄腫であり;(b)免疫複合体が抗マトリプターゼ抗体およびDOXを含み;かつ(c)免疫調節剤がサリドマイドまたはサリドマイド類似体である、方法を提供する。
【0092】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、(a)免疫複合体が抗マトリプターゼ抗体およびアウリスタチンを含み;かつ(b)免疫調節剤がサリドマイドまたはサリドマイド類似体である、方法を提供する。
【0093】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、(a)免疫複合体が抗マトリプターゼ抗体およびMMAEを含み;かつ(b)免疫調節剤がサリドマイドまたはサリドマイド類似体である、方法を提供する。
【0094】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、(a)免疫複合体が抗マトリプターゼ抗体およびMMAFを含み;かつ(b)免疫調節剤がサリドマイドまたはサリドマイド類似体である、方法を提供する。
【0095】
この態様の別の実施形態では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を治療する方法において、(a)免疫複合体が抗マトリプターゼ抗体およびアウリスタチンPEを含み;かつ(b)免疫調節剤がサリドマイドまたはサリドマイド類似体である、方法を提供する。
【0096】
第5の態様では、本発明は、抗マトリプターゼ抗体および細胞毒を含む、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体を提供する。
【0097】
この態様の一実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、抗マトリプターゼ抗体ががん細胞の表面上に発現される抗原を認識する、免疫複合体を提供する。
【0098】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、抗マトリプターゼ抗体がモノクローナル抗体(mAb)である、免疫複合体を提供する。一部の実施形態では、モノクローナル抗体はM69である。
【0099】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、抗マトリプターゼ抗体が抗原結合断片である、免疫複合体を提供する。一部の実施形態では、抗原結合断片は、M69の抗原結合断片である。
【0100】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、抗マトリプターゼ抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体からなる群から選択される、免疫複合体を提供する。
【0101】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、抗マトリプターゼ抗体がモノクローナル抗体であり、かつ細胞毒が、ドキソルビシン(DOX)、アウリスタチン、例えば、MMAE、MMAF、およびアウリスタチンPE、カリケアマイシン、およびリシンからなる群から選択される、免疫複合体を提供する。
【0102】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、複合体が抗マトリプターゼ抗体とDOX部分との間の共有結合を介して形成される、免疫複合体を提供する。
【0103】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、抗マトリプターゼ抗体の1分子がDOXの最大15分子とカップリングされる、免疫複合体を提供する。
【0104】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、抗マトリプターゼ抗体の1分子がDOXの約5~10分子とカップリングされる、免疫複合体を提供する。
【0105】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、抗マトリプターゼ抗体の1分子がDOXの約7分子とカップリングされる、免疫複合体を提供する。
【0106】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、複合体が抗マトリプターゼ抗体とアウリスタチン部分との間の共有結合を介して形成される、免疫複合体を提供する。
【0107】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、抗マトリプターゼ抗体の1分子がアウリスタチン、例えば、MMAE、MMAF、および/またはアウリスタチンPEの最大10分子とカップリングされる、免疫複合体を提供する。
【0108】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、抗マトリプターゼ抗体の1分子がアウリスタチン、例えば、MMAE、MMAF、および/またはアウリスタチンPEの約5~10分子とカップリングされる、免疫複合体を提供する。
【0109】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、抗マトリプターゼ抗体の1分子がアウリスタチン、例えば、MMAE、MMAF、および/またはアウリスタチンPEの約3~5分子とカップリングされる、免疫複合体を提供する。
【0110】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、抗マトリプターゼ抗体の1分子がアウリスタチン、例えば、MMAE、MMAF、および/またはアウリスタチンPEの約3分子とカップリングされる、免疫複合体を提供する。
【0111】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、抗マトリプターゼ抗体の1分子がアウリスタチン、例えば、MMAE、MMAF、および/またはアウリスタチンPEの約1~3分子とカップリングされる、免疫複合体を提供する。
【0112】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、抗マトリプターゼ抗体の不在下で投与されるとき、細胞毒と比べて低下した心毒性を有するかまたは全く心毒性を有しない、免疫複合体を提供する。
【0113】
この態様の別の実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、マトリプターゼを発現しない骨髄由来の間葉系間質細胞に対する有害作用を最小限有するかまたは全く有しない、免疫複合体を提供する。
【0114】
別の態様では、本発明は、第5の態様における上記の実施形態の何れかに従い、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体を含む組成物を提供する。
【0115】
この態様の一実施形態では、本発明は、マトリプターゼを発現するがん細胞を選択的に標的化する免疫複合体において、薬学的に許容できる担体をさらに含む、免疫複合体を提供する。
【0116】
別の態様では、本発明は、リンカーを含む免疫複合体を提供する。一部の実施形態では、該抗体は、抗マトリプターゼ抗体を含む。一部の実施形態では、抗マトリプターゼ抗体はM69を含む。一部の実施形態では、リンカーを含む免疫複合体は、治療薬を含む。一部の実施形態では、治療薬は、本開示に従う任意の治療薬である。一部の実施形態では、治療薬はアウリスタチンを含む。一部の実施形態では、治療薬はMMAEを含む。
【0117】
一部の実施形態では、リンカーは、切断可能連結部分を含む。一部の実施形態では、切断可能連結部分は、Cit-Val連結部分を含む。一部の実施形態では、切断可能なリンカーは、Phe-Lys連結部分を含む。一部の実施形態では、切断可能連結部分は、カテプシンBにより切断可能である。
【0118】
一部の実施形態では、リンカーは、抗体の表面にコンジュゲートされる。一部の実施形態では、該抗体は、抗マトリプターゼ抗体を含む。一部の実施形態では、抗マトリプターゼ抗体はM69を含む。一部の実施形態では、リンカーは、曝露されたアミノ酸残基に共有結合される。一部の実施形態では、曝露されたアミノ酸残基は、システインを含む。さらなる実施形態では、リンカーは、スルフヒドリル-マレイミドカップリングを介して、システインに共有結合される。一部の実施形態では、曝露されたアミノ酸残基は、リジンを含む。さらなる実施形態では、リンカーは、アシル化によって形成されるアミド結合を介して、リジンに共有結合される。
【0119】
一部の実施形態では、リンカーは、第1の連結成分および第2の連結成分を含む。一部の実施形態では、第1の連結成分は、本開示の任意の態様に従い、抗体の表面にコンジュゲートされる。一部の実施形態では、第1の連結成分は、第2の連結成分に連結される。一部の実施形態では、第1の連結成分は、クリックケミストリーを介して第2の連結成分に連結される。一部の実施形態では、第1の連結成分は、トリアゾール部分を介して第2の連結成分に連結される。一部の実施形態では、第2の連結成分は、本開示の任意の態様に従い、切断可能連結部分を含む。一部の実施形態では、第2の連結成分は、本開示の任意の態様に従い、治療薬を含む。一部の実施形態では、治療薬は、細胞毒を含む。一部の実施形態では、細胞毒は、ドキソルビシン(DOX)、アウリスタチン、例えば、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、カリケアマイシン、およびリシンから選択される。一部の実施形態では、細胞毒はMMAEである。一部の実施形態では、細胞毒はMMAFである。
【0120】
一部の実施形態では、リンカーは、PEGを含有する。一部の実施形態では、第1の連結成分は、PEGを含有する。一部の実施形態では、第2の連結成分は、PEGを含有する。一部の実施形態では、第1の連結成分および第2の連結成分は、PEGを含有する。
【0121】
別の態様では、本発明は、リジン側鎖を介して第1の連結成分に共有結合された抗マトリプターゼ抗体を含む免疫複合体を提供し、ここで第1の連結成分はPEGを含有し、第1の連結成分はトリアゾール部分を介して第2の連結成分に結合され、第2の連結成分は切断可能連結部分および治療薬を有し、また第2の連結成分はPEGを含有する。一部の実施形態では、抗マトリプターゼ抗体はM69を含む。一部の実施形態では、第1の連結成分は、1~10の間のPEG単位を有する。一部の実施形態では、第2の連結成分は、1~10の間のPEG単位を有する。一部の実施形態では、切断可能連結部分は、Val-Cit部分を含む。一部の実施形態では、切断可能連結部分は、Phe-Lys部分を含む。一部の実施形態では、治療薬は、細胞毒を含む。一部の実施形態では、細胞毒は、ドキソルビシン(DOX)、アウリスタチン、例えば、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、カリケアマイシン、およびリシンから選択される。一部の実施形態では、細胞毒はMMAEである。一部の実施形態では、細胞毒はMMAFである。
【0122】
別の態様では、本発明は、血液学的悪性腫瘍を診断する方法において、哺乳動物からの造血細胞を含有する試験試料を抗マトリプターゼ抗体と接触させるステップと、抗体とマトリプターゼとの間の複合体の形成を検出するステップと、を含み、複合体の形成は悪性腫瘍を示す、方法を提供する。
【0123】
別の態様では、本発明は、マトリプターゼを発現する造血細胞の増殖を阻害する方法において、上記の実施形態の何れかに従い、造血細胞を抗マトリプターゼ抗体または免疫複合体を用いて治療するステップを含む方法を提供する。
【0124】
別の態様では、本発明は、哺乳動物組織または細胞におけるマトリプターゼの発現を検出するためのアッセイキットにおいて、上記の実施形態の何れかに従う免疫複合体を含むアッセイキットを提供する。
【0125】
別の態様では、本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療するためのキットにおいて、上記の実施形態の何れかに従う免疫複合体を含むキットを提供する。
【0126】
別の態様では、本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療するための、上記の実施形態の何れかに従う免疫複合体の使用を提供する。
【0127】
別の態様では、本発明は、マトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療するための薬剤の製造のための、上記の実施形態の何れかに従う免疫複合体の使用を提供する。
【0128】
定義
本明細書で用いられるとき、用語「生体試料」は、対象、好ましくはヒト対象からの体液、細胞または組織を含む検体を指す。試料はまた、天然にまたは人工的方法(例えば外科的手段)により、前悪性病変の1つまたは複数の悪性細胞と接触状態になっている体液であり得る。
【0129】
本明細書で用いられるとき、用語「マトリプターゼの発現」などは、マトリプターゼの1つまたは複数の形態を発現する1つ以上の細胞を含む任意の生体試料を指す。
【0130】
本明細書で用いられるとき、用語「対象」は、動物、好ましくは哺乳動物、また最も好ましくはヒトを指す。
【0131】
本明細書で用いられるとき、用語「抗体」は、完全なインタクトな抗体、ならびにFab断片およびF(ab)、その断片を指す。完全なインタクトな抗体は、モノクローナル抗体、例えばマウスモノクローナル抗体(mAb)、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体を含む。
【0132】
「抗体断片」は、例えば、Goldenberg、米国特許第4,036,945号明細書および米国特許第4,331,647号明細書ならびにそれらに含まれる参考文献で開示のような公知の方法により調製され得る。抗体断片の別の形態は、単一の相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。CDRは、抗体が結合するエピトープに対して構造的に相補的な抗体の可変領域のセグメントであり、可変領域の残りよりも可変的である。CDRペプチドは、目的の抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することにより得ることができる。かかる遺伝子は、例えば抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成するためのポリメラーゼ連鎖反応を用いることにより調製される。
【0133】
本明細書で用いられるとき、用語「免疫複合体」は、抗体成分と分子または治療薬もしくは診断薬とのコンジュゲートを指す。治療薬または診断薬は、放射性または非放射性標識を含み得る。免疫複合体を調製するのに用いられる抗体は、限定はされないが、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体を含む。ここで好ましい免疫複合体は、マトリプターゼモノクローナル抗体と細胞毒との間のコンジュゲートであり、より好ましい免疫複合体は、マトリプターゼモノクローナル抗体およびFDA承認抗がん剤、例えば限定はされないが、ドキソルビシン(DOX)、アウリスタチン、カリケアマイシン、またはリシンを含むものである。
【0134】
本明細書で用いられるとき、用語「細胞毒」は、細胞の機能を阻害または阻止し、かつ/または細胞の破壊を引き起こす物質を指す。該用語は、化学療法剤、例えば、メトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシンまたは他の挿入剤、酵素およびその断片、例えば、核酸分解酵素、抗生物質、および毒素、例えば、細菌、真菌、植物もしくは動物起源の小分子毒素または酵素活性毒素、例えばその断片および/または変異体、ならびに下記に開示される様々な抗腫瘍剤または抗がん剤を含むことが意図される。該用語はまた、1つ以上の放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、ならびにLuの放射性同位体)を含む化合物を包含する。
【0135】
本明細書で用いられるとき、用語「ドキソルビシン」(または「DOX」)は、(8S,10S)-10-(4-アミノ-5-ヒドロキシ-6-メチル-テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イルオキシ)-6,8,11-トリヒドロキシ-8-(2-ヒドロキシアセチル)-1-メトキシ-7,8,9,10-テトラヒドロテトラセン-5,12-ジオンの系統的(IUPAC)化学名を有するアントラサイクリン抗生物質を指す。
【0136】
本明細書で用いられるとき、用語「アウリスタチン」は、限定はされないが、抗有糸分裂剤モノメチルアウリスタチンE(「MMAE」)、デスメチル-アウリスタチンFとしても公知のモノメチルアウリスタチンF(「MMAF」)、およびアウリスタチンPEを含む。MMAEは、(S)-N-((3R,4S,5S)-1-((S)-2-((1R,2R)-3-(((1S,2R)-1-ヒドロキシ-1-フェニルプロパン-2-イル)アミノ)-1-メトキシ-2-メチル-3-オキソプロピル)ピロリジン-1-イル)-3-メトキシ-5-メチル-1-オキソヘプタン-4-イル)-N,3-ジメチル-2-((S)-3-メチル-2-(メチルアミノ)ブタンアミド)ブタンアミドの系統的(IUPAC)化学名を有する。MMAFは、(S)-2-((2R,3R)-3-((S)-1-((3R,4S,5S)-4-((S)-N,3-ジメチル-2-((S)-3-メチル-2-(メチルアミノ)ブタンアミド)ブタンアミド)-3-メトキシ-5-メチルヘプタノイル)ピロリジン-2-イル)-3-メトキシ-2-メチルプロパンアミド)-3-フェニルプロパン酸の系統的(IUPAC)化学名を有する。アウリスタチンPEは、2-[[(2S)-2-(ジメチルアミノ)-3-メチルブタノイル]アミノ]-N-[(3R,4S,5S)-3-メトキシ-1-[(2S)-2-[(1R,2R)-1-メトキシ-2-メチル-3-オキソ-3-(2-フェニルエチルアミノ)プロピル]ピロリジン-1-イル]-5-メチル-1-オキソヘプタン-4-イル]-N,3-ジメチルブタンアミドの系統的(IUPAC)化学名を有する。
【0137】
本明細書で用いられるとき、用語「担体」は、治療薬または診断薬と会合し、その薬剤の標的化細胞への送達を促進する能力がある分子または高次構造を指す。担体は、脂質またはポリマー、例えば両親媒性脂質または炭水化物などの分子、または高次構造、例えば、ミセル、リポソーム、およびナノ粒子を含んでもよい。
【0138】
本明細書に開示される免疫複合体または組成物は、公知の方法により製剤化され得、1つ以上の薬学的に好適な賦形剤、1つ以上の追加的成分、またはそれらの組み合わせを含んでもよい。
【0139】
本明細書に開示される免疫複合体または組成物は、例えばボーラス注射または連続注入を介する静脈内投与のために製剤化され得る。注射用製剤は、添加される保存剤とともに、例えばアンプル内または複数回投与容器内に単位剤形で存在し得る。組成物は、油性または水性媒体中の懸濁液、溶液または乳濁液のような形態を取り得、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤などの調合剤を含有し得る。あるいは、活性成分は、使用前に、好適な媒体、例えば滅菌パイロジェンフリー水との組成において粉末形態であり得る。
【0140】
免疫複合体または組成物はまた、哺乳動物の皮下にまたはさらに他の非経口経路により投与されてもよい。さらに、投与は、連続注入または単回もしくは複数回ボーラスによってもよい。一般に、投与される免疫複合体の用量は、患者の年齢、体重、身長、性別、一般的医学的状態および以前の病歴のような要素に応じて変化することになる。
【0141】
さらなる薬学的方法は、治療もしくは診断コンジュゲートまたはネイキッド抗体の作用の持続時間を制御するために用いてもよい。徐放性製剤は、免疫複合体またはネイキッド抗体を複合または吸着させるためのポリマーの使用を通じて調製され得る。
【0142】
抗体製剤は、投与量が生理学的に重要である場合、「治療有効量」で投与されると言われる。薬剤は、その存在が、がん細胞の数における減少、腫瘍のサイズにおける減少、または腫瘍の増殖における阻害を含む、レシピエント哺乳動物の生理における検出可能な変化をもたらす場合、生理学的に重要である。特に、抗体製剤は、その存在が抗腫瘍応答を引き起こすかまたは自己免疫病態の徴候および症状を軽減する場合、生理学的に重要である。生理学的に重要な効果であれば、レシピエント哺乳動物における体液性および/または細胞性免疫応答の誘起でもあり得る。
【0143】
所与の治療において用いられる医薬組成物の実際の好ましい量が、用いられている特定の形態、調合される特定組成物、投与の特定部位への適用方法、患者の体重、一般健康、性別など、治療されている特定の指示など、および主治医または獣医師を含む当業者によって理解されるような他の要素に応じて変化することは理解されるであろう。所与の投与プロトコルにおける最適な投与率は、従来の用量決定試験を用いて当業者により容易に決定され得る。
【0144】
免疫複合体の調製
本明細書に記載の免疫複合体は、抗体を脂質、炭水化物、タンパク質、または他の分子と連結する公知の方法により調製され得る。例えば、本明細書に記載の結合分子は、免疫複合体を形成するため、本明細書に記載の担体(例えば、脂質、ポリマー、リポソーム、ミセル、またはナノ粒子)の1つ以上とコンジュゲートされ得、また免疫複合体は、共有結合、非共有結合、またはその他の何れかにより、治療薬または診断薬に組み込み得る。さらに、本明細書に記載の結合分子の何れかはさらに、本明細書に記載の1つ以上の治療薬または診断薬、または追加的な担体とコンジュゲートされ得る。一般に、1つの治療薬または診断薬が各結合分子に付着されてもよいが、2つ以上の治療薬または診断薬が同じ結合分子に付着され得る。さらに、治療薬は同じである必要はなく、異なる治療薬であり得る。
【0145】
例えば、抗体およびDOXの免疫複合体を合成するため、DOXをまず4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボン酸スクシンイミジル(SMCC)と反応させ、マトリプターゼに対する抗体を3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸N-スクシンイミジル(SPDP)と反応させ、その後、これら2つの中間体をカップリングしてもよい。免疫複合体を調製するのに用いてもよい追加的なリンカーは、下記の「リンカー(切断可能および切断不能な)」という表題のセクションにて考察される。
【0146】
治療方法
本発明は、マトリプターゼ抗体または免疫複合体またはマトリプターゼ抗体もしくは免疫複合体を含む組成物のマトリプターゼを発現する細胞を含む悪性腫瘍を治療するための一次組成物としての使用を包含する。悪性腫瘍は、限定はされないが、固形腫瘍、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、B細胞悪性腫瘍および/またはT細胞悪性腫瘍を含む。固形腫瘍は、メラノーマ、がんおよび肉腫からなる群から選択され、がんは、腎がん、肺がん、腸管がん、胃がんおよびメラノーマからなる群から選択される。B細胞悪性腫瘍は、B細胞リンパ腫の無痛性形態、B細胞リンパ腫の侵襲性形態、慢性リンパ性白血病、急性リンパ性白血病、および多発性骨髄腫、B細胞障害および他の疾患からなる群から選択される。特に、本明細書に記載の組成物は、様々な自己免疫ならびにB細胞リンパ腫の無痛性形態、B細胞リンパ腫の侵襲性形態、慢性リンパ性白血病、急性リンパ性白血病、多発性骨髄腫、およびワルデンストレームマクログロブリン血症を治療するために特に有用である。該治療方法は、抗体または免疫複合体を含む組成物を治療有効量でかかる治療を必要とする哺乳動物に投与するステップを含む。
【0147】
抗体
マトリプターゼに対する抗体(「抗マトリプターゼ抗体」)は、当該技術分野で公知であり、また例えば、Lin C.Y.,et al.,J.Biol.Chem.,1999,274(26):18237-18242に開示された方法により作製され得る。マトリプターゼに対する抗体は、潜在型マトリプターゼに特異的な抗体および活性化マトリプターゼに特異的な抗体、ならびに潜在型および活性化マトリプターゼの双方を認識する抗体を含む。
【0148】
本発明の抗体およびその免疫原性部分は、上記病態の何れかを予防または治療するための治療的に有効な濃度で投与される。この目標を達成するため、抗体は、当該技術分野で公知の種々の許容できる賦形剤を用いて製剤化されてもよい。典型的には、該抗体は、好ましくは注射により静脈内または腹腔内の何れかに投与される。この投与を達成するための方法は、当業者に公知である。組成物はまた、局所的または経口的に投与されるか、または粘膜を透過可能であってもよい。
【0149】
患者への投与前、補助成分が抗体に添加されてもよい。液体製剤が好ましい。例えば、これらの補助成分は、油、ポリマー、ビタミン、炭水化物、アミノ酸、塩、緩衝液、アルブミン、界面活性剤、または増量剤を含んでもよい。好ましくは、炭水化物は、糖または糖アルコール、例えば単糖、二糖または多糖、または水溶性グルカンを含む。糖またはグルカンは、フルクトース、ブドウ糖、ラクトース、グルコース、マンノース、ソルボース、キシロース、マルトース、スクロース、デキストラン、プルラン、デキストリン、α-およびβ-シクロデキストリン、可溶性デンプン、ヒドロキシエチルデンプンおよびカルボキシメチルセルロース、またはそれらの混合物を含み得る。
【0150】
加えて、抗体は、その循環半減期を延長するため、ポリマーへの共有結合的コンジュゲーションにより化学修飾され得る。好ましいポリマー、およびそれらをペプチドに付着させるための方法は、米国特許第4,766,106号明細書;米国特許第4,179,337号明細書;米国特許第4,495,285号明細書;および米国特許第4,609,546号明細書において公知である。好ましいポリマーは、ポリオキシエチル化ポリオールおよびポリエチレングリコール(PEG)である。水溶性ポリオキシエチル化ポリオールもまた、本発明で有用である。それらは、ポリオキシエチル化ソルビトール、ポリオキシエチル化グルコース、ポリオキシエチル化グリセロール(POG)などを含む。
【0151】
本発明の抗マトリプターゼ抗体は、キメラまたはヒト化抗体を含んでもよい。キメラおよびヒト化抗体の双方は、ヒトにて天然に産生される抗体変異体に対する類似性を高めるように化学修飾されており、結果的に免疫原性が低減される、元は非ヒト種から誘導される抗体を含む。キメラおよびヒト化抗体の双方は、典型的には組換え的に作製され、哺乳動物細胞培養液中で、例えばCHO細胞により発現される。かかる技術は、当業者に公知である。キメラ抗マトリプターゼ抗体とヒト化抗マトリプターゼ抗体との間の主な差異は、キメラ抗マトリプターゼ抗体が、典型的にはモノクローナル抗体のFc領域とヒトFc領域との置換を含む一方で、ヒト化抗体が、相補性決定領域(CDR)が元のmAbから「スワップインされる(swapped in)」ことを除いてヒト免疫グロブリンと同一である(典型的にはヒト抗体「スキャフォールド」と称される)ことである。
【0152】
循環半減期を延長するための別の薬剤送達系は、リポソームである。リポソーム送達系を調製する方法は、Gabizon et al.,Cancer Res.42:4734-9(1982);Szoka et al.,Annu.Rev.Biophys.Bioeng.9:467-508(1980);Szoka et al.,Meth.Enzymol.149:143-7(1987);およびLangne et al.,Pol.J.Pharmacol.51:211-22(1999)において考察されている。他の薬剤送達系は、当該技術分野で公知である。
【0153】
リンカー(切断可能および切断不能)
本開示の抗マトリプターゼ抗体、例えばM69は、治療薬または診断薬、例えば、DOX、アウリスタチン(限定はされないが、MMAE/MMAFを含む)に共有結合され、ひいては免疫複合体を形成してもよい。免疫複合体のリンカーに基づく技術の概要については、Jain N et al.Current ADC Linker Chemistry,Pharm Res.2015 Nov;32(11):3526-40(ここでその全体が参照により援用される)に見出される。かかる免疫複合体中の共有結合は、切断可能連結部分、例えばリソソーム内部のカテプシンBによって切断可能なVal-Citリンカーを含んでもよい。市販のVal-Citリンカーは、下記の実施例10で用いるため、修飾された。他の切断可能連結部分は、カテプシンBによってやはり切断可能なPhe-Lysリンカーを含んでもよい。最も簡単な切断可能連結部分の一部が、還元的(すなわち細胞内)環境下で切断可能なジスルフィド(S-S)橋を含む。しかし、Val-Citリンカーなどの切断可能連結部分は、例えば、無差別な切断を受け得るジスルフィド架橋よりも高い特異性をもたらし、ひいては優れた選択肢を提示するが、任意のかかる切断可能連結部分は、本発明の範囲内で検討されるべきである。本発明に適し得る切断可能連結部分の概要が、Leriche et al.,Cleavable linkers in chemical biology Bioorg Med Chem.2012 Jan 15;20(2):571-82(ここでその全体が参照により援用される)に提示される。あるいは、リンカーは、切断不能であってもよい。切断不能なリンカーは、切断可能なリンカーよりも多様であり、細胞内環境下で切断に抵抗性を示す任意の連結部分を含んでもよい。例えば、時として興味深い具体的な切断不能なリンカーは、FDA承認免疫複合体トラスツズマブエムタンシン(商品名Kadcyla)中に見出されるSMCCリンカーを含み、M69-DOX免疫複合体を調製するため、下記の実施例2においても探索される。
【0154】
本開示のリンカー(および前記リンカーに結合される治療薬)は、抗体に直接的にコンジュゲート、すなわち免疫グロブリンに共有結合されてもよい。共有結合は、可変ドメインとは対照的に、理想的には定常ドメインの1つの中に位置する、免疫グロブリン骨格を含むアミノ酸の1つに直接的に生じてもよい。かかるアミノ酸は、天然起源(例えば、天然起源のリジンまたはシステイン残基)であってもよく、または免疫グロブリンは、最小の立体障害を有する最適な結合部位を結合相手のリンカーに提供するため、人為的突然変異(例えば、非天然起源のリジンまたはシステイン残基)であってもよい。あるいは、リンカーは、翻訳後修飾免疫グロブリン上に見出される化学的部分に結合(例えば、N-グリカンに結合)され得る。
【0155】
免疫複合体の大部分では、抗体骨格中に位置するシステイン残基へのリンカーの直接的結合が用いられる。これらのリンカーは、「マレイミド型リンカー」として公知であり、マレイミドとシステイン(Cys)中に見出されるスルフヒドリル側鎖との反応性を利用する。マレイミドリンカーの2つの最も一般的なタイプは、マレイミドカプロイル(mc)およびマレイミドメチルシクロヘキサン-1-カルボン酸塩(mcc)リンカーを含む。マレイミドリンカーの下側は、免疫複合体からの薬剤-リンカーの中途欠損をもたらすレトロマイケル反応を含む、血漿中での化学的不安定性を示していた。直接コンジュゲーションの異なるタイプ、および下記の実施例10で用いられるものは、リンカーがアジド官能基の代わりに活性化カルボキシル基からなる場合の、リンカーと抗体との間にアミド結合をもたらす、アシル化によるリジン(Lys)側鎖のε-アミノ側鎖に対する直接コンジュゲーションである。
【0156】
リンカーおよび治療薬は、本明細書に記載のような2段階コンジュゲーション技術を用いて抗体にコンジュゲートされてもよい。この2段階コンジュゲーション技術では、「クリックケミストリー」、特に銅を含まないクリックケミストリーを利用してもよい。抗体コンジュゲーションにおけるクリックケミストリーの使用は、幾つかの固有の利点、例えば、反応モニタリングおよびADR判定において形成するクリック環系のUVに基づく検出をもたらし得る。リンカーは、最初に2つの異なる連結成分、例えば(必ずではないが)、免疫グロブリン骨格中に位置するリジン側鎖にコンジュゲート(すなわちアシル化)するアシル化剤(例えば、カルボン酸、ハロゲン化アシル、または無水物など)を有し、さらに歪んだアルキン(例えばDBCO)を有する第1の連結成分、およびアジド(N)基および治療薬を有する第2の連結成分からなってもよく、それにより、第1の成分および第2の成分が互いに近接範囲内に入るとき、歪んだアルキンが(トリアゾール部分を形成する)アジド基と反応し、第1の連結成分を第2の連結成分に連結する。第1の連結部分または第2の連結部分の何れかは、歪んだアルキン基および/またはアジド基を含んでもよく、またその逆の場合を含んでもよい;すなわち、第1の連結部分は歪んだアルキンを、かつ第2の連結部分はアジド基を含んでもよく、または第1の連結部分はアジド基を含んでもよく、かつ第2の連結部分は歪んだアルキンを含んでもよい。したがって、本開示のリンカーは、「クリックケミストリー」を通じて結合されるとき、トリアゾール部分、例えば図11中に図示されるようにDBCOとNとの反応中に形成されるようなトリアゾール部分を含んでもよい。
【0157】
したがって、一部の実施形態では、免疫複合体の全体構造は、mAb-第1の連結成分-第2の連結成分-治療薬を含むことになり、ここで第1の連結成分は、第2の連結成分に(クリックケミストリーによって形成される)トリアゾール部分を介してコンジュゲートされており、かつ第1の連結成分は、免疫グロブリン骨格中に位置するアミノ酸残基(例えば、システインまたは好ましくは本明細書に記載のようなリジン)にコンジュゲートされている。かかる実施形態では、切断可能連結部分の第1の連結成分および/または第2の連結成分の何れか、例えばVal-Citリンカーへの組み込みは可能であり、図11に示される。理想的にいえば、切断可能連結部分は、第2の連結成分(すなわち、治療薬、例えばMMAEおよび/またはMMAFを有する連結成分)中に位置することになる。
【0158】
本開示の免疫複合体中のリンカーは、PEGに基づくリンカーであってもよい。例えば、図11に示されるように、一部の実施形態では、第1の連結成分および第2の連結成分の双方(ひいてはリンカー全体)は、ポリ(エチレン)グリコール(PEG)リピートを有する。PEGに基づくリンカーは、PEGを有しないリンカーを上回る様々な利点を提供し得る。例えば、PEGに基づくリンカーは、より大きい可動性を提供し得ることから、例えば、リンカーが抗原結合ドメイン(例えば超可変領域)に極めて接近したアミノ酸残基にコンジュゲートされる場合、リンカー/治療薬が抗原/受容体の表面要素と結合または相互作用する見込みが減少することになり、故に免疫複合体全体がより治療的に有効になる。加えて、リンカーが(例えば、DBCOおよびNを用いる)クリックケミストリーを通じて作製されるような実施形態では、理論によって拘束されることを望まないが、連結成分中でのPEGの使用は、トリアゾール部分中に見出される四環系構造と任意の曝露された芳香族側鎖、特にトリプトファン側鎖との間の非特異的相互作用(pi-pi相互作用)を阻止するためのスペーサーとして役立ち得る。本開示のPEGに基づくリンカーは、第1の連結成分および第2の連結成分を用いるような実施形態において、第1の連結成分および第2の連結成分の各々につき、全部で1~20の間の何れかのPEG単位、例えば1~10のPEG単位のリピートを含んでもよい。より典型的には、第1の連結成分および第2の連結成分の各々につき3~7のPEG単位である。例として、下記の実施例10は、第1の連結成分に対して5つのPEG単位および第2の連結成分に対して4つのPEG単位を有するM69-MMAE免疫複合体を示す。
【0159】
アウリスタチン、MMAE、MMAF
MMAEを含むアウリスタチンは、非常に強力な細胞毒のクラスを表す。理論によって拘束されることを望まないが、MMAEのようなアウリスタチンが、適切な細胞分裂にとって重要である、チューブリンの重合を遮断することにより細胞分裂を阻害すると考えられる。したがって、MMAE、MMAF、およびアウリスタチンPEなどの化合物は、有糸分裂を阻害するための「抗有糸分裂剤」として分類される。かかる細胞毒の効力は顕著である。MMAEは、例えばDOXよりも100~1000倍強力であるが、DOXは本発明における使用に適する。MMAEは、この強力な毒性にもかかわらず、単独での薬剤としての投与に適さない。しかし、細胞傷害性ペイロードは、マトリプターゼ抗体、例えばM69などの抗体にカップリングされるとき、特定の悪性細胞に対して特異的であることができる。
【0160】
前述のように、本発明の抗体および組成物は、好ましくは、ヒト患者を治療し、上で規定された病態の何れかを予防または治療するため、用いられる。好ましい投与経路は、非経口である。非経口投与では、本発明の組成物は、薬学的に許容できる非経口媒体と併せて、単位用量の注射可能な形態、例えば溶液、懸濁液または乳濁液で製剤化されることになる。かかる媒体は、本質的に非毒性であり、治療用でない。かかる媒体の例として、生理食塩水、リンゲル液、ブドウ糖溶液、およびハンクス溶液が挙げられる。不揮発性油およびオレイン酸エチルなどの非水性媒体もまた用いてもよい。
【0161】
本明細書に開示される抗マトリプターゼ免疫複合体、例えばmAb-アウリスタチンおよびmAb-Doxコンジュゲートは、抗がん剤を開発する、詳細にはがん細胞を標的化するための例を表す。抗マトリプターゼmAbは、特定タイプの腫瘍とより良好に機能することになる抗チューブリン化合物などの他のタイプの細胞毒に連結され得るか、または任意のタイプの薬剤、例えば、ペプチド、shRNA/siRNA、および重篤な副作用故にがん治療においてほとんど有望でない非常に有毒な化合物の標的化送達のため、リポソームまたはナノ粒子にカップリングされ得る。
【0162】
以下の非限定例が、本発明の特定の態様をさらに例示する。
【実施例
【0163】
実施例1
多発性骨髄腫およびB細胞リンパ腫細胞におけるマトリプターゼの発現
ヒト造血悪性腫瘍の24の細胞株パネルを、マトリプターゼおよびその内因性阻害剤HGFアクチベーターインヒビター1すなわちHAI-1に対するウエスタンブロッティングにより分析した(図1)。細胞可溶化物を、24の造血がん細胞(レーン2~14)およびT-47D乳がん細胞(レーン1)から調製した。等量のタンパク質をSDS-PAGEにより分離した。マトリプターゼおよびHAI-1のレベルは、指定通りに抗マトリプターゼmAbおよび抗HAI-1 mAbを用いるイムノブロット分析により評価した(図1Aおよび1B)。
【0164】
マトリプターゼがB細胞リンパ腫の大部分および多発性骨髄腫細胞において発現され、これはプロテアーゼがこれらのがんにおける重要なマーカーであることを示した。それに対し、リンパ腫および骨髄腫におけるHAI-1レベルは、がんにおける場合よりもはるかに低いように思われ、HAI-1の発現は、高悪性度のリンパ腫において低下することが多い(表1)。
【0165】
多発性骨髄腫細胞におけるマトリプターゼの発現をさらに検証するため、パラフィン包埋MM標本の6つの症例を試験した。マトリプターゼは4つの症例において陽性であり、それらの中の2つがHAI-1陽性であり、残りの2つが陰性であった(図1D)。
【0166】
多発性骨髄腫の細胞株中でのマトリプターゼのレベルを評価した(図1C)。3つ全部のMM細胞がプロテアーゼを生成した。
【0167】
実施例2
DOX-免疫複合体の調製
マトリプターゼに対するモノクローナル抗体(M24またはM69、CY Lin,University of Maryland,Baltimore,Md.から入手;Lin C.Y.,et al.,J.Biol.Chem.,1999,274(26):18237-18242;Chen,Y.W.,et al.J.Biol.Chem.,2010,285(41):31755-31762)を、幾つかのマイナーな変更を伴う、Protein-Protein Couplingキット(Invitrogen)を製造業者の使用説明書に従って用いることにより、DOX(Sigma)にコンジュゲートした。簡潔に述べると、DOXを、クロスリンカーSMCC(4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸スクシンイミジル)と1:3~1:1.5(DOX:SMCC)の間のモル比(MR)で、常に硬化しながら室温で1時間反応させた。約200mgのM24 mAbをSPDP(3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオン酸スクシンイミジル)と室温で1時間反応させ、その後、遠心フィルター装置(Ultrafree,Millipore)を用いてリン酸緩衝液を交換した。あるいは、mAbは、セファデックスG50を用いるゲル濾過により、遊離SPDPから分離することができる。次に、DOXマレイミド誘導体をチオール化M24またはM69 mAbに室温で3時間コンジュゲートし、その後、リン酸緩衝液で透析し、遊離DOXを除去した。セファデックスG50を用いるゲル濾過は、調製規模が1gより多いタンパク質である場合に非カップリングDOXを除去するためにも用いることができる。DOXに対するタンパク質のモル比は、蛍光およびタンパク質濃縮によりDOXを測定することによって判定する。
【0168】
DOXがUV励起により蛍光を発することから、DOXの抗体へのカップリングは、免疫複合体により生成される蛍光に基づき、測定した。約1μg/mlでのM24-DOXは、25nMのDOXの場合と同じ蛍光強度を有する。それ故、mABの1分子がDOXのほぼ7分子とカップリングされる。
【0169】
略称:AML、急性骨髄性白血病;ALL、急性リンパ性白血病;BL、バーキットリンパ腫;DLBL,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫;EBV、エプスタイン・バーウイルス;HL、ホジキンリンパ腫;LL、リンパ性白血病;MM、多発性骨髄腫;SMRV、リスザルレトロウイルス
【0170】
実施例3
多発性骨髄腫細胞に対するM24-DOXの細胞傷害性
免疫複合体の細胞傷害性効果を評価するため、MM細胞を様々な濃度のコンジュゲートされたDOXで48時間処理した。免疫複合体は、細胞増殖を用量依存的様式で阻害した。免疫複合体のEC50は、5μg/ml(タンパク質)であった。この細胞傷害性効果は、200nMの遊離DOXでの処理の場合でも認められた。5μg/mlのM24-DOXの濃度が蛍光強度に基づくと250nMの遊離DOXに等しいことから、それ故、コンジュゲートされたDOXの効力は、遊離薬剤と類似する。細胞の非修飾抗体への曝露は、細胞増殖に対する効果を有せず、M24-DOXに誘導される細胞傷害性効果がDOX活性を通じて媒介されることを示した。OPM-2およびRPMI-8226を含む2つの他のMM細胞株もまた、24ウェルプレート内のMM細胞(1×10/ウェル)がM24-DOXの存在下または不在下で異なる濃度で48時間治療された場合の図2で示される通り、M24-DOXの細胞傷害性活性について試験した。細胞数は、Vi-Cellカウンター(Beckman)によって計数した。
【0171】
細胞の両タイプもまた、MM.1Sの応答と同様に薬剤に応答した。
【0172】
実施例4
M24-DOXの核局在化
DOXの免疫複合体のMM.1S細胞への内部移行を実証するため、蛍光顕微鏡を用いて、様々な期間での細胞の薬剤への曝露後のM24-DOXの細胞内局在化を追跡した。様々な期間でのMM.1S細胞のM24-DOXへの曝露後、細胞を固定し、染色した。免疫複合体を蛍光顕微鏡により可視化した。DAPIを核染色に用いた。
【0173】
M24-DOX曝露の3分後、微量の核蛍光を少数の細胞内で検出した。蛍光染色細胞の数と核内局在化シグナルの強度は、30分より長いインキュベーション時間とともに有意に増加した(図3A)。より高い拡大率を有する写真は、薬剤に60分以上曝露された細胞の核の腫脹を呈し、典型的なDOX誘導性のアポトーシスを示した(図3B)。これらのデータは、免疫複合体が、抗原への結合後、迅速に内部移行され、処理の10分後、DOXの有意な核局在化が認められたことを示す。
【0174】
実施例5
骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)のM24-DOXに対する耐容性
マトリプターゼの発現が欠如するヒト骨髄由来MSCを、骨髄由来間葉系間質細胞(5×10/ウェル、24ウェルプレート)が異なる濃度のM24-DOXまたは遊離DOXで4日間処理された場合の図4で示される通り、M24-DOXの細胞傷害性選択性を判定するための対照として用いた。細胞数は、Vi-Cellカウンターによって測定した。
【0175】
MSCは、20μg/ml相当の高い濃度の免疫複合体に対して非感受性を示した一方で、遊離DOXは、5nMで細胞増殖を有意に阻害することができた。マトリプターゼの発現は、主正常組織内の上皮細胞に制限された。心筋細胞内でのこのプロテアーゼの不在は、M24-DOX有意に低下した心毒性を呈することを示す。
【0176】
実施例6
活性マトリプターゼの標的化
DOXはまた、酵素の活性のある2本の鎖に特異的に結合する別のマトリプターゼmAb(M69)とコンジュゲートした。活性マトリプターゼレベルが大部分の乳腺腫瘍に見出された一方、プロテアーゼの活性型は乳腺の正常組織内でかろうじて検出可能である(図5)。これらのデータは、M69-DOXと称されるM69とのDOXコンジュゲートが、正常組織への毒性と関連して、活性化マトリプターゼを発現する腫瘍を標的化する中でさらなる選択性をもたらす。上皮組織がマトリプターゼを発現するとき、M24-DOXの健常組織への毒性が懸念される。例えば、がん細胞内のルイスY抗原を標的化する、BR96と称される以前のDOXコンジュゲートは、かなりの胃腸(GI)毒性が原因で第II相試験において失活した(Tolcher,A.W.,et al.,J.Clin.Oncol.,1999,17:478-484)。上皮組織内でのマトリプターゼの潜在型の発現と対照的に、このプロテアーゼの活性型のレベルは、免疫組織化学によりほぼ検出不能である。したがって、M69-DOXは、上皮に対する毒性はあまりない。
【0177】
実施例7
サリドマイドによるM69-DOXの増強された細胞傷害性効果
サリドマイドは、多発性骨髄腫治療において治療的であり、サリドマイドおよびデキサメタゾンの組み合わせは、多発性骨髄腫を有する患者を治療するための最も一般的な治療計画の1つであり、応答速度は最大60~70%である(Denz,U.,Eur.J.Cancer.,2006,42:1591-1600;Gieseler,F.,et al.,Thromb.Haemost.,2008,99:1001-1007)。サリドマイドなどの現行のMM治療薬と組み合わせたDOXコンジュゲート双方の有効性を試験した。M69-DOX単独は、M24-DOXほどに大して強力でなかった。意外にも、M69-DOX治療による細胞増殖の阻害がサリドマイドにより有意に増強された一方で、M24-DOXの阻害活性は改変されなかった(図6A~B)。サリドマイド単独がMM細胞増殖に対する効果を有しなかったことから、サリドマイドと組み合わされたM69-DOXによるこの増強された阻害は、相乗的であるように思われた(図6A)。したがって、これらの試験では、サリドマイドが増強された増殖の阻害をもたらしたことが示される。
【0178】
実施例8
MM細胞内でサリドマイドによって誘導されるマトリプターゼ活性化
サリドマイドおよびM69-DOXコンジュゲートとともに生じた細胞傷害性における増加を試験するため、活性化マトリプターゼの発現に対するサリドマイドの効果を測定した。MM細胞内でのマトリプターゼの活性化は、50μMのサリドマイドでの24時間治療後、著しく増強された(図8)。サリドマイドは、少なくとも部分的にはVGEF産生の阻害を通じて、MMと骨髄間質細胞との間の相互作用に干渉することにより血管新生抑制活性を発揮することが知られている。サリドマイドは、MM細胞の細胞増殖に対する効果をほとんど有しないように思われる一方(図7A~B)、マトリプターゼを活性化するその能力は重要な新規の知見であり、これは、M69-DOXコンジュゲートにより活性マトリプターゼ陽性骨髄腫細胞を標的化することによる、MM細胞のサリドマイド治療に対する応答を利用するための新規な手法を示唆する。
【0179】
実施例9
活性マトリプターゼをインビボで標的化するM69-DOXによる乳腺腫瘍増殖の阻害
M69-DOXがインビボで腫瘍増殖を抑制する有効性を評価するため、ヒト乳房異種移植腫瘍モデルを用いた。乳腺腫瘍(MDA-MB468)を有するNOD/重症複合免疫不全マウスを、20または10mg/kgの何れかのM69-DOXで週2回治療するとともに、2mg/kgのDOXで治療した。未治療対照群におけるマウスの腫瘍サイズは3週目に著しく増加し、何れかの用量のM69-DOXで治療し、DOXで治療したマウスにおける腫瘍増殖は、全治療経過の間に有意に消失した(図8)。単一のmAbがDOXの7つの分子と付着し、M69-DOXの10mg/kgでの用量は、投与したDOXの0.035mg/kgに等しい。これらの結果は、乳腺腫瘍をインビボで治療するために活性化マトリプターゼを標的化するDOXコンジュゲートの強力な効力および有効性を実証する。
【0180】
M69-DOXで治療したマウスにおける腫瘍塊の重量減少。治療経過の終了時、腫瘍塊を実験マウスから収集し、秤量した。何れかの用量のM69-DOXで治療し、ならびにDOXで治療した群からの腫瘍の平均重量は、未治療対照群からの場合の約50%に減少した(図9)。M69-DOXによる腫瘍重量における有意な減少により、活性化マトリプターゼを発現する腫瘍細胞へのDOXの部位特異的送達の有効性がさらに確認される。
【0181】
M69-DOX治療による最小毒性
M69-DOXまたはDOXの何れかで治療したマウスの平均重量は、未治療対照群からの場合と比べて減少が顕著でなく(15%未満の減少)、これはかかる用量でのM69-DOXが十分な耐容性を示したことを示す(図10)。M69-DOXの20mg/kgでの用量は注目すべき毒性をもたらさず、これは薬剤用量が最大耐容用量に達するように漸増され得ることを示す。
【0182】
実施例10
コンジュゲート:M69-MMAEを形成するためのMMAEのM69 mAbへの放出可能リンカーを介したカップリング
本明細書に記載の通り、免疫複合体を形成するため、MMAEをM69にカップリングさせた。放出可能リンカー技術は、Bioconjugate Chem.2002,13:855-869;Blood 2003,102:1458-1465;Nature Biotech.,2003,21:778-784(これらのすべてはここでそれら全体が参照により援用される)に記載の、オリジナルなカテプシンB切断可能リンカーであるSeattle Geneticsのバリン-シトルリン-PABAリンカーに基づいた。バリン-シトルリン-p-アミノベンジルアルコールカルバメートリンカーは、(i)2段階のペグ化、(ii)銅を含まないクリックケミストリーを介したコンジュゲーション、および(iii)システインスルフヒドリル-マレイミドカップリングに代わるmAbのアシル化リジン側鎖により修飾した。ADCアセンブリの全体設計を図18に示す。アジド-PEG-Val-Cit-PABA-MMAE構築物の化学合成は、図19に示す通りであった。本設計により、このリンカープラットフォームが、DBCOおよびNを用いる銅を含まないクリックケミストリーを用いて改善され、重要な薬剤負荷段階を非常に穏やかな条件下、化学量論的に制御された様式で実施することができた。システイン残基の一時的に還元された水硫基を用いる代わりに、リジン側鎖を用いて、リンカー-薬剤リガンドを抗体の表面上にコンジュゲートした(図11)。この手法がシステイン間のジスルフィド橋に影響しないことから、抗マトリプターゼ抗体は、コンジュゲーション手順の間に構造的にインタクトな状態を維持し、ミスフォールド/解離した抗体鎖による活性低下を伴う課題を排除する。さらに、リジン側鎖は、mAbの表面上で容易に利用可能であることから、Cys-Cysジスルフィド橋を還元する必要がなく、mAbの構造的不安定化およびマレイミドコンジュゲーション後の酸化時の不適正なジスルフィド結合形成に関する課題を排除した。適切な分析方法(HR-MALDI-TOF質量分析)により、免疫複合体の直近のバッチが工業標準を満たしていることが示された(図11)。極めて疎水性の薬剤分子であっても使用を促進するクリックケミストリーの両前駆物質上のコンジュゲートの薬剤-リンカー部分においてPEGスペーサーを用いることにより、さらなる進歩が達成された。PEG鎖は、mAbと薬剤とを分離しておく程に十分に長いことで、非特異的な薬剤および抗体相互作用の確率を低減し、またリンカーのPEG-PEG立体配置が、銅を含まないクリックケミストリーによりもたらされる四環系の疎水性を補償した。選択した細胞傷害性化合物は、モノメチルアウリスタチンE、すなわちMMAEであった。PEG化リンカーの可動性および長さは、MMAEを切断および放出するため、カテプシンBに高度な接近性をもたらす。コンジュゲーション反応は、MALDI-TOF質量分析により監視し、各mAb分子への3.5の薬剤の連結に対応する7000Daの平均分子量の増加を示した。
【0183】
M69-MMAEの細胞傷害性効力を実証するため、トリプルネガティブ乳がんMDA-MB468に対する免疫複合体のインビトロでの細胞傷害性の有効性を評価した。乳がん細胞は、MMAE連結免疫複合体に対して感受性を示し、IC50は3.4μg/mlであった。各M69分子が平均で3.5分子のMMAEを含有したとき(図11)、コンジュゲート中でのMMAEに対する感受性は1.6nMであった。この実験はまた、免疫複合体が内部移行され、毒素が細胞内に放出されることを実証した。
【0184】
実施例11
M69-MMAE免疫複合体のインビトロ細胞傷害性
実施例10に記載のようなM69-MMAE免疫複合体のインビトロ細胞傷害性を評価するため、TNBC(MDA-MB-468、MDA-MB-231およびBT549)、前立腺(DU145およびPC3)、膵臓(PANC1およびMiaPacal)、NSCL(H322およびH1299)、卵巣(OVCAR5)、胃(AGS)、およびマントル細胞リンパ腫(Mino、Jeko、MaverおよびZ138)がんなどの腫瘍細胞を、指定通りの様々な濃度でのM69-MMAE免疫複合体に曝露した。免疫複合体への持続的曝露の72時間後、以下のようなMTS(Promega)アッセイにより細胞傷害性を評価した。つまり、MTS比色分析(Promega製CellTiter 96)を製造業者のプロトコルに従って実施した。がん細胞を96ウェルプレートに8000細胞/ウェルで蒔き、段階的滴定でM69-MMAEに37℃で72時間曝露した。未治療対照ウェルに関して、パーセント生存度を免疫複合体濃度に対してプロットした。各試験の結果は、5通りの測定の平均である。これらの細胞に対するM69-MMAEのIC50の値を下の表2にまとめた。指定腫瘍細胞に対するM69-MMAEのIC50は、上記のように96ウェルプレートを用いるMTS比色分析法により測定した。IC50値は、ADCが3.5MMAE/mAbの化学量論比を有することを考慮して、ADCの平均(μg/mL)±標準偏差およびMMAE濃度に相当するnMとして表した。
【0185】
これらのがん細胞は、免疫複合体に対して感受性を示し、コンジュゲートのIC50は範囲が1桁台前半~10の位のμg/mlであった。胃がん細胞AGSがMMAEコンジュゲートに対して非常に感受性が高く、IC50がわずか1.5μg/mLであった一方で、マントル細胞リンパ腫細胞Maverは、IC50に達するのにより高濃度(30μg/mL)のコンジュゲートを必要とした。約3分子のMMAEが各mAbに付着されるとき、IC50値は、指定通りの保有されるMMAE濃度として表した。コンジュゲートの選択的細胞傷害性を実証するため、BT549およびH1299などのマトリプターゼ陰性細胞のIC50についても得た(図14)。マトリプターゼ陽性および陰性細胞のIC50の比は、18~48の範囲でかなり顕著であり(H1299対H322、およびBT549対MDA-MB231)、これはM69-MMAEの選択性の度合いに応じて、最小化された副作用の利益が得られるものであることを示唆した。
【0186】
実施例12
M69-MMAE免疫複合体を含むインビボ異種移植試験
実施例10に記載のようなM69-MMAE免疫複合体を用いてパイロット異種移植試験を実施した。マウスコンジュゲートを10mg/kgで週3回腹腔内投与したヌードマウスにおける毒性試験(N=6)を、キメラM69-MMAEコンジュゲートを試験する前に実施した。体重減少または毒性の徴候がなく、これは構築物が安定であり、正常組織を標的にしなかったことを示す。この情報に基づき、ヒトトリプルネガティブ乳腺腫瘍MDA-MB-468を有するマウスを、M69-MMAE免疫複合体で治療した。図13は、重要なことにコンジュゲートがこのトリプルネガティブ乳がんに対して強力な抗がん活性を有する一方、動物において体重減少または毒性の他の証拠が認められなかったことを示し、これは遊離薬剤がコンジュゲートから循環中に有意に放出されなかったことを示す。これがマウスにおけるマウス抗体であることから、マトリプターゼに対する抗体応答であれば想定されないことになる。図14は、対照マウスおよびM69-MMAE免疫複合体で治療されたマウスにおける中央値腫瘍体積(mm単位)の結果を示し、腫瘍サイズにおける有意な増加が、M69-MMAEで治療されたマウスと比べて対照群において認められた。
【0187】
これらの結果に基づき、さらなるインビボ異種移植試験が認められた。これらのさらなる異種移植試験は、様々なタイプのがんに対するM69-MMAEのインビボ有効性を評価するために実施した。TNBC(MDA-MB-468およびMDA-MB-231)、前立腺がん細胞(DU145)、およびNSCLがん細胞(H322)を、トリプシン溶液を用いて対数増殖期にて収集し、PBSで洗浄した。PBS懸濁液100μl中の生細胞(7×10個)を、マトリゲル(BD Biosciences)100μlと混合し、動物の右側腹部に皮下注射した。一旦腫瘍が触知可能であると、マウスを各々、マウス6匹の治療群に無作為化した。動物は、5mg/kgのM69-MMAEまたは1mg/kgのM69-MMAEの腹腔内注射を週2回受けた。腫瘍サイズは、デジタルノギスで測定し、式4/3π×長さ×幅を用いて算出した。結果は、M69-MMAEの治療によるトリプルネガティブ乳腺腫瘍(MDA-MB468およびMDA-MB-231)の有効な退縮を示した(図15A)。NSCLおよび前立腺がんマウス双方の腫瘍増殖についても、媒体対照の1つと比べて大きく寛解した(図15B、C)。M69-MMAEの抗腫瘍活性は、わずか1mg/kgの用量で有効なままである(図15B)。意外にも、動物における体重減少または毒性の他の証拠が認められず、これは遊離薬剤がコンジュゲートから循環中に有意に放出されなかったことを示す(図15A)。
【0188】
実施例13
前立腺がん細胞は酸性細胞外pH下でM69-MMAEに対する感受性がより高い
マトリプターゼの活性化がアシドーシスにより誘導される。したがって、活性化マトリプターゼを発現するがん細胞は、抗原レベルの増加に起因する酸性条件下で、実施例10に記載のようなM69-MMAE免疫複合体の細胞傷害性効果に対する感受性がより高い。これは、DU145およびPC3前立腺がん細胞双方がpH6.5のHCl酸性培地下で免疫複合体に対する感受性が高くなるという実験により証明された。IC50は、DU145およびPC3細胞において各々、8から1μg/ml、および6.8から2μg/mL未満に有意に低下した(図16)。培地の炭酸緩衝化によりCO2インキュベーター内で1時間後にpHが漸増したことから、酸性条件への曝露は約30分間だけ維持した。
【0189】
腫瘍微小環境は、「ワールブルグ効果」とも称される現象の、酸素化条件と無関係にがん細胞の高いグリコール活性から生じる乳酸の蓄積に起因する酸性細胞外pH(pHe)によって特徴づけられる。蓄積された証拠によると、高い乳酸レベルが腫瘍の浸潤性および転移性進行ならびに腫瘍再発における主な駆動力であることが示される。したがって、M69-MMAEは、強力な毒素の、酸性環境下で活性化マトリプターゼを発現するがん細胞、例えば前立腺がん細胞への選択的送達を可能にする。
【0190】
実施例14
Taxatere抵抗性前立腺がん細胞(PC3R)はM69-MMAEに対する感受性を示す
化学療法抵抗性がん細胞に対する実施例10に記載のようなM69-MMAE免疫複合体のインビトロ有効性を判定するため、taxtere抵抗性細胞をコンジュゲートで治療した。PC3R細胞は、有糸分裂阻害に対する抵抗性に反して、親PC細胞のMMAEコンジュゲートに対する感受性と同様であった(図17)。これは、M69-MMAEが化学療法抵抗性前立腺がんを有する患者にとっていかに有効な治療であるかを強調する。
【0191】
極めて多数の様々な修飾が本発明の範囲および精神から逸脱することなくなされ得ることは当業者によって理解されるであろう。したがって、本明細書に記載の本発明の様々な実施形態があくまで例示的であり、本発明の範囲を限定することが意図されないことは理解されるべきである。本明細書に引用されるすべての参考文献は、それら全体が参照により援用される。
図1
図2
図3
図4A-4B】
図4C
図5
図6A-6B】
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図15-2】
図16
図17
図18
図19