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  • 特許-Mg含有高Ni合金の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】Mg含有高Ni合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 9/18 20060101AFI20220926BHJP
   C22B 9/04 20060101ALI20220926BHJP
   C22B 9/20 20060101ALI20220926BHJP
   C22C 1/02 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C22B9/18 F
C22B9/04
C22B9/20
C22C1/02 503G
C22C1/02 501Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018159369
(22)【出願日】2018-08-28
(65)【公開番号】P2020033586
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】成田 駿介
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/209591(WO,A1)
【文献】特開昭59-129739(JP,A)
【文献】特開平09-194962(JP,A)
【文献】特開2016-069726(JP,A)
【文献】特開2014-043620(JP,A)
【文献】特開2005-248187(JP,A)
【文献】特開平05-271815(JP,A)
【文献】荻野和巳,技術資料 エレクトロスラグ再溶解スラグについて,日本金属学会会報,第18巻第10号,日本,1979年,p.684-693
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 9/18
C22B 9/04
C22B 9/20
C22C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空誘導溶解(VIM)プロセスにより得られた電極を用いてエレクトロスラグ再溶解(ESR)プロセス後に、真空アーク再溶解(VAR)プロセスを経て合金塊を得るMg含有高Ni合金の製造方法であって、
前記ESRプロセスにおいて、質量%で、
CaF2535%、
CaO:10~40%、
Al:10~40%、
TiO:0~%、
MgO:7~30%、
の成分組成を有するスラグを用い、少なくとも5kg/分以上の溶解速度でMgを含む合金塊を得ることを特徴とするMg含有高Ni合金の製造方法。
【請求項2】
前記VARプロセスでMg量を減じるように制御することを特徴とする請求項1記載のMg含有高Ni合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mgを含有する高Ni合金の製造方法に関し、特に、真空誘導溶解(VIM)プロセス、エレクトロスラグ再溶解(ESR)プロセス、真空アーク再溶解(VAR)プロセスをこの順に施すトリプルメルトプロセスによるMg含有高Ni合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機用ジェットエンジンシャフトや火力発電用ディスクなどの品質要求の厳しい高Ni合金からなる金属製品の製造プロセスとして、VIM-ESR-VARのトリプルメルトプロセスが提案されている。このようなプロセスでは、ESRプロセスでの合金塊に鋳肌荒れが発生してしまうと、続く、VARプロセスでの操業安定性が低下し、得られる合金塊における内部性状の劣化、特に、偏析や空隙などを生じさせ易くなってしまう。
【0003】
ここで、ESRプロセスにおける合金塊の鋳肌荒れは、用いられるスラグ成分組成や溶解速度などの操業条件に依存するとされる。
【0004】
例えば、特許文献1では、高Ni合金のESRプロセスとして、CaFを主成分に、Al、CaO、TiO、MgOを所定量で配合したスラグを用い且つ低溶解速度で溶解させる方法を開示している。これによれば、偏析を防止し内部性状の良好な、且つ、鋳肌荒れの少ないESR合金塊を得られるとしている。溶解速度については、再溶解する電極の径によっても異なるが、直径100~250mmの電極では260kg/時間未満、直径300~450mmの電極では350kg/時間未満、直径500~650mmの電極では650kg/時間未満であることを述べている。
【0005】
ところで、INCONEL(登録商標)718のような高Ni合金の熱間加工性や被削性を改善する方法として、合金成分に微量のMgを添加することが提案されている。例えば、特許文献1に開示のESRプロセスのように、スラグ成分にはMgも含まれ得るため、このスラグ成分の調整で合金中のMgの量を調整し得る。
【0006】
例えば、特許文献2では、Mgを含む高Ni合金のESRプロセスにおいて、スラグ成分を平衡式に基づいて調整し、合金成分の成分量、特に、Ti、Al、Mgの成分量を調整する方法を開示している。TiとAl、TiとMg、AlとMgのそれぞれ2元素の合金中の質量比率とスラグ中の対応するスラグ成分のモル分率との関係を規定し、ESRプロセスの初期から終期までの操業を安定化させ、Ti、Al、Mgにおいて安定した歩留まりを得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-194962号公報
【文献】特開昭63-219539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
Mgを含む高Ni合金のトリプルメルトプロセスでは、ESRプロセスでの合金塊の鋳肌荒れがより顕著となり、結果として、VARプロセス後の合金塊でのMgの成分量が不安定になる傾向が見られた。
【0009】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、Mgの成分量を安定化させることで熱間加工性や被削性などに優れる合金塊を得ることのできるMg含有高Ni合金の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるMg含有高Ni合金の製造方法は、真空誘導溶解(VIM)プロセスにより得られた電極を用いてエレクトロスラグ再溶解(ESR)プロセス後に、真空アーク再溶解(VAR)プロセスを経て合金塊を得るMg含有高Ni合金の製造方法であって、前記ESRプロセスにおいて、質量%で、CaF:20~45%、CaO:10~40%、Al:10~40%、TiO:0~20%、MgO:7~30%の成分組成を有するスラグを用い、少なくとも5kg/分以上の溶解速度で合金塊を得ることを特徴とする。
【0011】
かかる発明によれば、ESR-VARプロセスを通じてMgの成分量を安定化させ、熱間加工性や被削性などに優れるMg含有高Ni合金からなる合金塊を得られるのである。
【0012】
上記した発明において、前記VARプロセスでMg量を減じるように制御することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、ESRプロセスでMgの歩留まりを高めて、続く、VARプロセスでMgの成分量を安定的に制御し、内部性状に優れ、熱間加工性や被削性などに優れるMg含有高Ni合金からなる合金塊を得られるのである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】Mg含有高Ni合金の製造方法を示すフローチャートである。
図2】製造試験により得られたESR合金塊の諸状態の一覧である。
図3】(a)比較例3及び(b)実施例1によるESR合金塊の鋳肌の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による1つの実施例としてのMg含有高Ni合金の製造方法について、図1に沿って説明する。
【0015】
ここで、トリプルメルトプロセスにより製造される合金は、少なくともMgを含有するNi量の高いNi基合金又はFe基合金であって、例えば、INCONEL(登録商標)718のような合金成分組成に、Mgを与えられた成分組成の合金である。Mgは、後述するように、熱間加工性や被削性等を向上させる目的で添加される。
【0016】
図1に示すように、例えばVIM(真空誘導溶解)プロセスによってESR(エレクトロスラグ再溶解)プロセスに用いる電極を製造する(S1)。ESRプロセスに用いる電極の製造については、公知であるのでここでは詳細な説明を省略する。
【0017】
次に、ESRプロセスによってESR合金塊を得る(S2)。ここで用いるスラグの成分組成は、質量%で、CaF:20~45%、CaO:10~40%、Al:10~40%、TiO:0~20%、MgO:7~30%とされる。特に、Mgは蒸気圧が低く、後述するVAR(真空アーク再溶解)プロセスでは合金溶湯中から揮発して減少しやすい。そこで、ESRプロセスでは、上記した成分組成のスラグを用いて合金中のMgの歩留まりを高めるように調整することで、VARプロセスにおいて揮発した後に所定量のMgを含有させるようにする。
【0018】
上記したスラグの成分組成について説明する。
【0019】
特に、MgOについては、得られるESR合金塊においてMgの歩留まりを高めてその含有量を高めるよう、特許文献1や2に開示のCaO-MgO-Al-TiO系スラグよりも、比較的多く含有される。一方、過剰の含有はESRプロセスの安定した操業を阻害する。これらのことから、MgOは、その含有量を7~30質量%とされ、より好ましくは7~20質量%とされる。
【0020】
その他のスラグ成分の含有量については、上記したMgOの含有量に合わせて、以下のように定められる。
【0021】
CaFは、良好な鋳肌を得られるようスラグの粘度を低くして流動性を確保する。一方、過剰の含有は、比電導度を大きくし過ぎてしまい、スラグの発熱量不足によって鋳肌を悪化させてしまう。これらのことから、CaFは、その含有量を20~45質量%とされ、より好ましくは25~35質量%とされる。
【0022】
CaOは、Alとの含有量のバランスにおいてスラグの溶融点を低下させて鋳肌を良好に保つ。一方、過剰の含有は却って溶融点を上昇させてしまい、結果、鋳肌を悪化させる。これらのことから、CaOは、その含有量を10~40質量%とされ、より好ましくは25~30質量%とされる。
【0023】
Alは、電気伝導度を低く保ちスラグの発熱量を確保し、CaOとの含有量のバランスにおいてスラグの溶融点を低下させて鋳肌を良好に保つ。一方、過剰の含有は、スラグの粘度及び溶融点を上昇させて鋳肌を悪化させてしまう。これらのことから、Alは、その含有量を10~40質量%とされ、より好ましくは25~30質量%とされる。
【0024】
TiOは、電極の合金にTiを含有するときにその歩留まりを安定的に向上させるので、選択的に配合され得る。一方、過剰の含有はTiを過剰に合金に供給して合金の成分組成の制御を困難としてしまう。これらのことから、TiOは、その含有量を0~20質量%とされ、より好ましくは2.0~5.0質量%とされる。
【0025】
ESRプロセスでは、以上のようなスラグを用いるとともに、その溶解速度を5kg/分以上に高めて操業される。上記したような成分組成のスラグでMgを多く含む高Ni合金によるESR合金塊を得ようとすると、その溶解速度が低い場合、得られるESR合金塊の鋳肌が劣化してしまうことが見いだされた。そのため、このような溶解速度の下限値を設けて良好な鋳肌を得ようとするのである。
【0026】
最後に、ESR合金塊を消耗電極としたVARプロセスを経て、VAR合金塊を得る(S3)。これにより、VIM-ESR-VARのトリプルメルトプロセスを経て所望の合金塊が得られる。
【0027】
VIM-ESR-VARのトリプルメルトプロセスにおいて、VARプロセスにおけるMgの歩留まりを考慮して、ESRプロセスにおけるESR合金塊のMg量がスラグの成分組成により調整される。これとともに、VARプロセスにおいて得られる合金塊の内部性状とともにMgの歩留まりを安定的に制御できるよう、ESRプロセスにおけるESR合金塊の鋳肌を良好にする調整が必要となる。ここで、前記したスラグの成分組成では、溶解速度を高めてこれを達成し得ることを見いだした。なお、ESR合金塊の内部性状は、その後に、VARプロセスを経るため、過度な劣化でなければ影響を有しない。結果として、Mgを所定量含む内部性状に優れた合金塊を安定して製造できるのである
【0028】
なお、得られるVAR合金塊におけるMg含有高Ni合金は、例えばNiを38質量%以上含むものとすることもできる。さらに、Ti及び/又はAlを含むものとすることもできる。このような偏析しやすい成分組成のMg含有高Ni合金においても、上記した製造方法によって、内部性状に優れ、熱間加工性や被削性などに優れるVAR合金塊を得ることができる。
【0029】
[製造試験]
INCONEL(登録商標)718相当材をMg含有高Ni合金として、ESR合金塊を製造する試験を行ったので、その結果について説明する。この試験は、上記したVIM-ESR-VARのトリプルメルトプロセスのうち、最終製品であるVAR合金塊の品質に最も影響を与える消耗電極であるESR合金塊を得るESRプロセスの試験である。
【0030】
ESRプロセスは、図2に示す各操業条件に従った。使用したスラグは、質量分率で示された各スラグ成分で配合されたものである。また、各実施例及び比較例における溶解速度を示した。なお、各電極はVIMプロセスにより製造された。
【0031】
スラグ成分のMgOの含有量は、比較例1において0.0質量%、比較例2及び比較例3において5.0質量%、実施例1において7.0質量%、実施例2において15.0質量%とした。また、溶解速度は、比較例1及び比較例2において4.5kg/分、比較例3において4kg/分、実施例1において6kg/分、実施例2において7.5kg/分とした。
【0032】
その結果、得られたESR合金塊の鋳肌は比較例1、比較例2及び比較例3において不良(×)であり、実施例1及び実施例2において良好(〇)であった。また、Mgの歩留まりは、比較例において低く、実施例において高かった。つまり、上記した成分組成のスラグを用いて溶解速度を5kg/分以上とするESRプロセスによって、良好な鋳肌を有するとともに、Mgの含有量の多いESR合金塊を得られるのである。なお、Mgの歩留まりは、ESRプロセスに用いる電極の合金中のMg濃度(B)に対するESR合金塊の合金中のMg濃度(A)の割合であってA/B×100%として算出されるものである。Aについては3か所以上で測定し、その値の範囲を図2に示した。
【0033】
なお、図3(a)に示すように、比較例3のESR合金塊において、その鋳肌は表面に複数の湯流れを伴って大きく荒れており、スラグスキンも10mm程度と非常に厚かった。
【0034】
これに対し、図3(b)に示すように、実施例1のESR合金塊において、その鋳肌は非常に平滑であり、スラグスキンも2mm以下と薄かった。
【0035】
実施例1や実施例2に示すようなESR合金塊を消耗電極としてVARプロセスを経ることで、VIM-ESR-VARのトリプルメルトプロセスとなる。このVARプロセスにおいては、Mg量が揮発により減じるよう制御される。ここで、VARプロセスにおいて揮発される量を見込んだMgの含有量に調整された消耗電極をESRプロセスで得ているので、熱間加工性や被削性などに優れるVAR合金塊を得ることができる。
【0036】
以上、本発明の代表的な実施例及びこれに基づく改変例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。

図1
図2
図3