(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】抗ウイルス性繊維構造体
(51)【国際特許分類】
D06M 15/31 20060101AFI20220926BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20220926BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220926BHJP
A01N 61/00 20060101ALI20220926BHJP
D06M 101/28 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
D06M15/31
A01N25/34 B
A01P1/00
A01N61/00 D
D06M101:28
(21)【出願番号】P 2018061519
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2021-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】西田 光生
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-147473(JP,A)
【文献】特開2013-147774(JP,A)
【文献】国際公開第2015/104971(WO,A1)
【文献】特開2014-074243(JP,A)
【文献】特開平09-273062(JP,A)
【文献】特開2017-036431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00-15/715
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維を含有する繊維構造物の表面にH型カルボキシル基含有粒子が付着されている抗ウイルス性繊維構造体であって、前記架橋アクリレート系繊維中のH型カルボキシル基含有量が、1g当たり3.0mmol当量~7.0mmol当量であること、前記繊維構造物中の前記架橋アクリレート系繊維の含有量が、60質量%以上であること、前記粒子中のH型カルボキシル基含有量が、1g当たり3.0mmol当量~7.0mmol当量であること、前記H型カルボキシル基含有粒子が、1.2g/m
2~4.0g/m
2の目付で繊維構造物の表面に付着されていること、抗ウイルス性繊維構造体のJIS-L1096(2010)A法に従って測定した通気性が12cm
3/cm
2・s以上であること、及び
インフルエンザウイルスA(H1N1)FR8株を用いた50%感染価法[TCID50]で評価したインフルエンザウイルス
A(H1N1)FR8株に対するウイルス感染価減少値が
3.9以上であり、
ネコカリシウイルスF9株を用いた50%感染価法[TCID50]で評価したネコカリシウイルス
F9株に対するウイルス感染価減少値が
3.0以上であることを特徴とする、抗ウイルス性繊維構造体。
【請求項2】
前記架橋アクリレート系繊維が、繊維構造物中に30g/m
2~100g/m
2の目付で含有されていることを特徴とする、請求項1に記載の抗ウイルス性繊維構造体。
【請求項3】
前記抗ウイルス性繊維構造体が、マスク又は空気清浄機のエアフィルターに使用されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の抗ウイルス性繊維構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザウイルスなどのエンベロープを有するウイルスだけでなく、ノロウイルスのようなエンベロープを有さない微小で薬剤耐性の高いウイルスに対しても十分な捕獲性能を有する抗ウイルス性繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、人類のグローバル化により、ウイルスの感染爆発の危険性が高まり、人的被害の大規模化をもたらすと言われている。また、感染による影響範囲の拡大だけでなく、ウイルスの種類についても、鳥インフルエンザウイルス、MERSコロナウイルス、エボラウイルス、ノロウイルス等、死者の発生にまで至る新種のウイルス発生が見られ、その解決策・対応策が強く求められている。
【0003】
ウイルスは、種々の媒体を通じて感染するが、これまでの対策として、空気感染に対しては、マスク着用やエアフィルターの装備、接触感染に対しては、手袋・ガウン等の防備具使用が実施されている。特に、感染を水際で防止するために、人間を取り巻く繊維製品について、ウイルス感染への対策が強く望まれている。
【0004】
しかし、ウイルスは、細菌よりもはるかに小さいサイズ(数十nmから数百nm)であり、さらに少量でも感染能力を有するため、ウイルスに対して、バリア機能や捕獲機能を謳っている繊維製品はあるが、その機能は十分ではないという問題がある。さらに、ノロウイルスやポリオウイルスのようなエンベロープを持たないウイルスは、一般的に薬剤に対する耐性が高いことから、より有効な対策が求められている。
【0005】
こうした問題に鑑み、ウイルスの無力化や増殖抑制の効果が高い金属イオンを利用した繊維製品が、各種提案されている。例えば、特許文献1では、銅、銀、亜鉛、ニッケルなどの金属イオンを担持した、マレイン酸成分をモノマー単位として含む高分子からなる抗ウイルス物質及びそれを含む抗ウイルス繊維が提案されている。また、特許文献2では、アミノ酸銀、アミノ酸亜鉛、及び銅イオンを含む抗ウイルス性組成物及びそれを含む繊維製品が提案されている。しかしながら、これらの特許文献1,2の金属イオンの徐放による抗ウイルス効果は、当然、人間を含む周辺の生命体や環境に対しても悪影響があり、この効果をそのまま利用することが難しい問題があった。
【0006】
金属イオンを利用せずに抗ウイルス効果を発揮させたものとしては、例えば特許文献3において、特定のポリオキシアルキレン基を有するカチオン界面活性剤と水溶性溶剤を含有する抗ウイルス組成物が提案されている。しかしながら、特許文献3の抗ウイルス組成物は、繊維製品に付着させても容易に脱落しやすく、しかもこの組成物を繊維製品に均一に付着処理することが難しい問題があった。
【0007】
また、界面活性剤を使用せずに抗ウイルス効果を発揮させたものとしては、例えば、特許文献4の表面がポリマーにより構成されている繊維構造体に酸性官能基をグラフト重合法により導入した抗ウイルス性部材や、特許文献5のH型カルボキシル基及び架橋構造を有するビニル系重合体からなる抗ウイルス粒子を固着させた繊維製品が提案されている。しかしながら、特許文献4の抗ウイルス性部材や特許文献5の抗ウイルス粒子固着製品は、エンベロープを有さない微小ウイルスに対してはあまり抑制効果が発揮できず、しかも繊維製品に使用した場合に風合いや通気性が劣ってしまう問題があった。
【0008】
以上のように、人間を含む環境に悪影響を与えず、しかも繊維形態にした場合の風合いや通気性を損なわずにノロウイルスのようなエンベロープを有さない微小で薬剤耐性の高いウイルスに対しても十分な捕獲性能を示すことができる抗ウイルス性繊維構造体は提案されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4584339号公報
【文献】特開2017-133137号公報
【文献】特開2017-8443号公報
【文献】特開2015-199718号公報
【文献】特開2013-147473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、インフルエンザウイルスなどのエンベロープを有するウイルスだけでなく、ノロウイルスのようなエンベロープを有さない微小で薬剤耐性の高いウイルスに対しても十分な捕獲性能を有する抗ウイルス性繊維構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、繊維形態にした場合に風合いや通気性を損なわないが抗ウイルス効果を発揮する程度の量のH型カルボキシル基を含有させた架橋アクリレート系繊維を含有する繊維構造物を作成し、さらに抗ウイルス効果を増強するために、この繊維構造物の表面にH型カルボキシル基含有粒子を特定量の範囲で付着させることにより、繊維の風合いや通気性を損なわずに幅広い種類のウイルスに対して十分な抑制効果を示すことを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下の(1)~(3)の構成を有するものである。
(1)H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維を含有する繊維構造物の表面にH型カルボキシル基含有粒子が付着されている抗ウイルス性繊維構造体であって、前記架橋アクリレート系繊維中のH型カルボキシル基含有量が、1g当たり3.0mmol当量~7.0mmol当量であること、前記繊維構造物中の前記架橋アクリレート系繊維の含有量が、60質量%以上であること、前記粒子中のH型カルボキシル基含有量が、1g当たり3.0mmol当量~7.0mmol当量であること、前記H型カルボキシル基含有粒子が、1.2g/m2~4.0g/m2の目付で繊維構造物の表面に付着されていること、抗ウイルス性繊維構造体のJIS-L1096(2010)A法に従って測定した通気性が12cm
3
/cm
2
・s以上であること、及びインフルエンザウイルスに対するウイルス感染価減少値が3.5以上であり、ネコカリシウイルスに対するウイルス感染価減少値が2.0以上であることを特徴とする、抗ウイルス性繊維構造体。
(2)前記架橋アクリレート系繊維が、繊維構造物中に30g/m2~100g/m2の目付で含有されていることを特徴とする、(1)に記載の抗ウイルス性繊維構造体。
(3)前記抗ウイルス性繊維構造体が、マスク又は空気清浄機のエアフィルターに使用されることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の抗ウイルス性繊維構造体。
【発明の効果】
【0013】
本発明の抗ウイルス性繊維構造体は、繊維構造体を構成する架橋アクリレート系繊維のH型カルボキシル基量を抗ウイルス効果を示しながら風合いや通気性を損なわない範囲に抑制し、さらに抗ウイルス効果を増強するために繊維構造物にH型カルボキシル基含有粒子を特定量の範囲で付着しているので、繊維構造物の風合いや通気性を損なわず、しかも人間を含む環境に悪影響を与えずに、インフルエンザウイルスなどのエンベロープを有するウイルスだけでなく、ノロウイルスのようなエンベロープを有さない微小で薬剤耐性の高いウイルスを含む幅広い種類のウイルスに対しても捕獲効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の抗ウイルス性繊維構造体は、H型カルボキシル基を特定量の範囲で含有する架橋アクリレート系繊維を含有する繊維構造物の表面にH型カルボキシル基含有粒子を特定量付着させたことを特徴とするものであり、これによりH型カルボキシル基の大量付着による繊維の風合いや通気性の劣化を避けながらインフルエンザウイルスなどのエンベロープを有するウイルスだけでなく、ノロウイルスのようなエンベロープを有さない微小で薬剤耐性の高いウイルスに対しても幅広く高い捕獲効果を示すものである。
【0015】
本発明の抗ウイルス性繊維構造体において使用される架橋アクリレート系繊維は、それ自体従来公知の方法を使用して製造されることができ、例えばアクリロニトリル系繊維に架橋処理、加水分解処理、及び必要により酸処理を施すことによって製造されることができる。以下、この繊維の製造方法を具体的に説明する。
【0016】
まず、原料繊維となるアクリロニトリル系繊維としては、アクリロニトリルを40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上含有するアクリロニトリル系重合体により形成された繊維を使用することができる。かかるアクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリル単独重合体のほかに、アクリロニトリルと他のモノマーとの共重合体も採用できる。共重合体における他のモノマーとしては、特に限定はないが、(メタ)アクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有モノマー及びその塩;アクリルアミド、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0017】
アクリロニトリル系繊維の製造手段に限定はなく、適宜従来公知の手段が用いられる。また、アクリロニトリル系繊維の形態については、短繊維、トウ、糸、編織物、不織布等、いずれの形態のものでも良い。
【0018】
次に、アクリロニトリル系繊維に対して、1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物による架橋処理を施す。この架橋処理により、アクリロニトリル系繊維中のニトリル基と1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物が反応して、架橋構造が形成され、これに伴い、繊維中の窒素含有量が増加する。架橋処理に使用される1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物としては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン等のヒドラジン系化合物やエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン等のアミノ基を複数有する化合物等が例示される。これらの中でもヒドラジン系化合物が、反応しやすく、コスト的にも有利であるため、好ましい。
【0019】
上述のようにして架橋処理を施された繊維は、次に加水分解処理を施される。この加水分解処理により、繊維中のニトリル基がカルボキシル基に化学変性される。加水分解処理の手段としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アンモニア等の塩基性水溶液、あるいは、硝酸、硫酸、塩酸等の酸性水溶液中に架橋処理を施された繊維を浸漬した状態で加熱処理する手段が挙げられる。具体的な処理条件としては、最終的に得られるH型カルボキシル基含有アクリレート系繊維に保持させたいH型カルボキシル基の量などを勘案し、処理薬剤の濃度、反応温度、反応時間等の諸条件を適宜設定すればよいが、好ましくは0.5~10質量%、さらに好ましくは1~5質量%の処理薬剤水溶液中、温度50~120℃で1~10時間処理する手段が、工業的、繊維物性的にも好ましい。なお、加水分解処理は、必ずしも架橋処理の後に行なう必要はなく、架橋処理と同時に加水分解処理を行うこともできる。
【0020】
以上のようにして加水分解処理を施された繊維のカルボキシル基は、加水分解処理において酸性水溶液を用いた場合は、H型カルボキシル基(-COOH)となっているが、加水分解処理において塩基性水溶液を用いた場合は、塩型カルボキシル基となっているので、次に、酸処理をすることでH型カルボキシル基に変換される。具体的には、加水分解処理においてアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アンモニア等の塩基性水溶液を用いた場合、生成されるカルボキシル基はアルカリ金属などのカチオンとイオン結合を形成して塩型カルボキシル基となっているが、酸処理することにより、これらのカチオンが水素イオンに置換され、カルボキシル基は-COOHの形のH型カルボキシル基となる。酸処理の手段としては、加水分解を施された繊維を塩酸、酢酸、硝酸、硫酸等の酸性水溶液に浸漬した後に乾燥する方法が好適に用いられる。
【0021】
なお、上述のアクリロニトリル系繊維に架橋処理、加水分解処理、及び必要により酸処理を施して得られる繊維は、従来公知であり、例えば、特開平8-246342号公報、特開平8-325938、特開平11-081130号公報、特開2000-265365号公報などに記載されている繊維を用いることもできる。
【0022】
本発明において、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維中のH型カルボキシル基の含有量は、架橋アクリレート系繊維1g当たり3.0mmol当量~7.0mmol当量であることが必要であり、好ましくは、架橋アクリレート系繊維1g当たり3.0mmol当量~6.5mmol当量であり、より好ましくは、架橋アクリレート系繊維1g当たり3.0mmol当量~6.0mmol当量である。架橋アクリレート系繊維中のH型カルボキシル基の含有量が上記下限未満では、十分な抗ウイルス性が得られないおそれがあり、一方、上記上限を越えると、得られる架橋アクリレート系繊維の水膨潤性が高くなり、かつ繊維がもろくなり、実用上満足しうる繊維物性が得られないおそれがある。架橋アクリレート系繊維中のH型カルボキシル基の含有量は、上述の加水分解処理時の処理条件を適宜調節することによって制御することができる。
【0023】
以上のようにして製造されたH型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維は、単独で、又は必要に応じて他の繊維と組み合わされて、繊維構造物に成形される。
【0024】
上記の繊維構造物において、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維と組み合わされることができる他の繊維としては特に制限はなく、公用されている天然繊維、有機繊維、半合成繊維、合成繊維が用いられ、さらには無機繊維、ガラス繊維等も用途によっては採用し得る。具体的な例としては、綿、麻、絹、羊毛、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、アクリル繊維などを挙げることができる。
【0025】
繊維構造物の外観形態としては、糸、ヤーン(ラップヤーンも含む)、フィラメント、織物、編物、不織布、紙状物、シート状物、積層体、綿状体(球状や塊状のものを含む)等を挙げることができ、さらにはそれらに外被を設けたものも挙げることができる。繊維構造物内におけるH型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維の含有形態としては、他の繊維との混合により、実質的に均一に分布させたものや、複数の層を有する構造物の場合には、いずれかの層(単数でも複数でも良い)に集中して存在させたものや、夫々の層に特定比率で分布させたもの等を挙げることができる。
【0026】
従って、かかる繊維構造物としては、上記に例示した外観形態及び含有形態の組合せとして、無数のものが存在する。いかなる構造物とするかは、最終製品の使用態様、要求される機能、かかる機能を発現することへの本発明の抗ウイルス性繊維構造体の寄与の仕方等を勘案して適宜決定される。それらの中で、使い易さ・経済性・加工容易性を考慮すると、織布や不織布、特にスパンレース不織布が好適な例として挙げられる。
【0027】
繊維構造物中のH型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維の含有量は、60質量%以上であることが必要であり、好ましくは、70質量%以上、より好ましくは、100質量%である。含有量が上記下限未満では、十分な抗ウイルス性が得られないおそれがある。
【0028】
また、繊維構造物中のH型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維の目付は、30g/m2~100g/m2であることが好ましく、より好ましくは、30g/m2~70g/m2である。目付が上記下限未満では、十分な抗ウイルス性能が得られないおそれがあり、一方、上記上限を越えると、製品としての風合いや通気性が損なわれるおそれがある。
【0029】
本発明では、以上のようにして製造された繊維構造物をそのまま抗ウイルス性製品として使用するのではなく、この繊維構造物の表面にさらにH型カルボキシル基含有粒子を付着させることを特徴とする。これにより、抗ウイルス性能を有するH型カルボキシル基を、実用上、表面積を大きくすることのできる繊維構造物に対して、ウイルスが接触するその構成繊維の表面に効果的に配置することができる。その結果として、インフルエンザウイルスなどのエンベロープを有するウイルスだけでなく、ノロウイルスのようなエンベロープを有さない微小で薬剤耐性の高いウイルスに対しても、十分な抗ウイルス性能を示すことができる。それに加えて、繊維構造体それ自体が表面にH型カルボキシル基を有するので、外部表面で捕獲できなかった微小ウイルス又は外部表面で飽和してしまった微小ウイルスも、内部表面で捕獲して、十分な抗ウイルス効果を示すことができる。
【0030】
繊維構造物表面へ付着させるH型カルボキシル基含有粒子としては、H型カルボキシル基を有する重合体からなる粒子を使用することができる。H型カルボキシル基を有する重合体の種類としては、特に限定は無く、重付加重合体、重縮合重合体のいずれでもよく、前者については、ポリオレフィン、ビニル系重合体など、後者については、ポリエーテル系重合体、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリウレタン系重合体などを挙げることができる。中でも、単量体の種類が豊富で抗ウイルス性能以外の特性の調整も容易に行うことができる観点からビニル系重合体が好適である。
【0031】
かかるH型カルボキシル基を有する重合体の製造方法としては、特に限定はなく、例えばH型カルボキシル基を有する単量体を重合する方法、重合体を化学変性することによりH型カルボキシル基を導入する方法、あるいは重合体に対してH型カルボキシル基を有する単量体をグラフト重合する方法等が挙げられる。共重合する方法及びグラフト重合する方法におけるH型カルボキシル基を有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等が挙げられる。
【0032】
また、上述の化学変性する方法としては、例えば化学変性処理することによりカルボキシル基を得られるような官能基を有する単量体よりなる重合体を得た後に、加水分解によってH型カルボキシル基又は塩型カルボキシル基に変性し、塩型カルボキシル基の場合にはイオン交換樹脂等でH型カルボキシル基に変換する方法が挙げられる。このような方法をとることのできる単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基を有する単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ノルマルプロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ノルマルブチル、(メタ)アクリル酸ノルマルオクチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の誘導体;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、モノエチル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド等のアミド化合物等が例示できる。なお、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」と「メタアクリル」の両者を指す用語として用いる。
【0033】
このほかにも、二重結合、ハロゲン基、水酸基、アルデヒド基等の酸化可能な極性基を有する重合体に対しては、酸化反応によりH型カルボキシル基を導入することができる。この酸化反応については、通常用いられる酸化反応を用いることができる。
【0034】
具体的には、H型カルボキシル基を有する重合体の代表的な例としては、架橋性単量体としてジビニルベンゼンを採用し、カルボキシル基に変性できる官能基を有する単量体としてアクリロニトリルを採用する例が挙げられる。共重合組成については、最終的に得られる粒子に求められる抗ウイルス性能、すなわち、上述したH型カルボキシル基量や形態安定性等を考慮して、適宜設定すればよく、例えば、ジビニルベンゼンを10質量%以上、アクリロニトリルを50質量%以上使用する例が挙げられる。
【0035】
粒子中のH型カルボキシル基の含有量は、粒子1g当たり3.0mmol当量~7.0mmol当量であることが必要であり、好ましくは、粒子1g当たり3.0mmol当量~6.5mmol当量であり、より好ましくは、粒子1g当たり3.0mmol当量~6.0mmol当量である。粒子中のH型カルボキシル基の含有量が上記下限未満では、十分な抗ウイルス性が得られないおそれがあり、一方、上記上限を越えると、得られる粒子をエマルジョン等にする場合に、溶液又は分散体中での粒子の安定性に劣り、工業的に生産困難となるおそれがある。粒子中のH型カルボキシル基の含有量は、上述の加水分解処理時の処理条件を適宜調節することによって制御することができる。
【0036】
H型カルボキシル基含有粒子の形態としては、水分散エマルジョン状、有機溶媒分散状など用途に応じて任意に選定できるが、取り扱いおよび安定性の観点から、水に分散したエマルジョン状のものが有利である。この場合、H型カルボキシル基含有粒子の重合方法としては、特に限定はないが、懸濁重合や乳化重合などを挙げることができる。上述したアクリロニトリルを用いたニトリル系重合体の場合、重合体自体の凝集力が強いため乳化重合が難しい場合があるが、重合温度100℃以上の高温高圧下での乳化重合を行うことにより良好なエマルジョンを得ることができる。
【0037】
H型カルボキシル基含有粒子を繊維構造物の表面へ付着させる方法としては、上述の繊維構造物の表面へH型カルボキシル基含有粒子を分散又は溶解させた溶液を塗布する方法が挙げられる。塗布方法としては、刷毛塗布方法,ローラ塗布方法,浸漬方法やスプレー塗布方法、コーター塗布などが挙げられるが、その中でも、浸漬方法が付着ムラを低減できるので好ましい。
【0038】
繊維構造物の表面へのH型カルボキシル基含有粒子の付着量は、目付で表わすと、1.0g/m2~4.0g/m2であることが必要であり、好ましくは、1.1g/m2~3.9g/m2である。目付が上記下限未満では、十分な抗ウイルス性能が得られないおそれがあり、一方、上記上限を越えると、製品としての風合いや通気性が損なわれるおそれがある。
【0039】
本発明の抗ウイルス性繊維構造体は、風合い及び通気性を維持しながら、インフルエンザウイルスなどのエンベロープを有するウイルスだけでなく、ノロウイルスのようなエンベロープを有さない微小で薬剤耐性の高いウイルスに対しても十分な抗ウイルス性能を示すため、マスク、医療用カーテン、又は空気清浄機のエアフィルターを始めとする高い抗ウイルス性と風合い及び通気性の両立を要求される様々な製品に好適に使用されることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の抗ウイルス性繊維構造体の効果について、実施例により具体的に示すが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例における特性値の評価は、以下の方法に依った。
【0041】
<H型カルボキシル基濃度(mmol当量/g)>
十分乾燥した試料約1gを精秤し(Xg)、これに200mLの水を加える。0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で常法に従って滴定し、H型カルボキシル基によって消費された水酸化ナトリウム水溶液滴定量(Ycm3)を求める。次式によってH型カルボキシル基濃度(mmol当量/g)を算出する。
H型カルボキシル基濃度(mmol当量/g)=0.1Y/X
【0042】
<インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス性能>
インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス性能は、インフルエンザウイルスA(H1N1)FR8株を用いた50%感染価法[TCID50]で評価する。乾燥試料40mgに対してウイルス液200μLを加え、28℃に維持しながら1時間振盪した後、遠心分離処理(3000rpm、30分間)する。遠心分離処理後、上澄液を10倍段階希釈し、MDCK細胞を用いてTCID50(50%感染価)を測定し、ウイルス感染価log10(TCID50/mL)を算出する。また、ブランクに関しては、試料を用いずに上記と同様の操作を行い、ウイルス感染価を算出する。得られたウイルス感染価を用いて、下記式より、ウイルスの不活性化率を算出する。感染価減少値が1大きくなると、10倍感染力が減少していることを意味する。
ウイルス感染価減少値=[(ブランクのウイルス感染価)-(試料のウイルス感染価)]/(ブランクのウイルス感染価)
算出したウイルス感染価減少値を、以下の判断基準に従って評価する。
◎:ウイルス感染価減少値が3.5以上
○:抗ウイルス活性値が2.0以上、3.5未満
△:抗ウイルス活性値が1.0以上、2.0未満
×:抗ウイルス活性値が1.0未満
【0043】
<ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性能>
ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性能は、上記インフルエンザウイルスに対する測定において、インフルエンザウイルスA(H1N1)FR8株をネコカリシウイルス(F9株)に変更する点、さらにMDCK細胞をCRFK細胞に変更する点を除いて、同様に測定する。
ネコカリシウイルスは、ノロウイルスと同様にエンベロープを有さないタイプのウイルスである。従って、ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性能は、ノロウイルスに対する抗ウイルス性能の指標とみなすことができる。
【0044】
<風合い>
以下の判断基準に従って、10人の熟練者によって風合いを評価する。最も多い判断を評価結果とする。
◎:ふわっと心地よい
○:皮膚接触で違和感なし
△:堅さに違和感あり
×:ゴワゴワした感触があり、皮膚接触が不快
【0045】
<通気性>
通気性は、JIS-L1096(2010)A法に従って測定する。
測定した通気性を、以下の判断基準に従って評価する。
◎:通気性が20cm3/cm2・s以上
○:通気性が10cm3/cm2・s以上20cm3/cm2・s未満
△:通気性が5cm3/cm2・s以上10cm3/cm2・s未満
×:通気性が5cm3/cm2・s未満
【0046】
<H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-1)~(A-5)の製造>
アクリロニトリル90質量%及びアクリル酸メチル10質量%からなるアクリロニトリル系重合体10質量部を48質量%ロダンソーダ水溶液90質量部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、延伸、乾燥してアクリル繊維を得た。このアクリル繊維に、15質量%ヒドラジン水溶液中で110℃×3時間架橋導入処理を行い、水洗した。次に、8質量%硝酸水溶液中で110℃×1時間酸処理を行い、水洗した。続いて5質量%水酸化ナトリウム水溶液中で、90℃で加水分解処理を行い、水洗した。このときの処理時間を変更することで、繊維中のカルボキシル基量の調整を行った。その後、10質量%硝酸水溶液中で常温×24時間酸処理を行い、水洗し、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-1)~(A-5)を得た。それぞれのH型カルボキシル基濃度は、5.8mmol当量/g,4.5mmol当量/g,3.3mmol当量/g,2.8mmol当量/g、及び9.0mmol当量/gであった。また、繊度は、2.0dTex、繊維長は、37mm(JIS L1019(2006)に準拠)であった。
【0047】
<Na塩型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-6)の製造>
加水分解処理後に酸処理を行なわなかったことを除いては、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)の製造と同様にして、Na塩型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-6)を得た。
【0048】
<H型カルボキシル基含有粒子(B-1)~(B-5)の製造>
アクリロニトリル58質量%、アクリル酸メチル9質量%、ジビニルベンゼン30質量%、及びp-スチレンスルホン酸ナトリウム3質量%からなるモノマー混合物30質量部を、モノマー比で1.2質量%の過硫酸アンモニウムを含む水溶液70質量部に添加し、攪拌機つきの重合槽に仕込み、135℃、25分間重合した。得られた重合体エマルジョン90質量部に40質量%水酸化ナトリウム水溶液10質量部を加え、95℃で加水分解を行った。この時の反応時間を調整することで、カルボキシル基濃度を調整した。得られたエマルジョンを陽イオン交換樹脂によりpH2.5に調整することでカルボキシル基をH型とし、H型カルボキシル基含有粒子(B-1)~(B-5)を得た。この樹脂エマルジョンを120℃の乾燥機で1時間乾燥させて得られた固形樹脂から、H型カルボキシル基濃度を測定すると、それぞれ5.5mmol当量/g,4.3mmol当量/g,3.2mmol当量/g,2.8mmol当量/g、及び9.0mmol当量/gであった。また、乾燥前後の重量変化より固形分濃度を以下の式に則り計算すると、20質量%であった。
(固形分濃度)=(乾燥後のエマルジョン重量)/(乾燥前のエマルジョン重量)
【0049】
<実施例1>
H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)を50g/m2の目付になるように、スパンレース不織布を作成した。この不織布にディップニップ法で、エマルジョン形態のH型カルボキシル基含有粒子(B-2)を15質量%まで水で希釈して付与し、固形分として2.6g/m2の目付となるよう含浸量を調整し、乾燥させて、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0050】
<実施例2>
H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維の種類を(A-2)から(A-1)に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0051】
<実施例3>
H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維の種類を(A-2)から(A-3)に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0052】
<実施例4>
スパンレース不織布の原料を、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)100質量%から、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)70質量%、レーヨン繊維(繊度1.7dTex、繊維長40mm)30質量%の混綿品に変更し、それに伴ない、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)の目付を50g/m2から35g/m2に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0053】
<実施例5>
スパンレース不織布の原料を、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)100質量%から、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)84質量%、レーヨン繊維(繊度1.7dTex、繊維長40mm)16質量%の混綿品に変更し、それに伴ない、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)の目付を50g/m2から42g/m2に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0054】
<実施例6>
スパンレース不織布の原料を、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)100質量%から、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)70質量%、ポリエステル繊維(繊度1.6dTex、繊維長51mm)30質量%の混綿品に変更し、それに伴ない、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)の目付を50g/m2から35g/m2に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0055】
<実施例7>
スパンレース不織布の原料を、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)100質量%から、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)84質量%、ポリエステル繊維(繊度1.6dTex、繊維長51mm)16質量%の混綿品に変更し、それに伴ない、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)の目付を50g/m2から42g/m2に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0056】
<実施例8>
H型カルボキシル基含有粒子の種類を(B-2)から(B-1)に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0057】
<実施例9>
H型カルボキシル基含有粒子の種類を(B-2)から(B-3)に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0058】
<実施例10>
H型カルボキシル基含有粒子の目付を2.6g/m2から3.8g/m2に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0059】
<実施例11>
H型カルボキシル基含有粒子の目付を2.6g/m2から1.2g/m2に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0060】
<実施例12>
H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維の目付を50g/m2から65g/m2に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0061】
<比較例1>
スパンレース不織布の原料を、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)100質量%から、レーヨン繊維(繊度1.7dTex、繊維長40mm)100質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0062】
<比較例2>
H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維の種類を(A-2)から(A-6)に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0063】
<比較例3>
H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維の種類を(A-2)から(A-4)に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0064】
<比較例4>
H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維の種類を(A-2)から(A-5)に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。得られた繊維構造体は、架橋アクリレート系繊維の水膨潤性が高く、かつ繊維がもろいため、抗ウイルス性、風合い及び通気性の測定は不可能であった。
【0065】
<比較例5>
スパンレース不織布の原料を、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)100質量%から、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)50質量%、レーヨン繊維(繊度1.7dTex、繊維長40mm)50質量%の混綿品に変更し、それに伴ない、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維(A-2)の目付を50g/m2から25g/m2に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0066】
<比較例6>
H型カルボキシル基含有粒子を不織布に付与しなかった以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0067】
<比較例7>
H型カルボキシル基含有粒子の種類を(B-2)から(B-4)に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0068】
<比較例8>
H型カルボキシル基含有粒子の種類を(B-2)から(B-5)に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。得られた繊維構造体は、エマルジョンの安定性に劣っていた。
【0069】
<比較例9>
H型カルボキシル基含有粒子の目付を2.6g/m2から0.8g/m2に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0070】
<比較例10>
H型カルボキシル基含有粒子の目付を2.6g/m2から5.0g/m2に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維構造体を得た。得られた繊維構造体の構成及び性能評価を表1に示す。
【0071】
【0072】
表1から明らかなように、本発明の範囲内である実施例1~12はいずれも、優れた抗ウイルス性、風合い及び通気性を示す。特に、抗ウイルス性については、インフルエンザウイルス及びネコカリシウイルス(ノロウイルスと同様にエンベロープを有さない微小ウイルス)の両方に対して優れた抗ウイルス性を示す。これに対して、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維を有さない比較例1、H型カルボキシル基の代わりにNa塩型カルボキシル基を含有する架橋アクリレート系繊維を使用した比較例2、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維中のH型カルボキシル基の含有量が少ない比較例3、繊維構造物中のH型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維の含有量が少ない比較例5、H型カルボキシル基含有粒子を有さない比較例6、H型カルボキシル基含有粒子中のH型カルボキシル基の含有量が少ない比較例7、及びH型カルボキシル基含有粒子の目付が小さい比較例9はいずれも、抗ウイルス性に劣る。また、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維中のH型カルボキシル基の含有量が多い比較例4は、架橋アクリレート系繊維の水膨潤性が高くなり、かつ繊維がもろくなり、実用上満足しうる繊維物性が得られない。H型カルボキシル基含有粒子中のH型カルボキシル基の含有量が多い比較例8は、製造時のエマルジョンの安定性に劣るため、繊維構造物の表面にH型カルボキシル基含有粒子を均一に付与することができない。また、付与後の粒子の脱落などを防止できないため、風合い、通気性に劣り、抗ウイルス性にも若干劣る。H型カルボキシル基含有粒子の目付が大きい比較例10は、H型カルボキシル基含有粒子が繊維構造物の表面に過剰に付着しているため、風合い及び通気性が最悪であり、使用に耐えるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の抗ウイルス性繊維構造体は、風合い及び通気性を維持しながら、インフルエンザウイルスなどのエンベロープを有するウイルスだけでなく、ノロウイルスのようなエンベロープを有さない微小で薬剤耐性の高いウイルスに対しても十分な抗ウイルス性能を示すため、マスク、医療用カーテン、又は空気清浄機のエアフィルターを始めとする高い抗ウイルス性と風合い及び通気性の両立を要求される様々な製品に好適に使用されることができる。