(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】操舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20220926BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20220926BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20220926BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D101:00
B62D119:00
B62D113:00
(21)【出願番号】P 2018190999
(22)【出願日】2018-10-09
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モレヨン マキシム
(72)【発明者】
【氏名】田村 勉
(72)【発明者】
【氏名】フックス ロバート
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-321684(JP,A)
【文献】特開2017-024623(JP,A)
【文献】特開2006-151360(JP,A)
【文献】特開2015-123810(JP,A)
【文献】特表2019-513103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を操舵するためのハンドルと、
前記ハンドルと一体的に回転される回転軸の中間部に設けられたトーションバーと、
一端が前記回転軸と同行回転する部材に接続され、他端が車体に対し静止する部材に接続されたスパイラルケーブルと、
前記トーションバーに加えられているトーションバートルクを検出するためのトルク検出手段と、
運転者によって前記ハンドルに加えられるドライバトルクを推定するドライバトルク推定手段とを含み、
前記ドライバトルク推定手段は、
前記ハンドルの回転角を演算するハンドル回転角演算手段と、
前記トーションバートルクと、前記ハンドル回転角の2階微分値とハンドル慣性モーメントとの積であるハンドル慣性トルク補償値と、前記スパイラルケーブルによって前記ハンドルに作用するスパイラルケーブルトルクの補償値とを加算した加算値を含む値を、ドライバトルクとして演算するドライバトルク演算手段とを含む、操舵装置。
【請求項2】
前記ハンドルの回転に連動して転舵輪を転舵する転舵機構と、
前記転舵機構に操舵補助力を付与するための電動モータと、
前記電動モータの回転角に基づいて、前記回転軸における前記トーションバーよりも下流側部分の回転角を演算するための回転角演算手段をさらに含み、
前記ハンドル回転角演算手段は、前記回転軸における前記下流側部分の回転角および前記トーションバートルクを用いて前記ハンドルの回転角を演算するように構成されている、請求項1に記載の操舵装置。
【請求項3】
前記ハンドルの回転角を検出するための回転角検出手段をさらに含み、
前記ハンドル回転角演算手段は、前記回転角検出手段によって検出される回転角に基づいて前記ハンドルの回転角を演算するように構成されている、請求項1に記載の操舵装置。
【請求項4】
前記ドライバトルク演算手段は、前記加算値に、前記ハンドルの重心に作用する重力によって前記回転軸に与えられる回転アンバランストルクの補償値を加算して前記ドライバトルクを演算するように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の操舵装置である。
【請求項5】
前記ドライバトルク演算手段は、前記加算値に、前記回転軸における前記トーションバーよりも上流側部分および前記ハンドルに作用する粘性摩擦トルクの補償値を加算して前記ドライバトルクを演算するように構成されており、
前記粘性摩擦トルクの補償値は、前記ハンドル回転角の1階微分値と所定の粘性摩擦トルク係数との積である、請求項1~4のいずれか一項に記載の操舵装置。
【請求項6】
前記ドライバトルク演算手段は、前記加算値に、前記回転軸における前記上流側部分および前記ハンドルに作用するクーロン摩擦トルクの補償値を加算して前記ドライバトルクを演算するように構成されており、
前記クーロン摩擦トルクの補償値は、所定のクーロン摩擦トルク変化勾配と前記ハンドル回転角の1階微分値との積の双曲線正接値と、所定のクーロン摩擦トルク係数との積である、請求項1~5のいずれか一項に記載の操舵装置。
【請求項7】
前記スパイラルケーブルトルクの補償値は、前記スパイラルケーブルのばね定数と前記ハンドル回転角との積または前記ハンドル回転角に対する前記スパイラルケーブルトルクの補償値を表すマップデータから求められる、請求項1~6のいずれか一項に記載の操舵装置。
【請求項8】
前記ハンドルが車両に搭載された状態で、前記ハンドルの回転中心位置を通る鉛直線が前記ハンドルの回転平面となす角をハンドル傾き角とし、
前記ハンドル回転角は、車両の向きが直進方向となるハンドル位置を中立位置として、中立位置からの回転量および回転方向に応じた角度であり、
前記回転アンバランストルクの補償値は、前記ハンドルの重心位置と回転中心位置との間の距離と、前記ハンドルの質量と、前記ハンドル回転角の正弦値と、前記ハンドル傾き角の余弦値との積である、請求項4に記載の操舵装置。
【請求項9】
前記ドライバトルク推定手段によって推定されたドライバトルクに基づいて、ハンズオン状態であるかハンズオフ状態であるかを判定するハンズオン/オフ判定手段をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、運転者によってハンドルに加えられるドライバトルクを推定することが可能な操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、トーションバーのねじれを検出する操舵トルクセンサと、コラムシャフトの回転角(操舵角)を検出する操舵角センサと、操舵トルクセンサによって得られる操舵トルク検出値および操舵角センサによって得られる操舵角検出値に基づいてハンドル端トルク(ドライバトルク)を演算するトルク生成部とを含むステアリングシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の目的は、高精度にドライバトルクを推定できる操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、車両を操舵するためのハンドル(2)と、前記ハンドルと一体的に回転する回転軸(6,7,13)の中間部に設けられたトーションバー(10)と、一端が前記回転軸と同行回転する部材に接続され、他端が車体に対し静止する部材に接続されたスパイラルケーブル(33)と、前記トーションバーに加えられているトーションバートルクを検出するためのトルク検出手段(11)と、運転者によって前記ハンドルに加えられるドライバトルクを推定するドライバトルク推定手段(51)とを含み、前記ドライバトルク推定手段は、前記ハンドルの回転角を演算するハンドル回転角演算手段(61~64;25)と、前記トーションバートルクと、前記ハンドル回転角の2階微分値とハンドル慣性モーメントとの積であるハンドル慣性トルク補償値と、前記スパイラルケーブルによって前記ハンドルに作用するスパイラルケーブルトルクの補償値とを加算した加算値を含む値を、ドライバトルクとして演算するドライバトルク演算手段(65~67,73,74)とを含む、操舵装置である。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0006】
この構成では、トーションバートルクおよびハンドル慣性トルクの他に、スパイラルケーブルによってハンドルに作用するスパイラルケーブルトルクを考慮して、ドライバトルクが演算されるため、高精度にドライバトルクを推定できる。
請求項2に記載の発明は、前記ハンドルの回転に連動して転舵輪を転舵する転舵機構(4)と、前記転舵機構に操舵補助力を付与するための電動モータ(18)と、前記電動モータの回転角に基づいて、前記回転軸における前記トーションバーよりも下流側部分(9)の回転角を演算するための回転角演算手段(61,62)をさらに含み、前記ハンドル回転角演算手段は、前記回転軸における前記下流側部分の回転角および前記トーションバートルクを用いて前記ハンドルの回転角を演算するように構成されている、請求項1に記載の操舵装置である。
【0007】
請求項3に記載の発明は、前記ハンドルの回転角を検出するための回転角検出手段(25)をさらに含み、前記ハンドル回転角演算手段は、前記回転角検出手段によって検出される回転角に基づいて前記ハンドルの回転角を演算するように構成されている、請求項1に記載の操舵装置である。
請求項4に記載の発明は、前記ドライバトルク演算手段は、前記加算値に、前記ハンドルの重心に作用する重力によって前記回転軸に与えられる回転アンバランストルクの補償値を加算して前記ドライバトルクを演算するように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の操舵装置である。
【0008】
この構成では、ハンドルの重心に作用する重力によって回転軸に与えられる回転アンバランストルクをも考慮して、ドライバトルクが演算されるため、より高精度にドライバトルクを推定できる。
請求項5に記載の発明は、前記ドライバトルク演算手段は、前記加算値に、前記回転軸における前記トーションバーよりも上流側部分および前記ハンドルに作用する粘性摩擦トルクの補償値を加算して前記ドライバトルクを演算するように構成されており、前記粘性摩擦トルクの補償値は、前記ハンドル回転角の1階微分値と所定の粘性摩擦トルク係数との積である、請求項1~4のいずれか一項に記載の操舵装置である。
【0009】
この構成では、回転軸におけるトーションバーよりも上流側部分およびハンドルに作用する粘性摩擦トルクをも考慮して、ドライバトルクが演算されるため、より高精度にドライバトルクを推定できる。
請求項6に記載の発明は、前記ドライバトルク演算手段は、前記加算値に、前記回転軸における前記上流側部分および前記ハンドルに作用するクーロン摩擦トルクの補償値を加算して前記ドライバトルクを演算するように構成されており、前記クーロン摩擦トルクの補償値は、所定のクーロン摩擦トルク変化勾配と前記ハンドル回転角の1階微分値との積の双曲線正接値と、所定のクーロン摩擦トルク係数との積である、請求項1~5のいずれか一項に記載の操舵装置である。
【0010】
この構成では、回転軸におけるトーションバーよりも上流側部分およびハンドルに作用するクーロン摩擦トルクをも考慮して、ドライバトルクが演算されるため、より高精度にドライバトルクを推定できる。
請求項7に記載の発明は、前記スパイラルケーブルトルクの補償値は、前記スパイラルケーブルのばね定数と前記ハンドル回転角との積または前記ハンドル回転角に対する前記スパイラルケーブルトルクの補償値を表すマップデータから求められる、請求項1~6のいずれか一項に記載の操舵装置である。
【0011】
請求項8に記載の発明は、前記ハンドルが車両に搭載された状態で、前記ハンドルの回転中心位置を通る鉛直線が前記ハンドルの回転平面となす角をハンドル傾き角とし、前記ハンドル回転角は、車両の向きが直進方向となるハンドル位置を中立位置として、中立位置からの回転量および回転方向に応じた角度であり、前記回転アンバランストルクの補償値は、前記ハンドルの重心位置と回転中心位置との間の距離と、前記ハンドルの質量と、前記ハンドル回転角の正弦値と、前記ハンドル傾き角の余弦値との積である、請求項4に記載の操舵装置である。
【0012】
請求項9に記載の発明は、前記ドライバトルク推定手段によって推定されたドライバトルクに基づいて、ハンズオン状態であるかハンズオフ状態であるかを判定するハンズオン/オフ判定手段をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の操舵装置である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る操舵装置が適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】ECUの電気的構成を示すブロック図である。
【
図3】ハンドル操作状態判定部の電気的構成を示すブロック図である。
【
図4】ハンドル角速度推定値dθ
sw/dtと粘性摩擦トルク補償値T
cとの関係の一例を示すグラフである。
【
図5A】ハンドルの重心位置と第1軸の中心軸線とを示す図解的な正面図である。
【
図6】ハンドル角度推定値θ
swと回転アンバランストルク補償値T
ruとの関係の一例を示すグラフである。
【
図7】ハンドル角速度推定値dθ
sw/dtとクーロン摩擦トルク補償値T
frとの関係の一例を示すグラフである。
【
図8】ハンドル角速度推定値dθ
sw/dtとクーロン摩擦トルク補償値T
frとの関係の他の例を示すグラフである。
【
図9】ドライバトルク推定部の構成を示すブロック図である。
【
図10】ハンズオン/オフ判定部の動作を説明するための状態遷移図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る操舵装置が適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
この電動パワーステアリング装置(車両用操舵装置)1は、コラム部に電動モータと減速機とが配置されているコラムアシスト式電動パワーステアリング装置(以下、「コラム式EPS」という)である。
【0015】
コラム式EPS1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール(以下、「ハンドル」という)2と、このハンドル2の回転に連動して転舵輪3を転舵する転舵機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構5とを備えている。ハンドル2と転舵機構4とは、ステアリングシャフト6、第1ユニバーサルジョイント28、中間軸7および第2ユニバーサルジョイント29を介して機械的に連結されている。
【0016】
ハンドル2には、各種のスイッチを含む電子部品27が搭載されている。
ステアリングシャフト6は、ハンドル2に連結された第1軸8と、第1ユニバーサルジョイント28を介して中間軸7に連結された第2軸9とを含む。第1軸8と第2軸9とは、トーションバー10を介して相対回転可能に連結されている。
第1軸8は、ハンドル2と一体的に回転する回転軸におけるトーションバー10よりも上流側部分の一例である。第2軸9は、ハンドル2と一体的に回転する回転軸におけるトーションバー10よりも下流側部分の一例である。
【0017】
第1軸8には、スパイラルケーブル装置30が連結されている。スパイラルケーブル装置30は、ステータ31と、ロテータ32と、スパイラルケーブル33とを備えている。ステータ31は車体側に固定されている。ステータ31は、図示しない第1コネクタを有している。ロテータ32は、ステータ31に対して相対的に回転自在に取り付けられている。ロテータ32は、第1軸8と一体的に回転(同行回転)するようにハンドル2または第1軸8に固定されている。ロテータ32は、図示しない第2コネクタを有している。
【0018】
スパイラルケーブル33は、ステータ31とロテータ32とによって区画された空間に収容されている。スパイラルケーブル33の一端は、ロテータ32の第2コネクタに接続されている。第2コネクタは、図示しない接続ケーブルを介してハンドル2に搭載された電子部品27に電気的に接続されている。スパイラルケーブル33の他端は、ステータ31の第1コネクタに接続されている。第1コネクタは、図示しない接続ケーブルを介して車体側の装置(例えば各種スイッチに対応する装置)に電気的に接続されている。
【0019】
ステアリングシャフト6の周囲には、トルクセンサ11が設けられている。トルクセンサ11は、第1軸8および第2軸9の相対回転変位量に基づいて、トーションバー10に加えられているトーションバートルクTtbを検出する。トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbは、ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)12に入力される。
【0020】
転舵機構4は、ピニオン軸13と、転舵軸としてのラック軸14とを含むラック&ピニオン機構からなる。ラック軸14の各端部には、タイロッド15およびナックルアーム(図示略)を介して転舵輪3が連結されている。ピニオン軸13は、第2ユニバーサルジョイント29を介して中間軸7に連結されている。ピニオン軸13の先端には、ピニオン16が連結されている。
【0021】
ラック軸14は、車両の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸14の軸方向の中間部には、ピニオン16に噛み合うラック17が形成されている。このピニオン16およびラック17によって、ピニオン軸13の回転がラック軸14の軸方向移動に変換される。ラック軸14を軸方向に移動させることによって、転舵輪3を転舵することができる。
【0022】
ハンドル2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸13に伝達される。そして、ピニオン軸13の回転は、ピニオン16およびラック17によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
操舵補助機構5は、操舵補助力を発生するための電動モータ18と、電動モータ18の出力トルクを増幅して転舵機構4に伝達するための減速機19とを含む。この実施形態では、電動モータ18は、三相ブラシレスモータである。減速機19は、ウォームギヤ20と、このウォームギヤ20と噛み合うウォームホイール21とを含むウォームギヤ機構からなる。減速機19は、ギヤハウジング22内に収容されている。以下において、減速機19の減速比(ギヤ比)をrwgで表す場合がある。減速比rwgは、ウォームホイール21の角速度ωwwに対するウォームギヤ20の角速度ωwgの比ωwg/ωwwとして定義される。
【0023】
ウォームギヤ20は、電動モータ18によって回転駆動される。ウォームホイール21は、第2軸9に一体回転可能に連結されている。ウォームホイール21は、ウォームギヤ20によって回転駆動される。
電動モータ18は運転者の操舵状態に応じて駆動され、電動モータ18によってウォームギヤ20が回転駆動される。これにより、ウォームホイール21が回転駆動され、ステアリングシャフト6にモータトルクが付与されるとともにステアリングシャフト6(第2軸9)が回転する。そして、ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。すなわち、電動モータ18によってウォームギヤ20を回転駆動することによって、電動モータ18による操舵補助が可能となっている。
【0024】
電動モータ18のロータの回転角(以下、「ロータ回転角」という)は、レゾルバ等の回転角センサ23によって検出される。また、車速Vは車速センサ24によって検出される。回転角センサ23の出力信号および車速センサ24によって検出される車速Vは、ECU12に入力される。電動モータ18は、ECU12によって制御される。
図2は、ECU12の電気的構成を示す概略図である。
【0025】
ECU12は、マイクロコンピュータ40と、マイクロコンピュータ40によって制御され、電動モータ18に電力を供給する駆動回路(3相インバータ回路)38と、電動モータ18に流れる電流(以下、「モータ電流」という)を検出するための電流検出部39とを備えている。
マイクロコンピュータ40は、CPUおよびメモリ(ROM、RAM、不揮発性メモリなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、モータ制御部41と、ハンドル操作状態判定部42とが含まれる。
【0026】
モータ制御部41は、例えば、車速センサ24によって検出される車速V、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtb、回転角センサ23の出力に基づいて演算されるロータ回転角および電流検出部39によって検出されるモータ電流に基づいて、駆動回路38を駆動制御する。
具体的には、モータ制御部41は、トーションバートルクTtbおよび車速Vに基づいて、電動モータ18に流れるモータ電流の目標値である電流指令値を設定する。電流指令値は、操舵状況に応じた操舵補助力(アシストトルク)の目標値に対応している。そして、モータ制御部41は、電流検出部39によって検出されるモータ電流が電流指令値に近づくように、駆動回路38を駆動制御する。これにより、操舵状況に応じた適切な操舵補助が実現される。
【0027】
ハンドル操作状態判定部42は、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクT
tbおよび回転角センサ23の出力に基づいて演算されるロータ回転角に基づいて、運転者がハンドルを握っているハンズオン状態であるか運転者がハンドルを握っていないハンズオフ状態(手放し状態)であるかを判定する。
図3は、ハンドル操作状態判定部42の電気的構成を示すブロック図である。
【0028】
ハンドル操作状態判定部42は、ドライバトルク推定部51と、ローパスフィルタ52と、ハンズオン/オフ判定部53とを含む。ドライバトルク推定部51は、回転角センサ23の出力信号と、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbとに基づいて、ドライバトルクTdを推定する。
ローパスフィルタ52は、ドライバトルク推定部51によって推定されたドライバトルクTdに対してローパスフィルタ処理を行う。ハンズオン/オフ判定部53は、ローパスフィルタ52によるローパスフィルタ処理後のドライバトルクTd’に基づいて、ハンズオン状態かハンズオフ状態かを判定する。以下、これらについて説明する。
【0029】
ドライバトルク推定部51は、この実施形態では、次式(1)に基づいて、ドライバトルクTdを演算する。
Td=Jsw・d2θsw/dt2+Ttb+Tc+Tru+Tfr+Tsc …(1)
Jsw:ハンドル慣性モーメント
θsw:ハンドル角度推定値(ハンドル回転角)
d2θsw/dt2:ハンドル角加速度推定値(ハンドル角度推定値の2階微分値)
Jsw・d2θsw/dt2:ハンドル慣性トルク補償値{=-(ハンドル慣性トルク推定値)}
Ttb:トーションバートルク(この実施形態では、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルク)
Tc:粘性摩擦トルク補償値{=-(粘性摩擦トルク推定値)}
Tru:回転アンバランストルク補償値{=-(回転アンバランストルク推定値)}
Tfr:クーロン摩擦トルク補償値{=-(クーロン摩擦トルク推定値)}
Tsc:スパイラルケーブルトルク補償値{=-(スパイラルケーブルトルク推定値)}
トーションバートルクTtbおよびドライバトルクTdの符号は、この実施形態では、左操舵方向のトルクの場合には正となり、右操舵方向のトルクの場合には負となるものとする。ハンドル角度推定値θswは、ハンドルの中立位置からの正逆回転量を表し、この実施形態では、中立位置から左方向への回転量が正の値となり、中立位置から右方向への回転量が負の値となるものとする。
【0030】
ハンドル慣性トルク推定値(-Jsw・d2θsw/dt2)、粘性摩擦トルク推定値(-Tc)、クーロン摩擦トルク推定値(-Tfr)およびスパイラルケーブルトルク推定値(-Tsc)は、ドライバトルクTdの方向とは反対方向に作用する。このため、これらの推定値(-Jsw・d2θsw/dt2),(-Tc),(-Tfr),(-Tsc)の符号は、ドライバトルクTdの符号とは反対となる。
【0031】
したがって、ハンドル慣性トルク補償値Jsw・d2θsw/dt2、粘性摩擦トルク補償値Tc、クーロン摩擦トルク補償値Tfrおよびスパイラルケーブルトルク補償値Tscの符号は、ドライバトルクTdの符号と同じとなる。
回転アンバランストルク推定値(-Tru)の符号は、ハンドル角度推定値θswによって、ドライバトルクTdの方向と同じになる場合と反対になる場合とがある。したがって、回転アンバランストルク補償値Truの符号は、ハンドル角度推定値θswによって、ドライバトルクTdの方向と同じになる場合と反対になる場合とがある。
[ハンドル角度推定値θswの演算方法]
この実施形態では、ハンドル角度推定値θswは、次式(2)によって表される。
【0032】
θ
sw=(T
tb/k
tb)+θ
ww …(2)
k
tb:トーションバー10の剛性
θ
ww:第2軸9の回転角度(第2軸回転角)
第2軸回転角θ
wwは、次式(3.1)に基づいて演算される。
θ
ww=(θ
m/r
wg)+(T
m/k
gear) …(3.1)
θ
m:電動モータ18の回転角(この実施形態では、回転角センサ23によって検出されるロータ回転角)
T
m:モータトルク推定値
k
gear:ウォームギヤとウォームホイール間の剛性
モータトルク推定値T
mは、例えば、電流検出部39(
図2参照)によって検出されるモータ電流に電動モータ18のトルク定数を乗算することによって演算することができる。
【0033】
第2軸回転角θwwは、次式(3.2)に基づいて演算されてもよい。
θww=θm/rwg …(3.2)
式(3.1)からわかるように、kgearが大きい場合には(Tm/kgear)の値は小さな値となるが、kgearが小さい場合には(Tm/kgear)の値は大きな値となる。したがって、kgearが大きい場合には、式(3.2)に基づいて第2軸回転角θwwを演算してもよいが、kgearが小さい場合には、式(3.1)に基づいて第2軸回転角θwwを演算することが好ましい。
[粘性摩擦トルク補償値Tcの演算方法]
粘性摩擦トルク推定値(-Tc)は、第1軸8およびハンドル2に作用する粘性摩擦トルクの推定値である。粘性摩擦トルクは、第1軸8を支持する軸受やハンドル2に接続されるスパイラルケーブル33等の摺動に起因して発生する。
【0034】
粘性摩擦トルク推定値(-Tc)は、次式(4-1)に基づいて演算される。
-Tc=-Gc・dθsw/dt …(4-1)
Gc:粘性摩擦トルク係数
dθsw/dt:ハンドル角速度推定値(θswの1階微分値)
したがって、粘性摩擦トルク補償値Tcは、次式(4-2)に基づいて演算される。
【0035】
Tc=Gc・dθsw/dt …(4-2)
粘性摩擦トルク係数Gcは、次のようにして求めることができる。手放し状態で、電動モータ18を駆動し、ハンドル角速度推定値dθsw/dtをパラメータとして定常状態におけるトーションバートルクTtbを測定する。定常状態とは、ハンドル2に回転角加速度が発生していない状態、つまり、ハンドル角加速度推定値d2θsw/dt2が0である状態をいう。そして、ハンドル角速度推定値dθsw/dtに対するトーションバートルクTtbの変化率(勾配)を粘性摩擦トルク係数Gcとして求める。この際、ハンドル角速度推定値dθsw/dtとトーションバートルクTtbとの関係が線形でない場合には、それらの関係を任意の多項式にて近似してもよい。
【0036】
ハンドル角速度推定値dθ
sw/dtと粘性摩擦トルク補償値T
cとの関係の一例を
図4に示す。粘性摩擦トルク補償値T
cの絶対値は、ハンドル角速度推定値dθ
sw/dtの絶対値が大きくなるほど大きくなる。
[回転アンバランストルク補償値T
ruの演算方法]
回転アンバランストルク推定値(-T
ru)について説明する。
図5Aに示すように、ハンドル2の回転平面における重心位置Gと、回転中心C(ハンドル2の回転平面と第1軸8の中心軸線との交点)とは一致しない。ハンドル2の回転平面における重心位置Gと回転中心位置Cとの間の距離をオフセット距離d
cgということにする。また、ハンドル2の質量をmとし、重力加速度をg
cgとする。さらに、
図5Bに示すように、ハンドル2が車両に搭載された状態で、ハンドル2の回転中心位置Cを通る鉛直線がハンドル2の回転平面となす角をハンドル傾き角δとする。
【0037】
回転アンバランストルク推定値(-Tru)は、ハンドル2の重心Gに作用する重力m・gcgによって第1軸8に与えられるトルクの推定値である。具体的には、回転アンバランストルク推定値(-Tru)は、次式(5-1)に基づいて演算される。
-Tru=-Ggr・sin(θsw) …(5-1)
Ggrは、重力トルク係数であり、ハンドル2の質量mと重力加速度gcgとオフセット距離dcgとハンドル傾き角δの余弦値cos(δ)との積m・gcg・dcg・cos(δ)に応じた値である。sin(θsw)は、ハンドル角度推定値θswの正弦値である。
【0038】
したがって、回転アンバランストルク補償値Truは、次式(5-2)に基づいて演算される。
Tru=Ggr・sin(θsw) …(5-2)
オフセット距離dcg、ハンドル2の質量mおよびハンドル傾き角δがわかっている場合には、重力トルク係数Ggrは、Ggr=m・dcg・gcg・cos(δ)の式から求めることができる。
【0039】
重力トルク係数G
grは、次のようにして求めることもできる。すなわち、手放し状態でハンドル角度推定値θ
swをパラメータとして定常状態におけるトーションバートルクT
tbを測定する。ハンドル角度推定値θ
swが90度のときのトーションバートルクT
tbの絶対値を、重力トルク係数G
grとして求める。
ハンドル角度推定値θ
swと回転アンバランストルク補償値T
ruとの関係の一例を
図6に示す。ハンドル2の重心に作用する重力m・g
cgは、鉛直方向の力であるため、回転アンバランストルク補償値T
ruの絶対値は、ハンドル角度推定値θ
swが±90[deg]のときと、±270[deg]のときとに最大となり、これらの位置から±180[deg]毎ずれた角度位置でも最大となる。
[クーロン摩擦トルク補償値T
frの演算方法]
クーロン摩擦トルク推定値(-T
fr)は、第1軸8およびハンドル2に作用するクーロン摩擦トルクの推定値である。クーロン摩擦トルクは、第1軸8を支持する軸受やハンドル2に接続されるスパイラルケーブル33等で発生する。
【0040】
クーロン摩擦トルク推定値(-Tfr)は、次式(6-1)に基づいて演算される。
(-Tfr)=-Gf・tanh(η・dθsw/dt) …(6-1)
Gf:クーロン摩擦トルク係数
η:クーロン摩擦トルク変化勾配
したがって、クーロン摩擦トルク補償値Tfrは、次式(6-2)に基づいて演算される。
【0041】
Tfr=Gf・tanh(η・dθsw/dt) …(6-2)
クーロン摩擦トルク係数Gfrは、次のようにして求めることができる。手放し状態で、電動モータ18により第2軸9に付与されるモータトルクを徐々に大きくし、ハンドル角速度推定値dθsw/dtの絶対値がゼロよりも大きくなった時点、即ち、ハンドル2が動き始めた時点でのトーションバートルクTtbの絶対値をクーロン摩擦トルク係数Gfとして求める。クーロン摩擦トルク変化勾配ηについては、チューニングによって決定する。
【0042】
ハンドル角速度推定値dθ
sw/dtとクーロン摩擦トルク補償値T
frとの関係の一例を
図7に示す。クーロン摩擦トルク補償値T
fの絶対値は、ハンドル角速度推定値dθ
sw/dtの絶対値が0から大きくなると、ハンドル角速度推定値dθ
sw/dtの絶対値が小さい範囲では比較的大きな変化率で大きくなり、その後、クーロン摩擦トルク係数G
fの大きさに収束していく。ハンドル角速度推定値dθ
sw/dtの絶対値が小さい範囲での、ハンドル角速度推定値dθ
sw/dtに対するクーロン摩擦トルク補償値T
frの変化率は、クーロン摩擦トルク変化勾配ηが大きいほど大きくなる。
【0043】
なお、ハンドル角速度推定値dθ
sw/dtとクーロン摩擦トルク補償値T
frとの関係を表すマップを予め作成し、このマップに基づいてクーロン摩擦トルク補償値T
fを演算するようにしてもよい。この場合、ハンドル角速度推定値dθ
sw/dtとクーロン摩擦トルク補償値T
frとの関係は、
図8に示すような関係であってもよい。この例では、ハンドル角速度推定値dθ
sw/dtが-A以下の範囲では、クーロン摩擦トルク補償値T
frは-G
fの値をとる。ハンドル角速度推定値dθ
sw/dtが+A以上の範囲では、クーロン摩擦トルク補償値T
frは+G
fの値をとる。ハンドル角速度推定値dθ
sw/dtが-Aから+Aまでの範囲では、クーロン摩擦トルク補償値T
frは、ハンドル角速度推定値dθ
sw/dtが大きくなるにしたがって、-G
fから+G
fまで線形的に変化する。
[スパイラルケーブルトルク補償値T
scの演算方法]
スパイラルケーブルトルク推定値(-T
sc)は、スパイラルケーブル33のばね特性によってハンドル2に作用するトルクである。
【0044】
スパイラルケーブルトルク推定値(-Tsc)は、次式(7-1)に基づいて演算される。
(-Tsc)=-ksc・θsw …(7-1)
ksc:スパイラルケーブル33のばね定数
したがって、スパイラルケーブルトルク補償値Tscは、次式(7-2)に基づいて演算される。
【0045】
T
sc=k
sc・θ
sw …(7-2)
なお、ハンドル角度推定値θ
swとスパイラルケーブルトルク補償値T
scとの関係を表すマップを予め作成し、このマップに基づいてスパイラルケーブルトルク補償値T
scを演算するようにしてもよい。
図9は、ドライバトルク推定部51の構成を示すブロック図である。
【0046】
ドライバトルク推定部51は、ロータ回転角演算部61と、第2軸回転角演算部(θww演算部)62と、第1乗算部63と、第1加算部64と、第1微分演算部65と、第2微分演算部66と、第2乗算部67とを含む。ドライバトルク推定部51は、さらに、第3乗算部68と、tanh演算部69と、第4乗算部70と、sin演算部71と、第5乗算部72と、第6乗算部73と、第2加算部74とを含む。
【0047】
ロータ回転角演算部61は、回転角センサ23の出力信号に基づいて、電動モータ18の回転角(ロータ回転角)θmを演算する。第2軸回転角演算部(θww演算部)62は、前記式(3-1)に基づいて、第2軸回転角θwwを演算する。第2軸回転角演算部(θww演算部)62は、前記式(3-2)に基づいて、第2軸回転角θwwを演算するものであってもよい。
【0048】
第1乗算部63は、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbに、トーションバー10の剛性ktbの逆数を乗算する。第1加算部64は、第1乗算部63の乗算結果Ttb/ktbに、第2軸回転角演算部62によって演算された第2軸回転角θwwを加算することにより、ハンドル角度推定値θswを演算する(前記式(2)参照)。
【0049】
第1微分演算部65は、第1加算部64によって演算されたハンドル角度推定値θswを時間微分することにより、ハンドル角速度推定値dθsw/dtを演算する。第2微分演算部66は、第1微分演算部65によって演算されたハンドル角速度推定値dθsw/dtを時間微分することにより、ハンドル角加速度推定値d2θsw/dt2を演算する。
【0050】
第2乗算部67は、第2微分演算部66によって演算されたハンドル角加速度推定値d2θsw/dt2に、ハンドル慣性モーメントJswを乗算することにより、ハンドル慣性トルク補償値Jsw・d2θsw/dt2を演算する。
第3乗算部68は、第1微分演算部65によって演算されたハンドル角速度推定値dθsw/dtに、粘性摩擦トルク係数Gcを乗算することにより、粘性摩擦トルク補償値Tcを演算する(前記式(4-2)参照)。
【0051】
tanh演算部69は、第1微分演算部65によって演算されたハンドル角速度推定値dθsw/dtと、クーロン摩擦トルク変化勾配ηとを用いて、tanh(η・dθsw/dt)を演算する。第4乗算部70は、tanh演算部69によって演算されたtanh(η・dθsw/dt)に、クーロン摩擦トルク係数Gfを乗算することにより、クーロン摩擦トルク補償値Tfrを演算する(前記式(6-2)参照)。
【0052】
sin演算部71は、第1加算部64によって演算されたハンドル角度推定値θswの正弦値sin(θsw)を演算する。第5乗算部72は、sin演算部71によって演算されたハンドル角度推定値θswの正弦値sinθswに、重力トルク係数Ggrを乗算することにより、回転アンバランストルク補償値Truを演算する(前記式(5-2)参照)。
【0053】
第6乗算部73は、第1加算部64によって演算されたハンドル角度推定値θswにスパイラルケーブル33のばね定数kscを乗算することにより、スパイラルケーブルトルク補償値Tscを演算する(前記式(7-2)参照)。
第2加算部74は、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbに、第2、第3、第4、第5および第6乗算部67、68、70、72および73それぞれによって演算されたJsw・d2θsw/dt2、Tc、Tfr、TruおよびTscを加算することにより、ドライバトルク(推定値)Tdを演算する。
【0054】
この実施形態では、ハンドル慣性トルク推定値(-Jsw・d2θsw)およびトーションバートルクTtbの他に、粘性摩擦トルク推定値(-Tc)、回転アンバランストルク推定値(-Tru)、クーロン摩擦トルク推定値(-Tfr)およびスパイラルケーブルトルク推定値(-Tsc)をも考慮して、ドライバトルクTdが演算されているので、高精度にドライバトルクを推定できる。
【0055】
図3に戻り、ローパスフィルタ52は、ドライバトルク推定部51によって演算されたドライバトルクT
dのうち、所定のカットオフ周波数fcより高い周波数成分を減衰させる。カットオフ周波数fcは、例えば、3[Hz]以上7[Hz]以下の範囲内の値に設定される。ローパスフィルタ52は、この実施形態では、2次のバターワースフィルタからなる。ローパスフィルタ52によるローパスフィルタ処理後のドライバトルクT
d’は、ハンズオン/オフ判定部53に与えられる。
【0056】
図10は、ハンズオン/オフ判定部53の動作を説明するための状態遷移図である。
ハンズオン/オフ判定部53の動作説明においては、ローパスフィルタ52によるローパスフィルタ処理後のドライバトルクT
dを、単に「ドライバトルクT
d’」ということにする。
ハンズオン/オフ判定部53は、ドライバのハンドル操作状態として、「閾値より上のハンズオン状態(ST1)」と、「閾値以下のハンズオン状態(ST2)」と、「閾値以下のハンズオフ状態(ST3)」と、「閾値より上のハンズオフ状態(ST4)」との4状態を識別する。ハンズオン/オフ判定部53は、所定時間T[sec]毎にこれら4状態の識別を行う。
【0057】
「閾値より上のハンズオン状態(ST1)」は、ドライバトルクTd’の絶対値が所定の閾値α(>0)より大きいハンズオン状態である。「閾値以下のハンズオン状態(ST2)」は、ドライバトルクTd’の絶対値が閾値α以下であるハンズオン状態である。「閾値以下のハンズオフ状態(ST3)」は、ドライバトルクTd’の絶対値が閾値α以下であるハンズオフ状態である。「閾値より上のハンズオフ状態(ST4)」は、ドライバトルクTd’の絶対値が閾値αより大きいハンズオフ状態である。「閾値αは、たとえば、0.1[Nm]以上0.3[Nm]以下の範囲内の値に設定される。
【0058】
上記4状態のいずれであるかが未定の判定開始時において、ドライバトルクTd’の絶対値が閾値αよりも大きいときには、ハンズオン/オフ判定部53は、ハンドル操作状態が「閾値より上のハンズオン状態(ST1)」であると判定する。そして、ハンズオン/オフ判定部53は、出力信号(out)を“1”に設定するとともにタイムカウンタ値hod_timerを0に設定する。出力信号(out)は、判定結果を表す信号であり、“1”は判定結果がハンズオンであることを表し、“0”は判定結果がハンズオフであることを表す。
【0059】
「閾値より上のハンズオン状態(ST1)」において、ドライバトルクTd’の絶対値が閾値α以下になると、ハンズオン/オフ判定部53は、ハンドル操作状態が「閾値以下のハンズオン状態(ST2)」になったと判定する。そして、ハンズオン/オフ判定部53は、出力信号(out)を“1”に設定する。また、ハンズオン/オフ判定部53は、「閾値以下のハンズオン状態(ST2)」であると判定している場合には、所定時間T[sec]が経過する毎に、タイムカウンタ値hod_timerを、現在値(hod_timer)に所定値Tsを加算した値に更新する。
【0060】
「閾値以下のハンズオン状態(ST2)」において、タイムカウンタ値hod_timerが所定のハンズオフ判定用閾値β(>0)に達する前に、ドライバトルクTd’の絶対値が閾値αよりも大きくなると、ハンズオン/オフ判定部53は、ハンドル操作状態が「閾値より上のハンズオン状態(ST1)」になったと判定し、タイムカウンタ値hod_timerを0に設定する。
【0061】
「閾値以下のハンズオン状態(ST2)」において、ドライバトルクTd’の絶対値が閾値αよりも大きくなることなく、タイムカウンタ値hod_timerがハンズオフ判定用閾値βに達すると、ハンズオン/オフ判定部53は、ハンドル操作状態が「閾値以下のハンズオフ状態(ST3)」になったと判定する。そして、ハンズオン/オフ判定部53は、出力信号(out)を“0”に設定するとともにタイムカウンタ値hod_timerを0に設定する。ハンズオフ判定用閾値βは、たとえば、0.5[sec]以上1.0[sec]以下の範囲内の値に設定される。
【0062】
「閾値以下のハンズオフ状態(ST3)」において、ドライバトルクTd’の絶対値が閾値αよりも大きくなると、ハンズオン/オフ判定部53は、ハンドル操作状態が「閾値より上のハンズオフ状態(ST4)」になったと判定する。そして、ハンズオン/オフ判定部53は、出力信号(out)を“0”に設定する。また、ハンズオン/オフ判定部53は、「閾値より上のハンズオフ状態(ST4)」であると判定している場合には、所定時間T[sec]が経過する毎に、タイムカウンタ値hod_timerを、現在値(hod_timer)に所定値Tsを加算した値に更新する。
【0063】
「閾値より上のハンズオフ状態(ST4)」において、タイムカウンタ値hod_timerが所定のハンズオン判定用閾値γ(>0)に達する前に、ドライバトルクTd’の絶対値が閾値α以下になると、ハンズオン/オフ判定部53は、ハンドル操作状態が「閾値以下のハンズオフ状態(ST3)」になったと判定し、タイムカウンタ値hod_timerを0に設定する。ハンズオン判定用閾値γは、たとえば、0.05[sec]以上0.1[sec]以下の範囲内の値に設定される。
【0064】
「閾値より上のハンズオフ状態(ST4)」において、ドライバトルクTd’の絶対値が閾値α以下になることなく、タイムカウンタ値hod_timerがハンズオン判定用閾値γに達すると、ハンズオン/オフ判定部53は、ハンドル操作状態が「閾値より上のハンズオン状態(ST1)」になったと判定する。そして、ハンズオン/オフ判定部53は、出力信号(out)を“1”に設定するとともにタイムカウンタ値hod_timerを0に設定する。
【0065】
なお、判定開始時において、ドライバトルクTd’の絶対値が閾値α以下であるときには、ハンズオン/オフ判定部53は、ハンドル操作状態が「閾値以下のハンズオフ状態(ST3)」であると判定する。そして、ハンズオン/オフ判定部53は、出力信号(out)を“0”に設定するとともにタイムカウンタ値hod_timerを0に設定する。
この実施形態では、ドライバトルク推定部51によって高精度にドライバトルクTdが推定される。そして、推定されたドライバトルクTdの高周波数成分が除去される。この高周波数成分除去後のドライバトルクTd’に基づき、トルク閾値αとタイムカウンタ値hod_timerとを用いてハンズオン/オフ判定が行われる。このため、運転者がハンドルを握っているハンズオン状態であるか運転者がハンドルを握っていないハンズオフ状態であるかを高精度に判定できる。
【0066】
ハンズオン/オフ判定結果は、たとえば、運転モードとして自動運転モードと手動運転モードとが用意されている車両において、運転モードを自動運転モードから手動運転モードに切り替える際に、ハンズオン状態であることを確認してから、手動運転モードに切り替えるといったモード切替制御に利用することができる。
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、ドライバトルク推定部51は、前記式(1)に基づいて、ドライバトルクTdを演算しているが、ドライバトルク推定部51は、次式(8)、(9)、(10)または(11)に基づいて、ドライバトルクTdを演算してもよい。
【0067】
Td=Jsw・d2θsw/dt2+Ttb+Tsc …(8)
Td=Jsw・d2θsw/dt2+Ttb+Tru+Tsc …(9)
Td=Jsw・d2θsw/dt2+Ttb+Tru+Tfr+Tsc …(10)
Td=Jsw・d2θsw/dt2+Ttb+Tc+Tru+Tsc …(11)
また、前述の実施形態では、トーションバートルクTtbおよび第2軸回転角θwwを用いて演算されたハンドル角度推定値θswをハンドル2の回転角としてドライバトルクTdを演算しているが、第2軸回転角θwwをハンドル角度推定値θswとしてドライバトルクTdを演算してもよい。
【0068】
また、
図1に2点鎖線で示すように、ハンドル2の回転角を検出する舵角センサ25を第1軸8に設け、舵角センサ25が検出するハンドル2の回転角をハンドル回転角θ
swとしてドライバトルクT
dを演算してもよい。
また、前述の実施形態では、ハンドル操作状態判定部42(
図3参照)内のローパスフィルタ52は、ドライバトルク推定部51の後段に設けられているが、ドライバトルク推定部51の前段に設けるようにしてもよい。また、ローパスフィルタ52を省略してもよい。
【0069】
また、前述の実施形態では、電動モータ18は三相ブラシレスモータであったが、電動モータ18はブラシ付き直流モータであってもよい。
また、前述の実施形態では、この発明をコラムアシスト式EPSに適用した場合の例を示したが、この発明は、デュアルピニオン式EPS、ラックアシスト式EPS等のコラムアシスト式EPS以外のEPSにも適用することができる。
【0070】
デュアルピニオン式EPSとは、
図1のラック(以下、第1ラックという)に噛み合うピニオン(以下、第1ピニオンという)を有するピニオン軸(第1ピニオン軸)とは別に、ステアリングシャフトに連結されない第2ピニオン軸とを有し、第2ピニオン軸に対して操舵補助機構が設けられるEPSである。第2ピニオン軸は、ラック軸に設けられた第2ラックに噛み合う第2ピニオンを有している。この場合には、操舵補助機構は、電動モータと、電動モータのトルクを第2ピニオン軸に伝達するための減速機とからなる。
【0071】
デュアルピニオン式EPSの場合、ハンドルと一体的に回転する回転軸(例えば、
図1のステアリングシャフト6、中間軸7、ピニオン軸13)におけるトーションバーよりも下流側部分の回転角は、電動モータの回転角と、減速機の減速比と、第2ピニオンと第2ラックからなる第2ラック&ピニオン機構のラックゲインと、第1ピニオンと第1ラックからなる第1ラック&ピニオン機構のラックゲインとに基づいて演算される。なお、ラック&ピニオン機構の「ラックゲイン」とは、ピニオンの1回転当たりのラックの直線変位量[mm/rev]をいう。
【0072】
その他、この発明は、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1…コラム式EPS、8…第1軸、9…第2軸、10…トーションバー、11…トルクセンサ、12…ECU、18…電動モータ、19…減速機、20…ウォームギヤ、21…ウォームホイール、23…回転角センサ、33…スパイラルケーブル、42…ハンドル操作状態判定部、51…ドライバトルク推定部、52…ローパスフィルタ、53…ハンズオン/オフ判定部